説明

細胞試料の自動分析

【課題】細胞試料の核の定量的および/または定性的分析を、時間および手段について簡単かつ経済的に行うことができる自動分析方法の提供。
【解決手段】この課題は、(a)試料の細胞核を染色すること、(b)試料の少なくとも1つのデジタル画像を取得すること、および(c)前記画像をデジタル的に分析することからなり、細胞核の染色ステップ(2)では、DNAに非特異的な染色が行われることを特徴とする、細胞試料の自動的分析の方法によって解決される。また、本発明は、培地を選択するための方法、物質の毒性を測定するための方法、およびウイルスの細胞病理学的特性を測定するための方法に関する。さらに、本発明は、過体重症および肥満症を治療するための薬理物質を選択するための方法、および骨粗鬆症を治療するための物質を選択する方法も開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞試料を分析するためのプロセスに関する。また、本発明は、ソフトウェアによって利用される細胞試料のデジタル画像の分析のためのプロセスに関する。さらに、本発明は、細胞試料を分析するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
培養細胞は多数の産業用および認知用の用途に用いられている。以下の用途が例として挙げられる。
・組み換えたんぱく質の生成のための細胞
・薬物分子のスクリーニングのための細胞
・診断テスト用の細胞
・毒性予測の構築のための細胞
・修復および再生による細胞治療のための細胞
【0003】
多数の要因が、培養細胞の使用をきわめて困難にしている。それらの要因は、特に、
・多数の技術的操作が手作業であるため、ノウハウがきわめて重要になっている点、
・培地に入る多数の不特定因子が使用される点、および
・散在性細胞が定性性および定量性分析に適していない点
である。
【0004】
これらの理由が、現時点において細胞培養のテクニックが、産業化可能な技術というよりはむしろノウハウの集合に近いという事実を説明している。
【0005】
細胞の数の定量化およびそれらの形態の分析は、細胞追跡のための重要な要素である。現在のところ、細胞数の定量化および形態分析の大部分は手作業で行われており、作業者のノウハウに依存している。さらに、付着した細胞の数を割り出すための通常の方法には、細胞分離または細胞溶解が関係する。まさにこの理由のため、これらのテクニックでは、細胞の形態学的な理解を得ることができず、大量の情報の喪失につながっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、細胞の形態や分布の分析を容易化および加速化するというニーズが存在する。細胞試料は、バイオプシー由来の組織試料、細胞の初代培養の細胞試料、または細胞ラインの培養の細胞試料であってよく、特定の由来に限定されない。本発明の目的は、このニーズの達成を助けることにあり、特に細胞試料の核の定量的および/または定性的分析を、時間および手段について簡単かつ経済的な手順を可能にしつつ、少なくとも部分的に自動化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的のため、本発明は、
a)試料の細胞の核を染色するステップ、
b)試料の少なくとも1つのデジタル画像を取得するステップ、および
c)前記画像をデジタル的に分析するステップ、
を有する細胞試料の分析プロセスを提案する。
【0008】
好ましい実施形態によれば、このプロセスは、以下の構成の1つ以上を含んでいる。
・染色ステップa)が、細胞化学染色を含んでいる。
・染色ステップa)が、少なくとも1つの抗体による酵素抗体法の使用を含んでいる。
・染色ステップa)が、少なくとも1つの抗体による酵素免疫化学法の使用を含んでいる。
・染色ステップa)が、DNAに非特異的な染色を行う。
・前記分析プロセスが、ステップb)とc)の間に、所定の色による画像の分解ステップを含んでいる。
・画像の分解ステップが、染色の色または染色に対して相補的である色に従って行なわれる。
・分解ステップが、Nrgb空間規格の原色のうちの1つに従って行なわれる。
・染色がマゼンタであり、色分解のステップが、色空間規格の緑色成分に従って行なわれる。
・前記分析プロセスが、ステップc)に先立って、細胞の核を背景から区別するために、画像の画素を2値化するステップを含んでいる。
・2値化のステップが、前記所定の色に従って分解された画像にRidlerアルゴリズムを適用することによって行なわれる。
・前記分析プロセスが、ステップc)に先立って、第1の所定のしきい値よりも少ない数の画素を有している少なくとも1つの物体を、2値化画像において除去するステップを含んでいる。
・前記分析プロセスが、ステップc)に先立って、2値化画像において、第2の所定のしきい値よりも多数の画素を有している少なくとも1つの物体を、この物体に相当する細胞の核と同じ数の物体へと分割するステップを含んでいる。
・分割ステップが、根源を得るために前記少なくとも1つ物体を最大限に浸食すること、および分水界法の適用によって、物体の分割線を決定するために、前記根源を成長させることを含んでいる。
・ステップc)が、画像の物体をカウントすることを含んでいる。
【0009】
本発明の他の態様によれば、本発明はさらに、ソフトウェアによって利用される細胞試料のデジタル画像の分析プロセスを提案する。画像の各画素は、少なくとも1つの成分色または黒および白の強度レベルであって、3つ以上の複数の強度レベルのうちの1つの強度レベルによって定められており、前記プロセスが、
・細胞の核を背景から区別するために、画像の画素を2値化するステップ、および
・2値化した画像を分析するステップ
を含んでいる。
【0010】
好ましい実施形態によれば、この分析プロセスは以下の構成の1つ以上を含んでいる。
・デジタル画像の各画素が、異なる3つの成分色の強度レベルによって定められており、前記分析プロセスが、2値化ステップに先立って、所定の色に従って画像を分解し、画像の各画素を、3つ以上である複数の強度レベルのうちの1つの強度レベルに結びつけるステップを含んでいる。
・分解ステップが、Nrgb色空間規格の原色のうちの1つに従って行なわれる。
・分解ステップが、色空間規格の緑色成分に従って行なわれる。
・2値化のステップが、任意の所定の色に従って分解された画像にRidlerアルゴリズムを適用することによって行なわれる。
・前記分析プロセスが、分析ステップに先立って、第1の所定のしきい値よりも少ない数の画素を有する少なくとも1つの物体を、2値化画像において除去するステップを含んでいる。
・前記分析プロセスが、分析ステップに先立って、2値化画像において、第2の所定のしきい値よりも多数の画素を有している少なくとも1つの物体を、この物体に相当する細胞の核と同じ数の物体へと分割するステップを含んでいる。
・分割ステップが、根源を得るために前記少なくとも1つ物体を最大限に浸食すること、および分水界として知られている方法を適用することによって、物体の分割線を決定するために、前記根源を成長させることを含んでいる。
