説明

組換え酵母、当該組換え酵母を用いた分岐アルコールの製造方法

【課題】自動車燃料等に好適な分岐アルコールを製造できる組換え酵母及び当該組換え酵母を利用することにより低コストで分岐アルコールを製造できる分岐アルコールの製造方法を提供する。
【解決手段】ヒドロキシメチルグルタリルCoA還元酵素遺伝子を強発現させるとともに、ADP-リボースピロホスファターゼ遺伝子及び/又はyhfR遺伝子を発現するかたちで導入した組換え酵母である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の遺伝子を導入した組換え酵母、当該組換え酵母を用いた分岐アルコールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車燃料として使用されているエタノールは、エネルギー密度が低い点、従来の石油燃料に比べ大きく特性が異なっていることが問題になっている。このため、より石油燃料に近い特性の燃料としてより炭素鎖が長いアルコールであるブタノール等を、大腸菌や酵母を用いた発酵生産法により製造するといった研究がなされている(特許文献1及び2参照)。また、対応する直鎖アルコールオクタン価が高いガソリン燃料が好まれることから2-メチル-1-ブタノールや3-メチル-1-ブタノールなどの燃料も研究されている(非特許文献1)。
【0003】
一方、Bacillus subtilisのnudF遺伝子又はyhfR遺伝子を大腸菌で発現させ、2-メチル-1-ブテノールを合成することが報告されており、さらに、nudF遺伝子及びyhfR遺伝子の発現産物がジメチルアリル二リン酸、イソペンテニル二リン酸を2-メチル-3-ブテン-1-オールに変換することが明らかにされている(非特許文献2)。さらに、同様な構成を用いて大腸菌で同遺伝子を発現させ、3-メチル-2-ブテン-1-オールと3-メチル-3-ブテン-1-オールが合成されることが報告されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO 2007/041269
【特許文献2】WO 2008/052991
【特許文献3】WO 2007/139925
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Nature 451, 86-89、(2008)
【非特許文献2】Appl. Environ. Microbiol. 73, 6277-83 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
自動車燃料等に好適な、ある程度の鎖長がある分岐アルコール、例えば2-メチル-1-ブタノールや3-メチル-1-ブタノールはアミノ酸合成経路を使って合成することが一般的に考えられる。しかしながら、アミノ酸合成経路を利用した分岐アルコールの製造においては、微生物の生育に必要なアミノ酸が供給不足になることが考えられ、目的産物である分岐アルコールの量産化に課題がある。また、Bacillus subtilisのnudF遺伝子又はyhfR遺伝子を用いた方法はアミノ酸合成経路を用いない点で有利であるが、生じた分岐アルコールが不飽和結合を有しており、燃料として用いると酸化安定性が悪いといった問題がある。また、合成された分岐アルコールに対して水素添加するなどの工程により不飽和結合を還元することができるが、当該工程にはコストがかかるといった問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、上述したような実情に鑑み、自動車燃料等に好適な分岐アルコールを製造できる組換え酵母を提供すること、及び当該組換え酵母を利用することにより低コストで分岐アルコールを製造できる分岐アルコールの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成するため、本発明者らが鋭意検討し、ADP-リボースピロホスファターゼ遺伝子及び/又はyhfR遺伝子を、ヒドロキシメチルグルタリルCoA(HMGCoA)還元酵素をコードする遺伝子を強発現させた酵母において発現させることにより、所望の分岐アルコールを製造できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明に係る組換え酵母は、ヒドロキシメチルグルタリルCoA還元酵素遺伝子を強発現させるとともに、ADP-リボースピロホスファターゼ遺伝子及び/又はyhfR遺伝子を発現するかたちで導入したものである。本発明に係る組換え酵母において、上記ADP-リボースピロホスファターゼ遺伝子としては、Bacillus subtilisのnudF遺伝子を使用することが好ましい。また、本発明に係る組換え酵母において、上記yhfR遺伝子は、Bacillus subtilisのyhfR遺伝子を使用することが好ましい。さらに、本発明に係る組換え酵母において、上記ヒドロキシメチルグルタリルCoA還元酵素遺伝子としては、Saccharomyces cerevisiaeにおけるHMG1遺伝子を使用することが好ましい。
【0010】
また、本発明に係る組換え酵母としては、メバロン酸経路を備える酵母を宿主とすることが好ましく、Saccharomyces属の酵母を宿主とすることがより好ましく、Saccharomyces cerevisiaeを宿主とすることが最も好ましい。
【0011】
上述した本発明に係る組換え酵母を培養し、培地中から分岐アルコール特に、2-メチル-1-ブタノール及び3-メチル-1-ブタノールといった飽和型の分岐アルコールを回収することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る組換え酵母は、自動車燃料や樹脂原料として利用される所望の分岐アルコールを生産するといった優れた特徴を有している。本発明に係る組換え酵母を使用することによって、上記分岐アルコールを低コストに製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】GenBankに登録されているBacillus subtilis由来のnudF遺伝子及びyhfR遺伝子の塩基配列を元にSaccharomyces cerevisiaeのコドンに最適化したDNA断片の塩基配列を示す図である。
【図2】宿主酵母であるYPH499株及び組換え酵母についてGC/MS分析によって2-メチル-1-ブタノールを分析した結果を示す特性図である。
【図3】宿主酵母であるYPH499株及び組換え酵母についてGC/MS分析によって3-メチル-1-ブタノールを分析した結果を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る組換え酵母及び当該組換え酵母を用いた分岐アルコールの製造方法について詳細に説明する。
【0015】
