説明

組み込まれた燃焼室圧力センサを備えたシース形グロープラグ

効率的でかつ有害物質の少ないエンジン制御のためには、内燃機関の燃焼室内の燃焼室圧力に関する情報が必要とされる。したがって、自己着火式の内燃機関に用いられるシース形グロープラグ(110)の形の、組み込まれた燃焼室圧力センサが提案される。シース形グロープラグ(110)は発熱体(112)とプラグハウジング(116)とを有している。さらにシース形グロープラグ(110)は、少なくとも1つの力測定フィルムエレメント(126)を有しており、この場合、該力測定フィルムエレメント(126)は、発熱体(112)を介して該力測定フィルムエレメント(126)へ力(124)が伝達可能になるように発熱体(112)に結合されている。特に前記力測定フィルムエレメント(126)は少なくとも1つの圧電フィルム(134)、たとえば高分極化されたポリフッ化ビニリデン(PVDF)を有していてよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シース形グロープラグに組み込まれた燃焼室圧力センサを備えた、自己着火式の内燃機関に用いられるシース形グロープラグ(Gluehstiftkerze)に関する。シース形グロープラグは燃焼室圧力センサとして少なくとも1つの力測定フィルムエレメントを有している。このような組み込まれた燃焼室圧力センサを用いて、特に内燃機関のための燃焼室圧力信号をベースとしたエンジンコントロールを実現することができる。
【0002】
背景技術
特にディーゼルエンジンのための法的な排ガス規制がますます厳格化されてゆくなかで、内燃機関、特に自己着火式の内燃機関の低減された有害物質エミッションを求める要求が厳格化されている。最近のエンジンマネージメントシステムは低い燃料消費量を保証すると同時に高い寿命を有していることが望まれる。
【0003】
ディーゼルエンジンの燃焼室における燃焼最適化は、特に燃料の制御された噴射を使用することにより実現され得る。このような制御された噴射は、特に、既に最近の自動車では搭載が標準化されている電子式のエンジン制御装置によって制御され得る。しかし、燃焼室圧力信号をベースとしたエンジンコントロール(combustion signal based control system, CSC)を効果的に実施し得るかどうかは、価格、信頼性、精度および構成スペースに関する高い要求に応えられなければならない、生産に適した圧力センサが提供され得るかどうかに懸かっている。
【0004】
現在では、いわゆる「スタンドアローン」型のセンサを有する測定装置が広く普及している。このようなスタンドアローン型のセンサの使用のためには、シリンダヘッド壁に別個の孔が設けられなければならない。このことは付加的な組付け手間を意味する。さらに、スタンドアローン型のセンサのためには、内燃機関のシリンダヘッドに付加的な孔が必要となり、このことは特に4バルブエンジンの場合には、狭められたスペース事情に基づき甚大な問題となる。さらに、一般にこのようなシステムの価格は比較的高く、このようなシステムの寿命はたいてい、高い作動温度が原因となって、典型的な車両寿命よりも著しく短くなる。
【0005】
したがって、公知先行技術においては、シリンダヘッドの既存のコンポーネントに燃焼室圧力センサを組み込むことが試みられている。このような組込みの1例は、たとえばドイツ連邦共和国特許出願公開第69405788号明細書に基づき公知の、組み込まれた圧電式の力測定エレメントを備えた点火プラグである。前記ドイツ連邦共和国特許出願公開第69405788号明細書には、組み込まれた圧力センサを備えた点火プラグが開示されており、この場合、この圧力センサは少なくとも1つの圧力導入通路を有しており、この圧力導入通路は内燃機関の所属のシリンダの燃焼室を圧力センサに接続している。
【0006】
シリンダヘッドの既存のコンポーネントへのこのようなセンサ組込みは著しい価格利点をもたらすとともに、大規模シリーズでの使用、つまり量産使用をも経済的に可能にする。このようなシステムでは、燃焼室に対する直接的なアクセスの必要性が生じない。他方において、このような燃焼室圧力センサの信号品質は機械的なアッセンブリ全体における動力伝達特性に著しく左右され、たいていは課せられた要求には応えられない。
【0007】