・分析ステップが、画像の物体をカウントすることを含んでいる。
【0011】
さらに他の態様によれば、本発明は、細胞試料を分析するための装置であって、
・分析しようとする試料のマルチウェルボックスを配置するためのプレート、
・顕微鏡、
・前記顕微鏡に接続され、画像を画素の形態で提供するデジタルカメラであって、各画素が、少なくとも1つの色または黒および白の成分の、3つの強度レベルのうちの1つの強度レベルによって定められているデジタルカメラ、
・前記プレートに配置されたマルチウェルボックスを、顕微鏡に対して移動させるためのシステム、および
・前記移動システムおよび前記カメラを制御し、前記カメラによって得たデジタル画像を受け取るコンピュータを有しており、
前記コンピュータは、上述した本発明による細胞試料のデジタル画像の分析プロセスを使用するソフトウェアを含んでいる装置を提案する。
【0012】
好ましい実施形態によれば、コンピュータは、前記移動システムおよび前記カメラを制御することによって、前記プレートに配置されたマルチウェルボックスの少なくとも1つのウェルにつき、所定の数の画像を取得し、前記ソフトウェアを適用して前記画像を分析するようにプログラムされている。
【0013】
さらに、他の態様によれば、さらに本発明は、培地を選択するためのプロセスであって、複数の細胞試料をそれぞれ異なる培地で培養し、次いで先に述べたとおりに分析するステップを含んでいることを特徴とするプロセスを提案する。
【0014】
また、他の態様によれば、本発明は、物質の毒性を測定するためのプロセスであって、該物質の存在下で細胞試料を培養し、次いで先に述べたとおりに分析するステップを含んでいることを特徴とするプロセスを提案する。
【0015】
さらに、他の態様によれば、本発明は、ウイルスの細胞病理学的特性を測定するためのプロセスであって、該ウイルスの存在下で細胞試料を培養し、次いで先に述べたとおりに分析するステップを含んでいることを特徴とするプロセスを提案する。
【0016】
さらに本発明は、過体重症または肥満症の疾病における薬理物質の選択のためのプロセスであって、テストしようとする物質の存在下で細胞を培養するステップ、細胞内脂肪酸を染色するステップ、試料の少なくとも1つのデジタル画像を取得するステップ、および前記画像をデジタル的に分析するステップを含んでいることを特徴とするプロセスを提案する。
【0017】
最後に本発明は、骨粗鬆症における薬理物質の選択のためのプロセスであって、テストしようとする物質の存在下で細胞を培養するステップ、細胞を染色するステップ、試料の少なくとも1つのデジタル画像を取得するステップ、および前記画像をデジタル的に分析するステップを含んでいることを特徴とするプロセスを提案する。
【0018】
本発明の他の特徴および利点は、添付図面に示す本発明の好ましい実施形態の以下の詳細な説明で明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図2は、本発明による装置の重要部分を概略的に示している。この装置は、図示しないコンピュータ、カメラ3に接続された顕微鏡2、照明システム4、および分析する細胞試料が入れられるマルチウェルボックス1を収容するためのプレート5を有している。
【0020】
マルチウェルボックス1は公知の種類のものでよい。一般には、マルチウェルボックス1の全てのウェルが同一の断面を有している。12個のウェルを有するマルチウェルボックス1の例が図1に示されている。この場合では、12個のウェルは、それぞれが3つのウェルを有する4つの列にて規則的に配置されている。あるいは、マルチウェルボックス1が96個のウェルを有する場合、各ウェルはより小さい断面を有し、それぞれが8個のウェルを有する12個の列にて規則的に配置される。
【0021】
各ウェルは、分析しようとする細胞試料を入れるために設けられている。
【0022】
顕微鏡2は、公知の光学顕微鏡であってよい。
【0023】
装置は、顕微鏡2のレンズ2aをマルチウェルボックス1のウェルのいずれかの前方に位置決めして、対応するウェルに入れられた試料を観察するための動力を有している。さらに、この装置は、顕微鏡2によって観察できる視野がウェルの表面の小さな部分、つまり一部の範囲のみであることから、同じウェル内の試料における複数の別個の領域を連続して観察したい場合に、同じウェルの前方でレンズ2aを移動させる。
【0024】
好ましくは、顕微鏡2は水平に固定され、その観察軸(observation axis)が垂直(z軸)である一方で、プレート5が、マルチウェルボックス1を顕微鏡2のレンズ2aの前方で水平面x‐y内で移動させるために駆動される。
【0025】
装置は、同様に、顕微鏡2を選択されたウェル内の試料に合焦させる動力を有している。好ましくは、プレート5が垂直方向に固定される一方で、レンズ2aが、z軸に沿って垂直方向に移動するように駆動される。
【0026】
さらに、顕微鏡2は、好ましくは反転型である。すなわち、顕微鏡2のレンズ2aは、マルチウェルボックス1の下方に配置され、レンズ2aの前方に置かれたウェル内の試料を、マルチウェルボックス1の背景(background)を通して観察する。このため、マルチウェルボックス1が、有利にはプラスチック材料である透明な材料で製作される。
【0027】
反転型の顕微鏡2を使用することによって、ウェルに入れられた試料に顕微鏡を合焦させるための焦点距離を適正にすることができる。対照的に、マルチウェルボックス1を上方から観察する場合には、焦点距離を適正にするために顕微鏡2のレンズ2aをウェル内へと進入させる必要が生じるが、それは一般に、レンズ2aの寸法により不可能である。
【0028】
カメラ3は、顕微鏡2によって得た試料の画像をデジタル的に取得する。カメラ3は、任意の適切なリンク3aを介してコンピュータへデジタル画像を送る。
【0029】
カメラ3は、好ましくは、各画素につき、或る一定のレベル数からなる強度レベルの3原色を指定するカラー型のカメラであり、好ましくは、細胞の核を背景および細胞質から充分に区別できるように、各原色につき、少なくとも16の強度レベルを有している。
【0030】
実際には、カメラ3は、有利には、カラーのデジタル画像を生成するCCDまたは3CCD型のカメラであり、例えば各画素の成分R、VおよびBのそれぞれにつき、256のレベルで符号化して2563色の符号化を可能にする伝統的な形式のカメラであってよい。
【0031】
照明システム4は、顕微鏡2のレンズ2aの前方に位置するマルチウェルボックス1のウェルを照明する。この例では、照明はマルチウェルボックス1の上方から行われる。換言すれば、顕微鏡2は、マルチウェルボックス1に入れられた試料を透過光により観察する。照明システム4は、有利には、分析しようとする試料の性質に応じて光の種類を選択するためのフィルタを有する。同様に、照明の強度も、分析しようとする試料の性質に応じて調節できる。
【0032】
顕微鏡2によって得られた画像を取得するためのカメラ3の露光時間および絞り開口も同様に調節可能であり、分析しようとする試料の性質に応じて選択することができる。
【0033】
