経皮吸収型製剤
【課題】簡易な構造により、水溶性のオリゴマー溶液や高分子溶液であっても、容易にしかも持続して経皮吸収させることが可能な経皮吸収型製剤を提供する。
【解決手段】 内部に薬物を保持するための薬物保持部を備えた薬物留置部と、当該薬物留置部を支持するための接着剤層および厚さが1〜100μmの範囲内の値である薬物不透過性の基材からなる支持部と、を含む経皮吸収型製剤であって、薬物留置部に、薬物保持部を加圧するための加圧手段が備えてあるとともに、支持部における薬物不透過性の基材が、外部からの機械的刺激としての針状物によって破断することにより、薬物を一定速度で放出させる。
【解決手段】 内部に薬物を保持するための薬物保持部を備えた薬物留置部と、当該薬物留置部を支持するための接着剤層および厚さが1〜100μmの範囲内の値である薬物不透過性の基材からなる支持部と、を含む経皮吸収型製剤であって、薬物留置部に、薬物保持部を加圧するための加圧手段が備えてあるとともに、支持部における薬物不透過性の基材が、外部からの機械的刺激としての針状物によって破断することにより、薬物を一定速度で放出させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経皮吸収型製剤に関し、特に、一般に経皮吸収に適さないオリゴマーや高分子の薬物であっても、容易にしかも持続して経皮吸収させることが可能な経皮吸収型製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
速効性が望まれる場合の薬物の投与方法としては、注射が代表的なものである。さらに、近年、水圧を利用して薬物(薬液)を体内に送り込む方式のジェットインジェクタを用いた無針注射方法が開発され、インシュリンの皮下注射等に臨床応用されている。
しかしながら、注射やジェットインジェクタを用いた場合、薬物を一時的に体内に送り込むため、薬効を持続させるためには、頻回投与が必要になるという問題が見られた。
【0003】
また、持続的な薬物の投与方法として、薬物(薬液)のリザーバーと、接着剤層とからなる経皮吸収型製剤や、薬物のリザーバーと、薬物の放出量を制御するための放出制御膜と、接着剤層とからなる経皮吸収型製剤が各種提案されている。
ジェットインジェクタを用いた薬物投与の例としては、特許文献1(特開平7−255845号公報)には、図12に示すように、水圧によって皮膚の角質層に穴をあけるためのジェットインジェクタ102と、薬物106を収容するためのリザーバー112と、ジェットインジェクタ102による開口部を閉塞するための薬物透過性の接着剤層110と、を含み、該リザーバー112の天井部には、ジェットインジェクタ102による開口部を閉塞するためのラバー104が設けられた経皮吸収装置100およびそれを用いた薬物の経皮吸収促進方法が開示されている。
かかる経皮吸収装置100の場合、ジェットインジェクタ102によって、リザーバー112と接着剤層110を介して皮膚表面(図示せず。)に開口部を形成し、リザーバー112と血管中の薬物の濃度差を利用して、この開口部から薬物を経皮吸収させる方式である。
【0004】
また、特許文献2(特表平11−509123号公報)には、図13に示すように、薬物放出のための経皮吸収システムであって、薬物としての活性物質208を収容するためのリザーバー210と、活性物質を投与するための多数の微小ピン206または微小ブレードと、を備えるとともに、微小ピン206または微小ブレードの先端部に開口部204が設けられた経皮吸収システムが開示されている。
かかる経皮吸収システムの場合、リザーバー210の底面に設けられた多数の微小ピン206または微小ブレードを皮膚の角質層に押し込み、リザーバー210と血管中の薬物の濃度差による拡散を基本的に利用し、多数の微小ピン等の先端部に設けられた開口部204を介して、薬物としての活性物質208を経皮吸収させる方式である。
【特許文献1】特開平7−255845号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特表平11−509123号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1(特開平7−255845号公報)に開示された経皮吸収装置100およびそれを用いた薬物の経皮吸収促進方法によれば、皮膚表面の角質に穴を開けるものの、薬物の濃度差による拡散を基本的に利用しているため、薬物の透過量が不足する場合があり、特に薬物がオリゴマーや高分子の場合には、迅速に透過させることが困難であった。
【0006】
また、特許文献2(特表平11−509123号公報)に開示された経皮吸収装置200によれば、薬物208の移動が濃度差のみであるため、薬物208が極性を有する低分子化合物であればまだしも、オリゴマーや高分子である場合には、経皮吸収させることが困難であった。
また、多数の微小ピン206または微小ブレードを皮膚中に押し込んだ際に、先端部における開口部204が塞がってしまい、一定速度で薬物208を放出することが困難であった。
また、微小ピン206または微小ブレードを多数設ける必要があることから、製造が困難であるばかりか、微小ピン206等の長さが制限され、角質層の内部まで、薬物を放出することができなかった。
さらに、特許文献2(特表平11−509123号公報)に開示された経皮吸収装置200の好適例によれば、経皮吸収装置200のシステム内に、ポンプや圧電膜を導入することも提案されているが、今度は、経皮吸収装置が大規模になって、携帯性や経済性が損なわれるという新たな問題が見られた。
【0007】
そこで、本発明の発明者らは、上述した問題を解決すべく、鋭意検討した結果、薬物保持部を加圧するとともに、注射針等の機械的刺激によって基材を破断することにより、携帯性や貼付性に優れるとともに、幅広い種類の薬物に対して、持続して、しかも迅速に経皮吸収させることができることを見出し、本発明を完成させたものである。
すなわち、本発明は、簡易な構造であって、オリゴマーや高分子の薬物であっても、容易にしかも持続して経皮吸収させることが可能な経皮吸収型製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、内部に薬物を保持するための薬物保持部を備えた薬物留置部と、当該薬物留置部を支持するための接着剤層および厚さが1〜100μmの範囲内の値である薬物不透過性の基材からなる支持部と、を含む経皮吸収型製剤であって、薬物留置部における薬物保持部を加圧するための加圧手段として、薬物留置部の一部または全部が、薬物保持部に保持された薬物を加圧するための弾性部材から構成してあり、支持部における薬物不透過性の基材が、機械的刺激としての針状物によって破断可能であるとともに、薬物留置部が加圧状態であることを特徴とする経皮吸収型製剤が提供され、上述した問題点を解決することができる。
すなわち、かかる経皮吸収型製剤によれば、薬物留置部が、薬物が保持された薬物保持部を加圧するための加圧手段を備えているとともに、支持部における薬物不透過性の基材が、外部の機械的刺激によって、容易に破断するため、一般に経皮吸収に適さない薬物であっても、薬物不透過性の基材を介して、迅速にしかも持続して経皮吸収させることができる。
また、支持部において、接着剤層ばかりでなく、薬物不透過性の基材を有しているため、製造が容易となるばかりか、加圧した場合であっても、液漏れを生じたり、薬物留置部が過度に変形したりすることを有効に防止することができる。
また、上述した加圧手段を、薬物留置部の一部または全部としての弾性部材から構成することにより、簡易な構造であっても、薬物留置部において容易に薬物が保持された薬物保持部を加圧することができる。また、このような構造であれば、薬物保持部を比較的高い圧力に加圧した場合であっても、一定形状を容易に維持することができる。
また、上述した支持部における薬物不透過性の基材の厚さを1〜100μmの範囲内の値とすることにより、薬物保持部を加圧した場合であっても、過度に変形することが無い一方、このような基材であれば、注射針等の機械的刺激によって、容易に破断することができる。また、このように構成すると、かかる基材を利用して、その両面に薬物留置部および接着剤層等をそれぞれ積層によって設けることができるため、経皮吸収型製剤の製造が極めて容易になる。
さらに、上述した薬物不透過性の基材を、機械的刺激としての針状物によって破断可能とすることにより、ジェットインジェクタ等の特殊装置を用いずに、身近にある道具を用いて、支持部における薬物不透過性の基材を容易に破断することができる。また、注射針は先端が細いために、当該注射針の太さ等を制限することによって、外部からの機械的刺激の大きさを容易に制御することができるとともに、開口部等が設けられた場合であっても、液漏れを有効に防止することができる。
【0009】
また、本発明の別の態様は、内部に薬物を保持するための薬物保持部を備えた薬物留置部と、当該薬物留置部を支持するための接着剤層および厚さが1〜100μmの範囲内の値である薬物不透過性の基材からなる支持部と、を含む経皮吸収型製剤であって、薬物留置部における薬物保持部を加圧するための加圧手段として、薬物保持部の内部に、気泡が充填されており、支持部における薬物不透過性の基材が、機械的刺激としての針状物によって破断可能であるとともに、薬物留置部が加圧状態であることを特徴とする経皮吸収型製剤である。
すなわち、薬物留置部における薬物保持部を加圧するための加圧手段として、薬物保持部の内部に、気泡を充填することにより、簡易な構造であっても、薬物留置部において容易に薬物が保持された薬物保持部を加圧することができる。また、このような構造であれば、薬物保持部を比較的高い圧力に加圧した場合であっても、一定形状を容易に維持することができる。
【0010】
また、本発明の経皮吸収型製剤を構成するにあたり、弾性部材が、発泡体であることが好ましい。
このように構成すると、薬物保持部内に容易に薬物を注入して、加圧した場合であっても、一定形状を容易に維持することができる。また、弾性部材が発泡体であれば、適度な圧力を薬物保持部に与えるとともに、使用時に一定速度で薬物を放出することができる。さらに、弾性部材が発泡体であれば、例えば打ち抜くことによって、側壁等を容易に製造することもできる。
【0011】
また、本発明の経皮吸収型製剤を構成するにあたり、薬物留置部の内表面および外表面、あるいはいずれか一方の面に、厚さ5〜2、000μmの液漏れ防止層が設けてあることが好ましい。
このように構成すると、注射針等によって機械的刺激を与えている最中や、機械的刺激が与えられた後に、機械的刺激によって設けられた開口部からの液漏れを有効に防止することができる。
【0012】
また、本発明の経皮吸収型製剤を構成するにあたり、薬物がオリゴマーや高分子であることが好ましい。
このように構成すると、従来実質的に使用することができなかった薬物を含む経皮吸収型製剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の経皮吸収型製剤およびそれらを用いた薬物の経皮吸収方法に関する実施の形態を、図面を適宜参照しながら、具体的に説明する。
【0014】
[第1の実施形態]
第1の実施形態は、図1または図2に例示するように、内部に薬物を保持するための薬物保持部21を備えた薬物留置部20と、当該薬物留置部20を支持するための接着剤層(第1の接着剤層)12および、厚さが1〜100μmの範囲内の値である薬物不透過性の基材(第1の薬物不透過性の基材)11からなる支持部13と、を含む経皮吸収型製剤10であって、薬物留置部20に、薬物19が保持された薬物保持部21を加圧するための加圧手段としての、弾性部材14が備えてあるか、あるいは、気泡32が充填されてあるとともに、支持部13における薬物不透過性の基材11が、外部からの機械的刺激としての針状物によって破断可能であることを特徴とする経皮吸収型製剤薬物10である。
以下、経皮吸収型製剤の構成要件ごとに、具体的に説明する。
【0015】
1.薬物留置部
(1)形態
薬物留置部は、加圧状態において、薬物保持部に薬物を一定時間保持することができるとともに、少なくとも薬物不透過性の基材が破断した場合には、薬物を徐々に放出することができる形態であることが好ましい。また、薬物留置部の製造についても、容易な形態であることが好ましい。したがって、薬物留置部の外形が、図1〜図3に示すように矩形や、図4〜図6に示すように円筒形であることが好ましい。なお、図4および図6においては、円筒形の薬物留置部の内部状態がよく理解できるように、二分割した斜視断面を示している。
また、図1に示すように、薬物留置部20の側壁を弾性部材14から構成するとともに、薬物留置部20の外形を円筒形または矩形にした場合、かかる側壁の厚さを通常、1〜10mmの範囲内の値とし、側壁の高さを、通常、1〜50mmの範囲内の値とすることが好ましい。
なお、薬物は通常、水、エタノールなどの溶媒に混合するか、あるいは分散した薬液の状態で用いられる。その場合、薬物濃度は適宜選定すればよいが、通常、全体量に対して、0.01〜90重量%の範囲内の値とすることが好ましく、0.1〜50重量%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0016】
(2)薬物
