組成物および方法、およびそれらに関する使用
本発明はライフサイエンスおよび食品、飼料、または医薬品工業の分野に関する。特に本発明は、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705単独またはラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGおよびラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705からなるプロバイオティクスを含む組成物に関する。本発明はまた薬剤としての使用のための組成物に関する。さらに本発明は、呼吸器感染症の治療および/または予防のための組成物、および対象において呼吸器感染症を引き起こすウイルスに対する抵抗力を増大させるための組成物の製造のための、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705単独での使用またはラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGとの併用に関する。またさらに本発明は、成人における呼吸器感染症の治療および/または予防のための組成物、および成人対象において呼吸器感染症を引き起こすウイルスに対する抵抗力を増大させるための組成物の製造のための、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGの使用を記載する。さらに本発明は、インフルエンザウイルスの複製を減少させ、遅延させ、または阻害するための組成物、および呼吸器感染症に感染する、または、感染している対象において、抗ウイルス性サイトカインを増加させるための組成物の製造のための、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)の使用に関する。さらに本発明は、対象において、または成人対象において、呼吸器感染症を治療または予防するための方法、対象において、または成人対象において、呼吸器感染症を引き起こすウイルスに対する抵抗力を増大させるための方法、対象においてインフルエンザウイルスの複製を減少させ、遅延させ、または阻害するための方法、および、呼吸器感染症に感染する、または、感染している対象において、抗ウイルス性サイトカインを増加させるための方法に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はライフサイエンスおよび食品、飼料、または医薬品工業の分野に関する。特に本発明は、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705単独またはラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGおよびラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705からなるプロバイオティクスを含む組成物に関する。本発明はまた薬剤としての使用のための組成物に関する。さらに本発明は、呼吸器感染症の治療および/または予防のための組成物、および対象において呼吸器感染症を引き起こすウイルスに対する抵抗力を増大させるための組成物の製造のための、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705単独での使用またはラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGとの併用に関する。またさらに本発明は、成人における呼吸器感染症の治療および/または予防のための組成物、および成人対象において呼吸器感染症を引き起こすウイルスに対する抵抗力を増大させるための組成物の製造のための、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGの使用を記載する。さらに本発明は、インフルエンザウイルスの複製を減少させ、遅延させ、または阻害するための組成物、および呼吸器感染症に感染する、または、感染している対象において、抗ウイルス性サイトカインを増加させるための組成物の製造のための、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)の使用に関する。さらに本発明は、対象において、または成人対象において、呼吸器感染症を治療または予防するための方法、対象において、または成人対象において、呼吸器感染症を引き起こすウイルスに対する抵抗力を増大させるための方法、対象においてインフルエンザウイルスの複製を減少させ、遅延させ、または阻害するための方法、および、呼吸器感染症に感染する、または、感染している対象において、抗ウイルス性サイトカインを増加させるための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロバイオティクスは、動脈性高血圧症、血管性疾患、アレルギー、癌、アトピー性疾患、ウイルス性疾患または感染症、虫歯、IBS、IBD、粘膜炎、消化管透過性障害、肥満、代謝症候群、酸化ストレスおよび腹痛などの様々な疾患の予防および治療のために使用され続けている。
【0003】
初期の下痢症研究(early diarrheal studies)に基づき、プロバイオティクスは消化管における感染症を軽減することが知られている。現在の科学的データは、病気の予防および治療と同様にウェルビーイング(well−being)におけるプロバイオティクスの効果は、消化管において微生物叢を改変する能力および病原体を退去させる能力に基づく、という仮説を支持している。しかしながら現在、特定のプロバイオティクスがさらに消化管外の感染症も軽減するかもしれないという証拠が増加している。
【0004】
口腔内および消化管内並びに気道内の粘膜上皮表面は、ウイルスなどの感染因子と絶えず戦っている。これらの表面上の共生微生物叢は、代謝物質および制御物質によって、かつ、粘膜上の栄養素および利用できる接着部位を競合することによって、病原菌から身体を保護する。微生物叢は一生涯の間に発達し変化するが、通常、健常者において様々な細菌種を含む。
【0005】
上気道および下気道に影響を及ぼす急性呼吸器感染症は、その発生率は全ての年齢層において高いが、子供および高齢者の間で最も一般的な健康問題である。これらの呼吸器感染症は、デイケアセンターや仕事における欠席と同様に、毎年、病院における多数の医療訪問や治療期間を引き起こす。最も激しい場合において、呼吸器感染症は高齢者の早期死亡を引き起こすであろう。しかしながら大多数の呼吸器感染症は、一般的な風邪としても知られる、穏やかな自己限定性のウイルス性上気道感染症である。
【0006】
基本的に健康な子供あるいは成人において呼吸器感染症におけるプロバイオティクスの効果を試験したいくつかの臨床研究がある。就学児における例として、Lactobacillus caseiは下気道感染の発生を減少させ(Cobo Sanz JM.ら、2006、Nutr Hosp 21、547−51)、一方で同じプロバイオティクスは高齢の対象において全ての感染症の継続期間を減少させた(Turchet P.ら、2003、J Nutr Health Aging 7、75−7)。さらにミルクに与えられたラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)(LGG)は、合併症および下気道感染症を伴う呼吸器感染症を患う子供の数において17%の相対的減少を示した(Hatakka K.ら、2001、BMJ、322、1−5)、しかし、マラソン走者においては、ミルクベースの果汁飲料の形式またはカプセル形式で与えられたLGGは呼吸器感染症に効果を有さなかった(Kekkonen R.ら、2007、Int J Sport Nutr Exerc Metab 17、352−363)。また、LGG、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705(LC705)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve) Bb99およびプロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ・サブスピーシーズ・シェルマニイ(Propionibacterium freudenreichii ssp shermanii)の組合せは、子供における呼吸器感染症の減少を示したが(Hatakka K.ら、2007、Clin Nutr 26、314−321;Kukkonen K.ら、2008、Pediatrics 122、8−12)、高齢者においてはそうではなかった(Hatakka K.ら、2007、博士論文、http://urn.fi/URN:ISBN:978−952−10−3897−6)。
【0007】
成人において、例えば、ビタミンおよびミネラルと共にラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)およびビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)を含む栄養補助食品が、呼吸器感染症の発生率を減少させることを示している(Winkler P.ら、2005、Int J Clin Pharmacol Ther 43、318−26;de Vrese M.ら、2005、Clin Nutr 24、481−91)。
【0008】
非合併性の呼吸器感染症は抗生物質によって広く治療される。しかしながら、抗生物質はウイルス性感染症には効果を有さない。それゆえ、例えば一般的な風邪の治療は、主に症状を緩和する薬剤(symptom−relieving medications)および解熱剤(fever reducing drugs)に基づく。いくつかの抗ウイルス薬がインフルエンザウイルスに対して提供されているが、これまで他の一般的な呼吸器ウイルスに対する効果的な抗ウイルス薬は存在しない。それゆえ、効果的な医薬品および治療は呼吸器感染症の予防および治療のためにまだ認可される。
【0009】
また様々な先行研究において、呼吸器感染症におけるプロバイオティクスの効果は、年齢層(例えば、幼児、子供、成人、高齢者)の間で異なることが示されている。プロバイオティクス効果を有する1つの菌種は、確定した症状を治療することにおいて利用されるかもしれないが、同属または異なる属のいくつかの株を含有するプロバイオティクスは、例えば相乗効果または相加効果によって、さらなる、あるいは異なる利点を提供するかもしれない。それゆえ、好適な量および消費期間と同様に最適なプロバイオティクスまたはそれらの組合せが呼吸器感染症を患っている異なる年齢層のために認可される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、呼吸器感染症の予防および治療のための新規な製品、方法および使用を提供することである。実際に、本発明はこれらの目的のための最適なプロバイオティクスまたはそれらの組合せを提供する。LC705、またはLGGおよびLC705の好ましい効果は、呼吸器感染症においてこれまで一度も検出されておらず、さらにLGGは、成人における呼吸器感染症において効果を有することはこれまで一度も示されていなかった。
【0011】
本発明は、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705単独またはラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGおよびラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705からなるプロバイオティクスを含む組成物に関する。
【0012】
またさらに本発明は、薬剤としての使用のためのラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705単独またはラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGおよびラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705からなるプロバイオティクスを含む組成物に関する。
【0013】
またさらに本発明は、対象における呼吸器感染症の治療および/または予防のための組成物の製造のための、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705単独での使用またはラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGと併用しての使用に関する。
【0014】
さらに本発明は、対象において呼吸器感染症を引き起こすウイルスに対する抵抗力を増大させるための組成物の製造のための、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705単独での使用またはラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGと併用しての使用に関する。
【0015】
また本発明は、成人対象における呼吸器感染症の治療および/または予防のための組成物の製造のための、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGの使用を記載する。
【0016】
本発明はまた、成人対象において呼吸器感染症を引き起こすウイルスに対する抵抗力を増大させるための組成物の製造のための、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGの使用を記載する。
【0017】
本発明は、対象においてインフルエンザウイルスの複製を減少させ、遅延させ、または阻害するための組成物の製造のための、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)の使用に関する。
【0018】
本発明は、呼吸器感染症に感染する、または、感染している対象において、抗ウイルス性サイトカインを増加させるための組成物の製造のための、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)の使用に関する。
【0019】
さらに本発明は、対象における呼吸器感染症の治療および/または予防のための、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705単独またはラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGとの組合せに関する。
【0020】
本発明は、対象において呼吸器感染症を引き起こすウイルスに対する抵抗力を増大させるための、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705単独またはラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGとの組合せに関する。
【0021】
また本発明は、成人対象における呼吸器感染症の治療および/または予防のための、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGを記載する。
【0022】
本発明はまた、成人対象において呼吸器感染症を引き起こすウイルスに対する抵抗力を増大させるための、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGを記載する。
【0023】
