説明

組成物、並びに、該組成物を用いた膜、電荷輸送層、有機電界発光素子、及び電荷輸送層の形成方法

【課題】重合性基を有するアリールアミン誘導体を有機電界発光素子用材料として用いた有機電界発光素子において、良好な効率及び耐久性を維持した有機電界発光素子を提供するのに有用であり、保存安定性に優れ、従来技術より穏和な条件下で重合反応が進行し、かつ形成される膜が有機溶剤に対して高い耐性を持つ組成物を提供すること。該組成物を用いた膜、電荷輸送層、有機電界発光素子、及び電荷輸送層の形成方法を提供すること。
【解決手段】少なくとも一つの重合性基を有するアリールアミン誘導体と、シアノ基を含まない重合開始剤とを含有する組成物、並びに、該組成物を用いた膜、電荷輸送層、有機電界発光素子、及び電荷輸送層の形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物、並びに、該組成物を用いた膜、電荷輸送層、有機電界発光素子、及び電荷輸送層の形成方法に関する。本発明の組成物は、有機電界発光素子用組成物として有用である。
【背景技術】
【0002】
有機材料を利用したデバイスとして、有機電界発光素子(以下、OLED、有機EL素子ともいう)、有機半導体を利用したトランジスタなどの研究が活発に行われている。特に、有機電界発光素子は、固体発光型の大面積フルカラー表示素子や安価な大面積な面光源としての照明用途としての発展が期待されている。一般に有機電界発光素子は発光層を含む有機層及び該有機層を挟んだ一対の対向電極から構成される。このような有機電界発光素子に電圧を印加すると、有機層に陰極から電子が注入され陽極から正孔が注入される。この電子と正孔が発光層において再結合し、エネルギー準位が伝導帯から価電子帯に戻る際にエネルギーを光として放出することにより発光が得られる。
【0003】
有機EL素子は、発光層及びその他の有機層を、例えば蒸着などの乾式法又は塗布などの湿式法により成膜することで作製することができるが、生産性などの観点から湿式法が注目されている。
塗布などの湿式法により作製した有機EL素子において、重合性基(例えば、ビニル基、アリル基)を有するアリールアミン誘導体を正孔輸送層形成材料として用いることで、有機EL素子の発光効率が上昇し、耐久性が向上することが知られている。
従来の技術では、重合開始剤を含まない塗布液で重合性基を有するアリールアミン誘導体を成膜し、不活性ガス(N)雰囲気下で、加熱又は紫外光(UV光)の照射により重合性基を重合させることでアリールアミン誘導体を架橋し、層を形成することで、発光層を形成する塗布液に対し不溶化することが知られている。例えば、特許文献1には、重合性基を有するアリールアミン誘導体をトルエンに溶解した溶液を塗布後、紫外光(UV光)を30秒間照射した後、60℃で1時間真空乾燥し、正孔輸送層を形成することが開示されている。また特許文献2には、重合性基としてアクリロイル基を有するアリールアミン誘導体をメチルイソブチルケトンに溶解した溶液を塗布後、200℃で30分間加熱し硬化することにより正孔注入層を形成することが開示されている。
【0004】
しかしながら、紫外光を照射すると、紫外光によるアリールアミン誘導体の分解反応が生じることがあり、アリールアミン誘導体に起因する所望の特性が失われる恐れがある。従って、紫外光の照射なしに効率的に重合反応を進行させることが求められている。
また加熱のみによる重合反応によって、好適な素子特性を提供する膜を形成するためには、高温かつ長時間の重合反応を要するため、製造条件の改善が求められている。具体的には、より穏やかな温度かつ短時間で重合反応が良好に進行すると共に、これにより形成される膜を使用した有機EL素子が良好な素子特性を有することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−4671号公報
【特許文献2】特開2009−16739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の技術における、重合性基を有するアリールアミン誘導体の成膜方法では、紫外光の照射によるアリールアミン誘導体の分解に起因する素子性能の低下や、好適な素子特性を得るために高温かつ長時間の熱重合反応条件を要するという問題があり、それらの改善が求められていた。
【0007】
本発明は、前記従来の問題点を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。
即ち、本発明は、重合性基を有するアリールアミン誘導体を有機電界発光素子用材料として用いた有機電界発光素子において、良好な効率及び耐久性を維持した有機電界発光素子を提供するのに有用であり、保存安定性に優れ、従来技術より穏和な条件下で重合反応が進行し、かつ形成される膜が有機溶剤に対して高い耐性を持つ組成物を提供することを目的とする。なお形成される膜が有機溶剤に対して高い耐性を持つことは、湿式法により積層する有機電界発光素子の作製において好ましい性能である。
また本発明の別の目的は、上記組成物を用いた膜、電荷輸送層、有機電界発光素子、及び電荷輸送層の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記状況を鑑み、本発明者らは、鋭意研究を行なったところ、少なくとも一つの重合性基を有するアリールアミン誘導体を含有する組成物において、シアノ基を含まないアゾ系重合開始剤を更に含有させることにより、上記課題を解決できることを見出した。
【0009】
即ち、前記課題を解決するための手段は以下の通りである。
【0010】
〔1〕少なくとも一つの重合性基を有するアリールアミン誘導体(B)と、シアノ基を含まないアゾ系重合開始剤(A)とを含有する組成物。
〔2〕前記シアノ基を含まないアゾ系重合開始剤(A)が、下記一般式(PI)で表される、上記〔1〕に記載の組成物。
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、RPI及びRPIは、それぞれ独立にアルキル基又はアリール基を表す。RPIは、−C(=O)−O−RPI、−O−C(=O)−RPI、又は−C(=O)−NH−RPIを表す。RPIは、アルキル基又はシクロアルキル基を表す。)
〔3〕前記シアノ基を含まないアゾ系重合開始剤(A)の10時間半減期温度が60〜70℃の範囲である、上記〔1〕又は〔2〕に記載の組成物。
〔4〕前記シアノ基を含まないアゾ系重合開始剤(A)から生じる分解物が、水と共沸可能である、上記〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔5〕前記少なくとも一つの重合性基を有するアリールアミン誘導体(B)が、下記一般式(1)又は一般式(2)で表わされる、上記〔1〕〜〔4〕のいずれか一項に記載の組成物。
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、R及びR’は、それぞれ独立に重合性基を表す。R及びR’は、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表す。)
【0015】
【化3】

