説明

組換え植物で発現して難抽出化した組換えタンパク質の抽出・精製方法

【課題】組換え植物からの難抽出化組換えタンパク質の精製。
【解決手段】組換え植物で発現した難抽出化組換えタンパク質を、還元剤および界面活性剤を含有する抽出液またはn−プロパノールおよびβ-メルカプトエタノールを含有する抽出液用いて行う抽出により、精製する方法の提供。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換え植物から難抽出化した組換えタンパク質を抽出・精製する方法に関する。特に、本発明はインターロイキン10(以下、IL-10と記載)の抽出方法に関する。さらに、本発明は、活性型IL-10の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来的に、組換えタンパク質の合成は、大腸菌などの微生物または哺乳類の培養細胞などより組換え技術を用いて産生させることにより行われている(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)。
【0003】
しかしながら、宿主細胞として哺乳類の細胞を用いた場合、大量の組換えタンパク質を得るには莫大な費用がかかる。さらに、ヒトにも感染するウイルス、プリオンなどの病原体の混入の可能性が避けられない。また、宿主細胞として微生物を用いた場合、エンドトキシンなどの毒物の混入が問題になる(非特許文献4)。
【0004】
これらの問題点を解決すべく、植物において組換えタンパク質を生産する方法が考案された。植物のウイルスがヒトに感染する例は知られておらず、特に食用の作物は長年人間が食用にしてきたことから安全性が確認されている。また一度組換え体を作出した後は栽培するだけで系統維持ができ、栽培費用を要するだけで極めて安価に組換えタンパク質の生産ができる。
【0005】
イネは特に日本では主食として食べられてきた作物であり、栽培技術と基礎研究の蓄積がある。安価に安定した栽培ができることから組換えタンパク質を生産する植物として適している(非特許文献5)。タンパク質を蓄積する部位としては種子が効率が良いことが知られている。種子の内部にはタンパク粒と呼ばれる特殊なオルガネラ内に少数の貯蔵タンパク質が大量かつ安定的に蓄積されている。この性質を利用して貯蔵タンパク質のプロモーターを用いたベクターが考案され、種子に大量に組換えタンパク質を蓄積できることが示されている(非特許文献6)。
【0006】
IL-10は、主に2型ヘルパーT細胞(Th2)制御性T細胞など多くの種類のリンパ球より産生されるサイトカインである。その生物活性は多岐にわたるが、他のサイトカインと際立って異なる特徴は「抑制性活性」が中心となっていることにある。IL-10はIFN-γなどの炎症性サイトカインの産生を始めとする免疫機能を抑制性に制御している(非特許文献7)。
【0007】
このような作用から、IL-10は炎症性疾患、アレルギー疾患や自己免疫疾患の治療薬としても期待されている(非特許文献8)。IL-10を組換え植物を用いて、安価に大量に製造することにより、経口投与、鼻粘膜噴霧など新しい利用法の開発が期待できる。
【0008】
しかしながら、組換え植物から組換えタンパク質を抽出する場合、しばしば組換えタンパク質が通常用いられるトリスあるいはリン酸等と非イオン性界面活性剤からなる緩衝液では抽出されないことがある。
【0009】
このため、当該分野において、難抽出化した組換えタンパク質を抽出する方法が求められていた。また難抽出化したタンパク質は3次元構造が壊れており、活性も失っていると考えられる。
【0010】
IL-10は単量体で18.5kDaの分子量を持つが、活性体は37kDaの二量体(ホモダイマー)である(非特許文献9)。単量体中に2対のジスルフィド結合を持ち、これは構造の維持に必須である。単量体間の結合は非共有結合であり、単量体の形で安定に存在することはできない。つまり、単量体中のジスルフィド結合と単量体間の非共有結合が構造と活性の維持に必須であり、これらが破壊されると不可逆的に変性し、活性が失われる。またIL-10は酸(pH6以下)、高温で変性・失活する。IL-10はこのような構造上の特徴を持っているため、活性を持つネイティブな構造のIL-10が抽出できない場合は、リフォルディング(巻き戻し)をする必要がある。IL-10のリフォルディング法に関してはいくつか報告があるが(非特許文献2、非特許文献3)、そのリフォルディング効率は十分に高いものではなかった。
【0011】
さらに、リフォルディングの確認や活性型IL-10の精製においては、活性型IL-10を検出する技術が必要となる。従来的に活性型IL-10の検出は生物活性の測定により行われていた。しかし、この方法では、結果を得るまでに時間と手間がかかり、当該分野において、簡易かつ迅速な、活性型IL-10の検出法が望まれていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Windsorら、Biochemistry 32, 8807-15.(1993)
【非特許文献2】Bondocら、Anal Biochem 246, 234-8.(1997)
【非特許文献3】Ballら、Eur Cytokine Netw 12, 187-93.(2001)
【非特許文献4】Schillberg ら、 Naturwissenschaften 90, 145-55.(2003)
【非特許文献5】Takaiwa ら、Plant Biotechnology 5, 84-92. (2007)
【非特許文献6】Yang ら、Plant Biotechnology 5, 815-26. (2007)
【非特許文献7】Mooreら、Annu Rev Immunol 19, 683-765.(2001)
【非特許文献8】Asadullahら、Pharmacol Rev 55, 241-69.(2003)
【非特許文献9】Sytoら、Biochemistry 37, 16943-51.(1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、組換え植物で発現して難抽出化した組換えタンパク質を効率的に抽出する工程を含む、組換え植物で発現した組換えタンパク質を精製する方法を提供することを目的とする。特に、組換え植物で発現して難抽出化した組換えIL-10を精製する方法を提供することを目的とする。また、さらに、抽出したIL-10を効率的にリフォルディングして活性型IL-10を効率的に精製する工程を含む、前記方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、還元剤および界面活性剤の存在下で行う抽出法を用いることにより、またはn−プロパノールおよびβ-メルカプトエタノール(以下、「bME」と記載)を含有する抽出液を用いて行う抽出法を用いることにより、組換え植物より難抽出化した組換えタンパク質、特に組み換えIL-10を効率的に抽出できることを見出した。さらに、当該抽出法により抽出されたIL-10を、所定の条件下で精製することによって、効率的に活性型の組み換えIL-10を得ることができることを見出した。本発明者らはこれらの知見を基に、本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 組換え植物の種子で発現し難抽出化した組換えタンパク質を抽出・精製する方法であって、還元剤および界面活性剤を含有する抽出液を用いて、該組換え植物の種子より該難抽出化した組換えタンパク質を抽出する工程を含む、上記方法。
[2] 難抽出化した組換えタンパク質が、組換え植物の種子で発現された組換えタンパク質であって、封入体もしくは凝集体の形態、ペプチド内もしくはサブユニット間の正しいジスルフィド結合が形成されていない形態、または植物タンパク質に結合している形態をとることにより難抽出化した組換えタンパク質である、[1]の方法。
[3] 植物がイネである、[1]または[2]の方法。
[4] 組換え植物の種子を還元剤および界面活性剤を含有しない抽出液に加えて、組換え植物の種子由来の水溶性のタンパク質を抽出する工程の後に行う、[1]〜[3]のいずれかの方法。
[5] 組換え植物の種子をウレアまたはグアニジンを含有する抽出液に加えて、組換え植物の種子由来の夾雑タンパク質を抽出する工程の後に行う、[1]〜[3]のいずれかの方法。
【0016】
[6] プロラミン、Cysプロラミン、グロブリンおよびグルテリンからなる群から選択される一または複数の組換え組換え植物の種子由来の夾雑タンパク質を抽出する工程の後に行う、[1]〜[3]のいずれかの方法。
[7] グルテリンをNaClを含有する抽出液、次いでアセトン、NaClおよびbMEを含有する抽出液を用いて抽出する、[6]の方法。
[8] 用いられる還元剤が、ジチオトレイトール(DTT)、還元型グルタチオン(GSH)、bME、TCEP(トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩)、システイン、メルカプトエチルアミン、アスコルビン酸、およびメルカプトプロピオン酸からなる群から選択される、[1]〜[7]のいずれかの方法。
[9] 用いられる還元剤が、DTTまたはbMEである、[8]の方法。
