説明

組成物、光データ記憶媒体及び光データ記憶媒体の使用方法

【課題】組成物、光データ記憶媒体及び光データ記憶媒体の使用方法を提供する。
【解決手段】組成物200は、三重項励起に伴い光化学変化を起こすことができる反応物質と、化学線を吸収し、前記反応物質への上方三重項エネルギー移動を起こすことができる1種以上の白金エチニル錯体を含有する非線形増感剤とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物、光データ記憶媒体及び光データ記憶媒体の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に言えば、逆可飽和吸収体(RSA=reverse saturable absorber)は、所定の波長で極めて小さい線形吸収を示し、この波長の光をほとんどすべて透過する化合物である。しかし、所定の波長で高強度のレーザ−出力を受けると、この低いレベルの線形吸収が、分子がより高い吸収断面積をもち、同一波長で高吸収性である状態に変わり、その後、化合物が光子を強く吸収するようになる。例えば、多くのRSAは、532nmの波長をもつ入射化学線に当たると、光励起する。この波長は可視スペクトルの緑色領域にあるので、通常これらのRSAを「緑色」RSAという。
【0003】
近年、ある種のRSAはデータ記憶システムの分野に利用されている。データの読出又は書込が、例えばディスクに光を照らすことにより実現される光データ記憶は、別の手段、例えば磁気媒体読出用磁気感応性ヘッド又はビニルに記録した媒体読出用ニードルによって読出す必要がある媒体に記録したデータと比べて有利である。また、ビニル媒体に記憶できるデータに比べて、さらに多くのデータをより小さい媒体に光学的に記憶できる。さらに、データを読出すのに接触が不要なので、光媒体はビニル媒体に比べて繰り返し使用中に劣化しにくい。
【0004】
光データ記憶媒体は、磁気記憶媒体に比べても多くの利点がある。例えば、磁気ディスクドライブとは異なり、光データ記憶媒体は通常取り外し可能な(リムーバブル)媒体として提供され、データのアーカイブやバックアップ、無接続システム間でのコンテンツの共用及び記憶済みコンテンツの流通に非常に適している。取り外し可能な磁気媒体、例えば磁気テープが市販されているが、このような媒体に記憶させた情報の寿命は通常、10〜12年にとどまり、磁気媒体は通常かなり高価であり、データアクセスが遅い。対照的に、光データ記憶媒体は、取り外し可能な記録可能媒体及び/又は記録済み媒体としての融通性、速いデータアクセス、消費者のコンピュータ及び娯楽システムに十分に手ごろな媒体及びドライブの確実で安価な製造を実現することができる。
【0005】
しかし、従来の光データ記憶媒体には制限がある。まず、記録するビットの最小サイズの物理的制約によって光媒体の記憶密度が制限される。光記憶の別の制限は、データが通常、媒体の表面上又は媒体内部に挟まれた1又は2つのディスクリート層に記憶されることである。情報を深さ方向に記録すると記憶容量を増加することができるが、そのための方法、即ち退色及び光反応は、読取可能なマークを形成するのに大量の光出力を必要とする。結果として、これらの従来の3D記録方法を用いて記録する速度は遅い。さらに、これらの方法で使用する媒体は通常、光エネルギーに対して線形応答するので、データを記録した後に媒体の感光性を失わせて意図しない消去、データ損失などを回避する何らかのメカニズムを必要とすることがある。
【0006】
ホログラフィック記憶はデータをホログラムとして示す光データ記憶である。ホログラムは、2つの光ビームの交わりによって感光性媒体に作り出される3次元の干渉パターン(縞)のイメージである。具体的には、参照ビームとデジタルコード化したデータを含むシグナルビームの重ね合わせにより、媒体の体積内部で3D干渉パターンを形成し、その結果感光性媒体の屈折率を変更又は変調する化学反応が起こる。この変調が、このシグナルからの強度と位相情報の両方をホログラムとして記録する。参照ビームのみを記憶媒体に当てることにより、後でホログラムを再生することができる。即ち、参照ビームが記憶されたホログラフィックデータと相互作用し、ホログラフィックイメージを記憶するのに用いた最初のシグナルビームに比例する復元シグナルビームを発生する。
【0007】
ホログラフィック記憶の初期の試みは、ページベースのアプローチ、即ちデジタル情報のビットを論理0及び論理1の2次元配列として体積ホログラム中にコード化する方法に頼っていた。2次元配列は、ホログラムを記録する必然的に線形の媒体の「スライス」を横断する。比較的大きい体積の媒体を使用するので、ページベースのアプローチを利用するのに必要な記録及び読出用装置は複雑かつ高価となり、また媒体内部での読出又は書込は温度の変動及び振動並びに書込又は読出の波長又は強度の小さな変化に極めて敏感である。
【0008】
これらの欠点のために、ホログラフィックデータ記憶の最近の研究は、ビット単位のアプローチに注目している。このアプローチでは、情報の各ビット(又は数ビット)を表すホログラムを媒体内部の微小な体積に局在化して、読出光を反射する領域を形成する。このような局在化された体積ホログラフィックマイクロリフレクタを媒体の全体積にわたる多数のデータ層に配列することができる。このような配列では、層中のデータの読出や記録が、隣接層を記録/読出光にさらすことになるのを避けられない。したがって、単一ビット方式でのホログラフィックデータ記憶に線形材料が有効であることは示されているが、多数のデータ層をサポートすることができ、書込及び読出工程時に他のデータ層に影響を与えることがない媒体を提供することができれば、さらに有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第7459263号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ビット単位データ記憶アプローチに適応できる材料が強く求められている。これは、このような材料に対する読出や書込に使用する装置が、現在市販されているか、既に市販されている読出及び書込用装置を変更することで容易に用意できるからである。さらに、ビット単位アプローチよるホログラフィックデータ記憶は、ページベースアプローチによるホログラフィックデータ記憶に比べ、温度、波長、強度の変動及び振動に対して強い。ホログラム、特にマイクロホログラムの記録に最も有効になるためには、ビット単位データ記憶材料は非線形でなければならないし、さらに、記録光に応答して屈折率変化(Δn)少なくとも約0.005〜約0.05を示すことが望ましい。最終的に、記録光により材料中に生じる屈折率変調の大きさが特定のシステム構成での回折効率を規定し、これがSN比、ビット誤り率及び達成可能なデータ密度に変換される。
【0011】
したがって、記録光の強度に非線形(即ち、「閾値」)応答することができ、ビット単位ホログラフィックデータ記憶に適当である光データ記憶媒体が必要とされている。特に、媒体に記憶するホログラムの深さを制限して容量の増加が実現できると有利である。さらに、このようなデータ記憶媒体には、周囲の媒体の屈折率をほとんど変えず、ホログラム効率の顕著な低下が様々な深さで認められない方法で書込むことが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一実施形態では、本発明は、三重項励起(Tn;n>1)に伴って変化を起こすことができる反応物質と、約405nmの化学線を吸収して反応物質への上方三重項−三重項エネルギー移動を起こすことができる1種以上の白金エチニル錯体を含有する非線形増感剤とを含む組成物を提供する。
【0013】
別の実施形態では、本発明は光データ記憶媒体を提供する。この媒体は、ポリマーマトリックスと、三重項励起(Tn;n>1)に伴って変化を起こすことができる反応物質と、約405nmの化学線を吸収して反応物質への上方三重項−三重項エネルギー移動を起こすことができる1種以上の白金エチニル錯体を含有する非線形増感剤とを含む。
【0014】
他の実施形態では、本発明は光データ記憶方法を提供する。本方法は増感剤及び反応物質を含有する光データ記憶媒体を製造する工程を含む。反応物質は三重項励起に伴って変化を起こすことができ、非線形増感剤は、1種以上の白金エチニル錯体を含有し、かつ化学線を吸収して反応物質への上方三重項−三重項エネルギー移動を起こすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本発明の上記その他の特徴、観点及び効果を一層良く理解できるように、以下に添付の図面を参照しながら本発明を詳細に説明する。図面において、同じ符号は同一部品を示す。
【図1A】化学線に対する線形増感剤の応答を示すグラフである。
【図1B】化学線に対する閾値増感剤の応答を示すグラフである。
【図2】光記憶媒体の断面図であり、媒体が線形増感剤を含有する場合の化学線の影響領域及び媒体が閾値増感剤を含有する場合の化学線の影響領域を示す。
【図3】逆可飽和吸収を示す増感剤の上方三重項Tn励起状態吸収及びそれから生じるエネルギー移動を示すエネルギー準位図である。
【図4】本発明の媒体及び方法に有用な白金エチニル錯体(PPE及びPE2)の化学式である。
【図5】本発明の媒体及び方法に有用な白金エチニル錯体(PE2)の合成の流れ図である。
【図6A】本発明の媒体及び方法に有用な白金エチニル錯体(PE2)のZ−スキャン測定のグラフである。
【図6B】本発明の媒体及び方法に有用な白金エチニル錯体(PPE)のZ−スキャン測定のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
特別に定義されない限り、本明細書で用いられる科学技術用語は、当業者が一般に理解するのと同様な意味を有する。ここで用いる用語「第1」、「第2」などは、順序、数量又は重要性を表すものではなく、ある要素を他の要素と区別するのに使用する。ここで用いる単数表現は、数量を限定するものではなく、記載要素が少なくとも1つ存在することを表す。特記しない限り、用語「前部」、「後部」、「底部」及び/又は「上部」は単に説明の便宜上用いたものであり、特定の位置や空間的定位を限定するものではない。範囲を記載した場合、同じ成分又は特性に関するすべての範囲の上下限の値は、独立に組合せることができ、上下限の値を含む(例えば、「約25重量%以下、特定すると約5重量%〜約20重量%」の範囲は上下限値及び「約5重量%〜約25重量%」の範囲のすべての中間値を含む)。数量に伴う修飾語「約」は、表示値を含み、文脈で示された意味を持つ(例えば特定の数量の測定に伴う誤差を含む)。
【0017】