【0016】
(式中、R及びR’は、それぞれ独立に重合性基を表す。)
〔6〕前記重合性基が、ビニル基及びアリル基のいずれかである、上記〔1〕〜〔5〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔7〕上記〔1〕〜〔6〕のいずれか一項に記載の組成物を塗布し、塗布された該組成物を加熱することにより形成された膜。
〔8〕上記〔7〕に記載の膜である電荷輸送層。
〔9〕上記〔8〕に記載の電荷輸送層を含有する有機電界発光素子。
〔10〕前記電荷輸送層が、イリジウム錯体を含む正孔注入層上に形成される、上記〔9〕に記載の有機電界発光素子。
〔11〕上記〔1〕〜〔6〕のいずれか一項に記載の組成物を塗布し、塗布された該組成物を加熱することを含む、電荷輸送層の形成方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、重合性基を有するアリールアミン誘導体を有機電界発光素子用材料として用いた有機電界発光素子において、良好な効率及び耐久性を維持した有機電界発光素子を提供するのに有用であり、保存安定性に優れ、従来技術より穏和な条件下で重合反応が進行し、かつ形成される膜が有機溶剤に対して高い耐性を持つ組成物を提供できる。
また、本発明によれば、上記組成物を用いた膜、電荷輸送層、有機電界発光素子、及び電荷輸送層の形成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る有機電界発光素子の層構成の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において「〜」はその前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
【0020】
本発明の組成物は、少なくとも一つの重合性基を有するアリールアミン誘導体と、シアノ基を含まないアゾ系重合開始剤とを含有する。
本発明の組成物の使用が、良好な効率及び耐久性を維持した有機電界発光素子を提供するのに有用であり、保存安定性に優れ、従来技術より穏和な条件下で重合反応が進行し、かつ形成される膜が有機溶剤に対して高い耐性を持つ組成物を提供できる理由は定かではないが、以下のように推測される。
本発明の組成物は重合開始剤を含有することで、アリールアミン誘導体が有する重合性基の重合反応が、重合開始剤を含有しない場合と比べて、低温度かつ短時間で良好に進行させることが可能になる。一方で、重合開始剤を重合反応に使用すると、重合開始剤がアリールアミン重合体の末端に付加して残留することや、重合開始剤の分解物が膜中に残存することで、素子に効率及び耐久性の低下等の悪影響を与えることが懸念されていた。本発明は種々の重合開始剤の中から、素子に悪影響を与えると考えられるシアノ基を有さないアゾ系重合開始剤を選択し、用いることで、重合開始剤を含有しない場合と比べて、低温度かつ短時間での重合を可能にすると共に、熱重合反応を用いて得られる素子と比較しても効率及び耐久性が低下しない素子が提供されることを見出したものである。シアノ基を有する重合開始剤又はその分解物が膜中に残留することで素子に悪影響を与える理由は定かではないが、シアノ基は高い誘電率を有するので、膜中に残留することにより電荷の移動を妨げる働きをし、その結果、該膜を用いて得られる素子の効率及び耐久性が低下するものと推測される。また本発明の組成物は、重合開始剤を用いることで、穏和な重合条件下でも重合反応が良好に進行するため、加熱重合時の酸化などによる分解が抑制でき、耐久性が向上するものと考えられる。また、重合開始剤を用いることで、短時間で架橋反応が進行し、溶剤に不溶な架橋膜が形成できる。また、適切な10時間半減温度の開始剤を用いることで、室温下での重合反応が進行しにくく、固形分の析出やゲル化を抑制でき、保存安定性が向上するものと考えられる。
本発明に係る組成物は、例えば有機電界発光素子用組成物であり、典型的には電荷輸送層形成用組成物であり、好ましくは正孔輸送層形成用組成物である。以下、この組成物の構成を説明する。
【0021】
[1]シアノ基を含まないアゾ系重合開始剤(A)
本発明の組成物は、シアノ基を含まないアゾ系重合開始剤(以下、“重合開始剤(A)”ともいう)を含有する。重合開始剤(A)としては、シアノ基を含まない限り、従来公知のアゾ系重合開始剤を用いることができる。種々の重合開始剤のうち、特に、アゾ系の重合開始剤が用いられる理由は、アゾ系重合開始剤は分解物として窒素を発生するものであり、この窒素は酸素と異なり、素子に悪影響を与えない。またアゾ系重合開始剤は熱により重合を開始することで、光照射と異なり光分解がないためである。アゾ系重合開始剤(A)としては、ラジカル重合開始剤、有機過酸化物等が挙げられ、誘電率が低いなどの観点でシアノ基を含まないアゾ系のラジカル重合開始剤が好ましい。
特に、シアノ基を含まないアゾ系重合開始剤(A)としては、下記一般式(PI)で表される化合物が好ましい。
【0022】
【化4】

【0023】
(式中、RPI及びRPIは、それぞれ独立にアルキル基又はアリール基を表す。RPIは、−C(=O)−O−RPI、−O−C(=O)−RPI、又は−C(=O)−NH−RPIを表す。RPIは、アルキル基又はシクロアルキル基を表す。)
【0024】
PI及びRPIは、それぞれ独立にアルキル基又はアリール基を表す。RPI及びRPIで表されるアルキル基は、好ましくは炭素数1〜10であり、より好ましくは炭素数1〜6であり、最も好ましくはメチル基である。
PI及びRPIで表されるアリール基は、好ましくは炭素数6〜15であり、より好ましくは炭素数6〜10であり、最も好ましくはフェニル基である。
PI及びRPIは、それぞれ独立にメチル基又はフェニル基を表すことが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
【0025】
PIは、−C(=O)−O−RPI、−O−C(=O)−RPI、又は−C(=O)−NH−RPIを表す。RPIは、−C(=O)−O−RPI、又は−O−C(=O)−RPIであることが好ましい。
【0026】
PIは、アルキル基又はシクロアルキル基を表す。RPIで表されるアルキル基は、好ましくは炭素数1〜20であり、より好ましくは炭素数1〜10であり、更に好ましくは炭素数1〜6である。
PIで表されるシクロアルキル基は、好ましくは炭素数3〜20であり、より好ましくは炭素数3〜10であり、更に好ましくは炭素数5〜10である。シクロアルキル基は単環であっても、多環であってもよく、単環であることが好ましい。
PIはアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜6のアルキル基であることがより好ましく、メチル基であることが最も好ましい。
【0027】
重合開始剤(A)の10時間半減期温度は、60〜70℃の範囲であることが、適度な反応性とポットライフの維持の両立の観点で好ましい。10時間半減期温度とは、溶媒(主に、トルエン)に溶解したときの、重合開始剤(A)の濃度が初期値の半分に減少するまでの時間(半減期)が10時間となる温度のことをいい、この温度が低いほど反応性が高いことを意味する。10時間半減期温度が70℃以下であることで、重合開始剤(A)は適度な反応性を有し、60℃以上であることで、重合開始剤(A)は適度なポットライフを維持できる。10時間半減期温度は、重合開始剤(A)に相当する重合開始剤を市販するメーカーのカタログデータから得ることもできる。
【0028】
また重合開始剤(A)としては、重合開始剤(A)から生じる分解物が、水と共沸可能であることが、重合開始剤(A)の残留物による素子への影響をより低減する観点で好ましい。水と共沸可能な分解物を生じる重合開始剤(A)の具体例としては、V−601、V−601HP(和光純薬製)が挙げられる。これらの開始剤は。溶媒中の微量の水分や周囲の雰囲気からの吸湿により、共沸するものと推測される。
また重合開始剤(A)としては、効率の観点から、金属含有量が少ないことが好ましく、含有される金属の合計量が500ppb以下であることがより好ましく、200ppb以下であることが更に好ましい。
【0029】
次に一般式(PI)で表される、シアノ基を含まない重合開始剤の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0030】
【化5】