ディーゼルエンジンの領域からも、このような組込みの試みが知られている。すなわち、たとえばドイツ連邦共和国特許第19680912号明細書には、組み込まれた圧力センサを備えたグロープラグが開示されている。この圧力センサは位置固定部材と、グロープラグの発熱区分との間に配置されている。しかし、上記ドイツ連邦共和国特許第19680912号明細書に開示されている装置は、実際の実現のためには多数の不都合を有している。特に、これらの不都合は、使用される圧力センサが技術的に見て好都合ではない個所に配置されていることにある。なぜならば、圧力センサは一方ではグロープラグの発熱区分への電流供給を妨げ、他方では高い熱負荷および高い機械的衝撃負荷に基づいて一般に長い寿命を有しないからである。さらに、位置固定部材を用いた圧力センサの固定は手間がかかると同時に、組付け時に圧力センサの誤位置決めを招き易く、ひいては誤機能を招いてしまう。
【0008】
発明の利点
したがって、本発明によれば、上で説明した公知先行技術の欠点を回避する、自己着火式の内燃機関に用いられるシース形グロープラグ、つまり発熱体と、プラグハウジングと、少なくとも1つの力測定フィルムエレメントとが設けられており、該力測定フィルムエレメントが発熱体に結合されていて、該発熱体を介して前記力測定フィルムエレメントへ力が伝達可能であることを特徴とする、自己着火式の内燃機関に用いられるシース形グロープラグが提案される。
【0009】
本発明の基本思想は、少なくとも1つの力測定フィルムエレメント、特に少なくとも1つのピエゾフィルムもしくは圧電フィルムを有する力測定フィルムエレメントを、内燃機関の燃焼室圧力の測定のために使用することにある。この場合、この力測定フィルムエレメントは組み込まれた燃焼室圧力センサの形で、たとえばシース形グロープラグまたは点火プラグに組み込まれた燃焼室圧力センサにおいて使用され得るか、あるいはまた上で述べたスタンドアローン型の燃焼室圧力センサの形でも使用され得る。
【0010】
別の基本思想は、発熱体とプラグハウジングとを有するシース形グロープラグに少なくとも1つの力測定フィルムエレメントを組み込むことにある。この力測定フィルムエレメントは、発熱体を介して前記力測定フィルムエレメントに力が伝達可能となるように発熱体に結合されていることが望ましい。特に、前記力測定フィルムエレメントは、発熱体を介して該力測定フィルムエレメントに加えられる力に関連して電気的な信号を発生させることができる。したがって、当該シース形グロープラグが内燃機関のシリンダヘッドに組み込まれていると、内燃機関の燃焼室圧力により、当該シース形グロープラグの発熱体に力が加えられる。この発熱体を介して、この力は前記力測定フィルムエレメントに伝達され、これにより、電気的な信号が形成され得る。この電気的な信号から前記力、ひいては燃焼室内の圧力が推量可能となる。
【0011】
提案された力測定フィルムエレメントは慣用の力測定エレメント、たとえば慣用の圧力センサ(たとえば圧電セラミック)に比べて特にその小さな厚さおよび高いフレキシブル性によりすぐれている。特に前記力測定フィルムエレメントは少なくとも1つの力測定フィルムを有していてよい。この力測定フィルムは3〜50μmの範囲、有利には5〜100μmの範囲、特に有利には8〜30μmの範囲のフィルム厚さを有していると有利である。このような力測定フィルムは、たとえばピエゾフィルムもしくは圧電フィルム、有利にはポリフッ化ビニリデンを有する圧電フィルムであってよい。このような圧電フィルムは、典型的には最小約8〜9μmまでの厚さで商業的に入手可能である。しかし、相応する圧電特性および機械特性の任意の別の材料も使用可能である。また、圧電効果に基づいておらず、かつ当業者に知られている別のタイプの力測定フィルム、たとえば抵抗線歪ゲージを備えた力測定フィルムも原理的には使用可能となる。
【0012】
前記少なくとも1つの力測定フィルムエレメントは本発明によれば種々様々に使用され得る。この場合、圧電横効果および/または圧電縦効果および/または圧電剪断効果(piezoelektrisch. Schereffekt)が使用されると有利である。これらの効果は種々様々に利用され得る。発熱体と前記少なくとも1つの力測定フィルムエレメントとの間の力伝達のために少なくとも1つの力伝達エレメントが使用されると、特に有利であることが判った。たとえば、この力伝達エレメントは主として円筒スリーブとして形成されていてよい。前記少なくとも1つの力測定フィルムエレメントはシース形グロープラグの軸線に対して平行な前記少なくとも1つの力伝達エレメントの面において、またはこの軸線に対して垂直な端面においても使用され得る。この場合、たとえば種々異なるピエゾ効果もしくは圧電効果(たとえば圧電縦効果および圧電横効果)が利用される。前記少なくとも1つの力測定フィルムエレメントのこのような構成には特に次のような利点がある。すなわち、シース形グロープラグの内部における構成スペースが最適に利用され、これにより、たとえばシース形グロープラグの発熱体への電流供給のために十分な構成スペースが確保される。
