説明

組織修復用無細胞組織基質構成体

本発明は、組織修復構成体及び該組織修復構成体を生産する方法を提供する。本発明はまた、該組織修復構成体を用いた治療方法及び該組織修復構成体を含む製品によっても特徴付けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は組織工学に関し、より詳細には欠損を有するか又は損傷した組織の修復又は改善のために対象脊椎動物に埋め込むか又は移植できる材料に関する。
【背景技術】
【0002】
哺乳類を含む多細胞生物は、組織、すなわち、類似する形態及び機能の特殊化された細胞群の組織化された集合体からなる。また、多くの組織種において、細胞は、細胞にサポート及び足場を提供するものであり、かつ、炭水化物とタンパク質との複合混合物である細胞外基質(ECM)に囲まれている。組織が損傷したとき、成功的な組織再生を生じさせるために、規則正しい一連の生理学的事象が適時に行われなければならない。炎症期と呼ばれる最初の事象には、バクテリア、残骸及び損傷組織を除去する細胞の傷口への到着、並びに、血液凝固が含まれる。その後、循環幹細胞が傷口に移動し、組織に特異的な細胞種に分化する。最終的に、分化した細胞は新しいECMの生産及び堆積を開始する。
【0003】
欠損を有するか又は損傷した組織の修復の成功は、適切な細胞再生を可能にするとともに修復過程において感染の可能性を最小化する供与条件に部分的に依存する。
【発明の概要】
【0004】
本発明者らは、酸性溶液中で膨張した無細胞組織基質(ATM)の断片を乾燥させて生体適合性組織修復構成体を調製できることをみいだした。より好ましい実施形態において、酸性溶液中のATMの懸濁液は、乾燥前にやや高い温度で加熱される。そのような生体適合性組織修復構成体は、癒着又は感染の進行を最小化しながら、多重に欠損を有するか又は損傷した組織を修復する手段を提供できる。
【0005】
より詳細には、生体適合性メッシュ構成体を生産する方法を提供する。前記方法は:a)多数の無細胞組織基質(ATM)の断片を酸性溶液中で定温放置して膨張したATM断片の均質な懸濁液を作成するステップであって、前記酸性溶液は、pHが3.0未満であり、ATM中のコラーゲン線維の不可逆的変性が実質的に生じないステップと;b)前記均質な懸濁液を生体適合性メッシュ基材に塗布してコーティングされたメッシュ基材を作成するステップと;及び、c)前記コーティングされたメッシュ基材を乾燥させてメッシュ構成体を形成するステップと、を具える。ステップa)及びb)を同時におこなってもよい。
【0006】
ATMは、すべて若しくは実質的にすべての生存細胞が除去された真皮を含むか又はその真皮であってもよい。ATMは、すべて又は実質的にすべての生存細胞が除去された組織を含んでいてもよく、前記組織は、筋膜、心嚢組織、硬膜、臍帯組織、胎盤組織、心臓の弁組織、靭帯組織、腱組織、動脈組織、静脈組織、神経結合組織、膀胱組織、尿管組織、及び、腸組織からなる群より選択される。ATMは、ヒト組織又は非ヒト哺乳類組織から調製できる。前記非ヒト哺乳類は、ブタであってもよい。ある態様において、非ヒト哺乳類は、α−1,3−ガラクトシル残基の発現を欠損するように遺伝子操作されていてもよい。非ヒト哺乳類は、機能性α−1,3−ガラクトシル転移酵素遺伝子を欠損していてもよい。ATM断片は、ATM粒子であってもよい。
【0007】
ある態様において、酸性溶液のpHは、約3.0より低くてもよい。pHは、約1.0〜約3.0、約2.0〜約3.0、又は、約1.5〜約2.5であってもよい。pHは、約1.4であってもよい。ある別の態様において、酸性溶液は、酢酸、アスコルビン酸、ホウ酸、炭酸、クエン酸、塩酸、乳酸、タンニン酸、リン酸、及び、硫酸からなる群より選択される酸を含む溶液であってもよい。酸性溶液は、0.1M酢酸を含んでいてもよい。酸性溶液は、0.04M塩酸を含んでいてもよい。
【0008】
ある態様において、定温放置ステップは、約0.5時間〜約12時間であってもよい。定温放置ステップは、約1.0〜約10.0時間、約2.0〜約6時間、又は、約2.5〜約5時間であってもよい。定温放置ステップは、約3時間であってもよい。
【0009】
ある態様において、定温放置ステップ、乾燥ステップ、又は、定温放置及び乾燥ステップは、約20℃〜約42℃の温度でおこなわれてもよい。前記温度は、約20℃〜約30℃、約25℃〜約35℃、約30℃〜約40℃、約35℃〜約38℃、又は、約37℃〜約42℃であってもよい。前記温度は約37℃であってもよい。前記温度は、約25℃であってもよい。
【0010】
ある態様において、メッシュ基材は、実質的に非吸収性であってもよい。ある別の態様において、メッシュ基材は、吸収性であってもよい。吸収性メッシュ基材は、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリグリコール酸、ポリ−1−乳酸、ポリ乳酸/ポリグリコール酸(PLGA)、ポリグラクチン 910、及び、カルボキシメチルセルロースからなる群より選択される重合体であってもよい。重合体は、ポリ−4−ヒドロキシブチレートを含んでいてもよい。メッシュ基材は合成基材であってもよく;合成基材は、ポリプロピレンを含んでもよい。
【0011】
ある別の態様において、乾燥には、窒素雰囲気中における乾燥又は凍結乾燥が含まれていてもよい。
【0012】
ある別の態様において、生体適合性メッシュ構成体を生産する方法は:a)多数のブタ無細胞真皮基質の断片を約0.1M酢酸溶液中で約37℃の温度において約3時間定温放置して、膨張した断片の均質な懸濁液を作成するステップであって、前記酸性溶液はpHが約2.6であり、ブタ無細胞真皮基質中のコラーゲン線維の不可逆的変性が実質的に生じないステップと;b)前記均質な懸濁液を生体適合性ポリプロピレンメッシュ基材に塗布して、コーティングされたメッシュ基材を作成するステップと;及び、c)前記コーティングされた基材を窒素雰囲気中で乾燥させてメッシュ構成体を形成するステップと、を具える。
【0013】
ある別の実施形態において、本発明は、a)多数のATMの断片を酸性溶液中で定温放置して、膨張したATM断片の均質な懸濁液を作成するステップであって、前記酸性溶液はpHが3.0未満であり、ATM中のコラーゲン線維の不可逆的変性が実質的に生じないステップと;b)前記均質な懸濁液を生体適合性メッシュ基材に塗布して、コーティングされたメッシュ基材を作成するステップと;及び、c)前記コーティングされた基材を乾燥させてメッシュ構成体を形成するステップとにより作成される生体適合性メッシュ構成体を提供する。前記ステップ(a)と前記ステップ(b)とを同時におこなってもよい。
【0014】
ATMは、すべて若しくは実質的にすべての生存細胞が除去された真皮を含むか又はその真皮であってもよい。ATMは、すべて又は実質的にすべての生存細胞が除去された組織を含んでもよく、ここで、前記細胞は、筋膜、心嚢組織、硬膜、臍帯組織、胎盤組織、心臓の弁組織、靭帯組織、腱組織、動脈組織、静脈組織、神経結合組織、膀胱組織、尿管組織、及び、腸組織からなる群より選択される。ATMは、ヒト組織又は非ヒト哺乳類組織から作成されてもよい。非ヒト哺乳類はブタであってもよい。ある実施形態においては、非ヒト哺乳類は、α−1,3−ガラクトシル残基の発現を欠損するように遺伝子操作されていてもよい。非ヒト哺乳類は、機能性α−1,3−ガラクトシル転移酵素遺伝子を欠損していてもよい。ATM断片は、ATM粒子であってもよい。
【0015】
ある態様において、酸性溶液のpHは、約3.0より低くてもよい。pHは、約1.0〜約3.0、約2.0〜約3.0、又は、約1.5〜約2.5であってもよい。pHは、約1.4であってもよい。ある別の態様において、酸性溶液は、酢酸、アスコルビン酸、ホウ酸、炭酸、クエン酸、塩酸、乳酸、タンニン酸、リン酸、及び、硫酸からなる群より選択される酸を含む溶液であってもよい。酸性溶液は0.1M酢酸を含んでいてもよい。酸性溶液は0.04M塩酸を含んでいてもよい。
【0016】
ある態様において、定温放置ステップは、約0.5時間〜約12時間であってもよい。定温放置ステップは、約1.0〜約10.0時間であってもよい。定温放置ステップは、約2.0〜約6時間、又は、約2.5〜約5時間であってもよい。定温放置ステップは、約3時間であってもよい。
【0017】
ある態様において、定温放置ステップ、乾燥ステップ、又は、定温放置及び乾燥ステップは、約20℃〜約42℃の温度でおこなわれてもよい。前記温度は、約20℃〜約30℃、約25℃〜約35℃、約30℃〜約40℃、約35℃〜約38℃、又は、約37℃〜約42℃であってもよい。前記温度は約37℃であってもよい。前記温度は、約25℃であってもよい。
【0018】
ある態様において、メッシュ基材は、実質的に非吸収性であってもよい。ある別の態様において、メッシュ基材は、吸収性であってもよい。吸収性メッシュ基材は、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリグリコール酸、ポリ−1−乳酸、ポリ乳酸/ポリグリコール酸(PLGA)、ポリグラクチン 910、及び、カルボキシメチルセルロースからなる群より選択される重合体であってもよい。重合体は、ポリ−4−ヒドロキシブチレートを含んでいてもよい。メッシュ基材は合成基材であってもよく;合成基材は、ポリプロピレンを含んでもよい。
【0019】
ある別の態様において、乾燥には、窒素雰囲気中における乾燥又は凍結乾燥が含まれていてもよい。
【0020】
ある別の実施形態において、生体適合性メッシュ構成体が提供される。構成体は、コーティングされたメッシュ基材を具え、前記メッシュ基材上のコーティングは、乾燥されたATM懸濁液を具える。ある態様において、構成体は、酸性溶液中で膨張した多数の無細胞組織基質(ATM)断片を含むATM懸濁液を含み、前記酸性溶液はpHが3.0未満であり、ATM中のコラーゲン線維の不可逆的変性が実質的に生じず、前記ATM断片は、約30℃〜約42℃の温度で定温放置される。
【0021】
ATMは、すべて若しくは実質的にすべての生存細胞が除去された真皮を含むか又はその真皮であってもよい。ATMは、すべて又は実質的にすべての生存細胞が除去された組織を含んでもよく、ここで、前記組織は、筋膜、心嚢組織、硬膜、臍帯組織、胎盤組織、心臓の弁組織、靭帯組織、腱組織、動脈組織、静脈組織、神経結合組織、膀胱組織、尿管組織、及び、腸組織からなる群より選択される。ATMは、ヒト組織又は非ヒト哺乳類組織から作成されてもよい。非ヒト哺乳類はブタであってもよい。ある実施形態において、非ヒト哺乳類は、α−1,3−ガラクトシル残基の発現を欠損するように遺伝子操作されていてもよい。非ヒト哺乳類は、機能性α−1,3−ガラクトシル転移酵素遺伝子を欠損していてもよい。ATM断片は、ATM粒子であってもよい。
【0022】
ある態様において、酸性溶液のpHは、約3.0より低くてもよい。pHは、約1.0〜約3.0、約2.0〜約3.0、又は、約1.5〜約2.5であってもよい。pHは、約1.4であってもよい。ある別の態様において、酸性溶液は、酢酸、アスコルビン酸、ホウ酸、炭酸、クエン酸、塩酸、乳酸、タンニン酸、リン酸、及び、硫酸からなる群より選択される酸を含む溶液であってもよい。酸性溶液は0.1M酢酸を含んでいてもよい。酸性溶液は0.04M塩酸を含んでいてもよい。
【0023】
ある態様において、定温放置ステップは、約0.5時間〜約12時間であってもよい。定温放置ステップは、約1.0〜約10.0時間であってもよい。定温放置ステップは、約2.0〜約6時間、又は、約2.5〜約5時間であってもよい。定温放置ステップは、約3時間であってもよい。
【0024】
ある態様において、定温放置ステップ、乾燥ステップ、又は、定温放置及び乾燥ステップは、約20℃〜約42℃の温度でおこなわれてもよい。前記温度は、約20℃〜約30℃、約25℃〜約35℃、約30℃〜約40℃、約35℃〜約38℃、又は、約37℃〜約42℃であってもよい。前記温度は約37℃であってもよい。前記温度は、約25℃であってもよい。
【0025】
ある態様において、メッシュ基材は、実質的に非吸収性であってもよい。ある別の態様において、メッシュ基材は、吸収性であってもよい。吸収性メッシュ基材は、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリグリコール酸、ポリ−1−乳酸、ポリ乳酸/ポリグリコール酸(PLGA)、ポリグラクチン 910、及び、カルボキシメチルセルロースからなる群より選択される重合体であってもよい。重合体は、ポリ−4−ヒドロキシブチレートを含んでいてもよい。メッシュ基材は合成基材であってもよく;合成基材は、ポリプロピレンを含んでいてもよい。
【0026】
ある別の態様において、乾燥には、窒素雰囲気中における乾燥又は凍結乾燥が含まれていてもよい。
【0027】
ある別の実施形態において、器官又は組織を修復又は改善する方法を提供する。前記方法は:a)対象哺乳類が改善又は修復を必要とする器官又は組織を有していると認識するステップ;及び、b)上述したいずれかの生体適合性メッシュ構成体を前記器官又は前記組織の内部又は表面に設置するステップを具える。対象哺乳類はヒトであってもよい。レシピエント器官又はレシピエント組織は、腹壁組織、腹筋、及び、平滑筋組織からなる群より選択されてもよい。前記対象は、鼡径ヘルニア、大腿ヘルニア、腹壁ヘルニア、腹部ヘルニア、切開創ヘルニア、裂孔ヘルニア、横隔膜ヘルニア、臍ヘルニア、胸部における筋膜衰弱、腹壁における筋膜衰弱、及び、骨盤内器官脱出症からなる群より選択される要修復欠陥を有していてもよい。
【0028】
ある別の実施形態においては、製品を提供する。製品は、コーティングされたメッシュ基材を具える生体適合性メッシュ構成体を具えていてもよく、ここで、前記メッシュ基材上の前記コーティングは、乾燥されたATM懸濁液を含み;さらに、b)包装材料、又は、器官若しくは組織を改善若しくは修復する方法のための使用説明書を含む添付文書を具えていてもよい。前記方法は:i)対象哺乳類が改善又は修復を必要とする器官又は組織を有していると認識するステップ;及び、ii)前記生体適合性メッシュ構成体を前記器官又は組織の内部又は表面に設置するステップ、を具えていてもよい。
【0029】
ある別の実施形態において、生体適合性真皮フィルム構成体を作成する方法が提供される。前記方法は:多数の無細胞組織基質(ATM)の断片を酸性溶液中で膨張させて均質な懸濁液を得るステップであって、前記酸性溶液は、pH3.0未満であり、ATM中のコラーゲン線維の不可逆的変性が実質的に生じないステップと;b)ATMの前記均質な懸濁液を約20℃〜約42℃において定温放置するステップと;c)前記均質な懸濁液を乾燥させて真皮フィルム構成体を形成するステップと、を具えていてもよい。
【0030】
上述の方法、構成体及び製品において、列挙された実施形態を望ましい組み合わせにより組み合わせてもよい。
【0031】
別に定義されない限り、ここで使用した技術的及び化学的用語はすべて、本発明が関連する技術分野において通常の知識を有する者によって通常に理解されるのと同様の意味を有する。ここに記載されたものと類似するか又は同等な方法及び材料を本発明の実施又は試験において用いることもできるが、好適な方法及び材料を以下で説明する。ここに記載したすべての刊行物、特許出願、特許、及び、他の参考文献は、それらの全体が引用として組み込まれる。紛争の場合には、定義を含む本願明細書が支配するであろう。さらに、材料、方法、及び、実施例は、例示に過ぎず、限定することを意図していない。
【0032】
本発明の1以上の実施形態の詳細は、添付図面及び以下の記載において詳しく説明される。本発明のその他の特徴、対象及び長所は、明細書及び図面から、並びに、請求項から明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0033】
ここで提供される材料及び方法は、損傷され又は欠損を有する器官又は組織の修復を容易にするために、損傷され又は欠損を有する前記器官又は前記組織に移植されうる生体適合性組織修復構成体を作成するために使用することができる。ここで使用されているように、「生体適合性」構成体は、完全な又は部分的な組織再生のために必要な細胞活性をサポートする能力を有するが、宿主における局所性若しくは全身性の著しい炎症又は免疫応答を誘発するものではない。ここで使用されているように、「宿主における局所性若しくは全身性の著しい炎症又は免疫応答」は、本発明の構成体による組織再生を完全に又は部分的に阻害する、局所性若しくは全身性の炎症又は免疫応答である。
【0034】
I.構成体成分