装置の完全な自動化のため、コンピュータが、適切な開ループ制御ソフトウェアによって上述のすべての構成要素を制御することが有利である。すなわち、コンピュータが、プレート5の移動、顕微鏡2およびカメラ3の合焦および拡大を制御する。カメラ3に関しては、コンピュータがカメラ撮影のタイミングを制御するとともに、露光時間および絞りの調節を制御する。
【0034】
照明の強度および選択されるフィルタは、一般に同一のマルチウェルボックス1のすべてのウェルに対して同じであり、したがってマルチウェルボックス1のウェルの連続分析の間に照明強度およびフィルタを変更する必要がないため、照明システム4を手動で制御することができる。しかしながら、照明システム4をコンピュータによって制御するほうがより完全な自動化を可能にし、光の強度またはフィルタの選択に関して手動制御により生じうる誤差を回避することができる。
【0035】
一例として、市販の設備を以下のとおり使用することができる。
・顕微鏡2:PRIOR型の動力付きプレート5x‐yを備えたNikon TE 2000-E
・3CCDカメラ:Nikon DMX1200
【0036】
コンピュータは、装置の制御およびカメラ3からのデジタル画像の受信に必要とされる入力/出力インターフェイスを備える互換PCなど、従来からの形式のコンピュータであってよい。さらに、標準的に、キーボードおよびディスプレイ・モニタなどのユーザ・インターフェイスを有している。
【0037】
顕微鏡2、カメラ3、照明システム4、およびプレート5の開ループ制御ソフトウェアは、例えばLaboratoryhnaging社(チェコ共和国)によって市販されているLUCIA-Gというソフトウェアである。
【0038】
次に、マルチウェルボックス1のウェル内に位置する、分析しようとする細胞試料の準備について説明する。
【0039】
細胞は、種々の培養条件のもとで、それらの実験条件が例えば細胞の成長、細胞サイクルのパラメータ、または細胞分化の頻度等にもたらす結果を分析するため、マルチウェルボックス1のウェルにて培養される。実験期間が終了すると、細胞は染色され、オプションで固定されて、生きている細胞または固定された細胞について所望の分析を行なうことができる。細胞を固定する場合には、好ましくは染色の前に固定する。
【0040】
細胞の固定は、特に試料の分析が実験期間の終了後直ちに行なわれない場合に、試料の細胞の成長、分化等を停止させる。さらに、細胞の固定は、試料の別個の領域が顕微鏡2によって順次観察される場合、分析の信頼性のため、試料内で細胞の分布を固定することができる。
【0041】
細胞は、半透明の核が認識できるように染色される。この目的のため、染色に関しては、特にアルコール固定の後に細胞化学反応による染色を行うのが好ましい。細胞化学染色の利点は、適用の容易さ、頑強性、良好な信号対雑音比、およびきわめて良好な不変性にある。さらに、分析を白色光で簡単に行なうことができる。アルコール固定は、染色技法を妨げることがない迅速固定(rapid fixing)の一形態を構成するものであるため有利である。
【0042】
細胞を染色して核を視覚化するこよにより、本発明の装置は、試料の画像を取得し、それらの画像の処理を行って、例えば試料の核の数、それらの形態、およびそれらの分布の特徴を自動的に割り出すことができる。結果として、観察された核の数から試料内の細胞の数を定量化するうえでも助けとなる。哺乳類の細胞の大多数は1つの核のみを有している。
【0043】
より信頼性のある分析のため、マルチウェルボックス1のウェルのいくつかに、同一の条件下で培養される試料を入れてもよい。したがって、同一条件の試料間の生物学的および実験系に固有のばらつきを考慮することができる。これにより、これらのウェルについて行なわれる分析結果を平均化できるので、より信頼できる結果を得ることができる。簡単に言えば、マルチウェルボックス1の各列のウェルを、同じ培養条件にすることができる。同一条件の試料を含んでいるウェルの数、すなわち本発明の例では各列において有効に使用されるウェルの数は、分析結果に関して許容することができる誤差の度合いを考慮して選択され、この度合いは、同一培養条件に属するウェルの数が増えるにつれて小さくなる。
【0044】
次に、上述した本発明による装置のコンピュータによって実行される制御および分析用のソフトウェアが用いる分析プロセスを説明する。この制御および分析用のソフトウェアは、上述の開ループ制御ソフトウェアによって装置の主要部分を制御し、カメラ3によって生成されたデジタル画像の分析を実行する。コンピュータによる試料の分析を開始する前に、作業者が、ウェル内に分析しようとする細胞試料が入れられたマルチウェルボックス1をプレート5に配置する。
【0045】
第1のステップにおいて、コンピュータが作業者に対し、分析しようとする細胞試料の種類を知らせるように要求する。これは、種類についての所定の一覧をコンピュータが提示し、作業者が選択することによって行なうことができる。試料の種類を選択することにより、同時に、分析しようとする細胞の種類、およびそれらの細胞に加えられた組織学的染色の種類も考慮に入れられることになる。
【0046】
装置が、例えば上述の12ウェルのマルチウェルボックスおよび96ウェルのマルチウェルボックスのような、異なる所定の種類のマルチウェルボックス1とともに機能するように設けられている場合には、コンピュータが作業者に対し、プレート5に配置したマルチウェルボックス1の種類を知らせるように要求する。あるいは、例えばマルチウェルボックス1の種類に特有であってマルチウェルボックス1の所定の場所に配される色マークにより、マルチウェルボックス1の種類を装置によって自動的に識別してもよい。コンピュータは、顕微鏡2によってその色マークを観測して、カメラ3によってそのデジタル画像を得るためにプレート5を操作する。マークの色を割り出すことによって、コンピュータはマルチウェルボックス1の種類を判断する。
【0047】
すでに指摘したとおり、マルチウェルボックス1は、種々の培養条件の各々につき、同一の培養条件下の試料が入れられた所定の数のウェルを有してもよい。この数は、作業者が許容可能な分析誤差の程度を選択できるようにするため、作業者の選択によって小さくすることができる。この場合、コンピュータが、その数を知らせるように作業者に要求する。マルチウェルボックス1のウェルにおける同一条件の試料の配置構成は、作業者が配置構成をコンピュータに知らせなくてもよいように、好ましくはあらかじめ決められている。
【0048】
第2のステップにおいては、それが可能な装置であるならば、コンピュータが、先に作業者によって選択された細胞試料の種類に応じて照明システム4の照明を調節する。コンピュータによって制御されない場合には、作業者が照明システム4を調節する。この場合、オプションでコンピュータが、作業者またはコンピュータのどちらが調節を行なうのかを示してもよい。
【0049】
簡単化された一変形例では、照明システム4が、(波長)選択フィルタおよび/または強度を調節するためのフィルタを有していない。詳しくは、照明は、例えば白色光など、試料の種類にかかわらず常に同じであってよい。