本発明は、対象においてインフルエンザウイルスの複製を減少させ、遅延させ、または阻害するための、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)に関する。
【0024】
本発明は、呼吸器感染症に感染する、または、感染している対象において、抗ウイルス性サイトカインを増加させるための、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)に関する。
【0025】
また本発明は、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705単独またはラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGとの組合せを含む組成物の対象への投与を含む、対象において呼吸器感染症を治療または予防する方法に関する。
【0026】
本発明はまた、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGを含む組成物の対象への投与を含む、成人対象において呼吸器感染症を治療または予防する方法を記載する。
【0027】
さらに本発明は、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705単独またはラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGとの組合せを含む組成物の対象への投与を含む、対象において呼吸器感染症を引き起こすウイルスに対する抵抗力を増大させる方法に関する。
【0028】
さらに本発明は、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)を含む組成物の対象への投与を含む、対象においてインフルエンザウイルスの複製を減少させ、遅延させ、または阻害する方法に関する。
【0029】
さらに本発明は、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)を含む組成物の対象への投与を含む、呼吸器感染症に感染する、または、感染している対象において、抗ウイルス性サイトカインを増加させる方法に関する。
【0030】
本発明は、食品、飼料、または医薬品工業におけるさらなる発展のための手段を提供する。またさらに、本発明によって、より効果的で特異的な治療が、呼吸器感染症を患っている患者、例えば異なる年齢層に利用できるようになる。
【0031】
LGG、LC705、またはそれらの組合せは、そのままで、または例えば医薬品または食品などの別の製品の一部として使用できる。本発明のLGG、LC705または組合せは、抗ウイルスタンパク質(例えば、IP−10およびIFN−α(図1)、Mx1、Mx2およびRIG−I(図2))の発現を増加すること、および、例えばウイルス構成タンパク質の減少によって確かめられる(例えばNPおよびM1(図5))インフルエンザウイルスの増殖を阻止することにより、ヒトにおいて有利な抗ウイルス効果を有する。
【0032】
健康、特に呼吸器感染症に対する明確に実証された効果を有し、そのままで、または例えば医薬品または食品もしくは飼料製品のような別の製品の一部として容易に使用できるような形状で生産された新製品を消費者に提供することが、継続的かつ明白に必要である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、LC705がヒト単球から得られたマクロファージにおける抗ウイルス性IFN−α産生を誘導することを示す。LGGまたはLC705でのマクロファージの6時間刺激および24時間刺激が図において示される。LGGまたはLC705は抗ウイルス性IP−10産生を誘導するが、LC705はLGGより多くIP−10産生を誘導する。
【0034】
【図2】図2は、LGGまたはLC705がMx1、Mx2およびRIG−I産生を活性化することを示す。しかしながらLC705はLGGより多くIFN−α調節型抗ウイルス性タンパク質(Mx1、Mx2、RIG−I)産生を活性化する。
【0035】
【図3】図3は、LGG、LC705およびそれらの組合せがIL−1β産生を増加すること(図3A)、LC705がIFN−αを増加すること(図3B)、LC705、およびLGGおよびLC705の組合せがTNF−αを増加すること(図3C)を示す。さらに、図3は、LC705および、LGGおよびLC705の組合せが、インフルエンザAウイルス(infl A)感染の間、LGGより多く抗ウイルス性炎症活性(IL−1βおよびTNF−α(図3Aおよび図3C))を増加することを示す。LC705、およびLGGおよびLC705の組合せは、インフルエンザAウイルス感染の間、LGGより多くIFN−α産生を増加する(図3B)。
【0036】
【図4】図4は、LGG、LC705およびそれらの組合せがインフルエンザAウイルスのmRNA合成を減少させる、すなわち、ウイルスの複製を減少もしくは減速させることを示す。図4Aは、LC705またはLGGおよびLC705の組合せが、ウイルス感染の間、NP mRNAの産生を減少もしくは減速させることを示す。図4Bは、LGG、LC705またはそれらの組合せが、ウイルス感染の間、M1 mRNAの産生を減少もしくは減速させることを示す。図4Cは、LGG、LC705またはそれらの組合せが、ウイルス感染の間、NS1 mRNAの産生を減少もしくは減速させることを示す。
【0037】
【図5】図5は、LGGまたはLC705がインフルエンザAウイルスの構造タンパク質(NP、M1)の産生を減少させることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
発明の詳細な説明
プロバイオティクスは食品工業および飼料工業において長い間利用されているが、未だに、広範囲の症状または病気における、かつ、特定の標的グループに対する、プロバイオティクスの効果を決定する必要がある。本発明はLGGおよびLC705が呼吸器感染症におけるプロバイオティクス効果を有するという知見に属する。またLC705およびLGGは、抗ウイルス性サイトカインの産生を増大し、かつウイルスの増幅を阻止し、それゆえ呼吸器感染症のリスクを減少するための最適な組合せとして機能する。
【0039】
プロバイオティクス菌
プロバイオティクスは生きた微生物であり、好ましくはヒトあるいは動物へ適当量を投与した際に宿主のウェルビーイング(well−being)を促進する非病原性の微生物である(Fuller R 1989、J Appl Microbiol 66、365−378)。プロバイオティクスは、十分な量を食品または栄養補助食品として消費された場合、宿主へ有益な健康上の利点をもたらす。
【0040】
ヒトまたは動物におけるプロバイオティクスの栄養機能表示は多くの病気の見込まれる予防および治療を含む。プロバイオティクスの健康促進効果は、例えば腸内細菌叢の平衡化および維持、免疫システムの刺激、および抗発癌活性を含む。
【0041】
最もよく実証されたプロバイオティクスは、ラクトバチルス・ラムノサス(L. rhamnosus) GG、ラクトバチルス・ジョンソニー(L. Johnsonii) LA1、ラクトバチルス・カゼイ シロタ(L.casei Shirota)およびビフィドバクテリウム・ラクティス(Bifidobacterium lactis) Bb12を含む。加えて、ラクトバチルス・ラムノサス(L. rhamnosus) LC705などの多数の他のプロバイオティクスが文献に記載されている。
【0042】
ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GG(LGG、登録商標LGG)株は、もとは米国からの非病原性グラム陽性分離株である(US4839281 A)。LGG株は人糞から単離され、pH3においてよく増殖し、低いpH値でも、また高胆汁酸量でも生存する。この株は、粘膜および上皮細胞の両方へ優れた接着性を示し、かつ消化管でコロニーを形成する。グルコースからの乳酸の収量は良好である:MRSブロスで生育させた時、この株は1.5−2%の乳酸を産生する。この株はラクトースを発酵せず、それゆえラクトースから乳酸は産生しない。この株は以下の炭水化物:D−アラビノース、リボース、ガラクトース、D−グルコース、D−フルクトース、D−マンノース、ラムノース、ズルシトール、イノシトール、マンニトール、ソルビトール、N−アセチルグルコサミン、アミグダリン、アルブチン、エスクリン、サリシン、セロビオース、マルトース、サッカロース、トレハロース、メレジトース、ゲンチオビオース、D−タガトース、L−フコースおよびグルコン酸塩、を発酵する。この株は15−45℃で良好に生育し、最適温度は30−37℃である。LGGは寄託機関American Type Culture Collectionに寄託番号ATCC 53103で寄託されている。
【0043】
ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705(LC705)株もまた、もとはフィンランドからではあるが、非病原性グラム陽性分離株である。LC705はフィンランド特許92498、Valio Oyにおいてより詳細に記載されている。LC705はグラム陽性の鎖状の短桿菌であり;ホモ発酵性であり;弱いタンパク質分解性であり;15−45℃でよく成長し;アルギニンからアンモニアを産生せず;カタラーゼ陰性であり;MRSブロス(LAB M)中で生育する時この株はL(+)立体配置の光学活性を有する1.6%の乳酸を産生し;この株はクエン酸塩を分解して(0.169%)ジアセチルおよびアセトインを産生し;この株は少なくとも下記の炭水化物(糖類、糖、糖アルコール):リボース、ガラクトース、D−グルコース、D−フルクトース、D−マンノース、L−ソルボース、ラムノース、マンニトール、ソルビトール、メチル−D−グルコシド、N−アセチルグルコサミン、アミグダリン、アルブチン、エスクリン、サリシン、セロビオース、マルトース、ラクトース、スクロース、トレハロース、メレジトース、ゲンチオビオース、D−ツラノースおよびD−タガトースを発酵する。LC705は粘膜細胞に弱く接着するが、上皮細胞には中程度に接着する。株の生存性は低pH値および高胆汁酸量で良好である。株は5%の塩分濃度で良好に、塩分濃度10%でかなり良好に生存する。LC705は、Deutsche Sammulung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSM)に寄託番号DSM7061で寄託されている。
【0044】
本発明の1つの実施形態において、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)はLGGである。本発明の別の実施形態において、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)はLC705である。本発明の具体的な実施形態において、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)はLGGおよびLC705である。
【0045】
組成物
本発明の組成物はLGGおよびLC705プロバイオティクスを含む。プロバイオティクスLGGおよびLC705のみが組成物中に含まれる。本発明の組成物は、食品、動物飼料、栄養製品、栄養補助食品、食品原料、健康食品、医薬品および化粧品からなる群から選択することができるが、これらに限定されるものではない。組成物はまた、例えば毎日の食事もしくは薬剤の都合のよい部分(convenient part)もしくは栄養補助食品として適用できる。本発明の1つの好ましい実施形態において、組成物は医薬品、食品または飼料製品である。本発明の別の実施形態において、組成物は機能性食品、すなわち、何らかの健康促進特性および/または疾患の予防もしくは治療特性を有する食品である。好ましくは、本発明の食品は、乳製品、ベーカリー製品、チョコレートおよび菓子類、砂糖およびガム菓子類、シリアル製品、スナック菓子、ベリーまたは果物ベースの製品、および飲み物/飲料からなる群から選択される。乳製品は、乳、酸乳(sour milk)、ヨーグルトおよびチーズやスプレッドなどの他の発酵乳製品、粉乳、子供用食品、離乳食、幼児用食品、特殊調製粉乳(infant formula)、ジュースおよびスープを含むが、これらに限定されるものではない。
【0046】
本発明の組成物は医薬組成物であってもよく、タブレット(tablet)、錠剤(pill)、丸薬(pellet)、カプセル、溶液、乳剤または懸濁剤の形態などの、例えば、固体、半固体、または液体において使用され得る。好ましくは、組成物は経口投与または腸内、吸入もしくは静脈内適用のためのものである。またさらに、対象が呼吸器感染症に感染する前もしくは後に対象へ投与することができる。
【0047】
プロバイオティクスに加えて、組成物は医薬上または栄養学的に許容され得る、かつ/または技術的に必要とされる担体(例えば、水、グルコースまたはラクトース)、アジュバント、賦形剤、補助賦形剤、防腐剤、安定化剤、増粘剤もしくは着色剤、着香料、結合剤、充填剤、滑沢剤、懸濁化剤、甘味料、香味剤、ゲル化剤、酸化防止剤、保存料、緩衝剤、pH調整剤、湿潤剤、スターター、または類似の組成物において通常見られる成分を含むことができる。プロバイオティクスではない任意の作用剤も、例えば上述の群から選択することができる。組成物の作用剤、例えば原料または成分は、市販で入手されるか、または技術分野において知られた従来技術のいずれかによって調製される。
【0048】
本発明の具体的な実施形態において、組成物はLGGおよびLC705からなる作用剤および任意にあらゆる非プロバイオティクス性の作用剤を含む。「非プロバイオティクス性の作用剤」とはプロバイオティクスではないあらゆる作用剤を指す。
【0049】
本発明の組成物は所望の効果を生じるための十分な量においてLGGおよび/またはLC705を含む。本発明の好ましい実施形態において、LGGおよびLC705の割合(細菌数)は同等すなわち1:1である。本発明の別の好ましい実施形態において、LGGのLC705に対する割合(細菌数)は2:1、3:1、4:1、5:1、6:1、7:1、8:1、9:1または10:1である。本発明のさらに別の好ましい実施形態において、LC705のLGGに対する割合(細菌数)は2:1、3:1、4:1、5:1、6:1、7:1、8:1、9:1または10:1である。
【0050】
ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)のプロバイオティクスに加えて、呼吸器感染症の予防および/または治療のために、呼吸器感染症を引き起こすウイルスに対する抵抗力を増大させるために、インフルエンザウイルスの複製を減少させ、遅延させ、または阻害するために、または、抗ウイルス性サイトカインを増加させるために使用される組成物は、他のプロバイオティクスまたは類似の組成物において通常見られる任意の他の作用剤を含んでもよい。
【0051】
組成物は技術分野において既知の任意の従来法によって製造され得る。LGGおよび/またはLC705は、例えば、調製と結合して、またはその後、最終生産物の最終加工の間のいずれか一方で、任意の製品に添加または任意の作用剤と混合され得る。
【0052】
呼吸器感染症および治療
呼吸器感染症は上気道および下気道の両方の感染を含む。上気道感染症は、肺胞を除く鼻から下部呼吸樹への呼吸器粘膜の炎症を含む。それゆえ上気道は、鼻腔(鼻端、洞(sinuses))、咽頭および喉頭を含む。上気道感染症は、一般的な風邪、副鼻腔炎、耳感染症、中耳炎、乳様突起炎、咽頭炎、扁桃炎、喉頭蓋炎、気管炎、喉頭炎および気管支炎からなる群から選択されるが、これらに限定されるものではない。上気道感染症の症状は、鼻閉、咳、鼻炎、鼻詰まり、鼻感冒、咽頭炎、発熱、顔面圧迫感、頭痛、食欲不振および/またはくしゃみを含む。
