説明

経口用デスモプレシン医薬組成物

本発明は、経口用液体デスモプレシン医薬組成物、並びに中枢性尿崩症、一次性夜尿症、血友病A患者、フォンウィルブランド−ユルゲンス病患者における出血、及び術後出血を治療するためのその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、全般的には生物医学の分野に含まれ、特に、新規で用量可変な経口用液体デスモプレシン医薬組成物、並びに中枢性尿崩症、一次性夜尿症、血友病A患者及びフォンウィルブランド−ユルゲンス病患者における出血、並びに術後出血を治療するためのその使用に関する。
【0002】
[発明の背景]
一般にデスモプレシンとして知られている、1−デアミノ−8−D−アルギニン−バソプレシンは、尿崩症の治療において有用な生物学的効果があり、抗利尿作用を示し、又長い出血時間を減少及び正常化させることがしばらく前から知られている。
【0003】
デスモプレシンは、様々な経路で、様々な提示形態で、又様々な賦形剤との組合せで、薬剤として投与されている。例としては、経鼻、経口、膣、直腸、皮下、静脈内及び筋肉内経路によるデスモプレシンの投与が記載されている。デスモプレシンの消化管吸収を伴う経口投与経路では、デスモプレシンが胃及び腸の酵素で分解され肝臓で代謝されるため、他の投与経路よりもバイオアベイラビリティが明らかに低いという問題がある。酢酸塩の形態でのデスモプレシンの別の投与経路で最も一般的なものは、他の非経口投与経路と比較して、投与の利便性を考慮すると、鼻粘膜又は口腔粘膜経由のものである。
【0004】
活性物質が粘膜を通じて吸収される、滴剤又はスプレーの形態の酢酸デスモプレシンの経鼻用医薬組成物は、現在の当技術分野では公知である。例えば、文献の欧州特許出願公開第0710122号明細書は、室温で安定しており、緩衝液、浸透圧調節剤、及び保存剤として4級アミン、特に塩化ベンザルコニウムを含有する、スプレーによる経鼻投与用のデスモプレシンの水性組成物について記載している。保存剤として4級アミンの代わりに濃度1mg/mlのパラベンを含む水性組成物もその実施例に記載されている。
【0005】
文献の国際公開第2004/014411号パンフレットは、デスモプレシン並びに安定剤及び吸収剤としてトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンを含む、滴剤又はスプレーの形態の経鼻投与用水性組成物に関する。特にこの組成物は、パラオキシ安息香酸メチル及び/又はパラオキシ安息香酸プロピル等の補助剤を含有してもよい。
【0006】
同様に、文献の国際公開第03/97080号パンフレットは、室温で安定しており、許容される担体中に、pH緩衝液、保存剤としてのパラベン、及びパラベンの保存性を高める共溶媒を更に含むデスモプレシンの経鼻用水性組成物について記載している。
【0007】
さらに、文献の国際公開第94/03157号パンフレットは、リポソーム分散液の形態、又は、デスモプレシンも引用されてはいるが、サケカルシトニンと熱硬化性ポリマーから成るマイクロエマルジョンの形態の経鼻又は経膣投与用組成物に関する。この組成物は、保存剤としてメチルパラベンも含有している。
【0008】
文献の国際公開第01/60394号パンフレット及び国際公開第2004/019910号パンフレットは、スプレーによって経口又は経鼻投与され、粘膜を通じて吸収されるデスモプレシンの医薬組成物について記載している。特に、文献の国際公開第01/60394号パンフレットは、pH4〜6の緩衝液として、又同時に保存剤としてリンゴ酸を含み、例えばパラベン等の他の保存剤を更に含有してもよい、デスモプレシンの経口用、経鼻用又は舌下用組成物について記載している。この組成物は浸透圧性薬剤も必ず含有し、実施例に従って、経鼻用若しくは舌下用スプレー又はシロップによって投与される。さらに、文献の国際公開第2004/019910号パンフレットは、口腔粘膜を通じた活性物質の投与のためのバッカルスプレーについて記載しており、そこではデスモプレシンは抗利尿性を示す可能性のある活性物質の一つとして言及されている。
【0009】