【0013】
さらに、発熱体と前記少なくとも1つの力測定フィルムとの間には、少なくとも1つの絶縁エレメント、たとえば少なくとも1つの絶縁スリーブが配置されていてよい。この場合、前記少なくとも1つの絶縁エレメントは、このような絶縁エレメントなしの構造に比べて、発熱体と前記少なくとも1つの力測定フィルムエレメントとの間の熱伝達を減少させる。特に、前記少なくとも1つの絶縁エレメントは熱絶縁性の材料を有していてよい。たとえば、前記少なくとも1つの絶縁エレメントは発熱体と前記少なくとも1つの力伝達エレメントとの間に埋め込まれていてよい。
【0014】
本発明によるシース形グロープラグは、公知先行技術に基づき公知の装置に比べて著しい利点を具備している。すなわち、特に前記少なくとも1つの力測定フィルムエレメントは、ほぼ任意の寸法およびジオメトリ(幾何学的形状)で製造され得る。さらに、前記少なくとも1つの力測定フィルムエレメントはフレキシブルであり、したがって力センサとして、ほぼ任意に成形された表面に沿って使用され得る。一般に、このような力測定フィルムエレメント、特に圧電フィルムは、力、圧力、曲げ、歪み、加速度、振動および/または剪断の測定のために適している。この場合、別の技術分野からの経験に頼ることができるので、特にたとえばこのような力測定フィルムエレメントの制御および評価のために電子回路を、大きな開発手間なしに適応させることができる。
【0015】
したがって、シース形グロープラグの提案された構造は、シース形グロープラグ内部の小さな構成スペースの利用下に簡単な構成および組付けをも可能にする。これにより、特に開発コストおよび/または製造コストが著しく低減される。さらに、シース形グロープラグの信頼性も、慣用の組み込まれた圧力センサに比べて著しく改善される。なぜならば、特に圧電性のセラミックスもしくは単結晶から成る破断し易い圧力測定エレメントが使用されなくて済むからである。それにもかかわらず、圧力測定の感度は、公知先行技術に基づき公知の多く燃焼室圧力測定技術のための解決手段、たとえば石英製圧力測定エレメントに比べて、著しく高められている。力測定フィルムエレメントの使用はさらに、コストのかかる電気的および熱的な絶縁手段の必要性を回避するか、もしくは該必要性を減少させる。有利なスペース利用に基づき、高い公差要求を有する鋼から成る極端に肉薄な構成エレメントを有する構造を不要にすることもできる。
【0016】
特に提案された、力伝達エレメントとして1つまたは複数のスリーブ、たとえば鋼または別の材料から成るスリーブが使用される解決手段は、多数の利点を提供する。すなわち、特にこのような構造により構成スペースが最適に利用される。さらに、スリーブの内側の開口を通じてグロー電流供給線路を貫通案内することができる。この場合、たとえばグロー電流供給線路としては、公知先行技術に基づき使用される鋼接続ピンが使用され得るか、または本発明によれば薄いもしくはフレキシブルな線材グロー電流供給線路が使用され得る。スリーブ状の力伝達エレメントは次のような利点を提供する。すなわち、スリーブ、特に金属製のスリーブによるシールド効果(ファラデーのケージ)に基づき、前記少なくとも1つの力測定フィルムエレメントが、グロー電流供給線路の電磁界による影響に対して防護される。これにより、組み込まれた燃焼室圧力センサの信号特性および故障発生率が著しく改善される。
【0017】
図面
以下に、本発明の実施例を図面につき詳しく説明する。
【0018】
図1は、圧電横効果が利用される、本発明によるシース形グロープラグの第1実施例を示す断面図であり;
図2は、図1に示した第1実施例の力測定フィルムエレメントを詳細に示す斜視図であり;
図2Aは、図2の範囲Aにおける層構造体を示す断面図であり;
図2Bは、図2の範囲Bにおける層構造体を示す断面図であり;
図2Cは、図2の範囲Cにおける層構造体を示す断面図であり;
図2Dは、図2の範囲Dにおける層構造体を示す断面図であり;
図3は、圧電縦効果が利用される、本発明によるシース形グロープラグの第2実施例を示す断面図であり;
図4は、図3に示した第2実施例において使用される力測定フィルムエレメントを詳細に示す斜視図であり;
図4Aは、図4の範囲Eにおける層構造体を示す断面図であり;
図4Bは、図4の範囲Fにおける層構造体を示す断面図であり;
図4Cは、図4の範囲Gにおける層構造体を示す断面図であり;
図4Dは、図4の範囲Hにおける層構造体を示す断面図である。
【0019】
実施例
