組み換えタンパク質の大量生産のための新規ベクターおよび発現細胞株と、これを用いた組み換えタンパク質の生産方法
本発明は、遺伝子増幅技術をより効率よく改善することが可能なGC−rich繰り返し配列の全部または一部を除去したジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)のプロモーターを含む高発現誘導カセットに関する。また、前記発現誘導カセットおよび選択的に目的の組み換えタンパク質をコードする遺伝子をさらに含む発現ベクター、これらの発現ベクターによって形質転換された動物細胞株、並びに前記形質転換された動物細胞株を培養して組み換えタンパク質を大量生産および精製する方法に関する。本発明は、低濃度のジヒドロ葉酸還元酵素阻害剤を短期間使用して目的の組み換えタンパク質を高濃度で生産することが可能な細胞株の開発期間を短縮させることができるので、より効率的な組み換えタンパク質の生産が可能である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組み換えタンパク質を大量生産するためのベクター、組み換えタンパク質を生産するための発現細胞株、並びにこれを用いた組み換えタンパク質を生産および精製する方法に関する。より詳しくは、本発明は、ジヒドロ葉酸還元酵素(dihydrofolate reductase)の転写調節部位であるプロモーターを人為的に弱化させて遺伝子の増幅効率を大幅改善させることが可能なベクター、このベクターで形質転換された動物細胞株、およびこの動物細胞株を用いてタンパク質を発現させ、発現したタンパク質の高糖化型のみを精製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
組み換えタンパク質を大量生産するために、多様なベクターと宿主が用いられており、一般に大腸菌を用いた方法などが広く使われている。糖化が必須的でありあるいは複雑な構造を有するタンパク質を製造する場合は、利用が制限的であるという欠点を持っている。かかる問題点を解決するために、動物細胞株や酵母菌、形質転換動物、形質転換植物などを用いる。
酵母菌の場合、タンパク質の大量生産が容易であるという利点を持っているが、糖化の度合いおよびパターンがヒトとは非常に相違して高い免疫原性を示すものと知られている(Hermeling et al., Pharm. Res. 21(6):897-903(2004))。形質転換動物の場合は、動物自体の管理および病原菌による汚染可能性に関する問題のため、商用化には至っていない。
【0003】
これに対し、動物細胞株を利用する方法は、生産コストが高く、細胞株の製作
に多くの時間と費用がかかるが、生産される組み換えタンパク質がヒトの形態と非常に類似するうえ、安定的な生産および管理が可能なので、組み換えタンパク質の生産に最も広く採用されている。ところが、動物細胞株では、組み換えタンパク質を生産するために形質転換を試みるとき、大部分発現量が少なくて高い生産性を示すことが難しい。したがって、このような問題を解決するために、細胞株内の遺伝子増幅法を利用する。その最も代表的な方法がジヒドロ葉酸還元酵素またはグルタミン合成酵素を用いた遺伝子増幅法であって、組み換えタンパク質の生産量を大きく増加させることができるため、広く使われている。このような遺伝子増幅技術は、生産性を改善させることができるという利点はあるが、高濃度のメトトレキサート(以下、「MTX」と略称する)を使用するために多段階の遺伝子増幅過程を経ることにより製作に多くの時間がかかり、細胞株の長期間継代培養によって遺伝子が消失するうえ、発現量が不安定であるなどの問題点を持っていると知られている。
【0004】
このような短所を改善するために多くの試みが行われている。例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子のプロモーターとして、SV40プロモーターの一部を除去して作ったプロモーターを使用し(韓国登録特許第0162021号)、あるいはCMV(cytomegalovirus)プロモーターのメチル化DNA結合タンパク質に対する親和性を調節するために塩基配列に突然変異を導入する方法(韓国登録特許第0493703号)などが報告されている。場合に応じて、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子の単独プロモーターを使用せず、免疫グロブリン重鎖結合タンパク質の5’−非コード領域をIRES(Internal ribosome entry site)として用いて組み換えタンパク質の転写調節因子によって調節されるようにする方法(韓国登録特許第0184778号)などが報告されている。
【0005】
韓国登録特許第0162021号では、SV40転写調節因子の128〜270部位を除去してプロモーターの活性を調節しようとした。ところが、除去された配列の役割が不明確であり、残存する配列の役割についても言及していない。特に対照群の設定がない条件下に20nM以上の濃度で増幅がそれ以上行われないことを示していないため、既存のジヒドロ葉酸還元酵素プロモーターの活性にどんな変化が起こったのかは勿論のこと、低濃度のMTXを用いて最適の発現を示していないかに関する根拠を提示していない。韓国登録特許第0493703号では、CMVプロモーターのメチル化DNA結合タンパク質に対する結合配列を変異させて効率よく遺伝子を増幅させようとしたが、増幅が発現に及ぼす効果はその他の方法に比べて微弱である。また、韓国登録特許第0184778号のように単独のプロモーターを使用せずIRES配列を用いて発現する場合でも、遺伝子の増幅に用いられるMTXの濃度が数μMに達するだけであり、発現量の増加も30倍の水準に止まっていることが分かる。このように一般なプロモーターの変形のみではジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子の増幅を予測することができず、その適用可能性は実質的に多様な種類のプロモーターを用いて遺伝子増幅を行った場合にのみ判断することができるといえる。
【0006】
本発明の組み換えタンパク質として例示しているヒトのエリトロポエチンは、純粋分子量が約18kDa程度であるが、糖化する場合には約34kDa程度の分子量を有する。これらのエリトロポエチンは、貧血または出血などが発生しあるいは大気中の酸素分圧が低い場合には腎臓で合成され、赤血球の生産を促進しかつ恒常性を維持する役割を果たす。正常人の生体内では約10〜20mIU/mLの濃度で存在し、腎臓に異常が発生する場合には激しい貧血を生じさせる(Jacobsonm et al., Nature, 179:633-634(1957))。したがって、エリトロポエチンは、慢性腎不全および多様な原因による貧血などの治療剤として使われている。過去、エリトロポエチンは動物の血漿、または正常人より高い濃度のエリトロポエチンが生成される再生不良性貧血などの疾患がある患者の血液または尿などから分離して使用したが、これらのエリトロポエチンは安定性が低く、量が足りない。正常人の尿から出るエリトロポエチンの場合は、その濃度が低いうえ、尿に含有されているエリトロポエチン活性阻害剤を除去するための高純度の精製が要求されるという欠点があった(米国特許第4397840号、同第4303650号および同第3865810号参照)。このような方法としては、純粋な高収率のエリトロポエチンを得ることが難しいため、遺伝子組み換え法を用いた方法が開発された。ところが、エリトロポエチンは、生体内の活性に糖化が必須的であって、エリトロポエチン遺伝子をクローニングして大腸菌または酵母で発現させる場合には、糖化がまともに起こらないため、エリトロポエチンの生活性が現れないという問題点がある。したがって、エリトロポエチンの生産には組み換え動物細胞株を用いた方法が必須的に要求される。組み換え動物細胞株を用いてエリトロポエチンを生産する場合には、前述したジヒドロ葉酸還元酵素を用いた遺伝子増幅技術が一般に使われる(Malik et al. DNA and Cell Bio., 6:453-459(1992))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】韓国登録特許第0162021号
【特許文献2】韓国登録特許第0493703号
【特許文献3】韓国登録特許第0184778号
【特許文献4】米国特許第4397840号
【特許文献5】米国特許第4303650号
【特許文献6】米国特許第3865810号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Hermeling et al., Pharm. Res. 21(6):897-903(2004)
【非特許文献2】Jacobsonm et al., Nature, 179:633-634(1957)
【非特許文献3】Malik et al. DNA and Cell Bio., 6:453-459(1992)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような事実に基づき、本発明者は、ジヒドロ葉酸還元酵素構造遺伝子に連結されたプロモーター部位に存在する6個のGC−rich繰り返し配列の役割が転写活性に重要であるというMichel FrommとPaul Bergの研究結果(J. Mol. Appl. Genet. 1983. 2(1):127-135)に基づき、順次GC−rich繰り返し配列を除去することにより、遺伝子増幅および発現がさらに効率的である、動物細胞用発現ベクターを製作し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明の目的は、動物細胞内で組み換えタンパク質を生産するにおいて、より効果的に遺伝子を増幅させることが可能な発現ベクターを提供することにある。
本発明の他の目的は、前記発現ベクターによって形質転換された動物細胞株を提供することにある。
本発明の別の目的は、前記動物細胞株を用いて組み換えタンパク質を大量生産する方法を提供することにある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1はGC−rich配列が順次除去された発現ベクターX1GC/dhfr、X3GC/dhfrおよびX6GC/dhfrのクローニング過程の模式図である。
【図2】図2は6個のGC−rich配列が完全に除去された発現ベクターX0GC/dhfrのクローニング過程の模式図である。
【図3】図3は図1および図2の発現ベクターにgEPO遺伝子をクローニングする過程の模式図である。
【図4】図4は本発明の発現ベクターで形質転換されたそれぞれの細胞株のEPO発現量をELISAで測定した結果である。
【図5】図5は本発明の発現ベクターで形質転換されたそれぞれの細胞株のEPO発現量をELISAで測定した結果である。
【図6】図6は本発明の発現ベクターで形質転換されたそれぞれの細胞株のEPO発現量をELISAで測定した結果である。 図8は増幅されたジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子の発現量をウエスタンブロットで示す結果である。
【図7】図7は本発明の発現ベクターで形質転換されたそれぞれの細胞株のEPO発現量をELISAで測定した結果である。
【図8】図8は増幅されたジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子の発現量をウエスタンブロットで示す結果である。
【図9】図9は実施例6で選別された単クローン細胞株X0GC/GEPO9647(DXB11)を大量培養して合計9回にわたってヒトのエリトロポエチン発現上清液を回収して間接ELISA法で発現量を測定した結果である。
【図10】図10は実施例8で精製された組み換えエリトロポエチのSDS−PAGEおよびウエスタンブロット分析結果である。
【図11】図11は実施例4で精製された組み換えエリトロポエチンの等電集束分析結果である。
【図12】図12は無血清培地に完全適応されたX1GC/GEPO9629(DG44)およびX0GC/GEPO9603(DG44)を培養して発現したエリトロポエチンの等電集束分析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は、ジヒドロ葉酸還元酵素のGC−rich繰り返し配列欠損プロモーターを含む動物細胞株用発現ベクターを提供する。
上述したように、動物細胞株における組み換えタンパク質の高発現を誘導するための一つの方法として、ジヒドロ葉酸還元酵素による遺伝子増幅法が広く使われてきたが、従来の技術によれば、ジヒドロ葉酸還元酵素阻害剤を高濃度で長期間使用することによる細胞株安定化および時間と費用上の問題があった。本発明は、このようなジヒドロ葉酸還元酵素のプロモーター中のGC−rich繰り返し配列を一部または全部欠損させて変異させたジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子を用いた発現ベクターがより短い時間にさらに低いジヒドロ葉酸還元酵素阻害剤を使用する場合にも、より高い効率でジヒドロ葉酸還元酵素および/または前記ベクターに含まれた目的の組み換え遺伝子の発現を誘導することができることを見出した。
【0013】
ここで、GC−rich繰り返し配列とは、ジヒドロ葉酸還元酵素の転写調節因子であるプロモーターに含まれたCCGCCC繰り返し配列を意味する。この繰り返し配列の全部または一部を欠損、変異などによる方法によって人為的に欠損させると、ジヒドロ葉酸還元酵素の発現は最小限に抑えられる。この際、発現が最小に維持された状態でジヒドロ葉酸還元酵素阻害剤を添加する場合、細胞は生存のためにさらに多数のジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子を増幅し、よって、前記ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子を含む発現ベクター内に含まれた目的の組み換え遺伝子も同時に増幅されて高発現するものと観察された。
