組織マトリックスのエラスターゼ処理
無細胞組織マトリックス(ATM)から修飾型無細胞組織マトリックス(mATM)を生成する方法であって、mATMはATMと比較して伸張性が低く、関連する構造上又は機能上の完全性を実質的に損なわない。本方法は無細胞組織マトリックス(ATM)を提供するステップと;ある期間、ATMをエラスターゼに曝露するステップと;を具える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2008年6月6日出願の米国仮特許出願第61/059,604号に対する米国特許法第119条に基づく優先権を主張し、全体を引用によって本明細書中に組み込む。
【0002】
本開示は、脊椎動物対象に対する内植(implanting)又は移植(grafting)用の無細胞組織マトリックス(ATM)に関する。特に、ATMの構造上又は機能上の完全性に実質的に影響を与えることなく、ATMにおける伸張性を低減し、ATMの群にわたる伸張性における変化を低減することに関する。
【背景技術】
【0003】
内植又は移植可能な組織の機械的特性は大きく変化しうる。このような変化のために、外科医は時として内植又は移植前に組織マトリックスをあらかじめ伸張させる。更には、特に大きな組織欠損症の修復のために、組織移植片の多数の小片は相互に縫合することが必要となる。それらの例においては、機械的特性における変化は、縫合手段及び内植又は移植手段を複雑化しうる。
【発明の概要】
【0004】
本開示は、ATMの構造上又は機能上の完全性に実質的に影響を与えることなく、ATMにおける伸張性を低減し、ATMの群にわたる伸張性における変化を低減することに関する。
【0005】
ある態様においては、方法は:無細胞組織マトリックス(ATM)を提供するステップと;ATMをエラスターゼにある期間曝露するステップと;を具える。例えば、ATMは、エラスターゼの濃度を構成する溶液にある期間曝露してもよい。曝露によってATMと比較して伸張性が低い修飾型ATM(mATM)が生じる。言い換えると、特異的な張力量に由来するmATMの伸張率(又は歪み)は同一の張力量に由来するATMの伸張率(又は歪み)より小さい。いくつかの実施においては、曝露時間及びエラスターゼの濃度は、mATMの所望の伸張性を取得するように制御される。mATMの所望の伸張性は、約5ニュートン/cmの張力の印加の下で、mATMの伸張率が14%ないし24%の範囲になるようにできる。例えば、約5ニュートン/cmの張力の下でのmATMの伸張率は約19%である。いくつかの実施においては、エラスターゼの濃度は約0.1ユニット/ミリリットルないし0.5ユニット/ミリリットルであるか、あるいは約0.2ユニット/ミリリットルないし0.25ユニット/ミリリットルである。エラスターゼの曝露時間は一般的には約12ないし24時間の間であり、更に一般的には少なくとも18時間である。本方法の特定の実施形態は、曝露の間にATMと溶液とを攪拌するステップを具える。このような攪拌は静かにしてもよく、あるいは更に強くしてもよい。攪拌は、組織とエラスターゼ溶液とを保持する容器を徐々に振盪することによって、あるいは繰返し容器を反転させることによって実施してもよい。振盪の速度及び振幅は変えることができ、容器を反転する速度も同様にできる。
【0006】
ATMは、例えば、総ての、あるいは実質的に総ての生存細胞が除去された組織(例えば、真皮)であってもよい。組織は例えば、筋膜、心膜組織、硬膜、臍帯組織、胎盤組織、心臓弁組織、靱帯組織、腱組織、動脈組織、静脈組織、神経結合組織、膀胱組織、尿管組織、及び/又は腸管組織であってもよい。いくつかの実施形態においては、ATMは、ヒト組織、ヒト以外の哺乳類組織、又はブタ組織から生成してもよい。ヒト以外の哺乳類組織はウシ組織であってもよい。
【0007】
別の実施形態は、前述の方法のいずれかによって生成される修飾型無細胞組織マトリックスを含む。
【0008】
更に別の態様によると、方法は:無細胞組織マトリックス(ATM)の群を提供するステップであって、等しい張力量が群中のATMの各々に印加される場合に、群中のATMの少なくとも一部が群中の他のATMと異なる伸張性(伸張率)を有するステップと;ATMのうちの1以上をエラスターゼにある期間曝露するステップと;を具える。エラスターゼは溶液の形態で、エラスターゼの濃度を構成してもよい。いくつかの実施形態においては、エラスターゼの曝露によって、1以上の修飾型ATM(mATM)が生じる。mATMのうちの1以上はその各々に対応するATMよりも伸張性が小さい。いくつかの実施形態においては、ある張力量に由来するmATMのうちの1以上の伸張率は、同一の張力量に由来するその対応するATMの伸張率よりも小さい。いくつかの実施においては、mATMにわたる伸張性における変化は、ATMにわたる伸張性における変化よりも有意に小さくなる。
【0009】
いくつかの実施形態においては、mATMにわたる伸張性における変化は、約5ニュートン/cmの張力の下で、mATMの少なくとも一部が約14%ないし24%伸張するようになる。いくつかの実施形態においては、mATMにわたる伸張性における変化は、約5ニュートン/cmの張力の下で、複数のmATMが約19%伸張するようになる。
【0010】
特定の実施は、約0.1ユニット/ミリリットルないし0.5ユニット/ミリリットル、又は約0.2ユニット/ミリリットルないし0.25ユニット/ミリリットルのエラスターゼの濃度を提供するステップを具える。曝露時間は一般的には約12ないし24時間であり、一般的には少なくとも約18時間である。
【0011】
いくつかの実施においては、群の1以上のATMは溶液への曝露の際に攪拌される。
【0012】
ATMは、例えば、総ての、あるいは実質的に総ての生存細胞が除去された組織(例えば、真皮)を含んでもよい。組織は例えば、筋膜、心膜組織、硬膜、臍帯組織、胎盤組織、心臓弁組織、靱帯組織、腱組織、動脈組織、静脈組織、神経結合組織、膀胱組織、尿管組織、及び/又は腸管組織を含んでもよい。ATMはヒト組織、ヒト以外の哺乳類組織(例えば、ブタ組織あるいはウシ組織)から生成してもよい。
【0013】
更に別の態様は、前述の1以上の方法によって処理される修飾型無細胞組織マトリックスの群を具える。
【0014】
更なる態様は:無細胞組織マトリックス(ATM)を提供するステップと;ATMをエラスターゼにある期間曝露するステップと;を具える方法を含む。一般的には、エラスターゼは溶液中にあり、エラスターゼの濃度を構成する。曝露によって、ATMと比較して伸張性が低い修飾型ATM(mATM)が生じる。本方法は更に:修復又は寛解を必要とする器官又は組織を有するとして脊椎動物対象を同定するステップと;組織又は器官の中又は上にmATM(又は相互に縫合された2以上のmATM)を配置するステップと;を具える。
【0015】
更なる別の態様は:無細胞組織マトリックス(ATM)の群を提供するステップであって、群中のATMの少なくとも一部が、群中の他のATMと異なる伸張性を有するステップと;群の1以上のATMをエラスターゼ(例えば、エラスターゼの濃度を構成する溶液)にある期間曝露するステップと;を具え、その曝露によって1以上の修飾型ATM(mATM)が生じ、mATMのうちの1以上が、その各々に対応するATMより伸張性が小さい。本方法は更に:修復又は寛解を必要とする器官又は組織を有するとして脊椎動物対象を同定するステップと;組織又は器官の中又は上にmATMを配置するステップと;を具える。
【0016】
更に、別の態様はエラスチンネットワークとコラーゲンマトリックスとを含む修飾型無細胞組織マトリックス(mATM)を有し、mATMの伸張性を約5ニュートン/cmの張力の印加の下で、mATMが約14%ないし24%伸張するようにすべく、エラスチンネットワークが破壊されており、コラーゲンネットワークは実質的に無傷である。特定の実施においては、コラーゲンネットワークは架橋結合を含まない。
【0017】
一般的な実施においては、mATMの伸張性を約5ニュートン/cmの張力の印加の下で、mATMが約14%ないし24%伸張するようにすべく、組織のエラスチンネットワークが十分に破壊され、mATMのコラーゲンネットワークは実質的に無傷である。いくつかの実施形態においては、mATMのコラーゲンネットワークは、ATMのコラーゲンネットワークと実質的に同様の特性を有する。例えば、mATMの組織、温度及び材料の特性はATMと同様である。
【0018】
過剰な伸張性を有する組織は、特異的に所望される伸張性のレベルを有する組織を取得するように処理できる。更に、組織サンプルごとの伸張性における変化が低減できる。このことは、組織又は器官を修復及び/又は寛解するために、相互に2以上の組織片を連結することを要求する手段において特に有用となりうる。組織サンプルの伸張性の均一性は理解されよう。
【0019】
別段に規定されない限り、本明細書中で用いられる総ての技術的及び化学的用語は、本開示が属する当該技術分野の当業者によって共通に理解されるのと同一の意味を有する。競合がある場合、本文書は、定義を含むことによって調整される。好適な方法及び材料は以下に記載されるが、本明細書中に記載のものと同様又は等価な方法及び材料は本開示の実施又は試験に用いることができる。本明細書中に記載の総ての刊行物、特許出願、特許及びその他の文献は、全体を引用することによって組み込まれる。本明細書中に開示の材料、方法及び実施例は単なる例示であり、限定することを意図しない。
【0020】
本開示の他の特徴及び利点は以下の説明、図面、及び特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、一般的な十分に水分を含む組織サンプルの応力−歪み線図を示す線グラフである。
【図2】図2は、無細胞組織マトリックス(ATM)をエラスターゼで処理し、処理したATMを器官又は組織の中又は上に配置する方法のフローチャートである。
【図3】図3は、5ニュートン(5N)の外力を受けた場合に、約1センチメートル長の、多様なエラスターゼ処理された組織サンプル又はエラスターゼ処理されていない組織サンプルが受ける伸張率を示す散布図である。
【図4A】図4Aは、エラスターゼ処理されていない組織サンプル、及びエラスターゼ処理された組織サンプルについて染色したサンプルを示す顕微鏡写真であり、染色部は組織サンプルのエラスチン含有量を示す。
【図4B】図4Bは、エラスターゼ処理されていない組織サンプル、及びエラスターゼ処理された組織サンプルについて染色したサンプルを示す顕微鏡写真であり、染色部は組織サンプルのエラスチン含有量を示す。
【図5】図5は、エラスターゼ処理を受けた場合に、多様な組織サンプルが受ける面積の増加率を示す棒グラフである。
【図6】図6は、定規の一部の隣に処理されていない動脈組織のサンプルと、エラスターゼ処理された組織サンプルとを示す写真である。
【図7】図7は、処理されていない組織サンプル(通常のALLODERM)、及びエラスターゼ処理された組織サンプルについて、Verhoeff染色した一連のサンプルを示す一連の写真である。
【図8】図8は、処理されていない組織サンプル(通常のALLODERM)、及びエラスターゼ処理された組織サンプルについて、Alcian blue染色した組織サンプルを示す一連の顕微鏡写真である。
【図9】図9は、エラスターゼ処理されていない組織サンプル、及びエラスターゼ処理された組織サンプルについて、温度に対する熱流を示す線グラフである。
【図10】図10A及び10Bは、経時的にエラスターゼ処理を受けた2の組織サンプルの面積変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本開示は、例えば脊椎動物対象に内植又は移植できる無細胞組織マトリックス(ATM)に関する。特に、この開示はその対応するATMと比較して伸張性が低い修飾型ATM(mATM)を生成することに関し、組織の付随する構造上又は機能上の完全性を実質的に損なわない。更に、本開示はATMの群からmATMの群を生成することに関し、mATMの群における組織の伸張性は、ATMの群における組織の伸張性よりも変化が小さい。言い換えると、特異的な張力量の下でのmATMの群における組織の伸張率は、同一の張力量の下でのATMの群における組織の伸張率よりも変化が小さい。
【0023】
本明細書で用いられるように、「伸張性(stretchiness)」という用語は一般的には、引張り応力の印加の下で、組織又は組織マトリックスが伸張(stretch、あるいはexpand)する能力のことである。図1は、十分に水分を含む真皮組織マトリックスに対する一般的な応力−ひずみ曲線を示す。縦軸はメガパスカル(MPa)で引張り応力を表わし、横軸は引張り歪みを表わす。「引張り応力(tensile stress)」はS=F/Aoで定義され、Fは張力であり、Aoは試験サンプルの断面積である。「引張り歪み(tensile strain)」は(Lf−Lo)/Lo(すなわち、ΔL/Lo)で定義され、Loは組織マトリックスの元の長さであり、Lfは引張り応力の下での組織マトリックスの長さであり、ΔLは組織マトリックスが受ける長さの変化である(すなわち、Lf−Lo=ΔL)。更に本明細書で用いられるように、「伸張率(percent extension)」は(Lf−Lo)/Lo×100%(すなわち、ΔL/Lo×100%)で定義され、ひいては、明細書全体にわたって「引張り歪み」という用語と互換的に用いられる。
【0024】
多くの軟部組織で一般的な表示された非線形性の関係は、3の明確な引張り応答の位相からなる。第1の位相は先端(toe)領域であり、第2の位相は応力の下でのコラーゲン原線維の伸張に対応し、最後の位相は組織材料の降伏及び最終破壊によって生じる。組織の伸張性は先端領域の長さによって表わされ、x軸と交差するように曲線の第2の位相を外挿することによって決定される。これは一次方程式y=a+bxを用いて数学的になされうる。x軸の切片は−a/bである。
【0025】
代替的に、約5ニュートン/cmの小さな力の下でのmATMとATMとの間での引張り歪み(又は伸張率)の比較が、mATM及びATMの伸張性を比較する方法として提供される。
【0026】
本明細書で用いられるように、「十分に水分を含む(fully hydrated)」ATM又は組織は、そのATM又は組織が大気圧の下で含むことが可能な、最大量の結合性及び非結合性の水を含むATM又は組織である。十分に水分を含む2以上のATM中の(非結合性及び/又は結合性の)水の量を比較する場合、任意の特定の組織から生成されるATMの最大量の水はATMの温度と共に変化するため、2(又は3以上)のATMに対する測定が同一の温度でなされるべきことは当然ながら重要である。十分に水分を含むATMの例は限定しないが、実施例1に記載の脱細胞化プロセスの終了時のもの、及び本明細書中に記載のような事前の凍結乾燥プロセス後に、室温(すなわち、約15℃ないし約35℃)で4時間、0.9%塩化ナトリウム溶液で再度水分補給されたATMを含む。ATMにおける結合性の水は、水及びATMの分子間の分子間相互作用(例えば、水素結合)ならびに/又はATMにおける水の運動性を制限する他の現象(例えば、表面張力及び幾何学的制限)によって(膨張性のある純水と比較して)分子運動性(回転性及び並進性)が低減したATMにおける水である。ATM内部の非結合性の水は、例えば生体液といった希釈水溶液中の膨張性のある水と同様の分子運動特性を有する。本明細書で用いられるように、「部分的に水分を含むATM(partially hydrated ATM)」は、同一のATMが十分に水分を含む場合に大気圧で含む非結合性及び/又は結合性の水の、100%未満であるが30%を超える量(例えば、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、又は99%を超える量)を大気圧で含むATMであり、更に部分的に水分を含むATM及び十分な水分を含むATMにおける水の量の測定は、同一温度でなされるべきである。
【0027】
図2はエラスターゼ処理方法のある実施を示すフローチャートである。本方法は:ATMを提供するステップ(符号102)と;ATMを(以下に記載の)エラスターゼ処理に曝露するステップ(符号104)と;を具える。エラスターゼ処理によって、ATMと比較して伸張性が低減したmATMが生成される(符号106)。例示された実施に示されるように、脊椎動物対象(vertebral subject)における器官又は組織が修復又は寛解が必要であるとして同定された場合(符号108)に、取得されたmATMは同定された器官又は組織の中又は上に配置できる(符号110)。エラスターゼ処理はATM中のペプチド結合を破壊して、破壊されたエラスチンネットワークを有するmATMを生成すると考えられる。一般的には、十分な数のペプチド結合が破壊されて、ATMと比較してmATMにおける伸張性の度合の低下を生じさせる。一般的には破壊されるペプチド結合の数は、特異的な張力量の下でのmATMの伸張率(又は、歪み)が同一張力量の下でのATMの伸張率(又は、歪み)の95%未満(例えば、95%、90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、10%、5%、又は2%未満)となる範囲で十分である。
【0028】
本明細書で用いられるように、「無細胞組織マトリックス(ATM:acellular tissue matrix)」は:総ての又は実質的に総ての生存細胞と;細胞を死滅させることによって生成される、総ての検出可能な細胞内成分及び/又は細片と;を除去することによって生成される組織由来の構造である。本明細書で用いられるように、「実質的に総ての生存細胞(substantially all viable cell)」を欠いたATMは、その生存細胞の濃度が、ATMが生成された組織又は器官における濃度の1%未満(例えば、0.1%、0.01%、0.001%、0.0001%、0.00001%、又は0.000001%未満)であるATMである。本明細書で用いられるように、「修飾型無細胞組織マトリックス(mATM:modified acellular tissue matrix)」はエラスターゼ処理を受けたATMである。他に明確に述べられている場合を除いて、ATMの使用、特徴等に関する本明細書中の様々な記載は、mATMに同様に適用される。
【0029】
本開示のATMは上皮基底膜を欠いてもよい。上皮基底膜は、上皮細胞の基底面に隣接する薄い細胞外物質のシートである。凝集した上皮細胞のシートは上皮を形成する。従って例えば、皮膚の上皮は表皮と称され、皮膚の上皮基底膜は表皮と真皮との間にある。上皮基底膜はバリア機能と、上皮様細胞の接着面とを提供する特異的な細胞外マトリックスである。上皮基底膜の固有成分は例えば、ラミニン、VII型コラーゲン、及びニドジェンを含む。
【0030】
上皮基底膜の固有な時間的及び空間的構成によって、それは皮膚細胞外マトリックスから区別される。本開示のATMにおける上皮基底膜の存在は、上皮基底膜が無細胞マトリックスの異種移植片のレシピエントにおいて、抗体の生成を誘発し、形成された抗体に結合する、多様な種特異的な成分を含みうる点で弱点となり得るであろう。更に、上皮基底膜は細胞及び/又は可溶因子(例えば、化学誘引物質)の拡散に対する、及び細胞浸潤に対するバリアとして作用しうる。従って、ATM移植片におけるその存在によって、レシピエント動物における無細胞組織マトリックスから新しい組織の形成を遅延できる。本明細書で用いられるように、上皮基底膜を「実質的に欠いた(substantially lack)」ATMは、無細胞組織マトリックス由来の、処理がされていない対応する組織で所有される上皮基底膜のうちの5%未満(例えば、3%、2%、1%、0.5%、0.25%、0.1%、0.01%、0.001%、又は更には0.001%未満)を含む無細胞組織マトリックスである。
【0031】
ATMによって保持される生物学的機能は細胞認識及び細胞結合、ならびに細胞伸展、細胞増殖、及び細胞分化を支持する能力を含む。このような機能は:非変性コラーゲンタンパク質(例えば、I型コラーゲン)と;多様な非コラーゲン性の分子(例えば、インテグリン受容体のような分子、グリコサミノグリカン(例えば、ヒアルロナン)又はプロテオグリカンといった高電荷密度を有する分子、あるいは他の付着因子のいずれかに対するリガンドとして作用するタンパク質)と;によって提供される。有用な無細胞マトリックスによって保持される構造上の機能は:組織学的構造の維持と;組織の成分の3次元配列、ならびに強度、弾性、及び耐久性といった物理学的特性の維持と;規定された有孔性と;高分子の保持と;を含む。ATMの生物学的機能の効果は、例えばATMの細胞増殖を支持する能力によって測定でき、ATMが生成する天然の組織又は器官の少なくとも50%(例えば、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%、99.5%、100%、又は100%超)になる。
【0032】
移植されたマトリックス物質は、できるが、周囲の宿主の組織又は器官と同一の組織又は器官から生成する必要はなく、関連する宿主組織の分化細胞といった細胞、間葉系幹細胞といった幹細胞、又は前駆細胞を侵入又は浸潤させることによって、単純に再構築を受け入れられるようにすべきである。再構築は上述のATM成分及び周囲の宿主組織からのシグナル(サイトカイン、細胞外マトリックス成分、生体力学的刺激、及び生体電気的刺激といった)によって指示される。骨髄及び末梢循環における間葉系幹細胞の存在は文献中に記載され、多様な筋骨格系組織を再生することを示した[Caplan(1991)J.Orthop.Res.9:641−650、Caplan(1994)Clin.Plast.Surg.21:429−435、及びCaplanら(1997)Clin Orthop.342:254−269]。更に、移植片は再構築プロセス時に、ある度合いの(しきい値を超える)張力及び生体力学的強度を提供すべきである。
【0033】
ATMは上述の特性がマトリックスによって保持される限り、任意のコラーゲン含有性の軟部組織及び筋骨格(例えば、真皮、筋膜、心膜、硬膜、臍帯、胎盤、心臓弁、靱帯、腱、血管組織(動脈、及び伏在静脈といった静脈)、神経結合組織、膀胱組織、尿管組織、又は腸管組織)から生成できることは理解されよう。更に、その中又は上にATMが配置される組織は実質的に、細胞を侵入又は浸潤させることによって再構築されうる任意の組織を含む。関連する組織は限定しないが、骨のような骨格組織、軟骨(例えば、関節軟骨)、靱帯、筋膜、及び腱を含む。上述の同種移植片のいずれかが配置されうる他の組織は限定しないが、皮膚、歯肉、硬膜、心筋、血管組織、神経組織、横紋筋、平滑筋、膀胱壁、尿管組織、腸管、及び尿道組織を含む。
【0034】
更に、ATMは一般的にはATM移植片のレシピエントと同一種の1以上の個体から生成されるが、この場合は必ずしも必要としない。従って、例えば、ATMはブタ組織から生成し、ヒト患者に内植できる。ATMのレシピエント及びATMの生成用の組織又は器官のドナーとして作用しうる種は限定しないが、ヒト、ヒト以外の霊長類(例えばサル、ヒヒ、又はチンパンジー)、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、スナネズミ、ハムスター、ラット、又はマウスを含む。例えばドナーは末端ガラクトースであるα−1,3ガラクトース部分を欠くように遺伝学的に操作された動物(例えば、ブタ)であってもよい。好適な動物の記載については、その総ての開示が全体の引用によって本明細書中に組み込まれる、同時係属中の米国特許出願第10/896,594号及び米国特許第6,166,288号参照。
【0035】
ATMが提供される形態は、由来する組織又は器官、及びレシピエントの組織又は器官の性質、ならびにレシピエントの組織又は器官における損傷又は欠損の性質に依存する。従って例えば、心臓弁に由来するマトリックスは:弁全体としてか;小さなシート又は条片としてか;多様な形状及び/又は寸法のいずれかに切除された小片として;あるいは、粒子形態で;提供できる。同一の概念は上に列挙した組織及び器官のいずれかから生成されるATMに適用される。
【0036】
ATMは多様な方法によって生成できる。その生成で用いられるステップによって上述の生物学的及び構造上の特徴を有するマトリックスが生じることが、要求される総てである。有用な生成方法は、米国特許第4,865,871号及び第5,366,616号、ならびに同時係属中の米国特許出願第09/762,174号、第10/165,790号、及び第10/896,594号に記載のものを含み、その総ては全体の引用によって本明細書中に組み込まれる。
【0037】
手短に言うと、ATMの生成に関連するステップは一般的には、ドナー(例えば、ヒトの死体又は上に列挙した哺乳類のいずれか)から組織を収集する際の、生物学的及び構造上の機能を同様に維持する条件下での細胞除去と同時又はその前の、組織を安定化し、かつ生物化学的及び構造上の分解を防止するための化学的処理を含む。任意の生体不適合性の細胞除去剤と同様に、炎症を生じさせうる死細胞及び/又は溶解細胞の成分の全体的な除去後に、マトリックスは本開示のエラスターゼ処理方法を受けうる。代替的にATMは、マトリックスの生物学的及び構造上の記載された特性を維持するのに必要な条件下で更に、凍結保存剤で処理し、凍結保存し、選択的に凍結乾燥できる。凍結乾燥後、組織は同様の機能保存条件下で、選択的に微粉砕又は微粒子化されて、粒子状のATMを生成する。凍結保存又は凍結乾燥(及び選択的には、微粉砕又は微粒子化)の後に、ATMはそれぞれ解凍されるか、あるいは再度水分補給され、次いで本開示のエラスターゼ処理方法を受ける。総てのステップは一般的に、無菌又は滅菌条件下で行われる。
【0038】
初期の安定化溶液は、浸透圧性、低酸素性、自己溶解性、及びタンパク分解性の分解を抑止及び予防し、微生物汚染に対し保護し、例えば平滑筋構造(例えば血管)を含む組織で生じうる機械的な損傷を低減する。安定化溶液は一般的には、好適な緩衝剤と、1以上の抗酸化剤と、1以上の膨張剤と、1以上の抗生物質と、1以上のプロテアーゼ阻害剤と、いくつかの場合においては平滑筋弛緩薬とを含む。
【0039】
組織はその後、コラーゲンマトリックスの生物学的及び構造上の一体性を損傷することなく、マトリックスの構造から生存細胞(例えば、上皮細胞、内皮細胞、平滑筋細胞、及び線維芽細胞)を除去するために、処理溶液中に配置される。処理溶液は一般的には、好適な緩衝剤、塩、抗生物質、1以上の界面活性剤、架橋結合を防止するための1以上の薬剤、1以上のプロテアーゼ阻害剤、及び/又は1以上の酵素を含む。組織の処理はマトリックスの構造上の一体性が維持されるように、ある濃度及びある期間、活性剤を含む処理溶液ですべきである。
【0040】
組織が脱細胞化された後で、本開示のエラスターゼ処理方法を受けるか、あるいは以下に述べるように凍結保存されうる。
【0041】
代替的に、組織はエラスターゼ処理を受ける前に凍結保存されうる。その場合は脱細胞化後に、細胞は凍結保存溶液においてインキュベートされる。この溶液は一般的には1以上の抗凍結剤を含み、凍結中に生じうるマトリックスの構造に対する氷晶損傷を最小化する。組織が凍結乾燥される場合、溶液は一般的には更に、1以上の抗乾燥成分を含み、乾燥中の構造の損傷を最小化し、凍結中に伸張も収縮も受けない有機溶剤及び水の組合せを含んでもよい。抗凍結剤及び抗乾燥剤は同一の1以上の物質にできる。組織が凍結乾燥されない場合、約−80℃でフリーザーに(滅菌容器に)配置することによってか、あるいは滅菌液体窒素に投入することによって凍結でき、使用まで−160℃未満の温度で保存する。サンプルは、例えば約37℃で水浴を含む非透過性の滅菌容器に浸漬することによって、あるいは周囲条件下で組織が室温になるのを可能にすることによって、使用前に解凍できる。
【0042】