本発明に係る組換え酵母は、ADP-リボースピロホスファターゼ遺伝子及び/又はyhfR遺伝子を、ヒドロキシメチルグルタリルCoA(HMGCoA)還元酵素遺伝子を強発現させた酵母に導入したものである。換言すれば、本発明に係る組換え酵母は、HMGCoA遺伝子の発現量と、ADP-リボースピロホスファターゼ遺伝子及び/又はyhfR遺伝子の発現量が野生型の酵母と比較して大となるように改変された酵母である。
【0016】
ADP-リボースピロホスファターゼ遺伝子
本発明においてADP-リボースピロホスファターゼ遺伝子としては、特に限定されず、如何なる生物由来の遺伝子も使用することができる。すなわち、ADP-リボースピロホスファターゼ遺伝子としては、酵素番号(EC):3.6.1.13で特定されるADP-リボースピロホスファターゼをコードする遺伝子であれば由来を問わず使用することができる。ADP-リボースピロホスファターゼ遺伝子としては、Bacillus subtilisのnudF遺伝子(配列番号1)を例示することができる。Bacillus subtilisのnudF遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号2に示す。
【0017】
本発明において、ADP-リボースピロホスファターゼ遺伝子としては、Bacillus subtilis由来の遺伝子に対する相同遺伝子を含む意味である。ここで、相同遺伝子とは、一般的に、共通の祖先遺伝子から進化分岐した遺伝子を意味しており、2種類の種の相同遺伝子(オルソログ(ortholog))及び同一種内で重複分岐により生じた相同遺伝子(パラログ(paralog))を含む意味である。
【0018】
また、本発明において、ADP-リボースピロホスファターゼ遺伝子としては、Bacillus subtilis由来の遺伝子に限定されず、配列番号2に示すアミノ酸配列に対して類似度(Similarity)が例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上であるアミノ酸配列を有し、ADP-リボースピロホスファターゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子も含まれている。ここで、類似度の値は、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)プログラムを実装したコンピュータプログラム及び遺伝子配列情報を格納したデータベースを用いてデフォルトの設定で求められる値を意味する。
【0019】
例えば、Bacillus subtilis由来のADP-リボースピロホスファターゼのアミノ酸配列(配列番号2)に類似度(Similarity)の高いタンパク質をコードする遺伝子としては、Geobacillus kaustophilus HTA426においてGK2320で特定される遺伝子、Oceanobacillus iheyensis HTE831においてOB1851で特定される遺伝子、Lysinibacillus sphaericus C3-41においてBSPH_1706で特定される遺伝子、Listeria innocua Clip11262においてLIN2079で特定される遺伝子、Alkaliphilus metalliredigens QYMFにおいてAMET_2521で特定される遺伝子、Alkaliphilus metalliredigens QYMFにおいてEF2696で特定される遺伝子、Thermoanaerobacter tengcongensis MB4TにおいてTTE1310で特定される遺伝子、Staphylococcus aureus N315においてSA1330で特定される遺伝子、Desulfotomaculum reducens MI-1においてDRED_1901で特定される遺伝子及びPelotomaculum thermopropionicum SIにおいてPTH_1329で特定される遺伝子を挙げることができる。なお、これら遺伝子を特定する識別子は、KEGGデータベースにおけるEntryの項目に登録されている。
【0020】
さらに、本発明において、ADP-リボースピロホスファターゼ遺伝子としては、ゲノム情報が明らかとなっていない生物由来の遺伝子を使用することもできる。例えば、対象となる生物からゲノムを抽出するか或いは対象となる生物のcDNAライブラリーを構築し、配列番号1に示した塩基配列に対して相補的なポリヌクレオチドの少なくとも一部に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするゲノム領域或いはcDNAを単離することで、当該生物におけるADP-リボースピロホスファターゼ遺伝子を同定・単離することができる。ここで、ストリンジェントな条件とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、45℃、6×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)でのハイブリダイゼーション、その後の50〜65℃、0.2〜1×SSC、0.1%SDSでの洗浄が挙げられ、或いはそのような条件として、65〜70℃、1×SSCでのハイブリダイゼーション、その後の65〜70℃、0.3×SSCでの洗浄を挙げることができる。ハイブリダイゼーションは、J. Sambrook et al. Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory(1989)に記載されている方法等、従来公知の方法で行うことができる。
【0021】
さらにまた、本発明において、ADP-リボースピロホスファターゼ遺伝子としては、上述したように各種生物由来の野生型遺伝子に限定されず、人為的に突然変異を導入した変異型ADP-リボースピロホスファターゼ遺伝子を使用しても良い。例えば、変異型ADP-リボースピロホスファターゼ遺伝子としては、野生型ADP-リボースピロホスファターゼ遺伝子がコードするアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸配列が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列を含み、且つ、ADP-リボースピロホスファターゼ活性を有するタンパク質をコードするものを挙げることができる。一例として、Bacillus subtilis由来のADP-リボースピロホスファターゼのアミノ酸配列(配列番号2)に対して、例えば、1から20個、好ましくは1から10個、より好ましくは1から7個、さらに好ましくは1個から5個、特に好ましくは1個から3個のアミノ酸配列が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列を有し、ADP-リボースピロホスファターゼ活性を有するタンパク質をコードする変異型ADP-リボースピロホスファターゼ遺伝子を使用することができる。