[10] 用いられる界面活性剤が、CHAPS、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、ラウリルサルコシンナトリウム、ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウム、Triton X-100、Triton X-114、Tween 20、Tween 40、Tween 60、Tween 80、C7BzO、SB3-10、SB3-14、アミドスルホベタイン-14(ASB14)、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)、およびドデシル硫酸ナトリウム(SDS)からなる群から選択される、[1]〜[9]のいずれかの方法。
【0017】
[11] 用いられる界面活性剤が、CTABまたはSDSである、[10]の方法。
[12] 組換え植物の種子で発現し難抽出化した組換えタンパク質を抽出・精製する方法であって、
NaClを含有する抽出液、次いでn−プロパノールおよびbMEを含有する抽出液を用いて、該組換え植物の種子より該難抽出化した組換えタンパク質を抽出する工程を含む、上記方法。
[13] 植物がイネである、[12]の方法。
[14] プロラミン、Cysプロラミン、グロブリンおよびグルテリンからなる群から選択される一または複数の組換え植物の種子由来のタンパク質を抽出する工程の後に行う、[13]の方法。
[15] グルテリンをNaClを含有する抽出液、次いでアセトン、NaClおよびbMEを含有する抽出液を用いて抽出する、[14]の方法。
【0018】
[16] 難抽出化した組換えタンパク質がIL-10である、[1]〜[15]のいずれかの方法。
[17] さらに、以下の活性型IL-10を精製する工程:
(1)抽出されたIL-10をアフィニティーカラムで精製する工程;
(2)工程(1)にて精製したIL-10をリフォルディングする工程;および
(3)工程(2)にてリフォルディングしたIL-10を、pH9にて陰イオン交換カラムに付す工程、
を含む、[16]の方法。
[18] 工程(2)のリフォルディングを、リフォルディング剤の存在下で行う、[17]の方法。
[19] リフォルディング剤が、アルギニンおよびその誘導体からなる群から選択される、[18]の方法。
[20] さらに、活性型IL-10の検出を行う工程を含む、[17]〜[19]のいずれかの方法。
[21] クロスリンク反応を用いて、二量体IL-10の検出を行う、[20]の方法。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、コドンをイネ型に変換したヒトIL-10の遺伝子配列(配列番号1)およびアミノ酸配列(配列番号2)を示す。
【図2】図2は、イネ発現ベクターの模式図を示す。
【図3】図3は、抽出液中に還元剤を含まない抽出液および還元剤を含む抽出液を用いた、組換えイネからのヒトIL-10の抽出結果の比較を示す。それぞれ、米粉0.1gに対して、1mlの抽出バッファーを加え抽出した。抽出バッファーは50mM Tris pH7.4、0.5M NaCl、1% SB3-14(界面活性剤)といろいろな濃度の還元剤を用いた。それぞれのサンプルはSDS-PAGEで分離し、抗ヒスタグ抗体を用いてウエスタンブロット法により検出した。
【図4】図4は、抽出液中に界面活性剤を含まない抽出液および界面活性剤を含む抽出液を用いた、組換えイネからのヒトIL-10の抽出結果の比較を示す。それぞれ、米粉0.1gに対して、1mlの抽出バッファーを加え、4℃で一晩攪拌。前抽出では抽出バッファーは50mM Tris pH7.4、0.5M NaCl。前抽出した沈殿を同じ抽出バッファーに10mMDTTと界面活性剤1%を加えたものでさらに抽出した。それぞれのサンプルはSDS-PAGEで分離し、抗ヒスタグ抗体を用いてウエスタンブロット法により検出した。
【図5】図5は、前抽出および本抽出後の、ヒトIL-10の抽出結果の比較を示す。米粉0.1gに対して、1mlの抽出バッファー(50mM Tris pH7.4、0.5M NaCl)を加え、4℃で一晩攪拌し上清を前抽出物とした。本抽出では前抽出した沈殿を、同じ抽出バッファーに10mMDTTと界面活性剤1%を加えたものでさらに抽出した。それぞれのサンプルはSDS-PAGEで分離し、抗ヒスタグ抗体を用いてウエスタンブロット法により検出した。
【図6】図6は、クロスリンク法を用いた、各精製段階に由来するサンプルにおける二量体のヒト組換えIL-10の検出結果を示す。各精製段階に由来するサンプルをBS3でクロスリンクし、ポリアクリルアミド電気泳動法で分離した後、ウエスタンブロッティング法により抗ヒスタグ抗体でヒト組換えIL-10を検出した。
【図7】図7は、各精製段階のタンパク質をSDS-ポリアクリルアミド電気泳動法で分析し、クーマジーブリリアントブルーで染色した結果を示す。
【図8】図8はIL-10の各精製段階における総タンパク質(mg) IL-10量(mg) 回収率(%) 純度(%)をまとめたものを示す。
【図9】図9は、各種抽出液を用いた、組換えイネからのヒト組換えIL-10の抽出結果の比較を示す。抽出処理後のサンプルはSDS-PAGEで分離し、クーマジーブリリアントブルーにより染色(A)、またはウエスタンブロッティング法により抗ヒスタグ抗体でヒト組換えIL-10を検出した(B)。各レーンはそれぞれ以下の抽出液を用いて抽出されたサンプルの結果を示す。レーン1:60%n−プロパノールおよび5%bMEを含有する抽出液で抽出したもの、レーン2:1%乳酸を含有する抽出液で抽出したもの、レーン3:0.5M NaClを含有する抽出液で抽出したもの、レーン4:0.5M NaClを含有する抽出液で抽出し、、その後沈殿を60%n−プロパノールおよび5%bMEを含有する抽出液で抽出したもの、レーン5:0.5M NaClを含有する抽出液で抽出し、その後沈殿を1%乳酸を含有する抽出液で抽出したもの、レーン6:0.5M NaClを含有する抽出液で抽出し、その後沈殿を1% CTAB,5% bME,0.5M NaCl,50mM Tris pH7.4を含有する抽出液で抽出したもの。
【図10】図10は、組換えイネ種子からのグルテリンの抽出において、20%アセトン、0.5M NaClおよび5% bMEを含有する抽出液および1%乳酸を含有する抽出液を用いた抽出結果の比較を示す。抽出処理後のサンプルはSDS-PAGEで分離し、クーマジーブリリアントブルーにより染色した。各レーンはそれぞれ以下の抽出液を用いて抽出されたサンプルの結果を示す。レーン1:0.5M NaClを含有する抽出液で抽出したもの、レーン2:レーン1の処理の後、沈殿を1%乳酸を含有する抽出液で抽出したもの、レーン3:レーン1の処理の後沈殿を20%アセトン、0.5M NaCl、5% bMEを含有する抽出液で抽出したもの。レーン4:分子量マーカー。
【図11】図11はウレアまたはグアニジンを含有する抽出液で夾雑タンパク質を抽出した後に還元剤および界面活性剤を含有する抽出液を用いた、組換えイネからのヒト組換えIL-10の抽出結果示す。抽出処理後のサンプルはSDS-PAGEで分離し、クーマジーブリリアントブルーにより染色(A)、またはウエスタンブロッティング法により抗ヒスタグ抗体でヒト組換えIL-10を検出した(B)。各レーンはそれぞれ以下の抽出液を用いて抽出されたサンプルの結果を示す。レーン1:1% CTAB,5% bME,0.5M NaCl,50mM Tris pH7.4で抽出したもの、レーン2:4Mウレアおよび1%SDSを含有する抽出液で抽出したもの(1st、3rd、5thはそれぞれ当該抽出液で1回、3回、5回処理したもの)、レーン3:レーン2の処理の後沈殿を1% CTAB,5% bME,0.5M NaCl,50mM Tris pH7.4で抽出したもの、レーン4:4Mグアニジンを含有する抽出液で抽出したもの(1st、3rd、5thはそれぞれ当該抽出液で1回、3回、5回処理したもの)、レーン5:レーン4の処理の後1% CTAB,5% bME,0.5M NaCl,50mM Tris pH7.4を含有する抽出液で抽出したもの。
【図12】図12は、有機溶媒を含有する抽出液で夾雑タンパク質を抽出した後に還元剤および界面活性剤を含有する抽出液を用いた、組換えイネからのヒト組換えIL-10の抽出結果を示す。抽出処理後のサンプルはSDS-PAGEで分離し、クーマジーブリリアントブルーにより染色(A)、またはウエスタンブロッティング法により抗ヒスタグ抗体でヒト組換えIL-10を検出した(B)。各レーンはそれぞれ以下の抽出液を用いて抽出されたサンプルの結果を示す。レーン1:60%n−プロパノールおよび5%bMEを含有する抽出液で抽出したもの(1st、2ndはそれぞれ当該抽出液で1回、2回処理したもの)、レーン2: レーン1の処理の後、沈殿を20%アセトン、0.5M NaClおよび5% bMEを含有する抽出液で抽出したもの(1st、2nd、3rd、4thはそれぞれ当該抽出液で1回、2回、3回、4回処理したもの)、レーン3:レーン2の処理の後、沈殿を1% CTAB,5% bME,0.5M NaCl,50mM Tris pH7.4を含有する抽出液で抽出したもの。
