説明

細菌の増殖抑制剤のスクリーニング方法

細菌の増殖抑制手段を提供すること。本発明により、被験試料存在下での配列番号:3、6及び9から選ばれた少なくとも1種のアミノ酸配列をコードする遺伝子を介して生じる事象又はそれによりコードされたポリペプチド若しくはその断片の動態、該遺伝子の変異を有する温度感受性変異株に基づくスクリーニング方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、細菌の増殖抑制剤のスクリーニングのための手段に関する。より詳しくは、細菌に対する増殖抑制効果の評価方法、細菌の増殖抑制剤のスクリーニング方法並びに黄色ブドウ球菌の温度感受性変異株に関する。
【背景技術】
近年、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、バンコマイシン耐性ブドウ球菌等の院内感染を引き起こす黄色ブドウ球菌等に代表されるように、薬剤に対して、耐性能を獲得する細菌の出現が注目されている〔Apfalter P.,Wien Med.Wochenschr.153,144−147(2003);チ(Chi CY.),J.Nicrobiol.Immunol.Infect.,37,16−23(2004)〕。
細菌の薬剤耐性は、抗菌薬の作用標的、あるいは作用機作に由来する場合が多い。例えば、β−ラクタム薬はその基本骨格であるβ−ラクタム環が開裂して標的であるペニシリン結合タンパク質に共有結合して不活化することにより、抗菌作用を発揮している。この場合、細菌のβ−ラクタム薬耐性機構としてペニシリン結合タンパク質の変異よる薬剤親和性の低下、β−ラクタム環を開裂するβ−ラクタマーゼ産生による薬剤の不活化などが知られている。同様に、キノロン耐性においても作用標的であるDNAジャイレースの変異による耐性化が知られている。
【発明の開示】
本発明によれば、黄色ブドウ球菌をはじめとする各種グラム陽性菌、グラム陰性菌等の細菌の増殖を、効率よく抑制しうるアンタゴニスト又はインヒビターをスクリーニングするための新しい標的が提供される。
本発明は、黄色ブドウ球菌をはじめとする各種グラム陽性菌、グラム陰性菌等の細菌に対する増殖抑制効果を簡便、迅速に評価すること、細菌増殖抑制剤の薬理評価を行なうこと等のいずれかを少なくとも達成する、細菌に対する増殖抑制効果の評価方法を提供することに関する。
また、本発明は、黄色ブドウ球菌をはじめとする各種グラム陽性菌、グラム陰性菌等の細菌に対して、有効であり、黄色ブドウ球菌をはじめとする各種グラム陽性菌、グラム陰性菌等の細菌の増殖を、効率よく抑制しうるアンタゴニスト又はインヒビターを、効率よくスクリーニングすること、作用機序が既存の抗菌薬等とは異なるアンタゴニスト又はインヒビターをスクリーニングすること、既存の薬剤耐性細菌の薬剤耐性メカニズムの影響をうけにくいアンタゴニスト又はインヒビターをスクリーニングすること等の少なくとも1つが可能な、黄色ブドウ球菌をはじめとする各種グラム陽性菌、グラム陰性菌等の細菌の増殖抑制剤のスクリーニング方法を提供することに関する。
さらに、本発明は、黄色ブドウ球菌をはじめとする各種グラム陽性菌、グラム陰性菌等の細菌に対して、有効であり、黄色ブドウ球菌をはじめとする各種グラム陽性菌、グラム陰性菌等の細菌の増殖を、効率よく抑制しうるアンタゴニスト又はインヒビターを、効率よくスクリーニングすること、作用機序が既存の抗菌薬等とは異なるアンタゴニスト又はインヒビターをスクリーニングすること、既存の薬剤耐性細菌の薬剤耐性メカニズムの影響をうけにくいアンタゴニスト又はインヒビターをスクリーニングすること等の少なくとも1つを行なうことを可能にする、黄色ブドウ球菌の温度感受性株を提供することを目的とする。
本発明の要旨は、
〔1〕 被験試料存在下における下記A.及び/又はB.:
A. 配列番号:3に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA0544)、配列番号:6に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA1293)及び配列番号:9に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA1511)からなる群より選ばれた少なくとも1種の遺伝子を介して生じる事象、
B.該遺伝子によりコードされたポリペプチド若しくはその断片の動態、
を評価することを特徴とする、被験物質による細菌の増殖抑制効果の評価方法、
〔2〕 被験試料の存在下及び非存在下において、下記A.及び/又はB.:
A.配列番号:3に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA0544)、配列番号:6に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA1293)及び配列番号:9に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA1511)からなる群より選ばれた少なくとも1種の遺伝子を介して生じる事象、
B.該遺伝子によりコードされたポリペプチド若しくはその断片の動態、
を評価し、それにより、被験試料の存在下におけるA.の事象及び/又はB.の動態と被験物質の非存在下におけるA.の事象及び/又はB.の動態との間の変化に基づき、アンタゴニスト又はインヒビターを選別することを特徴とする、細菌の増殖抑制剤のスクリーニング方法、
〔3〕 被験試料の存在下における
配列番号:3に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA0544)、配列番号:6に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA1293)及び配列番号:9に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA1511)からなる群より選ばれた少なくとも1種の遺伝子の発現量と、該被験試料の非存在下における該遺伝子の発現量とを比較し、該被験試料の存在下において、該遺伝子の発現量が減少することを指標として被験物質を選別する、前記〔2〕記載のスクリーニング方法、
〔4〕 被験試料の存在下における
配列番号:3に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA0544)、配列番号:6に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA1293)及び配列番号:9に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA1511)からなる群より選ばれた少なくとも1種の遺伝子によりコードされたポリペプチドの発現量と、該被験試料の非存在下における該ポリペプチドの発現量とを比較し、該被験試料の存在下において、該ポリペプチドの発現量が減少することを指標として被験物質を選別する、前記〔2〕記載のスクリーニング方法、
〔5〕 被験試料の存在下における
配列番号:3に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA0544)、配列番号:6に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA1293)及び配列番号:9に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA1511)からなる群より選ばれた少なくとも1種の遺伝子によりコードされたポリペプチドの機能と、被験試料非存在下における該ポリペプチドの機能とを比較し、該被験試料の存在下において、該ポリペプチドの機能が低下することを指標として被験物質を選別する、前記〔2〕記載のスクリーニング方法、
〔6〕 配列番号:3に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA0544)、配列番号:6に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA1293)及び配列番号:9に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA1511)からなる群より選ばれた少なくとも1種の塩基配列の一部に変異を有する遺伝子を有する、黄色ブドウ球菌の温度感受性変異株、
〔7〕 前記〔6〕記載の温度感受性変異株を用いて、被験物質の存在下及び非存在下における変化を検出することを特徴とする、細菌の増殖抑制剤のスクリーニング方法、
〔8〕 (1)前記〔6〕記載の温度感受性変異株及び野生株それぞれに、被験試料を接触させるステップ、及び
(2)野生株に該被験試料を接触させた場合に生じる現象と、前記〔6〕記載の温度感受性変異株に該被験試料を接触させた場合に生じる現象とを比較するステップ、
を含み、温度感受性変異株に該被験試料を接触させた場合に生じる現象と、野生株に該被験試料を接触させた場合に生じる現象との間で変化を生じることを指標として被験試料を選別する、前記〔7〕記載の細菌の増殖抑制剤のスクリーニング方法、
〔9〕 (1)配列番号:3に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA0544)、配列番号:6に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA1293)及び配列番号:9に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA1511)からなる群より選ばれた少なくとも1種の遺伝子によりコードされたポリペプチド又はその断片と、被験試料を接触させ、混合物を得るステップ、