図1には、本発明によるシース形グロープラグ110の第1の有利な実施例が図示されている。このシース形グロープラグ110はセラミック製の発熱体112を有しており、この発熱体112はシース形グロープラグ110のハウジング116に設けられたシールテーパ部を成すシールコーン114内に固定される。この固定は、有利にははんだ付け、あるいはまた別の固定方法、たとえば接着、溶接またはねじ締結によって行なわれ得る。これにより、シース形グロープラグ110の内室118は内燃機関の燃焼室に対してシールされている。
【0020】
セラミック製の発熱体112は、燃焼室に面した側の受圧面120を有している。この受圧面120はこの実施例では平坦でかつシース形グロープラグ110の軸線122に対して直角に形成されている。受圧面120を介して、内燃機関の燃焼室内の圧力は軸線122に対して平行にセラミック製の発熱体112に作用する力F(図1の符号124)に変換される。セラミック製の発熱体112に加えられるこの力124により、シース形グロープラグ110の、力伝達経路に位置する構成部分の線形弾性的な緊縮(linear-elastische Einfederung)が生ぜしめられる。このような線形弾性的な緊縮は典型的には、発生した燃焼室圧力において数マイクロメートルの範囲にある。したがって、力124およびこの力124に併発されたシ―ス形グロープラグ110の緊縮量は、燃焼室圧力と直接的な相関関係にある。
【0021】
基本的には、公知先行技術に基づき、シース形グロープラグ110内に力測定エレメントを固定することにより、前記力124を測定することが知られている。この場合、力測定エレメントは、発熱体112の力衝撃を、発熱体112に面した端面を介して受け止めるようにシース形グロープラグ110内に固定される。圧電式の力測定エレメントの場合には、この端面が機械的に負荷されると、電荷、ひいては電圧が生ぜしめられ、この電圧はメタライジング部およびコンタクティング部により力測定エレメントの表面から取り出され得る。この電気的な信号は信号線路を介して評価部へ導出される。この場合、圧電式の力測定エレメントとしては、強誘電性の圧電セラミックス(たとえばチタン酸ジルコン酸鉛、PZT)も、単結晶性の材料、たとえば石英、ランガサイト(Langasit)、ニオブ酸リチウム、オルトリン酸ガリウム(Galliumorthophosphat)またはこれに類するものも使用され得る。
【0022】
それに対して、図1に示した本発明の第1実施例では、力124を検出するために力測定フィルムエレメント126が使用される。この力測定フィルムエレメント126は電気的な信号を発生させ、この電気的な信号は信号線路128を介して、シース形グロープラグ110の、燃焼室とは反対の側の端部に設けられたコネクタもしくは差込み結合器30を介して、相応する電子評価装置(図示しない)に供給され得る。たとえば、冒頭で述べたように、この電気的な信号をエンジン制御ユニットに供給し、これにより燃焼室圧力信号をベースとしたエンジンコントロール(combustion signal based control system, CSC)を実現することができる。
【0023】
基本的に力測定フィルムエレメント126は本発明によれば、この力測定フィルムエレメント126がシース形グロープラグ110の1つのエレメントに結合されて、このエレメントを介して力124の全てまたはその一部が当該力測定フィルムエレメント126へ伝達され得るように使用される。したがって、力測定フィルムエレメント126は圧電式の変換器として働く。図1に示した実施例では、力測定フィルムエレメント126が、円筒スリーブ形に形成された剛性的な力伝達エレメント132の外周面133に被着されている。力測定フィルムエレメント126のフレキシブル性に基づき、この被着は湾曲させられた表面133に対しても問題なく可能となる。
【0024】
図2には、力測定フィルムエレメント126が拡大斜視図で図示されている。力測定フィルムエレメント126は主要構成要素として圧電フィルム134を有している。この薄い圧電フィルム134は圧電性の材料として、たとえば高分極化された、つまり大きな極性を有するポリフッ化ビニリデン(PVDF)を有していてよい。この材料は商業的に多数の構成でかつ多くの圧力範囲のために、たとえばフィルム面に対して直角な方向では10−8N/cm〜10N/cmの圧力範囲のために、ならびに0.001Hz〜ギガヘルツ領域の使用のための周波数範囲において製造可能である。このような圧電フィルム134は通常、−200℃〜160℃の作動温度で使用可能である。
【0025】
