説明

細菌であるWenelenDSM16786株、金属硫化鉱物からなる鉱石または精鉱のリーチングのための当該細菌の利用方法、および前記細菌または当該細菌を含む混合菌を用いたリーチング工程

【解決手段】アシディチオバシルス・フェロオキシダンス(Acidithiobacillus ferrooxidans)に属し、Wenelenと命名され、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)に登録番号DSM16786として寄託され、単離された化学合成無機栄養細菌、および硫化鉱物からなる鉱石および精鉱のリーチングへの当該細菌の利用、さらには当該細菌または当該細菌を含む混合菌を用いたリーチング工程。
【効果】該Wenelen DSM 16786株は優れた酸化活性、特に黄銅鉱に対して、既知微生物と比較し、高い酸化活性を有する。この特徴により、該菌株はバイオマイニングへの適用に対して大きな利益をもたらす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アシディチオバシルス・フェロオキシダンス(Acidithiobacillus ferrooxidans)に属し、Wenelenと命名され、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)に登録番号DSM16786として寄託され、単離された化学合成無機栄養細菌、および硫化鉱物からなる鉱石および精鉱のリーチングへの当該細菌の利用、さらには当該細菌または当該細菌を含む混合菌を用いたリーチング工程に関する。本Wenelen DSM 16786株は優れた酸化活性、特に黄銅鉱に対して、既知微生物と比較し、高い酸化活性を有する。この特徴により、本菌株はバイオマイニングへの適用に対して大きな利益をもたらす。
【従来の技術および発明が解決しようとする課題】
【0002】
現在、世界で90%以上の採掘可能な銅は、硫化銅鉱物の処理によって採集されている。鉱石の中に存在する硫化銅鉱物種のうち、黄銅鉱(カルコパイライト)、斑銅鉱(ボルナイト)、輝銅鉱(カルコサイト)、銅藍(コベライト)砒四面銅鉱(テナンタイト)、硫砒銅鉱(エナジャイト)が重要な鉱物であるが、その中でも黄銅鉱が最も比較的多量にある鉱物種であり、かつそのため、経済的にも興味ある鉱物種となっている。
【0003】
現在、硫化銅鉱物の処理は、鉱物の破砕・摩鉱・浮遊選鉱工程、引き続いて精鉱の溶融転換工程、そして電錬工程の物理化学的な工程を基礎としている。現実には、80%以上の銅が、上記鉱物処理ルート、いわゆる従来型ルートで生産されている。本ルートは、鉱石の特徴や鉱物処理設備のため、中または高品位の鉱物に限られている。この事実により、従来型技術が用いられた場合には経済性に劣り、かつその資源開発に効率的な技術が無いので、未開拓資源となっている、比較的品位の低い有用資源が、幅広く残っている。
【0004】
一方、銅が酸化鉱種として存在する鉱物は容易に酸で溶解するため、酸によるリーチング(浸出)工程により処理され、続いて溶媒抽出、および電解採取工程を経る、湿式精錬による銅回収ルートにて処理している。このルートは上記従来型技術に比べ、より低い操業・設備コスト、かつ環境への影響のより少ない技術として、非常に魅力的である。しかしながら、この技術の適用は酸化鉱または、微生物が触媒して生産された強い酸化剤が存在する時に酸で可溶化する、二次硫化銅鉱物(輝銅鉱または銅藍)に金属が存在する混合硫化鉱にしか適用できない(非特許文献1)。
【0005】
低品位鉱石の場合、唯一の効率的な技術は、鉱物が酸により可溶である鉱物種(酸化鉱)または微生物が存在する時に可溶となる鉱物種(輝銅鉱や銅藍など二次硫化鉱物を含む鉱物)として存在する場合において、鉱石のヒープまたはダンプの形態に堆積して処理する方法であるが、この対象となる鉱物は多く存在しない。この理由により、鉱業の持続的拡大のためには、一次硫化鉱である黄銅鉱を多く含む鉱石の経済的な処理を可能とする技術革新が必要である。
【0006】