ここで用いる用語「回折効率」は、ホログラム位置で入射プローブビーム出力に対して測定した、ホログラムにより反射されたビーム出力の割合を意味し、また「量子効率」は吸収された光子が化学変化をもたらし屈折率変化を起こす確率を意味する。「フルエンス」(fluence)はビーム断面の単位面積を通過した光ビームエネルギーの量を意味し(例えば、J/cm2単位で測定される)、また「強度」(intensity)は光の放射フラックス密度、例えば単位時間にビーム断面の単位面積を通過するエネルギーの量を意味する(例えば、W/cm2単位で測定される)。
【0018】
本発明は反応物質及び非線形増感剤を含有する組成物を提供する。特に、本組成物は三重項励起(Tn;n>1)に伴って変化を起こすことができる反応物質と1種以上の白金エチニル錯体を含有する非線形増感剤とを含む。非線形増感剤は、例えば、1以上の光子の形態の入射化学線を吸収し、次いで三重項−三重項エネルギー移動によって反応物質分子にエネルギーを移動し、反応物質の分子内転位を誘発し、生成物を与えることができる。本発明の光データ記憶媒体に使用する非線形増感剤は、非常に短い寿命(ナノ秒から数マイクロ(μ)秒)の上方三重項状態(Tn、但しn>1)から反応物質にエネルギーを移動することができる。
【0019】
ある実施形態では、本発明の非線形増感剤は2つの光子を、通常逐次的に吸収することができる。また、本発明の増感剤は、吸収したエネルギーを反応物質に移動したら、元の状態に戻り、このプロセスを何度も繰り返すことができる。したがって、増感剤は実質的に時間とともに消費されることはないが、エネルギーを吸収し、1種以上の反応物質にそのエネルギーを放出する能力が時間とともに低下することがある。これは、感光性材料として従来知られる材料とは異なっている。感光性材料は、エネルギー(通常、単一の光子)を吸収でき、別の分子にそのエネルギーを移動することはできないが、新しい構造に転化したり、別の分子と反応して、その際に新しい化合物を形成したりする。
【0020】
一実施形態では、非線形増感剤は逆可飽和吸収(RSA)を示す白金エチニル錯体を含有する。具体的に説明すると、多くのRSAが知られており、非線形用途に使用されているが、従来のRSAは通常、「緑色」レーザー、即ち約532nmの波長の光を利用するレーザーとともに使用するのにより適当な吸収スペクトル及び非線形光応答を示す。これに対して、本発明の白金エチニル錯体は「青色」レーザー、即ち約405nmの波長の光を利用するレーザーとともに使用するのに適当である。
【0021】
非線形増感剤は1種以上の白金エチニル錯体、具体的には上方励起三重項状態(Tn)から隣接する反応物質にエネルギーを移動することができる1種以上の白金エチニル錯体を含有することが望ましい。光データ記憶媒体に用いるのに適当な白金エチニル錯体としては、白金がπ電子系の非局在化に関与したり、系間交差(ISC)による一重項状態遷移につながる三重項エネルギー準位を有したり、或いはその両方である錯体であればどのようなものでもよい。このような錯体の例としては、trans−白金化合物、例えばビス(トリブチルホスフィン)ビス(4−エチニルビフェニル)白金(略号PPE)、ビス(トリブチルホスフィン)ビス(4−エチニル−1−(2−フェニルエチニル)ベンゼン)白金(略号PE2)、ビス(1−エチニル−4−(4−n−ブチルフェニルエチニル)ベンゼン)ビス(トリ−n−ブチルホスフィン)Pt(II)(略号n−butyl−PE2)、ビス(1−エチニル−4−(4−フルオロフェニルエチニル)ベンゼン)ビス(トリ−n−ブチルホスフィン)Pt(II)(略号F−PE2)、ビス(1−エチニル−4−(4−メトキシフェニルエチニル)ベンゼン)ビス(トリ−n−ブチルホスフィン)Pt(II)(略号4−MeO−PE2)、ビス(1−エチニル−4−(4−メチルフェニルエチニル)ベンゼン)ビス(トリ−n−ブチルホスフィン)Pt(II)(略号Me−PE2)、ビス(1−エチニル−4−(3,5−ジメトキシフェニルエチニル)ベンゼン)ビス(トリ−n−ブチルホスフィン)Pt(II)(略号3,5−diMeO−PE2)、ビス(1−エチニル−4−(4−(N,N−ジメチルアミノ)フェニルエチニル)ベンゼン)ビス(トリ−n−ブチル−ホスフィン)Pt(II)(略号diMeamino−PE2)が挙げられるが、これらに限らない。ある実施形態では、白金錯体は1種以上のPE2又はPPEを含む。
【0022】
本組成物に用いる非線形増感剤の量は、入射化学線の波長での光学密度に依存する。増感剤の溶解度も1つの要因となることがある。一般的に言えば、増感剤の使用量は、組成物の総量に基づいて約0.002重量%〜約5重量%とすることができる。
【0023】
本発明の組成物に使用する反応物質は、三重項励起に伴って変化を起こすことができる。図3を参照すると、本発明の光データ記憶媒体に使用する反応物質は矢印307で示す三重項エネルギーをもち、これは矢印308で示す増感剤のT2状態のエネルギーより下、かつ矢印309で示す増感剤のT1状態のエネルギーより上にある。また反応物質は、増感剤の上方三重項状態(T2又はさらに上位)からエネルギーを受け取り、変化を起こして生成物を形成することができる。
【0024】
ここで用いる用語「変化」は、反応物質の「間接的な」光化学反応、例えば光二量化又は光異性化を含むものとする。光二量化は、電子的に励起した不飽和分子が構造的に類似及び/又は同一な種の非励起分子に付加することを伴う二分子の光化学プロセスである(例えば、2つのオレフィンが結合してシクロブタン環構造を形成する)。この反応で生じる共有結合により、光生成物に通常分類できる新しい部分が生成する。用語「間接的な」は、光二量化又は光化学反応又は光反応などの用語と組み合わせて使用する場合、反応物質が、光子の吸収からエネルギーを直接受け取るのではなく、最初に光子を吸収して反応物質にそのエネルギーの一部を移動する別の分子(例えば、増感剤又は媒介物など)からエネルギーを受け取り、その後二量化したことを意味する。
【0025】
本発明の組成物のある実施形態で用いるのに適当な反応物質の例には、(i)反応物質から生成物になるのに僅かな体積変化しかしないように二量化できる物質、例えば、反応物質の直接光励起によってではなく、光励起増感剤から反応物質への間接的な「無輻射エネルギー移動」(本発明の場合、三重項−三重項エネルギー移動)の経路により二量化プロセスを起こす反応物質;(ii)非線形増感剤が2光子プロセスからエネルギーを受け取り、第1の反応物質にそのエネルギーを与え、その後第1の反応物質が第2の反応物質と縮合し生成物を与える物質;(iii)ポリマー骨格に誘導化される場合、材料の有効能力に相当する非常に大きな屈折率変化を与えることができる、例えば、85%超えの反応物質が生成物に転化する場合、約0.08以上のΔnmaxを達成できる物質;及び(iv)ポリマー骨格に誘導化される場合、分子間及び分子内の縮合反応の両方が起こることができるので、反応物質の消費を加速し、増感光反応の高い量子効率の結果として10J/cm2未満の入射フルエンスで所望の屈折率変化(Δn)を与え、その結果として高い回折効率及び例えば本組成物を用いたデータ記憶媒体内への短い記録時間を実現することもできる物質が挙げられるが、これらに限らない。
【0026】
当業者に明らかなように、ホログラフィックデータ記憶の基本的要求は、周囲の材料と比較したホログラム内の各フリンジ(縞)の屈折率変化(Δn)を0.005〜0.05程度にできることである。しかし、各フリンジの屈折率を測定することは不可能である。屈折率(RI)測定は、スピンコートしたサンプルをエリプソメータとして知られる計器と組合せてバルク材料で行う。したがって、本用途で使用する反応性材料を試験して、まず材料の正味の有効Δnを求めた。未反応サンプルのRIを測定して、その後、材料の85%以上を反応済み形態に転化し、RIを再測定することにより、Δnを求める。ホログラフィックデータ記憶におけるホログラムの重要な特徴は1ビットの情報を表すのに十分な量の光を検出器に反射(回折)することである。反射量は材料の回折効率(DE)を測定することにより求めることができる。実験的には、比較的小さい開口数(NA)のレンズを用い、比較的大きなホログラムを書込み、比較的大きな回折効率を記録するのが最も容易である。例えば、結合波理論による予測に基づくと、一定の大きさの屈折率変調の場合、DEはホログラムの深さの2乗におおよそ比例する。ホログラムの深さは、NA2におよそ反比例するので全体としてDEは約1/NA4に依存する。したがって、DEは特に反応性材料の応答、ホログラムを記録するのに使用するレンズのNA及び用いるフルエンスの関数である。これらのパラメータは、ホログラフィックデータ記憶を研究する実験者によって異なることが多いので、これらの測定を近似Δnに相関づけることは材料とシステムの比較に好ましい方法であると一般的に認識されている。
【0027】
増感剤のT1とT2状態の間に三重項エネルギー状態を有するどのような反応物質も用いることができ、したがって適当な反応物質の選択は望ましい増感剤の選択に左右される。適当な反応物質にはスチルベンがあるが、これに限らない。本発明の光記憶媒体に有効であると予想されるスチルベンの具体例としては、trans−スチルベン、メタ又はパラハロゲン(F、Cl、Br又はI)置換スチルベン、メタ又はパラtrans−メチルスチルベン、trans−(メタ又はパラ)シアノスチルベン、trans−(メタ又はパラ)メトキシスチルベン、[3,3’]又は[4,4’]又は[2,4]又は[3,4]―ジメトキシ、ジフルオロ、ジブロモ、ジクロロ、ジヨード置換trans−スチルベン、trans−2,4,6−トリメチルスチルベン、trans−2,2’,4,4’,6,6’−ヘキサメチルスチルベン又はこれらの組合せがあるが、これらに限らない。
【0028】
さらに特定すると、適当な反応物質として、(E)−1−メトキシ−4−スチリルベンゼン、(E)−1−フルオロ−4−スチリルベンゼン、(E)−1−クロロ−4−スチリルベンゼン、(E)−1−ブロモ−4−スチリルベンゼン、(E)−1−ヨード−4−スチリルベンゼン、(E)−1−メトキシ−3−スチリルベンゼン、(E)−1−フルオロ−3−スチリルベンゼン、(E)−1−クロロ−3−スチリルベンゼン、(E)−1−ブロモ−3−スチリルベンゼン、(E)−1−ヨード−3−スチリルベンゼン、(E)−1−シアノ−4−スチリルベンゼン又はこれらの組合せが挙げられる。
【0029】
また別の適当な反応物質には、(E)−1,2−ビス(4−メトキシフェニル)エテン、(E)−1,2−ビス(4−フルオロフェニル)エテン、(E)−1,2−ビス(4−クロロフェニル)エテン、(E)−1,2−ビス(4−ブロモフェニル)エテン、(E)−1,2−ビス(4−ヨードフェニル)エテン、(E)−1,2−ビス(3−メトキシフェニル)エテン、(E)−1,2−ビス(3−フルオロフェニル)エテン、(E)−1,2−ビス(3−クロロフェニル)エテン、(E)−1,2−ビス(3−ブロモフェニル)エテン、(E)−1,2−ビス(3−ヨードフェニル)エテン又はこれらの組合せがある。