文献の欧州特許出願公開第0381345号明細書は、デスモプレシン及びカルボキシメチルセルロースを含み、滴剤の形態で、若しくは噴霧器を用いて鼻腔内に投与されるか、又は筋肉内、静脈内若しくは皮下注射によって投与される、水溶液の形態の医薬組成物について記載している。
【0010】
同様に、文献の国際公開第2005/115339号パンフレットは、口腔粘膜、鼻粘膜、胃腸粘膜又は膣粘膜を通じた薬剤吸収を促進する成分を含む、液体、半固体又は固体の医薬組成物について記載している。特に、薬剤としてデスモプレシンを含み、保存剤としてメチルパラベンを含み、鼻粘膜を通じて、又は胃腸、経口、眼若しくは膣経路で投与される液体組成物が記載されている。
【0011】
固体剤形のデスモプレシンの経口用医薬組成物で、現在の当技術分野で公知のものは他にもある。文献の欧州特許出願公開第0163723号明細書、欧州特許出願公開第0689452号明細書、欧州特許出願公開第752877号明細書、欧州特許出願公開第1473029号明細書、欧州特許出願公開第1500390号明細書、欧州特許出願公開第1501534号明細書、欧州特許出願公開第0517211号明細書、国際公開第2005/089724号パンフレット及び国際公開第2005/046707号パンフレットは、デスモプレシンを含み、口腔粘膜及び/又は胃腸を通じて吸収される、錠剤、カプセル又は粉末の形態の様々な経口用組成物について記載している。しかしながら、これら全ての固体製剤の用量多様性は限定的であり、嚥下障害を有する集団に投与するには手間がかかる。
【0012】
最後に、デスモプレシンを含有する口腔内パッチも又公知である。文献の米国特許第5298256号明細書は、口腔粘膜に付着した口腔内パッチの形態の、デスモプレシンを含有する医薬組成物について記載している。
【0013】
これまでに引用した文献は、パッチ、カプセル、錠剤、又はシロップによって口腔粘膜又は舌下粘膜を通じて、及び滴剤又はスプレーによって鼻粘膜を通じて投与されるデスモプレシンの組成物について記載している。しかしながら、経鼻投与経路は、組成物の浸透圧性薬剤及び/又は吸収を促進するために使用される薬剤に起因する刺激の問題、並びに鼻腔内での吸収に利用できる小さな領域に由来する問題を示している。一方、現在の当技術分野で公知の経口投与形態には、非個人的である、すなわち、一人一人に合わせたやり方で各患者を治療することが可能になる用量可変性がほとんど又は全くない、という欠点があり、これは、デスモプレシンの場合のように薬剤の薬理活性が高いと一層深刻化する問題である。加えて、現在の技術によるデスモプレシンの経口投与用固形製剤は、嚥下障害を有する老人等の特定の集団、及び薬を飲みたがらない子供に投与するには手間がかかる。
【0014】
したがって、経鼻経路によって示される、刺激及び吸収領域の容量の問題、さらには経口投与形態が示す、用量可変性の欠如及び特定の集団への投与の難しさを一緒に解決する提示形態を見出す必要性が依然として存在する。浸透圧性薬剤も吸収促進剤もいずれも含有せず、治療上有効な量のデスモプレシンを含む、安定で用量可変な経口投与用液体医薬組成物が本発明の目的である。
【0015】
ペプチド、特に、デスモプレシン等の硫黄架橋を有するペプチドを含む薬剤の問題点は、その水溶液が容易に劣化してしまうことであり、したがって、その水溶液中に保存剤が存在することが必須である。現在の当技術分野で公知の、オキシトシンペプチドファミリーの水性組成物のための保存剤としては、パラベン、すなわちパラオキシ安息香酸エステルがある。
【0016】
パラベンを含有する組成物について記載している上記の文献に加え、文献の米国特許出願公開第2004/0235956号明細書は、液剤、シロップ、懸濁剤又はエリキシル剤の形態の、カルベトシンの粘膜投与用液体組成物について記載している。特定の実施形態において、カルベトシンの溶液は保存剤としてパラベンを含んでいる。
【0017】
[発明の説明]
本発明は、中枢性尿崩症、一次性夜尿症、血友病A患者及びフォンウィルブランド−ユルゲンス病患者における出血、並びに術後出血の治療に有用な、デスモプレシンを含む経口投与用液体医薬組成物を提供する。
【0018】
したがって、本発明の第1の態様は、治療上有効な量のデスモプレシンを含み、浸透圧性薬剤も吸収促進剤もいずれも含まない、安定で用量可変な経口投与用液体医薬組成物に関する。
【0019】