最近の製造方法を用いると、最小約9μmの範囲までのPVDFフィルムが商業的に製造可能となる。このような小さなフィルム厚さは極端に狭い組込み事情における使用時に大きな遊びスペースを提供する。このことは、上で説明したように、シース形グロープラグ110の内室118に提供されている小さな構成スペースに基づき、シース形グロープラグ110内の力測定フィルムエレメント126での使用のために特に有利である。典型的には、シース形グロープラグ110の内室118は、僅か約5mmの直径しか有していない。提供された、5mmの直径しか有しないこのような横断面が、力測定フィルムエレメント126、この力測定フィルムエレメント126の電気的に絶縁された信号線路128およびセラミック製の発熱体112をグロー電流で負荷するためのグロー電流供給線路136ならびに場合によっては、たとえば振動絶縁のために必要となる絶縁・シールド手段のために利用されることが望まれる。この場合、シース形グロープラグ110のハウジング116内でのセンサエレメントのセンタリングされた位置決めが必要となることは、特に不都合であることが判る。なぜならば、このような構成バリエーションは、しばしば鋼から成る極端に肉薄な構成エレメントの製造ならびにコストのかかる被覆方法を用いた相応する電気的な絶縁を必要とするからである。圧電フィルム134、特に上記PVDFフィルムの使用により、このような不都合が回避される。
【0026】
すなわち、図2に示した、力測定フィルムエレメント126の構造体によれば、圧電フィルム134はこの実施例では力測定フィルムエレメント126のセンタエレメントである。この圧電フィルム134は、たとえば相応するメタライジング層138の形の2つの電極層138の間にサンドイッチ状に埋め込まれている。図2に斜視図で示した構造体においては、両電極層のうち最も外側の電極層138しか見えていない。これらの電極層138は電気的な信号線路128によってコンタクトされる。さらに、力測定フィルムエレメント126を保護するために、電極層138と圧電フィルム134とから成るサンドイッチ構造体が誘電性の保護ラミネート層140によって取り囲まれている。この保護ラミネート層140は当該構成エレメントを機械的な負荷および環境影響因子、たとえば湿分に対して保護する。さらに電気的な信号線路128の一部も、誘電性の保護ラミネート層140によって一緒にカバーされて保護される。
【0027】
図2A、図2B、図2Cおよび図2Dには、図2に示した構造体の層構造が、図2に「A」、「B」、「C」および「D」で示した範囲毎に断面図で図示されている。図2Aから判るように、範囲Aでは力伝達エレメント132が誘電性の保護ラミネート層140によってのみカバーされている。したがって、この範囲Aは機械的な安定化および力測定フィルムエレメント126の縁部の保護のためにしか働かず、電気的な機能を有していない。それに対して、図2Bに示した範囲Bは実際の力測定範囲である。この場合、力測定エレメント132には、上で説明したサンドイッチ構造、つまり電極層138−圧電フィルム134−電極層138が被着されており、この場合、このサンドイッチ構造は誘電性の保護ラミネート層140によって力測定エレメント132から分離されている。図2Cには、コンタクト範囲Cが図示されており、このコンタクト範囲Cの構造は基本的に図2Bに示した範囲に相当している。しかし付加的に図示されているように、このコンタクト範囲Cでは、圧電信号を取り出して測定信号として外部へ案内するために、電極層138が電気的な信号線路128によって電気的にコンタクトされる。電気的な信号線路128はそれぞれ圧電フィルム134とは反対の側で誘電性の保護ラミネート層140によってカバーされ、ひいては電気的に絶縁される。図2Dには、範囲D(図2参照)において、電気的な信号線路128が、誘電性の保護ラミネート層140内に埋め込まれた状態で、図平面に対して直角な方向で力測定フィルムエレメント126から導出されることが図示されている。
【0028】
圧電フィルム134を備えたこのような力測定フィルムエレメント126は商業的に入手可能である。この力測定フィルムエレメント126は電極層138、該電極層138の相応するコンタクト部142および外側の誘電性の保護ラミネート層140を含めて僅か約0.1〜0.2mmの厚さしか有していない。このような力測定フィルムエレメント126は、たとえば熱間延伸技術によって、三次元に湾曲させられた表面に適合させることができる。これにより、シース形グロープラグ110内部の構成スペースを最適に利用することができる。図1および図2に示した実施例では、たとえば力測定フィルムエレメント126が、スリーブ状に形成された剛性的な力伝達エレメント132の外周面133に被着されている。この実施例では、力伝達エレメント132が材料として、たとえば鋼またはセラミックスを有している。力伝達エレメント132は力124の力伝達経路に配置されており、したがって燃焼室圧力による動的な力作用にさらされている。