説明

組織修復マトリックスの使用

【課題】生物分解性の多孔質3次元組織修復マトリックスを提供する。
【解決手段】形状記憶を有するとともに、多孔質でかつ生物分解性である3次元に固定されたマトリックスの使用。マトリックスは、不溶性で鉱物化された生体高分子繊維と、架橋によって不溶性になる水溶解性バインダーとを有し、マトリックスの最初のサイズ、形状及び多孔質に対して圧縮状態にある。マトリックスは、(a)該マトリックスを含む送達ビヒクルを、治療の標的部位に導入し、及び(b)前記マトリックスを前記送達ビヒクルから放出して、前記マトリックスが、前記最初のサイズ、形状及び多孔性に復帰する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨組織修復に対して有用な物質に関する。
【背景技術】
【0002】
骨修復を開始させる及び/又は不足している骨を回復させ、又は置換させるために研究された多数の物質があり、特定の部位で骨形成を刺激する問題を解決する。
解決するために使用された方法において、この問題は、立体配置的な方法であり、失われた骨の形態を模倣することを企図する形態で、金属セラミック又は他の無機材料から通常成るインプラント材料が、骨置換が必要とされる部位に挿入される。ホストが、その物質を拒絶するか、又はインプラントと、正常な骨格の組織との一体化の失敗が生じ得る。いくつかのセラミック物質、例えばリン酸トリカルシウムセラミックは、ホスト及び骨と生体適合性を有するが、インプラントとして使用される場合は、一般的な用途に対して骨の十分な機械的特性を欠くと考えられ、また骨は、一定に成長せず、またインプラント内に取り込まれない。
【0003】
別の方法は、失われた骨組織を新しい骨成長が生じうる支持体として機能するマトリックスで置換させることに関する。この理論は、マトリックスが、骨形成の経路に関わりのある細胞を引きつけ、新しい骨は、オステオコンダクションという方法によって、マトリックス中に、及びマトリックスを通して成長することである。異質遺伝子型の骨(非ホストボーン(non-hostbone))グラフトが、この方法に使用されるが、しかし実質的に高い失敗率である。異質遺伝子型のグラフトがホストによって許容される場合でも、一体化のための治癒時間及び機械ストレスに対する許容力は、自原骨(ホストボーン)の移植術に比較して、比較的長い。同種骨(allogeneic bone)の用途も遺伝性ウィルス性薬剤の問題を提示する。
【0004】
3つ目の方法は、骨誘導として公知の工程を含み、この工程は、物質が、通常、一時的なマトリックスのまわりで、ホストの未分化な細胞又は組織から新しい骨の成長を誘起する場合に生じる。多くの化合物が、そのような能力を有することが分かっている。例えば、Glowackiの米国特許第4,440,750号、Uristらの同第4,294,753号及び同第4,455,256号、Seyedinらの同第4,434,094号及び同第4,627,982号各明細書を参照されたい。最も有効なこれらの化合物は、骨形成を刺激するタンパク質であると考えられる。しかし、天然源から合成された場合、それらは、極めて低濃度で存在し、実験に対する最低量の物質を得るためにさえ、大量の出発物質を必要とする。組換え法によるそのようなタンパク質の入手可能性は、最終的には、より実質的価値を有するそのようなタンパク質自体を利用することになるかもしれない。しかし、そのようなタンパク質は、適当なマトリックス中の所望の部位に送達されることを必要が依然として存在するかもしれない。
【0005】
治療及び骨成長を対象にするコラーゲン及び種々の形態のリン酸カルシウムを含有する組成物が開示されている。
Bauerらの特許第5,338,772号明細書は、リン酸カルシウムセラミック粒子及び生物吸収性高分子を含む複合材料を開示し、リン酸カルシウムセラミックは、少なくとも50質量%であり、また粒子は、高分子ブリッジによって連結されている。リン酸カルシウムセラミック粒子は、約20μm〜約5mmのサイズを有することが開示されている。
【0006】
Piezらの特許番号第4,795,467号明細書は、アテロペプチド再構成繊維コラーゲンと混合されたリン酸カルシウム鉱物粒子を含む組成物を開示する。このリン酸カルシウム鉱物粒子は、100-2,000μmの範囲のサイズを有するとして開示されている。
