説明

組織サンプルにおけるコラーゲンの免疫組織化学的検出方法

有効量のコラゲナーゼを用いる組織サンプルの前処理が、コラーゲンの増強された免疫検出と組織形態の増進された保存をもたらす。そのようなコラーゲンの免疫検出のための改良法は、ホルマリン固定され、パラフィン包埋された組織切片の免疫組織化学的研究において使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【関連出願との関係】
【0001】
本出願は、2004年4月8日提出の米国特許出願第60/560,456号に対する優先権を主張するものであり、これらの全内容は引用によって本明細書に組み入れられている。
【技術分野】
【0002】
本発明は組織化学的検出方法に関する。特に、本発明は組織サンプルにおけるコラーゲンの免疫組織化学的検出のための改良法に関する。
【背景技術】
【0003】
コラーゲン、種々の組織および器官の構造的完全性を維持する上で支配的な役割を演じる細胞外マトリックス(ECM)タンパク質のファミリーは、ヒトの体内に豊富に存在している。それらは本質的に全組織において見いだされ、そして特に、骨、皮膚、腱、軟骨、靭帯および血管壁のような組織において富んでいる。
【0004】
コラーゲンの組織化学的検出は、診断病理学のために重要な役割を演じる。多くの疾病状態においては、細胞は、変化した(増加もしくは減少した)量のコラーゲンを生産するか、または構造的に欠陥のあるコラーゲンを生産する(非特許文献1)。例えば、間質におけるコラーゲンの過度の蓄積は、繊維症をもたらす肝臓疾患において中心的役割を演じる。さらに、神経線維内鞘のコラーゲン原繊維の大きさの増大および細胞外マトリックスの沈着の増加が、糖尿病性末梢神経において観察されている。細胞外マトリックスの増加した沈着は、基底膜(BM)の肥厚化を特徴とし、そしてIV型コラーゲンはBMの重要な構成要素である。さらにまた、悪性および浸潤性上皮腫瘍におけるBMは、完全に欠如しているか、または薄くかつ断続しているかいずれかであるが、一方、多くの良性上皮腫瘍は本来のBMを有している(非特許文献2)。
【0005】
組織内の特定のコラーゲンの免疫組織化学的検出は、形態形成、細胞分化および再生の探究において有力な道具であった。ほとんどの免疫細胞化学的染色のように、コラーゲンの免疫組織化学的検出は、新鮮な組織または新鮮な状態で凍結された組織を用いて最良の働きをする。しかし、新鮮な組織または新鮮な状態で凍結された組織は、都合よく得られるとは限らず、そして時には凍結された組織は、不十分な組織化学的保存によって不適当であるかもしれないので、コラーゲンの免疫組織化学的検出は、通常、固定に続く脱水および包埋によって保存された組織を用いて実施される。ホルマリン溶液における固定と、それに続く脱水およびパラフィン−ワックス包埋による組織の保存は、今でも、形態の顕微鏡解析のための顕著な調製方法である。この保存技術は形態学的調査のために最適であるかもしれないが、この技術は、処理工程中に生じる抗原の構造的変化の結果として、その後の免疫組織化学的研究にとっては大きな欠点を有する。コラーゲンの免疫組織化学的検出の著しい損失と完全な欠如が保存組織に関して観察された。
【0006】
種々の抗原アンマスキング手順が、日常的な組織調製後の抗原の免疫反応性を回復するために開発された(非特許文献3)。2つのもっとも一般的なアンマスキング技術は、酵素消化と熱誘導のエピトープ回復である。一般プロテアーゼとも呼ばれる、広範なスペクトルのプロテアーゼによるホルマリン固定され、パラフィン包埋された組織の前処理は、コラーゲンの免疫組織化学的検出を増進することが示された(非特許文献4)。不幸にも、これらの広範なスペクトルのプロテアーゼ、例えばペプシン、プロナーゼ、トリプシンおよびプロテアーゼKは、多くの組織タンパク質を消化して、組織の形態をぼやけた散漫なものにさせ、そして時には、重要な細胞構造物をほとんど認識不可能にさせる。使用されるプロテアーゼの種類および濃度、インキュベーション時間および温度のような条件を均衡させて、コラーゲンの検出を最適化しながら組織切片におけるある種のタンパク質であるが全てではないタンパク質を消化することは困難であろう。これらの条件は、しばしば組織の種類ならびに固定型式に特異的である。例えば、脳のような組織における構造物は、広範なスペクトルのプロテアーゼの副次的影響をほとんど受けない(実施例2)が、複雑な組織構造をもつ他の組織、例えば腎臓、腸、脾臓、睾丸およびその他におけるほとんどの構造物(上皮、精子細胞、間質など)は影響を受ける(実施例3)。熱前処理技術は組織切片における抗原検出を増進するために広く使用された(非特許文献3)けれども、本発明において示されるように、熱前処理は、ホルマリン固定され、パラフィン包埋された組織におけるコラーゲンの免疫組織化学的検出をわずかに増進するだけである(実施例2)。
【0007】
周囲の組織形態の完全性を維持し、一方で組織サンプルにおけるコラーゲンの免疫組織化学的検出を増強する新規な組織化学的検出方法を開発するニーズが存在する。
【非特許文献1】Kivirikko,1993,Ann.Med.25:113−126
【非特許文献2】Albrechtsen et al.,1981,Cancer Res.41:5076−5081
【非特許文献3】MacIntyre,2001,Br.J.Biomed.Sci.58:190−196
【非特許文献4】Barsky,et al.,1984,Am.J.Clinical.Pathology 82:191−194
【非特許文献5】Lowry et al.,1997,J.Anat.,191:376−374
【発明の開示】
【0008】
ホルマリン固定され、パラフィン包埋された組織が、天然コラーゲンを分解することが可能な特異的なタンパク質分解酵素であるコラゲナーゼにより予備消化されると、コラーゲンの検出を増強しつつ、周囲の組織形態の完全性を保存するという優れた結果が得られることがここに発見された。
【0009】
したがって、1つの一般的態様では、本発明は、
