説明

細胞重層培養物における毒性試験装置

【課題】 多数の被験物質について長期に亘り簡便かつ効率的にインビトロで毒性を試験する。
【解決手段】 細胞重層培養物を培養する培養手段30と、
前記細胞重層培養物の培地を交換する培地交換手段10と、
前記細胞重層培養物に被験物質を添加する被験物質添加手段20と、
前記細胞重層培養物に対する前記被験物質の影響を検出する検出手段40とを備えたことを特徴とする、細胞重層培養物において被験物質の毒性を試験する毒性試験装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毒性試験装置に関するものであり、より詳細には、細胞重層培養物において被験物質の毒性を試験するための毒性試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医薬品、化粧品、洗剤等、生体に接触または投与される製品またはそれに用いられる化学物質について、その毒性や刺激性を評価するために実験動物を用いた毒性試験が行われている。しかしながら、動物実験は、時間や経費がかかるため多数の被験物質を評価するのに適さず、また近年動物愛護の観点から、動物実験代替法となり得るインビトロでの毒性試験法、ならびにそれを実施するための装置またはシステムが望まれている。
【0003】
従来のインビトロでの毒性試験法では通常、動物細胞の単細胞または単層培養物が用いられる。しかしながら、単細胞培養物や単層培養物は、一般に生存期間が1〜2週間と短く、動物実験で行われている1〜3ヶ月程度にわたる亜急性毒性試験に対応するような長期的毒性評価を行うことはできず、また被験物質が細胞によって代謝されて生じる代謝物による毒性のような長期的現象を評価できないという問題があった。
【0004】
繊維芽細胞、脂肪細胞、血管内皮細胞等の動物培養細胞の、コラーゲンゲル包埋培養物、生体高分子マトリクス上での培養物、または組織様培養物において、毒性や刺激性等を試験する方法が報告されている(例えば、特許文献1を参照)。しかしながら、それら方法で用いる培養物は細胞をコラーゲンゲル等に包埋等して単に三次元的に積み重ねたものであり長期培養することはできず、また皮膚細胞や脂肪細胞等を用いているため代謝物からの毒性を評価することはできない。
【0005】
また、生体細胞を培養制御する方法や培養装置、ならびにモデル細胞に作用物質を接触させて生体に対する影響を推定する方法についても報告されている(例えば特許文献2および3を参照)が、細胞を長期培養して被験物質の毒性を試験するシステムまたは装置については全く記載されていない。
【0006】
細胞を長期間培養可能にするために、高分子含水ゲル層および細胞接着性層を含む多層構造の細胞培養担体を用いて細胞を重層化させることが提案されている(例えば、特許文献4〜6を参照)。
【特許文献1】特開平11−142392号公報
【特許文献2】特開2003−235544号公報
【特許文献3】特開2004−357552号公報
【特許文献4】特開2003−259862号公報
【特許文献5】特開2005−34069号公報
【特許文献6】特開2005−110537号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、上記の特許文献4〜6等に記載のような細胞重層培養物を長期間培養維持し、被験物質を添加して、細胞重層培養物において長期に亘り被験物質およびその代謝物による毒性を評価し得ることを見出したが、それら一連の操作を自動的に行うことができる装置またはシステムが無いため、多数の被験物質を効率的に評価または試験することができないという問題があった。
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、細胞重層培養物において長期に亘り被験物質の毒性を自動的に試験することができる、毒性試験装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の毒性試験装置は、細胞重層培養物を培養する培養手段と、細胞重層培養物の培地を交換する培地交換手段と、細胞重層培養物に被験物質を添加する被験物質添加手段と、細胞重層培養物に対する被験物質の影響を検出する検出手段とを備えたことを特徴とするものである。かかる構成によって、長期に亘り自動的に細胞重層培養物を培養維持して多数の被験物質について簡便かつ効率的に毒性を試験することを可能にする。
【0010】