Saukらの特許第4,780,450号明細書は、粒状多結晶性リン酸カルシウムセラミック、フェスホリン(phosphorin)カルシウム塩及びI型コラーゲンを775〜15:3〜0.1:1の質量比で含む骨修復用組成物を開示する。セラミック粒子は、直径約1〜10μmの緻密なヒドロキシアパタイト又は直径約100μmを超えるより大きい緻密なヒドロキシアパタイトセラミック粒子として開示される。
【0007】
AmmannらのPCT出願WO94/15653は、リン酸トリカルシウム(TCP)、TGF-β及び、任意にコラーゲンを含む配合物を開示する。TCPは、TCPが、5μmより大きく、好ましくは約75μmより大きい粒径であるようなTGF-βに対する送達ビヒクルとして開示される。最も好ましいTCP顆粒の大きさの範囲は、125〜250μmとして開示される。
【0008】
PCT出願WO95/08304は、不溶性コラーゲンと混合したヒドロキシアパタイトの高鉱物(polymineralic)前駆体粒子を開示する。ポリ鉱物前駆体粒子の粒径は、0.5μm〜5μmの範囲である。前駆体鉱物は、加水分解によってヒドロキシアパタイトに変換され、またこの方法は、モノリシックヒドロキシアパタイトを形成するために鉱物を融合させると考えられる。
FMC コーポレーションの英国特許明細書第1,271,763号は、リン酸カルシウム及びコラーゲンの複合体を開示する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
組織修復マトリックスであって、多孔質で、生物分解性であるとともに、3次元に固定され、かつ形状記憶を有し、移植後組織置換工程を補強するために十分な期間、構造上の完全性及び多孔性を維持するマトリックスが提供される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このマトリックスは、バインダーに結合した鉱物化した繊維状不溶性コラーゲン、コラーゲン誘導体、又は変性ゼラチンを含む。一つの態様において、鉱物は、マトリックス内で、固定化されたリン酸カルシウムを含む。得られた生成物は、凍結乾燥され、架橋され、乾燥され、及び殺菌されて、多孔質マトリックスを形成する。このマトリックスは、組織修復物質及び/又は生物的に活性因子用の送達ビヒクルとして使用することができる。マトリックスは、骨再生のために移植することができ、その多孔性及び物理的保全性を移植後14日より長い期間保持する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
マトリックスは、水溶性生物溶解性生体高分子、例えば、コラーゲン、コラーゲン誘導体又は変性ゼラチンを使用して生成される。ゼラチンを使用する場合、水溶性環境下で不溶性に変性されうる。コラーゲンは、鉱物化された又は非鉱物化されたコラーゲン源、通常非鉱物化されたコラーゲンから由来し得る。従って、コラーゲンは、骨、腱、皮膚等、好ましくは二つのα2ストランド及び一つのα1コラーゲン鎖の組み合わせを含むI型コラーゲンから由来し得る。コラーゲンは、若い資源、例えば子牛であるか、又は成熟した源、例えば2又は3歳の牛から由来しうる。コラーゲンの出所は、便利な動物源、哺乳動物又はトリ類でよく、また牛、豚、馬、ニワトリ、七面鳥、又は他の国内のコラーゲンの出所でよい。使用される不溶性のコラーゲン性組織は、高いpH値で、少なくとも約pH8、通常に約pH11〜12を使用して、培地中で通常分散される。一般に水酸化ナトリウムを使用するが、他の水酸化物、例えば他のアルカリ金属水酸化物又は水酸化アンモニウムを使用してもよい。
【0012】
天然コラーゲンを本発明で使用してもよい。天然コラーゲンは、末端に三グリシン配列を有さない領域を含む。これらの領域(テロペプチド)は、ほとんどのコラーゲン製剤に関連する免疫原性の原因となると考えられている。免疫原性は、これらの領域をタンパク分解性酵素、例えばトリプシン及びペプシンで消化することにより、除去してアテロペプチド-コラーゲンを作ることにより軽減される。
鉱物化に対するコラーゲンの濃度は、一般的に約0.1〜10質量%、より通常は約1〜5質量%の範囲である。コラーゲン培地は、一般的に約0.0001〜0.1Nの範囲の塩基濃縮物である。pHは、約10〜13、好ましくは約12の範囲で反応の間、一般に維持される。
不溶性の原繊維コラーゲンが、好ましくは使用され、また慣用の手段で調製されうる。典型的には、これは、イソプロパノール(IPA)、ジエチルエーテル、ヘキサン、酢酸エチル、又は他の好適な溶媒とまず混合し、次いでコラーゲンを分離することによって達成されうる。pHを、典型的には約3まで下げ、その後約4℃で冷却し、膨張させた。得られたスラリーを、所望の粘度に達するまで均質化してもよい。