【0031】
本発明において、重合開始剤(A)は単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
重合開始剤(A)の組成物中の含有量は、組成物の全固形分を基準として、0.1〜50質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜30質量%、更に好ましくは1〜20質量%である。
【0032】
[2]少なくとも一つの重合性基を有するアリールアミン誘導体(B)
本発明の組成物は、少なくとも一つの重合性基を有するアリールアミン誘導体(以下、“アリールアミン誘導体(B)”ともいう)を含有する。アリールアミン誘導体(B)としては、アリール基を置換基として有するアミン化合物であって、更に少なくとも一つの重合性基を有するものであれば、公知の化合物が使用可能である。アリールアミン誘導体(B)が有する重合性基としては、特に限定されず、ラジカル重合性基又はカチオン重合性基などが挙げられる。より具体的には、エポキシ基、オキセタニル基、オキサゾリル基、ビニルオキシ基などのカチオン重合性基や、アルケニル基、アルキニル基、アクリル酸エステル(アクリロイル基)、メタクリル酸エステル(メタクリロイル基)、アクリルアミド、メタクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステルなどのラジカル重合性基が好ましい。なかでも、合成が容易であり、重合反応が良好に進行する点から、ラジカル重合性基が好ましく、アルケニル基又はアルキニル基がより好ましい。
【0033】
なお、アルケニル基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、ケイ素原子含有基の任意の位置に2重結合を有する基が挙げられる。なかでも、炭素数2〜12が好ましく、更に炭素数2〜6が好ましい。例えば、ビニル基、アリル基などが挙げられ、重合制御性の容易さ、機械強度の観点から、ビニル基が好ましい。
アルキニル基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、ケイ素原子含有基の任意の位置に3重結合を有する基が挙げられる。なかでも、炭素数2〜12が好ましく、更に炭素数2〜6が好ましい。重合制御性の容易さの観点から、エチニル基が好ましい。
なかでも、反応性の観点から、アリールアミン誘導体(B)が有する重合性基は、ビニル基及びアリル基のいずれかであることが好ましく、ビニル基であることが最も好ましい。
アリールアミン誘導体(B)は、膜硬度や耐溶剤性の観点から、少なくとも二つの重合性基を有することが好ましい。
【0034】
アリールアミン誘導体(B)は、下記一般式(1)又は一般式(2)で表わされる化合物であることが、素子の耐久性の観点で好ましい。
【0035】
【化6】

【0036】
(式中、R及びR’は、それぞれ独立に重合性基を表す。R及びR’は、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表す。)
【0037】
【化7】

【0038】
(式中、R及びR’は、それぞれ独立に重合性基を表す。)
【0039】
上記一般式(1)中のR及びR’で表される重合性基、並びに、上記一般式(2)中のR及びR’で表される重合性基の具体例及び好ましい範囲は、アリールアミン誘導体(B)が有する重合性基について説明したものと同様である。
R及びR’で表される重合性基は、ベンゼン環の3位又は5位に置換することが、外部量子効率の観点から好ましい。
及びR’は、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表す。R及びR’で表される置換基としては、炭素数1〜12の、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、ケイ素原子含有基等が挙げられ、好ましくは炭素数1〜5のアルキル基である。
及びR’は、水素原子であることが高移動度の観点で好ましい。
【0040】
次にラジカル重合性基を有するアリールアミン誘導体の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0041】
【化8】

