説明

組合せ鋼矢板及び該組合せ鋼矢板によって形成された鋼矢板壁

【課題】施工性に優れた組合せ鋼矢板、及び該組合せ鋼矢板によって形成された鋼矢板壁を得る。
【解決手段】本発明に係る組合せ鋼矢板は、ウェブ部と、該ウェブ部の両端にフランジ部を有するU形鋼矢板を3枚組み合わせてなる組合せ鋼矢板1であって、中央に配置する中央U形鋼矢板3と、中央U形鋼矢板3の両側に、中央U形鋼矢板3とはフランジ部のウェブ部に対する向きが反対になるように配置された側方U形鋼矢板5とを有し、中央U形鋼矢板3の断面係数をZc、断面2次モーメントをIcとし、各側方U形鋼矢板5の断面係数をZs、断面2次モーメントをIsとしたときに、2Zs/Zcまたは2Is/Icが0.8〜1.2となるように設定したことを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3枚の鋼矢板を組み合わせてなる組合せ鋼矢板及び該組合せ鋼矢板によって形成された鋼矢板壁に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なU形鋼矢板は、両端部に嵌合継手部を有している。このようなU形鋼矢板は、嵌合継手部を連結させながら一枚ずつ打設して、鋼矢板壁を形成する。この場合、鋼矢板壁に荷重が作用した場合に嵌合継手部のずれにより中立軸が変化し、断面剛性や断面耐力が低下することが知られている。
【0003】
これを改善する手法として、予め2枚の鋼矢板を嵌合してかしめまたは溶接などで連結固定して2枚一組からなる1ユニットとして打設する方法がある。
この場合において、従来のU形鋼矢板を用いた場合、継手部を連結するために、鋼矢板長手方向の端部から挿入しなければならず、作業がスムーズではないため製造効率の低下やコスト負担増などに繋がることがあった。
【0004】
これを改善する方法として、特許文献1においては、「ウェブ部とその両端に配置されるフランジ部を有するU形鋼矢板であって、一方のフランジ部のみに他の鋼矢板と連結するための嵌合用継手を有し、他方のフランジ部には嵌合用継手を有せず、且つ、前記嵌合用継手を有しないフランジ部の先端部が、ウェブ部とフランジ部が交わる角部から、前記の嵌合継手を有するフランジ部の嵌合継手中心部を通りウェブ部と平行する直線上に配置され、又は当該直線を跨いで配置されることを特徴とする鋼矢板。」を提案し、この鋼矢板を前提として、以下のような組合せ鋼矢板が開示されている。
「上記の鋼矢板を2枚連結した組合せ鋼矢板であって、前記嵌合用継手を有しないフランジ部同士が重ねられ、又は前記嵌合用継手を有しないフランジ部の先端部同士が接触され、前記嵌合用継手があるフランジ部側が両端になり、且つ、前記2枚の鋼矢板それぞれのウェブ部が前記両端に位置する嵌合用継手同士を結ぶ直線に対して互いに反対側に配置されると共に、前記直線と前記2枚の鋼矢板のウェブ部とが平行になるように配置され、前記嵌合用継手を有しないフランジ部同士が溶接またはボルトにて連結されることを特徴とする組合せ鋼矢板。」(特許文献1の請求項6参照)」
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−121279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
打設時においてU形鋼矢板の内側(フランジで囲まれる側)では土が拘束されるため、U形鋼矢板はフランジ内側からフランジ外側に向う力を受ける。U形鋼矢板は左右対称であるため、これを単独で打設する場合、フランジ内側からフランジ外側に向う力が相殺されて回転力は発生しない。
しかしながら、U形鋼矢板を2枚連結した特許文献1の組合せ鋼矢板においては、左右が非対称であるため打設時において連結部を中心として土から回転力を受けることになり、安定した打設が難しいという問題がある。
特許文献1においては、4枚のU形鋼矢板を連結した例も示されているが、この場合も組合せ鋼矢板の中心を回転中心として回転力を受けることになり、2枚を連結した場合と同様に安定した打設が難しいという問題がある。