【0013】
均質化したスラリーを溶媒と混合し、攪拌し、pHを約7まで上昇させる。鉱物化された原繊維コラーゲンを製造するために、精製された不溶性コラーゲン原繊維を均質化し、塩化カルシウム(典型的に0.05m)及び三塩基リン酸ナトリウム(典型的に0.03m)が制御された攪拌速度で導入される反応装置においてよい。水酸化ナトリウムは、この工程の間、必要なときにpH11.0±0.5に調節するために使用される。鉱物化の後、コラーゲンを脱イオン化水又はリン酸緩衝液ですすぎ、バインダーと混合し、pHを8.0±2.0の範囲内に調節する。ホスフェートとカルシウムイオンの添加方法は、米国特許5,231,269号明細書に記載されている。
【0014】
このリン酸カルシウムは、他のイオン、例えばカーボネート、塩化物、フッ化物、ナトリウム又はアンモニウムを含んでよい。カーボネートの存在によってダーライト(炭酸化ヒドロキシアパタイト)の特性を有する生成物となり、一方でフッ化物は、フッ素化(fluoridated)アパタイトの特性を有する生成物を提供する。カーボネートの質量%は、通常10を超えないが、フッ化物の質量%は、通常2を超えず、好ましくは、0〜1の範囲である。これらのイオンは、イオンが相溶性でありかつ反応溶液中沈殿を生じさせない限り、カルシウム及び/又はリン酸源と共に存在してもよい。
【0015】
カルシウム及びリン酸イオンの添加速度は、約5μm(ミクロン)以下の粒径を得るために一般的に約1時間またせいぜい約72時間である。一般的に、添加時間は、約2〜18時間、通常は約4〜16時間の範囲である。穏やかな温度、通常約40℃以下、好ましくは約15℃〜30℃の範囲を使用する。コラーゲン対リン酸カルシウム鉱物の質量比は、一般的に約20:1〜1:1、典型的には約7:3である。
他の添加剤、例えば非コラーゲン性タンパク質、因子又は薬物、例えばBMP、TGF-β、カルシトニン、抗生物質は、カルシウム及びホスフェートの添加の前に又は後に、コラーゲンスラリーに添加することによってマトリックス中に配合してもよい。そのような添加剤の量は、一般的にマトリックスとして使用されている生体高分子、例えばコラーゲンに基づき約0.0001〜2質量%の範囲である。
【0016】
鉱物化された生成物中に存在するコラーゲンの量は、バインダーを除くコラーゲン繊維の質量に基づき約95%〜30%であろう。
多孔質の、形状記憶を有する3次元固定された組織修復マトリックスを形成するために、鉱物化された生体高分子繊維をバインダーと混合する。
好ましくは、精製された可溶性コラーゲンは、最初に可溶性コラーゲンを溶媒、例えばイソプロパノール(IPA)、と混合し、そしてコラーゲンを分離することによって、バインダーとして使用される。pHを約3.0まで下げ、コラーゲンが溶解したとき、pHを5.0まで上げ溶媒で2回洗浄し、脱イオン水ですすぎ、篩分け、凍結乾燥する。
【0017】
使用されうる他のバインダーは、ゼラチン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸とグリコール酸のコポリマー、ポリカプロラクタム、カルボキシメチルセルロール、セルロースエステル(例えばメチルエステル及びエチルエステル)、酢酸セルロース、ブドウ糖、デキストラン、キトサン、ヒアルロン酸、フィコール(ficol)、硫酸コンドロイチン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、水溶性メタクリレート又はアクリレートポリマーが挙げられるが、これに限定されない。
【0018】
多孔質マトリックスを調製するために、好ましい可溶性コラーゲンバインダーを鉱物化した生体高分子スラリーに添加し、混合する。好ましくは、不溶性コラーゲンは、生体高分子であり、可溶コラーゲン対不溶コラーゲンが約10%(wt:wt)の比が使用される。pHは、必要に応じて8.0±2.0に調節される。所望の混合レベルが得られたとき、分散液を-20℃〜-80℃に冷凍する。
冷凍されたスラリーを凍結乾燥する。多孔質マトリックスは、物理的安定性を高めるために、マトリックスの吸収時間を増加させるために、また最終生成物の操作を簡単にするために架橋してよい。凍結乾燥マトリックスは、溶液(典型的に0.01%)又は蒸気中、グルタルアルデヒドを使用して好ましくは架橋される。溶液を使用する場合、過剰の試薬を除去した後、マトリックスを凍結乾燥によって乾燥させる。