【0050】
第3のステップにおいて、コンピュータは、分析しようとする試料の画像を取得する。このため、コンピュータは、プレート5を制御することによって、試料を含んでいるマルチウェルボックス1のウェルを顕微鏡2のレンズ2aの前方に順次に位置させる。
【0051】
それぞれのウェルについて、コンピュータは、プレート5を制御してレンズ2aの前方のウェルをその都度移動させることによって、所定の数Nの別個の試料画像をカメラ3に撮影させる。コンピュータは顕微鏡2の焦点を制御する。コンピュータは、カメラ3の絞りおよび露光時間、ならびに顕微鏡2の拡大の調節も実行するが、これらの調節は、選択された試料の種類に応じて行われる。
【0052】
これらのデジタル画像は、それらが取得されたときにコンピュータへと送られる。2563色を有する典型的なCCDまたは3CCDカメラの例では、コンピュータは、画像の各画素について成分R、VおよびBの各値を受け取る。各成分の強度は8ビットに符号化されており、したがって、各成分の強度には256の段階が設定されている。コンピュータは、これらの画像を、好ましくは自身のハードディスクに記録する。
【0053】
N枚の画像の範囲は、好ましくは、画像がウェルの外部の部分を含むことがないようにウェル内に限定される。そうしないと、画像の分析には、ウェルの内部と外部を区別するために、追加の処理が必要とされる。
【0054】
N枚の画像は、試料における所定の複数位置での画像であってもよく、あるいはランダムな位置での画像であってもよい
【0055】
好ましくは、試料の全体に対して取得された画像が互いに重なった範囲を含まないようにするため、各画像は、該画像のみに指定され、かつ他の画像に含まれない試料の一領域を含む。
【0056】
第4のステップにおいて、コンピュータは、カラー画像のそれぞれを、分析しようとする物体(オブジェクト)間、すなわち核と画像の背景との間の区別を明確にする所定の単一色による画像に分解する。
【0057】
各画像が分解されてなる単一色の画像の色は、分析しようとする試料の種類、さらに詳しくは、組織学的染色に応じている。
【0058】
一般的には、良好な識別能を得るために、画像の分解は、組織学的染色の色に従って行なうことができ、あるいは組織学的染色の色に対して相補的である色に従って行なうことができる、
【0059】
マゼンタでの細胞化学染色の場合には、コンピュータが、各カラー画像を、RGB空間規格(一般に、Nrgbと称される)の緑色成分による画像に分解すると有利である。実際、緑色Gは、マゼンタの補色である。さらに、RGB空間規格は、明度の変化により左右されにくいため、カメラによって得られるR、V、B成分に比べ、良好な識別能を提供する。したがって、取得した画像の各画素について、コンピュータは、RGB空間規格の緑色成分‘g’の強度レベルを以下のように計算する。
g=G/(R+G+B)
ここで、R、GおよびBはそれぞれ、カメラ3によって得られた赤色、緑色および青色成分の値である。
【0060】
図3は、マゼンタに染色された細胞試料について、RGB空間規格の緑色成分による画像の一例を示している。強度のレベルが低いほど、画素が暗く表現されている。したがって、核の画素は、高い強度レベルを示す背景の画素に比べて、明らかに低い強度レベルを示している。
【0061】
簡単な一変形例においては、識別能は低下するものの、各画像を他の色空間の成分に従って分解する代わりに、コンピュータは、カメラ3によって得られたR、V、B成分のうちの1つに従った画像、例えばマゼンタでの細胞化学染色の場合にはV成分に従った画像を保持できる。
【0062】
さらに簡単な一変形例においては、カメラ3は、カラーの画像の代わりに白黒の画像を撮影し、この場合、第4のステップは省略される。
【0063】
第5のステップにおいて、コンピュータは、第4のステップで得られた各画像から2値化画像を生成して、核と背景とを識別する。このため、背景に属すると考えられる画素と、核に属すると考えられる画素とを区別するために、強度のしきい値が定められる。換言すると、コンピュータは、第4のステップで得られた画像の各画素の強度を、このしきい値と比較し、比較の結果に応じて、各画素に第1の値「0」または第2の値「1」を割り当てる。その結果、値‘1’が核の画素に対応し、値‘0’が背景に対応すると考えられる。
【0064】
分析の信頼性のため、コンピュータが、所定の種類の細胞化学染色について、固定された所定のしきい値を適用するのではなく、核の染色の変動性を考慮に入れて、その都度しきい値を決定するのが好ましい。換言すると、コンピュータが、各画像につき、しきい値を決定するのが好ましい。
【0065】
適用すべきしきい値を決定するにあたっては、コンピュータは、しきい値を自動的に決定するために公知の適切な方法を使用することができる。
【0066】
コンピュータによって適用される方法は、試料の種類に応じて考慮される。
【0067】
この目的で、コンピュータは、第4のステップで得られた画像に対し、公知の反復Ridler法を使用するアルゴリズムを適用することができる。このアルゴリズムは、画素の強度に応じた画素の2頂(双峰)分布ヒストグラムの場合に、優れた結果を生み出す。この分布は、細胞の核のみが組織学的染色によって染色されている場合、双峰型である。図4は、図3の細胞試料の画像についてそのようなヒストグラム示している。横座標の軸は、256のステップに符号化された光強度を示しており、縦座標の軸は、画素の数を示している。
【0068】
或る場合には、分布は3頂型である。これは、組織学的染色の際に、細胞の細胞質が、核よりも程度は低いが同様に染色される場合に生じうる。この場合、しきい値は、Ridlerアルゴリズムを2回連続適用することによって決定される。1回目のアルゴリズムが適用されて、背景を残りの部分から、すなわち本発明では、背景を核および細胞質から識別するためのしきい値が決定される。核および細胞質のみを示すヒストグラムの部分、すなわちヒストグラムにおけるそのしきい値によって限定された部分に、2回目のアルゴリズムが適用されて、残り全てから、すなわち、本発明では背景および細胞質の両方から核を識別するための第2のしきい値が決定される。
【0069】
コンピュータによってRidlerアルゴリズムを1回適用するのか、あるいは2回適用するのかは、試料の種類に応じて決められる。しかしながら、コンピュータ自身が、画像が2頂分布または3頂分布のどちらを示しているのかを公知の方法で判断して、Ridlerアルゴリズムを1回または2回適用するのかを決定するのが好ましい。
【0070】
すでに述べたように、コンピュータがこのしきい値を、各画像につき決定するのが好ましい。簡単化された一変形例においては、コンピュータが、1つのウェルの複数の画像のうちの1つの画像についてこのしきい値を決定し、このしきい値を、このウェルの他の画像にも使用する。また、コンピュータは、同一のしきい値を、同一条件下にある試料を有している他のウェルの画像にも使用してもよく、さらに同じマルチウェルボックス1のウェルに関するすべての画像にも使用してもよい。
【0071】
