説明

組織拡張器

本発明は、医療、獣医学、および歯科用途に用いられる組織拡張器に関する。この組織拡張器は、自己膨張性ポリマーネットワーク、および非分解状態と分解状態とを有し、非分解状態では自己膨張性ポリマーネットワークの膨張を抑制し、分解状態では自己膨張性ポリマーネットワークの膨張を可能とする生分解性ポリマーを含む。好ましい実施形態では、自己膨張性ポリマーネットワークおよび生分解性ポリマーは、相互侵入ポリマーネットワークまたはセミ相互侵入ポリマーネットワークを形成する。別の選択肢として、または追加として、自己膨張性ポリマーネットワークは、コアを形成し、生分解性ポリマーは、コアを部分的もしくは完全に取り囲むコーティングを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織拡張器に関し、特に、医療、獣医学、および歯科用途に用いられる組織拡張器に関する。
【背景技術】
【0002】
組織拡張器は、外科学上の好奇心から生まれたものであり、先天性異常および後天性組織欠損の治療を例とする再建形成手術において、有用で十分に確立された技術となっている。
【0003】
従来の組織拡張器は、シリコーンバルーンを主体とするものであり、これは、必要とされる領域に導入された後、注入口からの生理食塩水溶液により一定の時間をかけて膨張される。このような組織拡張器はまた、異方性膨張させるように設計することもでき、例えば特許文献1を参照されたい。しかし、このようなバルーンタイプの組織拡張器の用途は限定されてきた。それは、部分的には、いくつかの解剖学的部位での使用(例:頭蓋顔面または口蓋裂の手術)の妨げとなることの多いこのデバイスの物理的な制約に関連しているが、また、定期的に経皮膨張が必要であることにも起因しており、これは、特に小児科の場合に、患者が許容することが難しいものであり得る。
【0004】
このような問題点に対処するために、自己膨張式組織拡張器、すなわち移植後はまったく介入の必要なく膨張が行われる組織拡張器が提案されている。最初、このような拡張器は、高浸透圧性塩化ナトリウム溶液を含有する半透膜シェルを主体とする、あまり洗練されたものではなかった。患者の内部へ移植されると、浸透圧に推進されるデバイスの膨潤が起こり、同時に組織が拡張される。しかし、拡張の速度および度合い、ならびにデバイス破裂時の壊滅的な軟組織壊死という固有のリスクの両方において欠点を有していた。
【0005】
この問題に対処するために、ヒドロゲル(水を分散媒とするゲル)が、組織拡張器での使用について研究されてきた。例えば、特許文献2には、先天性無眼球症の治療用に提案される、浸透圧によって活性化されるポリマー系組織拡張器が開示されている。加えて、特許文献3には、ヒドロゲルの形態であることが好ましい圧縮コポリマー系の自己膨張式異方性デバイスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,228,116号
【特許文献2】米国特許第5,496,368号
【特許文献3】国際公開第2007/080391号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、本発明の発明者らが実施した研究から、このようなヒドロゲル系デバイスの急速な膨潤は、局所的な組織壊死を引き起こす場合があり、これは、外科切開部の治癒に支障を及ぼし得るものであり、デバイスが突出する(device extrusion)可能性もあることが示された。従って、本技術分野において、より制御された膨潤速度を有するデバイスが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従って、本発明は、自己膨張性ポリマーネットワーク、および非分解状態と分解状態を有し、非分解状態では自己膨張性ポリマーネットワークの膨張を抑制し、分解状態では自己膨張性ポリマーネットワークの膨張を可能とする生分解性ポリマーを含む組織拡張器を提供する。
【0009】
そして、本発明の組織拡張器は、ポリマーネットワークを含有し、これは、生分解性ポリマーによってのみ膨張が防止されており、それが続いてインビボにて制御された形で分解することによってポリマーネットワークの制御された膨張が可能となるものである。このことによって患者に大きな利益がもたらされるものであり、特には、組織拡張の前に創傷治癒の時間が与えられること、および/または膨張開始後の膨張速度が遅いことである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のポリマーネットワークの膨潤圧力を測定するために用いられる装置を示す。
【図2】本発明による組織拡張器としての使用に適する相互侵入ポリマーネットワークの概略図を示す。
【図3】本発明による組織拡張器としての使用に適する相互侵入ポリマーネットワークのさらなる概略図を示す。
【図4】本発明による生分解性ポリマーでコーティングした自己膨張性ポリマーネットワークを示す。
【図5】追加のシリコーン層を加えた、本発明による生分解性ポリマーでコーティングした自己膨張性ポリマーネットワークを示す。
【図6】ハルトマン液中37℃にて異なるPLGA含有量で合成した(a)SIPNゲルおよび(b)IPNゲルについての時間の関数としての膨潤率q、ならびに(c)0、90、540、および3240分で撮影したVM、VMLG−s2、およびVMLG−l2ヒドロゲルの写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、本発明を添付の図面を参照しながら説明する。
【0012】
組織拡張器は、それゆえ、自己膨張性ポリマーネットワーク、および自己膨張性ポリマーネットワークの膨張を制御された形で抑制する生分解性ポリマーを含む。本発明の自己膨張性ポリマーネットワークは、溶解することなく水を吸収する能力を有する親水性ポリマーネットワークを主体とするものである。親水特性は、1もしくは複数のポリマー上の官能基(例:ヒドロキシル、カルボキシル、またはアミド官能基)によって提供される。好ましくは、自己膨張性ポリマーネットワークは、−COOH、>C=O、−OH、または−NH基を持つ少なくとも1つのモノマーを含む。溶解に対する耐性は、構造的架橋、結晶性領域、または交絡が存在することに起因する。そのような物質は、通常、「ヒドロゲル」と称される。ヒドロゲルは2つの成分を有しており、すなわち、量が一定であるポリマーネットワーク(すなわち、ゲル)、および可変である水性成分である。無水状態では(移植前)、この物質は、通常、キセロゲルと称される。無水物質は、吸湿性であり、その局所環境から水を吸収/吸着して、ネットワークを水和させる。自己膨張性ポリマーネットワークは、その乾燥質量の何倍も膨潤することができる。通常、平衡状態において、水相は、自己膨張性ポリマーネットワークの総質量の90%もしくはそれ以上、好ましくは95%もしくはそれ以上を成す。
【0013】
自己膨張性ポリマーネットワークの膨張は、ポリマーが水性環境中へ導入された場合、すなわちインビボでは組織液からの、浸透、および系のギブズ自由エネルギーを低下させるためのポリマーと水分子との相互作用に起因する水分子のポリマーネットワークへの拡散によって推進される。自己膨張性ポリマーネットワークは、ポリマーネットワークの弾力性に起因するネットワーク鎖の復元力が、ポリマー種と溶媒との間の混合に対する推進力と釣り合うと、平衡状態へ近づく。
【0014】
等方性ポリマーネットワークへ熱および圧力を適用することによって圧縮を導入してもよい。これは、通常、一方向、または一平面に適用され、これに続く主として圧縮方向への異方性膨張が得られる。ポリマーのガラス転移点(T)の近辺またはそれより高い温度での加熱と圧力との組み合わせにより、分子鎖の再配向が引き起こされる。加熱は、ポリマーの分解温度より低い温度で行うべきであることは明らかである。ポリマーネットワーク(例:キセロゲル)の水和によって膨潤圧力が提供されて完全膨潤ポリマーネットワーク(例:ヒドロゲル)が形成され、これはインビボで発生する。自己膨張性ポリマーネットワークは、好ましくはキセロゲル/ヒドロゲルであり、すなわち、ネットワークは、インビボでの水の吸収に従ってキセロゲルからヒドロゲルへと変化する。自己膨張性ポリマーネットワークは、好ましくは、1〜50kPa/cmの膨潤圧力を発生し、より好ましくは、2〜20kPa/cmである。絶対膨潤圧力は、最大100kPaであってよい。