したがって、本発明の具体的な一様態では、CCGCCC繰り返し配列が少なくとも一つ除去されたプロモーターを含むジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子の塩基配列を含む高発現誘導カセットを提供する。好ましくは、前記高発現誘導カセットは、6個以下のCCGCCC繰り返し配列を含むジヒドロ葉酸還元酵素のプロモーターを含み、さらに好ましくは3個以下のCCGCCC繰り返し配列を含むプロモーターを含み、特に好ましくは1個以下のCCGCCC繰り返し配列を含むプロモーターを含み、さらに特に好ましくはCCGCCC繰り返し配列が全部除去されたプロモーターを含む。
【0014】
これらのCCGCCC繰り返し配列の除去は、当業界における公知の遺伝子組み換え技術による塩基配列の置換や欠損などの方法によって行われ得る。本発明の具体的実施例では、CCGCCC繰り返し配列を含む塩基配列の一部または全部を欠損させる方法によってプロモーター内のGC−rich配列の一部または全部を除去した。
本発明の他の様態では、前記高発現誘導カセットを含む発現ベクターを提供する。
用語「ベクター」は、宿主細胞で目的の遺伝子を発現させるためのビヒクルである。本発明のベクターは、プラスミドベクター、コスミドベクター、バクテリオファージベクター、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターなどのウイルスベクターなどを含み、好ましくはプラスミドベクターである。
前記発現ベクターは、好ましくは目的の組み換えタンパク質をコードする遺伝子をさらに含むことができる。このような発現ベクターを発現させることにより、目的の組み換えタンパク質を高効率で発現させることができる。
【0015】
前記目的の組み換えタンパク質とは、一般に、生理活性ポリペプチドを含む概念である。生理活性ポリペプチドは、ホルモン、サイトカイン、インターロイキン、インターロイキン結合タンパク質、酵素、抗体、成長因子、転写調節因子、血液因子、ワクチン、構造タンパク質、リガンドタンパク質または受容体、細胞表面抗原、受容体拮抗物質などの様々なタンパク質、並びにこれらの誘導体および類似体を含むことができる。そして、生理活性ポリペプチドは、具体的にヒト成長ホルモン、インターフェロン類およびインターフェロン受容体類、コロニー刺激因子、インターロイキン類、エリトロポエチン、インスリン、アンジオテンシン、骨形成成長因子、B細胞因子、T細胞因子、神経成長因子類、細胞表面抗原、モノクローナル抗体、およびウイルス由来ワクチン抗原などを含み、これらに制限されるものではない。当業者は、現在の技術水準でジヒドロ葉酸還元酵素による増幅技術を適用することが可能な組み換えタンパク質を容易に選択することができる。本発明の好適な実施様態において、前記組み換えタンパク質はヒトのエリトロポエチンである。
前記目的の組み換えタンパク質は、前記ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子のプロモーターあるいは別途のプロモーターによって発現が調節できる。好ましくは、前記目的の組み換えタンパク質は別途のプロモーターによって発現が調節される。このようなプロモーターは、当業界に広く知られているもの、例えばサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、LTRプロモーター、EFαプロモーター、SV40プロモーター、およびTKプロモーターよりなる群から当業者が容易に選択して使用することができ、これらに限定されるものではない。
【0016】
本発明の発現ベクターは、動物細胞株における高発現を誘導するためのものであって、好ましくは動物細胞における永久的な発現のための選択標識因子として使われる動物細胞株用抵抗性遺伝子をさらに含むことができる。前記動物細胞株用抵抗性遺伝子としては、通常、当業界で使用する動物細胞株用抵抗性遺伝子であるネオマイシン抵抗性遺伝子、ゼオマイシン抵抗性遺伝子、ハイグロマイシン抵抗性遺伝子およびブラストマイシン抵抗性遺伝子などがあり、これらに限定されるものではない。
この他にも、本発明の発現ベクターは、一般なベクターの構成要素、例えば複製原点や多重アデニル化信号、その他の転写調節因子などをさらに含むことができ、これらに限定されるものではない。
本発明の別の様態では、本発明に係る前記発現ベクターで形質転換された細胞株を提供する。
【0017】
具体的な一様態として、本発明は、ジヒドロ葉酸還元酵素のプロモーター中のCCGCCC繰り返し配列を一つのみ有する高発現誘導カセット、およびCCGCCC繰り返し配列を全く含まない高発現誘導カセットをそれぞれ製造し、これらの発現カセットを含む発現ベクターによって形質転換されたE.coli細胞株を提供する。このような形質転換されたE.coli細胞株は、2006年10月2日付で韓国大田広域市儒城区に所在の生命工学研究院内の遺伝子銀行に受託番号KCTC10991BPおよびKCTC10992BPとしてそれぞれ寄託した。これらのE.coli細胞株は、所望する目的の組み換えタンパク質の高発現を誘導するために、前記細胞株から、前記高発現誘導カセットを含む発現ベクターを分離し、遺伝子組み換え技術などによるクローニング方法によって目的の組み換えタンパク質をコードする遺伝子をさらに含む発現ベクターの製作に利用可能である。
【0018】
本発明の別の具体的な様態では、目的の組み換えタンパク質をコードする遺伝子をさらに含む発現ベクターによって形質転換された細胞株を提供する。
好適な一様態において、これら目的の組み換えタンパク質は動物細胞株における発現が要求される。このような目的に鑑みて、本発明で使用可能な好適な動物細胞株としては、CHO細胞株、COS7(Monkey kidney cells)細胞株、NSO細胞株、SP2/O細胞株、W138細胞株、BHK(Baby hamster kidney)細胞株、MDCK、骨髄腫細胞株、HuT78細胞株、および293細胞株などを含むことができ、これらに限定されない。当該技術分野における通常の知識を有する者であれば、本発明のジヒドロ葉酸還元酵素を用いた増幅技術に適用可能な適正の動物細胞株を容易に選択することができる。
本発明の具体的な様態では、前記動物細胞株としてCHO細胞株を使用し、より具体的にはジヒドロ葉酸還元酵素が欠損したチャイニーズハムスター卵巣細胞 株(CHO/dhfr−)を使用した。すなわち、ジヒドロ葉酸還元酵素が欠損したCHO細胞株を、ヒトの組み換えエリトロポエチンをコードする遺伝子を含む本発明に係る発現ベクターで形質転換することにより、100nM以下、好ましくは50nM以下の低いメトトレキサート濃度でも十分な数の遺伝子が増幅されて生産性が検証された動物細胞株を提供する。後述の実施例に詳しく記述するようなこれらの細胞株は、2006年10月2日付で韓国大田広域市儒城区に所在の生命工学研究院内の遺伝子銀行に受託番号KCTC10993BP、KCTC10994BPおよびKCTC10995BPとして寄託した。
【0019】
本発明の別の様態では、本発明に係るGC−rich配列が一部または全部除去されたプロモーターを含むジヒドロ葉酸還元酵素をコードする遺伝子を含む本発明の動物細胞用発現ベクターで動物細胞株を形質転換する段階と、前記形質転換された動物細胞株を培養する段階とを含む、組み換えタンパク質の製造方法を提供する。
本発明において、動物細胞株への「形質転換」は、核酸を有機体、細胞、組織または器官に導入するいずれの方法も含み、当分野における公知の動物細胞株に応じて適切な標準技術を選択して行うことができる。細胞壁がない哺乳動物細胞の場合、リン酸カルシウム沈殿法を使用することができる(Graham et al., 1978, Virology, 52:456-457)。哺乳動物宿主細胞への形質転換の一般な方法および特徴は、米国特許第4,399,216号に記載されている。具体的に、本発明では、組み換えタンパク質を発現させるベクターをリポフェクタミンを用いてCHO細胞内に取り込んだ。また、本発明において、動物細胞株の培養は当業界における公知の適切な培地と培養条件に応じて行われ得る。このような培養過程は、当業者であれば、選択される動物細胞株に応じて容易に調整して使用することができる。細胞の成長方式によって、懸濁培養または付着培養を回分培養式、流加培養式および連続培養式の方法で行う。培養に使用される培地は、特定細胞株の要求条件を適切に満足させなければならない。
【0020】
動物細胞培養において、前記培地は、様々な炭素源、窒素源および微量元素成分を含む。使用可能な炭素源の例には、例えばグルコース、スクロース、ラクトース、フルクトース、マルトース、澱粉、セルロースなどの炭水化物、例えば大豆油、ヒマワリ油、ヒマシ油およびココナツ油などの脂肪、例えばパルミチン酸、ステアリン酸およびリノール酸などの脂肪酸、例えばグリセロールおよびエタノールなどのアルコール、および例えば酢酸などの有機酸が含まれる。これらの炭素源は単独でまたは組み合わせて使用可能である。使用可能な窒素源の例には、例えばペプトン、酵母抽出物、肉汁、麦芽抽出物、コーンスティープリカー(CSL)および大豆ホエーなどの有機窒素源、および例えば尿素、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウムおよび硝酸アンモニウムなどの無機窒素源が含まれる。これらの窒素源は単独でまたは組み合わせて使用できる。その他に、アミノ酸、ビタミンおよび適切な前駆体などが含まれ得る。
また、前記培地には、メトトレキサートなどのジヒドロ葉酸還元酵素阻害剤が添加できる。なぜなら、前述したように、本発明の好適な実施例に係るタンパク質組み換え方法は、ジヒドロ葉酸還元酵素が欠損した動物細胞株を本発明に係る発現ベクターで形質転換し、組み換え遺伝子を増幅するためにジヒドロ葉酸還元酵素阻害剤を添加してベクター内のジヒドロ葉酸還元酵素が増幅されて選択できるようにするシステムを短期間に効率よく実現することを目的とするためである。
【0021】
本発明の好適な具現例によれば、ジヒドロ葉酸還元酵素阻害剤の場合、細胞株の安定性と経済性を考慮して出来る限り低濃度で短期間使用することが好ましい。すなわち、低濃度でジヒドロ葉酸還元酵素阻害剤を使用することにより、大量生産する場合の安定性を確保し、生産細胞株の開発期間を短くすることを可能にする。具体的に、本発明は、ジヒドロ葉酸還元酵素が欠損したCHO細胞を前記組み換えタンパク質発現ベクターで形質転換し、濃度100nM以下、好ましくは50nM以下のメトトレキサートを使用することにより、組み換えタンパク質を製造する方法を提供する。
また、本発明の更なる一様態において、前述した細胞株からエリトロポエチンを生産する場合、生産されたエリトロポエチンのうち、シアル酸を大量含有して優れた物性を有するシアル酸高含有エリトロポエチンを大量で精製する段階をさらに含むことができる。
【0022】
本発明の一実施例では、ジヒドロ葉酸還元酵素のプロモーターのうち、GC−rich配列を人為的に欠損させて発現が最小限に抑えられるようにした後、ジヒドロ葉酸還元酵素阻害剤を添加して遺伝子を増幅させた。遺伝子増幅された細胞株の一つの細胞から起源したクローンを得るために限界希釈を行って単クローン細胞株を獲得し、これを大量培養して無血清培地で組み換えヒトエリトロポエチンを生産した。この際、低塩濃度で溶出されるエリトロポエチンがシアル酸含有量の高い分画であり、高塩濃度で溶出されるエリトロポエチンがシアル酸含有量の低い分画であることを利用して、カラムボリュームの濃度勾配を適用してエリトロポエチンを溶出させてシアル酸高含有エリトロポエチンを精製して活性を確認した。
【0023】
以下、実施例によって本発明をより詳しく説明する。これらの実施例は本発明を具体的に例示するためのものに過ぎず、限定するものではない。
実施例1:GC−rich繰り返し配列が順次除去された発現ベクターの製造
GC−rich繰り返し配列が欠損したプロモーターによって発現するジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子カセット構造を次のように作る。ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子を増幅させるために、pSV2−dhfr(ATCC No.37146)プラスミドからSmaI制限酵素認識部位を有するプライマーdhfr 01(5’−GCG CCC GGG ATG GTT CGA CCA TTG AAC TGC−3’)とBstBI制限酵素認識部位を有するプライマーdhfr−02(5’−CAC TTA GAA CCT GTT AGT CTT TCT TCT CGT AGA C−3’)を用いてPCRを行う。そして、PCRによって得られた約200bpの増幅産物を1%アガロースゲルで電気泳動した後、QIAGEN社のゲル抽出キット(cat No.28706)を用いて回収した。回収した遺伝子断片は、Qiagen社のpDRIVEベクターに直接挿入してクローニングし、塩基配列分析を行って誤りがないことを確認した。塩基配列が確認されたpDRIVE−dhfrプラスミドからジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子を制限酵素SmaI/BstBIで切断し、1.5%アガロースゲルで電気泳動した後、約200bpの遺伝子断片をQIAGEN社のゲル抽出キット(cat No.28706)を用いて回収した。このような方法で得られたジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子断片は、Invitrogen社のpcDNA3.1ベクターのネオマイシン遺伝子配列を同一の制限酵素で切断して置換した。このようにクローニングされたpcDNA3.1−dhfrプラスミドを鋳型として、BamHI制限酵素認識部位を有しかつジヒドロ葉酸還元酵素プロモーターのそれぞれ異なるGC−rich繰り返し配列に相補的なプライマー×1GC(5’−TCA GGA TCC ATT CTC CGC CCC ATG GCT GAC TAA−3)、×3GC(5’−CAT GGA TCC TAA CTC GGC CCA GTT CCG CCC ATT CT−3’)、×6GC(5’−CAT GGA TCC CAT AGT CCC GCC CCT AAC TCC GCG C−3’)と、BamHI制限酵素認識部位を有しかつジヒドロ葉酸還元酵素に構造的に連結されたポリアデニル化信号配列に相補的なプライマーBISVpAR(5’−TCA GGA TCC CAG ACA TGA TAA GAT ACA TTG ATG−3’)を用いたPCRを行うことにより、GC−rich繰り返し配列が順次一部損失したそれぞれ異なる3つの大きさの遺伝子カセットを得た。この遺伝子カセットを、BglII制限酵素で切断したInvitrogen社のpcDNA3.1ベクターに挿入してクローニングした後、制限酵素地図法を用いて、ベクターのCMVプロモーターと同一の方向性を持つクローンを選別した。これにより、X1GC/dhfr、X3GC/dhfrおよびX6GC/dhfrプラスミドを製造した。それぞれのプラスミドは、ヒトゲノムDNA由来のエリトロポエチン遺伝子をクローニングすることに使用した。また、GC−rich繰り返し配列が完全に除去された対照群発現ベクターを製作するために、次のようにクローニングを行った。
