説明

組換え方法による花粉アレルゲンPhlp4のDNA配列および製造

本発明は、主要な花粉アレルゲンPhl p 4の遺伝子配列を提供することに関する。本発明はまた、低アレルゲン性作用を有する断片、部分配列の新規な組み合わせおよび点突然変異体を包含する。組換えDNA分子および誘導されたポリペプチド、断片、部分配列の新規な組み合わせおよびバリアントを、花粉アレルギー疾患の療法のために用いることができる。組換え方法により製造されたタンパク質を、花粉アレルギーのインビトロおよびインビボ診断のために用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明の背景
本発明は、主要な花粉アレルゲンPhl p 4の遺伝子配列を提供することに関する。本発明はまた、低アレルゲン性(hypoallergenic)作用を有する断片、部分配列の新規な組み合わせおよび点突然変異体を包含する。組換えDNA分子および誘導されたポリペプチド、断片、部分配列の新規な組み合わせおよびバリアントを、花粉アレルギー疾患の療法のために用いることができる。組換え方法により製造されるタンパク質を、花粉アレルギーのインビトロおよびインビボ診断のために、用いることができる。
【0002】
1型アレルギーは、世界的に重要である。工業化された国の人口の20%までは、アレルギー性鼻炎、結膜炎または気管支喘息などの症状を患っている。これらのアレルギーは、種々の起源、例えば植物花粉、ダニ、ネコまたはイヌから放出される、空気中に存在するアレルゲン(エアロアレルゲン(aeroallergen))により生じる。次に、これらの1型アレルギー患者の40%までが、花粉アレルゲンとの特異的なIgE反応性を示す(Freidhoff et al., 1986, J. Allergy Clin. Immunol. 78, 1190-2001)。
【0003】
1型アレルギーを誘発する物質は、タンパク質、糖タンパク質またはポリペプチドである。粘膜を通っての取り込みの後に、これらのアレルゲンは、感作された個体中の肥満細胞の表面に結合したIgE分子と反応する。2つのIgE分子が、アレルゲンにより互いに架橋された場合には、エフェクター細胞によるメディエータ(例えばヒスタミン、プロスタグランジン)およびサイトカインの放出ならびにこれにより対応する臨床症状がもたらされる。
【0004】
個別のアレルゲン分子がアレルギー患者のIgE抗体と反応する相対的頻度に依存して、主要なアレルゲンと主要でないアレルゲンとの間で、区別がなされる。
【0005】
オオアワガエリ(Phleum pratense)の場合において、
【表1】

が、主要なアレルゲンとして現在までに同定されている。
【0006】
Phl p 4は、50〜60kDaの分子量を有する塩基性糖タンパク質であると述べられている(Haavik et al., 1985, Int. Arch. Allergy Appl. Immunol. 78: 260-268)。Phl p 4分子は、トリプシン耐性であり(Fischer et al., 1996, J. Allergy Clin. Immunol. 98: 189-198)、70〜88%の花粉アレルギー患者は、この分子に対するIgE抗体を有する。
【表2】

関連するイネ科種からの相同分子が、記載されている。
【表3】

イネ科のこれらの相同分子は、アレルゲン4群を形成し、これらの分子は、互いに、モノクローナルマウス抗体およびヒトIgE抗体の両方との、高度な免疫学的交差反応性を有する。
【表4】

【0007】
オオアワガエリの前述の主要なアレルゲン(Phl p 1、Phl p 2/3、Phl 5aおよび5b、Phl p 6並びにPhl p 13)とは対照的に、Phl p 4の一次構造は、未だ解明されていない。同様に、他のイネ科種由来の4群の分子の完全な配列はない。
【0008】
N末端アミノ酸配列の決定は、現在まで、不成功であった。しかし、この原因は、知られていない。Fischer ら(J. Allergy Clin. Immunol., 1996; 98: 189-198)は、N末端ブロックを推測し、リジルエンドペプチダーゼでの分解の後に内部ペプチドを精製し、この配列:IVALPXGMLK(配列番号7)を決定することができた。
このペプチドは、ブタクサアレルゲンAmb a1およびAmb a2におけるペプチド配列に対する相同性並びにトウモロコシ(Zm58.2)、トマト(lat 59、lat 56)およびタバコ(G10)由来のタンパク質における配列に対する類似性を有する(Fischer et al., 1996, J. Allergy Clin. Immunol., 98: 189-198)。ホソムギ(Lolium perenne)について、以下の配列を有するペプチド断片が、塩基性4群アレルゲンについて記載された:FLEPVLGLIFPAGV(配列番号8)およびGLIEFPAGV(配列番号9)(Jaggi et al., 1989, Int. Arch. Allergy Appl. Immunol. 89: 342-348)。
【0009】
同様に、カモガヤ(Dactylis glomerata)由来の4群アレルゲンから、酵素的分解によりペプチドが得られ、配列決定された:
【表5】

