説明

組成物、洗浄剤およびそれらの製造方法

【課題】容易にかつ低コストにて、より洗浄力の高い組成物、洗浄剤およびそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、アルカリイオン水を希釈液で希釈することにより、アルカリイオン水よりも高いpHを有する組成物が得られることを見出した。本発明は、希釈液によって希釈されたアルカリイオン水を含み、そのアルカリイオン水のpHより高いpHを有する組成物、洗浄剤およびそれらの製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリイオン水を含む組成物、洗浄剤およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリイオン水は、飲用水として使用されているが、洗浄用途などにも使用されている。
【0003】
特許文献1には、少なくともアルカリイオン水を含有すると共に、25℃での粘度が0.9〜5.0mPa.sである、水性インクを用いてプリントを行うインクジェットプリンターの水性インクジェットヘッド洗浄液が記載されている。
【0004】
特許文献2には、水を軟水化させた後、軟水化された軟水中に混入している塩素分を取り除き、イオン換膜を有する電解槽内で炭酸カリウムを混入し、この混入水を電気分解することにより生成される強アルカリ性電解水が記載されている。
【0005】
特許文献3には、化学合成物質を含まない清掃水であって、ナノバブルを含みpH13のアルカリイオン水である清掃水が記載されている。
【0006】
一方、これまで有機洗浄剤として多用されてきたイソプロピルアルコール(IPA)は、有機剤であるため、その使用が著しく制限されてきている。このため、IPAに変わる洗浄剤が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008-68569号公報
【特許文献2】特開2007-14828号公報
【特許文献3】特開2010-279900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来技術においては、より洗浄効果を高めるためにさらにpHの高いアルカリイオン水を得ることが困難であった。また、製造コストがかかるという問題があった。
【0009】
本発明は、かかる従来技術が有する問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、容易にかつ低コストにて、より洗浄力の高い組成物、洗浄剤およびそれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、アルカリイオン水を希釈液で希釈することにより、アルカリイオン水よりも高いpHを有する組成物が得られるという新たな知見を見出した。また、希釈されたアルカリイオン水は、元のアルカリイオン水よりも高い洗浄力を有することを見いだした。本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、希釈液によって希釈されたアルカリイオン水を含み、そのアルカリイオン水のpHより高いpHを有する組成物を提供する。
【0012】
また、本発明は、pH13以上である、上記組成物を提供する。
【0013】
また、本発明は、前記アルカリイオン水の濃度が1容量%以上、40容量%以下である、上記組成物を提供する。
【0014】
また、本発明は、上記希釈液が水、アルコール系溶媒、アルキルエーテル系溶媒、ケトン系溶媒およびエステル系溶媒からなる群より選択される少なくとも1つである、上記組成物を提供する。
【0015】
また、本発明は、上記組成物を含む洗浄剤を提供する。
【0016】
また、本発明は、アルカリイオン水を希釈液によって希釈することにより、当該アルカリイオン水のpHより高いpHを有する組成物を得ることを含む、組成物および洗浄剤の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、容易にかつ低コストにて、より洗浄力の高い組成物、洗浄剤およびそれらの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】組成物中のアルカリイオン水pH13.5の濃度と組成物のpHとの関係を示すグラフ。
【図2】組成物の水またはアルカリイオン水pH13.5の濃度と組成物の沸点との関係を示すグラフ。
【0019】
【図3】組成物中のアルカリイオン水の濃度と組成物のpHとの関係を示すグラフ。
【図4】アルカリイオン水pH13.5のエタノール養液(7%、20%および30%)を水で希釈した際のpHを示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る組成物は、任意の希釈液によって希釈されたアルカリイオン水を含み、そのアルカリイオン水のpHより高いpHを有する。