被験物質添加手段は好ましくは、添加量を変化させて被験物質を添加する。ここで「添加量を変化させて被験物質を添加する」とは、培地中の被験物質の濃度が異なるように被験物質を添加することを意味する。例えば培養容器としてタイタプレートを用いた場合、タイタプレートごとまたはウェルごとに分注する被験物質の容量を変えたり、あるいは予め異なる濃度に調製した被験物質を一定量ずつ添加することによって、被験物質の添加量を変化させることができる。さまざまな濃度の被験物質での評価を並行して行うことにより、濃度または用量依存性を効率的に特定することが可能である。
【0011】
また、被験物質添加手段は、所定の間隔および回数で複数回被験物質を添加するように制御してもよい。ここで「所定の間隔および回数で複数回被験物質を添加する」とは、細胞重層培養物に、予め定めた間隔および回数で繰り返し被験物質を添加することを意味する。被験物質を繰り返し添加することによって、培地交換や失活等による被験物質の損失を補填して長期的毒性評価を行うことができ、また、添加スケジュールによる毒性の変化を特定することが可能である。
【0012】
検出手段は、好ましくは、細胞重層培養物の状態を検出する状態検出手段および/または細胞重層培養物の培養後の培地を分析する分析手段を備える。状態検出手段として限定はされないが例えば、細胞重層培養物の形態または生細胞数を検出する手段が挙げられ、また分析手段として限定はされないが例えば、細胞重層培養物の培養後の培地のGTP、γGOTまたはシトクロームP450の活性、グルコース、アルブミン、胆汁酸または尿素の量、pH、あるいは色を分析する手段が挙げられる。尚、「細胞重層培養物の培養後の培地」とは、細胞重層培養物をその中で所定の期間培養した後の培地を意味し、通常培養容器から採取したものを用いて分析を行うが、培養容器内の培地を直接分析してもよい。
【0013】
さらに、本発明の毒性試験装置は、検出手段により得た結果を解析する解析手段を備えることが好ましく、より好ましくは解析手段により得た解析結果をデータベースに格納する保存手段をさらに備える。
【0014】
本発明の毒性試験装置の1つの好ましい実施の態様において、細胞重層培養物は、肝細胞を含む1以上の細胞層と、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、脂肪細胞、血球細胞およびマクロファージからなる群より選択される細胞を含む1以上の細胞層とを含み、本発明の装置は被験物質による肝毒性を試験する。重層化する細胞層として肝細胞層と血管内皮細胞層等を用いることによって、肝臓の3次元組織構造体を構築することができ、例えば肝細胞機能の指標となり得るGTP、γGOTまたはシトクロームP450等の酵素の活性を分析して、異物代謝臓器である肝臓に対する被験物質の毒性を評価することができる。
【0015】
尚、本明細書において、「細胞重層培養物」とは、細胞層または細胞シートを重ねたものをいう。ここで、細胞層とはシャーレやコラーゲンなどの細胞外マトリックスの細胞培養担体上に層状に培養した細胞を称し、その細胞層と細胞培養担体を含めたものを細胞シートと称する。細胞重層培養物において、細胞層または細胞シートは、細胞同士が接触するように重なっていてもよく、あるいは細胞外マトリックスを介して重なっていてもよい。さらに、細胞重層培養物を構成する細胞層または細胞シートの細胞の種類は特に限定されず、また層間で同一であっても異なっていてもよい。また、重層化される細胞層または細胞シートの数も特に限定されない。
【発明の効果】
【0016】
本発明の毒性試験装置を用いることによって、細胞重層培養物において長期に亘り多数の被験物質の毒性を自動的に試験することができ、また被験物質が代謝されて生じる代謝物による毒性のような長期的現象も評価することが可能である。従って、インビトロ実験において簡便かつ効率的に、被験物質の毒性に関する信頼性の高いデータを提供することができる。さらに、収集した多数の被験物質の解析結果等をデータベースに格納することによって、データベースを用いた新規化学物質等の毒性の推定を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明の好ましい実施形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
図1に、好ましい実施形態における本発明の毒性試験装置のブロック図を示す。
【0019】