第6のステップにおいて、コンピュータが、2値化画像から小さいサイズの物体を取り除くことが好ましい。何故ならば、それらの小さいサイズの物体は核ではなく、人工物(artifacts)に相当するものだからである。このため、コンピュータは、単純に各物体の画素数をカウントし、この数が、あらかじめ実験的に定められた所定の数、例えば150倍の拡大の顕微鏡2においては50画素よりも小さい場合に、それらの物体を取り除くことができる。この所定の数は、有利には、細胞試料の種類に応じて決められる。本発明の例では、物体の除去とは、該物体の画素の値を‘0’に設定することである。
【0072】
第7のステップにおいて、コンピュータは、有利には、大きな核に付着している、核であると考えられる物体(核)を識別するために、画像の処理を実行する。
【0073】
これを行なうため、コンピュータは、第6のステップで得られた2値化画像とは異なる2つの画像を生成する。コンピュータは、第1の画像において、小さなサイズの物体から分離された、核に相当する2値化画像のすべての物体の各々を保持する。
【0074】
対照的に、コンピュータは、第2の画像において、実際には独立した大きな核または互いに付着したいくつかの核のいずれかに相当する複数からなるより大きな物体を保持する。これを行なうため、コンピュータは、所定の画素数、例えば150倍の拡大の顕微鏡2においては450画素よりも小さなサイズを有する物体を1つずつ第1の画像に配置し、他の物体を第2の画像に配置する。ここでも、本発明の例では、これらの第1または第2画像の一方に配置されない物体の画素は、値‘0’に設定される。
【0075】
この所定の値は、実験的に決定することができる。また、細胞試料の種類に応じて決定される。
【0076】
図5aおよび5bは、図3の試料画像の場合に得られた第1の画像および第2の画像をそれぞれ示している。
【0077】
次いで、コンピュータは、複数の核に相当している物体を分割するために、第2の画像を処理する。そのような物体は、それが示している核と同数の部分に分割される。
【0078】
この目的のため、コンピュータは、有利には、分水界として知られる公知の方法を使用する。これを行なうため、コンピュータは、第2の画像のコピーから、各物体の根源を得るために各物体を浸食する。各根源は細胞核である。図6は、図5bの画像の物体を浸食した後に得られた根源の画像である。
【0079】
次いで、コンピュータは、根源を領域成長させ、この成長は、2つの領域が出会ったときに停止される。図7は、領域成長の結果を、図5bの元の物体を示すことによって示している。次いで、領域間の境界が、第2の画像の物体をセグメント分けする。コンピュータは、第2の画像において境界の画素を背景の値に設定する。本発明の例では、コンピュータは、境界線の画素に値‘0’を割り当てる。結果として、複数の物体は、最終的な浸食によって得られた根源と同じ数の部分に分離される。
【0080】
核の分離後の第2の画像は、必要であれば、それぞれが独立した核に相当すると考えられる小さなサイズの物体を含む第1の画像と結合される。これにより、試料の核のすべてが互いに分離されて示される画像が得られる。図8が、図3の試料画像について結果として得られた画像であり、‘S’によって示されている矢印が、第7のステップから得られたいくつかの分離を指し示している。
【0081】
第8のステップにおいて、コンピュータは、第7のステップで得られた画像に含まれている物体の分析を公知の画像分析法を用いて行う。
【0082】
詳しくは、コンピュータが、画像内に含まれている物体の数をカウントする。各物体は核に相当しているため、物体も数が試料内に含まれている核の数を表している。
【0083】
これらに限られるわけではないが、例として、コンピュータは、以下の情報項目の1つ以上をそれぞれの核について、同様に割り出すことができる。
・核の表面
・核の外周
・主方向
・画像における座標
・物体を最良にモデル化する楕円の短軸および長軸の長さ
【0084】
当然ながら、コンピュータは、これらの結果をファイルに保存することができる。
【0085】
第9のステップにおいて、コンピュータは、ウェルの試料全体に関する情報を、このウェルのすべての画像について得られたデータから割り出すことができる。すなわち、ウェルに含まれている核の総数を、このウェルから取得されたN枚の画像に含まれている核の数の関数として、このN枚の画像に包含されるウェルの部分表面とウェルの全表面との間の所定の比に照らして、カウントすることができる。存在する核の数を上述したように計算し、この数を、画像の表面、つまり画像の数Nで除算することによって、細胞密度を割り出すことも可能である。
【0086】
同様に、コンピュータは、割り出した他の特徴、特には上に列挙した特徴に関し、各ウェルについての統計を確立することができる。
【0087】
複数のウェルが同じ条件の試料を含んでいる場合には、コンピュータは、誤差の程度を小さくするために、これらのウェルに関する情報を平均化することができる。
【0088】
さらに、コンピュータは、作業者がマルチウェルボックス1のウェルに最初に播種された細胞の数および培養時間を提示するならば、細胞の成長が指数関数的であることを考慮して、細胞分裂の回数および細胞の数を倍にするために必要な時間を計算することができる。
【0089】
当然ながら、コンピュータは、分析の結果ならびに取得した画像および/または種々の処理ステップによる処理の後で得られた画像を、例えばファイルの形態で保存することができる。
【0090】
考慮される各種の細胞について、最良の分析結果をもたらす選択およびパラメータは、実験的に決定することができ、本発明のプロセスによって自動的に使用することができる。したがって、このプロセスは、マゼンタ以外の細胞化学染色とともに使用することも可能である。各種の細胞について、細胞内の他の部分に対して、核に明瞭性をもたらす染色を実験的に定めることができる。同様に、背景に対する核のコントラストが良好である画像を取得するために、(設けられているならば)照明の調節、ならびに露光時間および絞りの開放など、撮影をおこなうカメラに対する調節も、試料のそれぞれの種類について同様に実験的に決定することができる。
【0091】
第3のステップにおいて、ウェルの試料について撮影される画像の数Nは、少なくとも1つである。しかしながら、当然であるが、数Nが大きくなるほど、画像に含まれる試料の表面が大きくなり、所定の任意のウェルについてコンピュータによって評価されて得られる情報が、より低い誤差の程度を示すようになる。この数Nは、分析において許容可能な誤差の程度を得るために、実験的に決定することができる。例として、それぞれが1つのウェルについて2.159cmの直径および3.66cmの面積を有している12ウェルのマルチウェルボックス1の各ウェルにつき、顕微鏡2の150倍の拡大によって、300枚の別個の画像が取得される。これら300枚の画像は、各ウェルの全表面の約90%を含む。
【0092】
例として、本発明のプロセスを、米国のNational Institute of Healthから入手できるImage J(登録商標)というソフトウェアに基づいて利用することができる。