【0022】
なお、アミノ酸の欠失、置換若しくは付加は、上記野生型ADP-リボースピロホスファターゼ遺伝子をコードする塩基配列を、当該技術分野で公知の手法によって改変することによって行うことができる。塩基配列に変異を導入するには、Kunkel法またはGapped duplex法等の公知手法又はこれに準ずる方法により行うことができ、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant-KやMutant-G(何れも商品名、TAKARA Bio社製))等を用いて、あるいはLA PCR in vitro Mutagenesisシリーズキット(商品名、TAKARA Bio社製)を用いて変異が導入される。また、変異導入方法としては、EMS(エチルメタンスルホン酸)、5-ブロモウラシル、2-アミノプリン、ヒドロキシルアミン、N-メチル-N’-ニトロ-Nニトロソグアニジン、その他の発ガン性化合物に代表されるような化学的変異剤を使用する方法でも良いし、X線、アルファ線、ベータ線、ガンマ線、イオンビームに代表されるような放射線処理や紫外線処理による方法でも良い。
【0023】
yhfR遺伝子
本発明においてyhfR遺伝子とは、Bacillus subtilis由来のyhfR遺伝子、Bacillus subtilis以外の生物におけるyhfR遺伝子の相同遺伝子及びBacillus subtiliのyhfR遺伝子によりコードされるタンパク質に対して類似度の高いタンパク質をコードする遺伝子を含む意味である。Bacillus subtilisのyhfR遺伝子を配列番号3に示し、当該yhfR遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号4に示す。なお、Bacillus subtilisのyhfR遺伝子は、その機能が正確には同定されていないものの、ホスホグリセリン酸ムターゼと相同性の高いタンパク質をコードする遺伝子として知られている(Pearson C.L. et al., J Bacteriol (2000) 182:4121-4123)。したがって、本発明においてyhfR遺伝子とは、ホスホグリセリン酸ムターゼをコードする遺伝子と言い換えることもできる。
【0024】
Bacillus subtilis以外の生物におけるyhfR遺伝子の相同遺伝子は、一般的に、共通の祖先遺伝子から進化分岐した遺伝子を意味しており、2種類の種の相同遺伝子(オルソログ(ortholog))及び同一種内で重複分岐により生じた相同遺伝子(パラログ(paralog))を含む意味である。
【0025】
Bacillus subtiliのyhfR遺伝子によりコードされるタンパク質に対して類似度の高いタンパク質をコードする遺伝子は、配列番号4に示すアミノ酸配列に対して類似度(Similarity)が例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上であるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子が含まれる。ここで、類似度の値は、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)プログラムを実装したコンピュータプログラム及び遺伝子配列情報を格納したデータベースを用いてデフォルトの設定で求められる値を意味する。
【0026】
例えば、Bacillus subtilis由来のyhfR遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列(配列番号4)に類似度(Similarity)の高いタンパク質をコードする遺伝子としては、Oceanobacillus iheyensis HTE831においてOB0337で特定される遺伝子、Exiguobacterium sibiricum 255-15においてEXIG_2819で特定される遺伝子、Kineococcus radiotolerans SRS30216においてKRAD_3374で特定される遺伝子、Pelotomaculum thermopropionicum SIにおいてPTH_1315で特定される遺伝子、Arthrobacter sp. FB24においてARTH_0069で特定される遺伝子、Dechloromonas aromaticaにおいてDARO_0602で特定される遺伝子、Listeria innocua Clip11262においてLIN0293 で特定される遺伝子、Symbiobacterium thermophilum IAM 14863においてSTH2126で特定される遺伝子、Klebsiella pneumoniae ATCC 700721においてKPN_04850で特定される遺伝子及びAzoarcus sp. EbN1においてEBA1038で特定される遺伝子を挙げることができる。なお、これら遺伝子を特定する識別子は、KEGGデータベースにおけるEntryの項目に登録されている。
【0027】
さらに、本発明において、yhfR遺伝子としては、ゲノム情報が明らかとなっていない生物由来の遺伝子を使用することもできる。ゲノム情報が明らかとなっていない生物由来のyhfR遺伝子は、上述した「ADP-リボースピロホスファターゼ遺伝子」の欄で述べた手法を適用することができる。
【0028】
さらにまた、本発明において、yhfR遺伝子としては、上述したように各種生物由来の野生型遺伝子に限定されず、人為的に突然変異を導入した変異型yhfR遺伝子を使用しても良い。例えば、変異型yhfR遺伝子としては、野生型yhfR遺伝子がコードするアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸配列が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするものを挙げることができる。一例として、Bacillus subtilis由来のyhfR遺伝子のアミノ酸配列(配列番号4)に対して、例えば、1から20個、好ましくは1から10個、より好ましくは1から7個、さらに好ましくは1個から5個、特に好ましくは1個から3個のアミノ酸配列が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする変異型yhfR遺伝子を使用することができる。
【0029】
なお、アミノ酸の欠失、置換若しくは付加は、上述した「ADP-リボースピロホスファターゼ遺伝子」の欄で述べた手法によって行うことができる。
【0030】
HMGCoA還元酵素遺伝子