本発明の構成体は、酸性溶液中でATM断片を膨張させ、次に、得られた膨張ATM断片懸濁液を、好ましくはメッシュ基材の一面又は両面上において、乾燥させることによって作成される。異物反応を軽減させるための、ここに提供する構成体を有する移植可能な医療器具のコーティングもまた意図される。好適な器具の例には、限定するものではないが、人工関節、代用血管、人工弁、心臓ペースメーカー、細動除去器、筋刺激装置、神経学的刺激器、人工内耳、モニタリング装置、薬ポンプ、及び、左心補助循環装置が含まれる。
【0035】
無細胞組織基質
ここで使用されているように、「無細胞組織基質」(「ATM」)は、コラーゲンを含有する任意の広範な組織から、すべて若しくは実質的にすべての生存細胞、さらに、好ましくは、検出可能なすべての死細胞、細胞内成分、及び/又は、死細胞若しくは瀕死細胞により生じる残骸を除去することによってできる組織由来の構造である。ここで使用されているように、「無細胞基質」は:(a)様々なコラーゲンを基礎とする組織から作られ;(b)無細胞性であり;さらに、(c)由来した天然の組織又は器官が有する生物学的及び構造的機能を維持する基質である。基質によって維持される生物学的機能には、細胞伸展、細胞増殖、及び、細胞分化をサポートする能力のみならず、細胞認識及び細胞結合が含まれる。そのような機能は、非変性コラーゲンタンパク(例えば、タイプIコラーゲン)、及び、種々の非コラーゲン分子(例えば、インテグリン受容体の等の分子、グルコサミノグリカン(例えば、ヒアルロン酸)若しくはプロテオグリカンのような高電荷密度を有する分子、又は、その他の付着因子、のためのリガンドとして機能するタンパク)により提供される。有用な無細胞基質により維持される構造的機能には、組織学的構造の維持、組織成分の三次元的配列並びに強度、弾性、耐性及び規定された空隙率のような物理的特性の維持、並びに、巨大分子の保持が含まれる。無細胞基質の生物学的機能の効率は、例えば、細胞増殖をサポートする能力により測定可能であり、その無細胞基質が作られる元となった天然の組織又は器官の少なくとも50%(「少なくとも」は、例えば、50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%、99.5%、100%、又は100%超である。)である。さらに、無生物基質中の基底膜の完全性は、電子顕微鏡及び/又は免疫組織化学により測定され、細胞基質が作成された元の天然の組織又は器官の少なくとも70%である。ここで使用されているように、「実質的にすべての生存細胞」を欠損しているATMは、生存細胞の濃度がATMが作成される元となった組織又は器官の1%未満(例えば、0.1%、0.01%、0.001%、0.0001%、0.00001%、0.000001%又は0.0%)のATMである。本発明に有用なATMは、好ましくは、又は実質的に、細胞を殺した後にもATM中に存在しうる死細胞及び/又は細胞残骸がない。「死細胞及び/又は細胞残骸が実質的にない」ATMとは、細胞除去工程を後に予定しているATM中に存在する死細胞及び/又は細胞残骸の10%未満(すなわち、8%、5%、1%、0.1%、0.001%、0.0001%、又は、それ未満)を含むATMである。
【0036】
ここにおいて、真皮から作成されるATMは、ある場合に、「無細胞真皮基質」(「ADM」)と呼ばれる。
【0037】
本発明のATMは、上皮基底膜を有していてもいなくてもよい。上皮基底膜は、上皮細胞の基底面に隣接する薄いシート状の細胞外物質である。集合した上皮細胞のシートは上皮を形成する。したがって、例えば、真皮の上皮は表皮と呼ばれ、また、上皮基底膜は表皮と真皮との間に位置する。上皮基底膜は、バリア機能及び上皮性細胞への接着面を提供する特殊化された細胞外基質であるが;下層組織(例えば、真皮)に対しては、重要な構造的又は生化学的な役割には寄与していない。上皮基底膜の特異な成分には、例えば、ラミニン、コラーゲンタイプVII、及び、ニドジェンが含まれる。上皮基底膜の独自の一時的及び空間的組成により、上皮基底膜は、例えば、真皮の細胞外基質から区別される。ある実施形態において、ATM中の上皮基底膜の存在は、無細胞基質の異種レシピエントにおいて抗体生産を誘発し、及び/又は、予成形された抗体に結合しうる種々の種特異的成分を上皮基底膜が含みうるという点において不利になりうる。さらに、上皮基底膜は、細胞及び/又は可溶性因子(例えば、化学誘引物質)の分散、並びに、細胞浸潤に対する障害として作用する可能性がある。したがって、ATM中におけるその存在は、レシピエント動物においてATMからの新組織の形成を有意に遅延させる可能性がある。ここで使用されているように、上皮基底膜が「実質的に欠損している」ATMとは、ATMが由来した対応未処理組織に含有されていた上皮基底膜を5%未満(例えば、3%、2%、1%。0.5%、0.25%、0.1%、0.01%、0.001%又は0.001%未満)含む無細胞組織基質である。
【0038】
ATMは、細胞伸展、細胞増殖及び細胞分化をサポートする能力のみならず、細胞認識及び細胞結合を含む、由来した組織の生物学的及び構造的特質を維持する。そのような機能は、非変性コラーゲンタンパク(例えば、タイプIコラーゲン)、及び、種々の非コラーゲンの分子(例えば、インテグリン受容体のような分子、グルコサミノグリカン(例えば、ヒアルロン酸)若しくはプロテオグリカンのような高電荷密度を有する分子、又は、その他の付着因子、に対するリガンドとして作用するタンパク)により提供される。有用な無細胞基質により維持される構造的機能には、組織学的構造の維持、組織成分の三次元的配列並びに強度、弾性、耐性及び規定された空隙率のような物理的特性の維持、並びに、巨大分子の保持が含まれる。ATMの生物学的機能の効率は、例えば、ATMが細胞(例えば、上皮細胞)増殖をサポートする能力により測定可能であり、該ATMが作られる元となった天然の組織又は器官の少なくとも30%(「少なくとも」は、例えば、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%、99.5%、100%、又は100%超を表す。)である。ATMが周辺宿主組織と同一の組織から作成されることは必須ではないが、ATMは、関連宿主組織の分化した細胞、間葉幹細胞等の幹細胞、又は、前駆細胞の等のような侵入性又は浸潤性細胞による再構築に適したものでなければならない。ATMは、上記特性が基質によって維持される限り、コラーゲンを含むいかなる軟組織、及び、筋骨格(例えば、真皮、筋膜、心嚢、硬膜、臍帯、胎盤、心臓弁、靭帯、腱、維管束組織(伏在静脈のような動脈及び静脈)、神経結合組織、膀胱組織、尿管組織、又は、腸組織)から生成できることが理解される。
【0039】
本発明に有益なATMは、選択的に、レシピエント自身のコラーゲンを基礎とする組織から作ることができる。さらに、ATMは、一般に、組織修復構成体のレシピエントと同種の1以上の個体から作ることができるが、必ずしもそうでなくてもよい。したがって、例えば、ATMは、ブタ組織から作成され、そして、ヒトのレシピエントに移植可能な組織修復構成体の作成に使用できる。組織修復構成体のレシピエント、及び、組織修復構成体のATM成分の生産用の組織又は器官のドナーとして役割を果たすことができる種には、限定することなく、ヒト、非ヒト霊長類(例えば、サル、ヒヒ若しくはチンパンジー)、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、アレチネズミ、ハムスター、ラット又はマウス等の哺乳類が含まれうる。さらに、1つの種(species)の中の種類の異なる動物(例えば、ユカタンミニブタやヨークシャーブタ)を使用してもよい。
【0040】
ドナーとして特に興味深いものは、末端ガラクトース−α−1,3−ガラクトース部位を欠損するように遺伝子操作された動物(例えば、ブタ及びウシ)である。適切な動物の記述に関しては、同時係属中である米国出願公開第2005/0028228号及び米国特許第6,166,288号を参照されたい。その開示はここに参照により全体が組み込まれている。UDP−ガラクトース酵素:すなわち、端末二糖構造であるガラクトース α−1,3 ガラクトース(「α−gal」)の形成を触媒するβ−D−ガラクトシル1,4−N−アセチル−D−グルコサミニドα−1,3ガラクトシル−トランスフェラーゼ(α−1,3ガラクトシルトランスフェラーゼ、「α−GT」)を発現しないレシピエント動物(例えば、ヒト)における異種移植の重大な問題は、そのようなレシピエント動物における異種移植の超急性拒絶反応である。この拒絶反応は、大部分において、もし排他的でなければ、異種移植片中の細胞表面上のα−Galエピトープに特定的な抗体の活動によるものである。機能性α−GTを欠損又は実質的に欠損しており、その結果、α−galエピトープを欠損又は実質的に欠損している遺伝子組み換え動物(例えば、ブタ及びウシ)が得られている。
【0041】
遺伝子組み換え動物及び特に遺伝子破壊された遺伝子組み換え動物を作る方法は当業界において周知である。遺伝子破壊された遺伝子組み換え動物を作る方法には、例えば、種の個体の生殖細胞に対象遺伝子の破壊された形態を組み込むことが含まれる。当該遺伝子は、タンパク産物(例えば、α−GT)が全く生産されないか、又は、天然タンパクの活性を欠くか若しくは実質的に欠くタンパク産物が生産されるように破壊されてもよい。ここで使用されているように、「実質的にα−GT活性を欠く」α−GTタンパクは、α−galエピトープを生成する能力が野生型α−GTの5%未満(例えば、4%、2%、1%、0.1%、0.01%、0.001%又は0.001%未満)であるα−GTタンパクである。遺伝子、特にα−GT遺伝子、を破壊する方法は当業界において周知であり、一般に相同組換えとして知られる工程が含まれる。この工程において、対象野生型遺伝子の一対又はコピーの両方は、野生型遺伝子中に配列を挿入することによって、当該遺伝子から転写物が生じないようにするか;又は、タンパクが翻訳されないような転写物が生産されるか;又は、対象タンパクの機能的活性を欠くか若しくは実質的に欠くタンパクの合成を命令する転写物が生産されるように破壊されてもよい。そのような構造は、通常、対象遺伝子の遺伝子配列のすべて又は一部を含み、そして、そのゲノム配列中において上述した方法の一つにおいて対象遺伝子の発現を破壊するであろう配列を含む。遺伝子の発現を破壊するために使用される配列は、その構造をゲノム中に取り込んだ対象細胞に、抗生物質耐性(例えば、ネオマイシン耐性)を付与するタンパクをコードする配列であってもよい。そのようなコード配列は、遺伝子的構造をゲノム中に取り込む細胞のインビトロにおける選択を容易にする。この構造と対象遺伝子の少なくとも1つのコピーとの間で組み換えが生じた細胞を選択するために、当業界で知られる付加的薬剤選択方法論が使用されてもよい。
【0042】
遺伝子破壊された動物を作成するいくつかの方法においては、対象細胞として全能細胞(すなわち、胚のすべての細胞種を生み出すことができる細胞)を使用することができる。そのような細胞には、例えば、胚性幹(ES)細胞(ES細胞系の形態)又は受精卵(卵母細胞)が含まれる。対象遺伝子の少なくとも一対が破壊されたES細胞群を適切な胚盤胞に注入し、注入された胚盤胞を育成母体に移植することもできる。あるいは、対象遺伝子を破壊する構造が注入された受精卵は、育成母体に移植されてもよい。さらに、育成母体に移植される卵母細胞は、除核され、成功的に遺伝子破壊されたES細胞から核を注入されたものであってもよい(キャンベルら、(1996)Nature380:64−66)。そのような育成母体において成長する、結果物である変異含有子孫は、同定可能であり、そして、それらの創始動物から当業者に知られる繁殖方法及び選択方法を用いて独特な動物系を生み出すことができる。
【0043】
また、一般動物及び遺伝子破壊された組み換え動物は、遺伝子破壊のための対象細胞として、体細胞(例えば、胎性線維芽細胞)を用いて生産することもできる。そのような細胞は、はるかに速く成長し、インビトロにおいて例えばES細胞よりも容易に取り扱われ、したがって、遺伝子破壊及びその後の遺伝子破壊された細胞の選択手順を容易にする。遺伝子破壊された体細胞系がインビトロにおいて選択されれば、その遺伝子破壊された体細胞を全能細胞(例えば、ES細胞又は卵母細胞)に組み込むことができ、それらは上述したように取り扱われる。核移植のための方法は当業者に知られており、例えば、細胞融合又は核移植などの技術が含まれる。
【0044】
最も一般的に、遺伝子破壊手順は、対象遺伝子の一対の対立遺伝子だけを破壊する結果となる。これらの場合において、遺伝子組み換え動物は、破壊された遺伝子については異型接合体となる。当業者周知であるそのような異型接合体の育成及び適切な選択手順は、破壊された遺伝子についてホモ接合性の動物を生み出すために使用できる。上記遺伝子破壊手順が対象遺伝子の両対立遺伝子を破壊する結果となったときは、当然ながら、そのような育成手順は不要である。
【0045】
遺伝子組み換え動物を使用する代わりに、端末ガラクトース−α−1,3−ガラクトースの除去のために特定の酵素処理が使用されてもよい。α−1,3−ガラクトシダーゼを用いたATMの酵素処理は、α−1,3−ガラクトシダーゼ活性を有する特定のクリコシダーゼ、例えば、コーヒー豆α−1,3−ガラクトシダーゼを用いて行うことができる。この酵素は、天然供給源に由来してもよく、又は、ピキアパストリス発現系若しくは機能性α−1,3−ガラクトシダーゼを生産できる他の任意の組換え系を使用して生産したものでもよい。
【0046】
組織修復構成体の生産には、断片形態(すなわち、粒子、糸又は繊維)のATMが一般的に使用される(下記参照)。種々の方法のいずれによってもATMを製造できる。必要なのは、それらの生産に使用するステップが上述の生物学的及び構造的特性を有する基質をもたらすことだけである。特に有用な生産方法には、米国特許第4,865,871号、米国特許第5,366,616号、米国特許第6,933,326号、並びに、同時係属中である米国出願公開第2003/0035843号、及び米国出願公開第2005/0028228号で説明されたものが含まれ、これらすべてがここに参照により全体が組み込まれている。
【0047】
簡潔に、ATMの生産に一般的に含まれるステップには、ドナー(例えば、ヒトの死体又は上述の哺乳類のいずれか)から組織を採集するステップ、及び、組織を安定化させて、生化学的及び構造的分解を回避するための化学処理ステップであって、生物学的及び構造的機能を同様に維持する条件下における細胞除去が後に又は同時におこなわれる化学処理ステップが含まれる。ATMは、任意に冷凍保存剤によって処理して冷凍保存して、さらに、任意に、先と同様に、基質の上記生物学的及び構造的特性を維持するために必要とされる状態下で再度凍結乾燥してもよい。凍結又は凍結乾燥後に、この組織を、同様の機能を維持する条件のもとで断片化(例えば、粉末化又は微粉化)して、微粒子ATMを生産するようにしてもよい。一般にすべてのステップは、無菌的な条件下、好ましくは滅菌条件下でおこなわれる。
【0048】
米国特許第5,366,616号に記載されたATMを生産する例示的方法の一つを以下に要約する。
【0049】
組織は、ドナーからの除去後に、第一の安定化溶液中に置かれる。第一の安定化溶液は、浸透分解、低酸素分解、自己分解、及び、タンパク分解を停止及び阻止し、微生物汚染を防ぎ、さらに、例えば平滑筋成分(例えば、血管)を含む組織によって生じる機械的損傷を軽減する。安定化溶液は、一般に、適切な緩衝剤、1以上の酸化防止剤、1以上の膨張剤、1以上の抗生物質、1以上のタンパク分解酵素阻害剤、及び、いくつかの場合は、平滑筋弛緩剤を含む。
【0050】
その後、組織は、基底膜複合体、又は、コラーゲン基質の生物学的及び構造的統合性を損なうことなく、構造基質から生存細胞(例えば、上皮細胞、内皮細胞、平滑筋細胞、及び、線維芽細胞)を除去するために処理溶液中に置かれる。この処理溶液は、一般に、適切な緩衝剤、塩、抗生物質、1以上の洗浄剤、1以上の架橋防止剤、1以上のタンパク分解酵素阻害剤、及び/又は、1以上の酵素を含む。
【0051】