【0093】
組織学的染色による核のマークの使用は、本発明の装置を用いると、種々の培養条件が細胞密度したがって細胞の成長にもたらす結果の分析に対して感度的にも定量的にも有利に寄与する。これらの定量的な結果に、履歴および参照用の文書を構成する、本発明の装置によって細胞試料から得られるデジタル化画像を加えることができる。この方法は、実験的手法をパラメータ化するので、追跡性が向上する。有利な実施形態では、DNA染色ではない細胞核の染色を可能にするギムザ染色(Giemsa)などの核染色を利用する。オルトカーミン(Orth carmine)、クレシルバイオレット(Cresyl violet)、サフラニンQ(Safrinine Q)、マラカイトグリーン(Malachite green)、クリスタルバイオレット(Violet crystal)、ヘマトキシリン(Hematoxyline)、エオシン(Eosine)、ライト染色(Wright colouring)、メチルグリーン(Methyl Green)またはチオニン(Thionine)など、DNAに非特異的である他の核用の染色剤も、専門家にはよく知られており、使用することが可能である。この結果、核から生じる信号(核シグナル)がより一様になり、細胞サイクルの際のDNA複製の段階ごとに信号の強度が変動することがなくなる。
【0094】
細胞化学染色以外の染色技法で実現される本発明の装置およびプロセスを使用することも、同様に可能である。
【0095】
したがって、細胞の染色に対する特異性に頼ることができ、その場合には、抗体の特異性および特定の抗体の幅広い選択を特徴とする、抗体による酵素抗体法を使用すると有利である。特に、免疫ペルオキシターゼ染色法を使用することができ、その結果は白色光のもとで観察することができる。これらの特有の染色法は、特に、本発明の装置による、細胞サイクルのパラメータまたは細胞分化パラメータの分析を可能にする。例として、フェーズSにある細胞の数は、BrdUによって細胞をマーキングし、次にBrdUに向けられた抗体によって陽性の核を認識した後に割り出すことができる。PCNA、P21、P16、およびサイクリンA(cycline A)など、細胞サイクルの制御に関わる種々のたんぱく質に向けられる抗体も利用可能である。細胞分化の分析は、分化の特定の状態における特有の転写調節因子に向けられる抗体を使用して行なうことができる。例として、筋肉分化については、筋肉組織の特有の転写調節因子であるMyoD族のたんぱく質に向けられる抗体が使用される。
【0096】
細胞の染色は、蛍光マーカーの使用によっても同様に得ることができる。高親和性でDNAに結合するビスベンズイミドなどの生体染色は、生きている細胞の成長を追跡し、アポトーシスに関する核DNAの組織の修飾を分析するのに役に立つ。膜たんぱく質に向けられる抗体に組み合わされる蛍光マーカーは、それらのマーカーを有する細胞を数えるうえで役に立つ。
【0097】
当然ながら、本発明は、説明および図示した例および実施形態に限定されず、専門家には多数の変形形態が容易に利用可能である。特に、取得した画像のそれぞれを、次に取得される画像の処理に進むよりも前に、第4〜8ステップに従って完全に処理することができる。さらに、第3のステップにおいてN枚の画像のすべてが取得されるまで既に取得された画像の処理の開始を待つ必要は必ずしもない。
【0098】
反復Ridler法に関しては、Ridler, Calvard, Picture Thresholding Using an Interactive Selection Method, IEEE transactions on Systems, Man and Cybernetics, 1978を参照されたい。
【0099】
しきい値の決定に関してより一般的には、
・T. Pun, A new method for gray level picturethresholding using the entropy of the histogram, Signal Processing, 1980, vol.2, p.223-237、
・N. Otsu, A threshold selection method from gray level histograms, IEEE Transactions on systems, man, and cybernetics, vol.9, p.62-66.
を特に参照されたい。
【0100】
分水界法に関しては、
・R. Gonzales, R. Woods, Digital Image Processing, Addison Wesley, 1993, p. 443-458
・0. Lezoray, Histogram and watershed based segmentation of color images, Proceedings of CGIV 2002, April 2002, p. 358-362
を参照されたい。
【0101】
上記の文献の内容全体は、参照により本明細書中に引用したものとする。
【0102】
本発明の装置および使用されるプロセスは、幅広い範囲の用途を有している。
【0103】
第1の例は、高速スクリーニング装置の形態で実現される細胞毒性予測テストの構築に関する。細胞のレベルにおいて、毒性のもたらす変化は多岐にわたる。頻度の高いものとしては、細胞の成長パラメータの変化、アポトーシスまたは壊死による細胞の死亡、細胞形態的および機能的変化である。培養、および分析数の増加を可能にする例えば96ウェルの多数のプレートにて培養された細胞の、本発明によって自動化された分析は高速の毒性予測システムを提供する。画像の分析によって、細胞の成長、細胞の死亡、形態および細胞機能についての定量的データを得ることができる。生体外培養システムが、細胞の環境を制御し、特定の細胞を使用する。したがって、腎臓、筋肉、皮膚、神経系、血管等の生物の種々の組織から得られた細胞を使用することで、これらの組織に対して分子レベルで毒性をテストすることができ、特有の毒物学的テストを構築することができる。
【0104】
細胞テストに適用される本発明の種々の実施形態を以下に説明する。
【0105】
I 細胞密度を割り出して培地を選択する、画像分析による細胞のカウント
細胞の成長は、細胞成長に係わる特有のコード(codes)を構成する因子の組み合わせに依存する。生体外細胞培養のために必要な要素の大部分は、既知であり、容易に入手可能である。問題は、それらのコードを構成する要素の組み合わせを定めることにある。
【0106】
このアプローチは、細胞密度の定量的分析、マーカーの発現頻度の分析、および細胞画像の保存を行うための簡単かつ多目的なシステムを構築する。細胞の数を割り出すための通常の方法には、細胞の分離(Coulter)または細胞の溶解(MTT)が関係する。このため、これらの方法では、細胞の形態的理解が得にくく、大量の情報の喪失につながっている。
【0107】
本発明によるプロセスは、細胞の密度および核の形態にかかわる成長因子の役割を分析する。
【0108】