組織が凍結及び乾燥凍結される場合、凍結保存溶液におけるインキュベーションに続き、組織は水蒸気に対して透過性があるが、細菌に対して透過性がない滅菌容器、例えば水蒸気透過性のポーチ又はガラスバイアルの内部にパッケージングされる。好適なポーチの片側は医療用で多孔性の、デラウェア州ウィルミントンのDuPont Company社の商標製品であるTYVEK(登録商標)膜からなる。この膜は水蒸気に対して多孔性であり、細菌及び粉塵に対して不透過性である。TYVEK(登録商標)膜は不透過性のポリエチレン製ラミネートシートに熱融着され、片側が開放され、ひいてはポーチを両側に形成する。開放ポーチは使用前に照射(例えば、ガンマ線照射)によって滅菌される。組織は滅菌ポーチ内に開放端を通して無菌で配置される。開放端はその後無菌で熱融着されて、ポーチを閉止する。パッケージングされた組織は以降、次の処理ステップにわたって微生物汚染から保護される。
【0043】
組織を含む容器は、特異的な抗凍結剤の剤形と適合性があり、凍結損傷を最小限にする特異的な速度で低温に冷却される。好適な冷却プロトコルは例えば米国特許第5,336,616号参照。組織はその後、水蒸気が各氷晶の相から経時的に除去されるように、真空条件の下で低温で乾燥される。
【0044】
水蒸気透過性容器におけるサンプルの乾燥の完了時に、凍結乾燥装置の真空は窒素、ヘリウム、又はアルゴンといった乾燥不活性ガスで置き換えられる。同一の気体環境で維持される一方で、半透過性容器は不透過性(すなわち、水蒸気ならびに微生物に対して不透過性)の容器(例えば、ポーチ)内部に配置され、例えば熱及び/又は圧力によって密封される。組織サンプルがガラスバイアルで凍結及び乾燥される場合、バイアルは好適な不活性栓(inert stopper)で真空下で密封され、乾燥装置の真空は無負荷になる前に不活性ガスで置き換えられる。いずれの場合においても、最終生成物は不活性ガスのガス体中に密閉される。凍結乾燥された組織は、エラスターゼで処理されるまで冷却条件下で保存できる。
【0045】
以下に述べるように、エラスターゼ処理されたATMの再度の水分補給後、組織適合性のある生存細胞はATMに回復して、宿主によって再構築されうる永続的に受容可能な移植片を生成できる。これは一般的には、哺乳類対象においてATMを配置する直前になされる。マトリックスが凍結乾燥された場合、再度の水分補給後になされる。ある実施形態においては、組織適合性のある生存細胞は、移植前の標準的なインビトロでの細胞培養技術によって、あるいは移植後のインビボでの再増殖によってマトリックスに追加される。インビボでの再増殖は、レシピエント固有の細胞がATM内に移動することによって、あるいはインサイチューで他のドナーからATMにレシピエントから取得される細胞又は組織適合性のある細胞を注入又は注射することによってなされうる。
【0046】
再構成のために用いられる細胞型は、ATMが再構築されている組織又は器官の性質に依存する。例えば、ATMでの総ての皮膚層の再構築のための主要な要求は、表皮細胞又はケラチノサイトの修復である。例えば、直接的な対象のレシピエント由来の細胞はATMを再構成するのに用いることができ、得られた組成物はメッシュ状の分層植皮片の形態でレシピエントに移植できる。代替的に、培養した(自己又は同種の)細胞はATMに追加できる。このような細胞は例えば、標準的な組織培養条件の下で増殖でき、ATMに追加できる。別の実施形態においては、細胞は組織培養時にATMの中及び/又は上に増殖できる。組織培養時にATMの中及び/又は上に増殖された細胞は、好適なドナー(例えば、対象のレシピエント、又は同種のドナー)から直接的に取得でき、あるいは、ATMがない状態で組織培養時に最初に増殖できる。
【0047】
心臓弁及び血管性の導管の再構成に最も重要な細胞が内皮細胞であり、それは組織の内面を覆っている。内皮細胞は更に培養時に伸張でき、直接的に、対象のレシピエント患者あるいは臍動脈又は臍静脈の由来になりうる。
【0048】
マトリックスが共に再配置されうる他の細胞は限定しないが、線維芽細胞、胚性幹細胞、成体又は胚体の間葉系幹細胞(MSC)、前軟骨芽細胞(prochondroblast)、軟骨芽細胞、軟骨細胞、前骨芽細胞、骨細胞、破骨細胞、単核細胞、前心筋芽細胞(pro−cardiomyoblast)、周皮細胞、心筋芽細胞、心筋細胞、歯肉上皮細胞、又は歯周靱帯幹細胞を含む。当然ながら、ATMはこれらの細胞型のうちの2以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10)の組合せと共に再配置できる。
【0049】
上述のステップの総てを実行するための試薬及び方法は当該技術分野において周知である。好適な試薬及び方法は例えば、米国特許第5,336,616号に記載されている。
【0050】
粒子状のATMは、上述の粒子状でないATMのいずれかから、上述の生物学的及び構造上の機能の維持を生じさせる、任意のプロセスによって生成され、コラーゲン線維に対する損傷は、せん断された線維端を含めて、最小化すべきである。粒子状のATMを生成するための多くの既知の湿式及び乾式のプロセスは、コラーゲン線維の構造上の一体性をそのように維持しない。
【0051】
粒子状のATMを生成するための1の好適な方法は米国特許第6,933,326号に記載されている。そのプロセスは手短に、凍結乾燥させた皮膚のATMについて以下に述べるが、当該技術分野の当業者は容易に、本明細書中に列挙した他の組織のうちのいずれかに由来する凍結乾燥させたATMで用いる方法を構成できるであろう。
【0052】
皮膚の無細胞マトリックスは(例えば、非断続型の「連続(continuous)」切削ホイールに装着されるZimmer社のメッシャーを用いて)条片に切除される。得られた長い条片は次いで、約1cmないし約2cmの長さに切除される。ホモジナイザー及び滅菌されたホモジナイザープローブ(例えば、バージニア州ウォレントンのOMNI International社から入手可能なLabTeck Macroホモジナイザー)が構成され、ホモジナイザーの塔部に注入される滅菌液体窒素を用いて極低温(すなわち、約196℃未満ないし約−160℃)に冷却される。ホモジナイザーが極低温に到達した時点で、ATMの切除小片は、液体窒素を含み、均質化を行う塔部に添加される。ホモジナイザーは次いでATMの小片を極低温で破砕すべく作動する。極低温で破砕するステップの時間及び期間は、用いられるホモジナイザー、均質化を行うチャンバの大きさ、及びホモジナイザーが動作する速度及び時間に依存する。代替例として、低温破砕するプロセスは極低温に冷却される低温粉砕機において行うことができる。
【0053】
低温破砕された粒子状の無細胞組織マトリックスは選択的に、更に極低温に冷却した金属スクリーンの列を通して滅菌液体窒素で均質化した生成物を洗浄することによって、粒径で選別される。一般的には、小さい孔径を有する1以上のスクリーンに進む前に、比較的大きな孔径を有するスクリーンで所望されない大きな粒子を除去することが有用である。分離された時点で、粒子は手順中に吸収されうる任意の残留水分を確実に除去するように凍結乾燥できる。最終生成物は一般的には、約1ミクロンないし約900ミクロン、約30ミクロンないし約750ミクロン、又は約150ないし約300ミクロンの最長寸法の粒径を有する(通常は白色又は白色に近い色の)粉末である。この材料はノーマルセーラインでの懸濁液、又は当該技術分野で周知のその他の好適な再度の水分補給用の薬剤によって容易に再度の水分補給がされる。更に任意の好適な当該技術分野で周知の担体中に懸濁してもよい(例えば、全体の引用によって本明細書中に組み込まれる米国特許第5,284,655号参照)。高濃度で(例えば約600mg/mlで)懸濁された場合、粒子状のATMは「パテ(putty)」を形成でき、若干低い濃度(例えば、約330mg/ml)で懸濁された場合、「ペースト(paste)」を形成できる。このようなパテ及びペーストは、例えば組織及び器官中の任意の形状の孔、間隙、又は腔の内部に、このような孔、間隙、又は腔を実質的に満たすべく、好都合に充填できる。
【0054】
1の非常に好適な凍結乾燥させたATMはLifeCell Corporation社(ニュージャージー州ブランチバーグ)でヒト真皮から生成され、ALLODERM(登録商標)として小さなシートの形態で市販されている。このようなシートは、例えば1cm×2cm、3cm×7cm、4cm×8cm、5cm×10cm、4cm×12cm、及び6cm×12cmの寸法を有する矩形のシートとしてLifeCell Corporation社で市販されている。ALLODERM(登録商標)を凍結及び乾燥するのに用いられる抗凍結剤は、35%のマルトデキストリン及び10mMのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)の溶液である。従って最終的な乾燥生成物は約60重量パーセントのATMと、約40重量パーセントのマルトデキストリンとを含む。LifeCell Corporation社によって更に、類似生成物が、ALLODERM(登録商標)と同一比率のATM及びマルトデキストリンを有するブタ真皮(XenoDermと称する)から生成されている。更に、LifeCell Corporation社は、CYMETRA(登録商標)という名称の下でALLODERM(登録商標)を(上述のように)低温破砕することによって生成される粒子状の皮膚の無細胞マトリックスを市販している。CYMETRA(登録商標)の粒径は集団で定量すると、約60ミクロンないし約150ミクロンの範囲内となる。加えて、別の好適なATMは、更にLifeCell Corporation社から入手可能なブタ真皮から生成される水を含むATM:STRATTICE(登録商標)である。
【0055】
粒子状、あるいは粉砕した(粉末化した)本開示のATMの粒子は最長寸法が1.0mm未満となる。これより大きな寸法を有するATMの小片は粒子状ではない無細胞マトリックスである。
【0056】
[エラスターゼ処理]
本明細書で用いられるように、「エラスターゼ処理(elastase treatment)」という用語は一般的には、組織のエラスターゼネットワークを破壊する方法で、組織サンプル(又は複数のサンプル)をエラスターゼに曝露し、このようにして1以上の組織サンプルの伸張性を低減することである。エラスターゼ処理は一般的には、組織サンプルが脱細胞化された後に随時(例えば、すぐ後、数時間後、又は数日後)行われる。上に示したように、それは脱細胞化し、次いで長期間(例えば、数週、数箇月、又は更に数年)保存、凍結、又は凍結乾燥された組織で行ってもよい。
【0057】
エラスターゼは広範で多様な供給源から取得できる。従って、動物(例えば、ブタといった哺乳類)、植物、又は微生物(例えば、細菌)の供給源から取得できる。本開示の方法で用いられうるエラスターゼの特異的で限定されない例は以下の通りである。
【0058】
(a)ブタ膵臓のエラスターゼ(酵素委員会番号EC3.4.21.36)(膵ペプチダーゼE)
240のアミノ酸残基の単鎖ポリペプチドであり、4のジスルフィド架橋を含む。広範な特異性を有し、Ile、Gly、Ala、Ser、Val、及びLeuといった小さな疎水性アミノ酸のカルボキシル側でタンパク質を開裂する。更にアミドとエステルとを加水分解する。ブタ膵臓のエラスターゼは、トリプシン、キモトリプシン、又はペプシンによって攻撃されない基質である、天然エラスチンを加水分解する能力においてプロテアーゼの中でも特有である。ダイズトリプシン阻害剤及びカリクレイン阻害剤を添加することによって、エラスチン分解活性ではなく、タンパク質分解活性が抑制される。
【0059】
(b)ヒト好中球(白血球)エラスターゼ(酵素委員会番号EC3.4.21.37)
リソソームエラスターゼ、好中球エラスターゼ、多形核白血球エラスターゼ、セリンエラスターゼ、リソソームエラスターゼ、又は顆粒球エラスターゼとしても周知である。29KDaのセリンエンドプロテアーゼは4のジスルフィド結合を有する、238のアミノ酸の単鎖ペプチドであり、ブタ膵臓のエラスターゼと約43%の配列相同性を共有する。白血球エラスターゼは好適にはバリンのカルボキシル側で開裂し、それほどではないにせよ、アラニンの末端(すなわち、カルボキシル側)を更に開裂する。エラスチンの他に、白血球エラスターゼは:軟骨プロテオグリカンと;I、II、II及びIV型コラーゲンと;フィブロネクチンと;を開裂する。
【0060】
(c)ヒトマトリックスのメタロプロテイナーゼ12(MMP−12)(酵素委員会番号EC3.4.24.65)
MMP−12はマクロファージエラスターゼとしても周知である。ヒト白血球エラスターゼより広範な範囲の細胞で発現し、不活性酵素(チモーゲン)として分泌される。チモーゲンはプロペプチドドメインを除去することによって活性化される。MMP−12はエラスチン、IV型コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、ならびに、α1プロテイナーゼ阻害剤、α2抗プラスミン、及びプラスミノーゲン活性化因子阻害剤2を分解するが、間質コラーゲンを分解しない。
【0061】
(d)緑膿菌エラスターゼ等の微生物エラスターゼ
不溶性のエラスチン、コラーゲン、免疫グロブリン、血清α1プロテイナーゼ阻害剤、α2マクログロビン、ラミニン、及びフィブリンを加水分解するメタロプロテイナーゼである。
【0062】
対象のエラスターゼは:(i)全長の野生型成熟ポリペプチドと;(ii)機能的な(i)のフラグメントと;(iii)機能的な(i)及び(ii)の変異体と;を含む。本明細書で用いられるように、エラスターゼのポリペプチドの「フラグメント(fragment)」は対応する全長の野生型成熟エラスターゼより短い、対応する全長の野生型成熟エラスターゼのフラグメントである。エラスターゼの変異体は:1ないし50、1ないし25、1ないし15、1ないし10、1ないし8、1ないし5、又は1ないし3(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、15、20、25、30、35、40、又は50)のアミノ酸のうちの1以上の内部欠失か;任意の数のアミノ酸の内部付加又は末端付加(例えば、内部欠失について上で得られた同一数)か;あるいは、30以下(例えば、25、20、15、12、10、9、8、7、6、5、4、3、2、又は1以下)のアミノ酸置換か;を含む、全長の野生型成熟エラスターゼ又はエラスターゼのフラグメントにできる。アミノ酸置換は保存的置換であってもよい。保存的置換は一般的には、以下の基との置換を含む:グリシン及びアラニン;バリン、イソロイシン、及びロイシン;アスパラギン酸及びグルタミン酸;アスパラギン、グルタミン、セリン、及びスレオニン;リジン、ヒスチジン、及びアルギニン;ならびに、フェニルアラニン及びチロシン。エラスターゼの「機能的(functional)」なフラグメント及び「機能的」な変異体は、対応する全長の野生型成熟エラスターゼのエラスターゼ活性のうちの少なくとも25%(例えば、少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、97%、98%、99%、99.5%、100%、更に100%超)を有する。上述から変異体が対立遺伝子の変異体となりうることが理解されよう。
【0063】
いくつかの実施形態においては、タンパク質分解阻害剤(例えば、ダイズトリプシン阻害剤及びカリクレイン阻害剤)は、広範で非特異的なタンパク質分解活性を低減するが、総て又は相当なレベル(例えば、40%超、50%超、60%超、70%超、80%超、90%超、95%超、98%超、又は99%超)の、その非特異的なタンパク質分解活性を維持するために、ATMを処理するように用いられるエラスターゼ含有培地に含むことができる。更に、例えば、非特異的なタンパク質分解活性が低減するが、エラスチン分解活性が維持されるか、最小限に低減するか、あるいは更に増加されるエラスターゼの機能的変異体は有用となりうる。
【0064】
上述の総ての野生型エラスターゼのポリペプチド、フラグメント、及び変異体(以下では「エラスターゼのポリペプチド」と一括りにして称される)は、標準的な生物化学的及び化学的方法によって任意の関連する天然供給源から取得できる。代替的に、形質転換した宿主細胞(哺乳類、昆虫、若しくは酵母細胞を含む真菌といった真核細胞、又は細菌細胞といった原核細胞)を用いて標準的な組換え方法によって生成される組換え分子にできる。このような組換え方法は当該技術分野で公知である。
【0065】
エラスターゼのポリペプチドは未精製形態で(例えば、細胞溶解物又は組織破砕物として)、半精製形態で、あるいは実質的に純粋な形態で用いることができる。いくつかの実施形態においては分離してもよい。本明細書で用いられるように、「分離したエラスターゼのポリペプチド(isolated elastase polypeptide)」という用語は、天然に発生する対応物がないか;あるいは、例えば、膵臓、肝臓、脾臓、卵巣、精巣、筋肉、関節組織、神経組織、胃腸組織、若しくは腫瘍組織といった組織、又は、血液、血清、若しくは尿といった体液、又は、白血球、単核球細胞、リンパ球細胞、若しくは微生物細胞といった細胞において、天然に同時発生する成分から分離又は精製されるか;のいずれかである、エラスターゼのポリペプチドのことである。一般的にはエラスターゼのポリペプチドは、天然に同時発生するタンパク質及び他の天然の有機分子がなく、乾燥重量で少なくとも70%である場合に、「分離(isolate)」されたと見なされる。多様な実施形態においては、エラスターゼのポリペプチドの調合物は乾燥重量で少なくとも80%、少なくとも90%、又は少なくとも99%のエラスターゼのポリペプチドである。化学的に合成されたエラスターゼのポリペプチドは元来、天然に同時発生する成分から分離されているため、合成したエラスターゼのポリペプチドは「分離」されている。更に、エラスターゼのポリペプチドは、培養培地又はインキュベーション緩衝液が含む哺乳類の血清(又は、その他の体液)中にあるために、(例えば、ATMを処理するのに用いられる)培養培地又はインキュベーション緩衝液に存在でき、分離したエラスターゼのポリペプチドではない。
【0066】
上述のように、本開示の方法を行うのに有用な、分離したエラスターゼのポリペプチドは:天然供給源から(例えば、組織から)の抽出によって;ポリペプチドをコード化する組換え型核酸の発現によって;あるいは、化学合成によって;取得できる。天然に発生する供給源と異なる細胞系で生成されるエラスターゼのポリペプチドは「分離」されているが、それは必然的に天然に同時発生する成分がないためである。分離又は精製の度合は、任意の好適な方法、例えば、カラムクロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、又はHPLC分析によって測定できる。
【0067】
いくつかの実施においては、エラスターゼ処理は、得られたmATMにおいて所望の伸張性を取得する方法で制御される。それらの実施において、得られた所望のmATMの伸張性は、約5ニュートン/cmの張力の印加の下で、mATMが約14%ないし24%、約15%ないし23%、約16%ないし22%、約17%ないし21%、約18%ないし20%、又は約19%で伸張するようにできる。代替的に、所望の伸張性は、約5ニュートン/cmの張力の印加の下で、得られたmATMが同様に約24%、23%、22%、21%、20%、又は19%以下で伸張するようにしてもよい。
【0068】
所望の伸張性を有するmATMを生成するステップは、例えば、1以上の組織サンプルが曝露される溶液中において曝露の期間及びエラスターゼの濃度を制御するステップを具えることができる。曝露の期間は例えば、約12ないし24時間、13ないし23時間、14ないし22時間、15ないし21時間、16ないし20時間、17ないし19時間、又は約18時間にできる。代替的に、曝露の期間は少なくとも3時間、6時間、9時間、又は12時間であってもよい。代替的に、曝露の期間は30時間、18時間、又は9時間以下であってもよい。
【0069】
溶液中のエラスターゼの濃度は、約0.1ユニット/ミリリットルないし0.5ユニット/ミリリットル、あるいは約0.2ユニット/ミリリットルないし0.4ユニット/ミリリットルであってもよい。溶液中のエラスターゼの濃度は、約0.2ユニット/ミリリットル、約0.25ユニット/ミリリットル、あるいは約0.3ユニット/ミリリットルであってもよい。
【0070】
一般的に、1以上の組織サンプルを処理するのに用いられるエラスターゼ溶液の量は湿組織1グラムにつき約3ミリリットルである。他のエラスターゼ溶液の量は同様に許容される。例えば、湿組織1グラムにつき3ミリリットルを超える量は確実に作用するであろう。
【0071】
エラスターゼ処理は周囲温度で行うことができる。本明細書で用いられるように、「周囲温度(ambient temperature)」という用語は20ないし25℃の温度を意味する。
【0072】
一般的には、1以上の組織サンプル及びエラスターゼ溶液は、エラスターゼの曝露の期間の総てではないが、少なくとも一部の間、攪拌される。
【0073】
[治療の方法]
任意の特定の例で用いられるATM又はmATMの形態は適用すべき組織又は器官に依存する。
【0074】
ATMのシート(所望の寸法に選択的に切削された)は例えば:(a)損傷されたか、あるいは欠損を含む組織又は器官の周囲に巻かれるか;(b)損傷されたか、あるいは欠損を有する組織又は器官の表面に配置されるか;あるいは、(c)組織又は器官における窩、間隙、又は腔に巻取られ、挿入される。このような窩、間隙、又は腔は例えば:(i)外傷起源;(ii)患部組織の除去によるもの(例えば、梗塞した心筋組織);あるいは、(iii)悪性腫瘍又は良性腫瘍の除去によるもの;にできる。ATMを用いて、未発達の組織又は器官を増大又は寛解させることか、あるいは変形した組織又は器官を増大又は再構成することができる。1以上のこのような条片は任意の特定の部位で用いることができる。移植片は例えば、当該技術分野で周知の縫合、ステープル、鋲、又は組織接着剤若しくは組織充填剤によって適所に保持できる。代替的に、例えば欠損又は窩に十分に強固に充填される場合は、固定デバイスを要しなくともよい。粒子状のATMは薬学的に許容可能な滅菌した担体(例えば、ノーマルセーライン)に懸濁され、対象部位に皮下注射針を介して注射できる。代替的に、乾燥粉末化したマトリックス又は懸濁液は対象部位の上又は中に噴霧できる。懸濁液は更に特定部位の中又は上に注いでもよい。更に、粒子状のATMを比較的少量の液体担体と混合することによって、「パテ」を生成できる。このようなパテ、あるいは更に乾燥した粒子状のATMは、上述の器官又は組織における間隙、窩、又は腔のいずれかに層状化、充填、又は包入することができる。更に粒子状でないATMは、粒子状のATMと組合わせて用いることができる。例えば、骨における窩はパテで充填し、ATMのシートで覆うことができる。
【0075】
ATMは組織又は器官に対して、あるいはその上に、その組織又は器官及び隣接する組織又は器官を再生するために適用される。このように、例えばATMの条片が長骨の重大な間隙の欠損の周囲を包んで、間隙の欠損の周囲に骨膜等価物を生成でき、骨膜等価物は次いで、骨の間隙内での骨の生成を刺激できる。同様に、抜歯ソケットにおけるATMを内植することによって、損傷した歯肉組織は修復及び/又は置換でき、「新しい」歯肉組織は、例えば抜歯の結果として喪失しうるソケットの底部において任意の骨の修復及び/又は再生の助けとなる。歯肉組織(歯肉)に関しては、後退する歯肉は更に、懸濁液の注入によって、あるいは粒子状のATMのパテの好適な歯肉組織への充填によって置換できる。更に歯肉組織を修復するのに加えて、この治療は歯周病及び/又は抜歯の結果として喪失した骨の再生を生じさせることができる。上の歯肉の欠損のいずれかを治療するのに用いられる組成物は、本明細書中で列挙する1以上の他の成分、例えば鉱質除去された骨粉、増殖因子、又は幹細胞を含むことができる。
【0076】
粒子状でないATM及び粒子状のATMの双方は、他の骨格又は物理学的な支持成分と組合わせて用いることができる。例えば、1以上のATMのシートはATM以外の生物学的材料、例えば、ヴァージニア州ヴァージニアビーチのLifeNetといった組織バンクによって供給される放射線照射した軟骨、あるいは例えば、ニュージャージー州エデンタウン(Edentown)のOsteotech Corporation社によって供給されるボーンウェッジ及び骨型から生成される1以上のシートで層化できる。代替的には、このようなATM以外のシートは合成材料、例えばジョージア州アトランタのBiocure社によって供給されるようなポリグリコール酸又はヒドロゲルから生成できる。他の好適な骨格又は物理学的な支持材料は米国特許第5,885,829号に開示され、その開示は全体の引用によって本明細書中に組み込まれる。このような更なる骨格又は物理学的な支持成分は、任意の都合のよい寸法又は形状、例えば、シート、立方体、矩形、円板、球、又は粒子(粒子状のATMで上述したような)にできることは理解されよう。
【0077】
粒子状のATMと混合され、粒子状でないATMに含浸されうる活性物質は骨粉、鉱質除去された骨粉、及び上述のいずれかを含む。
【0078】
マトリックスに組み込まれうるか、ATM移植片の配置部位に投与されうるか、あるいは全身投与されうる因子は、当該技術分野に周知の広範な細胞増殖因子、血管新生因子、分化因子、サイトカイン、ホルモン、及びケモカインのいずれかを含む。因子の2以上の任意の組合せは、以下に列挙された手段のいずれかによって対象に投与できる。関連する因子の例は線維芽細胞増殖因子(FGF)(例えば、FGF1ないし10)、上皮増殖因子、ケラチノサイト増殖因子、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)(例えば、VEGF A、B、C、D、及びE)、血小板由来増殖因子(PDGF)、インターフェロン(IFN)(例えば、IFN−α、β、又はγ)、形質転換増殖因子(TGF)(例えば、TGFα又はβ)、腫瘍壊死因子α、インターロイキン(IL)(例えば、IL−1ないしIL−18)、Osterix、Hedgehog(例えば、ソニックヘッジホッグ又はデザートヘッジホッグ)、SOX9、骨形成タンパク質、副甲状腺ホルモン、カルシトニンプロスタグランジン、あるいはアスコルビン酸を含む。
【0079】
タンパク質の因子は更に、対象:(a)タンパク質である上の因子のうちの任意の1以上をコード化する核酸配列を含む発現ベクター(例えば、プラスミド又はウイルスベクター);あるいは、(b)このような発現ベクターで(安定して、又は一時的に)形質移入又は形質導入された細胞;に投与することによって、レシピエント対象に送達できる。発現ベクターにおいては、コード配列は1以上の転写調節要素(TRE)に動作可能に結合される。形質移入又は形質導入用に用いられる細胞はレシピエントに由来させ、レシピエントと組織適合性にできる。しかしながら、因子に対する短い曝露のみを要求することが可能であり、ひいては組織不適合性ではない細胞が更に用いられうる。細胞はマトリックスが対象に配置される前に、(粒子状の、あるいは粒子状でない)ATMに組み込まれうる。代替的に、対象において既に適所にあるATMに、対象において既に適所にあるATMに近い部位に、あるいは全身的に注入できる。
【0080】
当然ながら、上述のATM及び/又は他の物質又は因子のうちのいずれかの投与は単回又は複数回にできる。複数回の場合、投与は当該技術分野の当業者によって容易に決定可能な時間間隔にできる。多様な物質及び因子の用量は対象の種、年齢、体重、サイズ、及び性別によって大きく変化し、更に、当該技術分野の当業者によって容易に決定可能である。
【0081】
