説明

組電池の制御装置

【課題】周囲温度検出素子を用いずに、放電回路の発熱に起因する誤動作を防止する。
【解決手段】組電池の制御装置は、組電池40を構成する二次電池B1〜Bnの各電圧を検出する電圧検出部2と、二次電池B1〜Bnのそれぞれに対応して設けられた放電回路31〜3nと、電圧検出部2で検出された電圧を充放電ユニット20へ送信するとともに、充放電ユニット20から放電要求を受信し、放電が要求された二次電池B1〜Bnに対応する放電回路31〜3nを動作状態にして、当該二次電池が放電するように制御を行う制御部1とを備える。二次電池B1〜Bnが放電を開始した後、制御部1は、放電開始からの経過時間に基づいて、温度測定部4で算出された各二次電池の温度測定値を補正し、放電回路31〜3nにおける放電抵抗R1〜Rnの発熱の影響を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の二次電池を直列に接続した組電池の充放電を制御する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば電気自動車においては、走行用モータや車載機器を駆動するための高電圧バッテリが搭載される。この高電圧バッテリは、一般に、リチウムイオン電池などの二次電池を複数個直列に接続した、いわゆる組電池から構成される。このような組電池にあっては、各電池の特性のばらつきに起因して、放電可能な電気エネルギー(以下、「放電容量」という。)が電池間で異なる。また、二次電池の場合、過充電や過放電によって電池寿命が低下することから、組電池を構成する電池のうちの1つが充電完了状態や放電完了状態になれば、組電池全体として充電動作や放電動作を停止する必要がある。
【0003】
このため、放電時に、最も放電容量の小さい電池が放電を完了すると、他の電池の放電が完了しない状態で、組電池全体の放電動作が停止する。一方、充電時には、放電時に完全に放電した電池が充電完了状態にならないうちに、放電時に完全に放電しなかった電池が先に充電完了状態となり、この時点で組電池全体の充電動作が停止する。このような動作が繰り返されると、放電容量の小さい電池は常に充電不足となり、組電池全体としての放電容量が低下する。
【0004】
上記のような問題の解決策として、組電池を構成する各電池と並列に、スイッチング素子と抵抗の直列回路を接続し、各電池の充電状態に応じて、スイッチング素子の導通・非導通を制御する方法が従来から提案されている(例えば、特許文献1参照)。この方法によれば、電圧の高い電池については、スイッチング素子が導通して充電が抑制され、電圧の低い電池については、スイッチング素子が非導通となって充電が優先的に行われる。これにより、各電池を均等に充電することができ、組電池全体の放電容量が低下するのを抑制することができる。
【0005】
一方、電池の温度が高い状態で充放電を行うと、電池が破壊されるおそれがあることから、電池の温度を検出し、検出温度が基準値以上であれば充放電を禁止することも、従来から行われている。また、特許文献2には、充電器において、電池自体の温度だけでなく、周囲の温度も考慮して充電制御を行なうことが記載されている。特許文献2においては、組電池の温度を検出する電池温度検出素子と、充電器の周囲温度を検出する周囲温度検出素子とを設け、周囲温度検出素子の出力に基づいて電池温度検出素子の出力を補正することにより、周囲温度の変動による充電器の誤動作を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−19188号公報
【特許文献2】特開平8−308131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
組電池を構成する電池が放電する場合、放電回路中の放電抵抗に電流が流れて、放電抵抗が発熱する。このため、電池の温度を測定して放電制御を行なう場合、放電抵抗の熱の影響により、各電池の温度測定値は実際の電池温度よりも高い値となる。その結果、電池自体の温度は正常範囲にあるにもかかわらず、電池の温度が異常と判定され、誤動作により放電動作が停止してしまうという事態が生じる。
【0008】