【0030】
さらに他の適当な反応物質には、(E)−1−メトキシ−2−(4−メトキシスチリル)ベンゼン、(E)−1−フルオロ−2−(4−フルオロスチリル)ベンゼン、(E)−1−クロロ−2−(4−クロロスチリル)ベンゼン、(E)−1−ブロモ−2−(4−ブロモスチリル)ベンゼン、(E)−1−ヨード−2−(4−ヨードスチリル)ベンゼン、(E)−1−ヨード−2−(4−シアノスチリル)ベンゼン、(E)−1−メトキシ−3−(4−メトキシスチリル)ベンゼン、(E)−1−フルオロ−3−(4−フルオロスチリル)ベンゼン、(E)−1−クロロ−3−(4−クロロスチリル)ベンゼン、(E)−1−ブロモ−3−(4−ブロモスチリル)ベンゼン、(E)−1−ヨード−3−(4−ヨードスチリル)ベンゼン、(E)−1−ヨード−3−(4−シアノスチリル)ベンゼン、(E)−1−メトキシ−2−(3−メトキシスチリル)ベンゼン、(E)−1−フルオロ−2−(3−フルオロスチリル)ベンゼン、(E)−1−クロロ−2−(3−クロロスチリル)ベンゼン、(E)−1−ブロモ−2−(3−ブロモスチリル)ベンゼン、(E)−1−ヨード−2−(3−ヨードスチリル)ベンゼン、(E)−1−ヨード−2−(3−シアノスチリル)ベンゼン又はこれらの組合せがある。
【0031】
別の実施形態では、反応物質は、1種以上のシンナメート材料、シンナムアミド及びシンナメート誘導体、例えば最近発見され、本発明と同日付で出願中の米国特許出願第12/550521号(出願人整理番号238407−1)「光データ記憶媒体及びその使用方法」に開示されている物質を含む(本発明の教示内容と直接矛盾しない限り、その全開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。)。ある実施形態では、[2+2]間接光二量化及び間接光重合を起こすことができるシンナメート材料を使用することができる。405nmで透明(ごく僅かなUV吸収)であり、そのためシンナメートの線形退色を最小限に保ち、励起増感剤からの三重項−三重項エネルギー移動のみを促進するからである。ある実施形態では、シンナメート材料は、ポリビニルシンナメート(略号PVCm)を含むことが望ましく、この場合ポリビニル骨格のシンナメート含量はポリビニルシンナメートの総量に基づいて約54重量%〜約75重量%の範囲で変化する。
【0032】
ポリビニルシンナメート及びシンナムアミド類似体の例には、ポリビニルシンナメート(略号PVCm)、ポリビニル−4−クロロシンナメート(略号PVClCm)、ポリビニル−4−メトキシシンナメート(略号PVMeOCm)、(2E,2’E)−((1S,2S)−シクロヘキサン−1,2−ジイル)ビス(3−フェニルアクリレート)、(2E,2’E)−((1S,2S)−シクロヘキサン−1,2−ジイル)ビス(4−クロロフェニルアクリレート)、(2E,2’E)−((1S,2S)−シクロヘキサン−1,2−ジイル)ビス(4−メトキシフェニルアクリレート)、(2E,2’E)−N,N’−((1S,2S)−シクロヘキサン−1,2−ジイル)ビス(3−フェニルアクリルアミド)、(2E,2’E)−N,N’−((1S,2S)−シクロヘキサン−1,2−ジイル)ビス(3−(4−クロロフェニル)アクリルアミド)、(2E,2’E)−N,N’−((1S,2S)−シクロヘキサン−1,2−ジアリール)ビス(3−(4−メトキシフェニル)アクリルアミド)が挙げられるが、これらに限らない。これらを以下に示す。
【0033】
【化1】

【0034】
式中、R=H又はシンナメート、
X=H(ポリビニルシンナメート(略号PVCm))、
OMe(ポリビニル−4−メトキシシンナメート(略号PVMeOCm))、又は
Cl(ポリビニル−4−クロロシンナメート(略号PVClCm))。
【0035】
【化2】

【0036】
式中、X=(パラ)−H:(2E,2’E)−((1S,2S)−シクロヘキサン−1,2−ジイル)ビス(3−フェニルアクリレート)、又は
X=(パラ)−Cl:(2E,2’E)−((1S,2S)−シクロヘキサン−1,2−ジイル)ビス(3−(4−クロロフェニル)アクリレート)、又は
X=(パラ)−MeO:(2E,2’E)−((1S,2S)−シクロヘキサン−1,2−ジイル)ビス(3−(4−メトキシフェニル)アクリレート)。
【0037】
【化3】

【0038】
式中、X=(パラ)−H:(2E,2’E)−N,N’−((1S,2S)−シクロヘキサン−1,2−ジイル)ビス(3−フェニルアクリルアミド)、又は
X=(パラ)−Cl:(2E,2’E)−N,N’−((1S,2S)−シクロヘキサン−1,2−ジイル)ビス(3−(4−クロロフェニル)アクリルアミド)、又は
X=(パラ)−MeO:(2E,2’E)−N,N’−((1S,2S)−シクロヘキサン−1,2−ジイル)ビス(3−(4−メトキシフェニル)アクリルアミド)。
【0039】
反応物質は通常、比較的高濃度で存在して三重項エネルギー移動をさらに効率的にする。例えば、反応物質は、組成物中に組成物の総量に基づいて約2重量%〜約80重量%の量で存在することができる。
【0040】
所望により、組成物はさらに、増感剤から反応物質への上方三重項エネルギー移動を促進する媒介物(mediator)を含有することができる。媒介物の三重項状態(T1m)は、(a)増感剤の三重項状態(Tn;n>1)より下であるが、増感剤の三重項状態T1より上にあり、かつ(b)反応物質の三重項状態(T1r)より上にあることが望ましく、約50kcal/mol〜90kcal/molであることが理想である。
【0041】
適当な媒介物の例には、アセトフェノン(T1≒78kcal/mol)、ジメチルフタレート(T1≒73kcal/mol)、プロピオフェノン(T1≒72.8kcal/mol)、イソブチロフェノン(T1≒71.9kcal/mol)、シクロプロピルフェニルケトン(T1≒71.7kcal/mol)、デオキシベンゾイン(T1≒71.7kcal/mol)、カルバゾール(T1≒69.76kcal/mol)、ジフェニレンオキシド(T1≒69.76kcal/mol)、ジベンゾチオフェン(T1≒69.5kcal/mol)、2−ジベンゾイルベンゼン(T1≒68.57kcal/mol)、ベンゾフェノン(T1≒68kcal/mol)、ポリビニルベンゾフェノン(T1≒68kcal/mol)、1,4−ジアセチルベンゼン(T1≒67.38kcal/mol)、9H−フルオレン(T1≒67kcal/mol)、トリアセチルベンゼン(T1≒65.7kcal/mol)、チオキサントン(T1≒65.2kcal/mol)、ビフェニル(T1≒65kcal/mol)、フェナントレン(T1≒62kcal/mol)、フェナントレン(T1≒61.9kcal/mol)、フラボン(T1≒61.9kcal/mol)、1−ナフトニトリル(T1≒57.2kcal/mol)、ポリ(β−ナフトイルスチレン)(T1≒55.7kcal/mol)、フルオレノン(T1≒55kcal/mol)及びこれらの組合せがあるが、これらに限らない。
【0042】
媒介物の使用量(使用する場合)は、自己失活、即ち媒介物の2つの三重項が互いに出会い媒介物の一重項状態と基底状態とを発生するほど多くすべきではない。媒介物の最適量は増感剤に依存することもある。このようなことを考慮して、媒介物の有効濃度は、組成物の総量に基づいて約1重量%〜約20重量%の範囲にすることができる。
【0043】
本組成物は、その特性が利益をもたらすどのような用途にでも使用することができる。用途例としては、光導波路、屈折率分布(GRIN)レンズ、光データ記憶媒体及びデジタルホログラフィックイメージングが挙げられるが、これらに限らない。
【0044】
光導波路は、光集積回路の部品として用いられ、様々な方法で製造することができる。1つの方法では、レーザーを用いて感光性材料にパターンを付け、ある屈折率材料の「コア」を異なる屈折率の「クラッド」材料で囲んだ構造を形成し、これが光を導く働きをする。一般に、これらの感光性材料は、線形応答し、パターニングレーザーの波長と屈折率変化を起こす材料の吸収の両方が、導波路内を実際に進行する光の波長から十分に離れた波長であることが必要である。これが必須条件である理由は、導波路ビームがコアを進行する光と同一又はほとんど同じ場合、コアを進行する光がクラッド材料を退色し、導波路を広げ始め、導波路を劣化させ使用できなくするからである。しかし、本発明の材料を用いることで、媒体は、パターニング時のビームの最高強度領域のみで変化し、閾値効果と相まって、コア領域とクラッド領域間で一層鮮明なコントラストを作り出す。また、強度の低い同様な波長の光は、コアを進行することができ、クラッド材料を劣化しない。したがって、本発明の組成物を用いることによって光導波路を改良することができる。
【0045】
屈折率分布(GRIN=gradient-index)レンズも本発明の組成物から製造することができる。GRINレンズは、材料の屈折率が媒体中の空間座標の関数として連続的に変化するレンズである。本発明の組成物を用いれば、高出力で作用するレーザーでパターニングすることにより組成物をGRINレンズに転化することができる。或いはまた、組成物のブランクレンズを同様な方法でGRINレンズに変更することができる。本発明のGRINレンズは、屈折率分布を退色(消去)したり、レンズを損傷したりするおそれなしに様々な波長の低出力の光ビームで使用できることが利点である。
【0046】
デジタルホログラフィックイメージングは、特殊なメガネの助けなしで視覚化(裸眼立体視化)するのに有効な3Dイメージを形成する方法である。これらは政府使用及び商業用途のインタラクティブ3Dディスプレイ、例えば、様々な角度から見ることができる高層ビルが建つ都市のディスプレイなどを製造するのに有効である。この場合も、本組成物を使用すると、閾値特性のために、周辺光での退色の問題のない、適切なパターニングが可能となる。
【0047】
本発明は、非線形増感剤、反応物質及び所望により媒介物に加えて、さらにポリマーマトリックスを含有する光データ記憶媒体も提供する。光データ記憶媒体は、化学線に対して非線形応答を示す、即ち閾値より下では入射レーザー光に対して屈折率の変化をほとんど起こさず、閾値より上では屈折率の有意な変化を起こすことが望ましい。このような媒体への記録は閾値を超える出力又は強度をもつ光でのみ可能であり、記録後のデータは閾値より低い強度をもつ光で繰り返し、実質的に非破壊的に読出すことができるので有利である。本発明の光データ記憶媒体に記録したマイクロホログラムは、それらの記録に用いたビームよりサイズが小さいことが予想される。最後に、媒体は、約405nmの化学線を吸収して反応物質への上方三重項−三重項エネルギー移動を起こすことができる増感剤を含有し、このため媒体の記憶容量が最適になり、しかも媒体は現行の記憶フォーマット、例えばブルーレイなどと互換性もある。