【0053】
下気道感染症は、気管、原始気管支および肺を含む。下気道に影響を及ぼす感染症は、肺炎、胸膜炎、気管支炎、細気管支炎および肺気腫からなる群から選択することができるが、これらに限定されるものではなく、症状は、例えば息切れ、衰弱、高熱、咳嗽および/または倦怠感を含む。
【0054】
多数の細菌種が上気道にコロニーを形成し、一方、下気道には通常、微生物はほとんどないに等しい。上気道感染症または下気道感染症は病原体への暴露および数時間から数日に及ぶ潜伏期間(例えば1−7日間)の後に起こり、かつ、例えば3日間から10日間あるいはさらに長く(数週間)続く。症状の性質および持続期間は、病原体、病原体の量と同様に対象の年齢および免疫学的状態に依存する。
【0055】
急性感染症に加え、病原体は慢性感染症もまた引き起こす可能性がある。慢性感染症は通常急性感染症から発展し、数日間から一生涯続く。
【0056】
ここで使用される「感染症」とは、細胞あるいは組織における病原性微生物の侵入および増殖を指し、すなわち「感染症」は感染された状態に起因する状態もさす。感染症は様々な細胞機構または毒性機構を通して、傷害および疾患の進行を引き起こす可能性がある。しかしながら、全ての感染症が臨床的疾患を導くものではない;症候性疾患は感染者の75%において発症することが知られる(Gwaltney JMおよびHayden FG、1992、N Engl J Med 326、644−5)。
【0057】
呼吸器感染症を引き起こす病原体は細菌またはウイルスである可能性がある。場合によっては、感染症はそれら両方の結果である。呼吸器感染症、すなわち上気道および/または下気道感染症を引き起こす細菌またはウイルスは、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)、カタラリス菌(Moraxella catarrhalis)、化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)、肺炎クラミジア(Chlamydiae pneumoniae)、一般的な風邪(インフルエンザ)ウイルス、ライノウイルス(rhinovirus)、アデノウイルス(adenovirus)、パラインフルエンザウイルス(parainfluenza virus)、呼吸器合胞体ウイルス(respiratory syncytial virus)、エンテロウイルス(enterovirus)、コロナウイルス(coronavirus)およびエプスタイン・バール・ウイルス(Epstein−Barr virus)からなる群から選択することができる。また、気道に影響を及ぼす任意の他の細菌あるいはウイルスも上述の群へ含まれ得る。本発明の組成物で予防または治療することができる呼吸器感染症を引き起こすウイルスは、一般的な風邪(インフルエンザ)ウイルス、ライノウイルス(rhinovirus)、アデノウイルス(adenovirus)、パラインフルエンザウイルス(parainfluenza virus)、呼吸器合胞体ウイルス(respiratory syncytial virus)、エンテロウイルス(enterovirus)、コロナウイルス(coronavirus)およびエプスタイン・バール・ウイルス(Epstein−Barr virus)からなる群から選択することができるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
本発明の1つの実施形態において、呼吸器感染症はインフルエンザウイルス感染症である。本発明の好ましい実施形態において、インフルエンザウイルスはインフルエンザウイルスAおよびインフルエンザウイルスBからなる群から選択される。インフルエンザウイルスAおよびインフルエンザウイルスBは一本鎖RNAウイルス類およびオルソミクソウイルス科に属する。インフルエンザウイルスAは鳥類を宿主とし、バードフル(bird flu)あるいはエイビアンフル(avian flu)としても知られる「鳥インフルエンザ」を引き起こす。ウイルスの全ての既知のサブタイプは鳥類において固有の病気である。しかしながら、インフルエンザウイルスAは哺乳動物にも感染することができ、少なくとも、H1N1、H2N2、H3N2およびH5N1と名付けられたサブタイプはヒトにおいても検出されている。インフルエンザウイルスBはヒトおよびあざらし類に感染することだけ知られており、かつ、インフルエンザウイルスAとは対照的に、インフルエンザウイルスBはインフルエンザの大流行を引き起こさない。
【0059】
ウイルス粒子はそれ自身によっては生育および増幅せず、それらはまた、タンパク質合成およびエネルギー生産のための遺伝的情報が欠如している。そのためウイルスは宿主細胞に依存する。様々な呼吸器系ウイルスの発症機序はウイルス間で異なる。病原性事象の理解は主にライノウイルス感染症に由来する。ライノウイルスは主に、小さいエアロゾル粒子によって、かつ、感染性分泌物での直接的または間接的な接触を通して伝染される。感染の初期において、ライノウイルスは主に鼻咽頭に位置するICAM−1(intercellular adhesion receptor molecule 1)受容体に結合することにより宿主へと侵入する。細胞内への侵入および複製の後、ウイルスは咽頭へ向かって鼻腔内に広がる。複製は、炎症性メディエーターを介して血管拡張、増大した血管透過性および細胞浸潤を引き起こす、宿主における炎症および免疫応答を惹起する。上昇した炎症誘発性のサイトカインの濃度は、ウイルスを根絶または中和するために必要な炎症性反応のカスケードをもたらす(van Kempen M.ら 1999、Rhinology 37、97−103)。
【0060】
インフルエンザウイルスは、主要なウイルス表面糖タンパク質の一つであるヘマグルチニン(HA)により細胞表面上の受容体に結合することによって、宿主上皮細胞に感染する。宿主気道はインフルエンザウイルスのための感染部位だけでなく、ウイルス感染に対する防御部位でもある。インフルエンザウイルス感染に対する防御機構はいくつかのエフェクター細胞およびエフェクター分子を含む。ウイルスは最初、抗原特異的ではなく長時間の誘導を要しない自然免疫システムによって非特異的に検出され、破壊される。粘膜、マクロファージ、樹状細胞(DCs)、ナチュラルキラー(NK)細胞、インターフェロン(IFN)α、βおよび他のサイトカインおよび補体成分などのいくつかの構成要素が自然免疫系に含まれる。上皮細胞におけるウイルスの存在は、IFN−αおよびIFN−βの産生を誘導する。さらに、IL−1、IL−6、TNF−αおよびIL−12などのサイトカインがマクロファージ活性化NK細胞によって分泌される。NK細胞は感染した細胞の溶解に特に影響を与えるIFN−γを放出する。細胞表面受容体へのインターフェロンの結合は、例えば、サイトカインの産生をさらに加速させる多くの遺伝子の転写を増加する。インターフェロンはまたウイルスRNAを分解するリボヌクレアーゼ酵素を活性化し得、またさらにインターフェロンはウイルス複製を阻止するために間接的にタンパク質合成を妨げ得る(Tamura S.およびKurata T.、2004、Jpn J Infect Dis 57:236−247;Tamura S.ら、2005、Jpn J Infect Dis、58:195−207)。
【0061】
しかしながら、ウイルスが早期生体防御機構を回避する場合には、それらは気道におけるマクロファージおよびDCs上のトール様受容体(Toll−like receptor)(TLRs)を通って、インフルエンザウイルス成分によって増大され得る適応免疫機構によって検出され、特異的に除去される。ウイルスを認識したマクロファージおよびDCsは、MHC−1(ヒトにおいてはHLA−IおよびHLA−II)およびMHC−2タンパク質を用いてウイルス性抗原をT−リンパ球およびB−リンパ球へ提示する。この一連の事象は適応免疫応答を開始する。抗体産生はウイルスを中和するために活性化される(Tamura S.およびKurata T.、2004、Jpn J Infect Dis 57:236−247;Tamura S.ら、2005、Jpn J Infect Dis、58:195−207)。
【0062】
免疫応答の変化は、生体サンプルまたは対象から、任意の適した医学的、生理学的または生物学的試験、例えばインビトロ、エクスビボまたはインビボ試験によって観察できる。プロバイオティクス株の性質は、例えば末梢血単核球(PBMC)、ヒト単球、マクロファージおよび樹状細胞を利用して、例えば細胞培養(インビトロ)において調査することができる。エクスビボ実験の例は、好中球および単球の貪食、酸化バーストすなわち好中球および単球の過酸化水素発生、ナチュラルキラー(NK)細胞活性、リンパ球増殖、ならびにPBMC、組織マクロファージ、単球もしくはリンパ球によるサイトカインの産生、の定量を含む。インビボ実験は、ワクチン(例えばワクチン特異的抗体またはワクチン特異的抗体産生細胞)への応答、遅延型過敏症および弱毒化病原体への応答の定量を含むが、これらに限定されるものではない。
【0063】
病原体の侵入に対して宿主を保護する主要な細胞は、病原体を食べる、すなわち貪食する、またはサイトカインを産生するマクロファージである。サイトカインは他の免疫細胞を動員(recruit)し、炎症を仲介(mediate)する。マクロファージは組織内の白血球であり、単球の分化によってインビトロで培養できる。本発明において、健常成人由来のマクロファージが、ヒト対象におけるプロバイオティクスの効果を調査するためにインビトロモデルにおいて使用された。マクロファージはLGGおよび/またはLC705で刺激され、インフルエンザウイルスに感染した。
【0064】
免疫応答を活性化するために、マクロファージはサイトカイン、ケモカインおよび抗菌性物質を産生する。サイトカインは細胞間情報伝達において使用されるシグナル分子(すなわち、タンパク質、ペプチドまたは糖タンパク質)である。これらはしばしば、病原体に遭遇し、それによって病原体への全身応答(system’s response)を増加するためにさらなる免疫細胞を活性化して動員する免疫細胞によって分泌される。
【0065】
各サイトカインは適合する細胞表面受容体を有しており、それゆえ、続いて起こる細胞内シグナル伝達のカスケードが細胞機能を変化させる。細胞内シグナル伝達は、他のサイトカインの産生、他の分子に対する表面受容体の数の増加またはフィードバック阻害によるそれ自身の効果の抑制をもたらす、例えばいくつかの遺伝子およびそれらの転写因子の発現上昇および/または発現低下を招き得る。
【0066】
サイトカインは2つの群に分類することができる:1型、サイトカイン応答を増強するもの(例えば、IFN−γ、TGF−β)および2型、抗体応答を助けるもの(例えば、IL−4、IL−10、IL−13)。炎症誘発性のサイトカインである腫瘍壊死因子α(TNF−α)、インターロイキン−1β(IL−1β)およびインターロイキン−6(IL−6)もインターフェロン(IFNs)と同様に、細菌性感染への応答において、最初のサイトカインの中で特に産生される。後に産生されるサイトカインは、細菌感染の間、応答を細胞性Tヘルパータイプ1(Th1)または液性Th2タイプ免疫のいずれかに向ける。
【0067】
ケモカインは、近隣の応答細胞の有向走化性(directed chemotaxis)を誘導する、小サイトカイン(約8−10キロダルトンの大きさで、保存領域に4つのシステイン残基がある)のファミリーである。IP−10などのいくつかのケモカインは炎症性であると考えられている。これらのタンパク質はGタンパク質結合型膜貫通受容体との相互作用によって生物学的効果を発揮する。
【0068】
免疫応答の変化を検出するための試験は、シグナル経路の活性化を検出すること、およびマーカー遺伝子の転写レベルもしくは翻訳レベルまたはタンパク質(例えば抗体または受容体)の量を検出することに基づく試験を含むが、これらに限定されるものではない。細胞または生命体における免疫応答を検出するための単一のマーカーは現在入手不可能である。しかしながら、好ましいマーカーは、TNF−α、IL−12、IL−10、IL−1β、IFN−α、IL−1α、IL−6、IL−18、IFN−γ、IL−4、TGF−βおよびIP−10からなる群から選択することができるが、これらに限定されるものではない。
【0069】
プロバイオティクス刺激は、マクロファージにおけるIL−1β、IL−6およびTNF−αの産生を誘導することが知られている(Miettinen M.ら、2008、J Leukoc Biol. 84:1092−1100)が、LGGまたはLC705に誘導されるインフルエンザウイルスへの効果は、マクロファージにおいてこれまで示されたことはない。
【0070】
本発明において、LGGおよび/またはLC705は、抗ウイルス性タンパク質(IP−10、TNF−α、IL−1β、IFN−αおよびIFN−β(図1および3))およびIFN−α誘導性サイトカインもしくはタンパク質(Mx1、Mx2およびRIG−I(図2))を増加し、それゆえウイルスの機能を鈍化させた。ウイルスの鈍化した機能もまた、減少したウイルス構造タンパク質の量によって検出された(図4および5)。
【0071】
本発明において、LGGおよび/またはLC705は、抗ウイルス性サイトカイン産生を増加し、それゆえウイルスの不活化に関与する。この現象は「ウイルスに対する抵抗力の増大」ともいう。「抗ウイルス性サイトカイン」とは、ウイルスの破壊または中和を助けるサイトカインをいう。本発明の好ましい実施形態において、抗ウイルス性サイトカインは、IFN−α、IFN−β、IL−1β、TNF−αおよびIP−10からなる群から選択される。1型インターフェロン(IFN−α/β)は、例えばインフルエンザウイルス感染に対する議論(debating)において必要不可欠なものである。IFN−α誘導性サイトカインもしくはタンパク質はMx1、Mx2、RIG−1およびIP−10を含むが、これらに限定されるものではない。
【0072】
Mx1タンパク質は、ヒトにおいてMxAとして知られる、ミクソウイルス(インフルエンザウイルス)抵抗性1タンパク質(インターフェロン誘導性タンパク質p78(マウス))である。細胞質タンパク質Mx1は、ダイナミンファミリーおよびラージGTPアーゼ(large GTPase)ファミリーの両方のメンバーである。インターフェロン誘導性Mx1タンパク質はウイルス複製におけるヌクレオカプシド(NP)の役割を妨げることにより、インフルエンザウイルスに対する活性を示す。
【0073】
Mx遺伝子の発現は、主にI型IFNsによって調節される。IFNsからのシグナル経路は、Mx遺伝子の上流でインターフェロン刺激応答配列(ISRE)の活性化を誘導する(Hug H.ら、1988、Mol Cell Biol 8、3065−3079)。また、ウイルス感染または二重らせんRNA(dsRNA)自体の投与は、迅速で効率的なMx遺伝子の活性化を生じることができる(Hug H.ら、1988、Mol Cell Biol 8、3065−3079;Ronni T.ら、1995、J Immunol 154、2764−2774)。全ての場合において、Mx誘導はウイルス誘導性IFNへの二次応答よりも、ウイルスに対する真の一時応答である。細胞は、細胞内に残る予定のMxタンパク質と細胞環境中へ放出される予定のIFNsを同時に合成することにより、感染に迅速に応答する能力を有する。このインターフェロンは、最初に感染した細胞がウイルス保護された細胞のバリアによってすぐに区別されるように、近隣の非感染細胞におけるMxタンパク質の発現を誘導する。結果として、ウイルスは効率的に広がることができず、自身の防衛線を開始してウイルスを除去するために十分な時間を免疫システムに与える。
