説明

結晶化を阻害する物質を含んでいる組成物

本発明は、イノシトールリン酸および/またはビスホスホネートを含んでいる組成物に関する。また、本発明は、透析を受ける患者の体内において生物学的に重要な、病的結晶化の阻害剤である物質が消失することを防止し、これらの物質を十分な生理的レベルで維持して、生理的なプロセスおよび/または病理的なプロセスを調節するための、この組成物の使用にも関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は、イノシトールリン酸および/またはビスホスホネートを含んでいる組成物に関する。また、本発明は、透析を受ける患者の体内において生物学的に重要な、病的結晶化の阻害剤である物質が消失することを防止し、これらの物質を十分な生理的レベルにて維持して、生理的なプロセスおよび/または病理的なプロセスを調節するための、この組成物の使用にも関する。
【0002】
〔背景技術〕
急性腎機能障害は、排泄に関する腎機能が急速に低下することから成り立っている。この状態に陥った患者は、種々の治療の選択肢(血液透析および腹膜透析が挙げられる。)を用いた治療を受ける。
【0003】
腎不全のプロセスでは、排泄に関する機能の喪失に起因して、代謝性の老廃物が蓄積する。腎臓がその機能を果たすことができない場合、患者は、生存するために、透析処理または腎移植を受ける必要がある。
【0004】
透析は、この変化に対する治療法として使用される選択肢の1つであり、透析液と呼ばれる別の液体から、血液を分離する半透膜の使用を包含している。
【0005】
血液透析では、人工腎臓が使用される。人工腎臓のもっとも重要な部分は透析部である。透析部は、血液のための区画と透析液のための別の1つの区画とから構成されている。これらの流体は、拡散を最大限に利用して溶質の濃度勾配に有利に作用するように、常に逆方向に循環している。どちらの区画も半透膜によって分割されている。この半透膜には、基本的に、以下に示すように互いに異なる4つのタイプがある。
【0006】
・セルロースの膜(Cuprofan)。このタイプがもっとも広く利用されており、多数の遊離ヒドロキシル基を有するグルコース環の鎖から構成されている。
【0007】
・置換セルロースの膜。このタイプは、多数の遊離ヒドロキシラジカルと酢酸との間の化学結合を利用して生成される。酢酸セルロースとも呼ばれる。
【0008】
・セルロースの合成膜(cellulosynthetic)。Hemophanの生成時における合成物質(ジエチルアミノエチルなど)の付加によって修飾された膜。
【0009】
・合成膜。このタイプは、セルロースを含有しておらず、セルロースの膜に比べると透過性および生体適合性が高い。このタイプの膜の例としては、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリアミド、ポリメチルメタクリレートなどが挙げられる。
【0010】
腹膜透析の動作スキームは血液透析のものと類似しているが、使用される半透膜は腹腔の内側の表面およびその中の器官を覆う腹膜中皮である。よって、透析液は腹膜腔に導入され、血液のための区画は、腹膜中皮に潅注する毛細管の管腔である。
【0011】
透析液の組成は、拡散プロセスによって血液から老廃物を除去し、さらに水の量およびその電解質濃度を、その制御されたイオン(例えば、ナトリウム、カリウム、塩化物、マグネシウム、カルシウム)の組成によって調節できるものである。
【0012】
この液体はまた、高いグルコース濃度(これによって血漿と等しい浸透圧モル濃度(osmolarity)を実現することができる。)を有しており、酢酸の緩衝液または重炭酸塩の緩衝液によって処理されている。
【0013】
しかし、血液は、透析液には存在しないが、生物学的に重要な自然に存在する物質を有している。これらの物質は、半透膜を用いた透析処理を行う際に、クリアランスのプロセスを受ける(Van der Kaay J., Van Haastert P.J.M., Analytical Biochemistry 1999; 225: 183-185)。さらに、このクリアランスのプロセスはこれらの物質を100%まで除去することができる。このパーセンテージは媒体のイオン強度の関数として変更され得る。
【0014】
〔発明の説明〕
生理的なおよび/または病的な結晶化および石灰化のプロセスを調節するために貢献し得る特定の物質の生理的濃度を効果的に維持する必要がある。