【0015】
自己膨張性ポリマーのインビトロでの膨潤圧力は、K.G. Wiese, Osmotically induced tissue expansion with hydrogels: a new dimension in tissue expansion? A preliminary report. Journal of Craniomaxillofacial Surgery 1993; 21 (7): 309-313、に記載の設計に従う機器を用いて測定することができる(図1参照)。図1(a)は、装置の写真を示し、図1(b)は、概略図を示す。装置は、貯油部O、貯液部F、膨張チャンバー内のポリマーP、圧縮チャンバーC、および圧力変換器Tを含む。円柱状の異方性キセロゲル(圧縮比=3、以下参照)を、オイルを充填した圧縮チャンバーからラテックスダイヤフラムによって仕切られたアルミニウム製膨張チャンバー内に密封する。次に、有孔仕切り板を介して、貯液部からのハルトマン液によって膨張チャンバーを充填した。ヒドロゲルが貯液部からの液体を吸収するに従って、その結果としての膨潤によってラテックスダイヤフラムが変形し、それによって圧縮チャンバー内に含有されるオイルが圧縮される。圧縮チャンバー内の圧力の上昇は、圧力変換器によって検出され、そこから電気的出力を、市販のデータ取得用ソフトウェアによって記録することができる。
【0016】
組織拡張器の膨張は、均一(等方性膨張)であっても、または所定の方向もしくは平面(異方性膨張)であってもよい。圧縮比を変化させて、組織拡張器の特定の特性を操作することができる。圧縮比は、未圧縮ポリマーネットワークの厚さの圧縮ネットワークに対する比率である。例えば、ある量のコポリマーが元の量の3分の1まで圧縮される場合、圧縮比は3:1である。圧縮比により、最終的な膨張全体の度合いが変化する。圧縮比が大きいほど、全体の膨張が大きくなる。好ましい比は、2:1、3:1、4:1、または5:1から20:1まで、より好ましくは15:1までを含んでよい。好ましい圧縮ひずみ速度は、1秒あたり10−5から10−1のオーダーである。水和したポリマーネットワークの好ましい圧縮弾性率は、0.01〜0.5MPaであり、好ましくは0.03〜0.2MPaである。
【0017】
ヒドロゲルは、大きく分けて2つの構造形態に分類される。構造的に安定であるゲルは、共有結合によって架橋されたネットワークであり、「永久」または「化学的」ゲルと称され、一方分解しやすいものは「可逆的」または「物理的」ゲルと称され、分子交絡、またはイオン性相互作用、ファンデルワールス相互作用、もしくは水素結合などの非共有結合のいずれかによって結合している。架橋ヒドロゲルの平衡膨潤状態は、部分的に、ポリマーの架橋密度によって支配され、それは、架橋間の分子量によって算出することができる(M)。化学的および物理的ゲルのいずれも、親水性ドメインのクラスターの不定性、または高い架橋密度に起因して、構造的不均一性を示す。永久ヒドロゲルは、1もしくは2つ以上の二官能モノマーの存在下におけるin situでのモノマーの重合によって、または予め形成させたポリマーもしくはコポリマーの架橋によって、熱重合、ガンマ線もしくは光重合などの方法を用いて合成することができる。
【0018】
ポリマーは、本技術分野で公知の標準的な重合技術によって形成してよい。例えば、重合技術としては、連鎖重合を挙げることができる。この方法は、開始、成長、および停止を含む3つの段階が関与している(例えば、George Ordian, Principles of Polymerization 4th Ed, Wiley-Interscience, 2004のチャプター1および3を参照されたい)。コポリマーは、2もしくは3つ以上のモノマーを一緒に共重合することによって作製することができる。開始剤を用いて重合反応を開始してよく、ポリマーの架橋は架橋剤を用いて行われる。
【0019】
得られたポリマーの架橋間の重量平均分子量(Mc)は、通常、1,000から500,000g/モルの範囲内である。
【0020】
ポリマーは、熱可塑性であっても、または熱硬化性であってもよいが、好ましくは熱可塑性である。これらの構造は、アモルファス、または半結晶性のいずれであってもよい。ポリマーはまた、非イオン性、イオン性、または両性であってもよい。イオン性ポリマーは、ポリマーネットワークの浸透ポテンシャルを上昇させるものであり、それによって膨潤度が増大され、これはある用途において有益であり得る。メタクリル酸は、ポリマーを部分的にイオン化するために重合プロセスで用いてよい剤の一例である。
【0021】
ポリマーネットワークは、少なくとも1つの親水性成分を有するコポリマーであってよい。コポリマーは、ランダム、交互、ブロック、またはグラフトコポリマーであってよい。コポリマー中もしくはブレンド中での第一、および第二、またはさらなるモノマーの比率は、組織拡張器に求められる仕様に応じて様々であってよく、そしてそれは、臨床用途に依存する。
【0022】
本発明の自己膨張性ポリマーネットワークはまた、国際公開第2007/080391号に記載の圧縮コポリマーに基づくものであってもよく、この場合、このネットワークは、吸湿性である第一の成分、およびネットワークに骨格(バックボーン)を提供する第二の成分を含有する。第二の成分も、吸湿性を有していてよい。
【0023】
第一の成分は、−COOH、>C=O、−OH、または−NH基を含有することが好ましく、ビニルピロリドン、アクリルアミド、ビニルアルコール、N−シクロプロピルアクリアミド、N−n−プロピルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、アクリル酸、エチレンオキシド、またはメタクリル酸などである。
【0024】
第二の成分は、上記で述べた第一の成分、または好ましくはアクリレートに基づくものであってよい。特に、第二の成分は、以下のモノマーから選択してよい:メチルメタクリレート、グリセリルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、エチルメタクリレート、i−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、イソデシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、メタクリル酸エステル、オクタデシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、トリメチルシクロヘキシルメタクリレート、イソトリデシルメタクリレート、メタクリル酸、アクリル酸、無水メタクリル酸、マレイン酸、イソボルニルアクリレート、ウレタン、および(エチレン−酢酸ビニルコポリマー)。
【0025】
好ましいポリマーは、N−ビニル−2−ピロリドン(NVP)とヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)またはメチルメタクリレート(MMA)とのジブロックコポリマーである。HEMA−NVPコポリマーまたはMMA−NVPコポリマーのコポリマーは、水和後も不溶性を維持するという利点を有するヒドロゲルを作製する目的で、架橋剤(例:エチレンジメタクリレート、EDMA)の存在下、NVPをHEMAまたはMMAと共重合させることによって形成される。コポリマー中のNVPの比率を上げると、膨潤率が上昇する。MMA−NVPコポリマーは、等張生理食塩水中のインビトロでの膨潤圧力としておよそ31.3kPa(235mmHg)を発生させることが示され、処理中にゲルをイオン化すればさらなる膨張が得られる。メタクリル酸を用いてメチル部分をカルボキシル基に変換することができ、これは、水和時にカルボキシレートアニオンと水素イオンとに解離し、それによってポリマーの浸透ポテンシャルを、従って膨潤率を上昇させることができる。さらなる詳細については、K.G. Wiese, Osmotically induced tissue expansion with hydrogels: a new dimension in tissue expansion? A preliminary report. Journal of Craniomaxillofacial Surgery 1993; 21(7): 309-313、を参照されたい。