このプロセスにおいて行われるステップは次のとおりである。異なる細胞種を、種々の条件のもとで12〜96ウェルを有するマルチウェルボックスにて培養し、これらの実験条件が細胞の成長または細胞サイクルのパラメータ、および細胞分化の頻度にもたらす結果を分析する。実験時間が完了すると、細胞は固定され、次いで染色される。細胞化学染色のため、アルコール固定の後で、ギムザ染色などの核組織学的染色を使用する。他の組織学的染色の例は、オルトカーミン(Orth carmine)、クレシルバイオレット(Cresyl violet)、サフラニンQ(Safrinine Q)、マラカイトグリーン(Malachite green)、クリスタルバイオレット(Violet crystal)、ヘマトキシリン(Hematoxyline)、エオシン(Eosine)、ライト染色(Wright colouring)、メチルグリーン(Methyl Green)またはチオニン(Thionine)である。
【0109】
このようにして染色された細胞は、本発明による装置および分析方法を使用して観察され、さらに詳しくは、例としてあげた装置にて観察される。
【0110】
この簡単かつ頑強であり多用途的なプロセスおよび良好な信号対雑音比によって、種々の培養条件が細胞の密度、したがって細胞の成長にもたらす結果を、感度良く定量的に分析することができる。これらの定量的な結果に、得られる細胞のデジタル化画像が組み合わされ、履歴および参照用の文書が構成される。この方法によって、実験手法をパラメータ化することができ、それらの追跡性および分析の質を向上させることができる。
【0111】
この実験において使用される細胞は、人間の筋肉細胞である。
【0112】
第1の例においては、細胞は人間の血清(PAA laboratory)の存在下で培養増幅され、次に種々の条件で播種される。成長因子が細胞成長を促進するために培地に加えられる。細胞は12の倍数で播種される。使用される基質はゼラチンであり、細胞播種の密度は、ウェル1つ当たり5000個の細胞である。
【0113】
実験条件:
・マルチウェルボックスの種類:12ウェルを有するマルチウェルボックスを2つ(TPP)
・基質:ゼラチン
・密度:5000個の細胞/ウェル
・培地の交換:2002年5月24日、2002年5月27日、2002年5月29日 2002年5月31日
・培養期間:7日間
・ギムザ染色:
【0114】
培地吸引の後、細胞をPBSで洗浄し、100%のエタノールで固定する。10分後に、細胞を水で洗浄し、ついで10%のギムザ溶液で10分間にわたって染色する。最後に、水で洗浄する。
【0115】
写真の記録
画像を、本発明による装置を用いて取得し、詳しくは例として挙げた装置を用いて取得する。
【0116】
この研究の結果が、表1に表わされている。
【0117】
【表1】

【0118】
II 画像の分析および毒物学的テスト
分子の毒性学的プロファイルを決定することは、治療を行うために欠くことのできないプロセスである。細胞系が、この観点において有用なツールを提供する。
【0119】
スタチン系のコレステロール合成インヒビターによる致命的な事故は、毒性学的標的としてまず筋組織において発生する。セリバスタチン(Cerivistatine)についてBayerによって知られるこのリスクの評価は乏しく、人的および経済的にかなりの影響があった。
【0120】
きわめて多数の薬物が、筋障害(ミオパシー)を生じさせる。急性および重篤な場合には、筋組織のかなりの溶解(横紋筋融解)が経験され、その発症メカニズムは未だよく知られていない。いくつかの仮説が提唱されている。それらのうち特定の仮説は、膜透過性の増大を指摘しており、他の仮説は、ミトコンドリアレベルでの異常を指摘している。
【0121】
筋障害のほとんどは、多剤化学療法(polychimiotherapy)によって生じると考えられており、薬物(マクロライド、免疫抑制剤、抗がん剤、フィブラート剤、コカイン、HIV抗プロテアーゼ、麻酔剤等)の相互作用の影響が示唆されている。
【0122】
関与すると考えられる因子には、チトクロムP450、BCL2などのアポトーシスに関係しているとされる分子、抗酸化剤、NFKb複合たんぱく質、PPARsまたは外科的インターベンション(intervention)である。
【0123】
急性な事故を除いて、重要な予後診断(横紋筋融解)を脅かす、筋障害の臨床的特徴は、衰弱、筋肉の痛み(筋肉痛)、倦怠感、筋痙攣であり、急性の偶発事故に付加される、生物学的徴候CPKは正常であることが極めて頻繁である。スタチンの場合、最近のデータでは、筋障害を示す患者が、この薬理学的因子の血漿レベルと毒性障害との間の相関性も、CPKの上昇も示さないことが示されている。これらの場合、組織学によって、筋組織におけるミトコンドリアの変性(腫脹)および脂質滴の蓄積が明らかになっている。
【0124】
仮説の多さ、薬物の相互作用の影響、ならびに臨床的および生物学的兆候の不足が、筋組織レベルにおける毒性を理解するための新規なツールの開発を要求している。
【0125】
この場合、動物モデルはヘビー(heavy)であり、したがって取り扱いが困難である。これらの問題を解決するため、筋毒性の細胞予測モデルを構築した。
【0126】
この実験においては、市販のスタチンの毒性をテストするために通常の人間の筋肉細胞を使用した。
【0127】
実験条件:
・マルチウェルボックスの種類:96ウェルを有するマルチウェルボックスを2つ(TPP)
・密度:2500個の細胞/ウェル
・ロバスタチン(Lovastatine)、セリバスタチン(Cerivistatine)、アトルバスタチン(Atorvastatin)、プラバスタチン(Pravastatine)、フルバスタチン(Fluvastatine)またはシンバスタチン(Simvastatine)を0、0.01、0.05、0.1、0.5および1gMの濃度で含む標準の培養培地
【0128】
実験の経過:
・7月11日:培地の交換
・7月13日:染色。培養期間:5日間
【0129】
ギムザ染色:
培地吸引の後、細胞をPBSで洗浄し、100%のエタノールで固定する。10分後に、細胞を水で洗浄し、ついで10%のギムザ溶液で10分間にわたって染色する。最後に、水で洗浄する。
【0130】
写真の記録
画像を、本発明による装置で取得し、詳しくは例として挙げた装置で取得する。
【0131】
デジタル処理が、図9に示されている。この図から、セリバスタチンの毒性が高いことが明らかである。このスタチン種の分子は、きわめて多数の筋毒性を発症させている。
【0132】
この実験は、自動分析のシステムを特定の細胞種に用いると、毒性テストを行うことができる。96ウェルを有するマルチウェルマイクロプレートを用いて行われる実験では、高速分析が可能である。
【0133】
III 画像の分析およびウイルス学的テスト
ウイルスの機能性が、特定の標的細胞に対するウィルスの細胞病理学的能力によって検出される。ウイルス感染の結果の1つは、細胞の溶解である。
【0134】
この特性が、複数の機能的ウイルスの検出を可能にするテストに利用される。
【0135】
要約すると、このテストの種々のステップは、以下のとおりである。
・6ウェルのマイクロプレートでの標的細胞の培養。
