説明

結晶性の高い微細なITO粉末とその用途および製造方法等

【課題】微細であって結晶性が高く、透明性に優れた導電被膜等を形成することができるITO粉末と、その透明導電性組成物、および製造方法等を提供する。
【解決手段】比表面積が55m2/g以上であって、乾燥粉末が山吹色の色調を有し、あるいはX線回折チャートの(222)面のピークの半値幅が0.6°以下であることを特徴とするインジウム錫酸化物粉末、およびその透明導電性組成物、およびインジウムと錫の共沈水酸化物を焼成してインジウム錫酸化物粉末を製造する方法において、2価の錫化合物を用い、pH4.0〜9.3、液温5℃以上で、乾燥粉末が山吹色から柿色の色調を有するインジウム錫水酸化物を共沈させ、該水酸化物を焼成することを特徴とするインジウム錫酸化物粉末の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インジウム錫酸化物(ITO)粉末と、該ITO粉末からなる透明導電性組成物、およびその製造方法等に関し、より詳しくは、結晶性が高く微細なITO粉末とその製造方法、およびその製造工程で得られるインジウム錫水酸化物、さらに上記ITO粉末からなる透明性に優れた導電性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
インジウム錫酸化物は透明導電性材料として知られている。例えば、特許第3019551号公報(特許文献1)には、Sn/In比0.005〜0.3、比表面積(BET値)10m2/g以上、比抵抗70Ωcm以下、Clが0.1%以下、NaおよびKが10ppm以下、遊離のInおよびSnが10ppm以下のITO粉末が記載されている。また、特開2005−322626号公報(特許文献2)には、比表面積4〜20m2/gであって、粉末の色調がLab表色系においてL=82〜91のITO粉末が記載されている。
【0003】
ITO粉末は樹脂に分散させて塗料にし、基板に塗布して導電被膜を形成し、あるいは、樹脂に分散させてフィルムにし、基板上に貼り合わせて導電膜を形成し、または合せガラスに挟み込んで導電層や熱線遮蔽層を形成する材料に用いられる。これらの導電性被膜などを形成する場合、被膜の透明性を高めるにはできるだけ微細な粉末であることが好ましい。
【0004】
特許文献1〜2に記載されているITO粉末の比表面積はせいぜい20m2/g前後であり、それほど大きくない。そこで、透明性を高めるために比表面積の大きなITO粉末が知られている。例えば、特開2005−232399号公報(特許文献3)には、比表面積が50m2/g以上のITO粉末が記載されている。また、特開2003−215328号公報(特許文献4)には、比表面積が55m2/g以上のITO粉末が記載されている。
【0005】
一方、ITO粉末は一次粒子径が小さくなると結晶性が低下して導電性が不良になる傾向があるので、透明性および導電性の高い被膜を形成するには、比表面積が大きく微細であって、かつ結晶性の高いITO粉末が求められる。
【0006】
なお、特許文献3〜4に記載されているITO粉末は、比表面積は従来品よりも大きく微細であるが、粉末の色調はLab表色系において概ねL=52〜90(水色〜淡い水色)であり、粉末の色調によれば結晶性はあまり高くない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3019551号公報
【特許文献2】特開2005−322626号公報
【特許文献3】特開2005−232399号公報
【特許文献4】特開2003−215328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、微細であって結晶性が高く、従って、透明性に優れた導電被膜等を形成することができるITO粉末と、その製造方法等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の構成によって上記課題を解決したインジウム錫酸化物(ITO)粉末に関する。
〔1〕比表面積が55m2/g以上であって、山吹色の色調を有することを特徴とするインジウム錫酸化物粉末。