【0024】
ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子とSV40ウイルスポリアデニル化配列を得るために、BamHI制限酵素認識部位を含むプライマーX0GC(5’−CGA TGG ATC CGA CAT GAT AAG ATA CAT TGA T−3’)とX0GCRR(5’−CGT TGG ATC CAC AGC TCA GGG CTG CGA TTT C−3’)を製作した。pSV2−dhf2プラスミドを鋳型としてPCRを行うことにより、SV40ウイルスポリアデニル化配列からジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子の5’−非コード領域に至る配列1.5kbの増幅産物を得た。この遺伝子断片を1%アガロースゲルで電気泳動した後、ゲル抽出キット(QIAGEN、cat No.28706)を用いて回収し、制限酵素BglIIで切断したpcDNA3.1(Invitrogen社)部位に挿入した。制限酵素地図法を用いて、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子がCMVプロモーターと反対方向に位置したクローンを選別した。幾つかの制限酵素認識部位を除去するために、ベクターのマルチクローニグサイトを制限酵素NdeIとDraIIIで切断し、Invitrogen社のpRcCMVベクターを、同一の方法で切断した断片に置換した。これにより、X0GC/dhfrベクターを製作した。
以上のクローニング模式図を図1および図2にまとめた。
【0025】
実施例2:gEPO遺伝子のクローニング
pCI−neo/gEPOプラスミドをXhoI/EcoRI制限酵素で切断し、DNAポリメラーゼIクレノウ断片(DNA polymerase I Klenow fragment)で接着末端を平滑末端に作った後、0.7%アガロースゲルで電気泳動して、ヒトのエリトロポエチンゲノム遺伝子に該当する約2.2KbのDNA断片をゲル抽出キット(QIAGEN社、cat No.28706)を用いて回収した。Invitrogen社のpRcCMVベクターをEcoRVで切断し、QIAGEN社のPCR精製キット(cat No.28106)で回収した後、EcoRV切断部位に前記エリトロポエチンゲノム遺伝子を接合させてクローニングした。制限酵素地図法を用いて、ベクターのエリトロポエチンゲノム遺伝子がCMVプロモーターと同一の方向性を持つクローンを選別した。実施例1のX0GC/dhfr、x1GC/dhfr、x3GC/dhfr、x6GC/dhfrベクターをBamHI/XhoI制限酵素で切断し、0.7%アガロースゲルで電気泳動した後、ゲル抽出キット(QIAGEN社、cat No.28706)を用いて回収した。同一の方法で、pRcCMVベクターにクローニングしたエリトロポエチンゲノム遺伝子断片を回収し、切断したx0GC/dhfr、x1GC/dhfr、x3GC/dhfrおよびx6GC/dhfrベクターのマルチクローニングサイトのBamHI/XhoI位置に挿入してサブクローニングを行った。得られたクローンの塩基配列を分析て誤りのないことを確認し、これをそれぞれX0GC/GEPO、X1GC/GEPO、X3GC/GEPOおよびX6GC/GEPOと命名した。以上のクローニング過程を図3にまとめ、それぞれの最終配列を配列目録に表示した。
【0026】
実施例3:ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子欠損CHO細胞株の形質転換
ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子が欠損したCHO細胞株CHO/DXB11ストレインとCHO/DG44ストレインを、10%ウシ胎仔血清(Welgene、Cat No.S101−01)と1%フェニシリン−ストレプトマイシン(Gibco、Cat No.15140−122)が含まれたDMEM/F12培地(Welgene、Cat No.LM002−04)に接種して37℃、5%CO2恒温器で継代培養した。前記X0GC/GEPO、X1GC/GEPO、X3GC/GEPOおよびX6GC/GEPOプラスミドでそれぞれのジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子欠損CHO細胞株を形質転換するために、直径6cmの細胞培養皿に1×106細胞を接種し、37℃、5%CO2恒温器で24時間培養した後、Gibco社のOpti−MEM培地(Gibco、Cat No.31985−070)で2回洗浄した。10μgのそれぞれのプラスミドが入っている3つの1mLのOpti−MEMにLipofectamineTM Reagent(Invitrogen、Cat No.18324−020)1mLを混合して常温で20分間静置反応させた後、準備されたジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子欠損CHO細胞に均一に点滴し、18時間37℃、5%CO2恒温器で培養する。そして、さらに10%ウシ胎仔血清と1%フェニシリン−ストレプトマイシンが含まれたDMEM/F12培養培地で交換して48時間培養した。形質転換された細胞株を選別するために、10%透析ウシ胎仔血清(Welgene)、1%フェニシリン−ストレプトマイシンおよび800μg/mLのジェネティシン(Mediatech、Cat No.61−234RG)が入っているα−MEM(Welgene、Cat No.LM008−02)選別培地で0.5%トリプシン−EDTA(Gibco、Cat No.15400−054)処理と遠心分離によって得られた細胞株を全てT25細胞培養容器に移して接種する。そして、37℃、5%CO2恒温器で培養し、形質転換されてジェネティシン(geneticin)で選別された細胞株が培養容器に90%以上となるように培養した。同一濃度のジェネティシンと培養条件で細胞株を選別し、GC繰り返し配列がさらに多く除去された細胞株で選別効果が速く現れることを観察することができた。ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子欠損CHO細胞株のストレイン間の有意的差異は発見されなかった。
【0027】
実施例4:組み換え細胞株の選別とエリトロポエチン遺伝子の増幅
前記で形質転換されてジェネティシン(geneticin)で選別されたそれぞれの細胞株(CHO/DXB11ストレイン)またはCHO/DG44ストレイン)のエリトロポエチン発現量を増加させるために、メトトレキサート(MTX、Sigma、Cat No.M−8407)が20nMの濃度で添加された選別培地(前記選別培地と同一)を含む24−well培養容器に2×104細胞を接種した後、37℃、5%CO2恒温器で2週間培養した。エリトロポエチンの発現量が高い細胞株を選別するために、ウェルの底部が100%覆われるように培養された細胞株をPBS(Welgene、Cat No.LB001−02)で2回洗浄した後、エリトロポエチン生産培地であるCHO−A−SFM(Gibco、Cat No.05−5072EF)を200μL/ウェルとなるように添加する。そして、24時間培養した培養上清液を回収して間接ELISA(EPO ELISA kit、R&D、Cat No.DEP00)方法で発現量を測定した。メトトレキサート濃度を30nMに上げた後、同一の選別培地で再び2週間培養を行い、それぞれの細胞株のエリトロポエチン発現量をELISA(Enzyme linked immunosorbent assay)キット(R&D systems cat#DEP00)で測定して比較した。ELISAで測定された発現量は、図4〜図7に示すように、全般的にX0GC/GEPOとX1GC/GEPOが同一濃度のMTX条件で最も高い発現量を示しており、これに続いてX3GC/GEPOとX6GC/GEPOがある。このような事実は、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子のGC繰り返し配列を多く除去すればするほど、同一濃度のメトトレキサート存在の際に遺伝子増幅が多く起こる場合を示している。また、GC繰り返し配列が完全に除去されたX0GC/GEPOでも効率的な遺伝子増幅が起こることを確認することができた。したがって、GC繰り返し配列は最小に維持されるときにその増幅効果が最大に維持されるということを確認することができた。また、最大に遺伝子発現が起こるメトトレキサートの濃度を確認するために、選別培地内のメトトキレサートの濃度をさらに40nMから60nMまで増加させてみたが、有意すべき水準の発現量増加または酸性異性体の含量変化は起こらないことを確認した。本結果に基づき、実施例6と同様に、X0GC/GEPOおよびX1GC/GEPOで形質転換された2つの細胞株ストレインに対して限界希釈を施した。
【0028】
実施例5:ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子の増幅確認
実施例4で得られたそれぞれの細胞をD−PBS溶液で1回洗浄し、トリプシン−EDTAを処理して培養フラスコから回収した後、1000rpmで3分間遠心分離して細胞を得た。これをさらにD−PBSで1回洗浄し、血球計(Incyto社)で細胞数を数えて3×106個の細胞を分離し、遠心分離して細胞沈殿を得た。得られた細胞は、それぞれ1.5mLの細胞溶解緩衝液(PBS、5mM EDTA、1%NP−40)で懸濁し、4℃で30分間溶解させた後、12,000rpmで10分間遠心分離して上清液を得た。
12.5%SDSポリアクリルアミドゲルを製作し、それぞれの細胞溶解液と陰性対照群としてのCHO/dhfr−細胞溶解液を20μLずつ取ってサンプル緩衝液10μLと混合して100℃で5分間前処理した後、ゲルにロードした。陽性対照群として、20ng〜100ngのジヒドロ葉酸還元酵素(Sigma社、cat No.D6566)をサンプル緩衝液と混合してSDSポリアクリルアミドゲルにロードした。ロードしたゲルを30mAの電流で電気泳動した後、ゲルを分離してセミポアウエスタンブロットユニット(SEMI−PHOR、Hoefer社)にPVDF濾紙およびWhatman3M紙と重ねて装着し、90mAで1時間タンパク質をPVDF濾紙に移動させた。その後、タンパク質が移動したPVDF濾紙を分離し、0.5%脱脂油が含まれたTBS−T溶液10mLに抗−ジヒドロ葉酸還元酵素マウス抗体(BD Biosciences社、cat No.610697)を1:500の割合で添加した溶液で1時間攪拌しながら反応させた。TBS−T溶液で10分ずつ5回洗浄した後、0.5%脱脂油の含まれたTBS−T溶液10mLに、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(horseradish peroxidase)が標識された抗−マウス抗体(Amersham Biosciences社、cat No.RPN2108に含む)を1:3000の割合で添加した溶液で1時間攪拌しながら反応させた。さらにTBS−T溶液で10分ずつ5回洗浄した後、ECLウエスタンブロット分析システム(ECL Western Blotting Analysis System)(Amersham Biosciences社、cat No.RPN2108)の試薬1と試薬2を1:1で混合してPVDF濾紙上に撒いて1分間放置して反応させた。反応直後、X線フィルムで感光し、現像して判読した。ウエスタンブロット結果は図9に示した。図9の結果より、形質転換によってdhfr遺伝子の発現量が増加したことが分かった。同一の細胞数でX0GC/GEPOまたはX1GC/GEPOにおけるdhfr発現がさらに高いことが分かった。
【0029】
実施例6:単クローン細胞株の分離および選択
実施例4で最も発現量が高かったウェルのX0GC/GEPOとX1GC/GEPO細胞株を6ウェル培養容器に移して培養した。単クローンを分離するために、96ウェル培養容器に、ウェル当たり0.5細胞となるようにメトトレキサートが添加された選別培地でそれぞれの細胞株を限界希釈して接種した。37℃、5%CO-22恒温器で約2〜3週間培養し、単一コロニーが生成されたウェルのみを選別し、24ウェル培養容器に移して培養することにより、実施例4と同様に間接ELISA方法でエリトロポエチンの発現量を測定した。
これらの中から、高い発現量を示しながら等電集束二量体中の酸性異性体の割合も高いX0GC/GEPO9647(DXB11)、X1GC/GEPO9629(DG44)およびX0GC/GEPO9603クローンを最終単クローン細胞株として分離および選択し、時間による発現量と等電集束二量体パターンを分析した。
X0GC/GEPO9647(DXB11)の場合、細胞株当たりの発現量は約80μg/10E6cell/dayで測定された。このように本実施例で使用されたX0GC/GEPOまたはX1GC/GEPOの場合は、2段階の遺伝子増幅のみでも高発現細胞株を獲得することが可能な方法を可能にして低いパッセージ(passage)のみでもタンパク質生産用単クローン生産細胞株を製作することが可能であることを示している。
【0030】
実施例7:単クローン細胞株の大量培養