【図13】図13は、有機溶媒を含有する抽出液で夾雑タンパク質を抽出した後にn-プロパノールおよびbMEを含有する抽出液を用いた、組換えイネからのヒト組換えIL-10の抽出結果を示す。抽出処理後のサンプルはSDS-PAGEで分離し、ウエスタンブロッティング法により抗ヒスタグ抗体でヒト組換えIL-10を検出(A)、またはクーマジーブリリアントブルーにより染色した(B)。各レーンはそれぞれ以下の抽出液を用いて抽出されたサンプルの結果を示す。レーン1:1% CTAB,5% bME,0.5M NaClおよび50mM Tris pH7.4を含有する抽出液で抽出したもの。レーン2:60%n−プロパノールおよび5%bMEを含有する抽出液で抽出したもの。レーン3:レーン2の処理の後、沈殿を20%アセトン, 0.5M NaClおよび5% bMEを含有する抽出液で抽出したもの(1st、2nd、3rdはそれぞれ当該抽出液で1回、2回、3回処理したもの)。レーン4:レーン3の処理の後、沈殿を60%n-プロパノール, 0.5M NaClおよび5% bMEを含有する抽出液で抽出したもの(1st、2ndはそれぞれ当該抽出液で1回、2回処理したもの)。レーン5:分子量マーカー。レーン6:レーン4の処理の後、サンプルをクロスリンク反応しヒト組換えIL-10の2量体を検出したもの。レーン7:分子量マーカー。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、組換え植物で発現して難抽出化した組換えタンパク質を、還元剤および界面活性剤を含有する抽出液を用いて行う抽出により、当該組換え植物より抽出・精製する方法に関する。
【0021】
また本発明は、組換え植物で発現して難抽出化した組換えタンパク質を、n−プロパノールおよびbMEを含有する抽出液を用いて行う抽出により、当該組換え植物より抽出・精製する方法に関する。
【0022】
難抽出化した組換えタンパク質とは、遺伝子組換え技術により組換え植物中で発現した組換えタンパク質であって、タンパク質抽出に通常用いられるトリスまたはリン酸等および非イオン性界面活性剤からなる水性緩衝液では抽出されないものを指す。当該タンパク質は、組換えタンパク質自体の性質は昜水溶性であっても、難水溶性であってもよいが、組換え植物より発現された際に、当該組換えタンパク質が封入体もしくは凝集体の形態、ペプチド内またはサブユニット間の正しいジスルフィド結合が形成されていない形態、および植物タンパク質(例えば、システインを多く含む貯蔵タンパク質(プロラミンやグルテリンなど))に結合している形態など(これらに限定されない)を取ることにより難抽出化し得る。また、組換え植物の保存状態によって難抽出化される場合もあり得る。
【0023】
好ましくは、難抽出化した組換えタンパク質は組換えIL-10である。
【0024】
IL-10は、脊椎動物、好ましくは哺乳動物、さらに好ましくは、ヒト、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ブタ、ウシおよびウマ等、特に好ましくはヒトまたはマウスに由来するが、これらに限定されない。
【0025】
用いる組換えタンパク質の遺伝子配列およびアミノ酸配列はGeneBank(米国NCBI)等に登録されているもの、例えば、ヒトIL-10であれば、GeneBankにBC104252として登録されており、これら遺伝子情報を用いることが可能である。
【0026】
組換えタンパク質を発現する組換え植物は、公知のトランスジェニック法を用いて作出することが可能である(松橋通生ら監訳、ワトソン・組換えDNAの分子生物学第2版1994年、丸善;モデル植物の実験プロトコール改訂3版(2005年)島本・岡田・田畑監修、秀潤社)。具体的には以下の実施例にて説明されるように、組換えタンパク質をコードする遺伝子を適当な発現ベクターに組み込み、当該ベクターを適当な植物細胞に導入することにより作出される。
【0027】
本発明において、当該遺伝子には、特に断りの無い限り、その変異体(類似体およびホモログを含む)も含む。「変異体」とは、当該遺伝子のヌクレオチド配列において1または複数、好ましくは1または数個のヌクレオチドの置換、欠失または付加を有するもの、あるいは該ヌクレオチド配列と通常70%以上、好ましくは80%以上、85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、98%以上、99%以上の%同一性を示す変異体を意味する。
【0028】
ここで、「数個」とは、約10、9、8、7、6、5、4、3または2個の整数を指す。また、「%同一性」は、Genbank(米国NCBI)などの配列データベースにアクセスし、BLASTやFASTAなどの核酸やタンパク質の相同性検索用アルゴリズムを用いて、ギャップを導入してまたはギャップを導入しないで、決定することができる(高木利久・金久實編、ゲノムネットのデータベース利用法(第2版)1998年、共立出版社)。
【0029】
当該遺伝子は形質転換される植物のコドン頻度に従って、改変されていても良い。
【0030】
ベクターとしては、遺伝子の導入および発現のために当業者に公知である一般的なベクターを用いることができる。例えば、pUC系ベクター、pBR系ベクター、pBI系ベクター、pGA系ベクターなどを用いることができる。またアグロバクテリウムバイナリ-ベクターとしてはpBin19、pBI121、pGreen series、pCAMBIA series、pPZP series、pPCV001、pGA482、pCLD04541、pBIBAC serires、pYLTAC series、pSB11、pSB1、pGPTV seriesなどを利用することができる。また、この他にもウイルスベクターなども利用することが可能である。
【0031】
ベクターには、プロモーターなどの制御配列に加えて、シグナル配列、タグ配列、プロテアーゼ認識配列、選択マーカーなどを適宜含めることができる。プロモーターは植物細胞内にて遺伝子発現を駆動できる限り、特に限定されず、例えば、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター、イネアクチン遺伝子プロモーター、グルテリンプロモーターなどを利用することができる。タグ配列は、発現された組換えタンパク質の精製を容易にするものである限り特に限定されず、例えば、6xヒスチジン、GST、MBP、HAT、HN、S、TF、Trx、Nus、ビオチン、FLAG、myc、RCFP、GFPなどを利用することができる。プロテアーゼ認識配列はタグ配列や不要な配列を切断するためのプロテアーゼが認識する配列であり、プロテアーゼが切断できる配列である限り、特に限定されず、例えば、FactorXa、Thrombin、HRV 3C protease、TEV proteaseなどの認識配列を利用することができる。選択マーカーは、形質転換された植物細胞を検出し得るかぎり特に限定されず、例えば、ネオマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子などを用いることができる。
【0032】
構築した発現ベクターを用いた植物の形質転換は公知の手法を用いることが可能であり、例えば、アグロバクテリウム法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法などにより行うことができる。
【0033】
植物は、単子葉植物または双子葉植物のいずれも用いることが可能であるが、長年人間が食用にしてきた植物が好ましい。例えば、特に限定されないが、タバコ、ハクサイ、レタス、イネ、ジャガイモ、キュウリ、ナス、トマト、オオムギ、コムギ、トウモロコシ、ライ麦、ソルガム、ナタネ、ワタ、カラシナ、シロイヌナズナ、ヒマワリ、アルファルファ、ヒヨコマメ、クローバー、エンドウ、ピーナツ、キマメ、大豆、ウマゴヤシ、ミヤコグサ、キャッサバ、ウキクサ、ホテイアオイ、カンキツ類、モモ、およびリンゴが挙げられ、好ましくは穀物類、特に好ましくはイネである。
【0034】
本発明において「組換え植物」は、組換え植物の植物体全体、植物の一部分(例えば器官、組織など)、種子、カルス、細胞、および/またはシュートなどを含む。好ましくは、組換え植物は種子である。
【0035】
組換え植物は、超音波処理、フレンチプレス、石臼、乳鉢による粉砕、ホモジナイザーによる破砕、ガラスビーズによる破砕などの公知の方法により粉砕し、以下(I)または(II)の抽出の工程に付す。
【0036】
(I)還元剤および界面活性剤を含有する抽出液を用いて行う抽出
下記実施例にて詳細に記載されるように、難抽出化した組換えタンパク質は、還元剤および界面活性剤の存在下にて抽出することが可能である(図3および4参照)。この性質を利用して、還元剤および界面活性剤を含有する抽出液を用いて、粉砕した組換え植物より難抽出化した組換えタンパク質を抽出することが可能である。抽出は以下の条件下にて行うことが可能である。
【0037】