(2)前記ステップ(1)で得られた混合物において、該ポリペプチド又はその断片と結合する被験試料の有無を検出し、それにより、該ポリペプチド又はその断片と結合する被験試料を細菌の増殖抑制剤の候補物質として得るステップ、
(3)前記ステップ(2)で得られた候補物質と、SA0544、SA1293及びSA1511からなる群より選ばれた少なくとも1種の遺伝子を保持する細胞とを接触させるステップ、及び
(4)前記(3)で得られた細胞における細胞増殖阻害及び/又は細胞死の有無を検出し、それにより、細胞増殖阻害及び/又は細胞死を引き起こすことを指標として候補物質を選別するステップ、
含む、細菌の増殖抑制剤のスクリーニング方法、並びに
〔10〕 (1)前記〔6〕記載の温度感受性変異株を、該温度感受性変異株の起源となる野生型の細菌の生育至適温度下で培養した場合に生じる現象と、該野生型の細菌は生育でき、かつ該温度感受性変異株の生育が影響を受ける温度下に培養した場合に生じる現象との間の差を観察するステップ、
(2)該温度感受性変異株を、該生育至適温度下に、被験試料非存在下で培養した場合に生じる現象と、該生育至適温度下に、被験試料存在下で培養した場合に生じる現象との間の差を観察するステップ、
(3)該野生型の細菌を、被験試料非存在下で培養した場合に生じる現象と、被験試料存在下で培養した場合に生じる現象との間の差を観察するステップ、及び
(4)前記ステップ(1)で得られた結果と(2)で得られた結果との間又は前記ステップ(1)で得られた結果と(3)で得られた結果との間で比較し、実質的に同一の現象が検出されることを指標として、細胞増殖阻害及び/または細胞死を引き起こす候補物質を選別することを特徴とする、細菌の増殖抑制剤のスクリーニング方法、
に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の1つの側面は、被験試料存在下における下記A.及び/又はB.:
A. 配列番号:3に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA0544)、配列番号:6に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA1293)及び配列番号:9に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA1511)からなる群より選ばれた少なくとも1種の遺伝子を介して生じる事象、
B.該遺伝子によりコードされたポリペプチド若しくはその断片の動態、
を評価することを特徴とする、被験物質による細菌の増殖抑制効果の評価方法に関する。
なお、本明細書において、前記配列番号:3に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA0544;アクセッション番号:NP_373798)、配列番号:6に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA1293;アクセッション番号:NP_374574)、配列番号:9に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA1511;アクセッション番号:NP_374799)を、「指標遺伝子」と総称する場合もある。
前記「指標遺伝子」としては、具体的には、例えば、配列番号:1又は2に示される塩基配列を有する遺伝子(SA0544)、配列番号:4又は5に示される塩基配列を有する遺伝子(SA1293)、配列番号:7又は8に示される塩基配列を有する遺伝子(SA1511)等が挙げられる。
また、本明細書においては、前記指標遺伝子の産物のうち、該指標遺伝子によりコードされるポリペプチド、具体的には、例えば、配列番号:3に示されるアミノ酸配列を含有するポリペプチド(SA0544)、配列番号:6に示されるアミノ酸配列を含有するポリペプチド(SA1293)、配列番号:9に示されるアミノ酸配列を含有するポリペプチド(SA1511)を、「指標ポリペプチド」という。
さらに、本明細書において、「アンタゴニスト」又は「インヒビター」とは、前記指標遺伝子又は指標ポリペプチドの発現、機能若しくは生理活性、前記指標遺伝子又は指標ポリペプチドと他の遺伝子又はその遺伝子産物との相互作用等を、中和、低減又は阻害しうる化合物をいう。
本発明の評価方法によれば、生存に必須の遺伝子を介して生じる事象及び/又はポリペプチドの動態に対する被験物質の作用が評価できる。
したがって、本発明の評価方法によれば、細菌、特に、黄色ブドウ球菌をはじめとする各種グラム陽性菌、グラム陰性菌に対して、有効であり、黄色ブドウ球菌をはじめとする各種グラム陽性菌、グラム陰性菌の増殖を、効率よく抑制しうる、細菌、特に黄色ブドウ球菌をはじめとする各種グラム陽性菌、グラム陰性菌の増殖抑制剤として有用なアンタゴニスト又はインヒビターを、簡便、かつ迅速に、効率よく評価することができる。
本明細書において、「温度感受性変異株」とは、低温、例えば、30℃では前記温度感受性変異株の起源となる野生型の細菌と同様増殖できるが、高温、例えば、43℃では野生型細菌とは異なり、増殖できないような変異株をいう。また、前記温度感受性変異株は、野生型の細菌の通常の生育温度では、該野生型の細菌と同様の挙動を示すが、前記生育温度より高い温度では、増殖に関連する酵素の機能阻害、高温下に発現するタンパク質の機能増大、高温下で発現する毒素の代謝阻害、タンパク質の異常なフォールディング若しくは異常な立体構造の発生、該異常なフォールディングの校正能の阻害、通常の温度で行なわれる転写の阻害、高温で行なわれる転写の促進、DNA複製エラーの発生の増大、DNA複製エラーの修復能の阻害等の種々の事象又は該事象を介して、増殖が阻害若しくは抑制され、又は死にいたる細胞等が含まれる。
なお、本明細書において、
(a)配列番号:3に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA0544)、配列番号:6に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA1293)、配列番号:9に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA1511)を、「指標遺伝子」と総称する場合もある。前記「指標遺伝子」としては、具体的には、例えば、配列番号:1又は2に示される塩基配列を有する遺伝子(SA0544)、配列番号:4又は5に示される塩基配列を有する遺伝子(SA1293)、配列番号:7又は8に示される塩基配列を有する遺伝子(SA1511)等が挙げられる。
また、前記指標遺伝子の産物のうち、該指標遺伝子によりコードされるポリペプチド、具体的には、例えば、配列番号:3に示されるアミノ酸配列を含有するポリペプチド(SA0544)、配列番号:6に示されるアミノ酸配列を含有するポリペプチド(SA1293)、配列番号:9に示されるアミノ酸配列を含有するポリペプチド(SA1511)を、「指標ポリペプチド」という。
前記指標遺伝子は、黄色ブドウ球菌、例えば、黄色ブドウ球菌RN4220株を、ニトロソ化合物、例えば、ニトロソグアニジン等、エチルメタンサルフェート等で処理し、30℃で生育し、43℃で生育しない細菌を選別することにより得られる温度感受性変異株のうち、当該指標遺伝子に温度感受性変異を持つ株の43℃での増殖機能を相補する増殖機能を相補する遺伝子である。
前記指標遺伝子は、黄色ブドウ球菌の増殖に対して機能を発揮するものであれば、該指標遺伝子のバリアントであってもよい。かかる指標遺伝子のバリアントは、例えば、前記SA0544、SA1293及びSA1511のいずれかが変異した黄色ブドウ球菌の温度感受性変異株(例えば、SA0544について、TS1124株、TS5815株、SA1293について、TS4310株、TS2005株、SA1511について、TS4530株、TS8229株等)を用いて、増殖機能の相補性試験を行なうことにより、容易に選別されうる。
前記増殖機能の相補性試験は、慣用の遺伝子導入方法で、前記変異株に、前記指標遺伝子のバリアントを導入し、得られた形質転換体を、野生型の黄色ブドウ球菌は生育し、温度感受性変異株は生育できない条件下に培養することにより行なわれうる。ここで、前記形質転換体が生育した場合、当該指標遺伝子のバリアントが、本発明に用いられうるものであることの指標として選別する。
前記「野生型の黄色ブドウ球菌は生育し、温度感受性変異株は生育できない条件」としては、例えば、LB培地〔組成:1重量% バクトトリプトン、0.5重量% 酵母エキス、(pH7.0)〕中、43℃で培養すること等が挙げられる。
前記指標遺伝子のバリアントとは、自然界において、天然の遺伝子が自然発生的に変異を起こして生じるものであり、コードされる産物が、本来の機能を発揮する程度のバリアントをいう。かかるバリアントとしては、例えば、(b)前記指標遺伝子の塩基配列において、少なくとも1つの塩基の変異(置換、欠失、挿入、付加等)を有する塩基配列を有し、かつコードされるポリペプチドが、前記増殖機能の相補性試験において、増殖機能を相補するものである塩基配列、すなわち、前記(a)の塩基配列において、少なくとも1塩基の置換、欠失、付加又は挿入を有する塩基配列であり、かつコードされたポリペプチドが細菌の増殖に作用するものである塩基配列、
(c)前記指標遺伝子の塩基配列からなる核酸のアンチセンス鎖とストリンジェントな条件、好ましくは、中ストリンジェンシーの条件、より好ましくは、高ストリンジェンシーな条件下にハイブリダイズしうる核酸の塩基配列を有し、かつコードされるポリペプチドが、前記増殖機能の相補性試験において、増殖機能を相補するものである塩基配列、すなわち、前記(a)の塩基配列からなる核酸のアンチセンス鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸の塩基配列であり、かつコードされたポリペプチドが細菌の増殖に作用するものである塩基配列を有する遺伝子、