また、薬物保持部に保持される薬物の種類は特に制限されるものではないが、例えば、ニトログリセリン(狭心症薬)、硝酸イソソルビト(狭心症薬)、クロニジン(高血圧症薬)、ツロブテロール(気管支喘息薬)、エベリゾン(筋肉痛薬)、サリチル酸(筋肉痛薬)、エストラジオール(ホルモン剤)、フェンニタル(癌性疼痛緩和剤)、スコボラミン(乗物酔止め薬)、リドカイン(麻酔薬)、ニコチン(禁煙補助剤)等の一種単独または二種以上の組み合わせが挙げられる。
また、薬物の種類に関して、一般に経皮吸収に適さないオリゴマーや高分子であっても良い。すなわち、薬物が、分子量500〜10万の範囲のオリゴマーまたは高分子、特に水溶性のオリゴマーや高分子であっても、皮膚を透過させることが可能となる。このような薬物の例としては、インシュリン(糖尿病治療薬)、カルシトニン(骨粗しょう治療薬)、バソプレシン(利尿薬)等が挙げられる。
また、薬物保持部に保持される薬物中に、吸収促進剤、例えば、アルコール類、グリコール類、植物油等を所定量添加してもよい。
【0017】
(3)加圧条件
薬物保持部の加圧条件は、薬物保持部に保持される薬物の種類、粘度、濃度等を考慮して定めることが好ましいが、例えば、薬物保持部の初期圧力を1.05×105〜2×105Paの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる薬物保持部の初期圧力が1.05×105Pa未満の値になると、薬物がオリゴマーや高分子の場合の透過速度が著しく低下する場合があるためであり、一方、かかる薬物保持部の初期圧力が2×105Paを超えると、薬物の透過速度が著しく速くなったり、薬物保持部が破損したりする場合があるためである。
したがって、薬物保持部の初期圧力を1.1×105〜1.8×105Paの範囲内の値とすることがより好ましく、1.2×105〜1.7×105Paの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0018】
(4)浸透圧
また、薬物保持部の薬物の浸透圧が、体液の浸透圧よりも高いことが好ましい。この理由は、加圧による薬物の放出のみならず、かかる薬物の浸透圧を利用することにより、一般に経皮吸収に適さないオリゴマーや高分子であっても、さらに容易にしかも持続して経皮吸収させることができるためである。
なお、具体的に、薬物の浸透圧を300〜500mOsmの範囲内の値とすることが好ましい。
【0019】
(5)分割タイプ
また、図7(a)に示すように、薬物留置部20を分割し、複数のセル、例えば、2〜10個のセルからなる薬物保持部21を備えた経皮吸収型製剤70とすることもできる。
なお、図7(b)に、薬物留置部20及び薬物保持部21の構成が容易に理解できるように、二つの空間部を有する弾性部材14からなる側壁の斜視図を示す。
【0020】
2.支持部
(1)構成
支持部は、図1に示すように、内部に薬物19が保持された薬物保持部21を備えた薬物留置部20を支持するための接着剤層12および薬物不透過性の基材11からなる構成である。そして、少なくとも外部からの機械的刺激によって薬物不透過性の基材11を破断することが可能であれば、特にその構成は制限されるものではないが、例えば、接着剤層12を介して薬物留置部20を貼付することができるとともに、薬物保持部21が加圧状態であっても、薬物が液漏れすることがなく、しかも薬物留置部20を所定形状に保持できる構成であることが好ましい。
したがって、支持部13は、図1〜図3に示すように、平面形状を矩形としたり、あるいは図4〜図6に示すように円筒形とした薬物留置部20に対応させた形状とすることが好ましい。
一方、支持部13の厚さが過度に厚くなると、皮膚等に貼付するのに取扱いが困難となるばかりか、剥がれやすくなる場合がある。したがって、支持部の断面形状としては、図1等に示すように、薄膜のフィルム状であることが好ましい。
【0021】
(2)薬物不透過性の基材
(2)−1 種類
また、支持部における薬物不透過性の基材の種類は特に制限されるものではないが、プラスチックフィルム、例えば、ポリエステルフィルム、ポリアミドフィルム、ポリオレフィンフィルム、ポスチレンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、フッ素樹脂フィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリサルフォンフィルム、ポリイミドフィルム、シリコーン樹脂フィルム等であることが好ましい。
この理由は、このような種類の基材であれば、機械的強度や耐久性が適当であるため、薬物保持部を加圧した場合であっても、基材から薬物が染み出たり、基材が過度に変形したりすることが少ないためである。また、このような種類の基材であれば、破断強度も適当であることから、注射針等の機械的刺激によって、容易に破断することができるためである。さらに、このような基材であれば、その両面に薬物留置部および接着剤層等をそれぞれ積層することができるため、経皮吸収型製剤の製造が極めて容易になるためである。
なお、基材の薬物不透過性については、後述する加圧条件において、顕著な薬物の液漏れが無いことを言う。
【0022】
(2)−2 厚さ
また、支持部における薬物不透過性の基材の厚さを1〜100μmの範囲内の値とすることを特徴とする。
この理由は、かかる薬物不透過性の基材の厚さが1μm未満の値になると、薬物留置部を支持したり、接着剤層を積層したりすることが困難となる場合があるためである。一方、かかる基材の厚さが100μmを超えると、皮膚等の凹凸面に追随して接着することが困難となったり、注射針等の機械的刺激によって、容易に破断したりすることが困難となる場合があるためである。
したがって、支持部における薬物不透過性の基材の厚さを10〜100μmの範囲内の値とすることがより好ましく、15〜50μmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0023】
(2)−3 破断部
また、支持部における薬物不透過性の基材に、例えば、図8(a)に示すようなスリット90、図8(b)に示すようなスコア線91、図8(c)に示すようなエンボス92、図8(d)に示すようなミシン目93、または図8(e)に示すような薄肉部94等の少なくとも一つの破断部が設けてあることが好ましい。
この理由は、このような破断部を設けることによって、注射針等の外部からの機械的刺激によって、本来破断することが困難な基材であっても、容易に破断することができるとともに、所定場所以外の基材における破断を有効に防止することができるためである。
なお、加圧状態にあっても、破断したり、薬物漏れを生じたりしないように、図8(a)に示すようなスリット90、図8(b)に示すようなスコア線91、図8(c)に示すようなエンボス92、および図8(d)に示すようなミシン目93を設ける場合には、基材の中心部付近に、これらの破断部が設けてあることが好ましい。また、このような破断部は、機械的刺激を与えるまでは、薬物不透過性の基材の厚み方向には貫通していないことが好ましい。
【0024】
(2)−4 透明性等
また、支持部における薬物不透過性の基材は、透明性あるいは半透明性を有することが好ましい。このように構成すると、かかる基材を通して、皮膚等の状況が目視することができるため、注射針等の外部からの機械的刺激によって、所定場所を正確に破断することができる。
なお、支持部における基材自体が透明性や半透明性を有する必要は必ずしもなく、支持部における基材の一部に開口部(窓部)や細孔が設けてあり、下地としての皮膚等が認識できるものであれば良い。
【0025】
(2)−5 配置
また、薬物不透過性の基材は、少なくとも支持部に設けることができるが、その他、図1(a)および(b)に示すように、薬物不透過性の基材11を支持部13ばかりでなく、薬物留置部20の天井部に対しても用いることも好ましい。
この場合、少なくとも二箇所にわたって基材を破断する必要が生じるが、その分、加圧した場合であっても変形がさらに少なくなり、使用前の薬物漏れを十分に防ぐことができる。また、天井部に薬物不透過性の基材を用いることにより、液漏れ防止層を形成する場合の基材としての機能を発揮することができる。したがって、液漏れ防止層を均一な厚さで、しかも容易に設けることができる。
また、図2(a)および(b)に示すように、支持部の基材11を延設して、薬物留置部の側壁の一部または全部とすることも好ましい。このように構成すると、加圧した場合であっても薬物留置部の変形が少なくなり、しかも、使用前の薬物の液漏れを十分に防ぐことができる。
さらに、図3(a)に示すように、薬物不透過性の基材11を支持部13ばかりでなく、薬物留置部20の側壁および天井部に対しても用い、薬物不透過性の基材11からなる概ね一体型の構造とすることも好ましい。そして、図3(a)に示すように、弾性部材を薬物不透過性の基材からなる側壁の一部に積層しておくことにより、薬物を効率的に加圧することができる一方、使用前の薬物漏れを十分に防ぐことができる。
なお、図3(a)に示すように、薬物留置部20の全体を薬物不透過性の基材から構成する場合、薬物留置部20の側壁および天井部に該当するキャップ状物を予め作成しておき、その中に弾性部材を充填した状態で、薬物不透過性の基材からなるフィルムに貼り付けた構造とすることも好ましい。このように構成すると、薬物保持部を効率的に加圧した場合であっても、薬物漏れを十分に防ぐことができる一方、製造することも極めて容易になる。
【0026】
(3)接着剤層
(3)−1 種類
支持部における接着剤層を構成する接着剤の種類は特に制限されるものではないが、例えば、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ゴム系粘着剤等が挙げられる。
また、加圧状態の薬物保持部を備えた薬物留置部を確実に支持するために、DSC測定により得られるこれら粘着剤のガラス転移温度を−40〜−10℃の範囲内の値にすることが好ましい。
また、薬物保持部を備えた薬物留置部を確実に支持し、経皮吸収剤を貼付して使用する際に、ずれが生じないようにするため、所定の耐クリ−プ性を有することが好ましいが、例えば、アクリル系粘着剤を使用した場合には、尿素化合物やイソシアネート化合物を用いて部分架橋を施すことが好ましい。また、シリコーン系粘着剤を使用した場合には、白金触媒を用いて部分架橋を施すことが好ましい。さらに、ゴム系粘着剤を使用した場合には、所定の耐クリ−プ性を得るために、ゴム成分として、SBS樹脂やSIS樹脂等の耐クリープ特性に優れた熱可塑性エラストマーを使用したり、あるいは、ゴム成分に自己架橋性成分を混合したりして、使用することが好ましい。
【0027】
(3)−2 配置及び厚さ
また、支持部13における接着剤層12の配置に関し、図1(a)および(b)に示すように、接着剤層12を薬剤不透過層11の全面に設けても良いし、あるいは一部に設けても良い。なお、全面に設けた場合であっても、注射針等の機械的刺激によって、容易に破断することが好ましい。
また、支持部における接着剤層の厚さを5〜1、000μmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる接着剤層の厚さが5μm未満の値になると、薬物留置部を支持したり、接着剤層を均一に積層したりすることが困難となる場合があるためである。一方、かかる接着剤層の厚さが1、000μmを超えると、皮膚等の凹凸面に追随して接着することが困難となったり、注射針等の機械的刺激によって、容易に破断することが困難となったりする場合があるためである。また、接着剤層の厚さが1、000μmを超えると、薬物を透過することが困難となる場合があるためである。
したがって、かかる接着剤層の厚さを10〜100μmの範囲内の値とすることがより好ましく、15〜50μmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0028】
(3)−3 透明性等
また、支持部における接着剤層は、透明性あるいは半透明性を有することが好ましい。この理由は、このように構成すると、接着剤層および薬物不透過性の基材等を通して、貼付した被着体である皮膚等の状況や位置を目視することができるためである。すなわち、外部からの機械的刺激、例えば注射針によって、基材とともに、支持部における接着剤層を認識した後に、正確かつ容易に破断することができるためである。
なお、薬物不透過性の基材と同様に、接着剤層自体が透明性や半透明性を有する必要は必ずしもなく、例えば、接着剤層が島状やライン状に積層してあり、接着剤層の一部に非塗布部や開口部があって、下地としての皮膚等が認識できるものであれば良い。
【0029】
3.加圧手段
薬物留置部に備えられる加圧手段は、薬物不透過性の基材を介して、薬物を容易にしかも持続して経皮吸収させることができる態様であって、以下の何れかの構成であることを特徴とする。
【0030】
(1)気泡による加圧
薬物保持部の内部に、図2(a)に示すように、気体(圧縮空気等)を充填し、気泡として存在させることにより、薬物19が保持された薬物保持部21を加圧するものである。また、かかる気体は、図2(b)に示すように、薬物19が保持された薬物保持部21に注射針等を利用して、液漏れ防止層を介して注入し、気泡として存在させることができる。