ヒトのエリトロポエチンを大量生産するために、実施例6で選別された単クローン細胞株のうちX0GC/GEPO9647(DXB11)を一つのT175培養容器で段階的に継代培養し、合計120個のT175培養容器まで増幅を行った。一つのCell Factory当たり約2.5×108個の細胞株を接種し、合計8個のCell Factory(Nunc、Cat No.170009)を接種した後、37℃、5%CO2恒温器で約48時間培養した。リン酸緩衝液でCell Factory1個当たり1Lずつ2回水洗した後、0.3mM酪酸ナトリウム(Sigma、Cat No.B−5887)の添加されたエリトロポエチン大量生産培地としての無血清CHO−A−SFM(Gibco Fomula No.05−5072EF)を1Lずつ仕込み、33℃、5%CO-2恒温器で培養した。そして、2日ごとに合計9回ヒトのエリトロポエチン発現上清液を回収した。回収された発現上清液は遠心分離機と0.2μmの濾紙を用いて細胞残存物などの固形浮遊物を除去した。回収された発現上清液の一部を取って間接ELISA方法で発現量を測定し、等電集束を施して酸性の等電集束二量体の含有量などを分析した。図10の結果より、大量培養においても40〜50mg/L水準の発現量を維持していることが分かった。そして、シアル酸高含有量の尺度になれる6番〜8番異性体の含有量が別途の精製過程を経ていないにも拘らず高いことが分かった。
【0031】
実施例8:シアル酸高含有ヒトエリトロポエチンの分離精製
実施例7で生産された細胞培養液内に存在する浮遊物を除去するために、Beckman社のXL−90遠心分離機を用いてJLA−8.1000ローターで7000rpmにて遠心分離した。そして、上清液を回収した後、0.2μmの濾紙で濾過した後、限外濾過膜(ultrafiltration membrane)を用いて10分の1のボリュームで濃縮を行った。濃縮液に同量の20mMリン酸ナトリウムpH7.4バッファを混ぜ、Amersham社のBlue FFカラムを20mMリン酸ナトリウムpH7.4バッファで平衡化させ、前記エリトロポエチン含有液を適用する。次いで、カラムを20mMリン酸ナトリウム(pH7.4)の5カラムボリュームで洗浄した後、2M NaClと20mMリン酸ナトリウム(pH7.4)をBバッファとして2カラムボリュームの濃度勾配を適用してエリトロポエチンを溶出させた。
【0032】
エリトロポエチン分画が主要分画となる部分を集め、Sephardex G25カラムを用いてエリトロポエチン含有溶液の20mMリン酸ナトリウムpH5.4バッファで脱塩し、溶液pのpHを変えた。このエリトロポエチン含有溶液を、20mMリン酸ナトリウムpH5.4で平衡化されたAmersham社のSP HPカラムに適用し、20mMリン酸ナトリウムpH5.4バッファで5カラムボリュームだけ洗浄した後、1M NaCl、20mMリン酸ナトリウムpH7.4バッファをBバッファとして12カラムボリュームの濃度勾配を適用してエリトロポエチンを溶出させた。この際、低塩濃度で溶出されるエリトロポエチンはシアン酸含有量の高い分画であり、高塩濃度で溶出されるエリトロポエチンはシアル酸含有量の低い分画であるが、全体分画の30%に相当する、高塩濃度で溶出される分画は排除し、残りの分画のみを取った。SP HPカラムで精製したエリトロポエチン分画は、さらに10mM Tris、pH7.5バッファで平衡化されたSephardex G25カラムを用いて塩を除去し、バッファを変える。これを10mM Tris pH7.5バッファで平衡化されたAmersham社のSource15Qカラムに適用し、0.25M NaCl、10mM Tris、pH7.5バッファをBとして6カラムボリューム の濃度勾配を適用してエリトロポエチンを溶出させた。エリトロポエチンが溶出される部分を15個以上に分画し、各分画をSDS−PAGE、等電集束とキャピラリーゾーン電気泳動(CZE)を用いて電荷異性体分布を分析した。各分画は不純物がなく、10個のシアル酸モイエティ(moiety)を有するエリトロポエチンが最も多く含有された分画から高塩濃度分画を集めて取った。以上の精製過程を施した結果、シアル酸が10モル以上含有された組み換えヒトエリトロポエチンの生産性は約20μg/mLに達すると調査された。
【0033】
実施例9:ヒトエリトロポエチンの特性確認
1)SDS−PAGEおよびウエスタンブロット分析
実施例8で精製された組み換えエリトロポエチンを2つの12%SDS−PAGEで電気泳動した。1つのゲルは、コマシーブリリアントブルー (Coomassie Brilliant Blue)染色液で染色し、脱色を施して観察した。残り一つのゲルはセミドライ電気転移機を用いてPVDF膜に吸着させる。抗ヒトEPO抗体(R&D systems、cat No.AB−286−NA)を1:5,000で処理した後、洗浄を施し、アルカリ性ホスファターゼが接合された抗マウスウサギ抗体(Amersham、cat No.NA934V)を処理した。0.5%Tween20含有のリン酸緩衝液で十分に洗浄した後、Amersham社の発色試薬(cat No.RPN2108)で処理し、しかる後に、暗室でフィルム感光を施し、自動現像機を用いて現像を施した。分析結果、SDS−PAGEのバンドがエリトロポエチンであることと、糖化の度合いによって大きさが異なることを確認することができた(図10参照)。
【0034】
2)等電集束分析(IEF)
細胞培養濃縮液、および実施例4で精製された組み換えエリトロポエチンを試料緩衝液(Invitrogen、Cat No.LC5371)と1:1で混ぜた後、等電集束ゲル(Invitrogen、Cat No.EC6655B)にBRP(Cat No.E1515000)標準品および等電集束基準物質と共にロードし、低電圧と高電圧で順次電気泳動を施した。電気泳動済みの等電集束ゲルを12%TCAと3%スルホサリチル酸含有の固定溶液で30分間振とうしながら固定し、コマシーブリリアントブルーR250(Amresco、Cat No.6104−59−2)染色液で染色を行う。そして、それぞれの等電点に該当するエリトロポエチンを観察した(図11参照)。
【0035】
3)TF−1細胞株を用いた力価と活性の分析
10%ウシ胎仔血清、10μM β−メルカプトエタノール、20μg/mLトランスフェリンおよび12ng/mLのGM−CSFなどが含有されたRPMI1640(Welgene、Cat No.LM 011−03)で成長したTF−1(ATCC、Cat No.CRL−2003)を1,000rpmで5分間遠心分離して回収する。回収されたTF−1細胞株はリン酸緩衝溶液で2回洗浄を行い、2%ウシ胎仔血清、100μg/mLトランスフェリン、2mg/mLプロテアーゼ−フリー(protease-free)牛血清、および1%フェニシリン/ストレプトマイシンが入っているアッセイ培地で1回洗浄した。96ウェルプレートに50μLのアッセイ培地を添加し、第1のウェルに25μLの試料と標準品を入れて最終濃度が1μg/mLとなるようにした後、3倍ずつ連続的に希釈を行った。各ウェルに、アッセイ培地で洗浄したTF−1細胞株を、2×104/50μL/ウェルとなるように加えた。37℃、5%CO2培養器で約72時間反応させた後、Promega社のcell titer one solutionキット(Cat No.G4102)の発色溶液を各ウェル当たり20μLずつ添加した。4時間37℃、5%CO2培養器で発色を施した後、よく混ぜて490nm波長における吸光度をMolecular Dynamics社のELISAリーダーで測定した。本試験によって、X0GC/GEPO由来の組み換えエリトロポエチン活性は標準品のそれと差異がないことを確認することができた。
【0036】
実施例10:単クローン細胞株の無血清培地適用
X1GC/GEPO9629(DG44)とX0GC/GEPO9603(DG44)ストレインを10%透析ウシ胎仔血清(dialyzed fetal bovine serum)、1%フェニシリン−ストレプトマイシンおよび800μg/mLのジェネティシン(Mediatech、Cat No.61−234 RG)が入っているa−MEM(Welgene、Cat No.LM008−02)選別培地を用いて2つのT175培養容器で底部に90%以上培養されるようにした。0.5%トリプシン(Gibco、Cat No.15400−054)で処理した後、遠心分離を施す。遠心分離によって得た底部の細胞塊りを8mMグルタミン入りのJRH社のEX−CELL CD CHO(Cat No.14360)培養培地で懸濁させた。無血清培地で懸濁された細胞培養液をT175培養溶液に入れてCO2培養器で静置培養を行った。培養約3日後、底部にくっ付くことなく浮遊して成長する細胞を遠心分離した後、新規のT25培養容器に移す。9日後、培養容器から浮遊細胞をさらに回収して細胞数、成長曲線および生存率などを測定した。同一の作業を、細胞分裂が24時間内外で行われ且つ生存率が80%以上となるまで繰り返し行った。無血清培地で完全適応されたX0GC/GEPO9603(DG44)およびX1GC/GEPO9629(DG44)細胞株の発現様相を確認するために、500μL spinner培養容器(Bellco)に1.0×105cells/mLの濃度で200mLの培養培地で50rpmにて攪拌培養を行った。培養7日後、100mLの培養培地を新規の培養培地に変え、培養温度を33℃に低めて低温発現を施した。24時間間隔で培養上清液を取って等電集束を施し、発現するエリトロポエチンの酸性異性体含量を確認した。図12に示すように、無血清培地に完全適応されたX0GC/GEPO9603(DG44)およびX1GC/GEPO9629(DG44)細胞株の場合、既存のcell factoryで生産されたエリトロポエチンと対等な水準の等電集束プロファイルを示していることを確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0037】
上述したように、本発明は、GC−rich配列が一部または全部除去されたジヒドロ葉酸還元酵素プロモーターを含むベクター、および前記ベクターによって形質転換された細胞株を提供する。本発明は、ヒトのエリトロポエチンを生産する細胞株を選別するが、低濃度のジヒドロ葉酸還元酵素阻害剤を短期間使用することにより、高濃度でエリトロポエチンを生産する細胞株の開発期間を短縮させることができる。また、前記細胞株を用いて高効率で所望の組み換えタンパク質を大量生産することができるため、既存の動物細胞発現ベクターで使用する方法中の一つである遺伝子増幅技術をさらに効率よく改善させるという効果がある。
【技術分野】
【0001】
本発明は、組み換えタンパク質を大量生産するためのベクター、組み換えタンパク質を生産するための発現細胞株、並びにこれを用いた組み換えタンパク質を生産および精製する方法に関する。より詳しくは、本発明は、ジヒドロ葉酸還元酵素(dihydrofolate reductase)の転写調節部位であるプロモーターを人為的に弱化させて遺伝子の増幅効率を大幅改善させることが可能なベクター、このベクターで形質転換された動物細胞株、およびこの動物細胞株を用いてタンパク質を発現させ、発現したタンパク質の高糖化型のみを精製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
組み換えタンパク質を大量生産するために、多様なベクターと宿主が用いられており、一般に大腸菌を用いた方法などが広く使われている。糖化が必須的でありあるいは複雑な構造を有するタンパク質を製造する場合は、利用が制限的であるという欠点を持っている。かかる問題点を解決するために、動物細胞株や酵母菌、形質転換動物、形質転換植物などを用いる。
酵母菌の場合、タンパク質の大量生産が容易であるという利点を持っているが、糖化の度合いおよびパターンがヒトとは非常に相違して高い免疫原性を示すものと知られている(Hermeling et al., Pharm. Res. 21(6):897-903(2004))。形質転換動物の場合は、動物自体の管理および病原菌による汚染可能性に関する問題のため、商用化には至っていない。
【0003】
これに対し、動物細胞株を利用する方法は、生産コストが高く、細胞株の製作
に多くの時間と費用がかかるが、生産される組み換えタンパク質がヒトの形態と非常に類似するうえ、安定的な生産および管理が可能なので、組み換えタンパク質の生産に最も広く採用されている。ところが、動物細胞株では、組み換えタンパク質を生産するために形質転換を試みるとき、大部分発現量が少なくて高い生産性を示すことが難しい。したがって、このような問題を解決するために、細胞株内の遺伝子増幅法を利用する。その最も代表的な方法がジヒドロ葉酸還元酵素またはグルタミン合成酵素を用いた遺伝子増幅法であって、組み換えタンパク質の生産量を大きく増加させることができるため、広く使われている。このような遺伝子増幅技術は、生産性を改善させることができるという利点はあるが、高濃度のメトトレキサート(以下、「MTX」と略称する)を使用するために多段階の遺伝子増幅過程を経ることにより製作に多くの時間がかかり、細胞株の長期間継代培養によって遺伝子が消失するうえ、発現量が不安定であるなどの問題点を持っていると知られている。
【0004】
このような短所を改善するために多くの試みが行われている。例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子のプロモーターとして、SV40プロモーターの一部を除去して作ったプロモーターを使用し(韓国登録特許第0162021号)、あるいはCMV(cytomegalovirus)プロモーターのメチル化DNA結合タンパク質に対する親和性を調節するために塩基配列に突然変異を導入する方法(韓国登録特許第0493703号)などが報告されている。場合に応じて、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子の単独プロモーターを使用せず、免疫グロブリン重鎖結合タンパク質の5’−非コード領域をIRES(Internal ribosome entry site)として用いて組み換えタンパク質の転写調節因子によって調節されるようにする方法(韓国登録特許第0184778号)などが報告されている。
【0005】