〔2〕比表面積が55m2/g以上であって、X線回折チャートの(222)面のピークの半値幅が0.6°以下であることを特徴とするインジウム錫酸化物粉末。
〔3〕比表面積が40m2/g以上であって、濃青色の色調(Lab表色系においてL=30以下)を有することを特徴とする表面改質したインジウム錫酸化物粉末。
【0010】
また、本発明は以下の構成からなる透明導電性組成物に関する。
〔4〕上記[1]〜上記[3]の何れかに記載するインジウム錫酸化物粉末からなる透明導電性組成物。
〔5〕上記[1]〜上記[3]の何れかに記載するインジウム錫酸化物粉末(ITO粉末)を含み、該ITO粉末濃度6wt%の被膜において表面抵抗20000Ω/□以下および全光線透過率の減少が2%以下であって、該ITO粉末濃度20wt%の被膜において表面抵抗6500Ω/□以下および全光線透過率の減少が5%以下である透明導電性組成物。
【0011】
さらに、本発明は以下の構成からなるインジウム錫酸化物粉末の製造方法等に関する。
〔6〕インジウムと錫の共沈水酸化物を焼成してインジウム錫酸化物粉末を製造する方法において、2価の錫化合物を用い、pH4.0〜9.3、液温5℃以上で、乾燥粉末が山吹色から柿色のインジウム錫水酸化物を共沈させ、該水酸化物を焼成することを特徴とするインジウム錫酸化物粉末の製造方法。
〔7〕3塩化インジウムと2塩化錫の混合水溶液とアルカリ水溶液とを同時に水に滴下し、あるいは、アルカリ水溶液に上記混合液を滴下して乾燥粉末が山吹色から柿色のインジウム錫水酸化物を共沈させる請求項5に記載する製造方法。
〔8〕上記[6]または上記[7]に記載する製造方法において、山吹色から柿色のインジウム錫水酸化物を乾燥して焼成する際に、乾燥と同時、または乾燥後に、窒素雰囲気下または水蒸気もしくはアルコールもしくはアンモニアを含有した窒素雰囲気下で加熱焼成することによって表面改質した濃青色の色調を有する比表面積が40m2/g以上のインジウム錫酸化物粉末を製造する方法。
〔9〕3塩化インジウムと2塩化錫とをアルカリの存在下で沈澱させた共沈物であって、乾燥粉末が山吹色から柿色の色調を有することを特徴とするインジウム錫水酸化物。
【発明の効果】
【0012】
本発明のITO粉末は、比表面積が55m2/g以上の微細な粉末であり、しかも、従来のITO粉末とは異なり、乾燥粉末が山吹色の色調を有し、また表面改質した粉末は比表面積が40m2/g以上であって、濃い青色(Lab表色系においてL=30以下)の色調を有し、例えば、X線回折チャートにおける(222)面のピークの半値幅が0.6°以下の結晶性の高い粉末である。
【0013】
本発明のITO粉末は透明導電性組成物として用いることができる。本発明のITO粉末は微細であるので、透明性に優れた被膜を形成することができ、しかも結晶性が高いので導電性の良い被膜を得ることができる。さらに、本発明のITO粉末は熱線遮蔽効果に優れており、高い透明性を維持しながら日射透過率の低い被膜を形成することができる。また、被膜の白化抑制効果に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】表1のNo.1のITO粉末のX線回折パターン
【図2】図1の部分拡大図
【図3】表1のNo.1の共沈インジウム錫水酸化物のX線回折パターン
【図4】表1のNo.9のITO粉末のX線回折パターン
【図5】図4の部分拡大図
【図6】表1のNo.9の共沈インジウム錫水酸化物のX線回折パターン
【図7】表1のNo.1の共沈インジウム錫水酸化物のTEM写真
【図8】表1のNo.9の共沈インジウム錫水酸化物のTEM写真
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を具体的に説明する。
〔ITO粉末〕
本発明のITO粉末は、比表面積が55m2/g以上であって、乾燥粉末が山吹色の色調を有し、または、X線回折チャートにおける(222)面のピークの半値幅が0.6°以下であることを特徴とするインジウム錫酸化物粉末であり、また比表面積が40m2/g以上であって、乾燥粉末が濃青色の色調(Lab表色系においてL=30以下)を有することを特徴とする表面改質したインジウム錫酸化物粉末である。