また、図9(a)に示すように、薬物留置部20において体積が膨張するような風船などの膨張部位81を設け、図9(b)に示すように、その中に気体を注入し、膨張部位81を拡大させることによって、薬物19が保持された薬物保持部を間接的に加圧することができる。
この理由は、このように構成すると、気体と、薬物とが完全に分離されるため、気泡の一部が薬物に溶解等することを有効に防止することができるためである。また、このように構成すると、薬物が放出されて内圧が低下した場合には、再度気体を注入して、初期圧に戻すことができるためである。
なお、このような膨張部位81を設けた場合には、膨張部位に注入する物質としては、気体に限らず、液体であっても良い。
【0031】
(2)弾性部材による加圧
図1に示すように、薬物留置部20の一部または全部を構成する部材を弾性部材から構成することにより、弾性部材の戻り変形力を利用して、薬物19が保持された薬物保持部21を加圧するものである。すなわち、薬物留置部20として、内部に薬物19を保持するための空間たる薬物保持部21を備えるとともに、平面形状が円形または矩形状の側壁等を作成し、それを加圧手段とすることができる。
このような弾性部材としては、シリコーンゴム、天然ゴム、クロロプレンゴム、イソプレンゴム、EVA、SBS、SIS、SBESあるいはNBRゴム等から構成されているゴム板を好適に使用することができる。かかるゴム板を使用することにより、加圧により適度に伸縮して、薬物を一定速度で放出することができる。
【0032】
また、弾性部材として、ポリエチレン発泡体やスチレン発泡体等の発泡体からなる弾性部材を使用することもより好ましい。この理由は、このような発泡体を使用することにより、薬物保持部内に容易に薬物を注入して、加圧した場合であっても、一定形状を容易に維持することができるためである。また、このような発泡体を用いることによって、適度な圧力を全体的に与えることができ、使用時において、一定速度で正確に薬物を放出することができるためである。さらに、弾性部材がこのように発泡体であれば、打ち抜き等によって、少なくとも側壁を容易に製造することができるためでもある。
なお、弾性部材の戻り変形力を有効に利用するために、薬物保持部の容積を100容量%としたときに、例えば、充填する薬物(薬液)の量を110〜300容量%の範囲内の値とすることが好ましい。
【0033】
4.破断手段
経皮吸収型製剤において、図1(b)や図3(b)に示すように、支持部13における薬物不透過性の基材11を破断するための機械的刺激、すなわち破断手段26は、支持部13の薬物不透過性の基材11を通して皮膚の一部を穿孔し、次いで破断手段26を取り除いた後に、薬物漏れを生じさせずに、薬物を徐々に放出することができる程度の針状物であれば良い。したがって、例えば、注射針(注射器)、ピン、画鋲、裁縫用針、ホチキス用針、針金、ナイフ等を少なくとも一つを使用することが好ましい。また、ジェットインジェクタ等の無針注射を使用することも可能である。
また、注射針(注射器)を使用する場合、好適例として、SUS製の25Gの注射針(外径0.45mm)や、SUS製針(太さ0.26mm、長さ1.55mm)が挙げられる。
なお、機械的刺激の物理的大きさ、例えば、注射針の太さによって、薬物の放出速度が著しく変化することが判明している。したがって、薬物の最適放出速度から算出して、機械的刺激の物理的大きさを決定することが好ましい。
【0034】
5.液漏れ防止層
また、第1の経皮吸収型製剤の構成するにあたり、薬物留置部の内表面および外表面、あるいはいずれか一方の面に、液漏れ防止層が設けてあることが好ましい。すなわち、図1に例示するように、薬物留置部20と、接着剤層12および薬物不透過性の基材11からなる支持部13とを含む経皮吸収型製剤10において、薬物留置部20の上方に、液漏れ防止層18を設けることが好ましい。
この理由は、かかる液漏れ防止層を設けることにより、注射針等によって機械的刺激が与えられた最中や、その後に、機械的刺激によって設けられた開口部等を介して、薬剤漏れ(液漏れ)が生じることを有効に防止することができるためである。
【0035】
また、液漏れ防止層の厚さを5〜2、000μmの範囲内の値とすることが好ましい。この理由は、液漏れ防止層の厚さが5μm未満の値になると、液漏れ防止効果が著しく低下したり、均一な厚さに形成したりすることが困難となる場合があるためである。一方、かかる液漏れ防止層の厚さが2、000μmを超えると、経皮吸収型製剤の厚さが過度に厚くなったり、形成するのに長時間かかったりする場合があるためである。
したがって、かかる液漏れ防止層の厚さを50〜1、000μmの範囲内の値とすることがより好ましく、100〜500μmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0036】
また、液漏れ防止層を構成する樹脂等の種類についても特に制限されるものではないが、例えば、シリコーンゴム、天然ゴム、クロロプレンゴム、イソプレンゴム、あるいはNBRゴム等から構成されていることが好ましい。
なお、図示はしないが、液漏れ防止層の外側に、剥離フィルム等を設けて、使用する前は、かかる剥離フィルム等によって液漏れ防止層を保護することも好ましい。
【0037】
6.製造方法
図4〜図6をそれぞれ参照しながら、第1の実施形態における経皮吸収型製剤の製造方法の2例を説明する。ただし、言うまでもなく、説明する製造方法に制限されるものでなく、適宜変形することができる。
【0038】
(1)製造方法1
図4に示す製造方法1は、経皮吸収型製剤の各構成部材を予め作成しておき、それらを合体して、例えば、円筒形の弾性部材14を含む経皮吸収型製剤50を効率的かつ短時間に製造する方法である。なお、この経皮吸収型製剤50は、薬物留置部20の上下面に、接着剤層15(下方から第1の接着剤層および第2の接着剤層)が設けてあり、それらの接着剤層15を介して、二つの薬物不透過性の基材11(下方から第1の薬物不透過性の基材および第2の薬物不透過性の基材)を備えた例である。
【0039】
(1)−1 A部材の準備
まず、第2の薬物不透過性の基材11上に、シリコーンゴム等からなる液漏れ防止層18を備えたA部材を準備する。なお、液漏れ防止層18の下方に薬物不透過性の基材11が設けてあるが、このように構成することにより、薬物留置部20上に液漏れ防止層18を均一かつ容易に形成することができるためである。また、図示はしないが、液漏れ防止層18の保護のために、剥離液漏れ防止層18の外側に、剥離フィルムを設けておくことも好ましい。なお、円筒形の経皮吸収型製剤を製造することから、予め、A部材を円形に切断しておくことが好ましい。
【0040】
(1)−2 B部材の準備
また、円筒形の弾性部材14、およびその上面および下面に形成された第1および第2の接着剤層15からなるB部材を準備する。
この場合、図4に示すように、B部材の取り扱いが容易になるように、上面および下面の接着剤層15のそれぞれ外側に、剥離フィルム17を設けておくことが好ましい。
【0041】
(1)−3 C部材の準備
さらに、薬物不透過性の基材11および接着剤層12からなる支持部13であるC部材を準備する。なお、C部材においても、図4に示すように、接着剤層12の外側に、取り扱いが容易なように、剥離フィルム24が設けてあることが好ましい。
【0042】
(1)−4 A〜C部材の積層および加圧処理
次いで、B部材の上面に設けてある剥離フィルム17を剥がした後、図4に矢印で示すように、円筒形の弾性部材14の上面に、液漏れ防止層18を備えた第2の薬物不透過性の基材11を第2の接着剤層15によって積層する。
同様に、B部材の下面に設けてある剥離フィルム17を剥がした後、図4に矢印で示すように、B部材における円筒形の弾性部材14の下面に、剥離フィルム24付きの支持部13における第1の薬物不透過性の基材11を、第1の接着剤層15によって積層する。
最後に、図示しないが、加圧処理として、液漏れ防止層18を介して、一例として、注射器により薬物保持部21に薬物19をその内容積以上に注入し、薬物保持部21に内圧を発生させた経皮吸収型製剤50とするものである。
このように実施することにより、粘着剤の種類や厚さ等を変化する場合であっても、容易に製造することができ、所望の経皮吸収型製剤を効率的に製造することができる。
【0043】
(2)製造方法2
図5および図6に示す製造方法2は、下方の支持部から順次に経皮吸収型製剤60を効率的に製造する方法であって、例えば、円筒形の弾性部材からなる経皮吸収型製剤を効率的かつ大量に製造する方法である。なお、この製造方法2でも、薬物保持部21の上下面に、接着剤層15(下方から第1の接着剤層および第2の接着剤層)が設けてあり、それらの接着剤層15を介して、二つの薬物不透過性の基材11(下方から第1の薬物不透過性の基材および第2の薬物不透過性の基材)を備えた経皮吸収型製剤60を製造する例を想定する。
【0044】
(2)−1 支持部の作成
まず、図5(a)に示すように、剥離フィルム24付きの接着剤層12を準備する。かかる接着剤層12は、通常のコーティング法や印刷法等を用いて形成することができる。
次いで、図5(b)に示すように、形成された接着剤層12の上に、第1の薬物不透過性の基材11を積層して、支持部を作成する。この場合、接着剤層12を利用して、第1の薬物不透過性の基材11をラミネートすることが好ましい。
【0045】
(2)−2 薬物留置部の作成
次いで、図5(c)に示すように、薬物不透過性の基材11の表面に、将来的に薬物留置部の側壁を構成する弾性部材14を、第1の接着剤層15により一面に積層する。かかる弾性部材14は、例えば、ラミネート法により積層することが好ましい。
次いで、カッター等により、経皮吸収型製剤の弾性部材14における薬物保持部21となる空間に相当する部分をくり抜き、薬物留置部とする。
【0046】
(2)−3 液漏れ防止層の作成
次いで、図5(d)に示すように、弾性部材14の表面に、第2の接着剤層15を形成した後、液漏れ防止層18を全面的に積層する。
【0047】
(2)−4 経皮吸収型製剤の作成
次いで、図6(e)および図6(f)に示すように、例えば、カッター16により、経皮吸収型製剤の外形に相当する部分をくり抜く。この場合、カッター等のせん断力を利用してくり抜くことが好ましいが、レーザーや水のジェット噴射等を利用してくり・BR>イくことも好ましい。
最後に、図6(g)に示すように、加圧処理として、液漏れ防止層18を介して、一例として注射針(注射器)26により薬物保持部21に薬物をその内容積以上に注入し、薬物保持部21に内圧を発生させた経皮吸収型製剤60とするものである。
このように実施することにより、経皮吸収型製剤60の製造を自動化することができ、流れ作業にて、所望の大きさの経皮吸収型製剤60を効率的に製造することができる。
【0048】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、内部に薬物を保持するための薬物保持部を備えた薬物留置部と、当該薬物留置部を支持するための接着剤層および、厚さが1〜100μmの範囲内の値である薬物不透過性の基材からなる支持部と、を含む経皮吸収型製剤を用いた薬物の経皮吸収方法であって、以下の工程を含むことを特徴とする薬物の経皮吸収方法である。
(1)経皮吸収型製剤を取り付ける工程(以下、取付工程と称する場合がある。)
(2)支持部における少なくとも薬物不透過性の基材を外部からの機械的刺激としての針状物によって破断する工程と(以下、破断工程と称する場合がある。)
(3)薬物留置部に設けた加圧手段としての、弾性部材、または、気泡により加圧しながら、薬物を徐々に放出させる工程
【0049】
1.取り付け工程
薬物を経皮吸収させたい箇所に、経皮吸収型製剤を貼付する工程である。接着剤層に貼付してある剥離部材をはがして、素手はもちろんのこと、ピンセット等の治具を用いて貼付することも好ましい。また、専用の貼付治具を用いて、経皮吸収型製剤を自動または半自動で貼付することも好ましい。
なお、貼付する経皮吸収型製剤の構成等は、第1の実施形態で説明したのと同様の内容とすることができるため、ここでの説明は省略する。
【0050】
2.破断工程
支持部の少なくとも薬物不透過性の基材を外部からの機械的刺激によって破断する工程である。すなわち、注射針(注射器)等を用いて外部から機械的刺激を付与して、支持部の薬物不透過性の基材を破断し、さらに皮膚を穿孔して、薬物を放出しやすくする工程である。
なお、機械的刺激を付与する場合、図1に示すように、薬物留置部20の周囲に液漏れ防止層18が設けてあることが好ましい。この理由は、薬物留置部20を介して、支持部13の薬物不透過性の基材11を破断し、次いで破断手段を取り除いた後であっても、液漏れが生じないばかりか、内圧が過度に低下することが少なくなるためである。
【0051】
3.薬物の放出工程
経皮吸収型製剤の内圧を利用して、薬物を徐々に放出する工程である。放出された薬物は、皮膚を透過して投与される。
ここで、薬物の好適な単位面積当たりの透過速度は、薬物の種類等にもよるが、通常、0.1〜1,000μg/cm2/hrの範囲内の値とすることが好ましい。この理由は、かかる単位面積当たりの透過速度が0.1μg/cm2/hr未満の値になると、薬物が所定濃度になるまでの時間が過度に長くなる場合があるためである。一方、かかる単位面積当たりの透過速度が1,000μg/cm2/hrを超えると、薬物の透過速度のばらつきが大きくなる場合があるためである。