【0042】
【化9】

【0043】
本発明において、アリールアミン誘導体(B)は単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
アリールアミン誘導体(B)の組成物中の含有量は、組成物の全固形分を基準として、80〜99.9質量%が好ましく、より好ましくは90〜99.9質量%、更に好ましくは95〜99質量%である。
【0044】
[3]溶媒
前記各成分を溶解させて組成物を調製する際に使用することができる溶媒としては、例えば、芳香族炭化水素系溶媒、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、アミド系溶媒等の公知の有機溶媒を挙げることができる。
【0045】
芳香族炭化水素系溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、テトラメチルベンゼン、クメンエチルベンゼン、メチルプロピルベンゼン、メチルイソプロピルベンゼン、等が挙げられ、トルエン、キシレン、クメン、トリメチルベンゼンがより好ましい。
【0046】
アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、ブタノール、ベンジルアルコール、シクロヘキサノール等が挙げられ、ブタノール、ベンジルアルコール、シクロヘキサノールがより好ましい。アルコール系溶媒の比誘電率は通常、10〜40である。
ケトン系溶媒としては、1−オクタノン、2−オクタノン、1−ノナノン、2−ノナノン、アセトン、4−ヘプタノン、1−ヘキサノン、2−ヘキサノン、2−ブタノン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、フェニルアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、アセトニルアセトン、イオノン、ジアセトニルアルコール、アセチルカービノール、アセトフェノン、メチルナフチルケトン、イソホロン、プロピレンカーボネート等が挙げられ、2−ブタノン、メチルイソブチルケトン、プロピレンカーボネートが好ましい 脂肪族炭化水素系溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、オクタン、デカン等が挙げられ、オクタン、デカンが好ましい。 アミド系溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、1、3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられ、N−メチル−2−ピロリドン、1、3−ジメチル−2−イミダゾリジノンが好ましい。
本発明に於いては、上記溶剤を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0047】
[4]膜の形成
本発明は、本発明の組成物を塗布し、塗布された該組成物を加熱することにより形成された膜にも関する。また本発明の組成物から形成される膜は、電荷輸送層として有用である。更に本発明は、本発明の組成物を塗布し、塗布された該組成物を加熱することを含む、電荷輸送層の形成方法にも関する。
電荷輸送層としては、膜厚5〜50nmで使用されることが好ましく、より好ましくは、膜厚5〜40nmで使用されることが好ましい。組成物中の固形分濃度を適切な範囲に設定して適度な粘度をもたせ、塗布性、成膜性を向上させることにより、このような膜厚とすることができる。
電荷輸送層としては、正孔輸送層、電子輸送層、励起子ブロック層、正孔ブロック層、電子フブロック層であることが好ましく、より好ましくは正孔輸送層、励起子ブロック層であり、更に好ましくは正孔輸送層である。
本発明の組成物中の全固形分濃度は、一般的には0.05〜30質量%、より好ましくは0.1〜20質量%、更に好ましくは0.1〜10質量%である。
本発明の組成物中の粘度は、一般的には1〜30mPa・s、より好ましくは1.5〜20mPa・s、更に好ましくは1.5〜15mPa・sである。
【0048】
本発明の組成物は、上記の成分を所定の有機溶媒に溶解し、フィルター濾過した後、次のように所定の支持体又は層上に塗布して用いる。フィルター濾過に用いるフィルターのポアサイズは2.0μm以下、より好ましくは0.5μm以下、更に好ましくは0.3μm以下のポリテトラフロロエチレン製、ポリエチレン製、ナイロン製のものが好ましい。
【0049】
本発明の組成物の塗布方法は特に限定されず、従来公知のいかなる塗布方法によっても形成可能である。例えば、インクジェット法、スプレーコート法、スピンコート法、バーコート法、転写法、印刷法等が挙げられる。
塗布後の加熱温度及び時間は、重合反応が進行する限り特に限定されないが、加熱温度は一般的に100℃〜200℃であり、120℃〜160℃が好ましい。加熱時間は一般的に1分〜120分であり、好ましくは1分〜60分が好ましく、より好ましくは1分〜25分である。
【0050】
[5]有機電界発光素子
本発明における有機電界発光素子について詳細に説明する。
本発明における有機電界発光素子は、本発明の組成物から形成される電荷輸送層を有する。
より具体的には、本発明における有機電界発光素子は、基板上に、陽極及び陰極を含む一対の電極と、該電極間に発光層を含む少なくとも一層の有機層を有する有機電界発光素子であって、該少なくとも一層の有機層として本発明の組成物から形成される電荷輸送層を有する。
【0051】
本発明の有機電界発光素子において、発光層は有機層であり、発光層と陽極の間に更に少なくとも一層の有機層を含むが、これら以外にも更に有機層を有していてもよい。
発光素子の性質上、陽極及び陰極のうち少なくとも一方の電極は、透明若しくは半透明であることが好ましい。
図1は、本発明に係る有機電界発光素子の構成の一例を示している。
図1に示される本発明に係る有機電界発光素子10は、支持基板2上において、陽極3と陰極9との間に発光層6が挟まれている。具体的には、陽極3と陰極9との間に正孔注入層4、正孔輸送層5、発光層6、正孔ブロック層7、及び電子輸送層8がこの順に積層されている。
【0052】
<有機層の構成>
前記有機層の層構成としては、特に制限はなく、有機電界発光素子の用途、目的に応じて適宜選択することができるが、前記透明電極上に又は前記背面電極上に形成されるのが好ましい。この場合、有機層は、前記透明電極又は前記背面電極上の前面又は一面に形成される。
有機層の形状、大きさ、及び厚み等については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0053】
具体的な層構成として、下記が挙げられるが本発明はこれらの構成に限定されるものではない。
・陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極、
・陽極/正孔輸送層/発光層/ブロック層/電子輸送層/陰極、
・陽極/正孔輸送層/発光層/ブロック層/電子輸送層/電子注入層/陰極、
・陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極。
・陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/ブロック層/電子輸送層/陰極、
・陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/ブロック層/電子輸送層/電子注入層/陰極。
・陽極/正孔注入層/正孔輸送層/励起子ブロック層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極。
有機電界発光素子の素子構成、基板、陰極及び陽極については、例えば、特開2008−270736号公報に詳述されており、該公報に記載の事項を本発明に適用することができる。
【0054】
<基板>
本発明で使用する基板としては、有機層から発せられる光を散乱又は減衰させない基板であることが好ましい。有機材料の場合には、耐熱性、寸法安定性、耐溶剤性、電気絶縁性、及び加工性に優れていることが好ましい。
【0055】
<陽極>
陽極は、通常、有機層に正孔を供給する電極としての機能を有していればよく、その形状、構造、大きさ等については特に制限はなく、発光素子の用途、目的に応じて、公知の電極材料の中から適宜選択することができる。前述のごとく、陽極は、通常透明陽極として設けられる。