【0074】
ヒトにおいてMxBとして知られる細胞質タンパク質Mx2(ミクソウイルス(インフルエンザウイルス)抵抗性2)はダイナミンファミリーおよびラージGTPアーゼ(large GTPase)ファミリーの両方のメンバーである。タンパク質はまた核膜の直下にあるヘテロクロマチン領域の顆粒状部に局在する核型(nuclear form)を有する。局在化シグナル(NLS)は核型のアミノ末端に存在する。このタンパク質はIFN−αによって発現上昇される。
【0075】
RIG−1(DDX58、レチノイン酸誘導性遺伝子1タンパク質、DEAD−ボックスタンパク質58)はIFN−α誘導性RNAヘリカーゼである。RIG−1は2つのCARDドメイン、ヘリカーゼATP結合ドメインおよびヘリカーゼC末端ドメインを含む。RIG−1はウイルス複製の阻止における、二重らせんRNA誘導性の先天性の抗ウイルス応答において必要不可欠な機能を有する。RIG−1はまた、インフルエンザAウイルス感染の場合において一本鎖RNAによって活性化されることが知られている。インフルエンザAウイルスNS1タンパク質は、RIG−Iに結合し、RIG−Iの抗ウイルス作用を阻害する(Pichlmair A.ら、2006、Science、314 (5801):997−1001)。
【0076】
インターフェロン(IFN)−誘導性タンパク質10(IP−10)はサイトカインのケモカインファミリーのメンバーであり、IFN−γ、IFN−αおよびリポ多糖類への応答における様々な細胞において誘導される。IP−10結合部位は、内皮細胞、上皮細胞および造血細胞を含む様々な細胞上で検出されている。IP−10遺伝子発現はインフルエンザAウイルスによって上昇することが示されている。
【0077】
本発明の方法もしくは使用において、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)は、インフルエンザウイルスの複製を減少させ、遅延させ、または阻害するために対象に投与される。ウイルスの複製効率は、ウイルスのmRNAまたは構造タンパク質の量を決定することによって調査され得る。LGGおよび/またはLC705は、インフルエンザウイルスの複製を減少させ、遅延させ、または阻害し、またそれゆえ感染によって一般的に引き起こされる症状を軽減または予防する。ウイルスの複製効率を決定するための適したインフルエンザウイルスタンパク質は、例えば、NP(核タンパク質)、NS1(非構造性タンパク質1)、ポリメラーゼタンパク質PB1、PB2もしくはPA、外部糖タンパク質HA(ヘマグルチニン)もしくはNA(ノイラミニダーゼ)、M1(膜タンパク質)、M2もしくはNS2を含み得るが、これらに限定されるものではない。本発明において、NP、NS1およびM1のmRNAもしくはタンパク質におけるLGGおよび/またはLC705の効果は調査され、LGGおよび/またはLC705はそれらの全ての産生を減少し減速させた。
【0078】
NS1は、核からの宿主mRNAの輸送を妨げ、RIG−Iを介するIFN−応答を妨げ、かつ抗ウイルス状態を阻害する非構造性タンパク質1である。NPは、一つには、あらゆる遺伝子フラグメントに結合し、核への輸送を調節する核タンパク質である。M1は、ウイルス性脂質エンベロープの内側基質(inner matrix)に位置する基質(matrix)タンパク質である。M1の蓄積はウイルス出芽に必要である。
【化1】
【0079】
本発明において、治療または予防のための対象は任意の真核生物であり、好ましくはヒトである。本発明の好ましい実施形態においては、対象は幼児、子供または成人である。「幼児」は0ヶ月から5ヶ月までの年齢である人間をいい、「子供」は6ヶ月から17歳までの年齢である人間をいい、「成人」は18歳以上の年齢である人間をいう。対象は、動物であってもよく、特にペットまたは生産動物である。動物は、ウシ、ウマ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、家禽、イヌ、ネコ、ウサギ、爬虫類およびヘビなどの、生産動物およびペットからなる群から選択することができる。
【0080】
本発明において、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)またはラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)(例えば、LGGおよび/またはLC705)を含む組成物は、対象が呼吸器感染症に感染する前もしくは後のいずれか一方で、対象に投与することができる。
【0081】
本発明の具体的な実施形態において、LGGおよびLC705は、対象において呼吸器感染症を引き起こすウイルスに対する抵抗力を増大させるために、対象においてインフルエンザウイルスの複製を減少させ、遅延させ、または阻害するために、および、呼吸器感染症に感染する、または、感染している対象において、抗ウイルス性サイトカインを増加させるために、対象における呼吸器感染症の治療および予防のため使用される。
【0082】
本発明は、以下の実施例によって説明されるが、何らかの方法で制限することを意図するものではない。
【実施例】
【0083】
実施例1:マクロファージおよびプロバイオティクス菌
マクロファージ
健康な献血者から新鮮に回収された白血球豊富な軟膜は、フィンランド赤十字輸血サービス(Finnish Red Cross Blood Transfusion Service)によって供給された。PBMCは密度勾配遠心分離によって単離された。前述の通り、単球は6穴プラスチックプレート(Falcon)への接着によってPBMCから精製され、組換えヒト(rh)GM−CSF(Leucomax、Schering−Plough)の存在下、マクロファージ無血清培地(Gibco Invitrogen)において7日間培養され、マクロファージを獲得した(Miettinen M.ら 2000、J Immunol 164、3733−3740)。
【0084】
菌
ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGおよびラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705は、刺激実験におけるそれらの使用の前に、−70℃でスキムミルク中に保存され、前述の通り3回継代された(Miettinen M.ら 1996、Infect Immun 64:5403)。ラクトバチルス(Lactobacillus)はMRS培地(Difco)中で生育させた。刺激実験のために、菌は対数増殖期まで生育させられ、菌細胞の数はペトロフハウザー血球計算盤における計数によって決定された。
【0085】
実施例2:マクロファージ刺激実験
刺激実験はRPMI1640培地(シグマ)において行われた。実施例1のマクロファージは、実施例1の生菌を用いて、すなわち1:1の割合(細胞数による)でのLGGまたはLC705単独で、または、マクロファージ細胞に対する菌の割合は1:1のままで、同数の菌細胞数でのLGGおよびLC705を共に用いて、24時間刺激された。マクロファージはそれから、100%の感染をもたらす感染の多重度(MOI)5のインフルエンザウイルスA/北京/353/89ウイルス(0.128 HAU/ml)(健康福祉研究所(THL))を用いて1時間感染させられ、その後、感染細胞はPBSで洗浄され、細胞培養培地は交換され、感染は前述のように総合して9時間または24時間の間続いた(Pirhonen J.ら、1999、J Immunol 162、7322−7329)。細胞および細胞培養上清は刺激の後に回収された。回収サンプルから総RNAまたはタンパク質が単離された。ウイルス性mRNAの量は定量的リアルタイムPCR(qRT−PCR)によって決定され、かつウイルスまたは宿主タンパク質はウェスタンブロットによって検出された。分泌されたサイトカインはELISA法によって測定された。
【0086】
MxA、MxB、RIG−I、NPおよびM1タンパク質発現は、以下の抗体:抗MxA抗体(Ronni T.ら、1993、J immunol 150、1715−1726;抗MxB抗体(Melen K.ら、1996、J Biol Chem 271、23478−23486);抗RIG−I抗体(Matikainen S.ら、2006、J Virol 80、3515−3522);インフルエンザA特異的抗NP抗体(Ronni T.ら、1995、J Immunol 154、2764−2774);および、抗NP抗体の獲得のためと同様にウサギを免疫することによって獲得されたインフルエンザA特異的抗M1抗体(Ronni T.ら、1995、J Immunol 154、2764−2774):を用いて、前述の通りウェスタンブロット法によって解析された(Miettinen M.ら、2008、J Leukoc Biol 84、1092−1100)(図2および5参照)。
【0087】
qRT−PCRによるウイルスmRNAの定量は、アプライドバイオシステムズの試薬および手順により、インフルエンザA M1のためのプライマー−プローブペア(primer−probe pair)を用いて、前述の通り実行された(Miettinen M.ら、2008、J Leukoc Biol 84:1092−1100)。NPプライマー−プローブ(primer−probe)は以下のとおり:フォワードプライマー5’−ccataaggaccaggagtgga−3’、リバースプライマー5’−ccctccgtatttccagtgaa−3’、プローブ5’−caggccaaatcagtgtgcaacctac−3’であり、NS1プライマー−プローブ(primer−probe)は:フォワードプライマー5’−tgaaagcgaatttcagtgtgat−3’、リバースプライマー5’−ctggaaaagaaggcaatggt−3’、プローブ5’−ctaagggctttcaccgaagaggg−3’であった。
【0088】
細胞培養上清中のサイトカイン(IL−1β、IFN−α、TNF−α)およびケモカインレベル(IP−10)は、前述の通りELISA法によって検出された(Miettinen M.ら、1998、Infect Immun 66、6058−6062;Veckman V.ら、2003、J Leukoc Biol 74、395−402)(図1および3−4参照)。
【技術分野】
【0001】
本発明はライフサイエンスおよび食品、飼料、または医薬品工業の分野に関する。特に本発明は、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705単独またはラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGおよびラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705からなるプロバイオティクスを含む組成物に関する。本発明はまた薬剤としての使用のための組成物に関する。さらに本発明は、呼吸器感染症の治療および/または予防のための組成物、および対象において呼吸器感染症を引き起こすウイルスに対する抵抗力を増大させるための組成物の製造のための、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705単独での使用またはラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGとの併用に関する。またさらに本発明は、成人における呼吸器感染症の治療および/または予防のための組成物、および成人対象において呼吸器感染症を引き起こすウイルスに対する抵抗力を増大させるための組成物の製造のための、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGの使用を記載する。さらに本発明は、インフルエンザウイルスの複製を減少させ、遅延させ、または阻害するための組成物、および呼吸器感染症に感染する、または、感染している対象において、抗ウイルス性サイトカインを増加させるための組成物の製造のための、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)の使用に関する。さらに本発明は、対象において、または成人対象において、呼吸器感染症を治療または予防するための方法、対象において、または成人対象において、呼吸器感染症を引き起こすウイルスに対する抵抗力を増大させるための方法、対象においてインフルエンザウイルスの複製を減少させ、遅延させ、または阻害するための方法、および、呼吸器感染症に感染する、または、感染している対象において、抗ウイルス性サイトカインを増加させるための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロバイオティクスは、動脈性高血圧症、血管性疾患、アレルギー、癌、アトピー性疾患、ウイルス性疾患または感染症、虫歯、IBS、IBD、粘膜炎、消化管透過性障害、肥満、代謝症候群、酸化ストレスおよび腹痛などの様々な疾患の予防および治療のために使用され続けている。
【0003】
初期の下痢症研究(early diarrheal studies)に基づき、プロバイオティクスは消化管における感染症を軽減することが知られている。現在の科学的データは、病気の予防および治療と同様にウェルビーイング(well−being)におけるプロバイオティクスの効果は、消化管において微生物叢を改変する能力および病原体を退去させる能力に基づく、という仮説を支持している。しかしながら現在、特定のプロバイオティクスがさらに消化管外の感染症も軽減するかもしれないという証拠が増加している。
【0004】
口腔内および消化管内並びに気道内の粘膜上皮表面は、ウイルスなどの感染因子と絶えず戦っている。これらの表面上の共生微生物叢は、代謝物質および制御物質によって、かつ、粘膜上の栄養素および利用できる接着部位を競合することによって、病原菌から身体を保護する。微生物叢は一生涯の間に発達し変化するが、通常、健常者において様々な細菌種を含む。
【0005】
上気道および下気道に影響を及ぼす急性呼吸器感染症は、その発生率は全ての年齢層において高いが、子供および高齢者の間で最も一般的な健康問題である。これらの呼吸器感染症は、デイケアセンターや仕事における欠席と同様に、毎年、病院における多数の医療訪問や治療期間を引き起こす。最も激しい場合において、呼吸器感染症は高齢者の早期死亡を引き起こすであろう。しかしながら大多数の呼吸器感染症は、一般的な風邪としても知られる、穏やかな自己限定性のウイルス性上気道感染症である。
【0006】