【0015】
具体的には、透析処理をこれを必要とする患者に行った後、血清中のいくつかの生物学的物質の濃度が実質的に減少しないように透析液の組成を改善するか、または透析後のこの生物学的物質の血漿濃度を適切な濃度にするためにある物質を透析用の液体に導入する必要がある。また、透析処理中に上記物質の濃度が変化する場合、静脈内に投与する処方物を投与することによって、この物質の血漿濃度をもう一度調節してもよい。上記物質のレベルは、静脈内投与によって、患者が受ける透析処理の前に調節されてもよいし、透析処理中に調節されてもよいし、透析処理の後に調節されてもよい。
【0016】
よって、本発明は、例えば透析液の組成物および/または静脈内に投与する処方物に、生物学的に重要な物質を導入することに関し、血液からのこの物質の消失を防止し、適切な血漿レベルを維持するか、または血漿レベルを生理学的に適切な値にまで上昇させるための、上記組成物および/または処方物の使用に関する。
【0017】
腎不全が高リン酸塩血症の状態を引き起こし、これによって、尿におけるリン酸カルシウムの過飽和が増加し、心血管の病的な石灰化のプロセスが引き起こされ得ることを考慮すれば、透析される患者にとってこれらの物質および同様の化合物は特に重要である。
【0018】
本発明の目的は、透析液の組成物および/または静脈内に投与する処方物に、結晶化の阻害剤としての活性を有する物質を導入することである。具体的に、本発明は、透析液の組成物にイノシトールリン酸、より具体的にはフィテート、および/またはビスホスホネートを導入すること、および静脈内に投与する処方物にイノシトールリン酸、中でもフィテートを導入することを目的としている。
【0019】
具体的には、本発明は、結晶化の阻害剤としての活性を有する物質を含有している透析液の組成物および静脈内に投与する処方物に関する。より具体的には、これらの物質はイノシトールリン酸、好ましくはフィテート、および/またはビスホスホネートである。
【0020】
ビスホスホネートは、ホスファターゼの酵素による加水分解に耐性のある合成化合物であり、経口経路による外部からの供給がピロリン酸よりも効果的である。ビスホスホネートの薬剤としての使用は骨吸収の治療を中心としているが、カルシウム塩の結晶化の阻害剤としての特性も有している。一方、フィテート、すなわち、ミオイノシトール六リン酸は、6個のリン酸基を有し、カルシウム等の二価イオンに対して高い親和性を有しているため、カルシウム塩の結晶化の阻害剤として顕著な特性を有する分子である。以上、腎臓の結石症、心血管石灰化等の病的石灰化の進行を阻害する特性について述べた。
【0021】
透析液の組成物に物質を導入することによって、血液からのこの物質の消失が防止され得るか、適切な血漿レベルが維持され得るか、または血漿レベルが生理学的に適切な値にまで上昇され得る。また、透析処理中に上記物質の濃度が変化する場合、静脈内に投与する処方物を投与することによって、透析処理の前、透析処理の間または透析処理の後に、血漿濃度がもう一度調節され得る。
【0022】
本発明において、「結晶化の阻害剤」は、核形成、結晶成長、凝集のどの段階においても結晶化を防止、抑制または低減することができる物質を意味すると理解される。
【0023】
本発明において、「透析液」(または「透析用の液体」)は、腎不全が起こった場合に体内に蓄積する老廃物を含んでいない血漿と同様の電解液を意味すると理解される。この液体は、代謝性の老廃物の蓄積を低減し、血漿量を調節し、血液中の電解質濃度を調節するために透析処理において用いられる。
【0024】
透析処理の鍵となる要素の1つが、血液透析の場合、人工腎臓の一部分である透析膜であり、腹膜透析の場合、腹膜中皮であることを当業者は認識している。両方の場合における膜の膜孔サイズは、透析処理中にタンパク質等の高分子の消失を防止し、電解質および低分子量の物質のやり取りを可能にするものである。よって、適切な量のイオン(ナトリウム、カリウム、塩化物、マグネシウム、カルシウム等)が、適切な血漿レベルを維持するために透析液に導入される。
【0025】