【0048】
光データ記憶媒体は、非線形増感剤及び反応物質がポリマーマトリックスに分散している。非線形増感剤は、入射化学線を例えば1以上の光子の形態で吸収することができ、次いで反応物質分子にエネルギーを移動して反応物質の分子内転位を誘発し生成物にし、結果として媒体の屈折率に変調を起こす。この変調が入射化学線からの強度及び位相情報の両方をホログラムとして記録する。線形増感剤ではなく非線形(即ち、「閾値」)増感剤を使用する利点は図1A、図1B及び図2を参照するとさらに明らかになる。
【0049】
さらに具体的には、図1Aは入射化学線に対する線形感光性材料の応答を示し、一方図1Bは入射化学線に対する閾値材料の応答を示す。図1Aに示すように、線形感光性材料は、どのような出力密度(強度)の記録光でも反応を起こし、材料が受け取る放射エネルギー(フルエンス)が同様の場合、到達する屈折率変化(Δn)量は同じである。対照的に、閾値材料は、特定の光強度以上の記録光でのみ反応を起こす。
【0050】
結果として、図2に示すように、線形感光性材料を含有する光データ記憶媒体200では、断面201で示すように非記録位置の体積、即ち化学線が透過するほとんどすべてのところでダイナミックレンジの消費が起こる。対照的に、光データ記憶媒体200が閾値材料を含有する場合、非記録位置の体積におけるダイナミックレンジの消費を低減するかなくし、消費はほぼ目標体積、即ち化学線の集点202のみで起こる。したがって、本発明の光データ記憶媒体に閾値材料を使用すると、媒体のバルクに埋め込まれる、ビット単位のデータの層に記録することを容易にし、すでにデータが記録されているか次の記録に使用可能な空スペースである隣接層を破壊することはない。また、ぴったりフォーカスしたレーザービームの光強度は、焦点スポットの深さによって急激に変化し、通常、ビームウエスト(最も狭い断面積)で最大になるので、媒体の閾値応答は、当然材料転化をビームウエストのごく近傍のみで起こるように制限する。これにより、各層中のマイクロホログラムサイズが低減し、したがって本発明の媒体の層データ記憶容量の増加が促進され、結果として媒体の全体としてのデータ記憶容量も増加する。閾値材料を含有する光データ記憶媒体は、周辺光で実質的に安定であり、周辺光へ曝露されても媒体の実質的な劣化や損傷を起こさないという利点もある。
【0051】
上述のように、本発明の組成物及び光データ記憶媒体に用いる非線形増感剤は、非常に短い寿命(ナノ秒から数マイクロ(μ)秒)の上方三重項状態(Tn、但しn>1)から反応物質にエネルギーを移動することができる。エネルギーをTn状態から移動する能力は、本発明の光データ記憶媒体に非線形、即ち閾値特性を付与する。即ち、Tn励起状態吸収は、増感剤が高強度の光、例えば、周辺光より2桁以上大きい強度を有する光によって励起された場合だけに認められ、低エネルギー光の照射時には無視できるほど小さい。これにより、非線形増感剤を含有する本発明の光データ記憶媒体が、低強度の光、例えば、読出光又は周辺光にはほぼ透明で不活性のままで、焦点又はその近傍で高エネルギーの記録光のみに応答してその特性(吸光度、したがって屈折率)を変化させることを可能にする。結果として、本発明の光データ記憶媒体は、マイクロホログラフィックデータのビット単位記録に望ましく、必要である閾値挙動を示す。
【0052】
図3は、逆可飽和吸収を示す増感剤の上方三重項Tn励起状態吸収及びそれから生じるエネルギー移動を示すエネルギー準位図である。エネルギー準位図300に示すように、矢印301は、1光子が一重項基底状態S0から第1励起状態S1に遷移するときの光子の基底状態吸収断面積を示す。系間交差(ISC=intersystem crossing)率は、矢印302で示され、増感剤が励起一重項状態S1から相当する三重項状態T1に移る場合に起こるエネルギー移動を表す。矢印303は励起三重項状態吸収断面積を示す。上方レベルの三重項状態Tnが、次の線形吸収により実現すると、可能な上方励起の減衰過程が2つある。1つの可能な減衰過程は、図3に矢印304で示され、下位のT1状態に内部転換(IC=internal conversion)することによる非輻射緩和である。もう1つの可能な減衰過程は、図3に矢印305で示され、増感剤からエネルギーを放出し、三重項−三重項エネルギー移動により反応物質にこのエネルギーを移動することを含む。次いで、反応物質は、矢印306で示される変化を起こしてホログラフィックグレーティング(格子)を形成し、そこにデータを記録する。
【0053】
光データ記憶媒体に用いる非線形増感剤の量は、ホログラムを記録するのに使用する光の波長での光学密度に依存する。増感剤の溶解度も1つの要因となることがある。一般的に言えば、増感剤の使用量は、光データ記憶媒体の総量に基づいて約0.002重量%〜約5重量%にすることができる。
【0054】
ある実施形態では、光データ記憶媒体は高データ密度でマイクロホログラムを記録するのに適当な屈折率変化(Δn)、例えば、約0.005以上又は約0.05以上の屈折率変化を示すことが予想される。本発明の光データ記憶媒体によりこのような屈折率変化/回折効率を達成することができるので、本媒体は1枚のCD又は1枚のDVDに匹敵する寸法のディスクに約1TBの情報を記憶することができる。
【0055】
また、本発明の反応物質を使用すると、従来の反応物質に比べて複屈折を著しく低減することができる。最後に、本発明の光記録用媒体は、迅速に高解像度のマイクロホログラムを形成し、取得したホログラフィックパターンを不鮮明にするおそれがある熱発生や隣接場所へのシグナルのリークをできるだけ少なくする能力がある。
【0056】
反応物質は通常、ポリマーマトリックス内部での光学特性の大きな変化を生じ、かつ一層効率的な三重項エネルギー移動を促進するために、比較的高濃度で存在する。例えば、反応物質は光データ記憶媒体の総量に基づいて約2重量%〜約80重量%の量で光データ記憶媒体に存在することができる。
【0057】
反応物質は、ポリマー骨格に誘導体化される場合、従来の反応物質と比べ一層多量に光データ記憶媒体に添加できる可能性がある。つまり、ポリマー骨格に誘導体化される場合の従来の反応物質の添加量は光データ記憶媒体の総量に基づいて約30重量%以下に制限されるが、本発明の新規反応物質では、より多量に、即ち約90重量%までポリマー骨格に乗せて添加することができる。
【0058】
反応物質は、光データ記憶媒体のポリマーマトリックスと共有結合又は会合することができる。例えば、シンナメートで官能化されたポリマーをポリマーマトリックスとして用いることができ、例えば、ポリビニルシンナメートは簡単に入手できる。この場合、光データ記憶媒体は一層多量、例えば光データ記憶媒体の総量に基づいて約90重量%までの反応物質を含有することができる。
【0059】
所望の媒介物(使用する場合)は、ポリマーマトリックスと共有結合又は会合することができる。このようにポリマーマトリックスに媒介物を組み込むことにより、高濃度の媒介物を使用することが可能になり、結果としてデータ記憶媒体の記録効率を増加することができる。
【0060】
所望の増感剤や反応物質、及び任意の媒介物は、ポリマーマトリックスにほぼ均一に分散するか、光データ記憶媒体内でのビット単位データ記録を促進するような態様で分散することができる。ポリマーマトリックスは直鎖状、枝分れ状又は架橋型のポリマー又はコポリマーを含む。内部に増感剤及び反応物質をほぼ均一に分散することができればどのようなポリマーでも用いることができる。さらに、使用するポリマーは、上方三重項エネルギーの移動過程を実質的に妨害しないことが望ましい。ポリマーマトリックスは、光データ記憶媒体の記録及び読出に想定される波長で光学的に透明であるか、或いは少なくとも高い透明性を有するポリマーが望ましい。
【0061】
ポリマーマトリックスに使用するのに適当なポリマーの具体例としては、ポリ(アルキルメタクリレート)、例えばポリ(メチルメタクリレート)(略号PMMA)、ポリビニルアルコール、ポリ(アルキルアクリレート)、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニルなどがあるが、これらに限らない。
【0062】
ポリマーマトリックスは可塑剤、例えばジブチルフタレート、セバシン酸ジブチル又はアジピン酸ジ(2−エチルヘキシル)を含有することもできる。可塑剤は、分子運動を促進して記録効率を高めることができる。可塑剤の通常のレベルは、記憶媒体の総量に基づいて約1重量%〜約20重量%又は約2重量%〜約10重量%の範囲にすることができる。
【0063】
本発明の光データ記憶媒体は、自立形態にすることができる。或いは、データ記憶媒体を支持材料、例えばポリ(メチルメタクリレート)(略号PMMA)、ポリカーボネート、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(エチレンナフタレート)、ポリスチレン又は酢酸セルロースに被覆することができる。支持材料を使用することが望ましい特定の実施形態では無機支持材料、例えばガラス、石英又はケイ素を用いることもできる。
【0064】
このような実施形態では、支持材料の表面を処理して支持材料への光データ記憶媒体の密着性を向上することができる。例えば、支持材料の表面を光データ記憶媒体を設ける前にコロナ放電で処理することができる。また、アンダーコート、例えばハロゲン化フェノール又は部分的に加水分解された塩化ビニル−酢酸ビニルコポリマーを支持材料に適用して支持材料への光データ記憶媒体の密着性を高めることができる。
【0065】
一般的に言えば、本発明の光データ記憶媒体は所望の増感剤、反応物質、媒介物(任意)及びポリマーマトリックスをブレンドすることにより製造することができる。これらの割合は広い範囲にわたり、当業者はブレンドの最適な割合及び方法を容易に決めることができる。例えば、光データ記憶媒体の総量に基づいて、増感剤は約0.01重量%〜約90重量%の濃度で存在することができ、反応物質は約2重量%〜約80重量%、又は約90重量%以下の濃度で存在することができる。
【実施例】
【0066】
実施例1 白金エチニル錯体の合成
出発薬品:テトラクロロ白金酸カリウム、トリ−n−ブチルホスフィン、CuI、フェニルアセチレン、4−ヨード−(トリメチルシリルエチニル)ベンゼン、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ジエチルアミン、4−エチニルビフェニル、4−エチニル−1−アニソールはすべてアルドリッチから購入し、そのまま使用した。
【0067】
cis−PtCl2(PBu3)2[3]