【0016】
本発明のITO粉末は、インジウムと錫の共沈水酸化物を焼成してインジウム錫酸化物粉末を製造する方法において、乾燥粉末が山吹色から柿色の色調を有するインジウム錫水酸化物を共沈させ、これを焼成して得ることができる。
【0017】
〔製造方法〕
溶液中のインジウムと錫はアルカリの存在下で沈澱し、インジウムと錫の共沈水酸化物が生成する。このとき、2価錫化合物(SnCl2・2H2Oなど)を用い、溶液のpHを4.0〜9.3、好ましくはpH6.0〜8.0、液温を5℃以上、好ましくは液温10℃〜80℃に調整することによって、乾燥粉末が山吹色から柿色の色調を有するインジウム錫の共沈水酸化物を沈澱させることができる。この山吹色から柿色の色調を有する水酸化物は、従来の白色のインジウム錫水酸化物よりも結晶性に優れている。インジウムは3塩化インジウム(InCl3)を用いることができる。
【0018】
4価の錫化合物(SnCl4など)を用いると、白色の沈澱になり、山吹色から柿色の色調を有する沈澱にならない。また、溶液のpHが4.0よりも低く(酸性側)あるいは9.3よりも高い(アルカリ側)と薄い黄色を帯びた白色沈澱になり、山吹色から柿色の色調を有する沈澱にならない。4価の錫化合物による白色沈澱や上記薄黄白色沈澱は何れも山吹色から柿色の色調を有する沈澱に比べて結晶性が低く、これらの沈澱物を焼成しても本発明のような結晶性の高いITO粉末を得ることができない。なお、特許文献1の製造方法では四塩化錫を用いているので、白色のインジウム錫水酸化物沈澱が生じ、山吹色から柿色の色調を有する沈澱にならない。
【0019】
反応時の液性をpH4.0〜9.3に調整するには、例えば、3塩化インジウム(InCl3)と2塩化錫(SnCl2・2H2O)の混合水溶液を用い、この混合水溶液とアルカリ水溶液とを同時に水に滴下して上記pH範囲に調整するとよい。あるいは、アルカリ水溶液に上記混合液を滴下する。アルカリ水溶液としてはアンモニア水〔NH3水〕、炭酸水素アンモニウム水〔NH4HCO3水〕などを用いるとよい。
【0020】
具体的には、例えば、実施例1〜2(No.1〜3)に示すように、2塩化錫を用い、溶液のpH7、液温10℃〜60℃において、乾燥粉末が山吹色から柿色の沈澱が生じる。一方、比較例1(No.7)に示すようにpH4.0未満(pH3.0)では淡い黄色を帯びた白色の沈澱になり、また比較例2(No.8)に示すようにpH9.3以上(pH9.5)では同様に淡い黄色を帯びた白色の沈澱になる。従って、山吹色から柿色の色調を有する共沈インジウム錫水酸化物を生成させるには、pH4.0〜9.3の範囲が適当である。なお、pHが中性に近いほど柿色が強くなる傾向がある。さらに、比較例3(No.9)に示すように4塩化錫(SnCl4)を用いると、白色沈澱になり、山吹色から柿色の色調を有する結晶性の高い沈澱にならない。
【0021】
上記共沈インジウム錫水酸化物の生成後、該共沈物を純水で洗浄し、上澄み液の抵抗率が5000Ω・cm以上、好ましくは50000Ω・cm以上になるまで洗浄した後に固液分離して上記共沈物を回収する。上澄み液の抵抗率が5000Ω・cmより低いと塩素等の不純物が十分に除去されておらず、高純度のインジウム錫酸化物粉末を得ることができない。
【0022】
上記インジウム錫水酸化物は、その乾燥粉末が山吹色から柿色の色調を有しており、Lab表色系において、L=80以下、a=−10〜+10、b=+26以上であり、例えば、実施例1〜5(No.1〜No.6)では、L=60.3〜75.1、a=−2.3〜+1.5、b=+21.9〜+32.2である。因みに、比較例1〜3(No.7〜9)の沈澱はL=91〜100の白色系沈澱である。
【0023】
上記インジウム錫水酸化物を乾燥焼成してITO粉末(In-Sn酸化物粉末)を得ることができる。乾燥から焼成の工程は、例えば、大気下において、100〜200℃で2〜24時間加熱することによって乾燥し、次いで250℃以上、好ましくは400℃〜800℃で、1〜6時間加熱して焼成するとよい。250℃以下では水酸化物のままであり酸化物にならない。この焼成処理によってインジウム錫水酸化物は酸化され、山吹色から柿色の色調を有するインジウム錫酸化物粉末を得ることができる。