(d)前記指標遺伝子の塩基配列に対し、HigginsらによるClustalW法によるマルチプルアラインメント(例えば、Gap penalty 5、Fixed Gap penalty 10、windowssize 5、Floating Gap 10)により適切にアライメントした場合、少なくとも70%、好ましくは、90%以上、より好ましくは、95%以上の配列同一性を有する塩基配列を有し、かつコードされるポリペプチドが、前記増殖機能の相補性試験において、増殖機能を相補するものである塩基配列、すなわち、前記(a)の塩基配列と少なくとも70%の配列同一性を有する塩基配列であり、かつコードされたポリペプチドが細菌の増殖に作用するものである塩基配列等が挙げられる。
本明細書において、前記「少なくとも1塩基」とは、1若しくは数個の塩基、すなわち、ヌクレオチド残基を意味する。かかる変異は、自然界において、天然の遺伝子に自然発生的に生じる変異に倣い、慣用の部位特異的変異導入法により、人為的に生じさせたものであってもよい。
本明細書において、前記「ストリンジェントな条件」としては、6×SSC(1×SSCの組成:0.15M NaCl、0.015M クエン酸ナトリウム、pH7.0)と0.5% SDSと5×デンハルトと100μg/ml 変性断片化サケ精子DNAと50% ホルムアミドを含む溶液中、プローブとともに42℃で一晩保温し、低イオン強度、例えば、2×SSC、よりストリンジェンシーには、0.1×SSC等の条件及び/又はより高温、37℃以上、ストリンジェントには、42℃以上、よりストリンジェンシーには、50℃以上、より一層ストリンジェントには、60℃以上等の条件下での洗浄を行なう条件が挙げられる。
本発明の評価方法においては、細菌に対する増殖抑制効果を評価するための指標として、前記A.指標遺伝子を介して生じる事象、及び/又は
B.指標ポリペプチドの少なくとも1種若しくはその断片の動態、
が用いられる。
前記「A. 指標遺伝子を介して生じる事象」としては、遺伝子の発現量、すなわち、指標遺伝子(DNA、mRNA)の転写活性の増減、遺伝子量の増減等が挙げられる。
また、前記「B.指標ポリペプチドの少なくとも1種若しくはその断片の動態」としては、指標ポリペプチドの発現量の変化、指標ポリペプチドの機能、例えば、酵素活性、レセプター結合能等が挙げられる。
本発明の評価方法によれば、細菌、特に、黄色ブドウ球菌をはじめとする各種グラム陽性菌、グラム陰性菌に対して、有効であり、黄色ブドウ球菌をはじめとする各種グラム陽性菌、グラム陰性菌の増殖を、効率よく抑制しうる、細菌、特に黄色ブドウ球菌をはじめとする各種グラム陽性菌、グラム陰性菌の増殖抑制剤として有用なアンタゴニスト又はインヒビターを、効率よくスクリーニングすることもできる。
本発明の細菌の増殖抑制剤のスクリーニング方法は、1つの実施態様では、被験試料の存在下若しくは非存在下において、下記A.及び/又はB.:
A.配列番号:2に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA0544)、
配列番号:4に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA1293)、及び
配列番号:6に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA1511)、
からなる群より選ばれた少なくとも1種の遺伝子を介して生じる事象、
B.該遺伝子によりコードされたポリペプチド若しくはその断片の動態、
を評価し、アンタゴニスト又はインヒビターを選別することを1つの大きな特徴とする。
本発明のスクリーニング方法は、黄色ブドウ球菌の増殖に必須の遺伝子若しくはその断片の動態と、該遺伝子を介して生じる事象と、該遺伝子によりコードされたポリペプチド若しくはその断片の動態とのいずれかを評価するため、本発明のスクリーニング方法により選別されるアンタゴニスト又はインヒビターは、黄色ブドウ球菌に対して、有効であり、黄色ブドウ球菌の増殖を、効率よく抑制しうる増殖抑制剤であるという優れた効果を発揮する。さらに、前記遺伝子のホモログが、他のグラム陽性菌、さらにはグラム陰性菌にも存在する場合には、本発明のスクリーニング方法で得られる抗菌剤は、それらの菌種に対しても優れた増殖抑制効果を発揮する。また、本発明のスクリーニング方法に用いられる遺伝子が、既存抗菌剤の標的となっている遺伝子とは異なるため、本発明のスクリーニング方法で得られる抗菌剤は、新規の作用機序を持ち、したがって、耐性菌にも抗菌活性を持つことが期待される。
本発明のスクリーニング方法により選別されるアンタゴニスト又はインヒビターは、好ましくは、前記指標遺伝子の発現量を減少させる物質、前記指標遺伝子によりコードされたポリペプチドの発現量を減少させる物質、又は前記指標遺伝子によりコードされたポリペプチドの機能を低下させる物質である。
本発明のスクリーニング方法に供しうる被験試料としては、例えば、生物(例えば、植物、動物、微生物)等の細胞抽出物、該生物の無細胞抽出物、該生物の細胞培養物、該生物の組織培養物等の試料中に含まれた物質、化学的に合成された化合物、生物学的に産生された物質等が挙げられる。
前記被験試料には、例えば、cDNA発現ライブラリー等の発現ライブラリー、ペプチド、ペプチドミメティックス、ホルモン、他のタンパク質、核酸、核酸アナログ〔例えば、ペプチド核酸(PNA)等〕、コンビナトリアルケミストリーにより得られたコンビナトリアルライブラリーの化合物、前記指標遺伝子のアンチセンス核酸、前記指標遺伝子に特異的なリボザイム、前記指標遺伝子に特異的なRNAi、前記指標ポリペプチドに対する抗体、前記指標ポリペプチドに対するDNAアプタマー、他の化合物等も包含される。さらに、前記核酸、核酸アナログ、PNA、アンチセンス核酸、リボザイム、RNAi及び抗体は、より優れた適合性を呈する物質をスクリーニングする観点から、種々の修飾、誘導体化等を行なってもよい。
また、例えば、被験試料として、細胞抽出物、無細胞抽出物、細胞培養物、組織培養物等のように、複数の物質の混合物を用いる場合、被験試料に含まれる物質の中から、目的の作用を呈するアンタゴニスト又はインヒビターをさらに選別するために、被験試料を適切な方法、例えば、各種クロマトグラフィー、塩析、有機溶媒抽出等による物質の化学的性質及び/又は物理的性質の同一性若しくは類似性に基づく分画等により、被験試料中に含まれる物質を細分化させた画分を得、再度、該画分のそれぞれを本発明のスクリーニング方法に供し、目的の作用を呈する画分を選別することにより、アンタゴニスト又はインヒビターを選別することができる。なお、前記分画とスクリーニング方法とは、必要に応じて繰り返し行なってもよい。
本発明のスクリーニング方法においては、アンタゴニスト又はインヒビターを選別するための指標の1つとして、A.指標遺伝子を介して生じる事象、及び/又は
B.指標ポリペプチドの少なくとも1種若しくはその断片の動態、
を評価する。
前記A.の動態を評価するスクリーニング方法(態様1)としては、1つの側面では、
被験試料の存在下における
配列番号:3に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA0544)、配列番号:6に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA1293)及び配列番号:9に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA1511)からなる群より選ばれた少なくとも1種の遺伝子(指標遺伝子)の発現量と、該被験試料の非存在下における該遺伝子の発現量とを比較し、該被験試料の存在下において、該遺伝子の発現量が減少することを指標として被験物質を選別する、スクリーニング方法が挙げられる。
前記スクリーニング方法において、指標遺伝子の発現量は、例えば、レポーター遺伝子を用いた転写活性の測定、RT−PCR若しくはノーザンブロット法による発現産物の定量解析等により測定されうる。
レポーター遺伝子を用いて、前記指標遺伝子の発現量を測定する場合、前記指標遺伝子の下流に、慣用の定量可能なレポーター遺伝子を作動可能に連結させ、得られた構築物を、適切な手段により直接的又は間接的に、宿主に導入し、前記レポーター遺伝子の発現産物を定量することにより測定されうる。
前記レポーター遺伝子としては、例えば、β−ガラクトシダーゼ遺伝子、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子等が挙げられる。
前記宿主としては、大腸菌(Escherichia Coli K−12系統のHB101株、C600株、JM109株等)、酵母(サッカロミセス・セルビジエ等)等が挙げられる
前記構築物の宿主細胞への導入は、例えば、該構築物を、慣用のベクターに連結して、宿主細胞に導入すること、該構築物を直接的に宿主細胞に導入すること等により行なわれうる。
前記ベクターは、用いられる宿主細胞に応じて適宜選択することができ、例えば、大腸菌を宿主細胞とする場合、pUC誘導体(例えば、pUC19等)、商品名:pBluescriptII〔ストラタジーン(Stratagene)社製〕、pBR322、pCR3、pCMVSPORTなどのプラスミドベクター;λZAPII、λgt11などのファージベクターが挙げられる。宿主細胞が酵母細胞の場合、ベクターとしては、pYES2、pYEUra3等が挙げられる。宿主細胞が昆虫細胞の場合、pAcSGHisNT−A等が挙げられる。宿主が動物の場合、pKCR、pEFBOS、cDM8、pCEV4などが挙げられる。