【0056】
<陰極>
陰極は、通常、有機層に電子を注入する電極としての機能を有していればよく、その形状、構造、大きさ等については特に制限はなく、発光素子の用途、目的に応じて、公知の電極材料の中から適宜選択することができる。
【0057】
基板、陽極、陰極については、特開2008−270736号公報の段落番号〔0070〕〜〔0089〕に記載の事項を本発明に適用することができる。
【0058】
<有機層>
本発明における有機層について説明する。
【0059】
〔有機層の形成〕
本発明の有機電界発光素子において、各有機層は、蒸着法やスパッタリング法等の乾式成膜法、転写法、印刷法、スピンコート法、バーコート法、インクジェット法、スプレー法等の溶液塗布プロセスのいずれによっても好適に形成することができる。
【0060】
本発明の組成物から形成される電荷輸送層の他、有機層のいずれか一層は湿式法により成膜することが特に好ましい。また、他の層については乾式法又は湿式法を適宜選択して成膜することができる。湿式法を用いると有機層を容易に大面積化することができ、高輝度で発光効率に優れた発光素子が低コストで効率よく得られ、好ましい。乾式法としては蒸着法、スパッタリング法等が使用でき、湿式法としてはディッピング法、スピンコート法、ディップコート法、キャスト法、ダイコート法、ロールコート法、バーコート法、グラビアコート法、スプレーコート法、インクジェット法等が使用可能である。これらの成膜法は有機層の材料に応じて適宜選択できる。湿式法により製膜した場合は製膜した後に乾燥してよい。乾燥は塗布層が損傷しないように温度、圧力等の条件を選択して行う。
【0061】
上記湿式製膜法(塗布プロセス)で用いる塗布液は通常、有機層の材料と、それを溶解又は分散するための溶剤からなる。溶剤は特に限定されず、有機層に用いる材料に応じて選択すればよい。溶剤の具体例としては、ハロゲン系溶剤(クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン等)、ケトン系溶剤(アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、n−プロピルメチルケトン、2−ブタノン、シクロヘキサノン等)、芳香族系溶剤(ベンゼン、トルエン、キシレン等)、エステル系溶剤(酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸n−ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、γ−ブチロラクトン、炭酸ジエチル等)、エーテル系溶剤(テトラヒドロフラン、ジオキサン等)、アミド系溶剤(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等)、ジメチルスルホキシド、アルコール系溶剤(メタノール、プロパノール、ブタノールなど)、水等が挙げられる。
なお、塗布液中の溶剤に対する固形分量は特に制限はなく、塗布液の粘度も製膜方法に応じて任意に選択することができる。
【0062】
〔発光層〕
本発明の有機電界発光素子において、発光層は発光材料を含有するが、該発光材料としては、燐光発光性化合物を含有することが好ましい。燐光発光性化合物は、三重項励起子から発光することができる化合物であれば特に限定されることはない。燐光発光性化合物としては、オルトメタル化錯体又はポルフィリン錯体を用いるのが好ましく、オルトメタル化錯体を用いるのがより好ましい。ポルフィリン錯体の中ではポルフィリン白金錯体が好ましい。燐光発光性化合物は単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0063】
本発明でいうオルトメタル化錯体とは、山本明夫著「有機金属化学 基礎と応用」,150頁及び232頁,裳華房社(1982年)、H. Yersin著「Photochemistry and Photophysics of Coordination Compounds」,71〜77頁及び135〜146頁,Springer−Verlag社(1987年)等に記載されている化合物群の総称である。オルトメタル化錯体を形成する配位子は特に限定されないが、2−フェニルピリジン誘導体、7,8−ベンゾキノリン誘導体、2−(2−チエニル)ピリジン誘導体、2−(1−ナフチル)ピリジン誘導体又は2−フェニルキノリン誘導体であるのが好ましい。これら誘導体は置換基を有してもよい。また、これらのオルトメタル化錯体形成に必須の配位子以外に他の配位子を有していてもよい。オルトメタル化錯体を形成する中心金属としては、遷移金属であればいずれも使用可能であり、本発明ではロジウム、白金、金、イリジウム、ルテニウム、パラジウム等を好ましく用いることができる。中でもイリジウムが特に好ましい。このようなオルトメタル化錯体を含む有機層は、発光輝度及び発光効率に優れている。オルトメタル化錯体については、特願2000−254171号の段落番号0152〜0180にもその具体例が記載されている。
【0064】
本発明で用いるオルトメタル化錯体は、Inorg.Chem.,30,1685,1991、Inorg.Chem.,27,3464,1988、Inorg.Chem.,33,545,1994、Inorg.Chim.Acta,181,245,1991、J.Organomet.Chem.,335,293,1987、J.Am.Chem.Soc.,107,1431,1985等に記載の公知の手法で合成することができる。
【0065】
発光層中の燐光発光性化合物の含有量は特に制限されないが、例えば0.1〜70質量%であり、1〜20質量%であるのが好ましい。燐光発光性化合物の含有量が0.1質量%未満であるか、又は70質量%を超えると、その効果が十分に発揮されない場合がある。
【0066】
本発明において、発光層は必要に応じてホスト化合物を含有してもよい。
【0067】
上記ホスト化合物とは、その励起状態から燐光発光性化合物へエネルギー移動が起こり、その結果、該燐光発光性化合物を発光させる化合物である。その具体例としては、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、芳香族第三級アミン化合物、スチリルアミン化合物、芳香族ジメチリデン化合物、ポルフィリン化合物、アントラキノジメタン誘導体、アントロン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド誘導体、フルオレニリデンメタン誘導体、ジスチリルピラジン誘導体、ナフタレンペリレン等の複素環テトラカルボン酸無水物、フタロシアニン誘導体、8−キノリノール誘導体の金属錯体、メタルフタロシアニン、ベンゾオキサゾールやベンゾチアゾール等を配位子とする金属錯体、ポリシラン化合物、ポリ(N−ビニルカルバゾール)誘導体、アニリン共重合体、チオフェンオリゴマー、ポリチオフェン等の導電性高分子、ポリチオフェン誘導体、ポリフェニレン誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体等が挙げられる。ホスト化合物は1種単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0068】
発光層の厚みは10〜200nmとするのが好ましく、20〜80nmとするのがより好ましい。厚みが200nmを超えると駆動電圧が上昇する場合があり、10nm未満であると発光素子が短絡する場合がある。
【0069】
(正孔注入層、正孔輸送層)
本発明の有機電界発光素子は、正孔注入層、及び正孔輸送層を有することが好ましい。正孔注入層、及び正孔輸送層は、陽極又は陽極側から正孔を受け取り陰極側に輸送する機能を有する層である。
本発明に係る電荷輸送層は、イリジウム(Ir)錯体を含む正孔注入層上に形成されることが、効率、耐久性の観点で好ましい。また該イリジウム(Ir)錯体は重合性基を有することが効率の観点でより好ましい。重合性基としては、アリールアミン誘導体(B)で説明したものの他に、アルコキシシランが挙げられる。正孔注入層に含まれるIr錯体の具体例としては、以下に記載するIr錯体が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0070】
【化10】