【0024】
大気焼成処理した上記ITO粉末は山吹色から柿色の色調を有している。具体的には、Lab表色系において、L=80以下、a=−10〜+10、b=+26以上であり、例えば、実施例1〜5(No.1〜No.6)では、L=56.0〜67.1、a=−1.2〜+1.1、b=+29.5〜+30.8である。
一方、白色系のインジウム錫水酸化物を大気焼成したものは、比較例に示すように、Lab表色系において、a値が−5以下であり、鴬色の粉末になる。
【0025】
上記ITO粉末は55m2/g以上、好ましくは60m2/g以上の比表面積を有する微細粉末である。具体的には、実施例1〜5のBET比表面積は60m2/g〜85m2/gであり、一方、比較例1〜3のITO粉末のBET比表面積は45m2/g〜48m2/gであり、比較例1〜3よりも格段に比表面積が大きい微細粉末である。
【0026】
山吹色から柿色の色調を有する上記ITO粉末は結晶性が高い。例えば、実施例AのNo.1のITO粉末は、図1および図2に示すように、X線回折チャートにおける(222)面のピークは相対強度が大きく(約3000cps)、その半値幅は0.6°より小さい(具体的には0.47°)。一方、比較例AのNo.9のITO粉末は、白色のインジウム錫水酸化物を焼成したものであって鴬色を有しており、図4に示すように、このX線回折チャートにおける(222)面のピークは相対強度が2500cps以下であり、その半値幅は0.6°より大きい(具体的には0.65°)。このように本発明に用いるITO粉末は、比較例のITO粉末よりも半値幅がかなり小さく、従って、結晶性の高い粉末である。
【0027】
上記共沈インジウム錫水酸化物(共沈In-Sn水酸化物)の乾燥焼成処理、あるいは上記インジウム錫酸化物(In-Sn酸化物)の乾燥焼成処理において、ITO粉末を表面改質処理することができる。表面処理することによって導電性が向上し、さらに透明導電性効果を高めることができる。
【0028】
表面改質処理は以下(イ)(ロ)(ハ)のように乾燥と同時、あるいは焼成時、または焼成後の各段階で行うことができる。
(イ)上記インジウム錫水酸化物を、大気下の乾燥焼成に代えて、窒素雰囲気、またはアルコールを含有した窒素雰囲気、またはアンモニアを含有した窒素雰囲気で、250〜800℃で30分〜6時間加熱して乾燥し焼成する。
(ロ)上記インジウム錫水酸化物を、大気雰囲気下で、100℃〜110℃で一晩乾燥した後に、大気下の焼成に代えて、窒素雰囲気、またはアルコールを含有した窒素雰囲気、またはアンモニアを含有した窒素雰囲気で、250〜800℃で30分〜6時間加熱焼成する。
(ハ)上記インジウム錫水酸化物を、大気下で乾燥し焼成した後に、窒素雰囲気、またはアルコールを含有した窒素雰囲気、またはアンモニアを含有した窒素雰囲気で、250〜800℃で30分〜6時間加熱処理する。
【0029】
上記表面改質されたITO粉末は、BET比表面積40m2/g以上、好ましくは50m2/g以上であって、濃い青色を有する。具体的には、表面改質したITO粉末は、Lab表色系において、L値30以下、a<0、b<0の濃い青色を帯びた色調を有する。このITO粉末は微細であり、かつ結晶性が高いため、樹脂に混合して被膜やシートを形成したときに、高い透明性を有し、かつ優れた導電性を得ることができ、
【0030】
ITOは、3価のインジウムに4価の錫をドープすることによって導電性が向上することが知られている。ITO結晶に存在する酸素空孔点はドナー効果を生じ、そのキャリア電子密度を高めて導電性を向上させる。ITO粉末を不活性雰囲気中または減圧下で熱処理すると、ITO結晶から酸素が引き抜かれて、酸素空孔点が増大し、ITOの体積抵抗率が低下するので、表面改質をすることによって酸素欠陥が増加し、導電性を高めることができる。
【0031】
以上のように、山吹色から柿色の色調を有するインジウム錫水酸化物を焼成してなる本発明のITO粉末、および表面改質したITO粉末は、優れた導電性を有し、また透明性の高い被膜やシートを形成する透明導電性組成物として用いることができる。
【0032】