力伝達エレメント132のスリーブ状のジオメトリ(幾何学的形状)には次のような利点がある。すなわち、グロー電流供給線路136はシース形グロープラグ110のハウジング116内で同心的にセラミック製の発熱体112にまで案内され得るようになり、このことは、シース形グロープラグ110のために現在商業的に使用されている製作方法を引き続き(僅かな改良を加えるだけで)使用可能にする。力伝達エレメント132のための材料として鋼が使用されることにより、次のような利点が得られる。すなわち、公知先行技術に相当する圧電性のセラミックスもしくは単結晶から成る圧力測定エレメントと比べて破壊確率が僅少となる。セラミック製の発熱体112に対するスリ―ブ状の力伝達エレメント132の熱的および/または電気的な絶縁のために、図1に示した本発明の実施例では、絶縁スリーブ144または絶縁ディスクが使用される。この絶縁スリーブ144または絶縁ディスクは、たとえばセラミック製の絶縁スリーブ144あるいはまたプラスチックスリーブであってもよい。
【0029】
図1に示した、円筒スリーブ状に形成された力伝達エレメント132上での力測定フィルムエレメント126の配置形式では、特に圧電フィルム134の圧電横効果(transversal. Piezoeffekt)が利用される。このような圧電フィルム、たとえば上で挙げたPVDFフィルムでは、このような圧電横効果が、石英から成る汎用の圧力測定エレメントに比べて約1オーダ分、強力となる(たとえばPVDF:d31=23pC/N)。
【0030】
図1に示した装置の別の利点は、コンタクト部142が力124の力伝達経路と1直線に位置しないことにある。したがって、コンタクト部142は、コンタクト特性を損なう恐れのある圧力作用に直接さらされていない。この点でも、公知先行技術に基づき公知の装置に比べて提案された装置の利点が認められる。さらに、図1に示した装置の利点は、上で説明したように、たとえば金属材料を有することのできる力伝達エレメント132がグロー電流供給線路136をシールドしていることにある。これにより、グロー電流供給線路136を起点として力測定フィルムエレメント126に加えられる電磁界の作用は最小限に抑えられる。
【0031】
図3および図4には、図1および図2に示した実施例に対して択一的な別の実施例が図示されている。この実施例では、圧電縦効果(longitudinal. Piezoeffekt)が利用される。当然ながら、本実施例を圧電横効果および圧電縦効果と組み合わせることも考えられる。また、力測定フィルムエレメント126と「慣用」の力測定エレメントとの組合せも考えられる。図3に示した実施例では、シース形グロープラグ110が、セラミック製の発熱体112とハウジング116とを有しており、この場合、両構成要素112,116は基本的に図2に示した実施例に対して類似または同一に形成されていてよい。ただし、図3に示した実施例では、力伝達エレメント132の端面146に円環ディスクとして配置されている力測定フィルムエレメント126が使用される。この端面146は力124に対して垂直に向けられており、ひいては軸線122に対して垂直に向けられている。また、垂直線からの軽度の偏倚、たとえば最大10゜までの偏倚も考えられる。
【0032】
図4には、図3に示した力測定フィルムエレメント126が拡大斜視図で図示されている。この力測定フィルムエレメント126はやはりコアエレメントとして圧電フィルム134を有している。この圧電フィルム134は力伝達エレメント132の端面146において、本実施例では金属製の2つの電極層138の間に埋め込まれていて、相応して誘電性の保護ラミネート層140によって保護されかつ絶縁される。これらの電極層138は2つのコンタクト部142と電気的な信号線路128とによってコンタクトされ得る。円環状に形成されている力測定フィルムエレメント126は、たとえば端面146に接着されていてよい。絶縁された電気的な信号線路128は軸方向でスリーブ状の力伝達エレメント132の外周面に沿ってコネクタ部もしくは差込み結合部130にまで案内される。
【0033】