本発明においてHMGCoA還元酵素遺伝子とは、特に限定されず、如何なる生物由来の遺伝子も使用することができる。すなわち、HMGCoA還元酵素遺伝子としては、EC 1.1.1.34で特定される酵素をコードする遺伝子であれば由来を問わず使用することができる。HMGCoACoA 還元酵素は、アセチルCoAからジメチルアリル二リン酸を生合成するメバロン酸経路に関与する酵素であり、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルCoAをメバロン酸に還元する酵素である。メバロン酸経路は、殆ど全ての生物が備える代謝経路であることが知られている。本発明においてHMGCoA還元酵素遺伝子としては、メバロン酸経路を備えるあらゆる生物由来のものを使用することができる。
【0031】
例えば、HMGCoA還元酵素遺伝子としては、Saccharomyces cerevisiaeにおけるHMG1遺伝子やHMG2遺伝子、ストレプトマイセス(Streptomyces sp.)CL190由来のHMG-CoA還元酵素遺伝子(S Takahashi et al., (1999) J. Bacteriol., 181, 1256-1263、)、その他、各種生物由来の遺伝子を使用することができる。なお、Saccharomyces cerevisiaeにおけるHMG1遺伝子については、例えば、特許第3894119号、特許第3838033号及び特許第3918185号において、酵母内で発現を強化することでプレニルアルコール生産能を酵母に付与する機能が開示されている。本発明においては、これら特許第3894119号、特許第3838033号及び特許第3918185号において開示されたHMG1遺伝子や、変異型HMG1遺伝子を使用することができる。
【0032】
また、本発明に係る組換え酵母は、上述したHMGCoA還元酵素遺伝子を強発現可能なようにベクターに組み込み、得られた発現ベクターを後述する宿主酵母に導入することで、HMGCoA還元酵素遺伝子を強発現させることができる。若しくは、後述する宿主酵母に内在するHMGCoA還元酵素遺伝子のプロモーター領域を改変することでHMGCoA還元酵素遺伝子を強発現させてもよい。
【0033】
宿主酵母
本発明において、上述したHMGCoA還元酵素遺伝子と、ADP-リボースピロホスファターゼ遺伝子及び/又はyhfR遺伝子を導入する宿主酵母としては、特に限定されず、子嚢菌類の子嚢菌酵母、担子菌類の担子菌酵母及び不完全菌類の不完全菌酵母が挙げられる。酵母としては、子嚢菌酵母、特に出芽酵母であるサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae:パン酵母として知られる)、キャンディダ・ユーティリス(Candida utilis)又はピキア・パストリス(Pichia pastris)等、分裂酵母であるシゾサッカロマイセス・ポンベ(Shizosaccharomyces pombe)等を使用することができる。また、酵母としては、いわゆる実験室酵母として知られている一倍体酵母や二倍体酵母を使用しても良いし、いわゆる実用酵母として知られている二倍体以上の染色体構造を有する多倍体酵母を使用しても良い。使用できる酵母として、S. cerevisiaeの場合、例えば、A451株、EUG8株、EUG12株、EUG27株、YPH499株、YPH500株、W303-1A株、W303-1B株及びAURGG101株を挙げることができる。
【0034】
なお、上述した特許第3894119号、特許第3838033号及び特許第3918185号に開示されたHMGCoA還元酵素遺伝子の発現を強化した酵母を使用することもできる。すなわち、HMGCoA還元酵素遺伝子の発現を強化した酵母に対して、ADP-リボースピロホスファターゼ遺伝子及び/又はyhfR遺伝子を導入することで本発明の組換え酵母を作製しても良い。
【0035】
宿主酵母の形質転換
上述したHMGCoA還元酵素遺伝子、ADP-リボースピロホスファターゼ遺伝子及び/又はyhfR遺伝子を上述した宿主酵母に導入する際には、従来公知の如何なる手法を適用しても良い。例えば、上述した各遺伝子を導入する際には、宿主酵母に遺伝的に保持される、プラスミドDNA、バクテリオファージ、レトロトランスポゾンDNA、酵母人工染色体DNA(YAC: yeast artificial chromosome)等を構築する。プラスミドDNAとしては、例えばpRS413、pRS414、pRS415、pRS416、YCp50、pAUR112又はpAUR123などのYCp型大腸菌-酵母シャトルベクター、pYES2又はYEp13などのYEp型大腸菌-酵母シャトルベクター、pRS403、pRS404、pRS405、pRS406、pAUR101又はpAUR135などのYIp型大腸菌-酵母シャトルベクター、大腸菌由来のプラスミド(pBR322、pBR325、pUC18、pUC19、pUC118、pUC119、pTV118N、pTV119N、pBluescript、pHSG298、pHSG396又はpTrc99AなどのColE系プラスミド、pACYC177又はpACYC184などのp15A系プラスミド、pMW118、pMW119、pMW218又はpMW219などのpSC101系プラスミド等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110、pTP5等)などが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ(Charon4A、Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、λZAP)、φX174、M13mp18又はM13mp19等が挙げられる。レトロトランスポゾンとしては、Ty因子などが挙げられる。YAC用ベクターとしてはpYACC2などが挙げられる。
【0036】
また、HMGCoA還元酵素遺伝子、ADP-リボースピロホスファターゼ遺伝子及びyhfR遺伝子を宿主細胞内で発現させるための転写プロモーターとしては、恒常発現型プロモーター及び誘導発現型プロモーターの何れを用いても良い。恒常発現型プロモーターとは、例えば主要代謝経路に関わる遺伝子の転写プロモーター等であり、生育条件等に依存せず転写活性を有するプロモーターである。また、誘導発現型プロモーターとは、特定の生育条件で転写が誘導されるプロモーターである。
【0037】
転写プロモーターは、上述した宿主酵母において活性を持つものであればいずれを用いてもよい。例えば酵母での発現用として、GAL1プロモーター、GAL10プロモーター、TDH3(GAP)プロモーター、ADH1プロモーター、TEF2プロモーター等を用いることができる。さらに、所望によりエンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカーなどを連結することもできる。なお、選択マーカーとしては、URA3、LEU2、TRP1、HIS3、ADE2、LYS2などの栄養非要求性の表現型を指標とするマーカー遺伝子や、Ampr、Tetr、Cmr、Kmr、AUR1-C、can1、Bla、Shble、Neo等の抗生物質耐性遺伝子が挙げられる。
【0038】