本発明のITO粉末を用いることによって、透明性の高い導電性に優れた組成物を得ることができる。具体的には、例えば、本発明のITO粉末を樹脂に分散させた塗料を用いて被膜を形成したときに、膜厚0.2μmにおいて、ITO粉末濃度6wt%のときに、表面抵抗20000Ω/□以下および全光線透過率89%以上、ITO粉末濃度20wt%のときに、表面抵抗6500Ω/□以下および全光線透過率85%以上である透明性が高く導電性に優れた被膜を得ることができる。本発明はその範囲に該ITO粉末を用いた透明導電性組成物を含む。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の実施例を比較例と共に示す。ITO粉末のX線回折パターン、比表面積、色調(Lab値)、全光線透過率は以下の方法によって測定した。
〔X線回折パターン〕X線回折パターンはリガク社製品(製品名MiniFlexII)を用いて測定した。
〔比表面積〕BET比表面積を柴田科学社の装置(SA-1100)を用いて測定した。
〔色調〕色調(Lab値)は、スガ試験機社のカラーコンピュータ(SM-T)を用いて測定した。
【0034】
〔実施例1:試料No.1〕
塩化インジウム(InCl3)水溶液(In金属18g含有)50mLと、二塩化錫(SnCl2・2H2O) 3.6gとを混合し、この混合水溶液とアンモニア(NH3)水溶液を、水500mlに同時に滴下し、pH7に調整し、30℃の液温で30分間反応させた。生成した沈殿をイオン交換水によって繰り返し傾斜洗浄を行った。上澄み液の抵抗率が50000Ω・cm以上になったところで、沈殿物(In/Sn共沈水酸化物)を濾別し、乾燥粉末の色調が柿色を有する共沈インジウム錫水酸化物を得た。
この共沈インジウム錫水酸化物のX線回折パターンを図3に示した。また、この共沈水酸化物粉末のTEM写真を図7に示した。図7に示すように、この共沈水酸化物粉末は結晶の形状が明瞭であり、結晶性が高いことがわかる。
固液分離したインジウム錫水酸化物を110℃で一晩乾燥した後、大気中550℃で3時間焼成し、凝集体を粉砕してほぐし、山吹色を有するITO粉末約25gを得た。
このITO粉末のLab値、比表面積を表1に示した。
【0035】
上記ITO粉25gを、無水エタノールと蒸留水を混合した表面処理液(混合比率はエタノール95重量部に対して蒸留水5重量部)に入れて含浸させた後、ガラスシャーレに入れて窒素ガス雰囲気下、330℃にて2時間加熱して表面改質処理した。このITO粉末の色調(L、a、b)とBET値を表1に示した。また、このITO粉末のX線回折パターンを図1に示した。さらに(222)面のピーク付近の部分拡大図を図2に示した。図示するように、このITO粉末は相対強度が大きく(約3000cps)、その半値幅は0.47°であり、結晶性の高いことが確認された。また、X線回折パターンに示すように、このITO粉末の結晶晶系は立方晶系である。
【0036】
〔実施例2〜3:試料No.2〜3〕
混合液の液温を10、60℃に調整した。それ以外は実施例1と同様にしてITO粉を得た。このITO粉末を表1に示した。
【0037】
〔実施例4〜5:試料No.4〜5〕
アルカリ水溶液の添加量を調整して混合液のpHを4.5、8.5に調整し、液温を30℃にした。それ以外は、実施例1と同様にしてITO粉を得た。このITO粉末を表1に示した。
【0038】
〔実施例6:試料No.6〕
アルカリ水溶液として炭酸水素アンモニウム(NH4HCO3)水溶液を用いた。それ以外は実施例1と同様にしてITO粉を得た。沈澱条件、沈殿物の色調、ITO粉末の色調および比表面積、表面処理の結果を表1に示した。
【0039】
〔比較例1:比較試料No.7〕
アルカリ水溶液の添加量を調整して混合液のpHを3.0にした以外は実施例1と同様にして共沈インジウム錫水酸化物を得た。この共沈インジウム錫水酸化物は、乾燥粉末がやや黄色がかった白色であった。この沈殿物を実施例1と同様にしてITO粉末を得た。このITO粉末を表1に示した。
【0040】
〔比較例2:比較試料No.8〕