好ましい実施形態において、本発明の毒性試験装置1は、培養手段30と、培地交換手段10と、被験物質添加手段20と、検出手段40と、解析手段50と、保存手段60を備える。さらに、必要に応じて、細胞重層培養物を使用時まで保管したり、あるいは冷凍保存した細胞重層培養物を解凍させて使用可能な状態にする細胞セット手段70を備える。また、図示していないが、本発明の毒性試験装置1は、上記の各手段の間で細胞重層培養物の培養容器を搬送する手段、ならびに各手段の動作を制御する制御手段を備える。
【0020】
図2に、好ましい実施形態における本発明の毒性試験装置の概念図を示す。
【0021】
まず、本発明の好ましい実施形態を工程で説明する。本実施形態では、細胞重層培養物の培養容器としてタイタプレートを用いる。
【0022】
最初に、細胞重層培養物の入ったタイタプレートを細胞セット手段70に設置する。その際に、細胞重層培養物が例えば-40℃〜-80℃で冷凍保存されたものである場合は、細胞セット手段70において解凍して使用可能な状態にする。次に、タイタプレートを搬送手段80aによってプレート保持位置Pに搬送し、その位置にタイタプレートを保持して、培地交換手段10で培地交換を行い、さらに被験物質添加手段20で被験物質を添加する。
【0023】
被験物質添加後、搬送手段80bによってタイタプレートを培養手段30に搬送し、所定の期間培養する。最初に被験物質を添加してから例えば1日後、2日後、1週間後のような所定の時期に、搬送手段80cによってタイタプレートを検出手段40に搬送し、状態検出手段41によって細胞重層培養物の状態を画像撮影し、またサンプリング手段42aによってタイタプレートの各ウェルから採取した培地を、分析手段42によって分析する。その後、搬送手段80cによってタイタプレートを培養手段30に戻して培養を継続する。
【0024】
本発明の装置において毒性試験を実施する間、例えば0.5〜2日ごとのように所定の間隔で、培養手段30とプレート保持位置Pとの間で搬送手段80bによってタイタプレートを搬送し、培地交換手段10によって定期的に培地を交換し、例えば2週間以上、より好ましくは2週間〜3ヶ月に亘り細胞重層培養物を培養維持する。
【0025】
さらに、被験物質は、最初に1回添加するのみであってもよいが、例えば数日ごと、1週間ごと、あるいは培地交換時等のように、所望の間隔および回数で複数回添加してもよい。また、例えば、タイタプレートのウェルごとに分注する被験物質の容量を変えることによって、あるいは予め異なる濃度に調製した被験物質を一定量ずつ添加することによって、被験物質の添加量を変化させることができる。例えば最終的な培地中の被験物質の濃度を、ウェルごとに1/2ずつ、1/3ずつ、1/5ずつ、または1/10ずつのように段階的に変化させてよい。
【0026】
尚、本実施形態では、細胞重層培養物を細胞セット手段70からプレート保持位置Pに直接搬送して培地交換および被験物質添加を行っているが、最初の培地交換および被験物質添加の時期またはタイミングは特に限定されず、まず細胞セット手段70から培養手段30に搬送して一定期間培養した後、プレート保持位置Pに搬送して培地交換および被験物質添加を行ってもよい。あるいは、まず培地交換手段10で培地交換した後、培養手段30に搬送して一定期間培養し、その後被験物質を添加してもよい。
【0027】
次に、好ましい実施形態における本発明の毒性試験装置の各手段について説明する。
【0028】
培地交換手段10は、タイタプレート内の培地を廃液タンクに排出する排出手段(図示略)と、培地タンク10aからタイタプレート内に新しい培地(例えばD-MEM培地、MEM培地、HamF12培地、HamF10培地)を注入する注入手段10bと、排出手段および注入手段10bを保持する保持部(図示略)とを備える。排出手段は、タイタプレート内の培地を、先端に着脱可能に取り付けられた滅菌チップを介して排出ポンプで吸引し、チューブを介して廃液タンクに排出させる。また、注入手段10bは、培地タンク10a内の新しい培地を、チューブを介して注入ポンプで吸引し、先端に着脱可能に取付けられた滅菌チップを介して一定量ずつタイタプレート内に注入する。保持部は、排出手段および注入手段10bをそれぞれ独立してあるいは一緒に保持し、それらを移動させてタイタプレートに位置合せする。
【0029】