硫化鉱物のリーチングおよび可溶化は鉄と硫黄を酸化する細菌の存在が好ましいといわれている。(例として最近の総説である非特許文献2参照)。25から45℃の範囲の常温微生物を用いた商業レベルでヒープやダンプのリーチングを用いたこれら硫化鉱物の資源開発において、銅藍(CuS)と輝銅鉱(Cu2S)の二次硫化銅鉱のリーチングでは、270日間で85%の回収率という十分な回収率と回収速度が得られている。この温度範囲では、現在広く文献に記載されている微生物はアシディチオバシルス(Acidithiobacillus)属とレプトスピリルム(Leptospirillum)属に属し、その中でも最も一般的な種はアシディチオバシルス・フェロオキシダンス(Acidithiobacillus ferrooxidans), アシディチオバシルス・チオオキシダンス(Acidithiobacillus thiooxidans)およびレプトスピリルム・フェロオキシダンス(Leptospirillun ferrooxidans)である(非特許文献3)。
【0007】
しかしながら、黄銅鉱(CuFeS2)主体の鉱石の場合、既知微生物は非常に低いリーチング速度しか示さない。そのため、黄銅鉱から回収できる銅各分は産業的にはほとんど無いと考えられている。その理由で有力な説は、黄銅鉱表面への膜の形成が銅の可溶化の進行を妨げるというものである。(非特許文献4)。
【0008】
75−80℃の高温がこの表面不動態化(パッシベーション)の進行を防止し、経済的に見合った銅の回収を可能とする(非特許文献5)。たとえば、チリ国チュキカマタにおいてコデルコ社・BHPビリトン社にて操業中のBioCOPTMプロセスでは、攪拌槽において超好温微生物(古細菌)を用いている(特許文献1,2)。浸出槽での精鉱リーチングを実現化したこの条件は、バット・ヒープ・ダンプ・鉱さいダムおよび原位置での鉱物処理には商業的には見合わない。
【0009】
工業レベルでの黄銅鉱のリーチング現場では、多くの微生物の存在が確認されている。たとえば、レプトスピリルム(Leptospirillum)属およびスルホバシルス(Sulfobacillus)属微生物の利用が記載されている(非特許文献6)。しかし、それら菌株は分離・生育および保存が困難なため、これら菌株の利用を複雑にしている。バイオリーチング工程に関連する生物としては、前述の他、Acidithiobacillus属菌株がある。この属の菌株は、ゲノム相同性において、同種の菌株内で60−70%、同属の菌株内では最低20−30%の相同性しかない。特許文献3においては、pH 1.0で操業可能なチオバシルス・フェロオキシダンス(Thiobacillus ferrooxidans)種菌株(現在はアシディチオバスルス・フェロオキシダンスに分類される)の黄銅鉱リーチングへの利用が、記載されているが、強制通気を必要としている。本菌種のその他の例としては、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションに寄託されているATCC19859, ATCC33020菌株(非特許文献7)ATCC23270(非特許文献8)などがある。しかしながら、どの菌株も銅の回収率や、その回収速度において、満足できる能力は示していない。
【0010】
【特許文献1】US6110253
【特許文献2】US20030167879
【特許文献3】EP0004431
【非特許文献1】Uhrie, JL, Wilton, LE, Rood, EA, Parker, DB, Griffin, JB and Lamana, JR, 2003, “The metallurgical development of the Morenci MFL Project”, Copper 2003 Int Conference Proceedings, Santiago, Chile, Vol. VI, 29-39
【非特許文献2】Rawlings DE “Biomineralization of metal-containing ores and concentrates”, TRENDS in Biotechnology, Vol.21 No.1, p38-42, 2003
【非特許文献3】Espejo, RT and Romero, J., 1997, “Bacterial community in copper sulfide ores inoculated and leached with solutions from a commercial-scales copper leaching plant”, Applied & Environmental Microbiology, Vol. 63, 4, 183-187