転写ターミネーターは、上述した宿主酵母で活性を持つものであればいずれの遺伝子に由来するターミネーターを用いてもよい。例えば酵母での発現用として、ADH1ターミネーター、CYC1ターミネーター等を用いることができる。
【0039】
一方、HMGCoA還元酵素遺伝子、ADP-リボースピロホスファターゼ遺伝子及びyhfR遺伝子をプラスミド等に組み込んだ状態で宿主酵母に導入する方法としては、酵母の形質転換方法として知られている従来公知のいかなる手法をも適用することができる。具体的には、例えば、例えば、エレクトロポレーション法“Meth. Enzym., 194, p182 (1990)”、スフェロプラスト法“Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75 p1929(1978)”、酢酸リチウム法“J.Bacteriology, 153, p163(1983)”、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75 p1929 (1978)、Methods in yeast genetics, 2000 Edition : A Cold Spring Harbor Laboratory Course Manualなどに記載の方法で実施可能であるが、これに限定されない。
【0040】
遺伝子が宿主酵母に導入されたか否かの確認は、PCR(polymerase chain reaction)法、サザンハイブリダイゼーション法等により行うことができる。例えば、組換え酵母からDNAを調製し、導入した遺伝子に特異的なプライマーを設計してPCRを行う。その後は、PCR増幅産物についてアガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動又はキャピラリー電気泳動等を行い、臭化エチジウム、SYBR Green液等により染色するか、あるいはUV検出器でDNAを検出し、増幅産物をピークとして検出することにより、導入DNAを確認する。また、予め蛍光色素等により標識したプライマーを用いてPCRを行い、増幅産物を検出することもできる。
【0041】
分岐アルコールの製造
以上のように作製された本発明の組換え酵母は、通常の培地で培養されると、培地中に2-メチル-1-ブタノール及び3-メチル-1-ブタノールといった飽和型の分岐アルコールを生産することができる。WO 2007/139925によれば、Bacillus subtilisのnudF遺伝子又はyhfR遺伝子を導入した大腸菌が3-メチル-2-ブテン-1-オールと3-メチル-3-ブテン-1-オールといった不飽和型の分岐アルコールを合成すると報告されている。これと比較すると、本発明の組換え酵母は、2-メチル-1-ブタノール及び3-メチル-1-ブタノールといった飽和型の分岐アルコールを生産するといった予見不可能な効果を有しているといえる。
【0042】
なお、培地中に生産された2-メチル-1-ブタノール及び3-メチル-1-ブタノールといった飽和型の分岐アルコールは、蒸留等の公知の方法によって単離・生成することができる。不飽和型の分岐アルコールを蒸留法により単離・精製する場合には、分子鎖中の不飽和結合を介した重合反応や他の成分との化学反応が生じる場合があり、分岐アルコールの生産性が低下することが考えられる。また、不飽和型の分岐アルコールは、飽和型の分岐アルコールと比較して酸安定性が低いため、不飽和結合を還元して飽和型の分岐アルコールへと変換する必要がある。これに対して、本発明に係る組換え酵母が生産する飽和型の分岐アルコールは、蒸留法で単離精製したとしても上記重合反応や上記化学反応に起因するロスを回避することができる。したがって、本発明に係る組換え酵母を用いて分岐アルコールを製造する場合には優れた生産性を達成することができる。また、本発明に係る組換え酵母を用いて分岐アルコールの製造する場合には、不飽和結合を還元するといった工程が必要ないため、低コスト化を達成することができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
〔実施例1〕
HMG1/YPH499株の作製
本実施例では、先ず、HMGCoA還元酵素遺伝子を強発現するサッカロマイセス・セレビシエを作製した。詳細には、Saccharomyces cerevisiae DBY746株由来のHMGCoA還元酵素遺伝子をSaccharomyces cerevisiae YPH499株に導入した。以下、詳細を説明する。
【0045】
(1)pRS404TcycとpRS406Tcycの作製
CYC1転写ターミネーターCYC1t断片は、以下のように設計した一対のプライマーを用いてPCRで調製した。
XhoI-Tcyc1FW:5’ TGC ATC TCG AGG GCC GCA TCA TGT AAT TAG 3’(配列番号5)
ApaI-Tcyc1RV:5’ CAT TAG GGC CCG GCC GCA AAT TAA AGC CTT CG 3’(配列番号6)
【0046】
なお、PCRの鋳型としてはpYES2(Invitrogen社製)0.1 mg及び上記一対のプライマーを50 pmol使用した。また、PCRにおける反応液は、1x pfu buffer with MgSO4 (Promega社製)、10 nmol dNTP、1.5 u Pfu DNA polymerase (Promega社製)及び1 ml perfect match polymerase enhancer (Stratagene社製)を含む50ml溶液とした。PCRのサーマルサイクルは、95℃で2分の後、95℃で45秒、60℃で30秒及び72℃で1分を1サイクルとして30サイクル行い、その後72℃で5分の後、4℃でストックとした。
【0047】
その後、PCRによって増幅したDNAをXhoIとApaIで切断し、アガロースゲル電気泳動で260 bpのDNA断片を精製した。そして、別途準備したpRS404及びpRS406(Stratagene社製)のXhoI-ApaI部位に、精製したDNA断片をそれぞれ挿入した。得られたプラスミドをそれぞれpRS404Tcyc及びpRS406Tcycとした。
【0048】
(2)TDH3pフラグメントの作製
TDH3p(GAP)プロモーターを含むDNA断片は、Saccharomyces cerevisiae YPH499株(Stratagene社製)のゲノムDNAを鋳型とし、以下のように設計した一対のプライマーを用いたPCRで調製した。なお、ゲノムDNAは、酵母ゲノムDNA調製用キット「Genとるくん」(タカラバイオ社製)を使用した。
SacI-Ptdh3FW:5’ CAC GGA GCT CCA GTT CGA GTT TAT CAT TAT CAA 3’(配列番号7)
SacII-Ptdh3RV:5’ CTC TCC GCG GTT TGT TTG TTT ATG TGT GTT TAT TC 3’(配列番号8)