抽出に用いる抽出液は、還元剤および界面活性剤を添加して作製することができる。ベースとなる抽出液の組成は、Tris緩衝液、リン酸緩衝液、Tricine緩衝液、Hepes緩衝液、MOPS緩衝液、炭酸緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、MES緩衝液、PIPES緩衝液から選択される緩衝液であって、100〜700mM、好ましくは500mMのNaClを含み、pHはpH6〜10、好ましくはpH7.4であり得る。還元剤は公知の還元剤を用いることが可能であり、例えば、ジチオトレイトール(DTT)、還元型グルタチオン(GSH)、β-メルカプトエタノール(bME)、TCEP(Tris(2-carboxyethyl)phosphine Hydrochloride)、システイン、メルカプトエチルアミン、メルカプトプロピオン酸などが挙げられる。好ましくは、DTTまたはbME、より好ましくはbMEを用いる。抽出液中の還元剤の濃度は、1mM以上、好ましくは5mM以上の濃度で適宜設定することが可能であり、より好ましくは10mMである。界面活性剤は公知の界面活性剤を用いることが可能であり、例えば、TritonX-100、NP-40およびTween等の非イオン性界面活性剤、7BzO、SB3-10、SB3-14、CHAPS、およびアミドスルホベタイン-14(ASB14)等の両イオン性界面活性剤、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)およびドデシル硫酸ナトリウム(SDS)などのイオン性界面活性剤を用いることが可能であるが、両イオン性界面活性剤およびイオン性界面活性剤が好ましく、さらに好ましくはイオン性界面活性剤である。好ましくは、SDSまたはCTAB、より好ましくはCTABを用いる。抽出液中の界面活性剤の濃度は、0.5〜1.5重量%、好ましくは1重量%である。
【0038】
粉砕した組換え植物1gに対して、およそ5〜50ml、好ましくはおよそ10〜30ml、さらに好ましくはおよそ20mlの比率で、還元剤および界面活性剤を添加した抽出液を加える。
【0039】
抽出法は既知の手法により行うことが可能であり、粉砕した組換え植物に還元剤および界面活性剤を添加した抽出液を加え、数時間〜24時間、好ましくは8〜12時間ほど、低温(例えば、4℃)にて攪拌しながら行うことができる。必要に応じて、抽出工程を複数回、好ましくは2回繰り返し行っても良い。
【0040】
本発明方法は、必要に応じて、上記還元剤および界面活性剤を添加した抽出液を用いた抽出工程に先立ち、還元剤および界面活性剤を含有しない抽出液を用いて、粉砕した組換え植物を抽出することが可能である。下記実施例にて詳細に記載されるように、難抽出化した組換えタンパク質は、還元剤および界面活性剤の非存在下では抽出されない(図3および4参照)。この性質を利用して、還元剤および界面活性剤を含有しない抽出液を用いて、粉砕した組換え植物を抽出することにより、難抽出化した組換えタンパク質以外、すなわち、組換え植物に由来する易抽出性の夾雑タンパク質を抽出・除去することが可能である。
【0041】
当該抽出の工程は、粉砕した組換え植物1gに対して、およそ5〜50ml、好ましくはおよそ10〜30ml、さらに好ましくはおよそ20mlの比率で、還元剤および界面活性剤を添加しない上記抽出液を加える。抽出法は上記と同様に、行うことが可能である。その後、遠心分離して、上清を捨て、沈殿物を上記還元剤および界面活性剤を添加した抽出液を用いて上記と同様に抽出する。
【0042】
以後、還元剤および界面活性剤を添加しない抽出液を用いる抽出工程を前抽出、ならびに還元剤および界面活性剤を添加した抽出液を用いる抽出工程を本抽出と呼ぶ場合がある。
【0043】
本発明方法は、必要に応じて、上記前抽出の工程に変えて、グアニジンまたはウレアを含有する抽出液を用いて、組換え植物、特に組換え植物の種子に由来する夾雑タンパク質を除去することができる。大腸菌で製造された組換えタンパク質はしばしば封入体タンパク質となり不溶化するが、この際にグアニジンまたはウレアを含有する抽出液を用いて夾雑タンパク質を除去し、目的の組換えタンパク質を抽出できる(Sambrookら、Molecular Cloning 2001)。同様に、組換え植物、特に組換え植物の種子に由来する夾雑タンパク質は、グアニジンまたはウレアを含有する抽出液を用いて抽出・除去することが可能である。
【0044】
水に2〜8M、好ましくは4Mのグアニジン、または2〜8M、好ましくは4Mのウレアを添加し、当該抽出液を用いて、上記前抽出の工程と同様にして、組換え植物、特に組換え植物の種子に由来する夾雑タンパク質を抽出することができる。その後、遠心分離して、上清を捨て、沈殿物を上記還元剤および界面活性剤を添加した抽出液を用いて上記と同様に目的の組換えタンパク質を抽出する。
【0045】
好ましくは、ウレアを含有する抽出液には界面活性剤を添加する。界面活性剤は上記のいずれの界面活性剤も使用することが可能であるが、好ましくはSDSを用いる。抽出液中の界面活性剤の濃度は、0.5〜1.5重量%、好ましくは1重量%である。
【0046】
グアニジンまたはウレアを含有する抽出液を用いた夾雑タンパク質の抽出・除去工程は、複数回(2回以上、好ましくは3〜7回、特に好ましくは5回)繰り返して行うことができる。
【0047】
本発明方法は、必要に応じて、上記前抽出の工程に変えて、有機溶媒を含有する抽出液を用いて、目的の難抽出化した組換えタンパク質以外、すなわち、組換え植物の種子、特にイネ種子に由来する夾雑タンパク質を抽出・除去することができる。
【0048】
組換え植物の種子、特にイネ種子に由来する夾雑タンパク質として、プロラミン、Cysプロラミン、グロブリンおよびグルテリンからなる群から選択される一または複数のタンパク質が挙げられる。これら種子タンパク質の抽出法として、以下のものが公知である:60重量%n-プロパノールを含有する抽出液を用いたプロラミンの抽出;60重量%n-プロパノールおよび5重量%bMEを含有する抽出液を用いたCysプロラミンの抽出;0.5M NaClを含有する抽出液を用いたグロブリンの抽出;ならびに0.5M NaClを含有する抽出液で処理した後、1重量%乳酸を含有する抽出液を用いたグルテリンの抽出(Ogawaら、Plant Cell Physiol 28,1517-1527、1987)。
【0049】
下記実施例にて詳細に記載されるようにグルテリンの抽出に際して本発明者は、0.5M NaClを含有する抽出液で処理した後、アセトン、NaClおよびbMEを含有する抽出液を用いることによって、従来公知の抽出方法、すなわち1重量%乳酸を含有する抽出液を用いるよりも効率的にグルテリンを抽出できることを見出した。当該新規のグルテリンの抽出液はアセトンを10〜40重量%、好ましくは20重量%、NaClを0.2〜1M、好ましくは0.5M、およびbMEを0.01〜10重量%、5重量%の濃度で水に加えて調製する。
【0050】
当該夾雑タンパク質を抽出・除去する工程は、粉砕した組換え植物1gに対して、およそ1〜20ml、好ましくはおよそ2〜10ml、さらに好ましくはおよそ5mlの比率で、各抽出液を加える。抽出法は上記と同様に、行うことが可能である。その後、遠心分離して、上清を捨て、沈殿物を上記還元剤および界面活性剤を添加した抽出液を用いて上記と同様に目的の組換えタンパク質を抽出する。
【0051】
各夾雑タンパク質を抽出するための抽出液は別個に使用して、複数の夾雑タンパク質をそれぞれ別個の工程において抽出・除去しても良いし、複数の抽出液を一つに組み合わせて、複数の夾雑タンパク質を一の抽出工程にて抽出・除去しても良い。また、夾雑タンパク質を抽出・除去する工程は適宜繰り返して行うことができる。
【0052】
(II)n−プロパノールおよびbMEを含有する抽出液を用いて行う抽出
下記実施例にて詳細に記載されるように、難抽出化した組換えタンパク質は、NaClを含有する抽出液、次いでn−プロパノールおよびbMEを含有する抽出液を用いて、粉砕した組換え植物、特にイネ種子より難抽出化した組換えタンパク質を抽出することが可能である。抽出は以下の条件下にて行うことが可能である。
【0053】
抽出に用いる抽出液は、n−プロパノールおよびbMEを水に添加して作製することができる。抽出液中n−プロパノールを20〜80重量%、好ましくは60重量%、bMEを0.01〜10重量%、好ましくは5重量%含む。好ましくは、当該抽出液は、0.01〜1.0M、好ましくは0.5MのNaClを含む。
【0054】
下記実施例にて詳述されるように、n−プロパノールおよびbMEを含有する抽出液を用いた抽出工程は、当該抽出液を使用する前にNaClを含む抽出液を用いて、粉砕した組換え植物を抽出することを要する。
【0055】
n−プロパノールおよびbMEを含有する抽出液に先立って用いられるNaClを含む抽出液は、水またはTris緩衝液、リン酸緩衝液、Tricine緩衝液、Hepes緩衝液、MOPS緩衝液、炭酸緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、MES緩衝液、PIPES緩衝液から選択される緩衝液中に0.2〜0.7M、好ましくは0.5MのNaClを含む。当該NaClを含有する抽出液は、NaClを先述の濃度で含む限り、他の成分を含むことができ、例えば他の成分を含めて以下に詳細に記載される夾雑タンパク質を抽出・除去するための抽出液としても良い。
【0056】
粉砕した組換え植物1gに対して、およそ1〜20ml、好ましくはおよそ2〜10ml、さらに好ましくはおよそ5mlの比率で、当該NaClを含有する抽出液を加える。
【0057】
抽出法は上記した手法と同様に行うことが可能であり、粉砕した組換え植物にNaClを含有する抽出液を加えて抽出を行った後、遠心分離して得られた沈殿にn−プロパノールおよびbMEを含有する抽出液を加えて抽出を行う。必要に応じて、各抽出工程は複数回繰り返し行っても良い。