図4A、図4B、図4Cおよび図4Dには、図4に示した構造体の層構造が、図4にE、F、GおよびHで示した範囲毎に断面図で図示されている。図4Aに示した範囲E、つまり力伝達エレメント132の端面146の範囲に位置する範囲Eでは、上で図2Bにつき説明した層構造に類似したサンドイッチ構造が位置している。このサンドイッチ構造では、2つの電極層138の間に1つの圧電フィルム134が埋め込まれており、この圧電フィルム134は力伝達エレメント132から誘電性の保護ラミネート層140によって分離されている。図4Bおよび図4Cには、電気的な信号線路128による電極層138のコンタクト部142が示されている。この場合、図4Bには、上側の(つまり力伝達エレメント132とは反対の側の)電極層138の、図4において範囲Fと呼称されているコンタクト部が示されており、図4Cには、下側の(つまり力伝達エレメント132寄りの側の)電極層138の、図4において範囲Gと呼称されているコンタクト部142が示されている。図2Cと同様に、この場合にも電気的な信号線路128はそれぞれその圧電フィルム134とは反対の側において誘電性の保護ラミネート層140によって覆われていて、ひいては電気的に絶縁されている。コンタクト部142、つまり範囲F,Gは、力伝達エレメント132の端面146が外周面133に移行する縁部の範囲に位置している。図4Dには、図4においてHで示された範囲が断面図で示されている。これらの範囲Hでは、図2Dと同様に、電気的な信号線路128が誘電性の保護ラミネート層140内に埋め込まれていて、図平面に対して垂直に力測定フィルムエレメント126から導出される。
【0034】
図3に示した実施例では、力測定フィルムエレメント126が、絶縁スリーブ144と、スリーブ状に形成された力伝達エレメント132との間に埋め込まれている。この力伝達エレメント132はシース形グロープラグ110の、燃焼室とは反対の側において、対応する受け148によって対応支承されている。したがって、力124がセラミック製の発熱体112に加えられると、力測定フィルムエレメント126は力伝達エレメント132と絶縁スリーブ144との間で押し合わされる。すなわち、絶縁スリーブ144は本実施例では、セラミック製の発熱体112から力測定フィルムエレメント126への力伝達区間の一部を形成している。力測定フィルムエレメント126へのこのような力作用により、圧電効果を介して電圧が生ぜしめられ、この電圧を電気的な信号線路128によって取り出すことができる。本実施例では、圧電縦効果が利用される。高分極化されたポリフッ化ビニリデン(PVDF)から成る上記圧電フィルム134の圧電率は、たとえば圧電縦効果についてはd31=33pC/Nである。
【0035】
念のため付言しておくと、図3に示した実施例に対しては、圧電縦効果が使用される多数の択一的な実施態様が可能となる。すなわち、たとえば絶縁スリーブ144ならびに力伝達エレメント132がセグメント化されて形成されていてよい。この場合、これら複数のセグメントの間に力測定フィルムエレメント126が埋め込まれている。これらの力測定フィルムエレメント126の信号は、たとえば平均することができる。また、力測定フィルムエレメント126がセラミック製の発熱体112から大きく遠ざけられて配置されているような構成も可能である。これにより、力測定フィルムエレメント126への熱作用が最小限に抑えられる。たとえば、力測定フィルムエレメント126はねじ山150の範囲に配置されていてよい。このねじ山150を介してシース形グロープラグ110は燃焼室壁にねじ込まれる。燃焼室壁では、比較的低い温度および温度変動しか生じない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】圧電横効果が利用される、本発明によるシース形グロープラグの第1実施例を示す断面図である。
【図2】図1に示した第1実施例の力測定フィルムエレメントを詳細に示す斜視図である。
【図2A】図2の範囲Aにおける層構造体を示す断面図である。
【図2B】図2の範囲Bにおける層構造体を示す断面図である。
【図2C】図2の範囲Cにおける層構造体を示す断面図である。
【図2D】図2の範囲Dにおける層構造体を示す断面図である。
【図3】圧電縦効果が利用される、本発明によるシース形グロープラグの第2実施例を示す断面図である。
【図4】図3に示した第2実施例において使用される力測定フィルムエレメントを詳細に示す斜視図である。
【図4A】図4の範囲Eにおける層構造体を示す断面図である。
【図4B】図4の範囲Fにおける層構造体を示す断面図である。
【図4C】図4の範囲Gにおける層構造体を示す断面図である。
【図4D】図4の範囲Hにおける層構造体を示す断面図である。
【符号の説明】
【0037】
110 シース形グロープラグ
112 セラミック製の発熱体
114 シールコーン
116 ハウジング
118 内室
120 受圧面
122 軸線
124 力
126 力測定フィルムエレメント
128 電気的な信号線路
130 差込み結合器
132 力伝達エレメント
133 外周面
134 圧電フィルム
136 グロー電流供給線路
138 電極層
140 誘電性の保護ラミネート層
142 電極層のコンタクト部
144 絶縁スリーブ