アルカリ水溶液の添加量を調整して混合液のpHを9.5、液温を10℃にした以外は実施例1と同様にして共沈インジウム錫水酸化物を得た。この共沈インジウム錫水酸化物は、乾燥粉末がやや黄色がかった白色であった。この沈殿物を実施例1と同様にしてITO粉末を得た。このITO粉末を表1に示した。
【0041】
〔比較例3:比較試料No.9〕
錫化合物として四塩化錫(55%濃度SnCl4水溶液)を用い、このSnCl4水溶液14.4gと塩化インジウム(InCl3)水溶液(In金属35g含有)90mLを混合し、この混合水溶液に炭酸水素アンモニウム(NH4HCO3)190gを含有するアルカリ水溶液0.6Lを加えてpH8に調整し、30℃の液温で30分間反応させた。生成した沈殿をイオン交換水によって繰り返し傾斜洗浄を行った。上澄み液の抵抗率が50000Ω・cm以上になったところで、共沈インジウム錫水酸化物を濾別した。この共沈インジウム錫水酸化物は白色であった。この共沈インジウム錫水酸化物のX線回折パターンを図6に示した。また、この共沈水酸化物粉末の顕微鏡写真を図8に示した。図8に示すように、この共沈水酸化物粉末は図7の粉末(実施例A No.1)と比較すると結晶の形状が不明瞭である。
この共沈インジウム錫水酸化物を110℃で一晩乾燥した後、大気中550℃で3時間焼成し、凝集体を粉砕してほぐし、ITO粉約44gを得た。上記ITO粉25gを、無水エタノールと蒸留水を混合(混合比率はエタノール95重量部に対して蒸留水5重量部)した表面処理液に入れて含浸させた後、ガラスシャーレに入れて窒素ガス雰囲気下、330℃にて2時間加熱処理した。
このITO粉末のLab値、比表面積を表1に示した。また、このITO粉末のX線回折パターンを図4に示した。さらに(222)面のピーク付近の部分拡大図を図5に示した。図示するように、このITO粉末の相対強度は2500cpsより低く、その半値幅は0.65°であり、実施例A No.1のITO粉末よりも結晶性が低いことが確認された。
【0042】
表1に示すように、本発明の好ましい範囲の試料(No.1〜No.6)では何れも、山吹色から柿色の共沈インジウム錫水酸化物が生成している。pHが上記範囲を外れると、比較例1〜2に示すように黄色を帯びた白色の沈澱になり、この沈澱を焼成して得られるITO粉末は鶯色(L=69.5 〜68.7、a=−2.7〜1.2、b=29.7〜32.3)である。四塩化錫を用いた比較例3は白色沈澱を生じ、この沈澱を焼成して得られるITO粉末は同様に鶯色(L=70.2、a=0.3、b=30.1)である。
【0043】
この鶯色のITO粉末(比較例3)を改質したものは、図5のX線回折パターンに示すように、(222)面のピークの半値幅は約0.65°であった。一方、山吹色のITO粉末(実施例1)を改質したものは、(222)面のピークの半値幅は約0.47°であり、鶯色のITO粉末よりも結晶性の高いものであった。
【0044】
また、実施例1〜6の大気焼成したITO粉末は、比表面積(BET値)が60m2/g〜85m2/gであり、比較例1〜3のITO粉末の比表面積(45〜48m2/g)よりも格段に大きく(概ね2倍弱)、この傾向は表面改質処理したITO粉末についても同様である。このように本発明のITO粉末は比較例のITO粉末よりも微細であり、従って、樹脂に混合して被膜を形成したときに透明性の高い被膜を形成することができる。
【0045】
山吹色を示す本発明のITO粉末は、表面処理すると濃い青色(L=30以下)になるので、被膜を形成したときに優れた熱線遮蔽性を示し、また被膜が白化し難い利点がある。
【0046】
図1、図2、図7に示すように、山吹色をした共沈水酸化物は水酸化物の結晶性が高い。この結晶性の高い共沈水酸化インジウムを用いることによって、比表面積が大きく、かつ結晶性の高いITO粉末を得ることができる。このITO粉末を用いた導電性組成物は高い透明性と共に優れた導電性を得ることができる。
【0047】
【表1】

【0048】
〔実施例7:透明導電性の試験〕