【0071】
【化11】

【0072】
【化12】

【0073】
本発明に係る電荷輸送層を、Ir錯体を含む正孔注入層上に形成することで、発光効率と素子耐久性の向上に寄与する。
正孔注入層、正孔輸送層については、例えば、特開2008−270736、特開2007−266458に詳述されており、これらの公報に記載の事項を本発明に適用することができる。
【0074】
(電子注入層、電子輸送層)
本発明の有機電界発光素子は、電子注入層、及び電子輸送層を有してもよい。電子注入層、及び電子輸送層は、陰極又は陰極側から電子を受け取り陽極側に輸送する機能を有する層である。これらの層に用いる電子注入材料、電子輸送材料は低分子化合物であっても高分子化合物であってもよい。
電子注入層、電子輸送層については、例えば、特開2008−270736、特開2007−266458に詳述されており、これらの公報に記載の事項を本発明に適用することができる。
【0075】
(正孔ブロック層)
正孔ブロック層は、陽極側から発光層に輸送された正孔が、陰極側に通りぬけることを防止する機能を有する層である。本発明において、発光層と陰極側で隣接する有機層として、正孔ブロック層を設けることができる。
正孔ブロック層を構成する有機化合物の例としては、アルミニウム(III)ビス(2−メチル−8−キノリナト)4−フェニルフェノレート(Aluminum(III)bis(2−methyl−8−quinolinato)4−phenylphenolate(BAlqと略記する))等のアルミニウム錯体、トリアゾール誘導体、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(2,9−Dimethyl−4,7−diphenyl−1,10−phenanthroline(BCPと略記する))等のフェナントロリン誘導体、トリフェニレン誘導体、カルバゾール誘導体等が挙げられる。
正孔ブロック層の厚さとしては、1nm〜500nmであるのが好ましく、5nm〜200nmであるのがより好ましく、10nm〜100nmであるのが更に好ましい。
正孔ブロック層は、上述した材料の一種又は二種以上からなる単層構造であってもよいし、同一組成又は異種組成の複数層からなる多層構造であってもよい。
【0076】
(電子ブロック層)
電子ブロック層は、陰極側から発光層に輸送された電子が、陽極側に通りぬけることを防止する機能を有する層である。本発明において、発光層と陽極側で隣接する有機層として、電子ブロック層を設けることができる。
電子ブロック層を構成する有機化合物の例としては、例えば前述の正孔輸送材料として挙げたものが適用できる。
電子ブロック層の厚さとしては、1nm〜500nmであるのが好ましく、5nm〜200nmであるのがより好ましく、10nm〜100nmであるのが更に好ましい。
電子ブロック層は、上述した材料の一種又は二種以上からなる単層構造であってもよいし、同一組成又は異種組成の複数層からなる多層構造であってもよい。
【0077】
(励起子ブロック層の説明)
励起子ブロック層は、発光層と正孔輸送層の界面、若しくは発光層と電子輸送層の界面のいずれか一方、又は両方に形成する層であり、発光層中で生成した励起子が正孔輸送層や電子輸送層へ拡散し、発光することなく失活するのを防止する層のことである。励起子ブロック層としては、カルバゾール誘導体からなることが好ましい。
【0078】
〔その他の有機層〕
本発明の有機電界発光素子は、特開平7−85974号、同7−192866号、同8−22891号、同10−275682号、同10−106746号等に記載の保護層を有していてもよい。保護層は発光素子の最上面に形成する。ここで最上面とは、基材、透明電極、有機層及び背面電極をこの順に積層する場合には背面電極の外側表面を指し、基材、背面電極、有機層及び透明電極をこの順に積層する場合には透明電極の外側表面を指す。保護層の形状、大きさ、厚み等は特に限定されない。保護層をなす材料は、水分や酸素等の発光素子を劣化させ得るものが素子内に侵入又は透過するのを抑制する機能を有しているものであれば特に限定されず、酸化ケイ素、二酸化ケイ素、酸化ゲルマニウム、二酸化ゲルマニウム等が使用できる。
【0079】
保護層の形成方法は特に限定はなく、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子センエピタキシ法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法等が適用できる。
【0080】
〔封止〕
また、有機電界発光素子には水分や酸素の侵入を防止するための封止層を設けるのが好ましい。封止層を形成する材料としては、テトラフルオロエチレンと少なくとも1種のコモノマーとの共重合体、共重合主鎖に環状構造を有する含フッ素共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリイミド、ポリユリア、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリジクロロジフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン又はジクロロジフルオロエチレンと他のコモノマーとの共重合体、吸水率1%以上の吸水性物質、吸水率0.1%以下の防湿性物質、金属(In、Sn、Pb、Au、Cu、Ag、Al、Tl、Ni等)、金属酸化物(MgO、SiO、SiO、Al、GeO、NiO、CaO、BaO、Fe、Y、TiO等)、金属フッ化物(MgF、LiF、AlF、CaF等)、液状フッ素化炭素(パーフルオロアルカン、パーフルオロアミン、パーフルオロエーテル等)、該液状フッ素化炭素に水分や酸素の吸着剤を分散させたもの等が使用可能である。
【0081】
本発明の有機電界発光素子は、陽極と陰極との間に直流(必要に応じて交流成分を含んでもよい)電圧(通常2ボルト〜15ボルト)、又は直流電流を印加することにより、発光を得ることができる。
【0082】
本発明の有機電界発光素子の駆動方法については、特開平2−148687号、同6−301355号、同5−29080号、同7−134558号、同8−234685号、同8−241047号の各公報、特許第2784615号、米国特許5828429号、同6023308号の各明細書、等に記載の駆動方法を適用することができる。
【実施例1】
【0083】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、物質量とその割合、操作等は本発明の主旨から逸脱しない限り適宜変更することができる。従って本発明の範囲は以下の具体例に制限されるものではない。
【0084】
(実施例1)
<有機電界発光素子の作製>
0.7mmの厚み、25mm角のガラス基板上に陽極としてITO(Indium Tin Oxide)を厚み150nmにスパッタリング蒸着したのち、エッチング及び洗浄した。ITOを成膜した基板を洗浄容器に入れ、2−プロパノール中で超音波洗浄した後、30分間UV−オゾン処理を行った。このガラス基板上に以下の各層を形成した。
なお、スピンコートと乾燥、アニール処理は、グローブボックス(露点‐60℃、酸素濃度1ppm)内で行った。
次に、陽極(ITO)上に、下記構造式で表されるPTPDES(ケミプロ化成製、重量平均分子量=13000。nは括弧内の構造の繰り返し数を意味し、整数である。)2質量部を、電子工業用シクロヘキサノン(関東化学製)98質量部に溶解又は分散させた正孔注入層塗布液をスピンコートした後、120℃で10分間乾燥し、160℃で60分間アニール処理することで、厚み40nmの正孔注入層を形成した。
【0085】
【化13】