a.有効量のコラゲナーゼおよびコラゲナーゼの酵素活性に必要な陽イオンを含んでなるバッファー溶液とともに、組織サンプルをインキュベートする段階:
b.組織サンプル内のコラーゲンに特異的に結合することが可能な抗体に組織サンプルを暴露する段階:および
c.組織サンプルに結合された抗体を検出する段階:
を含んでなる、組織サンプルにおけるコラーゲンの免疫組織化学的検出方法に関する。
【0010】
好適な実施態様では、組織サンプルは、ホルマリン固定され、そしてパラフィン包埋された組織切片である。
【0011】
本明細書において引用されるすべての刊行物は、引用によって本明細書に組み入れられている。特に定義されない限り、本明細書において使用されるすべての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野における当業者にとって普通に理解される同じ意味を有する。
【0012】
用語「含む(including)]「含んでなる(comprising)」、「含有する(containing)」および「有する(having)」は、それらの自由な、制限のない意味において本明細書では使用される。
【0013】
本明細書で使用される用語「抗体」は、特定のアミノ酸配列を有し、そして密接に関連する抗原もしくは1群の抗原のみに結合する免疫グロブリン分子もしくは免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分を指す。「抗体」の例は、IgG、IgM、IgA、IgDおよびIgEを含む。免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分の例は、ペプシンのような酵素によって抗体を処理することによって生成できるFabおよびF(ab)’フラグメントを含む。特に、本明細書で使用される「抗体」は、1種類以上のコラーゲンに結合するが、アッセイ・サンプル内のいずれか他のタンパク質には本質的に結合しない。
【0014】
「抗体」は、モノクローナル抗体もしくはポリクローナル抗体であってもよい。用語「モノクローナル抗体」もしくは「モノクローナル抗体組成物」は、1種の抗原結合部位のみを含有し、そして特定のエピトープと免疫反応することが可能である抗体分子の集団を指す。用語「ポリクローナル抗体」は、1種以上の抗原結合部位を含有し、そしてポリペプチドにおける1種以上のエピトープと免疫反応することが可能である抗体分子の集団を指す。ポリクローナル抗体調製物の例は、1種類のコラーゲンにおける多数のエピトープに対向される抗体を含有するが、他の種類のコラーゲンには対向されない調製物である。
【0015】
本明細書で使用される「抗原」は、宿主の免疫系を刺激して、体液性および/または細胞性抗原特異的応答を起こし得る1種以上のエピトープを含有する分子を指す。用語「抗原」は、本明細書では「免疫源」と互換可能に使用される。本明細書で使用される用語「エピトープ」は、特異的な抗体分子が結合する抗原もしくはハプテン上の部位を指す。用語「エピトープ」は、本明細書では、「抗原決定基」もしくは「抗原決定基部位」と互換可能に使用される。
【0016】
本明細書で使用される「コラーゲン」は、種々の組織および器官の構造的完全性を維持する上で顕著な役割を演じる密接に関連するが別個の細胞外マトリックスタンパク質の多くのファミリーを指す。「コラーゲン」は、30個以上の別個の遺伝子によってコードされている21種の既知の種類のコラーゲンのいずれでもよい。「コラーゲン」は、また、いずれは同定される新しい種類のコラーゲンのいずれでもよい。「コラーゲン」の例は、表1において列挙される(Kivirikko,1993,前出;Buckwalter
et al.,1995,Spine,20:1307−1314)。
【0017】
【表1】

【0018】
本明細書で使用される「コラゲナーゼ」は、コラーゲンを酵素的に切断することが可能なタンパク質分解酵素を指す。コラーゲンの最初の切断がコラゲナーゼによって行われると、より特異性の低いプロテアーゼがコラーゲンの分解を完了する。コラゲナーゼは、それらのタンパク質分解活性のために金属イオン、例えば亜鉛もしくはカルシウムを要求する金属酵素である。「コラゲナーゼ」は、自然には、細菌細胞、例えばクロストリジウム・ヒストリチカム(Clostridium histolyticum)の細胞に伴われて見いだされる「細菌コラゲナーゼ」であってもよい。「細菌コラゲナーゼ」の例は、クロストリジオペプチダーゼAを含む。精製プロトコールによって定義される種々の種類のクロストリジオペプチダーゼAがSigma(St.Louis,MO)から市販されている。また「コラゲナーゼ」は、自然には、哺乳動物細胞、例えば結合組織細胞に伴われて見いだされる「哺乳動物コラゲナーゼ」であってもよい。本明細書で使用されるように、「哺乳動物コラゲナーゼ」は、基質の金属プロテイナーゼ(MMP)を含み、これらは分泌され、そして膜に結合されている亜鉛−エンドペプチダーゼである。MMPの例は、I型もしくはII型コラーゲンよりも効率的にIII型コラーゲンを分解するMMP−1とも呼ばれる間質コラゲナーゼ、II型もしくはIII型コラーゲンよりもI型コラーゲンの分解において強力であるMMP−8とも呼ばれる好中球コラゲナーゼ、およびII型コラーゲンに対して最高の親和力を有するMMP−13とも呼ばれるコラゲナーゼ3である。本明細書で使用されるように、「哺乳動物コラゲナーゼ」は、また、ゼラチン(変性コラーゲン)、およびコラゲンIV、V、VII、IXおよびX型を分解するIV型コラゲナーゼとしてまた既知であるゼラチナーゼ含む。ゼラチナーゼの例は、ゼラチナーゼA(MMP−2)およびゼラチナーゼB(MMP−9)を含み、これらはそれらの基質に関して類似の基質特異性を有し、そして基底膜におけるコラーゲンIV成分の分解にもっとも関与していると考えられる。(Duffy et al.,2000,Breast Cancer Res.2(4):252−257)。
【0019】