前記構築物の宿主への導入方法としては、例えば、塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法等に代表される慣用の遺伝子導入方法等が挙げられる。
レポーター遺伝子の発現産物量は、該レポーター遺伝子の種類に応じた手段により測定されうる。例えば、レポーター遺伝子の発現産物が酵素である場合、酵素活性を測定すること、酵素の基質の分解産物等の生成量を測定すること、蛍光強度等を介して測定すること等が挙げられる。
mRNAを測定するRT−PCRの場合、前記指標遺伝子又はその特徴的な部分を特異的に増幅するプライマー対を用い、前記指標遺伝子又はその特徴的部分を増幅し、慣用の手法により定量することにより行なわれうる。
なお、前記「特徴的な部分」とは、公知のデータベースに登録された配列には実質的に見出されない指標遺伝子の部分を意味する。
前記プライマー対は、前記指標遺伝子の塩基配列と公知データベースに登録された配列とを参照して、慣用のプライマーデザイン用ソフトウェア等によりデザインされうる。前記プライマー対は、適宜、検出に適した標識物質(蛍光物質、放射性物質等)により標識されうる。プライマーの鎖長は、特に限定されないが、例えば、好ましくは、連続した少なくとも15ヌクレオチド、さらに好ましくは、15〜40ヌクレオチド、より好ましくは、17〜30ヌクレオチドであることが望ましい。
RT−PCRによる増幅産物の量は、例えば、エチジウムブロマイドに基づく蛍光強度、標識物質の量等を介して定量されうる。
ノーザンブロット法の場合、前記プライマー対の場合と同様に、前記指標遺伝子の塩基配列と公知データベースに登録された配列とを参照してデザインされた指標遺伝子に特異的なプローブを用いて行なわれうる。前記プローブは、検出に適した標識物質(蛍光物質、放射性物質等)により標識されうる。プローブの鎖長は、特に限定されないが、非特異的なハイブリダイゼーションを防止する観点から、好ましくは、連続した少なくとも15ヌクレオチド、より好ましくは、連続した18ヌクレオチド以上であることが望ましい。
ノーザンブロット法による指標遺伝子のmRNA量の測定は、ハイブリダイズしたプローブに由来する標識物質の量を介して、定量されうる。
前記スクリーニング方法においては、被験物質の存在下の場合において、被験物質非存在下の場合に比べ、指標遺伝子の発現量が減少していた場合、当該被験物質が、細菌の増殖抑制剤としての作用を有することの指標となる。
本発明のスクリーニング方法によれば、例えば、前記指標ポリペプチドに結合できることが知られていない被験試料を試験することができる。かかる試験は、被験試料の存在下、大腸菌の高産生株より調製した(精製又は部分精製品)を、該指標ポリペプチドに結合することが知られているリガンドの結合を可能にする条件と同様の条件下に維持し、該被験試料が、該指標ポリペプチドへの前記リガンドの結合を阻害するか否かを調べること、すなわち、前記「B.指標ポリペプチドの少なくとも1種若しくはその断片の動態」を評価する。
前記B.の動態を評価するスクリーニング方法(態様2)としては、
(1)前記指標ポリペプチド又はその断片と、被験試料とを接触させ、混合物を得るステップ、及び
(2)前記ステップ(1)で得られた混合物において、該ポリペプチド又はその断片と結合する被験試料の有無を検出するステップ、
を含む方法が挙げられる。なお、かかる態様2のスクリーニング方法は、前記態様1と組み合わせて行なってもよい。また、態様1のスクリーニング方法と組み合わせる場合、ステップ(A)に先立って行なってもよく、ステップ(B)の後、同定されたアンタゴニスト又はインヒビターについて、態様2のスクリーニング方法を行なってもよい。
態様2の方法において、被験試料は、前記共鳴プラズモン解析等を行なうことにより選別されうる。
また、共鳴プラズモン相互作用解析の場合、例えば、
▲1▼ 被験試料又は指標ポリペプチドを固定化したチップに、対応して、指標ポリペプチド又は被験試料を含有した溶液を、一定の流速で、送液するステップ;及び
▲2▼ 適切な検出手段〔例えば、光学的検出(蛍光度、蛍光偏向度など)、質量分析計との組み合わせ(マトリックス支援レーザー脱離イオン化−飛行時間型質量分析計:MALDI−TOF MS、エレクトロスプレー・イオン化質量分析計:ESI−MS等)〕により相互作用を検出するステップ;
を行なえばよい。ここで、被験試料と指標ポリペプチドとからなる複合体の形成を示すセンサーグラムが呈示された場合、被験試料と指標ポリペプチドとが結合することの指標となる。
また、本発明のスクリーニング方法においては、被験試料存在下での指標遺伝子若しくはその断片又は指標ポリペプチド若しくはその断片の動態の評価の際、ランダム化されたペプチドをファージからディスプレイし、固定化受容体に対するアフィニティークロマトグラフィーによりスクリーニングを行なうファージディスプレイ法〔例えば、国際公開第91/17271号パンフレット、国際公開第92/01047号パンフレット、米国特許第5,223,409号明細書等〕、チップ上に固定されたペプチド、化合物等のコンビナトリアルケミストリー〔例えば、米国特許第5,143,854号明細書、国際公開第90/15070号パンフレット、国際公開第92/10092号パンフレット等〕、ペプチドライブラリーの合成及びスクリーニング〔例えば、クレーマー〔Kramer,Methods Mol.Biol.,87、25−39,(1998)等〕、クラスター化アミノ酸ペプチドライブラリーを用いるペプチド−抗体相互作用のフィンガープリント解析〔例えば、クレーマー(Kramer)、Mol.Immunol.,32、459−465、(1995)〕、ペプチドミメティックコンビナトリアルライブラリーの作製及び利用〔例えば、オストレッシュ(Ostresh)、Methods in Enzymology、267、220−236(1996);ドスナー(Dosner)、Bioorg.Med.Chem.,4、709−715(1996);ニーリー(Beeley)、Trends Biotechn.,12、213−216(1994);アル−オバイディ(al−Obeidi)、Mol.Biotechn.,205−223、9(1998);ウイリー(Wiley)、Med.Res.
Rev.,13、327−384(1993);ボーム(Bohm)、J.Comput.Aided Mol.Des.,10、265−272(1996);及びフルビー(Hruby)、Biopolymers、43、219−266(1997)等〕等を行なってもよい。
なお、ファージディスプレイの方法で、指標ポリペプチド又はその断片に結合する短いペプチドを同定し、次に同定されたペプチドをプローブにしてインヒビターをスクリーニングする方法も含まれる。
また、前記態様2のスクリーニング方法は、別の側面では、
被験試料の存在下における
配列番号:3に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA0544)、配列番号:6に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA1293)及び配列番号:9に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA1511)からなる群より選ばれた少なくとも1種の遺伝子(指標遺伝子)によりコードされたポリペプチドの発現量と、該被験試料の非存在下における該ポリペプチドの発現量とを比較し、該被験試料の存在下において、該ポリペプチドの発現量が減少することを指標として被験物質を選別する、スクリーニング方法(態様2’);
被験試料の存在下における
配列番号:3に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA0544)、配列番号:6に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA1293)及び配列番号:9に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA1511)からなる群より選ばれた少なくとも1種の遺伝子によりコードされたポリペプチドの機能と、被験試料非存在下における該ポリペプチドの機能とを比較し、該被験試料の存在下において、該ポリペプチドの機能が低下することを指標として被験物質を選別する、スクリーニング方法(態様2’’)が挙げられる。
前記態様2’のスクリーニング方法において、ポリペプチドの発現量は、該ポリペプチドに特異的な抗体を用いた免疫化学的方法、例えば、慣用のウエスタンブロット法、慣用のELISA法等により測定されうる。
前記抗体は、ポリペプチドに特異的に結合する能力を有するものであればよい。前記抗体は、例えば、ジョン E.コリガン(John E.Coligan)編集、カレント プロトコルズ イン イムノロジー(Current Protocols in Immunology)、1992等に記載の方法にしたがい、前記指標遺伝子によりコードされるポリペプチド又はその一部を用いてウサギやマウス等を免疫することにより、容易に作製され得る。また、前記抗体は、公知技術により修飾された抗体や抗体の誘導体であってもよい。さらに、前記抗体は、得られた抗体をペプチダーゼ等により処理することにより得られる抗体の断片であってもよい。前記抗体は、慣用の標識物質(例えば、蛍光物質、ペルオキシダーゼ等)により標識されうる。
前記態様2’のスクリーニング方法においては、被験物質の存在下の場合において、被験物質非存在下の場合に比べ、指標遺伝子によりコードされるポリペプチドの発現量が減少していた場合、当該被験物質が、細菌の増殖抑制剤としての作用を有することの指標となる。