【0049】
PCRにおいて鋳型となるゲノムDNAを0.46mg使用し、上記一対のプライマーを100pmol使用した。また、PCRにおける反応液は、1x ExTaq buffer(タカラバイオ社製)、20nmol dNTP、0.5 u ExTaq DNA polymerase (タカラバイオ社製)及び1ml perfect match polymerase enhancerを含む100ml溶液とした。PCRのサーマルサイクルは、95℃で2分の後、95℃で45秒、60℃で1分及び72℃で2分を1サイクルとして30サイクル行い、その後72℃で4分の後、4℃でストックとした。
【0050】
その後、PCRによって増幅したDNAをSacIとSacIIで切断し、アガロースゲル電気泳動で680 bpのDNA断片を精製した。得られたDNA断片をTDH3pとした。
【0051】
(3)2mOriSN フラグメントの作製
pYES2(Invitrogen社製)SspIとNheIで切断後2m DNA複製開始点(2 m ori)を含む1.5kbp断片をアガロースゲル電気泳動により精製し、Klenow酵素で平滑末端化した。得られたDNA断片を2mOriSNとした。
【0052】
(4) pRS434GAPとpRS436GAPの作製
上記(1)で得られたpRS404Tcyc及びpRS406Tcycにおける、BAP(bacterial alkaline phosphatase、タカラバイオ社製)処理したNaeI部位に2mOriSNをそれぞれ挿入した。反応産物をE. coli SURE2株に定法に従って形質転換した。形質転換大腸菌を定法に従って培養後、プラスミドDNAを調製した。得られたプラスミドDNAをDraIIIとEcoRI、又はPstIとPvuIIにより切断後、アガロースゲル電気泳動し、2 m oriの挿入とその向きをチェックした。上記(1)で得られたpRS404 Tcyc及びpRS406Tcycに、pYES2と同じ向きに2 m oriが挿入されたプラスミドをそれぞれpRS434Tcyc2mOri及びpRS436Tcyc2mOriとした。
【0053】
その後、pRS434Tcyc2mOriとpRS436Tcyc2mOriのSacI-SacII部位に、上記(2)で得られたTDH3p(転写プロモーターを含むDNA断片)を挿入した。最終的に得られたプラスミドをそれぞれpRS434GAP及びpRS436GAPとした。
【0054】
(5)pRS504の作製
上記(4)で作製したpRS434GAPにSacharomyces cerevisiae rDNA配列を導入したベクターpRS504を作製した。rDNA配列はNieto A et. al. (1999) Biotechnol. Prog., 15(3), 459-66を参考にした。以下のプライマーを用いて上述の場合と同様にPCR反応を行った。
AatTRP1-50F:5’-TTT CCG ACG TCC ACG TGA GTA TAC GTG ATT AAG-3’(配列番号9)
TRP1d-R:5’-AGG CAA GTG CAC AAA CAA TAC TT-3’(配列番号10)
【0055】
すなわち、先ず、上記(4)で作製したpRS434GAPを鋳型DNAとして、上記AatTRP1-50FとTRP1d-Rを用いてPCRを行い、0.8kbのTRP1dフラグメントを増幅した。次に、以下のリン酸化したプライマーとSaccharomyces cerevisiae YPH499 (ATCC 204679)株のゲノムDNAを用いてPCRを行い、rDNAの一部である1.3kbフラグメント(R47)を増幅した。R4:5’-ATG AGA GTA GCA AAC GTA AGT CTA A-3’ (配列番号11)
K-R7:5’-TGA CTG GTA CCT TTC CTC TAA TCA GGT TCC ACC-3’ (配列番号12)
【0056】
次に、TRP1d断片とR47断片をアガロースゲル電気泳動で精製した後、ライゲーションした。この反応液を鋳型としAatTRP1-50FとK-R7プライマーでPCRを行い、TRP1dとR47が連結した2.0kbのフラグメント(TR47)を増幅した。TR47はさらにアガロースゲル電気泳動で精製し、pCR-Blunt ll TOPOベクター(invitrogen社製)にサブクローニングした。得られたベクターをTOPO-TR47とした。TR47断片をシークエンスしたところ変異は入っていなかった。次に、制限酵素AatllとKpnlでTOPO-TR47とpRS434GAPを消化し、TR47断片とTDH3プロモーターを含む3.2kb断片を切り出し、ライゲーションした。得られたプラスミドをpRS504とした。
【0057】
(6)pDI626ベクターの作製
上記(4)で作製したpRS436GAPを鋳型DNAとし、T4 polynucleotide Kinaseでリン酸化した下記の一対のプライマーを用いたinverse PCRを行い、4.7kbの断片を増幅した。
T7-F: 5’-GCG TAA TAC GAC TCA CTA TAG GG-3’ (配列番号13)
2um-R: 5’-CCT GAT GCG GTA TTT TCT CCT TAC-3’ (配列番号14)
得られた断片をセルフライゲーションした後、鋳型DNAをDpnIで分解除去した。このようにして、pRS436GAPより2um Oriを除去したプラスミドpRS436-2umを作製した。
【0058】
次に、下記Aat-TY1FとSse-TY2RプライマーとSaccharomyces cerevisiae YPH499 (ATCC 204679)株のゲノムDNAを用いてPCRを行った。増幅した断片をT12とした。
Aat-TY1F: 5’-GAC GTC TGT TGG AAT AAA AAT CCA CTA TCG-3’ (配列番号15)
Sse-TY2R: 5’-CCT GCA GGA TTC CGT TTT ATA TGT TTA TAT TCA TTG-3’ (配列番号16)
【0059】
同様に、下記プライマーとSaccharomyces cerevisiae YPH499 (ATCC 204679)株のゲノムDNAを用いてPCRを行った。増幅したフラグメントをT34とした。
SAC l-TY3F: 5’-GAG CTC GAG GAA TAA TCG TAA TAT TAG TAT GTA-3’(配列番号17)
Sse-TY4R: 5’-GCG CGC TGA GAA ATT TGT GGG TAA TTA GAT AAT-3’(配列番号18)
【0060】