【0026】
その他の適切な架橋剤としては、N,N’ −ジメチレンビスアクリルアミド(BIS)、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)、ジエチレングリコールジアクリレート(DEGDA)、ジエチレンジアクリレート(DEDA)、アリルメタクリレート、または1,4−ブタンジオールジアクリレートが挙げられる。架橋剤は、好ましくは、この反応の成分の総重量の0.005から1.0重量%で用いられる。この反応には、2,2’ −アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、ベンゾイルペルオキシド(BPO)、アンモニウムペルサルフェート/テトラメチルエチレンジアミン(APS/TMEDA)、またはカリウムペルサルフェート(KPS)/TEMDAから選択される開始剤を用いてよい。
【0027】
ヒドロゲルのヤング率は、用いた架橋剤の濃度の関数として上昇する。
【0028】
自己膨張性ポリマーネットワークは、好ましくは、少なくとも2つのモノマーを含み、それは好ましくは、上記で述べるコポリマーまたは架橋した2つの異なるホモポリマーから構成されるが、上述の第一および第二のポリマーを用いて共有結合による架橋のないネットワークを形成するポリマーブレンドであってもよい。各成分は、一般的に、その固有の化学的および物理的特性を維持し、全体としての官能性は、成分の相対的な濃度を変えることによって制御される。好ましくは、ポリマーネットワークは、少なくとも2種類のモノマーを含有し、従って、好ましくは、コポリマーまたは2つのポリマーのブレンドである。コポリマー中もしくはブレンド中での第一、および第二、またはさらなるモノマーの比率は、組織拡張器に求められる仕様に応じて様々であってよく、そしてそれは、臨床用途に依存する。
【0029】
別の選択肢として、ポリマーネットワークは、ホモポリマーに基づくものであってよい。適切な物質としては、ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリレート)であり、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)(PHEMA)またはポリ(グリセリルメタクリレート)(PGMA)などである。カルボニル基および末端ヒドロキシル基は、モノマーを親水性とし、一方α−メチル基およびバックボーンは、ある度合いの疎水性および加水分解安定性を付与する。従って、これらのポリマーは、自己膨張性ネットワークの唯一のポリマーとして用いてよい。しかし、いくつかのポリ(ヒドロキシアルキルメタクリレート)ヒドロゲルは、限定された膨潤、およびキセロゲル状態での弱い機械強度という制約を有している。
【0030】
本発明の組織拡張器はまた、生分解性ポリマーも含有している。生分解性ポリマーは、本技術分野で公知である。そのようなポリマーは、最初は非分解状態である。インビボに導入されると、生分解性ポリマー中の共有結合が開裂され、ポリマーはより小さい断片へと分解する。この分解は、通常は、加水分解、または酵素分解、またはこれらの組み合わせによるものである。時間経過と共に、生分解性ポリマーは分解状態へと還元される。
【0031】
移植の前は、生分解性ポリマーは、非分解状態であり、この状態では、物理的な手段によって自己膨張性ポリマーネットワークの膨張を抑制している。これは、以下でさらに詳細に考察されるように、例えば、相互侵入ポリマーネットワークの形成、または自己膨張性ポリマーのコーティングによるものであってよい。移植の後、生分解性ポリマー鎖は、生分解性ポリマーの性質に応じて異なるある時間の後、分解を開始する。生分解性ポリマーの分解に従って、分解断片は、自己膨張性ポリマーネットワークを抑制することが次第にできなくなってくる。生分解性ポリマーが完全に分解すると、自己膨張性ポリマーネットワークの平衡膨潤度が、組織拡張器の最終平衡膨潤度であり得る。
【0032】
生分解性ポリマーが分解する時間および速度は、用いたポリマーの性質、自己膨張性ポリマーネットワークによって提供される膨張圧力、およびインプラントの局所環境条件、ならびに患者の性質に応じて異なる。異なる臨床用途も、異なる膨張速度を必要とする。ポリマーはまた、自己膨張性ポリマーネットワークの膨張の遅延および/または膨張を開始した場合の膨張速度の低下が得られるように設計してもよい。好ましい実施形態では、生分解性ポリマーの非分解状態から分解状態への分解は、12時間から6ヶ月までの期間にわたって発生し、より好ましくは少なくとも2日間にわたり、より好ましくは少なくとも7日間にわたり、最も好ましくは2から12週間にわたる。このことは、主として、膨張前に創傷治癒を可能とし、それに続く膨張速度を制御するものである。対照的に、既存の拡張器の膨潤は、移植後24〜48時間と早く、制御されない形で発生する。
【0033】
生分解性ポリマーは、好ましくは、グリコール酸および/もしくは乳酸のポリマーまたはコポリマー(例:ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、乳酸−グリコール酸コポリマー(PLGA)、グリコリド−トリメチレンカーボネートコポリマー(PGA−TMC)、またはラクチド−ε−カプロラクトンコポリマー(PLCL))、ポリ(ジオキサノン)(PDO)、ポリ(トリメチレンカーボネート)(PTMC)、ポリ(ε−カプロラクトン)(PCL)、ポリ酸無水物(例:セバシン酸−ヘキサデカン二酸無水物コポリマー(ポリ(SA−コ−HA))、ポリヒドロキシブチレート(PHV)、ポリオルソエステル、ポリケタール(例:ポリ(フェニレンアセトンジメチレンケタール)(PPADK)、ポリ(シクロヘキサン−1,4−ジイルアセトンジメチレンケタール)(PCADK))、ポリアセタール、ポリホスファゼン、オリヒドロキシブチレート(PHB)、ポリヒドロキシバレレート(PHV)、ポリシアノアクリレート、ポリ(アミノ酸)、ポリ(プロピレンフマレート)、フィブリン、コラーゲン、ゼラチン、ヒアルロナン、軟骨質、デンプン、グリコーゲン、セルロース、およびキトサン、ならびにこれらのポリマーの2もしくは3つ以上のポリマーブレンドおよびコポリマーから選択されるマクロマーに基づくものであることが好ましい。
【0034】
生分解性ポリマーを形成するマクロマーは、以下の架橋剤の1もしくは2つ以上を用いて架橋されていてよい:N,N’−ジメチレンビスアクリルアミド(BIS)、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)、ジエチレングリコールジアクリレート(DEGDA)、ジエチレンジアクリレート(DEDA)、アリルメタクリレート、または1,4−ブタンジオールジアクリレート。架橋剤は、好ましくは、マクロマー、架橋剤、および開始剤の量に対して0.005から1.0重量%で用いられる。この反応には、2,2’ −アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、ベンゾイルペルオキシド(BPO)、アンモニウムペルサルフェート/テトラメチルエチレンジアミン(APS/TMEDA)、またはカリウムペルサルフェート(KPS)/TEMDAから選択される開始剤を用いてよい。開始剤は、好ましくは、マクロマー、架橋剤、および開始剤の量に対して0.01から1.0重量%で用いられる。
【0035】
得られた生分解性ポリマーは、通常は架橋間の重量平均分子量(M)が1,000から500,000g/モルの範囲内である。生分解性ポリマーは、好ましくは、自己膨張性ポリマーネットワークのガラス転移点に類似のガラス転移点を有する。上記ポリマーの誘導体を例とするポリマーの分子量および性質は、所望されるガラス転移点を達成するために選択される。「類似の」とは、生分解性ポリマーのガラス転移点が、自己膨張性ポリマーネットワークの±20℃以内であることを意味する。
【0036】