【0007】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、施工性に優れた組合せ鋼矢板、及び該組合せ鋼矢板によって形成された鋼矢板壁を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
特許文献1に記載された組合せ鋼矢板は、2枚又は4枚のものが例示されているが、これは中立軸に対して上下の断面剛性を等しくするためであると考えられる。中立軸に対する断面剛性が異なると、組合せ鋼矢板を打設する際に断面剛性の小さい側が撓むため、組合せ鋼矢板が倒れこむためである。
しかしながら、従来の組合せ鋼矢板は同一の鋼矢板を組み合せるという発想であるため、中立軸に対する上下の断面剛性を等しくしようとすると、偶数枚のU形鋼矢板を組み合せることになり、そうすると、左右非対称となり打設時に回転力が発生して施工性がよくないものとなっていた。
【0009】
そこで、発明者は同一の鋼矢板を組み合せるという従来の発想を転換して、異なる種類の鋼矢板を組み合せることで、中立軸に対する断面剛性を許容範囲にしつつ、かつ回転力の発生も抑制できるという知見を得た。
本発明はかかる知見に基づくものであり、具体的には以下の構成からなるものである。
【0010】
(1)本発明に係る組合せ鋼矢板は、ウェブ部と、該ウェブ部の両端にフランジ部を有するU形鋼矢板を3枚組み合わせてなる組合せ鋼矢板であって、
中央に配置する中央U形鋼矢板と、該中央U形鋼矢板の両側に、該中央U形鋼矢板とはフランジ部のウェブ部に対する向きが反対になるように配置された側方U形鋼矢板とを有し、
前記中央U形鋼矢板の断面係数をZc、断面2次モーメントをIcとし、前記各側方U形鋼矢板の断面係数をZs、断面2次モーメントをIsとしたときに、2Zs/Zcまたは2Is/Icが0.8〜1.2となるように設定したことを特徴とするものである。
【0011】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記中央U形鋼矢板のフランジ部の両端の継手部及び前記側方U形鋼矢板における前記中央U形鋼矢板と連結される継手部が平板状継手部からなり、該平板状継手部は、フランジ部の先端をウェブ部に平行な方向に屈曲して前記ウェブ部に平行な方向に延びる平板形状からなることを特徴とするものである。
【0012】
(3)また、上記(2)に記載のものにおいて、前記平板状継手部におけるフランジ側の面に、凹凸部を設けたことを特徴とするものである。
【0013】
(4)また、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のものにおいて、中央U形鋼矢板及び側方U形鋼矢板が圧延によって製造されていることを特徴とするものである。
【0014】
(5)本発明に係る鋼矢板壁は、上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の組合せ鋼矢板を、地中に打設することによって形成したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る鋼矢板は、前記中央U形鋼矢板の断面係数をZc、断面2次モーメントをIcとし、前記各側方U形鋼矢板の断面係数をZs、断面2次モーメントをIsとしたときに、2Zs/Zcまたは2Is/Icが0.8〜1.2となるように設定したことにより、組合せ鋼矢板の中心を通りウェブ部と平行する直線に対して、対面する断面の耐力および剛性が同程度となり、構造性能性および施工性に優れた組合せ鋼矢板となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施の形態に係る組合せ鋼矢板の断面形状の説明図である。
【図2】本発明の他の実施の形態に係る組合せ鋼矢板の断面形状の説明図である。
【図3】本発明の他の実施の形態に係る鋼矢板の平板状継手部の詳細説明図である。
【図4】本発明の他の実施の形態に係る鋼矢板の平板状継手部の詳細説明図である。