146 端面
148 受け
150 ねじ山

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己着火式の内燃機関に用いられるシース形グロープラグ(110)において、発熱体(12)と、プラグハウジング(116)と、少なくとも1つの力測定フィルムエレメント(126)とが設けられており、該力測定フィルムエレメント(126)が発熱体(112)に結合されていて、該発熱体(112)を介して前記力測定フィルムエレメント(126)へ力(124)が伝達可能であることを特徴とする、自己着火式の内燃機関に用いられるシース形グロープラグ。
【請求項2】
前記力測定フィルムエレメント(126)が、少なくとも1つの圧電フィルム(134)を有している、請求項1記載のシース形グロープラグ。
【請求項3】
前記圧電フィルム(134)が、ポリフッ化ビニリデンを有している、請求項2記載のシース形グロープラグ。
【請求項4】
前記力測定フィルムエレメント(126)が少なくとも1つの力測定フィルム(134)を有しており、該力測定フィルムが、3マイクロメ―トル〜500マイクロメートルの範囲、有利には5マイクロメートル〜100マイクロメートルの範囲、特に有利には8マイクロメートル〜30マイクロメートルの範囲のフィルム厚さを有している、請求項1から3までのいずれか1項記載のシース形グロープラグ。
【請求項5】
前記力測定フィルムエレメント(126)が、力(124)に関連して電気的な信号を発生させるようになっており、しかも以下の効果のうちの少なくとも1つの効果が利用される:圧電横効果;圧電縦効果;圧電剪断効果、請求項1から4までのいずれか1項記載のシース形グロープラグ。
【請求項6】
少なくとも1つの力伝達エレメント(132)が設けられており、該力伝達エレメント(132)が、前記力測定フィルムエレメント(126)に結合されており、前記力伝達エレメント(132)によって発熱体(112)から前記力測定フィルムエレメント(126)へ力(124)が伝達可能である、請求項1から5までのいずれか1項記載のシース形グロープラグ。
【請求項7】
前記力測定フィルムエレメント(126)が、前記力伝達エレメント(132)の、当該シース形グロープラグ(110)の軸線(122)に対してほぼ垂直に配置された少なくとも1つの端面(146)に結合されている、請求項6記載のシース形グロープラグ。
【請求項8】
少なくとも1つの力測定フィルムエレメント(126)が、前記力伝達エレメント(132)の、当該シース形グロープラグ(110)の軸線(122)に対してほぼ平行に配置された少なくとも1つの面(133)に結合されている、請求項6または7記載のシース形グロープラグ。
【請求項9】
前記力伝達エレメント(132)が、ほぼ円筒状スリーブとして形成されている、請求項6から8までのいずれか1項記載のシース形グロープラグ。
【請求項10】
付加的に少なくとも1つの絶縁エレメント(144)、特に少なくとも1つの絶縁スリーブ(144)が設けられており、該絶縁エレメント(144)が、発熱体(112)と前記力測定フィルムエレメント(126)との間に配置されており、しかも前記絶縁エレメント(144)が発熱体(112)と前記力測定フィルムエレメント(126)との間の熱伝達を減少させるように前記絶縁エレメント(144)が形成されている、請求項1から9までのいずれか1項記載のシース形グロープラグ。
【請求項11】
内燃機関の燃焼室圧力を測定するための少なくとも1つの力測定フィルムエレメント(126)の使用。
【請求項12】
前記力測定フィルムエレメント(126)が少なくとも1つの圧電フィルム(134)を有している、請求項11記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3】
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【図4】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【公表番号】特表2008−545918(P2008−545918A)
【公表日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−515161(P2008−515161)
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【国際出願番号】PCT/EP2006/061440
【国際公開番号】WO2006/131410
【国際公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】