被験物質添加手段20は、被験物質を分注する分注ピペット20bと、分注ピペット20bを保持してX軸方向(左右方向)、Y軸方向(前後方向)およびZ軸方向(上下方向)に移動可能である保持部(図示略)とを備える。分注ピペット20bの先端には滅菌チップが着脱可能に取付けられている。まず保持部によって分注ピペット20bを移動させて被験物質を保管する被験物質保管容器20aに位置合せして、先端の滅菌チップを介して、被験物質保管容器20aから所定量の被験物質を分注ピペット20b内に吸入する。次に、保持部を介して分注ピペット20bを移動させてタイタプレートに位置合せした後、分注ピペット20b内の被験物質を、滅菌チップを介してタイタプレートに排出する。
【0030】
さらに、図示していないが、コンタミネーションを防止するため、培地交換手段10、被験物添加手段20、培地タンク10a、廃液タンク、および被験物質保管容器20aを収容する部屋全体、あるいはそれらの一部の手段を、例えばペルチェ方式のような電子加熱冷却方式によって、4℃〜10℃に冷却することが好ましい。
【0031】
また、培地や被験物質等と直接接触するチップは、コンタミネーションを防ぐために、例えば培養容器ごと、被験物質ごと、または一定時間ごとのように適時交換するように制御することが好ましく、図示はしていないが、培地交換手段10および被験物添加手段20の移動可能な範囲内に、複数の滅菌チップを収容するチップ供給部と、使用済みチップを回収するチップ回収部とを備えることが好ましい。
【0032】
さらに、図示していないが、培養容器として蓋付タイタプレートを用いる場合は、培地交換時または被験物質添加時に蓋を脱着させる手段を備える。
【0033】
尚、本実施形態では、培地交換および被験物質添加の際、タイタプレートを一定位置(プレート保持位置P)に保持して、排出手段および注入手段10b、ならびに分注ピペット20bを、それぞれの保持部を介して移動させて位置合せが行われるが、培地交換手段10と被験物質添加手段20との間に例えばコンベヤ等の移動機構(図示略)を設けてタイタプレートを水平移動させて水平方向での位置合せを行ってもよい。
【0034】
また、本実施形態では、培地交換手段10と被験物質添加手段20を独立手段として説明したが、例えば培地交換手段10における排出手段および注入手段10bが、上述した分注ピペット20bと同様の機構を利用するものである場合、培地交換手段10と被験物質添加手段20を同一手段で兼用することが可能である。例えば、保持部を、廃液タンクと、培地タンク10aと、被験物質保管容器20aと、プレート保持位置Pとの間で移動できるようにすることによって、タイタプレート内の培地の廃液タンクへの排出および培地タンク10aからのタイタプレート内への新しい培地の注入、すなわち培地交換と、被験物質保管手段20aからのタイタプレート内への被験物質の分注すなわち被験物質の添加を、1つのピペットと1つの保持部を有する1手段で行うことができる。
【0035】
培養手段30は、細胞重層培養物を培養維持するものであり、複数のタイタプレート31を収納可能な収納室32、CO制御部33、湿度制御部34、温度制御部35、開閉可能な開口部36を備える。さらに、図示していないが、培地交換時または検出時等にタイタプレート31を搬入または搬出のために水平・昇降・回転移動させる移動機構を備えることが好ましい。収納室32は、1または複数の培養容器を収納する垂直方向に並ぶ複数の小部屋を備える。各小部屋は収納室32内で密封されないで一定の温度、湿度、およびCO濃度等の培養条件下に維持される。CO制御部33は、COセンサ33aと、COコントローラ33bと、圧力調整弁33cと、CO供給源33dとを備え、収納室32内のCO濃度を約5%から10%、より好ましくは5%に制御する。湿度制御部34は、収納室32内の湿度を90%から100%、より好ましくは約100%に制御する。温度制御部35は温調プレートからなり、ペルチェ方式のような電子加熱冷却方式によって収納室32内の温度を約37℃に安定に制御する。収納室32は開口部36を閉じることによって外部から密封され、一定の培養条件下で細胞培養物を保持する。
【0036】