「免疫組織化学アッセイ」または「免疫染色(immunostaining)アッセイ」は、免疫反応物質に特異的に結合する抗体を用いて組織もしくは細胞の特定の免疫反応物質に相関する特異標識を検出することによって、組織もしくは細胞の生化学的組成を研究する生物学的アッセイである。抗体は、高度に特異的な組み合わせ物において免疫反応物質に結合することが可能な性質を有する。この結合はその高度の特異性と低い解離定数を特徴とする。免疫反応物質は、抗原として働き、そして免疫応答を惹起することができるいかなる生物学的材料であってもよい。コラーゲンの免疫組織化学的アッセイのために有用な免疫反応物質の例は、組織サンプル中に存在するあらゆる種類のコラーゲン、例えば結合組織中のI、IIおよびIII型コラーゲン、および基底膜におけるIV型コラーゲンを含む。
【0020】
用語「組織サンプル」は、生物体(例えば、患者)、または生物体の構成要素(例えば、細胞)から得られるサンプルを指す。サンプルはいかなる生物組織のものでもよい。サンプルは、患者由来のサンプルである「臨床サンプル」、したがって「患者サンプル」、例えば剖検体であってもよい。本明細書で使用される「組織サンプル」は、新鮮でも、凍結されていても、または固定および包埋されている組織の切片であってもよい。組織サンプルの例は、限定されるものではないが、哺乳動物、例えばヒト、マウス、ラット、ブタ、イヌなどから採取される脳、副腎、結腸、小腸、胃、心臓、肝臓、皮膚、腎臓、肺、膵臓、睾丸、卵巣、前立腺、子宮、甲状腺および脾臓の組織切片を含む。
【0021】
免疫組織化学アッセイにおいて使用される標識された抗体に関して、用語「標識された」は、抗体に対して検出可能な物質をカップリングする(すなわち、物理的に結合する)ことによって抗体を直接標識すること、ならびに抗体が直接に標識される1種以上の他の試薬によって検出できるように抗体を間接標識することを包含するよう意図される。本発明において直接標識するために使用を見いだせる標識物は、蛍光標識物、または35S、32P、Hなどのような放射性アイソトープを含む。間接標識の例は、蛍光標識された二次抗体を用いる一次抗体の検出、およびそれに類するものを含む。
【0022】
用語、組織サンプルの「固定」もしくは「固定すること」は、組織サンプルの構成要素の実在する形態および構造を維持する目的で、組織サンプル、例えば細胞学的、組織学的または病理学的標本の調製において、「生物学的固定液」と呼ばれる化学試薬を用いる技術を指す。固定工程は、通常、生物学的固定液を用いる組織サンプルの構成要素の変性、沈降または架橋を伴う。
【0023】
用語、固定された組織サンプルの「包埋」は、顕微鏡検査のための組織切片を調製するために、ワックスもしくはプラスチック中にサンプルが包埋される手順を指す。包埋する媒質、例えばセロイジンもしくはパラフィンは、組織サンプルに対して機械的支持を与える。
【0024】
本発明は、コラゲナーゼを用いて組織サンプルを予めインキュベートすることが、非コラーゲンタンパク質に影響を与えることなく組織形態を保存してコラーゲンの免疫検出を
増進することを例証した。典型的には細胞を分離するために使用されるコラゲナーゼは、ホルマリン固定され、パラフィン包埋された組織切片においてコラーゲンの免疫検出を増進するために成功裏に使用されたことは決してなかった。コラーゲンの改良された免疫組織化学的検出のためのコラゲナーゼのこの新しい利用は、試験されたあらゆる種類のコラーゲン、例えばI、IV、VおよびVI型において広い用途を有する。したがって、本発明は、コラーゲンの免疫組織化学的検出のための新規方法を提供する。そのような方法は、正確な組織学的情報を提供する組織構造を保存し、一方で組織サンプルにおけるコラーゲンの免疫組織化学的検出を増強する。
【0025】
したがって、1つの一般的態様では、本発明は、
a.有効量のコラゲナーゼおよびコラゲナーゼの酵素活性に必要な陽イオンを含んでなるバッファー溶液とともに、組織サンプルをインキュベートし:
b.組織サンプル内のコラーゲンに特異的に結合することが可能な抗体に組織サンプルを暴露し:そして
c.組織サンプルに結合された抗体を検出する:
段階を含んでなる、組織サンプルにおけるコラーゲンを検出する免疫組織化学的方法に関する。
【0026】
1つの実施態様では、組織サンプルは、新鮮であるか、または新鮮な状態で凍結される。例えば、急速凍結に続く凍結置換(freeze substitution)または寒冷切断(cryosectioning)によって、新鮮か、または新鮮な状態で凍結された組織サンプルを得るための方法は、当業者には既知である。
【0027】
好適な実施態様では、組織サンプルは、化学溶液における固定と、それに続く脱水および包埋によって保存される。組織の固定および包埋の方法は、当業者には既知である(例えば、参照、Oliver et al.,1999,Methods Mol Biol,115:319−26)。組織サンプルは生物学的固定液、例えばアセトン、アルコール、ホルマリンもしくはパラホルムアルデヒド中で固定することができる。好ましくは、組織サンプルはホルマリン中で固定される。ホルマリンは、ホルムアルデヒドガスが水溶液に溶解されて生成されるアルデヒドに基づく固定液である。例えば、0.5%グルタルアルデヒドおよび2%ホルムアルデヒドを含有する固定液は、一般に、広い種類の組織固定のために適当である。組織サンプルの固定は、一定時間、例えば30分〜1時間、固定液中にサンプルを浸漬することによって達成できる。あるいはまた、組織サンプルの固定は、化学固定液と加熱作用、例えばマイクロ波処理の組み合わせによって達成できる。パラメーターは、限定されるものではないが、組織の種類、固定液の組成、固定の時間と温度を含み、特定の抗原を免疫標識する能力に影響を与えることができる。コラーゲンの免疫化学的検出に適当な最適固定条件は、これらのパラメーターを変えることによって実験的に決定できる。
【0028】