態様2’’のスクリーニング方法では、例えば、指標遺伝子を適切なベクターに連結し、得られた発現ベクターを指標ポリペプチドの発現に適した宿主に導入し、該指標ポリペプチドの発現に適した条件下に該宿主を培養することにより、指標ポリペプチドを発現させ、得られた指標ポリペプチドについて、機能を評価すればよい。
前記ベクター及び宿主は、前記と同様である。また、宿主への発現ベクターの導入は、前記遺伝子導入方法により行なわれうる。
なお、前記指標ポリペプチドは、Hisタグ、GST等との融合タンパク質として発現させてもよい。
発現した指標ポリペプチドは、慣用のタンパク質精製方法(例えば、遠心分離、塩析、透析、イオン交換カラムクロマトグラフィー、吸着カラムクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、クロマトフォーカシング等)により適宜精製されうる。
指標ポリペプチドの機能は、例えば、酵素活性、リガンドの結合能等が挙げられる。
また、本発明によれば、前記指標ポリペプチドと、該指標ポリペプチドに結合するリガンド、例えば、アンタゴニスト、インヒビター等との結合部位に基づき、細菌感染症又は細菌感染症に関連する障害若しくは疾患を治療するためのアンタゴニスト又はインヒビターをデザインすることができる。上記のようにデザインされた物質も本発明のスクリーニング方法における被験物質として用いることができる。したがって、前記アンタゴニスト又はインヒビターのデザイン方法も本発明に含まれる。
本発明の細菌感染症又は細菌感染症に関連する障害若しくは疾患を治療するためのアンタゴニスト又はインヒビターのデザイン方法は、下記ステップ(i)〜(iii):
(i)前記指標ポリペプチドの少なくとも1種又はその断片へのアンタゴニスト又はインヒビターの結合部位を同定するステップ、
(ii)前記ステップ(i)で同定された結合部位と、該ポリペプチドの構造との両方の分子モデリングを行ない、それぞれ、分子モデルを得るステップ、及び(iii)前記ステップ(ii)で得られた分子モデルに基づき、該アンタゴニスト又は該インヒビターを改変し、それにより、該ポリペプチドに対する結合特異性又は親和性を改良するステップ
を含む方法である。
本発明のデザイン方法は、前記指標ポリペプチドの少なくとも1種又はその断片へのアンタゴニスト又はインヒビターの結合部位が用いられることに1つの大きな特徴がある。かかる結合部位を用いるため、細菌感染症又は細菌感染症に関連する障害若しくは疾患に対してより適合する性質を発揮しうる構造をデザインすることが可能になるという優れた効果を発揮する。
また、本発明のデザイン方法は、前記結合部位と指標ポリペプチドの構造との両方の分子モデリングを行なうため、細菌感染症又は細菌感染症に関連する障害若しくは疾患に対してより適合する性質を発揮しうる構造をデザインすることが可能になるという優れた効果を発揮する。
前記細菌感染症としては、例えば、黄色ブドウ球菌、肺炎球菌、大腸菌、インフルエンザ菌等による感染症等が挙げられる。
細菌感染症に関連する障害若しくは疾患としては、例えば、気管支炎、肺炎、腎盂腎炎、尿道炎、浅在性化膿性皮膚疾患、中耳炎等が挙げられる。
前記ステップ(i)において、「アンタゴニスト又はインヒビター」には、本発明のスクリーニング方法により同定されたアンタゴニスト又はインヒビターが包含される。また、前記アンタゴニスト又はインヒビターは、本発明のスクリーニング方法により同定されたアンタゴニスト、インヒビター等を基に、前記ペプチドミメティックス作製技術、コンビナトリアルケミストリー技術等により、修飾、誘導体化等を行ない得られた誘導体化合物であってもよい。
前記ステップ(i)において、前記結合部位は、例えば、前記アンタゴニスト又はインヒビターが、ポリペプチドの場合、慣用の部位特異的変異導入方法により作製した変異型アンタゴニスト又はインヒビターと、前記指標遺伝子若しくはその断片又は指標ポリペプチド若しくはその断片との結合親和性を調べること、あるいは、前記アンタゴニスト又はインヒビターから作製されたキメラペプチドと、前記指標遺伝子若しくはその断片又は指標ポリペプチド若しくはその断片との結合親和性を調べることにより決定されうる。
前記アンタゴニスト又はインヒビターが、ポリペプチドを除く化合物である場合、指標ポリペプチドについて、慣用の部位特異的変異導入方法により変異型指標ポリペプチドを作製し、得られた変異型指標ポリペプチドと、前記アンタゴニスト又はインヒビターとの結合親和性を調べ、結合が検出されない変異型指標ポリペプチドの改変アミノ酸残基に対応する指標ポリペプチドのアミノ酸残基に対して相互作用(例えば、共有結合、イオン性相互作用、イオン−双極子間相互作用、双極子−双極子間相互作用、水素結合、ファンデルワールス力、疎水性相互作用等)を生じる前記アンタゴニスト又はインヒビター内の官能基を決定することができる。
なお、前記相互作用を生じる官能基を決定するための指標の例として、
I. 共有結合は、例えば、アルキル化、アシル化、リン酸化などを受けやすい官能基により生じうる
II. イオン性相互作用は、ポリペプチド上の正に荷電したアミノ酸残基又は負に荷電したアミノ酸残基と、かかる残基とは反対の電荷を有する官能基との間で生じうる
III. イオン−双極子間相互作用及び双極子−双極子間相互作用は、例えば、強い電気陰性度の原子と弱い電気陰性度の原子との結合により電荷の片寄りが生じた双極子が存在する場合に生じうる
IV. 水素結合は、例えば、NH−、OH−などと、非共有電子対を有する電気陰性基との間で生じうる
V. ファンデルワールス力は、2つの中性な分子の間に生じうる。前記疎水性相互作用は、非極性分子間、分子の非極性部位間で生じうる
が挙げられる。
なお、かかる結合部位の同定においては、例えば、慣用のソフトウェアを用いた構造シミュレーション等をさらに行なってもよい。
ついで、ステップ(ii)において、前記結合部位と、前記指標ポリペプチドのそれぞれについて、分子モデリングを行なう。
前記分子モデリングは、例えば、核磁気共鳴(NMR)、例えば、二次元NMR等による構造解析、X線回折による構造解析等により行なわれうる。
前記分子モデリングにおいて、細菌感染症又は細菌感染症に関連する障害若しくは疾患に対してより適合する性質を発揮しうる構造をデザインする観点から、好ましくは、前記アンタゴニスト又はインヒビターと指標ポリペプチドとを混合して、複合体を形成させ、得られた複合体について、前記NMRによる解析を行なうこと、又は該複合体を結晶化し、得られた結晶について、X線構造解析により、3次元座標を得ることが望ましい。
ついで、ステップ(iii)において、前記ステップ(ii)で得られた分子モデルに基づき、アンタゴニスト又はインヒビターを改変し、それにより、該ポリペプチドに対する結合特異性又は親和性を改良する。
前記ステップ(iii)において、アンタゴニスト又はインヒビターの改変は、前記ステップ(ii)で得られた分子モデルに基づき、
1) アンタゴニスト又はインヒビターの官能基と指標ポリペプチドとの間の結合力を分子力場計算により算出し、より強い結合力を発揮しうる官能基と置換すること又は修飾基を導入すること、
2) アンタゴニスト又はインヒビターの官能基と指標ポリペプチドとの間の相互作用について、より強い相互作用を発揮しうる官能基と置換すること又は修飾基を導入すること、
3) 溶媒分子等もさらに考慮し、分子動力学法を用いて自由エネルギーを求め、安定して相互作用しうる化合物へ誘導すること、
等により行なわれうる。
本発明のデザイン方法によれば、例えば、指標ポリペプチドに対するIC50が50μM以下、好ましくは、5μM以下、より好ましくは、0.5μM以下となるアンタゴニスト又はインヒビターを設計することが可能になる。
本発明のデザイン方法により得られたアンタゴニスト又はインヒビターについて、細菌感染症又は細菌感染症に関連する障害若しくは疾患に対する治療効果は、例えば、種々のグラム陽性菌、グラム陰性菌に対する最小発育阻止濃度の測定、全身感染、肺炎、尿路感染等の感染モデル動物を用いた治療効果の測定、各種動物における体内動態の測定等により評価され得る。
また、本発明には、前記SA0544、SA1293及びSA1511からなる群より選ばれた遺伝子の塩基配列を有し、かつ該塩基配列によりコードされたポリペプチドが、細菌の増殖に関連する核酸又は該ポリペプチドの、細菌感染症等の疾患の治療又は予防のための医薬の製造のための使用も含まれる。
さらに、本発明の1つの側面は、前記温度感受性変異株に関する。本発明の温度感受性変異株は、具体的には、配列番号:3に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA0544)、配列番号:6に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA1293)及び配列番号:9に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA1511)からなる群より選ばれた少なくとも1種の塩基配列の一部に変異を有する遺伝子を有する、黄色ブドウ球菌の温度感受性変異株が挙げられる。
本発明の温度感受性変異株に関する記載における「変異」とは、高温、例えば、43℃において、菌の増殖に必須の機能を発揮することができない産物を生じる変異をいい、アミノ酸レベルで大きく構造、活性機能を変性させるような塩基の置換、欠失、付加又は挿入をいう。
本発明に用いられる温度感受性変異株は、より具体的には、例えば、TS1124株、TS5815株、TS2005株、TS4310株、TS4530株、TS8229株等、具体的には、配列番号:3のアミノ酸配列(SA0544)のアミノ酸番号:204のセリンに対応するコドンがロイシンに対応するコドンに置換された塩基配列(TS1124株)、