増幅されたT12及びT34はいずれもYOLWTy1-1(chromosome XV, from coordinates 117, 702 to 123, 627)のLTR配列の一部である。これら増幅されたT12及びT34をpCR-Blunt II TOPOベクターにそれぞれサブクローニングし、得られたベクターをそれぞれTOPO-T12、TOPO-T34と命名した。これらはシークエンスを行いPCRエラーがないことを確認した。TOPO-T12をAatIIとSse8387Iで消化し、T12断片を切りだしpRS436-2umのAatII-Sse8387Iサイトにライゲーションし、プラスミドpDIT12を作製した。同様にSac IとBssHIIを用いてTOPO-T34を消化し、T34断片を切りだし、pDIT12のSacI-BssHIIサイトにライゲーションし、プラスミドpDI626を作製した。
【0061】
(7)HMG-CoA還元酵素遺伝子HMG1のクローニング
Saccharomyces cerevisiae DBY746由来のcDNAライブラリー“Quick-Clone cDNA”(Clonetech社製)を鋳型とし、下記一対のプライマーを用いてPCRを実施した。
Primer 1:5’-ATG CCG CCG CTA TTC AAG GGA CT-3’(配列番号19)
Primer 2:5’-TTA GGA TTT AAT GCA GGT GAC GG-3’(配列番号20)
【0062】
また、PCRにおける反応液は、Perfect Match (Stratagene社製)を1μl、10X ExTaqバッファー(タカラバイオ社製)を5μl、2.5mM dNTPmixを4μl、5U/μl ExTaq(タカラバイオ社製)を1μl、10 pmolの上記Primer 1及び2を含む50μl溶液とした。PCRのサーマルサイクルは、94℃で45秒、55℃で1分及び72℃で2分を1サイクルとして30サイクルとした。
【0063】
増幅した約3.2kbの断片をpT7Blue-TベクターにT/Aクローニングし、HMG1領域の塩基配列を決定した。その結果、GenBank(http://www.neb.nih.gov/Genbank/index.html)に登録されているSaccharomyces cerevisiae由来のHMG1遺伝子配列と比較したところ12ヶ所で違いが見られた。この内の3ヶ所はアミノ酸配列に影響する変異であった(S68F、L607S、H909R)。作製したプラスミドDNAをpT7HMG1とした。
【0064】
次にPCRエラーを修正するためpT7HMG1をSma1、ApaL1、Sal1で切断し、3.2kbp断片をアガロース電気泳動で調製した。この断片をpALTER-1(Promega社製)ベクターのSma1-Sal1部位に挿入しpALHMG1を作製した。pALHMG1をアルカリ変性後、下記変異導入オリゴ(Oligo 1〜3)、Amp repair oligo(Promega社製)、Tet knockout oligo(Promega社製)をアニーリングさせた。大腸菌ES1301株(Promega社製)に導入後、125μg/mlアンピシリンで部位特異的変異が導入されたプラスミドを保持する形質転換体を集積培養し、プラスミドDNAを調製した。
Oligo 1 :5’-CCA AAT AAA GAC TCC AAC ACT CTA TTT-3’ (配列番号21)
Oligo 2 :5’-GAA TTA GAA GCA TTA TTA AGT AGT GGA-3’ (配列番号22)
Oligo 3 :5’-GGA TTT AAC GCA CAT GCA GCT AAT TTA-3’ (配列番号23)
【0065】
調製したプラスミドDNAの塩基配列を解析したところ、上述した3箇所の変異が修正されていることを確認した。このプラスミドをpALHMG106とした。
【0066】
(8)pRS504HMG1の作製
上記(7)で作製したpALHMG106をSmaIとSalIで切断後、アガロース電気泳動で3.2kbのHMG1遺伝子断片を精製した。これを上記(4)で作製したpRS434GAPのSmaI-SalI部位に挿入しpRS434GAP-HMG1を得た。次に、pRS434GAP-HMG1を鋳型とし、以下に示すプライマーを用いPCRを行い、HMG1遺伝子の開始コドンからTth111Iサイト(ATG開始コドンから数えて647bp)までの断片を増幅した。
SacHMG1-F:5’-CCG CGG AAC AAA ATG CCG CCG CTA TTC AAG GG-3’ (配列番号24)
TthHMG647R:5’-GAC CCG GTC TTC CTC ATG TC-3’ (配列番号25)
【0067】
上記SacHMG1-FプライマーによりHMG1の開始コドン上流にAACAAA配列とSacIIサイトが付加される。このPCR産物をpMCR2.1-TOPOベクター(invitrogen社製)にサブクローニングし、PCRエラーがないことをシークエンスにより確認した。得られたベクターからSacII-Tth111Iフラグメントを切りだし、pRS434GAP-HMG1のSacII-Tth111Iフラグメントと入れ替えた。得られたプラスミドをpRS434GAPa-HMG1と命名した。pRS434GAPa-HMG1をSacIIとXhoIで消化し、3.2kbのHMG1断片を切りだし、上記(5)で作製したpRS504、のSacII-XhoIサイトにライゲーションした。得られたプラスミドをpRS504HMG1とした。
【0068】
(9) HMG1/YPH499株の作製
上記(8)で作製した20μg のpRS504HMG1をBstPIで切断することで線状化した。線状化したpRS504HMG1をエタノール沈殿で回収した後、5μlの滅菌水に溶解した。Frozen EZ yeast transformation kit(Zymoresearch社製)を用い、pRS504HMG1をSaccharomyces cerevisiae YPH499(Stratagene社製)に導入した。トリプトファンを含まないYNB酵母最少培地(Difco社製)で生育してきた株のコロニーPCRを行い、HMG1遺伝子が導入されていることを確認した。得られた株をHMG1/YPH499とした。
【0069】
(10)NUDF /YPH499株及びYHFR /YPH499株の作製
GenBank(http://www.neb.nih.gov/Genbank/index.html)に登録されているBacillus subtilis由来のnudF遺伝子及びyhfR遺伝子の塩基配列を元にSaccharomyces cerevisiaeのコドンに最適化したDNA断片(図1)を合成した(オペロン社製)。
【0070】
なお、nudF遺伝子及びyhfR遺伝子のORFの上流非翻訳領域にそれぞれGGGCCGCGGACTAGTGCCGCCACC及びGGGTCTAGAACTAGTGCCGCCACCを付加するとともに、下流非翻訳領域にそれぞれGATATCGTCGACGGGG及びGAATTCGTCGACGGGGを付加した(全て図1において大文字で表記)。
【0071】