【非特許文献4】Tshilombo and Dixon DG, “Mechanism and kinetics of chalcopyrite passivation during bacterial leaching”. Proceedings of Copper 2003, 5th international conference Vol. VI book 1, p99-116
【非特許文献5】Rawlings DE, “Heavy metal mining using microbes”. Annu Rev Microbiol.; 56:65-91. 2002
【非特許文献6】Okibe N, Gericke M, Hallberg KB, Johnson DB., “Enumeration and characterization of acidophilic microorganisms isolated from a pilot plant stirred-tank bioleaching operation.” Appl Environ Microbiol. 2003, 69(4):1936-43
【非特許文献7】Sugio T, et al. “Existence of a hydrogen sulfide:ferric ion oxidoreductase in iron-oxidizing bacteria.” Appl. Environ. Microbiol. 58: 431-433, 1992
【非特許文献8】Abdel-Fattah et al. “Numerical modeling of ferrous-ion oxidation rate in Acidithiobacillus ferrooxidans ATCC 23270: optimization of culture conditions through statistically designed experiments” Acta Microbiol Pol. 2002; 51(3):225-35
【用語の説明】
【0011】
本発明での記載した工程を明確にするため、以下に用語を説明する。
(1) バットでの鉱物バイオリーチング:二重床を有する貯水池(バット)に、鉱物を添加し、リーチング溶液を鉱物粒子中で循環するように浸し、好酸性微生物の存在下、銅を酸性溶液に溶解させるプロセス。
(2) 攪拌槽・リアクターでの鉱物バイオリーチング:機械的攪拌槽に細かく砕いた鉱石をリーチング溶液と混合して鉱物を20%まで含有するスラリーを作成し、好酸性微生物の存在下、銅を酸性溶液に溶解させるプロセス。
(3) ヒープによる鉱物バイオリーチング:一定の粒度分布まで砕いた鉱物を不浸透性で、かつ小さな傾斜をつけた地表上に積上げ、リーチング溶液を積上げた鉱物上から供給し、好酸性微生物の存在下、溶解した銅を酸性溶液に積上げた鉱石の底部から回収するプロセス
(4) ダンプによる鉱物バイオリーチング:露天掘りから採鉱したカットオフ品位以下の鉱物を粗鉱または一次破砕後鉱石を、溶液の浸透の制御に適した特性を有する谷間や峡谷、あるいはあらかじめ不浸透性のカバーを施した地表に積上げ、好酸性微生物の存在下、溶解した銅を酸性溶液に積上げた鉱石の底部から回収するプロセス
(5) 鉱さいダムのバイオリーチング:浮遊選鉱工程から得られる低濃度の金属を含む尾鉱で、鉱さいダムに存在する鉱石を、上記ヒープまたは攪拌槽リーチングし、好酸性微生物の存在下、溶解した銅を酸性溶液に回収するプロセス
(6) 原位置鉱物バイオリーチング:天然または予め採掘で原位置破砕処理した鉱石を、その場でリーチング溶液を供給し、好酸性微生物の存在下、溶解した銅を酸性溶液に鉱石底部から回収するプロセス
(7) 細菌接種物(イノクラム):バイオリーチング工程において、生物学的に活性のある材料として働く、純粋菌または混合菌の培養液
(8) ATCC:アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション
(9) DSMZ:Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH、ドイツ微生物・細胞バンク
(10) PCR:ポリメラーゼ連鎖反応。DNAの増幅を可能とする。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0012】