組織サンプルを固定する代表的方法は、1)バッファー(例えば、リン酸バッファー生理食塩水)中で組織サンプルを洗浄し、そして固定液(例えば、0.5%グルタルアルデヒドおよび2%ホルムアルデヒド、または95%アルコール)中で一定時間(例えば、30分〜1時間または数日)サンプルをインキュベートし;2)バッファー中で再度サンプルを洗浄し;3)遊離アルデヒド基の反応を止め(例えば、0.1%グリシン中でサンプルを洗浄することによって);そして場合によっては4)第2の固定液(例えば、0.1Mカコジル酸バッファー中2%OsO)中で一定時間(例えば、1時間)サンプルを固定し、次いで、再度、サンプルを洗浄する(例えば、0.1Mカコジル酸バッファー中で);段階を含む。
【0029】
固定後、組織サンプルは、有機溶媒、例えばエタノール、メタノールまたはアセトンの
濃度を、無水まで増大することにより、日常的には脱水される。脱水された組織サンプルは、一定時間パラフィン−ワックスをしみ込ませ、次いで、包埋用鋳型において新鮮なワックス中に包埋される。固定された組織サンプルを脱水および包埋する方法は、当業者には既知である。組織切片は、顕微鏡解析のために、固定および包埋された組織から、例えば、ミクロトームを用いて切断することができる。
【0030】
固定および包埋される組織サンプルはまた、市販の給源、例えば、Dako(Carpenturia,CA,Cat.No:T1068)またはBiomedia(Foster City,CA,Cat.No:M89)からヒトのチェッカーボード組織ブロック(checkerboard tissue block)から得ることができる。
【0031】
本発明の方法によれば、コラーゲンの免疫組織化学的検出前に、組織サンプルは、有効量のコラゲナーゼおよびコラゲナーゼの酵素活性に必要なイオンを含んでなる酵素溶液とともにインキュベートされる。本明細書で使用される「有効量のコラゲナーゼ」は、コラーゲンの検出前に組織サンプルとインキュベートされる場合に、サンプル中のコラーゲンの免疫組織化学的検出を増強し、一方でサンプルに関する正確な組織学的情報のために組織構造を保存することが可能であるコラゲナーゼの量を指す。研究される組織の種類、組織の固定および包埋のために使用される技術、使用されるコラゲナーゼの種類、検出されるべきコラーゲンの種類、インキュベーションの時間と温度などのようなパラメーターは、有効量のコラゲナーゼに影響を与えることができる。有効量のコラゲナーゼならびにアッセイのための他のパラメーターは実験的に決定することができる。
【0032】
細菌コラゲナーゼまたは哺乳動物コラゲナーゼを含むいかなる種類のコラゲナーゼも本発明の方法において使用できる。クロストリジオペプチダーゼA I,IVおよびXI型のようなSigmaから得られる細菌コラゲナーゼによる組織サンプルの前処理は、すべて、実施例4に記述されるようにコラーゲンIV型の免疫組織化学的検出を増進した。
【0033】
本発明の1つの実施態様では、コラゲナーゼの有効量は、10μg/ml〜10mg/mlの範囲のコラゲナーゼ濃度を有する酵素溶液におけるコラゲナーゼの量であり、そして酵素溶液の容量は、該組織サンプルを覆うのに十分である。好ましくは、コラゲナーゼの有効量は、1mg/mlのコラゲナーゼ濃度を有する酵素溶液におけるコラゲナーゼの量であり、そして酵素溶液の容量は、該組織サンプルを覆うのに十分である。例えば、顕微鏡スライド上のホルマリン固定され、そしてパラフィン包埋された組織サンプルのためのコラゲナーゼの有効量は、10μg/ml〜10mg/mlの範囲の、好ましくは約1mg/mlにおける酵素濃度を有するコラゲナーゼ溶液の約2〜3滴である。
【0034】
本発明の好適な実施態様では、組織サンプルは、有効量のコラゲナーゼおよびコラゲナーゼ活性に必要なイオンを含んでなる酵素溶液とともに、37〜45℃の範囲の温度においてインキュベートされる。もっとも好ましくは、インキュベーション温度は約40℃である。37℃の温度において30分〜24時間の範囲の種々の時間経過の間、細菌コラゲナーゼまたはIV型コラゲナーゼによるホルマリン固定され、そしてパラフィン包埋された組織の前処理が、基底膜に伴われるコラーゲンの免疫組織化学的検出を増進することに無効であったことが、以前には報告された(Basky,1984,Am.J.Clin.Pathol.82:191−194)。しかしながら、37℃の温度においてコラゲナーゼによるホルマリン固定され、そしてパラフィン包埋された組織の前処理が、インキュベーションが40℃において実施された場合ほど大きくはないけれども、コラーゲンの免疫組織化学的検出の若干の増進をもたらしたことが、本発明において観察された。これらの結果の差異は、従来の研究のインキュベーションバッファーにおいては、多分、コラゲナーゼ活性に要求されるイオン、カルシウムの欠如によるのであろう。したがって、本発明の方法では、コラゲナーゼの酵素活性に必要なイオン、例えばカルシウムもしくは亜鉛イオンが酵素溶液中に包含される。好適な酵素溶液は、コラゲナーゼ活性に必要なカルシウムイオン、Ca2+、亜鉛イオン、Zn2+を含むが、それは精製の間コラゲナーゼにしっかりと結合されている。さらなるZn2+は、キレーターが酵素溶液に添加されない限り必要ではないであろう。
【0035】
本発明のなおその他の実施態様では、組織サンプルは、有効量のコラゲナーゼおよびコラゲナーゼの酵素活性に必要な陽イオンを含んでなる酵素溶液とともに、10分〜24時間、好ましくは約1〜4時間の範囲の時間、もっとも好ましくは1時間の間インキュベートされる。
【0036】
本発明の方法によれば、組織サンプルが有効量のコラゲナーゼにより前もって消化された後、前処理された組織サンプル中のコラーゲンは、組織サンプル内のコラーゲンに特異的に結合することが可能な抗体を組織サンプルに暴露し、そして組織サンプルに結合された抗体を検出する段階を含んでなる免疫組織化学的検出方法によって検出することができる。
【0037】