配列番号:3のアミノ酸配列(SA0544)のアミノ酸番号:189のグリシンに対応するコドンがアスパラギン酸に対応するコドンに置換された塩基配列(TS5815株)、
配列番号:6のアミノ酸配列(SA1293)のアミノ酸番号:100のグルタミン酸に対応するコドンがリジンに対応するコドンに置換された塩基配列(TS2005株)、
配列番号:6のアミノ酸配列(SA1293)のアミノ酸番号:93のグリシンに対応するコドンがアルギニンに対応するコドンに置換された塩基配列(TS4310株)、
配列番号:9のアミノ酸配列(SA1511)のアミノ酸番号:75のフェニルアラニンに対応するコドンがロイシンに対応するコドンに置換された塩基配列(TS4530株);及び
配列番号:9のアミノ酸配列のアミノ酸番号:6のグリシンに対応するコドンがアスパラギン酸に対応するコドンに置換された塩基配列(TS8229株)
からなる群より選ばれた塩基配列を有する、温度感受性変異株が挙げられる。
また、上記の温度感受性変異株には、遺伝子工学的手法、例えば、部位特異的変異導入法であるオーバーラップエクステンション法等で作製された上記変異を持つ株、天然に生じる上記変異を持つ株も含まれる。
なお、本発明においては、本発明の温度感受性変異株を用いることにより、細菌の増殖抑制剤をスクリーニングすることができる。
したがって、本発明の他の側面は、本発明の温度感受性変異株を用いて、被験物質の存在下及び非存在下における変化を検出することを特徴とする、細菌の増殖抑制剤のスクリーニング方法(態様3)に関する。
本発明の態様3のスクリーニング方法は、
(1)前記温度感受性変異株及び野生株それぞれに、被験試料を接触させるステップ、及び
(2)野生株に該被験試料を接触させた場合に生じる現象と、前記温度感受性変異株に該被験試料を接触させた場合に生じる現象とを比較するステップ、
を含み、温度感受性変異株に該被験試料を接触させた場合に生じる現象と、野生株に該被験試料を接触させた場合に生じる現象との間で変化が生じることを指標として被験試料を選別する、細菌の増殖抑制剤のスクリーニング方法が挙げられる。
本発明の態様3のスクリーニング方法において、「被験試料を接触させた場合に生じる現象」としては、例えば、細胞死、細胞増殖抑制、菌体成分の生合成中間体の蓄積、代謝産物の蓄積等が挙げられる。
前記ステップ(1)において、温度感受性変異株又は野生株と、被験試料との接触は、例えば、温度感受性変異株及び野生株の培養に適した培地に、適切な希釈率で、被験試料を添加し、培養に適した条件下に温度感受性変異株又は野生株を培養することにより行なわれうる。
前記「培養に適した条件」は、例えば、「図解微生物実験マニュアル(技報堂、1992年)」等に記載の培養条件に準じ、適宜設定されうる。
また、本明細書において、「温度感受性変異株」とは、起源となる野生株(すなわち、野生型の細菌)における変異により、温度感受性を示す、又はしめすようになった変異株をいう。
野生型の細菌を意味する。
野生株としては、例えば、黄色ブドウ球菌株、例えば、RN4220、Cowan、V8、Newman、L12、Reynolds、JL022、N315、RN8846、SRM551、SRM563、RS1587、209P、JC−1、ATCC25923、SMITHNCTC8325、RN2677、RN451、RN2906、MW2、COL、252、476、大腸菌株、例えば、K12、BL21、HB101、JM109、M66、DH10、CFT073、O157、MV1184、B、ML、KU6401、ATCC26、ATCC25922等が挙げられる。
前記ステップ(1)において、細胞と、被験試料との接触は、例えば、被験試料を含有した培地、具体的には、L−broth(トリプトン:1重量%、酵母エキス:0.5重量%、塩化ナトリウム:0.5重量% pH7.0)、スタフィロコッカス培地110(酵母エキス:0.25重量%、ペプトン:1重量%,ゼラチン:3重量%、乳糖:0.2重量%、マンニット:1重量%、塩化ナトリウム:7.5重量%、リン酸水素二カリウム:0.5重量%、脱脂寒天:1.5重量% pH7.0)、トリプトソイ寒天培地(トリプトン:1.5重量%、ソイペプトン:0.5重量%、塩化ナトリウム:0.5重量%、寒天:1.5重量% pH7.3)、乳糖ブイヨン(肉エキス:0.3重量%、ペプトン:0.5重量%、乳糖:0.5重量% pH6.9)、臨床用チオグリコレート培地(トリプトン:1.7重量%、ソイペプトン:0.3重量%、ブドウ糖:0.6重量%、塩化ナトリウム:0.25重量%、チオグリコル酸ナトリウム:0.05重量%、L−シスチン:0.025重量%、亜硫酸ナトリウム:0.01重量%、寒天:0.07重量% pH7.0)、ミュラーヒントン培地(牛肉抽出液:30重量%、カゼイン水解物:1.75重量%、可溶性デンプン:0.15重量%、寒天:1.7重量% pH7.3)、テトラチオネート液体培地(ペプトン:0.25重量%、カゼインペプトン:0.25重量%、デソキシコール酸ナトリウム:0.1重量%、チオ硫酸ナトリウム:3重量%、炭酸カルシウム:1重量% pH8.4)、マンニット食塩培地(肉エキス:0.25重量%、ペプトン:1重量%、マンニット:1重量%、塩化ナトリウム:7.5重量%、フェノールレッド:0.0025重量%、寒天:1.5重量%pH7.4)、PEAアザイド培地(肉エキス:0.5重量%、トリプトン:1.5重量%,塩化ナトリウム:0.5重量%、フェニルエタノール:0.15重量%、窒化ナトリウム:0.01重量%、寒天:1.5重量% pH7.4)、YCC液体培地(酵母エキス:0.5重量%、ペプトン:1.5重量%、ブドウ糖:0.45重量%、リン酸二カリウム:0.2重量%、亜硫酸ナトリウム:0.02重量% pH7.2)、トリプトソイブイヨン培地(トリプトン:1.7重量%、ソイペプトン:0.3重量%、ブドウ糖:0.25重量%、塩化ナトリウム:0.5重量%、リン酸二カリウム:0.25重量% pH7.3)等中、適当な温度で培養することにより行なわれうる。
前記培地中における被験試料の含有量は、適切な連続希釈率となるように設定されうる。
前記ステップ(2)において、野生株に該被験試料を接触させた場合に生じる現象と、前記温度感受性変異株に該被験試料を接触させた場合に生じる現象との比較は、例えば、肉眼観察、溶菌液のHPLC分析、溶菌液のLC/MS分析、共焦点顕微鏡観察等により行なわれうる。
前記ステップ(2)において、現象として、細胞増殖阻害を比較する場合、細胞増殖阻害は、DNAへのH−チミジンの取り込み、DNAへのBrdUの取り込み、培養中における培養物の吸光度の変化、生菌数カウント、菌集落の有無等を指標として、評価されうる。
また、細胞死は、DNAへのH−チミジンの取り込み、DNAへのBrdUの取り込み、細胞の形態、生菌数カウント、コロニー形成能等を指標として、評価されうる。
具体的には、細胞、特に、黄色ブドウ球菌の増殖の評価は、例えば、
− 該黄色ブドウ球菌を適切な培地中で培養して、増殖させ、
− 細胞が、対数増殖期の状態になった時点、例えば、培養開始2時間後、DNA合成及び細胞増殖に対するパラメーターとして、H−チミジン、5−ブロモ−2’−デオキシウリジン(BrdU)等のDNA前駆体を添加し、適切な時間(例えば、30分)培養し、
− その後、培養物から培地成分を除去し、その後、菌体を洗浄し、
− 得られた菌体について、該黄色ブドウ球菌のDNAに取り込まれたH−チミジン、BrdU等のDNA前駆体の量を測定する
ことにより行なわれうる。前記H−チミジンは、得られた菌体を溶解させ、得られた溶解物について、シンチレーションカウンター等を用いて、放射活性を計測することにより評価されうる。また、前記BrdUの量は、該BrdUに対するモノクロナール抗体(抗BrdU抗体)を用いて検出され得、酵素、蛍光物質等の標識物質で標識された2次抗体を介して測定されうる。抗BrdU抗体と2次抗体との免疫反応は、用いられた標識物質に応じて、分光測光法、蛍光測定法等により定量化される。また、細胞、特に、黄色ブドウ球菌の増殖の評価は、慣用の方法、例えば、濁度の変化、コロニー形成、生菌数カウント等で行われてもよい。
黄色ブドウ球菌に対する被験試料の増殖阻害能は、前記「黄色ブドウ球菌の増殖の評価」を行なう方法において、該黄色ブドウ球菌の培養に際して、被験試料を含有した培地を用いることにより行なわれうる。なお、対照として、被験試料を含有しない培地を用いた培養を行なえばよい。また、前記増殖阻害能は、例えば、ドリューズら〔Drews、Mikrobiol.Praktikum,Berlin,1976〕に記載の方法等に基づき、被験試料存在下及び非存在下における細菌の増殖を測定することにより、評価されうる。
前記「細胞死」は、例えば、吸光度等を指標にして測定した一定量の細胞を、寒天培地と混ぜ合わせ、又は寒天培地上に植菌し、適当な温度で培養し、生じたコロニー数をカウントすること、あるいはコロニーの有無を観察することによって測定することができる。被験試料存在下に、細菌を、例えば、5時間培養後、例えば、上記の方法で細胞死を測定することによって、評価されうる。
また、本発明のスクリーニング方法には、下記スクリーニング方法:
(1)配列番号:3に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA0544)、配列番号:6に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA1293)及び配列番号:9に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA1511)からなる群より選ばれた少なくとも1種の遺伝子によりコードされたポリペプチド又はその断片と、被験試料を接触させ、混合物を得るステップ、