基本的に健康な子供あるいは成人において呼吸器感染症におけるプロバイオティクスの効果を試験したいくつかの臨床研究がある。就学児における例として、Lactobacillus caseiは下気道感染の発生を減少させ(Cobo Sanz JM.ら、2006、Nutr Hosp 21、547−51)、一方で同じプロバイオティクスは高齢の対象において全ての感染症の継続期間を減少させた(Turchet P.ら、2003、J Nutr Health Aging 7、75−7)。さらにミルクに与えられたラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)(LGG)は、合併症および下気道感染症を伴う呼吸器感染症を患う子供の数において17%の相対的減少を示した(Hatakka K.ら、2001、BMJ、322、1−5)、しかし、マラソン走者においては、ミルクベースの果汁飲料の形式またはカプセル形式で与えられたLGGは呼吸器感染症に効果を有さなかった(Kekkonen R.ら、2007、Int J Sport Nutr Exerc Metab 17、352−363)。また、LGG、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705(LC705)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve) Bb99およびプロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ・サブスピーシーズ・シェルマニイ(Propionibacterium freudenreichii ssp shermanii)の組合せは、子供における呼吸器感染症の減少を示したが(Hatakka K.ら、2007、Clin Nutr 26、314−321;Kukkonen K.ら、2008、Pediatrics 122、8−12)、高齢者においてはそうではなかった(Hatakka K.ら、2007、博士論文、http://urn.fi/URN:ISBN:978−952−10−3897−6)。
【0007】
成人において、例えば、ビタミンおよびミネラルと共にラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)およびビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)を含む栄養補助食品が、呼吸器感染症の発生率を減少させることを示している(Winkler P.ら、2005、Int J Clin Pharmacol Ther 43、318−26;de Vrese M.ら、2005、Clin Nutr 24、481−91)。
【0008】
非合併性の呼吸器感染症は抗生物質によって広く治療される。しかしながら、抗生物質はウイルス性感染症には効果を有さない。それゆえ、例えば一般的な風邪の治療は、主に症状を緩和する薬剤(symptom−relieving medications)および解熱剤(fever reducing drugs)に基づく。いくつかの抗ウイルス薬がインフルエンザウイルスに対して提供されているが、これまで他の一般的な呼吸器ウイルスに対する効果的な抗ウイルス薬は存在しない。それゆえ、効果的な医薬品および治療は呼吸器感染症の予防および治療のためにまだ認可される。
【0009】
また様々な先行研究において、呼吸器感染症におけるプロバイオティクスの効果は、年齢層(例えば、幼児、子供、成人、高齢者)の間で異なることが示されている。プロバイオティクス効果を有する1つの菌種は、確定した症状を治療することにおいて利用されるかもしれないが、同属または異なる属のいくつかの株を含有するプロバイオティクスは、例えば相乗効果または相加効果によって、さらなる、あるいは異なる利点を提供するかもしれない。それゆえ、好適な量および消費期間と同様に最適なプロバイオティクスまたはそれらの組合せが呼吸器感染症を患っている異なる年齢層のために認可される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、呼吸器感染症の予防および治療のための新規な製品、方法および使用を提供することである。実際に、本発明はこれらの目的のための最適なプロバイオティクスまたはそれらの組合せを提供する。LC705、またはLGGおよびLC705の好ましい効果は、呼吸器感染症においてこれまで一度も検出されておらず、さらにLGGは、成人における呼吸器感染症において効果を有することはこれまで一度も示されていなかった。
【0011】
本発明は、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705単独またはラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGおよびラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705からなるプロバイオティクスを含む組成物に関する。
【0012】
またさらに本発明は、薬剤としての使用のためのラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705単独またはラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGおよびラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705からなるプロバイオティクスを含む組成物に関する。
【0013】
またさらに本発明は、対象における呼吸器感染症の治療および/または予防のための組成物の製造のための、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705単独での使用またはラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGと併用しての使用に関する。
【0014】
さらに本発明は、対象において呼吸器感染症を引き起こすウイルスに対する抵抗力を増大させるための組成物の製造のための、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705単独での使用またはラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGと併用しての使用に関する。
【0015】
また本発明は、成人対象における呼吸器感染症の治療および/または予防のための組成物の製造のための、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGの使用を記載する。
【0016】
本発明はまた、成人対象において呼吸器感染症を引き起こすウイルスに対する抵抗力を増大させるための組成物の製造のための、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGの使用を記載する。
【0017】
本発明は、対象においてインフルエンザウイルスの複製を減少させ、遅延させ、または阻害するための組成物の製造のための、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)の使用に関する。
【0018】
本発明は、呼吸器感染症に感染する、または、感染している対象において、抗ウイルス性サイトカインを増加させるための組成物の製造のための、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)の使用に関する。
【0019】
さらに本発明は、対象における呼吸器感染症の治療および/または予防のための、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705単独またはラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGとの組合せに関する。
【0020】
本発明は、対象において呼吸器感染症を引き起こすウイルスに対する抵抗力を増大させるための、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705単独またはラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGとの組合せに関する。
【0021】
また本発明は、成人対象における呼吸器感染症の治療および/または予防のための、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGを記載する。
【0022】
本発明はまた、成人対象において呼吸器感染症を引き起こすウイルスに対する抵抗力を増大させるための、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGを記載する。
【0023】
本発明は、対象においてインフルエンザウイルスの複製を減少させ、遅延させ、または阻害するための、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)に関する。
【0024】
本発明は、呼吸器感染症に感染する、または、感染している対象において、抗ウイルス性サイトカインを増加させるための、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)に関する。
【0025】
また本発明は、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705単独またはラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGとの組合せを含む組成物の対象への投与を含む、対象において呼吸器感染症を治療または予防する方法に関する。
【0026】
本発明はまた、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGを含む組成物の対象への投与を含む、成人対象において呼吸器感染症を治療または予防する方法を記載する。
【0027】
さらに本発明は、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705単独またはラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGとの組合せを含む組成物の対象への投与を含む、対象において呼吸器感染症を引き起こすウイルスに対する抵抗力を増大させる方法に関する。
【0028】
さらに本発明は、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)を含む組成物の対象への投与を含む、対象においてインフルエンザウイルスの複製を減少させ、遅延させ、または阻害する方法に関する。
【0029】
さらに本発明は、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)を含む組成物の対象への投与を含む、呼吸器感染症に感染する、または、感染している対象において、抗ウイルス性サイトカインを増加させる方法に関する。
【0030】
本発明は、食品、飼料、または医薬品工業におけるさらなる発展のための手段を提供する。またさらに、本発明によって、より効果的で特異的な治療が、呼吸器感染症を患っている患者、例えば異なる年齢層に利用できるようになる。
【0031】
LGG、LC705、またはそれらの組合せは、そのままで、または例えば医薬品または食品などの別の製品の一部として使用できる。本発明のLGG、LC705または組合せは、抗ウイルスタンパク質(例えば、IP−10およびIFN−α(図1)、Mx1、Mx2およびRIG−I(図2))の発現を増加すること、および、例えばウイルス構成タンパク質の減少によって確かめられる(例えばNPおよびM1(図5))インフルエンザウイルスの増殖を阻止することにより、ヒトにおいて有利な抗ウイルス効果を有する。
【0032】
健康、特に呼吸器感染症に対する明確に実証された効果を有し、そのままで、または例えば医薬品または食品もしくは飼料製品のような別の製品の一部として容易に使用できるような形状で生産された新製品を消費者に提供することが、継続的かつ明白に必要である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、LC705がヒト単球から得られたマクロファージにおける抗ウイルス性IFN−α産生を誘導することを示す。LGGまたはLC705でのマクロファージの6時間刺激および24時間刺激が図において示される。LGGまたはLC705は抗ウイルス性IP−10産生を誘導するが、LC705はLGGより多くIP−10産生を誘導する。
【0034】
【図2】図2は、LGGまたはLC705がMx1、Mx2およびRIG−I産生を活性化することを示す。しかしながらLC705はLGGより多くIFN−α調節型抗ウイルス性タンパク質(Mx1、Mx2、RIG−I)産生を活性化する。
【0035】
【図3】図3は、LGG、LC705およびそれらの組合せがIL−1β産生を増加すること(図3A)、LC705がIFN−αを増加すること(図3B)、LC705、およびLGGおよびLC705の組合せがTNF−αを増加すること(図3C)を示す。さらに、図3は、LC705および、LGGおよびLC705の組合せが、インフルエンザAウイルス(infl A)感染の間、LGGより多く抗ウイルス性炎症活性(IL−1βおよびTNF−α(図3Aおよび図3C))を増加することを示す。LC705、およびLGGおよびLC705の組合せは、インフルエンザAウイルス感染の間、LGGより多くIFN−α産生を増加する(図3B)。
【0036】
【図4】図4は、LGG、LC705およびそれらの組合せがインフルエンザAウイルスのmRNA合成を減少させる、すなわち、ウイルスの複製を減少もしくは減速させることを示す。図4Aは、LC705またはLGGおよびLC705の組合せが、ウイルス感染の間、NP mRNAの産生を減少もしくは減速させることを示す。図4Bは、LGG、LC705またはそれらの組合せが、ウイルス感染の間、M1 mRNAの産生を減少もしくは減速させることを示す。図4Cは、LGG、LC705またはそれらの組合せが、ウイルス感染の間、NS1 mRNAの産生を減少もしくは減速させることを示す。
【0037】
【図5】図5は、LGGまたはLC705がインフルエンザAウイルスの構造タンパク質(NP、M1)の産生を減少させることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
発明の詳細な説明
プロバイオティクスは食品工業および飼料工業において長い間利用されているが、未だに、広範囲の症状または病気における、かつ、特定の標的グループに対する、プロバイオティクスの効果を決定する必要がある。本発明はLGGおよびLC705が呼吸器感染症におけるプロバイオティクス効果を有するという知見に属する。またLC705およびLGGは、抗ウイルス性サイトカインの産生を増大し、かつウイルスの増幅を阻止し、それゆえ呼吸器感染症のリスクを減少するための最適な組合せとして機能する。
【0039】
プロバイオティクス菌
プロバイオティクスは生きた微生物であり、好ましくはヒトあるいは動物へ適当量を投与した際に宿主のウェルビーイング(well−being)を促進する非病原性の微生物である(Fuller R 1989、J Appl Microbiol 66、365−378)。プロバイオティクスは、十分な量を食品または栄養補助食品として消費された場合、宿主へ有益な健康上の利点をもたらす。
【0040】
ヒトまたは動物におけるプロバイオティクスの栄養機能表示は多くの病気の見込まれる予防および治療を含む。プロバイオティクスの健康促進効果は、例えば腸内細菌叢の平衡化および維持、免疫システムの刺激、および抗発癌活性を含む。
【0041】
最もよく実証されたプロバイオティクスは、ラクトバチルス・ラムノサス(L. rhamnosus) GG、ラクトバチルス・ジョンソニー(L. Johnsonii) LA1、ラクトバチルス・カゼイ シロタ(L.casei Shirota)およびビフィドバクテリウム・ラクティス(Bifidobacterium lactis) Bb12を含む。加えて、ラクトバチルス・ラムノサス(L. rhamnosus) LC705などの多数の他のプロバイオティクスが文献に記載されている。
【0042】
ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GG(LGG、登録商標LGG)株は、もとは米国からの非病原性グラム陽性分離株である(US4839281 A)。LGG株は人糞から単離され、pH3においてよく増殖し、低いpH値でも、また高胆汁酸量でも生存する。この株は、粘膜および上皮細胞の両方へ優れた接着性を示し、かつ消化管でコロニーを形成する。グルコースからの乳酸の収量は良好である:MRSブロスで生育させた時、この株は1.5−2%の乳酸を産生する。この株はラクトースを発酵せず、それゆえラクトースから乳酸は産生しない。この株は以下の炭水化物:D−アラビノース、リボース、ガラクトース、D−グルコース、D−フルクトース、D−マンノース、ラムノース、ズルシトール、イノシトール、マンニトール、ソルビトール、N−アセチルグルコサミン、アミグダリン、アルブチン、エスクリン、サリシン、セロビオース、マルトース、サッカロース、トレハロース、メレジトース、ゲンチオビオース、D−タガトース、L−フコースおよびグルコン酸塩、を発酵する。この株は15−45℃で良好に生育し、最適温度は30−37℃である。LGGは寄託機関American Type Culture Collectionに寄託番号ATCC 53103で寄託されている。
【0043】
ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705(LC705)株もまた、もとはフィンランドからではあるが、非病原性グラム陽性分離株である。LC705はフィンランド特許92498、Valio Oyにおいてより詳細に記載されている。LC705はグラム陽性の鎖状の短桿菌であり;ホモ発酵性であり;弱いタンパク質分解性であり;15−45℃でよく成長し;アルギニンからアンモニアを産生せず;カタラーゼ陰性であり;MRSブロス(LAB M)中で生育する時この株はL(+)立体配置の光学活性を有する1.6%の乳酸を産生し;この株はクエン酸塩を分解して(0.169%)ジアセチルおよびアセトインを産生し;この株は少なくとも下記の炭水化物(糖類、糖、糖アルコール):リボース、ガラクトース、D−グルコース、D−フルクトース、D−マンノース、L−ソルボース、ラムノース、マンニトール、ソルビトール、メチル−D−グルコシド、N−アセチルグルコサミン、アミグダリン、アルブチン、エスクリン、サリシン、セロビオース、マルトース、ラクトース、スクロース、トレハロース、メレジトース、ゲンチオビオース、D−ツラノースおよびD−タガトースを発酵する。LC705は粘膜細胞に弱く接着するが、上皮細胞には中程度に接着する。株の生存性は低pH値および高胆汁酸量で良好である。株は5%の塩分濃度で良好に、塩分濃度10%でかなり良好に生存する。LC705は、Deutsche Sammulung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSM)に寄託番号DSM7061で寄託されている。
【0044】
本発明の1つの実施形態において、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)はLGGである。本発明の別の実施形態において、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)はLC705である。本発明の具体的な実施形態において、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)はLGGおよびLC705である。
【0045】
組成物
本発明の組成物はLGGおよびLC705プロバイオティクスを含む。プロバイオティクスLGGおよびLC705のみが組成物中に含まれる。本発明の組成物は、食品、動物飼料、栄養製品、栄養補助食品、食品原料、健康食品、医薬品および化粧品からなる群から選択することができるが、これらに限定されるものではない。組成物はまた、例えば毎日の食事もしくは薬剤の都合のよい部分(convenient part)もしくは栄養補助食品として適用できる。本発明の1つの好ましい実施形態において、組成物は医薬品、食品または飼料製品である。本発明の別の実施形態において、組成物は機能性食品、すなわち、何らかの健康促進特性および/または疾患の予防もしくは治療特性を有する食品である。好ましくは、本発明の食品は、乳製品、ベーカリー製品、チョコレートおよび菓子類、砂糖およびガム菓子類、シリアル製品、スナック菓子、ベリーまたは果物ベースの製品、および飲み物/飲料からなる群から選択される。乳製品は、乳、酸乳(sour milk)、ヨーグルトおよびチーズやスプレッドなどの他の発酵乳製品、粉乳、子供用食品、離乳食、幼児用食品、特殊調製粉乳(infant formula)、ジュースおよびスープを含むが、これらに限定されるものではない。
【0046】
本発明の組成物は医薬組成物であってもよく、タブレット(tablet)、錠剤(pill)、丸薬(pellet)、カプセル、溶液、乳剤または懸濁剤の形態などの、例えば、固体、半固体、または液体において使用され得る。好ましくは、組成物は経口投与または腸内、吸入もしくは静脈内適用のためのものである。またさらに、対象が呼吸器感染症に感染する前もしくは後に対象へ投与することができる。
【0047】
プロバイオティクスに加えて、組成物は医薬上または栄養学的に許容され得る、かつ/または技術的に必要とされる担体(例えば、水、グルコースまたはラクトース)、アジュバント、賦形剤、補助賦形剤、防腐剤、安定化剤、増粘剤もしくは着色剤、着香料、結合剤、充填剤、滑沢剤、懸濁化剤、甘味料、香味剤、ゲル化剤、酸化防止剤、保存料、緩衝剤、pH調整剤、湿潤剤、スターター、または類似の組成物において通常見られる成分を含むことができる。プロバイオティクスではない任意の作用剤も、例えば上述の群から選択することができる。組成物の作用剤、例えば原料または成分は、市販で入手されるか、または技術分野において知られた従来技術のいずれかによって調製される。
【0048】
本発明の具体的な実施形態において、組成物はLGGおよびLC705からなる作用剤および任意にあらゆる非プロバイオティクス性の作用剤を含む。「非プロバイオティクス性の作用剤」とはプロバイオティクスではないあらゆる作用剤を指す。
【0049】
本発明の組成物は所望の効果を生じるための十分な量においてLGGおよび/またはLC705を含む。本発明の好ましい実施形態において、LGGおよびLC705の割合(細菌数)は同等すなわち1:1である。本発明の別の好ましい実施形態において、LGGのLC705に対する割合(細菌数)は2:1、3:1、4:1、5:1、6:1、7:1、8:1、9:1または10:1である。本発明のさらに別の好ましい実施形態において、LC705のLGGに対する割合(細菌数)は2:1、3:1、4:1、5:1、6:1、7:1、8:1、9:1または10:1である。
【0050】
ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)のプロバイオティクスに加えて、呼吸器感染症の予防および/または治療のために、呼吸器感染症を引き起こすウイルスに対する抵抗力を増大させるために、インフルエンザウイルスの複製を減少させ、遅延させ、または阻害するために、または、抗ウイルス性サイトカインを増加させるために使用される組成物は、他のプロバイオティクスまたは類似の組成物において通常見られる任意の他の作用剤を含んでもよい。
【0051】
組成物は技術分野において既知の任意の従来法によって製造され得る。LGGおよび/またはLC705は、例えば、調製と結合して、またはその後、最終生産物の最終加工の間のいずれか一方で、任意の製品に添加または任意の作用剤と混合され得る。
【0052】
呼吸器感染症および治療
呼吸器感染症は上気道および下気道の両方の感染を含む。上気道感染症は、肺胞を除く鼻から下部呼吸樹への呼吸器粘膜の炎症を含む。それゆえ上気道は、鼻腔(鼻端、洞(sinuses))、咽頭および喉頭を含む。上気道感染症は、一般的な風邪、副鼻腔炎、耳感染症、中耳炎、乳様突起炎、咽頭炎、扁桃炎、喉頭蓋炎、気管炎、喉頭炎および気管支炎からなる群から選択されるが、これらに限定されるものではない。上気道感染症の症状は、鼻閉、咳、鼻炎、鼻詰まり、鼻感冒、咽頭炎、発熱、顔面圧迫感、頭痛、食欲不振および/またはくしゃみを含む。
【0053】
下気道感染症は、気管、原始気管支および肺を含む。下気道に影響を及ぼす感染症は、肺炎、胸膜炎、気管支炎、細気管支炎および肺気腫からなる群から選択することができるが、これらに限定されるものではなく、症状は、例えば息切れ、衰弱、高熱、咳嗽および/または倦怠感を含む。
【0054】
多数の細菌種が上気道にコロニーを形成し、一方、下気道には通常、微生物はほとんどないに等しい。上気道感染症または下気道感染症は病原体への暴露および数時間から数日に及ぶ潜伏期間(例えば1−7日間)の後に起こり、かつ、例えば3日間から10日間あるいはさらに長く(数週間)続く。症状の性質および持続期間は、病原体、病原体の量と同様に対象の年齢および免疫学的状態に依存する。
【0055】
急性感染症に加え、病原体は慢性感染症もまた引き起こす可能性がある。慢性感染症は通常急性感染症から発展し、数日間から一生涯続く。
【0056】
ここで使用される「感染症」とは、細胞あるいは組織における病原性微生物の侵入および増殖を指し、すなわち「感染症」は感染された状態に起因する状態もさす。感染症は様々な細胞機構または毒性機構を通して、傷害および疾患の進行を引き起こす可能性がある。しかしながら、全ての感染症が臨床的疾患を導くものではない;症候性疾患は感染者の75%において発症することが知られる(Gwaltney JMおよびHayden FG、1992、N Engl J Med 326、644−5)。
【0057】
呼吸器感染症を引き起こす病原体は細菌またはウイルスである可能性がある。場合によっては、感染症はそれら両方の結果である。呼吸器感染症、すなわち上気道および/または下気道感染症を引き起こす細菌またはウイルスは、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)、カタラリス菌(Moraxella catarrhalis)、化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)、肺炎クラミジア(Chlamydiae pneumoniae)、一般的な風邪(インフルエンザ)ウイルス、ライノウイルス(rhinovirus)、アデノウイルス(adenovirus)、パラインフルエンザウイルス(parainfluenza virus)、呼吸器合胞体ウイルス(respiratory syncytial virus)、エンテロウイルス(enterovirus)、コロナウイルス(coronavirus)およびエプスタイン・バール・ウイルス(Epstein−Barr virus)からなる群から選択することができる。また、気道に影響を及ぼす任意の他の細菌あるいはウイルスも上述の群へ含まれ得る。本発明の組成物で予防または治療することができる呼吸器感染症を引き起こすウイルスは、一般的な風邪(インフルエンザ)ウイルス、ライノウイルス(rhinovirus)、アデノウイルス(adenovirus)、パラインフルエンザウイルス(parainfluenza virus)、呼吸器合胞体ウイルス(respiratory syncytial virus)、エンテロウイルス(enterovirus)、コロナウイルス(coronavirus)およびエプスタイン・バール・ウイルス(Epstein−Barr virus)からなる群から選択することができるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
本発明の1つの実施形態において、呼吸器感染症はインフルエンザウイルス感染症である。本発明の好ましい実施形態において、インフルエンザウイルスはインフルエンザウイルスAおよびインフルエンザウイルスBからなる群から選択される。インフルエンザウイルスAおよびインフルエンザウイルスBは一本鎖RNAウイルス類およびオルソミクソウイルス科に属する。インフルエンザウイルスAは鳥類を宿主とし、バードフル(bird flu)あるいはエイビアンフル(avian flu)としても知られる「鳥インフルエンザ」を引き起こす。ウイルスの全ての既知のサブタイプは鳥類において固有の病気である。しかしながら、インフルエンザウイルスAは哺乳動物にも感染することができ、少なくとも、H1N1、H2N2、H3N2およびH5N1と名付けられたサブタイプはヒトにおいても検出されている。インフルエンザウイルスBはヒトおよびあざらし類に感染することだけ知られており、かつ、インフルエンザウイルスAとは対照的に、インフルエンザウイルスBはインフルエンザの大流行を引き起こさない。
【0059】
ウイルス粒子はそれ自身によっては生育および増幅せず、それらはまた、タンパク質合成およびエネルギー生産のための遺伝的情報が欠如している。そのためウイルスは宿主細胞に依存する。様々な呼吸器系ウイルスの発症機序はウイルス間で異なる。病原性事象の理解は主にライノウイルス感染症に由来する。ライノウイルスは主に、小さいエアロゾル粒子によって、かつ、感染性分泌物での直接的または間接的な接触を通して伝染される。感染の初期において、ライノウイルスは主に鼻咽頭に位置するICAM−1(intercellular adhesion receptor molecule 1)受容体に結合することにより宿主へと侵入する。細胞内への侵入および複製の後、ウイルスは咽頭へ向かって鼻腔内に広がる。複製は、炎症性メディエーターを介して血管拡張、増大した血管透過性および細胞浸潤を引き起こす、宿主における炎症および免疫応答を惹起する。上昇した炎症誘発性のサイトカインの濃度は、ウイルスを根絶または中和するために必要な炎症性反応のカスケードをもたらす(van Kempen M.ら 1999、Rhinology 37、97−103)。
【0060】
インフルエンザウイルスは、主要なウイルス表面糖タンパク質の一つであるヘマグルチニン(HA)により細胞表面上の受容体に結合することによって、宿主上皮細胞に感染する。宿主気道はインフルエンザウイルスのための感染部位だけでなく、ウイルス感染に対する防御部位でもある。インフルエンザウイルス感染に対する防御機構はいくつかのエフェクター細胞およびエフェクター分子を含む。ウイルスは最初、抗原特異的ではなく長時間の誘導を要しない自然免疫システムによって非特異的に検出され、破壊される。粘膜、マクロファージ、樹状細胞(DCs)、ナチュラルキラー(NK)細胞、インターフェロン(IFN)α、βおよび他のサイトカインおよび補体成分などのいくつかの構成要素が自然免疫系に含まれる。上皮細胞におけるウイルスの存在は、IFN−αおよびIFN−βの産生を誘導する。さらに、IL−1、IL−6、TNF−αおよびIL−12などのサイトカインがマクロファージ活性化NK細胞によって分泌される。NK細胞は感染した細胞の溶解に特に影響を与えるIFN−γを放出する。細胞表面受容体へのインターフェロンの結合は、例えば、サイトカインの産生をさらに加速させる多くの遺伝子の転写を増加する。インターフェロンはまたウイルスRNAを分解するリボヌクレアーゼ酵素を活性化し得、またさらにインターフェロンはウイルス複製を阻止するために間接的にタンパク質合成を妨げ得る(Tamura S.およびKurata T.、2004、Jpn J Infect Dis 57:236−247;Tamura S.ら、2005、Jpn J Infect Dis、58:195−207)。
【0061】