【実施例】
【0052】
以下、実施例に基づいて本発明の経皮吸収型製剤を詳細に説明するが、言うまでもなく、本発明はこれらの実施例の記載によって限定されるものではない。
【0053】
[実施例1]
1.経皮吸収型製剤の作成
厚さ38μmの剥離フィルムSP−PET3801(リンテック株式会社製)の上に、乾燥後の厚さが25μmとなるようにアクリル系粘着剤を塗布した後、100℃で3分間乾燥して接着剤層を設け、さらに第1の薬物不透過性の基材(厚さ17μmのポリエチレンテレフタレートフィルム)を積層して支持部を作成した。
次いで、加圧手段としての弾性部材であるポリエチレン発泡体「ペフ」(東レ株式会社製)の両面にシリコーン粘着剤を塗布して、100℃、3分間の条件で乾燥し、厚さ15μmの接着剤層(第1の接着剤層、第2の接着剤層)を設けた。この接着剤層付きのポリエチレン発泡体を、支持部における第1の薬物不透過性の基材に対して、第1の接着剤層を介して積層した。なお、用いたシリコーン粘着剤は、X−40−3068(信越化学工業株式会社)100重量部に対して、触媒としてDX−3004(信越化学工業株式会社)2重量部を添加して調製したものである。
次いで、カッターを用いてポリエチレン発泡体の薬物保持部となる空間をくり抜き薬物留置部とした。なお、側壁の厚さを5mm、高さを1.5mmとした。
続いて、剥離フィルムSP−PET3801(リンテック株式会社製)の上に、シリコーン樹脂(ダウコーニング社製「SILASTIC MDX4−4210 Elastmer Base」)と架橋剤(ダウコーニング社製「Curing Agent」)の混合物(重量比10:1)を塗布し、100℃で7分間加熱した。作成した厚さ250μmのシリコーン膜からなる液漏れ防止層を、第2の接着剤層を介して、薬物留置部のポリエチレン発泡体に対して積層した。
このようにして、図1に例示する、下方から、剥離フィルム24と、アクリル系粘着剤層12と、第1の薬物不透過性の基材(厚さ17μmのPETフィルム)11と、ポリエチレン発泡体14からなる薬物保持部21と、シリコーン膜からなる液漏れ防止層18と、を含む経皮吸収型製剤10の筐体を作成した。
【0054】
なお、アクリル系粘着剤層は、溶液重合したアクリル系粘着剤溶液に、架橋剤としてのヘキサメチレンジエチレン尿素を、固形分換算で、アクリル系粘着剤100重両部に対して、0.2重量部添加して調製した。また、かかるアクリル系粘着剤溶液は、セパラブルフラスコ内に、アクリル酸n−ブチル65重量部と、アクリル酸2−エチルヘキシル32重量部と、アクリル酸3重量部と、からなるモノマー混合溶液100重量部に対して、酢酸エチル50重量部をさらに加えた後、ラジカル開始剤としてのアゾビスイソブチロニトリル0.25重量部を加え、さらに酢酸エチル80重量部を加えながら、窒素ガス雰囲気中、65℃、12時間の重合条件で、作成した。
【0055】
次いで、薬物留置部における薬剤保持部内に、液漏れ防止層を介して、注射器によって、濃度0.5重量%のFITCデキストラン水溶液(重量平均分子量:4000)を、内容積(100%)の165%に該当する量だけ注入し、FITCデキストラン水溶液に対して、ポリエチレン発泡体から内圧がかかるように充填した。
その際、薬物留置部の側壁を構成するポリエチレン発泡体の内壁は外側に向かって体積膨張したものの、外壁に至るまでのポリエチレン発泡体が体積膨張を吸収してしまい、外壁自体の膨張は特に観察されなかった。次いで、液漏れ防止層を介して、注射器を取り外し、実施例1の評価用の経皮吸収型製剤とした。
【0056】
2.経皮吸収型製剤のIn vitro評価
縦型拡散セルを構成し、ヘアレスラット(WBN/ILA−Ht、体重約200g)の皮膚を切り取って装着するとともに、当該ヘアレスラットの皮膚の角質層側に、図1に示す剥離フィルムを除去した経皮吸収型製剤を貼付した。
次いで、縦型拡散セルのレセプターに32℃の精製水を挿入した状態で、経皮吸収型製剤の液漏れ防止層を通して、注射針(26G)でヘアレスラットの皮膚を穿孔し、貫通させた。次いで、この注射針を液漏れ防止層から取り外した後、経皮吸収型製剤から、ヘアレスラットの皮膚を介して、レセプター内の精製水まで透過してくるFITCデキストラン濃度の累積量変化を測定した。
なお、精製水内のFITCデキストラン濃度の定量は、蛍光分光光度計RF−5300PC((株)島津製作所製)を用いて実施した。得られた結果を表1および図10に示す。
かかる結果から、測定されたFITCデキストラン濃度と、時間とが、ほぼ直線状に変化しており、重量平均分子量が4000のFITCデキストランが、一定速度で透過していることが確認された。また、注射針を液漏れ防止層から取り外した後であっても、デキストラン水溶液が漏れてくることは無かった。
【0057】
[実施例2および実施例3]
実施例1におけるFITCデキストランの重量平均分子量を4,000から、実施例2では20,000とし、実施例3では40,000としたほかは、実施例1と同様に経皮吸収型製剤を作成した。
次いで、実施例1と同様に、縦型拡散セルを用いて、ヘアレスラットの皮膚を透過してくるFITCデキストラン濃度の変化を測定した。それぞれ得られた結果を表1および図10に示す。
その結果、実施例2および実施例3とも、重量平均分子量が増加しているためと思われるが、それぞれ測定濃度自体は低下しているものの、それぞれFITCデキストラン濃度と、時間とが、ほぼ直線状に変化していた。したがって、重量平均分子量が20,000のFITCデキストランであっても、重量平均分子量が40,000のFITCデキストランであっても、一定速度で透過することが確認された。
【0058】
[実施例4]
1.経皮吸収型製剤の作成
実施例4では、実施例1における経皮吸収型製剤において、薬物留置部内へのFITCデキストランの充填量を内容積(100%)に対して、100%とする一方、注射器を用いて気泡を注入した。その際、薬物留置部の側壁を構成するポリエチレン発泡体の容積が10%程度膨張し、FITCデキストラン水溶液に内圧がかかるように圧縮空気を注入した。次いで、注射器を取り外し、実施例4の評価用の経皮吸収型製剤とした。
【0059】
2.経皮吸収型製剤の評価
実施例1と同様に、縦型拡散セルを用いて、ヘアレスラットの角質層を透過してくるFITCデキストラン濃度の変化を測定した。得られた結果を表1および図11に示す。
その結果、実施例4において、FITCデキストラン濃度と、時間とが、ほぼ直線状に変化していた。したがって、気泡を用いて加圧した場合であっても、重量平均分子量が4,000のFITCデキストランが、一定速度で透過することが確認された。
【0060】
[実施例5]
1.経皮吸収型製剤の作成
実施例1におけるFITCデキストラン水溶液を、濃度10U/mLのインシュリン(分子量約6000)水溶液に変えた以外は、実施例1と同様にして経皮吸収型製剤を作成した。
【0061】
2.経皮吸収型製剤のIn vivo皮膚透過実験による評価
ウレタン麻酔下のヘアレスラット(WBN/ILA−Ht,体重約200g)の腹部に剥離フィルムを除去した経皮吸収型製剤を貼付し、経皮吸収型製剤の液漏れ防止層を通して、注射針(26G)でヘアレスラットの腹部の皮膚を穿孔した。次いで、この注射針を液漏れ防止層から取り外した後、ヘアレスラットの血漿中インシュリン濃度を、インシュリン濃度測定キット「インシュリン・ダイナパック」(ダイナポット(株)製)を用いて、エンザイムアッセイ法により経時的に測定した。ヘアレスラットの血漿中インシュリン濃度は、1時間後では105μU/mL、3時間後では182μU/mL、5時間後では182μU/mLであった。この結果から、水溶性高分子の薬物であるインシュリンであっても皮膚を透過させて投与できることが確認された。なお、この場合でも、注射針を液漏れ防止層から取り外した後に、インシュリン水溶液が漏れてくることは無かった。
【0062】
[比較例1および2]
比較例1では、実施例1におけるポリエチレン発泡体からなる薬物留置部のかわりに、全体がPETフィルムからなる薬物留置部を用意するとともに、薬物に内圧が発生しないように、内容積(100%)に対して、90%となるように充填したほかは、実施例1と同様に経皮吸収型製剤を作成し、評価した。
また、比較例2では、比較例1において、さらに注射針による機械的刺激を付与しなかったほかは、比較例1と同様に経皮吸収型製剤を作成し、評価した。
それぞれ得られた結果を図10、11および表1に示す。かかる結果から理解されるように、比較例1では加圧されていないためと思われるが実施例1と比較した場合、その透過量は数%程度に減少し、比較例2では全く透過しないことが確認された。
【0063】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上の説明から明らかなように、本発明の経皮吸収型製剤によれば、薬物留置部における薬物保持部を加圧するとともに、外部からの機械的刺激によって基材を破断することにより、携帯性や貼付性に優れるとともに、一般に経皮吸収に適さないオリゴマーや高分子の薬物であっても、容易にしかも持続して経皮吸収させることが可能になった。
【0065】
また、本発明の経皮吸収型製剤によれば、通常の注射器による薬物投与と併用することにより、さらに効果的な薬物投与が可能となった。すなわち、注射器を用いて薬物を投与することにより、薬物の即効性が得られるとともに、続く経皮吸収型製剤によって、持続的な薬物投与が可能となり、血液中の薬物濃度をより一定に保つことが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】(a)弾性部材を用いた経皮吸収型製剤の構造を説明するために供する図である。(b)弾性部材を用いた経皮吸収型製剤の使用方法を説明するために供する図である。
【図2】(a)気泡を用いた経皮吸収型製剤の構造を説明するために供する図である。(b)経皮吸収型製剤中への気泡の充填方法を説明するために供する図である。
【図3】(a)基材配置が異なる経皮吸収型製剤の構造を説明するために供する図である。(b)基材配置が異なる経皮吸収型製剤の使用方法を説明するために供する図である。
【図4】経皮吸収型製剤の製造方法を説明するために供する図である。
【図5】経皮吸収型製剤の製造方法を説明するために供する図である。
【図6】経皮吸収型製剤の製造方法を説明するために供する図である。
【図7】薬物留置部を複数有する経皮吸収型製剤の構造を説明するために供する図である。
【図8】基材の構造を説明するために供する図である。
【図9】膨張部を有する経皮吸収型製剤の構造を説明するために供する図である。
【図10】弾性部材を用いた経皮吸収型製剤薬物の放出量と時間との関係を示す図である。
【図11】気泡を用いた経皮吸収型製剤薬物の放出量と時間との関係を示す図である。
【図12】従来のジェットインジェクタを用いた経皮吸収型製剤の構造を説明するために供する図である。
【図13】従来の微小ピンを有する経皮吸収型製剤の構成を説明するために供する図である。
【符号の説明】
【0067】
10、30、50、60、70:経皮吸収型製剤
11:薬物不透過性の基材
12:接着剤層
13:支持部
14:弾性部材
15:接着剤層
18:液漏れ防止層
19:薬物
20:薬物留置部
21:薬物保持部
24:剥離フィルム
26:機械的刺激(注射針)
32:気泡
【技術分野】
【0001】
本発明は、経皮吸収型製剤に関し、特に、一般に経皮吸収に適さないオリゴマーや高分子の薬物であっても、容易にしかも持続して経皮吸収させることが可能な経皮吸収型製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
速効性が望まれる場合の薬物の投与方法としては、注射が代表的なものである。さらに、近年、水圧を利用して薬物(薬液)を体内に送り込む方式のジェットインジェクタを用いた無針注射方法が開発され、インシュリンの皮下注射等に臨床応用されている。
しかしながら、注射やジェットインジェクタを用いた場合、薬物を一時的に体内に送り込むため、薬効を持続させるためには、頻回投与が必要になるという問題が見られた。
【0003】
また、持続的な薬物の投与方法として、薬物(薬液)のリザーバーと、接着剤層とからなる経皮吸収型製剤や、薬物のリザーバーと、薬物の放出量を制御するための放出制御膜と、接着剤層とからなる経皮吸収型製剤が各種提案されている。
ジェットインジェクタを用いた薬物投与の例としては、特許文献1(特開平7−255845号公報)には、図12に示すように、水圧によって皮膚の角質層に穴をあけるためのジェットインジェクタ102と、薬物106を収容するためのリザーバー112と、ジェットインジェクタ102による開口部を閉塞するための薬物透過性の接着剤層110と、を含み、該リザーバー112の天井部には、ジェットインジェクタ102による開口部を閉塞するためのラバー104が設けられた経皮吸収装置100およびそれを用いた薬物の経皮吸収促進方法が開示されている。
かかる経皮吸収装置100の場合、ジェットインジェクタ102によって、リザーバー112と接着剤層110を介して皮膚表面(図示せず。)に開口部を形成し、リザーバー112と血管中の薬物の濃度差を利用して、この開口部から薬物を経皮吸収させる方式である。
【0004】
