説明

結晶性インスリンおよび溶解インスリンを含む薬学的調合物

本発明は、薬学的調合物および前記調合物を調製するための方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【序文】
【0001】
本発明は、溶解インスリン、その類似体または誘導体、および結晶性インスリン、その類似体または誘導体の薬学的調合物に関する。この製剤は、優れた化学特性を有する。
【発明の背景】
【0002】
糖尿病の治療において、多くの種々のインスリン製剤が提案され、使用されており、たとえば、通常のインスリン、セミレンテ(Semilente)(登録商標)インスリン、イソフェンインスリン、インスリン亜鉛懸濁液、プロタミン亜鉛インスリン、およびウルトラレンテ(Ultralente)(登録商標)インスリンが挙げられる。糖尿病患者は、数十年にわたってインスリンで治療されるため、安全性と生活の質を改善するインスリン製剤に対する大きな需要がある。商業的に入手可能なインスリン製剤の幾つかは、迅速な作用の発現により特徴づけられ、また他の製剤は、比較的遅い発現を示すが、多かれ少なかれ持続性作用を示す。速効性インスリン製剤は、通常インスリンの液剤であり、一方、遅効性インスリン製剤は、亜鉛塩のみの添加により、またはプロタミンの添加により、またはその両方の組み合わせにより沈殿した、結晶性および/または無晶性形態のインスリンを含有する懸濁剤とすることができる。
【0003】
加えて、何人かの患者は、迅速な作用の発現と持続性作用の両方を有する製剤を使用している。かかる製剤は、プロタミンインスリン結晶を懸濁したインスリン液剤とすることができる。本発明は、プレミックス形態のかかる懸濁剤に関する。
【0004】
Acta Pharmaceutica Nordica 4(4), 1992, pp. 149-158は、NaCl濃度を0〜250 mMの範囲で変化させたインスリン製剤を開示する。この製剤の大部分は、グリセロールを更に含むすべての製剤を含めて、かなり多量のNaCl、すなわち120 mMの濃度にほぼ対応する0.7%のNaClを含有する。この文献には、NaClは、インスリン製剤に対して安定化効果を有するが、グリセロールおよびグルコースは、化学的劣化の増大につながることが記載されている。
【0005】
US 5866538は、グリセロールおよび/またはマンニトールおよび低いNaCl濃度を含むインスリン製剤を開示する。この文献は、懸濁剤についても、プロタミンの存在についても記載していない。
【0006】
US 6127334は、塩酸、ZnCl2溶液、硫酸プロタミン溶液、m−クレゾール、フェノール、グリセロール、リン酸一水素二ナトリウムおよび水を含有するインスリンAspB28の懸濁剤を開示する。他の例には、マンニトールおよび/またはNaClおよび/またはLysB28-ProB29-インスリンを含む上記成分が含まれる。よって、この例は、成分において異なっており、その調合物を調製する方法も同様である。この製剤は、物理的ストレスに抵抗性がある懸濁剤を提供するという課題を解決する。
【0007】
US 5547930は、塩酸、ZnCl2溶液、硫酸プロタミン溶液、m−クレゾール、フェノール、グリセロール、リン酸一水素二ナトリウムおよび水を含有するAspB28インスリンの液剤を記載する。よって、この例は、成分において異なっており、調製方法も同様である。
【0008】
よって、本発明は、インスリン懸濁剤の新規調合物、およびこの調合物を調製する新規方法を提供する。
【発明の説明】
【0009】
本明細書で使用される「インスリン類似体」は、天然のインスリンに存在する少なくとも一のアミノ酸残基を欠失および/または置換することにより、および/または少なくとも一のアミノ酸残基を付加することにより、天然に存在するインスリン、たとえばヒトインスリンの構造から形式的に誘導することができる分子構造を有するポリペプチドを意味する。付加および/または置換されるアミノ酸残基は、コード可能なアミノ酸残基、または他の天然に存在するアミノ酸残基、または純粋に合成のアミノ酸残基の何れかとすることができる。本発明の一つの側面において、最大6個のアミノ酸が改変される。本発明の一つの側面において、最大5個のアミノ酸が改変される。本発明の一つの側面において、最大4個のアミノ酸が改変される。本発明の一つの側面において、最大3個のアミノ酸が改変される。本発明の一つの側面において、最大2個のアミノ酸が改変される。本発明の一つの側面において、1個のアミノ酸が改変される。
【0010】
インスリン類似体は、B鎖の28の位置が、天然のPro残基からAsp、LysまたはIleに改変されたものであり得る。また、A21の位置のAsnが、Ala、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Met、Ser、Thr、Trp、TyrまたはVal、とりわけGly、Ala、SerまたはThr、好ましくはGlyに改変されてもよい。更に、B3の位置のAsnが、LysまたはAspに改変されてもよい。インスリン類似体の更なる例は、des(B30)ヒトインスリン、B1およびB2の一方または両方が欠失したインスリン類似体;A鎖および/またはB鎖がN-末端の伸長を有するインスリン類似体、およびA鎖および/またはB鎖がC-末端の伸長を有するインスリン類似体である。更なるインスリン類似体は、B26−B30の一または複数が欠失したものである。B26−B30の位置において一または複数のアミノ酸残基が欠失すると、B鎖のC-末端アミノ酸残基はLysになる。本発明の一つの側面において、インスリン類似体はAspB28である。