【0010】
また、亜熱帯性ギョウギシバ(Cynodon dactylon)の4群アレルゲンからタンパク質分解によりペプチドが得られ、配列決定された:
【表6】

【0011】
しかし、Phl p 4および4群アレルゲンについての、これらの記載されたペプチド配列は、現在まで、4群アレルゲンの完全な一次構造の解明をもたらさなかった。
従って、本発明が基づく目的は、Phl p 4の完全なDNA配列および、Phl p 4アレルゲンをタンパク質として発現し、そのままでまたは改変された形態で、薬理学的に重要な使用に有用とすることができるための、対応する組換えDNAを提供することを含んでいた。
【0012】
図面のリスト
図1:Phl p 4遺伝子の内部DNA配列(配列番号25)
ゲノムDNAを用いて得られたアンプリコン(amplicon)を、共にイタリック体で示した変性プライマーNo.30(センス)およびNo.37(アンチセンス)を用いてクローン化し、配列決定した。示した配列は、6つのクローンからのコンセンサスを表す。この配列から作成された、特異的なセンスプライマーNo.82を、下線で示す。
【0013】
図2:Phl p 4遺伝子の核酸配列(配列番号26)の3’末端
アンプリコンを、特異的なセンスプライマーNo.82(イタリック体で示す)を用いて得、3’−RACE PCRにおけるアンカープライマーを、オオアワガエリ cDNAを用いて得、配列決定した。示した配列は、3つの配列決定プロセスからのコンセンサスを示し、Phl p 4遺伝子の3’末端から停止コドン(二重下線)までを包含する。アンチセンスプライマーNo.85およびNo.86の構築のために用いられる配列範囲を、下線で示す。
【0014】
図3:Phl p 4アレルゲン(配列番号2)の推定されたアミノ酸配列におけるPhl p 4ペプチドの位置の特定
精製された、および断片化されたPhl p 4アレルゲンのアミノ酸配列から得られたペプチドP1〜P6(配列番号27〜32)を、明らかに、核酸配列から誘導されるPhl p 4遺伝子のアミノ酸配列に割り当てることができる。
【0015】
図4:nPhl p 4に特異的なモノクローナル抗体5H1(ブロットA)および3C4(ブロットB)による組換えPhl p 4(rPhl p 4)の同一性の、ウエスタンブロットによる決定
トラック1:rPhl p 4断片1〜200を含む大腸菌全細胞抽出物
トラック2:rPhl p 4断片185〜500を含む大腸菌全細胞抽出物
トラック3:rPhl p 4を含む大腸菌全細胞抽出物
トラック4:オオアワガエリからの精製されたnPhl p 4
【数1】