この対策として、特許文献2のような周囲温度検出素子を設けて、電池の温度測定値を補正する方法もあるが、本発明は、周囲温度検出素子を用いずに、放電回路の発熱に起因する誤動作を防止することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、組電池を構成する複数の二次電池のそれぞれの電圧を検出する電圧検出部と、二次電池のそれぞれに対応して設けられ、二次電池が放電する場合の電流経路を形成する放電回路と、温度検出素子を有し、当該温度検出素子の出力に基づいて各二次電池の温度を測定する温度測定部と、放電回路および温度検出素子が実装された回路基板と、電圧検出部で検出された電圧を上位装置へ送信するとともに、上位装置から放電要求を受信し、放電が要求された二次電池に対応する放電回路を動作状態にして、当該二次電池が放電するように制御を行う放電制御手段と、温度測定部で測定された二次電池の温度が基準温度以上である場合に、当該二次電池に対応する放電回路を非動作状態にして放電を禁止する放電禁止手段とを備えた組電池の制御装置において、二次電池が放電を開始した後、放電開始からの経過時間に基づいて、温度測定部で算出された各二次電池の温度測定値を補正する補正手段を設ける。
【0010】
このようにすると、二次電池の放電により放電回路に発熱が生じて、温度検出素子がこの発熱の影響を受けた場合でも、各セルの温度測定値が補正されるので、温度測定値から発熱の影響が除去される。したがって、各セルに対する正確な放電制御を行うことができ、温度が正常範囲にあるセルの放電が停止するのを防止することができる。また、放電回路における温度上昇分を、放電開始からの経過時間に基づいて演算により求めるので、周囲温度検出素子を設けなくても、温度補正を行うことができる。
【0011】
本発明では、補正手段は、さらに、二次電池が放電を停止した後、放電停止からの経過時間に基づいて、温度測定部で算出された各二次電池の温度測定値を補正するようにしてもよい。
【0012】
また、本発明では、補正手段は、放電開始または放電停止からの経過時間に基づいて、各放電回路における温度上昇分を算出するとともに、それぞれの温度上昇分を合計した合計値を算出し、温度測定値から合計値を減算することにより、温度測定値を補正するようにしてもよい。
【0013】
また、本発明では、組電池を構成する複数の二次電池のそれぞれの電圧を検出する電圧検出部と、二次電池のそれぞれに対応して設けられ、二次電池が放電する場合の電流経路を形成する放電回路と、温度検出素子を有し、当該温度検出素子の出力に基づいて各二次電池の温度を測定する温度測定部と、放電回路および温度検出素子が実装された回路基板と、電圧検出部で検出された電圧に基づいて、各二次電池の充電および放電を制御する充放電制御手段と、温度測定部で測定された二次電池の温度が基準温度以上である場合に、当該二次電池に対応する放電回路を非動作状態にして放電を禁止する放電禁止手段とを備えた組電池の制御装置において、二次電池が放電を開始した後、放電開始からの経過時間に基づいて、温度測定部で算出された各二次電池の温度測定値を補正するとともに、二次電池が放電を停止した後、放電停止からの経過時間に基づいて、温度測定部で算出された各二次電池の温度測定値を補正する補正手段を設ける。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、周囲温度検出素子を用いずに、二次電池の温度測定値を補正して、放電回路の発熱に起因する誤動作を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態を示したブロック図である。
【図2】温度測定部のブロック図である。
【図3】回路基板上の素子の配置を表した平面図である。
【図4】充放電制御ユニットおよび電圧・温度計測ユニットにおける処理手順を表したフローチャートである。
【図5】放電動作時の温度補正処理の手順を表したフローチャートである。
【図6】放電停止時の温度補正処理の手順を表したフローチャートである。
【図7】放電動作時における温度測定値の変化を表したグラフである。
【図8】放電停止時における温度測定値の変化を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態につき、図面を参照しながら説明する。各図において、同一部分には同一符号を付してある。以下では、本発明を電気自動車に搭載される組電池に適用した場合を例に挙げる。
【0017】