適切な緩衝剤は、有機緩衝剤、例えば、2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、3−(N−モルフォリン)プロパンスルホン酸(MPOS)、及び、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)であってもよい。あるいは、ある用途においては、リン酸塩、重炭酸塩、及び、酢酸塩−クエン酸塩を含む低塩又は生理的緩衝剤がより適切であるかもしれない。塩は、塩化ナトリウム又は塩化カリウム等の一般的な生理塩を含んでいてもよい。抗生物質は、例えば、ペニシリン、ストレプトマイシン、ゲンタマイシンカナマイシン、ネオマイシン、バシトラシン、及び、バンコマイシンを含んでいてもよい。追加的にアンホテリシン−B、ニスタチン、及び、ポリミキシンを含む抗真菌性剤を使用してもよい。適当な洗浄剤には、限定するものではないが、例えば、デオキシコール酸ナトリウム、トリトン−X−100(商標)(ローム・アンド・ハース社製、フィラデルフィア、ペンシルバニア)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタン モノ−オレイン酸塩(Tween20);ポリオキシエチレン(80)ソルビタン モノ−オレイン酸塩(Tween80);3−[(3−クロラミンプロピル)−ジメチルアミノ]−1−プロパンスルホン酸塩;オクチルグルコシド;及び、ドデシル硫酸ナトリウムが含まれる。架橋の形成を阻止及び防止する薬剤には、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、アスコルビン酸、及び、その他のフリーラジカル捕捉剤が含まれうる。有用なタンパク分解酵素阻害剤の例には、限定するものではないが、N−エチルマレイミド(NEM)、フェニルメチルスルホニルフッ化物(PMSF)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレングリコール−ビス(2−アミノエチルエーテル)−N,N,N’,N’−四酢酸(EGTA)、ロイペプチン、塩化アンモニウム、上昇されたpH、及び、アプロチニンが含まれる。有用な酵素の例には、限定するものではないが、ディスパーゼII、トリプシン、及び、テルモリジンが含まれる。ある実施形態においては、溶液と組織との間のコロイド浸透圧平衡を提供し、その結果、組織から溶液への内因性プロテオグリカンの拡散を防止するために、処理溶液に浸透圧平衡化剤が含まれていてもよい。浸透圧平衡化剤は、例えば、限定するものではないが、例えばコンドロイチン硫酸、ヘパリン硫酸塩若しくはデルマタン硫酸等のプロテオグリカン、又は、例えばデキストラン若しくはポリビニルピロリドン(PVP)等の重合体、又は、グリシン若しくはバリン等のアミノ酸であってもよい。
【0052】
組織の処理は、処理後に組織が天然の未処理組織(上記ATMの記載を参照)の生物学的及び構造的な特性を維持するような濃度及び時間で活性な薬剤を含む処理溶液を用いるのものでなければならない。
【0053】
脱細胞化後、組織は、凍結(すなわち、冷凍保存)してもよく、更に、選択的に凍結乾燥してもよい。凍結前に組織を凍結乾燥溶液中で定温放置してもよい。この溶液は、冷凍時に起こりうる構造的基質に生じる氷晶損傷を最小化するために一般に1以上の凍結保護剤を含む。有用な凍結保護剤の例は米国特許第5,336,616号に提供されている。また、組織を凍結乾燥する場合、溶液は、一般に、乾燥時の構造的損傷を最小化するために1以上の乾燥保護成分を含むことができ、さらに、有機溶媒と水との組み合わせであって、凍結時に膨張も収縮もしないものを含んでいてもよい。凍結保護物質及び乾燥保護剤は、1の同じ物質であってもよく、又は、1より多い物質であってもよい。組織を凍結乾燥しないのであれば、組織を約−80℃の冷凍庫に(消毒された容器内に)置くこと又は滅菌液体窒素中に入れることにより凍結して、その後、使用するまで−160℃より低い温度で貯蔵するようにしてもよい。サンプルは、例えば、サンプルを有する無菌非透過性容器(下記参照)を約37℃の水槽に浸すこと又は周辺条件下で組織を室温に達するようにすることを許容することによって使用前に溶解させてもよい。
【0054】
組織を凍結及び凍結乾燥して、続いて冷凍保存溶液中において定温放置する場合、組織を、例えば水蒸気透過性のパウチ又はガラスバイアルのような、水蒸気に対して透過性であるが細菌に対しては非透過性である無菌容器内に包装してもよい。好ましいパウチの一方の側は、デュポン社(ウィルミントン、デラウェア)の商標に係る製品である医療グレードの多孔性タイベック(登録商標)膜からなる。この膜は、水蒸気に対して透過性であり、細菌及び粉塵に対しては非透過性である。タイベック(登録商標)膜は、片側が開いた状態になるように、従って、二面パウチを形成するように、非透過性ポリエチレンラミネートシートに熱融着される。この開いたパウチは、使用前に照射(例えば、γ照射)によって滅菌される。組織は滅菌されたパウチの中に無菌的に(開いた側を通して)収納される。続いて、その開いた側を無菌的に熱融着してパウチを閉じる。その後に、包装された組織は、その後の処理ステップの始めから終わりまで微生物汚染から保護される。
【0055】
組織を収容する容器は、冷凍による損傷を最小化するために、特定の抗凍結製剤と相性が良い特定の速度で低温に冷却される。適切な冷却プロトコルの例については、米国特許第5,336,616号を参照されたい。次に、組織を、真空条件下において低温で乾燥して、それぞれの氷結晶相から水蒸気を順次取り除くようにする。
【0056】
水蒸気透過性容器内におけるサンプル乾燥の完了時に、凍結乾燥装置の真空は、窒素、ヘリウム又はアルゴン等の乾燥不活性ガスによって打ち消される。同じガス環境内で維持したままで、半透性容器を、不浸透性(すなわち、微生物だけでなく水蒸気に対して不浸透性)の容器(例えば、パウチ)の中に置く。該容器は、例えば、熱及び/又は圧力によってさらに封印される。ガラスバイアル中で組織サンプルを冷凍及び乾燥させた場合、バイアルは、真空下で適切な不活性栓を用いて密封され、その後、乾燥装置の真空はアップロード前に不活性ガスを用いて打ち消される。どちらの場合においても、最終製品は、不活性ガスの雰囲気中において密閉的に封印する。凍結乾燥された組織は、断片化するまで又は必要であれば再水和するまで冷凍された条件下で保存されてもよい。
【0057】
ATM断片は、粒子(微粒子)、繊維、又は、糸状のいずれかである。
【0058】
微粒子ATMは、最も長い寸法が1000μより大きくなく、一般的な球状又は不規則な形状である。微粒子ATMは、上述のいずれかの非微粒子ATMから、上記生物学的及び構造的機能の維持し、さらに、特に剪断された繊維末端を含むコラーゲン繊維への損傷が最小化されるであろう、任意のプロセスにより生産してもよい。
【0059】
微粒子ATMを生産するための1つの適切な方法は、米国特許第6,933,326号に記載されており、その全体がここに参照により組み込まれている。凍結乾燥された真皮ATM(無細胞真皮基質、ADM)に関して、その工程は、以下に簡潔に記載されるが、当業者は、ここに一覧された他の組織のいずれかに由来する凍結又は乾燥凍結ATMを用いた使用のために、当該方法を容易に適合させることができるであろう。
【0060】
ADMを、(例えば、非中断の「連続した」切断ホイールが取り付けられたジマーメッシャーを使用して)細長い片に切断してもよい。その後、得られた長い片を、約1cm〜約2cmの長さに切断する。ホモジナイザー及び滅菌されたホモジナイザーのプローブ(例えば、LabTeck Macro homogenizer、OMNI International社より利用可能、ウォレントン、ヴァージニア)を組み立て、ホモジナイザータワーに注入される滅菌液体窒素を用いて凍結保存温度(すなわち、約−196℃から約−160℃)に冷却する。ホモジナイザーが凍結保存温度に達した時点で、ADMの切断片を、液体窒素が含まれるホモジナイザータワーに加える。その後、ADMの断片を冷凍破砕するためにホモジナイザーを稼働させる。冷凍破砕ステップの時期及び継続時間は、使用されるホモジナイザー、ホモジナイザー槽の大きさ、並びに、ホモジナイザーが作動する速度及び時期に依存し、当業者により容易に決定される。1つの代替手段として、冷凍破砕工程を極低温に冷却された低温破砕機内でおこなってもよい。
【0061】
冷凍破砕された微粒子ATMは、任意に、ホモジナイズ産物を無菌液体窒素により洗浄し、極低温に冷却されたひと続きの金属ふるいを経ることによって、粒子サイズにより分類される。一般的に、より小さい孔径を有する1つの(又はそれより多くの)ふるいを用いる前に、比較的大きい孔径を有するふるいを用いて望ましくない巨大粒子を除去することは有用である。分離された時点で、当該処理中に吸収されてしまった可能性がある残存水分を除去することを確実にするために、粒子を凍結乾燥してもよい。最終製品は、一般に約1ミクロン〜約900ミクロン、約30ミクロン〜約750ミクロン、又は約150ミクロン〜約300ミクロンの粒径を有する粉(通常白色又は灰色がかった白色)である。
【0062】
また、ATM断片は、繊維又は糸であってもよい。そのような繊維又は糸は、一般に、長さが5cm未満(例えば、4.5cm;4.0cm;3.5cm;3.0cm;2.5cm;2.0cm;1.5cm;1.0cm;0.5cm;0.25cm;0.1cm;0.05cm;又は、0.02cm未満)であり、最も幅の広い部分が3mm未満(例えば、2.5mm;2.0mm;1.5mm;1.0mm;0.5mm;0.2mm;0.1mm;0.05mm;0.02mm;又は0.01mm未満)であろう。凍結又は凍結乾燥されたATMから繊維及び糸を作成する方法は、当業者に理解されるものであり、凍結又は凍結乾燥されたATMの手作業的又は機械的切断のいずれかを含む。
【0063】
特に好適な凍結乾燥ATMは、LifeCell社(ブランチバーグ、ニュージャージー)によってヒト真皮から生産され、AlloDerm(登録商標)として小シート形態で市販される。そのようなシートは、例えば、1cm×2cm、3cm×7cm、4cm×8cm、5cm×10cm、4cm×12cm及び6cm×12cmの寸法を有する長方形シートとしてLifeCell社によって市販される。AlloDerm(登録商標)を凍結及び乾燥するために使用される凍結保護物質は、35%マルトデキストリン溶液及び1OmMエチレンジアミン四酢酸(EDTA)である。したがって、最終乾燥産物は、約60重量%のATM及び約40重量%のマルトデキストリンを含む。また、LifeCell社は、AlloDerm(登録商標)と同じ比率のATM及びマルトデキストリンを含む類似製品をブタ真皮(XenoDerm(商標)に指定される)から生産する。さらに、LifeCell社は、AlloDerm(登録商標)(上述されたもの)を冷凍破砕することによって得られる微粒子無細胞真皮基質をCymetra(登録商標)という名前で市販する。Cymetra(登録商標)の粒径は、質量によって決定され、約60ミクロンから約150ミクロンの範囲内である。微粒子状の又は破砕された(粉末化された)ATMの粒子は、それらの最も長い寸法において1.0mm未満であろう。これより寸法が大きいATM断片は、非微粒子無細胞基質である。
【0064】
メッシュ基材
ある実施形態において、生体適合性組織修復構成体はメッシュ基材を具えていてもよい。例えば、外科用メッシュ基材などの、任意の生体適合性メッシュ基材を使用してもよい。外科用メッシュ基材は、多くの形態で利用可能であり、種々の合成及び天然材料から作成された多繊維織物材料である。メッシュは、繊維構造、孔径及び重量によって大まかに分類されうる。繊維構造は、単繊維、多繊維、又は、単繊維材料から形成された多繊維であってもよい。メッシュ孔径は、約200μから約5000μまで変動してもよい。小さい孔径(例えば1000μ以下)は、重量メッシュに特有であり、その一方で、大きい孔径(例えば1000μ超)は、軽量メッシュに特有である。重量メッシュが約80−100g/mの密度を有し、軽量メッシュが約25−45g/mの範囲内の密度を有するように、メッシュ重量はg/mとして表される。
【0065】
非吸収性材料、吸収性材料、又は、非吸収性材料と吸収性材料との両方を組み合わせた材料からメッシュ基材を作成してもよい。「吸収性材料」は、ここにおいて、レシピエントである哺乳類の体内において内因性酵素又は細胞過程によって分解されうる任意の材料として定義される。材料の特定の組成に依存して、分解産物は、通常の代謝経路を通じて再利用されるか、又は、1以上の器官系を通じて排出されうる。当然に、「非吸収性材料」は、通常の代謝経路を通じて再利用され得ないか、又は、1以上の器官系を通じて排出されえないものである。
【0066】
非吸収性メッシュを作成するために使用される重合体には、ポリプロピレン、ポリエステル、すなわち、ポリエチレンテレフタレート、又は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が含まれる。商業的に利用可能なポリプロピレンメッシュの例には、Marlex(商標)(CR Bard社製、クランストンロードアイランド)、Visilex(登録商標)(CR Bard社製、クランストンロードアイランド、)、PerFix(登録商標)プラグ(CR Bard社製、クランストンロードアイランド)、Kugel(商標)ヘルニアパッチ(クランストンロードアイランド、CR Bard社製)、3DMax(登録商標)(CR Bard社製、クランストンロードアイランド)、Prolene(商標)(Ethicon社製、サマービル、ニュージャージー)、Surgipro(商標)(Autosuture、U.S.Surgical社製、ノーウォーク、コネチカット)、Prolite(商標)(Atrium Medical社製、ハドソン、ニューハンプシャー)、Prolite Ultra(商標)(Atrium Medical社製、ハドソン、ニューハンプシャー)、Trelex(商標)(Meadox Medical社製、オークランド、ニュージャージー、)、Parietene(登録商標)(Sofradim社製、トレブー、フランス)が含まれる。商業的に利用可能なポリエステルメッシュの例には、Mersilene(商標)(Ethicon社製、サマービル、ニュージャージー)及びParietex(登録商標)(Sofradim社製、トレブー、フランス)が含まれる。商業的に利用可能なPTFEメッシュの例には、Goretex(登録商標)(W.L.Gore&Associates社製、ニューアーク、デンマーク)、Dualmesh(登録商標)(W.L.Gore&Associates社製、ニューアーク、デンマーク)、Dualmesh(登録商標)plus(W.L.Gore&Associates社製、ニューアーク、デンマーク)、Dulex(登録商標)(CR Bard社製、クランストンロードアイランド)、及び、Reconix(登録商標)(CR Bard社製、クランストンロードアイランド)が含まれる。
【0067】
吸収性メッシュは、商業的供給源からも利用可能である。吸収性メッシュを作成するために使用される重合体には、ポリグリコール酸(Dexon(商標)、Syneture(商標)、U.S.Surgical社製、ノーウォーク、コネチカット)、ポリ−1−乳酸、ポリグラクチン910(Vicryl(商標)、Ethicon社製、サマービル、ニュージャージー)、又は、ポリ−4−ヒドロキシブチレート(Tepha社製、ケンブリッジ、マサチューセッツ)等のポリヒドロキシルアルカノエート誘導体が含まれうる。
【0068】
複合メッシュ、すなわち、吸収性材料と非吸収性材料との両方を含むメッシュは、上述された材料の組み合わせから、又は、追加的な材料から作成されうる。商業的に利用可能な複合メッシュの例には、Composix(登録商標)(CR Bard社製、クランストンロードアイランド)、Composix(登録商標)E/X(CR Bard社製、クランストンロードアイランド)、及び、Ventralex(登録商標)(CR Bard社製、クランストンロードアイランド)等のポリプロピレン/PTFE、Proceed(商標)(Ethicon社製、サマービル、ニュージャージー、)等のポリプロピレン/セルロース、Sepramesh(登録商標)(Genzyme社製、ケンブリッジ、マサチューセッツ)及びSepramesh(登録商標)IP(Genzyme社製、ケンブリッジ、マサチューセッツ)等のポリプロピレン/Seprafilm(登録商標)、Vypro(商標)(Ethicon社製、サマービル、ニュージャージー)及びVypro(商標)II(Ethicon社製、サマービル、ニュージャージー)等のポリプロピレン/Vicryl、Ultrapro(登録商標)(Ethicon社製、サマービルニュージャージー)等のポリプロピレン/モノクリル(poliglecaprone)、並びに、Parietex(登録商標)混合物(Sofradim社製、トレブー、フランス)等のポリエステル/コラーゲンが含まれる。
【0069】
II.組織修復構成体の調製