生分解性ポリマーは、それが非分解状態にある場合、すなわち移植の前は、自己膨張性ポリマーネットワークの膨張を物理的に抑制するものであり、従って、膨張を制限するのに十分な強度を有する必要がある。好ましくは、生分解性ポリマーは、0.01から10GPaの弾性率を有する(キセロゲル状態にて)。弾性率は、本技術分野で公知の技術によって測定することができ、動的機械分析器(DMA)を用いることなどによる。この測定は、自己膨張性ポリマーがない状態の生分解性ポリマーに対して行われる。
【0037】
好ましい実施形態では、生分解性ポリマーは、自己膨張性ポリマーネットワークを拘束して相互侵入ポリマーネットワーク(IPN)を形成する。従って、本発明の好ましい実施形態では、自己膨張性ポリマーネットワークおよび生分解性ポリマーは、IPNを形成する。IPNにおいて、自己膨張性ポリマーネットワークは、一次ネットワークと称される場合があり、生分解性ポリマーは、二次ネットワークと称される場合がある。
【0038】
IPNは、少なくとも部分的に分子スケールで交絡しているが、互いに共有結合はしておらず、共有結合を開裂せずには分離することができない2もしくは3つ以上のネットワークを含むポリマーとして定義され得る(IUPAC Compendium of Chemical Terminology, 2nd Edition 1997参照)。自己膨張性ポリマーネットワークおよび生分解性ポリマーの相互侵入は、機械的な絡み合わせによって自己膨張性ポリマーネットワークの膨張を阻止する。IPNは共有結合の開裂なしには破壊することができないことから、組織拡張器は、この非膨張状態をある程度の時間維持することができる。しかし、生分解性ポリマーの分解がIPNの破壊を引き起こし、自己膨張性ポリマーネットワークの膨張が可能となる。
【0039】
別の実施形態では、生分解性ポリマーは、自己膨張性ポリマーネットワークを拘束してセミ相互侵入ポリマーネットワーク(SIPN)を形成する。この場合、自己膨張性ポリマーネットワークおよび生分解性ポリマーは、SIPNを形成する。
【0040】
SIPNは、ネットワーク、および直鎖または分岐鎖ポリマーを含むポリマーであり、その直鎖または分岐鎖ポリマーがネットワークを分子スケールで貫通していることを特徴とする(IUPAC Compendium of Chemical Terminology, 2nd Edition 1997参照)。SIPNは、その構成成分である直鎖または分岐鎖ポリマーが、原理上は、構成成分であるポリマーネットワークから化学的結合を開裂することなく分離可能であることから、IPNと区別される。
【0041】
ヒドロゲルおよび生分解性ポリマーのIPNの作製の概略図を図2に示す。MMA−NVPコポリマーなどのキセロゲル1が、水などの膨潤媒体2中に導入される。キセロゲルは水和されて完全に膨潤したヒドロゲル3を形成する。ヒドロゲル3は、ポリマーネットワーク4および水分子5から構成される。次に、水4は、例えば乾燥または凍結乾燥によってヒドロゲル3から除去され、キセロゲル6が形成される。この方法での乾燥により、ネットワーク構造4は保持されるが、水は除去される。完全膨潤ヒドロゲル3は、通常、3〜4日間凍結乾燥される。溶媒(例:水)の除去により、生体適合性ポリマーの構成成分(すなわち、架橋剤と共に溶解したマクロマー)が効果的に浸透する。次に、生分解性ポリマーの構成成分を含むマクロマー溶液7が調製される。マクロマー溶液7は、生分解性マクロマー8および架橋剤9を溶媒と共に含む。生分解性マクロマーは、不飽和基で末端封止することによって官能化されている。末端封止の度合いは、X線光電子分光法(XPS)、赤外(IR)分光法、および/または核磁気共鳴分光法(NMR)によって測定することができる。凍結乾燥されたゲル7は、マクロマー溶液と混合され、その構成成分がゲルネットワーク中に拡散される。次に、開始剤が添加されてマクロマーと架橋剤との反応が開始され、生分解性ネットワークが形成される。この混合物は、60〜70℃および67KPa(500mmHg)での6〜12時間を例とする適切な温度、圧力、および時間で反応され、湿潤IPNゲル10が形成される。次に、湿潤IPNゲル10は、精製され、乾燥されて、自己膨張性ポリマー4および生分解性ポリマーネットワーク12のIPNから成る乾燥IPN11が得られる。得られたIPNは、示差走査熱量測定(DSC)、熱重量分析(TGA)、フーリエ変換赤外(FTIR)分光法、走査型電子顕微鏡法(SEM)、機械試験、生体適合性アッセイ、および膨潤測定によって特性決定することができる。生分解性ポリマー溶液がマクロマーの代わりに用いられ、開始剤による反応が先に行われない場合は、SIPNゲルが得られる。SIPN構造では、生分解性ネットワークの代わりの生分解性ポリマーは、一次ネットワークに相互侵入する。
【0042】
別の選択肢として、図3に示されるように、MMA−NVPコポリマーなどのキセロゲルを、PLGAを例とするマクロマー溶液中に導入して、完全膨潤ヒドロゲルとしてもよい。次に、N,N’−メチレンビスアクリルアミド(BIS)を例とする開始剤が添加され、IPNゲル形成のための反応が開始される。生分解性ポリマー溶液がマクロマー溶液の代わりに用いられ、開始剤による反応が先に行われない場合は、SIPNゲルが得られる。SIPN構造では、生分解性ネットワークの代わりの生分解性ポリマーは、一次ネットワークに相互侵入する。キセロゲルをマクロマー溶液に浸漬する時間を調節して、形成されるIPNゲルの含有量および形態学的構造に影響を与えることもできる。
【0043】
異方性膨潤が必要とされる場合、乾燥IPN(またはSIPN)物質を圧縮してもよい。圧縮は、物質の加熱を、そのガラス転移点、またはそれに近い温度(例:20℃以内、好ましくは5℃以内)、またはそれを超える温度にて行い、組成物を圧縮し、次に組成物を冷却させることで行われる。圧縮工程は、一方向であってよい。圧縮は、本技術分野で公知のいずれの圧縮技術を用いて行ってもよく、例えばスペキャック社(Specac Ltd),オーピントン(Orpington),ケント(Kent)、から市販されるサーモスタット制御の加熱プレートを有する手動または機械作動式液圧プレスなどである。必要な圧力は、達成すべき圧縮のレベルに応じて異なるが、通常は、1kPaから500MPaの範囲である。好ましくは、物質は、コポリマーのおよそガラス転移点まで少なくとも30分間加熱される。温度は、当然、ポリマーの性質に応じて異なるが、通常は約35〜250℃である。圧縮の間、温度を物質のおよそガラス転移点に維持することが好ましい。次に、好ましくは圧縮を維持しながら、物質をガラス転移点未満まで冷却させる。得られた圧縮キセロゲルは、次に保持または拘束デバイスから取り出される。これにより、この後の使用時の膨張が可能となる。
【0044】
最後に、IPN(またはSIPN)ヒドロゲルの膨潤挙動および分解速度を分析してよい。
【0045】
図4は、本発明の組織拡張器13のさらなる実施形態を示す。自己膨張性ポリマーネットワークは、コア14を形成し、生分解性ポリマーは、コアを取り囲むコーティング15を形成する。生分解性ポリマーは、コアを部分的にまたは完全に取り囲んでいてよい。この形でコアを取り囲むことによっても、自己膨張性ポリマーネットワークの膨張を抑制することができる。コアのコーティングを唯一の拘束として用いてよく、またはコアがさらに、上述のような自己膨張性ポリマーネットワークおよび生分解性ポリマーのIPNを含んでいてもよい。2つの手法を組み合わせることにより、生分解性ポリマーの分解が開始した後の膨張までの時間的遅延、および膨張の速度に対するさらなる制御が提供される。
【0046】
圧縮は、生分解性ポリマー層を導入する前または後のいずれで行ってもよい。
【0047】
図5に示されるように、組織拡張器16は、コーティング層17(または追加のコーティング層)をさらに含んでよく、コーティング層17の性質を操作することで、組織拡張器内部への拡散速度を改変することができる。特に、拡散速度に影響を与える因子は以下の通りである:コーティング厚;コーティングの弾性および機械強度;ならびに透過性。
【0048】
コーティングは、シリコーン、ポリビニルアルコール、酢酸セルロース、ポリブタジエン、またはこれらの組み合わせなどの不活性物質から成っていてよい。コーティング層は、有孔または半透過性であってよい。孔部の存在および数を操作することで、組織拡張器内部への拡散速度を改変することができる。