しかし、イノシトールリン酸および/またはビスホスホネートを上述した透析用の液体の組成物に導入すれば、透析処理の間にイノシトールリン酸および/またはビスホスホネートの血漿濃度の低下(血液と拡散を可能にする透析用の液体と間の濃度勾配、これによるこれらの物質のクリアランスに起因する。) を防止するか、または透析処理後の血漿濃度を維持する/上昇させることが可能になるであろうこと (図1〜4) を記載したものは全くない。一般的に、イノシトールリン酸および/またはビスホスホネートは低分子量の物質であり、このため、透析に使用される半透膜の孔を通過する。さらに、上記の方法の代替として、患者のイノシトールリン酸の血漿濃度は、静脈内に投与する処方物の投与によって補正され得る。
【0026】
これらの物質は、フィテートおよび他のイノシトールリン酸の場合のように、天然の物質であってもよい。しかし、ビスホスホネートの場合のように、同様の機能を発揮する合成物質を上記組成物に導入してもよい。
【0027】
よって、本発明の第1の局面は、イノシトールリン酸、ビスホスホネートもしくは薬学的に受容可能なそれらの塩、またはそれらの組合せのいずれか、を含んでいる群から選択される結晶化を阻害する物質、を含んでいる、透析液の調製に用いるための組成物に関する。
【0028】
イノシトールリン酸は1〜6個のリン酸基を含んでいてもよい(イノシトール一、二、三、四、五、六リン酸)。好ましい実施形態において、結晶化を阻害する物質は、1〜6個のリン酸基を含んでいるイノシトールリン酸であり、より好ましくはイノシトール六リン酸(フィチン酸またはフィテートとも呼ばれる)であり、さらに好ましくはミオイノシトール六リン酸である。
【0029】
好ましい実施形態において、上記結晶化を阻害する物質はビスホスホネートであり、ビスホスホネートはエチドロン酸、アレンドロン酸、リセドロン酸、ゾレドロン酸、チルドロン酸、パミドロン酸、クロドロン酸、イバンドロン酸もしくはそれらの塩、またはそれらの組合せのいずれか、を含む群から選択される。
【0030】
本発明の透析液または静脈内に投与する処方物の好ましい実施形態は、例えば他の化合物(限定されないが、ピロリン酸、および/またはその薬学的に受容可能な塩のいずれか等)をさらに含んでいる。
【0031】
透析液および/または静脈内に投与する処方物におけるこれらの物質の濃度は、透析液の組成、透析時間、腎機能障害の重症度等のいくつかの要因に依存する。本発明においては、イノシトールリン酸および/またはビスホスホネートの量が0.1μM〜0.1Mの範囲である安定した透析液組成物を作製した。イノシトールリン酸および/またはビスホスホネートの濃度は0.1μM〜10mMの範囲であることが好ましく、0.1μM〜1mMの範囲であることがより好ましい。
【0032】
このタイプの物質を添加することができる(血液透析および腹膜透析の両方のための)透析液の組成物の一例は、グルコース、ナトリウム、カリウム、塩素、カルシウム、マグネシウム、緩衝液(主に重炭酸塩または酢酸であるが、これに限定されない)等から構成されている。一方、グルコース濃度を高くすることによって、浸透圧モル濃度が血漿と等しくなるように調節することができる。さらに、特定の機能を果たすデキストロース、乳酸塩、ヘパリン、抗生物質、または補助化合物を血漿に導入してもよい。
【0033】
本発明の別の局面は、イノシトールリン酸、ビスホスホネートもしくは薬学的に受容可能なそれらの塩、またはそれらの組合せのいずれか、を含んでいる群から選択される結晶化を阻害する物質を含んでいる透析液に関し、血液透析および腹膜透析のためのこの透析液の使用に関する。この結晶化を阻害する物質を含んでいる組成物は、この物質の血漿濃度を維持するか、増加させるか、あるいはこの物質の血漿濃度の低下を防止するために用いられる。
【0034】
本発明の組成物を、透析液の処方物または静脈内に投与するための処方物に組み込んでもよい。
【0035】
よって、本発明の別の局面は、血漿中のイノシトールリン酸および/またはその塩のいずれかが生理学的に適切なレベルに調節されていないこと(de-regulation)に関連する病理的なプロセスの治療または予防に用いられる、イノシトールリン酸および/またはその塩のいずれかを含んでいる、静脈内への投与に適した形態の組成物に関する。上述の調節されていないことの治療または予防は、患者の血漿中の上記物質のレベルを維持するか、または上昇させることによって行われる。
【0036】