【0019】
多孔質のマトリックスは、鉱物化コラーゲン繊維及びバインダーのスラリーを濾過し、ウェブを形成することによっても形成される。その後、乾燥されたウェブは架橋されてよい。
さらに多孔質構造は、生体高分子コラーゲン繊維、バインダー及び浸出性(leachable)粒子(可溶塩、例えば塩化ナトリウム)及び/又は昇華によって後に除去されうる高蒸気圧固体を混合することによって得られる。スラリーを乾燥し、その後浸出性又は昇華性粒子を除去して、多孔質構造を形成することができる。多孔質マトリックスは、架橋してよい。
【0020】
架橋マトリックスの他の利点は、より大きい移植滞留時間及び保形(インプラントの分解なしで)を含む。このマトリックスは形状記憶を有し、その初期サイズ、形状及び多孔性から圧縮でき、圧縮状態からその初期サイズ、形状及び多孔性に復帰しうる。さらにこれは繊維又はバインダーの実質的損失なしに生じうる。このマトリックスは、さらに特に骨成長に使用されたとき移植の後約14日より長く、物理的な保全性における多孔性を維持するだろう。
他の架橋方法及び架橋剤、例えば、ホルムアルデヒド、クロミウム塩、ジイソシアネート、カルボジイミド、二官能性酸塩化物、二官能性無水物、二官能性スクシンイミド、ジブロモイソプロパノール、エピクロロヒドリン、ジエポキシド、ジヒドロ熱架橋、乾燥時のUV放射、又は水溶液中のE-ビーム又はγ放射線も使用されてよい。
最終生成物の安定化は、γ放射線、E-ビーム放射線、ドライヒート又はエチレンオキシドを使用することによって得られうる。
【0021】
本発明の利点は、コラーゲン繊維及び固定化したリン酸カルシウム鉱物が、特に骨の置換又は増強に対して有利なマトリックスを形成することである。このマトリックスは、骨交換の場合、生理学的環境に移植した後約14日より長い期間物理的保全性及びその多孔性を維持する。物理的な保全性は、マトリックスがさらに組織交換又は増強工程に重要なその多孔性を維持することを意味する。さらにマトリックスは、上記の形状記憶も有する。これはマトリックスが、送達ビヒクル、例えばカニューレに圧縮され得ること、及び、送達ビヒクルが所望の組織成長の部位に導入され得る点で利点となる。マトリックスを送達ビヒクルからその部位で放出することによって、マトリックスは、その繊維及びバインダーに実質的損失を生じることなく、初期サイズ、形状及び多孔性に復帰する。これは、即時に又は移植の直後にアモルファス、非多孔質塊につぶれ、鉱物を失う組成物と対照的である。
本発明のマトリックスは、最終的には生物分解し又は吸収され、多孔性及び物理的保全性は、限定された期間を超えて維持できない。この工程は、通常、平均して約2〜12週間にわたり、当然に移植されるマトリックスのサイズによって決まる。しかし、骨置換又は増強工程の前にマトリックスの完全な吸収又は生物分解が生じない限りは、生物分解速度は十分である。
【0022】
典型的にはヒドロキシアパタイトとして存在するリン酸カルシウム鉱物が、マトリックスを通して自由に移動できることと対照的にマトリックス上で固定化されることが本発明の特徴である。本発明のリン酸カルシウム鉱物は、マトリックス内で固定されることが知られている。巨細胞やマクロファージ等の食細胞が、粒子物質回りにより多く存在して、しばしば肉芽腫を形成する点で細胞応答が変化しうる。食菌されるに十分な程小さい、約3-5μm(ミクロン)以下のサイズの粒子が、さらに局在化した組織反応を刺激する食菌細胞によって刺込まれる。例えば、骨治癒の間、人工関節に関連する粒子状の耐摩破片(wear debris)が隣接した組織のマクロファージ中に見出され、用量依存的に動物モデルでの増加した骨吸収に関連することが観察される(”Macrophage/particle interactions:effect of size, composition, and surface area”, Shanbhag AS et al., J. Biomed. Mater. Res. 28(1), 81-90 (1994))。従って固定化リン酸カルシウム鉱物が、食細胞によって吸収理想的なサイズである5μm(ミクロン)以下の粒子として、経時的に放出されることは本発明の利点である。さらに、リン酸カルシウム鉱物の放出が制御され、これはマトリックス中で固定化された鉱物の結果であることは、本発明のさらなる利点である。粒径及び固定化の利点は、以下の実施例3に示される。
【0023】