まず、鉱業プロセスから得られたサンプルからの銅浸出能力増強のため、高い銅浸出特性を有する微生物を分離する手段を開発した。サンプルは、修正9K培地(培地組成;(NH4)2SO4 3.0 g/L、 K2HPO4 0.5 g/L、 MgSO4・7H2O 0.5 g/L、 KCl 0.1 g/L、Ca(NO3)2 0.1 g/L 30 g/L FeSO4・7H2O)で攪拌フラスコにより集積培養し、30℃または45℃で1週間生育させたのち、各種基質酸化能を評価するため、鉄塩または硫黄を添加した固体または液体培地に移した。
【0013】
多くの混合微生物が得られ、それぞれの鉄酸化および銅の浸出の特性が原子吸光分析装置により測定された。前記培養液から、最も高い能力を有する混合菌を選択し、純粋菌の分離を図った。分離した各微生物の能力を測定したところ、Wenelen DSM 16786株が、他の分離微生物、および保存微生物の中で黄銅鉱からの最も高い銅浸出能力を示した。
【0014】
Wenelen DSM 16786と命名したこの菌株は、絶対好酸性(pH<4.0)、好気性、中等温度好性(26−35℃)、グラム陰性で、0.2−0.4μmのサイズを有するバチルス状の形状を持ち、化学合成無機栄養的に、2価鉄イオン、元素硫黄、またはチオ硫酸塩を単一栄養源として添加した液体9K培地に生育し、かつ2価鉄イオンおよび金属硫化物の高い酸化活性を有している。本菌株は16S rDNA配列により分類学的にAcidithiobacillus ferrooxidansと分類された(非特許文献9)。16S rDNA遺伝子の増幅は非特許文献10に記載されたユニバーサルプライマーを用いたPCRを用いて行った。Wenelen DSM 16786株の全ゲノムについても、ショットガンライブラリーの手法でシーケンシングし、アノテーションを実施中である。このシーケンシング結果から、本菌株のGC含量は58.5%と決定された。
【0015】
図1にSEQ ID N° 1と名づけたWenelen DSM 16786株の16S rDNA配列を記載した。細菌の場合、16S rDNAを比較した場合には同一でも、全ゲノム配列では顕著な相同性の違いを有し、そのため、その表現系でも顕著な違いを示すという多くの例がある。本例はWenelen DSM 16786株でも当てはまり、本菌は16S rDNAを比較した場合、ゲノム配列が米国ゲノム研究所にて既に解析されて、NC_002923 2n GeneBank/RefSeqとして登録されているATCC23270株と100%の相同性を有している。しかしながら、図2に示すとおり、ATCC23270株(Lane2)は大きさが2Kb以下の2つのプラスミドを有しているが、一方Wenelen DSM 16786株(Lane1)は約5kbの大きさのプラスミドを1つしか有しておらず、遺伝的な違いは明確である。この情報は本菌株の配列解析後の初期的なアノテーションによっても、約5Kbの断片の末端同士が重複していることを確認しており、これが環状プラスミド型構造を持つと推定される。複製開始・終了、プロモーターおよびリボソーム結合位置と推定される各配列もこの配列の中に検出され、プラスミド型の染色体外要素の存在の可能性を示唆している。
【0016】
さらに、図3には、Wenelen DSM 16786株とATCC23270株の違いとして、非特許文献11に記載の方法に従った、16S-23S rRNAの遺伝子間領域の増幅産物が各菌株で全く異なったバンドのパターンを示すことを示している。
【0017】
微生物学的および系統学的特性評価ののち、分離したWenelen DSM 16786株は硫化銅鉱物および鉱石のリーチングに使用することに成功した。特に、フラスコ攪拌試験、小規模カラム試験、パイロットカラム試験、および産業レベルでのバット、攪拌槽、ヒープ、ダンプ、鉱さいダム、および原位置操業で使用可能となった。
【0018】
同様に、本発明のWenelen DSM 16786株を含む溶媒抽出工程より得られたリサイクル溶液を鉱物に接種して、鉱物リーチング試験を実施した。このプロセスはpH2から3、温度が20℃から50℃において実施された。
【0019】
細菌接種を目的として、Wenelen DSM 16786株は栄養源、空気、酸素負荷空気、二酸化炭素、炭酸塩、およびその他生育に好ましい物質を添加した、培養槽、リアクター、あるいは鉱石ヒープにて培養することができた。
【0020】