検出手段40は、細胞重層培養物の状態を検出する状態検出手段41および培地を分析する分析手段42を備える。状態検出手段41は、限定はされないが例えばCCDカメラ付き顕微鏡であり、プレートの各ウェル中の細胞重層培養物の状態を画像撮影する。また、分析手段42は、各ウェルから所定量の培地をアッセイ容器42dに採取するサンプリング手段42aと、試薬容器42cから測定対象に対応する試薬をアッセイ容器42dに分注する試薬添加手段42bと、所望の波長の光を放射する光源42eと、光源42eからの光の照射による反応試料からの蛍光、透過光、反射光等を検出する光検出器42fとを備える。添加する試薬、光源から放射される光の波長、ならびに光検出器を適切に選択することによって、例えばGTP、γGOTまたはシトクロームP450の活性、グルコース、アルブミン、胆汁酸または尿素の量のような、細胞機能の指標となり得る様々な酵素や生体物質を分析することができ、また図示していないがフィルタを備えることによって培地の色を分析することも可能である。さらに、図示していないが、pH測定器を備えて、培地のpHを分析してもよい。添加する試薬として、市販されている任意の蛍光試薬やその他標識試薬、あるいは非標識試薬を用いることができる。
【0037】
搬送手段80a、80bおよび80cは、それぞれ、細胞セット手段70とプレート保持位置Pの間、プレート保持位置Pと培養手段30の間、培養手段30と検出手段40の間で、細胞重層培養物のプレートを搬送する。限定はされないが例えば、搬送コンベヤ、アーム部を有する搬送ロボット、ターンテーブル等を利用することができる。
【0038】
制御手段(図示略)は、管理コンピュータを有し、管理コンピュータからの制御信号によって、上記各手段の動作を制御する。さらに制御手段は、例えばバーコードリーダのような読取手段を備え、その読取手段によって読み取ったタイタプレートや被験物質保管容器20a等に添付されたバーコードラベルのようなラベルデータを管理コンピュータに送るようにしてもよい。管理コンピュータは装置内に内蔵させても、あるいは外部から電気的に接続させたものであってもよい。
【0039】
解析手段50はコンピュータおよび解析プログラムを含み、検出手段40からの検出結果、ならびに検量線、試験パラメータ(例えば被験物質の添加量または濃度、添加回数、添加間隔、検出回数、検出間隔等)などを入力して、解析によってより有用かつ詳細なデータを提供する。例えば、分析手段42から送られてきた吸光度または蛍光強度と検量線から、分析対象物質の培地中の濃度または活性を算出し、また、状態検出手段41による細胞重層培養物の画像データを解析して生細胞数や細胞形態から細胞破壊度を算出する。さらには被験物質を添加しない場合と添加した場合での検出結果または解析結果を比較して、被験物質の毒性を判定する。尚、解析手段としてのコンピュータは、上記制御手段の管理コンピュータを兼用してもよい。
【0040】
保存手段60は、上記のような解析結果を、被験物質の化学構造、被験物質添加量、添加回数、添加間隔等の各種パラメータと関連付けて格納する。また、図示はしていないが、検出手段40からの検出結果を直接保存手段60に格納してもよい。
【0041】
細胞セット手段70は、例えばペルチェ方式のような電子加熱冷却方式によって温度制御されており、細胞重層培養物を使用時まで保管したり、例えば-40℃〜-80℃で冷凍保存した細胞重層培養物を解凍させて使用可能な状態にする。
【0042】
本発明の毒性試験装置で用いる細胞重層培養物は、培養担体上に層状に培養した細胞から成る細胞層または細胞層と培養担体とを含む細胞シートを重ねて長期培養可能としたものであり、例えば上記特許文献4〜6に記載されているような高分子含水ゲル層および細胞接着性層を含む多層構造の細胞培養担体を用いて調製することができる。細胞重層培養物において、細胞層または細胞シートは、細胞同士が接触するように重なっていてもよく、あるいは細胞外マトリックスを介して重なっていてもよい。さらに、細胞重層培養物を構成する細胞層または細胞シートの細胞の種類は特に限定はされず、例えば、繊維芽細胞、血管内皮細胞、軟骨細胞、肝細胞、小腸上皮細胞、表皮角化細胞、骨芽細胞、または骨髄間葉細胞の1種または2種以上を含む。また重層化される細胞層または細胞シートの数も特に限定されないが、好ましくは2〜10、より好ましくは2〜5である。培地および培養条件等は、重層培養物中の細胞によって適宜選択することができる。培地として、限定はされないが例えば、D-MEM培地、MEM培地、HamF12培地、HamF10培地等を用いることができる。また培養容器として、限定はされないが例えば、96穴タイタプレートや他の培養プレートを用いることができる。
【0043】