血漿中の上記物質が生理学的に適切なレベルに調節されていないことに関連する病理的なプロセスは非常に多様であり、例えば腎臓結石症、心血管の石灰化、皮膚石灰沈着症、骨粗鬆症、カルシウム足部痛風等のカルシウムの障害に関連する任意の病理を指すものであってもよいが、これらに限定はされない。一方、この障害またはこの調節されていないことは、腫瘍、特に大腸癌、骨癌、皮膚癌等の癌にも関係がある。
【0037】
静脈内に投与する処方物の場合、投与されるイノシトールリン酸の量が、(該処方物を投与される患者の体重に対して)1nmol/kg〜0.1mol/kgの範囲である安定した組成物が調製される。好ましくは、イノシトールリン酸の濃度は0.01μmol/kg〜10mmol/kgの範囲であり、より好ましくは0.1μmol/kg〜1mmol/kgの範囲である。
【0038】
上記結晶化を阻害する物質は、好ましくは1〜6個のリン酸基を含んでいるイノシトールリン酸であり、より好ましくはイノシトール六リン酸であり、さらに好ましくはミオイノシトール六リン酸である。上記組成物はピロリン酸をさらに含んでいてもよい。
【0039】
静脈内に投与する処方物の一例は、イノシトールリン酸を含んでおり、ナトリウム、塩素、緩衝液ならびに/または他の賦形剤、ビヒクル、および阻害物質(ビスホスホネートまたはピロリン酸等)をさらに含んでいてもよい。
【0040】
本発明において、「静脈内投与」は、注射可能なまたは直接的な投与(つまりボーラスの形態での単独または希釈しての組成物の投与)、あるいは点滴によって静脈道を通して組成物を添加する静脈内への輸液の両方を含むものとして理解される。
【0041】
一方、本発明の別の局面は、本発明の組成物と、透析を受ける患者の血漿中の結晶化を阻害する物質の生理学的に適切なレベルの調節(レベルを維持または高める)の治療または予防に別々にまたは同時にまたは連続して用いられる透析液と、を少なくとも含んでいる混合調製物に関する。
【0042】
好ましい実施形態において、上記混合調製物に用いられる本発明の組成物は、静脈内投与に適した形である。
【0043】
明細書およびクレームを通して、用語「含む」およびその派生語は、他の技術的特徴、添加物、成分または工程を排除するものではない。本発明の他の目的、利点、特徴は、一部は本記載から、別の一部は本発明の実施から当業者にとって分かるであろう。以下に示す実施例および図面は例示のみを目的としており、本発明の範囲を限定するものではない。
【0044】
〔図面の簡単な説明〕
図1は、フィテートを含んでいない透析液を用いた透析処理の間に、クリアランスによって人工血漿サンプル中のフィテートの40%までが、20時間の間に失われることを示す図である。
【0045】
図2は、血漿のフィテートの濃度よりも高い濃度のフィテートを含んでいる透析液を用いた透析処理の間に、人工血漿サンプル中のフィテートが、20時間の間中、血漿濃度を増加できることを示す図である。
【0046】
図3は、エチドロネートを含んでいない透析液を用いた透析処理の間に、クリアランスによって人工血漿サンプル中のエチドロネートの95.6%までが、20時間の間に失われることを示す図である。
【0047】
図4は、血漿のエチドロネートの濃度よりも高い濃度のエチドロネートを含んでいる透析液を用いた透析処理の間に、人工血漿サンプル中のエチドロネートが、20時間の間中、血漿濃度を増加できることを示す図である。
【0048】
〔実施例〕
以下に、本発明者によって行われた分析に基づいて本発明を説明し、注射または点滴静注または透析液の形態にて投与される本発明の組成物の特性および有効性を示す。
【0049】
(実施例1)
人工血漿(血漿の組成に類似する組成を有する液体)を1.5mMのフィテートで調製し、イオン強度を0.15MのNaClで調節した。この液体25mLをフィテートを含んでいない0.15MのNaCl溶液1L(透析用の液体のモデル)に対して20時間透析した。両方の液体のpHを重炭酸塩の緩衝液を用いて7.4に調節した。
【0050】
透析用の液体のアリコート5mLを0、1、3、6、20時間のタイミングで回収し、それぞれのフィテートの量を測定した。さらに、上記人工血漿中のフィテートの濃度を0時間、20時間のタイミングで測定した。
【0051】
透析開始から20時間後の人工血漿中のフィテートの濃度は、当初の濃度よりも40%低かった。図1には、透析処理中に、フィテートのクリアランスが起こり、透析液中のフィテートの量が、20時間後に、人工血漿における初期量の40%に達するまで増加することが示されている。
【0052】
(実施例2)