【0058】
本発明方法は必要に応じて、n−プロパノールおよびbMEを含有する抽出液を用いた抽出工程に先立ち、目的の難抽出化した組換えタンパク質以外、すなわち、組換え植物の種子、特にイネ種子に由来する夾雑タンパク質を抽出・除去することができる。
【0059】
イネ種子に由来する夾雑タンパク質として、プロラミン、Cysプロラミン、グロブリンおよびグルテリンからなる群から選択される一または複数のタンパク質が挙げられる。特に、プロラミン、Cysプロラミン、グロブリン等が挙げられる。
【0060】
上記のとおり、これら種子タンパク質の抽出法は公知である(Ogawaら、上掲)。好ましくは、グルテリンの抽出に際しては、0.5M NaClを含有する抽出液で処理した後、上記アセトン、NaClおよびbMEの組み合わせを含有する新規の抽出液を用いる。
【0061】
当該夾雑タンパク質を抽出・除去する工程は、粉砕した組換え植物1gに対して、およそ1〜20ml、好ましくはおよそ2〜10ml、さらに好ましくはおよそ5mlの比率で、各抽出液を加える。抽出法は上記と同様に、行うことが可能である。その後、遠心分離して、上清を捨て、沈殿物を上記n−プロパノールおよびbMEを含有する抽出液を用いた抽出工程に付す。
【0062】
各夾雑タンパク質を抽出するための抽出液は別個に使用して、複数の夾雑タンパク質をそれぞれ別個の工程において抽出・除去しても良いし、複数の抽出液を一つに組み合わせて、複数の夾雑タンパク質を一の抽出工程にて抽出・除去しても良い。また、夾雑タンパク質を抽出・除去する工程は適宜繰り返して行うことができる。
【0063】
n-プロパノールおよびbMEを含有する抽出液を用いて抽出された組換えタンパク質は、さらなる抽出工程、例えば、上記(I)還元剤および界面活性剤を含有する抽出液を用いて行う抽出の工程、あるいはさらなる精製工程に供することなく、リフォルディング工程に供することができる。
【0064】
本発明方法はさらに、上記抽出工程により抽出した組換えIL-10を活性型の組換えIL-10として精製する工程を含む。
【0065】
当該精製工程には、組換えIL-10をリフォルディングする工程を含む。リフォルディングとは、変性させた組換えIL-10を活性のあるネイティブ構造へと巻き戻す方法を指す。
【0066】
IL-10は単量体において、2対のジスルフィド結合を持ち、これが構造維持に機能している。そしてこの単量体が、非共有結合によって結合して二量体を形成し、活性体となる。従って、これらの結合が破壊されると不可逆的に変性してIL-10は活性を得ることができない。上記抽出条件下では還元剤および/または界面活性剤の影響により、組換えIL-10は変性されており、活性を持つネイティブな構造の組換えIL-10を得るためにはリフォルディングを行う必要がある。
【0067】
当該精製工程においてはまず、抽出した組換えIL-10の精製を行い、界面活性剤や夾雑タンパク質を除去し得る。精製は、公知の手法により行うが可能であり、例えば、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、固定化金属アフィニティークロマトグラフィー、およびハイドロキシアパタイトクロマトグラフィーなどが挙げられ、これらを適宜組み合わせて用いても良い。
【0068】
好ましくは、IL-10に単離・精製を容易にするために付加されたマーカー遺伝子に適したアフィニティーカラムを利用して精製する。必要に応じて、当該精製工程を複数回、好ましくは2回繰り返し行っても良い。また、必要に応じて、精製に用いる緩衝液中に、タンパク質凝集抑制剤、例えばグアニジン塩酸などを添加しても良い。
【0069】
次に、リフォルディングは一般的な手法により行うことが可能である。通常、リフォルディング法は変性とリフォルディングの工程に分けることが可能である。リフォルディングの効率を上げるために、それぞれの工程を以下の条件で行うのが好ましい。
【0070】
変性:変性緩衝液を利用して、封入体やミスフォールドした組換えIL-10を可溶化する。変性緩衝液の組成は、特に限定されないが、Tris、Hepes、Tricineなどの緩衝液であって、2〜7M、好ましくは6Mの塩酸グアニジンおよび20〜50mM、好ましくは30mMの還元剤を含む。緩衝液にホウ酸は用いることは好ましくない。還元剤は公知のいずれかの還元剤(例えば、DTT、GSH、bMEなど)を用いることが可能であるが、好ましくはDTTを用いる。変性緩衝液に可溶化する組換えIL-10の濃度は高いほど良く、また加える組換えIL-10は、純度が高いほど良い。変性温度は、室温〜約50℃の範囲で適宜選択できる。変性時間はおよそ3〜12時間程度の範囲で適宜選択することが可能である。
【0071】
リフォルディング:リフォルディング緩衝液の組成は、特に限定されないが、Tris、Hepes、Tricineなどの緩衝液であって、0.2〜2mM、好ましくは0.5mMの酸化剤、0.1〜2M、好ましくは0.6Mのリフォルディング剤を含む。
【0072】
緩衝液にホウ酸は用いることは好ましくない。酸化剤としては、公知のいずれかの酸化剤(例えば、酸化型グルタチオンやシスチンなど)を用いることが可能であるが、酸化型グルタチオンを用いることが好ましい。
【0073】
「リフォルディング剤」とは、タンパク質のリフォルディングを促す物質を意味する。当該リフォルディング剤としては、タンパク質のリフォルディングを促す機能を有する限り特に限定されるものでないが、アルギニン、アルギニンアミド、アルギニンエチルエステル、リジン、スペルミジン、スペルミン、グアニジン、グアニジンプロピオン酸、グリシン、プロリン、尿素、ショ糖、グルコース、Nアセチルグルコサミン、SDS、Tween 20、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、ヨウ化アンモニウム、チオシアン酸アンモン、タウリン、ベタイン、グリセロール、ポリオール、βアラニン、トリメチルアンモニウムN−オキシド、ジサッカライド、トレハロース、ポリエチレングリコール、アミノ酸アルキルエステル、アミノ酸アミド、ジアミン、ポリアミン、イミダゾール、ヒスチジンなどが挙げられる。好ましくは、リフォルディング剤はアルギニンおよびその誘導体(例えば、アルギニンエチルエステル、アルギニンアミドなど)からなる群から選択される。必要に応じて、リフォルディング緩衝液にはさらに、例えば、塩、酵素(GLoES、GLoEL、PDI、PPIなど)などを添加しても良い。リフォルディング緩衝液に変性緩衝液に加えた組換えIL-10を希釈または透析することにより、ネイティブ構造へとリフォルディングすることが可能である。好ましくは、希釈により行う。希釈倍率は、10〜50倍以上、好ましくは70倍以上、さらに好ましくは90倍以上、より好ましくは100倍以上である。pHは、8〜9が好ましい。反応温度は、4〜50℃、好ましくは33〜42℃の範囲で適宜選択できる。反応時間はおよそ3〜24時間、好ましくは8〜12時間程度の範囲で適宜選択することが可能である。
【0074】
リフォルディングにより得られた二量体の組換えIL-10は、公知の手法(例えば、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、固定化金属アフィニティークロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィー、およびこれらの組合せ)用いて、精製することが可能である。
【0075】
好ましくは、陰イオン交換カラムを用いて二量体の組換えIL-10の精製を行う。二量体の組換えIL-10は、緩衝液のpHが8.5〜10.0、好ましくはpHが9.0にて陰イオン交換カラム樹脂に対して吸着し得る。その後、塩を含む、pHが9.0の緩衝液をカラムに適用することによって、組換えIL-10を溶離することができる。二量体の組換えIL-10の陰イオン交換カラムに対する結合能が、pH9において小さいために、この性質を利用して二量体の組換えIL-10とそれ以外の物質とを分離することができる。緩衝液は、Tris緩衝液が好ましく、溶出に際しては、NaClを含めた緩衝液を用いて、Gradient法により溶出し得る。
【0076】
得られた二量体の組換えIL-10は、その後、必要に応じて、公知の手法(例えば、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、固定化金属アフィニティークロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィー、およびこれらの組合せ)用いて、精製することが可能である。
【0077】