Wenelen DSM 16786株は温度範囲10から60℃、より好ましくは25から50℃、溶液のpHは1.3から4.0、より好ましくは1.6から2.8にて酸化活性を示す。そのため、最適な黄銅鉱の酸化活性を得るためには、これらの範囲にてプロセスの条件を維持する必要がある。
【0021】
Wenelen DSM 16786株は天然の菌株が存在する鉱石に接種することができる。また、その他の菌株とともに接種することが可能であり、どちらの条件でも優れた銅浸出活性を示す。
【0022】
[非特許文献9] Kelly DP, Wood AP, “Reclassification of some species of thiobacillus to the newly designed genera Acidithiobacillus gen. nov., Halothiobacillus gen. nov and Thermithiobacillus gen. nov.”, Int. J. Syst. Evol. Microbiol. 2000, 50, 511-516
[非特許文献10] Coram, N., and Rawlings, DE, “Molecular relationship between two groups of the genus Leptospirillum and the finding that Leptospirillum ferriphilum sp. Nov. dominates South African commercial biooxidation tanks that operate at 40℃” Appl. Env. Microb., 2002, p. 838-845
[非特許文献11] Pizarro et al. Bacterial population in samples of bioleached copper ore as revealed by analysis of DNA obtained before and after cultivation”, Applied and Environmental Microbiology, 1996, p1323-1328
【実施例】
【0023】
(実施例1)
単離したWenelen DSM 16786株の比活性は、鉱山操業により採取した黄銅鉱を84.69重量%含有する銅精鉱のバイオリーチングにより、下記実験手順に従い測定した。
【0024】
(1) あらかじめ培養したAcidithiobacillus ferrooxidans Wenelen DSM 16786株を10個/mlの濃度に調整し、修正9K培地150mlを添加した500mlフラスコに植菌した。
(2) 84.69重量%の黄銅鉱を含有し、表1にしめした化学組成、表2に示した鉱物組成を有する銅精鉱を、植菌した培地に添加した。
(3) 上記混合物を含有するフラスコを、30℃、150rpm、41日間振とう培養機にて振とうした。
(4) リーチング溶液中の銅濃度はパーキンエルマーAanalyst 400原子吸光分析装置にて測定した。
【表1】

【表2】

【0025】
Wenelen DSM 16786株、標準菌であるAcidithiobacillus ferrooxidans ATCC23270株、および微生物を添加していないサンプルを、比較のために同じ手順で評価した。
【0026】
図4に、Wenelen DSM 16786株、標準菌であるAcidithiobacillus ferrooxidans ATCC23270株、および微生物を添加していないサンプル(Abiotic)による銅精鉱のバイオリーチングの結果を示す。Wenelen DSM 16786株によるバイオリーチングは、浸出速度0.8271%/日、寄与率(R2)0.9284と、標準菌ATCC23270株の浸出速度0.7320%/日、寄与率(R2)0.9825と比べ高い浸出速度を示し、銅回収率でも後者が30%以下なのに対し、約35%となった。
前記事実は、Wenelen DSM 16786株が、すでにゲノム配列も解析されているAcidithiobacillus ferrooxidans ATCC23270株に対し、高い黄銅鉱バイオリーチング活性を有していることを示している。また、微生物を添加していない条件との比較では、さらに明白である。
【0027】
(実施例2)