【0086】
次に、下記構造の正孔輸送材料HTL−1(米国特許US2008/0220265に記載のHTL−1)4質量部と、10時間半減期温度が66.2℃であり、シアノ基を含まない下記構造の重合開始剤:V−601(和光純薬製)0.08質量部とを、電子工業用2−ブタノン(関東化学製)996質量部に溶解させて、正孔輸送層塗布液を調製した。
この正孔輸送層塗布液を正孔注入層上にスピンコートし、150℃で20分間乾燥することで厚み10nmの正孔輸送層を形成した。
【0087】
【化14】

【0088】
形成した正孔輸送層上に、ホスト材料として下記構造の化合物H−1を9質量部と、燐光発光材料としてIr(ppy)(ケミプロ化成製)1質量部とを、電子工業用2−ブタノン990質量部に溶解又は分散し、モレキュラーシーブ(商品名:モレキュラーシーブ3A 1/16、和光純薬株式会社製)を添加し、グローブボックス中で孔径0.22μmのシリンジフィルターを用いて濾過して調製した発光層塗布液を、グローブボックス中でスピンコートし、120℃で30分間乾燥して、厚み30nmの発光層を正孔輸送層上に形成した。
【0089】
【化15】

【0090】
次に、発光層上に、BAlq(Bis−(2−methyl−8−quinolinolato)−4−(phenyl−phenolate)−aluminium−(III))を真空蒸着法にて蒸着して、厚み40nmの電子輸送層を形成した。
【0091】
【化16】

【0092】
次に、電子輸送層上にフッ化リチウム(LiF)を蒸着して、厚み1nmの電子注入層を形成した。
次に、電子注入層上に金属アルミニウムを蒸着し、厚み70nmの陰極を形成した。
作製した積層体を、アルゴンガスで置換したグローブボックス内に入れ、ステンレス製の封止缶及び紫外線硬化型の接着剤(XNR5516HV、長瀬チバ(株)製)を用いて封止した。
【0093】
(実施例2)
実施例1に記載の重合開始剤:V−601のかわりに、10時間半減期温度が61℃であり、シアノ基を含まない下記構造の重合開始剤:OTAZO−15(大塚化学製)を用いた以外には、実施例1と同様に正孔輸送層を形成し、素子を作製した。
【0094】
【化17】

【0095】
(実施例3)
実施例1に記載の重合開始剤:V−601のかわりに、V−601HP(和光純薬製)を用いた以外には、実施例1と同様に正孔輸送層を形成し、素子を作製した。V−601HPは、V−601と同じ構造の重合開始剤であるが、金属含有量が少なく、Naが200ppb以下、Li、Cu等が100ppb以下となった製品である。
【0096】
【化18】

【0097】
(比較例1)
実施例1に記載の重合開始剤:V−601のかわりに、10時間半減期温度が65℃であり、シアノ基を含む下記構造のアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(和光純薬製)を用いた以外には、実施例1と同様に正孔輸送層を形成し、素子を作製した。
【0098】
【化19】

【0099】
(比較例2)
実施例1に記載の重合開始剤:V−601のかわりに、10時間半減期温度が51℃であり、シアノ基を含む下記構造の重合開始剤:V―65(和光純薬製)を用い、乾燥温度を130℃に変更した以外には、実施例1と同様に正孔輸送層を形成し、素子を作製した。
【0100】
【化20】

【0101】
(比較例3)
実施例1記載の重合開始剤:V−601のかわりに、10時間半減期温度が68℃であり、シアノ基を含む下記構造の重合開始剤:VPS−0501(和光純薬製)を用いた以外には、実施例1と同様に正孔輸送層を形成し、素子を作製した。
【0102】
【化21】

【0103】
(比較例4)
実施例1記載の重合開始剤:V−601のかわりに、10時間半減期温度が30℃であり、シアノ基を含む下記構造の重合開始剤:V−70(和光純薬製)を用いた以外には、実施例1と同様に正孔輸送層を形成し、素子を作製した。
【0104】
【化22】

【0105】
(比較例5)
実施例1記載の重合開始剤:V−601のかわりに、10時間半減温度が74℃である、シアノ基を含まない非アゾ系重合開始剤:過酸化ベンゾイルを用い、乾燥温度(重合温度)を160℃に変更した以外には、実施例1と同様に正孔輸送層を形成し、素子を作製した。
【0106】
(比較例6)
実施例1記載の重合開始剤:V−601を含まない以外には、実施例1と同様に正孔輸送層を形成し、素子を作製した。
【0107】
(比較例7)
実施例1記載の重合開始剤:V−601を含まない、かつ乾燥時間を30分間に変更した以外には、実施例1と同様に正孔輸送層を形成し、素子を作製した。
【0108】
(比較例8)
実施例1記載の重合開始剤:V−601のかわりに、下記構造の光重合開始剤;IRGACURE 907を用い、80℃で10分間乾燥後、UVチャンバー:ELC−500(ELCTRO−LITE CORPORATION製)を用いてUV露光を10分間行い、80℃で30分間アニール処理をした以外には、実施例1と同様に正孔輸送層を形成し、素子を作製した。
【0109】
【化23】

【0110】
<評価>
(正孔輸送層の耐溶剤性の評価)
実施例1〜3及び比較例1〜8において形成した正孔輸送層上に、溶媒:アセトンを60μl滴下し、そのまま大気中で乾燥させた。
乾燥後、膜表面上の液滴の痕を以下に記載するように○、×の二段階で判定した。
○:液滴の痕が観察されない
×:液滴の痕が観察される
(素子性能の評価)
外部量子効率の測定
東陽テクニカ株式会社製ソースメジャーユニット2400を用いて、直流電圧を各素子に印加し、発光させた。発光スペクトル及び輝度はトプコン社製スペクトルアナライザーSR−3を用いて測定し、これらの数値をもとに電流が2.5mA/cmにおける外部量子効率を輝度換算法により算出した。
外部量子効率は、以下に記載するように◎、○、×の三段階で評価した。
◎:6%以上
○:4%以上6%未満
×:4%未満
(正孔輸送層塗布液の保存安定性の評価)
正孔輸送層塗布液をグローブボックス(露点−60℃、酸素濃度1ppm)中で、24時間保管し、その状態を観察した。
保存安定性は、以下に記載するように○、△、×の三段階で評価した。
○:析出物なし
△:析出物あり
×:ゲル化
(素子耐久性)
室温で初期の輝度が1000cd/mになるように直流電流を調整し、輝度が半減するまでに要する時間を計測した。比較例7を基準としてその相対値を以下に記載するように、◎、○、△、×の四段階で評価した。なお実用上は、△以上の評価が求められる。
◎:1.2倍以上
○:1.0倍以上、1.2倍未満
△:0.7倍以上1.0倍未満
×:0.7倍未満
【0111】
以上の結果を、表1に示す。
【0112】
【表1】