【0049】
シリコーンコーティングの厚さと拡張器の膨潤率との間には、反比例の関係があり、すなわち、コーティングが厚いほど、拡散速度は遅くなり、従って、膨潤速度も低下する。コーティング層の厚さは、好ましくは250ミクロンもしくはそれ未満である。シリコーンコーティングを薄くすると、拡散および膨潤速度が上昇するが;しかし、コーティングは、コーティングの機械強度が損なわれるほど薄くしてはならない。
【0050】
好ましい実施形態では、コーティング層17は、水溶性の充填剤粒子を含有する。充填剤粒子は、コーティング層中に分散され、コーティング層の透過性の制御を補助する。充填剤粒子の存在により、透過性を維持した状態でコーティング層を厚くすることができる。「水溶性」とは、25℃にて充填剤粒子が水に可溶性であることを意味し、「可溶性」とは、イギリス薬局方に記載の定義の通りであり、すなわち、溶質1gが30mLもしくはそれ未満の溶媒に溶解するということである。溶解性は、充填剤全体として決定されるものであり、従って、各構成成分が充填剤の全体としての溶解性に異なる寄与を与えるハイブリッド充填剤を用いてもよい。適切な例としては、塩およびサッカリドが挙げられ、例えば、塩化ナトリウム(水への溶解性:25℃にて36g/水100g)、塩化カリウム(水への溶解性:25℃にて36g/水100g)、グルコース(水への溶解性:25℃にて100g/水100g)、マルトース(水に可溶)、またはこれらの組み合わせである。
【0051】
粒子は、好ましくは、100ミクロンもしくはそれ未満の篩い後粒子サイズを有し、より好ましくは、40ミクロンもしくはそれ未満であり、最も好ましくは、20ミクロンもしくはそれ未満である。最小サイズはそれほど重要ではないが、通常は、1ミクロンもしくはそれ以上である。水溶性充填剤粒子の体積分率は、好ましくは、0.1〜20%、より好ましくは、0.1〜5%である。特に好ましい実施形態では、コーティング層は、20ミクロンもしくはそれ未満の塩化ナトリウムを5体積パーセント含有し、それは、組織拡張器の最終サイズに大きな影響を与えることなく、膨潤率を7.4から5.8に低下させる。
【0052】
コーティングはまた、X線検出を可能とする放射線不透化剤(radio-opacifier)を含有していてもよい(例:放射線不透過性であり抗菌性でもある硫酸バリウムまたは銀)。
【0053】
本発明はまた、組織拡張器を作製するためのプロセスも提供し、そのプロセスは、(i)自己膨張性ポリマーネットワークを提供する工程、(ii)所望に応じて行ってよいポリマーネットワークを圧縮する工程、(iii)非分解状態と分解状態とを有し、非分解状態では自己膨張性ポリマーネットワークの膨張を抑制し、分解状態では自己膨張性ポリマーネットワークの膨張を可能とする生分解性ポリマーを適用する工程を含み、ここで、工程(ii)および(iii)は、いずれの順序で行ってもよい。好ましくは、このプロセスは、上述したIPN、SIPN、またはコーティングされた構造を作製するためのものである。工程(ii)が含まれる場合で、IPNまたはSIPNの場合は、工程(iii)が工程(ii)の前に行われることが好ましく、一方コーティングされた構造の場合は、工程(ii)が工程(iii)の前に行われることが好ましい。
【0054】
組織拡張器は外科インプラントとして用いられることから、組成物は滅菌状態であることが有益である。滅菌は、ガンマ線照射、または組織拡張器が水を吸収して使用前の膨張を起こすことのない別の滅菌法によって行ってよく、電子線滅菌、エチレンオキシド処理、またはスチームオートクレーブの使用などである。組織拡張器は、好ましくは局所、部分、または全身麻酔下にて、ヒトまたは動物の体内に外科移植可能である。組織拡張器はまた、抗生物質、鎮痛剤、もしくは抗炎症剤を例とする薬理活性成分(すなわち、薬物)、および/または放射線不透化剤などの追加成分も含有していてよい。
【0055】
組織拡張器は、生体適合性であり、突出のリスクを最小限に抑える目的で、平滑な表面を有する。広範囲にわたる外科用途に適するように、通常は、1mmから30cmのサイズを有する。
【0056】
組織拡張器は、所望されるいかなる形状にも機械加工または成形することができ、従って、いかなる用途に対しても解剖学的に適応させることができる。組織拡張器はまた、特に組織拡張器がコーティングを持たない場合、移植中に外科医が成形することもできる。これは、IPNまたはSIPNの形態である組織拡張器にとって特に利点である。
【0057】
形状は、例えば、糸状、ロッド状、またはプレート状であってよい。1もしくは2つ以上の組織拡張器を、足場構造上に搭載してもよい。特定の実施形態では、湾曲した身体の領域への外科インプラントとして用いる場合(例:口蓋裂修復術)、このデバイスは、「ネックレス」の形態であってよく、これは、2もしくは3つ以上の別々の組織拡張器(サブユニットとして)を含み、それらは足場構造上に間隔を空けて配置される。足場構造は、外科用グレードの銀ワイヤまたは糸状硫酸バリウムから作製してよい。「ネックレス」の実施形態では、外科医は、「ネックレス」が所望される長さとなるまで「余分」のサブユニットの数を必要なだけ単に取り除くことにより、特定の手術部位用にデバイスの長さを適合させることができる。
【0058】
本発明の組織拡張器は、さらに、拡張器を別の構成要素または身体の部分に取り付けるための取り付け部位を含んでいてよい。取り付け手段は、ネジ、ボルト、接着剤、または縫合糸であってよい。
【0059】
本発明の組織拡張器は、身体的異常の治療における使用に、またはヒトもしくは動物の身体に対する美容的改善における使用に適している。本発明はまた、身体的異常の治療のための、またはヒトもしくは動物の身体に対して美容的改善を行うための方法も提供し、その方法は、(i)前述の請求項のうちのいずれか一項に記載の組織拡張器を外科移植する工程、(ii)組織拡張器の膨張、およびそれに続く新しい組織の形成を行わせる工程、および所望される場合は含んでよい工程として、(iii)組織拡張器を外科手術によって除去する工程、を含む。この使用/方法は、ヒトに対するものであることが好ましいが、ネコおよびイヌを例とするペットおよび見世物用の動物、ならびにウマを例とするスポーツ用の動物にも用いることができる。美容的または再建的治療は、先天性異常または後天性組織欠損に関するものであってよい。
【0060】
先天性異常としては、頭蓋顔面または口蓋裂、合指症(先天性の融合指またはつま先)、および巨大先天性母斑が挙げられる。後天性組織欠損としては、皮膚に対する熱傷およびその他の外傷(下腿潰瘍を含む)および良性、悪性、もしくはその他の病変部の外科摘出術の結果としての軟組織欠損(例:乳房切除術後の胸部再建)が挙げられる。この技術であれば特に有利である解剖学的領域としては、耳、鼻、眼瞼、口唇、頭皮(例:頭皮の熱傷瘢痕脱毛症)、手、および足が挙げられる。
【0061】
組織拡張器はまた、腸、尿管、胆管、または血管系およびリンパ系を含むその他のいずれかの解剖学的管腔の良性または悪性の狭窄にも用いることができる(例:アテローム性疾患に起因する動脈閉塞)。ここで、組織拡張器は、管腔の内容物の通流を可能とし、およびそれによって膨張プロセス発生中の閉塞を防止する目的で、実質的に中央部が中空であるコアへと操作される。挿入後、組織拡張器は、次第に膨張し、内臓または血管の管腔を所望される開口まで戻し、それによって物理的な閉塞を緩和する。
【0062】
さらに、組織拡張器は、内部仮骨延長にも用いることができる。これは、下顎骨などの骨の延長である。骨は外科医によって切断され(「切骨(osteotomised)」)、組織拡張器が適用され、そして骨は、正常な比率となるまでゆっくり一定の時間をかけて延長(distracted)(すなわち、延伸/伸長)される(この時点で拡張器は除去され、骨を治癒させるが、堅固な内部または外部からの固定が必要となり得る)。
【0063】