マトリックス材料は、脊椎固定術、骨欠損充填、破損修復及び移植歯周欠損に対する組織又は軟骨修復、又は骨結合性骨接合物質としての用途を有する。本発明の組成物を骨形成物質、例えば自原骨又は自原骨吸引性骨髄、又は骨誘導(osteoinductive)骨成長因子、BMP、カルシトニン又は他の成長因子と組合せることによって骨誘導及び骨成長は、さらに増大しうる。さらに本発明の組成物は、薬物等の他の添加剤、特に抗生物質を含み得る。さらにマトリックスは成長因子が結合し得る基質を提供しホストによって作られた因子又は外部で導入された因子はマトリックスに集まる。本発明の組成物は、組織修復又は軟骨修復、骨折修復、顎顔面(maxifacial)再構築、脊椎固定術、間接再構築、その他の整形外科用途への適用が見出される。
【0024】
以下の例は、説明の目的で提供されるが決して発明の範囲を何ら限定することを意図するものではない。
【実施例1】
【0025】
骨における移植
本発明に従う鉱物化されたコラーゲンマトリックスは、8週齡のラットの頭頂骨に作られた欠損に移植される。組織学評価は、14及び28日目に実施される。14日後、欠損の切断端からコラーゲンマトリックスへの骨成長が観察される。新たに形成された線維性骨は、残在するマトリックス片及び血管新生が明白な疎な結合組織の領域を囲む。28日目までに著しい再構築が生じ、骨細胞が新骨全体に存在する。14日目にみられる結合組織空洞は、骨成長が続く過程でサイズが小さくなった。
【実施例2】
【0026】
骨髄又は自原グラフトによる骨の移植
実施例1からのリン酸カルシウム鉱物化コラーゲンマトリックスを移植し、骨髄を成熟雄ニュージーランド白ウサギ(3.7〜4.1キログラム)に添加した。右前腕の前部中間表面上に中間線で切開して、橈骨を露出した。空気ドリルを使用して橈骨の1.5センチメートルの断片を除去することによって、重要な欠損を作った。骨切断の間、過熱及び骨への損傷を最小化するために済水した。この欠損を、骨髄と又は自原グラフト混合した鉱物化コラーゲンマトリックスで充填した。骨髄は、同一の動物の脛骨から吸引した。自原グラフトは、最新の骨増強又はグラフティング工程に類似した腸骨稜から収集した海綿骨であった。外科手術後、動物を毎日観察し、また最初の8週間は2週間毎に、12週目の剖検まで毎月、手術した橈骨の放射線透過写真を撮影した。ウサギを外科手術後12及び24週間生存するように計画した。
【0027】
剖検において、右及び左の橈骨を除去し、手術した橈骨を治癒の全体的な徴候について評価した(カルス形成及び癒合)。評価は、癒合を示す骨の存在又は起こりうる不安定な癒合を示す欠損内の軟骨、軟組織又は亀裂の存在を含んでいた。
橈骨は、その後10%の中性緩衝化ホルマリン中に固定し、組織学の及び形態計測の評価のために処理した。
0、2、4、6、8、及び12週目に撮影した放射線透過写真は、2週間早い強い治癒応答を示し、欠損部位は改善し、橈骨の天然皮質を再構築し続けた。観察された回復的な治癒は、処理された群のリン酸カルシウムコラーゲンマトリックスとコントロール群の自家移植片の間で一貫する。二つの架橋基の間の放射線透過写真の癒合にほとんど差がなかった。
初期研究において、空のままの、又は未処理にした欠損(ネガティブコントロール)は、ほとんど又は全く新骨を含んでいないことが分かった。この試験において、自家移植片(ポジティブコントロール)は安定な骨の癒合を形成した。リン酸カルシウムコラーゲン処理された骨髄を含む欠損は、さらに自家移植片によって見られるものと比較して新骨との安定な架橋を示した。
【実施例3】
【0028】
比較実験
リン酸カルシウム鉱物のバッチをコラーゲンを添加せずに調製した。この鉱物を収集し、洗浄し、また凍結乾燥して乾燥粉末とした。赤外線スペクトルは、ヒドロキシアパタイトに特徴的であることを示した。
混合マトリックスを、不溶性原繊維コラーゲン繊維を可溶性コラーゲンと9/1質量比で、4質量%の全固体で混合することによって調製した。このスラリーを手で混合し、フリー鉱物を添加し全固体の25質量%を形成した。このスラリーを5.08センチ(2インチ)四平のテフロン(登録商標)金型に約5mmの深さまで注ぎ入れ、-80℃で冷凍し、凍結乾燥させた。乾燥マトリックスを、30分間グルタルアルデヒドを使用して架橋し、洗浄し、また凍結乾燥した。得られたマトリックスは約4mmの厚さであり、8mmの直径の打ち抜きサンプルを移植用のマトリックスから作った。比較のため、最近調製した、28質量%の灰分を含有する鉱物化されたコラーゲン(固定化鉱物)のバッチを使用して、直径8mmの打ち抜きインプラントを調製した。