C末端rPhl p 4断片またはrPhl p 4全長分子の中途終了断片または分解断片
【0016】
図5:花粉アレルギー患者の血清からのIgEを用いた、組換えPhl p 4(rPhl p 4)の反応性のウエスタンブロットによる決定
完全なPhl p 4遺伝子またはN末端断片1〜200またはC末端断片185〜500のいずれかを発現する、形質転換された大腸菌細胞の抽出物を、SDS−PAGEにおいて分離し、ニトロセルロース膜に転写した。ブロットを、花粉アレルギードナーA、BまたはCからの血清を用いてインキュベートし、その後結合したIgEを、アルカリホスファターゼが結合した抗ヒトIgE抗体により、比色分析で検出した。
トラック1:rPhl p 4断片1〜200を含む大腸菌全細胞抽出物
トラック2:rPhl p 4断片185〜500を含む大腸菌全細胞抽出物
トラック3:rPhl p 4を含む大腸菌全細胞抽出物
トラック4:オオアワガエリからの精製されたnPhl p 4
【0017】
ヌクレオチドまたはアミノ酸配列について本明細書中で用いる番号「配列番号」は、明細書に添付された配列プロトコルに対応する。
【0018】
発明の説明
ここで、本発明は、初めて、見出された単一ヌクレオチド多型(single nucleotide polymorphism (SNP))から生じる3種の優性の配列(配列番号1、3および5)を有する、主要な花粉アレルゲンPhl p 4の遺伝子配列を提供する。
従って、本発明は、配列番号1、配列番号3および配列番号5からなる群から選択されたヌクレオチド配列に対応するDNA分子またはオオアワガエリ由来の主要なアレルゲンPhl p 4をコードするヌクレオチド配列に対応するDNA分子に関する。
【0019】
本発明はまた、低アレルゲン性作用を有する断片、部分配列の新規な組み合わせおよび点突然変異体を包含する。
従って、本発明はさらに、イネ科の4群アレルゲンの、免疫調節性のT細胞反応性の断片をコードする、対応する部分配列、部分配列の組み合わせまたは交換、欠失もしくは付加突然変異体に関する。
【0020】
他のイネ科種の4群アレルゲンに加えて、13群アレルゲンはまた、これらが、SDS−PAGEにおいて4群アレルゲンに極めて類似した分子量を示し、生化学的手法により分離するのが困難であるため(Suck et al., 2000, Clin. Exp. Allergy 30: 324-332, Suck et al., 2000, Clin. Exp. Allergy 30: 1395-1402)、本発明に関連して興味深い。しかし、ここで初めて有用である本発明のタンパク質およびDNA配列の補助により、4群および13群が、顕著に異なるアミノ酸配列を有することを、明らかに示すことができる。
【0021】
天然に存在するアレルゲンのDNA配列の知識を用いて、ここで、これらのアレルゲンを、アレルギー性疾患の診断および療法において用いることができる組換えタンパク質として、製造することが可能である(Scheiner and Kraft, 1995, Allergy 50: 384-391)。
【0022】
アレルギーの有効な治療的な処置のための古典的な方法は、特異的な免疫療法または減感作である(Fiebig, 1995, Allergo J. 4(6): 336-339, Bousquet et al., 1998, J. Allergy Clin. Immunol. 102(4): 558-562)。この方法では、患者に、天然のアレルゲン抽出物を、用量を増大させて皮下注射する。しかし、この方法では、アレルギー反応またはさらにアナフィラキシーショックの危険がある。これらの危険を最小にするために、アレルゴイドの形態の革新的な製剤を用いる。これらは、未処理の抽出物と比較して、顕著に低下したIgE反応性、しかし同一のT細胞反応性を有する、化学的に修飾されたアレルゲンである(Fiebig, 1995, Allergo J. 4(7): 377-382)。
【0023】
さらに実質的な療法の最適化が、組換え方法により製造されたアレルゲンを用いて可能である。随意に患者の個別の感作パターンに整合した、組換え方法により製造された高純度のアレルゲンの所定のカクテルを、天然のアレルゲン源からの抽出物と置き換えることができる。その理由は、これらが、種々のアレルゲンに加えて、比較的多数の免疫原性であるが非アレルゲン性である二次的タンパク質を含むからである。
【0024】
発現産物を用いて信頼性のある減感作をもたらすことができる現実的な展望は、IgEエピトープが、療法に必須のT細胞エピトープを損なわずに特異的に削除される、特異的に変異した組換えアレルゲンにより提供される(Schramm et al., 1999, J. Immunol. 162: 2406-2414)。
【0025】
アレルギー患者における妨害されたTH細胞平衡に治療的に影響するための他の可能性は、免疫療法的DNAワクチン接種である。これは、関連するアレルゲンをコードする発現可能なDNAを用いた処置を含む。免疫応答のアレルゲン特異的影響の最初の実験的な根拠は、アレルゲンをコードするDNAの注射により、げっ歯動物において提供された(Hsu et al., 1996, Nature Medicine 2(5): 540-544)。
【0026】
従って、本発明はまた、医薬としての、本明細書中に記載したDNA分子または対応する組換え発現ベクターに関する。
組換え方法により製造された、対応するタンパク質を、花粉アレルギーの療法のために、並びにインビトロおよびインビボ診断のために用いることができる。
【0027】