ここにおいて提供される生体適合性組織修復構成体は、酸性溶液中でATM断片を膨張させて膨張ATM粒子の均質な懸濁液を作成し、当該懸濁液を乾燥させてコラーゲンフィルム又はスポンジ状構造を作成することによって提供される。通常、膨張ATM断片によって占められる体積は、同じ質量の膨張していないATM断片によって占められる体積に比例して増加する。ある実施形態において、膨張は、やや高い温度でおこなわれてもよい。ATMは、断片、すなわち、粒子、繊維又は糸の形態であってもよい。膨張させる前にすべての抗凍結剤を除去するためにATMを洗浄してもよい。洗浄用溶液は、生理的に影響を及ぼさない任意の溶液であってもよく;特に好適な洗浄用溶液は、例えば、脱イオン化された水若しくは蒸留された水、又は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)である。
【0070】
ATM断片を均質な懸濁液として維持し、さらに、ATM中のコラーゲン繊維の相当量の不可逆的変性が生じる結果とならない酸性溶液中において、ATMを膨張させてもよい。ここで定義されるように、ATM粒子の均質な懸濁液は、ATM粒子が液状媒質中において均質に分散しており、約1000μ(例えば、約950μ、約975μ、約1000μ、約1025μ、約1050μ、約1075μ、約1100μ又はそれ以上)より大きいサイズの微粒子が含まれないものである。ここで使用されているように、「相当量の不可逆的変性」は、一般に、コラーゲン原線維からその構成亜原線維(subfibril)及び/又はコラーゲン分子への分解であって、コラーゲン構成亜原線維(subfibril)及び/又はコラーゲン分子が再び折り曲げられ、再構築されて天然コラーゲン原線維になることが実質的に不可能なものをいう。ここで使用されているように、「再び折り曲げられ、天然コラーゲン原線維に再構築されることが実質的に不可能」であるコラーゲン構成亜原繊維(subfibril)及び/又はコラーゲン分子において、コラーゲン構成亜原繊維(subfibril)及び/又はコラーゲン分子の30%未満:(例えば、25%未満;20%未満;15%未満;10%未満;5%未満;2%未満;1%未満;0.1%未満;0.01%未満;又は、それより小さい)が再び折り曲げられ、天然コラーゲン原線維に再構築される。天然コラーゲン原線維は、多くの亜原繊維(subfibril)の束であり、同様に、それらのそれぞれが微小繊維の束である。微小繊維は、螺旋状に巻かれたコラーゲン分子からなり、それぞれが3つの螺旋状のポリペプチド鎖からなる。コラーゲン原線維内のコラーゲン分子のこの配列は、特徴的な64−67nmバンド周期性を示す。一般に、不可逆的に変性したコラーゲン原線維においては、天然コラーゲン原線維においてみられるバンド周期性が存在しないか又は実質的に存在しない。当業者によって知られる任意の方法によってコラーゲン原線維における相当量の不可逆的な変性を観測することができ、当該方法には、限定するものではないが、例えば、透過電子顕微鏡法、走査電子顕微鏡及び原子間力顕微鏡、又は、例えばポリアクリルアミドゲル電気泳動、又は、コラゲナーゼ、ペプシン若しくはプロテナーゼKによる酵素的分解に対する感受性等の生化学的若しくは酵素的方法が含まれる。したがって、バンド周期性の相当量が失われない任意の酸性溶液中でATMを膨張させてもよい。
【0071】
ATMの最適な膨張を実現するために、酸の種類、酸の濃度、膨張時間の長さ及び膨張温度を調整してもよいことは理解されるであろう。例えば、異なる材料源(例えば、異なる哺乳類種、又は、異なる系統若しくは異なる種)に由来するATMは、ATMにおいてコラーゲン原線維の相当量の不可逆的変性を生じさせることなく、ATMの最適な膨張を達成するためには、異なる膨張条件を必要とする可能性がある。
【0072】
酸は、陽子ドナーとして機能し、その結果、溶液中のH濃度高める分子である。陽子を放出する傾向をわずかだけ有するものは弱酸であり、その一方で、水に陽子を容易に放出する酸は強酸である。溶液中のHイオン濃度の有用な指標はペーハースケールであり;7未満のpHを有する水溶液が酸性であると考えられる。したがって、ATM断片を、pHが7.0未満(例えば、6.9、6.5、6.2、6.0、5.5、5.0、4.5、4.0、3.5、3.0、2.8、2.6、2.4、2.2、2.0、1.8、1.6、1.5、1.4、1.3、1.2、1.0、又はそれより小さい)の任意の水溶液中で膨張させてもよい。pHは好ましくは3.0より小さい。「約(about)」は、pHが列挙された値の上下最大0.2pH単位で変動してもよいことを示す。したがって、例えば、「約」3.0のpHは、pH2.8、2.85、2.90、2.95、3.0、3.05、3.10、3.15又は3.20を含みうる。有用な酸の例には、酢酸、アスコルビン酸、ホウ酸、炭酸、クエン酸、塩酸、乳酸、リン酸、硫酸、タンニン酸、及び、トリクロロ酢酸が含まれる。また、2以上の酸の任意の組み合わせを使用できる。
【0073】
例えば塩酸又は硫酸等の強酸が低い濃度を必要とし、例えば酢酸、クエン酸及び乳酸等の弱酸が低い濃度を必要とするように、酸の具体的な濃度は、一部分において、酸の相対強度に依存するであろう。したがって、定温放置のための濃度及び下側pHは、酸によって変動するであろう。ある実施形態において、酸は、揮発性の酸、すなわち、常温及び常圧で容易に気化する酸である。適切な濃度及びpHは、ATM(上参照)のコラーゲン原線維の相当量の不可逆的変性をもたらさないものである。
【0074】
特に好適な酸の1つは酢酸である。酢酸を約25mMから約250mMの範囲内の濃度(例えば、25、50、75、100、125、150、175、200、225、250、275、300、325、350、375、400、425、450、475、500、525、550、575又は600mM)で使用できる。他の好適な酸は、塩酸(HCl)である。HClを約25mMと約200mMとの間の範囲内の濃度(例えば、25、40、50、60、80、100、175、及び、200mM)で使用できる。「約(about)」は、酸濃度が列挙された値の上下最大10%まで異なってもよいことを示す。したがって、例えば、「約」50mMの酢酸濃度は、例えば45mM、46mM、47mM、48mM、49mM、50mM、51mM、52mM、53mM、54mM又は55mMを含みうる。
【0075】
ATMを、ATM断片の均質な懸濁液を生産するのに必要とされる任意の時間、酸の中で膨張させてもよい。ATMを、例えば、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、7.0、8.0、9.0、10.0、11.0、12.0、14、16、18、20、22、24、26又はそれより長い時間、膨張させてもよい。「約(about)」は、膨張時間が列挙された値の上下最大0.2時間まで異なってもよいことを示す。したがって、「約」3時間の膨張時間には、例えば2.8時間、2.85時間、2.90時間、2.95時間、3.0時間、3.05時間、3.10時間、3.15時間又は3.20時間が含まれうる。
【0076】
酸性溶液中のATMの最終濃度は、均質に膨張し、かつ、ATM断片の均質な懸濁液となる任意の濃度であってもよい。膨張特性は、ATMが由来した組織の材料源によって異なる可能性があり;一般に、ブタ由来ATMのための有用な濃度(w/v)は、約0.1%(例えば、0.08%、0.085%、0.09%、0.1%、0.15%)から約4%(例えば、約3.8%、3.85%、3.9%、4.0%、4.05%、4.1%、4.15%、又は4.2%)の範囲内で変動してもよい。ブタ由来ATM用のある好適な濃度は、0.5%である。ATM断片の体積増加量は、膨張期間(実施例1参照)の前後において、遠心分離によりATM断片を回収し、そのペレットにより占められる体積を測定することによって測定可能である。体積の変化は、酸膨張前のATMと比較して、1.2倍、1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、又は、それより大きくてもよい。膨張の程度は、ATMからATM、及び、種から種に応じて異なるであろう。一般に、必ずしもそうではないが、ATMを最大限に膨張させる膨張用条件を用いる。膨張後において、ATM断片は、膨張前に占めていたのよりも少なくとも1.2倍大きい体積を占めるであろう。例えば、断片は、膨張前に占めていた体積よりも1.2倍、1.5倍、1.8倍、2.0倍、3.0倍、4.0倍、5.0倍、6.0倍、7.0倍、8.0倍、9.0倍、10.0倍、11.0倍、12.0倍、又は、それより大きい体積を占めることができる。膨張の程度を分析するために、例えば、限定するものではないが、ATMによって占められる体積の直接測定、又は、ATM溶液の濃度、粘度若しくは光分散等の間接的な測定方法を含む、当該技術分野の任意の方法を使用できる。
【0077】
本発明のATM断片の均質な懸濁液は、周辺温度よりやや高い温度に供されてもよい。ここで定義されるように、周辺温度は、約23℃から約27℃(例えば、23℃、24℃、25℃、26℃又は27℃)である。ここで定義されるように、「やや高い温度」は、約28℃から約44℃(例えば、28℃、29℃、30℃、31℃、32℃、33℃、34℃、35℃、36℃、37℃、38℃、39℃、40℃、41℃、42℃、43℃又は44℃)において変動してもよい。ATMは、酸膨張ステップの前、酸膨張ステップと同時、又は、酸膨張ステップの後のいずれかにおいて、やや高い温度に供されてもよい。「約(about)」は、その温度が列挙された値の上下最大2℃まで異なってもよいことを示す。したがって、「約」30℃の温度には、例えば、28.0℃、28.5℃、29.0℃、2.95℃、30.0℃、30.5℃、31.0℃、31.5℃、又は、32.0℃が含まれる。ATM断片の均質な懸濁液を、やや高い温度に、例えば、約0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、7.0、8.0、9.0、10.0、11.0、12.0、14、16、18、20、22、24、26時間、又は、それより長い時間、供してもよい。「約(about)」は、膨張時間が列挙された値の上下最大0.2時間まで異なってもよいことを示す。したがって、「約」3時間の膨張時間には、例えば2.8時間、2.85時間、2.90時間、2.95時間、3.0時間、3.05時間、3.10時間、3.15時間又は3.20時間が含まれうる。
【0078】
ATMは、酸の中で膨張させられ、さらに、やや高い温度に供されると、生体適合性メッシュ構成体又は生体適合性真皮フィルム構成体を形成するために使用することができる。生体適合性メッシュ構成体を形成するために、均質なATM懸濁液を生体適合性メッシュに塗布し、織物メッシュが溶液で含浸されるようにしてもよい。メッシュ材料をコーティングするための任意の方法であって、コーティングされたメッシュの生体適合性の特性を維持する方法を使用することができる。例えば、膨張ATMを容器の中へ注入し又は押出してもよく、メッシュ材料をATM懸濁液中に添加し及び/又は埋め込んでもよい。代替的に又は追加的に、膨張ATMをエアロゾル化、スプレー、遠心分離又は濾過によりメッシュ上に堆積させることができる。例えば、平坦なポリプロピレン又はポリスチレン皿などの当業者に知られた任意の容器を使用できる。代替的に又は追加的に、メッシュ材料を、適切な大きさの容器又は鋳型に置き、当該メッシュ上に膨張ATMを注入又は押出することによってコーティングしてもよい。次に、コーティングされたメッシュを乾燥させてもよく、さらに、任意に、コーティング及び乾燥は、1回、2回、3回又はそれより多い回数で繰り返される。
【0079】
一般に、部分的にATMの膨張の程度及び所望のコーティング厚さに応じて、メッシュを、約0.5から約1.0cmの深さまでATM溶液中に沈めてもよい。より詳細には、メッシュのcm単位当たり約5mgから約10mgの乾燥重量のATMでメッシュをコーティングしてもよい。従って、メッシュの単位cm当たり5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5又は10.0mgのATMでメッシュをコーティングしてもよい。コーティング工程が何回繰り返されるかに応じて、メッシュ上のATMコーティングは、約0.1から約1.0mmの厚さになりうる。意図される用途に応じて、コーティングの厚さが異なってもよい。したがって、より薄いコーティングは、例えばトロカール(trochar)を介して巻回されて挿入されるメッシュ用により好適である可能性があり、その一方で、より厚いコーティングは、修復を必要とする組織に直接的に適用されるメッシュに使用される可能性がある。生体適合性真皮フィルムは、均質なATM溶液を適切な容器内で乾燥させ、当該容器から除去されうるフィルム様又はスポンジ様シートを形成することによって形成されてもよい(実施例2参照)。例えば、平坦なポリプロピレン又はポリスチレン皿などの当業者に知られた任意の容器を使用できる。代替的に、例えばうね織り模様、突起状又は波形等の質感又は機能性をATMコーティングの表面に提供するために、起伏を有する皿を使用してもよい。表面に約0.5から1.0mgの深さまでATM溶液を塗布してもよい。より詳細には、容器表面積の単位cm当たり約5mgから約10mgのATMを使用してもよい。したがって、容器は、単位cm当たり、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5又は10.0mgのATMでコーティングされてもよい。
【0080】
当業者に知られた任意の方法であって、該組織修復構成体の生物学的及び物理的機能を維持することとなる方法により生体適合性組織修復構成体を乾燥することができる。限定するものではないが、乾燥方法には、例えば、空気乾燥、不活性ガス(例えば、窒素又はアルゴン)の雰囲気中又は気流下での乾燥が含まれる。乾燥温度は、周辺温度(例えば、約25℃)、又は、周辺温度よりやや高い温度(例えば、28℃、29℃、30℃、31℃、32℃、33℃、34℃、35℃、36℃、37℃、38℃、39℃、40℃、41℃、42℃、43℃又は44℃)であってもよい。あるいは、生体適合性組織修復構成体を凍結乾燥してもよい。凍結乾燥は、当業界で使用されるありふれた技術(例えば、米国特許第4,619,257号、第4,676,070号、第4,799,361号、第4,865,871号、第4,964,280号、第5,024,838号、第5,044,165号、第5,154,007号、第6,194,136号、第5,336,616号、第5,364,756号、及び、第5,780,295号、ここに参照により全体が組み込まれる)であり、好適な装置はLabconco社(カンザスシティー、ミシガン、米国)などの商業的供給源から利用可能である。凍結乾燥には、昇華と呼ばれる工程により、水又は冷凍産物に由来する他の溶媒の除去が含まれる。昇華は、冷凍された液体(固体)が液体段階を経ずに直接気体状態になるときに起こる。当業者は当業界で利用可能な種々の凍結乾燥方法論(例えば、「A guide to Freeze−drying fortheLaboratory」−Labconco、(2004)、Franks(1994)による産業サービス公表、Proc.Inst.Refrigeration.91:32−39を参照されたい。)をよく知っている。凍結乾燥を、例えば多岐管、バッチ又はバルク法を含む種々の任意の方法により遂行してもよい。
【0081】
ある実施形態において、メッシュ基板の有無にかかわらず、ATMの分子(例えば、コラーゲン分子)は、それら自身と、更に/又は、ATMコーティングされたメッシュ基材の場合はメッシュ基材と、化学的に架橋されて(例えば、共有結合的に結びついて)いてもよい。化学架橋剤は、ホモ二機能性(リンカーの各末端において同じ化学反応が起こる)、又は、ヘテロ二機能性(リンカーの末端において異なる化学反応が起こる)であってもよい。限定するものではないが、そのような架橋反応において利用可能な化学反応には、アルキル基若しくは芳香族アジド基又はカルボニル基を用いた光化学的架橋剤だけでなく、スルフヒドリル基、アミノ基、カルボキシル基、ジオール基、アルデヒド基、ケトン基、又は、求電子的若しくは求核的化学反応を用いた他の反応基との反応が含まれる。化学的架橋剤の例には、限定するものではないが、グルタルアルデヒド、カルボジイミド、ビスジアゾベンジジン、及び、N−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステルが含まれる。化学的架橋剤は、商業的供給源(例えば、Pierce Biotechnology社(ロックフォード、イリノイ);Invitrogen社(カールスバッド、カリフォルニア);Sigma−Aldrich社(セントルイス、ミズーリ);及び、US Biological社(スウォンプスコット、マサチューセッツ)から広く利用可能である。特に好適な架橋剤には、1−エチル−3−[3−ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド塩酸塩(EDAC)及びN−ヒドロキシスルホスクシンイミド(NHS)が含まれる。