本発明にとって有用である抗体は、いずれかの種類のコラーゲンに特異的に結合するモノクローナルもしくはポリクローナル抗体であってもよい。抗体は、限定されるものではないが、ヤギ、マウス、ラット、ヒツジ、ウマ、ニワトリおよびウサギを含む、種々の起源から得ることができる。コラーゲンに特異的に結合する抗体を生産する方法は当業者には既知である。例えば、ポリクローナル抗体は、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ヤギ、ウマなどのような適当な被験動物を、好適にはウサギを用い、免疫アジュバントの存在または不在下でコラーゲンにより免疫することによって惹起することができる。モノクローナル抗体(mAb)は、組織培養培地においてハイブリドーマ細胞を増殖させることによって生産でき、この場合、ハイブリドーマ細胞は、安定したハイブリドーマの形成を可能にする条件下で、コラーゲンで免疫された同系繁殖マウス、好ましくはBalb/cからの脾臓リンパ球と、適当な融合相手細胞、好ましくは骨髄腫細胞とを混合することによって得ることができる。また本発明にとって有用である抗体は市販の給源、例えば、I,IIおよびIII型コラーゲンのような数種類のコラーゲンのコレクションに結合するウサギ・ポリクローナル汎コラーゲン抗体(Chemicon,Temecula,CA)、I型コラーゲンに特異的に結合するヤギ・ポリクローナルコラーゲンI抗体(Santa Cruz,Santa Cruz,CA)、IV型コラーゲンに特異的に結合するマウス・モノクローナルコラーゲンIV抗体(Dako)、V型コラーゲンに特異的に結合するヤギ・ポリクローナルコラーゲンV抗体(Santa Cruz)、およびVI型コラーゲンに特異的に結合するヤギ・ポリクローナルコラーゲンVI抗体(Santa
Cruz)から得ることもできる。
【0038】
本発明によれば、コラーゲンに特異的に結合する抗体は、サンプル内のコラーゲンに対して抗体の特異的結合を可能にする水溶液中で、コラゲナーゼで前消化された組織サンプルとともにインキュベートされる。コラーゲンへの抗体の結合は、当業者には既知の種々の方法によって検出できる(Mokry,1996,Acta Medica(Hradec Kralove)39:129−40)。結合は、標識された抗体、例えば、コラーゲンに特異的に結合する蛍光標識された抗体を用い、そしてこの標識を検出する直接法によって検出することができる。
【0039】
好ましくは、組織サンプルにおけるコラーゲン特異的抗体の結合は、間接的方法、例えば、西洋ワサビ・ペルオキシダーゼ/抗ペルオキシダーゼおよびアルカリホスファターゼ/抗アルカリホスファターゼ法のような酵素/抗酵素複合体法によって検出することができる。間接的検出方法のその他の例は、アビジン−ビオチン相互作用に基づく、例えば、架橋されたアビジン−ビオチン、アビジン−ビオチン複合体、および標識されたアビジン
−ビオチンの方法である。間接的検出方法の他の例は、タンパク質A−抗体相互作用に基づく方法、およびハプテン抗体抗−ハプテン法を含む。
【0040】
検出段階は、通常、色素源の検出によって実施される。例えば、西洋ワサビ・ペルオキシダーゼまたはアルカリホスファターゼのような酵素により標識された二次抗体が、サンプルにおけるコラーゲンに特異的に結合する抗体(一次抗体)に対する二次抗体の特異的結合を可能にする条件下で、組織サンプルとともに最初にインキュベートされる。次いで、未結合の二次抗体が洗い落とされ、そしてサンプルとともに残留している二次抗体の量が、それぞれ3,3’−ジアミノベンジジンまたはニトロブルー塩化テトラゾリウム/5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−ホスフェート(トルイジン塩)のような酵素基質を用いて検出される。二次抗体に付着された酵素は、光学的顕微鏡下で肉眼的に見ることができる彩色された沈殿に基質を変えることが可能である。
【実施例1】
【0041】
方法および材料
ホルマリン固定され、パラフィン包埋されているヒトのチェッカーボード組織ブロック(Dako,Carpenturia,CA;Biomeda,Foster City,CA)が、日常的に免疫組織化学のために処理される(D’Andrea et al.,2003;Neuroscience Letters 333(3):163−166)。この研究でアッセイされる組織は、脳(n=10)、副腎(n=10)、結腸(n=6)、小腸(n=2)、胃(n=2)、心臓(n=6)、肝臓(n=10)、皮膚(n=3)、腎臓(n=8)、肺(n=10)、膵臓(n=10)、睾丸(n=8)、卵巣(n=8)、前立腺(n=8)、子宮(n=8)、甲状腺(n=10)および脾臓(n=10)であった。顕微鏡スライド上の組織切片が、慣例の方法にしたがって使用前に脱ロウされ、そして再び水和された(D’Andrea et al.,2003,前出)。この研究で使用される個々のコラゲナーゼは、細菌コラゲナーゼ、クロストリジオペプチダーゼA IA、IVおよびXI型(Sigma,St.Louis.MO,Product number C0130,C5138およびC7657)であり、これらはコラゲナーゼバッファー(脱イオンHO中TES遊離酸(Sigma,Product No T−1375)11.47g/l、塩化カルシウム・2水塩(Sigma,Product No C−3881)0.053g/lを含有、バッファーのpHは1MNaOHにより7.4に調整される)において調製された(1mg/ml)。この研究で使用されるプロテアーゼはペプシン溶液(Invitrogen Corp.,Carlsbad,CA,Catalog No:750102)、トリプシン(1mg/ml;Dako,Carpenturia,CA)およびプロテアーゼK(1mg/ml,Dako,Carpenturia,CA)であった。
【0042】