同様に、本発明の医薬組成物は、いかなるpH緩衝液も含まない。
【0020】
本発明において「安定」とは、組成物のpHが、25℃で少なくとも12カ月間、3.5〜5.0の間で維持されることを意味する。
【0021】
特定の実施形態において、治療上有効な量のデスモプレシンは、医薬として許容できるその塩の1つ又はいくつかの形態、好ましくは酢酸デスモプレシンとして投与される。
【0022】
本発明の組成物中のデスモプレシンの治療上有効な量は、0.001mg/ml〜5mg/mlの間、好ましくは0.01mg/ml〜2mg/mlの間、より好ましくは0.1mg/ml〜1mg/mlの間に含まれる。
【0023】
特定の実施形態において、本発明の医薬組成物は、更に、保存剤、抗菌剤及び抗真菌剤、並びに組成物のpHを調整するための酸から形成される群から選ばれる、1つ又はいくつかの医薬として許容できる補助剤を含む。
【0024】
本発明の医薬組成物が含んでいてもよい保存剤、抗菌剤及び抗真菌剤の中には、パラベン、すなわち、例えば、又非限定的であるが、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン、イソブチルパラベン、イソプロピルパラベン、ベンジルパラベン等のパラオキシ安息香酸エステルによって形成される群から選ばれるもの、又はこれらの塩、或いはこれらの化合物の混合物が含まれる。好ましい実施形態において、本発明の組成物に用いられる保存剤は、メチルパラベンとプロピルパラベンの混合物である。本発明の組成物中のパラベンの総量は、0.1mg/ml〜4mg/mlの間、好ましくは1mg/ml〜3mg/mlの間、より好ましくは1.5mg/ml〜2.5mg/mlの間である。
【0025】
本発明の組成物はpH緩衝液を含まないが、組成物を安定した状態にするために、組成物のpHを最初に3.5〜5.0の間に調整する必要がある。溶液のpHを3.5〜5.0の間に調整するために用いられる化合物としては、例えば、又非限定的であるが、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、酢酸、安息香酸、クエン酸、アスコルビン酸、アスパラギン酸、ジアトリゾ酸、酒石酸、乳酸、ヒドロアクリル酸、グルタミン酸、マレイン酸、コハク酸、シュウ酸、リンゴ酸、マロン酸、マンデル酸、ピルビン酸等の無機酸、有機酸及び/又はアミノ酸、或いはその混合物がある。
【0026】
投与しなければならない本発明の組成物の用量は、年齢、患者の状態、病状、病状の重症度、剤形及び投与頻度等のいくつかの要素によって決まる。いずれの場合においても、滴剤の形態、及びシロップの形態のどちらの液体投与も、現在の当技術分野で公知のデスモプレシンの経口用組成物より可変性が高いという利点を有し、それによって、デスモプレシンの投与量を患者のニーズに合わせてより正確に調整することが可能になる。
【0027】
本発明の組成物は、現在の当技術分野で公知の任意の方法で調製することができる。特に、本発明の組成物は、治療上有効な量のデスモプレシンを保存剤の水溶液中で混合すること、及びpHを3.5〜5.0の間の値に調整することによって調製される。
【0028】
特定の実施形態において、安定で用量可変な液体医薬組成物は、口腔粘膜及び/又は舌下粘膜を通じて吸収される、経口投与用の滴剤の形態の多回投与容器にて提供される。
【0029】
特定の実施形態において、安定で用量可変な液体医薬組成物は、経口消化管投与用のシロップ、又は口腔粘膜及び/若しくは舌下粘膜を通じて吸収される、経口投与用のシロップの形態の多回投与容器にて提供される。
【0030】
別の態様において、本発明は、中枢性尿崩症、一次性夜尿症、血友病A患者及びフォンウィルブランド−ユルゲンス病患者における出血、並びに術後出血を治療するための医薬の調製における、本発明の組成物の使用に関する。
【0031】
[発明の詳細な説明]
本発明者らは、驚くべきことに、治療上有効な量のデスモプレシンを含み、浸透圧性薬剤も吸収促進剤もいずれも含まない、安定で用量可変な経口投与用液体医薬組成物を見出した。
【0032】
[実施例]
本実施例は、本発明を例示するためのものであって、制限することを意図するものではない。
【0033】
実施例1
デスモプレシンの医薬組成物(表1)。
【0034】
【表1】