インプラントを胸筋膜の皮下に置き、同タイプの二つのインプラント物質を、移植時点3、7、及び14日目に4匹のラットに、左右相称に置いた。剖検において、インプラントを、組織反応について評価し、組織学用に組織ブロックを得た。H&Eは、インプラントの部分を染色し、周辺組織を各時点で各動物において調べて、組織反応及び組織一体化を特徴づけた。
剖検での観察
【0029】

【0030】
剖検での臨床的な観察より、ラット皮下インプラントモデルにおける固定化鉱物化コラーゲンと比較して、混合配合物においてより大きい炎症性の応答及び分解性効果を示す。観察から、3日目で弱々しいインプラントを示す。組織学的に観察されるように、7日及び14日目で、多分混合配合物の劇的な線維性被膜の応答のため肥厚したインプラントが観察された。固定化鉱物を有する配合物は、比較において、透明な周辺組織及び正常なインプラントの外観を3つの時点において示した。
【0031】
組織学的な試験により、混合配合物は、遅い(14日)PMN活性及び早い(3日)巨細胞活性によって示されるように、高レベルの急性及び慢性炎症となることが分かる。巨細胞は、食作用性活性が、多分大量のゆるく結合された鉱物粒子に対して組織化されていることを示す。線維芽細胞の侵入が、さらに観察され、組織壊死は、明白でなかった。
対照的に、コラーゲン繊維上に固定された鉱物粒子を有する配合物は、典型的なインプラント-組織反応を示す。3日目の時点において、急性炎症が観察され、これは7日目で迅速に慢性な移植反応を生じ、線維芽細胞の侵入の間、穏やかな炎症を生じ、インプラント周囲に新血管形成が生じる。14日目において、増加した炎症の徴候が視認され、これは、おそらく、コラーゲン分解のためコラーゲン繊維から添加鉱物が放出されることを示す。
【0032】
コラーゲン及びヒドロキシアパタイト鉱物組成物の混合配合物は、皮下ラットインプラントにおいて著しい急性炎症応答を示す。鉱物化されたコラーゲン組成物中の鉱物成分の固定化は、鉱物のバイオアベイラビリティーを減少し、一方で創傷治癒の間、繊維の一体化を支持し続けながら、炎症を低下する。
【実施例4】
【0033】
軟組織部位での移植
本発明の鉱物化コラーゲンマトリックスを5-6週齢の雄SDラットの皮下組織に移植し、組織学的方法によって4及び8週後評価した。4週後、繊維組織の好酸性インプラントの卵形塊への内殖が観察された。リンパ球浸潤を伴う適度なものから著しい慢性応答が観察された。末梢性の濃い繊維性の組織及び多核巨細胞が存在していた。鉱物化コラーゲンインプラントの適量が、この時点で残在していた。8週目において、鉱物化コラーゲンのインプラントは、繊細で濃い繊維組織及び小さい空隙を示した。主に末梢における穏やかな炎症が、慢性炎症細胞の浸潤物及び散在する巨多核細胞と共に観察された。6つの試料のうち3つが、少量の残余のインプラント物質を示し、一方で残りの3つのインプラント部位は痕跡量のインプラントのみを含んでいた。
【実施例5】
【0034】
移植された鉱物化コラーゲンマトリックスの滞留時間
本発明の鉱物化コラーゲンマトリックスは、自家骨髄と結合し、ニュージーランド白ウサギの橈骨の1.5cm断片欠損に移植された。12週後、インプラント部位を組織学的に評価し、残余の鉱物化コラーゲンマトリックスが、骨マトリックスに近接して存在していた。
【実施例6】
【0035】
MP52の放出
本発明の鉱物化コラーゲンマトリックスをモルフォジェニックプロテイン-52(MP52)で0.1mg MP52/cc マトリックスの濃度で水和した。水和されたマトリックスを凍結乾燥した。凍結乾燥したマトリックスを37℃下PBS中に置き、マトリックスからのMP52の放出を測定した。以下の時点、15分、30分、1時間及び18時間で、累積放出はそれぞれ5%、7%、9%及び10%であった。18時間後、90%の装填MP52をマトリックスから回収した。
【実施例7】
【0036】
抗生物質の放出
本発明の、鉱物化コラーゲンマトリックスを10mgのバンコマイシン/cc マトリックスの濃度で、バンコマイシンで水和した。水和したマトリックスを凍結乾燥した。凍結乾燥されたマトリックスを37℃下PBS中に置き、マトリックスからのバンコマイシンの放出を測定した。以下の時点、6時間、24時間、51時間、73時間、97時間で、累積放出は、それぞれ40%、63%、72%、80%及び83%であった。
【実施例8】
【0037】
形状記憶