免疫組織化学的アッセイの前に、顕微鏡スライド上の組織切片は、前処理なし、酵素的前処理または熱前処理にしたがって群別された。コラゲナーゼ前処理では、コラゲナーゼバッファー中のコラゲナーゼ(10μg/ml〜10mg/ml、日常的には約1mg/ml)は、37〜45℃(日常的には約40℃)において5分間、前加熱された。次いで、酵素溶液約2〜3滴が各顕微鏡スライド上に添加されて組織切片を覆った。カバーガラスがスライド上の組織切片の上に静かに置かれ、そしてスライドが、湿潤チェンバー(スライドモート(moat)、Boekel Scientific,Festerville,PA,Model 240000)中、37〜45℃(日常的には約40℃)において10分間〜一夜(日常的には約1時間)インキュベートされた。一般プロテアーゼ前処理では、前記ペプシン、トリプシンもしくはプロテアーゼK酵素溶液が、37℃水浴において5分間、前加熱された。次いで、酵素溶液約2〜3滴が各顕微鏡スライド上に滴下されて組織切片を覆った。カバーガラスがスライド上の組織切片の上に静かに置かれ、そしてスライドが、湿潤チェンバー中、37℃において約10分間インキュベートされた。熱前処理では、顕微鏡スライド上の組織切片が、Targetバッファー(Dako,Carpenturia,CA)においてマイクロ波処理(Energy Beam Sciences,Inc.,MA)され、冷却され、リン酸バッファー生理食塩水(pH7.4,PBS)中に入れられ、そして室温で10分間3.0%Hで処理された。正確な加熱のために、マイクロ波処理用スライドラックに置かれた同数のスライド(n=24)が、常に、組織を上に有するスライドの数と無関係に一緒に加熱された(D’Andrea。et al.,2003,前出)。
【0043】
コラーゲンに関する免疫組織化学的アッセイでは、全インキュベーション(各30分)および洗浄が室温で実施された。正常な阻止血清(Vector Labs,Burlingame,CA)が全組織スライド上に10分間添加された。PBS中で短時間の洗浄後、切片は、ウサギ・ポリクローナル汎コラーゲン(1:2,000;Chemicon,Temecula,CA,Cat No:MAB1334)、ヤギ・ポリクローナルコラーゲンI(1:1,500;Santa Cruz,Santa Cruz,CA,Cat No:SC−8784)、マウス・モノクローナルコラーゲンIV(1:200;Dako,M785)、ヤギ・ポリクローナルコラーゲンV(1:150,Santa Cruz,Cat No:SC−9851)およびヤギ・ポリクローナル抗コラーゲンVI(1:25;Santa Cruz,Cat No:SC−9854)から選ばれる一次抗体とともにインキュベートされた。首尾一貫性および比較分析のために、同じ一次抗体タイターが各群の実験を通して使用された。次いで、スライドはPBS中で洗浄され、そしてヤギ・抗ウサギ、ウサギ・抗ヤギまたはウマ・抗マウスのビオチン化二次抗体(VECTASTAIN ABC Kit,Vector Labs,Burlingham,CA,Cat No:PK−6105)とともにインキュベートされた。PBS中で洗浄後、アビジン−ビオチン−西洋ワサビペルオキシダーゼ複合試薬(Vector Labs)が添加された。全スライドが洗浄され、そして3,3’−ジアミノベンジジン(Biomedia,S10)を用いて2回各5分処理され、蒸留水中で洗浄され、そしてヘマトキシリン(Sigma,St.Louis,MO,MHS−16)を用いて対比染色された。
【実施例2】
【0044】
正常なヒト脳のホルマリン固定され、パラフィン包埋された組織における酵素前処理によるコラーゲンIVの免疫組織化学的検出の増進
正常なヒト脳のホルマリン固定され、パラフィン包埋された組織におけるコラーゲンの免疫組織化学的検出に及ぼす種々の前処理法の影響が比較される。類似の実験が、他の種類の組織サンプル、例えば新鮮な組織切片、凍結組織切片または他の種類の固定され、包埋された組織に及ぼす前処理法の影響を比較するために実施されてもよい。
【0045】
ヒトの正常な脳のチェッカーボード組織ブロック(Dako,Carpenturia,CA;Biomeda,Foster City,CA)が、この研究のために使用された。組織は、実施例1に記述された手順を用いて、熱によるか、一般プロテアーゼ、例えば、ペプシン(販売元から前希釈された)、トリプシン(1mg/ml)もしくはプロテアーゼK(1mg/ml)によるか、またはクロストリジオペプチダーゼA IV型(1mg/ml)によって前処理された。コラーゲンIVに関する免疫組織化学的アッセイは、マウスのモノクローナルコラーゲンIV(1:200;Dako)を用いて実施例1に記述されたように実施された。
【0046】
図1は、正常なヒト脳のホルマリン固定され、パラフィン包埋された組織におけるコラーゲンIV免疫検出に及ぼす種々の前処理条件の効果を示す。コラーゲンの免疫標識の存在は褐色染色として提示された。観察できる標識はネガティブ対照のスライドでは観察されなかったが、この場合、一次抗体、すなわち、抗体がコラーゲンIVに特異的に結合する、は、抗体希釈バッファー(Zymed Labs,South SanFrancisco,CA)により置き換えられた。組織が前処理されなかった場合、何らかのコラーゲンIVの免疫標識はほとんど検出されなかった(図1A)。熱による組織の前処理は、わずかに多くのコラーゲンIV免疫検出をもたらした(矢印ヘッド)(図1B)。コラーゲンIVの劇的に増加した量がペプシンで前処理された組織において検出された(図1C)。ペプシン前処理によるコラーゲンの免疫組織化学的検出の増進は、従来報告された結果と合致している(Barsky,1984,前出)。従来の報告(Barsky,1984,前出)の結果とは反対に、トリプシンもしくはプロテアーゼKによる前処理が、ペプシンに比較して類似の増強されたコラーゲン検出を生じることが本発明を通して観察された。コラゲナーゼ、クロストリジオペプチダーゼA IV型による組織の前処理は、ペプシン前処理から得る検出に比較して、コラーゲンIV免疫組織化学的検出の同等の強度と細部をもたらした(図1D)。最小の毛管の周囲のコラーゲン標識の微細部に注目せよ(図1C,D)。熱とコラゲナーゼの両方で前処理された組織は、コラゲナーゼのみで前処理された組織に比較して、コラーゲン免疫検出の一層の増進を生じなかった。これらのデータは、酵素的前処理の有利な効果は、正常なヒト脳のホルマリン固定され、パラフィン包埋された組織におけるコラーゲンIV免疫検出の増進において、熱の前処理の効果よりも大きかったことを示している。増強されたコラーゲン検出は、熱による方法によって架橋するホルマリン結合の除去または水和に因るものではなく、むしろ、それは、汎プロテアーゼ(pan−protease)前処理の間に影響されやすいコラーゲンエピトープからのタンパク質の消化または除去によるか、あるいはコラゲナーゼ前処理の間に、より多くのエピトープを生成するようなコラーゲンの消化によるのであろう。