また、特許文献2(特表平11−509123号公報)には、図13に示すように、薬物放出のための経皮吸収システムであって、薬物としての活性物質208を収容するためのリザーバー210と、活性物質を投与するための多数の微小ピン206または微小ブレードと、を備えるとともに、微小ピン206または微小ブレードの先端部に開口部204が設けられた経皮吸収システムが開示されている。
かかる経皮吸収システムの場合、リザーバー210の底面に設けられた多数の微小ピン206または微小ブレードを皮膚の角質層に押し込み、リザーバー210と血管中の薬物の濃度差による拡散を基本的に利用し、多数の微小ピン等の先端部に設けられた開口部204を介して、薬物としての活性物質208を経皮吸収させる方式である。
【特許文献1】特開平7−255845号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特表平11−509123号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1(特開平7−255845号公報)に開示された経皮吸収装置100およびそれを用いた薬物の経皮吸収促進方法によれば、皮膚表面の角質に穴を開けるものの、薬物の濃度差による拡散を基本的に利用しているため、薬物の透過量が不足する場合があり、特に薬物がオリゴマーや高分子の場合には、迅速に透過させることが困難であった。
【0006】
また、特許文献2(特表平11−509123号公報)に開示された経皮吸収装置200によれば、薬物208の移動が濃度差のみであるため、薬物208が極性を有する低分子化合物であればまだしも、オリゴマーや高分子である場合には、経皮吸収させることが困難であった。
また、多数の微小ピン206または微小ブレードを皮膚中に押し込んだ際に、先端部における開口部204が塞がってしまい、一定速度で薬物208を放出することが困難であった。
また、微小ピン206または微小ブレードを多数設ける必要があることから、製造が困難であるばかりか、微小ピン206等の長さが制限され、角質層の内部まで、薬物を放出することができなかった。
さらに、特許文献2(特表平11−509123号公報)に開示された経皮吸収装置200の好適例によれば、経皮吸収装置200のシステム内に、ポンプや圧電膜を導入することも提案されているが、今度は、経皮吸収装置が大規模になって、携帯性や経済性が損なわれるという新たな問題が見られた。
【0007】
そこで、本発明の発明者らは、上述した問題を解決すべく、鋭意検討した結果、薬物保持部を加圧するとともに、注射針等の機械的刺激によって基材を破断することにより、携帯性や貼付性に優れるとともに、幅広い種類の薬物に対して、持続して、しかも迅速に経皮吸収させることができることを見出し、本発明を完成させたものである。
すなわち、本発明は、簡易な構造であって、オリゴマーや高分子の薬物であっても、容易にしかも持続して経皮吸収させることが可能な経皮吸収型製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、内部に薬物を保持するための薬物保持部を備えた薬物留置部と、当該薬物留置部を支持するための接着剤層および厚さが1〜100μmの範囲内の値である薬物不透過性の基材からなる支持部と、を含む経皮吸収型製剤であって、薬物留置部における薬物保持部を加圧するための加圧手段として、薬物留置部の一部または全部が、薬物保持部に保持された薬物を加圧するための弾性部材から構成してあり、支持部における薬物不透過性の基材が、機械的刺激としての針状物によって破断可能であるとともに、薬物留置部が加圧状態であることを特徴とする経皮吸収型製剤が提供され、上述した問題点を解決することができる。
すなわち、かかる経皮吸収型製剤によれば、薬物留置部が、薬物が保持された薬物保持部を加圧するための加圧手段を備えているとともに、支持部における薬物不透過性の基材が、外部の機械的刺激によって、容易に破断するため、一般に経皮吸収に適さない薬物であっても、薬物不透過性の基材を介して、迅速にしかも持続して経皮吸収させることができる。
また、支持部において、接着剤層ばかりでなく、薬物不透過性の基材を有しているため、製造が容易となるばかりか、加圧した場合であっても、液漏れを生じたり、薬物留置部が過度に変形したりすることを有効に防止することができる。
また、上述した加圧手段を、薬物留置部の一部または全部としての弾性部材から構成することにより、簡易な構造であっても、薬物留置部において容易に薬物が保持された薬物保持部を加圧することができる。また、このような構造であれば、薬物保持部を比較的高い圧力に加圧した場合であっても、一定形状を容易に維持することができる。
また、上述した支持部における薬物不透過性の基材の厚さを1〜100μmの範囲内の値とすることにより、薬物保持部を加圧した場合であっても、過度に変形することが無い一方、このような基材であれば、注射針等の機械的刺激によって、容易に破断することができる。また、このように構成すると、かかる基材を利用して、その両面に薬物留置部および接着剤層等をそれぞれ積層によって設けることができるため、経皮吸収型製剤の製造が極めて容易になる。
さらに、上述した薬物不透過性の基材を、機械的刺激としての針状物によって破断可能とすることにより、ジェットインジェクタ等の特殊装置を用いずに、身近にある道具を用いて、支持部における薬物不透過性の基材を容易に破断することができる。また、注射針は先端が細いために、当該注射針の太さ等を制限することによって、外部からの機械的刺激の大きさを容易に制御することができるとともに、開口部等が設けられた場合であっても、液漏れを有効に防止することができる。
【0009】
また、本発明の別の態様は、内部に薬物を保持するための薬物保持部を備えた薬物留置部と、当該薬物留置部を支持するための接着剤層および厚さが1〜100μmの範囲内の値である薬物不透過性の基材からなる支持部と、を含む経皮吸収型製剤であって、薬物留置部における薬物保持部を加圧するための加圧手段として、薬物保持部の内部に、気泡が充填されており、支持部における薬物不透過性の基材が、機械的刺激としての針状物によって破断可能であるとともに、薬物留置部が加圧状態であることを特徴とする経皮吸収型製剤である。
すなわち、薬物留置部における薬物保持部を加圧するための加圧手段として、薬物保持部の内部に、気泡を充填することにより、簡易な構造であっても、薬物留置部において容易に薬物が保持された薬物保持部を加圧することができる。また、このような構造であれば、薬物保持部を比較的高い圧力に加圧した場合であっても、一定形状を容易に維持することができる。
【0010】
また、本発明の経皮吸収型製剤を構成するにあたり、弾性部材が、発泡体であることが好ましい。
このように構成すると、薬物保持部内に容易に薬物を注入して、加圧した場合であっても、一定形状を容易に維持することができる。また、弾性部材が発泡体であれば、適度な圧力を薬物保持部に与えるとともに、使用時に一定速度で薬物を放出することができる。さらに、弾性部材が発泡体であれば、例えば打ち抜くことによって、側壁等を容易に製造することもできる。
【0011】
また、本発明の経皮吸収型製剤を構成するにあたり、薬物留置部の内表面および外表面、あるいはいずれか一方の面に、厚さ5〜2、000μmの液漏れ防止層が設けてあることが好ましい。
このように構成すると、注射針等によって機械的刺激を与えている最中や、機械的刺激が与えられた後に、機械的刺激によって設けられた開口部からの液漏れを有効に防止することができる。
【0012】
また、本発明の経皮吸収型製剤を構成するにあたり、薬物がオリゴマーや高分子であることが好ましい。
このように構成すると、従来実質的に使用することができなかった薬物を含む経皮吸収型製剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の経皮吸収型製剤およびそれらを用いた薬物の経皮吸収方法に関する実施の形態を、図面を適宜参照しながら、具体的に説明する。
【0014】
[第1の実施形態]
第1の実施形態は、図1または図2に例示するように、内部に薬物を保持するための薬物保持部21を備えた薬物留置部20と、当該薬物留置部20を支持するための接着剤層(第1の接着剤層)12および、厚さが1〜100μmの範囲内の値である薬物不透過性の基材(第1の薬物不透過性の基材)11からなる支持部13と、を含む経皮吸収型製剤10であって、薬物留置部20に、薬物19が保持された薬物保持部21を加圧するための加圧手段としての、弾性部材14が備えてあるか、あるいは、気泡32が充填されてあるとともに、支持部13における薬物不透過性の基材11が、外部からの機械的刺激としての針状物によって破断可能であることを特徴とする経皮吸収型製剤薬物10である。
以下、経皮吸収型製剤の構成要件ごとに、具体的に説明する。
【0015】
1.薬物留置部
(1)形態
薬物留置部は、加圧状態において、薬物保持部に薬物を一定時間保持することができるとともに、少なくとも薬物不透過性の基材が破断した場合には、薬物を徐々に放出することができる形態であることが好ましい。また、薬物留置部の製造についても、容易な形態であることが好ましい。したがって、薬物留置部の外形が、図1〜図3に示すように矩形や、図4〜図6に示すように円筒形であることが好ましい。なお、図4および図6においては、円筒形の薬物留置部の内部状態がよく理解できるように、二分割した斜視断面を示している。
また、図1に示すように、薬物留置部20の側壁を弾性部材14から構成するとともに、薬物留置部20の外形を円筒形または矩形にした場合、かかる側壁の厚さを通常、1〜10mmの範囲内の値とし、側壁の高さを、通常、1〜50mmの範囲内の値とすることが好ましい。
なお、薬物は通常、水、エタノールなどの溶媒に混合するか、あるいは分散した薬液の状態で用いられる。その場合、薬物濃度は適宜選定すればよいが、通常、全体量に対して、0.01〜90重量%の範囲内の値とすることが好ましく、0.1〜50重量%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0016】
(2)薬物
また、薬物保持部に保持される薬物の種類は特に制限されるものではないが、例えば、ニトログリセリン(狭心症薬)、硝酸イソソルビト(狭心症薬)、クロニジン(高血圧症薬)、ツロブテロール(気管支喘息薬)、エベリゾン(筋肉痛薬)、サリチル酸(筋肉痛薬)、エストラジオール(ホルモン剤)、フェンニタル(癌性疼痛緩和剤)、スコボラミン(乗物酔止め薬)、リドカイン(麻酔薬)、ニコチン(禁煙補助剤)等の一種単独または二種以上の組み合わせが挙げられる。
また、薬物の種類に関して、一般に経皮吸収に適さないオリゴマーや高分子であっても良い。すなわち、薬物が、分子量500〜10万の範囲のオリゴマーまたは高分子、特に水溶性のオリゴマーや高分子であっても、皮膚を透過させることが可能となる。このような薬物の例としては、インシュリン(糖尿病治療薬)、カルシトニン(骨粗しょう治療薬)、バソプレシン(利尿薬)等が挙げられる。
また、薬物保持部に保持される薬物中に、吸収促進剤、例えば、アルコール類、グリコール類、植物油等を所定量添加してもよい。
【0017】
(3)加圧条件
薬物保持部の加圧条件は、薬物保持部に保持される薬物の種類、粘度、濃度等を考慮して定めることが好ましいが、例えば、薬物保持部の初期圧力を1.05×105〜2×105Paの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる薬物保持部の初期圧力が1.05×105Pa未満の値になると、薬物がオリゴマーや高分子の場合の透過速度が著しく低下する場合があるためであり、一方、かかる薬物保持部の初期圧力が2×105Paを超えると、薬物の透過速度が著しく速くなったり、薬物保持部が破損したりする場合があるためである。
したがって、薬物保持部の初期圧力を1.1×105〜1.8×105Paの範囲内の値とすることがより好ましく、1.2×105〜1.7×105Paの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0018】
(4)浸透圧
また、薬物保持部の薬物の浸透圧が、体液の浸透圧よりも高いことが好ましい。この理由は、加圧による薬物の放出のみならず、かかる薬物の浸透圧を利用することにより、一般に経皮吸収に適さないオリゴマーや高分子であっても、さらに容易にしかも持続して経皮吸収させることができるためである。
なお、具体的に、薬物の浸透圧を300〜500mOsmの範囲内の値とすることが好ましい。
【0019】
(5)分割タイプ
また、図7(a)に示すように、薬物留置部20を分割し、複数のセル、例えば、2〜10個のセルからなる薬物保持部21を備えた経皮吸収型製剤70とすることもできる。
なお、図7(b)に、薬物留置部20及び薬物保持部21の構成が容易に理解できるように、二つの空間部を有する弾性部材14からなる側壁の斜視図を示す。
【0020】
2.支持部
(1)構成
支持部は、図1に示すように、内部に薬物19が保持された薬物保持部21を備えた薬物留置部20を支持するための接着剤層12および薬物不透過性の基材11からなる構成である。そして、少なくとも外部からの機械的刺激によって薬物不透過性の基材11を破断することが可能であれば、特にその構成は制限されるものではないが、例えば、接着剤層12を介して薬物留置部20を貼付することができるとともに、薬物保持部21が加圧状態であっても、薬物が液漏れすることがなく、しかも薬物留置部20を所定形状に保持できる構成であることが好ましい。