・ゲロース内のウイルス量の増加によるウイルス感染。このステップは数日間続く。
・固定および染色後の細胞溶解の範囲の明確化。
・細胞溶解の範囲の手動によるカウント。
【0136】
このテストの原理的制約は、ノウハウに依存する種々のステップの複雑さにある。毒性テストに関して、我々は、96ウェルのマイクロプレートを、細胞の数を数え、したがって結果を定量化する画像分析と組み合わせて使用する。簡略的に言えば、このテストの前記種々のステップは、
・96ウェルのマイクロプレートでの標的細胞の培養。
・ウイルス量の増加による直接的な(ゲロースなしの)ウイルス感染。
・(アルコールによる)固定およびギムザ(あるいは、オルトカーミン(Orth carmine)、クレシルバイオレット(Cresyl violet)、サフラニンQ(Safrinine Q)、マラカイトグリーン(Malachite green)、クリスタルバイオレット(Violet crystal)、ヘマトキシリン(Hematoxyline)、エオシン(Eosine)、ギムザ(Giemsa)、ライト染色(Wright colouring)、メチルグリーン(Methyl Green)またはチオニン(Thionine))による染色。
・本発明による装置および分析プロセス、詳しくは例としてあげた装置による培養の分析を含む。
【0137】
このテストの利点は、生物学的ステップの簡単化、および結果の読み取りの自動化にある。この方法で、この種のテストの読み取りに専用化されたオートマトンを構成できる。
【0138】
IV 脂質の細胞蓄積を割り出すための画像分析
脂質の代謝は、重要なエネルギー源であり、特にCOの生成に基づく筋組織または酸化の測定を、筋組織に対して直接実行でき、あるいは分離および培養された筋肉細胞に対して実行できる。
【0139】
脂肪酸の酸化能の欠損は、単一遺伝子疾患によるものとは限られない。
【0140】
これらの異常は、肥満症などの過体重症においても観察される。筋肉などの末梢組織による脂肪酸の酸化能の減少は、過体重と関係がある。
【0141】
これらのエネルギー非平衡の状態において、代謝されない超過の脂肪酸は、含脂肪細胞または他の細胞種によって蓄えられる。
【0142】
酸化されていないとき、脂肪酸は、アポトーシスに関係するセラミドなどの分子の形成のための基質としても機能する。このリポアポトーシスの標的は、膵臓のB‐ランゲルハンス細胞および心臓細胞であり、肥満症および2型糖尿病において観察される心臓および膵臓の機能不全症の生理病理学的メカニズムの1つである。
【0143】
Red Oilなどの脂質に特異的な細胞化学染色の利用は、細胞レベルにおける脂肪酸の細胞質内の蓄積を視覚化するうえで役に立つ。
【0144】
このプロセスでは、この種の定量的な染色が行われる。
【0145】
本発明による装置を用いて、顕微鏡によって観察された画像をデジタル的に取得することで、それらの画像を、図10に示すような定量化可能なデータを抽出するために分析できるようになる。
【0146】
標的細胞、物理的な組織学的染色、および自動化可能な分析プロセスを組み合わせるこの種の方法は、肥満症または体重超過の状態において生じる薬物のスクリーニングのための細胞テストを開発するのに役立つ。
【0147】
標的細胞を、例えば骨髄に付着している細胞に変え、さらに組織学的染色を、例えばVon Kossaに変えることで、この細胞テストは、骨形成(骨粗鬆症)において生じる薬物を標的とする。
【図面の簡単な説明】
【0148】
【図1】図2の本発明による装置とともに使用される細胞試料用マルチウェルボックスを示す図である。
【図2】本発明による装置の主要部分の概略図である。
【図3】マゼンタに染色された細胞試料について、RGB空間規格の緑色成分に従った画像の例を示している。
【図4】画像の画素の強度に応じた分布を示す図である。
【図5a】2値化および小さなサイズの物体の選択後に図3の画像から得られた第1の画像を示す図である。
【図5b】2値化および大きなサイズの物体の選択後に図3の画像から得られた第2の画像を示す図である。
【図6】図5bの画像の物体の浸食後に得られた根源の画像を示している。
【図7】図6の根源の領域成長の結果および図5bの初期の物体を示す図である。
【図8】付着した核を分離した後に図5aおよび5bの画像を組み合わせることによって得られた最終の画像を示している。
【図9】本発明が請求するプロセスによって行なわれた毒性テストの結果を示している。
【図10】本発明が請求するプロセスによって行なわれた脂質の密度の測定結果を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞試料の分析のためのプロセスであって、
a)試料の細胞の核を染色するステップ、
b)試料の少なくとも1つのデジタル画像を取得するステップ、および
c)前記画像をデジタル的に分析するステップ
を含んでおり、
染色ステップa)が、DNAに非特異的な染色を行うことを特徴とするプロセス。
【請求項2】
請求項1において、染色ステップa)が、ギムザ、オルトカーミン、クレシルバイオレット、サフラニンQ、マラカイトグリーン、クリスタルバイオレット、ヘマトキシリン、エオシン、ライト染色、メチルグリーンおよびチオニンで構成されるグループから選択された試薬による染色を含んでいることを特徴とするプロセス。
【請求項3】
請求項1において、染色ステップa)が、ギムザによる染色を含んでいることを特徴とするプロセス。
【請求項4】
培地を選択するためのプロセスであって、
・複数の細胞試料をそれぞれ異なる培地で培養するステップ、および
・請求項1〜3の何れか一項に記載のプロセスによって細胞試料を分析するステップ
を含んでいることを特徴とするプロセス。
【請求項5】
物質の毒性を測定するためのプロセスであって、
・前記物質の存在下で細胞試料を培養するステップ、および
・請求項1〜3の何れか一項に記載のプロセスによって細胞試料を分析するステップ
を含んでいることを特徴とするプロセス。
【請求項6】
ウイルスの細胞病理学的特性を測定するためのプロセスであって、
・前記ウイルスの存在下で細胞試料を培養するステップ、および
・請求項1〜3の何れか一項に記載のプロセスによって細胞試料を分析するステップ
を含んでいることを特徴とするプロセス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2007−510893(P2007−510893A)
【公表日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−537375(P2006−537375)
【出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【国際出願番号】PCT/FR2004/002854
【国際公開番号】WO2005/047896
【国際公開日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(505220033)
【氏名又は名称原語表記】CELOGOS
【Fターム(参考)】