本発明の鉱物化コラーゲンマトリックスを流体中にマトリックスを置くことによって容易に水和できる。水和の後、このマトリックスは、その保全性及び形状を維持する。水和されたマトリックスは、圧縮され及び狭い穴を通って手動で挿入され得るが、再水和により元のサイズ及び形状に回復する。操作及び圧縮の間、このマトリックスは、繊維のいかなる実質的な損失なしで、その保全性を維持する。
【0038】
なお、本発明のいくつかの態様を以下に記載する。
1.移植可能で、かつ多孔質であるとともに、生物分解性である、形状記憶を有する3次元固定されたマトリックスであって、水不溶性の鉱物化された生体高分子繊維のネットワークと、薬物と、架橋によって不溶性になる水溶性バインダーとを含むことを特徴とするマトリックス。
2.骨成長のための移植可能でかつ多孔質であるとともに、生物分解性である3次元に固定されたマトリックスにして、前記骨成長が必要とされている生理的環境へ移植した後約14日より長い期間その多孔性を維持する形状記憶を有する3次元に固定されたマトリックスであって、不溶性で鉱物化された生体高分子繊維と、薬物と、架橋によって不溶性になる水溶解性バインダーとを含むことを特徴とするマトリックス。
3.前記マトリックスが、その最初のサイズ、形状及び多孔性から圧縮可能であり、圧縮された状態から前記繊維又はバインダーの実質的な損失なく復帰する上記1又は2に記載のマトリックス。
【0039】
4.前記薬物が、抗生物質からなる上記1又は2に記載のマトリックス。
5.さらに成長因子を含む上記1又は2に記載のマトリックス。
6.さらに骨髄を含む上記1又は2に記載のマトリックス。
7.前記バインダーが、可溶性コラーゲン、ゼラチン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸とグリコール酸とのコポリマー、ポリカプロラクタム、カルボキシメチルセルロース、セルロースエステル、デキストロース、デキストラン、キトサン、ヒアルロン酸、フィコール、硫酸コンドロイチン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、水溶性ポリアクリレート及び水溶性ポリメタクリレートからなる群から選択される上記1又は2に記載のマトリックス。
8.前記生体高分子が、原繊維コラーゲンからなる上記1又は2に記載のマトリックス。
【0040】
9.前記鉱物が、ヒドロキシアパタイトからなる上記1又は2に記載のマトリックス。
10.前記多孔性を維持する徐放性で骨と置換する間、前記鉱物が、前記生理的環境中へ放出される上記2に記載のマトリックス。
11.前記鉱物化された生体高分子繊維が、約30〜95質量%のコラーゲンを含む鉱物化されたコラーゲンの形態をとる上記1又は2に記載のマトリックス。
12.さらに自原骨を含む上記1又は2に記載のマトリックス。
13.繊維組織又は軟骨組織の修復方法であって、新しい繊維組織又は軟骨組織の形成を促進するのに十分な有効量の、多孔性でかつ生物分解性であるとともに、形状記憶を有する3次元固定されたマトリックスを含む組成物を修復の標的部位に導入する工程を含み、前記マトリックスが、鉱物化された生体高分子繊維と、架橋によって不溶性となる水溶性バインダーとを含むことを特徴とする方法。
【0041】
14.繊維組織、軟骨組織又は骨の修復方法であって、以下の工程、
(a)修復の標的部位へ送達ビヒクルを導入する工程であって、前記ビヒクルが、多孔性でかつ、生物分解性であるとともに、形状記憶を有する3次元固定されたマトリックスを含み、該マトリックスが、不溶性の鉱物化した生体高分子繊維と、前記マトリックスの最初のサイズ、形状及び多孔質に対して圧縮状態での架橋によって不溶性となる水溶性バインダーとを含む工程、及び
(b)前記マトリックスを前記送達ビヒクルから放出して、前記マトリックスが、前記最初のサイズ、形状及び多孔性に復帰する工程、
を含む方法。
15.前記マトリックスが、前記繊維及びバインダーの実質的な量の損失なく、前記サイズ、形状及び多孔性に復帰する上記13又は14に記載の方法。
16.前記マトリックスが、さらに添加剤を含む上記13又は14に記載の方法。
17.前記添加剤が、薬物からなる上記16に記載の方法。
18.前記薬物が、抗生物質からなる上記17に記載の方法。
19.前記添加剤が、成長因子からなる上記16に記載の方法。
20.前記マトリックスが、さらに骨髄を含む上記13又は14に記載の方法。
【0042】