まず、図1を参照して、実施形態の構成について説明する。図1において、複数個の二次電池B1〜Bnが直列に接続されて組電池40を構成している。以下では、個々の二次電池B1〜Bnを「セル」と呼ぶ。組電池40の充放電を制御するシステムとして、電圧・温度計測ユニット10と、充放電制御ユニット20と、充電ユニット30とが設けられている。本実施形態では、電圧・温度計測ユニット10が、本発明に係る組電池の制御装置を構成する。
【0018】
電圧・温度計測ユニット10は、制御部1、電圧検出部2、放電回路31〜3n(まとめて符号3で表す)、温度測定部4、および接続端子Tを備えている。
【0019】
制御部1は、CPUやメモリ等から構成され、電圧検出部2との間で通信を行うとともに、充放電制御ユニット20との間でも通信を行う。この制御部1は、本発明における放電制御手段、放電禁止手段、および補正手段を構成する。
【0020】
電圧検出部2は、アナログデジタルコンバータ等から構成され、各セルB1〜Bnの電圧V1〜Vnを検出し、これらの電圧V1〜Vnをデジタル値に変換して制御部1へ出力する。また、電圧検出部2は、制御部1からの指令に基づいて、放電回路31〜3nを駆動または停止するための放電制御信号P1〜Pnを出力する。
【0021】
放電回路31〜3nは、各セルB1〜Bnに対応して、電圧検出部2と接続端子Tとの間に設けられている。各放電回路の構成は同じなので、ここでは放電回路31について説明する。放電回路31は、スイッチング素子Q1と放電抵抗R1とを備えている。スイッチング素子Q1は、例えば電界効果トランジスタ(FET)からなる。
【0022】
スイッチング素子Q1のドレインには、放電抵抗R1の一端が接続されており、放電抵抗R1の他端は、ラインL1および接続端子Tを介して、セルB1の正極に接続されている。スイッチング素子Q1のソースは、ラインL2および接続端子Tを介して、セルB1の負極に接続されている。これにより、セルB1の正極から、放電抵抗R1およびスイッチング素子Q1を経由して、セルB1の負極へ至る放電経路が形成される。スイッチング素子Q1のゲートには、抵抗を介して、電圧検出部2から放電制御信号P1が与えられる。
【0023】
温度測定部4は、図2に示すように、複数の温度検出素子5と、1個のマイクロコンピュータ6とを備えている。温度検出素子5は、温度の変化に伴って抵抗値が変化するサーミスタのような素子から構成される。マイクロコンピュータ6は、各温度検出素子5の出力に基づいて温度を演算し、演算結果を温度測定値として制御部1へ送る。
【0024】
セルB1〜Bnは、例えばリチウムイオン電池からなり、各セルの正極および負極は、一対の端子Tに接続されている。そして、セルB1〜Bnの電圧V1〜Vnは、ラインL1〜Lnを介して電圧検出部2へ入力される。
【0025】
充放電制御ユニット20は、セルB1〜Bnに対する充電制御および放電制御を統轄する上位装置であって、マイクロコンピュータ(図示省略)等を備えている。この充放電制御ユニット20は、電圧・温度計測ユニット10から取得した情報に基づき、セルの充電が必要な場合は、電圧・温度計測ユニット10と充電ユニット30へ指令を与え、セルの放電が必要な場合は、電圧・温度計測ユニット10へ指令を与える。この充放電制御ユニット20は、本発明における充放電制御手段を構成する。
【0026】
充電ユニット30は、セルB1〜Bnを定電圧で充電するための充電装置であって、入力側は充放電制御ユニット20に接続され、出力側はセルB1の正極に接続されている。充電ユニット30には、定電圧回路、電圧検出部、制御部等が備わっている(図示省略)。
【0027】
図3に示したように、放電回路3の放電抵抗R1〜Rn、温度検出素子5、および接続端子Tは、回路基板Kに実装されている。この回路基板Kには、電圧・温度計測ユニット10を構成する制御部1や電圧検出部2も実装されているが、図3ではこれらの図示を省略してある。温度検出素子5は、接続端子Tごとに設けられ、各端子Tに近接して配置されている。接続端子Tには、セルB1〜Bnの電極が接続されているので(図1参照)、充放電によりセルB1〜Bnの温度が上昇すると、端子Tが発熱する。したがって、温度検出素子5は、接続端子Tを介してセルB1〜Bnの温度を検出する。また、セルB1〜Bnの放電時には、放電回路3に流れる電流により放電抵抗R1〜Rnが発熱する。そして、回路基板Kには、放電抵抗R1〜Rnと温度検出素子5が実装されているので、放電抵抗R1〜Rnで発生した熱が、回路基板Kを伝導して温度検出素子5へ及ぶ。