(2)前記ステップ(1)で得られた混合物において、該ポリペプチド又はその断片と結合する被験試料の有無を検出し、それにより、該ポリペプチド又はその断片と結合する被験試料を細菌の増殖抑制剤の候補物質として得るステップ、
(3)前記ステップ(2)で得られた候補物質と、SA0544、SA1293及びSA1511からなる群より選ばれた少なくとも1種の遺伝子を保持する細胞とを接触させるステップ、及び
(4)前記(3)で得られた細胞における細胞増殖阻害及び/又は細胞死の有無を検出し、それにより、細胞増殖阻害及び/又は細胞死を引き起こすことを指標として候補物質を選別するステップ、
を含む、細菌の増殖抑制剤のスクリーニング方法も含まれる。
前記ステップ(1)及び(2)は、前記態様2のスクリーニング方法と同様に行なわれうる。
また、前記ステップ(3)及び(4)は、前記態様1のスクリーニング方法と同様に行なわれうる。
また、本発明のスクリーニング方法には、
(1)本発明の温度感受性変異株を、該温度感受性変異株の起源となる野生型の細菌の生育至適温度下で培養した場合に生じる現象と、該野生型の細菌は生育でき、かつ該温度感受性変異株の生育が影響を受ける温度下に培養した場合に生じる現象との間の差を観察するステップ、
(2)該温度感受性変異株を、該生育至適温度下に、被験試料非存在下で培養した場合に生じる現象と、該生育至適温度下に、被験試料存在下で培養した場合に生じる現象との間の差を観察するステップ、
(3)該野生型の細菌を、被験試料非存在下で培養した場合に生じる現象と、被験試料存在下で培養した場合に生じる現象との間の差を観察するステップ、及び
(4)前記ステップ(1)で得られた結果と(2)で得られた結果との間又は前記ステップ(1)で得られた結果と(3)で得られた結果との間で比較し、実質的に同一の現象が検出されることを指標として、細胞増殖阻害及び/または細胞死を引き起こす候補物質を選別することを特徴とする、細菌の増殖抑制剤のスクリーニング方法も含まれる。
なお、本明細書において、「温度感受性変異株の起源となる野生型の細菌は生育でき、かつ温度感受性変異株の生育が影響を受ける温度」は、具体的には、37℃〜45℃であり、好ましくは、40〜45℃であり、特に好ましくは、43℃である。
また、「野生型の細菌の生育至適温度」は、野生型の細菌により異なる場合もあるが、例えば、30℃等をいう。
かかるスクリーニング方法では、前記温度感受性変異株を、高温、例えば、37℃又は43℃で培養した場合に生じる現象と、野生型の細菌を被験物質存在下に培養した場合に生じる現象との間の類似性が指標となる。かかるスクリーニング方法における「現象」としては、菌の形態変化、基質、菌体成分の生合成中間体の蓄積、代謝産物の蓄積等が挙げられる。
本発明の黄色ブドウ球菌の必須遺伝子を標的にした増殖抑制剤のスクリーニング方法によれば、黄色ブドウ球菌をはじめとする各種グラム陽性菌、陰性菌、なかんずく耐性菌に対して有効であり、これらの菌の増殖を、効率よく抑制しうるアンタゴニスト又はインヒビターを、効率よくスクリーニングすることができるという優れた効果を奏する。また、本発明の細菌感染症又は細菌感染症に関連する障害又は疾患を治療するためのアンタゴニスト又はインヒビターのデザイン方法によれば、細菌感染症又は細菌感染症に関連する障害若しくは疾患に対してより有効に、効率よく作用しうるアンタゴニスト又はインヒビターを、効率よく、得ることができるという優れた効果を奏する。また、本発明の細菌の増殖に関連する核酸によれば、黄色ブドウ球菌をはじめとする各種グラム陽性菌、グラム陰性菌等の細菌の増殖を、効率よく抑制しうるアンタゴニスト又はインヒビターをスクリーニングするための新しい標的とすることができ、細菌の増殖の抑制に利用できるという優れた効果を奏する。さらに、本発明の黄色ブドウ球菌の温度感受性株によれば、黄色ブドウ球菌をはじめとする各種グラム陽性菌、陰性菌、なかんずく耐性菌に対して有効であり、これらの菌の増殖を、効率よく抑制しうるアンタゴニスト又はインヒビターを、効率よくスクリーニングすることができるという優れた効果を奏する。
下記実施例により、本発明をより詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例により何ら限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、反応条件、操作等について、用いた試薬に添付の説明書、モレキュラークローニング ア ラボラトリーマニュアル〔ザンブルーク(Sambrook)ら、Molecular Cloning A Laboratory Manual,3rd edition,(2001)〕等の記載が参照されうる。
【実施例1】
黄色ブドウ球菌RN4220株を、LB液体培地〔組成:1重量% バクトトリプトン、0.5重量% 酵母エキス、1重量% 塩化ナトリウム、0.4% エチルメタンサルフェート(pH7.0)〕を用いて変異処理し、LB寒天培地〔組成:1重量% バクトトリプトン、0.5重量%酵母エキス、1重量% 塩化ナトリウム、0.4重量% エチルメタンサルフェート 1.5重量% 寒天(pH7.0)〕に塗布し、30℃で培養した。ついで、生じたコロニーについて、前記LB寒天培地に、レプリカ法で播種し、2枚のレプリカプレートを作製した。
前記レプリカプレートの一方を30℃で一夜インキュベートし、他方を43℃で一夜インキュベートした。
その結果、43℃でのインキュベーションでは、生育せず、30℃でのインキュベーションで生育したコロニーを、温度感受性変異株として得た。
【実施例2】
黄色ブドウ球菌RN4220株から、慣用の方法で、ゲノムDNAを単離した。
得られたゲノムDNAを、SspI、EcoRV等の制限酵素又はデオキシリボヌクレアーゼIで部分消化し、ついで、得られた消化DNA断片を、ベクタープラスミドpSR515に組込み、ゲノムDNAプラスミドライブラリーを得た。
得られたゲノムDNAプラスミドライブラリーを、エレクトロポレーション法で、前記実施例1で得られた変異株に導入し、得られた形質転換体を、クロラムフェニコール含有LB寒天培地〔組成:1重量% バクトトリプトン、0.5重量% 酵母エキス、1重量% 塩化ナトリウム、1.5重量% 寒天(pH7.0)〕に塗布した。その後、前記平板培地を、43℃で維持し、形質転換体を培養した。
24時間培養後、前記平板培地上、43℃で形成されたコロニーからプラスミドDNAを抽出した。その後、ゲノムDNAに由来する挿入断片の解析を行なった。
ゲノムDNAに由来する挿入断片の両端の塩基配列を決定した。ついで、決定された塩基配列と、すでにゲノムプロジェクトにより全ゲノムDNAの塩基配列が決定されている黄色ブドウ球菌N315株の塩基配列とを比較した。前記N315株のゲノムDNAの塩基配列は、前記RN4220株のゲノムDNAの塩基配列とほぼ相同であると考えられている。そこで、前記比較の結果に基づき、RN4220株のゲノムDNA由来の挿入断片の全塩基配列を推定した。
ゲノムDNAプラスミドライブラリーを温度感受性変異株に導入した結果43℃で増殖できるようになった形質転換体は、通常、複数株分離できるので、挿入断片の塩基配列を解析できるプラスミドも複数ある。解析することにより複数の挿入断片中に共通して見出された遺伝子は、前記変異株の高温感受性を相補する遺伝子であると考えられる
なお、挿入断片中に2種以上の遺伝子が共通して見出された場合、RN4220株のゲノムDNAをテンプレートにしてそれぞれの遺伝子をPCR法により増幅し、得られた各断片をそれぞれ別のプラスミドに組込み、単一の遺伝子を含有した組換えプラスミドを構築し、前記実施例1で得られた温度感受性変異株に該組換えプラスミドを導入して、43℃における増殖能の相補を評価することにより、相補性試験を行なった。
前記相補性試験において、培地として、LB培地〔組成:1重量% バクトトリプトン、0.5重量% 酵母エキス、(pH7.0)〕を用いた。
その結果、配列番号:1又は2に示される塩基配列を有する遺伝子、配列番号:4又は5に示される塩基配列を有する遺伝子及び配列番号:7又は8に示される塩基配列を有する遺伝子のそれぞれが、黄色ブドウ球菌の増殖に機能を果たす遺伝子(生存に必須の遺伝子)として得られた。また、前記遺伝子によりコードされるポリペプチドのアミノ酸配列を、それぞれ、配列番号:3、6及び9に示す。
【実施例3】
細胞増殖阻害を評価する場合、被験試料として、化合物ライブラリーの化合物を含有したLB培地中、30℃又は37℃で、黄色ブドウ球菌温度感受性株を培養する。また、対照として、前記条件下で黄色ブドウ球菌RN4220株を培養する。
培養後、吸光度若しくは菌集落の有無によって細胞増殖阻害を評価する。
その結果、被験試料の存在により、RN4220株よりも温度感受性株の増殖がより強く阻害された場合、あるいは30℃よりも37℃の方が温度感受性株の増殖がより強く阻害された場合、該被験試料が、アンタゴニスト又はインヒビターとして選別される。
【実施例4】
温度感受性変異株を、LB培地中、温度感受性変異株の起源となる野生型の細菌は生育でき、かつ該温度感受性変異株の生育が影響を受ける温度(例えば、37〜43℃)の範囲の各温度および30℃で培養する。また、前記温度感受性変異株に対応する野生株を前記温度で、あるいは前記温度感受性変異株を30℃で、各種濃度の被験物質存在下あるいは非存在下でLB培地中で培養する。
培養後、得られた温度感受性変異株及び野生株それぞれの細胞の形態を観察する。また、得られた温度感受性変異株及び野生株それぞれから、同じ細胞数単位の細胞抽出物を調製し、得られた細胞抽出物について、二次元電気泳動、HPLC等により、該細胞抽出物中に含まれる成分量、その組成比等を解析する。