【図5】本発明の他の実施の形態に係る鋼矢板の平板状継手部の詳細説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[実施の形態1]
本実施の形態に係る組合せ鋼矢板1は、図1に示すように、ウェブ部と、該ウェブ部の両端にフランジ部を有するU形鋼矢板を3枚組み合わせてなる組合せ鋼矢板1であって、
中央に配置するU形鋼矢板(本明細書において「中央U形鋼矢板3」という)と、該中央U形鋼矢板3の両側で、かつフランジ部のウェブ部に対する向きが反対になるように配置されたU形鋼矢板(本明細書において「側方U形鋼矢板5」という)を有し、中央U形鋼矢板3の断面係数をZc、断面2次モーメントをIcとし、各側方U形鋼矢板5の断面係数をZs、断面2次モーメントをIsとしたときに、2Zs/Zcまたは2Is/Icが0.8〜1.2となるように設定したものである。
以下、詳細に説明する。
【0018】
<中央U形鋼矢板>
中央U形鋼矢板3は、ウェブ部7と、該ウェブ部7の両端にフランジ部9を有している。中央U形鋼矢板3のフランジ部9の端部には嵌合継手部11が設けられている。
嵌合継手部11は、図1に示すように、フランジ部9の先端がウェブ部7に平行で、外方向に屈曲され、さらに先端部に爪部11aを有するラルゼン型の嵌合継手部である。
なお、図1に示したものはラルゼン型の嵌合継手部であるが、本発明の中央U形鋼矢板3の嵌合継手部11はこれに限られるものではなく、例えばラカワナ型などであってもよい。
【0019】
<側方U形鋼矢板>
側方U形鋼矢板5も、中央U形鋼矢板3と同様に、ウェブ部13と、該ウェブ部13の両端にフランジ部15を有している。U形鋼矢板のフランジ部15の端部には嵌合継手部17が設けられている。嵌合継手部17は中央U形鋼矢板3と同様に先端部に爪部17aを有するラルゼン型の嵌合継手部であり、中央U形鋼矢板5の嵌合継手部11と嵌合可能になっている。
【0020】
<断面係数・断面2次モーメントの関係>
中央U形鋼矢板3の断面係数をZc、断面2次モーメントをIcとし、各側方U形鋼矢板5の断面係数をZs、断面2次モーメントをIsとしたときに、2Zs/Zcまたは2Is/Icが0.8〜1.2となるように設定している。
断面係数・断面2次モーメントを上記のように設定した理由を以下に説明する。
【0021】
断面2次モーメントに関し、2Is/Icが0.8〜1.2となるように設定した理由は、2Is/Icが0.8〜1.2の範囲を外れる場合には、A側断面およびB側断面(図1参照)の剛性のバランスが崩れ、主として組合せ鋼矢板1の打設時において嵌合継手部11に過大な応力が作用し、嵌合継手部11のずれや変形等の問題が生ずる可能性がある。また、A側断面およびB側断面(図1参照)の剛性のバランスが崩れると、断面2次モーメントが小さい側に倒れ込みが生ずるため、組合せ鋼矢板1の打設時における直進性に問題が生ずる可能性がある。
【0022】
また、断面係数に関し、2Zs/Zcが0.8〜1.2となるように設定した理由は、2Zs/Zcが0.8〜1.2の範囲を外れる場合には、組合せ鋼矢板1における曲げ耐力性能としての中立軸のずれが大きくなり、主として組合せ鋼矢板1を地中に打設した際に嵌合継手部11に過大な応力が作用し、嵌合継手部11にずれや変形が生ずる可能性がある。また、組合せ鋼矢板1を連結して鋼矢板壁を形成する際には、隣接する組合せ鋼矢板1同士はその向きが反転するため、中立軸のずれが大きい場合には、組合せ鋼矢板1同士を連結する嵌合継手部11に過大な応力が作用してずれや変形を生ずる可能性があるからである。
【0023】
なお、上記の説明から分かるように、断面2次モーメントに関する2Is/Icの比率と、断面係数に関する2Zs/Zcの両方の比率が0.8〜1.2の範囲であればより好ましいものになる。
もっとも、断面2次モーメントと断面係数は、断面2次モーメントを中立軸より最遠部までの距離で除したものが断面係数になるという関係があるので、2Is/Icと2Zs/Zcのいずれか一方が0.8〜1.2の範囲であれば施工上、または壁体としての性能上問題がないことを確認している。