しかしながら、ウイルスが早期生体防御機構を回避する場合には、それらは気道におけるマクロファージおよびDCs上のトール様受容体(Toll−like receptor)(TLRs)を通って、インフルエンザウイルス成分によって増大され得る適応免疫機構によって検出され、特異的に除去される。ウイルスを認識したマクロファージおよびDCsは、MHC−1(ヒトにおいてはHLA−IおよびHLA−II)およびMHC−2タンパク質を用いてウイルス性抗原をT−リンパ球およびB−リンパ球へ提示する。この一連の事象は適応免疫応答を開始する。抗体産生はウイルスを中和するために活性化される(Tamura S.およびKurata T.、2004、Jpn J Infect Dis 57:236−247;Tamura S.ら、2005、Jpn J Infect Dis、58:195−207)。
【0062】
免疫応答の変化は、生体サンプルまたは対象から、任意の適した医学的、生理学的または生物学的試験、例えばインビトロ、エクスビボまたはインビボ試験によって観察できる。プロバイオティクス株の性質は、例えば末梢血単核球(PBMC)、ヒト単球、マクロファージおよび樹状細胞を利用して、例えば細胞培養(インビトロ)において調査することができる。エクスビボ実験の例は、好中球および単球の貪食、酸化バーストすなわち好中球および単球の過酸化水素発生、ナチュラルキラー(NK)細胞活性、リンパ球増殖、ならびにPBMC、組織マクロファージ、単球もしくはリンパ球によるサイトカインの産生、の定量を含む。インビボ実験は、ワクチン(例えばワクチン特異的抗体またはワクチン特異的抗体産生細胞)への応答、遅延型過敏症および弱毒化病原体への応答の定量を含むが、これらに限定されるものではない。
【0063】
病原体の侵入に対して宿主を保護する主要な細胞は、病原体を食べる、すなわち貪食する、またはサイトカインを産生するマクロファージである。サイトカインは他の免疫細胞を動員(recruit)し、炎症を仲介(mediate)する。マクロファージは組織内の白血球であり、単球の分化によってインビトロで培養できる。本発明において、健常成人由来のマクロファージが、ヒト対象におけるプロバイオティクスの効果を調査するためにインビトロモデルにおいて使用された。マクロファージはLGGおよび/またはLC705で刺激され、インフルエンザウイルスに感染した。
【0064】
免疫応答を活性化するために、マクロファージはサイトカイン、ケモカインおよび抗菌性物質を産生する。サイトカインは細胞間情報伝達において使用されるシグナル分子(すなわち、タンパク質、ペプチドまたは糖タンパク質)である。これらはしばしば、病原体に遭遇し、それによって病原体への全身応答(system’s response)を増加するためにさらなる免疫細胞を活性化して動員する免疫細胞によって分泌される。
【0065】
各サイトカインは適合する細胞表面受容体を有しており、それゆえ、続いて起こる細胞内シグナル伝達のカスケードが細胞機能を変化させる。細胞内シグナル伝達は、他のサイトカインの産生、他の分子に対する表面受容体の数の増加またはフィードバック阻害によるそれ自身の効果の抑制をもたらす、例えばいくつかの遺伝子およびそれらの転写因子の発現上昇および/または発現低下を招き得る。
【0066】
サイトカインは2つの群に分類することができる:1型、サイトカイン応答を増強するもの(例えば、IFN−γ、TGF−β)および2型、抗体応答を助けるもの(例えば、IL−4、IL−10、IL−13)。炎症誘発性のサイトカインである腫瘍壊死因子α(TNF−α)、インターロイキン−1β(IL−1β)およびインターロイキン−6(IL−6)もインターフェロン(IFNs)と同様に、細菌性感染への応答において、最初のサイトカインの中で特に産生される。後に産生されるサイトカインは、細菌感染の間、応答を細胞性Tヘルパータイプ1(Th1)または液性Th2タイプ免疫のいずれかに向ける。
【0067】
ケモカインは、近隣の応答細胞の有向走化性(directed chemotaxis)を誘導する、小サイトカイン(約8−10キロダルトンの大きさで、保存領域に4つのシステイン残基がある)のファミリーである。IP−10などのいくつかのケモカインは炎症性であると考えられている。これらのタンパク質はGタンパク質結合型膜貫通受容体との相互作用によって生物学的効果を発揮する。
【0068】
免疫応答の変化を検出するための試験は、シグナル経路の活性化を検出すること、およびマーカー遺伝子の転写レベルもしくは翻訳レベルまたはタンパク質(例えば抗体または受容体)の量を検出することに基づく試験を含むが、これらに限定されるものではない。細胞または生命体における免疫応答を検出するための単一のマーカーは現在入手不可能である。しかしながら、好ましいマーカーは、TNF−α、IL−12、IL−10、IL−1β、IFN−α、IL−1α、IL−6、IL−18、IFN−γ、IL−4、TGF−βおよびIP−10からなる群から選択することができるが、これらに限定されるものではない。
【0069】
プロバイオティクス刺激は、マクロファージにおけるIL−1β、IL−6およびTNF−αの産生を誘導することが知られている(Miettinen M.ら、2008、J Leukoc Biol. 84:1092−1100)が、LGGまたはLC705に誘導されるインフルエンザウイルスへの効果は、マクロファージにおいてこれまで示されたことはない。
【0070】
本発明において、LGGおよび/またはLC705は、抗ウイルス性タンパク質(IP−10、TNF−α、IL−1β、IFN−αおよびIFN−β(図1および3))およびIFN−α誘導性サイトカインもしくはタンパク質(Mx1、Mx2およびRIG−I(図2))を増加し、それゆえウイルスの機能を鈍化させた。ウイルスの鈍化した機能もまた、減少したウイルス構造タンパク質の量によって検出された(図4および5)。
【0071】
本発明において、LGGおよび/またはLC705は、抗ウイルス性サイトカイン産生を増加し、それゆえウイルスの不活化に関与する。この現象は「ウイルスに対する抵抗力の増大」ともいう。「抗ウイルス性サイトカイン」とは、ウイルスの破壊または中和を助けるサイトカインをいう。本発明の好ましい実施形態において、抗ウイルス性サイトカインは、IFN−α、IFN−β、IL−1β、TNF−αおよびIP−10からなる群から選択される。1型インターフェロン(IFN−α/β)は、例えばインフルエンザウイルス感染に対する議論(debating)において必要不可欠なものである。IFN−α誘導性サイトカインもしくはタンパク質はMx1、Mx2、RIG−1およびIP−10を含むが、これらに限定されるものではない。
【0072】
Mx1タンパク質は、ヒトにおいてMxAとして知られる、ミクソウイルス(インフルエンザウイルス)抵抗性1タンパク質(インターフェロン誘導性タンパク質p78(マウス))である。細胞質タンパク質Mx1は、ダイナミンファミリーおよびラージGTPアーゼ(large GTPase)ファミリーの両方のメンバーである。インターフェロン誘導性Mx1タンパク質はウイルス複製におけるヌクレオカプシド(NP)の役割を妨げることにより、インフルエンザウイルスに対する活性を示す。
【0073】
Mx遺伝子の発現は、主にI型IFNsによって調節される。IFNsからのシグナル経路は、Mx遺伝子の上流でインターフェロン刺激応答配列(ISRE)の活性化を誘導する(Hug H.ら、1988、Mol Cell Biol 8、3065−3079)。また、ウイルス感染または二重らせんRNA(dsRNA)自体の投与は、迅速で効率的なMx遺伝子の活性化を生じることができる(Hug H.ら、1988、Mol Cell Biol 8、3065−3079;Ronni T.ら、1995、J Immunol 154、2764−2774)。全ての場合において、Mx誘導はウイルス誘導性IFNへの二次応答よりも、ウイルスに対する真の一時応答である。細胞は、細胞内に残る予定のMxタンパク質と細胞環境中へ放出される予定のIFNsを同時に合成することにより、感染に迅速に応答する能力を有する。このインターフェロンは、最初に感染した細胞がウイルス保護された細胞のバリアによってすぐに区別されるように、近隣の非感染細胞におけるMxタンパク質の発現を誘導する。結果として、ウイルスは効率的に広がることができず、自身の防衛線を開始してウイルスを除去するために十分な時間を免疫システムに与える。
【0074】
ヒトにおいてMxBとして知られる細胞質タンパク質Mx2(ミクソウイルス(インフルエンザウイルス)抵抗性2)はダイナミンファミリーおよびラージGTPアーゼ(large GTPase)ファミリーの両方のメンバーである。タンパク質はまた核膜の直下にあるヘテロクロマチン領域の顆粒状部に局在する核型(nuclear form)を有する。局在化シグナル(NLS)は核型のアミノ末端に存在する。このタンパク質はIFN−αによって発現上昇される。
【0075】
RIG−1(DDX58、レチノイン酸誘導性遺伝子1タンパク質、DEAD−ボックスタンパク質58)はIFN−α誘導性RNAヘリカーゼである。RIG−1は2つのCARDドメイン、ヘリカーゼATP結合ドメインおよびヘリカーゼC末端ドメインを含む。RIG−1はウイルス複製の阻止における、二重らせんRNA誘導性の先天性の抗ウイルス応答において必要不可欠な機能を有する。RIG−1はまた、インフルエンザAウイルス感染の場合において一本鎖RNAによって活性化されることが知られている。インフルエンザAウイルスNS1タンパク質は、RIG−Iに結合し、RIG−Iの抗ウイルス作用を阻害する(Pichlmair A.ら、2006、Science、314 (5801):997−1001)。
【0076】
インターフェロン(IFN)−誘導性タンパク質10(IP−10)はサイトカインのケモカインファミリーのメンバーであり、IFN−γ、IFN−αおよびリポ多糖類への応答における様々な細胞において誘導される。IP−10結合部位は、内皮細胞、上皮細胞および造血細胞を含む様々な細胞上で検出されている。IP−10遺伝子発現はインフルエンザAウイルスによって上昇することが示されている。
【0077】
本発明の方法もしくは使用において、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)は、インフルエンザウイルスの複製を減少させ、遅延させ、または阻害するために対象に投与される。ウイルスの複製効率は、ウイルスのmRNAまたは構造タンパク質の量を決定することによって調査され得る。LGGおよび/またはLC705は、インフルエンザウイルスの複製を減少させ、遅延させ、または阻害し、またそれゆえ感染によって一般的に引き起こされる症状を軽減または予防する。ウイルスの複製効率を決定するための適したインフルエンザウイルスタンパク質は、例えば、NP(核タンパク質)、NS1(非構造性タンパク質1)、ポリメラーゼタンパク質PB1、PB2もしくはPA、外部糖タンパク質HA(ヘマグルチニン)もしくはNA(ノイラミニダーゼ)、M1(膜タンパク質)、M2もしくはNS2を含み得るが、これらに限定されるものではない。本発明において、NP、NS1およびM1のmRNAもしくはタンパク質におけるLGGおよび/またはLC705の効果は調査され、LGGおよび/またはLC705はそれらの全ての産生を減少し減速させた。
【0078】
NS1は、核からの宿主mRNAの輸送を妨げ、RIG−Iを介するIFN−応答を妨げ、かつ抗ウイルス状態を阻害する非構造性タンパク質1である。NPは、一つには、あらゆる遺伝子フラグメントに結合し、核への輸送を調節する核タンパク質である。M1は、ウイルス性脂質エンベロープの内側基質(inner matrix)に位置する基質(matrix)タンパク質である。M1の蓄積はウイルス出芽に必要である。
【化1】
【0079】
本発明において、治療または予防のための対象は任意の真核生物であり、好ましくはヒトである。本発明の好ましい実施形態においては、対象は幼児、子供または成人である。「幼児」は0ヶ月から5ヶ月までの年齢である人間をいい、「子供」は6ヶ月から17歳までの年齢である人間をいい、「成人」は18歳以上の年齢である人間をいう。対象は、動物であってもよく、特にペットまたは生産動物である。動物は、ウシ、ウマ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、家禽、イヌ、ネコ、ウサギ、爬虫類およびヘビなどの、生産動物およびペットからなる群から選択することができる。
【0080】
本発明において、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)またはラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)(例えば、LGGおよび/またはLC705)を含む組成物は、対象が呼吸器感染症に感染する前もしくは後のいずれか一方で、対象に投与することができる。
【0081】
本発明の具体的な実施形態において、LGGおよびLC705は、対象において呼吸器感染症を引き起こすウイルスに対する抵抗力を増大させるために、対象においてインフルエンザウイルスの複製を減少させ、遅延させ、または阻害するために、および、呼吸器感染症に感染する、または、感染している対象において、抗ウイルス性サイトカインを増加させるために、対象における呼吸器感染症の治療および予防のため使用される。
【0082】
本発明は、以下の実施例によって説明されるが、何らかの方法で制限することを意図するものではない。
【実施例】
【0083】
実施例1:マクロファージおよびプロバイオティクス菌
マクロファージ
健康な献血者から新鮮に回収された白血球豊富な軟膜は、フィンランド赤十字輸血サービス(Finnish Red Cross Blood Transfusion Service)によって供給された。PBMCは密度勾配遠心分離によって単離された。前述の通り、単球は6穴プラスチックプレート(Falcon)への接着によってPBMCから精製され、組換えヒト(rh)GM−CSF(Leucomax、Schering−Plough)の存在下、マクロファージ無血清培地(Gibco Invitrogen)において7日間培養され、マクロファージを獲得した(Miettinen M.ら 2000、J Immunol 164、3733−3740)。
【0084】
菌
ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGおよびラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705は、刺激実験におけるそれらの使用の前に、−70℃でスキムミルク中に保存され、前述の通り3回継代された(Miettinen M.ら 1996、Infect Immun 64:5403)。ラクトバチルス(Lactobacillus)はMRS培地(Difco)中で生育させた。刺激実験のために、菌は対数増殖期まで生育させられ、菌細胞の数はペトロフハウザー血球計算盤における計数によって決定された。
【0085】
実施例2:マクロファージ刺激実験
刺激実験はRPMI1640培地(シグマ)において行われた。実施例1のマクロファージは、実施例1の生菌を用いて、すなわち1:1の割合(細胞数による)でのLGGまたはLC705単独で、または、マクロファージ細胞に対する菌の割合は1:1のままで、同数の菌細胞数でのLGGおよびLC705を共に用いて、24時間刺激された。マクロファージはそれから、100%の感染をもたらす感染の多重度(MOI)5のインフルエンザウイルスA/北京/353/89ウイルス(0.128 HAU/ml)(健康福祉研究所(THL))を用いて1時間感染させられ、その後、感染細胞はPBSで洗浄され、細胞培養培地は交換され、感染は前述のように総合して9時間または24時間の間続いた(Pirhonen J.ら、1999、J Immunol 162、7322−7329)。細胞および細胞培養上清は刺激の後に回収された。回収サンプルから総RNAまたはタンパク質が単離された。ウイルス性mRNAの量は定量的リアルタイムPCR(qRT−PCR)によって決定され、かつウイルスまたは宿主タンパク質はウェスタンブロットによって検出された。分泌されたサイトカインはELISA法によって測定された。