本発明方法はさらに、活性型の組換えIL-10の検出を行う工程を包含する。活性型の組換えIL-10の検出は、組換えIL-10の活性を調べることによって、および/または二量体の組換えIL-10を検出することによって行うことができる。好ましくは、時間と手間が比較的かからず、かつ正確に評価することが可能であるために、二量体の組換えIL-10を検出することによって行う。リフォルディングされた組換えIL-10を、クロスリンク試薬を用いてクロスリンクさせることにより、SDS-PAGEおよびウエスタンブロッティング法によっても容易に二量体の組換えIL-10を検出することができる(Sytoら、Biochemistry 37, 16943-51.(1998))。例えば、IL-10は単量体で20kDaの分子量を持つが、活性体である二量体は40kDaの分子量を持つために、当該手法により容易に単量体と二量体を判別でき、リフォルディングの評価および二量体の精製時に利用することができる。クロスリンク試薬としては、ビス(スルホスクシンイミジル)スベラート(BS3)、Sulfo-EGS (エチレングリコールビス[スルホスクシンイミジルスクシネート])、DTSSP (3,3´-ジチオビス[スルホスクシンイミジルプロピオネート])、DTBP (ジメチル 3,3´-ジチオビスプロピオンイミデート・2 HCl)、DMS (ジメチルジメチルスベリミデート・2 HCl)、DMP (ジメチルピメリミデート・2 HCl) 、DMA (ジメチルアジピミデート・2 HCl)などを用いることができる。
【0078】
当該クロスリンク反応により、SDS-PAGEおよびウエスタンブロッティング法においても二量体として検出し得る二量体の組換えIL-10は、生体内における天然のIL-10と同等の活性を有していると判断することが可能である。「同等」とは、天然のIL-10の活性の、80%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは99%以上の活性を有することを意味する。
【0079】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものでない。
【実施例】
【0080】
(実施例1)
ヒトIL-10を発現する組換えイネの作出
イネ種子にタンパク質を発現させるため、グルテリンプロモーターを用いて組換え遺伝子を発現させるベクターを用いた。(Yangら、Plant Biotechnol J 5, 815-26.(2007);特開2008−109946号公報)。すなわち、ヒトIL-10の遺伝子配列情報(GeneBank登録番号:BC104252)に基づいて、ヒトIL-10より分泌シグナルを除き、イネ種子タンパクのコドン頻度に従ってコドンを変換した。コドンをイネ型に変換したIL-10遺伝子の塩基配列(配列番号1)およびアミノ酸配列(配列番号2)を図1に示す。当該塩基配列のC末端にヒスタグと小胞体保留シグナル(KDEL)を付けてアグロバクテリウム発現ベクターに連結した。アグロバクテリウム発現ベクターはpGPTV-35S-HPT-GluB1T(Goto ら、Nature Biotechnol 17, 282-286.(1999))を使用し、グルテリンプロモーター(GluB-1 P)、分泌シグナルおよびグルテリンターミネーター(GluB-1 T)を含む。当該発現ベクターの構造を図2に示す。ヒトIL-10遺伝子はグルテリンプロモーターの下流に連結しているために、イネ種子の胚乳特異的に発現される。
【0081】
組換えイネは、アグロバクテリウムを介した超迅速形質転換法(Tokiら、The Plant Journal 47,969-976(2006);特開2001−29075号公報)によって作出した。上記の通りに構築した発現ベクターを、電気穿孔法によってアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)EHA105株に導入した。イネ(Oryza sativa cv Kitaake)成熟種子播種後4〜5日の種子を、形質転換したA. tumefaciensによって3日間にわたり処理した。感染種子を、ハイグロマイシンを含むN6選択培地およびMS再生培地中で4週間にわたって連続培養し、派生したカルスから再生した実生を温室に移した。
【0082】
(実施例2)
ヒト組換えIL-10の還元剤および界面活性剤を含有する抽出液を用いて行う抽出
前抽出
上記組換えイネより、ヒト組換えIL-10を含む種子を回収した。種子50gを籾摺りし籾殻を除去し、電動石臼(SAMAP社、F-50)を用いて粉砕した。米糠および胚芽部分を除去し、胚乳部分を回収すべく、目開きが355μMの篩にかけ、胚乳部分に由来する米紛を得た。得られた米紛のうち40gを、1Lのフラスコに入れ、これに還元剤および界面活性剤を含まない抽出液(50mM Tris(pH7.4)、0.5M NaCl)を800ml加え、4℃でスターラーを用い400rpmで一晩抽出した。還元剤および界面活性剤の非存在下では、ヒト組換えIL-10は抽出されないために(図3および4参照)、抽出バッファーにより一部の夾雑タンパク質を取り除くことが可能である。
【0083】
本抽出
前抽出後の抽出液を遠心分離して上清を取り除き、沈殿物に還元剤および界面活性剤を含む抽出液(50mM Tris pH7.4、0.5M NaCl、10mM bME、1%CTAB)を800ml加え、上記同様にスターラーを用いて4℃にて6時間抽出した。
【0084】
遠心分離(15000g、10分間)して上清を回収し、沈殿に再び上記還元剤および界面活性剤を含む抽出液を800ml加え2回目の抽出を上記同様に行った。上清は氷中に2時間ほど置きCTABを沈殿させて、それを遠心分離(15,000g、10分間)およびガラスフィルター(Whatman、GF/A)を用いて取り除いた。
当該本抽出の操作によりヒト組換えIL-10を抽出した(図5参照)。
【0085】
(実施例3)
ヒト組換えIL-10の精製
Niアフィニティー精製
上記のようにして得られた抽出物よりヒト組換えIL-10を、AKTA prime plus(GE Healthcare)を使用して、ヒスチジンタグのアフィニティーを用いて精製した。抽出物を開始バッファー(50mM Tris pH7.4、0.5M NaCl、20mMイミダゾール)および、溶出バッファー(50mM Tris (pH7.4)、0.5M NaCl、0.4M イミダゾール)を用いて、5mlのHisTrapFFカラム(GE healthcare)を使用して段階的溶出法により溶出した。
【0086】
2回目のNiアフィニティー精製
上記Niアフィニティーカラムを通して得た溶出液をアセトン沈殿し、6Mグアニジン塩酸を含む上記と同じ開始バッファーに沈殿物を溶解し、1mlのHisTrapHPカラム(GE healthcare)で精製した。溶出バッファーには、6Mグアニジン塩酸を含む上記と同じ溶出バッファーを用いた。溶出液は10mM Tris pH7.4に透析してグアニジンを除き、アセトン沈殿した。
【0087】
ヒト組換えIL-10のリフォルディング
上記アセトン沈殿して得られた沈殿物をリフォルディング緩衝液(50mM Tris pH8.5, 0.5mM酸化型グルタチオン, 0.6M アルギニン塩酸)に希釈し33〜42℃で一晩置いた。
【0088】
リフォルディングの評価は、二量体IL-10を検出することによって行った。ヒト組換えIL-10を含むサンプルを化学的にクロスリンクさせ、SDS-PAGEおよびウエスタンブロッティングにより二量体のヒト組換えIL-10を検出した(Sytoら、Biochemistry 37, 16943-51.(1998))。クロスリンク反応は、リフォルディングしたサンプル10μl(タンパク質濃度0.1mg/ml以下)をPBSに透析後、2mM BS3を含む0.4M重炭酸ナトリウム緩衝液(pH8.5)を10μl加え30分間、室温にて行い、その後1M Tris pH8.0を1μl入れることで反応を停止させた。
【0089】
当該操作により、10%以上の高い効率でリフォルディングを行うことができた(図8のゲル濾過後のIL-10量2.1mgとRefoldingの19.6mgから計算すると10.7%という数字が算出できるが、これは回収率を考慮していないので、リフォルディング率はこれよりも高いと考えられる)。
【0090】
リフォルディングしたヒト組換えIL-10は2日間かけて、PBSおよび50mM Tris (pH9.0)からなる緩衝液に透析した。沈殿が生じた場合は遠心分離で取り除き、上清を下記の陰イオン交換カラム精製へ供した。
【0091】
イオン交換カラム精製
リフォルディングして得られた試料を、陰イオン交換カラムHiTrapQ 5ml(GE healthcare)を用いて精製した。開始バッファー(50mM Tris (pH9.0))および、溶出バッファー(50mM Tris (pH9.0)、0.5M NaCl)を用いて、Gradient溶出法で溶出した。
【0092】
上記イオン交換カラム精製により得られた溶出フラクションに由来するサンプルを上記と同じくクロスリンク反応に付し、IL-10を検出した結果、二量体のヒト組換えIL-10を分離できたことが確認できた(図6参照)。
【0093】
その後、上記イオン交換カラム精製により得られた溶出フラクションを濃縮するため、かつわずかに残る不純物を取り除くために陽イオン交換カラムに供した。二量体のヒト組換えIL-10を含む溶出フラクションを、50mM MES (pH6.5)に透析し、陽イオン交換カラムHiTrapSP 1ml(GE healthcare)を用いて精製した。開始バッファー(50mM MES (pH6.5))および、溶出バッファー(50mM MES (pH6.5)、0.5M NaCl)を用いGradient溶出法で溶出した。
【0094】
ゲル濾過カラム精製