【0028】
次に、上記実施形態の動作につき、図4のフローチャートを参照しながら説明する。
【0029】
ステップS1では、電圧・温度計測ユニット10から充放電制御ユニット20へ、各セルの電圧が通知される。詳しくは、電圧検出部2で検出されたセルB1〜Bnの電圧V1〜Vnが制御部1へ送られ、制御部1がこれらの電圧V1〜Vnを充放電制御ユニット20へ通知する。
【0030】
ステップS2では、充放電制御ユニット20において、電圧・温度計測ユニット10から通知されたセル電圧を解析する。具体的には、充放電制御ユニット20において、各セルB1〜Bnの電圧V1〜Vnを、予め定められた基準電圧と比較し、セル電圧が基準電圧以上か否かを判定する。
【0031】
ステップS3では、ステップS2での解析結果に基づき、セル電圧が基準電圧以上であるセルを抽出し、これらのセルを放電が必要なセルと判定する。
【0032】
ステップS4では、ステップS3での判定結果に基づき、充放電制御ユニット20から電圧・温度計測ユニット10へ、放電が必要なセルに対する放電要求が送信される。
【0033】
ステップS5では、電圧・温度計測ユニット10において、放電要求のあったセルに対し、放電制御が行なわれる。詳しくは、制御部1が充放電制御ユニット20から放電要求を受信すると、制御部1は当該要求に基づく指令を電圧検出部2へ送る。電圧検出部2は、この指令を受けて、放電回路31〜3nのうち放電が必要なセルに対応する放電回路へ、放電制御信号を出力する。これにより、例えば放電回路31において、スイッチング素子Q1のゲートにH(High)レベルの放電制御信号P1が与えられ、スイッチング素子Q1がオン状態となる。すると、セルB1の正極→接続端子T→ラインL1→放電抵抗R1→スイッチング素子Q1→ラインL2→接続端子T→セルB1の負極という放電経路が形成され、セルB1はこの放電経路を通して放電する。その結果、セルB1の電圧は低下する。
【0034】
ステップS6では、温度測定部4によるセル温度の測定が行われる。詳しくは、温度測定部4において、マイクロコンピュータ6(図2参照)が、各温度検出素子5の出力を取り込み、これらに基づいて温度測定値を算出する。算出された温度測定値は、制御部1へ送られる。なお、前述したように、温度検出素子5には、セルB1〜Bnの温度に加えて、放電時の放電抵抗R1〜Rnでの発熱が影響する。したがって、温度測定部4で算出された温度測定値は、セルと放電抵抗の両方の温度が反映されたものとなっている。
【0035】
ステップS7では、制御部1により、本発明の特徴である温度補正処理が行われる。温度補正処理においては、温度測定部4により算出された各セルの温度測定値を、放熱抵抗R1〜Rnの発熱による温度上昇分で補正する。この補正の詳細については後述する。
【0036】
以上のステップS1〜S7の手順が、電圧・温度計測ユニット10と充放電制御ユニット20との間で、一定周期で繰り返される。
【0037】
電圧・温度計測ユニット10では、制御部1が、ステップS7の温度補正処理を行った後、各セルの補正後の温度測定値を、予め定められた基準温度と比較する。そして、温度測定値が基準温度以上であるセルについては、破壊を防止するため、制御部1から電圧検出部2へ指令を送って、放電動作を停止させる。この場合、電圧検出部2は、L(Low)レベルの放電制御信号を出力する。これにより、例えば放電回路31において、スイッチング素子Q1のゲートにLレベルの放電制御信号P1が与えられ、スイッチング素子Q1はオフ状態となる。したがって、セルB1の正極から、放電抵抗R1およびスイッチング素子Q1を介してセルB1の負極へ至る放電経路が遮断されるので、セルB1の放電が禁止される。一方、温度測定値が基準温度未満のセルについては、制御部1は、電圧検出部2へ指令を送らず、放電動作を継続させる。
【0038】
次に、ステップS7の温度補正処理の詳細について、図5および図6のフローチャートを参照しながら説明する。
【0039】
図5は、放電動作時の温度補正処理の手順を示している。セルが放電を開始した後、ステップS10では、放電中のセルについて、放電開始からの経過時間を算出する。この経過時間は、制御部1に備わるタイマにより計測される。
【0040】