【0021】
本発明に係る組成物は、pH13以上であることが好ましく、pH13.5、pH13.6、pH13.7、pH13.8、pH13.9またはpH14以上であることがより好ましい。組成物のpHが高いほど、その洗浄力を高めることができる。
【0022】
アルカリイオン水とは、アルカリ性を示す水をさす。水とは、任意のイオンを含む水溶液を包含する概念である。アルカリイオン水は、アルカリ性であればよいが、pH10以上であることができ、pH11、pH12またはpH13以上であることができる。
【0023】
組成物におけるアルカリイオン水の濃度は、1容量%以上であることが好ましい。また、組成物におけるアルカリイオン水の濃度は、99容量%以下であることが好ましく、70、60、50、40、35、30、25、20、15、10、5、4、3または2容量%以下であることがより好ましい。組成物におけるアルカリイオン水の濃度が低いほど製造コストを低くすることができる。
【0024】
アルカリイオン水は、天然から採取されてもよいし、公知の方法により製造してもよい。
【0025】
アルカリイオン水は、たとえば電気分解して得られるアルカリ性の電解水であってもよい。アルカリ性の電解水は、たとえば電解質を含む水溶液に電極を用いてイオン交換膜を挟んで電圧をかけることにより、陰極側に生成させることができる。水溶液とは、たとえば水道水であってもよいし、水に電解質を溶解させた水溶液であってもよい。水道水には、通常、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等の電解質が含まれる。
【0026】
電解質としては、たとえばアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンまたはこれらを生じる塩などが挙げられる。アルカリ金属イオンとしては、たとえばナトリウムイオン、カリウムイオン等が挙げられ、アルカリ土類金属イオンとしては、たとえばマグネシウムイオン、カルシウムイオン等が挙げられる。電解質に用いる塩としては、たとえば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、炭酸カリウム、乳酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウムなどを用いることができる。
【0027】
このような電気分解は、公知の装置を用いて行うことができ、たとえば上述した特許文献1に記載のような強アルカリ性電解水製造装置と同様の装置を使用することができる。簡潔には、水を軟水化させた後、イオン交換膜を有する電解槽内で炭酸カリウムを混入し、この混入水を電気分解し、さらに電気分解して得られた強アルカリ性電解水から塩素分を取り除くことによって、アルカリイオン水を得ることができる。
【0028】
また、アルカリイオン水は、結晶性粘土鉱物が溶解した原料水を電気分解して得られるアルカリ性および酸性の各イオン水に、結晶性粘土鉱物をさらに溶解させ、各イオン水を所定の電極側に供給して電気分解することにより生成したものであってもよい。この製造方法は、たとえば特開平8-24865号に記載されている。
【0029】
また、アルカリイオン水は、水酸化物イオンを生じる塩を水に溶解させることによって得られる水溶液であってもよい。このような塩としては、たとえば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物が挙げられる。
【0030】
また、アルカリイオン水は、たとえば水酸化カルシウム系化合物、マグネシウム等に水を接触させることによって生成されたものであってもよい。
【0031】
希釈液とは、液体であればよく、それを用いてアルカリイオン水を希釈することによって、そのアルカリイオン水のpHよりも高いpHを有する組成物を提供し得る液体であることが好ましい。なお、希釈液は、1種類の成分からなるものであってもよいし、複数の成分からなる混合液であってもよい。
【0032】
希釈液としては、たとえば水、有機溶媒またはこれらの混合液などが挙げられる。有機溶媒としては、アルコール系溶媒、アルキルエーテル系溶媒、ケトン系溶媒およびエステル系溶媒などを用いることができる。なかでもアルコール系溶媒が好ましい。
【0033】