人工血漿を1.5mMフィテートで調製し、イオン強度を0.15MのNaClで調節した。この液体25mLを上記血漿と同じフィテート濃度を有する0.15MのNaCl溶液1Lに対して20時間透析した。両方の液体のpHを重炭酸塩の緩衝液を用いて7.4に調節した。
【0053】
透析用の液体のアリコート5mLを0、1、3、6、20時間のタイミングで回収し、それぞれのフィテートの量を測定した。さらに、上記人工血漿中のフィテートの濃度を0時間、20時間のタイミングで測定した。
【0054】
透析処理の間、上記血漿または透析用の液体におけるフィテートの濃度に変化はない。それ故、透析用の液体にフィテートを導入したことによって、血液におけるこの物質の消失が防止される。
【0055】
(実施例3)
人工血漿を300μMフィテートで調製し、イオン強度を0.15MのNaClで調節した。この液体25mLを上記血漿の5倍のフィテートの濃度を有する0.15MのNaCl溶液1Lに対して20時間透析した。両方の液体のpHを重炭酸塩の緩衝液を用いて7.4に調節した。
【0056】
透析用の液体のアリコート5mLを0、1、3、6、20時間のタイミングで回収し、それぞれのフィテートの量を測定した。さらに、上記人工血漿中のフィテートの濃度を0時間、20時間のタイミングで測定した。
【0057】
その結果を図2に示す。透析処理の間、透析液のフィテートの0.75%までが人工血漿に入り、初期量と初期濃度の比率を考慮に入れれば、上記人工血漿におけるフィテートの濃度は140%増加していた。その結果、透析液にフィテートを導入することによって、フィテートの通常の値を回復できることが認められる。
【0058】
(実施例4)
人工血漿を5mMエチドロネートで調製し、イオン強度を0.15MのNaClで調節した。この液体25mLをエチドロネートを含まない0.15MのNaCl溶液1L(透析用の液体のモデル)に対して20時間透析した。両方の液体のpHを重炭酸塩の緩衝液を用いて7.4に調節した。
【0059】
透析用の液体のアリコート5mLを0、1、3、6、20時間のタイミングで回収し、それぞれのエチドロネートの量を測定した。さらに、上記人工血漿中のエチドロネートの濃度を0時間、20時間のタイミングで測定した。
【0060】
透析開始から20時間後の人工血漿中のエチドロネートの濃度は、当初の濃度よりも95.6%低かった。図3では、透析処理中に、エチドロネートのクリアランスが起こり、透析液中のエチドロネートの量が、20時間後、人工血漿における初期量の95.6%に達するまで増加することが認められる。
【0061】
(実施例5)
人工血漿を5mMエチドロネートで調製し、イオン強度を0.15MのNaClで調節した。この液体25mLを上記血漿と同じエチドロネート濃度を有する0.15MのNaCl溶液1Lに対して20時間透析した。両方の液体のpHを重炭酸塩緩衝液を用いて7.4に調節した。
【0062】
透析用の液体のアリコート5mLを0、1、3、6、20時間のタイミングで回収し、それぞれのエチドロネートの量を測定した。さらに、上記人工血漿中のエチドロネートの濃度を0時間、20時間のタイミングで測定した。
【0063】
透析処理の間、上記血漿または透析用の液体におけるエチドロネートの濃度に変化はない。それ故、透析用の液体にエチドロネートを導入することによって、血液におけるこの物質の消失が防止される。
【0064】
(実施例6)
人工血漿を1mMエチドロネートで調製し、イオン強度を0.15MのNaClで調節した。この液体25mLを上記血漿の5倍のエチドロネート濃度を有する0.15MのNaCl溶液1Lに対して20時間透析した。両方の液体のpHを重炭酸塩の緩衝液を用いて7.4に調節した。
【0065】
透析用の液体のアリコート5mLを0、1、3、6、20時間のタイミングで回収し、それぞれのエチドロネートの量を測定した。さらに、上記人工血漿中のエチドロネートの濃度を0時間、20時間のタイミングで測定した。
【0066】
その結果を図4に示す。透析処理の間、透析液のエチドロネートの1.65%までが人工血漿に入り、初期量と初期濃度の比率を考慮に入れれば、上記人工血漿におけるエチドロネートの濃度は330%増加している。その結果、透析液にエチドロネートを導入することによって、エチドロネートの血漿レベルを上昇できることが認められる。
【0067】
(実施例7)