ステップS11では、ステップS10で算出された経過時間に基づいて、その時点での当該セルに対応する放電回路3の温度上昇分を算出する。この温度上昇分は、放電電流による放電抵抗の発熱に基づくもので、次式により算出される。
ΔTi=Kr・[1−exp(−t/τ)] …(1)
ここで、
ΔTi:温度上昇分〔i=1,2,…m(mは放電中のセルの数)〕
Kr:係数(放電抵抗の発熱による温度上昇分の最大値)
t:経過時間
τ:温度上昇分が最大値に対して63.2%になるまでの時間
である。式(1)より、放電動作時には、温度上昇分ΔTiは経過時間tとともに増加する。
【0041】
ステップS12では、放電中のセルに対応する放電回路3の全て(m個)について、ステップS11での温度上昇分の算出処理が終了したか否かを判定する。判定結果がNOである場合は、ステップS10、S11を再度実行し、次の放電回路について温度上昇分を算出する。判定結果がYESである場合は、ステップS13へ進む。
【0042】
ステップS13では、ステップS11で算出した各放電回路の温度上昇分ΔTiを合計して、合計値を求める。合計値Tsumは、次式により算出される。
Tsum=ΔT1+ΔT2+ … +ΔTm …(2)
図3で説明したように、セルの放電時に放電抵抗で発生した熱は、回路基板Kを伝導し、温度検出素子5へ及ぶ。したがって、複数の放電抵抗が発熱している場合は、1つの温度検出素子5に対して、それぞれの放電抵抗の熱が影響するので、式(2)のように、各放電抵抗での温度上昇分を合計する。この合計値Tsumが、温度補正を行う場合の補正値となる。
【0043】
ステップS14では、ステップS13で算出した温度上昇分の合計値Tsumを用いて、図4のステップS6で求めた各セルの温度測定値を補正する。すなわち、各セルの補正温度Tcを次式により算出する。
Tc=温度測定値−Tsum …(3)
【0044】
こうして算出された補正温度Tcは、温度測定部4で算出された温度測定値から、放電抵抗R1〜Rnでの発熱の影響を除去したものとなっている。すなわち、補正温度Tcは、実質的に、各セルの実際の温度を表している。そこで、この補正温度Tcを、前述したように基準温度と比較し、補正温度Tcが基準温度以上であれば、放電動作を停止させ、補正温度Tcが基準温度未満であれば、放電動作を継続させる。これにより、放電抵抗での発熱に影響されずに、各セルに対する正確な放電制御を行うことができる。したがって、温度が正常範囲にあるセルの放電動作が停止するといった誤動作を防止することができる。
【0045】
図7は、放電動作時における温度測定値の変化の一例を表したグラフである。この例では、放電開始前のセル温度は25℃となっている。放電が開始されると、放電抵抗R1〜R4に電流が流れて、各抵抗の温度が図示のように上昇する。このため、温度測定部4によるセルの温度測定値は、放電抵抗R1〜R4の温度上昇の影響を受けて、太実線で示すように上昇する。
【0046】
この温度測定値は、セルの温度25℃に、放電抵抗R1での温度上昇分a1、放電抵抗R2での温度上昇分a2、放電抵抗R3での温度上昇分a3、および放電抵抗R4での温度上昇分a4を加算した値である。したがって、温度測定値から、各放電抵抗での温度上昇分の合計値を減算すると、補正温度Tcは、
Tc=温度測定値−(a1+a2+a3+a4)=25℃
となり、セルの実際の温度として算出される。
【0047】
次に、放電を停止した場合の温度補正について説明する。図6は、放電停止時の温度補正処理の手順を示している。セルが放電を停止した後、ステップS20では、放電が停止したセルについて、放電停止からの経過時間を算出する。この経過時間は、制御部1に備わるタイマにより計測される。
【0048】
ステップS21では、ステップS20で算出された経過時間に基づいて、その時点での当該セルに対応する放電回路の温度上昇分を算出する。この温度上昇分は、次式により算出される。
ΔTi=Kr・exp(−t/τ) …(4)
ここで、
ΔTi:温度上昇分〔i=1,2,…m(mは放電停止したセルの数)〕
Kr:係数(放電抵抗の発熱による温度上昇分の最大値)
t:経過時間
τ:温度上昇分が最大値に対して63.2%になるまでの時間
である。式(4)より、放電停止時には、温度上昇分ΔTiは経過時間tとともに減少する。
【0049】
ステップS22では、放電が停止したセルに対応する放電回路3の全て(m個)について、ステップS21での温度上昇分の算出処理が終了したか否かを判定する。判定結果がNOである場合は、ステップS20、S21を再度実行し、次の放電回路について温度上昇分を算出する。判定結果がYESである場合は、ステップS23へ進む。