配列番号26に示したnudF遺伝子のDNA断片をSpeIとSalIで消化し、上記(6)で作製したpDI626のSpe IとSalIサイトに挿入し、得られたプラスミドをPDI626NUDFと命名した。また、配列番号27に示したyhfR遺伝子のDNA断片をSpeIとSalIで消化し、上記(6)で作製したpDI626のSpeIとSalIサイトに挿入し、得られたプラスミドをPDI626YHFRと命名した。
【0072】
得られた22μgのPDI626NUDF及びPDI626YHFRをそれぞれAatII及びBssHIIで切断することで線状化した。線状化したPDI626NUDF及びPDI626YHFRをそれぞれエタノール沈殿で回収した後、5μlの滅菌水に溶解した。Frozen EZ yeast transformation kit (Zymoresearch社製)を用い、PDI626NUDF及びPDI626YHFRをそれぞれSaccharomyces cerevisiae YPH499(Stratagene社製)に導入した。ウラシルを含まない酵母最少培地(BIO101社製)で生育してきた株を取得することにより、nudF遺伝子又はyhfR遺伝子が導入された株を得た。PCRを行い遺伝子が導入されていることを確認した。得られた株をそれぞれNUDF /YPH499株、YHFR /YPH499株とした。
【0073】
(11)NUDF / HMG1/YPH499株及びYHFR / HMG1/YPH499株の作製
上記(10)で得られた22μgのPDI626NUDF及びPDI626YHFRをそれぞれAatII及びBssHIIで切断することで線状化した。線状化したPDI626NUDF及びPDI626YHFRを、上記(9)で作製したHMG1/YPH499に同様にして導入した。ウラシル非要求性になった株を取得することにより遺伝子が導入された株を得た。PCRで遺伝子が導入されていることを確認後、得られた株をそれぞれNUDF / HMG1/YPH499株とYHFR / HMG1/YPH499株と命名した。
【0074】
(12)分岐アルコール合成分析
培養試験
上記(10)で作製したNUDF /YPH499株及びYHFR /YPH499株、上記(11)で作製したNUDF / HMG1/YPH499株及びYHFR / HMG1/YPH499株、並びにSaccharomyces cerevisiae YPH499株を、SD培地(-Trp, -Ura)で30℃で前培養した。次に、2mlのSD培地(-Trp, -Ura)の入った滅菌ディスポーサブルガラス試験管(IWAKI社製)に前培養液を1%植菌し、アルミキャップをかぶせ好気条件下で30℃、振とう培養を行った。
【0075】
抽出と分析
上述の培養後、-30℃で凍結保存した試験管に酢酸エチル2ml及びメタノール0.3mlを加え、ボルテックスを用い攪拌した。ベックマン社製遠心分離機で遠心処理(室温、1200rpm、5分間)し、溶媒層と水層を分離し、溶媒層を内部標準として1%のウンデカノール溶液(エタノールに溶解)を10μl添加したガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)用2mlバイアル瓶に移し、テフロンコートしたアルミキャップでシールし、GC/MSで分析した。その際、標準液として2-メチル-1-ブタノールを分析し、内部標準のウンデカノールに対するTICピーク面積比よりを定量した。GC/MSは、HP6890/5973 GC/MSシステム(ヒューレットパッカード社製)を用い、表1の条件で分析した。
【0076】
[表1]
<GC/MSの分析条件>
インレット温度: 260℃
ディテクター温度: 260℃
インジェクションパラメーター
モード: 自動インジェクション
サンプル量: 2μl
洗浄回数: メタノールで3回
クロロフォルムで2回
スプリット比: 20:1
カラム: ヒューレットパッカード社製HP-5MS
(0.25mm × 30M、フィルム厚0.25μm)
キャリアーガス: ヘリウム1.0ml/min
オーブン昇温条件: 45℃、1分保持
5℃/分で60℃まで昇温
100℃/分で320℃まで昇温、3.4分保持
【0077】
GC/MS分析の結果を図2に示す。また、GC/MS分析の結果として得られたプロファイルから、GC/MSのマスパターンのデータベースより決定した3-メチル-1-ブタノールエリアについて内部標準エリアとの比を比較した結果を図3に示す。図2及び3に示すように、HMGCoA遺伝子の発現量と、ADP-リボースピロホスファターゼ遺伝子及び/又はyhfR遺伝子の発現量が野生型の酵母と比較して大となるように改変された組換え酵母によれば、飽和型の分岐アルコールである2-メチル-1-ブタノール及び3-メチル-1-ブタノールを生産できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明に係る組換え酵母は、2-メチル-1-ブタノール及び3-メチル-1-ブタノールを生産できることから、これらを成分として含有する自動車燃料等の製造に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシメチルグルタリルCoA還元酵素遺伝子を強発現させるとともに、ADP-リボースピロホスファターゼ遺伝子及び/又はyhfR遺伝子を発現するかたちで導入した組換え酵母。
【請求項2】
上記ADP-リボースピロホスファターゼ遺伝子は、Bacillus subtilisのnudF遺伝子であることを特徴とする請求項1記載の組換え酵母。
【請求項3】
上記yhfR遺伝子は、Bacillus subtilisのyhfR遺伝子であることを特徴とする請求項1記載の組換え酵母。
【請求項4】
上記ヒドロキシメチルグルタリルCoA還元酵素遺伝子は、Saccharomyces cerevisiaeにおけるHMG1遺伝子であることを特徴とする請求項1記載の組換え酵母。
【請求項5】
メバロン酸経路を備える酵母であることを特徴とする請求項1記載の組換え酵母。
【請求項6】
Saccharomyces属の酵母であることを特徴とする請求項1記載の組換え酵母。
【請求項7】
Saccharomyces cerevisiaeであることを特徴とする請求項1記載の組換え酵母。
【請求項8】
請求項1〜7いずれか一項記載の組換え酵母を培養し、培地中から分岐アルコールを回収する、分岐アルコールの製造方法。
【請求項9】
上記分岐アルコールとして2-メチル-1-ブタノール及び3-メチル-1-ブタノールを回収することを特徴とする請求項8記載の分岐アルコールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−279290(P2010−279290A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−134937(P2009−134937)
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】