したがって、支持部13は、図1〜図3に示すように、平面形状を矩形としたり、あるいは図4〜図6に示すように円筒形とした薬物留置部20に対応させた形状とすることが好ましい。
一方、支持部13の厚さが過度に厚くなると、皮膚等に貼付するのに取扱いが困難となるばかりか、剥がれやすくなる場合がある。したがって、支持部の断面形状としては、図1等に示すように、薄膜のフィルム状であることが好ましい。
【0021】
(2)薬物不透過性の基材
(2)−1 種類
また、支持部における薬物不透過性の基材の種類は特に制限されるものではないが、プラスチックフィルム、例えば、ポリエステルフィルム、ポリアミドフィルム、ポリオレフィンフィルム、ポスチレンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、フッ素樹脂フィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリサルフォンフィルム、ポリイミドフィルム、シリコーン樹脂フィルム等であることが好ましい。
この理由は、このような種類の基材であれば、機械的強度や耐久性が適当であるため、薬物保持部を加圧した場合であっても、基材から薬物が染み出たり、基材が過度に変形したりすることが少ないためである。また、このような種類の基材であれば、破断強度も適当であることから、注射針等の機械的刺激によって、容易に破断することができるためである。さらに、このような基材であれば、その両面に薬物留置部および接着剤層等をそれぞれ積層することができるため、経皮吸収型製剤の製造が極めて容易になるためである。
なお、基材の薬物不透過性については、後述する加圧条件において、顕著な薬物の液漏れが無いことを言う。
【0022】
(2)−2 厚さ
また、支持部における薬物不透過性の基材の厚さを1〜100μmの範囲内の値とすることを特徴とする。
この理由は、かかる薬物不透過性の基材の厚さが1μm未満の値になると、薬物留置部を支持したり、接着剤層を積層したりすることが困難となる場合があるためである。一方、かかる基材の厚さが100μmを超えると、皮膚等の凹凸面に追随して接着することが困難となったり、注射針等の機械的刺激によって、容易に破断したりすることが困難となる場合があるためである。
したがって、支持部における薬物不透過性の基材の厚さを10〜100μmの範囲内の値とすることがより好ましく、15〜50μmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0023】
(2)−3 破断部
また、支持部における薬物不透過性の基材に、例えば、図8(a)に示すようなスリット90、図8(b)に示すようなスコア線91、図8(c)に示すようなエンボス92、図8(d)に示すようなミシン目93、または図8(e)に示すような薄肉部94等の少なくとも一つの破断部が設けてあることが好ましい。
この理由は、このような破断部を設けることによって、注射針等の外部からの機械的刺激によって、本来破断することが困難な基材であっても、容易に破断することができるとともに、所定場所以外の基材における破断を有効に防止することができるためである。
なお、加圧状態にあっても、破断したり、薬物漏れを生じたりしないように、図8(a)に示すようなスリット90、図8(b)に示すようなスコア線91、図8(c)に示すようなエンボス92、および図8(d)に示すようなミシン目93を設ける場合には、基材の中心部付近に、これらの破断部が設けてあることが好ましい。また、このような破断部は、機械的刺激を与えるまでは、薬物不透過性の基材の厚み方向には貫通していないことが好ましい。
【0024】
(2)−4 透明性等
また、支持部における薬物不透過性の基材は、透明性あるいは半透明性を有することが好ましい。このように構成すると、かかる基材を通して、皮膚等の状況が目視することができるため、注射針等の外部からの機械的刺激によって、所定場所を正確に破断することができる。
なお、支持部における基材自体が透明性や半透明性を有する必要は必ずしもなく、支持部における基材の一部に開口部(窓部)や細孔が設けてあり、下地としての皮膚等が認識できるものであれば良い。
【0025】
(2)−5 配置
また、薬物不透過性の基材は、少なくとも支持部に設けることができるが、その他、図1(a)および(b)に示すように、薬物不透過性の基材11を支持部13ばかりでなく、薬物留置部20の天井部に対しても用いることも好ましい。
この場合、少なくとも二箇所にわたって基材を破断する必要が生じるが、その分、加圧した場合であっても変形がさらに少なくなり、使用前の薬物漏れを十分に防ぐことができる。また、天井部に薬物不透過性の基材を用いることにより、液漏れ防止層を形成する場合の基材としての機能を発揮することができる。したがって、液漏れ防止層を均一な厚さで、しかも容易に設けることができる。
また、図2(a)および(b)に示すように、支持部の基材11を延設して、薬物留置部の側壁の一部または全部とすることも好ましい。このように構成すると、加圧した場合であっても薬物留置部の変形が少なくなり、しかも、使用前の薬物の液漏れを十分に防ぐことができる。
さらに、図3(a)に示すように、薬物不透過性の基材11を支持部13ばかりでなく、薬物留置部20の側壁および天井部に対しても用い、薬物不透過性の基材11からなる概ね一体型の構造とすることも好ましい。そして、図3(a)に示すように、弾性部材を薬物不透過性の基材からなる側壁の一部に積層しておくことにより、薬物を効率的に加圧することができる一方、使用前の薬物漏れを十分に防ぐことができる。
なお、図3(a)に示すように、薬物留置部20の全体を薬物不透過性の基材から構成する場合、薬物留置部20の側壁および天井部に該当するキャップ状物を予め作成しておき、その中に弾性部材を充填した状態で、薬物不透過性の基材からなるフィルムに貼り付けた構造とすることも好ましい。このように構成すると、薬物保持部を効率的に加圧した場合であっても、薬物漏れを十分に防ぐことができる一方、製造することも極めて容易になる。
【0026】
(3)接着剤層
(3)−1 種類
支持部における接着剤層を構成する接着剤の種類は特に制限されるものではないが、例えば、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ゴム系粘着剤等が挙げられる。
また、加圧状態の薬物保持部を備えた薬物留置部を確実に支持するために、DSC測定により得られるこれら粘着剤のガラス転移温度を−40〜−10℃の範囲内の値にすることが好ましい。
また、薬物保持部を備えた薬物留置部を確実に支持し、経皮吸収剤を貼付して使用する際に、ずれが生じないようにするため、所定の耐クリ−プ性を有することが好ましいが、例えば、アクリル系粘着剤を使用した場合には、尿素化合物やイソシアネート化合物を用いて部分架橋を施すことが好ましい。また、シリコーン系粘着剤を使用した場合には、白金触媒を用いて部分架橋を施すことが好ましい。さらに、ゴム系粘着剤を使用した場合には、所定の耐クリ−プ性を得るために、ゴム成分として、SBS樹脂やSIS樹脂等の耐クリープ特性に優れた熱可塑性エラストマーを使用したり、あるいは、ゴム成分に自己架橋性成分を混合したりして、使用することが好ましい。
【0027】
(3)−2 配置及び厚さ
また、支持部13における接着剤層12の配置に関し、図1(a)および(b)に示すように、接着剤層12を薬剤不透過層11の全面に設けても良いし、あるいは一部に設けても良い。なお、全面に設けた場合であっても、注射針等の機械的刺激によって、容易に破断することが好ましい。
また、支持部における接着剤層の厚さを5〜1、000μmの範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる接着剤層の厚さが5μm未満の値になると、薬物留置部を支持したり、接着剤層を均一に積層したりすることが困難となる場合があるためである。一方、かかる接着剤層の厚さが1、000μmを超えると、皮膚等の凹凸面に追随して接着することが困難となったり、注射針等の機械的刺激によって、容易に破断することが困難となったりする場合があるためである。また、接着剤層の厚さが1、000μmを超えると、薬物を透過することが困難となる場合があるためである。
したがって、かかる接着剤層の厚さを10〜100μmの範囲内の値とすることがより好ましく、15〜50μmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0028】
(3)−3 透明性等
また、支持部における接着剤層は、透明性あるいは半透明性を有することが好ましい。この理由は、このように構成すると、接着剤層および薬物不透過性の基材等を通して、貼付した被着体である皮膚等の状況や位置を目視することができるためである。すなわち、外部からの機械的刺激、例えば注射針によって、基材とともに、支持部における接着剤層を認識した後に、正確かつ容易に破断することができるためである。
なお、薬物不透過性の基材と同様に、接着剤層自体が透明性や半透明性を有する必要は必ずしもなく、例えば、接着剤層が島状やライン状に積層してあり、接着剤層の一部に非塗布部や開口部があって、下地としての皮膚等が認識できるものであれば良い。
【0029】
3.加圧手段
薬物留置部に備えられる加圧手段は、薬物不透過性の基材を介して、薬物を容易にしかも持続して経皮吸収させることができる態様であって、以下の何れかの構成であることを特徴とする。
【0030】
(1)気泡による加圧
薬物保持部の内部に、図2(a)に示すように、気体(圧縮空気等)を充填し、気泡として存在させることにより、薬物19が保持された薬物保持部21を加圧するものである。また、かかる気体は、図2(b)に示すように、薬物19が保持された薬物保持部21に注射針等を利用して、液漏れ防止層を介して注入し、気泡として存在させることができる。
また、図9(a)に示すように、薬物留置部20において体積が膨張するような風船などの膨張部位81を設け、図9(b)に示すように、その中に気体を注入し、膨張部位81を拡大させることによって、薬物19が保持された薬物保持部を間接的に加圧することができる。
この理由は、このように構成すると、気体と、薬物とが完全に分離されるため、気泡の一部が薬物に溶解等することを有効に防止することができるためである。また、このように構成すると、薬物が放出されて内圧が低下した場合には、再度気体を注入して、初期圧に戻すことができるためである。
なお、このような膨張部位81を設けた場合には、膨張部位に注入する物質としては、気体に限らず、液体であっても良い。
【0031】
(2)弾性部材による加圧
図1に示すように、薬物留置部20の一部または全部を構成する部材を弾性部材から構成することにより、弾性部材の戻り変形力を利用して、薬物19が保持された薬物保持部21を加圧するものである。すなわち、薬物留置部20として、内部に薬物19を保持するための空間たる薬物保持部21を備えるとともに、平面形状が円形または矩形状の側壁等を作成し、それを加圧手段とすることができる。
このような弾性部材としては、シリコーンゴム、天然ゴム、クロロプレンゴム、イソプレンゴム、EVA、SBS、SIS、SBESあるいはNBRゴム等から構成されているゴム板を好適に使用することができる。かかるゴム板を使用することにより、加圧により適度に伸縮して、薬物を一定速度で放出することができる。
【0032】
また、弾性部材として、ポリエチレン発泡体やスチレン発泡体等の発泡体からなる弾性部材を使用することもより好ましい。この理由は、このような発泡体を使用することにより、薬物保持部内に容易に薬物を注入して、加圧した場合であっても、一定形状を容易に維持することができるためである。また、このような発泡体を用いることによって、適度な圧力を全体的に与えることができ、使用時において、一定速度で正確に薬物を放出することができるためである。さらに、弾性部材がこのように発泡体であれば、打ち抜き等によって、少なくとも側壁を容易に製造することができるためでもある。
なお、弾性部材の戻り変形力を有効に利用するために、薬物保持部の容積を100容量%としたときに、例えば、充填する薬物(薬液)の量を110〜300容量%の範囲内の値とすることが好ましい。
【0033】
4.破断手段
経皮吸収型製剤において、図1(b)や図3(b)に示すように、支持部13における薬物不透過性の基材11を破断するための機械的刺激、すなわち破断手段26は、支持部13の薬物不透過性の基材11を通して皮膚の一部を穿孔し、次いで破断手段26を取り除いた後に、薬物漏れを生じさせずに、薬物を徐々に放出することができる程度の針状物であれば良い。したがって、例えば、注射針(注射器)、ピン、画鋲、裁縫用針、ホチキス用針、針金、ナイフ等を少なくとも一つを使用することが好ましい。また、ジェットインジェクタ等の無針注射を使用することも可能である。
また、注射針(注射器)を使用する場合、好適例として、SUS製の25Gの注射針(外径0.45mm)や、SUS製針(太さ0.26mm、長さ1.55mm)が挙げられる。