マトリックスが用いられうる状態は複数である。従って例えば、上述の損傷又は欠損のうちのいずれかを有する骨及び/又は軟骨の修復のために用いることができる。粒子状のATMと粒子状でないATMとの双方は、上に列挙した形態のいずれかで、あるいはプロセスのいずれかによって用いられうる。このような治療方法が適用できる骨は限定しないが、長骨(例えば、脛骨、大腿骨、上腕骨、橈骨、尺骨、又は腓骨)、手足部の骨(例えば、踵骨又は舟状骨)、頭部又は首部の骨(例えば、側頭骨、頭頂骨、前頭骨、上顎骨、下顎骨)、あるいは椎骨を含む。上述のように、骨の重大な間隙の欠損はATMで治療できる。このような重大な間隙の欠損においては、間隙は例えばパテ又は充填したATMのシートで満たすことができ、ATMのシートで包むことができる。代替的に、間隙はATMのシートで包むことができ、他の材料(以下参照)で満たすことができる。総てのこれらの骨及び/又は軟骨の治療において、更なる材料は修復プロセスを更に手助けするように用いることができる。例えば、間隙は海綿骨及び/又は硫酸カルシウムのペレットで満たすことができ、粒子状のATMは、鉱質除去された骨粉と混合して、骨の損傷又は骨の欠損の部位に送達できる。更に、ATMはレシピエントからの骨髄及び/又は骨細片と組合わせることができる。
【0082】
ATMは更に、筋膜、例えば腹壁筋膜又は骨盤底筋膜を修復するのに用いることができる。このような方法においては、ATMの条片は一般的に、例えば周囲の筋膜又は宿主組織、あるいはクーパー靱帯といった安定性のある靱帯又は腱に縫合することによって、腹腔又は骨盤底に結合される。
【0083】
ATMはヘルニアの修復に非常に好適である。ヘルニアは、体腔の含有物の体腔の外側への突出であり、通常その含有物は体腔において見出される。これらの含有物は多くの場合、体腔内部に並ぶ薄膜に取り囲まれ、全体として膜及び含有物は「ヘルニア嚢(hernial sac)」と称される。最も一般的には、ヘルニアは腹壁における脆弱性が腸突出が生じる局所的な孔又は欠損に拡大するとき、腹部において発症する。腹壁におけるこれらの脆弱性は一般的には、天然に腹壁の薄い位置、すなわち、腹部から末端及び他の器官へ延在する血管用の導管の通過を可能にすべく、天然の開口部が存在する部位で生じる。脆弱性の可能性がある他の領域は、任意の既往の腹腔手術の部位である。脂肪組織は通常、最初にヘルニアになり、腸管又は他の腹腔内器官の断片化が後に続く。器官への血液供給が低下するように、内臓器官の断片がヘルニア嚢内部に捕捉された場合、患者は、腸閉塞、壊疽及び死を含む重篤な合併症のおそれがある。ヘルニアは自然治癒せず、多くの場合病状を治療するのに外科的修復が必要とされるため、経時的に大きさが増える。一般的にヘルニアは、ヘルニア嚢を体腔へ再挿入し、その後脆弱化した筋肉組織を修復することによって修復される。
【0084】
多くの種類のヘルニアが存在する。男性のみに現れる鼠径及び陰嚢ヘルニアを除いて、ヘルニアは任意の年齢又は性の個体において見出される。ヘルニアの例は:腸管が鼠径管の後壁を介して鼠径管に突出しうる直接鼠径ヘルニア;腸管が鼠径管の尖部での脆弱性を介して鼠径管に突出しうる間接鼠径ヘルニア;大腿血管の下側の末端への通過によって生成される脆弱領域に腹腔含有物が通過する大腿ヘルニア;腸管含有物が陰嚢に突出する陰嚢ヘルニア;腹直筋の縁に沿ってヘルニアが生じるスピゲリウスヘルニア;腹腔含有物(例えば、腸管又は他の腹腔器官)が閉鎖管に突出する閉鎖孔ヘルニア;ヘルニアが下腰三角であるプチ三角(Petit’s triangle)を通るプティヘルニア、及びヘルニアが上腰三角であるグランフェルト−レスハフト三角(Grynfeltt−Lesshaft triangle)を通るグランフェルトヘルニア(Grynfeltt’s hernia)等の腰ヘルニア;腸の一方の側壁のみが絞扼されるリヒターヘルニア;ヘルニアがヘッセルバッハ三角(Hesselbach’s triangle)を通るヘッセルバッハヘルニア;下腹壁血管のいすれかの側面でヘルニア嚢が突出して、複合型の直接鼠径ヘルニア及び間接鼠径ヘルニアを提供するパンタロンヘルニア;クーパーヘルニア;上腹壁ヘルニア(腹部の正中線における臍と胸郭下部との間にヘルニアが生じる);胃の一部が横隔膜の食道裂孔を通って突出する、ボホダレクヘルニア及びモルガーニヘルニア(Morgagni’s hernia)等の横隔膜ヘルニア又は裂孔ヘルニア;並びに、突出が臍を通る臍ヘルニアを含む。
【0085】
先天的起源のヘルニアと対照的に、腹壁ヘルニア又は再発性ヘルニアとしても周知の切開創ヘルニアは、古い手術痕領域において腹腔内で生じる。切開創ヘルニアには、先天性ヘルニアよりも、外科的修復後のより高い再発のリスクがある。更に、多発性である再発性ヘルニア、すなわち、2以上の修復がおこなわれた後に再発するヘルニアの場合においては、修復成功の尤度は後の各手順で低下する。
【0086】
梗塞した心筋はATMによる修復を再構築するための別の候補である。以前の定説と対照的に、総ての心筋細胞が増殖性ひいては再生性の能力を喪失したわけではないことが現在周知である[例えば、Beltramiら(2001)New.Engl.J.Med.344:1750−1757;Kajsturaら(1998)Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA95:8801−8805]。更に、幹細胞は例えば骨髄及び血液中に、及び血管に付随する周皮細胞として存在し、心筋細胞に分化できる。梗塞した組織自体は除去され、かつ好適な大きさに切除されたATMのシートで置換されるか、あるいは、粒子状のATMの懸濁液が梗塞した組織に注入されうる。先天性の心臓形成不全、又は他の構造上の欠損は組織中に切開部を生成し、切開部によって形成された間隙を拡げ、所望の大きさに切削されたATMのシートを挿入することによって、あるいは心外膜面及び心内膜面にATMのシートを配置し、その間に粒子状のATMを配置することによって修復できる。特定の条件においては、切開部によって間隙を形成することは十分ではなく、いくつかの組織を切除することが必要となりうることは理解されよう。当然ながら当該技術分野の当業者は、ATMを同様に用いて、他の種類の筋肉、例えば尿管若しくは膀胱、又は二頭筋、胸筋、若しくは広背筋といった骨格筋の損傷又は欠損を修復できることは理解されよう。
【0087】
更に、ATMのシートは食道、胃、ならびに小腸管及び大腸管を含む、損傷又は除去された腸管組織を修復又は置換するのに用いることができる。この場合においては、ATMのシートは腸管における穿孔又は孔を修復するのに用いることができる。代替的に、ATMのシートは腸管中の間隙(例えば、腫瘍又は腸管の患部断片を除去するために外科手術によって形成された間隙)を満たすように用いることができるシリンダに形成できる。このような方法は例えば横隔膜ヘルニアを治療するのに用いることができる。シート形態におけるATMは更に、この条件において、ならびに横隔膜が組織の修復若しくは置換、又は追加を要求する他の条件において、横隔膜自体を修復するのに用いられうることは理解されよう。
【0088】
以下の実施例は、限定せずに本開示を例示するのに役立つ。
【0089】
[実施例]
以下で別段に述べない限り、以下の実施例で用いられたATMはLifeCell社の固有の方法によって処理された。ATMを生成する方法は、この実施例において広範に記載され、個別の実験で用いられるATMの詳細は関連する実施例で提供される。以下の記載はヒト皮膚からのATMの生成に用いられるものである。
【0090】
ヒトドナーの皮膚は、死亡したドナーから皮膚のサンプルを血縁者から同意を得た後に収集した、国家全体にある様々な米国の組織バンク及び病院から取得された。調達した皮膚は抗生物質(ペニシリン及びストレプトマイシン)を含む組織培養用のRPMI1640培地に配置され、水の氷(wet ice)上、同一培地において、でニュージャージー州ブランチバーグにあるLifeCell社の設備に輸送された。到着すると同時に、皮膚組織の容器の温度が測定され、温度が10℃を超える場合は廃棄する。RPMI1640培地は無菌状態下で交換され、皮膚は4℃で保存される一方、血清学的試験(例えば、RPR、VDRL、HIV I及びII、B型肝炎表面抗体、C型肝炎ウイルス、ならびにHTLV I及びII)が行われた。皮膚は次いで、事前凍結した体積濃度で35%のマルトデキストリン水溶液に移された。2ないし4時間後、皮膚は−80℃のフリーザーで以下に記載のように処理されるまで凍結及び保存された。
【0091】
凍結された皮膚は氷が見えなくなるまで、水浴において37℃で解凍された。事前凍結された溶液は以下のステップからなる更なる処理の前に排出された:(i)脱表皮化;(ii)脱細胞化;(iii)洗浄;(iv)抗凍結剤溶液におけるインキュベーション;(v)凍結乾燥。
【0092】
(i)脱表皮化
皮膚の表皮は、室温で8ないし32時間、ヒト皮膚用の脱表皮化溶液(1MのNaC1、体積濃度で0.5%のTritonX100、10mMのEDTA)において静かに攪拌して、組織サンプルをインキュベートすることによって除去された。表皮層は真皮から除去された。表皮は廃棄され、真皮は更なる処理のために保持された。
【0093】
(ii)脱細胞化
細胞成分を除去するために、真皮は脱細胞化溶液(体積濃度で2%のデオキシコール酸ナトリウム、10mMのEDTA、10mMのHEPES緩衝剤、pH7.8ないし8.2)を用いて5ないし60分間すすがれ、次いで、室温で12ないし30時間、その溶液において静かに攪拌してインキュベートした。
【0094】
(iii)洗浄
洗浄措置は前述の処理ステップを用いて、死細胞、細胞細片、及び残余の化学物質を洗い流すように作用する。脱細胞化した真皮は第1の洗浄溶液(体積濃度で0.5%のTritonX−100及び10mMのEDTAを含むリン酸緩衝食塩水(PBS))に移され、その後、室温で5ないし60分間、静かに攪拌してインキュベートされた。真皮はその後、第2の洗浄溶液(10mMのEDTAを含むPBS)において室温で静かに攪拌して3の連続洗浄を受けた。最初の2の洗浄は短く(各々15ないし60分)、3番目の洗浄は長かった(6ないし30時間)。
【0095】
(iv)抗凍結剤溶液におけるインキュベーション
洗浄措置後、組織マトリックスは室温で5ないし24時間、体積濃度で15%のマルトデキストリンを含む抗凍結剤溶液に移した。インキュベーションの間、ATM及び溶液は攪拌された。
【0096】
(v)凍結乾燥
抗凍結剤のインキュベーション後、得られたATMは好適な大きさに切削され、凍結乾燥され、次いで多様な試験に用いられた。
【0097】
エラスターゼ処理は実施される場合、洗浄ステップ(iii)の後に行われた。用いたエラスターゼは天然であり、ブタ膵臓から抽出された。エラスターゼはSigma Aldrich社から取得された。凍結乾燥したエラスターゼは200mMのトリスHCl緩衝剤(pH8.8)(例えば、貯蔵液)で再構成した。ステップ(ii)からのATM材料は最初に100mMのトリスHCl(pH8.0)ですすがれ、緩衝剤が排出された。すすぎ後、100mMのトリスHCl(pH8.0)は組織1グラムにつき約3mLの量でプラスチックボトルに添加された。エラスターゼ貯蔵液は1mLにつき約0.1ないし0.5ユニットの最終酵素濃度まで添加され、組織材料及びエラスターゼ溶液の混合物は周囲温度(例えば、約20ないし25℃)で一晩(約18ないし22時間)処理された。
【0098】
[組織伸長性に対するエラスターゼ処理の効果]
組織サンプルの伸長性に対するエラスターゼ処理の効果が調査された。その調査に基づいて、組織サンプルの伸長性は、エラスターゼ処理への曝露の結果として減少する可能性があると結論づけた。更に、組織伸長性における変化は組織サンプルの群をエラスターゼ処理に曝露することによって低減できる。
【0099】
[実施例1]
エラスターゼ処理されたmATMの伸張性は処理されないATMの伸張性と比較された。この実施例においては、30の組織サンプル対が取得された。各々の組織サンプル対は、同一ドナーロットからの、1の処理されない組織サンプルと1のエラスターゼ処理された組織サンプルとを含んだ。総ての組織サンプルは上述のLifeCell社の固有の方法によって処理され、それと共に、組織の一部は組織洗浄(ステップ(iii))の後にエラスターゼ処理に曝露された。エラスターゼ処理は:0.25ユニット/mLのエラスターゼ溶液中に組織サンプルを配置するステップと;室温で約20ないし24時間、組織サンプル及びエラスターゼ溶液の混合物をインキュベートするステップと;を具えた。エラスターゼ処理後、組織サンプルは組織洗浄溶液で洗浄された。
【0100】
エラスターゼ処理された組織サンプルは、エラスターゼ処理に曝露されなかった組織サンプルのコントロール群と比較された。この実施例においては、伸張性は、約1センチメートル長の組織サンプルが約5ニュートン(5N)の張力を受けた場合に生じる伸張率(%)によって示される。図3は多数のエラスターゼ処理されたATM(黒丸)及びエラスターゼ処理されないATMについてのこのようなデータを提供するグラフである。このグラフは横軸(x軸)でドナー年齢(年単位)を示し、及び縦軸(y軸)で力の印加の下での伸張率を示す。エラスターゼ処理されたmATM(黒丸)のデータ点に対して、同一ドナーロットでの対応する処理されないATM(白丸)のデータ点がある。
【0101】
グラフにおけるデータは、エラスターゼ処理されたmATMが対応するその各々の処理されないATMでなされるよりも小さな伸張率を生じたことを示す。例としては、ちょうど20歳のドナー年齢に対応するデータ点の対は、処理されないATMが張力の印加の下で60%を超えて伸張するが、対応するエラスターゼ処理されたmATMは20%未満しか伸張しないことを示している。これは伸張性における有意な減少を示す。
【0102】
更に、グラフにおけるデータは、処理されないATM(白丸)の母集団にわたる伸張性における変化の度合が比較的大きいことを示す。実際に、処理されないATMの一部は20%未満しか伸張しないが、別のものは60%を超えて伸張する。一般的には、老齢のドナーからの処理されないATMは若齢のドナーからの処理されないATMよりも伸張性が低い傾向にあった。
【0103】
実に対照的に、エラスターゼ処理されたmATM(黒丸)の母集団にわたる伸張性における変化の度合は比較的小さい。実際に張力の印加の下で、多くのエラスターゼ処理されたmATMは約19%伸張し、総てのエラスターゼ処理されたmATMは約14%ないし約24%伸張する。エラスターゼ処理されたmATMの伸張性(約14%ないし約24%)における変化は例示したグラフで陰影化された帯域で示される。
【0104】
[エラスターゼの濃度は0.1ユニット/ml程度の低さで十分であった]
多様なエラスターゼの濃度の有効性が試験された。0.1ユニット/ミリリットル程度に低いエラスターゼの濃度は皮膚組織サンプルの伸張性に影響を与えるのに十分であると定量された。
【0105】
[実施例2]
組織サンプルは、上に記載されているLifeCell社の固有の方法を用いて処理された。組織洗浄(ステップiii)後、エラスターゼ処理に曝露された。エラスターゼ処理の間、組織サンプルはそれぞれ、約0.1ユニット/ミリリットル又は約0.5ユニット/ミリリットルのエラスターゼの濃度を有するエラスターゼ溶液に曝露された。エラスターゼ溶液は、湿性の組織サンプル1グラムにつき約3ミリリットルの溶液で組織サンプルと混合された。エラスターゼの曝露は約18時間続いた。エラスターゼの曝露後、組織サンプルはトリスHCl緩衝剤ですすがれ、凍結乾燥溶液にインキュベートされ、凍結乾燥された。
【0106】
図4A及び4Bはそれぞれ、処理されない組織サンプル(図4A)と、0.1ユニット/ミリリットルの濃度でエラスターゼ溶液で処理される組織サンプル(図4B)を示す。双方のサンプルはVerhoeff染色されている。エラスターゼ処理された組織サンプルは処理されない組織サンプルと同一のドナーロット由来である。染色の陰影は組織サンプルの各々のエラスチン含有量を示す。図4A及び4Bの目視による比較によって、図4Bにおけるエラスチンネットワークが少なくとも部分的に破壊されているように見えることが明確になる。従って、少なくとも0.1ユニット/ミリリット程度に低いエラスターゼの濃度は組織サンプルの伸張性に影響を与えるのに十分であると思われる。
【0107】
エラスターゼ処理はACM中のペプチド結合を破壊して、破壊されたエラスチンネットワークを有するmATMを生成すると考えられている。一般的には、十分な数のペプチド結合が破壊されて、ATMと比較してmATMにおける伸張性の度合の低下を生じさせる。一般的には、破壊されるペプチド結合の数は、特異的な張力量の下でのmATMの伸張率(又は、歪み)が同一張力量の下での対応するATMの伸張率(又は、歪み)の95%未満(例えば、95%、90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、10%、5%、又は2%未満)となる範囲で十分である。
【0108】
[組織はエラスターゼ処理で大きさが増加する傾向にある]
エラスターゼ処理が組織サンプルの大きさに対して有する効果が調査された。この調査に基づいて、組織サンプルの大きさは、エラスターゼ処理への曝露の結果として増加する可能性があることが定量された。
【0109】
[実施例3]
33の組織サンプル対の寸法が定量された。各々の組織サンプル対は、同一ドナーロットからの、1の処理されない組織サンプルと1のエラスターゼ処理された組織サンプルとを含んだ。手短に言うと、33のドナーロットからの処理されないATMの物理的な寸法が測定され、各々のサンプルの面積(すなわち、長さ×幅)が定量された。処理されないATMはエラスターゼ処理を受け、エラスターゼ処理されたmATMを生じさせた。エラスターゼ処理されたmATMの同一の物理的な寸法が測定され、各々のエラスターゼ処理されたmATMの面積(すなわち、長さ×幅)が定量された。各々のATM及びmATMの対でそれぞれに計算された面積は、エラスターゼ処理への曝露の結果として、各々の組織がどの程度大きさが増加したかを定量するために比較された。
【0110】
図5のグラフはこの実験の結果を提供し、33の組織サンプルの各々でエラスターゼ処理の結果として得た棒グラフを示す。グラフは任意のドナーロット番号を横軸(x軸)に、組織の棒グラフ(面積の割合)を縦軸(y軸)に示す。
【0111】
データは、組織サンプルの一部では大きさの増加が生じないか、あるいはわずかに生じるかであることを示す。例えば、ドナーロット番号1ないし4に対応するデータは、それらの組織サンプルでは大きさの増加が実質的に生じなかったことを示す。しかしながら、他の組織サンプルでは大きさの有意な増加が生じた。例えば、ドナーロット番号33に対応するデータはその組織サンプルで100%を超える大きさの増加が生じたことを示す。
【0112】
平均して、図5のグラフで表わされる組織サンプルで約34.8%の大きさの増加が生じ、標準偏差は約+/−29.2%であった。
【0113】
[実施例4]
図6は、エラスターゼ処理されたmATM404に隣接する処理されないATM402の平面図である。
【0114】
エラスターゼ処理に先立ち、組織サンプル402及び404は同一ドナーロット由来であった。同一動物の同一位置由来であり、互いに同様の物理的(すなわち、縦方向及び横方向の)寸法を有した。目視による観察及び定規の引用によって、エラスターゼ処理されたmATMが処理されないATMよりも明確に大きくなることが明らかになる。実際に、処理されないATM402は約3/8インチの長さを有するが、エラスターゼ処理されたmATM404は約5/8インチの長さを有する。更に、エラスターゼ処理されたmATM404は明らかに、処理されないATM402よりも幅が広い。
【0115】
[実施例5]
表1は、エラスターゼ処理前及びエラスターゼ処理後の異なるドナーロット由来の30の組織サンプル対の物理的寸法を示す。
【0116】
【表1】
【0117】
物理的寸法は、エラスターゼ処理前及び後の組織サンプルについて、「Lower D(cm)」と同定されるセンチメートル(cm)単位の小さい方の寸法と、「Higher D(cm)」と同定されるセンチメートル(cm)単位の大きい方の寸法とを含む。
【0118】
データは、エラスターゼ処理によって、0%ないし50%の範囲で小さい方の寸法又は大きい方の寸法が増加したことを示す。組織サンプルのほとんどについて、データは、測定した寸法のうちの少なくとも1つでエラスターゼ処理により大きさが増加したことを示す。小さい方の寸法の大きさの増加の平均値は14.7%であり、標準偏差は14.5%である。大きい方の寸法の大きさの増加の平均値は17.3%であり、標準偏差は13.0%である。
【0119】
[エラスチン含有量に対するエラスターゼ処理の効果]
組織におけるエラスチン含有量に対するエラスターゼ処理の効果が考察された。エラスチン含有量の分析は英国のBicolor社から入手可能なFASTIN(登録商標)Elastin Assayを用いて行われ、合成ポルフィリン(スルホン酸形態の5,10,15,20テトラフェニル−21,25ポルフィリン)を用いた特異的な染料結合と関連づけられる。
【0120】
[実施例6]
表2は、エラスターゼ処理前及びエラスターゼ処理後の30の異なる対のドナーロットによる組織サンプル中のエラスチン含有量を示す。エラスチン含有量はFASTIN(登録商標)Elastin Assayを用いて測定された。エラスターゼ処理前は、エラスチン含有量は約1.6重量パーセントないし約5.1重量パーセントの範囲であった。エラスターゼ処理後は、エラスチン含有量は約1.4重量パーセントないし約6.1重量パーセントの範囲であった。
【0121】
【表2】
【0122】
表2に示したデータは、エラスターゼ処理によって、エラスチン含有量がドナーロットの一部で増加し、他方では減少したことを示す。しかしながら、明確な増加は測定値の誤差/不確実性の範囲である。総ての材料の平均で見ると、エラスチン含有量は若干減少している。
【0123】
データによると、エラスターゼ処理前は、組織サンプル群におけるエラスチン含有量の平均値は2.74%であり、標準偏差は+/−0.76%であった。エラスターゼ処理後は、組織サンプル群におけるエラスチン含有量の平均値は2.38%であり、標準偏差は+/−0.92%であった。
【0124】
従って、エラスターゼ処理によって、統計上有意であるが、エラスチン含有量の小さな喪失が生じた。エラスターゼ処理後は、フラグメント化したエラスチンの形態でのエラスチンは組織サンプル中に存在したと考え得られる。
【0125】
[組織サンプルの引張り特性に対する効果]
組織サンプルの多様な引張り特性に対するエラスターゼ処理の効果が考察された。
【0126】
[実施例7]
本実施例においては、試験は30の対となるドナーロット由来の組織サンプルで行われた。各々の組織サンプル対は、同一ドナーロットからの、1の処理されない組織サンプルと1のエラスターゼ処理された組織サンプルとを含んだ。言い換えると、各々のドナーロットについて、エラスターゼ処理された組織サンプルと、処理されないサンプルとがある。各々の組織サンプルは、最大負荷、引張り応力、歪みの割合、及びヤング率を定量するために試験を受ける。それらの試験結果は表3にまとめられる。
【0127】
【表3】
【0128】
表3によると、最大負荷は1センチメートルあたりのニュートン(N/cm)単位で、組織サンプルが破壊までに耐久できる1センチメートルあたりの最大の力を反映する。表に示したように、エラスターゼ処理されていない組織サンプル(表では「通常のALLODERM(登録商標)」として同定される)が耐久しうる平均最大負荷は170ニュートン/センチメートルであり、標準偏差は109ニュートン/センチメートルであった。エラスターゼ処理された組織サンプル(表では「エラスターゼ処理されたRTM」として同定される)が耐久しうる平均最大負荷は176ニュートン/センチメートルであり、標準偏差は110ニュートン/センチメートルであった。収集された最大負荷データに対するp値は、変化により観察結果(又はより極端な結果)が生じうる可能性を一般的には示し、0.330であった。エラスターゼ処理が組織サンプルの最大負荷容量に不利に影響を与えうる尤度は小さいと思われる。
【0129】
引張り応力は、負荷の外部印加に平衡及び反応する単位面積あたりの力の内部分布の測定値を提供する。最大負荷での(又は引張り強さとして既知の)引張り応力は、組織が破壊前に耐久しうる最大引張り応力である。メガパスカル(MPa)単位の、エラスターゼ処理されていない組織サンプルの最大負荷での平均引張り応力は7.5であり、標準偏差は3.9であった。エラスターゼ処理された組織サンプルの最大負荷での平均引張り応力は7.9であり、標準偏差は4.4であった。収集された引張り応力データに対するp値は0.220であった。エラスターゼ処理が組織サンプルの引張り強さを有意に変えうる尤度は小さいと思われる
【0130】
歪み値は、負荷の外部印加の結果として組織サンプルに生じる変形の測定値を提供する。5ニュートン/センチメートルの力の下でのエラスターゼ処理されていない組織サンプルの歪みの割合(伸張率)の平均は39%であり、標準偏差は14%であった。同一負荷の下でのエラスターゼ処理された組織サンプルの歪みの割合(伸張率)の平均は19%であり、標準偏差は5%であった。収集された歪みデータに対するp値は0.000であった。上述を考慮すると、処理によって組織伸長性が低減し、組織の弾性及び剛性における整合性が増加する。
【0131】
ヤング率は、外力が印加される場合の伸長に対する組織サンプルの抵抗性を反映する。メガパスカル(MPa)単位での、エラスターゼ処理されていない組織サンプルに対する平均ヤング率は24.7メガパスカルであり、標準偏差は11.7メガパスカルであった。エラスターゼ処理された組織サンプルに対する平均ヤング率は31.3メガパスカルであり、標準偏差は17.3メガパスカルであった。収集されたヤング率データに対するp値は0.004であった。上述を考慮すると、処理によって剛性が増加する。
【0132】
表3における最大負荷、引張り強さ、及びヤング率のデータは、それらの特性に対するエラスターゼ処理の効果が無視できることを示す。
【0133】
[実施例8]
2のドナーロット由来の組織サンプルは、上に記載されているLifeCell社の固有の方法によって処理された。組織洗浄(ステップ(iii))後、組織サンプルは複数の1センチメートル×7センチメートルの小片に切削された。これらの小片の一部はエラスターゼ処理に曝露された。
【0134】
2のドナーロット由来のエラスターゼ処理されていない組織サンプル、及びエラスターゼ処理された組織サンプルはその厚さ、最大負荷、引張り応力、弾性、歪みの割合、及びヤング率を定量するために試験を受けた。これらのパラメータの各々は、厚さ及び弾性を除いて上に詳述した。厚さは組織の物理的寸法であり、例示した表においてはミリメートル(mm)単位で測定される。弾性は一般的には、伸張又は圧縮した後に元の形状に戻る物体の性質であり、例示した表においては、ニュートン/センチメートル(N/cm)単位で測定される。
【0135】
前述の試験の結果は表4にまとめられる。その表におけるデータは、5ニュートン/センチメートルでの歪みを除外可能であれば、エラスターゼ処理は試験特性のいずれも有意に変えなかったことを示す。例えば、ドナーロット番号40765における組織サンプルについては、エラスターゼ処理によって、0.35%ないし0.2%の(5ニュートン/センチメートルでの)歪みの平均における変化が生じた(有意に減少)。ドナーロット番号24750における組織サンプルについては、エラスターゼ処理によって、0.19%ないし0.22%の(5ニュートン/センチメートルでの)歪みの平均における変化が生じた(有意差はない)。
【0136】
【表4】
【0137】
[組織サンプルの組織診断に対する効果]
組織サンプルの組織診断に対するエラスターゼ処理の効果は更に考察された。
【0138】