組換えアレルゲンの製造のために、クローン化された核酸を、発現ベクターに連結させ、このコンストラクトを、好適な宿主生物体中で発現させる。生化学的精製の後に、この組換えアレルゲンは、確立された方法により、IgE抗体の検出に利用できる。
従って、本発明は、さらに、発現制御配列に機能的に結合した、本明細書中に記載したDNA分子を含む組換え発現ベクターおよび、前述のDNA分子または前述の発現ベクターで形質転換した宿主生物体に関する。
【0028】
本発明は、同様に、上記したDNA分子の少なくとも1種のまたは上記した発現ベクターの少なくとも1種を、イネ科の4群アレルゲンが誘発に関与するアレルギーを患っている患者の免疫療法的DNAワクチン接種および/またはこのようなアレルギーの防止のための医薬の製造のために用いることに関する。
【0029】
既に述べたように、本発明を、特定の免疫療法のための組換えアレルゲンまたは核酸含有製剤における必須の成分として用いることができる。ここで、多くの可能性がある。先ず、不変の一次構造を有するタンパク質は、製剤の構成成分であることができる。第2に、全体の分子のIgEエピトープの特異的な欠失またはT細胞エピトープをコードする個別の断片の製造により、低アレルゲン性(アレルゴイド状)形態を、本発明において、不所望な副作用を防止するための療法のために用いることができる。最後に、核酸自体は、真核生物発現ベクターと連結された場合に、直接の適用の際に、療法的な意味においてアレルギー性免疫状態を改変する製剤を提供する。
【0030】
従って、本発明は、配列番号1、3または5に対応する組換えDNA分子に関し、ここで、位置1〜69のヌクレオチド配列は、Phl p 4 N末端のアミノ酸配列から誘導されている。ここでは、大腸菌において高頻度に出現するコドンを用いた。位置70からは、DNA配列は、オオアワガエリのゲノムおよびcDNAにおいて同定されているものに一致する。
従って、本発明は、さらに、位置70で開始し、オオアワガエリの主要なアレルゲンPhl p 4の特性を有するポリペプチドをコードする、配列番号1、配列番号3および配列番号5によるヌクレオチド配列を含むDNA分子に関する。
【0031】
さらに、本発明は、好ましくは医薬としてのこれらの特性を有する、前述のDNA分子の1つまたは2つ以上によりコードされるポリペプチドに関する。
これらは、特に、配列番号2、配列番号4または配列番号6によるポリペプチドであり、ここで、アミノ酸位置1〜33は、単離された天然のPhl p 4アレルゲンのN末端アミノ酸配列により決定されている。位置24〜500は、配列番号1、3および5によるDNA配列から誘導されていた。位置6、7、8および9における可変アミノ酸は、天然のPhl p 4の種々の製造物のN末端タンパク質配列に由来する(表1)。
従って、本発明はまた、請求項11における宿主生物体の培養およびこの培養物からの対応するポリペプチドの単離による、このタイプのポリペプチドの製造のための方法に関する。
【0032】
本発明は同様に、上記したポリペプチドの少なくとも1種の、イネ科の4群アレルゲンが誘発に関与するアレルギーの診断および/または処置およびこのようなアレルギーの防止のための医薬の製造への使用に関する。
【0033】
ヒトに対するアレルゲンとして作用する、本発明のこれらのポリペプチドまたはタンパク質は、オオアワガエリの花粉粒子中に存在する。他のイネ科種、例えば特にホソムギ、カモガヤ、ナガハグサ(Poa pratensis)、ギョウギシバ、シラゲガヤ(Holcus lanatus)の花粉粒子は、相同アレルゲン分子(4群アレルゲン)を含む。
これらの分子の相同性は、マウスモノクローナル抗体およびまたヒトIgE抗体の両方とのこれらの免疫学的交差反応性により、実証された。
【0034】
従って、本発明はまた、Phl p 4 DNA配列に対する相同配列、並びに、存在する配列の相同性のために、ストリンジェントな条件の下でPhl p 4 DNAとハイブリダイズするか、またはPhl p 4に関して免疫学的交差反応性を有する、他のイネ科、例えばホソムギ、カモガヤ、ナガハグサ、ギョウギシバ、シラゲガヤ、コムギ(Triticum aestivum)およびオオムギ(Hordeum vulgare)由来の4群アレルゲンの対応するDNA分子に関する。
【0035】
以下の手順に従って、Phl p 4のタンパク質およびDNA配列を決定した:
天然のアレルゲンPhl p 4を、記載された方法(Fahlbusch et al. 1998, Clin. Exp. Allergy 28: 799-807, Suck et al., 2000, Clin. Exp. Allergy 30: 1395-1402)により精製し、単離した。微小量の13群アレルゲンのマイクロ精製(micropurification)および採取を、Suckら(2000, Clin. Exp. Allergy 30: 1395-1402)により記載された方法により、行った。
オオアワガエリから単離されたこのPhl p 4のN末端アミノ酸配列を、エドマン分解により決定した。表1に示すN末端配列(P1a〜f)を、Phl p 4の種々のバッチを用いて決定した。最初の15個の位置についてのコンセンサス配列を、以下の配列であると見なす:YFPP’P’AAKEDFLGXL(配列番号33)。位置14は、決定することができない;これは、おそらく、システインにより占有される。異なるバッチにおける位置6、7、8および9における種々のアミノ酸は、アイソフォームの意味における変更を示す。位置4および5は、ヒドロキシプロリン(P’)により占有され、これは、調製物p1−aおよび−bの分析における特定の分析により、明らかに決定された。
【0036】