組織拡張、および特に異方性の組織拡張は、歯科分野で特に適用される。歯牙欠損は、歯科における最も一般的な問題の1つであり、通常は歯槽骨吸収を引き起こす。従って、歯科インプラントまたは歯科補綴を用いた歯の置換術は、機能上および美容上の両方から望ましい。歯科インプラントまたは歯科補綴を安定なものとするためには、良好な骨の質と量が必要であり、そのために、インプラント手術の前に骨移植(または骨代用材の移植)を必要とする場合がある。しかし、骨移植(または骨代用材の移植、例えばヒドロキシアパタイト)の手順の成功は、部分的に、移植された物質を被覆する軟組織粘膜の生存能および量に依存するものであり、従って、本発明の組織拡張器は、これを用い、この移植された物質のための適切な軟組織の包膜(envelope)を発生させることによって、このような手順の補助とすることができる。特定の一方向への骨喪失が多くなることの多い歯槽骨の吸収パターンのために、異方性の組織拡張が好ましい。
【0064】
歯学における別のよく見られる問題は、歯周および歯肉疾患である。これらは、一般的には、歯乳頭、すなわち、歯の間の軟組織の喪失を引き起こす。この状態は、一般的に、「ブラックトライアングル」と称され、美容上見た目が良くないものと見なされる。このトライアングルを回復させることは、歯科医にとっての難題であり得る。既存の治療法の1つは、歯色の充填剤でこの隙間を消滅させるという試みであるが、結果は、審美的に最適とは言えないことが多い。歯肉乳頭の組織拡張を行うと、歯乳頭を伸長させることができる。続いて、これを用いて、骨移植もしくは骨代用材の使用を伴って、または伴わずに、隙間を消滅させることができる。この場合、歯肉組織は、異方性拡張の必要がある。
【0065】
歯科分野における組織拡張に関するさらなる詳細は、A.R.M. Wittkampf, Short term experience with the subperiostel tissue expander in reconstruction of the mandibular alveolar ridge, Journal of Oral and Maxillofacial Surgery 1989, 47, 469-474;D. Lew et al, An open procedure for placement of tissue expander over the atrophic alveolar ridge, Journal of Oral and Maxillofacial Surgery 1988, 46, 161-166;D. Lew et al, The use of a subperiosteal tissue expander in rib reconstruction of an atrophic mandible, Journal of Oral and Maxillofacial Surgery 1988, 48, 229-232;および、D. Lew et al, Use of subperiosteal implants with distal implants with distal fillings ports in the correction of the atrophic alveolar ridge, International Journal of Oral and Maxillofacial Surgery 1991, 20, 15-17、に見出すことができる。
【実施例】
【0066】
ここで、本発明を以下の実施例を参照して説明するが、限定することを意図するものではない。
【0067】
実施例1
VP−MMAコポリマーおよびPLGAのIPNヒドロゲル
重量平均分子量1500g/molであり末端酸基を有する乳酸−グリコール酸コポリマー(PLGA)の2mmolを、5mmolのトリエチルアミンと共に、500mL丸底フラスコ中、不活性窒素雰囲気下にて、300mLの無水ベンゼンに溶解する。このPLGA溶液に5mmolの塩化アクリルを滴下し、この混合物を80℃にて3時間攪拌し、続いて室温にて2時間攪拌する。この反応させた混合物をろ過してトリエチルアミン塩酸塩を除去し、ろ液をn−ヘキサンに注ぎ入れて析出させ、マクロマーを精製する。次に、マクロマー析出物を室温にて24時間真空乾燥する。
【0068】
これとは別に、VP−MMAコポリマー(90:10または99:1 PVP:PMMA)ゲルを蒸留水で完全膨潤させる。このゲルは、ポリメリックサイエンス社(Polymeric Sciences Ltd.)(ニューアッシュグリーン,ロングフィールド,ケント,英国)から入手し、架橋密度0.2%で薬理グレード(ISO13488)のポリ(メチルメタクリレート)およびポリ(ビニルピロリドン)から成り;架橋剤としてはアルキルメタクリレート(0.2重量%)が、開始剤としてはアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(0.2重量%)が付加重合反応で用いられている。蒸留水を定期的に交換し、未反応モノマーまたはネットワークに関与しないポリマーを除去する。完全膨潤VP/MMAヒドロゲルを、48時間凍結乾燥する。乾燥VP/MMAゲルを、40mLバイアル中の合成したアクリレート末端封止PLGAマクロマーのジクロロメタン溶液中へ、0.02重量%の架橋剤N,N’−メチレンビスアクリルアミド(BIS)と共に12時間配置する。0.2重量%の開始剤AIBNをPLGAマクロマー溶液へ添加してマクロマーと架橋剤との重合を開始し、PLGAネットワークを形成する。この混合物を65℃にて3時間保持し、VP−MMAコポリマーおよびPLGAのIPNヒドロゲルを形成する。次に、IPNゲルを過剰のジクロロメタンにて一晩精製し、50℃にて24時間真空乾燥し、等方性組織拡張器を形成する。
【0069】
実施例2
異方性組織拡張器は、サーモスタット制御の加熱エレメントを有するように改良した手動式液圧プレス(スペキャック社,オーピントン,ケント,英国)を用い、圧力下、実施例1で得られたIPNのディスクのアニーリングによって得られる。IPNを、およそ161℃(±3℃)に予熱したプレート間に60分間配置し、次におよそ0.0003s−1の圧縮速度にて、およそ300MPaの下、さらに60分間圧縮する。次に加熱サイクルを終了し、継続して同一の負荷による圧縮下に維持した状態で、IPNを室温まで冷却させる。冷却には、およそ4時間掛かる。未圧縮ヒドロゲルの圧縮IPNに対する厚さの比率(圧縮比)を、所定の厚さの真鍮製の金型によって制御する。圧縮後、直径10mm、厚さ2mmのディスク状IPNが得られ、その質量はおよそ0.2gである。圧縮IPNを、使用するまで窒素パージした密封容器に保存する。
【0070】
実施例3
VP−MMAコポリマーおよびポリケタールのIPNヒドロゲル
20mLの酢酸エチルに溶解した1,4−ベンゼンジメタノールの7.2mmolおよびエステル基を持つペンダント型不飽和ジオールの7.2mmolを、短経路蒸留ヘッド(short path distilling head)を持つ100mL丸底フラスコ中のベンゼン30mLに100℃で添加する。次に、1.1mLの酢酸エチルに溶解した再結晶p−トルエンスルホン酸の0.06mmolを添加する。酢酸エチルの留去後、14.4mmolの蒸留2,2−ジメトキシプロパンを添加して反応を開始させる。ベンゼン2mLに溶解した3.6mmolの2,2−ジメトキシプロパンを、30分間かけ、30分間の間隔で10回添加する。100℃にて約7時間の後、200μLのトリエチルアミンを添加することで反応を停止し、この混合物をn−ヘキサンに0℃にて注ぎ入れ、ポリケタールマクロマーを析出させる。マクロマーをろ過し、エーテルおよびヘキサンで洗浄する。次に、洗浄したマクロマーを24時間真空乾燥する。
【0071】
これとは別に、実施例1で用いたVP/MMAゲルを蒸留水で完全膨潤させる。蒸留水を定期的に交換し、未反応モノマーまたはネットワークに関与しないポリマーを除去する。完全膨潤VP/MMAヒドロゲルを、48時間凍結乾燥する。乾燥VP/MMAゲルを、40mLバイアル中の合成したアクリレート末端封止ポリケタールマクロマーのベンゼン溶液中へ、0.02重量%の架橋剤BISと共に12時間配置する。0.2重量%の開始剤AIBNをマクロマー溶液へ添加してマクロマーと架橋剤との重合を開始し、ポリケタールネットワークを形成する。この混合物を65℃にて6〜12時間保持し、VP−MMAコポリマーおよびPLGAのIPNヒドロゲルを形成する。次に、IPNゲルを過剰のジクロロメタンにて一晩精製し、50℃にて24時間真空乾燥する。