二量体のヒト組換えIL-10とわずかに残存する単量体を分離するため、ゲル濾過カラム精製を行った。バッファーには50mM リン酸ナトリウム(pH7.4)、150mM NaCl、カラムはHiPrep 16/60 Sephacryl S-100HR(GE healthcare)を用いた。2つのピークが観察され、上記と同様に、クロスリンク反応を用いて解析した結果、二量体のヒト組換えIL-10と単量体が分離されていることが確認された(図6)。
【0095】
精製されたヒト組換えIL-10を、SDS-PAGEと逆相カラムクロマトグラフィーで解析した結果、ヒト組換えIL-10は98%以上の精製度で精製されていることが確認された(図7、8)。
【0096】
生物活性測定の測定
上記の方法により精製した二量体のヒト組換えIL-10の生物活性をマウス肥満細胞由来のMC9細胞を用いて調べた。MC/9細胞はIL-4とIL-10の共存下で活性化されるため、IL-4存在下でサンプルを培養し、IL-10標準品と比較することでIL-10の定量ができる。MC/9細胞はDME、10%FCSで培養し、96ウエルプレートに50μl(1-2x104cell)を分注し、IL-4 20ng/mlを含むサンプル50ulを加え37℃で72時間培養した。Alamar Blue 10μlを加え、4時間培養し、マイクロプレートリーダー(BIO-RAD、Model680)で570nmの吸光度を測定した。MC9細胞を用いた生物活性測定の結果、精製した二量体ヒト組換えIL-10のED50は2ng/ml以下であり、生体内の分子と同等の活性を持っていることが示された。(データ示さず)またエンドトキシンレベルを測定したところ0.0001EU/μg以下であり、1EU/μg以下とされる大腸菌で製造したヒトIL-10のエンドトキシンレベルを大幅に下回った(データ示さず)。
【0097】
上記各精製段階における、タンパク質の分析結果を図7に示し、ヒト組換えIL-10の回収率および純度を図8に示す。
【0098】
以上の結果より、本発明方法により、イネ種子40gから活性を持つ二量体のヒト組換えIL-10が4.3%の回収率で、2.1mg精製された。
【0099】
(実施例4)有機溶媒を含有する抽出液を用いた組換えイネに由来する夾雑タンパク質の抽出・除去
上記組換えイネより、ヒト組換えIL-10を含む種子を回収した。実施例2に記載の方法に従って当該種子より米粉を得て以下の工程に供した。また、本実施例では当該米粉からDEX/PEG二層分配法(Ogawaら、上掲)により澱粉粒を除きタンパク粒を精製したもの(以下、「米タンパク分画」と記載)も利用した。
【0100】
公知の種子タンパク質抽出方法(Ogawaら、上掲)を用いて、種子タンパク質およびヒト組換えIL-10の抽出の有無を検討した。
【0101】
米粉また米タンパク分画0.1gを1.5mlチューブに加え、公知の種子タンパク質抽出液をそれぞれ500μlを加え、TAITEC,VP-5sを用いて超音波処理(power:6、30s)を行い、遠心分離(15000g、10分)し沈殿と上清を分離した。沈殿を回収しさらに500μlの抽出液を加え同様の処理を行った。
【0102】
上清を回収し、アセトンを加えて全タンパク質を沈殿させ、SDS−PAGEサンプルバッファーで溶解して電気泳動用のサンプルとした。タンパク質はSDS-PAGEで分離しクーマジーブリリアントブルー(CBB)で染色するか、抗ヒスタグ抗体を用いてウエスタンブロッティングによりIL-10を特異的に検出した。
【0103】
この結果、ヒト組換えIL-10は公知の種子タンパク質抽出方法(Ogawaら、上掲)、すなわち60% n-プロパノールを含有する抽出液を用いる抽出法(プロラミンを抽出)、60%n-プロパノールおよび5% bMEを含有する抽出液を用いる抽出法(Cysプロラミンを抽出)、0.5M NaClを含有する抽出液を用いる抽出法(グロブリンを抽出)、または0.5M NaClを含有する抽出液で処理した後、1%乳酸を含有する抽出液を用いた抽出法(グルテリンを抽出)では抽出されなかったが、0.5MNaClを含有する抽出液で処理した後、60%n-プロパノールおよび5% bMEを含有する抽出液を用いた抽出法により抽出されることがわかった(図9)。
【0104】
60%n-プロパノールおよび5% bMEを含有する抽出液を単独で用いた場合にはヒト組換えIL-10は抽出されず、ヒト組換えIL-10を抽出する場合には当該抽出液を用いる前に0.5M NaClを含有する抽出液で処理することを必要とする(図9、レーン1および4)。このことから、ヒト組換えIL-10はCysプロラミンと挙動を同じくしない、つまり、この2つのタンパク質は会合していないことが示唆された。
【0105】
さらに、60%n-プロパノールおよび5% bMEを含有する抽出液による抽出の前に種子に由来する夾雑タンパク質を除くことでヒト組換えIL-10の精製度を向上させることができると考え、夾雑タンパク質を除くための抽出液を検討した。
【0106】
その結果、0.5M NaClを含有する抽出液で処理した後、20%アセトン、0.5M NaClおよび5% bMEを含有する抽出液を用いることにより、0.5M NaClを含有する抽出液で処理した後、1%乳酸を用いる公知の方法(Ogawaら、上掲)より夾雑タンパク質であるグルテリンを効率的に抽出・除去できることがわかった(図10)。グルテリンはイネ種子に含まれるタンパク質のおよそ80%を占め、グルテリンを効率的に抽出・除去できることによって、ヒト組換えIL-10の精製度を顕著に向上することができる。
【0107】
(実施例5)グアニジンあるいはウレアを含有する抽出液を用いた夾雑タンパク質の除去
上記組換えイネより、ヒト組換えIL-10を含む種子を回収した。実施例2に記載の方法に従って当該種子より米粉を得て以下の工程に供した。
【0108】
ウレアまたはグアニジンを様々な濃度で水に加えて抽出液とした。なお、ウレアは界面活性剤と共に用いた。
【0109】
米粉0.1gを1.5mlチューブに加え、ウレアまたはグアニジンを含有する抽出液500μlを加え、TAITEC,VP-5sを用いて超音波処理(power:6、30s)を行い、遠心分離(15000g、10分)し沈殿と上清を分離した。沈殿を回収し、さらに500μlの抽出液を加え同様の処理を行った。
【0110】
上清を回収し、アセトンで全タンパク質を沈殿させ、SDS−PAGEサンプルバッファーで溶解して電気泳動用のサンプルとした。タンパク質はSDS-PAGEで分離しクーマジーブリリアントブルー(CBB)で染色するか、抗ヒスタグ抗体を用いてウエスタンブロッティングによりヒト組換えIL-10を特異的に検出した。
【0111】
夾雑タンパク質を抽出・除去するが、ヒト組換えIL-10は抽出しないような最適のウレア濃度およびグアニジン濃度ならびに最適の界面活性剤を含有する抽出液の検討を行ったところ、4Mウレアおよび1%SDSまたは4Mグアニジンを含有する抽出液を用いた際に、上記の目的を達成できることがわかった(図11)。
【0112】
上記の結果より、米粉を4Mウレアおよび1%SDSまたは4Mグアニジンを含有する抽出液で5回抽出することによって夾雑タンパク質を取り除き、その後実施例2に記載のとおり還元剤および界面活性剤を含む抽出液(1%CTAB, 0.5M NaCl, 10mM b-ME, 50mM Tris pH7.4)で本抽出を行うことによりヒト組換えIL-10を抽出することができた(図11)。
【0113】
(実施例6)組換えイネ種子に由来する夾雑タンパク質を除去した後のヒト組換えIL-10の還元剤および界面活性剤を含有する抽出液を用いて行う抽出
上記組換えイネより、ヒト組換えIL-10を含む種子を回収した。実施例2に記載の方法に従って当該種子より米粉を得て以下の工程に供した。
【0114】
実施例4に記載されるとおり、夾雑タンパク質の抽出・除去は以下の抽出液を用いて行った。
・グロブリンとプロラミン:60%n-プロパノールおよび0.5M NaClを含有する抽出液
・グルテリン:20%アセトン、0.5M NaClおよび5% bMEを含有する抽出液
【0115】
米粉0.1gを1.5mlチューブに加え、60%n-プロパノールおよび0.5M NaClを含有する抽出液500μlを加え、TAITEC,VP-5sを用いて超音波処理(power:6、30s)を行い、遠心分離(15000g、10分)し沈殿と上清を分離した。沈殿を回収し、500μlの20%アセトン、0.5M NaClおよび5% bMEを含有する抽出液を加え同様の処理を行った。夾雑タンパク質の抽出・除去の後、実施例2に記載のとおり還元剤および界面活性剤を含む抽出液(1%CTAB, 0.5M NaCl, 10mM bME, 50mM Tris pH7.4)で本抽出を行うことによりヒト組換えIL-10を抽出した。
【0116】
上清を回収し、アセトンで全タンパク質を沈殿させ、SDS−PAGEサンプルバッファーで溶解して電気泳動用のサンプルとした。タンパク質はSDS-PAGEで分離しクーマジーブリリアントブルー(CBB)で染色するか、抗ヒスタグ抗体を用いてウエスタンブロッティングによりヒト組換えIL-10を特異的に検出した。
【0117】