単離したWenelen DSM 16786株に対する温度およびpHの生育への影響を確認するため、銅精鉱の酸化活性を下記実験手順に従い測定した。
【0028】
(1) Wenelen DSM 16786株を修正9K培地にて7日間培養した。
(2) 鉄沈殿を除去するため、Toyo No.5Bろ紙にて、菌体をろ過した。
(3) ろ過した菌体は、15,000×g にて10分間遠心分離し、さらに0.1Mのβ―アラニン-SO42- バッファーにて洗浄した。Lowryらの方法Lowry et al., J Biol Chem. 1951 Nov; 193(1): 265-75)で、0.1gのたんぱく質に相当する菌体量を1.0mlの同じ0.1Mのβ―アラニン-SO42- バッファーに再懸濁した。
(4) 表1,2に記載の銅精鉱50mgを必要なpHおよび温度に調整した0.1Mのβ―アラニン-SO42- バッファー1.0mlに懸濁した。
(5) (3)にて調製した菌体を上記銅精鉱懸濁液に添加し、最終的な液量を2.5mlに調整して反応を開始した。
(6) 菌体の生物学的酸素要求量を反応温度制御可能な生物学的酸素モニター(Yellow Spring Instrument, オハイオ、米国)にて測定した。
【0029】
活性測定結果を図5、6に示す。これらの図は最適なWenelen DSM 16786株の酸化条件の範囲が、温度では、10から60℃の、pHでは1.3から4.0であることを示している。
【0030】
図5では、pH3.0での硫化銅の酸化活性に対する温度の効果を示している。Wenelen DSM 16786株は明らかに20から50℃で明らかに高い活性を示す。
【0031】
図6では、30℃での硫化銅の酸化活性に対するpHの効果を示している。Wenelen DSM 16786株は明らかにpH2−3の範囲が最適な活性を示す
【0032】
(実施例3)
ヒープまたはダンプリーチングによる鉱石処理の工業レベルでの条件をシミュレーションするため、非流動床(固定床)型のバイオリーチング小型カラムでの硫化銅鉱石サンプルに対するWenelen DSM 16786株のバイオリーチング活性を、同種の保存機関の菌(ATCC 23270株)と比較するため、以下のプロトコールに従い、実験を実施した。
【0033】
(1) 直径40mm、高さのPVC製チューブでカラムを作成した。
(2) カラムは黄銅鉱・斑銅鉱を主体とし、表3の鉱物組成を持つ225gの鉱石で充填した。
(3) 接種する菌体は、あらかじめ潅水(イリゲーション)用バッファー((NH4)2SO4 3.0 g/L, K2HPO4 0.5 g/L, MgSO4・7H2O 0.5 g/L, KCl 0.1 g/L, Ca(NO3)2 0.1 g/L, FeSO4・7H2O 6 g/L, pH 2,5)にて洗浄後、0.5mlバッファーに再懸濁した。接種する菌体量は、各カラム2×10個とした。
(4) カラムのうち一つは菌体を接種せず、コントロール条件とした。
(5) 潅水速度は各カラム0.2ml/分とした。
(6) カラムは室温(22℃)に維持した。
(7) 7日間の間、24時間おきにサンプルを採取し、浸出液中の銅濃度を原子吸光分析装置で測定した。
【表3】

【0034】
図7にしめすとおり、細菌を接種していない条件と、細菌を接種した条件での鉱物からの銅浸出量曲線の比較すると、細菌の接種には明らかな効果が認められた(細菌非接種 回収率3%/11日、細菌接種12%および15%/11日)。この中でも、Wenelen DSM 16786株は保存機関からの菌株と比較し、高いバイオリーチング活性を示した。
【0035】
表3に示した鉱石中に存在する鉱物種に含まれる銅を考えると、その鉱物種は斑銅鉱(59%)と黄銅鉱(39%)となる。斑銅鉱のバイオリーチング速度は、微生物の存在下では、以下の反応式(1)で示される(非特許文献12)。
【0036】
【化1】

【0037】
斑銅鉱の酸化速度は、3価鉄イオンの存在下では、最初の2つの銅原子の放出は早いが、(化学リーチング)、斑銅鉱リーチングでの中間体は、反応式(2)に従い、黄銅鉱と銅藍への容易に変換される。T
【0038】
【化2】

【0039】
生成した銅藍および黄銅鉱は、3価鉄イオンと細菌の存在下で、以下反応式(3)、(4)に従い、ゆっくりと浸出される。
【0040】
【化3】

【0041】