エンドペプチダーゼGlu−C(Promega, Heidelberg, Germany)を用いたSDS変性Phl p 4の処理により、種々のペプチドが得られた。表1に示すアミノ酸配列を、2つのペプチド(P2およびP3)について決定した。2つのペプチド(P4およびP5)を、エンドペプチダーゼLys−C(Roche, Mannheim, Germany)を用いた切断により精製し、配列決定した(表1)。他のペプチド(P6)は、CNBr切断により単離し、アミノ酸配列を決定した(表1)。
【0037】
N末端配列のアミノ酸配列および内部ペプチド2および6を、変性プライマーの構築のための基礎として用いた。アンプリコンを、センスプライマーNo.30およびアンチセンスプライマーNo.37(表2)で、オオアワガエリ由来のゲノムDNAを用いて調製した。これらのアンプリコンから得られたクローンを、配列決定し(図1)、特異的なセンスプライマーNo.82(表2)の構築のために用いた。オオアワガエリ花粉由来の代表的なmRNA集団および本発明の特異的なセンスプライマーNo.82およびアンカープライマーAUAP(Life Technologies, Karlsruhe, Germany)から調製したcDNAを用いて、PCRをストリンジェントな条件の下で行った。この約450kbのアンプリコンを、配列決定し、Phl p 4遺伝子の3’末端の箇所までの欠失配列を、同定した(図2)。本発明において決定されたこのC末端Phl p 4配列に基づいて、特異的なアンチセンスプライマーNo.85およびNo.86を、構築した(表2)。Phl p 4ペプチドP1−a(表1)のN末端アミノ酸配列に基づいて、アミノ酸位置24〜33(LYAKSSPAYP(配列番号34))をコードするDNAから誘導された、変性センスプライマーNo.29を、構築した。
【0038】
PCRを、プライマーNo.29およびNo.86で、ゲノムオオアワガエリDNAを用いて行った。このPCR産物を、プライマーNo.29およびNo.85での第2のPCR(ネステッドPCR)のための基礎として用いた。アンプリコンを、ベクターpGEM T−easy(Promega, Heidelberg, Germany)中に挿入し、クローン化し、配列決定した。この配列は、配列番号1、3または5によるDNA配列のN末端または位置70から計算して、位置24から開始し、プライマーNo.85(配列番号1、3または5における位置1402)まで伸びており、これは、Phl p 4遺伝子のすでに決定されたC末端部分に位置する。これらのデータを用いて、Phl p 4分子の完全なアミノ酸配列を、最初の33個のアミノ酸位置から構築し、タンパク質配列決定ならびにプライマーNo.29/No.85およびNo.82/アンカープライマーで調製されたクローンから由来し得る、推定のアミノ酸配列(477個の位置)により決定することができる。2つのクローンは、これらのヌクレオチド配列の197個の位置において重複する。クローンNo.29/No.85によりコードされたペプチドは、10個のアミノ酸位置において、直接アミノ酸配列決定により決定されたPhl p 4のN末端配列(位置1〜33)と重複し、ここで、2つの方法により決定されたアミノ酸は、一致する。
【0039】
直接決定されたN末端アミノ酸および推定のアミノ酸配列に基づく、Phl p 4のアミノ酸配列は、配列番号2、4および6の下で配列プロトコルにおいて列挙された配列に一致する。
【0040】
PCR産物を、特異的なセンスプライマーNo.88(表2)および特異的なアンチセンスプライマーNo.86で、共にゲノムを用いて、およびオオアワガエリからのcDNAを用いて調製し、直接配列決定した。
これにより、PCRエラーを排除し、遺伝子変異(単一ヌクレオチド多型)を見出すことが可能である。
【0041】
DNA配列配列番号1について見出された単一ヌクレオチド多型を、表3に示す。これらの単一ヌクレオチド多型のいくつかでは、アミノ酸が修飾されている。これらを、表4に示す。さらに、優勢な配列の配列番号2、4および6に関して逸脱するアミノ酸をもたらすDNAクローンを、配列決定した(表5)。これらのアミノ酸変異は、Phl p 4分子のアイソフォームであると見なされるべきである。このようなアイソフォームの存在は、天然のPhl p 4の不均一な等電特性から予測される。現在まで知られているすべての花粉アレルゲンは、このようなアイソフォームを有する。プライマーNo.29および86により決定されるDNA断片が、実際に、天然のPhl p 4アレルゲンと同一のタンパク質をコードするという事実はまた、特に、本発明の組換えPhl p 4分子の推定されたアミノ酸配列における相同ペプチド配列が、天然のPhl p 4の同定された内部ペプチドP3、P4およびP5(表1)について見出された(図3)という事実により実証され得る。記載されたPhl p 4アミノ酸配列は、これが、8.99(配列番号2)、8.80(配列番号4)または9.17(配列番号6)の計算された等電点を有し、500個のアミノ酸からなる塩基性分子であることを示す。定量的なアミノ酸組成を、表6に示す。組換えPhl p 4の計算された分子量は、55.762(配列番号2)、55.734(配列番号4)または55.624(配列番号6)ダルトンである。この計算された分子量は、SDS−PAGEにより決定された55kDaの天然のPhl p 4の分子量と、極めて良好に整合する(Fahlbusch et al., 1998, Clin. Exp. Allergy 28: 799-807およびSuck et al., 2000, Clin. Exp. Allergy 30: 1395-1402)。
【0042】
50〜60kDaの分子量はまた、関連するイネ科種の4群アレルゲンについて記載されている。
【表7】