【0082】
一般に、乾燥コーティングメッシュ又は真皮フィルムを架橋剤の溶液中で直接的に水和することによって架橋をおこなってもよい。あるいは、ATMをメッシュ上に流し込むか又は基材に直接塗布する前に、酸性pHにおいて活性な架橋剤を酸膨張したATMに加えてもよい。架橋反応の継続時間は、使用される架橋剤、試薬濃度、ATMの材料源、メッシュ基剤の種類、反応温度、及び、所望の引張り強度により変動する可能性がある。
【0083】
選択的に、生体適合性組織構成体を生物学的負荷を軽減するための処理に供してもよい。この処理工程は、生体適合性組織構成体内において感染性微生物のレベルを減少させると期待される。ここで使用されているように、生体適合性組織構成体中の「実質的にすべての」微生物(例えば、菌類、細菌類(酵母を含む)、及び/又は、ウイルス)を不活性化するか又は殺すために使用される工程は、生体適合性組織構成体中の微生物のレベルを当該工程前の生体適合性組織構成体中のレベルと比較して少なくとも1/10倍(「少なくとも」は;例えば、1/100倍;1/1000倍;10−4倍;10−5倍;10−6倍;10−7倍;10−8倍;10−9倍;又は、10−10倍;である。)に低減させる工程である。当該工程が成功的なものであったか否かを判定するために任意の標準的分析を使用することができる。これらの分析方法には、例えば人工成長培地上における綿棒塗布サンプルの培養などのような微生物増殖を直接的に測定する技術、又は、量的PCRなどのような分子検出方法が含まれうる。
【0084】
生体適合性組織構成体は、生存する細菌及び/若しくは菌類並びに/又は感染性ウイルスのレベルを低減させ又は死滅させるために、γ−、x−、e−ビーム、及び/又は、紫外線(10nmから320nm波長、例えば、50nmから320nm、100nmから320nm、150nmから320nm、180nmから320nm、又は、200nmから300nm)照射に暴露されてもよい。生体適合性組織構成体が暴露される照射線量よりもさらに重要なのは、生体適合性組織構成体により吸収された線量である。より厚い生体適合性組織構成体については、一般に、吸収された線量と暴露線量とが近似し、その一方で、より薄い生体適合性組織構成体においては、暴露線量が吸収された線量よりも大きい可能性がある。さらに、低線量率で特定の照射線量が長時間(例えば、2から12時間)にわたって実施されると、高線量率で短時間(例えば、2秒から30分)にわたって実施されるときよりもより多くの照射が吸収される。当業者は、特定の生体適合性組織修復構成体について、当該生体適合性組織修復構成体が暴露された線量よりも顕著に吸収線量が少ないことをどのように検査するか、及び、暴露線量を選択するにおいてそのような矛盾をどのように説明するかということを理解できるであろう。γ−、x−、又は、e−ビームの適切な吸収線量は、6kGy〜45kGy(例えば、8kGy〜38kGy、10kGy〜36kGy、12kGy〜34kGy)であってもよい。したがって、γ−、x−、及び/又は、e−ビーム照射線量は、例えば、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、又は、34kGyであってもよい。
【0085】
生体適合性組織構成体成分、断片化されたATM及び生体適合性メッシュは、混合又は分離され、生体適合性組織構成体調製の任意の段階において(上記線量のいずれかで)照射されてもよい。さらに、生体適合性組織構成体の照射は、生体適合性組織構成体の成分に対する照射の第2又は第3の暴露であってもよい。したがって、例えば、断片化されたATM及び生体適合性メッシュは別々に照射され、混合されて生体適合性メッシュ構成体を形成してもよく、その後に生体適合性メッシュ構成体が照射されてもよい。
【0086】
一般に移植又は埋め込みの前に生体適合性組織構成体を再水和させる。あるいは、予め再水和せずに生体適合性組織構成体を移植し又は埋め込んでもよく、この場合、再水和はインビボにおいて生じる。再水和のために、生体適合性組織構成体を、任意の生体適合性溶液(例えば、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、乳酸リンゲル液、又は、標準細胞培養液)の中で定温放置してもよい。生体適合性組織構成体は、当該生体適合性組織構成体が完全に水和されるか、又は、当該生体適合性組織構成体が作られた元の混合物が含む水と実質的に同じ量の水を取り戻すことができる時間にわたって溶液中で定温放置される。一般に、再水和溶液中における定温放置時間は、約15秒から約1時間(例えば、約5分から約45分、又は、約10分から約30分)であろう。「約(about)」は、定温放置時間が列挙された値の上下最大20%まで異なってもよいことを示す。したがって、「約」30分の定温放置時間には、例えば、24分、25分、26分、27分、28分、29分、30分、31分、32分、33分、34分、35分又は36分が含まれる。選択的に再水和溶液を所望の回数にわたって未使用のものに交換してもよい。定温放置の温度は、一般に周辺温度(室温)であるか、又は、約15℃から約40℃(例えば、約20℃から約35℃)であってもよい。「約(about)」は、温度が列挙された値の上下最大2℃まで異なってもよいことを示す。したがって、「約」30℃の温度には、例えば、28.0℃、28.5℃、29.0℃、2.95℃、30.0℃、30.5℃、31.0℃、31.5℃又は32.0℃が含まれうる。生体適合性組織構成体と再水和溶液とを含む容器は、必要であれば、定温放置中に穏やかに攪拌されてもよい。再水和作用に続いて、生体適合性組織構成体を、特定部位に移植のために好適な形態にするために成形し又は切り取ってもよい。
【0087】
III.組織及び器官修復
ここに記載される生体適合性組織構成体は、組織の改善又は修復が必要とされる広範な任意の疾患を処置するために使用できる。組織欠損は、例えば、先天性奇形、外傷、感染、及び、腫瘍切除を含む種々の病状から起こりうる。したがって、生体適合性組織構成体は、任意の軟組織(例えば、体の他の構造及び器官を接続し、サポートし又は囲む組織)における欠損を修復するために使用できる。また、生体適合性組織構成体は、例えば、骨修復のサポート(例えば、骨をサポートするための骨膜移植、又は、軟骨修復を促進するための関節移植として)において使用できる。軟組織は任意の非骨組織であってもよい。また、軟組織は、体の外側を覆い、体内において器官及び腔を並べる上皮組織であってもよい。限定するものではないが、上皮組織の例には、単層扁平上皮、重層扁平上皮、立方上皮、又は、円柱上皮が含まれる。
【0088】
また、軟組織は、他の組織を束縛又はサポートするために機能する結合組織であってもよい。結合組織の一例は、疎性結合組織(無形結合組織としても知られる)である。上皮を下層組織に結びつけ、さらに、所定位置に器官を維持するように機能する疎性結合組織は、脊椎動物において最も広く分布する結合組織種である。それは真皮層の下の皮膚中;上皮を他の組織に接続するところ;外開口を有するすべての体組織の上皮組織の下;消化系、呼吸系、生殖系及び泌尿系の粘液膜内;並びに、血管及び神経の周囲にみられる。疎性結合組織は、コラーゲン繊維、弾性繊維(エラスチンタンパクで構成された長い糸状の伸縮可能な繊維)、及び、細網繊維(1種以上の非常に薄いコラーゲン繊維からなる分岐した繊維)を含む構成繊維のゆるい「織り方」に由来して命名される。また、結合組織は、筋を骨に付着させる腱、及び、関節において骨を互いに接合する靱帯等の線維性結合組織であってもよい。線維性結合組織は、主として、きつく詰められたコラーゲン繊維、引張り強度を最大化する配置で構成される。また、軟組織は筋肉組織であってもよい。筋肉組織には:随意運動に関与する骨格筋;消化管、膀胱動脈及び他の内臓の壁においてみられる平滑筋;並びに、心臓の収縮壁を形成する心筋が含まれる。
【0089】
生体適合性組織構成体は、体内において広範な生理的機能を実現させる多様な臓器系において軟組織を修復するために使用できる。限定するものではないが、これらの臓器系には、筋系、泌尿生殖器系、消化器系、外皮系、循環系、及び、呼吸器系が含まれうる。構成体は、筋膜と、胸筋、胸骨及び胸関節を囲む特殊化された層と、腹壁とを含む結合組織の修復のため、並びに、泌尿器科、婦人科及び消化器内科の解剖における組織脆弱性の修復及び補強のために特に有用である。
【0090】
生体適合性組織構成体は、ヘルニア修復用に非常に好適である。ヘルニアは、内容物が通常みられる体腔からの体腔内容物の突出である。これらの内容物は、多くの場合、体腔内部に並ぶ薄膜に取り囲まれ、膜と内容物とは一緒に「ヘルニア嚢」と呼ばれる。最も一般的に、ヘルニアは、腹壁の脆弱部が局所的な穴又は腸内突出が生じる欠損に拡大するとき、腹部において発症する。腹壁におけるこれらの脆弱部は、通常、腹壁の自然薄層化部位、すなわち、腹部から末端及び他の器官へ伸びた血管のために管の通過を許容するための天然の開口部がある部位において生じる。潜在的脆弱部となる他の領域は、腹部における任意の既往手術の部位である。脂肪組織は、通常、最初にヘルニアになり、続いて腸又は他の腹腔内器官の断片化が生じうる。内臓の一部がヘルニア嚢に挟まれて器官への血液提供が損なわれると、患者は、腸閉塞、壊疽及び死を含む重篤な合併症のおそれがある。ヘルニアは、自然治癒せず、多くの場合、病状を治療するために外科的修復が必要とされる程度まで、時間経過につれて大きくなる。一般に、ヘルニアは、脆弱化した筋肉組織の修復を後に伴って、ヘルニア嚢を体腔へ再挿入することによって修復される。
【0091】
多種のヘルニアが存在する。男性だけに存在する鼠径及び陰嚢ヘルニアを除き、いかなる年齢又は性の個体においてもヘルニアがみられる。ヘルニアの例には:腸が鼠径管の後壁を通して鼠径管に突出する可能性がある直接鼠径ヘルニア;腸が鼠径管の先端の脆弱部を通じて鼠径管に突出する可能性がある間接鼠径ヘルニア;大腿骨血管の通路によって下側の末端に作られた脆弱な領域に腹腔内容物が入りこむ大腿ヘルニア;腸内容物が陰嚢に突出する陰嚢ヘルニア;腹直筋の縁に沿ってヘルニアが生じるスピゲリウスヘルニア;腹腔内容物(例えば、腸又は他の腹腔内器官)が閉鎖管に突出する閉鎖孔ヘルニア;例えば、ヘルニアがプティ三角形、下腰三角を経るプティヘルニア、及び、ヘルニアがグランフェルト−レスハフト三角、上腰三角を経るグランフェルトヘルニア腰ヘルニア;腸の一方のみの側壁が絞扼されるリヒターヘルニア;ヘルニアがヘッセルバッハの三角形を経るヘッセルバッハヘルニア;下腹壁血管のどちらの側面においてもヘルニア嚢が突出して直接鼠径ヘルニア及び間接鼠径ヘルニアが併発するパンタロンヘルニア;クーパーヘルニア;(腹部の正中線において臍と胸郭下部との間にヘルニアが生じる)上腹壁ヘルニア;例えば、ボホダレクヘルニア及びモルガーニヘルニアのように胃の一部が横隔膜の食道裂孔を経て突出する横隔膜ヘルニア及び裂孔ヘルニア;並びに、突出が臍を経る臍ヘルニアが含まれる。
【0092】
先天的原因のヘルニアとは異なり、腹壁の又は再発性のヘルニアとして知られる切開創ヘルニアは、腹腔内の古い手術痕領域において生じる。切開創ヘルニアには、先天性ヘルニアよりも、外科的修復後においてより高い再発のリスクがある。そのうえ、多発性再発性ヘルニア、すなわち、2以上の修復がおこなわれた後に再発するヘルニアの場合においては、その後の各処置とともに修復の成功率が低下する。
【0093】
生体適合性組織構成体は、組織脆弱部から生じる他の病状を処置するために使用されてもよい。生体適合性組織構成体が有用となる1つの病状は、器官脱出症の修復である。脱出症は、器官又は器官の一部が所定位置から下降又は滑脱する病状である。通常、器官脱出症は、先天的要因、外傷又は病気のいずれかより生じうる組織脆弱部に起因する。骨盤内器官脱出症は、骨盤ガードル内の1以上の器官の脱出を含み;妊娠、労働及び出産による組織脆弱化は、女性における該病状の一般的原因である。骨盤内器官脱出症に関与する器官の例には、膀胱が膣内に突出することがある膀胱(膀胱脱);尿道が膣内に突出することがある尿道;子宮が膣内に突出することがある子宮;小腸が膣壁に対して脱出することがある小腸(腸ヘルニア);及び、膣管の一部が膣開口部から突出する膣脱が含まれる。疾病器官及び脱出症の重篤性によっては、骨盤内器官脱出症の患者は、性交、頻尿、尿失禁、尿路感染、腎障害及び便秘において苦痛を経験する可能性がある。治療には非外科的及び外科的オプションの両方が含まれ;重篤な場合、骨盤底の組織(すなわち、骨盤下の領域を補い、骨盤内器官(例えば、膀胱、腸下部及び(女性の)子宮)にサポートを与える筋組織及び結合組織)の再建が必要とされる可能性がある。
【0094】
生体適合性組織構成体は、また、胃腸系の修復においても有用である。限定するものではないが、修復が必要とされる食道の病状には、例えばブールハーフェ症候群、マロリー−ワイス症候群のような、内視鏡処置又は栄養チューブの挿入若しくは関連のない手術の合併症として起こりうる食道穿孔に関連する外傷である、食道の外傷性破裂;例えば食道閉鎖症等の先天的な食道の欠損の修復;並びに、腫瘍食道の切除が含まれる。
【0095】
生体適合性組織構成体を、以前に一度も修復されたことがない組織を修復するために使用することができ、又は、生体適合性組織構成体若しくは当業界で知られる他の方法によって一回以上処置された組織を修復するために使用することができ、又は、縫合、組織移植若しくは合成組織修復材料を含む他の組織修復方法と共に使用することができる。
【0096】
当業者に知られる技術を用いて治療を必要とする個体に生体適合性組織構成体を適用してもよい。生体適合性組織構成体を:(a)破損しているか又は欠損を含む組織の周りに巻き付け;(b)破損しているか又は欠損を含む組織の表面に置き;(c)巻回して組織中の空洞、隙間又は空間に挿入してもよい。1以上(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18、20、25、30、又は、それより多く)のそのような生体適合性組織構成体を、積層し又は互いに隣り合わせて、任意の特殊部位において使用できる。例えば、縫合、止め金、びょう、当業界で知られる組織接着剤、又は、組織封止剤の近くにおいて生体適合性組織構成体を適所に保持できる。あるいは、例えば、欠損又は空洞に充分にきつく詰め込まれれば、それらは、安全装置を必要としないかもしれない。
【0097】
治療薬剤
組織再生を助ける治療薬剤が生体適合性組織修復構成体の中に含まれていてもよい。これらの薬剤には、細胞、成長因子又は小分子治療薬が含まれていてもよい。これらの薬剤は、生体適合性組織構成体が対象物に置かれる前に生体適合性組織構成体の中に組み込まれてもよい。あるいはまた、対象において既に適所に置かれた生体適合性組織構成体の中にそれらを注入できる。これらの薬剤は、単独で又は組み合わされて投与されてもよい。例えば、生体適合性組織構成体は、細胞、成長因子及び小分子治療薬を同時に届けるため、又は、成長因子に加えて細胞を届けるか、又は、小分子治療薬に加えて細胞を届けるか、又は、小分子治療薬に加えて成長因子を届けるために使用されてもよい。
【0098】
当然ながら、上述される薬剤の投与は、1又は複数(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、50、60、80、90、100、又は、必要とされる数)であってもよい。複数である場合、投与は当業者により容易に決定される時間間隔が設けられていてもよい。また、種々の物質及び因子の投与量は、対象の種、年齢、体重、大きさ、及び、性別に従って非常に異なり、当業者によって容易に決定される。
【0099】
永久に受け入れられる移植片であって、宿主よって再生されうるものを作成するために、組織適合性生存細胞を生体適合性組織構成体で修復してもよい。細胞は意図されるレシピエント又は同種異系ドナーに由来してもよい。限定するものではないが、生体適合性組織構成体が再生される可能性がある細胞種には、胚幹細胞(ESC)、成熟性又は胚性の間葉幹細胞(MSC)、単球、造血幹細胞、歯肉上皮細胞、内皮細胞、線維芽細胞、前軟骨芽細胞、軟骨芽細、軟骨細胞、前破骨細胞、骨細胞、又は、破骨細胞が含まれる。また、生体適合性組織構成体を再生させるために、これらの細胞種の2以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、又は、10)の任意の組み合わせを使用できる。特定の細胞種を単離する方法は当業界において周知である。ドナー細胞を採取直後に使用してもよく、又は、標準組織培養技術を用いてインビトロにおいて培養してもよい。生体適合性組織構成体を対象哺乳類の中に設置する前に、ドナー細胞を該細胞が由来する生物個体内の本来あるべき場所において生体適合性組織構成体の中に注入又は注射してもよい。また、当業者に知られる標準組織培養方法を用いてドナー細胞を生体適合性組織構成体とともに共培養してもよい。