【0024】
上記のように中央U形鋼矢板3と側方U形鋼矢板5の断面係数又は断面2次モーメントを設定することにより、嵌合継手部の中心を通りウェブ部と平行する直線(中心軸)に対して、対面するA側断面およびB側断面(図1参照)の耐力および剛性が同程度となり、構造性能性および施工性に優れた組合せ鋼矢板となる。
【0025】
なお、U形鋼矢板に関しては、一般社団法人鋼管杭・鋼矢板技術協会においてU形鋼矢板の種類として、1型、2型、3型、4型等の型式が定められ、各型式の寸法、断面2次モーメント、断面係数等が規定されている。
そこで、以下においては、このような一般的なU形鋼矢板を組み合わせて組合せ鋼矢板を形成する場合どのような組合せであれば本発明範囲になるかについて組み合わせ例(1)〜(11)の11のパターンについて検討したので、その結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
上記の表1に示されるように、組合せ例(1)〜(6)、(8)〜(10)の9個のパターンであれば本発明の範囲内にあることが確認された。

【0028】
[実施の形態2]
本実施の形態に係る組合せ鋼矢板21を図2〜図5に基づいて説明する。図2〜図5において、図1と同一部分又は対応する部分には同一符号が付してある。
本実施の形態に係る組合せ鋼矢板21は、中央U形鋼矢板23が平板形状の平板状継手部25を備えてなり、側方U形鋼矢板27の継手部における中央U形鋼矢板23と連結される継手部が中央U形鋼矢板23の継手部と同形状の平板状継手部29を備えてなるものである。側方U形鋼矢板27における中央U形鋼矢板23と連結されない継手部は実施の形態1と同様の嵌合継手部17である。
実施の形態2の組合せ鋼矢板21において、中央U形鋼矢板23と側方U形鋼矢板27の断面係数・断面2次モーメントの関係は、実施の形態1と同様に設定されている。
本実施の形態2が実施の形態1と異なる点は、継手部の形状にあるので、以下においては継手部の形状に関して説明する。
【0029】
中央U形鋼矢板23の平板状継手部25と側方U形鋼矢板27の平板状継手部29は同一の形状である。ただ、側方U形鋼矢板27の平板状継手部29は嵌合継手部17と所定の関係にある。そこで、以下の説明では、中央U形鋼矢板23の平板状継手部25を例に挙げて、その形状について説明し、その後で側方U形鋼矢板27の平板状継手部29における特殊な点を説明する。
<中央U形鋼矢板の平板状継手部>
平板状継手部25は、フランジ部9の先端をウェブ部7に平行で外方向に屈曲して前記ウェブ部7に平行な方向に延びる平板形状に形成したものである。
【0030】
平板状継手部25におけるフランジ側面25aには、図3に示すような、位置決め用の凸部31、凹部33を設けるようにするのが好ましい。
図3に示すような凹凸部を設けることで、位置決めが容易になるという効果に加えて、かしめ(圧加)た際、連結固定をより強固に行えるという効果が期待できる。
平板状継手部25をかしめ(圧加)により連結固定する場合は、凸部31の高さを、相手側の凹部33の深さよりも高く設定するのが好ましい。このようにすることで、かしめによる連結を強固にすることができる。
【0031】
位置決め用の凹凸部は、図4、図5に示すような、段形状であってもよい。なお、図4に示す平板状継手部25が図5に示す平板状継手部25に接合されるようになっており、図4の平板状継手部25の凸部31の位置に図5の平板状継手部25の凹部33が配置され、図4の平板状継手部25の凹部33の位置に図5の平板状継手部25の凸部31が配置されるという関係になっている。
【0032】
<側方U形鋼矢板の平板状継手部>
側方U形鋼矢板27は一方のフランジ部15に平板状継手部29が形成され、他方のフランジ部15には嵌合継手部17が形成されている。そして、平板状継手部29は嵌合継手部17と所定の関係になるように設定されているので、この点を説明する。