【0072】
*ジオールは下記のものである。
【化1】

【0073】
実施例4
異方性組織拡張器は、実施例2で示したように、実施例3で作製したIPNを圧縮することで得られる。
【0074】
実施例5
VP−MMAコポリマーおよびPLGAのIPNゲル
ディスク形状のVP/MMAゲルを、バイアル中の合成したアクリレート末端封止PLGAマクロマーのDCM溶液中へ、0.02mmolの架橋剤BISと共に配置した。3つの異なる溶液濃度を用いた(0.025、0.05、および0.1g/mL)。ゲルおよび架橋剤と共に種々の溶液を含有するバイアルを、37℃の水浴中にて3日間50rpmで振とうして、ゲルが膨潤状態となるまでモノマー分子と架橋剤分子を浸透させた。次に、0.04mmolの開始剤AIBNをPLGAマクロマー溶液に添加して、マクロマーと架橋剤との重合を開始し、IPNゲルの二次ネットワークとなるはずであるPLGAネットワークを形成させた。この混合物を37℃にて3日間、および40℃にて2日間反応させて、VP−MMAコポリマーおよびPLGAのIPNゲルを形成させた。次に、これらのIPNゲルを過剰のDCMにて一晩精製し、50℃にて48時間真空乾燥して、残留溶媒を除去した。この手順を、図3に概略的に示す。
【0075】
実施例6
層構造
未修飾(等方性)VP−MMAコポリマーヒドロゲルを、実施例1に示すようにポリメリックサイエンス社(ニューアッシュグリーン,ロングフィールド,ケント,英国)から入手する。直径およそ14mm、長さおよそ30cmのロッドを、5.77mmに機械加工/切削加工する。ロッドを切断して、各々およそ6mmの高さの複数の円柱部とする。次に円柱部を、高さ6±0.1mmおよび直径5.77±0.1mmに精密研磨する。
【0076】
異方性は、サーモスタット制御の加熱プレートを装着した手動式液圧プレス(スペキャック社,オーピントン,ケント,英国)を用い、圧力下、等方性円柱部のアニーリングによって得られる。キセロゲルをガラス転移温度まで加熱する(90:10コポリマーの場合は161±3℃、99:1コポリマーの場合は165±3℃。円柱部を1時間かけて少しずつ圧縮し(1分間あたりおよそ0.067mmの速度)、最終高さを2.0mmとする(最終圧縮比は3:1となる)。円柱部を300MPa、161℃にて60分間圧縮する(90:10コポリマーの場合;または99:1コポリマーの場合は165℃)。ヒドロゲル円柱部を、300MPaの圧縮負荷を維持したまま37℃まで冷却する。ヒドロゲルの室温までの冷却には、およそ4時間掛かる。圧縮後、ヒドロゲル円柱部は、およそ2mmの高さ、および10mmの直径となる。各異方性円柱部を、窒素ガスでパージした密封容器に保存する。
【0077】
シリコーンエラストマーを、主剤を触媒または架橋剤と混合することによって合成する。キセロゲルディスクをこのシリコーン溶液中でディップコーティングする。続いて、このディスクを機械的に回転させ、ヒドロゲルをシリコーンで均一にコーティングする。これによって、均一な薄膜コーティングが作製される。次に、ディップコーティングしたヒドロゲルを、脱気した真空容器中で固定させる。より厚いシリコーンコーティングが必要である場合、このディップコーティングプロセスを数回繰り返してよい。
【0078】
異方性ヒドロゲルを包含するシリコーン包膜上に生分解性物質をディップコーティングすることにより生分解性層を作製する。乳酸−グリコール酸コポリマー(PLGA)を生分解性コーティングとして用い、ジクロロメタンに溶解する。次に、シリコーンコーティングしたヒドロゲルを5重量%PLGA溶液に浸漬し、得られたディスクを、およそ100〜500rpmで10分間スピンし、そしてN(窒素ガス)環境下、室温にておよそ12時間乾燥させる。
【0079】
実施例7
層構造
異方性ヒドロゲルを包含するシリコーン包膜を、実施例6に示すようにして得る。シリコーンコーティングしたヒドロゲル上に生分解性物質をスプレーコーティングすることにより、生分解性層を作製する。PLGAをジクロロメタンに溶解して5重量%溶液を作製し、これを用いてデバイスのスプレーコーティングをドラフト内で行う。これを、N(窒素ガス)環境下、室温にておよそ12時間乾燥させる。
【0080】
実施例8
膨潤挙動
生分解性ポリマーを有するVP/MMAに基づくSIPNゲル、および生分解性ポリマーゲルを有するIPNゲルを、円柱形状で比較した。表1は、名称、タイプ、およびVP/MMAに基づく(S−)IPNゲル中のPLGAの重量%、ならびにゲルの作製に用いたPLGA濃度を示す。
【0081】
【表1】

【0082】
各ゲルのPLGA含有量は、式(1):
【数1】

から算出する(式中、mLG%は、各ヒドロゲル中のPLGAの質量パーセントであり、mVMは、PLGAを含む前のVP/MMA乾燥ゲルの質量である)。
【0083】
未処理のVP/MMA(VM)ゲルは、本実施例のために作製された全ヒドロゲルシステムの膨潤挙動の比較を行うコントロールとして用いた。VMLG−sゲルのシリーズは、VP/MMAネットワークおよびPLGAポリマーを含むセミIPNゲルである。VMLG−lゲルのシリーズは、VP/MMAネットワークおよびPLGAネットワークから成るIPNゲルである。LGゲルは、PLGAのみを含有する。ゲルのPLGA含有量は、(S−)IPNゲルの作製に用いたPLGA濃度の上昇と共に増加した。表1に示すように、SIPNゲルおよびIPNゲルのいずれの作製においても、同一のPLGA濃度、ならびにVP/MMAゲル中へのPLGA鎖の拡散のために同一の時間および温度を用いたが、IPNゲルの方が高いゲル中PLGA含有量が見られる。0.05g/mLのPLGA溶液を用いた場合、VMLG−s2ゲルは、13重量%のPLGAを有し、VMLG−l2ゲルは、60重量%である。これは、SIPNゲルと比べてIPNゲルには比較的分子量の低いPLGAを用い、それによって、一次ネットワーク(VMゲル)中へ拡散するPLGA分子の量が多くなったために発生したものと考えられる。内部へ拡散したPLGA分子は、IPNとして二次ネットワークを形成し、従ってその後は外部へ拡散して行くことができなかった。他方、SIPNゲルの作製時は、VM一次ネットワークへの、およびそこからのPLGA分子の拡散は、ある程度の平衡状態にあった。
【0084】
種々の(S−)IPNゲルの膨潤挙動を調べ、質量膨潤率(q)を時間の関数としてモニタリングすることによってVP/MMAゲルと比較した。本研究では、PLGA含有量の異なる種々の(S−)IPNゲルを60℃にて少なくとも48時間真空乾燥した後、pH7.4のハルトマン液へ37℃で浸漬した。ヒドロゲルを周期的な時間間隔で溶液から取り出し、フィルター紙で表面の水を静かに除去した後、その時間での質量(m)を測定した。次に、膨潤したヒドロゲルを60℃にて少なくとも48時間完全に真空乾燥し、そこからの乾燥ヒドロゲルの質量(m)も測定した。この手順により、質量膨潤率(q)を、式(2)を用いて決定した。
【数2】

【0085】
図6(a)および(b)は、それぞれ、SIPNヒドロゲルおよびIPNヒドロゲルの膨潤率qが、種々のPLGA含有量について膨潤時間の関数としてどのように変化するかを示す。すべてのヒドロゲルのqは、最初は急速に上昇し、そして最後にはその上昇は次第に緩やかとなっている。全体として、未処理VMゲルが、膨潤速度が最も速く、続いてSIPN(VMLG−s)ゲルであり、最も遅いのがIPN(VMLG−l)ゲルである。SIPNおよびIPNゲルのPLGA含有量が増加するに従って、これらの膨潤速度の低下が観察された。この理由は、VP/MMAおよびPLGAによるSIPNならびにIPNゲルのすべてにおいて一次ネットワークとして用いられているVMゲル中に相互侵入するPLGAの量が増加することで、さらなる架橋または交絡に起因し得るネットワークメッシュサイズの減少だけでなく、疎水性の増加も発生したからであると考えられる。従って、PLGA含有量の高いゲル中へは、水分子の拡散がより制限されることになり、その結果、ゲルの膨潤速度が低下する。
【0086】