21.前記バインダーが、可溶性コラーゲン、ゼラチン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸とグリコール酸とのコポリマー、ポリカプロラクタム、カルボキシメチルセルロース、セルロースエステル、デキストロース、デキストラン、キトサン、ヒアルロン酸、フィコール、硫酸コンドロイチン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、水溶性ポリアクリレート及び水溶性ポリメタクリレートからなる群から選択される上記13又は14に記載の方法。
22.前記生体高分子が、繊維コラーゲンからなる上記13又は14に記載の方法。
23.前記鉱物化生体高分子繊維の鉱物が、ヒドロキシアパタイトからなる上記13又は14に記載の方法。
24.前記マトリックスが、約30〜95質量%のコラーゲンを含む鉱物化されたコラーゲンの形態で、コラーゲン及び固定化したリン酸カルシウムを含む上記13又は14に記載の方法。
25.前記マトリックスが、さらに自原骨を含む上記13又は14に記載の方法。
26.前記バインダーが、可溶性コラーゲンからなる上記21に記載の方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
形状記憶を有するとともに、多孔質でかつ生物分解性である3次元に固定されたマトリックスの使用であって、前記マトリックスが、不溶性で鉱物化された生体高分子繊維と、架橋によって不溶性になる水溶解性バインダーとを有し、かつ該マトリックスの最初のサイズ、形状及び多孔質に対して圧縮状態にあり、前記マトリックスが、以下の工程、
(a)該マトリックスを含む送達ビヒクルを、治療の標的部位に導入する工程、及び
(b)前記マトリックスを前記送達ビヒクルから放出して、前記マトリックスが、前記最初のサイズ、形状及び多孔性に復帰する工程、
による、損傷又は欠損した繊維組織又は軟骨組織の治療のための医薬の製造のための使用。
【請求項2】
前記マトリックスが、前記繊維及びバインダーの実質的な量の損失なく、前記サイズ、形状及び多孔性に復帰する請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記マトリックスが、さらに添加剤を含む請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記添加剤が、薬物からなる請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記薬物が、抗生物質からなる請求項4に記載の使用。
【請求項6】
前記添加剤が、成長因子からなる請求項3に記載の使用。
【請求項7】
前記マトリックスが、さらに骨髄を含む請求項1に記載の使用。
【請求項8】
前記バインダーが、可溶性コラーゲン、ゼラチン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸とグリコール酸とのコポリマー、ポリカプロラクタム、カルボキシメチルセルロース、セルロースエステル、デキストロース、デキストラン、キトサン、ヒアルロン酸、フィコール、硫酸コンドロイチン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、水溶性ポリアクリレート及び水溶性ポリメタクリレートからなる群から選択される請求項1に記載の使用。
【請求項9】
前記生体高分子が、繊維コラーゲンからなる請求項1に記載の使用。
【請求項10】
前記鉱物化生体高分子繊維の鉱物が、ヒドロキシアパタイトからなる請求項1に記載の使用。
【請求項11】
前記マトリックスが、約30〜95質量%のコラーゲンを含む鉱物化されたコラーゲンの形態で、コラーゲン及び固定化したリン酸カルシウムを含む請求項1に記載の使用。
【請求項12】
前記バインダーが、可溶性コラーゲンからなる請求項8に記載の使用。

【公開番号】特開2011−19990(P2011−19990A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247223(P2010−247223)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【分割の表示】特願2003−570739(P2003−570739)の分割
【原出願日】平成15年2月21日(2003.2.21)
【出願人】(599054950)デピュイ スパイン、インコーポレイテッド (6)
【氏名又は名称原語表記】DEPUY SPINE,INC.
【Fターム(参考)】