【0050】
ステップS23では、ステップS21で算出した各放電回路の温度上昇分ΔTiを加算して、合計値を求める。合計値Tsumは、次式により算出される。
Tsum=ΔT1+ΔT2+ … +ΔTm …(5)
この場合も、1つの温度検出素子5に対して、それぞれの放電抵抗の熱が影響するので、各放電抵抗での温度上昇分を合計する。この合計値Tsumが、温度補正を行う場合の補正値となる。
【0051】
ステップS24では、図5のステップS14の場合と同様に、温度測定値を補正する。すなわち、ステップS23で算出した温度上昇分の合計値Tsumを用いて、各セルの補正温度Tcを次式により算出する。
Tc=温度測定値−Tsum …(6)
この場合も、補正温度Tcは、実質的に、各セルの実際の温度を表している。したがって、この補正温度Tcと基準温度とを比較することで、各セルに対する正確な充電制御を行うことができ、温度が正常範囲にあるセルに充電がされないといった誤動作を防止することができる。
【0052】
図8は、放電停止時における温度測定値の変化の一例を表したグラフである。放電が停止されると、放電抵抗R1〜R4に電流が流れなくなり、各抵抗の温度が図示のように下降する。このため、温度測定部4によるセルの温度測定値は、放電抵抗R1〜R4の温度下降の影響を受けて、太実線で示すように下降する。
【0053】
この温度測定値は、セルの温度25℃に、放電抵抗R1での温度上昇分b1、放電抵抗R2での温度上昇分b2、放電抵抗R3での温度上昇分b3、および放電抵抗R4での温度上昇分b4を加算した値である。したがって、温度測定値から、各放電抵抗での温度上昇分の合計値を減算すると、補正温度Tcは、
Tc=温度測定値−(b1+b2+b3+b4)=25℃
となり、セルの実際の温度として算出される。
【0054】
以上のように、本実施形態においては、セルの放電開始または放電停止からの経過時間に基づいて、放電抵抗における温度上昇分を算出する。そして、この温度上昇分の合計値を、温度測定部4で測定された各セルの温度測定値から減算することにより、当該温度測定値を補正する。このため、各セルの温度測定値から熱の影響が除去され、正確な充放電制御を行うことができる。また、放電抵抗の温度上昇分は、放電の開始または停止からの経過時間に基づいて算出されるので、周囲温度検出素子を設けなくても、温度補正を行うことができる。
【0055】
なお、放電が開始して放電抵抗の温度が上昇している途中で、電圧・温度計測ユニット10の電源がオフになると、放電回路3が動作しなくなって、放電抵抗の温度が低下する。この場合、電圧・温度計測ユニット10の電源がオフでも、上位装置である充放電制御ユニット20の電源はオン状態を維持する。このため、電圧・温度計測ユニット10の電源が再度オンとなった場合、電圧・温度計測ユニット10では電源がオフであった時間(以下、「電源オフ時間」という。)はわからないが、充放電制御ユニット20では電源オフ時間を計数することができる。したがって、電源が再度オンした時に、充放電制御ユニット20から電圧・温度計測ユニット10へ電源オフ時間を通知してやれば、電圧・温度計測ユニット10側で、電源がオフとなっていた期間の温度下降分を算出し、正確な温度上昇分を求めることができる。
【0056】
本発明では、以上述べた以外にも種々の実施形態を採用することができる。例えば、前記の実施形態では、電圧・温度計測ユニット10が1つだけ設けられているが、電圧・温度計測ユニット10を複数ユニット設け、これらを1つの充放電制御ユニット20で統轄的に管理するような構成にしてもよい。
【0057】
また、前記の実施形態では、電圧・温度計測ユニット10と充放電制御ユニット20を別ユニットとして設けた例を挙げたが、これらを1つのユニットとして構成してもよい。すなわち、本発明に係る組電池の制御装置は、充放電制御手段を含むものであってもよい。
【0058】
また、前記の実施形態では、温度測定部4に設けたマイクロコンピュータ6により、各セルの温度測定値を算出したが、マイクロコンピュータ6を省略して、制御部1により各セルの温度測定値を算出するようにしてもよい。この場合は、制御部1および温度検出素子5が、温度測定部を構成する。
【0059】