図6(c)は、0、90、540、および3240分に撮影したVM、VMLG−s2、およびVMLG−l2ゲルの乾燥ならびに膨潤状態の写真を示す。上列の写真は、ゲルまたはヒドロゲルの側面図を、下列は正面図を示す。ヒドロゲルのサイズが時間と共に増加したことに注目すべきであり、これは、時間の関数としてのq値の増加と一致するものである。さらに、VMヒドロゲルは透明であるのに対し、VMLG−s2ヒドロゲルは、乳白色であり、VMLG−l2ヒドロゲルは、VMLG−s2ヒドロゲルよりも白い。この白色は、おそらく、PLGAに起因するものと思われる。全体として、IPNゲルは、SIPNゲルよりも多くのPLGAを含有することが見出された。この理由は、低分子量のPLGAマクロマーは、一次ゲル中に容易に拡散し、架橋を起こして二次ネットワークを形成した後は、従って外へ拡散して行くことができなかったからである。他方、SIPNヒドロゲルの場合、プロセスの過程にて、ある程度の外部への拡散が発生し得るものであった。従って、IPNゲルは、疎水性であるPLGAの相対含有量が高く、そのために膨潤速度が遅くなる。
【0087】
また、VMヒドロゲルは、飽和膨潤率を示すのに対し、PLGA含有量を増加させていくSIPNおよびIPNヒドロゲルは、膨潤率の飽和値を示さないことも分かる。このことは、ヒドロゲルが膨潤し続けていたことを意味する。これらのヒドロゲルは、すべてのPLGAが分解して、ヒドロゲルから外部へ拡散して行き、最終的には非分解性成分のみが残るようになるまで膨潤を続けるものと考えられる。PLGA含有量の増加と共に、膨潤率が飽和点に達するまでの時間は長くなる。結論として、膨潤率ならびに膨潤速度の値は、ゲルの組成に依存するものと考えられる。従って、生分解性成分および一次ゲルの組成を調節することにより、膨潤挙動を制御することができる。
【0088】
この実施例から、非分解性の共有結合ネットワークヒドロゲルに、PLGAなどの生体適合性および生分解性ポリマーを添加することでセミIPNおよびIPNヒドロゲルを作製することにより、所望される制御された時間依存性膨潤挙動を持つヒドロゲルシステムを設計することが可能であることが示される。
【図1(a)】

【図1(b)】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己膨張性ポリマーネットワーク、および、
非分解状態と分解状態とを有し、前記非分解状態では前記自己膨張性ポリマーネットワークの膨張を抑制し、前記分解状態では前記自己膨張性ポリマーネットワークの膨張を可能とする生分解性ポリマー、
を含んでなる、組織拡張器。
【請求項2】
前記自己膨張性ポリマーネットワークが、2:1〜20:1の圧縮率を有する、請求項1に記載の組織拡張器。
【請求項3】
前記自己膨張性ポリマーネットワークが、1〜50kPa/cmの膨潤圧力を発生させる、請求項1または2に記載の組織拡張器。
【請求項4】
前記自己膨張性ポリマーネットワークが、キセロゲル/ヒドロゲルである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組織拡張器。
【請求項5】
前記自己膨張性ポリマーネットワークが、少なくとも2つの異なるモノマーを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組織拡張器。
【請求項6】
前記自己膨張性ポリマーネットワークが、−COOH、>C=O、−OH、または−NH基を有する少なくとも1つのモノマーを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の組織拡張器。
【請求項7】
前記生分解性ポリマーが、前記非分解性から前記分解状態へ、少なくとも2日間の時間を掛けて分解する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組織拡張器。
【請求項8】
前記生分解性ポリマーが、グリコール酸および/もしくは乳酸のポリマーまたはコポリマー、ポリ(ジオキサノン)(PDO)、ポリ(トリメチレンカーボネート)(PTMC)、ポリ(ε−カプロラクトン)(PCL)、ポリ酸無水物、ポリヒドロキシブチレート(PHV)、ポリオルソエステル、ポリケタール、ポリアセタール、ポリホスファゼン、オリヒドロキシブチレート(PHB)、ポリヒドロキシバレレート(PHV)、ポリシアノアクリレート、ポリ(アミノ酸)、ポリ(プロピレンフマレート)、フィブリン、コラーゲン、ゼラチン、ヒアルロナン、軟骨質、デンプン、グリコーゲン、セルロース、およびキトサン、ならびにこれらのポリマーの2もしくは3つ以上のポリマーブレンドおよびコポリマーから選択されるポリマーに基づくものである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の組織拡張器。
【請求項9】
前記自己膨張性ポリマーネットワークおよび前記生分解性ポリマーが、相互侵入ポリマーネットワークを形成する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組織拡張器。
【請求項10】
前記自己膨張性ポリマーネットワークおよび前記生分解性ポリマーが、セミ相互侵入ポリマーネットワークを形成する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の組織拡張器。
【請求項11】
前記自己膨張性ポリマーネットワークがコアを形成し、前記生分解性ポリマーが、前記コアを取り囲む被覆層を形成する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の組織拡張器。
【請求項12】
コーティング層をさらに含み、前記コーティング層は、所望に応じてさらに水溶性充填剤粒子を含んでよい、請求項1〜11のいずれか一項に記載の組織拡張器。
【請求項13】
薬理活性成分および/または放射線不透化剤(radio-opacifier)がさらに組み込まれる、請求項1〜12のいずれか一項に記載の組織拡張器。
【請求項14】
身体的異常の治療における使用、またはヒトもしくは動物の身体に対する美容的改善における使用のための、請求項1〜13のいずれか一項に記載の組織拡張器。
【請求項15】
身体的異常の治療のための、またはヒトもしくは動物の身体に対して美容的改善を行うための方法であって、
(i)請求項1〜14のいずれか一項に記載の組織拡張器を外科移植する工程、
(ii)前記組織拡張器の膨張、およびそれに続く新しい組織の形成を行わせる工程、および
所望される場合は含んでよい工程として、(iii)前記組織拡張器を外科手術によって除去する工程、
を含んでなる、方法。
【請求項16】
組織拡張器の製造方法であって、
(i)自己膨張性ポリマーネットワークを準備する工程、
(ii)所望に応じて行ってよいポリマーネットワークを圧縮する工程、および
(iii)非分解状態と分解状態とを有し、前記非分解状態では前記自己膨張性ポリマーネットワークの膨張を抑制し、前記分解状態では前記自己膨張性ポリマーネットワークの膨張を可能とする生分解性ポリマーを適用する工程、
を含んでなり、前記工程(ii)および(iii)は、いずれの順序で行ってもよい、方法。

【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6(a)】
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【図6(b)】
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【図6(c)】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−509223(P2013−509223A)
【公表日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−535939(P2012−535939)
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【国際出願番号】PCT/GB2010/051828
【国際公開番号】WO2011/051731
【国際公開日】平成23年5月5日(2011.5.5)
【出願人】(503342649)アイシス イノヴェイション リミテッド (13)
【Fターム(参考)】