250mLの三口丸底フラスコにテトラクロロ白金酸カリウム(5.063g、12.197mmol)及び水(60g、3.33mol)を加えた。この水溶液へ100mLのジクロロメタン(134.1g、1.56mol)に溶解したトリ−n−ブチルホスフィン(5.148g、25.44mmol)の溶液を注ぎ入れた。2つの相になり、約5分後、生成物が生じるのにしたがって有機層は薄いサーモンピンク色を呈した。混合物を縦型撹拌機で終夜激しく撹拌した。分液ロートを用いてサーモンピンクの有機層を回収し、水層をさらにジクロロメタンで抽出した。有機サンプルを合わせ、濃縮し、cis及びtrans型異性体の混合物である生成物を8.061g(99%)淡黄色固体として得た。1H NMR(C6D6)δ:2.01(m,12H)、1.72(m,12H)、1.49(m,12H)、1.02〜0.91(m,18H)。13C{1H}NMR(C6D6)26.03、24.37、20.67、13.76。31P(CDCl3)2.06−cis。
【0068】
反応時間及び精製手順に応じて、すべてcis型、又はcisとtrans型異性体の混合物が得られ、31P及び/又は195Pt−NMR分光法を用いてその比を求めることができた。融点(144℃)より高い温度でcis→transの熱異性化が起こることが報告された。しかし、末端アセチレンと[3]又は[4]とのカップリング反応により出発材料中のcis型異性体から熱的に一層安定なtrans型化合物が生成することをその後の実験で見出した。
【0069】
図4は評価用に製造した2つの群の白金化合物の基本構造を示す。下記のこれらの特定の分子のそれぞれでも頭字語を識別子として使用した。これらは、構造式の下に示したが、一般に文献で使用されている。[6c]の命名規則は一対のフェニルフェニルエチニル(PPE)基に対する規則であり、PE2は一対の2つのフェニルエチニル部分に由来している。
【0070】
基本となるPE2化合物に加えて、一連の置換PE2を製造した。全3工程プロセスを図5に示す。パラ位に以下のR基、例えば水素(PE2)、フッ素(F−PE2)、n−ブチル(n−Bu−PE2)、メトキシ(MeO−PE2)、メチル(Me−PE2)及びジメチルアミノ(DMA−PE2)を有する化合物の製造についての実験を示す。さらに、図には示さないが3,5−ジメトキシ類似体がある。合成は以下の手順で行った。[7]と[8]の間の脱ハロゲン化水素及びC−C結合形成により、ジアルキン[9]を高収率で簡単に得た。シリル基の脱保護の後にパラジウム触媒反応を行い所望の白金化合物[6]を得た。
【0071】
ビス(1−エチニル−4−(4−ビフェニルエチニル)ベンゼン)ビス(トリ−n−ブチルホスフィン)Pt(II)(略号PPE)[6c]
三口丸底フラスコに(100mL)にtrans−ジクロロビス(トリ−n−ブチルホスフィン)白金(II)(1.761g、2.626mmol)を入れ、次いでCuI(0.005g、0.026mmol)、4−エチニルビフェニル(1.001g、5.616mmol)及びジエチルアミン(65mL、592mmol)を添加した。黄色の溶液をN2雰囲気下で終夜撹拌した。溶媒を蒸発させて黄色固体を得、これをヘキサン/ベンゼンに再溶解し、アルミナ(ヘキサン/ベンゼン(1:1))に通して濾過した。溶媒を蒸発後、鮮黄色の結晶(1.878g、75%)を得た。1H NMR(CDCl3)δ:7.61(d,J=7.3Hz,4H)、7.49(d,J=7.3Hz,4H)、7.44(t,J=7.8Hz,4H)、7.37(m,6H)、2.19(m,12H)、1.66(m,12H)、1.49(m,12H)、0.97(t,J=7.1Hz,18H)。
【0072】
(4−フェニルエチニル)トリメチルシリルエチニルベンゼン[9]
500mLのモルトン型丸底フラスコに、4−ヨード−(トリメチルシリルエチニル)ベンゼン[8](2.19g、7.29mmol)を入れ、次いでCuI(0.13g、0.67mmol)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)(0.089g、0.13mmol)及び100mLのトリエチルアミンを添加した。反応溶液をN2下で撹拌しながら、還流するまで温度を上昇させた。フェニルアセチレン[7]のトリエチルアミン溶液(10mL)を滴下し、溶液は半透明(透明)黄色から濃緑色に変化した。3日後、反応混合物を周囲温度に冷却し、ジクロロメタンとヘキサンの混合物を反応フラスコに添加した。混合物をセライト(登録商標)に通して濾過し、飽和NH4Clで洗浄した。ジクロロメタンで水層を抽出し、有機層を合わせ、MgSO4で乾燥し、真空下で濃縮した。粗生成物をカラムクロマトグラフィ(SiO2/ヘキサン)により精製して金黄色の粉末(1.915g、95%)を得た。1H NMR(CDCl3)δ:7.56(m,2H)、7.48(m,4H)、7.37(m,3H)、0.28(s,9H)。
【0073】
(4−フェニルエチニル)エチニルベンゼン
(4−フェニルエチニル)トリメチルシリルエチニルベンゼン(0.999g、3.64mmol)をメタノール(90mL)に溶解し、これに10mLのNaOH水溶液(1N)を添加し、室温で撹拌した。45分後、溶媒を蒸発させ、10mLのHCl(1N)を添加し、次いで混合物を60mLのジクロロメタンで抽出し、水で2回洗浄し、MgSO4で乾燥した。溶媒を真空下で除去し、橙褐色の固体を得た。粗生成物をフラッシュクロマトグラフィ(SiO2/ヘキサン)により精製して白色粉末(0.444g)を収率68%で得た。1H NMR(CDCl3)δ:7.56(m,2H)、7.50(m,4H)、7.37(m,3H)、3.20(s,1H)。
【0074】
ビス(1−エチニル−4−(フェニルエチニル)ベンゼン)ビス(トリ−n−ブチルホスフィン)Pt(II)(略号PE2)
250mLの三口丸底フラスコに1−エチニル−4−(フェニルエチニル)ベンゼン(1.39g、6.9mmol)及びtrans−ジクロロビス(トリ−n−ブチルホスフィン)白金(II)(2.31g、3.45mmol)を入れ、次いでCuI(25mg、0.13mmol)及びジエチルアミン(75mL)を添加した。混合物をN2下周囲温度で終夜撹拌し、その後濾過し、濃縮し黄色固体を得た。EtOAcから固体を再結晶させて、0.61g(18%)の生成物を黄色固体として単離した。1H NMR(CDCl3)δ:7.53(m,4H)、7.40(m,10H)、7.26(t,J=8.2Hz,4H)、2.15(m,12H)、1.64(m,12H)、1.49(m,12H)、0.95(t,J=7.3Hz,18H)。13C{1H}NMR(CDCl3):131.5、131.2、130.7、129.1、128.3、123.6、119.2、111.8、109.4、90.0、89.8、26.4、24.4(t,J=7.3Hz)、24.0(t,J=17.2Hz)ppm。
【0075】
1−(トリメチルシリルエチニル)−4−(4−フルオロフェニルエチニル)ベンゼン
4−ヨードフェニルトリメチルシリルアセチレン(2.6g、8.7mmol)、4−フルオロフェニルアセチレン(1.07g、8.8mmol)、CuI(18mg、0.09mmol)、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド(0.18g、0.26mmol)、トリエチルアミン(20mL)及びTHF(25mL)を一緒に入れてN2下周囲温度で20時間撹拌した。反応混合物を濾過して固体を除去し、THF(10mL)で洗浄し、濃縮乾固した。粗生成物をヘキサンから再結晶して2.22g(87%)の生成物を得た。mp144〜146℃。1H NMR(CDCl3)δ:7.54(m,2H)、7.46(m,4H)、7.07(mt,J=8.6Hz,2H)、0.28(s,9H)。13C{1H}NMR(CDCl3):162.6(J=249.6Hz)、133.5(J=8.1Hz)、131.9、131.3、123.1、123.0、119.1(J=3.6Hz)、115.7(J=22.0Hz)、104.6、96.3、90.2、88.7、−0.1ppm。
【0076】
1−エチニル−4−(4−フルオロフェニルエチニル)ベンゼン
1−(トリメチルシリルエチニル)−4−(4−フルオロフェニルエチニル)ベンゼン(2.2g、7.5mmol)をCH2Cl2(30mL)に溶解し、MeOH(30mL)で希釈し、次いで粉末状K2CO3(2.1g、15mmol)で処理し、N2下周囲温度で20時間撹拌した。反応混合物を濾過して固体を除去し、濃縮し、CH2Cl2に再溶解し、水で2回、その後ブラインで洗浄し、MgSO4で乾燥し、濾過し、濃縮乾固して1.43g(87%)の生成物を得た。これをそのまま次の反応で用いた。1H NMR(CDCl3)δ:7.54(m,2H)、7.49(m,4H);7.05(t,J=8.4Hz,2H);3.20(s,1H)。13C{1H}NMR(CDCl3):162.6(J=250.3Hz)、133.6(J=8.0Hz)、132.1、131.4、123.6、122.0、119.1(J=3.6Hz)、115.7(J=32.0Hz)、90.3、88.6、83.3、79.0ppm。
【0077】
ビス(1−エチニル−4−(4−フルオロフェニルエチニル)ベンゼン)ビス(トリ−n−ブチルホスフィン)Pt(II)(略号F−PE2)
1−エチニル−4−(4−フルオロフェニルエチニル)ベンゼン(1.4g、6.35mmol)及びtrans−ジクロロビス(トリ−n−ブチルホスフィン)白金(II)(2.13g、3.18mmol)を一緒に入れ、次いでCuI(25mg、0.13mmol)及びジエチルアミン(70mL)を添加した。混合物をN2下周囲温度で45時間撹拌し、その間に固体が形成し、その後濾過し、濃縮して固体を得た。この固体を濾過により除去し、濾液を濃縮し、CHCl3に再溶解し、水で2回、その後ブラインで洗浄し、MgSO4で乾燥し、濾過し、濃縮し、EtOAcから固体を再結晶させた。最初の固体も生成物であることを確認した。EtOAcからの生成物の全収率は1.30g(79%)であった。mp149〜151℃。1H NMR(CDCl3)δ:7.51(m,4H);7.39(m,4H);7.25(d,J=8.1Hz,4H);7.08(m,4H);2.1(m,12H);1.63(m,12H);1.48(m,12H)、0.95(t,J=7.2Hz,18H)。13C{1H}NMR(CDCl3):162.4(J=249Hz)、133.6(J=8.0Hz)、131.34、131.18、130.95、130.71、129.2、119.4(J=67Hz)、115.7(J=22Hz)、111.9、109.3、89.7、88.7、26.7、24.4(J=7.6Hz)、23.96(J=17.6Hz)、13.8ppm。
【0078】
1−(トリメチルシリルエチニル)−4−(4−n−ブチルフェニルエチニル)ベンゼン