この所定の関係を説明するため図2において、側方U形鋼矢板27の嵌合継手部17の幅をX、嵌合継手部17の高さをY、嵌合継手部17の中心をP、平板状継手部29の幅をWで示している。
【0033】
平板状継手部29は、フランジ部15の先端をウェブ部13に平行で外方向に屈曲して前記ウェブ部13に平行な方向に延びる平板形状に形成したものであり、この点は中央U形鋼矢板23の平板状継手部25と同様である。
平板状継手部29は、図2に示すように、平板状継手部29におけるフランジ側面29aが、嵌合継手部17の中心部Pを通りウェブ部13と平行する直線35上になるように設定されている。
平板状継手部29をこのように設定することで、側方U形鋼矢板27における左右の対称性が高くなり、圧延によって製造するのに適した形状となる。
また、平板状継手部29を上記のように設定することで、図2に示すように、中央U形鋼矢板23と側方U形鋼矢板27を、平板状継手部25、29におけるフランジ側面25a、29a同士を当接させるように重ね合わせて接合したときに、組合せ鋼矢板21全体としての対称性が向上し、組合せ鋼矢板21の打設がやり易いという効果もある。
【0034】
なお、平板状継手部29を嵌合継手部17の位置に対してどのような配置とするかに関し、上記の例では、フランジ側面29aが、嵌合継手部17の中心部Pを通りウェブ部13と平行する直線35上になるようにしたが、本発明はこれに限られず、平板状継手部29におけるフランジ側面29aの位置が、嵌合継手部17の高さYの範囲内になるように配置すればよい。平板状継手部29におけるフランジ側面29aの位置が、嵌合継手部17の高さYの範囲内になるという意味をより詳細に説明すると、図2に示す断面において、嵌合継手部17の上下面に接し、ウェブ部13に平行な2直線を平板状継手部29側に延長したときにその2本の延長線の間にフランジ側面29aが配置されるという意味である。
このような配置であれば、圧延での製造も可能であり、また中央U形鋼矢板23と側方U形鋼矢板27を連結した組合せ鋼矢板21の打設における施工性は許容できる範囲となる。
【0035】
また、平板状継手部29の幅Wは、嵌合継手部17の幅Xに対して、0.5X〜1.5Xにするのが好ましく、0.8X〜1.2Xにするのがより好ましい。
平板状継手部29の幅Wを上記の範囲にするのは、側方U形鋼矢板27の左右のバランスをとりつつ、かつ連結を確実に行い、かつ無駄な鋼重を増やさないためである。
平板状継手部29の幅Wが0.5X未満であると、中央U形鋼矢板23と側方U形鋼矢板27の接合を確実に行なうのが難しくなり、また側方U形鋼矢板27の圧延製造時において左右のバランスが崩れ、製造上の不具合が生じる。
【0036】
他方、平板状継手部29の幅Wが1.5Xを越えると、左右のバランスが崩れ、側方U形鋼矢板27の製造上の不具合が生じやすくなる恐れがある。また、平板状継手部29による連結部は組合せ鋼矢板21の中心にあるため組合せ鋼矢板21の断面に作用する曲げモーメントに対して寄与しないので、平板状継手部29の幅Wの長さが長くなることは単位長さあたりの耐力、剛性が低下することになり、好ましくない。
【0037】
上記のように構成された中央U形鋼矢板23、側方U形鋼矢板27は、圧延による成形によって形成するのに好適な形状である。
つまり、図2に示すような断面形状にすることにより、両側の継手部の形状が異なるU形鋼矢板であっても、両フランジ先端部の長さ、および角度が同程度となり、左右対称断面に近づくことから、圧延成形過程において、両継手部での圧下力が均一に近くなり、鋼矢板全体の反り、曲がり等の不具合の発生を著しく低減できる。
また、両側に嵌合継手部を有する従来の鋼矢板は圧延設備で製造されるが、本実施の形態の側方U形鋼矢板27であれば、このような従来の鋼矢板の製造に使用される既存の鋼矢板用圧延設備を流用することで製造でき、製造コストを軽減できる。
【0038】