また、前記の実施形態では、セルB1〜Bnが接続される接続端子Tに近接して、温度測定素子5を設けた例を挙げたが、接続端子Tとは別に、セルB1〜Bnの熱を伝える熱伝導部材(図示省略)を設け、当該部材に近接して、または当該部材と接触させて、温度測定素子5を設けてもよい。
【0060】
さらに、前記の実施形態では、本発明を電気自動車に搭載される組電池に適用した例を挙げたが、本発明は、電気自動車以外の用途に用いられる組電池にも適用することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 制御部
2 電圧検出部
3 放電回路
4 温度測定部
5 温度検出素子
10 電圧・温度計測ユニット
20 充放電制御ユニット
30 充電ユニット
40 組電池
B1〜Bn 二次電池
K 回路基板
Q1〜Qn スイッチング素子
R1〜Rn 放電抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組電池を構成する複数の二次電池のそれぞれの電圧を検出する電圧検出部と、
前記二次電池のそれぞれに対応して設けられ、二次電池が放電する場合の電流経路を形成する放電回路と、
温度検出素子を有し、当該温度検出素子の出力に基づいて各二次電池の温度を測定する温度測定部と、
前記放電回路および前記温度検出素子が実装された回路基板と、
前記電圧検出部で検出された電圧を上位装置へ送信するとともに、前記上位装置から放電要求を受信し、放電が要求された二次電池に対応する前記放電回路を動作状態にして、当該二次電池が放電するように制御を行う放電制御手段と、
前記温度測定部で測定された二次電池の温度が基準温度以上である場合に、当該二次電池に対応する前記放電回路を非動作状態にして放電を禁止する放電禁止手段と、を備えた組電池の制御装置において、
前記二次電池が放電を開始した後、放電開始からの経過時間に基づいて、前記温度測定部で算出された各二次電池の温度測定値を補正する補正手段を設けたことを特徴とする組電池の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の組電池の制御装置において、
前記補正手段は、さらに、前記二次電池が放電を停止した後、放電停止からの経過時間に基づいて、前記温度測定部で算出された各二次電池の温度測定値を補正することを特徴とする組電池の制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の組電池の制御装置において、
前記補正手段は、前記経過時間に基づいて、各放電回路における温度上昇分を算出するとともに、それぞれの温度上昇分を合計した合計値を算出し、前記温度測定値から前記合計値を減算することにより、前記温度測定値を補正することを特徴とする組電池の制御装置。
【請求項4】
組電池を構成する複数の二次電池のそれぞれの電圧を検出する電圧検出部と、
前記二次電池のそれぞれに対応して設けられ、二次電池が放電する場合の電流経路を形成する放電回路と、
温度検出素子を有し、当該温度検出素子の出力に基づいて各二次電池の温度を測定する温度測定部と、
前記放電回路および前記温度検出素子が実装された回路基板と、
前記電圧検出部で検出された電圧に基づいて、各二次電池の充電および放電を制御する充放電制御手段と、
前記温度測定部で測定された二次電池の温度が基準温度以上である場合に、当該二次電池に対応する前記放電回路を非動作状態にして放電を禁止する放電禁止手段と、を備えた組電池の制御装置において、
前記二次電池が放電を開始した後、放電開始からの経過時間に基づいて、前記温度測定部で算出された各二次電池の温度測定値を補正するとともに、前記二次電池が放電を停止した後、放電停止からの経過時間に基づいて、前記温度測定部で算出された各二次電池の温度測定値を補正する補正手段を設けたことを特徴とする組電池の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−5482(P2013−5482A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131013(P2011−131013)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(510123839)オムロンオートモーティブエレクトロニクス株式会社 (110)
【Fターム(参考)】