1つの好ましい実施の態様において、本発明の毒性試験装置で用いる細胞重層培養物は、肝細胞を含む1以上の細胞層と、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、脂肪細胞、血球細胞およびマクロファージからなる群より選択される細胞を含む1以上の細胞層とを含む。かかる細胞層を重層化することによって肝臓の3次元組織構造体を構築することができ、例えばGTP、γGOT、シトクロームP450等の肝機能の指標となり得る酵素、特にシトクロームP450の培地中の活性を分析して、異物代謝臓器である肝臓に対する被験物質の毒性を試験することができる。そのような細胞重層培養物を用いる場合、本願装置において2週間以上に亘り培養維持して被験物質の毒性を試験し、被験物質のみならずその代謝物による毒性も評価することが可能である。
【0044】
本願装置において試験する被験物質の種類は特に限定されず、新規化学物質、化学薬品、医薬品、化粧品、洗剤等、任意のものでよく、また合成化合物、天然化合物、遺伝子操作によって作成した化合物のいずれも試験することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】好ましい実施形態における本発明の毒性試験装置のブロック図
【図2】好ましい実施形態における本発明の毒性試験装置の概念図
【符号の説明】
【0046】
1 毒性試験装置
10 培地交換手段
20 被験物質添加手段
30 培養手段
40 検出手段
50 解析手段
60 保存手段(データベース)
70 細胞セット手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞重層培養物を培養する培養手段と、
細胞重層培養物の培地を交換する培地交換手段と、
細胞重層培養物に被験物質を添加する被験物質添加手段と、
細胞重層培養物に対する前記被験物質の影響を検出する検出手段とを備えたことを特徴とする、細胞重層培養物において被験物質の毒性を試験する毒性試験装置。
【請求項2】
前記被験物質添加手段が、添加量を変化させて被験物質を添加するものであることを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記被験物質添加手段が、所定の間隔および回数で複数回被験物質を添加するものであることを特徴とする請求項1または2記載の装置。
【請求項4】
前記検出手段が、細胞重層培養物の状態を検出する状態検出手段を備えていることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の装置。
【請求項5】
前記状態検出手段が、細胞重層培養物の形態または生細胞数を検出するものであることを特徴とする請求項4記載の装置。
【請求項6】
前記検出手段が、細胞重層培養物の培養後の培地を分析する分析手段を備えていることを特徴とする請求項1から5いずれか1項記載の装置。
【請求項7】
前記分析手段が、前記培養後の培地のGTP、γGOTまたはシトクロームP450の活性、グルコース、アルブミン、胆汁酸または尿素の量、pH、あるいは色を分析するものであることを特徴とする請求項6記載の装置。
【請求項8】
前記検出手段により得た結果を解析する解析手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1から7いずれか1項記載の装置。
【請求項9】
前記解析手段により得た解析結果をデータベースに格納する保存手段をさらに備えたことを特徴とする請求項8記載の装置。
【請求項10】
前記細胞重層培養物が、肝細胞を含む1以上の細胞層と、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、脂肪細胞、血球細胞およびマクロファージからなる群より選択される細胞を含む1以上の細胞層とを含み、被験物質による肝毒性を試験するものであることを特徴とする請求項1から9いずれか1項記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−24576(P2007−24576A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−204367(P2005−204367)
【出願日】平成17年7月13日(2005.7.13)
【出願人】(000005201)富士フイルムホールディングス株式会社 (7,609)
【復代理人】
【識別番号】100116540
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 香
【Fターム(参考)】