4−ヨードフェニルトリメチルシリルアセチレン(5.0g、16.6mmol)、4−n−ブチルフェニルアセチレン(2.67g、16.0mmol)、CuI(32mg、0.16mmol)、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド(0.35g、0.48mmol)、トリエチルアミン(50mL)及びTHF(50mL)を一緒に入れ、N2下周囲温度で18時間撹拌した。反応混合物を濾過して固体を除去し、濃縮乾固し、CHCl3に再溶解し、水で2回、その後ブラインで洗浄し、MgSO4で乾燥し、濾過し、濃縮し、ヘキサンから固体を再結晶させて、2.10g(40%)の生成物を得た。また粗生成物をMeOHで洗浄することにより精製することができた。これにより、1.94gの追加の生成物を得て、全収率は79%になった。1H NMR(CDCl3)δ:7.46(m,6H)、7.20(d,J=8.1Hz,2H);2.63(t,J=7.6Hz,2H);1.62(m,2H);1.38(m,2H);0.95(t,J=7.2Hz,3H);0.28(s,9H)。13C{1H}NMR(CDCl3):143.7、131.9、131.6、131.3、128.5、123.6、122.7、120.1、104.7、96.1、91.6、88.4、35.6、33.4、22.3、14.0、−0.1ppm。
【0079】
1−エチニル−4−(4−n−ブチルフェニルエチニル)ベンゼン
1−(トリメチルシリルエチニル)−4−(4−n−ブチルフェニルエチニル)ベンゼン(3.92g、11.86mmol)をCH2Cl2(100mL)に溶解し、MeOH(40mL)で希釈し、次いで粉末K2CO3(2.1g、15mmol)で処理し、N2下周囲温度で19時間撹拌した。反応混合物を濾過して、固体を除去し、濃縮し、CHCl3に溶解し、水で2回、その後ブラインで洗浄し、MgSO4で乾燥し、濾過し、濃縮乾固し、褐色の固体を得た。固体をシリカゲルクロマトグラフィーにかけ、ヘキサン/EtOAc(15:1)で溶出して、生成物に富む幾つかのフラクションを得た。これらのフラクションを合わせ、ヘキサン/EtOAc(95:5)を用いて再びクロマトグラフィーにかけて0.25g(7%)の生成物をワックス状の固体として得た。1H NMR(CDCl3)δ:7.50(s,4H)、7.47(d,J=8.2Hz,2H);7.21(d,J=8.2Hz,2H);3.20(s,1H);2.63(t,J=7.8Hz,2H);1.64(m,2H);1.41(m,2H);0.97(t,J=7.5Hz,3H)。13C{1H}NMR(CDCl3):143.8、132.1、11.6、131.4、128.6、124.1、121.6、120.0、91.7、88.2、83.4、78.8、35.6、33.4、22.2、14.0ppm。
【0080】
ビス(1−エチニル−4−(4−n−ブチルフェニルエチニル)ベンゼン)ビス(トリ−n−ブチルホスフィン)Pt(II)(略号n−Bu−PE2)
1−エチニル−4−(4−n−ブチルフェニルエチニル)ベンゼン(0.24g、0.81mmol)及びtrans−ジクロロビス(トリ−n−ブチルホスフィン)白金(II)(0.27g、0.41mmol)を一緒に入れ、次いでCuI(10mg)及びジエチルアミン(20mL)を添加した。混合物を窒素下周囲温度で70時間撹拌した。反応溶液を濃縮し、メタノールで2回共沸蒸留した。残留物をヘキサン/CH2Cl2(2:1)に溶解し、水で3回洗浄した。最終洗浄水は中性のpHであった。溶液を濃縮し、生成物をEtOAc/MeOHから再結晶させた。溶媒を除去し、結晶をMeOH/EtOAc(2:1)で3回洗浄した。乾燥後、淡褐色の生成物を164mg(35%)得た。
1H NMR(CDCl3)δ:7.44(d,4H);7.38(d,4H);7.24(d,4H);7.17(d,4H);2.64(3,4H);2.14(m,12H);1.62(m,16H);1.55〜1.35(16H);0.96(m,24H)。
【0081】
1−(トリメチルシリルエチニル)−4−(p−メトキシフェニルエチニル)ベンゼン
50mlの丸底フラスコに0.72g(0.0054mol)のp−メトキシフェニルアセチレン、1.51g(0.005mol)の4−ヨードフェニルトリメチルシリルアセチレン、0.0102g(0.0053mmol)のCuI、0.102g(0.146mmol)のビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド、10mlのTHF及び10mlのトリエチルアミンの混合物を入れた。淡橙褐色の混合物を窒素下室温で3日間撹拌した。次いで反応混合物を濾過し、濾液を減圧下で濃縮した。残留物を10mlのクロロホルムに再溶解し、溶液を水(10mlずつ)で2回洗浄し、その後、無水MgSO4で乾燥し、濾過し、濃縮した。1.5g(収率98.7%)の固体を得た。1HNMR:0.28ppm(s,9H);3.85ppm(s,3H);6.90ppm(d,2H);7.45ppm(s,4H);7.48ppm(d,2H)。
【0082】
1−エチニル−4−(p−メトキシフェニルエチニル)ベンゼン
100mlの丸底フラスコに1.5g(0.0049mol)の1−(トリメチルシリルエチニル)−4−(p−メトキシフェニルエチニル)ベンゼン、1.36g(0.0098mol)の炭酸カリウム、20mlのメタノール及び20mlの塩化メチレンの混合物を入れた。混合物を窒素下室温で終夜撹拌した。暗褐色懸濁液を濾過し、塩化メチレン溶液を水(20mlずつ)で2回洗浄した。水層を合わせて、塩化メチレン(10mlずつ)で2回抽出した。有機層を合わせ、無水MgSO4で乾燥し、濾過し、濃縮した。0.62g(収率54.9%)の固体を得た。1H−NMRにより所望の生成物が主成分であることを確認した。粗製固体を精製せずに、次の工程にまわした。
【0083】
ビス(1−エチニル−4−(p−メトキシフェニルエチニル)ベンゼン)ビス(トリ−n−ブチルホスフィン)Pt(II)(略号MeO−PE2)
100mlのフラスコに0.62g(0.0027mol)の1−エチニル−4−(p−メトキシフェニルエチニル)ベンゼン、0.89(0.00134mol)のtrans−ジクロロビス(トリ−n−ブチルホスフィン)白金(II)、0.012g(0.063mmol)のCuI及び30mlのジエチルアミンの混合物を入れた。混合物を室温で終夜撹拌した。反応混合物を濾過し、固体を塩化メチレンで洗浄した。濾液を濃縮した。赤褐色の油状物を得た。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィにより精製した。0.49gの純粋成分を得た。1H−NMR及びMSにより、この成分は実際には、クロロ(1−エチニル−4−(p−メトキシフェニルエチニル)ベンゼン)ビス(トリ−n−ブチルホスフィン)Pt(II)であることを確認した。反応は完了しなかった。
【0084】
1−(トリメチルシリルエチニル)−4−(4−メチルフェニルエチニル)ベンゼン
50mlの丸底フラスコに0.64g(0.0054mol)の4−メチルフェニルアセチレン、1.50g(0.005mol)の4−ヨードフェニルトリメチルシリルアセチレン、0.011g(0.0058mmol)のCuI、0.103g(0.146mmol)のビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド、10mlのTHF及び10mlのトリエチルアミンの混合物を入れた。固体が形成し始めたとき褐色の溶液が橙黄色の懸濁液になった。混合物を窒素下室温で3日間撹拌した。混合物を濾過し、濾液を減圧下濃縮した。残留物を25mlのクロロホルムに再溶解し、溶液を水(15mlずつ)で2回洗浄し、その後無水MgSO4で乾燥し、濾過し、濃縮した。1.43g(定量的収率)の固体を得た。1H−NMRにより約10%の副生物が存在することを確認した。固体生成物をこれ以上精製せずに次の工程に使用した。
【0085】
1−エチニル−4−(4−メチルフェニルエチニル)ベンゼン
100mlの丸底フラスコに1.43g(0.005mol)の1−(トリメチルシリルエチニル)−4−(4−メチルフェニルエチニル)ベンゼン、1.37g(0.01mol)の炭酸カリウム、20mlのメタノール及び20mlの塩化メチレンの混合物を入れた。混合物を窒素下室温で終夜撹拌した。暗褐色懸濁液を濾過し、濾液を水(20mlずつ)で2回洗浄した。水層を合わせ、塩化メチレン(10mlずつ)で2回抽出した。塩化メチレン層を合わせ、無水MgSO4で乾燥し、濾過し、濃縮した。0.7g(収率73.1%)の黄褐色固体を得た。1HNMR:2.40ppm(2,3H);3.19ppm(s,1H);7.15〜7.18ppm(d,2H);7.43〜7.46ppm(d,2H);7.49(s,4H)。NMRにより副生物が若干存在することを確認した。得られた固体をこれ以上精製せずに次の工程に使用した。
【0086】
ビス(1−エチニル−4−(4−メチルフェニルエチニル)ベンゼン)ビス(トリ−n−ブチルホスフィン)Pt(II)(略号Me−PE2)
100mlのフラスコに0.72g(0.0033mol)の1−エチニル−4−(4−メチルフェニルエチニル)ベンゼン、1.12g(0.0017mol)のtrans−ジクロロビス(トリ−n−ブチルホスフィン)白金酸(II)、0.014g(0.074mmol)のCuI、45mlのジエチルアミンの混合物を入れた。くすんだ褐色の懸濁液を室温で終夜撹拌した。反応混合物(暗黄色の懸濁液)を濾過し、固体を塩化メチレンで洗浄した。濾液を濃縮した。1.0gの粘着性の赤褐色の残留物を得た。粗生成物を酢酸エチル(10ml)から再結晶させることにより精製した。0.21g(収率12.3%)の黄色結晶を得た。1.9ppm(m,18H);1.4〜1.6ppm(m,24H);2.0〜2.2ppm(m,12H);2.40ppm(*s,6H);7.14〜7.44ppm(aromatic,16H);m.p.144〜148℃。
【0087】
1−(トリメチルシリルエチニル)−4−(3,5−ジメトキシフェニルエチニル)ベンゼン
100mlの丸底フラスコに1.31g(0.0081mol)の3.5−ジメトキシフェニルアセチレン、2.25g(0.0075mol)の4−ヨードフェニルトリメチルシリルアセチレン、0.016g(0.084mmol)のCuI、0.155g(0.22mmol)のビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド、15mlのTHF及び15mlのトリエチルアミンの混合物を入れた。1分以内で淡褐色の溶液が懸濁液に変わった。約40分後、反応混合物は白色の析出物を含有する橙色の溶液になった。反応をTLCにより追跡した。混合物を窒素下室温で終夜撹拌した。TLCにより出発材料がまだ存在していることを確認した。反応溶液は室温で終夜撹拌を続けた。反応はほとんど進行しなかった。その後、反応溶液を50℃で終夜撹拌した。TLCにより存在している出発材料がごく微量であることを確認した。その後、反応を停止させ、反応混合物を濾過し、濾液を減圧下で濃縮した。残留物を15mlのクロロホルムに再溶解し、溶液を水(15mlずつ)で2回洗浄し、無水MgSO4で乾燥し、濾過し、濃縮した。2.27g(収率90.4%)の固体を得た。1H NMR:0.26ppm(s,9H);3.83ppm(s,6H);6.49ppm(s,1H);6.70ppm(s,2H);7.47ppm(s,4H)。