なお、機械的刺激の物理的大きさ、例えば、注射針の太さによって、薬物の放出速度が著しく変化することが判明している。したがって、薬物の最適放出速度から算出して、機械的刺激の物理的大きさを決定することが好ましい。
【0034】
5.液漏れ防止層
また、第1の経皮吸収型製剤の構成するにあたり、薬物留置部の内表面および外表面、あるいはいずれか一方の面に、液漏れ防止層が設けてあることが好ましい。すなわち、図1に例示するように、薬物留置部20と、接着剤層12および薬物不透過性の基材11からなる支持部13とを含む経皮吸収型製剤10において、薬物留置部20の上方に、液漏れ防止層18を設けることが好ましい。
この理由は、かかる液漏れ防止層を設けることにより、注射針等によって機械的刺激が与えられた最中や、その後に、機械的刺激によって設けられた開口部等を介して、薬剤漏れ(液漏れ)が生じることを有効に防止することができるためである。
【0035】
また、液漏れ防止層の厚さを5〜2、000μmの範囲内の値とすることが好ましい。この理由は、液漏れ防止層の厚さが5μm未満の値になると、液漏れ防止効果が著しく低下したり、均一な厚さに形成したりすることが困難となる場合があるためである。一方、かかる液漏れ防止層の厚さが2、000μmを超えると、経皮吸収型製剤の厚さが過度に厚くなったり、形成するのに長時間かかったりする場合があるためである。
したがって、かかる液漏れ防止層の厚さを50〜1、000μmの範囲内の値とすることがより好ましく、100〜500μmの範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0036】
また、液漏れ防止層を構成する樹脂等の種類についても特に制限されるものではないが、例えば、シリコーンゴム、天然ゴム、クロロプレンゴム、イソプレンゴム、あるいはNBRゴム等から構成されていることが好ましい。
なお、図示はしないが、液漏れ防止層の外側に、剥離フィルム等を設けて、使用する前は、かかる剥離フィルム等によって液漏れ防止層を保護することも好ましい。
【0037】
6.製造方法
図4〜図6をそれぞれ参照しながら、第1の実施形態における経皮吸収型製剤の製造方法の2例を説明する。ただし、言うまでもなく、説明する製造方法に制限されるものでなく、適宜変形することができる。
【0038】
(1)製造方法1
図4に示す製造方法1は、経皮吸収型製剤の各構成部材を予め作成しておき、それらを合体して、例えば、円筒形の弾性部材14を含む経皮吸収型製剤50を効率的かつ短時間に製造する方法である。なお、この経皮吸収型製剤50は、薬物留置部20の上下面に、接着剤層15(下方から第1の接着剤層および第2の接着剤層)が設けてあり、それらの接着剤層15を介して、二つの薬物不透過性の基材11(下方から第1の薬物不透過性の基材および第2の薬物不透過性の基材)を備えた例である。
【0039】
(1)−1 A部材の準備
まず、第2の薬物不透過性の基材11上に、シリコーンゴム等からなる液漏れ防止層18を備えたA部材を準備する。なお、液漏れ防止層18の下方に薬物不透過性の基材11が設けてあるが、このように構成することにより、薬物留置部20上に液漏れ防止層18を均一かつ容易に形成することができるためである。また、図示はしないが、液漏れ防止層18の保護のために、剥離液漏れ防止層18の外側に、剥離フィルムを設けておくことも好ましい。なお、円筒形の経皮吸収型製剤を製造することから、予め、A部材を円形に切断しておくことが好ましい。
【0040】
(1)−2 B部材の準備
また、円筒形の弾性部材14、およびその上面および下面に形成された第1および第2の接着剤層15からなるB部材を準備する。
この場合、図4に示すように、B部材の取り扱いが容易になるように、上面および下面の接着剤層15のそれぞれ外側に、剥離フィルム17を設けておくことが好ましい。
【0041】
(1)−3 C部材の準備
さらに、薬物不透過性の基材11および接着剤層12からなる支持部13であるC部材を準備する。なお、C部材においても、図4に示すように、接着剤層12の外側に、取り扱いが容易なように、剥離フィルム24が設けてあることが好ましい。
【0042】
(1)−4 A〜C部材の積層および加圧処理
次いで、B部材の上面に設けてある剥離フィルム17を剥がした後、図4に矢印で示すように、円筒形の弾性部材14の上面に、液漏れ防止層18を備えた第2の薬物不透過性の基材11を第2の接着剤層15によって積層する。
同様に、B部材の下面に設けてある剥離フィルム17を剥がした後、図4に矢印で示すように、B部材における円筒形の弾性部材14の下面に、剥離フィルム24付きの支持部13における第1の薬物不透過性の基材11を、第1の接着剤層15によって積層する。
最後に、図示しないが、加圧処理として、液漏れ防止層18を介して、一例として、注射器により薬物保持部21に薬物19をその内容積以上に注入し、薬物保持部21に内圧を発生させた経皮吸収型製剤50とするものである。
このように実施することにより、粘着剤の種類や厚さ等を変化する場合であっても、容易に製造することができ、所望の経皮吸収型製剤を効率的に製造することができる。
【0043】
(2)製造方法2
図5および図6に示す製造方法2は、下方の支持部から順次に経皮吸収型製剤60を効率的に製造する方法であって、例えば、円筒形の弾性部材からなる経皮吸収型製剤を効率的かつ大量に製造する方法である。なお、この製造方法2でも、薬物保持部21の上下面に、接着剤層15(下方から第1の接着剤層および第2の接着剤層)が設けてあり、それらの接着剤層15を介して、二つの薬物不透過性の基材11(下方から第1の薬物不透過性の基材および第2の薬物不透過性の基材)を備えた経皮吸収型製剤60を製造する例を想定する。
【0044】
(2)−1 支持部の作成
まず、図5(a)に示すように、剥離フィルム24付きの接着剤層12を準備する。かかる接着剤層12は、通常のコーティング法や印刷法等を用いて形成することができる。
次いで、図5(b)に示すように、形成された接着剤層12の上に、第1の薬物不透過性の基材11を積層して、支持部を作成する。この場合、接着剤層12を利用して、第1の薬物不透過性の基材11をラミネートすることが好ましい。
【0045】
(2)−2 薬物留置部の作成
次いで、図5(c)に示すように、薬物不透過性の基材11の表面に、将来的に薬物留置部の側壁を構成する弾性部材14を、第1の接着剤層15により一面に積層する。かかる弾性部材14は、例えば、ラミネート法により積層することが好ましい。
次いで、カッター等により、経皮吸収型製剤の弾性部材14における薬物保持部21となる空間に相当する部分をくり抜き、薬物留置部とする。
【0046】
(2)−3 液漏れ防止層の作成
次いで、図5(d)に示すように、弾性部材14の表面に、第2の接着剤層15を形成した後、液漏れ防止層18を全面的に積層する。
【0047】
(2)−4 経皮吸収型製剤の作成
次いで、図6(e)および図6(f)に示すように、例えば、カッター16により、経皮吸収型製剤の外形に相当する部分をくり抜く。この場合、カッター等のせん断力を利用してくり抜くことが好ましいが、レーザーや水のジェット噴射等を利用してくり・BR>イくことも好ましい。
最後に、図6(g)に示すように、加圧処理として、液漏れ防止層18を介して、一例として注射針(注射器)26により薬物保持部21に薬物をその内容積以上に注入し、薬物保持部21に内圧を発生させた経皮吸収型製剤60とするものである。
このように実施することにより、経皮吸収型製剤60の製造を自動化することができ、流れ作業にて、所望の大きさの経皮吸収型製剤60を効率的に製造することができる。
【0048】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、内部に薬物を保持するための薬物保持部を備えた薬物留置部と、当該薬物留置部を支持するための接着剤層および、厚さが1〜100μmの範囲内の値である薬物不透過性の基材からなる支持部と、を含む経皮吸収型製剤を用いた薬物の経皮吸収方法であって、以下の工程を含むことを特徴とする薬物の経皮吸収方法である。
(1)経皮吸収型製剤を取り付ける工程(以下、取付工程と称する場合がある。)
(2)支持部における少なくとも薬物不透過性の基材を外部からの機械的刺激としての針状物によって破断する工程と(以下、破断工程と称する場合がある。)
(3)薬物留置部に設けた加圧手段としての、弾性部材、または、気泡により加圧しながら、薬物を徐々に放出させる工程
【0049】
1.取り付け工程
薬物を経皮吸収させたい箇所に、経皮吸収型製剤を貼付する工程である。接着剤層に貼付してある剥離部材をはがして、素手はもちろんのこと、ピンセット等の治具を用いて貼付することも好ましい。また、専用の貼付治具を用いて、経皮吸収型製剤を自動または半自動で貼付することも好ましい。
なお、貼付する経皮吸収型製剤の構成等は、第1の実施形態で説明したのと同様の内容とすることができるため、ここでの説明は省略する。
【0050】
2.破断工程
支持部の少なくとも薬物不透過性の基材を外部からの機械的刺激によって破断する工程である。すなわち、注射針(注射器)等を用いて外部から機械的刺激を付与して、支持部の薬物不透過性の基材を破断し、さらに皮膚を穿孔して、薬物を放出しやすくする工程である。
なお、機械的刺激を付与する場合、図1に示すように、薬物留置部20の周囲に液漏れ防止層18が設けてあることが好ましい。この理由は、薬物留置部20を介して、支持部13の薬物不透過性の基材11を破断し、次いで破断手段を取り除いた後であっても、液漏れが生じないばかりか、内圧が過度に低下することが少なくなるためである。
【0051】
3.薬物の放出工程
経皮吸収型製剤の内圧を利用して、薬物を徐々に放出する工程である。放出された薬物は、皮膚を透過して投与される。
ここで、薬物の好適な単位面積当たりの透過速度は、薬物の種類等にもよるが、通常、0.1〜1,000μg/cm2/hrの範囲内の値とすることが好ましい。この理由は、かかる単位面積当たりの透過速度が0.1μg/cm2/hr未満の値になると、薬物が所定濃度になるまでの時間が過度に長くなる場合があるためである。一方、かかる単位面積当たりの透過速度が1,000μg/cm2/hrを超えると、薬物の透過速度のばらつきが大きくなる場合があるためである。
【実施例】
【0052】
以下、実施例に基づいて本発明の経皮吸収型製剤を詳細に説明するが、言うまでもなく、本発明はこれらの実施例の記載によって限定されるものではない。
【0053】
[実施例1]
1.経皮吸収型製剤の作成
厚さ38μmの剥離フィルムSP−PET3801(リンテック株式会社製)の上に、乾燥後の厚さが25μmとなるようにアクリル系粘着剤を塗布した後、100℃で3分間乾燥して接着剤層を設け、さらに第1の薬物不透過性の基材(厚さ17μmのポリエチレンテレフタレートフィルム)を積層して支持部を作成した。
次いで、加圧手段としての弾性部材であるポリエチレン発泡体「ペフ」(東レ株式会社製)の両面にシリコーン粘着剤を塗布して、100℃、3分間の条件で乾燥し、厚さ15μmの接着剤層(第1の接着剤層、第2の接着剤層)を設けた。この接着剤層付きのポリエチレン発泡体を、支持部における第1の薬物不透過性の基材に対して、第1の接着剤層を介して積層した。なお、用いたシリコーン粘着剤は、X−40−3068(信越化学工業株式会社)100重量部に対して、触媒としてDX−3004(信越化学工業株式会社)2重量部を添加して調製したものである。
次いで、カッターを用いてポリエチレン発泡体の薬物保持部となる空間をくり抜き薬物留置部とした。なお、側壁の厚さを5mm、高さを1.5mmとした。
続いて、剥離フィルムSP−PET3801(リンテック株式会社製)の上に、シリコーン樹脂(ダウコーニング社製「SILASTIC MDX4−4210 Elastmer Base」)と架橋剤(ダウコーニング社製「Curing Agent」)の混合物(重量比10:1)を塗布し、100℃で7分間加熱した。作成した厚さ250μmのシリコーン膜からなる液漏れ防止層を、第2の接着剤層を介して、薬物留置部のポリエチレン発泡体に対して積層した。
このようにして、図1に例示する、下方から、剥離フィルム24と、アクリル系粘着剤層12と、第1の薬物不透過性の基材(厚さ17μmのPETフィルム)11と、ポリエチレン発泡体14からなる薬物保持部21と、シリコーン膜からなる液漏れ防止層18と、を含む経皮吸収型製剤10の筐体を作成した。
【0054】
なお、アクリル系粘着剤層は、溶液重合したアクリル系粘着剤溶液に、架橋剤としてのヘキサメチレンジエチレン尿素を、固形分換算で、アクリル系粘着剤100重両部に対して、0.2重量部添加して調製した。また、かかるアクリル系粘着剤溶液は、セパラブルフラスコ内に、アクリル酸n−ブチル65重量部と、アクリル酸2−エチルヘキシル32重量部と、アクリル酸3重量部と、からなるモノマー混合溶液100重量部に対して、酢酸エチル50重量部をさらに加えた後、ラジカル開始剤としてのアゾビスイソブチロニトリル0.25重量部を加え、さらに酢酸エチル80重量部を加えながら、窒素ガス雰囲気中、65℃、12時間の重合条件で、作成した。
【0055】
次いで、薬物留置部における薬剤保持部内に、液漏れ防止層を介して、注射器によって、濃度0.5重量%のFITCデキストラン水溶液(重量平均分子量:4000)を、内容積(100%)の165%に該当する量だけ注入し、FITCデキストラン水溶液に対して、ポリエチレン発泡体から内圧がかかるように充填した。