【0100】
生体適合性組織構成体の中へ組み込まれうる成長因子には、当業界で知られる広範な、細胞成長因子、血管新生因子、分化因子、サイトカイン、ホルモン、及び、ケモカインが含まれる。成長因子は、成長因子の全アミノ酸配列を含むポリペプチド、天然の成長因子のアミノ酸配列の一部分だけに対応するペプチド、又は、天然配列から由来するペプチドであって、該ペプチドは天然の成長因子の生物学的活性を維持するものであってもよい。以下に列挙される任意の方法により、2以上の因子の任意の組み合わせを対象に投与できる。適切な因子の例には、血管内皮細胞成長因子(VEGF)(例えば、VEGF A,B,C,D及びE)、血小板由来成長因子(PDGF)、インスリン様成長因子(IGF)I及びIGF−II、インターフェロン(IFN)(例えば、IFN−α、β若しくはγ)、線維芽細胞成長因子(FGF)(例えば、FGFl−10)、上皮成長因子、ケラチノサイト成長因子、形質転換成長因子(TGF)(例えば、TGFα若しくはβ)、腫瘍壊死因子−α、インターロイキン(IL)(例えば、IL−I、IL−18)、オステリックス、ヘッジホッグ(例えば、ソニック又はデザート)、SOX9、骨形成タンパク(BMP’s)、特にBMP2、4、6及び7(BMP−7はOP−Iとも呼ばれる)、副甲状腺ホルモン、カルシトニンプロスタグランジン、又は、アスコルビン酸が含まれる。
【0101】
また、タンパクである因子:(a)タンパクである上記因子のいずれか1つ以上をコードする核酸配列を含む発現ベクター(例えば、プラスミド又はウイルスベクター);又は、(b)そのような発現ベクターで(安定に若しくは一時的に)形質移入又は形質導入された細胞、を対象に投与することによって対象レシピエントに届けてもよい。そのような形質移入又は形質導入された細胞は、レシピエント由来であるか又はレシピエントと組織適合性であろう。しかしながら、因子に短時間だけ暴露させることが必要とされる場合もあり、従って、組織非適合性細胞を使用してもよい。
【0102】
小分子薬剤を生体適合性組織構成体の中に組み込んでもよく、その結果、局所化された薬剤供給を容易にする。再発性ヘルニアは、ある場合には、修復部位を脆弱化させて回復を遅らせる無痛性細菌定着のせいで難治性となることがある。抗生物質の長期全身投与は、そのような無症状感染に対して部分的にしか有効でない可能性がある。生体適合性組織構成体の中への抗菌薬の組み込みは、抗生物質の局所的な高い濃度をもたらし、その結果、長期全身高投与量に付随する副作用のリスクを最小化できる。抗菌薬は抗生物質であってもよい。抗生物質の例には、限定するものではないが、任意の代表的な種類の抗生物質、例えば、1)ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、ストレプトマイシン又はトブラマイシンなどのアミノグルコシド;2)セファクロール、セファドロキシル又はセフォタキシムなどのセファロスポリン;3)アジスロマイシン、クラリスロマイシン、又はエリスロマイシンなどのマクロライド系;4)アモキシシリン、カルベニシリン又はペニシリンなどのペニシリン系;5)バシトラシン、ポリミキシンB又はバンコマイシンなどのペプチド系;6)シプロフロキサシン、レポフロキサシン又はエノキサシンなどのキノロン系;7)スルファメタゾール、スルファセタミドなどのスルホンアミド;又は、8)ドキシサイクリン、ミノサイクリン又はテトラサイクリンなどのテトラサイクリン系;8)リファンピン、クロラムフェニコール又はニトロフラントインなどの多用な作用機構を有する他の抗生物質が含まれる。また、例えば抗真菌性抗生物質及び抗ウイルス物質などの他の抗生物質が生体適合性組織構成体の中に含まれてもよい。
【0103】
また、化学療法剤が生体適合性組織構成体の中に含まれていてもよい。例えば、食道、胃、結腸、膀胱の腫瘍を含む、軟組織で生じる悪性腫瘍は、一般に、腫瘍切除及び抗がん剤の全身投与により処置される。生体適合性組織構成体の中への抗がん剤の組み込みは、化学療法剤の高い局所的濃度をもたらし、その結果、長期の高い全身投与量に付随する毒性を軽減できる。限定するものではないが、化学療法剤の種類の例には、1)例えば、シクロホスファミドなどのアルキル化剤;2)例えば、ダウノルビシン、ドキソルビシンなどのアントラサイクリン;3)例えば、パクリタキセルなどの骨循環系撹乱物質;4)例えば、エトポシドなどのトポイソメラーゼ阻害剤;5)例えば、アザシチジン、フルオロウラシル、ゲムシタビンなどのヌクレオチド類似体、6)例えば、ブレオマイシンなどのペプチド系;7)例えば、カルボプラチン、シスプラチンなどのプラチナをベースとする薬剤;8)例えば、オールトランス型レチノイン酸などのレチノイド系;及び、9)例えば、ビンブラスチン又はヴィンクリスチンなどのビンカアルカロイド系が含まれる。
【0104】
IV.製品
ここにおいて提供される生体適合性組織構成体は、製品又はキットとして含まれていてもよい。ある実施形態において、キットは、生体適合性組織構成体、包装材料、又は、治療方法のための指示が含まれる添付文書を具えていてもよい。包装材料には、生体適合性組織構成体の長期の安定及び滅菌を促進する成分が含まれていてもよい。
【0105】
本発明の多くの実施形態が記載された。それにもかかわらず、本発明の趣旨及び範囲から逸脱せずに種々の変更をしてもよいことが理解されるであろう。従って、他の実施形態は後に続く請求項の範囲内である。
【0106】
実施例1.方法及び材料
無細胞組織基質(ATM)の調製
ユカタンミニブタから得られたブタ真皮組織からATMを調製した。ブタ真皮組織を以下の標準Lifecellプロトコルに従って処理した。該組織を20mM EDTAを含むRPMI1640培地中において4℃で24時間にわたって定温放置した。組織サンプルを脱表皮化溶液(リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、10mM EDTA、0.5%トリトン X−100、リンコマイシン、バンコマイシン、ポリミキシンB及びセフォキシチン)の中で穏やかに攪拌しながら22.5時間にわたって室温で定温放置することによって真皮表皮を除去した。次に、真皮から表皮層を物理的に除去した。表皮を破棄し、真皮を更なる処理に供した。該真皮を脱細胞化溶液(10mM HEPES、pH8.0、10mM EDTA、2%デオキシコール酸ナトリウム)中で15分間洗浄し、その後に、多量の未使用の脱細胞化溶液中において室温で18時間にわたって穏やかに攪拌することによって細胞成分及び残骸を除去した。該真皮を、DNAse溶液(20mM HEPES、pH7.2、20mM 塩化カルシウム、20mM塩化マグネシウム、及び、1U/ml DNAse(Pulmozyme(登録商標)、Genentech社製、南サンフランシスコ、カリフォルニア))中で定温放置し、その後に、PBS、10mM EDTA、pH7.2の中で洗浄した。続いて、DNAse処理された真皮を予備冷凍溶液中で定温放置し、凍結乾燥することによってシート形態のATM(XenoDerm(商標))を得た。Spex−Certiprep Freeze Millを用いてXenoDerm(商標)を微粉化した。微粉化されたXenoDerm(商標)のおおよその粒径は、約100から200μの間である。微粉化された材料を実施例において下記されるように、コーティングされたメッシュ及び真皮フィルムの調製のための出発材料として使用した。
【0107】
微粉化されたブタ真皮の抗凍結剤含有量の決定
溶解性抗凍結剤を除去するために、100mgの微粉化された組織を水で3回洗浄した。その後、洗浄された材料を凍結乾燥して重量測定をおこなった。微粉化されたブタ真皮は、約50%の抗凍結剤と、約50%の無細胞組織基質(ATM)とからなることがわかった。
【0108】
酢酸中におけるATMの膨張
再生組織基質(ATM)の膨張に有用な酢酸濃度を実験的に決定した。26mgのATMを含む、50mgの微粉化されたブタ真皮を水で3回洗浄し、その後、表1に示される濃度の酢酸5mL中において懸濁させた。ATMサンプルを時々攪拌しながら室温に置いて3時間定温放置した。膨張したATM微粒子は静置され、膨張したATMによって占められる体積を記録し;その後、サンプルを低速遠心分離し、ATMペレットの固まった体積を記録した。重力又は遠心分離で評価したように(表1)、100mM酢酸(約pH2.6)がATMのほぼ最大限度の膨張、すなわち、膨張体積と密集体積との違いの大きさを示した。酢酸濃度が低いとき、ATMの膨張は均質ではなく、巨大な粒子を含む不均質な懸濁液が得られた。ATM濃度を0.5%ATM(w/v)より高める試みは、塩(10mM塩化ナトリウム)又はpHを高める(>3.0)ことのいずれによっても消散しない多数の粒子を含む不均質な懸濁液を形成する結果となった。
【0109】
【表1】

【0110】
酸膨張したATM中のコラーゲン繊維の完全性をトランスミッション電子顕微鏡検査(TEM)によって評価した。微粉化されたヒト真皮のサンプル(Cymetra(商標))を、50、100、250又は500mM酢酸で再水和した。9%の生理食塩水中で洗浄することによって酸を除去し、トランスミッション電子顕微鏡検査用のサンプルを調製した。コラーゲンの周期性はバンド模様又は繊維サイズにおいて明らかな差がないと分析されたすべてのサンプルに由来する個々のコラーゲン繊維において観察された。コラーゲン繊維の分離の増加は、Cymetra(商標)を再水和するために使用された酢酸の濃度に比例しているようであった。
【0111】
実施例2:フィルムコーティングされたポリプロピレンメッシュ及びスポンジコーティングされたポリプロピレンメッシュの調製及び比較
フィルムコーティングされたメッシュ及びスポンジコーティングされたメッシュの調製における第一のステップは同じであった。要約すると、ATMは、酸の中で膨張させられ、ポリプロピレンメッシュ表面に注がれた。コーティングされたメッシュを窒素/空気雰囲気中で乾燥することにより、均質にコーティングされた、厚さ約0.5mmのメッシュであって、セロハンに似たものが得られた。この材料は、「フィルムコーティングされたメッシュ」と称される。その一方、コーティングされたメッシュを凍結乾燥すると、粗い均質性を有する厚さ約2−3mmの材料であって、綿ボールに似たものが結果的に得られた。この材料は、「スポンジコーティングされたメッシュ」と称される。
【0112】
フィルムコーティングされたポリプロピレンメッシュの調製
ATM(ポリプロピレンメッシュ単位cm当たり2.5mgのATM)を、残存する抗凍結剤及び塩を取り除くために水中で3回洗浄し、次に、最終濃度が0.5%ATMである100mM酢酸中において室温で3時間膨張させた。ポリプロピレンメッシュ(PROLENE mesh、Ethicon Inc社製)を、約7.5cm×2.5cmの切片に切り、各切片を、それぞれ、4穴(4−well)のポリスチレン皿(Nunc、カタログ番号267061)の1つの穴(8cm×3cm)に置いた。酸膨張したATMを、メッシュ上に約5mmの深さまで注ぎ、該皿を一夜にわたって窒素雰囲気中で定温放置した。乾燥されたフィルムコーティングメッシュを皿から持ち上げ、100mM酢酸中において15分間水和し、反転し、清潔なポリスチレン容器に移動した。新たに調製された酸膨張ATMをフィルムコーティングされたメッシュの上に再び注ぎ、そして、メッシュを一夜にわたって窒素雰囲気下で乾燥させた。その後、乾燥された二重コーティングメッシュをポリスチレン容器から取り除いた。
【0113】
いくつかの例においては、ATMフィルムコーティングされたメッシュを架橋処理した。乾燥されたコーティングメッシュを、100mM 4−モルホリノエタンスルホン酸(MES)、pH5.4,20mM 1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDAC)、10mM N−ヒドロキシスルホサクシンイミド(NHS)、及び、0.5μMリジンの中で室温で3時間定温放置した。架橋されたメッシュを生理食塩水中で洗浄し、インビトロ分析又はインビボ分析前に水和された状態で保った。
【0114】
スポンジコーティングされたポリプロピレンメッシュの調製
残存する抗凍結剤及び塩を取り除くために、ATM(ポリプロピレンメッシュ単位cm当たり2.5mgのATM)を水で3回洗浄し、次に、最終濃度が5%ATMである100mM酢酸中において室温で3時間膨張させた。ポリプロピレンメッシュ(PROLENE mesh、Ethicon Inc社製)を、約7.5cm×2.5cmの切片に切り、各切片を、それぞれ、4穴(4−well)のポリスチレン皿(Nunc、カタログ番号267061)の1つの穴(8cm×3cm)に置いた。酸膨張したATMを、メッシュ上に(メッシュ単位cm当たり2.5mgのATM)約5mmの深さまで注いだ。酸膨張したATMをメッシュ上に注ぎ、メッシュを凍結乾燥した。その後、乾燥されたスポンジコーティングポリプロピレンメッシュをポリスチレン容器から取り除いた。いくつかの例において、ATMスポンジコーティングされたメッシュを架橋処理した。乾燥されたコーティングメッシュを、100mM 4−モルホリノエタンスルホン酸(MES)、pH5.4,20mM 1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDAC)、10mM N−ヒドロキシスルホサクシンイミド(NHS)、及び、0.5μMリジンの中で室温で3時間定温放置した。架橋されたメッシュを、生理食塩水中で洗浄し、インビトロ分析又はインビボ分析前に水和された状態で保った。
【0115】
乾燥されたとき、酸膨張したATMは、均質なフィルム及びスポンジを形成した。生理的緩衝剤で再水和されたとき、フィルム及びスポンジは傷がないままであり、原形を維持した。酸処理をせずに乾燥された微粉化組織は、水和されたときに原形を維持しなかった。生体力学に、フィルムは、スポンジに比べてより強固であった(接触試験及び定量化可能な試験の両方)。
【0116】
フィルム及びスポンジの引張り強度
ポリプロピレンメッシュをサンプルから省略したのを除き、上述の方法とまったく同様にフィルム及びスポンジを調製した。フィルム及びスポンジを再水和し、それらの引張強度を、製造社の仕様書に従ってInstron5865試験機(Instron社、ノーウッド、マサチューセッツ)を用いて評価した。この試験の結果は、表2下部に示されている。これらの値は、2の独立したサンプルの平均最大応力を表す。架橋されたフィルムは、最も大きい全体強度を有し、通常の凍結乾燥されたATM(Xenoderm(商標))によって許容された最大応力よりも約20−25%多く許容した。
【0117】
【表2】

【0118】
フィルム及びスポンジの細胞外基質変性温度
酸膨張したATMが生理的条件下で安定した状態を維持する能力を、例えば細胞外基質の変性温度及び酸膨張したATMのコラゲナーゼ感受性を測定することを含むインビトロ的方法によって評価した。細胞外基質の変性温度を示差走査熱量測定(DSC)により評価した。水和されたサンプルを大体積DSC受け皿に置いて密封し、2.5℃/分から95℃の傾斜を有し、2℃の均衡温度を有するDSC Q100(TA Instruments)の中にいれた。ポリプロピレンメッシュをサンプルから省略したことを除き、フィルム及びスポンジを上述の方法とまったく同様に調製した。表3に示されるように、架橋によってコラーゲン基質を変性させるために必要とされる温度が上昇するようであった。その一方で、非架橋フィルム及びスポンジの変性温度がそれらの由来する微粉化されたブタ真皮よりもわずかに低かったことは、フィルム及びスポンジ中のコラーゲンの全体構造的機構が天然コラーゲンのものと類似していたことを示している。さらに、フィルム及びスポンジの変性温度が一般哺乳類の体温である37℃より高かったことは、フィルム及びスポンジが生理的温度において安定であろうことを示している。
【0119】
【表3】

【0120】
フィルムコーティングされたポリプロピレンメッシュ、及び、スポンジコーティングされたポリプロピレンメッシュの組織学的分析