韓国登録特許第0162021号では、SV40転写調節因子の128〜270部位を除去してプロモーターの活性を調節しようとした。ところが、除去された配列の役割が不明確であり、残存する配列の役割についても言及していない。特に対照群の設定がない条件下に20nM以上の濃度で増幅がそれ以上行われないことを示していないため、既存のジヒドロ葉酸還元酵素プロモーターの活性にどんな変化が起こったのかは勿論のこと、低濃度のMTXを用いて最適の発現を示していないかに関する根拠を提示していない。韓国登録特許第0493703号では、CMVプロモーターのメチル化DNA結合タンパク質に対する結合配列を変異させて効率よく遺伝子を増幅させようとしたが、増幅が発現に及ぼす効果はその他の方法に比べて微弱である。また、韓国登録特許第0184778号のように単独のプロモーターを使用せずIRES配列を用いて発現する場合でも、遺伝子の増幅に用いられるMTXの濃度が数μMに達するだけであり、発現量の増加も30倍の水準に止まっていることが分かる。このように一般なプロモーターの変形のみではジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子の増幅を予測することができず、その適用可能性は実質的に多様な種類のプロモーターを用いて遺伝子増幅を行った場合にのみ判断することができるといえる。
【0006】
本発明の組み換えタンパク質として例示しているヒトのエリトロポエチンは、純粋分子量が約18kDa程度であるが、糖化する場合には約34kDa程度の分子量を有する。これらのエリトロポエチンは、貧血または出血などが発生しあるいは大気中の酸素分圧が低い場合には腎臓で合成され、赤血球の生産を促進しかつ恒常性を維持する役割を果たす。正常人の生体内では約10〜20mIU/mLの濃度で存在し、腎臓に異常が発生する場合には激しい貧血を生じさせる(Jacobsonm et al., Nature, 179:633-634(1957))。したがって、エリトロポエチンは、慢性腎不全および多様な原因による貧血などの治療剤として使われている。過去、エリトロポエチンは動物の血漿、または正常人より高い濃度のエリトロポエチンが生成される再生不良性貧血などの疾患がある患者の血液または尿などから分離して使用したが、これらのエリトロポエチンは安定性が低く、量が足りない。正常人の尿から出るエリトロポエチンの場合は、その濃度が低いうえ、尿に含有されているエリトロポエチン活性阻害剤を除去するための高純度の精製が要求されるという欠点があった(米国特許第4397840号、同第4303650号および同第3865810号参照)。このような方法としては、純粋な高収率のエリトロポエチンを得ることが難しいため、遺伝子組み換え法を用いた方法が開発された。ところが、エリトロポエチンは、生体内の活性に糖化が必須的であって、エリトロポエチン遺伝子をクローニングして大腸菌または酵母で発現させる場合には、糖化がまともに起こらないため、エリトロポエチンの生活性が現れないという問題点がある。したがって、エリトロポエチンの生産には組み換え動物細胞株を用いた方法が必須的に要求される。組み換え動物細胞株を用いてエリトロポエチンを生産する場合には、前述したジヒドロ葉酸還元酵素を用いた遺伝子増幅技術が一般に使われる(Malik et al. DNA and Cell Bio., 6:453-459(1992))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】韓国登録特許第0162021号
【特許文献2】韓国登録特許第0493703号
【特許文献3】韓国登録特許第0184778号
【特許文献4】米国特許第4397840号
【特許文献5】米国特許第4303650号
【特許文献6】米国特許第3865810号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Hermeling et al., Pharm. Res. 21(6):897-903(2004)
【非特許文献2】Jacobsonm et al., Nature, 179:633-634(1957)
【非特許文献3】Malik et al. DNA and Cell Bio., 6:453-459(1992)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような事実に基づき、本発明者は、ジヒドロ葉酸還元酵素構造遺伝子に連結されたプロモーター部位に存在する6個のGC−rich繰り返し配列の役割が転写活性に重要であるというMichel FrommとPaul Bergの研究結果(J. Mol. Appl. Genet. 1983. 2(1):127-135)に基づき、順次GC−rich繰り返し配列を除去することにより、遺伝子増幅および発現がさらに効率的である、動物細胞用発現ベクターを製作し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明の目的は、動物細胞内で組み換えタンパク質を生産するにおいて、より効果的に遺伝子を増幅させることが可能な発現ベクターを提供することにある。
本発明の他の目的は、前記発現ベクターによって形質転換された動物細胞株を提供することにある。
本発明の別の目的は、前記動物細胞株を用いて組み換えタンパク質を大量生産する方法を提供することにある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1はGC−rich配列が順次除去された発現ベクターX1GC/dhfr、X3GC/dhfrおよびX6GC/dhfrのクローニング過程の模式図である。
【図2】図2は6個のGC−rich配列が完全に除去された発現ベクターX0GC/dhfrのクローニング過程の模式図である。
【図3】図3は図1および図2の発現ベクターにgEPO遺伝子をクローニングする過程の模式図である。
【図4】図4は本発明の発現ベクターで形質転換されたそれぞれの細胞株のEPO発現量をELISAで測定した結果である。
【図5】図5は本発明の発現ベクターで形質転換されたそれぞれの細胞株のEPO発現量をELISAで測定した結果である。
【図6】図6は本発明の発現ベクターで形質転換されたそれぞれの細胞株のEPO発現量をELISAで測定した結果である。 図8は増幅されたジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子の発現量をウエスタンブロットで示す結果である。
【図7】図7は本発明の発現ベクターで形質転換されたそれぞれの細胞株のEPO発現量をELISAで測定した結果である。
【図8】図8は増幅されたジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子の発現量をウエスタンブロットで示す結果である。
【図9】図9は実施例6で選別された単クローン細胞株X0GC/GEPO9647(DXB11)を大量培養して合計9回にわたってヒトのエリトロポエチン発現上清液を回収して間接ELISA法で発現量を測定した結果である。
【図10】図10は実施例8で精製された組み換えエリトロポエチのSDS−PAGEおよびウエスタンブロット分析結果である。
【図11】図11は実施例4で精製された組み換えエリトロポエチンの等電集束分析結果である。
【図12】図12は無血清培地に完全適応されたX1GC/GEPO9629(DG44)およびX0GC/GEPO9603(DG44)を培養して発現したエリトロポエチンの等電集束分析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は、ジヒドロ葉酸還元酵素のGC−rich繰り返し配列欠損プロモーターを含む動物細胞株用発現ベクターを提供する。
上述したように、動物細胞株における組み換えタンパク質の高発現を誘導するための一つの方法として、ジヒドロ葉酸還元酵素による遺伝子増幅法が広く使われてきたが、従来の技術によれば、ジヒドロ葉酸還元酵素阻害剤を高濃度で長期間使用することによる細胞株安定化および時間と費用上の問題があった。本発明は、このようなジヒドロ葉酸還元酵素のプロモーター中のGC−rich繰り返し配列を一部または全部欠損させて変異させたジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子を用いた発現ベクターがより短い時間にさらに低いジヒドロ葉酸還元酵素阻害剤を使用する場合にも、より高い効率でジヒドロ葉酸還元酵素および/または前記ベクターに含まれた目的の組み換え遺伝子の発現を誘導することができることを見出した。
【0013】
ここで、GC−rich繰り返し配列とは、ジヒドロ葉酸還元酵素の転写調節因子であるプロモーターに含まれたCCGCCC繰り返し配列を意味する。この繰り返し配列の全部または一部を欠損、変異などによる方法によって人為的に欠損させると、ジヒドロ葉酸還元酵素の発現は最小限に抑えられる。この際、発現が最小に維持された状態でジヒドロ葉酸還元酵素阻害剤を添加する場合、細胞は生存のためにさらに多数のジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子を増幅し、よって、前記ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子を含む発現ベクター内に含まれた目的の組み換え遺伝子も同時に増幅されて高発現するものと観察された。
したがって、本発明の具体的な一様態では、CCGCCC繰り返し配列が少なくとも一つ除去されたプロモーターを含むジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子の塩基配列を含む高発現誘導カセットを提供する。好ましくは、前記高発現誘導カセットは、6個以下のCCGCCC繰り返し配列を含むジヒドロ葉酸還元酵素のプロモーターを含み、さらに好ましくは3個以下のCCGCCC繰り返し配列を含むプロモーターを含み、特に好ましくは1個以下のCCGCCC繰り返し配列を含むプロモーターを含み、さらに特に好ましくはCCGCCC繰り返し配列が全部除去されたプロモーターを含む。
【0014】
これらのCCGCCC繰り返し配列の除去は、当業界における公知の遺伝子組み換え技術による塩基配列の置換や欠損などの方法によって行われ得る。本発明の具体的実施例では、CCGCCC繰り返し配列を含む塩基配列の一部または全部を欠損させる方法によってプロモーター内のGC−rich配列の一部または全部を除去した。
本発明の他の様態では、前記高発現誘導カセットを含む発現ベクターを提供する。
用語「ベクター」は、宿主細胞で目的の遺伝子を発現させるためのビヒクルである。本発明のベクターは、プラスミドベクター、コスミドベクター、バクテリオファージベクター、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターなどのウイルスベクターなどを含み、好ましくはプラスミドベクターである。
前記発現ベクターは、好ましくは目的の組み換えタンパク質をコードする遺伝子をさらに含むことができる。このような発現ベクターを発現させることにより、目的の組み換えタンパク質を高効率で発現させることができる。
【0015】
前記目的の組み換えタンパク質とは、一般に、生理活性ポリペプチドを含む概念である。生理活性ポリペプチドは、ホルモン、サイトカイン、インターロイキン、インターロイキン結合タンパク質、酵素、抗体、成長因子、転写調節因子、血液因子、ワクチン、構造タンパク質、リガンドタンパク質または受容体、細胞表面抗原、受容体拮抗物質などの様々なタンパク質、並びにこれらの誘導体および類似体を含むことができる。そして、生理活性ポリペプチドは、具体的にヒト成長ホルモン、インターフェロン類およびインターフェロン受容体類、コロニー刺激因子、インターロイキン類、エリトロポエチン、インスリン、アンジオテンシン、骨形成成長因子、B細胞因子、T細胞因子、神経成長因子類、細胞表面抗原、モノクローナル抗体、およびウイルス由来ワクチン抗原などを含み、これらに制限されるものではない。当業者は、現在の技術水準でジヒドロ葉酸還元酵素による増幅技術を適用することが可能な組み換えタンパク質を容易に選択することができる。本発明の好適な実施様態において、前記組み換えタンパク質はヒトのエリトロポエチンである。
前記目的の組み換えタンパク質は、前記ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子のプロモーターあるいは別途のプロモーターによって発現が調節できる。好ましくは、前記目的の組み換えタンパク質は別途のプロモーターによって発現が調節される。このようなプロモーターは、当業界に広く知られているもの、例えばサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、LTRプロモーター、EFαプロモーター、SV40プロモーター、およびTKプロモーターよりなる群から当業者が容易に選択して使用することができ、これらに限定されるものではない。
【0016】
本発明の発現ベクターは、動物細胞株における高発現を誘導するためのものであって、好ましくは動物細胞における永久的な発現のための選択標識因子として使われる動物細胞株用抵抗性遺伝子をさらに含むことができる。前記動物細胞株用抵抗性遺伝子としては、通常、当業界で使用する動物細胞株用抵抗性遺伝子であるネオマイシン抵抗性遺伝子、ゼオマイシン抵抗性遺伝子、ハイグロマイシン抵抗性遺伝子およびブラストマイシン抵抗性遺伝子などがあり、これらに限定されるものではない。
この他にも、本発明の発現ベクターは、一般なベクターの構成要素、例えば複製原点や多重アデニル化信号、その他の転写調節因子などをさらに含むことができ、これらに限定されるものではない。
本発明の別の様態では、本発明に係る前記発現ベクターで形質転換された細胞株を提供する。
【0017】
具体的な一様態として、本発明は、ジヒドロ葉酸還元酵素のプロモーター中のCCGCCC繰り返し配列を一つのみ有する高発現誘導カセット、およびCCGCCC繰り返し配列を全く含まない高発現誘導カセットをそれぞれ製造し、これらの発現カセットを含む発現ベクターによって形質転換されたE.coli細胞株を提供する。このような形質転換されたE.coli細胞株は、2006年10月2日付で韓国大田広域市儒城区に所在の生命工学研究院内の遺伝子銀行に受託番号KCTC10991BPおよびKCTC10992BPとしてそれぞれ寄託した。これらのE.coli細胞株は、所望する目的の組み換えタンパク質の高発現を誘導するために、前記細胞株から、前記高発現誘導カセットを含む発現ベクターを分離し、遺伝子組み換え技術などによるクローニング方法によって目的の組み換えタンパク質をコードする遺伝子をさらに含む発現ベクターの製作に利用可能である。