アルコール系溶媒としては、脂肪族飽和アルコール、グリコール、その他のアルコール系溶媒などが挙げられる。脂肪族飽和アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、1-ペンタノール、3-メチル-1-ブタノール、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、カプリルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ウンデシルアルコールなどが挙げられる。グリコールとしては、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,2-ブチレングリコール、1,2-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、トリメチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールなどが挙げられる。その他のアルコール系溶媒としては、グリセリン、ブタン-1,2,3-トリオール、2-メチルプロパン-1,2,3-トリオール、ジグリセリン、トリグリセリン、ソルビットなどが挙げられる。
【0034】
アルキルエーテル系溶媒としては、エチレングリコールアルキルエーテル、ジエチレングリコールアルキルエーテル、トリエチレングリコールアルキルエーテル、アルキレングリコールアルキルエーテルなどが挙げられる。ケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。エステル系溶媒としては、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどが挙げられる。
【0035】
なお、希釈液は、沸点が低いことが好ましく、たとえば100℃未満であることが好ましく、90℃未満、または80℃未満であることがより好ましい。これにより、組成物の揮発性を向上させ、洗浄剤として使用した場合により早く揮発させることができる。このような希釈液としては、たとえばエタノールが挙げられる。
【0036】
本発明に係る組成物は、アルカリイオン水および希釈液以外の成分をさらに含んでいてもよい。このような成分の例としては、たとえば水、界面活性剤、酸化防止剤、安定剤、防腐剤、防カビ剤および殺菌剤等が挙げられる。
【0037】
本発明はまた、上述した組成物を含む洗浄剤を提供する。本発明に係る洗浄剤は、油等の汚れを洗浄するために好適に使用することができる。洗浄剤は、たとえば、ガラス、機材等を洗浄するために用いることができ、また速乾性の洗浄剤であることができる。洗浄剤は、被洗浄物を浸漬するために用いてもよい。また、洗浄剤は、布または紙等に含浸させて拭き取るために用いてもよい。また、被洗浄物にスプレーするために用いてもよい。
【0038】
洗浄剤の形態としては、液体の形態、布、紙等に含浸されている形態、スプレー剤等が挙げられる。
【0039】
本発明はまた、上述した組成物および洗浄剤を製造する方法を提供する。本発明に係る製造方法は、アルカリイオン水を希釈液によって希釈することにより、そのアルカリイオン水のpHより高いpHを有する組成物を得ることを含む。アルカリイオン水および希釈液としては、前述したものを用いることができる。希釈する方法としては、当業者に公知の方法を用いることができる。
【0040】
本発明は上述した実施形態および以下の実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。
【実施例】
【0041】
〔実施例1〕
アルカリイオン水として、水および炭酸カリウムのみを原料として電気分解によって作られた市販のアルカリイオン水pH13.5を用いた。また、希釈液として、エタノールを用いた。これらを、様々な比率にて混合して組成物を作製した。各組成物におけるアルカリイオン水pH13.5の濃度は、それぞれ1、2、10、20、37、44、50、45、62、71、83、100容量%であった。
【0042】
各組成物のpHは、ポータブルpH計HM-30P(東亜DKK株式会社)を用いて測定した。測定結果を図1および下記表1に示す。図1は、組成物中のアルカリイオン水pH13.5の濃度と、組成物のpHとの関係を示すグラフである。
【0043】
【表1】

【0044】
この結果から、アルカリイオン水をエタノールで希釈すると、このアルカリイオン水よりも高いpHを有する組成物を得ることができることが示された。
【0045】
〔実施例2〕
次に、実施例1で用いたアルカリイオン水pH13.5およびエタノールを用いて、組成物(アルカリイオン水組成物)を作製した。各組成物におけるアルカリイオン水pH13.5の濃度は、それぞれ0、30、50、75、100容量%であった。また、アルカリイオン水pH13.5の代わりに水を用いた組成物(水組成物)も作製した。
【0046】
各組成物の沸点を測定した。測定結果を図2および下記表2に示す。図2は、組成物の水またはアルカリイオン水pH13.5の濃度と、組成物の沸点との関係を示すグラフである。
【0047】
【表2】

【0048】