【0088】
1−エチニル−4−(3,5−ジメトキシフェニルエチニル)ベンゼン
100mlの丸底フラスコに2.27g(0.0068mol)の1−(トリメチルシリルエチニル)−4−(3,5−ジメトキシフェニルエチニル)ベンゼン、1.88g(0.0136mol)の炭酸カリウム、30mlのメタノール及び30mlの塩化メチレンの混合物を入れた。混合物を窒素下室温で終夜撹拌した。暗褐色の懸濁液をアルミナ床に通して濾過して若干脱色し、まだ暗色の濾液を水(30mlずつ)で2回洗浄した。水層を合わせて、塩化メチレン(20mlずつ)で2回抽出した。塩化メチレン層を合わせ、無水MgSO4で乾燥し、濾過し、濃縮した。1.13gの褐色の油状物を得た。溶出溶媒としてEtOAc/ヘキサン(1:10)を用いて分取LCにより粗製油状物を精製した。240mg(収率13.5%)の黄色固体を得た。1HNMR:3.20ppm(s,1H);3.83ppm(s,6H);6.50ppm(t,1H);6.71ppm(d,2H);7.50ppm(s,4H)。
【0089】
ビス(1−エチニル−4−(3,5−ジメトキシフェニルエチニル)ベンゼン)ビス(トリ−n−ブチルホスフィン)Pt(II)(略号3,5−diMeO−PE2)
25mlのフラスコに119.5mg(0.456mmol)の1−エチニル−4−(3,5−ジメトキシフェニルエチニル)ベンゼン、0.152g(0.228mmol)のtrans−ジクロロビス(トリ−n−ブチルホスフィン)白金酸(II)、0.003g(0.0157mmol)のCuI、7mlのジエチルアミンの混合物を入れた。反応混合物を室温で撹拌すると、僅かに緑がかった黄色の濁った混合物になった。反応を室温で終夜継続した。NMRにより反応が終了していないことを確認した。撹拌をさらに24時間室温で継続したが、NMRにより反応がそれ以上進行しなかったことを確認した。その後、反応を停止した。反応混合物を濾過し、固体を塩化メチレンで洗浄した。濾液を濃縮した。240mgの褐色の半固体を得た。溶出溶媒としてEtOAc/ヘキサン(1:4)を用いて分取LCにより粗生成物を精製し、純粋な白色固体を61mg得た。1HNMR:0.95ppm(t,18H);1.46〜1.62ppm(m,24H);2.14ppm(m,12H);3.83ppm(s,12H);6.47ppm(t,2H);6.69ppm(d,4H);7.23ppm(d,4H);7.38ppm(d,4H)。
【0090】
1−(トリメチルシリルエチニル)−4−(4−(N,N−ジメチルアミノ)フェニルエチニル)ベンゼン
100mlの丸底フラスコに1.17g(0.0081mol)の4−(N,N−ジメチルアミノ)フェニルアセチレン、2.25g(0.0075mol)の4−ヨードフェニルトリメチルシリルアセチレン、0.015g(0.075mmol)のCuI、0.155g(0.219mmol)のビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド、15mlのTHF及び15mlのトリエチルアミンの混合物を入れた。淡褐色の懸濁液を室温で終夜撹拌した。TLCにより出発材料が存在することを確認した。室温で反応をさらに24時間継続したが、反応の進行は見られなかった。その後、反応混合物を50℃で終夜撹拌した。TLCにより存在している出発材料がごく微量であることを確認した。反応を停止し、反応混合物を濾過した。濾液を減圧下で濃縮した。残留物を15mlのクロロホルムに再溶解し、溶液を水(15mlずつ)で2回洗浄し、次いで無水MgSO4で乾燥し、濾過し、濃縮した。2.26g(収率94.9%)の固体を得た。1HNMR:0.28ppm(s,9H);3.02ppm(s,6H);6.69ppm(d,2H);7.41ppm(d,2H);7.44ppm(s,4H)。
【0091】
1−エチニル−4−(4−(N,N−ジメチルアミノ)フェニルエチニル)ベンゼン
100mlの丸底フラスコに2.26g(0.0071mol)の1−(トリメチルシリルエチニル)−4−(4−(N,N−ジメチルアミノ)フェニルエチニル)ベンゼン、1.97g(0.0143mol)の炭酸カリウム、30mlのメタノール及び30mlの塩化メチレンの混合物を入れた。混合物を窒素下室温で終夜撹拌した。暗褐色の懸濁液を濾過し、濾液を水(30mlずつ)で2回洗浄した。水層を合わせ、塩化メチレン(20mlずつ)で2回抽出した。塩化メチレン層を合わせ、無水MgSO4で乾燥し、濾過し、濃縮した。1.0gの黄褐色の固体を得た。分取LCにより粗生成物を精製した。280mgの精製済生成物を回収した。これをEtOAc/ヘキサンから再結晶によりさらに精製し、112mg(収率5.4%)の純粋な生成物を得た。1H NMR:3.02ppm(s,6H);3.17ppm(s,1H);6.69ppm(d,2H);7.41ppm(d,2H);7.46ppm(s,4H)。
【0092】
ビス(1−エチニル−4−(4−(N,N−ジメチルアミノ)フェニルエチニル)ベンゼン)ビス(トリ−n−ブチルホスフィン)Pt(II)(略号DMA−PE2)
25mlのフラスコに112mg(0.457mmol)の1−エチニル−4−(4−(N,N−ジメチルアミノ)フェニルエチニル)ベンゼン、0.152g(0.227mmol)のtrans−ジクロロビス(トリ−n−ブチルホスフィン)白金酸(II)、0.003g(0.0157mmol)のCuI、7mlのジエチルアミンの混合物を入れた。黄色懸濁液を室温で終夜撹拌した。反応混合物を濾過し、濾液を濃縮した。164mgの暗黄色の半固体を得た。分取LCにより粗生成物を精製した。84mg(33.7%)の純粋な生成物を得た。1H NMR:0.96ppm(t,18H);1.47ppm(m,24H);2.03ppm(m,12H);3.00ppm(s,12H);6.68ppm(d,4H);7.36ppm(d,8H);7.40ppm(d,4H)。
【0093】
実施例2 線形光学特性の測定
上述のように、405nmで吸収が最小であることが青色RSA色素に必要である。実施例1にしたがって製造した白金エチニル錯体の紫外可視スペクトルを測定し、波長の関数として吸光係数に変換することにより吸収を正規化した。この実施例のデータを表1にまとめる。
【0094】
【表1】

【0095】
実施例3 非線形光学特性の測定
非線形光吸収実験を用いてPt錯体の非線形性を求めた。405nmの波長で作用している、5nsのパルス波長可変レーザーシステムを用いて測定を行った。Z−スキャンは、材料の吸光度の非線形性を評価する一般的な非線形光学法の1つであり、文献に明示されている(例えば、“Nonlinear Optics of Organic Molecules and Polymers”,Edited by H.S. Nalwa and S. Miyata,CRC Press 1997)。簡潔に述べると、Z−スキャンは、フォーカスしたレーザービームの中を通してサンプルを移動させ、サンプル上の光強度を変化させ、サンプルの透過率の変化を位置の関数として測定する方法である。もう一つの選択肢として、サンプルに出力変更可能な、フォーカスしたパルスレーザービームを当て、レーザー波長での透過率を入射光の光強度(光束)の関数として直接測定することができる。どちらの方法でも、色素の透過率が入射光強度に依存することになり、非線形光応答が得られる。
【0096】
次いで、これらの依存性を解析して、白金エチニル錯体の挙動を特徴づける2つのパラメータを得る。即ち、閾値強度(Ith)-非線形応答が「発生する」エネルギー束と、「k値」-実現可能な高強度吸収断面積/低強度吸収断面積の比率を表す増大因子である。これらのパラメータは、色素特性を利用できる光出力の範囲及び逆可飽和吸収過程の効率を定義する。目標は、閾値をできるだけ小さくし、k値をできるだけ大きくすることである。
【0097】
0.8〜0.9程度の透過率となるように色素濃度を選択した。ジクロロベンゼンを溶媒として用いて、白金エチニル錯体と混合後、溶液を濾過し、Z−スキャン測定用の1mmキュベットに入れた。
【0098】
図6にPE2色素(図6A)及びPPE色素(図6B)の、様々なレーザー強度でのパルスエネルギーに対する正規化透過率のデータを示す。Z位置に対する正規化透過率の依存性からこれらのデータを得た。これらのグラフで認められるように、低パルスエネルギーでは、ビームの吸収レベルがごく低く、光の大部分はサンプルを透過する。しかし、パルスエネルギーが増加するにつれて、光をますます吸収し、したがって光の透過量は減少し、色素は非線形効果を示す。RSA挙動を示さない化合物は、高いパルスエネルギーでの透過光の低下を示さない。各図の複数の線は同一の化合物に対する複数の実験を示す。表2にZ−スキャン測定から得られたデータをまとめる。
【0099】
【表2】

【0100】
表2に示すように、PE2及びPPEは低いk値を有する非線形特性を示した。これは、これらの色素の吸収断面積の増大が小さいことを意味する。しかし、上方Tn三重項状態に励起され始める閾値強度は、約100MW/cm2の妥当なエネルギーを示し、許容できる。
【0101】
実施例3から分かるように、試験した白金エチニル錯体は、マイクロホログラム記録用媒体の重要な成分になるとみなすのに十分な非線形光学特性示す。
【0102】
実施例4〜6 マイクロホログラム記録
サンプル調製
マイクロホログラムを書込んだ後に反射率を記録するマイクロホログラム実証用薄膜サンプルを以下のように製造した。
【0103】
実施例4 白金エチニル/スチルベン/PMMA
PMMA(0.870g)、trans−スチルベン(80mg)及び0.5重量%のPPE(即ち、trans−ビス(トリブチルホスフィン)ビス(4−エチニルビフェニル)白金)の溶液は、溶媒としてジクロロエタン/塩化メチレン溶媒混合物(15g、2:8体積比)を用いて製造する。溶液を0.45μmフィルターで濾過し、ガラス板の上にガラスの枠(直径5cm)を載せたものに注ぎ、約45℃に保ったホットプレート上で5時間、次いで約75℃に保ったホットプレート上で終夜乾燥する。ホットプレート上での乾燥後、膜をガラス板から取り外し、60℃で6時間真空乾燥する。
【0104】
実施例5 白金エチニル/ポリビニルシンナメート(略号PVCm)