上記反応式によれば、図7における鉱物リーチングの第一段階は、反応式(1)、(2)に関連づけられる。この場合、斑銅鉱の化学リーチングとなるため、使用する菌株での違いは認められない。菌株間での違いは、上記実施例1で示したように、次の段階である銅藍と黄銅鉱のリーチングに関連する段階で明確になる。
【0042】
一方、バイオリーチングでは、抽出量が増加するにつれ、速度は低下してくることがよく知られている。これは、鉱石粒子の表面に存在する鉱物種が浸出されると、第一段階での微生物が補助する酸化反応(いわゆる化学的制御)制御に代わり、プロセスの速度は、最も遅い、リーチング作用物質の浸出拡散速度により支配される。
【0043】
上記解析に基づき、かつ図7に示したA. ferrooxidans strains ATCC 23270とWenelen DSM 16876両菌株の比較のため、化学反応に制御された非反応コアの固液反応モデルに基づき、式(5)における時間経過ごとの抽出された銅各分Xbと相関させ、各微生物での速度定数(それぞれ図7の場合)を決定する必要がある。 (非特許文献13)
【0044】
【数1】

【0045】
上記式において (1/tau)は、鉱石粒子に含まれるすべての銅が抽出されるのに必要な時間を示している。銅浸出の結果を式(5)に当てはめた結果、表4に示した(1/tau)の値が得られた。この場合の, 相関係数(寄与率)R2は、Wenelen DSM 16876株、ATCC 23270株、および無菌コントロールで、0.9918, 0.895および 0.986となった。
【表4】

【0046】
表4に示した結果は、DSM 16786株が比バイオリーチング速度でおおよそ30%ATCC23270株より高いことをしめしており、これが鉱石中すべての銅を抽出するために必要な時間、すなわち238日に対して182日へと短縮されるこに反映されている。また、たとえば、50%の銅を回収するのに、保存機関の菌では49日かかるところ、38日で済むということをしめしている。
【0047】
硫化鉱のヒープやダンプ操業での主な問題点は、比較的遅い金属の回収速度にあるという点は鉱業界では良く知られている。銅抽出速度で、30%の増加は、工業レベルでのバイオリーチング工程コストの20から40%の削減に結び付けられると考えられる(現在では銅1ポンドあたり10から15米セントに相当する)。これは、高い速度になると、より少ない在庫鉱石で、より小さな揚水、通気、潅水のコストですみ、溶媒抽出設備に高い銅濃度の溶液を送液できるためである。チリ第1州のケブラダ・ブランカ鉱山においては、1日当たり約200トンの銅を生産しているが、ここでの細菌によるリーチング操業の場合を例にすると、本発明技術による費用削減は、この鉱山プロジェクトの残された稼動寿命を想定した場合で、40−90百万米ドルに達することになる。
【0048】
[非特許文献12] Peters, E., 1976, “Direct Leaching of Sulfides: Chemistry and Applications”
[非特許文献13] Levenspiel, O., “Chemical Reaction Engineering”, Wiley, 1962, pp 344- 350
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】Wenelen DSM 16876株のゲノムDNAからPCRにより増幅して得られた系統的分類のための16S rDNA遺伝子。
【図2】A.ferrooxidans Wenelen DSM 16876株とATCC 23270株の、両菌株から抽出された全DNAを用いた両株のゲノム構成要素の比較。1.5%アガロースゲルに各列以下にしめすサンプルを注入し、分析した。列Std;λHindIII 分子量標準列1:Wenelen DSM 16786株全DNA列“-“:非抽出対照列2:ATCC 23270全DNA両菌株のプラスミドの存在を白い矢印で示す。
【図3】A.ferrooxidans Wenelen DSM 16876株とATCC 23270株の、16S-23S遺伝子間領域(ISR)の増幅による両株のゲノム構成要素の比較。1.5%アガロースゲルに各列以下にしめすサンプルを注入し、分析した。列Std;φX174/HaeIII 分子量標準列“-“:非増幅対照列1: Wenelen DSM 16786株全DNAの遺伝子間領域増幅産物列2:ATCC 23270全DNAの遺伝子間領域増幅産物両菌株での異なったバンドパターンが観察され、遺伝子レベルでの違いを示している。