表1に示すNo.1のITO粉(実施例1)とNo.9のITO粉末(比較例3)をおのおの樹脂に分散させ、この分散液をスピンコーティングにて150回転によって、ガラス板に塗布して成膜した。さらに、オーバーコートとして、シリカゾルゲル液(シリカ:1%)をスピンコーティングにて150回転で成膜し、160℃で30分焼成した(膜厚0.2μm)。被膜を形成したガラス板の全光線透過率、表面抵抗値を測定した。この結果を表2、表3に示した。表面抵抗値は三菱化学製ロレスタAP(MCP−T400)にて測定した。全光線透過率は規格(JIS K7150)に従い、スガ試験機社装置(HGM−3D)を用い、400〜750nmの可視光線領域において測定した。全光線透過率の値はガラス板(ガラス板の透過率89.0%、厚さ1mm)を含み、被膜の厚さ0.2μmにおける値である。
【0049】
No.1のITO粉末は、No.9のITO粉末よりも結晶性が高いので、表2および表3に示すように、分散液中のITO濃度を基準にして比較すると、No.1のITO粉末を用いた被膜(A1〜A7)は、No.9のITO粉末を用いた被膜(B1〜B5)よりも、何れも表面抵抗値が低く、しかも全光線透過率は高い。
【0050】
具体的には、膜厚0.2μmにおいて、ITO粉末濃度6wt%のときに、表面抵抗20000Ω/□以下および全光線透過率89%以上であり、また、ITO粉末濃度20wt%のときに、表面抵抗6500Ω/□以下および全光線透過率85%以上である透明性が高く導電性に優れた被膜を形成することができる。
【0051】
【表2】

【0052】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
比表面積が55m2/g以上であって、山吹色の色調を有することを特徴とするインジウム錫酸化物粉末。
【請求項2】
比表面積が55m2/g以上であって、X線回折チャートの(222)面のピークの半値幅が0.6°以下であることを特徴とするインジウム錫酸化物粉末。
【請求項3】
比表面積が40m2/g以上であって、濃青色の色調(Lab表色系においてL=30以下)を有することを特徴とする表面改質したインジウム錫酸化物粉末。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れかに記載するインジウム錫酸化物粉末からなる透明導電性組成物。
【請求項5】
請求項1〜請求項3の何れかに記載するインジウム錫酸化物粉末(ITO粉末)を含み、該ITO粉末濃度6wt%の被膜において表面抵抗20000Ω/□以下および全光線透過率の減少が2%以下であって、該ITO粉末濃度20wt%の被膜において表面抵抗6500Ω/□以下および全光線透過率の減少が5%以下である透明導電性組成物。
【請求項6】
インジウムと錫の共沈水酸化物を焼成してインジウム錫酸化物粉末を製造する方法において、2価の錫化合物を用い、pH4.0〜9.3、液温5℃以上で、乾燥粉末が山吹色から柿色のインジウム錫水酸化物を共沈させ、該水酸化物を焼成することを特徴とするインジウム錫酸化物粉末の製造方法。
【請求項7】
3塩化インジウムと2塩化錫の混合水溶液とアルカリ水溶液とを同時に水に滴下し、あるいは、アルカリ水溶液に上記混合液を滴下して乾燥粉末が山吹色から柿色のインジウム錫水酸化物を共沈させる請求項5に記載する製造方法。
【請求項8】
上記[6]または上記[7]に記載する製造方法において、山吹色から柿色のインジウム錫水酸化物を乾燥して焼成する際に、乾燥と同時、または乾燥後に、窒素雰囲気下または水蒸気もしくはアルコールもしくはアンモニアを含有した窒素雰囲気下で加熱焼成することによって表面改質した濃青色の色調を有する比表面積が40m2/g以上のインジウム錫酸化物粉末を製造する方法。
【請求項9】
3塩化インジウムと2塩化錫とをアルカリの存在下で沈澱させた共沈物であって、乾燥粉末が山吹色から柿色の色調を有することを特徴とするインジウム錫水酸化物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−102229(P2011−102229A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171191(P2010−171191)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(597065282)三菱マテリアル電子化成株式会社 (151)
【Fターム(参考)】