【0035】
実施例2
デスモプレシンの医薬組成物(表2)。
【0036】
【表2】

【0037】
実施例3
デスモプレシンの医薬組成物(表3)。
【0038】
【表3】

【0039】
実施例4
25℃における上記実施例の医薬組成物の安定性
【0040】
【表4】

【0041】
【表5】

【0042】
【表6】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療上有効な量のデスモプレシンを含み、浸透圧性薬剤も吸収促進剤もいずれも含まない、安定で用量可変な経口投与用液体医薬組成物。
【請求項2】
治療上有効な量のデスモプレシンが、医薬として許容できるその塩の1つ又はいくつかの形態で投与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
治療上有効な量のデスモプレシンが、酢酸デスモプレシンの形態で投与される、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
デスモプレシンの治療上有効な量が、0.001mg/ml〜5mg/mlの間に含まれる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
デスモプレシンの治療上有効な量が、0.01mg/ml〜2mg/mlの間に含まれる、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
デスモプレシンの治療上有効な量が、0.1mg〜1mg/mlの間に含まれる、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
保存剤、抗菌剤及び抗真菌剤、並びに組成物のpHを調整するための酸から形成される群から選ばれる、1つ又はいくつかの医薬として許容できる補助剤を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
保存剤、抗菌剤及び抗真菌剤が、パラベン、その塩又はその混合物から選ばれる、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
保存剤、抗菌剤及び抗真菌剤が、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン、イソブチルパラベン、イソプロピルパラベン、ベンジルパラベン、これらの塩又はこれらの混合物から選ばれる、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
組成物のpHが3.5〜5.0の間の値に調整される、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項11】
組成物のpHを調整するための酸が、無機酸、有機酸及び/又はアミノ酸から選ばれる、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項12】
組成物のpHを調整するための酸が、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、酢酸、安息香酸、クエン酸、アスコルビン酸、アスパラギン酸、ジアトリゾ酸、酒石酸、乳酸、ヒドロアクリル酸、グルタミン酸、マレイン酸、コハク酸、シュウ酸、リンゴ酸、マロン酸、マンデル酸、ピルビン酸又はこれらの混合物によって形成される群から選ばれる、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
提示形態が、口腔粘膜及び/又は舌下粘膜を通じて吸収される、経口投与用の滴剤である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
提示形態が、経口消化管投与用のシロップ、又は口腔粘膜及び/又は舌下粘膜を通じて吸収される経口投与用のシロップである、請求項1〜12のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
中枢性尿崩症、一次性夜尿症、血友病A患者及びフォンウィルブランド−ユルゲンス病患者における出血、並びに術後出血を治療するための医薬の調製における、請求項1〜14のいずれか一項に記載の医薬組成物の使用。

【公表番号】特表2010−535745(P2010−535745A)
【公表日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−519481(P2010−519481)
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【国際出願番号】PCT/ES2008/000539
【国際公開番号】WO2009/027561
【国際公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(510032232)
【出願人】(510031109)
【Fターム(参考)】