【0043】
組換えPhl p 4タンパク質の製造のために、Phl p 4をコードする配列番号1、3および/または5によるDNA配列を、発現ベクター(例えばpProEx、pλCro、pSE380)中に挿入した。タンパク質配列決定から知られているN末端アミノ酸について、大腸菌の最適化コドンを用いた。
【0044】
大腸菌への形質転換、発現および種々の分離方法による組換えPhl p 4の精製の後に、得られたタンパク質に、リフォールディングプロセスを施した。
【0045】
このようにして得られたこのrPhl p 4タンパク質は、天然のPhl p 4と同一の分子量範囲をカバーするSDS−PAGEにおいて、単一のバンドを与える。rPhl p 4の免疫学的反応性は、天然のPhl p 4を用いて誘発され、イネ科の相同タンパク質(4群)と交差反応する、マウスモノクローナル抗体5H1および3C4との反応により、実証された(Fahlbusch et al., 1998, Clin. Exp. Allergy 28:799-807; Gavrovic-Jankulovic et al., 2000, Invest. Allergol. Clin. Immunol. 10(6): 361-367)(図4)。rPhl p 4は、天然のPhl p 4との実証されたIgE反応性を有するアレルギー患者のIgE抗体と反応する。このIgE反応性および従ってアレルゲンとしての作用は、共にドット試験、ウエスタンブロットにおいて、およびまたポリスチレンマイクロタイタープレート上でのアレルゲンの吸着の後に実証された。ウエスタンブロットによる検出を、図5に示す。アレルゲン4群反応性花粉アレルギー患者の好塩基球とのrPhl p 4の反応の際に、これらは、活性化マーカーCD 203cの増大した発現に刺激される。rPhl p 4によるこの好塩基球活性化は、この分子がまたアレルゲンとして機能的に作用することを、明確に示す。
【0046】
従って、このrPhl p 4アレルゲンを、花粉アレルギー患者の高度に特異的な診断のために用いることができる。この診断を、インビトロで、特定の抗体(IgE、IgG1〜4、IgA)の検出およびIgEを負荷したエフェクター細胞(例えば血液からの好塩基球)との反応によりインビトロで、または皮膚試験反応および反応器官における誘発によりインビボで、行うことができる。
【0047】
rPhl p 4の、花粉アレルギー患者のTリンパ球との反応は、増殖のためのTリンパ球のアレルゲン特異的刺激ならびに、新たに調製した血液リンパ球中のT細胞によるサイトカイン合成、および確立されたnPhl p 4反応性T細胞株およびクローンにおけるサイトカイン合成の両方により、検出された。
【0048】
記載したrPhl p 4 DNA配列に基づいて、50〜350個のアミノ酸を有するペプチドをコードする部分配列を、発現ベクターにクローン化した。これらの部分配列は、連続的に、rPhl p 4の完全な配列を包含し、少なくとも12個のアミノ酸の重複がある。発現したペプチドは、Phl p 4断片に一致する。これらのPhl p 4断片は、個別にもしくは混合物として、アレルギー患者のIgE抗体と反応しないか、または小さい程度に反応するのみであり、従って、これらを、低アレルゲン性と分類することができる。対照的に、これらの断片の混合物は、完全な組換え体または天然のPhl p 4と同様にして、Phl p 4反応性を有する花粉アレルギー患者のTリンパ球を刺激することができる。
【0049】
図4は、Phl p 4特異的モノクローナルマウス抗体に結合することによる、アミノ酸1〜200および185〜500に対応する2種のこのようなPhl p 4断片の特徴づけを、例として示す。C末端断片185〜500は、モノクローナル抗体5H1のみと反応する一方、N末端断片1〜200は、明らかに、モノクローナル抗体3C4と反応する。図5から、断片185〜500は、アレルギー患者BおよびCの血清からのIgEと、比較的弱く反応する、即ち、これは、少なくとも患者血清Cに対する減少されたIgE反応性(低アレルゲン性)を有する断片1〜200よりもアレルゲン性が低いことが明らかである。