その結果、60%n-プロパノールおよび0.5M NaClを含有する抽出液でプロラミンおよびグロブリンを抽出・除去し、その後20%アセトン、0.5M NaClおよび5% bMEを含有する抽出液でグルテリンを抽出・除去した後に、還元剤および界面活性剤を含む抽出液を用いてヒト組換えIL-10を抽出することにより、組換えイネ種子よりヒト組換えIL-10を効率的かつ高純度に抽出することができた(図12)
【0118】
(実施例7)組換えイネ種子に由来する夾雑タンパク質を除去した後のヒト組換えIL-10のn−プロパノールおよびbMEを含有する抽出液を用いて行う抽出
上記組換えイネより、ヒト組換えIL-10を含む種子を回収した。実施例2に記載の方法に従って当該種子より米粉を得て、DEX/PEG二層分配法(Ogawaら、上掲)により澱粉粒を除きタンパク粒を精製した米タンパク分画を以下の工程に供した。
【0119】
実施例4に記載されるとおり、夾雑タンパク質の抽出・除去は以下の抽出液を用いて行った。
・グロブリンとプロラミン:60%n-プロパノールおよび0.5M NaClを含有する抽出液
・グルテリン:20%アセトン、0.5M NaClおよび5% bMEを含有する抽出液
【0120】
米タンパク分画0.1gを1.5mlチューブに加え、60%n-プロパノールおよび0.5M NaClを含有する抽出液500μlを加え、TAITEC,VP-5sを用いて超音波処理(power:6、30s)を行い、遠心分離(15000g、10分)し沈殿と上清を分離した。沈殿を回収し、500μlの20%アセトン、0.5M NaClおよび5% bMEを含有する抽出液を加え同様の処理を行った。
【0121】
夾雑タンパク質の抽出・除去の後、60%n-プロパノール、0.5M NaCl、5% bMEを含有する抽出液を用いてヒト組換えIL-10を抽出した。
【0122】
上清を回収し、アセトンで全タンパク質を沈殿させ、SDS−PAGEサンプルバッファーで溶解して電気泳動用のサンプルとした。タンパク質はSDS-PAGEで分離しクーマジーブリリアントブルー(CBB)で染色するか、抗ヒスタグ抗体を用いてウエスタンブロッティングによりヒト組換えIL-10を特異的に検出した。
【0123】
各抽出液を用いた抽出回数を検討した結果、米タンパク分画を60%n-プロパノールおよび0.5M NaClを含有する抽出液で2回抽出してグロブリンとプロラミンを除去し、20%アセトン、0.5M NaClおよび5% bMEを含有する抽出液で3回抽出してグルテリンを除去した後、60%n-プロパノール、0.5M NaCl、5% bMEを含有する抽出液でヒト組換えIL-10を抽出することにより、ヒト組換えIL-10を効率的かつ高純度に抽出することができることが明らかとなった(図13)。
【0124】
この方法で抽出したIL-10をさらに精製することなくリフォルディングに用い、活性体である非共有結合二量体ができることがクロスリンク法により確認できた(図13)。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明により、組換え植物より活性型のIL-10を効率的に精製することが可能である。そのため、大量に安定して、安全性の高い活性型のIL-10を供給することが可能となるために、研究利用や臨床利用など様々な分野において重要な貢献をすることが期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換え植物の種子で発現し難抽出化した組換えタンパク質を抽出・精製する方法であって、還元剤および界面活性剤を含有する抽出液を用いて、該組換え植物の種子より該難抽出化した組換えタンパク質を抽出する工程を含む、上記方法。
【請求項2】
難抽出化した組換えタンパク質が、組換え植物の種子で発現された組換えタンパク質であって、封入体もしくは凝集体の形態、ペプチド内もしくはサブユニット間の正しいジスルフィド結合が形成されていない形態、または植物タンパク質に結合している形態をとることにより難抽出化した組換えタンパク質である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
植物がイネである、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
組換え植物の種子を還元剤および界面活性剤を含有しない抽出液に加えて、組換え植物の種子由来の水溶性のタンパク質を抽出する工程の後に行う、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
組換え植物の種子をウレアまたはグアニジンを含有する抽出液に加えて、組換え植物の種子由来の夾雑タンパク質を抽出する工程の後に行う、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
プロラミン、Cysプロラミン、グロブリンおよびグルテリンからなる群から選択される一または複数の組換え植物の種子由来の夾雑タンパク質を抽出する工程の後に行う、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
グルテリンをNaClを含有する抽出液、次いでアセトン、NaClおよびβ-メルカプトエタノール(bME)を含有する抽出液を用いて抽出する、請求項6記載の方法。
【請求項8】
用いられる還元剤が、ジチオトレイトール(DTT)、還元型グルタチオン(GSH)、β-メルカプトエタノール(bME)、TCEP(トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩)、システイン、メルカプトエチルアミン、アスコルビン酸、およびメルカプトプロピオン酸からなる群から選択される、請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
用いられる還元剤が、DTTまたはbMEである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
用いられる界面活性剤が、CHAPS、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、ラウリルサルコシンナトリウム、ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウム、Triton X-100、Triton X-114、Tween 20、Tween 40、Tween 60、Tween 80、C7BzO、SB3-10、SB3-14、アミドスルホベタイン-14(ASB14)、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)、およびドデシル硫酸ナトリウム(SDS)からなる群から選択される、請求項1〜9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
用いられる界面活性剤が、CTABまたはSDSである、請求項10記載の方法。
【請求項12】
組換え植物の種子で発現し難抽出化した組換えタンパク質を抽出・精製する方法であって、
NaClを含有する抽出液、次いでn−プロパノールおよびbMEを含有する抽出液を用いて、該組換え植物の種子より該難抽出化した組換えタンパク質を抽出する工程を含む、上記方法。
【請求項13】
植物がイネである、請求項12記載の方法。
【請求項14】
プロラミン、Cysプロラミン、グロブリンおよびグルテリンからなる群から選択される一または複数の組換え植物の種子由来のタンパク質を抽出する工程の後に行う、請求項13記載の方法。
【請求項15】
グルテリンをNaClを含有する抽出液、次いでアセトン、NaClおよびbMEを含有する抽出液を用いて抽出する、請求項14記載の方法。
【請求項16】
難抽出化した組換えタンパク質がIL-10である、請求項1〜15のいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
さらに、以下の活性型IL-10を精製する工程:
(1)抽出されたIL-10をアフィニティーカラムで精製する工程;
(2)工程(1)にて精製したIL-10をリフォルディングする工程;および
(3)工程(2)にてリフォルディングしたIL-10を、pH9にて陰イオン交換カラムに付す工程、
を含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
工程(2)のリフォルディングを、リフォルディング剤の存在下で行う、請求項17記載の方法。
【請求項19】
リフォルディング剤が、アルギニンおよびその誘導体からなる群から選択される、請求項18記載の方法。
【請求項20】
さらに、活性型IL-10の検出を行う工程を含む、請求項17〜19のいずれか1項記載の方法。
【請求項21】
クロスリンク反応を用いて、二量体IL-10の検出を行う、請求項20記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−183904(P2010−183904A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−295570(P2009−295570)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(509015958)株式会社プリベンテック (2)
【出願人】(501167644)独立行政法人農業生物資源研究所 (200)
【Fターム(参考)】