特に、多様な組織学的パラメータが12の凍結乾燥された組織サンプル対で考察された。各々の組織サンプル対は、同一ドナーロットからの、1の処理されない組織サンプルと1のエラスターゼ処理された組織サンプルとを含んだ。
【0139】
[実施例10]
表5は組織サンプルの組織診断試験の結果を示す。列中の各行は試験された1の組織サンプルに対応する。表の第1列は、任意の名称の対応する組織サンプルのドナーロット番号を同定する。表の第2列は対応する組織サンプルがエラスターゼ処理に曝露されたかどうかを示す。項目名「エラスターゼなし」は、対応する組織サンプルが処理されていなかったことを示す一方、項目名「エラスターゼ」は、対応する組織サンプルがエラスターゼ処理に曝露されたことを示す。第1の12個の列におけるデータ及び第2の12個の列におけるデータは、同一群のドナーロット由来の組織サンプルに対応する。
【0140】
表の第3、第4、第5、第6の列は、対応する組織サンプルにおける、孔の総数、コラーゲンの損傷、乳頭状と網状との間の遷移、及びコラーゲン分離を示す。
【0141】
組織サンプルにおける孔は、血管、脂肪細胞の空き部分、毛嚢の空き部分、及び凍結乾燥プロセスにおけるサンプル内部の気泡の膨張部を含む多様な構造を表わすことができる。組織学的に、その間を区別することは難しく、従って、サンプルの面積に対する、これらの構造によって占有される割合全体によって段階付けされる。点数化は以下の通り:
評点 評価
1ないし2 孔がサンプルの0%ないし10%である
3ないし4 孔がサンプルの11%ないし25%である
5ないし6 孔がサンプルの26%ないし40%である
7ないし9 孔がサンプルの41%ないし60%である
10 孔がサンプルの60%を超える
【0142】
「コラーゲンの損傷(collagen damage)」とは、破壊されたコラーゲン線維、凝縮したコラーゲン線維、又は歪んだ線維の存在のことである。コラーゲンの損傷は総てのサンプルに対して視野での観察頻度として報告される。点数化は以下の通り:
評点 評価
1ないし2 損傷が試験された領域の0%ないし10%にある
3ないし4 損傷が試験された領域の11%ないし25%にある
5ないし6 損傷が試験された領域の26%ないし50%にある
7ないし8 損傷が試験された領域の51%ないし75%にある
9ないし10 損傷が試験された領域の76%ないし100%にある
【0143】
乳頭状ないし網状の遷移については、標準的なヒト真皮は、表在型基底膜領域と、厚く、明確に規定されるコラーゲン束を欠いた血管及び無定形構造の層とからなる乳頭層を含む。乳頭層のコラーゲン及びエラスチンの出現は微再網化のうちの1つである。網状層は、乳頭層と合併し、明確に規定されたコラーゲン束から構成される。組織の処理中に崩壊又は融解を生じさせてATMを生成した場合、乳頭層の凝縮があるであろう。皮膚が極端に瘢痕を残し、強皮症又は表皮剥離といった病理プロセスを受けた場合、乳頭層の喪失があるであろう。サンプルが乳頭層を欠いた場合、関連するロットは棄却された。点数化は以下の通り。
評点 評価
0 標準的な二重層、明確に規定された血管網、明確な遷移
0ないし2 わずかにしか規定されない乳頭間隆起及び乳頭間突起の起伏
0ないし2 血管網を含む、表面の乳頭層における構造上の特徴の喪失
0ないし2 内側の乳頭層における構造上の特徴の喪失
0ないし2 乳頭層と網状層との間の遷移帯の損失
10 無定形の凝縮層を有する乳頭層の不存在又は置換
【0144】
コラーゲン分離:ATMにおける通常のコラーゲンは線維構造の内部を有するべきであり、束同士の分離は1の線維から隣接する線維への段階的遷移を表すべきである。コラーゲン分離は、処理中に生じる認識すべき変化である。それが極端な場合、コラーゲン線維はその線維性の性質を失い、無定形になり、線維間の分離は急激な遷移となり、線維は多くの場合は角張ったものになる。動物及び臨床上の評価に基づく場合、機能上の重要性は現在のところこの出現を原因とできない。しかしながら、拒絶するためだけではないが、このことはマトリックスの一体性の評価の一部として含まれる。
評点 評価
1 人工的な分離なし、線維構造は明確
3 急激な分離、いくつかの線維性制限
5 角を形成する分離、無定型のコラーゲン出現
【0145】
前述のパラメータは、ヘマトキシリンエオシン(H&E)染色に基づいて定量された。表におけるデータは、エラスターゼ処理されていない組織サンプルと比較した場合、表示した組織学的パラメータにおいて顕著な差異を示さない。
【0146】
【表5】
【0147】
[実施例11]
図7は、実施例10における(及び、表5に示した)ドナーロットのうちの2つからの組織サンプル対に対する、例示的なVerhoeff染色を示す。上に示したように、各々の組織サンプル対は、1の処理されない組織サンプル(図7で「通常のALLODERM(登録商標)」として同定される)と、1のエラスターゼ処理された組織サンプル(図7で「エラスターゼ処理された」として同定される)とを含む。染色の暗い部分は組織のエラスチン構造を示す。各々の組織サンプル対については、エラスターゼ処理が組織サンプルの複合型エラスチン構造の実質的なフラグメント化又は破壊を生じないことをVerhoeff染色は示唆する。
【0148】
[実施例12]
図8は、実施例10における(及び、表5に示した)ドナーロットのうちの2つからの組織サンプル対に対する、Alcian blue染色の例を示す。各々の組織サンプル対は、1の処理されない組織サンプル(図8で「通常のALLODERM(登録商標)」として同定される)と、1のエラスターゼ処理された組織サンプル(図8で「エラスターゼ処理された」として同定される)とを含む。
【0149】
各々の組織サンプル対について、Alcian blue染色は、対応するエラスターゼ処理されていない組織サンプルと比較した場合に、エラスターゼ処理された組織サンプルにおいて染色強度のわずかな低下を示す。この染色強度の低下は、恐らくは延ばされた時間による、処理水溶液におけるグリコサミノグリカン(GAG)の部分的な喪失を示唆する。
【0150】
[組織サンプルの熱安定性に対するエラスターゼ処理の効果]
[実施例13]
示差走査熱量測定(DSC)分析は、12の対となるドナーロットにおけるエラスターゼ処理後の組織サンプルの熱安定性の変化を調査するのに用いられた。表6は、多様なドナーロットからの組織サンプルに対する、摂氏(℃)単位で測定される変性開始温度(Onset Tm)と、乾燥重量1g当たりのジュール(J/gdw)単位で表わされる変性エンタルピーとを示す。変性は、例えば熱の印加による組織構造の変化のことである。変性開始温度は変性が生じ始める温度である。変性エンタルピーは組織のコラーゲン及び他のタンパク質を変性するのに必要なエネルギーの測定値である。
【0151】
列における各々の行は試験された特定の組織サンプルに対応する。表の第1列は、対応する組織サンプルのドナーロット番号を同定する。表の第2列は対応する組織サンプルがエラスターゼ処理に曝露されたかどうかを示す。項目名「エラスターゼなし」は、対応する組織サンプルがエラスターゼ処理に曝露されなかったことを示す。項目名「エラスターゼ」は、対応する組織サンプルがエラスターゼ処理に曝露されたことを示す。最初の12のデータ列はエラスターゼ処理に曝露されなかった組織サンプルに対応する。最後の12のデータ列はエラスターゼ処理に曝露された組織サンプルに対応する。第1の12個の列におけるデータ及び第2の12個の列におけるデータは、同一群のドナーロット由来の組織サンプルに対応する。
【0152】
表の第3及び第4の列は各々の対応する組織サンプルに対する、変性開始温度と変性エンタルピーとを示す。
【0153】
表におけるデータは、エラスターゼ処理された組織サンプルについてエラスターゼ処理されていない組織サンプルと比較した場合に、変性開始温度又は変性エンタルピーにおいて有意な差異を示さない。エラスターゼ処理されていない組織サンプルに対する平均変性開始温度は60.9℃であり、標準偏差は約+/−1.3℃であった。エラスターゼ処理された組織サンプルに対する平均変性開始温度は60.8℃であり、標準偏差は約+/−1.2℃であった。エラスターゼ処理されていない組織サンプルに対する変性エンタルピーの平均は25.8J/gdwであり、標準偏差は+/−2.7J/gdwであった。エラスターゼ処理された組織サンプルに対する変性エンタルピーの平均は28.1であり、標準偏差は+/−3.5であった。
【0154】
【表6】
【0155】
図9は、エラスターゼ処理されていない組織サンプル(実線)及びエラスターゼ処理された組織サンプル(破線)の対となるサンプルに対する、DSCサーモグラムの例を示すグラフである。グラフは摂氏単位(℃)で温度を横軸(x軸)に、1g当たりのワット単位(W/g)で熱流を縦軸(y軸)に示した。
【0156】
例示されたグラフにおいては、各々の4のドナーロットからの組織サンプル対に対応するデータが示される。各々の組織サンプル対について、エラスターゼ処理は組織サンプルの熱応答に対し最小限の効果を及ぼすことを、データは示唆している。
【0157】
一般的には、DSCは組織マトリックスの熱化学特性を測定する。コラーゲンが特定の温度に加熱された場合、その熱不安定性の分子内架橋結合が破壊され、タンパク質は高度に組織化された結晶構造からゲル状の無秩序状態に遷移を起こす。それは変性と称される。DSCサーモグラムはマトリックスの構造及びその安定性についての情報を与える。例えば、組織が滅菌のためにガンマ線照射された場合、変性開始温度は組織のガンマ線による損傷のために低くなりうる。他方、架橋結合は一般的には変性開始温度を増加させる。
【0158】
[酵素分解への感受性に対するエラスターゼ処理の効果]
組織サンプルの酵素分解への感受性に対するエラスターゼ処理の効果が考察された。
【0159】
[実施例14]
組織サンプルのコラゲナーゼ分解への感受性に対するエラスターゼ処理の効果が考察された。15の異なるドナーロット由来の組織サンプル対が試験された。各々のサンプル対は、エラスターゼ処理を受けた1の組織サンプルと、エラスターゼ処理を受けていない1の組織サンプルとを含んだ。総ての組織サンプルはエラスターゼ処理後に抗凍結剤とともに凍結乾燥を受けた。試験は約6時間、組織サンプルをコラゲナーゼに曝露するステップを具えた。表7は試験の結果を含む。特に、表はコラゲナーゼ曝露後の残余する組織(「残余組織」)の割合(%)を示す。
【0160】
表7における各々の行は試験された組織サンプルのうちの特定の1つに対応する。例示された表の第1列は、対応する組織サンプルが由来するドナーロット番号を同定する。第2列は対応する組織サンプルがエラスターゼ処理に曝露されたかどうかを同定する。項目名「エラスターゼなし」は、対応する組織サンプルがエラスターゼ処理に曝露されなかったことを示す。項目名「エラスターゼ」は、対応する組織サンプルがエラスターゼ処理に曝露されたことを示す。最初の15のデータ列はエラスターゼ処理に曝露されなかった組織サンプルに対応する。最後の15のデータ列はエラスターゼ処理に曝露された組織サンプルに対応する。第3列はコラゲナーゼに対する曝露後に残った組織の割合を示す。
【0161】
表における最初の15のデータ列はそれぞれ、表における最後の15のデータ列と同一群のドナーロット番号に対応する。
【0162】
エラスターゼ処理された組織サンプルが、エラスターゼ処理されていない組織サンプルよりもコラゲナーゼ分解に対する感受性がわずかに良かったことを、表におけるデータは示す。平均してエラスターゼ処理されていない組織サンプルのうちの約40.5%がコラゲナーゼ分解後に残った一方、平均してエラスターゼ処理された組織サンプルのうちの約34.2%がコラゲナーゼ分解後に残った。従って、エラスターゼ処理されたATMは、エラスターゼ処理されたATMよりもインビボでのコラーゲン分解に対する感受性がわずかに良いだけであると思われる。
【0163】
【表7】
【0164】
[実施例15]
組織サンプルのトリプシン分解への感受性に対するエラスターゼ処理の効果が更に考察された。更に、15の異なるドナーロット由来の組織サンプル対が試験された。各々のサンプル対は、エラスターゼ処理を受けた1の組織サンプルと、エラスターゼ処理を受けていない1の組織サンプルとを含んだ。総ての組織サンプルは抗凍結剤とともに凍結乾燥を受けた。試験はある設定期間、組織サンプルをトリプシンに曝露するステップを具えた。表8は試験の結果を含む。特に、表はトリプシン曝露後の残余する組織(「残余組織」)の割合(%)を示す。
【0165】
例示した表における各々の行は試験された組織サンプルのうちの同定の1つに対応する。例示された表の第1列は、対応する組織サンプルが由来するドナーロット番号を同定する。第2列は対応する組織サンプルがエラスターゼ処理に曝露されたかどうかを同定する。項目名「エラスターゼなし」は、対応する組織サンプルがエラスターゼ処理に曝露されなかったことを示す。項目名「エラスターゼ」は、対応する組織サンプルがエラスターゼ処理に曝露されたことを示す。第3列はトリプシンに対する曝露後に残った組織の割合を示す。
【0166】
表8における最初の15のデータ列はそれぞれ、表における最後の15のデータ列と同一群のドナーロット番号に対応する。最初の15のデータ列はエラスターゼ処理に曝露されなかった組織サンプルに対応する。最後の15のデータ列はエラスターゼ処理に曝露された組織サンプルに対応する。
【0167】
エラスターゼ処理が、組織サンプルのトリプシン分解への感受性に対して非常にわずかな効果しか有しないことを、表8におけるデータは示す。
【0168】
【表8】
【0169】
[経時的なエラスターゼ処理に対する組織の反応]
別の実験は、経時的なエラスターゼ処理に対する組織サンプルの反応を考察するために行われた。
【0170】
[実施例16]
この実験においては、2の組織のドナーロット由来の組織サンプルが組織洗浄(ステップ(iii))まで、上述のLifeCell社の固有の方法によって処理された。組織はその後多数の3センチメートル×7センチメートルの小片に切削された。それらの小片の一部はトリスHCl緩衝剤ですすがれ、エラスターゼで処理された。その後、組織サンプルの寸法の変化が30時間の期間にわたって3時間おきに測定された。エラスターゼは全期間にわたって提供された。エラスターゼで処理されなかった対応する組織サンプルの寸法は更に測定された。これらの寸法は図10A及び10Bにおいて「コントロール」測定値として同定された
【0171】
図10A及び10Bにおけるグラフは、2のドナーロット由来の組織サンプルに対するこの試験結果を示す。グラフの横軸は時間に対応し、縦軸は組織サンプルの表面積に対応する。グラフは30時間の期間にわたる、エラスターゼ処理された組織サンプルの面積(白丸(unshaded circle)で示された)と、エラスターゼ処理されていない組織サンプルの面積(黒丸(shaded circle)で示された)とに対応するデータを含む。
【0172】
エラスターゼ処理されない組織サンプルが30時間の期間にわたって面積の有意な変化を受けなかったことを、図10Aは示している。しかしながら、エラスターゼ処理された組織サンプルは、30時間の期間にわたって表面積の増加を明らかに受けた。最も顕著な増加は約9時間ないし21時間で生じた。その後、エラスターゼ処理された組織サンプルの大きさにわずかな変化しか生じなかった。
【0173】
エラスターゼ処理されない組織サンプルが30時間の期間にわたって面積の有意な変化を受けなかったことを、図10Bは更に示している。しかしながら、エラスターゼ処理された組織サンプルは、30時間の期間にわたって表面積の増加を明らかに受けた。最も顕著な増加は約3時間ないし15時間で生じた。その後、エラスターゼ処理された組織サンプルの大きさにわずかな変化しか生じなかった。図10A及び10Bの双方において、組織サンプルは、約18時間の増殖が非常にわずかであった。エラスターゼ処理後、組織サンプルは組織洗浄溶液ですすがれたが、後の寸法の変化は観察されなかった。
【0174】
多数の本開示の実施形態が記載されてきた。それにも拘わらず、多様な変更が本開示の精神及び範囲から離れることなくなされうることは理解されよう。
【0175】
例えば、多様な型の組織はエラスターゼで処理してもよい。エラスターゼ処理された組織の使用は、本明細書中に述べたものよりも膨張性であってもよい。エラスターゼは多様な他の物質と混合して、組織に適用される溶液を形成してもよい。組織は、エラスターゼ溶液に浸漬するか、溶液をその上に注ぐか、エラスターゼ溶液でコーティングするか、あるいはその他の方法を用いることによって処理してもよい。エラスターゼは組織の特定の領域に選択的に配置してもよい。移植片又は組織移植片は複数の組織の小片を用いて実施してもよく、そのうちの1以上はエラスターゼで処理され、そのうちの1以上は処理されずに維持される。タイミング、濃度、攪拌の度合、周囲温度及び圧力の条件は総て、相当に変えてもよい。
【0176】
従って、他の実施は以下の請求項の範囲内にある。
【技術分野】
【0001】
本出願は、2008年6月6日出願の米国仮特許出願第61/059,604号に対する米国特許法第119条に基づく優先権を主張し、全体を引用によって本明細書中に組み込む。
【0002】
本開示は、脊椎動物対象に対する内植(implanting)又は移植(grafting)用の無細胞組織マトリックス(ATM)に関する。特に、ATMの構造上又は機能上の完全性に実質的に影響を与えることなく、ATMにおける伸張性を低減し、ATMの群にわたる伸張性における変化を低減することに関する。
【背景技術】
【0003】
内植又は移植可能な組織の機械的特性は大きく変化しうる。このような変化のために、外科医は時として内植又は移植前に組織マトリックスをあらかじめ伸張させる。更には、特に大きな組織欠損症の修復のために、組織移植片の多数の小片は相互に縫合することが必要となる。それらの例においては、機械的特性における変化は、縫合手段及び内植又は移植手段を複雑化しうる。
【発明の概要】
【0004】
本開示は、ATMの構造上又は機能上の完全性に実質的に影響を与えることなく、ATMにおける伸張性を低減し、ATMの群にわたる伸張性における変化を低減することに関する。
【0005】
ある態様においては、方法は:無細胞組織マトリックス(ATM)を提供するステップと;ATMをエラスターゼにある期間曝露するステップと;を具える。例えば、ATMは、エラスターゼの濃度を構成する溶液にある期間曝露してもよい。曝露によってATMと比較して伸張性が低い修飾型ATM(mATM)が生じる。言い換えると、特異的な張力量に由来するmATMの伸張率(又は歪み)は同一の張力量に由来するATMの伸張率(又は歪み)より小さい。いくつかの実施においては、曝露時間及びエラスターゼの濃度は、mATMの所望の伸張性を取得するように制御される。mATMの所望の伸張性は、約5ニュートン/cmの張力の印加の下で、mATMの伸張率が14%ないし24%の範囲になるようにできる。例えば、約5ニュートン/cmの張力の下でのmATMの伸張率は約19%である。いくつかの実施においては、エラスターゼの濃度は約0.1ユニット/ミリリットルないし0.5ユニット/ミリリットルであるか、あるいは約0.2ユニット/ミリリットルないし0.25ユニット/ミリリットルである。エラスターゼの曝露時間は一般的には約12ないし24時間の間であり、更に一般的には少なくとも18時間である。本方法の特定の実施形態は、曝露の間にATMと溶液とを攪拌するステップを具える。このような攪拌は静かにしてもよく、あるいは更に強くしてもよい。攪拌は、組織とエラスターゼ溶液とを保持する容器を徐々に振盪することによって、あるいは繰返し容器を反転させることによって実施してもよい。振盪の速度及び振幅は変えることができ、容器を反転する速度も同様にできる。
【0006】
ATMは、例えば、総ての、あるいは実質的に総ての生存細胞が除去された組織(例えば、真皮)であってもよい。組織は例えば、筋膜、心膜組織、硬膜、臍帯組織、胎盤組織、心臓弁組織、靱帯組織、腱組織、動脈組織、静脈組織、神経結合組織、膀胱組織、尿管組織、及び/又は腸管組織であってもよい。いくつかの実施形態においては、ATMは、ヒト組織、ヒト以外の哺乳類組織、又はブタ組織から生成してもよい。ヒト以外の哺乳類組織はウシ組織であってもよい。
【0007】
別の実施形態は、前述の方法のいずれかによって生成される修飾型無細胞組織マトリックスを含む。
【0008】
更に別の態様によると、方法は:無細胞組織マトリックス(ATM)の群を提供するステップであって、等しい張力量が群中のATMの各々に印加される場合に、群中のATMの少なくとも一部が群中の他のATMと異なる伸張性(伸張率)を有するステップと;ATMのうちの1以上をエラスターゼにある期間曝露するステップと;を具える。エラスターゼは溶液の形態で、エラスターゼの濃度を構成してもよい。いくつかの実施形態においては、エラスターゼの曝露によって、1以上の修飾型ATM(mATM)が生じる。mATMのうちの1以上はその各々に対応するATMよりも伸張性が小さい。いくつかの実施形態においては、ある張力量に由来するmATMのうちの1以上の伸張率は、同一の張力量に由来するその対応するATMの伸張率よりも小さい。いくつかの実施においては、mATMにわたる伸張性における変化は、ATMにわたる伸張性における変化よりも有意に小さくなる。
【0009】
いくつかの実施形態においては、mATMにわたる伸張性における変化は、約5ニュートン/cmの張力の下で、mATMの少なくとも一部が約14%ないし24%伸張するようになる。いくつかの実施形態においては、mATMにわたる伸張性における変化は、約5ニュートン/cmの張力の下で、複数のmATMが約19%伸張するようになる。
【0010】
特定の実施は、約0.1ユニット/ミリリットルないし0.5ユニット/ミリリットル、又は約0.2ユニット/ミリリットルないし0.25ユニット/ミリリットルのエラスターゼの濃度を提供するステップを具える。曝露時間は一般的には約12ないし24時間であり、一般的には少なくとも約18時間である。
【0011】
いくつかの実施においては、群の1以上のATMは溶液への曝露の際に攪拌される。
【0012】
ATMは、例えば、総ての、あるいは実質的に総ての生存細胞が除去された組織(例えば、真皮)を含んでもよい。組織は例えば、筋膜、心膜組織、硬膜、臍帯組織、胎盤組織、心臓弁組織、靱帯組織、腱組織、動脈組織、静脈組織、神経結合組織、膀胱組織、尿管組織、及び/又は腸管組織を含んでもよい。ATMはヒト組織、ヒト以外の哺乳類組織(例えば、ブタ組織あるいはウシ組織)から生成してもよい。
【0013】
更に別の態様は、前述の1以上の方法によって処理される修飾型無細胞組織マトリックスの群を具える。
【0014】
更なる態様は:無細胞組織マトリックス(ATM)を提供するステップと;ATMをエラスターゼにある期間曝露するステップと;を具える方法を含む。一般的には、エラスターゼは溶液中にあり、エラスターゼの濃度を構成する。曝露によって、ATMと比較して伸張性が低い修飾型ATM(mATM)が生じる。本方法は更に:修復又は寛解を必要とする器官又は組織を有するとして脊椎動物対象を同定するステップと;組織又は器官の中又は上にmATM(又は相互に縫合された2以上のmATM)を配置するステップと;を具える。
【0015】
更なる別の態様は:無細胞組織マトリックス(ATM)の群を提供するステップであって、群中のATMの少なくとも一部が、群中の他のATMと異なる伸張性を有するステップと;群の1以上のATMをエラスターゼ(例えば、エラスターゼの濃度を構成する溶液)にある期間曝露するステップと;を具え、その曝露によって1以上の修飾型ATM(mATM)が生じ、mATMのうちの1以上が、その各々に対応するATMより伸張性が小さい。本方法は更に:修復又は寛解を必要とする器官又は組織を有するとして脊椎動物対象を同定するステップと;組織又は器官の中又は上にmATMを配置するステップと;を具える。
【0016】
更に、別の態様はエラスチンネットワークとコラーゲンマトリックスとを含む修飾型無細胞組織マトリックス(mATM)を有し、mATMの伸張性を約5ニュートン/cmの張力の印加の下で、mATMが約14%ないし24%伸張するようにすべく、エラスチンネットワークが破壊されており、コラーゲンネットワークは実質的に無傷である。特定の実施においては、コラーゲンネットワークは架橋結合を含まない。
【0017】
一般的な実施においては、mATMの伸張性を約5ニュートン/cmの張力の印加の下で、mATMが約14%ないし24%伸張するようにすべく、組織のエラスチンネットワークが十分に破壊され、mATMのコラーゲンネットワークは実質的に無傷である。いくつかの実施形態においては、mATMのコラーゲンネットワークは、ATMのコラーゲンネットワークと実質的に同様の特性を有する。例えば、mATMの組織、温度及び材料の特性はATMと同様である。
【0018】
過剰な伸張性を有する組織は、特異的に所望される伸張性のレベルを有する組織を取得するように処理できる。更に、組織サンプルごとの伸張性における変化が低減できる。このことは、組織又は器官を修復及び/又は寛解するために、相互に2以上の組織片を連結することを要求する手段において特に有用となりうる。組織サンプルの伸張性の均一性は理解されよう。
【0019】
別段に規定されない限り、本明細書中で用いられる総ての技術的及び化学的用語は、本開示が属する当該技術分野の当業者によって共通に理解されるのと同一の意味を有する。競合がある場合、本文書は、定義を含むことによって調整される。好適な方法及び材料は以下に記載されるが、本明細書中に記載のものと同様又は等価な方法及び材料は本開示の実施又は試験に用いることができる。本明細書中に記載の総ての刊行物、特許出願、特許及びその他の文献は、全体を引用することによって組み込まれる。本明細書中に開示の材料、方法及び実施例は単なる例示であり、限定することを意図しない。
【0020】
本開示の他の特徴及び利点は以下の説明、図面、及び特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、一般的な十分に水分を含む組織サンプルの応力−歪み線図を示す線グラフである。
【図2】図2は、無細胞組織マトリックス(ATM)をエラスターゼで処理し、処理したATMを器官又は組織の中又は上に配置する方法のフローチャートである。
【図3】図3は、5ニュートン(5N)の外力を受けた場合に、約1センチメートル長の、多様なエラスターゼ処理された組織サンプル又はエラスターゼ処理されていない組織サンプルが受ける伸張率を示す散布図である。
【図4A】図4Aは、エラスターゼ処理されていない組織サンプル、及びエラスターゼ処理された組織サンプルについて染色したサンプルを示す顕微鏡写真であり、染色部は組織サンプルのエラスチン含有量を示す。
【図4B】図4Bは、エラスターゼ処理されていない組織サンプル、及びエラスターゼ処理された組織サンプルについて染色したサンプルを示す顕微鏡写真であり、染色部は組織サンプルのエラスチン含有量を示す。
【図5】図5は、エラスターゼ処理を受けた場合に、多様な組織サンプルが受ける面積の増加率を示す棒グラフである。
【図6】図6は、定規の一部の隣に処理されていない動脈組織のサンプルと、エラスターゼ処理された組織サンプルとを示す写真である。
【図7】図7は、処理されていない組織サンプル(通常のALLODERM)、及びエラスターゼ処理された組織サンプルについて、Verhoeff染色した一連のサンプルを示す一連の写真である。
【図8】図8は、処理されていない組織サンプル(通常のALLODERM)、及びエラスターゼ処理された組織サンプルについて、Alcian blue染色した組織サンプルを示す一連の顕微鏡写真である。
【図9】図9は、エラスターゼ処理されていない組織サンプル、及びエラスターゼ処理された組織サンプルについて、温度に対する熱流を示す線グラフである。