【0050】
従って、本発明はまた、Phl p 4のアミノ酸1〜200を有する断片1〜200をコードする、本明細書中に記載したDNA分子および、Phl p 4のアミノ酸285〜500を有する断片285〜500をコードするDNA分子に関する。
【0051】
システインをコードするトリプレットを、部位特異的変異導入により、これらが、他のアミノ酸、好ましくはセリンをコードするように改変した。個々のシステインを置換したバリアントおよび、2つのシステイン残基の種々の組み合わせまたは5つのシステインすべてを修飾したバリアントの両方を、製造した。これらのシステイン点変異体の発現タンパク質は、アレルギー患者のIgE抗体との反応性は高度に低減したか、またはゼロであったが、これらの患者のTリンパ球と反応する。従って、本発明はさらに、対応するポリペプチドの1つ、それ以上またはすべてのシステイン残基が、他のアミノ酸により、部位特異的変異導入により置換されている、本明細書中に記載したDNA分子に関する。
【0052】
T細胞エピトープを有するポリペプチドおよび低アレルゲン性点突然変異体(例えばシステイン多型)のポリペプチドに対応する低アレルゲン性断片の免疫調節活性は、花粉アレルギー患者のT細胞とのこの反応により実証された。
【0053】
このような低アレルゲン性断片またはシステインの点突然変異体を、アレルギー患者の減感作のための製剤として用いることができる。その理由は、これらが、等しい有効性を伴ってT細胞と反応するが、低減されたかまたは全く存在しないIgE反応性のために、IgEを介する副作用が低減するからである。
【0054】
低アレルゲン性Phl p 4バリアントをコードする核酸またはPhl p 4をコードする未改変DNAを、ヒト発現ベクターと連結する場合には、これらの構築物を、同様に、免疫療法(DNAワクチン接種)のための製剤として用いることができる。
【0055】
最後に、本発明は、上記で記載したDNA分子少なくとも1種または上記で記載した発現ベクター少なくとも1種および随意に他の活性成分および/またはアジュバントを含む、イネ科の4群アレルゲンが誘発に関与するアレルギーを患っている患者の免疫療法的DNAワクチン接種および/またはこのようなアレルギーの防止のための医薬組成物に関する。
【0056】
本発明の他の群の医薬組成物は、DNAの代わりに、上記したポリペプチド少なくとも1種を含み、前述のアレルギーの診断および/または処置に適する。
【0057】
本発明の意味における医薬組成物は、活性成分として、本発明のポリペプチドまたは発現ベクターおよび/またはすべての比率での混合物を含む、それぞれの薬学的に使用可能な誘導体を含む。本発明の活性成分を、ここで、少なくとも1種の固体、液体および/または半液体賦形剤またはアジュバントと共に、および随意に1種または2種以上の他の活性成分と組み合わせて、好適な投薬形態とすることができる。
特に好適なアジュバントは、CpGモチーフを有する免疫賦活性DNAまたはオリゴヌクレオチドである。
【0058】
これらの組成物を、ヒト医学または獣医学における治療剤または診断剤として用いることができる。好適な賦形剤は、非経口投与に適し、本発明の活性成分の作用に悪影響を生じない有機または無機物質である。非経口投与に特に適するのは、溶液、好ましくはオイルベース、または水性の溶液、さらに懸濁液、エマルジョンまたはインプラントである。本発明の活性成分を、また、凍結乾燥し、得られた凍結乾燥物を、例えば、注射製剤を製造するために用いることができる。示した組成物を、滅菌し、および/またはこれは、補助剤、例えば潤滑剤、保存剤、安定剤および/または湿潤剤、乳化剤、浸透圧を調整するための塩、緩衝物質および/または複数の他の活性成分を含むことができる。
さらに、持続放出製剤を、本発明の活性成分の対応する処方により、得ることができる。
【0059】
従って、本発明はまた、アレルゲン成分が誘発する患者に特異的な感作範囲の同定の一部として、インビトロ診断を改善するのに役立つ。本発明は、同様に、花粉アレルギーの特異的な免疫療法のための顕著に改善された製剤を製造するのに役立つ。
【0060】
【表8】

