説明

経皮適用のためのエルゴリン含有剤

本発明は、エルゴリン化合物、好ましくはリスリドを含有し、エルゴリン化合物がその中で安定化されている経皮治療系に関する。酸化感受性エルゴリン化合物は、フリーラジカルを除去する少なくとも一つの脂溶性抗酸化剤(好ましくはジ−tert−ブチルメチルフェノール、ジ−tert−ブチルメトキシフェノール、トコフェロール又はユビキノン)と、塩基性ポリマーとの組み合わせによって安定化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不透過性の最上層と、エルゴリン化合物を含有するマトリックスと、場合により加えられる、貫通増強剤と、場合により設けられる、前記マトリックスを被覆する拡散障壁と、これらの物質に対して透過性である接着層と、及び剥離可能な保護層とからなる、経皮適用剤に関する。経皮治療系中のエルゴリン誘導体、特にリスリドが安定化されることになる。
【背景技術】
【0002】
エルゴリン誘導体を含有する公知の経皮治療系は、ドーパミン作動系の疾患によって引き起こされる疾病を治療するために使用されている(WO 92/20339、WO 91/00746)。それらは、パーキンソン病、パーキンソニズム、下肢静止不能症候群の治療、月経前症候群の予防、及び乳汁分泌阻害剤として特に適していると思われる(DE 100 43 321)。それらは、偏頭痛の予防に使用される場合があり、この場合にも、耐容性に優れた持続的治療が必要とされる。
【0003】
経皮治療系は、いわゆるマトリックス系として設計され得る。マトリックス系は、典型的には、不透過性の最上層と、活性剤製剤がその中に埋め込まれ、又は溶解されているマトリックスと、(マトリックス自体が接着性でなければ)接着層と剥離可能な保護層とからなる。
【0004】
活性剤は、定まった均一の流動を達成するために、典型的には、溶媒、貫通増強剤及び結晶化阻害剤などの適切な補助剤と組み合わされる。
【0005】
酸化感受性の活性剤を用いた経皮治療系はあまり安定でないことが知られている。DE 100 54 713 A1は、これらの系の安定性を改善する方法について記載する文書の一つである。本系の全ての製剤成分は、(酸化力の指標として)それらの過酸化物価の合計が20を超えないように選択される。しかしながら、このことは、使用可能な成分が限定されること、又は既存の過酸化物を破壊するために、各成分を亜硫酸水素ナトリウムで前処理する手間が非常にかかることを意味する。
【0006】
しかし、エルゴリン誘導体の従来調製物に伴う問題は、活性剤自体の不安定性である。エルゴリン誘導体を有する経皮治療系は変色を示し、通例、しばらくすると、活性剤の濃度の低下を伴う。これは、エルゴリン誘導体が酸化に対してかなりの感受性を有するからである。例えば、リスリドは、光に対して一切曝露されなくても、環系の6位の窒素が酸化される。
【0007】
これは、特に、長期間にわたって使用したときに、皮膚のかぶれを引き起こす。活性剤の濃度の低下は未知であるので、もはや制御された投薬量を確保することができない。
【0008】
クエン酸、アスコルビン酸、亜硫酸ナトリウム、二亜硫酸ナトリウム、没食子酸アルキル、アスコルビン酸パルミテートなどの、安定剤として典型的に使用される抗酸化剤は、実質的な改善を全くもたらさない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
保存に対して抵抗性があるエルゴリン誘導体を含有し、炎症を引き起こさずに、長期間にわたって活性剤が皮膚上に留まることができるように、活性剤の崩壊が抑制される経皮治療系を提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、フリーラジカルを消去する少なくとも一つの脂溶性抗酸化剤(好ましくは、ジ−tert−ブチル メチルフェノレン、ジ−tert−ブチルメトキシフェノレン、トコフェロール又はユビキノン)と塩基性ポリマーの組み合わせによって、経皮治療系中のエルゴリン誘導体が安定化されることから、この目的が達成される。
【0011】
上記抗酸化剤の一つが単独で存在しても、エルゴリン誘導体の安定性を全く有意に改善しないことが研究によって示されている。
【0012】
上記抗酸化剤に加えて、ブチル メタクリレート−(2−ジメチルアミノエチル)メタクリレート−メチル メタクリレート共重合体(Eudragit E 100、Roehm、ドイツより)などの塩基性ポリマーがその中に存在する経皮治療系は、驚くほど高い安定性を示す。塩基性ポリマーは、中性ポリアクリレートのような他の一般的なポリマーとの混合物中に存在してもよい。さらに、前記ポリマー混合物は、接着を改善するために、一般的な粘着付与剤(樹脂又はポリアクリレートなど)を含有し得る。
【0013】
本発明の系は、典型的には、2から10mg/cmの単位面積当たり重量を有する。これは、乾燥後の全成分の全てからもたらされる。マトリックス形成ポリマーの含量は、50から95重量%、好ましくは60から85%である。他のポリマーは、5から30重量%、好ましくは10から20%を占める。抗酸化剤の含量は、0.25から5重量%、好ましくは0.5から1.5%である。活性成分の含量は、1から10重量%、好ましくは3から6%である。
【0014】
本発明に係る組み合わせは、経皮系中のエルゴリン誘導物の酸化を阻止する予期せぬ相乗効果を有する。
【0015】
典型的な実施形態:
【実施例1】
【0016】
様々な抗酸化剤とポリマーの組み合わせを含有する試料を用いて安定性研究を行った。
【0017】
使用した活性剤はリスリドであった。本試料は、経皮治療系で一般的に使用される他の補助剤をさらに含有した。
【0018】
試料の調製:
2−プロパノールとアセトンの混合物中のポリマー接着剤の約50%溶液900gに、攪拌しながら、室温で、150gのポリビドン及び300gのセバシン酸ジブチルを柔軟剤として、並びに20gのFloral E 105(含水コロホニウムペンタエルスライトエステル、Herculesより)を粘着付与剤として、逐次添加する。次いで、50gのリスリド及び15gの抗酸化剤を溶媒の一部に予め懸濁し、継続的に攪拌した前記接着剤溶液に添加する。前記成分が完全に溶解したら、アセトンを用いて、前記溶液をその最終重量とし、気泡を除去するために約24時間静置する。続いて、揮発性溶媒が40から90℃で除去された後に、約5mg/cmの単位面積当たり重量の均一なフィルムが形成されるように、適切なコーティング装置(ナイフオーバーロールなど)を用いて、シリコン処理されたポリエステルフィルム(ライナーフィルム)に、この溶液を塗布する。次いで、ポリエステル製の最上部フィルムで、生成物を被覆する。このようにして得られたラミネートを、適切な穿孔装置を使用して、10cmの面積を有する個別のパッチへと分割し、アルミニウム/紙複合フィルム製の不透明な袋に入れる。
【0019】
表1に、調べた試料の組成を示す。
【0020】
【表1】