フィルムコーティングされたポリプロピレンメッシュサンプル、及び、スポンジコーティングされたポリプロピレンメッシュサンプルを上述されたように調製し、次に、切断し、ヘモトキシリン及びエオシン(H&E)によって染色した。フィルムコーティングされたメッシュサンプルにおいては、濃い好酸性材料が該ポリプロピレンメッシュを包囲していたが、対照的に、スポンジコーティングされたメッシュサンプルにおいては、好酸性物質の緩いネットワークが該ポリプロピレンメッシュを包囲していた。メッシュのパラフィン埋め込みに起因する組織学的人工物が存在していたが、真皮基質において一般にみられるコラーゲン束が、フィルムコーティングされたポリプロピレンメッシュサンプル又はスポンジコーティングされたポリプロピレンメッシュサンプルのいずれにおいても観察されなかったことは、切断前にプラスチックに埋め込む必要があることを示している。
【0121】
実施例3:フィルムコーティングされたポリプロピレンメッシュ、及び、スポンジコーティングされたポリプロピレンメッシュの生体適合性
フィルムコーティングされたポリプロピレンメッシュ、及び、スポンジコーティングされたポリプロピレンメッシュの生体適合性を、免疫適格性ラットモデルを用いたインビボにおける経時的実験によって評価した。実施例2に記載されているように、架橋を有するか又は有しないように調製された、フィルムコーティングされたメッシュ及びスポンジコーティングされたメッシュを皮下に移植し、移植後1、3及び5週において分析のために除去した。対照試料には、コーティングされていないポリプロピレンメッシュ及びシート状Xenoderm(商標)が含まれる。各試験片の3つの複製物をそれぞれの時点において移植した。移植片を動物の背面に作成された小さい皮下ポケット(ラット1個体当たり4つ)に挿入した。試験片の挿入に続いて、外科用ステープルを用いて外傷を閉じた。
【0122】
注入された細胞外基質の細胞再生、血管新生、炎症及び残留性を評価するために、外植片の質的組織学的分析をおこなった。細胞再生及び血管新生を、ヘマトキシリン及びエオシン組織切片の評価により分析し;炎症を、濃く丸い染色された核の存在によって証明し;細胞外基質の残留性を、細胞質及び細胞外基質タンパクの一様にピンクがかった好酸性の染色の特性によって証明した。
【0123】
コーティングされていない対照ポリプロピレンメッシュサンプルにおいては、移植後1週に濃い炎症性線維化反応がみられ、該反応が移植後3及び5週にわずかだけ減少したことが組織学的分析によって示された。上述されるように、ポリプロピレンメッシュ成分を欠いた陽性対照であるシート状XenoDerm(商標)は、5週の時間経過に伴った再生の増加とともに、移植部位において比較的小さい炎症反応を示した。スポンジコーティングされたポリプロピレンメッシュ及び架橋スポンジコーティングされたポリプロピレンメッシュの両方は、壊れやすく、移植処理中に崩壊する傾向があった。架橋スポンジサンプルにおいては細胞外基質の狭い領域が移植5週後においもまだ存在していたが、非架橋及び架橋スポンジサンプルのいずれにおいても、コーティングされていないポリプロピレンメッシュ対照試料について観察されたのと似た炎症反応がみられた。軽度炎症は、フィルムコーティングされたポリプロピレンメッシュ及び架橋フィルムコーティングされたポリプロピレンメッシュのサンプルのいずれについてもみられた。しかしながら、フィルムコーティングされたポリプロピレンメッシュについては、5週の時間経過を通して、細胞再生のみならず、細胞外基質の残留性も認められたが、その一方で、フィルムコーティングされた架橋ポリプロピレンメッシュサンプルについては、細胞再生に関する証拠は認められなかった。したがって、フィルムコーティングされたメッシュの調製品は、ATMの残留性、比較的低いレベルの炎症、及び、再生及び血管再生の能力に基づき、最高程度の生体適合性を示した。
【0124】
実施例4:熱乾燥方法を用いたポリプロピレンメッシュ及び真皮フィルムの調製
実施例7、10及び11で用いられるフィルムコーティングされたポリプロピレンメッシュ、及び、実施例5、6、7、8及び9で用いられる真皮フィルムを下記のように調製した。
フィルムコーティングされたポリプロピレンメッシュの調製
凍結乾燥されたシート状XenoDerm(商標)を上述の方法に従って微粉化した。ATMを、残存する抗凍結剤及び塩を取り除くために水中で洗浄し、次に、最終濃度が0.5%ATMである100mM酢酸中において3時間膨張させた。膨張温度を以下の具体例において詳細に説明されるように32−40℃で変化させた。酸膨張したATMをポリスチレン皿に注入し、該ポリプロピレンメッシュ(7.5cm×2.5cmの断片)を約1cmの深さまでATM溶液中に沈め;ポリプロピレンメッシュ単位cm当たり0.75mgの酸膨張したATMを使用した。ポリプロピレンメッシュを一度だけコーティングした。サンプルを、実施例7、10及び11において以下に示されるように乾燥した。
【0125】
真皮フィルムの調製
ポリプロピレンメッシュが含まれない真皮フィルムを以下のように調製した。凍結乾燥されたシート状XenoDerm(商標)を上述の方法に従って微粉化した。残存する抗凍結剤及び塩を取り除くためにATMを水中で洗浄し、その後、最終濃度が0.5%ATMである100mM酢酸中においてATMを3時間膨張させた。以下の具体例で詳しく述べられるように膨張温度を32−40℃で変化させた。ポリスチレン皿に約0.5cmの深さまで酸膨張したATM溶液を注ぎ;ポリスチレン皿の単位cm当たり0.75mgの酸膨張ATMを使用した。実施例5、6、8及び9で以下に示されるようにサンプルを乾燥した。
【0126】
実施例5:真皮フィルムの細胞外基質変性温度
上記実施例4で説明されるように周辺温度で膨張させたATMを用いて真皮フィルムを調製し;該フィルムを窒素雰囲気中で、室温又は33℃、37℃若しくは43℃において加熱ブロック上で乾燥した。実施例3で上述の架橋方法を用いて調製されたフィルムを陽性対照として加えた。得られた材料の細胞外基質の変性特性を示差走査熱量測定(DSC)で評価した。表5に示されるように、33℃及び37℃で乾燥されたフィルムの変性温度は、室温で乾燥された対照フィルムと同様であったが、その一方で、43℃で乾燥されたフィルムの変性温度は、対照フィルムに比例して低かった。架橋により、コラーゲン基質を変性させるために必要とされる温度が上昇するようであった。これらのデータは、フィルムの変性温度が標準哺乳類の体温である37℃より高かったことから、フィルムが生理的温度において安定であろうことを示唆した。
【0127】
【表5】

【0128】
実施例6:真皮フィルムのコラゲナーゼ感受性
真皮フィルムのコラゲナーゼ感受性を測定することによって、ATMコーティングが生理的条件下で持続する能力を評価した。ATMコーティングは、好ましくは、正常なコラーゲンの代謝回転を許容するのに充分な天然コラーゲン構造を維持しながら、基質の細胞再生を可能にするほど充分に長く持続すべきである。真皮フィルムを、実施例4で上述されるように窒素雰囲気中において室温又は33℃、37℃若しくは43℃で加熱ブロック上で乾燥されたATMを用いて調製した。実施例3で上述された架橋方法を用いて調製したフィルムを陽性対照として加えた。サンプルをコラゲナーゼによって消化し、消化されてないサンプルに対する各サンプル中に残存するコラーゲンの百分率をコラゲナーゼ処理後1、2、4、6及び24時間において分析した。コラゲナーゼ消化のために、15−20mgの乾燥フィルムをエッペンドルフチューブの中に置いた。各サンプルを、1mlの10mM Tris、pH7.4,5mM CaCl中において水和し、その後に、0.25mgのコラゲナーゼ(10mg/ml溶液の25μl)を添加し、37℃において定温放置した。サンプルを、表示された時点で氷の中において冷却し、非溶解性(消化されていない)材料を遠心分離によって回収した。その後、残存する組織の百分率を決定するために、ペレットを乾燥し、重量測定した。表6に示されるように、架橋フィルムはコラゲナーゼ消化に対してほぼ完全な抵抗性を有していた。高い温度で乾燥されたフィルムは、室温で乾燥されたものよりもコラゲナーゼに対してわずかに影響されやすいようであった。あるサンプルにける、後ろのいくつかの時点における材料の見かけの増加は、小さいサンプル量の残存水分含量における変動性を反映している。これらのデータは、真皮フィルム中のコラーゲンがコラゲナーゼに対して接近可能であり、不可逆的に変性されなかったことを示しており、ATMコーティングされたメッシュの中でコラーゲン原線維が通常の生理的なコラーゲン回転代謝を受けるであろうことを示唆している。
【0129】
【表6】

【0130】
実施例7:コーティングされたメッシュの生体適合性:皮下免疫適格性ラットモデルにおける評価
コーティングされたメッシュサンプルの生体適合性に対する調製温度の影響を、皮下免疫適格性ラットモデルにおいて評価した。要約すると、ATMの膨張温度及びコーティングされたメッシュの乾燥温度を下の表7に示される条件に従って体系的に変化させた。コーティングされたメッシュサンプルを移植し、そして、移植片を移植後1、3及び5週の間隔で除去し、組織学的に評価した。
【0131】
実験群をAからFに指定し、以下の条件に供した。サンプルB−Fを、該当する膨張ATM断片の懸濁液中に沈め、次に、以下のように処理した。0.1M酢酸中において室温で膨張したATMからサンプルC及びDを調製した。コーティング後に、サンプルCを37℃で乾燥し、サンプルDを40℃で乾燥した。0.1M酢酸中において37℃で膨張したATMからサンプルEを調製した。0.1M酢酸中において40℃で膨張したATMからサンプルFを調製された。サンプルE及びFの両方を室温で乾燥した。サンプルBは、0.1M酢酸中において室温で膨張したATMから調製され、室温でコーティングされ、次に、室温で乾燥された。サンプルA(コーティングに関する要素についての一般対照)はコーティングされていないポリプロピレンメッシュであった。すべてのサンプルを窒素雰囲気中で乾燥した。
【0132】
【表7】

【0133】
移植後1、3及び5週に外植片を除去し、実施例2で上述されたのと同様の評価基準を用いて残留性、細胞再生、血管新生及び炎症の証拠について組織学的に分析した。組織学的分析により、すべてのコーティングされた材料が移植期間である全5週間にわたって損傷されていない状態のままであったことが示された。すべてのコーティングされた材料が再生及び血管再生された。コーティングされたメッシュサンプル(サンプルB−F)によって引き起こされた炎症反応のレベルは、コーティングされていないメッシュ(サンプルA)によって引き起こされたものと比べて比較的低いようであった。すべてのコーティングされたメッシュサンプルについて、軽度から中等度の炎症のみがみられた。この実験は、コーティングされたメッシュの生力学的な強度の増加をもたらしたATMの穏やかな熱処理が、結果物であるコーティングされたメッシュサンプルのインビボの活性に影響しなかったことを裏付けた。
【0134】
実施例8:真皮フィルムの生化学的分析
真皮フィルムの生化学的組成に対する調製温度の影響を評価した。要約すると、実施例5で説明されるように、0.1M酢酸中において室温、32℃、37℃又は40℃のいずれかでATMを膨張させ;フィルムを室温で乾燥して真皮フィルムを調製した。結果物である真皮フィルムの生化学的組成を微粉化されたATMの生化学的組成と比較した。
【0135】
コラーゲン分析
真皮フィルムのコラーゲン含有量を、ヒドロキシプロリン分析により量的に、また、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動により質的に分析した。ヒドロキシプロリン分析において、真皮フィルムを、塩、0.5M酢酸及びペプシン消化で連続して処理し、そして、それぞれの溶解性画分についてヒドロキシプロリン含有量を分析した。6N塩酸中の110℃における24時間の加水分解に続き、塩、酸及びペプシン画分のヒドロキシプロリン含有量を決定した。加水分解されたサンプルを最終濃度が0.1N HClとなるように蒸留水で希釈した。その後、試験緩衝液(45.6g/l酢酸ナトリウム三水和物、30g/lクエン酸3ナトリウム2水和物、4.4g/lクエン酸、308.4ml/lイソプロパノール及び1.4%のクロラミンT)を、追加イソプロパノール及びエールリッヒ試薬(60%(v/v)過塩素酸中の2gパラジメチルアミンベンズアルデヒド、イソプロパノール、3:13)と共に加えた。サンプルを60℃で25分間加熱し、冷却し、そして、540nmにおける吸光度が決定した。試験サンプルの吸収度と、ヒドロキシプロリンの既知濃度を用いた標準曲線の吸収度とを比べることによって、ヒドロキシプロリンを定量した。抽出された画分のヒドロキシプロリン含有量を表8に示す。回収された全ヒドロキシプロリンの百分率としてヒドロキシプロリンを表す。
【0136】
【表8】

【0137】
表8に示されるデータは、相対的ヒドロキシプロリン分散に基づき、すべての真皮フィルムサンプルにおいて、微粉化ATMでみられたのに比較して、塩抽出可能なコラーゲンのレベルが増加し、また、酸抽出可能コラーゲンのレベルが低下したことを示す。ペプシン可溶性コラーゲンについては、顕著な変化が認められなかった。大部分のペプシン溶解性画分中のコラーゲン分散は、フィルムを作成するのに使用された工程中に著しく変化しなかったことがこれらのデータにより示された。フィルムを作成するために用いられた酸処理は、コラーゲンの分散を酸抽出可能な画分から塩抽出可能な画分に移行させたようであった。
【0138】
真皮フィルムサンプルから得られたペプシン可溶性コラーゲンをSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)によって分析した。標準方法に従ってSDS−PAGEをおこなった。精製されたコラーゲンタイプI、精製されたコラーゲンタイプIII、及び、室温、32℃、37℃又は40℃のいずれかにおいて0.1M酢酸中で膨張させたATMを用いて調製された真皮フィルムに由来するペプシン可溶性コラーゲンのサンプルを比較した。微粉化されたATMと任意の真皮フィルムサンプルと間において、例えばコラーゲン架橋又は分解による差異のようなコラーゲン特性における質的差異は認められなかった。微粉化されたATM及び真皮フィルムのサンプルは主としてタイプI及びタイプIIIコラーゲンで構成されていた。
【0139】
プロテオグリカン(デコリン)分析
プロテオグリカンを、出発材料である微粉化されたATMから、及び、0.1M酢酸中で室温、32℃又は37℃のいずれかにおいて膨張したATMを用いて調製された真皮フィルムから抽出した。プロテオグリカンを、SDS−PAGEによって分離し、免疫ブロット法のために膜に移した。標準方法に従って免疫ブロット法を実行した。デコリン特有のポリクローナル抗体を用いて膜を調べた。すべてのサンプルにおいて同程度のデコリンが検出可能であった。分解又は架橋の証拠は全くみられなかった。
【0140】
グルコサミノグリカン分析
グルコサミノグリカンを、出発物質である微粉化されたATMから、及び、0.1M酢酸中で室温、32℃、37℃又は40℃のいずれかにおいて膨張しATMを用いて調製された真皮フィルムから抽出した。標準方法に従ったセルロースアセテート膜電気泳動によりグルコサミノグリカンを分離した。ヒアルロン酸及びコンドロイチン硫酸グルコサミノグリカンは、すべてのサンプルにおいて検出可能であり、また、グルコサミノグリカン特性のいかなる質的な差異も認められなかった。
【0141】
実施例9:真皮のフィルムの生体力学解析
真皮フィルムの生体力学特性に対する調製温度の影響を評価した。要約すると、真皮フィルムを、室温、32℃、37℃又は40℃のいずれかにおいて0.1M酢酸中で膨張したATMを用いて調製し、実施例5において説明されたように窒素雰囲気中で乾燥し、そして、該真皮フィルムの1cmの切片をInstron5865試験機(Instron社、ノーウッド、マサチューセッツ)を用いた引張試験に供した。表9に示されるデータは、高温において膨張したATMを用いて調製されたフィルムが室温において膨張したATMを用いて調製されたフィルムに比べてより強い引張強度を有していたことを示す。生体力学特性の最大値のために最適な温度は約37℃であった。したがって、例えば、室温において膨張したメッシュを用いて調製されたフィルムに対する最大応力は0.017±0.007MPaであった。37℃において膨張したメッシュを用いて調製されたフィルムについての対応値は、0.123±0.009MPaであった。室温において膨張したメッシュを用いて調製されたフィルムのヤング率は9.25±.096MPaであった。37℃において膨張したメッシュを用いて調製されたフィルムについての対応値は46.0±3.00MPaであった。室温において膨張したメッシュを用いて調製されたフィルムに対する最大負荷は0.056±0.002Nであった。37℃において膨張したメッシュを用いて調製されたフィルムについての対応値は0.0.337±0.024Nであった。室温において膨張したメッシュを用いて調製されたフィルムの歪み率は21.1±1.0%であった。37℃において膨張したメッシュを用いて調製されたフィルムについての対応値は49.3±3.5%であった。