【0018】
本発明の別の具体的な様態では、目的の組み換えタンパク質をコードする遺伝子をさらに含む発現ベクターによって形質転換された細胞株を提供する。
好適な一様態において、これら目的の組み換えタンパク質は動物細胞株における発現が要求される。このような目的に鑑みて、本発明で使用可能な好適な動物細胞株としては、CHO細胞株、COS7(Monkey kidney cells)細胞株、NSO細胞株、SP2/O細胞株、W138細胞株、BHK(Baby hamster kidney)細胞株、MDCK、骨髄腫細胞株、HuT78細胞株、および293細胞株などを含むことができ、これらに限定されない。当該技術分野における通常の知識を有する者であれば、本発明のジヒドロ葉酸還元酵素を用いた増幅技術に適用可能な適正の動物細胞株を容易に選択することができる。
本発明の具体的な様態では、前記動物細胞株としてCHO細胞株を使用し、より具体的にはジヒドロ葉酸還元酵素が欠損したチャイニーズハムスター卵巣細胞 株(CHO/dhfr−)を使用した。すなわち、ジヒドロ葉酸還元酵素が欠損したCHO細胞株を、ヒトの組み換えエリトロポエチンをコードする遺伝子を含む本発明に係る発現ベクターで形質転換することにより、100nM以下、好ましくは50nM以下の低いメトトレキサート濃度でも十分な数の遺伝子が増幅されて生産性が検証された動物細胞株を提供する。後述の実施例に詳しく記述するようなこれらの細胞株は、2006年10月2日付で韓国大田広域市儒城区に所在の生命工学研究院内の遺伝子銀行に受託番号KCTC10993BP、KCTC10994BPおよびKCTC10995BPとして寄託した。
【0019】
本発明の別の様態では、本発明に係るGC−rich配列が一部または全部除去されたプロモーターを含むジヒドロ葉酸還元酵素をコードする遺伝子を含む本発明の動物細胞用発現ベクターで動物細胞株を形質転換する段階と、前記形質転換された動物細胞株を培養する段階とを含む、組み換えタンパク質の製造方法を提供する。
本発明において、動物細胞株への「形質転換」は、核酸を有機体、細胞、組織または器官に導入するいずれの方法も含み、当分野における公知の動物細胞株に応じて適切な標準技術を選択して行うことができる。細胞壁がない哺乳動物細胞の場合、リン酸カルシウム沈殿法を使用することができる(Graham et al., 1978, Virology, 52:456-457)。哺乳動物宿主細胞への形質転換の一般な方法および特徴は、米国特許第4,399,216号に記載されている。具体的に、本発明では、組み換えタンパク質を発現させるベクターをリポフェクタミンを用いてCHO細胞内に取り込んだ。また、本発明において、動物細胞株の培養は当業界における公知の適切な培地と培養条件に応じて行われ得る。このような培養過程は、当業者であれば、選択される動物細胞株に応じて容易に調整して使用することができる。細胞の成長方式によって、懸濁培養または付着培養を回分培養式、流加培養式および連続培養式の方法で行う。培養に使用される培地は、特定細胞株の要求条件を適切に満足させなければならない。
【0020】
動物細胞培養において、前記培地は、様々な炭素源、窒素源および微量元素成分を含む。使用可能な炭素源の例には、例えばグルコース、スクロース、ラクトース、フルクトース、マルトース、澱粉、セルロースなどの炭水化物、例えば大豆油、ヒマワリ油、ヒマシ油およびココナツ油などの脂肪、例えばパルミチン酸、ステアリン酸およびリノール酸などの脂肪酸、例えばグリセロールおよびエタノールなどのアルコール、および例えば酢酸などの有機酸が含まれる。これらの炭素源は単独でまたは組み合わせて使用可能である。使用可能な窒素源の例には、例えばペプトン、酵母抽出物、肉汁、麦芽抽出物、コーンスティープリカー(CSL)および大豆ホエーなどの有機窒素源、および例えば尿素、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウムおよび硝酸アンモニウムなどの無機窒素源が含まれる。これらの窒素源は単独でまたは組み合わせて使用できる。その他に、アミノ酸、ビタミンおよび適切な前駆体などが含まれ得る。
また、前記培地には、メトトレキサートなどのジヒドロ葉酸還元酵素阻害剤が添加できる。なぜなら、前述したように、本発明の好適な実施例に係るタンパク質組み換え方法は、ジヒドロ葉酸還元酵素が欠損した動物細胞株を本発明に係る発現ベクターで形質転換し、組み換え遺伝子を増幅するためにジヒドロ葉酸還元酵素阻害剤を添加してベクター内のジヒドロ葉酸還元酵素が増幅されて選択できるようにするシステムを短期間に効率よく実現することを目的とするためである。
【0021】
本発明の好適な具現例によれば、ジヒドロ葉酸還元酵素阻害剤の場合、細胞株の安定性と経済性を考慮して出来る限り低濃度で短期間使用することが好ましい。すなわち、低濃度でジヒドロ葉酸還元酵素阻害剤を使用することにより、大量生産する場合の安定性を確保し、生産細胞株の開発期間を短くすることを可能にする。具体的に、本発明は、ジヒドロ葉酸還元酵素が欠損したCHO細胞を前記組み換えタンパク質発現ベクターで形質転換し、濃度100nM以下、好ましくは50nM以下のメトトレキサートを使用することにより、組み換えタンパク質を製造する方法を提供する。
また、本発明の更なる一様態において、前述した細胞株からエリトロポエチンを生産する場合、生産されたエリトロポエチンのうち、シアル酸を大量含有して優れた物性を有するシアル酸高含有エリトロポエチンを大量で精製する段階をさらに含むことができる。
【0022】
本発明の一実施例では、ジヒドロ葉酸還元酵素のプロモーターのうち、GC−rich配列を人為的に欠損させて発現が最小限に抑えられるようにした後、ジヒドロ葉酸還元酵素阻害剤を添加して遺伝子を増幅させた。遺伝子増幅された細胞株の一つの細胞から起源したクローンを得るために限界希釈を行って単クローン細胞株を獲得し、これを大量培養して無血清培地で組み換えヒトエリトロポエチンを生産した。この際、低塩濃度で溶出されるエリトロポエチンがシアル酸含有量の高い分画であり、高塩濃度で溶出されるエリトロポエチンがシアル酸含有量の低い分画であることを利用して、カラムボリュームの濃度勾配を適用してエリトロポエチンを溶出させてシアル酸高含有エリトロポエチンを精製して活性を確認した。
【0023】
以下、実施例によって本発明をより詳しく説明する。これらの実施例は本発明を具体的に例示するためのものに過ぎず、限定するものではない。
実施例1:GC−rich繰り返し配列が順次除去された発現ベクターの製造
GC−rich繰り返し配列が欠損したプロモーターによって発現するジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子カセット構造を次のように作る。ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子を増幅させるために、pSV2−dhfr(ATCC No.37146)プラスミドからSmaI制限酵素認識部位を有するプライマーdhfr 01(5’−GCG CCC GGG ATG GTT CGA CCA TTG AAC TGC−3’)とBstBI制限酵素認識部位を有するプライマーdhfr−02(5’−CAC TTA GAA CCT GTT AGT CTT TCT TCT CGT AGA C−3’)を用いてPCRを行う。そして、PCRによって得られた約200bpの増幅産物を1%アガロースゲルで電気泳動した後、QIAGEN社のゲル抽出キット(cat No.28706)を用いて回収した。回収した遺伝子断片は、Qiagen社のpDRIVEベクターに直接挿入してクローニングし、塩基配列分析を行って誤りがないことを確認した。塩基配列が確認されたpDRIVE−dhfrプラスミドからジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子を制限酵素SmaI/BstBIで切断し、1.5%アガロースゲルで電気泳動した後、約200bpの遺伝子断片をQIAGEN社のゲル抽出キット(cat No.28706)を用いて回収した。このような方法で得られたジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子断片は、Invitrogen社のpcDNA3.1ベクターのネオマイシン遺伝子配列を同一の制限酵素で切断して置換した。このようにクローニングされたpcDNA3.1−dhfrプラスミドを鋳型として、BamHI制限酵素認識部位を有しかつジヒドロ葉酸還元酵素プロモーターのそれぞれ異なるGC−rich繰り返し配列に相補的なプライマー×1GC(5’−TCA GGA TCC ATT CTC CGC CCC ATG GCT GAC TAA−3)、×3GC(5’−CAT GGA TCC TAA CTC GGC CCA GTT CCG CCC ATT CT−3’)、×6GC(5’−CAT GGA TCC CAT AGT CCC GCC CCT AAC TCC GCG C−3’)と、BamHI制限酵素認識部位を有しかつジヒドロ葉酸還元酵素に構造的に連結されたポリアデニル化信号配列に相補的なプライマーBISVpAR(5’−TCA GGA TCC CAG ACA TGA TAA GAT ACA TTG ATG−3’)を用いたPCRを行うことにより、GC−rich繰り返し配列が順次一部損失したそれぞれ異なる3つの大きさの遺伝子カセットを得た。この遺伝子カセットを、BglII制限酵素で切断したInvitrogen社のpcDNA3.1ベクターに挿入してクローニングした後、制限酵素地図法を用いて、ベクターのCMVプロモーターと同一の方向性を持つクローンを選別した。これにより、X1GC/dhfr、X3GC/dhfrおよびX6GC/dhfrプラスミドを製造した。それぞれのプラスミドは、ヒトゲノムDNA由来のエリトロポエチン遺伝子をクローニングすることに使用した。また、GC−rich繰り返し配列が完全に除去された対照群発現ベクターを製作するために、次のようにクローニングを行った。
【0024】
ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子とSV40ウイルスポリアデニル化配列を得るために、BamHI制限酵素認識部位を含むプライマーX0GC(5’−CGA TGG ATC CGA CAT GAT AAG ATA CAT TGA T−3’)とX0GCRR(5’−CGT TGG ATC CAC AGC TCA GGG CTG CGA TTT C−3’)を製作した。pSV2−dhf2プラスミドを鋳型としてPCRを行うことにより、SV40ウイルスポリアデニル化配列からジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子の5’−非コード領域に至る配列1.5kbの増幅産物を得た。この遺伝子断片を1%アガロースゲルで電気泳動した後、ゲル抽出キット(QIAGEN、cat No.28706)を用いて回収し、制限酵素BglIIで切断したpcDNA3.1(Invitrogen社)部位に挿入した。制限酵素地図法を用いて、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子がCMVプロモーターと反対方向に位置したクローンを選別した。幾つかの制限酵素認識部位を除去するために、ベクターのマルチクローニグサイトを制限酵素NdeIとDraIIIで切断し、Invitrogen社のpRcCMVベクターを、同一の方法で切断した断片に置換した。これにより、X0GC/dhfrベクターを製作した。
以上のクローニング模式図を図1および図2にまとめた。
【0025】
実施例2:gEPO遺伝子のクローニング
pCI−neo/gEPOプラスミドをXhoI/EcoRI制限酵素で切断し、DNAポリメラーゼIクレノウ断片(DNA polymerase I Klenow fragment)で接着末端を平滑末端に作った後、0.7%アガロースゲルで電気泳動して、ヒトのエリトロポエチンゲノム遺伝子に該当する約2.2KbのDNA断片をゲル抽出キット(QIAGEN社、cat No.28706)を用いて回収した。Invitrogen社のpRcCMVベクターをEcoRVで切断し、QIAGEN社のPCR精製キット(cat No.28106)で回収した後、EcoRV切断部位に前記エリトロポエチンゲノム遺伝子を接合させてクローニングした。制限酵素地図法を用いて、ベクターのエリトロポエチンゲノム遺伝子がCMVプロモーターと同一の方向性を持つクローンを選別した。実施例1のX0GC/dhfr、x1GC/dhfr、x3GC/dhfr、x6GC/dhfrベクターをBamHI/XhoI制限酵素で切断し、0.7%アガロースゲルで電気泳動した後、ゲル抽出キット(QIAGEN社、cat No.28706)を用いて回収した。同一の方法で、pRcCMVベクターにクローニングしたエリトロポエチンゲノム遺伝子断片を回収し、切断したx0GC/dhfr、x1GC/dhfr、x3GC/dhfrおよびx6GC/dhfrベクターのマルチクローニングサイトのBamHI/XhoI位置に挿入してサブクローニングを行った。得られたクローンの塩基配列を分析て誤りのないことを確認し、これをそれぞれX0GC/GEPO、X1GC/GEPO、X3GC/GEPOおよびX6GC/GEPOと命名した。以上のクローニング過程を図3にまとめ、それぞれの最終配列を配列目録に表示した。
【0026】
実施例3:ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子欠損CHO細胞株の形質転換
ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子が欠損したCHO細胞株CHO/DXB11ストレインとCHO/DG44ストレインを、10%ウシ胎仔血清(Welgene、Cat No.S101−01)と1%フェニシリン−ストレプトマイシン(Gibco、Cat No.15140−122)が含まれたDMEM/F12培地(Welgene、Cat No.LM002−04)に接種して37℃、5%CO2恒温器で継代培養した。前記X0GC/GEPO、X1GC/GEPO、X3GC/GEPOおよびX6GC/GEPOプラスミドでそれぞれのジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子欠損CHO細胞株を形質転換するために、直径6cmの細胞培養皿に1×106細胞を接種し、37℃、5%CO2恒温器で24時間培養した後、Gibco社のOpti−MEM培地(Gibco、Cat No.31985−070)で2回洗浄した。10μgのそれぞれのプラスミドが入っている3つの1mLのOpti−MEMにLipofectamineTM Reagent(Invitrogen、Cat No.18324−020)1mLを混合して常温で20分間静置反応させた後、準備されたジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子欠損CHO細胞に均一に点滴し、18時間37℃、5%CO2恒温器で培養する。そして、さらに10%ウシ胎仔血清と1%フェニシリン−ストレプトマイシンが含まれたDMEM/F12培養培地で交換して48時間培養した。形質転換された細胞株を選別するために、10%透析ウシ胎仔血清(Welgene)、1%フェニシリン−ストレプトマイシンおよび800μg/mLのジェネティシン(Mediatech、Cat No.61−234RG)が入っているα−MEM(Welgene、Cat No.LM008−02)選別培地で0.5%トリプシン−EDTA(Gibco、Cat No.15400−054)処理と遠心分離によって得られた細胞株を全てT25細胞培養容器に移して接種する。そして、37℃、5%CO2恒温器で培養し、形質転換されてジェネティシン(geneticin)で選別された細胞株が培養容器に90%以上となるように培養した。同一濃度のジェネティシンと培養条件で細胞株を選別し、GC繰り返し配列がさらに多く除去された細胞株で選別効果が速く現れることを観察することができた。ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子欠損CHO細胞株のストレイン間の有意的差異は発見されなかった。
【0027】
実施例4:組み換え細胞株の選別とエリトロポエチン遺伝子の増幅
前記で形質転換されてジェネティシン(geneticin)で選別されたそれぞれの細胞株(CHO/DXB11ストレイン)またはCHO/DG44ストレイン)のエリトロポエチン発現量を増加させるために、メトトレキサート(MTX、Sigma、Cat No.M−8407)が20nMの濃度で添加された選別培地(前記選別培地と同一)を含む24−well培養容器に2×104細胞を接種した後、37℃、5%CO2恒温器で2週間培養した。エリトロポエチンの発現量が高い細胞株を選別するために、ウェルの底部が100%覆われるように培養された細胞株をPBS(Welgene、Cat No.LB001−02)で2回洗浄した後、エリトロポエチン生産培地であるCHO−A−SFM(Gibco、Cat No.05−5072EF)を200μL/ウェルとなるように添加する。そして、24時間培養した培養上清液を回収して間接ELISA(EPO ELISA kit、R&D、Cat No.DEP00)方法で発現量を測定した。メトトレキサート濃度を30nMに上げた後、同一の選別培地で再び2週間培養を行い、それぞれの細胞株のエリトロポエチン発現量をELISA(Enzyme linked immunosorbent assay)キット(R&D systems cat#DEP00)で測定して比較した。ELISAで測定された発現量は、図4〜図7に示すように、全般的にX0GC/GEPOとX1GC/GEPOが同一濃度のMTX条件で最も高い発現量を示しており、これに続いてX3GC/GEPOとX6GC/GEPOがある。このような事実は、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子のGC繰り返し配列を多く除去すればするほど、同一濃度のメトトレキサート存在の際に遺伝子増幅が多く起こる場合を示している。また、GC繰り返し配列が完全に除去されたX0GC/GEPOでも効率的な遺伝子増幅が起こることを確認することができた。したがって、GC繰り返し配列は最小に維持されるときにその増幅効果が最大に維持されるということを確認することができた。また、最大に遺伝子発現が起こるメトトレキサートの濃度を確認するために、選別培地内のメトトキレサートの濃度をさらに40nMから60nMまで増加させてみたが、有意すべき水準の発現量増加または酸性異性体の含量変化は起こらないことを確認した。本結果に基づき、実施例6と同様に、X0GC/GEPOおよびX1GC/GEPOで形質転換された2つの細胞株ストレインに対して限界希釈を施した。
【0028】
実施例5:ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子の増幅確認
実施例4で得られたそれぞれの細胞をD−PBS溶液で1回洗浄し、トリプシン−EDTAを処理して培養フラスコから回収した後、1000rpmで3分間遠心分離して細胞を得た。これをさらにD−PBSで1回洗浄し、血球計(Incyto社)で細胞数を数えて3×106個の細胞を分離し、遠心分離して細胞沈殿を得た。得られた細胞は、それぞれ1.5mLの細胞溶解緩衝液(PBS、5mM EDTA、1%NP−40)で懸濁し、4℃で30分間溶解させた後、12,000rpmで10分間遠心分離して上清液を得た。
12.5%SDSポリアクリルアミドゲルを製作し、それぞれの細胞溶解液と陰性対照群としてのCHO/dhfr−細胞溶解液を20μLずつ取ってサンプル緩衝液10μLと混合して100℃で5分間前処理した後、ゲルにロードした。陽性対照群として、20ng〜100ngのジヒドロ葉酸還元酵素(Sigma社、cat No.D6566)をサンプル緩衝液と混合してSDSポリアクリルアミドゲルにロードした。ロードしたゲルを30mAの電流で電気泳動した後、ゲルを分離してセミポアウエスタンブロットユニット(SEMI−PHOR、Hoefer社)にPVDF濾紙およびWhatman3M紙と重ねて装着し、90mAで1時間タンパク質をPVDF濾紙に移動させた。その後、タンパク質が移動したPVDF濾紙を分離し、0.5%脱脂油が含まれたTBS−T溶液10mLに抗−ジヒドロ葉酸還元酵素マウス抗体(BD Biosciences社、cat No.610697)を1:500の割合で添加した溶液で1時間攪拌しながら反応させた。TBS−T溶液で10分ずつ5回洗浄した後、0.5%脱脂油の含まれたTBS−T溶液10mLに、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(horseradish peroxidase)が標識された抗−マウス抗体(Amersham Biosciences社、cat No.RPN2108に含む)を1:3000の割合で添加した溶液で1時間攪拌しながら反応させた。さらにTBS−T溶液で10分ずつ5回洗浄した後、ECLウエスタンブロット分析システム(ECL Western Blotting Analysis System)(Amersham Biosciences社、cat No.RPN2108)の試薬1と試薬2を1:1で混合してPVDF濾紙上に撒いて1分間放置して反応させた。反応直後、X線フィルムで感光し、現像して判読した。ウエスタンブロット結果は図9に示した。図9の結果より、形質転換によってdhfr遺伝子の発現量が増加したことが分かった。同一の細胞数でX0GC/GEPOまたはX1GC/GEPOにおけるdhfr発現がさらに高いことが分かった。
【0029】
実施例6:単クローン細胞株の分離および選択
実施例4で最も発現量が高かったウェルのX0GC/GEPOとX1GC/GEPO細胞株を6ウェル培養容器に移して培養した。単クローンを分離するために、96ウェル培養容器に、ウェル当たり0.5細胞となるようにメトトレキサートが添加された選別培地でそれぞれの細胞株を限界希釈して接種した。37℃、5%CO-22恒温器で約2〜3週間培養し、単一コロニーが生成されたウェルのみを選別し、24ウェル培養容器に移して培養することにより、実施例4と同様に間接ELISA方法でエリトロポエチンの発現量を測定した。
これらの中から、高い発現量を示しながら等電集束二量体中の酸性異性体の割合も高いX0GC/GEPO9647(DXB11)、X1GC/GEPO9629(DG44)およびX0GC/GEPO9603クローンを最終単クローン細胞株として分離および選択し、時間による発現量と等電集束二量体パターンを分析した。
X0GC/GEPO9647(DXB11)の場合、細胞株当たりの発現量は約80μg/10E6cell/dayで測定された。このように本実施例で使用されたX0GC/GEPOまたはX1GC/GEPOの場合は、2段階の遺伝子増幅のみでも高発現細胞株を獲得することが可能な方法を可能にして低いパッセージ(passage)のみでもタンパク質生産用単クローン生産細胞株を製作することが可能であることを示している。
【0030】
実施例7:単クローン細胞株の大量培養
ヒトのエリトロポエチンを大量生産するために、実施例6で選別された単クローン細胞株のうちX0GC/GEPO9647(DXB11)を一つのT175培養容器で段階的に継代培養し、合計120個のT175培養容器まで増幅を行った。一つのCell Factory当たり約2.5×108個の細胞株を接種し、合計8個のCell Factory(Nunc、Cat No.170009)を接種した後、37℃、5%CO2恒温器で約48時間培養した。リン酸緩衝液でCell Factory1個当たり1Lずつ2回水洗した後、0.3mM酪酸ナトリウム(Sigma、Cat No.B−5887)の添加されたエリトロポエチン大量生産培地としての無血清CHO−A−SFM(Gibco Fomula No.05−5072EF)を1Lずつ仕込み、33℃、5%CO-2恒温器で培養した。そして、2日ごとに合計9回ヒトのエリトロポエチン発現上清液を回収した。回収された発現上清液は遠心分離機と0.2μmの濾紙を用いて細胞残存物などの固形浮遊物を除去した。回収された発現上清液の一部を取って間接ELISA方法で発現量を測定し、等電集束を施して酸性の等電集束二量体の含有量などを分析した。図10の結果より、大量培養においても40〜50mg/L水準の発現量を維持していることが分かった。そして、シアル酸高含有量の尺度になれる6番〜8番異性体の含有量が別途の精製過程を経ていないにも拘らず高いことが分かった。
【0031】
実施例8:シアル酸高含有ヒトエリトロポエチンの分離精製
実施例7で生産された細胞培養液内に存在する浮遊物を除去するために、Beckman社のXL−90遠心分離機を用いてJLA−8.1000ローターで7000rpmにて遠心分離した。そして、上清液を回収した後、0.2μmの濾紙で濾過した後、限外濾過膜(ultrafiltration membrane)を用いて10分の1のボリュームで濃縮を行った。濃縮液に同量の20mMリン酸ナトリウムpH7.4バッファを混ぜ、Amersham社のBlue FFカラムを20mMリン酸ナトリウムpH7.4バッファで平衡化させ、前記エリトロポエチン含有液を適用する。次いで、カラムを20mMリン酸ナトリウム(pH7.4)の5カラムボリュームで洗浄した後、2M NaClと20mMリン酸ナトリウム(pH7.4)をBバッファとして2カラムボリュームの濃度勾配を適用してエリトロポエチンを溶出させた。
【0032】
エリトロポエチン分画が主要分画となる部分を集め、Sephardex G25カラムを用いてエリトロポエチン含有溶液の20mMリン酸ナトリウムpH5.4バッファで脱塩し、溶液pのpHを変えた。このエリトロポエチン含有溶液を、20mMリン酸ナトリウムpH5.4で平衡化されたAmersham社のSP HPカラムに適用し、20mMリン酸ナトリウムpH5.4バッファで5カラムボリュームだけ洗浄した後、1M NaCl、20mMリン酸ナトリウムpH7.4バッファをBバッファとして12カラムボリュームの濃度勾配を適用してエリトロポエチンを溶出させた。この際、低塩濃度で溶出されるエリトロポエチンはシアン酸含有量の高い分画であり、高塩濃度で溶出されるエリトロポエチンはシアル酸含有量の低い分画であるが、全体分画の30%に相当する、高塩濃度で溶出される分画は排除し、残りの分画のみを取った。SP HPカラムで精製したエリトロポエチン分画は、さらに10mM Tris、pH7.5バッファで平衡化されたSephardex G25カラムを用いて塩を除去し、バッファを変える。これを10mM Tris pH7.5バッファで平衡化されたAmersham社のSource15Qカラムに適用し、0.25M NaCl、10mM Tris、pH7.5バッファをBとして6カラムボリューム の濃度勾配を適用してエリトロポエチンを溶出させた。エリトロポエチンが溶出される部分を15個以上に分画し、各分画をSDS−PAGE、等電集束とキャピラリーゾーン電気泳動(CZE)を用いて電荷異性体分布を分析した。各分画は不純物がなく、10個のシアル酸モイエティ(moiety)を有するエリトロポエチンが最も多く含有された分画から高塩濃度分画を集めて取った。以上の精製過程を施した結果、シアル酸が10モル以上含有された組み換えヒトエリトロポエチンの生産性は約20μg/mLに達すると調査された。
【0033】
実施例9:ヒトエリトロポエチンの特性確認
1)SDS−PAGEおよびウエスタンブロット分析
実施例8で精製された組み換えエリトロポエチンを2つの12%SDS−PAGEで電気泳動した。1つのゲルは、コマシーブリリアントブルー (Coomassie Brilliant Blue)染色液で染色し、脱色を施して観察した。残り一つのゲルはセミドライ電気転移機を用いてPVDF膜に吸着させる。抗ヒトEPO抗体(R&D systems、cat No.AB−286−NA)を1:5,000で処理した後、洗浄を施し、アルカリ性ホスファターゼが接合された抗マウスウサギ抗体(Amersham、cat No.NA934V)を処理した。0.5%Tween20含有のリン酸緩衝液で十分に洗浄した後、Amersham社の発色試薬(cat No.RPN2108)で処理し、しかる後に、暗室でフィルム感光を施し、自動現像機を用いて現像を施した。分析結果、SDS−PAGEのバンドがエリトロポエチンであることと、糖化の度合いによって大きさが異なることを確認することができた(図10参照)。