【0021】
保存:
前記試料は、以下の条件で保存した。
【0022】
a)4℃、
b)25℃及び60%の湿度、
c)40℃及び75%の湿度。
【0023】
保存の一ヵ月後に、エルゴリン環系の6位の窒素が酸化されることによって得られたアミノキシド(リスリド−N−オキシド)の濃度を測定した。
【0024】
アミノキシド含量の測定:
アミノキシドの量は、以下のパラメータを有するHPLC法を用いて測定した。
【0025】
カラム:Luna C18(II)、100mm×4.6mm ID
プレカラム:Phenomenex C18、4mm×3mm ID
カラム温度:35℃
稼働時間:30分
流速:1.20mL/分
移動相:A:10mM TRIS緩衝液、pH8.7
B:アセトニトリル
グラジエントプロファイル:0から25分:12% B
25から27分:42% B
28から38分:12% B
検出:蛍光検出装置
試料の調製:
実施例1に記載されているとおりに作製されたリスリドパッチを秤量し、ライナーフィルムを除去した後、50mLの溶媒(2−プロパノール)中で15分間、震盪する。次いで、希釈剤(アセトニトリル)を用いて、5mLの溶液を20mLに希釈する。約2mLの本溶液を5,000rpmで2分間遠心し、透明な上清溶液をHPLC試料バイアル中に充填する。
【0026】
表2に、結果を示す。
【0027】
【表2】