【0061】
【表9】

【0062】
プライマー82、85、86および88のヌクレオチド配列を、通常の4文字コードで示す。プライマー29、30および37の場合において、IUPAC−IUB DNAコードを用いる;文字「N」は、ここで、イノシンを意味する。
【0063】
【表10】

【0064】
【表11】

【0065】
【表12】

【0066】
【表13】

【0067】
【表14】

【0068】
【表15】

[配列番号2によるアミノ酸/配列における位置/逸脱アミノ酸]
【0069】
【表16】

ヒドロキシプロリンを含む
【0070】
数値を、配列番号2/配列番号4/配列番号6の順序での3つの主要な配列について示す。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】Phl p 4遺伝子の内部DNA配列(配列番号25)を示す図である。
【図2】Phl p 4遺伝子の核酸配列(配列番号26)の3’末端を示す図である。
【図3】Phl p 4アレルゲン(配列番号2)の推定されたアミノ酸配列中のPhl p 4ペプチドの位置の特定を示す図である。
【図4】nPhl p 4に特異的なモノクローナル抗体5H1(ブロットA)および3C4(ブロットB)による組換えPhl p 4(rPhl p 4)の同一性の、ウエスタンブロットによる決定を示す図である。
【図5】花粉アレルギー患者の血清からのIgEを用いた組換えPhl p 4(rPhl p 4)の反応性の、ウエスタンブロットによる決定を示す図である。
【配列表】

































【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1、配列番号3および配列番号5からなる群から選択されたヌクレオチド配列に相当する、DNA分子。
【請求項2】
位置70から開始して、オオアワガエリからの主要なアレルゲンPhl p 4の特性を有するポリペプチドをコードする、請求項1に記載のヌクレオチド配列を含むDNA分子。
【請求項3】
オオアワガエリからの主要なアレルゲンPhl p 4をコードするヌクレオチド配列に相当する、DNA分子。
【請求項4】
ストリンジェントな条件下で請求項1〜3のいずれかに記載のDNA分子とハイブリダイズし、イネ科種のDNA配列に由来する、DNA分子。
【請求項5】
オオアワガエリからの主要なアレルゲンPhl p 4と免疫学的に交差反応し、イネ科種のDNA配列に由来するポリペプチドをコードする、DNA分子。
【請求項6】
4群イネ科アレルゲンの、免疫調節性のT細胞反応性の断片をコードする、請求項1〜5のいずれかに記載の部分配列または部分配列の組み合わせに相当する、DNA分子。
【請求項7】
−Phl p 4のアミノ酸1〜200を有する断片1〜200、
−Phl p 4のアミノ酸185〜500を有する断片185〜500
からなる群から選択されたPhl p 4断片をコードする、請求項6に記載のDNA分子。
【請求項8】
免疫調節性のT細胞反応性断片をコードする、請求項1〜7のいずれかに記載のヌクレオチド配列に相当するDNA分子であって、前記ヌクレオチド配列が、個別のコドンの特異的な変異、欠失または付加により特異的に改変されていることを特徴とする、前記DNA分子。
【請求項9】
変異が、対応するポリペプチドの1個、2個以上またはすべてのシステインの他のアミノ酸による置換をもたらすことを特徴とする、請求項8に記載のDNA分子。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のDNA分子を含む、発現制御配列に機能的に結合している組換えDNA発現ベクターまたはクローニングシステム。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかに記載のDNA分子または請求項10に記載の発現ベクターで形質転換された、宿主生物体。
【請求項12】
請求項11に記載の宿主生物体の、培養および培養物からの対応するポリペプチドの単離による、請求項1〜9のいずれかに記載のDNA配列によりコードされたポリペプチドの製造方法。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれかに記載のDNA配列によりコードされる、ポリペプチド。
【請求項14】
医薬としての、請求項13に記載のポリペプチド。
【請求項15】
イネ科の4群アレルゲンが誘発に関与するアレルギーの診断および/または処置のための、請求項14に記載のポリペプチド少なくとも1種および随意に他の活性成分および/またはアジュバントを含む、医薬組成物。
【請求項16】
請求項14に記載のポリペプチド少なくとも1種の、イネ科の4群アレルゲンが誘発に関与するアレルギーの診断および/または処置および/またはこのようなアレルギーの防止のための医薬の製造への使用。
【請求項17】
医薬としての、請求項1〜9のいずれかに記載のDNA分子。
【請求項18】
医薬としての、請求項10に記載の組換え発現ベクター。
【請求項19】
請求項17に記載のDNA分子少なくとも1種または請求項18に記載の発現ベクター少なくとも1種、および随意に他の活性成分および/またはアジュバントを含む、イネ科の4群アレルゲンが誘発に関与するアレルギーを有する患者の免疫療法的DNAワクチン接種および/またはこのようなアレルギーの防止のための医薬組成物。
【請求項20】
請求項17に記載のDNA分子少なくとも1種または請求項18に記載の発現ベクター少なくとも1種の、イネ科の4群アレルゲンが誘発に関与するアレルギーを有する患者の免疫療法的DNAワクチン接種および/またはこのようなアレルギーの防止のための医薬の製造への使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2006−510346(P2006−510346A)
【公表日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−514687(P2004−514687)
【出願日】平成15年6月11日(2003.6.11)
【国際出願番号】PCT/EP2003/006092
【国際公開番号】WO2004/000881
【国際公開日】平成15年12月31日(2003.12.31)
【出願人】(591032596)メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフトング (1,043)
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D−64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
【Fターム(参考)】