イノシトールリン酸および/またはビスホスホネートを添加した(血液透析および腹膜透析の両方のための)透析液の組成物。
【0068】
【表1】

【0069】
高いグルコース濃度によって、浸透圧モル濃度が血漿と等しくなるように調節することができる。さらに、特定の機能を果たすデキストロース、ヘパリン、乳酸塩、抗生物質、補助化合物を血漿に導入してもよい。
【0070】
(実施例8)
フィテートを含んでいるイノシトールリン酸を添加した、種々の医療措置(注射または静脈内注射および血液透析または腹膜透析による治療の両方)を受ける患者の静脈内に投与するための処方物の組成物。イノシトールリン酸の濃度は、表に示す量を得るために、静脈内投与の量の関数として調整される。
【0071】
【表2】

【0072】
さらに、特定の機能を果たす補助化合物を導入してもよい。
【0073】
(実施例9)
重量約250gの6匹の雄のウィスターラットを、12:12の明暗サイクルでケージ(T=1±1℃、湿度=60±5%)において7日間(fro 7 dias)順応させた。ラットはプレキシグラスのケージに一匹ずつ入れ、餌と飲み物とを自由に与えた。
【0074】
順応期間の後、ラットはランダムにそれぞれ3匹含む2つのグループ(コントロールのグルールおよび処置のグループ)に分けられる。コントロールのグループは、フィテートなしの食事が与えられ、透析後の生理的状態をシミュレーションする。処置のグループは、12時間の間隔で0.61mmol/kg(400μg/kg)という用量の静脈内投与が3回行われる。最後の投与後、24時間の尿サンプルを回収し、フィテートを測定した。その後、ラットに麻酔をかけ、血液サンプルを回収した。
【0075】
この実験に用いられた処置は、実験目的および他の科学的目的に使用される動物の保護に関する法律Directive 86/609/EECに従って行われた。
【0076】
上記実験の最後の尿中のフィテートの排出量は、処置のグループ(72+/−10μg)よりもコントロールのグループ(4.0+/−1.5μg)の方が統計的に低かった。血漿レベルを比較すると、コントロールのグループに関しては0.013+/−0.006mg/Lの値が得られ、処置のグループに関しては1.0+/−0.2mg/Lの値が得られた。したがって、静脈内に投与する処方物をイノシトールリン酸が減少している血漿の状態で投与することによって、その不足したレベルを補正できることが初めて実証された。また、驚くべきことに静脈内に投与する処方物の投与から24時間後でも、経口投与によって得られるよりもはるかに高い血漿レベルを達成できることが初めて実証された。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】フィテートを含んでいない透析液を用いた透析処理の間に、クリアランスによって人工血漿サンプル中のフィテートの40%までが、20時間の間に失われることを示す図である。
【図2】血漿のフィテートの濃度よりも高い濃度のフィテートを含んでいる透析液を用いた透析処理の間に、人工血漿サンプル中のフィテートが、20時間の間中、血漿濃度を増加できることを示す図である。
【図3】エチドロネートを含んでいない透析液を用いた透析処理の間に、クリアランスによって人工血漿サンプル中のエチドロネートの95.6%までが、20時間の間に失われることを示す図である。
【図4】血漿のエチドロネートの濃度よりも高い濃度のエチドロネートを含んでいる透析液を用いた透析処理の間に、人工血漿サンプル中のエチドロネートが、20時間の間中、血漿濃度を増加できることを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶化を阻害する物質を含んでいる、透析液の調製に用いられる組成物であって、
該結晶化を阻害する物質は、イノシトールリン酸、ビスホスホネートもしくは薬学的に受容可能なそれらの塩、またはそれらの組合せのいずれか、を含んでいる群から選択される、組成物。
【請求項2】
前記結晶化を阻害する物質は、1〜6個のリン酸基を含んでいるイノシトールリン酸である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記イノシトールリン酸はイノシトール六リン酸である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記イノシトールリン酸はミオイノシトール六リン酸である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