【図10】図10A及び10Bは、経時的にエラスターゼ処理を受けた2の組織サンプルの面積変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本開示は、例えば脊椎動物対象に内植又は移植できる無細胞組織マトリックス(ATM)に関する。特に、この開示はその対応するATMと比較して伸張性が低い修飾型ATM(mATM)を生成することに関し、組織の付随する構造上又は機能上の完全性を実質的に損なわない。更に、本開示はATMの群からmATMの群を生成することに関し、mATMの群における組織の伸張性は、ATMの群における組織の伸張性よりも変化が小さい。言い換えると、特異的な張力量の下でのmATMの群における組織の伸張率は、同一の張力量の下でのATMの群における組織の伸張率よりも変化が小さい。
【0023】
本明細書で用いられるように、「伸張性(stretchiness)」という用語は一般的には、引張り応力の印加の下で、組織又は組織マトリックスが伸張(stretch、あるいはexpand)する能力のことである。図1は、十分に水分を含む真皮組織マトリックスに対する一般的な応力−ひずみ曲線を示す。縦軸はメガパスカル(MPa)で引張り応力を表わし、横軸は引張り歪みを表わす。「引張り応力(tensile stress)」はS=F/Aoで定義され、Fは張力であり、Aoは試験サンプルの断面積である。「引張り歪み(tensile strain)」は(Lf−Lo)/Lo(すなわち、ΔL/Lo)で定義され、Loは組織マトリックスの元の長さであり、Lfは引張り応力の下での組織マトリックスの長さであり、ΔLは組織マトリックスが受ける長さの変化である(すなわち、Lf−Lo=ΔL)。更に本明細書で用いられるように、「伸張率(percent extension)」は(Lf−Lo)/Lo×100%(すなわち、ΔL/Lo×100%)で定義され、ひいては、明細書全体にわたって「引張り歪み」という用語と互換的に用いられる。
【0024】
多くの軟部組織で一般的な表示された非線形性の関係は、3の明確な引張り応答の位相からなる。第1の位相は先端(toe)領域であり、第2の位相は応力の下でのコラーゲン原線維の伸張に対応し、最後の位相は組織材料の降伏及び最終破壊によって生じる。組織の伸張性は先端領域の長さによって表わされ、x軸と交差するように曲線の第2の位相を外挿することによって決定される。これは一次方程式y=a+bxを用いて数学的になされうる。x軸の切片は−a/bである。
【0025】
代替的に、約5ニュートン/cmの小さな力の下でのmATMとATMとの間での引張り歪み(又は伸張率)の比較が、mATM及びATMの伸張性を比較する方法として提供される。
【0026】
本明細書で用いられるように、「十分に水分を含む(fully hydrated)」ATM又は組織は、そのATM又は組織が大気圧の下で含むことが可能な、最大量の結合性及び非結合性の水を含むATM又は組織である。十分に水分を含む2以上のATM中の(非結合性及び/又は結合性の)水の量を比較する場合、任意の特定の組織から生成されるATMの最大量の水はATMの温度と共に変化するため、2(又は3以上)のATMに対する測定が同一の温度でなされるべきことは当然ながら重要である。十分に水分を含むATMの例は限定しないが、実施例1に記載の脱細胞化プロセスの終了時のもの、及び本明細書中に記載のような事前の凍結乾燥プロセス後に、室温(すなわち、約15℃ないし約35℃)で4時間、0.9%塩化ナトリウム溶液で再度水分補給されたATMを含む。ATMにおける結合性の水は、水及びATMの分子間の分子間相互作用(例えば、水素結合)ならびに/又はATMにおける水の運動性を制限する他の現象(例えば、表面張力及び幾何学的制限)によって(膨張性のある純水と比較して)分子運動性(回転性及び並進性)が低減したATMにおける水である。ATM内部の非結合性の水は、例えば生体液といった希釈水溶液中の膨張性のある水と同様の分子運動特性を有する。本明細書で用いられるように、「部分的に水分を含むATM(partially hydrated ATM)」は、同一のATMが十分に水分を含む場合に大気圧で含む非結合性及び/又は結合性の水の、100%未満であるが30%を超える量(例えば、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、又は99%を超える量)を大気圧で含むATMであり、更に部分的に水分を含むATM及び十分な水分を含むATMにおける水の量の測定は、同一温度でなされるべきである。
【0027】
図2はエラスターゼ処理方法のある実施を示すフローチャートである。本方法は:ATMを提供するステップ(符号102)と;ATMを(以下に記載の)エラスターゼ処理に曝露するステップ(符号104)と;を具える。エラスターゼ処理によって、ATMと比較して伸張性が低減したmATMが生成される(符号106)。例示された実施に示されるように、脊椎動物対象(vertebral subject)における器官又は組織が修復又は寛解が必要であるとして同定された場合(符号108)に、取得されたmATMは同定された器官又は組織の中又は上に配置できる(符号110)。エラスターゼ処理はATM中のペプチド結合を破壊して、破壊されたエラスチンネットワークを有するmATMを生成すると考えられる。一般的には、十分な数のペプチド結合が破壊されて、ATMと比較してmATMにおける伸張性の度合の低下を生じさせる。一般的には破壊されるペプチド結合の数は、特異的な張力量の下でのmATMの伸張率(又は、歪み)が同一張力量の下でのATMの伸張率(又は、歪み)の95%未満(例えば、95%、90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、10%、5%、又は2%未満)となる範囲で十分である。
【0028】
本明細書で用いられるように、「無細胞組織マトリックス(ATM:acellular tissue matrix)」は:総ての又は実質的に総ての生存細胞と;細胞を死滅させることによって生成される、総ての検出可能な細胞内成分及び/又は細片と;を除去することによって生成される組織由来の構造である。本明細書で用いられるように、「実質的に総ての生存細胞(substantially all viable cell)」を欠いたATMは、その生存細胞の濃度が、ATMが生成された組織又は器官における濃度の1%未満(例えば、0.1%、0.01%、0.001%、0.0001%、0.00001%、又は0.000001%未満)であるATMである。本明細書で用いられるように、「修飾型無細胞組織マトリックス(mATM:modified acellular tissue matrix)」はエラスターゼ処理を受けたATMである。他に明確に述べられている場合を除いて、ATMの使用、特徴等に関する本明細書中の様々な記載は、mATMに同様に適用される。
【0029】
本開示のATMは上皮基底膜を欠いてもよい。上皮基底膜は、上皮細胞の基底面に隣接する薄い細胞外物質のシートである。凝集した上皮細胞のシートは上皮を形成する。従って例えば、皮膚の上皮は表皮と称され、皮膚の上皮基底膜は表皮と真皮との間にある。上皮基底膜はバリア機能と、上皮様細胞の接着面とを提供する特異的な細胞外マトリックスである。上皮基底膜の固有成分は例えば、ラミニン、VII型コラーゲン、及びニドジェンを含む。
【0030】
上皮基底膜の固有な時間的及び空間的構成によって、それは皮膚細胞外マトリックスから区別される。本開示のATMにおける上皮基底膜の存在は、上皮基底膜が無細胞マトリックスの異種移植片のレシピエントにおいて、抗体の生成を誘発し、形成された抗体に結合する、多様な種特異的な成分を含みうる点で弱点となり得るであろう。更に、上皮基底膜は細胞及び/又は可溶因子(例えば、化学誘引物質)の拡散に対する、及び細胞浸潤に対するバリアとして作用しうる。従って、ATM移植片におけるその存在によって、レシピエント動物における無細胞組織マトリックスから新しい組織の形成を遅延できる。本明細書で用いられるように、上皮基底膜を「実質的に欠いた(substantially lack)」ATMは、無細胞組織マトリックス由来の、処理がされていない対応する組織で所有される上皮基底膜のうちの5%未満(例えば、3%、2%、1%、0.5%、0.25%、0.1%、0.01%、0.001%、又は更には0.001%未満)を含む無細胞組織マトリックスである。
【0031】
ATMによって保持される生物学的機能は細胞認識及び細胞結合、ならびに細胞伸展、細胞増殖、及び細胞分化を支持する能力を含む。このような機能は:非変性コラーゲンタンパク質(例えば、I型コラーゲン)と;多様な非コラーゲン性の分子(例えば、インテグリン受容体のような分子、グリコサミノグリカン(例えば、ヒアルロナン)又はプロテオグリカンといった高電荷密度を有する分子、あるいは他の付着因子のいずれかに対するリガンドとして作用するタンパク質)と;によって提供される。有用な無細胞マトリックスによって保持される構造上の機能は:組織学的構造の維持と;組織の成分の3次元配列、ならびに強度、弾性、及び耐久性といった物理学的特性の維持と;規定された有孔性と;高分子の保持と;を含む。ATMの生物学的機能の効果は、例えばATMの細胞増殖を支持する能力によって測定でき、ATMが生成する天然の組織又は器官の少なくとも50%(例えば、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%、99.5%、100%、又は100%超)になる。
【0032】
移植されたマトリックス物質は、できるが、周囲の宿主の組織又は器官と同一の組織又は器官から生成する必要はなく、関連する宿主組織の分化細胞といった細胞、間葉系幹細胞といった幹細胞、又は前駆細胞を侵入又は浸潤させることによって、単純に再構築を受け入れられるようにすべきである。再構築は上述のATM成分及び周囲の宿主組織からのシグナル(サイトカイン、細胞外マトリックス成分、生体力学的刺激、及び生体電気的刺激といった)によって指示される。骨髄及び末梢循環における間葉系幹細胞の存在は文献中に記載され、多様な筋骨格系組織を再生することを示した[Caplan(1991)J.Orthop.Res.9:641−650、Caplan(1994)Clin.Plast.Surg.21:429−435、及びCaplanら(1997)Clin Orthop.342:254−269]。更に、移植片は再構築プロセス時に、ある度合いの(しきい値を超える)張力及び生体力学的強度を提供すべきである。
【0033】
ATMは上述の特性がマトリックスによって保持される限り、任意のコラーゲン含有性の軟部組織及び筋骨格(例えば、真皮、筋膜、心膜、硬膜、臍帯、胎盤、心臓弁、靱帯、腱、血管組織(動脈、及び伏在静脈といった静脈)、神経結合組織、膀胱組織、尿管組織、又は腸管組織)から生成できることは理解されよう。更に、その中又は上にATMが配置される組織は実質的に、細胞を侵入又は浸潤させることによって再構築されうる任意の組織を含む。関連する組織は限定しないが、骨のような骨格組織、軟骨(例えば、関節軟骨)、靱帯、筋膜、及び腱を含む。上述の同種移植片のいずれかが配置されうる他の組織は限定しないが、皮膚、歯肉、硬膜、心筋、血管組織、神経組織、横紋筋、平滑筋、膀胱壁、尿管組織、腸管、及び尿道組織を含む。
【0034】
更に、ATMは一般的にはATM移植片のレシピエントと同一種の1以上の個体から生成されるが、この場合は必ずしも必要としない。従って、例えば、ATMはブタ組織から生成し、ヒト患者に内植できる。ATMのレシピエント及びATMの生成用の組織又は器官のドナーとして作用しうる種は限定しないが、ヒト、ヒト以外の霊長類(例えばサル、ヒヒ、又はチンパンジー)、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、スナネズミ、ハムスター、ラット、又はマウスを含む。例えばドナーは末端ガラクトースであるα−1,3ガラクトース部分を欠くように遺伝学的に操作された動物(例えば、ブタ)であってもよい。好適な動物の記載については、その総ての開示が全体の引用によって本明細書中に組み込まれる、同時係属中の米国特許出願第10/896,594号及び米国特許第6,166,288号参照。
【0035】
ATMが提供される形態は、由来する組織又は器官、及びレシピエントの組織又は器官の性質、ならびにレシピエントの組織又は器官における損傷又は欠損の性質に依存する。従って例えば、心臓弁に由来するマトリックスは:弁全体としてか;小さなシート又は条片としてか;多様な形状及び/又は寸法のいずれかに切除された小片として;あるいは、粒子形態で;提供できる。同一の概念は上に列挙した組織及び器官のいずれかから生成されるATMに適用される。
【0036】
ATMは多様な方法によって生成できる。その生成で用いられるステップによって上述の生物学的及び構造上の特徴を有するマトリックスが生じることが、要求される総てである。有用な生成方法は、米国特許第4,865,871号及び第5,366,616号、ならびに同時係属中の米国特許出願第09/762,174号、第10/165,790号、及び第10/896,594号に記載のものを含み、その総ては全体の引用によって本明細書中に組み込まれる。
【0037】
手短に言うと、ATMの生成に関連するステップは一般的には、ドナー(例えば、ヒトの死体又は上に列挙した哺乳類のいずれか)から組織を収集する際の、生物学的及び構造上の機能を同様に維持する条件下での細胞除去と同時又はその前の、組織を安定化し、かつ生物化学的及び構造上の分解を防止するための化学的処理を含む。任意の生体不適合性の細胞除去剤と同様に、炎症を生じさせうる死細胞及び/又は溶解細胞の成分の全体的な除去後に、マトリックスは本開示のエラスターゼ処理方法を受けうる。代替的にATMは、マトリックスの生物学的及び構造上の記載された特性を維持するのに必要な条件下で更に、凍結保存剤で処理し、凍結保存し、選択的に凍結乾燥できる。凍結乾燥後、組織は同様の機能保存条件下で、選択的に微粉砕又は微粒子化されて、粒子状のATMを生成する。凍結保存又は凍結乾燥(及び選択的には、微粉砕又は微粒子化)の後に、ATMはそれぞれ解凍されるか、あるいは再度水分補給され、次いで本開示のエラスターゼ処理方法を受ける。総てのステップは一般的に、無菌又は滅菌条件下で行われる。
【0038】
初期の安定化溶液は、浸透圧性、低酸素性、自己溶解性、及びタンパク分解性の分解を抑止及び予防し、微生物汚染に対し保護し、例えば平滑筋構造(例えば血管)を含む組織で生じうる機械的な損傷を低減する。安定化溶液は一般的には、好適な緩衝剤と、1以上の抗酸化剤と、1以上の膨張剤と、1以上の抗生物質と、1以上のプロテアーゼ阻害剤と、いくつかの場合においては平滑筋弛緩薬とを含む。
【0039】
組織はその後、コラーゲンマトリックスの生物学的及び構造上の一体性を損傷することなく、マトリックスの構造から生存細胞(例えば、上皮細胞、内皮細胞、平滑筋細胞、及び線維芽細胞)を除去するために、処理溶液中に配置される。処理溶液は一般的には、好適な緩衝剤、塩、抗生物質、1以上の界面活性剤、架橋結合を防止するための1以上の薬剤、1以上のプロテアーゼ阻害剤、及び/又は1以上の酵素を含む。組織の処理はマトリックスの構造上の一体性が維持されるように、ある濃度及びある期間、活性剤を含む処理溶液ですべきである。
【0040】
組織が脱細胞化された後で、本開示のエラスターゼ処理方法を受けるか、あるいは以下に述べるように凍結保存されうる。
【0041】
代替的に、組織はエラスターゼ処理を受ける前に凍結保存されうる。その場合は脱細胞化後に、細胞は凍結保存溶液においてインキュベートされる。この溶液は一般的には1以上の抗凍結剤を含み、凍結中に生じうるマトリックスの構造に対する氷晶損傷を最小化する。組織が凍結乾燥される場合、溶液は一般的には更に、1以上の抗乾燥成分を含み、乾燥中の構造の損傷を最小化し、凍結中に伸張も収縮も受けない有機溶剤及び水の組合せを含んでもよい。抗凍結剤及び抗乾燥剤は同一の1以上の物質にできる。組織が凍結乾燥されない場合、約−80℃でフリーザーに(滅菌容器に)配置することによってか、あるいは滅菌液体窒素に投入することによって凍結でき、使用まで−160℃未満の温度で保存する。サンプルは、例えば約37℃で水浴を含む非透過性の滅菌容器に浸漬することによって、あるいは周囲条件下で組織が室温になるのを可能にすることによって、使用前に解凍できる。
【0042】
組織が凍結及び乾燥凍結される場合、凍結保存溶液におけるインキュベーションに続き、組織は水蒸気に対して透過性があるが、細菌に対して透過性がない滅菌容器、例えば水蒸気透過性のポーチ又はガラスバイアルの内部にパッケージングされる。好適なポーチの片側は医療用で多孔性の、デラウェア州ウィルミントンのDuPont Company社の商標製品であるTYVEK(登録商標)膜からなる。この膜は水蒸気に対して多孔性であり、細菌及び粉塵に対して不透過性である。TYVEK(登録商標)膜は不透過性のポリエチレン製ラミネートシートに熱融着され、片側が開放され、ひいてはポーチを両側に形成する。開放ポーチは使用前に照射(例えば、ガンマ線照射)によって滅菌される。組織は滅菌ポーチ内に開放端を通して無菌で配置される。開放端はその後無菌で熱融着されて、ポーチを閉止する。パッケージングされた組織は以降、次の処理ステップにわたって微生物汚染から保護される。
【0043】
組織を含む容器は、特異的な抗凍結剤の剤形と適合性があり、凍結損傷を最小限にする特異的な速度で低温に冷却される。好適な冷却プロトコルは例えば米国特許第5,336,616号参照。組織はその後、水蒸気が各氷晶の相から経時的に除去されるように、真空条件の下で低温で乾燥される。
【0044】
水蒸気透過性容器におけるサンプルの乾燥の完了時に、凍結乾燥装置の真空は窒素、ヘリウム、又はアルゴンといった乾燥不活性ガスで置き換えられる。同一の気体環境で維持される一方で、半透過性容器は不透過性(すなわち、水蒸気ならびに微生物に対して不透過性)の容器(例えば、ポーチ)内部に配置され、例えば熱及び/又は圧力によって密封される。組織サンプルがガラスバイアルで凍結及び乾燥される場合、バイアルは好適な不活性栓(inert stopper)で真空下で密封され、乾燥装置の真空は無負荷になる前に不活性ガスで置き換えられる。いずれの場合においても、最終生成物は不活性ガスのガス体中に密閉される。凍結乾燥された組織は、エラスターゼで処理されるまで冷却条件下で保存できる。
【0045】
以下に述べるように、エラスターゼ処理されたATMの再度の水分補給後、組織適合性のある生存細胞はATMに回復して、宿主によって再構築されうる永続的に受容可能な移植片を生成できる。これは一般的には、哺乳類対象においてATMを配置する直前になされる。マトリックスが凍結乾燥された場合、再度の水分補給後になされる。ある実施形態においては、組織適合性のある生存細胞は、移植前の標準的なインビトロでの細胞培養技術によって、あるいは移植後のインビボでの再増殖によってマトリックスに追加される。インビボでの再増殖は、レシピエント固有の細胞がATM内に移動することによって、あるいはインサイチューで他のドナーからATMにレシピエントから取得される細胞又は組織適合性のある細胞を注入又は注射することによってなされうる。
【0046】
再構成のために用いられる細胞型は、ATMが再構築されている組織又は器官の性質に依存する。例えば、ATMでの総ての皮膚層の再構築のための主要な要求は、表皮細胞又はケラチノサイトの修復である。例えば、直接的な対象のレシピエント由来の細胞はATMを再構成するのに用いることができ、得られた組成物はメッシュ状の分層植皮片の形態でレシピエントに移植できる。代替的に、培養した(自己又は同種の)細胞はATMに追加できる。このような細胞は例えば、標準的な組織培養条件の下で増殖でき、ATMに追加できる。別の実施形態においては、細胞は組織培養時にATMの中及び/又は上に増殖できる。組織培養時にATMの中及び/又は上に増殖された細胞は、好適なドナー(例えば、対象のレシピエント、又は同種のドナー)から直接的に取得でき、あるいは、ATMがない状態で組織培養時に最初に増殖できる。
【0047】
心臓弁及び血管性の導管の再構成に最も重要な細胞が内皮細胞であり、それは組織の内面を覆っている。内皮細胞は更に培養時に伸張でき、直接的に、対象のレシピエント患者あるいは臍動脈又は臍静脈の由来になりうる。
【0048】
マトリックスが共に再配置されうる他の細胞は限定しないが、線維芽細胞、胚性幹細胞、成体又は胚体の間葉系幹細胞(MSC)、前軟骨芽細胞(prochondroblast)、軟骨芽細胞、軟骨細胞、前骨芽細胞、骨細胞、破骨細胞、単核細胞、前心筋芽細胞(pro−cardiomyoblast)、周皮細胞、心筋芽細胞、心筋細胞、歯肉上皮細胞、又は歯周靱帯幹細胞を含む。当然ながら、ATMはこれらの細胞型のうちの2以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10)の組合せと共に再配置できる。
【0049】
上述のステップの総てを実行するための試薬及び方法は当該技術分野において周知である。好適な試薬及び方法は例えば、米国特許第5,336,616号に記載されている。
【0050】
粒子状のATMは、上述の粒子状でないATMのいずれかから、上述の生物学的及び構造上の機能の維持を生じさせる、任意のプロセスによって生成され、コラーゲン線維に対する損傷は、せん断された線維端を含めて、最小化すべきである。粒子状のATMを生成するための多くの既知の湿式及び乾式のプロセスは、コラーゲン線維の構造上の一体性をそのように維持しない。
【0051】
粒子状のATMを生成するための1の好適な方法は米国特許第6,933,326号に記載されている。そのプロセスは手短に、凍結乾燥させた皮膚のATMについて以下に述べるが、当該技術分野の当業者は容易に、本明細書中に列挙した他の組織のうちのいずれかに由来する凍結乾燥させたATMで用いる方法を構成できるであろう。
【0052】
皮膚の無細胞マトリックスは(例えば、非断続型の「連続(continuous)」切削ホイールに装着されるZimmer社のメッシャーを用いて)条片に切除される。得られた長い条片は次いで、約1cmないし約2cmの長さに切除される。ホモジナイザー及び滅菌されたホモジナイザープローブ(例えば、バージニア州ウォレントンのOMNI International社から入手可能なLabTeck Macroホモジナイザー)が構成され、ホモジナイザーの塔部に注入される滅菌液体窒素を用いて極低温(すなわち、約196℃未満ないし約−160℃)に冷却される。ホモジナイザーが極低温に到達した時点で、ATMの切除小片は、液体窒素を含み、均質化を行う塔部に添加される。ホモジナイザーは次いでATMの小片を極低温で破砕すべく作動する。極低温で破砕するステップの時間及び期間は、用いられるホモジナイザー、均質化を行うチャンバの大きさ、及びホモジナイザーが動作する速度及び時間に依存する。代替例として、低温破砕するプロセスは極低温に冷却される低温粉砕機において行うことができる。
【0053】
低温破砕された粒子状の無細胞組織マトリックスは選択的に、更に極低温に冷却した金属スクリーンの列を通して滅菌液体窒素で均質化した生成物を洗浄することによって、粒径で選別される。一般的には、小さい孔径を有する1以上のスクリーンに進む前に、比較的大きな孔径を有するスクリーンで所望されない大きな粒子を除去することが有用である。分離された時点で、粒子は手順中に吸収されうる任意の残留水分を確実に除去するように凍結乾燥できる。最終生成物は一般的には、約1ミクロンないし約900ミクロン、約30ミクロンないし約750ミクロン、又は約150ないし約300ミクロンの最長寸法の粒径を有する(通常は白色又は白色に近い色の)粉末である。この材料はノーマルセーラインでの懸濁液、又は当該技術分野で周知のその他の好適な再度の水分補給用の薬剤によって容易に再度の水分補給がされる。更に任意の好適な当該技術分野で周知の担体中に懸濁してもよい(例えば、全体の引用によって本明細書中に組み込まれる米国特許第5,284,655号参照)。高濃度で(例えば約600mg/mlで)懸濁された場合、粒子状のATMは「パテ(putty)」を形成でき、若干低い濃度(例えば、約330mg/ml)で懸濁された場合、「ペースト(paste)」を形成できる。このようなパテ及びペーストは、例えば組織及び器官中の任意の形状の孔、間隙、又は腔の内部に、このような孔、間隙、又は腔を実質的に満たすべく、好都合に充填できる。
【0054】
1の非常に好適な凍結乾燥させたATMはLifeCell Corporation社(ニュージャージー州ブランチバーグ)でヒト真皮から生成され、ALLODERM(登録商標)として小さなシートの形態で市販されている。このようなシートは、例えば1cm×2cm、3cm×7cm、4cm×8cm、5cm×10cm、4cm×12cm、及び6cm×12cmの寸法を有する矩形のシートとしてLifeCell Corporation社で市販されている。ALLODERM(登録商標)を凍結及び乾燥するのに用いられる抗凍結剤は、35%のマルトデキストリン及び10mMのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)の溶液である。従って最終的な乾燥生成物は約60重量パーセントのATMと、約40重量パーセントのマルトデキストリンとを含む。LifeCell Corporation社によって更に、類似生成物が、ALLODERM(登録商標)と同一比率のATM及びマルトデキストリンを有するブタ真皮(XenoDermと称する)から生成されている。更に、LifeCell Corporation社は、CYMETRA(登録商標)という名称の下でALLODERM(登録商標)を(上述のように)低温破砕することによって生成される粒子状の皮膚の無細胞マトリックスを市販している。CYMETRA(登録商標)の粒径は集団で定量すると、約60ミクロンないし約150ミクロンの範囲内となる。加えて、別の好適なATMは、更にLifeCell Corporation社から入手可能なブタ真皮から生成される水を含むATM:STRATTICE(登録商標)である。
【0055】
粒子状、あるいは粉砕した(粉末化した)本開示のATMの粒子は最長寸法が1.0mm未満となる。これより大きな寸法を有するATMの小片は粒子状ではない無細胞マトリックスである。
【0056】
[エラスターゼ処理]
本明細書で用いられるように、「エラスターゼ処理(elastase treatment)」という用語は一般的には、組織のエラスターゼネットワークを破壊する方法で、組織サンプル(又は複数のサンプル)をエラスターゼに曝露し、このようにして1以上の組織サンプルの伸張性を低減することである。エラスターゼ処理は一般的には、組織サンプルが脱細胞化された後に随時(例えば、すぐ後、数時間後、又は数日後)行われる。上に示したように、それは脱細胞化し、次いで長期間(例えば、数週、数箇月、又は更に数年)保存、凍結、又は凍結乾燥された組織で行ってもよい。
【0057】
エラスターゼは広範で多様な供給源から取得できる。従って、動物(例えば、ブタといった哺乳類)、植物、又は微生物(例えば、細菌)の供給源から取得できる。本開示の方法で用いられうるエラスターゼの特異的で限定されない例は以下の通りである。
【0058】
(a)ブタ膵臓のエラスターゼ(酵素委員会番号EC3.4.21.36)(膵ペプチダーゼE)
240のアミノ酸残基の単鎖ポリペプチドであり、4のジスルフィド架橋を含む。広範な特異性を有し、Ile、Gly、Ala、Ser、Val、及びLeuといった小さな疎水性アミノ酸のカルボキシル側でタンパク質を開裂する。更にアミドとエステルとを加水分解する。ブタ膵臓のエラスターゼは、トリプシン、キモトリプシン、又はペプシンによって攻撃されない基質である、天然エラスチンを加水分解する能力においてプロテアーゼの中でも特有である。ダイズトリプシン阻害剤及びカリクレイン阻害剤を添加することによって、エラスチン分解活性ではなく、タンパク質分解活性が抑制される。