【図4】黄銅鉱精鉱のバイオリーチング反応速度黒い円は非接種(無菌)培地からなるブランクすなわちコントロール条件を示し、銅の抽出は最小で、化学浸出のみによる。黒い三角はATCC23270株を示し、Wenelen株と同様のAcidithiobacillus ferrooxidansに属する菌株である。黒い四角はA.ferrooxidans Wenelen DSM 16876株による銅抽出パーセントを示し、41日間で約5%保存機関菌株のATCC23270株より5%高い値を示す。
【図5】Wenelen DSM 16876株のバイオリーチング活性への温度効果。曲線は、異なる温度におけるバイオリーチング比活性をμL酸素/mgタンパクで示す。最適温度は26から55℃の間となる。
【図6】Wenelen DSM 16876株のバイオリーチング活性へのpH効果。曲線は、異なる温度におけるバイオリーチング比活性をμL酸素/mgタンパクで示す。最適pHは1.5から3.5の間となる。
【図7】固定床型鉱石小型カラムを用いた、Wenelen DSM 16876株と保存機関菌株ATCC23270株のバイオリーチング活性。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アシディチオバスルス・フェロオキシダンス(Acidithiobacillus thiooxidans)に属し、DSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH, Braunschweig、ドイツ共和国)にて登録番号DSM16786にて寄託され、鉄、元素硫黄および硫化鉱物または鉱石のバイオリーチングの結果生じた化合物を酸化して化学合成無機栄養的に生育するグラム陰性細菌で、図1に記載された16S rDNA配列をもち、約15Kbの自己複製配列を有する染色体外を有し、かつ硫化金属鉱石の優れたリーチング能力を有する、単離された細菌Wenelen DSM 16786株。
【請求項2】
鉱物種として黄銅鉱(カルコパイライト)、斑銅鉱(ボルナイト)、銅藍(コベライト)および、その他銅含有鉱物種を含む混合硫化鉱石からの優れた銅リーチング活性を有する、請求項1の単離細菌。
【請求項3】
請求項1に記載のWenelen DSMZ 16786株を単独または混合微生物として含むことを特徴とする、硫化金属鉱石のリーチングに用いられる細菌接種物(イノクラム)。
【請求項4】
請求項1に記載のWenelen DSMZ 16786株を含む細菌リーチング溶液をpH1.3から4の条件で接種し、工程における温度が10から60℃であることを特徴とする硫化金属鉱石の鉱物リーチング工程。
【請求項5】
請求項4に記載の鉱物リーチング工程において、鉱物がWenelen DSMZ 16786株を含む細菌リーチング溶液を好ましくはpH1.6から2.8の条件で接種し、工程における温度が好ましくは20から50℃である鉱石リーチング工程。
【請求項6】
前記金属鉱石または精鉱が他鉱物種の中で、黄銅鉱(カルコパイライト)を含むことを特徴とする請求項4および5に記載の工程。
【請求項7】
前記鉱物がバット、攪拌槽およびリアクター、ヒープ、ダンプ、鉱さいダムまたは、原位置にてリーチングされることを特徴とする、請求項4から6に記載の工程。
【請求項8】
請求項1に記載のWenelen DSMZ 16786株を混合した溶媒抽出工程から再生された溶液を、前記鉱物に接種し、好ましくはpH2から3、温度が20から30℃にて操業されることを特徴とする鉱物リーチング工程。
【請求項9】
鉱石および精鉱がその他化合物とともに黄銅鉱(カルコパイライト)を含む請求項8に記載の工程。
【請求項10】
前記鉱物がバット、攪拌槽およびリアクター、ヒープ、ダンプ、鉱さいダムまたは、原位置にてリーチングされることを特徴とする、請求項8および9に記載の工程。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−136321(P2006−136321A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2005−306936(P2005−306936)
【出願日】平成17年10月21日(2005.10.21)
【出願人】(505393463)バイオシグマ・エス・エー (5)
【Fターム(参考)】