68重量%のシンナメートを含有する1gのPVCm(MW100000)をジクロロエタン/塩化メチレン(1:1)に溶解した。0.5重量%のPPE(即ち、trans−ビス(トリブチルホスフィン)ビス(4−エチニルビフェニル)白金)を添加し、70℃に保ったホットプレート上で加熱しながら撹拌することによって材料を溶解した。その後、0.450mmのシリンジフィルターを用いて溶液を濾過し、濾液をガラス板の上にガラスの枠(直径5cm)を載せたものに注ぎ、約45℃に保ったホットプレート上で12時間、その後75℃に保ったホットプレート上で終夜乾燥した。ホットプレート上での乾燥後、膜をガラス板から取り外し、70℃で6時間真空乾燥した。
【0105】
実施例6 白金エチニル/ポリビニルシンナメート(略号PVCm)
68重量%のシンナメートを含有する1gのPVCm(MW100000)をジクロロエタン/塩化メチレン(1:1)に溶解した。1.5重量%のPE2(即ち、trans−ビス(トリブチルホスフィン)ビス(4−エチニル−1−(2−フェニルエチニル)ベンゼン)白金)を添加し、70℃に保ったホットプレート上で加熱しながら撹拌することによって材料を溶解した。その後、0.450mmのシリンジフィルターを用いて溶液を濾過し、濾液をガラス板の上にガラスの枠(直径5cm)を載せたものに注ぎ、約45℃に保ったホットプレート上で12時間、その後75℃に保ったホットプレート上で終夜乾燥した。ホットプレート上での乾燥後、膜をガラス板から取り外し、70℃で6時間真空乾燥した。
【0106】
マイクロホログラム記録
405nmの波長で作用する可変光パラメトリック発振器をマイクロホログラムの記録及び読出用パルス光源として用いた。開口数(NA)0.16の光学系を用いて媒体サンプルに光をフォーカスしたところ、記録用体積のおおよその寸法は1.6x1.6x17μmとなった。マイクロホログラム記録に用いるパルスエネルギーは数10〜数100ナノジュールであり、このようなフォーカスした記録用ビームの焦点スポットで数百MW/cm2〜数GW/cm2の光強度値を実現できるようにした。マイクロホログラムから反射した光の読出は、記録用出力に対して約100〜1000倍強度を下げた同一のビームを用いて行った。
【0107】
光データ記憶媒体へのマイクロホログラムの記録は、逆方向に進行する、2つの高強度の、記録用パルスビームを記録媒体のバルクにフォーカスし、重なり合わせて、明るい領域及び暗い領域(フリンジ)からなる強度のフリンジパターンを生じさせることにより行われた。干渉パターンの照射領域は上述のような変化を起こして材料の屈折率を局所的に変更し、一方、暗い領域は影響を受けず、こうして体積ホログラムを作り出す。本発明の閾値光データ記憶媒体は高強度の光に感応性であり、低強度の照射に比較的不活性である。ビームの焦点領域付近の光強度が記録閾値(それより上では簡単に変化が起こる)を上回り、一方、ビームの焦点から離れた記録可能な領域の外側では光強度が低いままとなるように記録用ビームの出力を調整し、こうして意図しない媒体変更(記録又は消去)を回避した。
【0108】
マイクロホログラム記録時に、2分の1波長(λ/2)板及び第1偏光ビームスプリッタ(PBS)を用いて、一次記録ビームをシグナルビームと参照ビームにスプリットした。これら2つの2次ビームを逆方向に進行する幾何配置でサンプルに導き、0.4以下の開口数(NA)をもつ複数の同一非球面レンズにより光データ記憶媒体のバルクにフォーカスして重なり合わせた。両方のビームの偏光を円偏光に変換し、2つの4分の1波長(λ/4)板を用いてビームが干渉してコントラストの高いフリンジパターンを作り出すのを確実にした。サンプル及びシグナルビームレンズを25nmの分解能をもつ閉ループ3軸位置決めステージに装着した。サンプルの参照ビーム側に位置敏感型検出器を用いてシグナルレンズのアライメントを行い、フォーカスしたシグナルビーム及び参照ビームの媒体中での重なりを最適化し、記録を最適化した。
【0109】
可変減衰器と2分の1波長板/PBSアセンブリとを用いて記録及び/又は読出時の出力レベルを制御した。これにより光データ記憶媒体のマイクロホログラフィック記録特性を記録用出力及び/又はエネルギーの関数として測定することができる。この関数依存性により、記録後のホログラムの強度が、主に媒体が得た光エネルギーの全量によって規定されるが、光強度とは無関係である線形光データ記憶媒体/記録と、記録効率が光の強度に著しく依存する非線形、即ち閾値光データ記憶媒体/記録とを区別できる。線形媒体では、露光が少ないと低強度のホログラムを与え、ホログラムは露光を増すにつれて徐々に強度を増す。対照的に、非線形、即ち閾値媒体では、記録は閾値を超える強度でのみ可能である。
【0110】
読出時には、シグナルビームを遮断し、参照ビームはマイクロホログラムによって入射方向と反対方向に反射させた。4分の1波長板及び第2偏光ビームスプリッタを用いて反射ビームを入射ビーム路から取り出し、較正済み光ダイオードに共焦点幾何配置で集め、絶対尺度の回折効率を得た。読出光学系に対してサンプルを並進することにより、マイクロホログラム回折応答の3Dプロファイルを得、マイクロホログラムの寸法を評価することができた。
【0111】
実施例4の回折効率は記録フルエンスに応じて約0.03%〜約0.26%となることが予想される。実施例5の回折効率は0.43%、実施例6の回折効率は0.031%であった。
【0112】
本発明を特定の特徴だけについて例示し、説明したが、多くの変更や改変を当業者が想起することができるであろう。したがって、特許請求の範囲は本発明の要旨に入るこのようなすべての変更や改変を含むものとする。
【符号の説明】
【0113】
200 データ記憶媒体
201 断面
202 焦点
300 エネルギー準位図
301 基底状態吸収断面積を示す矢印
302 エネルギーの移動を示す矢印
303 励起三重項状態吸収断面積を示す矢印
304 1つの可能な減衰過程を示す矢印
305 もう1つの可能な減衰過程を示す矢印
306 反応物質の変化を示す矢印

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三重項励起に伴って光化学変化を起こすことができる反応物質と、
405nmの化学線を吸収して反応物質への上方三重項エネルギー移動を起こすことができる1種以上の白金エチニル錯体を含有する非線形増感剤と
を含む組成物。
【請求項2】
前記trans−白金エチニル錯体が、ビス(トリブチルホスフィン)ビス(4−エチニルビフェニル)白金(略号PPE)、ビス(トリブチルホスフィン)ビス(4−エチニル−1−(2−フェニルエチニル)ベンゼン)白金(略号PE2)、ビス(1−エチニル−4−(4−n−ブチルフェニルエチニル)ベンゼン)ビス(トリ−n−ブチルホスフィン)Pt(II)(略号n−Bu−PE2)、ビス(1−エチニル−4−(4−フルオロフェニルエチニル)ベンゼン)ビス(トリ−n−ブチルホスフィン)Pt(II)(略号F−PE2)、ビス(1−エチニル−4−(4−メトキシフェニルエチニル)ベンゼン)ビス(トリ−n−ブチルホスフィン)Pt(II)(略号MeO−PE2)、ビス(1−エチニル−4−(4−メチルフェニルエチニル)ベンゼン)ビス(トリ−n−ブチルホスフィン)Pt(II)(略号Me−PE2)、ビス(1−エチニル−4−(3,5−ジメトキシフェニルエチニル)ベンゼン)ビス(トリ−n−ブチルホスフィン)Pt(II)(略号3,5−diMeO−PE2)、ビス(1−エチニル−4−(4−(N,N−ジメチルアミノ)フェニルエチニル)ベンゼン)ビス(トリ−n−ブチルホスフィン)Pt(II)(略号DMA−PE2)又はこれらの組合せを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記白金エチニル錯体が、PPE、PE2又はこれらの組合せを含む、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
反応物質がスチルベン誘導体、シンナメート誘導体、シンナムアミド誘導体又はこれらの組合せを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
さらに、ポリマーマトリックスを含有し、導波路、光データ記憶媒体、屈折率分布(GRIN)レンズとしての使用やデジタルホログラフィックイメージングに適当である、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
ポリマーマトリックスと、
三重項励起に伴って光化学変化を起こすことができる反応物質と、
405nmの化学線を吸収して反応物質への上方三重項エネルギー移動を起こすことができる1種以上の白金エチニル錯体を含有する非線形増感剤とを含む、
光データ記憶媒体。
【請求項7】
前記白金エチニル錯体が、PPE、PE2又はこれらの組合せを含む、請求項6記載の光データ記憶媒体。
【請求項8】
反応物質がシンナメート、シンナメート誘導体、シンナムアミド誘導体又はこれらの組合せを含む、請求項6記載の光データ記憶媒体。
【請求項9】
シンナメート、シンナメート誘導体又はシンナムアミド誘導体が、ポリビニルシンナメート(略号PVCm)、ポリビニル−4−クロロシンナメート(略号PVClCm)、ポリビニル−4−メトキシシンナメート(略号PVMeOCm)、(2E,2’E)−((1S,2S)−シクロヘキサン−1,2−ジイル)ビス(3−フェニルアクリレート)、(2E,2’E)−((1S,2S)−シクロヘキサン−1,2−ジイル)ビス(4−クロロフェニルアクリレート)、(2E,2’E)−((1S,2S)−シクロヘキサン−1,2−ジイル)ビス(4−メトキシフェニルアクリレート)、(2E,2’E)−N,N’−((1S,2S)−シクロヘキサン−1,2−ジイル)ビス(3−フェニルアクリルアミド)、(2E,2’E)−N,N’−((1S,2S)−シクロヘキサン−1,2−ジイル)ビス(3−(4−クロロフェニル)アクリルアミド)、(2E,2’E)−N,N’−((1S,2S)−シクロヘキサン−1,2−ジアリール)ビス(3−(4−メトキシフェニル)アクリルアミド)又はこれらの組合せを含む、請求項6記載の光データ記憶媒体。
【請求項10】
ポリマーマトリックスと、三重項励起に伴って光化学変化を起こし、それにより屈折率変化を起こすことができる反応物質と、化学線を吸収して反応物質への上方三重項エネルギー移動を起こすことができる1種以上の白金エチニル錯体を含有する非線形増感剤とを含む光データ記憶媒体を製造し、
光データ記憶媒体にマイクロホログラムを記録する工程
を含む、光データ記憶方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【公開番号】特開2011−53676(P2011−53676A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−184512(P2010−184512)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】