【0059】
(b)ヒト好中球(白血球)エラスターゼ(酵素委員会番号EC3.4.21.37)
リソソームエラスターゼ、好中球エラスターゼ、多形核白血球エラスターゼ、セリンエラスターゼ、リソソームエラスターゼ、又は顆粒球エラスターゼとしても周知である。29KDaのセリンエンドプロテアーゼは4のジスルフィド結合を有する、238のアミノ酸の単鎖ペプチドであり、ブタ膵臓のエラスターゼと約43%の配列相同性を共有する。白血球エラスターゼは好適にはバリンのカルボキシル側で開裂し、それほどではないにせよ、アラニンの末端(すなわち、カルボキシル側)を更に開裂する。エラスチンの他に、白血球エラスターゼは:軟骨プロテオグリカンと;I、II、II及びIV型コラーゲンと;フィブロネクチンと;を開裂する。
【0060】
(c)ヒトマトリックスのメタロプロテイナーゼ12(MMP−12)(酵素委員会番号EC3.4.24.65)
MMP−12はマクロファージエラスターゼとしても周知である。ヒト白血球エラスターゼより広範な範囲の細胞で発現し、不活性酵素(チモーゲン)として分泌される。チモーゲンはプロペプチドドメインを除去することによって活性化される。MMP−12はエラスチン、IV型コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、ならびに、α1プロテイナーゼ阻害剤、α2抗プラスミン、及びプラスミノーゲン活性化因子阻害剤2を分解するが、間質コラーゲンを分解しない。
【0061】
(d)緑膿菌エラスターゼ等の微生物エラスターゼ
不溶性のエラスチン、コラーゲン、免疫グロブリン、血清α1プロテイナーゼ阻害剤、α2マクログロビン、ラミニン、及びフィブリンを加水分解するメタロプロテイナーゼである。
【0062】
対象のエラスターゼは:(i)全長の野生型成熟ポリペプチドと;(ii)機能的な(i)のフラグメントと;(iii)機能的な(i)及び(ii)の変異体と;を含む。本明細書で用いられるように、エラスターゼのポリペプチドの「フラグメント(fragment)」は対応する全長の野生型成熟エラスターゼより短い、対応する全長の野生型成熟エラスターゼのフラグメントである。エラスターゼの変異体は:1ないし50、1ないし25、1ないし15、1ないし10、1ないし8、1ないし5、又は1ないし3(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、15、20、25、30、35、40、又は50)のアミノ酸のうちの1以上の内部欠失か;任意の数のアミノ酸の内部付加又は末端付加(例えば、内部欠失について上で得られた同一数)か;あるいは、30以下(例えば、25、20、15、12、10、9、8、7、6、5、4、3、2、又は1以下)のアミノ酸置換か;を含む、全長の野生型成熟エラスターゼ又はエラスターゼのフラグメントにできる。アミノ酸置換は保存的置換であってもよい。保存的置換は一般的には、以下の基との置換を含む:グリシン及びアラニン;バリン、イソロイシン、及びロイシン;アスパラギン酸及びグルタミン酸;アスパラギン、グルタミン、セリン、及びスレオニン;リジン、ヒスチジン、及びアルギニン;ならびに、フェニルアラニン及びチロシン。エラスターゼの「機能的(functional)」なフラグメント及び「機能的」な変異体は、対応する全長の野生型成熟エラスターゼのエラスターゼ活性のうちの少なくとも25%(例えば、少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、97%、98%、99%、99.5%、100%、更に100%超)を有する。上述から変異体が対立遺伝子の変異体となりうることが理解されよう。
【0063】
いくつかの実施形態においては、タンパク質分解阻害剤(例えば、ダイズトリプシン阻害剤及びカリクレイン阻害剤)は、広範で非特異的なタンパク質分解活性を低減するが、総て又は相当なレベル(例えば、40%超、50%超、60%超、70%超、80%超、90%超、95%超、98%超、又は99%超)の、その非特異的なタンパク質分解活性を維持するために、ATMを処理するように用いられるエラスターゼ含有培地に含むことができる。更に、例えば、非特異的なタンパク質分解活性が低減するが、エラスチン分解活性が維持されるか、最小限に低減するか、あるいは更に増加されるエラスターゼの機能的変異体は有用となりうる。
【0064】
上述の総ての野生型エラスターゼのポリペプチド、フラグメント、及び変異体(以下では「エラスターゼのポリペプチド」と一括りにして称される)は、標準的な生物化学的及び化学的方法によって任意の関連する天然供給源から取得できる。代替的に、形質転換した宿主細胞(哺乳類、昆虫、若しくは酵母細胞を含む真菌といった真核細胞、又は細菌細胞といった原核細胞)を用いて標準的な組換え方法によって生成される組換え分子にできる。このような組換え方法は当該技術分野で公知である。
【0065】
エラスターゼのポリペプチドは未精製形態で(例えば、細胞溶解物又は組織破砕物として)、半精製形態で、あるいは実質的に純粋な形態で用いることができる。いくつかの実施形態においては分離してもよい。本明細書で用いられるように、「分離したエラスターゼのポリペプチド(isolated elastase polypeptide)」という用語は、天然に発生する対応物がないか;あるいは、例えば、膵臓、肝臓、脾臓、卵巣、精巣、筋肉、関節組織、神経組織、胃腸組織、若しくは腫瘍組織といった組織、又は、血液、血清、若しくは尿といった体液、又は、白血球、単核球細胞、リンパ球細胞、若しくは微生物細胞といった細胞において、天然に同時発生する成分から分離又は精製されるか;のいずれかである、エラスターゼのポリペプチドのことである。一般的にはエラスターゼのポリペプチドは、天然に同時発生するタンパク質及び他の天然の有機分子がなく、乾燥重量で少なくとも70%である場合に、「分離(isolate)」されたと見なされる。多様な実施形態においては、エラスターゼのポリペプチドの調合物は乾燥重量で少なくとも80%、少なくとも90%、又は少なくとも99%のエラスターゼのポリペプチドである。化学的に合成されたエラスターゼのポリペプチドは元来、天然に同時発生する成分から分離されているため、合成したエラスターゼのポリペプチドは「分離」されている。更に、エラスターゼのポリペプチドは、培養培地又はインキュベーション緩衝液が含む哺乳類の血清(又は、その他の体液)中にあるために、(例えば、ATMを処理するのに用いられる)培養培地又はインキュベーション緩衝液に存在でき、分離したエラスターゼのポリペプチドではない。
【0066】
上述のように、本開示の方法を行うのに有用な、分離したエラスターゼのポリペプチドは:天然供給源から(例えば、組織から)の抽出によって;ポリペプチドをコード化する組換え型核酸の発現によって;あるいは、化学合成によって;取得できる。天然に発生する供給源と異なる細胞系で生成されるエラスターゼのポリペプチドは「分離」されているが、それは必然的に天然に同時発生する成分がないためである。分離又は精製の度合は、任意の好適な方法、例えば、カラムクロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、又はHPLC分析によって測定できる。
【0067】
いくつかの実施においては、エラスターゼ処理は、得られたmATMにおいて所望の伸張性を取得する方法で制御される。それらの実施において、得られた所望のmATMの伸張性は、約5ニュートン/cmの張力の印加の下で、mATMが約14%ないし24%、約15%ないし23%、約16%ないし22%、約17%ないし21%、約18%ないし20%、又は約19%で伸張するようにできる。代替的に、所望の伸張性は、約5ニュートン/cmの張力の印加の下で、得られたmATMが同様に約24%、23%、22%、21%、20%、又は19%以下で伸張するようにしてもよい。
【0068】
所望の伸張性を有するmATMを生成するステップは、例えば、1以上の組織サンプルが曝露される溶液中において曝露の期間及びエラスターゼの濃度を制御するステップを具えることができる。曝露の期間は例えば、約12ないし24時間、13ないし23時間、14ないし22時間、15ないし21時間、16ないし20時間、17ないし19時間、又は約18時間にできる。代替的に、曝露の期間は少なくとも3時間、6時間、9時間、又は12時間であってもよい。代替的に、曝露の期間は30時間、18時間、又は9時間以下であってもよい。
【0069】
溶液中のエラスターゼの濃度は、約0.1ユニット/ミリリットルないし0.5ユニット/ミリリットル、あるいは約0.2ユニット/ミリリットルないし0.4ユニット/ミリリットルであってもよい。溶液中のエラスターゼの濃度は、約0.2ユニット/ミリリットル、約0.25ユニット/ミリリットル、あるいは約0.3ユニット/ミリリットルであってもよい。
【0070】
一般的に、1以上の組織サンプルを処理するのに用いられるエラスターゼ溶液の量は湿組織1グラムにつき約3ミリリットルである。他のエラスターゼ溶液の量は同様に許容される。例えば、湿組織1グラムにつき3ミリリットルを超える量は確実に作用するであろう。
【0071】
エラスターゼ処理は周囲温度で行うことができる。本明細書で用いられるように、「周囲温度(ambient temperature)」という用語は20ないし25℃の温度を意味する。
【0072】
一般的には、1以上の組織サンプル及びエラスターゼ溶液は、エラスターゼの曝露の期間の総てではないが、少なくとも一部の間、攪拌される。
【0073】
[治療の方法]
任意の特定の例で用いられるATM又はmATMの形態は適用すべき組織又は器官に依存する。
【0074】
ATMのシート(所望の寸法に選択的に切削された)は例えば:(a)損傷されたか、あるいは欠損を含む組織又は器官の周囲に巻かれるか;(b)損傷されたか、あるいは欠損を有する組織又は器官の表面に配置されるか;あるいは、(c)組織又は器官における窩、間隙、又は腔に巻取られ、挿入される。このような窩、間隙、又は腔は例えば:(i)外傷起源;(ii)患部組織の除去によるもの(例えば、梗塞した心筋組織);あるいは、(iii)悪性腫瘍又は良性腫瘍の除去によるもの;にできる。ATMを用いて、未発達の組織又は器官を増大又は寛解させることか、あるいは変形した組織又は器官を増大又は再構成することができる。1以上のこのような条片は任意の特定の部位で用いることができる。移植片は例えば、当該技術分野で周知の縫合、ステープル、鋲、又は組織接着剤若しくは組織充填剤によって適所に保持できる。代替的に、例えば欠損又は窩に十分に強固に充填される場合は、固定デバイスを要しなくともよい。粒子状のATMは薬学的に許容可能な滅菌した担体(例えば、ノーマルセーライン)に懸濁され、対象部位に皮下注射針を介して注射できる。代替的に、乾燥粉末化したマトリックス又は懸濁液は対象部位の上又は中に噴霧できる。懸濁液は更に特定部位の中又は上に注いでもよい。更に、粒子状のATMを比較的少量の液体担体と混合することによって、「パテ」を生成できる。このようなパテ、あるいは更に乾燥した粒子状のATMは、上述の器官又は組織における間隙、窩、又は腔のいずれかに層状化、充填、又は包入することができる。更に粒子状でないATMは、粒子状のATMと組合わせて用いることができる。例えば、骨における窩はパテで充填し、ATMのシートで覆うことができる。
【0075】
ATMは組織又は器官に対して、あるいはその上に、その組織又は器官及び隣接する組織又は器官を再生するために適用される。このように、例えばATMの条片が長骨の重大な間隙の欠損の周囲を包んで、間隙の欠損の周囲に骨膜等価物を生成でき、骨膜等価物は次いで、骨の間隙内での骨の生成を刺激できる。同様に、抜歯ソケットにおけるATMを内植することによって、損傷した歯肉組織は修復及び/又は置換でき、「新しい」歯肉組織は、例えば抜歯の結果として喪失しうるソケットの底部において任意の骨の修復及び/又は再生の助けとなる。歯肉組織(歯肉)に関しては、後退する歯肉は更に、懸濁液の注入によって、あるいは粒子状のATMのパテの好適な歯肉組織への充填によって置換できる。更に歯肉組織を修復するのに加えて、この治療は歯周病及び/又は抜歯の結果として喪失した骨の再生を生じさせることができる。上の歯肉の欠損のいずれかを治療するのに用いられる組成物は、本明細書中で列挙する1以上の他の成分、例えば鉱質除去された骨粉、増殖因子、又は幹細胞を含むことができる。
【0076】
粒子状でないATM及び粒子状のATMの双方は、他の骨格又は物理学的な支持成分と組合わせて用いることができる。例えば、1以上のATMのシートはATM以外の生物学的材料、例えば、ヴァージニア州ヴァージニアビーチのLifeNetといった組織バンクによって供給される放射線照射した軟骨、あるいは例えば、ニュージャージー州エデンタウン(Edentown)のOsteotech Corporation社によって供給されるボーンウェッジ及び骨型から生成される1以上のシートで層化できる。代替的には、このようなATM以外のシートは合成材料、例えばジョージア州アトランタのBiocure社によって供給されるようなポリグリコール酸又はヒドロゲルから生成できる。他の好適な骨格又は物理学的な支持材料は米国特許第5,885,829号に開示され、その開示は全体の引用によって本明細書中に組み込まれる。このような更なる骨格又は物理学的な支持成分は、任意の都合のよい寸法又は形状、例えば、シート、立方体、矩形、円板、球、又は粒子(粒子状のATMで上述したような)にできることは理解されよう。
【0077】
粒子状のATMと混合され、粒子状でないATMに含浸されうる活性物質は骨粉、鉱質除去された骨粉、及び上述のいずれかを含む。
【0078】
マトリックスに組み込まれうるか、ATM移植片の配置部位に投与されうるか、あるいは全身投与されうる因子は、当該技術分野に周知の広範な細胞増殖因子、血管新生因子、分化因子、サイトカイン、ホルモン、及びケモカインのいずれかを含む。因子の2以上の任意の組合せは、以下に列挙された手段のいずれかによって対象に投与できる。関連する因子の例は線維芽細胞増殖因子(FGF)(例えば、FGF1ないし10)、上皮増殖因子、ケラチノサイト増殖因子、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)(例えば、VEGF A、B、C、D、及びE)、血小板由来増殖因子(PDGF)、インターフェロン(IFN)(例えば、IFN−α、β、又はγ)、形質転換増殖因子(TGF)(例えば、TGFα又はβ)、腫瘍壊死因子α、インターロイキン(IL)(例えば、IL−1ないしIL−18)、Osterix、Hedgehog(例えば、ソニックヘッジホッグ又はデザートヘッジホッグ)、SOX9、骨形成タンパク質、副甲状腺ホルモン、カルシトニンプロスタグランジン、あるいはアスコルビン酸を含む。
【0079】
タンパク質の因子は更に、対象:(a)タンパク質である上の因子のうちの任意の1以上をコード化する核酸配列を含む発現ベクター(例えば、プラスミド又はウイルスベクター);あるいは、(b)このような発現ベクターで(安定して、又は一時的に)形質移入又は形質導入された細胞;に投与することによって、レシピエント対象に送達できる。発現ベクターにおいては、コード配列は1以上の転写調節要素(TRE)に動作可能に結合される。形質移入又は形質導入用に用いられる細胞はレシピエントに由来させ、レシピエントと組織適合性にできる。しかしながら、因子に対する短い曝露のみを要求することが可能であり、ひいては組織不適合性ではない細胞が更に用いられうる。細胞はマトリックスが対象に配置される前に、(粒子状の、あるいは粒子状でない)ATMに組み込まれうる。代替的に、対象において既に適所にあるATMに、対象において既に適所にあるATMに近い部位に、あるいは全身的に注入できる。
【0080】
当然ながら、上述のATM及び/又は他の物質又は因子のうちのいずれかの投与は単回又は複数回にできる。複数回の場合、投与は当該技術分野の当業者によって容易に決定可能な時間間隔にできる。多様な物質及び因子の用量は対象の種、年齢、体重、サイズ、及び性別によって大きく変化し、更に、当該技術分野の当業者によって容易に決定可能である。
【0081】
マトリックスが用いられうる状態は複数である。従って例えば、上述の損傷又は欠損のうちのいずれかを有する骨及び/又は軟骨の修復のために用いることができる。粒子状のATMと粒子状でないATMとの双方は、上に列挙した形態のいずれかで、あるいはプロセスのいずれかによって用いられうる。このような治療方法が適用できる骨は限定しないが、長骨(例えば、脛骨、大腿骨、上腕骨、橈骨、尺骨、又は腓骨)、手足部の骨(例えば、踵骨又は舟状骨)、頭部又は首部の骨(例えば、側頭骨、頭頂骨、前頭骨、上顎骨、下顎骨)、あるいは椎骨を含む。上述のように、骨の重大な間隙の欠損はATMで治療できる。このような重大な間隙の欠損においては、間隙は例えばパテ又は充填したATMのシートで満たすことができ、ATMのシートで包むことができる。代替的に、間隙はATMのシートで包むことができ、他の材料(以下参照)で満たすことができる。総てのこれらの骨及び/又は軟骨の治療において、更なる材料は修復プロセスを更に手助けするように用いることができる。例えば、間隙は海綿骨及び/又は硫酸カルシウムのペレットで満たすことができ、粒子状のATMは、鉱質除去された骨粉と混合して、骨の損傷又は骨の欠損の部位に送達できる。更に、ATMはレシピエントからの骨髄及び/又は骨細片と組合わせることができる。
【0082】
ATMは更に、筋膜、例えば腹壁筋膜又は骨盤底筋膜を修復するのに用いることができる。このような方法においては、ATMの条片は一般的に、例えば周囲の筋膜又は宿主組織、あるいはクーパー靱帯といった安定性のある靱帯又は腱に縫合することによって、腹腔又は骨盤底に結合される。
【0083】
ATMはヘルニアの修復に非常に好適である。ヘルニアは、体腔の含有物の体腔の外側への突出であり、通常その含有物は体腔において見出される。これらの含有物は多くの場合、体腔内部に並ぶ薄膜に取り囲まれ、全体として膜及び含有物は「ヘルニア嚢(hernial sac)」と称される。最も一般的には、ヘルニアは腹壁における脆弱性が腸突出が生じる局所的な孔又は欠損に拡大するとき、腹部において発症する。腹壁におけるこれらの脆弱性は一般的には、天然に腹壁の薄い位置、すなわち、腹部から末端及び他の器官へ延在する血管用の導管の通過を可能にすべく、天然の開口部が存在する部位で生じる。脆弱性の可能性がある他の領域は、任意の既往の腹腔手術の部位である。脂肪組織は通常、最初にヘルニアになり、腸管又は他の腹腔内器官の断片化が後に続く。器官への血液供給が低下するように、内臓器官の断片がヘルニア嚢内部に捕捉された場合、患者は、腸閉塞、壊疽及び死を含む重篤な合併症のおそれがある。ヘルニアは自然治癒せず、多くの場合病状を治療するのに外科的修復が必要とされるため、経時的に大きさが増える。一般的にヘルニアは、ヘルニア嚢を体腔へ再挿入し、その後脆弱化した筋肉組織を修復することによって修復される。
【0084】
多くの種類のヘルニアが存在する。男性のみに現れる鼠径及び陰嚢ヘルニアを除いて、ヘルニアは任意の年齢又は性の個体において見出される。ヘルニアの例は:腸管が鼠径管の後壁を介して鼠径管に突出しうる直接鼠径ヘルニア;腸管が鼠径管の尖部での脆弱性を介して鼠径管に突出しうる間接鼠径ヘルニア;大腿血管の下側の末端への通過によって生成される脆弱領域に腹腔含有物が通過する大腿ヘルニア;腸管含有物が陰嚢に突出する陰嚢ヘルニア;腹直筋の縁に沿ってヘルニアが生じるスピゲリウスヘルニア;腹腔含有物(例えば、腸管又は他の腹腔器官)が閉鎖管に突出する閉鎖孔ヘルニア;ヘルニアが下腰三角であるプチ三角(Petit’s triangle)を通るプティヘルニア、及びヘルニアが上腰三角であるグランフェルト−レスハフト三角(Grynfeltt−Lesshaft triangle)を通るグランフェルトヘルニア(Grynfeltt’s hernia)等の腰ヘルニア;腸の一方の側壁のみが絞扼されるリヒターヘルニア;ヘルニアがヘッセルバッハ三角(Hesselbach’s triangle)を通るヘッセルバッハヘルニア;下腹壁血管のいすれかの側面でヘルニア嚢が突出して、複合型の直接鼠径ヘルニア及び間接鼠径ヘルニアを提供するパンタロンヘルニア;クーパーヘルニア;上腹壁ヘルニア(腹部の正中線における臍と胸郭下部との間にヘルニアが生じる);胃の一部が横隔膜の食道裂孔を通って突出する、ボホダレクヘルニア及びモルガーニヘルニア(Morgagni’s hernia)等の横隔膜ヘルニア又は裂孔ヘルニア;並びに、突出が臍を通る臍ヘルニアを含む。
【0085】
先天的起源のヘルニアと対照的に、腹壁ヘルニア又は再発性ヘルニアとしても周知の切開創ヘルニアは、古い手術痕領域において腹腔内で生じる。切開創ヘルニアには、先天性ヘルニアよりも、外科的修復後のより高い再発のリスクがある。更に、多発性である再発性ヘルニア、すなわち、2以上の修復がおこなわれた後に再発するヘルニアの場合においては、修復成功の尤度は後の各手順で低下する。
【0086】
梗塞した心筋はATMによる修復を再構築するための別の候補である。以前の定説と対照的に、総ての心筋細胞が増殖性ひいては再生性の能力を喪失したわけではないことが現在周知である[例えば、Beltramiら(2001)New.Engl.J.Med.344:1750−1757;Kajsturaら(1998)Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA95:8801−8805]。更に、幹細胞は例えば骨髄及び血液中に、及び血管に付随する周皮細胞として存在し、心筋細胞に分化できる。梗塞した組織自体は除去され、かつ好適な大きさに切除されたATMのシートで置換されるか、あるいは、粒子状のATMの懸濁液が梗塞した組織に注入されうる。先天性の心臓形成不全、又は他の構造上の欠損は組織中に切開部を生成し、切開部によって形成された間隙を拡げ、所望の大きさに切削されたATMのシートを挿入することによって、あるいは心外膜面及び心内膜面にATMのシートを配置し、その間に粒子状のATMを配置することによって修復できる。特定の条件においては、切開部によって間隙を形成することは十分ではなく、いくつかの組織を切除することが必要となりうることは理解されよう。当然ながら当該技術分野の当業者は、ATMを同様に用いて、他の種類の筋肉、例えば尿管若しくは膀胱、又は二頭筋、胸筋、若しくは広背筋といった骨格筋の損傷又は欠損を修復できることは理解されよう。
【0087】
更に、ATMのシートは食道、胃、ならびに小腸管及び大腸管を含む、損傷又は除去された腸管組織を修復又は置換するのに用いることができる。この場合においては、ATMのシートは腸管における穿孔又は孔を修復するのに用いることができる。代替的に、ATMのシートは腸管中の間隙(例えば、腫瘍又は腸管の患部断片を除去するために外科手術によって形成された間隙)を満たすように用いることができるシリンダに形成できる。このような方法は例えば横隔膜ヘルニアを治療するのに用いることができる。シート形態におけるATMは更に、この条件において、ならびに横隔膜が組織の修復若しくは置換、又は追加を要求する他の条件において、横隔膜自体を修復するのに用いられうることは理解されよう。
【0088】
以下の実施例は、限定せずに本開示を例示するのに役立つ。
【0089】
[実施例]
以下で別段に述べない限り、以下の実施例で用いられたATMはLifeCell社の固有の方法によって処理された。ATMを生成する方法は、この実施例において広範に記載され、個別の実験で用いられるATMの詳細は関連する実施例で提供される。以下の記載はヒト皮膚からのATMの生成に用いられるものである。
【0090】
ヒトドナーの皮膚は、死亡したドナーから皮膚のサンプルを血縁者から同意を得た後に収集した、国家全体にある様々な米国の組織バンク及び病院から取得された。調達した皮膚は抗生物質(ペニシリン及びストレプトマイシン)を含む組織培養用のRPMI1640培地に配置され、水の氷(wet ice)上、同一培地において、でニュージャージー州ブランチバーグにあるLifeCell社の設備に輸送された。到着すると同時に、皮膚組織の容器の温度が測定され、温度が10℃を超える場合は廃棄する。RPMI1640培地は無菌状態下で交換され、皮膚は4℃で保存される一方、血清学的試験(例えば、RPR、VDRL、HIV I及びII、B型肝炎表面抗体、C型肝炎ウイルス、ならびにHTLV I及びII)が行われた。皮膚は次いで、事前凍結した体積濃度で35%のマルトデキストリン水溶液に移された。2ないし4時間後、皮膚は−80℃のフリーザーで以下に記載のように処理されるまで凍結及び保存された。
【0091】
凍結された皮膚は氷が見えなくなるまで、水浴において37℃で解凍された。事前凍結された溶液は以下のステップからなる更なる処理の前に排出された:(i)脱表皮化;(ii)脱細胞化;(iii)洗浄;(iv)抗凍結剤溶液におけるインキュベーション;(v)凍結乾燥。
【0092】
(i)脱表皮化
皮膚の表皮は、室温で8ないし32時間、ヒト皮膚用の脱表皮化溶液(1MのNaC1、体積濃度で0.5%のTritonX100、10mMのEDTA)において静かに攪拌して、組織サンプルをインキュベートすることによって除去された。表皮層は真皮から除去された。表皮は廃棄され、真皮は更なる処理のために保持された。
【0093】
(ii)脱細胞化
細胞成分を除去するために、真皮は脱細胞化溶液(体積濃度で2%のデオキシコール酸ナトリウム、10mMのEDTA、10mMのHEPES緩衝剤、pH7.8ないし8.2)を用いて5ないし60分間すすがれ、次いで、室温で12ないし30時間、その溶液において静かに攪拌してインキュベートした。
【0094】
(iii)洗浄
洗浄措置は前述の処理ステップを用いて、死細胞、細胞細片、及び残余の化学物質を洗い流すように作用する。脱細胞化した真皮は第1の洗浄溶液(体積濃度で0.5%のTritonX−100及び10mMのEDTAを含むリン酸緩衝食塩水(PBS))に移され、その後、室温で5ないし60分間、静かに攪拌してインキュベートされた。真皮はその後、第2の洗浄溶液(10mMのEDTAを含むPBS)において室温で静かに攪拌して3の連続洗浄を受けた。最初の2の洗浄は短く(各々15ないし60分)、3番目の洗浄は長かった(6ないし30時間)。
【0095】
(iv)抗凍結剤溶液におけるインキュベーション
洗浄措置後、組織マトリックスは室温で5ないし24時間、体積濃度で15%のマルトデキストリンを含む抗凍結剤溶液に移した。インキュベーションの間、ATM及び溶液は攪拌された。
【0096】
(v)凍結乾燥
抗凍結剤のインキュベーション後、得られたATMは好適な大きさに切削され、凍結乾燥され、次いで多様な試験に用いられた。
【0097】
エラスターゼ処理は実施される場合、洗浄ステップ(iii)の後に行われた。用いたエラスターゼは天然であり、ブタ膵臓から抽出された。エラスターゼはSigma Aldrich社から取得された。凍結乾燥したエラスターゼは200mMのトリスHCl緩衝剤(pH8.8)(例えば、貯蔵液)で再構成した。ステップ(ii)からのATM材料は最初に100mMのトリスHCl(pH8.0)ですすがれ、緩衝剤が排出された。すすぎ後、100mMのトリスHCl(pH8.0)は組織1グラムにつき約3mLの量でプラスチックボトルに添加された。エラスターゼ貯蔵液は1mLにつき約0.1ないし0.5ユニットの最終酵素濃度まで添加され、組織材料及びエラスターゼ溶液の混合物は周囲温度(例えば、約20ないし25℃)で一晩(約18ないし22時間)処理された。
【0098】
[組織伸長性に対するエラスターゼ処理の効果]