上記ビスホスホネートは、エチドロン酸、アレンドロン酸、リセドロン酸、ゾレドロン酸、チルドロン酸、パミドロン酸、クロドロン酸、イバンドロン酸もしくはそれらの塩、またはそれらの組合せのいずれか、を含んでいる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
ピロリン酸をさらに含んでいる、請求項1〜5の何れか1項に記載の組成物。
【請求項7】
結晶化を阻害する前記物質の濃度は0.01μM〜0.1Mである、請求項1〜6の何れか1項に記載の組成物。
【請求項8】
結晶化を阻害する前記物質の濃度は0.1μM〜10mMである、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
結晶化を阻害する前記物質の濃度は0.1μM〜5mMである、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
イノシトールリン酸、ビスホスホネートもしくは薬学的に受容可能なそれらの塩、またはそれらの組合せのいずれか、を含んでいる群から選択される結晶化を阻害する物質を含んでいる、透析液。
【請求項11】
血液透析または腹膜透析のための、請求項10に記載の透析液の使用。
【請求項12】
イノシトールリン酸および/またはその塩のいずれかを含んでいる、静脈内投与に適した形態の組成物であって、
血漿中の該物質が生理学的に適切なレベルに調節されていないことに関連する病理的なプロセスの治療または予防に用いられる、組成物。
【請求項13】
前記イノシトールリン酸は1〜6個のリン酸基を含んでいる、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記イノシトールリン酸はイノシトール六リン酸である、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記イノシトールリン酸はミオイノシトール六リン酸である、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
イノシトールリン酸、および/またはその薬学的に受容できる塩のいずれかの用量が1nmol/kg〜0.1mol/kgである、請求項12〜15の何れか1項に記載の組成物。
【請求項17】
ピロリン酸をさらに含んでいる、請求項12〜16の何れか1項に記載の組成物。
【請求項18】
前記調節されていないことの治療または予防は、透析を受ける個体の血漿中の前記物質のレベルを維持するか、または上昇させることによって行われる、請求項12〜17の何れか1項に記載の組成物。
【請求項19】
イノシトールリン酸、ビスホスホネートもしくは薬学的に許容できるそれらの塩、またはそれらの組合せのいずれか、を含んでいる群から選択される結晶化を阻害する物質を含んでいる組成物と、
透析を受ける患者の血漿中の該物質が生理学的に適切なレベルに調節されないことに関連する病理的なプロセスの治療または予防に、別々に、同時にまたは連続して用いられる透析液と、
を少なくとも含んでいる混合調製物。
【請求項20】
静脈内投与に適した形態である、請求項19に記載の混合調製物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−529759(P2011−529759A)
【公表日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−521603(P2011−521603)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際出願番号】PCT/ES2009/070156
【国際公開番号】WO2010/018278
【国際公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(511033793)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITAT DE LES ILLES BALEARS
【住所又は居所原語表記】Carretera de Valldemossa,Km.7,5,E−07122 Palma de Mallorca,Spain
【Fターム(参考)】