【0034】
2)等電集束分析(IEF)
細胞培養濃縮液、および実施例4で精製された組み換えエリトロポエチンを試料緩衝液(Invitrogen、Cat No.LC5371)と1:1で混ぜた後、等電集束ゲル(Invitrogen、Cat No.EC6655B)にBRP(Cat No.E1515000)標準品および等電集束基準物質と共にロードし、低電圧と高電圧で順次電気泳動を施した。電気泳動済みの等電集束ゲルを12%TCAと3%スルホサリチル酸含有の固定溶液で30分間振とうしながら固定し、コマシーブリリアントブルーR250(Amresco、Cat No.6104−59−2)染色液で染色を行う。そして、それぞれの等電点に該当するエリトロポエチンを観察した(図11参照)。
【0035】
3)TF−1細胞株を用いた力価と活性の分析
10%ウシ胎仔血清、10μM β−メルカプトエタノール、20μg/mLトランスフェリンおよび12ng/mLのGM−CSFなどが含有されたRPMI1640(Welgene、Cat No.LM 011−03)で成長したTF−1(ATCC、Cat No.CRL−2003)を1,000rpmで5分間遠心分離して回収する。回収されたTF−1細胞株はリン酸緩衝溶液で2回洗浄を行い、2%ウシ胎仔血清、100μg/mLトランスフェリン、2mg/mLプロテアーゼ−フリー(protease-free)牛血清、および1%フェニシリン/ストレプトマイシンが入っているアッセイ培地で1回洗浄した。96ウェルプレートに50μLのアッセイ培地を添加し、第1のウェルに25μLの試料と標準品を入れて最終濃度が1μg/mLとなるようにした後、3倍ずつ連続的に希釈を行った。各ウェルに、アッセイ培地で洗浄したTF−1細胞株を、2×104/50μL/ウェルとなるように加えた。37℃、5%CO2培養器で約72時間反応させた後、Promega社のcell titer one solutionキット(Cat No.G4102)の発色溶液を各ウェル当たり20μLずつ添加した。4時間37℃、5%CO2培養器で発色を施した後、よく混ぜて490nm波長における吸光度をMolecular Dynamics社のELISAリーダーで測定した。本試験によって、X0GC/GEPO由来の組み換えエリトロポエチン活性は標準品のそれと差異がないことを確認することができた。
【0036】
実施例10:単クローン細胞株の無血清培地適用
X1GC/GEPO9629(DG44)とX0GC/GEPO9603(DG44)ストレインを10%透析ウシ胎仔血清(dialyzed fetal bovine serum)、1%フェニシリン−ストレプトマイシンおよび800μg/mLのジェネティシン(Mediatech、Cat No.61−234 RG)が入っているa−MEM(Welgene、Cat No.LM008−02)選別培地を用いて2つのT175培養容器で底部に90%以上培養されるようにした。0.5%トリプシン(Gibco、Cat No.15400−054)で処理した後、遠心分離を施す。遠心分離によって得た底部の細胞塊りを8mMグルタミン入りのJRH社のEX−CELL CD CHO(Cat No.14360)培養培地で懸濁させた。無血清培地で懸濁された細胞培養液をT175培養溶液に入れてCO2培養器で静置培養を行った。培養約3日後、底部にくっ付くことなく浮遊して成長する細胞を遠心分離した後、新規のT25培養容器に移す。9日後、培養容器から浮遊細胞をさらに回収して細胞数、成長曲線および生存率などを測定した。同一の作業を、細胞分裂が24時間内外で行われ且つ生存率が80%以上となるまで繰り返し行った。無血清培地で完全適応されたX0GC/GEPO9603(DG44)およびX1GC/GEPO9629(DG44)細胞株の発現様相を確認するために、500μL spinner培養容器(Bellco)に1.0×105cells/mLの濃度で200mLの培養培地で50rpmにて攪拌培養を行った。培養7日後、100mLの培養培地を新規の培養培地に変え、培養温度を33℃に低めて低温発現を施した。24時間間隔で培養上清液を取って等電集束を施し、発現するエリトロポエチンの酸性異性体含量を確認した。図12に示すように、無血清培地に完全適応されたX0GC/GEPO9603(DG44)およびX1GC/GEPO9629(DG44)細胞株の場合、既存のcell factoryで生産されたエリトロポエチンと対等な水準の等電集束プロファイルを示していることを確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0037】
上述したように、本発明は、GC−rich配列が一部または全部除去されたジヒドロ葉酸還元酵素プロモーターを含むベクター、および前記ベクターによって形質転換された細胞株を提供する。本発明は、ヒトのエリトロポエチンを生産する細胞株を選別するが、低濃度のジヒドロ葉酸還元酵素阻害剤を短期間使用することにより、高濃度でエリトロポエチンを生産する細胞株の開発期間を短縮させることができる。また、前記細胞株を用いて高効率で所望の組み換えタンパク質を大量生産することができるため、既存の動物細胞発現ベクターで使用する方法中の一つである遺伝子増幅技術をさらに効率よく改善させるという効果がある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジヒドロ葉酸還元酵素をコードする塩基配列、および該塩基配列に連結された、一つ以上のCCGCCC繰り返し配列が除去されたジヒドロ葉酸還元酵素プロモーターの塩基配列を含む、高発現誘導カセット。
【請求項2】
前記ジヒドロ葉酸還元酵素のプロモーターが1つ以下のCCGCCC繰り返し配列を含む、請求項1に記載の高発現誘導カセット。
【請求項3】
配列番号7〜10よりなる群から選ばれる塩基配列を有する、請求項1に記載の高発現誘導カセット。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項の高発現誘導カセットを含む発現ベクター。
【請求項5】
生理活性ポリペプチドをコードする遺伝子をさらに含む、請求項4に記載の発現ベクター。
【請求項6】
前記生理活性ポリペプチドがヒトのエリトロポエチンであることを特徴とする、請求項5に記載の発現ベクター。
【請求項7】
配列番号1〜4よりなる群から選ばれる塩基配列を有する、請求項6に記載の 発現ベクター。
【請求項8】
配列番号5または6の塩基配列を有する、請求項4に記載の発現ベクター。
【請求項9】
請求項8の発現ベクターによって形質転換された細胞株。
【請求項10】
受託番号がKCTC10991BPまたはKCTC10992BPである、請求項9に記載の細胞株。
【請求項11】
請求項5〜7のいずれか1項の発現ベクターによって形質転換された細胞株。
【請求項12】
前記細胞株がCHO細胞株であることを特徴とする、請求項11に記載の細胞株。
【請求項13】
前記CHO細胞株はジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子が欠損したものであることを特徴とする、請求項12に記載の細胞株。
【請求項14】
受託番号がKCTC10993BP、KCTC10994BPまたはKCTC10995BPである、請求項12に記載の細胞株。
【請求項15】
(a)CCGCCC繰り返し配列が一部または全部除去されたプロモーターを含むジヒドロ葉酸還元酵素をコードする遺伝子を含む発現ベクターで動物細胞株を形質転換する段階と、
(b)ジヒドロ葉酸還元酵素阻害剤の存在下に、前記形質転換された動物細胞株を培養する段階とを含む、組み換えタンパク質の製造方法。
【請求項16】
組み換えタンパク質がヒトのエリトロポエチンである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
シアル酸高含有のエリトロポエチンを精製する段階をさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
発現ベクターが図1に記載の発現ベクターである、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
段階(a)の動物細胞株がジヒドロ葉酸還元酵素欠損CHO細胞株であることを特徴とする、請求項15または16に記載の方法。
【請求項20】
段階(b)の形質転換された動物細胞株が受託番号KCTC10993BP、KCTC10994BPまたはKCTC10995BPの動物細胞株である、請求項15に記載の方法。
【請求項1】
ジヒドロ葉酸還元酵素をコードする塩基配列、および該塩基配列に連結された、一つ以上のCCGCCC繰り返し配列が除去されたジヒドロ葉酸還元酵素プロモーターの塩基配列を含む、高発現誘導カセット。
【請求項2】
前記ジヒドロ葉酸還元酵素のプロモーターが1つ以下のCCGCCC繰り返し配列を含む、請求項1に記載の高発現誘導カセット。
【請求項3】
配列番号7〜10よりなる群から選ばれる塩基配列を有する、請求項1に記載の高発現誘導カセット。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項の高発現誘導カセットを含む発現ベクター。
【請求項5】
生理活性ポリペプチドをコードする遺伝子をさらに含む、請求項4に記載の発現ベクター。
【請求項6】
前記生理活性ポリペプチドがヒトのエリトロポエチンであることを特徴とする、請求項5に記載の発現ベクター。
【請求項7】
配列番号1〜4よりなる群から選ばれる塩基配列を有する、請求項6に記載の 発現ベクター。
【請求項8】
配列番号5または6の塩基配列を有する、請求項4に記載の発現ベクター。
【請求項9】
請求項8の発現ベクターによって形質転換された細胞株。
【請求項10】
受託番号がKCTC10991BPまたはKCTC10992BPである、請求項9に記載の細胞株。
【請求項11】
請求項5〜7のいずれか1項の発現ベクターによって形質転換された細胞株。
【請求項12】
前記細胞株がCHO細胞株であることを特徴とする、請求項11に記載の細胞株。
【請求項13】
前記CHO細胞株はジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子が欠損したものであることを特徴とする、請求項12に記載の細胞株。
【請求項14】
受託番号がKCTC10993BP、KCTC10994BPまたはKCTC10995BPである、請求項12に記載の細胞株。
【請求項15】
(a)CCGCCC繰り返し配列が一部または全部除去されたプロモーターを含むジヒドロ葉酸還元酵素をコードする遺伝子を含む発現ベクターで動物細胞株を形質転換する段階と、
(b)ジヒドロ葉酸還元酵素阻害剤の存在下に、前記形質転換された動物細胞株を培養する段階とを含む、組み換えタンパク質の製造方法。
【請求項16】
組み換えタンパク質がヒトのエリトロポエチンである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
シアル酸高含有のエリトロポエチンを精製する段階をさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
発現ベクターが図1に記載の発現ベクターである、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
段階(a)の動物細胞株がジヒドロ葉酸還元酵素欠損CHO細胞株であることを特徴とする、請求項15または16に記載の方法。
【請求項20】
段階(b)の形質転換された動物細胞株が受託番号KCTC10993BP、KCTC10994BPまたはKCTC10995BPの動物細胞株である、請求項15に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2010−506586(P2010−506586A)
【公表日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−533241(P2009−533241)
【出願日】平成19年10月16日(2007.10.16)
【国際出願番号】PCT/KR2007/005064
【国際公開番号】WO2008/048037
【国際公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(508047691)ハンミ ファーマシューティカル カンパニー リミテッド (3)
【氏名又は名称原語表記】HANMI PHARMACEUTICAL CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】893−5, Hajeo−ri, Paltan−myeon, Hwaseong−si, Gyeonggi−do, 445−813, Republic of Korea
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月16日(2007.10.16)
【国際出願番号】PCT/KR2007/005064
【国際公開番号】WO2008/048037
【国際公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(508047691)ハンミ ファーマシューティカル カンパニー リミテッド (3)
【氏名又は名称原語表記】HANMI PHARMACEUTICAL CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】893−5, Hajeo−ri, Paltan−myeon, Hwaseong−si, Gyeonggi−do, 445−813, Republic of Korea
【Fターム(参考)】
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