組織サンプルの伸長性に対するエラスターゼ処理の効果が調査された。その調査に基づいて、組織サンプルの伸長性は、エラスターゼ処理への曝露の結果として減少する可能性があると結論づけた。更に、組織伸長性における変化は組織サンプルの群をエラスターゼ処理に曝露することによって低減できる。
【0099】
[実施例1]
エラスターゼ処理されたmATMの伸張性は処理されないATMの伸張性と比較された。この実施例においては、30の組織サンプル対が取得された。各々の組織サンプル対は、同一ドナーロットからの、1の処理されない組織サンプルと1のエラスターゼ処理された組織サンプルとを含んだ。総ての組織サンプルは上述のLifeCell社の固有の方法によって処理され、それと共に、組織の一部は組織洗浄(ステップ(iii))の後にエラスターゼ処理に曝露された。エラスターゼ処理は:0.25ユニット/mLのエラスターゼ溶液中に組織サンプルを配置するステップと;室温で約20ないし24時間、組織サンプル及びエラスターゼ溶液の混合物をインキュベートするステップと;を具えた。エラスターゼ処理後、組織サンプルは組織洗浄溶液で洗浄された。
【0100】
エラスターゼ処理された組織サンプルは、エラスターゼ処理に曝露されなかった組織サンプルのコントロール群と比較された。この実施例においては、伸張性は、約1センチメートル長の組織サンプルが約5ニュートン(5N)の張力を受けた場合に生じる伸張率(%)によって示される。図3は多数のエラスターゼ処理されたATM(黒丸)及びエラスターゼ処理されないATMについてのこのようなデータを提供するグラフである。このグラフは横軸(x軸)でドナー年齢(年単位)を示し、及び縦軸(y軸)で力の印加の下での伸張率を示す。エラスターゼ処理されたmATM(黒丸)のデータ点に対して、同一ドナーロットでの対応する処理されないATM(白丸)のデータ点がある。
【0101】
グラフにおけるデータは、エラスターゼ処理されたmATMが対応するその各々の処理されないATMでなされるよりも小さな伸張率を生じたことを示す。例としては、ちょうど20歳のドナー年齢に対応するデータ点の対は、処理されないATMが張力の印加の下で60%を超えて伸張するが、対応するエラスターゼ処理されたmATMは20%未満しか伸張しないことを示している。これは伸張性における有意な減少を示す。
【0102】
更に、グラフにおけるデータは、処理されないATM(白丸)の母集団にわたる伸張性における変化の度合が比較的大きいことを示す。実際に、処理されないATMの一部は20%未満しか伸張しないが、別のものは60%を超えて伸張する。一般的には、老齢のドナーからの処理されないATMは若齢のドナーからの処理されないATMよりも伸張性が低い傾向にあった。
【0103】
実に対照的に、エラスターゼ処理されたmATM(黒丸)の母集団にわたる伸張性における変化の度合は比較的小さい。実際に張力の印加の下で、多くのエラスターゼ処理されたmATMは約19%伸張し、総てのエラスターゼ処理されたmATMは約14%ないし約24%伸張する。エラスターゼ処理されたmATMの伸張性(約14%ないし約24%)における変化は例示したグラフで陰影化された帯域で示される。
【0104】
[エラスターゼの濃度は0.1ユニット/ml程度の低さで十分であった]
多様なエラスターゼの濃度の有効性が試験された。0.1ユニット/ミリリットル程度に低いエラスターゼの濃度は皮膚組織サンプルの伸張性に影響を与えるのに十分であると定量された。
【0105】
[実施例2]
組織サンプルは、上に記載されているLifeCell社の固有の方法を用いて処理された。組織洗浄(ステップiii)後、エラスターゼ処理に曝露された。エラスターゼ処理の間、組織サンプルはそれぞれ、約0.1ユニット/ミリリットル又は約0.5ユニット/ミリリットルのエラスターゼの濃度を有するエラスターゼ溶液に曝露された。エラスターゼ溶液は、湿性の組織サンプル1グラムにつき約3ミリリットルの溶液で組織サンプルと混合された。エラスターゼの曝露は約18時間続いた。エラスターゼの曝露後、組織サンプルはトリスHCl緩衝剤ですすがれ、凍結乾燥溶液にインキュベートされ、凍結乾燥された。
【0106】
図4A及び4Bはそれぞれ、処理されない組織サンプル(図4A)と、0.1ユニット/ミリリットルの濃度でエラスターゼ溶液で処理される組織サンプル(図4B)を示す。双方のサンプルはVerhoeff染色されている。エラスターゼ処理された組織サンプルは処理されない組織サンプルと同一のドナーロット由来である。染色の陰影は組織サンプルの各々のエラスチン含有量を示す。図4A及び4Bの目視による比較によって、図4Bにおけるエラスチンネットワークが少なくとも部分的に破壊されているように見えることが明確になる。従って、少なくとも0.1ユニット/ミリリット程度に低いエラスターゼの濃度は組織サンプルの伸張性に影響を与えるのに十分であると思われる。
【0107】
エラスターゼ処理はACM中のペプチド結合を破壊して、破壊されたエラスチンネットワークを有するmATMを生成すると考えられている。一般的には、十分な数のペプチド結合が破壊されて、ATMと比較してmATMにおける伸張性の度合の低下を生じさせる。一般的には、破壊されるペプチド結合の数は、特異的な張力量の下でのmATMの伸張率(又は、歪み)が同一張力量の下での対応するATMの伸張率(又は、歪み)の95%未満(例えば、95%、90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、10%、5%、又は2%未満)となる範囲で十分である。
【0108】
[組織はエラスターゼ処理で大きさが増加する傾向にある]
エラスターゼ処理が組織サンプルの大きさに対して有する効果が調査された。この調査に基づいて、組織サンプルの大きさは、エラスターゼ処理への曝露の結果として増加する可能性があることが定量された。
【0109】
[実施例3]
33の組織サンプル対の寸法が定量された。各々の組織サンプル対は、同一ドナーロットからの、1の処理されない組織サンプルと1のエラスターゼ処理された組織サンプルとを含んだ。手短に言うと、33のドナーロットからの処理されないATMの物理的な寸法が測定され、各々のサンプルの面積(すなわち、長さ×幅)が定量された。処理されないATMはエラスターゼ処理を受け、エラスターゼ処理されたmATMを生じさせた。エラスターゼ処理されたmATMの同一の物理的な寸法が測定され、各々のエラスターゼ処理されたmATMの面積(すなわち、長さ×幅)が定量された。各々のATM及びmATMの対でそれぞれに計算された面積は、エラスターゼ処理への曝露の結果として、各々の組織がどの程度大きさが増加したかを定量するために比較された。
【0110】
図5のグラフはこの実験の結果を提供し、33の組織サンプルの各々でエラスターゼ処理の結果として得た棒グラフを示す。グラフは任意のドナーロット番号を横軸(x軸)に、組織の棒グラフ(面積の割合)を縦軸(y軸)に示す。
【0111】
データは、組織サンプルの一部では大きさの増加が生じないか、あるいはわずかに生じるかであることを示す。例えば、ドナーロット番号1ないし4に対応するデータは、それらの組織サンプルでは大きさの増加が実質的に生じなかったことを示す。しかしながら、他の組織サンプルでは大きさの有意な増加が生じた。例えば、ドナーロット番号33に対応するデータはその組織サンプルで100%を超える大きさの増加が生じたことを示す。
【0112】
平均して、図5のグラフで表わされる組織サンプルで約34.8%の大きさの増加が生じ、標準偏差は約+/−29.2%であった。
【0113】
[実施例4]
図6は、エラスターゼ処理されたmATM404に隣接する処理されないATM402の平面図である。
【0114】
エラスターゼ処理に先立ち、組織サンプル402及び404は同一ドナーロット由来であった。同一動物の同一位置由来であり、互いに同様の物理的(すなわち、縦方向及び横方向の)寸法を有した。目視による観察及び定規の引用によって、エラスターゼ処理されたmATMが処理されないATMよりも明確に大きくなることが明らかになる。実際に、処理されないATM402は約3/8インチの長さを有するが、エラスターゼ処理されたmATM404は約5/8インチの長さを有する。更に、エラスターゼ処理されたmATM404は明らかに、処理されないATM402よりも幅が広い。
【0115】
[実施例5]
表1は、エラスターゼ処理前及びエラスターゼ処理後の異なるドナーロット由来の30の組織サンプル対の物理的寸法を示す。
【0116】
【表1】
【0117】
物理的寸法は、エラスターゼ処理前及び後の組織サンプルについて、「Lower D(cm)」と同定されるセンチメートル(cm)単位の小さい方の寸法と、「Higher D(cm)」と同定されるセンチメートル(cm)単位の大きい方の寸法とを含む。
【0118】
データは、エラスターゼ処理によって、0%ないし50%の範囲で小さい方の寸法又は大きい方の寸法が増加したことを示す。組織サンプルのほとんどについて、データは、測定した寸法のうちの少なくとも1つでエラスターゼ処理により大きさが増加したことを示す。小さい方の寸法の大きさの増加の平均値は14.7%であり、標準偏差は14.5%である。大きい方の寸法の大きさの増加の平均値は17.3%であり、標準偏差は13.0%である。
【0119】
[エラスチン含有量に対するエラスターゼ処理の効果]
組織におけるエラスチン含有量に対するエラスターゼ処理の効果が考察された。エラスチン含有量の分析は英国のBicolor社から入手可能なFASTIN(登録商標)Elastin Assayを用いて行われ、合成ポルフィリン(スルホン酸形態の5,10,15,20テトラフェニル−21,25ポルフィリン)を用いた特異的な染料結合と関連づけられる。
【0120】
[実施例6]
表2は、エラスターゼ処理前及びエラスターゼ処理後の30の異なる対のドナーロットによる組織サンプル中のエラスチン含有量を示す。エラスチン含有量はFASTIN(登録商標)Elastin Assayを用いて測定された。エラスターゼ処理前は、エラスチン含有量は約1.6重量パーセントないし約5.1重量パーセントの範囲であった。エラスターゼ処理後は、エラスチン含有量は約1.4重量パーセントないし約6.1重量パーセントの範囲であった。
【0121】
【表2】
【0122】
表2に示したデータは、エラスターゼ処理によって、エラスチン含有量がドナーロットの一部で増加し、他方では減少したことを示す。しかしながら、明確な増加は測定値の誤差/不確実性の範囲である。総ての材料の平均で見ると、エラスチン含有量は若干減少している。
【0123】
データによると、エラスターゼ処理前は、組織サンプル群におけるエラスチン含有量の平均値は2.74%であり、標準偏差は+/−0.76%であった。エラスターゼ処理後は、組織サンプル群におけるエラスチン含有量の平均値は2.38%であり、標準偏差は+/−0.92%であった。
【0124】
従って、エラスターゼ処理によって、統計上有意であるが、エラスチン含有量の小さな喪失が生じた。エラスターゼ処理後は、フラグメント化したエラスチンの形態でのエラスチンは組織サンプル中に存在したと考え得られる。
【0125】
[組織サンプルの引張り特性に対する効果]
組織サンプルの多様な引張り特性に対するエラスターゼ処理の効果が考察された。
【0126】
[実施例7]
本実施例においては、試験は30の対となるドナーロット由来の組織サンプルで行われた。各々の組織サンプル対は、同一ドナーロットからの、1の処理されない組織サンプルと1のエラスターゼ処理された組織サンプルとを含んだ。言い換えると、各々のドナーロットについて、エラスターゼ処理された組織サンプルと、処理されないサンプルとがある。各々の組織サンプルは、最大負荷、引張り応力、歪みの割合、及びヤング率を定量するために試験を受ける。それらの試験結果は表3にまとめられる。
【0127】
【表3】
【0128】
表3によると、最大負荷は1センチメートルあたりのニュートン(N/cm)単位で、組織サンプルが破壊までに耐久できる1センチメートルあたりの最大の力を反映する。表に示したように、エラスターゼ処理されていない組織サンプル(表では「通常のALLODERM(登録商標)」として同定される)が耐久しうる平均最大負荷は170ニュートン/センチメートルであり、標準偏差は109ニュートン/センチメートルであった。エラスターゼ処理された組織サンプル(表では「エラスターゼ処理されたRTM」として同定される)が耐久しうる平均最大負荷は176ニュートン/センチメートルであり、標準偏差は110ニュートン/センチメートルであった。収集された最大負荷データに対するp値は、変化により観察結果(又はより極端な結果)が生じうる可能性を一般的には示し、0.330であった。エラスターゼ処理が組織サンプルの最大負荷容量に不利に影響を与えうる尤度は小さいと思われる。
【0129】
引張り応力は、負荷の外部印加に平衡及び反応する単位面積あたりの力の内部分布の測定値を提供する。最大負荷での(又は引張り強さとして既知の)引張り応力は、組織が破壊前に耐久しうる最大引張り応力である。メガパスカル(MPa)単位の、エラスターゼ処理されていない組織サンプルの最大負荷での平均引張り応力は7.5であり、標準偏差は3.9であった。エラスターゼ処理された組織サンプルの最大負荷での平均引張り応力は7.9であり、標準偏差は4.4であった。収集された引張り応力データに対するp値は0.220であった。エラスターゼ処理が組織サンプルの引張り強さを有意に変えうる尤度は小さいと思われる
【0130】
歪み値は、負荷の外部印加の結果として組織サンプルに生じる変形の測定値を提供する。5ニュートン/センチメートルの力の下でのエラスターゼ処理されていない組織サンプルの歪みの割合(伸張率)の平均は39%であり、標準偏差は14%であった。同一負荷の下でのエラスターゼ処理された組織サンプルの歪みの割合(伸張率)の平均は19%であり、標準偏差は5%であった。収集された歪みデータに対するp値は0.000であった。上述を考慮すると、処理によって組織伸長性が低減し、組織の弾性及び剛性における整合性が増加する。
【0131】
ヤング率は、外力が印加される場合の伸長に対する組織サンプルの抵抗性を反映する。メガパスカル(MPa)単位での、エラスターゼ処理されていない組織サンプルに対する平均ヤング率は24.7メガパスカルであり、標準偏差は11.7メガパスカルであった。エラスターゼ処理された組織サンプルに対する平均ヤング率は31.3メガパスカルであり、標準偏差は17.3メガパスカルであった。収集されたヤング率データに対するp値は0.004であった。上述を考慮すると、処理によって剛性が増加する。
【0132】
表3における最大負荷、引張り強さ、及びヤング率のデータは、それらの特性に対するエラスターゼ処理の効果が無視できることを示す。
【0133】
[実施例8]
2のドナーロット由来の組織サンプルは、上に記載されているLifeCell社の固有の方法によって処理された。組織洗浄(ステップ(iii))後、組織サンプルは複数の1センチメートル×7センチメートルの小片に切削された。これらの小片の一部はエラスターゼ処理に曝露された。
【0134】
2のドナーロット由来のエラスターゼ処理されていない組織サンプル、及びエラスターゼ処理された組織サンプルはその厚さ、最大負荷、引張り応力、弾性、歪みの割合、及びヤング率を定量するために試験を受けた。これらのパラメータの各々は、厚さ及び弾性を除いて上に詳述した。厚さは組織の物理的寸法であり、例示した表においてはミリメートル(mm)単位で測定される。弾性は一般的には、伸張又は圧縮した後に元の形状に戻る物体の性質であり、例示した表においては、ニュートン/センチメートル(N/cm)単位で測定される。
【0135】
前述の試験の結果は表4にまとめられる。その表におけるデータは、5ニュートン/センチメートルでの歪みを除外可能であれば、エラスターゼ処理は試験特性のいずれも有意に変えなかったことを示す。例えば、ドナーロット番号40765における組織サンプルについては、エラスターゼ処理によって、0.35%ないし0.2%の(5ニュートン/センチメートルでの)歪みの平均における変化が生じた(有意に減少)。ドナーロット番号24750における組織サンプルについては、エラスターゼ処理によって、0.19%ないし0.22%の(5ニュートン/センチメートルでの)歪みの平均における変化が生じた(有意差はない)。
【0136】
【表4】
【0137】
[組織サンプルの組織診断に対する効果]
組織サンプルの組織診断に対するエラスターゼ処理の効果は更に考察された。
【0138】
特に、多様な組織学的パラメータが12の凍結乾燥された組織サンプル対で考察された。各々の組織サンプル対は、同一ドナーロットからの、1の処理されない組織サンプルと1のエラスターゼ処理された組織サンプルとを含んだ。
【0139】
[実施例10]
表5は組織サンプルの組織診断試験の結果を示す。列中の各行は試験された1の組織サンプルに対応する。表の第1列は、任意の名称の対応する組織サンプルのドナーロット番号を同定する。表の第2列は対応する組織サンプルがエラスターゼ処理に曝露されたかどうかを示す。項目名「エラスターゼなし」は、対応する組織サンプルが処理されていなかったことを示す一方、項目名「エラスターゼ」は、対応する組織サンプルがエラスターゼ処理に曝露されたことを示す。第1の12個の列におけるデータ及び第2の12個の列におけるデータは、同一群のドナーロット由来の組織サンプルに対応する。
【0140】
表の第3、第4、第5、第6の列は、対応する組織サンプルにおける、孔の総数、コラーゲンの損傷、乳頭状と網状との間の遷移、及びコラーゲン分離を示す。
【0141】
組織サンプルにおける孔は、血管、脂肪細胞の空き部分、毛嚢の空き部分、及び凍結乾燥プロセスにおけるサンプル内部の気泡の膨張部を含む多様な構造を表わすことができる。組織学的に、その間を区別することは難しく、従って、サンプルの面積に対する、これらの構造によって占有される割合全体によって段階付けされる。点数化は以下の通り:
評点 評価
1ないし2 孔がサンプルの0%ないし10%である
3ないし4 孔がサンプルの11%ないし25%である
5ないし6 孔がサンプルの26%ないし40%である
7ないし9 孔がサンプルの41%ないし60%である
10 孔がサンプルの60%を超える
【0142】
「コラーゲンの損傷(collagen damage)」とは、破壊されたコラーゲン線維、凝縮したコラーゲン線維、又は歪んだ線維の存在のことである。コラーゲンの損傷は総てのサンプルに対して視野での観察頻度として報告される。点数化は以下の通り:
評点 評価
1ないし2 損傷が試験された領域の0%ないし10%にある
3ないし4 損傷が試験された領域の11%ないし25%にある
5ないし6 損傷が試験された領域の26%ないし50%にある
7ないし8 損傷が試験された領域の51%ないし75%にある
9ないし10 損傷が試験された領域の76%ないし100%にある
【0143】
乳頭状ないし網状の遷移については、標準的なヒト真皮は、表在型基底膜領域と、厚く、明確に規定されるコラーゲン束を欠いた血管及び無定形構造の層とからなる乳頭層を含む。乳頭層のコラーゲン及びエラスチンの出現は微再網化のうちの1つである。網状層は、乳頭層と合併し、明確に規定されたコラーゲン束から構成される。組織の処理中に崩壊又は融解を生じさせてATMを生成した場合、乳頭層の凝縮があるであろう。皮膚が極端に瘢痕を残し、強皮症又は表皮剥離といった病理プロセスを受けた場合、乳頭層の喪失があるであろう。サンプルが乳頭層を欠いた場合、関連するロットは棄却された。点数化は以下の通り。
評点 評価
0 標準的な二重層、明確に規定された血管網、明確な遷移
0ないし2 わずかにしか規定されない乳頭間隆起及び乳頭間突起の起伏
0ないし2 血管網を含む、表面の乳頭層における構造上の特徴の喪失
0ないし2 内側の乳頭層における構造上の特徴の喪失
0ないし2 乳頭層と網状層との間の遷移帯の損失
10 無定形の凝縮層を有する乳頭層の不存在又は置換
【0144】
コラーゲン分離:ATMにおける通常のコラーゲンは線維構造の内部を有するべきであり、束同士の分離は1の線維から隣接する線維への段階的遷移を表すべきである。コラーゲン分離は、処理中に生じる認識すべき変化である。それが極端な場合、コラーゲン線維はその線維性の性質を失い、無定形になり、線維間の分離は急激な遷移となり、線維は多くの場合は角張ったものになる。動物及び臨床上の評価に基づく場合、機能上の重要性は現在のところこの出現を原因とできない。しかしながら、拒絶するためだけではないが、このことはマトリックスの一体性の評価の一部として含まれる。
評点 評価
1 人工的な分離なし、線維構造は明確
3 急激な分離、いくつかの線維性制限
5 角を形成する分離、無定型のコラーゲン出現
【0145】
前述のパラメータは、ヘマトキシリンエオシン(H&E)染色に基づいて定量された。表におけるデータは、エラスターゼ処理されていない組織サンプルと比較した場合、表示した組織学的パラメータにおいて顕著な差異を示さない。
【0146】
【表5】
【0147】
[実施例11]
図7は、実施例10における(及び、表5に示した)ドナーロットのうちの2つからの組織サンプル対に対する、例示的なVerhoeff染色を示す。上に示したように、各々の組織サンプル対は、1の処理されない組織サンプル(図7で「通常のALLODERM(登録商標)」として同定される)と、1のエラスターゼ処理された組織サンプル(図7で「エラスターゼ処理された」として同定される)とを含む。染色の暗い部分は組織のエラスチン構造を示す。各々の組織サンプル対については、エラスターゼ処理が組織サンプルの複合型エラスチン構造の実質的なフラグメント化又は破壊を生じないことをVerhoeff染色は示唆する。
【0148】
[実施例12]
図8は、実施例10における(及び、表5に示した)ドナーロットのうちの2つからの組織サンプル対に対する、Alcian blue染色の例を示す。各々の組織サンプル対は、1の処理されない組織サンプル(図8で「通常のALLODERM(登録商標)」として同定される)と、1のエラスターゼ処理された組織サンプル(図8で「エラスターゼ処理された」として同定される)とを含む。
【0149】
各々の組織サンプル対について、Alcian blue染色は、対応するエラスターゼ処理されていない組織サンプルと比較した場合に、エラスターゼ処理された組織サンプルにおいて染色強度のわずかな低下を示す。この染色強度の低下は、恐らくは延ばされた時間による、処理水溶液におけるグリコサミノグリカン(GAG)の部分的な喪失を示唆する。
【0150】
[組織サンプルの熱安定性に対するエラスターゼ処理の効果]
[実施例13]
示差走査熱量測定(DSC)分析は、12の対となるドナーロットにおけるエラスターゼ処理後の組織サンプルの熱安定性の変化を調査するのに用いられた。表6は、多様なドナーロットからの組織サンプルに対する、摂氏(℃)単位で測定される変性開始温度(Onset Tm)と、乾燥重量1g当たりのジュール(J/gdw)単位で表わされる変性エンタルピーとを示す。変性は、例えば熱の印加による組織構造の変化のことである。変性開始温度は変性が生じ始める温度である。変性エンタルピーは組織のコラーゲン及び他のタンパク質を変性するのに必要なエネルギーの測定値である。
【0151】
列における各々の行は試験された特定の組織サンプルに対応する。表の第1列は、対応する組織サンプルのドナーロット番号を同定する。表の第2列は対応する組織サンプルがエラスターゼ処理に曝露されたかどうかを示す。項目名「エラスターゼなし」は、対応する組織サンプルがエラスターゼ処理に曝露されなかったことを示す。項目名「エラスターゼ」は、対応する組織サンプルがエラスターゼ処理に曝露されたことを示す。最初の12のデータ列はエラスターゼ処理に曝露されなかった組織サンプルに対応する。最後の12のデータ列はエラスターゼ処理に曝露された組織サンプルに対応する。第1の12個の列におけるデータ及び第2の12個の列におけるデータは、同一群のドナーロット由来の組織サンプルに対応する。
【0152】
表の第3及び第4の列は各々の対応する組織サンプルに対する、変性開始温度と変性エンタルピーとを示す。
【0153】
表におけるデータは、エラスターゼ処理された組織サンプルについてエラスターゼ処理されていない組織サンプルと比較した場合に、変性開始温度又は変性エンタルピーにおいて有意な差異を示さない。エラスターゼ処理されていない組織サンプルに対する平均変性開始温度は60.9℃であり、標準偏差は約+/−1.3℃であった。エラスターゼ処理された組織サンプルに対する平均変性開始温度は60.8℃であり、標準偏差は約+/−1.2℃であった。エラスターゼ処理されていない組織サンプルに対する変性エンタルピーの平均は25.8J/gdwであり、標準偏差は+/−2.7J/gdwであった。エラスターゼ処理された組織サンプルに対する変性エンタルピーの平均は28.1であり、標準偏差は+/−3.5であった。
【0154】
【表6】
【0155】
図9は、エラスターゼ処理されていない組織サンプル(実線)及びエラスターゼ処理された組織サンプル(破線)の対となるサンプルに対する、DSCサーモグラムの例を示すグラフである。グラフは摂氏単位(℃)で温度を横軸(x軸)に、1g当たりのワット単位(W/g)で熱流を縦軸(y軸)に示した。
【0156】
例示されたグラフにおいては、各々の4のドナーロットからの組織サンプル対に対応するデータが示される。各々の組織サンプル対について、エラスターゼ処理は組織サンプルの熱応答に対し最小限の効果を及ぼすことを、データは示唆している。
【0157】
一般的には、DSCは組織マトリックスの熱化学特性を測定する。コラーゲンが特定の温度に加熱された場合、その熱不安定性の分子内架橋結合が破壊され、タンパク質は高度に組織化された結晶構造からゲル状の無秩序状態に遷移を起こす。それは変性と称される。DSCサーモグラムはマトリックスの構造及びその安定性についての情報を与える。例えば、組織が滅菌のためにガンマ線照射された場合、変性開始温度は組織のガンマ線による損傷のために低くなりうる。他方、架橋結合は一般的には変性開始温度を増加させる。
【0158】
[酵素分解への感受性に対するエラスターゼ処理の効果]
組織サンプルの酵素分解への感受性に対するエラスターゼ処理の効果が考察された。
【0159】
[実施例14]
組織サンプルのコラゲナーゼ分解への感受性に対するエラスターゼ処理の効果が考察された。15の異なるドナーロット由来の組織サンプル対が試験された。各々のサンプル対は、エラスターゼ処理を受けた1の組織サンプルと、エラスターゼ処理を受けていない1の組織サンプルとを含んだ。総ての組織サンプルはエラスターゼ処理後に抗凍結剤とともに凍結乾燥を受けた。試験は約6時間、組織サンプルをコラゲナーゼに曝露するステップを具えた。表7は試験の結果を含む。特に、表はコラゲナーゼ曝露後の残余する組織(「残余組織」)の割合(%)を示す。
【0160】
表7における各々の行は試験された組織サンプルのうちの特定の1つに対応する。例示された表の第1列は、対応する組織サンプルが由来するドナーロット番号を同定する。第2列は対応する組織サンプルがエラスターゼ処理に曝露されたかどうかを同定する。項目名「エラスターゼなし」は、対応する組織サンプルがエラスターゼ処理に曝露されなかったことを示す。項目名「エラスターゼ」は、対応する組織サンプルがエラスターゼ処理に曝露されたことを示す。最初の15のデータ列はエラスターゼ処理に曝露されなかった組織サンプルに対応する。最後の15のデータ列はエラスターゼ処理に曝露された組織サンプルに対応する。第3列はコラゲナーゼに対する曝露後に残った組織の割合を示す。
【0161】
表における最初の15のデータ列はそれぞれ、表における最後の15のデータ列と同一群のドナーロット番号に対応する。
【0162】