次に、30℃で培養した時と比較して、温度感受性変異株の起源となる野生型の細菌は生育でき、かつ該温度感受性変異株の生育が影響を受ける温度で培養した時の温度感受性株の形態変化、細胞抽出物中に含まれる成分量、その組成比等の変化を調べる。さらに、該温度感受性株あるいは温度感受性変異株の起源となる野生株を被験物質非存在下で培養した時と比較して、被験物質存在下で培養した時の細胞の形態変化、細胞抽出物中に含まれる成分量、その組成比等の変化を調べる。
その結果、両変化が実質的に同一の場合、該被験物質が、温度感受性変異した指標遺伝子もしくはそれによりコードされるポリペプチドのアンタゴニスト又はインヒビターとして選別される。
【産業上の利用可能性】
本発明により、細菌の増殖に必須の新規遺伝子及びその産物を標的として抗菌化合物のスクリーニングに利用することが可能になり、その結果、既存抗菌薬とは異なる基本骨格と異なる作用機作を持ち、耐性が交叉しない新規抗菌薬を見出すことが可能となった。
【配列表】








【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験試料存在下における下記A.及び/又はB.:
A. 配列番号:3に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA0544)、配列番号:6に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA1293)及び配列番号:9に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA1511)からなる群より選ばれた少なくとも1種の遺伝子を介して生じる事象、
B.該遺伝子によりコードされたポリペプチド若しくはその断片の動態、
を評価することを特徴とする、被験物質による細菌の増殖抑制効果の評価方法。
【請求項2】
被験試料の存在下及び非存在下において、下記A.及び/又はB.:
A.配列番号:3に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA0544)、配列番号:6に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA1293)及び配列番号:9に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA1511)からなる群より選ばれた少なくとも1種の遺伝子を介して生じる事象、
B.該遺伝子によりコードされたポリペプチド若しくはその断片の動態、
を評価し、それにより、被験試料の存在下におけるA.の事象及び/又はB.の動態と被験物質の非存在下におけるA.の事象及び/又はB.の動態との間の変化に基づき、アンタゴニスト又はインヒビターを選別することを特徴とする、細菌の増殖抑制剤のスクリーニング方法。
【請求項3】
被験試料の存在下における
配列番号:3に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA0544)、配列番号:6に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA1293)及び配列番号:9に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA1511)からなる群より選ばれた少なくとも1種の遺伝子の発現量と、該被験試料の非存在下における該遺伝子の発現量とを比較し、該被験試料の存在下において、該遺伝子の発現量が減少することを指標として被験物質を選別する、請求項2記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
被験試料の存在下における
配列番号:3に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA0544)、配列番号:6に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA1293)及び配列番号:9に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA1511)からなる群より選ばれた少なくとも1種の遺伝子によりコードされたポリペプチドの発現量と、該被験試料の非存在下における該ポリペプチドの発現量とを比較し、該被験試料の存在下において、該ポリペプチドの発現量が減少することを指標として被験物質を選別する、請求項2記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
被験試料の存在下における
配列番号:3に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA0544)、配列番号:6に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA1293)及び配列番号:9に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA1511)からなる群より選ばれた少なくとも1種の遺伝子によりコードされたポリペプチドの機能と、被験試料非存在下における該ポリペプチドの機能とを比較し、該被験試料の存在下において、該ポリペプチドの機能が低下することを指標として被験物質を選別する、請求項2記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
配列番号:3に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA0544)、配列番号:6に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA1293)及び配列番号:9に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA1511)からなる群より選ばれた少なくとも1種の塩基配列の一部に変異を有する遺伝子を有する、黄色ブドウ球菌の温度感受性変異株。
【請求項7】
請求項6記載の温度感受性変異株を用いて、被験物質の存在下及び非存在下における変化を検出することを特徴とする、細菌の増殖抑制剤のスクリーニング方法。
【請求項8】
(1)請求項6記載の温度感受性変異株及び野生株それぞれに、被験試料を接触させるステップ、及び
(2)野生株に該被験試料を接触させた場合に生じる現象と、請求項6記載の温度感受性変異株に該被験試料を接触させた場合に生じる現象とを比較するステップ、
を含み、温度感受性変異株に該被験試料を接触させた場合に生じる現象と、野生株に該被験試料を接触させた場合に生じる現象との間で変化を生じることを指標として被験試料を選別する、請求項7記載の細菌の増殖抑制剤のスクリーニング方法。
【請求項9】
(1)配列番号:3に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA0544)、配列番号:6に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA1293)及び配列番号:9に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子(SA1511)からなる群より選ばれた少なくとも1種の遺伝子によりコードされたポリペプチド又はその断片と、被験試料を接触させ、混合物を得るステップ、
(2)前記ステップ(1)で得られた混合物において、該ポリペプチド又はその断片と結合する被験試料の有無を検出し、それにより、該ポリペプチド又はその断片と結合する被験試料を細菌の増殖抑制剤の候補物質として得るステップ、
(3)前記ステップ(2)で得られた候補物質と、SA0544、SA1293及びSA1511からなる群より選ばれた少なくとも1種の遺伝子を保持する細胞とを接触させるステップ、及び
(4)前記(3)で得られた細胞における細胞増殖阻害及び/又は細胞死の有無を検出し、それにより、細胞増殖阻害及び/又は細胞死を引き起こすことを指標として候補物質を選別するステップ、
を含む、細菌の増殖抑制剤のスクリーニング方法。
【請求項10】
(1)請求項6記載の温度感受性変異株を、該温度感受性変異株の起源となる野生型の細菌の生育至適温度下で培養した場合に生じる現象と、該野生型の細菌は生育でき、かつ該温度感受性変異株の生育が影響を受ける温度下に培養した場合に生じる現象との間の差を観察するステップ、
(2)該温度感受性変異株を、該生育至適温度下に、被験試料非存在下で培養した場合に生じる現象と、該生育至適温度下に、被験試料存在下で培養した場合に生じる現象との間の差を観察するステップ、
(3)該野生型の細菌を、被験試料非存在下で培養した場合に生じる現象と、被験試料存在下で培養した場合に生じる現象との間の差を観察するステップ、及び
(4)前記ステップ(1)で得られた結果と(2)で得られた結果との間又は前記ステップ(1)で得られた結果と(3)で得られた結果との間で比較し、実質的に同一の現象が検出されることを指標として、細胞増殖阻害及び/または細胞死を引き起こす候補物質を選別することを特徴とする、細菌の増殖抑制剤のスクリーニング方法。

【国際公開番号】WO2004/106539
【国際公開日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【発行日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−506586(P2005−506586)
【国際出願番号】PCT/JP2004/007808
【国際出願日】平成16年5月28日(2004.5.28)
【出願人】(000001926)塩野義製薬株式会社 (229)
【出願人】(501481492)株式会社ゲノム創薬研究所 (25)
【Fターム(参考)】