この結果から、エタノールの濃度が高いほど、沸点が低くなり、揮発性が向上することが示された。
【0049】
〔実施例3〕
次に、アルカリイオン水として、実施例1で用いたアルカリイオン水pH13.5、並びにアルカリイオン水pH12.8およびアルカリイオン水pH12.5を用いた。アルカリイオン水pH12.8およびアルカリイオン水pH12.5は、実施例1と同様に水および炭酸カリウムのみを原料として電気分解によって作られた市販のアルカリイオン水pH12.8およびアルカリイオン水pH12.5を用いた。また、希釈液としてエタノールを用いて、組成物を作製した。各組成物における各アルカリイオン水の濃度は、それぞれ1、2、10、20、37、44、50、45、62、71、83、100容量%であった。
【0050】
各組成物のpHは、実施例1と同様に測定した。測定結果を図3および下記表3に示す。図3は、組成物中のアルカリイオン水の濃度と、組成物のpHとの関係を示すグラフである。
【0051】
【表3】

【0052】
この結果から、pH13.5、pH12.8、pH12.5のいずれのpHのアルカリイオン水を用いた場合にも、エタノールによって希釈することにより、それぞれのアルカリイオン水のpHよりも高いpHを有する組成物を得ることができることが示された。
【0053】
〔実施例4〕
アルカリイオン水として実施例1で用いたアルカリイオン水pH13.5をエタノール中に希釈して、7%、20%および30%のエタノール溶液を作成した。このエタノール溶液を水によって希釈した際のpHを測定した。7%、20%および30%のアルカリイオン水pH13.5エタノール溶液について、それぞれを水で1、2、3、4および5倍希釈した。
【0054】
各組成物のpHは、実施例1と同様に測定した。測定結果を図4および下記表4に示す。図4は、組成物中のアルカリイオン水の濃度と、組成物のpHとの関係を示すグラフである。
【0055】
【表4】

【0056】
〔実施例5〕
アルカリイオン水としてアルカリイオン水pH13.5を用い、希釈液としてエタノールを用いて、アルカリイオン水pH13.5を5容量%含む組成物を作製した。この組成物を布に含浸させてガスコンロの油汚れを拭き取ったところ、軽く拭き取るだけで汚れを取り除くことができた。また、拭き取った後、組成物は直ぐに揮発した。また、同様に、この組成物をガラス表面に散布したところ、ガラス表面が洗浄された。また、散布後、組成物は直ぐに揮発した。
【0057】
一方、100容量%のアルカリイオン水pH13.5では、同様の油汚れを完全に取り除くためには、被洗浄物をアルカリイオン水pH13.5に24時間浸漬する必要があった。
【0058】
〔実施例6〕
アルカリイオン水として実施例3で用いたアルカリイオン水pH12.5を用い、希釈液として実施例1で用いたエタノールを用いて、アルカリイオン水pH12.5を5容量%含む組成物を作製した。この組成物のpHを実施例1と同じ方法で測定したところ、pH13.6であった。この組成物を含浸させたティッシュを用いて油汚れを拭き取ったところ、軽く拭き取るだけで汚れを取り除くことができた。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、容易にかつ低コストにて、洗浄力の高い組成物、洗浄剤およびそれらの製造方法を提供することができるため、洗浄剤の製造、ガラス、機械部品等の洗浄などに好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希釈液によって希釈されたアルカリイオン水を含み、
前記アルカリイオン水のpHより高いpHを有する、組成物。
【請求項2】
前記希釈液は、アルコール系溶媒である、請求項2に記載の組成物。
【請求項3】
pH13以上である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記アルカリイオン水の濃度が1容量%以上、40容量%以下である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物を含む、洗浄剤。
【請求項6】
アルカリイオン水を希釈液によって希釈することにより、当該アルカリイオン水のpHより高いpHを有する組成物を得ることを含む、組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−112805(P2013−112805A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263057(P2011−263057)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(511289655)
【出願人】(312000930)
【Fターム(参考)】