【0113】
(実施例4)
実施例1に記載の正孔輸送材料HTL−1のかわりに、下記構造の正孔輸送材料HTL−2を用いた以外には実施例1と同様に正孔輸送層を形成し、素子を作製した。
【0114】
【化24】

【0115】
(実施例5)
実施例1に記載の正孔輸送材料HTL−1のかわりに、下記構造の正孔輸送材料HTL−3を用いた以外には実施例1と同様に正孔輸送層を形成し、素子を作製した。
【0116】
【化25】

【0117】
(実施例6)
実施例1に記載の正孔輸送材料HTL−1のかわりに、下記構造の正孔輸送材料HTL−4を用いた以外には実施例1と同様に正孔輸送層を形成し、素子を作製した。
【0118】
【化26】

【0119】
(実施例7)
実施例1における正孔注入層に代えて、陽極(ITO)上に、下記構造の化合物A(米国特許US2008/0220265に記載のCompound1)5質量部を、電子工業用シクロヘキサノン(関東化学製)995質量部に溶解又は分散させた正孔注入層塗布液をスピンコートした後、200℃で30分間乾燥して、厚み5nmの正孔注入層を形成し、かつ正孔輸送層を実施例4と同様に形成した以外には、実施例1と同様に素子を作製した。
【0120】
【化27】

【0121】
(実施例8)
実施例1に記載の正孔輸送材料HTL−1のかわりに、下記構造の正孔輸送材料HTL−5を用いた以外には実施例1と同様に正孔輸送層を形成し、素子を作製した。
【0122】
【化28】

【0123】
実施例4〜8で得られた正孔輸送層、素子及び正孔輸送層塗布液について、実施例1〜3及び比較例1〜8と同様の評価を行った。以上の結果を、表2に示す。
【0124】
【表2】

【0125】
上記表1及び2の結果から明らかのように、シアノ基を含まないアゾ系重合開始剤を使用して正孔輸送層を形成した実施例の素子1〜8は、シアノ基を含む重合開始剤を使用して正孔輸送層を形成した比較例の素子1〜4と比べて、効率及び耐久性が向上したことがわかる。
更に、実施例1と2との比較から、分解物が水と共沸可能である重合開始剤V−601を使用した実施例1は、分解物が水と共沸可能ではない重合開始剤OTAZO−15を使用した実施例2と比べて、耐久性が更に向上したことがわかる。また、実施例1と比較して、金属不純物が少ない重合開始剤を用いた実施例3においては、効率が向上したことがわかる。更に、実施例4と比較して、Ir錯体の重合体からなる正孔注入層上に正孔輸送層を塗布、重合した実施例7においても、耐久性が向上したことがわかる。
また、短時間(20分)の加熱によって形成された実施例1と30分の加熱によって形成された比較例7との正孔輸送層の重合度をFT−IRで測定したところ同等の重合度であることが確認され、また耐溶剤性、発光効率、保存安定性、耐久性が同等であることが確認された。しかしながら、本発明に係る重合開始剤を使用しない比較例7においては、実施例1と同等の性能を得るのに30分の熱乾燥(熱重合)時間を要し、これは実施例1における熱乾燥(熱重合)時間(20分)の1.5倍の時間であった。また実施例1と比較例6との比較から、同じ熱乾燥(熱重合)時間においては、本発明に係る重合開始剤を使用した実施例1の方が、耐溶剤性、効率及び耐久性に優れていた。
一方、シアノ基を含む重合開始剤を使用した比較例1では、実施例1及び比較例7と重合度は同等であったものの、発光効率が約4割低下した。
また、実施例1、実施例5と実施例8との比較から、ビニル基又はアリル基を有するトリアリールアミン誘導体からなる正孔輸送層は、メタクリロイル基を有するトリアリールアミン誘導体からなる正孔輸送層に比べ、耐久性が向上したことがわかる。 更に、シアノ基を含まない非アゾ系重合開始剤である過酸化ベンゾイルを用いて正孔輸送層を形成した比較例5は、実施例1と比較して耐久性に劣っていることが分かる。
更に、UV露光により正孔輸送層を形成した比較例8は、実施例1と比較して効率及び耐久性に劣っていることが分かる。
【符号の説明】
【0126】
2・・・基板
3・・・陽極
4・・・正孔注入層
5・・・正孔輸送層
6・・・発光層
7・・・正孔ブロック層
8・・・電子輸送層
9・・・陰極
10・・・有機電界発光素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つの重合性基を有するアリールアミン誘導体(B)と、シアノ基を含まないアゾ系重合開始剤(A)とを含有する組成物。
【請求項2】
前記シアノ基を含まないアゾ系重合開始剤(A)が、下記一般式(PI)で表される、請求項1に記載の組成物。
【化1】

(式中、RPI及びRPIは、それぞれ独立にアルキル基又はアリール基を表す。RPIは、−C(=O)−O−RPI、−O−C(=O)−RPI、又は−C(=O)−NH−RPIを表す。RPIは、アルキル基又はシクロアルキル基を表す。)
【請求項3】
前記シアノ基を含まないアゾ系重合開始剤(A)の10時間半減期温度が60〜70℃の範囲である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記シアノ基を含まないアゾ系重合開始剤(A)から生じる分解物が、水と共沸可能である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記少なくとも一つの重合性基を有するアリールアミン誘導体(B)が、下記一般式(1)又は一般式(2)で表わされる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【化2】

(式中、R及びR’は、それぞれ独立に重合性基を表す。R及びR’は、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表す。)
【化3】

(式中、R及びR’は、それぞれ独立に重合性基を表す。)
【請求項6】
前記重合性基が、ビニル基及びアリル基のいずれかである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物を塗布し、塗布された該組成物を加熱することにより形成された膜。
【請求項8】
請求項7に記載の膜である電荷輸送層。
【請求項9】
請求項8に記載の電荷輸送層を含有する有機電界発光素子。
【請求項10】
前記電荷輸送層が、イリジウム錯体を含む正孔注入層上に形成される、請求項9に記載の有機電界発光素子。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物を塗布し、塗布された該組成物を加熱することを含む、電荷輸送層の形成方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−79893(P2012−79893A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−223255(P2010−223255)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】