【実施例3】
【0047】
コラゲナーゼ前処理による複雑な組織構造をもつ組織における組織形態の改良された検出および保存
一般プロテアーゼ処理の1つの共通の副作用は、そのような種類の前処理が、腎臓、腸、脾臓、睾丸、その他のような複雑な組織構造をもつ組織の中で周囲領域の形態において、しばしば劇的な変化をもたらすことである。例えば、睾丸の精子細胞および周囲の睾丸の構造(矢印、図2C)ならびに腎臓の集合する細管の上皮(矢印、図2D)の形態は、ペプシンによる過剰な消化によりほとんど完全に失われたが、プロテアーゼ処理なしでは良好に保存された(図2A,B)。トリプシンおよびプロテアーゼKによる前処理は、ペプシンのそれと類似の副作用を生んだ。熱処理は組織の形態を保存するけれども、そのような種類の前処理は、酵素処理に較べてコラーゲンの免疫検出を増進しなかった(実施例2)。組織がコラゲナーゼ、クロストリジオペプチダーゼA IV型により前処理された場合、広く使用される汎プロテアーゼにより処理された組織に比較して免疫標識の同等の強度が検出されただけでなく、もっとも重要なことには、周囲の組織の形態が、睾丸の精子細胞(矢印、図2E)ならびに腎臓の集合する細管上皮(矢印、図2F)において保存された。組織がコラゲナーゼにより前処理された場合、上皮の細部と他の適切な構造物の保存を含む類似の有利な結果が、複雑な組織構造をもつ多数の他の組織、例えば、大、小腸、脾臓、胃などについて観察された。
【実施例4】
【0048】
多方面にわたるコラゲナーゼ前処理の方法
また、コラーゲンIV型の免疫組織化学的検出の増進は、細菌コラゲナーゼ、クロストリジオペプチダーゼA IV型以外の他のコラゲナーゼにより前処理された組織においても観察された。例えば、細菌コラゲナーゼ、クロストリジオペプチダーゼA I型、IV型もしくはXI型が、同一アッセイ条件下、コラゲナーゼ1mg/ml、約40℃で1時間のインキュベーション下で、代表的な例の正常なヒト脾臓および睾丸を前処理するために使用された。クロストリジオペプチダーゼA I型、IV型もしくはXI型による組織の前処理が、コラーゲンIV免疫標識の強度の改善(矢印ヘッド)および細胞の構造物の
保存(矢印)において類似する有利な効果をもたらすことが見い出された(図3)。
【0049】
IV型コラーゲン以外の他の種類のコラーゲンの免疫組織化学的検出の増進は、また、クロストリジオペプチダーゼA IV型により前処理された組織においても観察された。例えば、クロストリジオペプチダーゼA IV型による正常なヒト組織脾臓の前処理は、コラーゲンI型(矢印ヘッド、図4A)、V型(矢印ヘッド、図4B)、VI型(図4C)および汎コラーゲン抗体を用いる全コラーゲン(図4D)の免疫組織化学的検出の増進をもたらした。この増進は、コラーゲン免疫標識の強度増強および十分に保存された組織形態の両方として示される。
【0050】
コラーゲンの免疫組織化学的検出の増進は、種々のアッセイ条件下で観察された。日常的には、組織切片が有効量のコラゲナーゼを用いて40℃で1時間、前消化された。しかしながら、有効量のコラゲナーゼ、前消化インキュベーションの時間と温度は広い範囲内で変えることができる。例えば、4時間までの前消化インキュベーションは、1時間の前消化インキュベーションと類似する結果を生んだ。また、コラーゲン免疫組織化学的検出の若干の増進も、前処理が約37℃で実施された場合でさえ観察された。10μg/ml〜100mg/mlの範囲のコラゲナーゼ濃度が試験された。
【0051】
他方面にわたるコラゲナーゼ前処理方法は、一般プロテアーゼ前処理法の狭い操作条件を越える大きい利益を与える。例えば、一般プロテアーゼ前処理法の実施では、まさに1〜2分の追加時間による組織の消化は、過剰消化と、結果的に乏しい組織形態とをもたらすことがある。さらにまた、組織固定液の種類もまた、一般プロテアーゼ前処理のために使用されるパラメーターに影響を与え、それによっては、アルコール系固定液が最小の消化を要求するのに対し、ホルマリン固定液はさらなる時間を要求する。一般プロテアーゼ前処理のための狭い操作条件は、注意深く試験されなかった場合には、激しいコラーゲンの免疫標識にもかかわらず、不完全な形態を生じることがある。
【0052】
ホルマリン固定され、パラフィン包埋された組織切片を前処理してコラーゲンの免疫標識を増強するために、コラゲナーゼが成功裏に使用されたことは初めてである。コラゲナーゼ前処理法の有利な効果は、組織形態の良好な保存と使用の容易さを含むコラーゲンの免疫検出の増強を十分に越えるものである。コラゲナーゼ前処理法は、増進されたコラーゲンの免疫標識に関して解析される比較的多くの組織学的情報を可能にする。さらに、コラゲナーゼ前処理法は、コラーゲンの免疫組織化学的検出の増進が種々のアッセイ条件下で観察されたように融通性を有する。
【0053】
本発明の種々の態様が、実施例および好適な実施態様に関して先に具体的に説明されたけれども、本発明の範囲は、前記記述によってではなく、特許法の原則下で適当に解釈される次に示す請求の範囲によって定義されると解釈できる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1は、正常なヒト脳のホルマリン固定され、そしてパラフィン包埋された組織におけるコラーゲンIV免疫検出に及ぼす種々の前処理の効果を示す:(A)前処理法を使用しない:(B)熱前処理法を使用:(C)ペプシン前処理法を使用:および(D)コラゲナーゼ(クロストリジオペプチダーゼA IV型)前処理法を使用。種々の前処理条件においてコラーゲンIV免疫検出(矢印ヘッド)の強度変化に注目。Bar=100μm。