その際、薬物留置部の側壁を構成するポリエチレン発泡体の内壁は外側に向かって体積膨張したものの、外壁に至るまでのポリエチレン発泡体が体積膨張を吸収してしまい、外壁自体の膨張は特に観察されなかった。次いで、液漏れ防止層を介して、注射器を取り外し、実施例1の評価用の経皮吸収型製剤とした。
【0056】
2.経皮吸収型製剤のIn vitro評価
縦型拡散セルを構成し、ヘアレスラット(WBN/ILA−Ht、体重約200g)の皮膚を切り取って装着するとともに、当該ヘアレスラットの皮膚の角質層側に、図1に示す剥離フィルムを除去した経皮吸収型製剤を貼付した。
次いで、縦型拡散セルのレセプターに32℃の精製水を挿入した状態で、経皮吸収型製剤の液漏れ防止層を通して、注射針(26G)でヘアレスラットの皮膚を穿孔し、貫通させた。次いで、この注射針を液漏れ防止層から取り外した後、経皮吸収型製剤から、ヘアレスラットの皮膚を介して、レセプター内の精製水まで透過してくるFITCデキストラン濃度の累積量変化を測定した。
なお、精製水内のFITCデキストラン濃度の定量は、蛍光分光光度計RF−5300PC((株)島津製作所製)を用いて実施した。得られた結果を表1および図10に示す。
かかる結果から、測定されたFITCデキストラン濃度と、時間とが、ほぼ直線状に変化しており、重量平均分子量が4000のFITCデキストランが、一定速度で透過していることが確認された。また、注射針を液漏れ防止層から取り外した後であっても、デキストラン水溶液が漏れてくることは無かった。
【0057】
[実施例2および実施例3]
実施例1におけるFITCデキストランの重量平均分子量を4,000から、実施例2では20,000とし、実施例3では40,000としたほかは、実施例1と同様に経皮吸収型製剤を作成した。
次いで、実施例1と同様に、縦型拡散セルを用いて、ヘアレスラットの皮膚を透過してくるFITCデキストラン濃度の変化を測定した。それぞれ得られた結果を表1および図10に示す。
その結果、実施例2および実施例3とも、重量平均分子量が増加しているためと思われるが、それぞれ測定濃度自体は低下しているものの、それぞれFITCデキストラン濃度と、時間とが、ほぼ直線状に変化していた。したがって、重量平均分子量が20,000のFITCデキストランであっても、重量平均分子量が40,000のFITCデキストランであっても、一定速度で透過することが確認された。
【0058】
[実施例4]
1.経皮吸収型製剤の作成
実施例4では、実施例1における経皮吸収型製剤において、薬物留置部内へのFITCデキストランの充填量を内容積(100%)に対して、100%とする一方、注射器を用いて気泡を注入した。その際、薬物留置部の側壁を構成するポリエチレン発泡体の容積が10%程度膨張し、FITCデキストラン水溶液に内圧がかかるように圧縮空気を注入した。次いで、注射器を取り外し、実施例4の評価用の経皮吸収型製剤とした。
【0059】
2.経皮吸収型製剤の評価
実施例1と同様に、縦型拡散セルを用いて、ヘアレスラットの角質層を透過してくるFITCデキストラン濃度の変化を測定した。得られた結果を表1および図11に示す。
その結果、実施例4において、FITCデキストラン濃度と、時間とが、ほぼ直線状に変化していた。したがって、気泡を用いて加圧した場合であっても、重量平均分子量が4,000のFITCデキストランが、一定速度で透過することが確認された。
【0060】
[実施例5]
1.経皮吸収型製剤の作成
実施例1におけるFITCデキストラン水溶液を、濃度10U/mLのインシュリン(分子量約6000)水溶液に変えた以外は、実施例1と同様にして経皮吸収型製剤を作成した。
【0061】
2.経皮吸収型製剤のIn vivo皮膚透過実験による評価
ウレタン麻酔下のヘアレスラット(WBN/ILA−Ht,体重約200g)の腹部に剥離フィルムを除去した経皮吸収型製剤を貼付し、経皮吸収型製剤の液漏れ防止層を通して、注射針(26G)でヘアレスラットの腹部の皮膚を穿孔した。次いで、この注射針を液漏れ防止層から取り外した後、ヘアレスラットの血漿中インシュリン濃度を、インシュリン濃度測定キット「インシュリン・ダイナパック」(ダイナポット(株)製)を用いて、エンザイムアッセイ法により経時的に測定した。ヘアレスラットの血漿中インシュリン濃度は、1時間後では105μU/mL、3時間後では182μU/mL、5時間後では182μU/mLであった。この結果から、水溶性高分子の薬物であるインシュリンであっても皮膚を透過させて投与できることが確認された。なお、この場合でも、注射針を液漏れ防止層から取り外した後に、インシュリン水溶液が漏れてくることは無かった。
【0062】
[比較例1および2]
比較例1では、実施例1におけるポリエチレン発泡体からなる薬物留置部のかわりに、全体がPETフィルムからなる薬物留置部を用意するとともに、薬物に内圧が発生しないように、内容積(100%)に対して、90%となるように充填したほかは、実施例1と同様に経皮吸収型製剤を作成し、評価した。
また、比較例2では、比較例1において、さらに注射針による機械的刺激を付与しなかったほかは、比較例1と同様に経皮吸収型製剤を作成し、評価した。
それぞれ得られた結果を図10、11および表1に示す。かかる結果から理解されるように、比較例1では加圧されていないためと思われるが実施例1と比較した場合、その透過量は数%程度に減少し、比較例2では全く透過しないことが確認された。
【0063】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上の説明から明らかなように、本発明の経皮吸収型製剤によれば、薬物留置部における薬物保持部を加圧するとともに、外部からの機械的刺激によって基材を破断することにより、携帯性や貼付性に優れるとともに、一般に経皮吸収に適さないオリゴマーや高分子の薬物であっても、容易にしかも持続して経皮吸収させることが可能になった。
【0065】
また、本発明の経皮吸収型製剤によれば、通常の注射器による薬物投与と併用することにより、さらに効果的な薬物投与が可能となった。すなわち、注射器を用いて薬物を投与することにより、薬物の即効性が得られるとともに、続く経皮吸収型製剤によって、持続的な薬物投与が可能となり、血液中の薬物濃度をより一定に保つことが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】(a)弾性部材を用いた経皮吸収型製剤の構造を説明するために供する図である。(b)弾性部材を用いた経皮吸収型製剤の使用方法を説明するために供する図である。
【図2】(a)気泡を用いた経皮吸収型製剤の構造を説明するために供する図である。(b)経皮吸収型製剤中への気泡の充填方法を説明するために供する図である。
【図3】(a)基材配置が異なる経皮吸収型製剤の構造を説明するために供する図である。(b)基材配置が異なる経皮吸収型製剤の使用方法を説明するために供する図である。
【図4】経皮吸収型製剤の製造方法を説明するために供する図である。
【図5】経皮吸収型製剤の製造方法を説明するために供する図である。
【図6】経皮吸収型製剤の製造方法を説明するために供する図である。
【図7】薬物留置部を複数有する経皮吸収型製剤の構造を説明するために供する図である。
【図8】基材の構造を説明するために供する図である。
【図9】膨張部を有する経皮吸収型製剤の構造を説明するために供する図である。
【図10】弾性部材を用いた経皮吸収型製剤薬物の放出量と時間との関係を示す図である。
【図11】気泡を用いた経皮吸収型製剤薬物の放出量と時間との関係を示す図である。
【図12】従来のジェットインジェクタを用いた経皮吸収型製剤の構造を説明するために供する図である。
【図13】従来の微小ピンを有する経皮吸収型製剤の構成を説明するために供する図である。
【符号の説明】
【0067】
10、30、50、60、70:経皮吸収型製剤
11:薬物不透過性の基材
12:接着剤層
13:支持部
14:弾性部材
15:接着剤層
18:液漏れ防止層
19:薬物
20:薬物留置部
21:薬物保持部
24:剥離フィルム
26:機械的刺激(注射針)
32:気泡
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に薬物を保持するための薬物保持部を備えた薬物留置部と、当該薬物留置部を支持するための接着剤層および厚さが1〜100μmの範囲内の値である薬物不透過性の基材からなる支持部と、を含む経皮吸収型製剤であって、
前記薬物留置部における薬物保持部を加圧するための加圧手段として、前記薬物留置部の一部または全部が、前記薬物保持部に保持された薬物を加圧するための弾性部材から構成してあり、
前記支持部における薬物不透過性の基材が、機械的刺激としての針状物によって破断可能であるとともに、
前記薬物留置部が加圧状態であることを特徴とする経皮吸収型製剤。
【請求項2】
内部に薬物を保持するための薬物保持部を備えた薬物留置部と、当該薬物留置部を支持するための接着剤層および厚さが1〜100μmの範囲内の値である薬物不透過性の基材からなる支持部と、を含む経皮吸収型製剤であって、
前記薬物留置部における薬物保持部を加圧するための加圧手段として、前記薬物保持部の内部に、気泡が充填されており、
前記支持部における薬物不透過性の基材が、機械的刺激としての針状物によって破断可能であるとともに、
前記薬物留置部が加圧状態であることを特徴とする経皮吸収型製剤。
【請求項3】
前記弾性部材が、発泡体であることを特徴とする請求項1に記載の経皮吸収型製剤。
【請求項4】
前記薬物留置部の内表面および外表面、あるいはいずれか一方の面に、厚さ5〜2、000μmの液漏れ防止層が設けてあることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の経皮吸収型製剤。
【請求項5】
前記薬物が、オリゴマーまたは高分子であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の経皮吸収型製剤。
【請求項1】
内部に薬物を保持するための薬物保持部を備えた薬物留置部と、当該薬物留置部を支持するための接着剤層および厚さが1〜100μmの範囲内の値である薬物不透過性の基材からなる支持部と、を含む経皮吸収型製剤であって、
前記薬物留置部における薬物保持部を加圧するための加圧手段として、前記薬物留置部の一部または全部が、前記薬物保持部に保持された薬物を加圧するための弾性部材から構成してあり、
前記支持部における薬物不透過性の基材が、機械的刺激としての針状物によって破断可能であるとともに、
前記薬物留置部が加圧状態であることを特徴とする経皮吸収型製剤。
【請求項2】
内部に薬物を保持するための薬物保持部を備えた薬物留置部と、当該薬物留置部を支持するための接着剤層および厚さが1〜100μmの範囲内の値である薬物不透過性の基材からなる支持部と、を含む経皮吸収型製剤であって、
前記薬物留置部における薬物保持部を加圧するための加圧手段として、前記薬物保持部の内部に、気泡が充填されており、
前記支持部における薬物不透過性の基材が、機械的刺激としての針状物によって破断可能であるとともに、
前記薬物留置部が加圧状態であることを特徴とする経皮吸収型製剤。
【請求項3】
前記弾性部材が、発泡体であることを特徴とする請求項1に記載の経皮吸収型製剤。
【請求項4】
前記薬物留置部の内表面および外表面、あるいはいずれか一方の面に、厚さ5〜2、000μmの液漏れ防止層が設けてあることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の経皮吸収型製剤。
【請求項5】
前記薬物が、オリゴマーまたは高分子であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の経皮吸収型製剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−101169(P2009−101169A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−294543(P2008−294543)
【出願日】平成20年11月18日(2008.11.18)
【分割の表示】特願2002−52925(P2002−52925)の分割
【原出願日】平成14年2月28日(2002.2.28)
【特許番号】特許第4237819号(P4237819)
【特許公報発行日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【出願人】(501379823)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月18日(2008.11.18)
【分割の表示】特願2002−52925(P2002−52925)の分割
【原出願日】平成14年2月28日(2002.2.28)
【特許番号】特許第4237819号(P4237819)
【特許公報発行日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【出願人】(501379823)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]