【0142】
【表9】

【0143】
実施例10:ラットヘルニアモデル系におけるコーティングされたメッシュのインビボ分析
コーティングされたメッシュの生物体適合性は臨床的に意義のあるラットヘルニアモデル系においても評価した。全層切除欠損部(約1.5cm×2.5cm)をラットの腹側壁の筋膜に作成した。欠損部は、5cm×3cmの楕円形の試験片(ポリプロピレン又は混合物)メッシュを下層部位に置き、傷の端において縫合でメッシュを固定することにより修復された。実施例5に記載された方法に実質的に従って、フィルムコーティングされたメッシュを調製した。ATMを、37℃において膨張させ、ポリスチレン皿に注入した。メッシュを0.5cmの深さまでATM溶液中に沈め;ポリプロピレンメッシュ単位cm当たり0.75mgのATMを使用した。これらの実験において、大きいメッシュ(約11cm×18cm)を上述されるようにコーティングし、周辺温度で乾燥し、移植前に小さい(3cm×5cm)楕円形に切断した。サンプルは架橋されなかった。
【0144】
ラットの腹部に切除欠損部(約1.5cm×2.5cm)を作成し、ポリプロピレンメッシュ又は混合ヘルニアメッシュのいずれかを用い、無張力下敷技術(tension free underlay technique)を用いて修復した。はさみを用いて筋膜組織の楕円形片を取り除くことによって該欠損部を作成した。メッシュ試験片を欠損部に挿入し、均等に間隔が設けられた6つの縫合を用いて傷の端で留めた。この研究において16頭のラットを使用し、そのうち、8頭のラットにポリプロピレン移植片を入れ、残りの8頭のラットに混合メッシュ移植片を入れた。各グループにおける5頭のラットを移植4週後に、残り3頭のラットを移植8週後に分析した。分析のために、外植片を回収し、肉眼的評価及び組織学的評価の両方をおこなった。それぞれのサンプルの出所について知らされていない調査者が表面領域の被覆パーセントを評価した。ポリプロピレン外植片の検査において広範な大網癒着(約65%表面領域の関与)がみられ;コーティングされたメッシュ外植片により生じた大網癒着は表面領域の約18%のみを巻き込んでいた。さらに、内蔵(肝臓及び腸)の癒着は、ポリプロピレンメッシュで修復された2頭の動物においてみられ、混合メッシュで修復された動物には存在しなかった。細胞再生、血管再生、最小限の炎症及び移植片残留性を含む再生反応の指標は、混合メッシュサンプルの組織学的分析において移植4週後に観察された。すべてのコーティングされた試験片(活動性感染症を含む2個のサンプルを除く)は、線維芽細胞様細胞と一体となった再生、血管再生、最小限の炎症、及び、生物学的コーティングの残留性により特徴付けられ、対称的に、ポリプロピレン試験片は、移植されたメッシュ試験片に対する攻撃的な異物応答と矛盾しない、ポリプロピレン繊維周辺におけるより重大な細胞応答と関連していた。
【0145】
実施例11:ヨークシャーブタから得られたATMを用いたフィルムコーティングされたメッシュの調製
真皮組織がヨークシャーブタから得られたことを除き、実施例1で記載された方法に従ってATMを調製した。ATMを微粉化し、その後、可溶性抗凍結剤を除去するために水で洗浄した。100mM酢酸に代えて40mM HCl(pH1.4)の中でおこなわれたことを除き、実施例1の方法に従って、微粉化されたATMを37℃で3時間膨張させた。実施例2に記載されるようにポリプロピレンメッシュをコーティングし、室温で乾燥した。
【0146】
実施例8に記載されているようにラットヘルニアモデル系において、コーティングされたメッシュの生物体適合性を評価した。細胞再生、血管再生、最小限の炎症を含む再生反応の指標は、移植後4週における混合メッシュサンプルの組織学的分析においてみられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体適合性メッシュ構成体を生産する方法において、当該方法は:
a)多数の無細胞組織基質(ATM)の断片を酸性溶液中で定温放置して膨張させたATM断片の均質な懸濁液を作成するステップであって、前記酸性溶液がpH3.0未満であり、ATM中のコラーゲン原線維の不可逆的変性が実質的に生じないステップと;
b)前記均質な懸濁液を生体適合性メッシュ基材に塗布してコーティングされたメッシュ基材を作成するステップと;及び、
c)前記コーティングされた基材を乾燥してメッシュ構成体を形成するステップと;
を具えることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、ステップ(a)と(b)とが同時におこなわれることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の方法において、前記ATMは、すべて又は実質的にすべての生存細胞が除去された真皮を具えることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1−3のいずれかに記載の方法において、
前記無細胞組織基質(ATM)は、すべて又は実質的にすべての生存細胞が除去された組織を具え、
当該組織は、筋膜、心嚢組織、硬膜、臍帯組織、胎盤組織、心臓の弁組織、靭帯組織、腱組織、動脈組織、静脈組織、神経結合組織、膀胱組織、尿管組織、及び、腸組織からなる群より選択されることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1−4のいずれかに記載の方法において、前記無細胞組織基質(ATM)がヒト組織から作成されることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1−4のいずれかに記載の方法において、前記無細胞組織基質(ATM)が非ヒト哺乳類の組織から作成されることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法において、前記非ヒト哺乳類がブタであることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載の方法において、前記非ヒト哺乳類が、α−1,3−ガラクトシル残基が発現しないように遺伝子操作されていることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項6−8のいずれかに記載の方法において、前記非ヒト哺乳類が機能性α−1,3−ガラクトシル転移酵素の遺伝子を欠損することを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1−9のいずれかに記載の方法において、前記ATMの断片がATMの微粒子であることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1−10のいずれかに記載の方法において、前記pHが約3.0より低いことを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1−11のいずれかに記載の方法において、前記pHが約1.0〜約3.0であることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項1−12のいずれかに記載の方法において、前記pHが約2.0〜約3.0であることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項1−12のいずれかに記載の方法において、前記pHが約1.5〜約2.5であることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項1−12のいずれかに記載の方法において、前記pHが約1.4であることを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項1−15のいずれかに記載の方法において、前記酸性溶液が酢酸、アスコルビン酸、ホウ酸、炭酸、クエン酸、塩酸、乳酸、タンニン酸、リン酸、及び、硫酸からなる群より選択される酸を含む溶液であることを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項1−16のいずれかに記載の方法において、前記酸性溶液が0.1M酢酸を含むことを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項1−16のいずれかに記載の方法において、前記酸性溶液が0.04M酢酸を含むことを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項1−18のいずれかに記載の方法において、前記定温放置ステップが約0.5時間〜約12時間であることを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項1−19のいずれかに記載の方法において、前記定温放置ステップが約1.0時間〜約10.0時間であることを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項1−20のいずれかに記載の方法において、前記定温放置ステップが約2.0時間〜約6時間であることを特徴とする方法。
【請求項22】
請求項1−21のいずれかに記載の方法において、前記定温放置ステップが約2.5時間〜約5時間であることを特徴とする方法。
【請求項23】
請求項1−22のいずれかに記載の方法において、前記定温放置ステップが約3時間であることを特徴とする方法。
【請求項24】
請求項1−23のいずれかに記載の方法において、前記定温放置ステップ、前記乾燥ステップ、又は、前記定温放置及び乾燥ステップは、約20℃〜約42℃の温度でおこなわれることを特徴とする方法。
【請求項25】
請求項1−24のいずれかに記載の方法において、前記定温放置ステップ、前記乾燥ステップ、又は、前記定温放置及び乾燥ステップは、約20℃〜約30℃の温度でおこなわれることを特徴とする方法。
【請求項26】
請求項1−24のいずれかに記載の方法において、前記定温放置ステップ、前記乾燥ステップ、又は、前記定温放置及び乾燥ステップは、約25℃〜約35℃の温度でおこなわれることを特徴とする方法。
【請求項27】
請求項1−24のいずれかに記載の方法において、前記定温放置ステップ、前記乾燥ステップ、又は、前記定温放置及び乾燥ステップは、約30℃〜約40℃の温度でおこなわれることを特徴とする方法。
【請求項28】
請求項1−24又は27のいずれかに記載の方法において、前記定温放置ステップ、前記乾燥ステップ、又は、前記定温放置及び乾燥ステップは、約35℃〜約38℃の温度でおこなわれることを特徴とする方法。
【請求項29】
請求項1−24のいずれかに記載の方法において、前記定温放置ステップ、前記乾燥ステップ、又は、前記定温放置及び乾燥ステップは、約37℃〜約42℃の温度でおこなわれることを特徴とする方法。
【請求項30】
請求項1−24又は27−29のいずれかに記載の方法において、前記定温放置ステップ、前記乾燥ステップ、又は、前記定温放置及び乾燥ステップは、約37℃の温度でおこなわれることを特徴とする方法。
【請求項31】
請求項1−24又は26のいずれかに記載の方法において、前記定温放置ステップ、前記乾燥ステップ、又は、前記定温放置及び乾燥ステップは、約25℃の温度でおこなわれることを特徴とする方法。
【請求項32】
請求項1−31のいずれかに記載の方法において、前記メッシュ基材が実質的に非吸収性であることを特徴とする方法。
【請求項33】
請求項1−31のいずれかに記載の方法において、前記メッシュ基材が吸収性であることを特徴とする方法。
【請求項34】
請求項33に記載の方法において、前記メッシュ基材が重合体であることを特徴とする方法。
【請求項35】
請求項33に記載の方法において、前記非吸収性のメッシュ基材がポリヒドロキシアルカノエート、ポリグリコール酸、ポリ−1−乳酸、ポリ乳酸/ポリグリコール酸(PLGA)、ポリグラクチン 910、及び、カルボキシメチルセルロースからなる群より選択される重合体であることを特徴とする方法。
【請求項36】
請求項34に記載の方法において、前記重合体がポリ−4−ヒドロキシブチレートを含むことを特徴とする方法。
【請求項37】
請求項1−36のいずれかに記載の方法において、前記メッシュ基材が合成基材であることを特徴とする方法。
【請求項38】
請求項1−32又は37のいずれかに記載の方法において、前記合成基材がポリプロピレンを含むことを特徴とする方法。
【請求項39】
請求項1−38のいずれかに記載の方法において、前記乾燥ステップが窒素雰囲気中における乾燥ステップを具えることを特徴とする方法。
【請求項40】
請求項1−38のいずれかに記載の方法において、前記乾燥ステップが凍結乾燥ステップを具えることを特徴とする方法。
【請求項41】
請求項1−40のいずれかに記載の方法で生産されることを特徴とする生体適合性メッシュ構成体。
【請求項42】
生体適合性メッシュ構成体が:
コーティングされたメッシュ基材であって、当該メッシュ基材上のコーティングが乾燥されたATM懸濁液を含むメッシュ基材を具えることを特徴とする生体適合性メッシュ構成体。
【請求項43】
請求項42に記載の構成体において、前記ATM懸濁液は酸性溶液中で膨張した多数の無細胞組織基質(ATM)断片を具え、前記酸性溶液は、pH3.0未満であり、ATM中のコラーゲン原線維の不可逆的変性が実質的に生じず、前記ATM断片は約30℃〜約42℃の温度で定温放置されることを特徴とする生体適合性メッシュ構成体。
【請求項44】
器官又は組織を改善又は修復する方法であって、当該方法は:
a)対象哺乳類が改善又は修復を必要とする器官又は組織を有していると認識するステップ;及び、
b)請求項42又は請求項43に記載の構成体を前記器官又は組織の内部又は表面に設置するステップ;
を具えることを特徴とする方法。
【請求項45】
請求項44に記載の方法において、前記対象哺乳類がヒトであることを特徴とする方法。
【請求項46】
請求項44又は請求項45に記載の方法において、レシピエント器官又はレシピエント組織が腹壁組織、腹筋、及び、平滑筋組織からなる群より選択されることを特徴とする方法。
【請求項47】
請求項44−46のいずれかに記載の方法において、前記対象は、鼡径ヘルニア、大腿ヘルニア、腹壁ヘルニア、腹部ヘルニア、切開創ヘルニア、裂孔ヘルニア、横隔膜ヘルニア、臍ヘルニア、胸部における筋膜衰弱、腹壁における筋膜衰弱、及び、骨盤内器官脱出症からなる群より選択される要修復欠損を有することを特徴とする方法。
【請求項48】
製品であって、当該製品は:
a)請求項42又は請求項43に記載の生体適合性メッシュ構成体;及び、
b)包装材料、又は、器官若しくは組織を改善若しくは修復する方法のための使用説明書を含む添付文書、を具え、
当該方法が:
i)対象哺乳類が改善又は修復を必要とする器官又は組織を有していると認識するステップ;及び、
ii)前記生体適合性メッシュ構成体を前記器官又は組織の内部又は表面に設置するステップ;を具える、
ことを特徴とする製品。
【請求項49】
生体適合性真皮フィルム構成体を生産する方法であって、当該方法は:
a)多数の無細胞組織基質(ATM)の断片を酸性溶液中において膨張させて均質な懸濁液を得るステップであって、前記酸性溶液がpH3.0未満であり、ATM中のコラーゲン線維の不可逆的変性が実質的に生じないステップと;
b)前記ATMの均質な懸濁液を約20℃〜約42℃で定温放置するステップと;及び、
c)前記均質な懸濁液を乾燥させて真皮フィルム構成体を形成するステップと;
を具えることを特徴とする方法。

【公表番号】特表2010−533042(P2010−533042A)
【公表日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−516232(P2010−516232)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【国際出願番号】PCT/US2008/069563
【国際公開番号】WO2009/009620
【国際公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(504154148)ライフセル コーポレーション (13)
【氏名又は名称原語表記】LifeCell Corporation
【Fターム(参考)】