上記のように構成された中央U形鋼矢板23と側方U形鋼矢板27は、図2に示すように、平板状継手部29におけるフランジ側面25a、29aを重ねるように当接させて連結する。連結に際しては、平板状継手部29のフランジ側面25a、29aを重ね合わせるようにして中央U形鋼矢板23と側方U形鋼矢板27を仮組みし、水平に設置した状態において、かしめや接着剤等で連結固定を行う。このとき、かしめを行う載荷方向や接着を行う際の圧加方向がウェブ部13と平行する直線35(水平方向)に対して垂直となることから、連結固定作業が容易となる。
なお、中央U形鋼矢板23と側方U形鋼矢板27を連結固定する際は鋼矢板全長にわたってかしめてもよいし、たとえば1mピッチあるいは3mピッチなど飛ばしてかしめてもよく、連結部に生じるせん断力に応じて適宜決めればよい。
【0039】
連結された3枚の鋼矢板からなる組合せ鋼矢板21をバイブロハンマー等によって地中に打設する。
組合せ鋼矢板21が打設されると、その隣には、嵌合継手部17を嵌合させるようにして別の組合せ鋼矢板21を打設し、これを連続して行うことで鋼矢板壁を形成する。
【0040】
なお、上記の実施の形態では、平板状継手部29の連結固定方法として、かしめと接着剤による方法を示したが、平板状継手部29に予めボルト穴を設け、ボルト接合するようにしてもよい。
なお、本発明のU形鋼矢板は、その基本形体となる鋼矢板の高さや幅が特に限定されることなく、従来の種々の形体のものと同様の基本形体のものに適用できる。
【符号の説明】
【0041】
1 組合せ鋼矢板(実施の形態1)
3 中央U形鋼矢板(実施の形態1)
5 側方U形鋼矢板(実施の形態1)
7 ウェブ部
9 フランジ部
11 嵌合継手部(中央U形鋼矢板)
11a 爪部(中央U形鋼矢板)
13 ウェブ部
15 フランジ部
17 嵌合継手部(側方U形鋼矢板)
17a 爪部(側方U形鋼矢板)
21 組合せ鋼矢板(実施の形態2)
23 中央U形鋼矢板(実施の形態2)
25 平板状継手部(中央U形鋼矢板)
25a フランジ側面(中央U形鋼矢板)
27 側方U形鋼矢板
29 平板状継手部(側方U形鋼矢板)
29a フランジ側面(側方U形鋼矢板)
31 凸部
33 凹部
35 直線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェブ部と、該ウェブ部の両端にフランジ部を有するU形鋼矢板を3枚組み合わせてなる組合せ鋼矢板であって、
中央に配置する中央U形鋼矢板と、該中央U形鋼矢板の両側に、該中央U形鋼矢板とはフランジ部のウェブ部に対する向きが反対になるように配置された側方U形鋼矢板とを有し、
前記中央U形鋼矢板の断面係数をZc、断面2次モーメントをIcとし、前記各側方U形鋼矢板の断面係数をZs、断面2次モーメントをIsとしたときに、2Zs/Zcまたは2Is/Icが0.8〜1.2となるように設定したことを特徴とする組合せ鋼矢板。
【請求項2】
前記中央U形鋼矢板のフランジ部の両端の継手部及び前記側方U形鋼矢板における前記中央U形鋼矢板と連結される継手部が平板状継手部からなり、該平板状継手部は、フランジ部の先端をウェブ部に平行な方向に屈曲して前記ウェブ部に平行な方向に延びる平板形状からなることを特徴とする請求項1記載の組合せ鋼矢板。
【請求項3】
前記平板状継手部におけるフランジ側の面に、凹凸部を設けたことを特徴とする請求項2記載の組合せ鋼矢板。
【請求項4】
中央U形鋼矢板及び側方U形鋼矢板が圧延によって製造されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の組合せ鋼矢板。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の組合せ鋼矢板を、地中に打設することによって形成したことを特徴とする鋼矢板壁。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−202168(P2012−202168A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69770(P2011−69770)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】