【図2】図2は、複雑な組織構造をもつ組織におけるコラゲナーゼ前処理によるコラーゲンIVの改良された免疫検出および組織形態の増進された保存を示す。正常なヒト睾丸(A,C,E)および腎臓(B,D,F)のホルマリン固定され、パラフィン包埋された組織は、いかなる酵素前処理もされない(A,B)か、またはペプシン(C,D)もしくはクロストリジオペプチダーゼA IV型(E,F)によって前消化されたかいずれかであった。種々の前処理条件におけるコラーゲンIV免疫標識(矢印ヘッド)の強度の変化に注目。また、酵素的前処理なし(矢印、A,B)か、またはコラゲナーゼ前処理(矢印、E,F)によるものと比較して、ペプシン前処理による精子細胞(矢印、C)および集合する細管上皮(collecting tubule epitherium)(矢印、D)のような若干の周囲の組織構造物の不十分な形態に注目。Bar=100μm。
【図3】図3は、種々のクロストリジオペプチダーゼA類を用いる組織の前処理によるコラーゲンIVの改良された免疫検出を示す。ホルマリン固定され、パラフィン包埋された正常なヒト脾臓(A,C,E)および睾丸(B,D,F)組織は、クロストリジオペプチダーゼA I型(A,B)、クロストリジオペプチダーゼA IV型(C,D)およびクロストリジオペプチダーゼA XI型(E,F)により前消化された。種々のコラゲナーゼ前処理におけるコラーゲンIV免疫標識(矢印ヘッド)の類似する強度および組織形態の増進された保存(矢印)に注目。Bar=100μm。
【図4】図4は、コラゲナーゼを用いる組織の前処理による種々のコラーゲンの改良された免疫検出を示す。ホルマリン固定され、パラフィン包埋された脾臓の正常なヒト組織は、クロストリジオペプチダーゼA IV型により前消化された:汎コラーゲン抗体を用いる、A.I型コラーゲンの免疫検出:B.V型コラーゲンの免疫検出:C.VI型コラーゲンの免疫検出:およびD.I、IIおよびIII型コラーゲンの免疫検出。Bar=50μm。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.有効量のコラゲナーゼおよびコラゲナーゼの酵素活性に必要な陽イオンを含んでなるバッファー溶液とともに、組織サンプルをインキュベートし:
b.組織サンプル内のコラーゲンに特異的に結合することが可能な抗体に組織サンプルを暴露し:そして
c.組織サンプルに結合された抗体を検出する:
段階を含んでなる、組織サンプルにおけるコラーゲンの免疫組織化学的検出方法。
【請求項2】
組織サンプルがアルデヒドを含有する溶液において固定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
組織サンプルがホルマリンを含有する溶液において固定される、請求項2の方法。
【請求項4】
組織サンプルがパラフィン包埋される、請求項2の方法。
【請求項5】
組織サンプルが組織切片である、請求項1の方法。
【請求項6】
組織切片が、哺乳動物の脳、副腎、結腸、小腸、胃、心臓、肝臓、皮膚、腎臓、肺、膵臓、睾丸、卵巣、前立腺、子宮、甲状腺および脾臓の組織切片からなる群から選ばれる、請求項5の方法。
【請求項7】
コラゲナーゼが細菌または哺乳動物起源のものである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
コラゲナーゼが1種類以上のコラーゲンの分解を触媒することが可能である、請求項7の方法。
【請求項9】
コラゲナーゼが、I型、II型、III型、IV型、V型、VI型およびXI型コラーゲンからなる群から選ばれる1種類以上のコラーゲンの分解を触媒することが可能である、請求項8の方法。
【請求項10】
コラゲナーゼの有効量が、バッファー溶液中約10μg/ml〜約10mg/mlである、請求項1の方法。
【請求項11】
コラゲナーゼの有効量が、バッファー溶液中約1mg/mlである、請求項10の方法。
【請求項12】
陽イオンが亜鉛またはカルシウム陽イオンである、請求項1の方法。
【請求項13】
抗体が1種類以上のコラーゲンに特異的に結合することが可能である、請求項1の方法。
【請求項14】
コラーゲンが、I型、II型、III型、IV型、V型およびVI型コラーゲンからなる群から選ばれる、請求項13の方法。
【請求項15】
インキュベートする段階が、約37〜45℃の範囲の温度において組織サンプルをインキュベートすることを含む、請求項1の方法。
【請求項16】
温度が約40℃である、請求項15の方法。
【請求項17】
組織サンプルにおけるコラーゲンの検出方法であって、改良が、有効量のコラゲナーゼ酵素およびコラゲナーゼの酵素活性に必要な陽イオンを含んでなるバッファー溶液ととも
に組織サンプルをインキュベートする段階を含む、上記方法。
【請求項18】
組織サンプルがアルデヒドを含有する溶液において固定される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
コラゲナーゼが細菌または哺乳動物起源のものである、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
コラゲナーゼが1種類以上のコラーゲンの分解を触媒することが可能である、請求項19の方法。
【請求項21】
陽イオンが亜鉛またはカルシウム陽イオンである、請求項17の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−532883(P2007−532883A)
【公表日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−507510(P2007−507510)
【出願日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【国際出願番号】PCT/US2005/011834
【国際公開番号】WO2005/101018
【国際公開日】平成17年10月27日(2005.10.27)
【出願人】(390033008)ジヤンセン・フアーマシユーチカ・ナームローゼ・フエンノートシヤツプ (616)
【氏名又は名称原語表記】JANSSEN PHARMACEUTICA NAAMLOZE VENNOOTSCHAP
【Fターム(参考)】