【実施例2】
【0028】
様々な抗酸化剤と塩基性ポリアクリレートの組み合わせを含有する試料を用いて、安定性研究を行った。
【0029】
使用した活性剤はリスリドであった。本試料は、経皮治療系で一般的に使用される他の補助剤をさらに含有した。
【0030】
試料の調製:
アセトン中の塩基性ポリアクリレート接着剤の約45%溶液1800gに、攪拌しながら、室温で、175gのポリビドン及び310gのセバシン酸ジブチルを柔軟剤として、並びに175gのドデカノールを共溶媒として、逐次添加する。次いで、80gのリスリド及び17gの抗酸化剤を溶媒の一部に予め懸濁し、前記接着剤溶液に添加する。前記成分が完全に溶解した後、35gのFloralを粘着付与剤として添加する。アセトンを用いて、前記溶液をその最終重量とし、気泡を除去するために約24時間静置する。続いて、揮発性溶媒が40から90℃で除去された後に、約5mg/cmの単位面積当たり重量の均一なフィルムが形成されるように、適切なコーティング装置(ナイフオーバーロールなど)を用いて、シリコン処理されたポリエステルフィルム(ライナーフィルム)に、この溶液を塗布する。次いで、ポリエステル製の最上部フィルムで、生成物を被覆する。このようにして得られたラミネートを、適切な穿孔装置を使用して、10cmの面積を有する個別のパッチへと分割し、アルミニウム/紙複合フィルム製の不透明な袋に入れる。
【0031】
表3に、試料の組成を示す。
【0032】
【表3】

【0033】
保存:
試料を25℃と60%の湿度及び40℃と75%の湿度で保存した。アミノキシド濃度を保存の1ヶ月後及び3ヵ月後に測定した。
【0034】
アミノキシド含量の測定:
アミノキシド含量は、実施例1に記載したHPLC法を用いて測定した。
【0035】
表4に、安定性研究の結果を示す。
【0036】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
不透過性の最上層、エルゴリン化合物を含有するマトリックスおよび、場合により加えられる貫通増強剤、場合により前記マトリックスを被覆する拡散障壁、これらの物質に対して透過性である接着層、及び剥離可能な保護層とからなり、前記エルゴリン化合物が、抗酸化剤と塩基性ポリマーによって安定化されることを特徴とする、経皮適用のための剤。
【請求項2】
抗酸化剤がフリーラジカルと反応する化合物である、請求項1に記載の剤。
【請求項3】
抗酸化剤が、ジ−tert−ブチルメチルフェノール類、tert−ブチルメトキシフェノール類、トコフェロール類及び/又はユビキノン類から選択される、請求項1及び2に記載の剤。
【請求項4】
抗酸化剤が0.25重量%から5重量%の量で存在する、請求項1から3に記載の剤。
【請求項5】
塩基性ポリマーがアクリレート共重合体である、請求項1から4に記載の剤。
【請求項6】
アクリレート共重合体がブチルメタクリレート−(2−ジアミノエチル)メタクリレート−メタクリレート共重合体である、請求項1から5に記載の剤。
【請求項7】
塩基性ポリマーがマトリックス中又は接着層中に含有されている、請求項1から6に記載の剤。
【請求項8】
マトリックス中又は接着層中の塩基性ポリマーが粘着付与剤を含有する、請求項1から7に記載の剤。
【請求項9】
粘着付与剤が樹脂類及び/又は中性ポリアクリレート類を含有する、請求項1から8に記載の剤。
【請求項10】
1から20重量%の粘着付与剤を含有することを特徴とする、請求項1から9に記載の剤。
【請求項11】
2から10重量%の粘着付与剤を含有することを特徴とする、請求項1から10に記載の剤。
【請求項12】
エルゴリン化合物がリスリド又はプロテルグリドである、請求項1から11に記載の剤。
【請求項13】
ドーパミンを用いて治療することができる疾病の予防及び治療のための、請求項1から12に記載の剤の使用。
【請求項14】
パーキンソン病の治療のための、下肢静止不能症候群、月経前症候群の治療及び予防のための、並びに乳汁分泌阻害及び偏頭痛の予防のための請求項1から13に記載の剤の使用。

【公表番号】特表2007−504257(P2007−504257A)
【公表日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−525610(P2006−525610)
【出願日】平成16年5月30日(2004.5.30)
【国際出願番号】PCT/DE2004/001133
【国際公開番号】WO2005/025546
【国際公開日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(506072594)ニユーロバイオテク・ゲー・エム・ベー・ハー (1)
【Fターム(参考)】