【0086】
MxA、MxB、RIG−I、NPおよびM1タンパク質発現は、以下の抗体:抗MxA抗体(Ronni T.ら、1993、J immunol 150、1715−1726;抗MxB抗体(Melen K.ら、1996、J Biol Chem 271、23478−23486);抗RIG−I抗体(Matikainen S.ら、2006、J Virol 80、3515−3522);インフルエンザA特異的抗NP抗体(Ronni T.ら、1995、J Immunol 154、2764−2774);および、抗NP抗体の獲得のためと同様にウサギを免疫することによって獲得されたインフルエンザA特異的抗M1抗体(Ronni T.ら、1995、J Immunol 154、2764−2774):を用いて、前述の通りウェスタンブロット法によって解析された(Miettinen M.ら、2008、J Leukoc Biol 84、1092−1100)(図2および5参照)。
【0087】
qRT−PCRによるウイルスmRNAの定量は、アプライドバイオシステムズの試薬および手順により、インフルエンザA M1のためのプライマー−プローブペア(primer−probe pair)を用いて、前述の通り実行された(Miettinen M.ら、2008、J Leukoc Biol 84:1092−1100)。NPプライマー−プローブ(primer−probe)は以下のとおり:フォワードプライマー5’−ccataaggaccaggagtgga−3’、リバースプライマー5’−ccctccgtatttccagtgaa−3’、プローブ5’−caggccaaatcagtgtgcaacctac−3’であり、NS1プライマー−プローブ(primer−probe)は:フォワードプライマー5’−tgaaagcgaatttcagtgtgat−3’、リバースプライマー5’−ctggaaaagaaggcaatggt−3’、プローブ5’−ctaagggctttcaccgaagaggg−3’であった。
【0088】
細胞培養上清中のサイトカイン(IL−1β、IFN−α、TNF−α)およびケモカインレベル(IP−10)は、前述の通りELISA法によって検出された(Miettinen M.ら、1998、Infect Immun 66、6058−6062;Veckman V.ら、2003、J Leukoc Biol 74、395−402)(図1および3−4参照)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象において抗ウイルス効果を有する組成物の調製のためのラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705の単独またはラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGとの併用での使用。
【請求項2】
組成物が医薬品、食品または飼料製品である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
組成物が医薬組成物である、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
組成物が、対象における呼吸器感染症の治療および/または予防のためにある、請求項1−3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
対象において抗ウイルス効果を有する組成物であるラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705を単独でまたはラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGとの併用で含む組成物の対象への投与を含む方法であって、対象における呼吸器感染症の治療および/または予防のための方法。
【請求項6】
組成物が、対象において呼吸器感染症を引き起こすウイルスに対する抵抗力を増大させるためにある、請求項1−5のいずれか1項に記載の使用または方法。
【請求項7】
組成物が、抗ウイルス性タンパク質の発現を増加する、請求項1−6のいずれか1項に記載の使用または方法。
【請求項8】
組成物が、呼吸器感染症に感染する、または、感染している対象において、抗ウイルス性サイトカインを増加させるためにある、請求項1−6のいずれか1項に記載の使用または方法。
【請求項9】
抗ウイルス性サイトカインが、IFN−α、IFN−β、IL−1β、TNF−α、およびIP−10からなる群から選択される、請求項8に記載の使用または方法。
【請求項10】
呼吸器感染症が一般的な風邪(インフルエンザ)ウイルス、ライノウイルス、アデノウイルス、パラインフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、エンテロウイルス、コロナウイルスおよびエプスタイン・バール・ウイルスからなる群から選択されるウイルスによって引き起こされる、請求項4−9のいずれか1項に記載の使用または方法。
【請求項11】
呼吸器感染症がインフルエンザウイルス感染症である、請求項10に記載の使用または方法。
【請求項12】
インフルエンザウイルスがインフルエンザウイルスAおよびインフルエンザウイルスBからなる群から選択される、請求項11に記載の使用または方法。
【請求項13】
組成物がインフルエンザウイルスの増殖を防ぐため、かつ/または、対象におけるインフルエンザウイルスの複製を減少させ、遅延させ、または阻害するためにある、請求項10−12のいずれか1つに記載の使用または方法。
【請求項14】
対象が幼児、子供または成人である、請求項1−13のいずれか1項に記載の使用または方法。
【請求項15】
プロバイオティクスとしてラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705を含む抗ウイルス性組成物。
【請求項16】
ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705およびラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGからなるプロバイオティクスを含む抗ウイルス性組成物。
【請求項17】
対象における呼吸器感染症の治療および/または予防のためのラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705単独またはラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGとの組合せ。
【請求項18】
対象において呼吸器感染症を引き起こすウイルスに対する抵抗力を増大させるためのラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705単独またはラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGとの組合せ。
【請求項19】
抗ウイルス性タンパク質の発現を増加させるためのラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705単独またはラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGとの組合せ。
【請求項20】
呼吸器感染症に感染する、または、感染している対象において、抗ウイルス性サイトカインを増加させるためのラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705単独またはラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGとの組合せ。
【請求項21】
インフルエンザウイルスの増殖を防ぐため、かつ/または、対象におけるインフルエンザウイルスの複製を減少させ、遅延させ、または阻害するためのラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705単独またはラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGとの組合せ。
【請求項1】
対象において抗ウイルス効果を有する組成物の調製のためのラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705の単独またはラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGとの併用での使用。
【請求項2】
組成物が医薬品、食品または飼料製品である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
組成物が医薬組成物である、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
組成物が、対象における呼吸器感染症の治療および/または予防のためにある、請求項1−3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
対象において抗ウイルス効果を有する組成物であるラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705を単独でまたはラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGとの併用で含む組成物の対象への投与を含む方法であって、対象における呼吸器感染症の治療および/または予防のための方法。
【請求項6】
組成物が、対象において呼吸器感染症を引き起こすウイルスに対する抵抗力を増大させるためにある、請求項1−5のいずれか1項に記載の使用または方法。
【請求項7】
組成物が、抗ウイルス性タンパク質の発現を増加する、請求項1−6のいずれか1項に記載の使用または方法。
【請求項8】
組成物が、呼吸器感染症に感染する、または、感染している対象において、抗ウイルス性サイトカインを増加させるためにある、請求項1−6のいずれか1項に記載の使用または方法。
【請求項9】
抗ウイルス性サイトカインが、IFN−α、IFN−β、IL−1β、TNF−α、およびIP−10からなる群から選択される、請求項8に記載の使用または方法。
【請求項10】
呼吸器感染症が一般的な風邪(インフルエンザ)ウイルス、ライノウイルス、アデノウイルス、パラインフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、エンテロウイルス、コロナウイルスおよびエプスタイン・バール・ウイルスからなる群から選択されるウイルスによって引き起こされる、請求項4−9のいずれか1項に記載の使用または方法。
【請求項11】
呼吸器感染症がインフルエンザウイルス感染症である、請求項10に記載の使用または方法。
【請求項12】
インフルエンザウイルスがインフルエンザウイルスAおよびインフルエンザウイルスBからなる群から選択される、請求項11に記載の使用または方法。
【請求項13】
組成物がインフルエンザウイルスの増殖を防ぐため、かつ/または、対象におけるインフルエンザウイルスの複製を減少させ、遅延させ、または阻害するためにある、請求項10−12のいずれか1つに記載の使用または方法。
【請求項14】
対象が幼児、子供または成人である、請求項1−13のいずれか1項に記載の使用または方法。
【請求項15】
プロバイオティクスとしてラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705を含む抗ウイルス性組成物。
【請求項16】
ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705およびラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGからなるプロバイオティクスを含む抗ウイルス性組成物。
【請求項17】
対象における呼吸器感染症の治療および/または予防のためのラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705単独またはラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGとの組合せ。
【請求項18】
対象において呼吸器感染症を引き起こすウイルスに対する抵抗力を増大させるためのラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705単独またはラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGとの組合せ。
【請求項19】
抗ウイルス性タンパク質の発現を増加させるためのラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705単独またはラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGとの組合せ。
【請求項20】
呼吸器感染症に感染する、または、感染している対象において、抗ウイルス性サイトカインを増加させるためのラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705単独またはラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGとの組合せ。
【請求項21】
インフルエンザウイルスの増殖を防ぐため、かつ/または、対象におけるインフルエンザウイルスの複製を減少させ、遅延させ、または阻害するためのラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LC705単独またはラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) GGとの組合せ。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5】
【公表番号】特表2013−507431(P2013−507431A)
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−533663(P2012−533663)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【国際出願番号】PCT/FI2010/050792
【国際公開番号】WO2011/045471
【国際公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(500185416)ヴァリオ・リミテッド (12)
【氏名又は名称原語表記】Valio Ltd.
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【国際出願番号】PCT/FI2010/050792
【国際公開番号】WO2011/045471
【国際公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(500185416)ヴァリオ・リミテッド (12)
【氏名又は名称原語表記】Valio Ltd.
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]