エラスターゼ処理された組織サンプルが、エラスターゼ処理されていない組織サンプルよりもコラゲナーゼ分解に対する感受性がわずかに良かったことを、表におけるデータは示す。平均してエラスターゼ処理されていない組織サンプルのうちの約40.5%がコラゲナーゼ分解後に残った一方、平均してエラスターゼ処理された組織サンプルのうちの約34.2%がコラゲナーゼ分解後に残った。従って、エラスターゼ処理されたATMは、エラスターゼ処理されたATMよりもインビボでのコラーゲン分解に対する感受性がわずかに良いだけであると思われる。
【0163】
【表7】
【0164】
[実施例15]
組織サンプルのトリプシン分解への感受性に対するエラスターゼ処理の効果が更に考察された。更に、15の異なるドナーロット由来の組織サンプル対が試験された。各々のサンプル対は、エラスターゼ処理を受けた1の組織サンプルと、エラスターゼ処理を受けていない1の組織サンプルとを含んだ。総ての組織サンプルは抗凍結剤とともに凍結乾燥を受けた。試験はある設定期間、組織サンプルをトリプシンに曝露するステップを具えた。表8は試験の結果を含む。特に、表はトリプシン曝露後の残余する組織(「残余組織」)の割合(%)を示す。
【0165】
例示した表における各々の行は試験された組織サンプルのうちの同定の1つに対応する。例示された表の第1列は、対応する組織サンプルが由来するドナーロット番号を同定する。第2列は対応する組織サンプルがエラスターゼ処理に曝露されたかどうかを同定する。項目名「エラスターゼなし」は、対応する組織サンプルがエラスターゼ処理に曝露されなかったことを示す。項目名「エラスターゼ」は、対応する組織サンプルがエラスターゼ処理に曝露されたことを示す。第3列はトリプシンに対する曝露後に残った組織の割合を示す。
【0166】
表8における最初の15のデータ列はそれぞれ、表における最後の15のデータ列と同一群のドナーロット番号に対応する。最初の15のデータ列はエラスターゼ処理に曝露されなかった組織サンプルに対応する。最後の15のデータ列はエラスターゼ処理に曝露された組織サンプルに対応する。
【0167】
エラスターゼ処理が、組織サンプルのトリプシン分解への感受性に対して非常にわずかな効果しか有しないことを、表8におけるデータは示す。
【0168】
【表8】
【0169】
[経時的なエラスターゼ処理に対する組織の反応]
別の実験は、経時的なエラスターゼ処理に対する組織サンプルの反応を考察するために行われた。
【0170】
[実施例16]
この実験においては、2の組織のドナーロット由来の組織サンプルが組織洗浄(ステップ(iii))まで、上述のLifeCell社の固有の方法によって処理された。組織はその後多数の3センチメートル×7センチメートルの小片に切削された。それらの小片の一部はトリスHCl緩衝剤ですすがれ、エラスターゼで処理された。その後、組織サンプルの寸法の変化が30時間の期間にわたって3時間おきに測定された。エラスターゼは全期間にわたって提供された。エラスターゼで処理されなかった対応する組織サンプルの寸法は更に測定された。これらの寸法は図10A及び10Bにおいて「コントロール」測定値として同定された
【0171】
図10A及び10Bにおけるグラフは、2のドナーロット由来の組織サンプルに対するこの試験結果を示す。グラフの横軸は時間に対応し、縦軸は組織サンプルの表面積に対応する。グラフは30時間の期間にわたる、エラスターゼ処理された組織サンプルの面積(白丸(unshaded circle)で示された)と、エラスターゼ処理されていない組織サンプルの面積(黒丸(shaded circle)で示された)とに対応するデータを含む。
【0172】
エラスターゼ処理されない組織サンプルが30時間の期間にわたって面積の有意な変化を受けなかったことを、図10Aは示している。しかしながら、エラスターゼ処理された組織サンプルは、30時間の期間にわたって表面積の増加を明らかに受けた。最も顕著な増加は約9時間ないし21時間で生じた。その後、エラスターゼ処理された組織サンプルの大きさにわずかな変化しか生じなかった。
【0173】
エラスターゼ処理されない組織サンプルが30時間の期間にわたって面積の有意な変化を受けなかったことを、図10Bは更に示している。しかしながら、エラスターゼ処理された組織サンプルは、30時間の期間にわたって表面積の増加を明らかに受けた。最も顕著な増加は約3時間ないし15時間で生じた。その後、エラスターゼ処理された組織サンプルの大きさにわずかな変化しか生じなかった。図10A及び10Bの双方において、組織サンプルは、約18時間の増殖が非常にわずかであった。エラスターゼ処理後、組織サンプルは組織洗浄溶液ですすがれたが、後の寸法の変化は観察されなかった。
【0174】
多数の本開示の実施形態が記載されてきた。それにも拘わらず、多様な変更が本開示の精神及び範囲から離れることなくなされうることは理解されよう。
【0175】
例えば、多様な型の組織はエラスターゼで処理してもよい。エラスターゼ処理された組織の使用は、本明細書中に述べたものよりも膨張性であってもよい。エラスターゼは多様な他の物質と混合して、組織に適用される溶液を形成してもよい。組織は、エラスターゼ溶液に浸漬するか、溶液をその上に注ぐか、エラスターゼ溶液でコーティングするか、あるいはその他の方法を用いることによって処理してもよい。エラスターゼは組織の特定の領域に選択的に配置してもよい。移植片又は組織移植片は複数の組織の小片を用いて実施してもよく、そのうちの1以上はエラスターゼで処理され、そのうちの1以上は処理されずに維持される。タイミング、濃度、攪拌の度合、周囲温度及び圧力の条件は総て、相当に変えてもよい。
【0176】
従って、他の実施は以下の請求項の範囲内にある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無細胞組織マトリックス(ATM)を提供するステップと;前記ATMをエラスターゼに期間曝露するステップと;を具え、その曝露によって修飾型ATM(mATM)が生じ、張力量に起因する前記mATMの伸張率が、前記張力量に起因する前記ATMの伸張率以下となることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記エラスターゼが溶液中にあり、前記方法が、張力量の下で前記mATMの所望の伸張率を取得するために、前記溶液における前記曝露の時間及びエラスターゼの濃度を制御するステップを更に具えることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法において、前記mATMの所望の伸張率が14%ないし24%の範囲にあり、前記張力量が約5ニュートン/cmであることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法において、前記mATMの所望の伸張率が19%であることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項2に記載の方法において、前記エラスターゼの濃度が約0.1ユニット/ミリリットルないし0.5ユニット/ミリリットルの範囲にあることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法において、前記エラスターゼの濃度が約0.2ユニット/ミリリットルないし0.25ユニット/ミリリットルの範囲にあることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法において、前記期間が約12時間ないし24時間の範囲にあることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法において、前記期間が18時間ないし24時間の範囲にあることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法が、前記ATMをエラスターゼに期間曝露する間に、前記ATMと前記溶液とを攪拌するステップを更に具えることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法において、総ての又は実質的に総ての生存細胞が除去された真皮を前記ATMが含むことを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法において、総ての又は実質的に総ての生存細胞が除去された組織を前記ATMが含み、前記組織が筋膜、心膜組織、硬膜、臍帯組織、胎盤組織、心臓弁組織、靱帯組織、腱組織、動脈組織、静脈組織、神経結合組織、膀胱組織、尿管組織、及び腸管組織からなる群から選択されることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法において、前記ATMがヒト組織から生成されることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項1に記載の方法において、前記ATMがヒト以外の哺乳類組織から生成されることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法において、前記ヒト以外の哺乳類組織がブタ組織であることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項13に記載の方法において、前記ヒト以外の哺乳類組織がであることを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項1の方法によって生成されることを特徴とする修飾型無細胞組織マトリックス。
【請求項17】
無細胞組織マトリックスの群を処理する方法であって、当該方法が:無細胞組織マトリックス(ATM)の群を提供するステップであって、等しい張力量が前記群中の前記ATMの各々に印加される場合に、前記群中の前記ATMの少なくとも一部が前記群中の他のATMと異なる伸張率を有するステップと;前記群の1以上のATMをエラスターゼに期間曝露するステップと;を具え、その曝露によって1以上の修飾型ATM(mATM)が生じ、張力量に起因する前記mATMのうちの1以上の伸張率が、同一の前記張力量に起因する対応する前記ATMの伸張率以下となることを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法において、前記エラスターゼが、溶液中に提供され、エラスターゼの濃度を構成することを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項17に記載の方法において、前記mATMにわたる伸張率における変化は前記ATMにわたる伸張率における変化よりも小さいことを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項17に記載の方法において、前記mATMのうちの1以上の複数の伸張率は14%ないし24%の範囲にあり、前記張力量が約5ニュートン/cmであることを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項17に記載の方法において、前記mATMのうちの1以上の複数の伸張率は約19%であり、前記張力量が約5ニュートン/cmであることを特徴とする方法。
【請求項22】
請求項18に記載の方法において、前記エラスターゼの濃度が約0.1ユニット/ミリリットルないし0.5ユニット/ミリリットルの範囲にあることを特徴とする方法。
【請求項23】
請求項22に記載の方法において、前記エラスターゼの濃度が約0.2ユニット/ミリリットルないし0.25ユニット/ミリリットルの範囲にあることを特徴とする方法。
【請求項24】
請求項17に記載の方法において、前記期間が12ないし24時間の範囲にあることを特徴とする方法。
【請求項25】
請求項24に記載の方法において、前記期間が18時間ないし24時間の範囲にあることを特徴とする方法。
【請求項26】
請求項17に記載の方法が、前記群の1以上のATMをエラスターゼに期間曝露する間に、前記群の1以上のATMと前記溶液とを攪拌するステップを更に具えることを特徴とする方法。
【請求項27】
請求項17に記載の方法において、総ての又は実質的に総ての生存細胞が除去された真皮を前記ATMが含むことを特徴とする方法。
【請求項28】
請求項17に記載の方法において、前記ATMが筋膜、心膜組織、硬膜、臍帯組織、胎盤組織、心臓弁組織、靱帯組織、腱組織、動脈組織、静脈組織、神経結合組織、膀胱組織、尿管組織、及び腸管組織からなる群から選択される1以上の組織を含むことを特徴とする方法。
【請求項29】
請求項17に記載の方法において、前記ATMのうちの1以上がヒト組織から生成されることを特徴とする方法。
【請求項30】
請求項17に記載の方法において、前記ATMのうちの1以上がヒト以外の哺乳類組織から生成されることを特徴とする方法。
【請求項31】
請求項30に記載の方法において、前記ヒト以外の哺乳類組織がブタ組織であることを特徴とする方法。
【請求項32】
請求項30に記載の方法において、前記ヒト以外の哺乳類組織がウシ組織であることを特徴とする方法。
【請求項33】
請求項17に記載の方法によって処理されることを特徴とする修飾型無細胞組織マトリックスの群。
【請求項34】
請求項1に記載の修飾型無細胞組織マトリックス(mATM)を提供するステップと;修復又は寛解を必要とする器官又は組織を有するとして脊椎動物対象を同定するステップと;前記器官又は組織の中又は上に前記mATMを配置するステップと;を具えることを特徴とする方法。
【請求項35】
請求項17に記載の方法によって処理される修飾型無細胞組織マトリックス(mATM)の群を提供するステップと;修復又は寛解を必要とする器官又は組織を有するとして脊椎動物対象を同定するステップと;前記器官又は組織の中又は上に前記mATMのうちの1以上を配置するステップと;を具えることを特徴とする方法。
【請求項36】
修飾型無細胞組織マトリックス(mATM)であって:破壊されたエラスチンネットワークと;コラーゲンマトリックス;とを含み、約5ニュートン/cmの張力に起因する前記mATMの伸張率が14%ないし24%の範囲になるように前記エラスチンネットワークが十分に破壊され、コラーゲンネットワーが実質的に無傷であることを特徴とするmATM。
【請求項37】
請求項36に記載のmATMにおいて、前記コラーゲンネットワークが架橋結合を含まないことを特徴とするmATM。
【請求項38】
破壊されたエラスチンネットワークとコラーゲンマトリックスとを含む修飾型無細胞組織マトリックスの使用であって、約5ニュートン/cmの張力に起因する前記mATMの伸張率が14%ないし24%の範囲になるように前記エラスチンネットワークが十分に破壊され、コラーゲンネットワークが、修復を必要とする器官又は組織を有する哺乳類の治療用薬剤製造時に実質的に無傷であることを特徴とする使用。
【請求項39】
請求項38における使用において、総ての又は実質的に総ての生存細胞が除去された真皮を前記ATMが含むことを特徴とする使用。
【請求項40】
請求項38に記載の使用において、前記ATMが筋膜、心膜組織、硬膜、臍帯組織、胎盤組織、心臓弁組織、靱帯組織、腱組織、動脈組織、静脈組織、神経結合組織、膀胱組織、尿管組織、及び腸管組織からなる群から選択される1以上の組織を含むことを特徴とする使用。
【請求項41】
請求項38に記載の使用において、前記ATMがヒト組織から生成されることを特徴とする使用。
【請求項42】
請求項38に記載の使用において、前記ATMがヒト以外の哺乳類組織から生成されることを特徴とする使用。
【請求項43】
請求項42に記載の使用において、前記ヒト以外の哺乳類組織がブタ組織であることを特徴とする使用。
【請求項44】
請求項42に記載の使用において、前記ヒト以外の哺乳類組織がウシ組織であることを特徴とする使用。
【請求項45】
コラーゲン含有組織から取得され、かつ哺乳類を治療するためにエラスターゼで処理されたことを特徴とする無細胞組織マトリックスの使用。
【請求項46】
腹壁欠損症を治療することを特徴とする請求項45に記載の使用。
【請求項47】
ヘルニアを治療することを特徴とする請求項45に記載の使用。
【請求項1】
無細胞組織マトリックス(ATM)を提供するステップと;前記ATMをエラスターゼに期間曝露するステップと;を具え、その曝露によって修飾型ATM(mATM)が生じ、張力量に起因する前記mATMの伸張率が、前記張力量に起因する前記ATMの伸張率以下となることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記エラスターゼが溶液中にあり、前記方法が、張力量の下で前記mATMの所望の伸張率を取得するために、前記溶液における前記曝露の時間及びエラスターゼの濃度を制御するステップを更に具えることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法において、前記mATMの所望の伸張率が14%ないし24%の範囲にあり、前記張力量が約5ニュートン/cmであることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法において、前記mATMの所望の伸張率が19%であることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項2に記載の方法において、前記エラスターゼの濃度が約0.1ユニット/ミリリットルないし0.5ユニット/ミリリットルの範囲にあることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法において、前記エラスターゼの濃度が約0.2ユニット/ミリリットルないし0.25ユニット/ミリリットルの範囲にあることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法において、前記期間が約12時間ないし24時間の範囲にあることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法において、前記期間が18時間ないし24時間の範囲にあることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法が、前記ATMをエラスターゼに期間曝露する間に、前記ATMと前記溶液とを攪拌するステップを更に具えることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法において、総ての又は実質的に総ての生存細胞が除去された真皮を前記ATMが含むことを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法において、総ての又は実質的に総ての生存細胞が除去された組織を前記ATMが含み、前記組織が筋膜、心膜組織、硬膜、臍帯組織、胎盤組織、心臓弁組織、靱帯組織、腱組織、動脈組織、静脈組織、神経結合組織、膀胱組織、尿管組織、及び腸管組織からなる群から選択されることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法において、前記ATMがヒト組織から生成されることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項1に記載の方法において、前記ATMがヒト以外の哺乳類組織から生成されることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法において、前記ヒト以外の哺乳類組織がブタ組織であることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項13に記載の方法において、前記ヒト以外の哺乳類組織がであることを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項1の方法によって生成されることを特徴とする修飾型無細胞組織マトリックス。
【請求項17】
無細胞組織マトリックスの群を処理する方法であって、当該方法が:無細胞組織マトリックス(ATM)の群を提供するステップであって、等しい張力量が前記群中の前記ATMの各々に印加される場合に、前記群中の前記ATMの少なくとも一部が前記群中の他のATMと異なる伸張率を有するステップと;前記群の1以上のATMをエラスターゼに期間曝露するステップと;を具え、その曝露によって1以上の修飾型ATM(mATM)が生じ、張力量に起因する前記mATMのうちの1以上の伸張率が、同一の前記張力量に起因する対応する前記ATMの伸張率以下となることを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法において、前記エラスターゼが、溶液中に提供され、エラスターゼの濃度を構成することを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項17に記載の方法において、前記mATMにわたる伸張率における変化は前記ATMにわたる伸張率における変化よりも小さいことを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項17に記載の方法において、前記mATMのうちの1以上の複数の伸張率は14%ないし24%の範囲にあり、前記張力量が約5ニュートン/cmであることを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項17に記載の方法において、前記mATMのうちの1以上の複数の伸張率は約19%であり、前記張力量が約5ニュートン/cmであることを特徴とする方法。
【請求項22】
請求項18に記載の方法において、前記エラスターゼの濃度が約0.1ユニット/ミリリットルないし0.5ユニット/ミリリットルの範囲にあることを特徴とする方法。
【請求項23】
請求項22に記載の方法において、前記エラスターゼの濃度が約0.2ユニット/ミリリットルないし0.25ユニット/ミリリットルの範囲にあることを特徴とする方法。
【請求項24】
請求項17に記載の方法において、前記期間が12ないし24時間の範囲にあることを特徴とする方法。
【請求項25】
請求項24に記載の方法において、前記期間が18時間ないし24時間の範囲にあることを特徴とする方法。
【請求項26】
請求項17に記載の方法が、前記群の1以上のATMをエラスターゼに期間曝露する間に、前記群の1以上のATMと前記溶液とを攪拌するステップを更に具えることを特徴とする方法。
【請求項27】
請求項17に記載の方法において、総ての又は実質的に総ての生存細胞が除去された真皮を前記ATMが含むことを特徴とする方法。
【請求項28】
請求項17に記載の方法において、前記ATMが筋膜、心膜組織、硬膜、臍帯組織、胎盤組織、心臓弁組織、靱帯組織、腱組織、動脈組織、静脈組織、神経結合組織、膀胱組織、尿管組織、及び腸管組織からなる群から選択される1以上の組織を含むことを特徴とする方法。
【請求項29】
請求項17に記載の方法において、前記ATMのうちの1以上がヒト組織から生成されることを特徴とする方法。
【請求項30】
請求項17に記載の方法において、前記ATMのうちの1以上がヒト以外の哺乳類組織から生成されることを特徴とする方法。
【請求項31】
請求項30に記載の方法において、前記ヒト以外の哺乳類組織がブタ組織であることを特徴とする方法。
【請求項32】
請求項30に記載の方法において、前記ヒト以外の哺乳類組織がウシ組織であることを特徴とする方法。
【請求項33】
請求項17に記載の方法によって処理されることを特徴とする修飾型無細胞組織マトリックスの群。
【請求項34】
請求項1に記載の修飾型無細胞組織マトリックス(mATM)を提供するステップと;修復又は寛解を必要とする器官又は組織を有するとして脊椎動物対象を同定するステップと;前記器官又は組織の中又は上に前記mATMを配置するステップと;を具えることを特徴とする方法。
【請求項35】
請求項17に記載の方法によって処理される修飾型無細胞組織マトリックス(mATM)の群を提供するステップと;修復又は寛解を必要とする器官又は組織を有するとして脊椎動物対象を同定するステップと;前記器官又は組織の中又は上に前記mATMのうちの1以上を配置するステップと;を具えることを特徴とする方法。
【請求項36】
修飾型無細胞組織マトリックス(mATM)であって:破壊されたエラスチンネットワークと;コラーゲンマトリックス;とを含み、約5ニュートン/cmの張力に起因する前記mATMの伸張率が14%ないし24%の範囲になるように前記エラスチンネットワークが十分に破壊され、コラーゲンネットワーが実質的に無傷であることを特徴とするmATM。
【請求項37】
請求項36に記載のmATMにおいて、前記コラーゲンネットワークが架橋結合を含まないことを特徴とするmATM。
【請求項38】
破壊されたエラスチンネットワークとコラーゲンマトリックスとを含む修飾型無細胞組織マトリックスの使用であって、約5ニュートン/cmの張力に起因する前記mATMの伸張率が14%ないし24%の範囲になるように前記エラスチンネットワークが十分に破壊され、コラーゲンネットワークが、修復を必要とする器官又は組織を有する哺乳類の治療用薬剤製造時に実質的に無傷であることを特徴とする使用。
【請求項39】
請求項38における使用において、総ての又は実質的に総ての生存細胞が除去された真皮を前記ATMが含むことを特徴とする使用。
【請求項40】
請求項38に記載の使用において、前記ATMが筋膜、心膜組織、硬膜、臍帯組織、胎盤組織、心臓弁組織、靱帯組織、腱組織、動脈組織、静脈組織、神経結合組織、膀胱組織、尿管組織、及び腸管組織からなる群から選択される1以上の組織を含むことを特徴とする使用。
【請求項41】
請求項38に記載の使用において、前記ATMがヒト組織から生成されることを特徴とする使用。
【請求項42】
請求項38に記載の使用において、前記ATMがヒト以外の哺乳類組織から生成されることを特徴とする使用。
【請求項43】
請求項42に記載の使用において、前記ヒト以外の哺乳類組織がブタ組織であることを特徴とする使用。
【請求項44】
請求項42に記載の使用において、前記ヒト以外の哺乳類組織がウシ組織であることを特徴とする使用。
【請求項45】
コラーゲン含有組織から取得され、かつ哺乳類を治療するためにエラスターゼで処理されたことを特徴とする無細胞組織マトリックスの使用。
【請求項46】
腹壁欠損症を治療することを特徴とする請求項45に記載の使用。
【請求項47】
ヘルニアを治療することを特徴とする請求項45に記載の使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公表番号】特表2011−522605(P2011−522605A)
【公表日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−512628(P2011−512628)
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際出願番号】PCT/US2009/046193
【国際公開番号】WO2009/149224
【国際公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(504154148)ライフセル コーポレーション (13)
【氏名又は名称原語表記】LifeCell Corporation
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際出願番号】PCT/US2009/046193
【国際公開番号】WO2009/149224
【国際公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(504154148)ライフセル コーポレーション (13)
【氏名又は名称原語表記】LifeCell Corporation
【Fターム(参考)】
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