【0011】
本明細書で使用される「インスリン誘導体」は、たとえば、インスリン骨格の一または複数の位置に側鎖を導入することにより、またはインスリンのアミノ酸残基の基を酸化もしくは還元することにより、または遊離のカルボキシル基をエステル基もしくはアミド基に変換することにより化学的に改変した、天然に存在するインスリンまたはインスリン類似体を意味する。その他の誘導体は、遊離のアミノ基またはヒドロキシ基をアシル化することにより得られる。
【0012】
本発明の文脈において、「約」の用語は、記載される値の周辺の合理的な範囲内を意味する。この用語は、測定の精度により決定される範囲を表し得る。他の態様において、この「約」の用語は、値の+/−10%の範囲内である。
【0013】
本発明の文脈において、“a”または“an”は、一または複数を意味する。
【0014】
本文脈において、ユニット“U”は、およそ6 nmol/mLに相当する。
【0015】
本発明において、塩の量は、たとえばNaClの形態で、インスリン製剤に添加される塩の量を指す。この調合物に、他の由来の塩が存在してもよい。しかし、本発明において、存在する塩の量は、塩の外部からの添加を指す。
【0016】
本文脈において、塩は、生理的に許容可能な塩を意味する。本発明の一つの側面において、塩は、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウムまたはカルシウム、およびCl、Br、SO42-、PO43-に由来する。本発明の一つの側面において、塩はNaClである。
【0017】
本発明において、「フェノール化合物」は、フェノール自体、その誘導体、およびフェノールおよび/またはその誘導体の混合物を指す。フェノールの誘導体は、たとえば、様々な異性体のクレゾール、o−、m−およびp−クレゾールである。本発明の一つの側面において、本発明で使用されるクレゾールは、m−クレゾールである。本発明の一つの側面において、フェノール化合物は、フェノールとm−クレゾールの混合物を意味する。
【0018】
本発明は、結晶性インスリン、その類似体または誘導体、および溶解インスリン、その類似体または誘導体を含み、更にプロタミン、Zn2+、バッファー、等張剤、フェノール化合物、および3 mMを超える量の塩を含む薬学的調合物に関する。本発明の一つの側面において、添加される塩の量は、50 mM未満である。本発明の一つの側面において、塩は、7〜40 mMの量で添加される。本発明の一つの側面において、塩は、最終製剤の10〜30 mMの量で添加される。本発明の一つの側面において、塩は、最終製剤の13〜26 mMの量で添加される。本発明の一つの側面において、塩は、最終製剤の17〜23 mMの量で添加される。本発明の一つの側面において、塩は、最終製剤の10 mMの量で添加される。本発明の一つの側面において、塩は、最終製剤の15 mMの量で添加される。本発明の一つの側面において、塩は、最終製剤の20 mMの量で添加される。
【0019】
好ましい態様において、薬学的調合物は、溶解インスリン、その類似体または誘導体、および沈殿したインスリン、好ましくは結晶性インスリン、その類似体または誘導体の両方を、様々な重量比で含む。本発明の一つの側面において、薬学的調合物は、溶解インスリン、その類似体または誘導体の、結晶性インスリン、その類似体または誘導体に対する重量比が1:99〜99:1である、インスリン、その類似体または誘導体に関する。本発明の一つの側面において、製剤は、溶解インスリン、その類似体または誘導体を、結晶性インスリン、その類似体または誘導体に対して、5:95、10:90、15:85、20:80、25:75、30:70、35:65、40:60、45:55、50:50、55:45、60:40、65:35、70:30、75:25、80:20、85:15、90:10、および95:5の重量比で含み、ここで具体的に記載される関係の合間も含む。本発明の一つの側面において、製剤は、溶解インスリンAspB28を結晶性インスリンAspB28に対して30:70の重量比で含む、懸濁剤のインスリンAspB28に関する。本発明の一つの側面において、製剤は、溶解インスリンAspB28を結晶性インスリンAspB28に対して70:30の重量比で含む、懸濁剤のインスリンAspB28に関する。本発明の一つの側面において、製剤は、溶解インスリンAspB28を結晶性インスリンAspB28に対して80:20の重量比で含む、懸濁剤のインスリンAspB28に関する。本発明の一つの側面において、製剤は、溶解インスリンAspB28を結晶性インスリンAspB28に対して20:80の重量比で含む、懸濁剤のインスリンAspB28に関する。本発明の一つの側面において、製剤は、溶解インスリンAspB28を結晶性インスリンAspB28に対して50:50の重量比で含む、懸濁剤のインスリンAspB28に関する。
【0020】
本発明の一つの側面において、製剤は、600〜6000 nmol/mLのインスリン、その類似体または誘導体を含有する。本発明の一つの側面において、製剤は、100 U/mLのインスリン、その類似体または誘導体を含有する。本発明の一つの側面において、製剤は、200 U/mLのインスリン、その類似体または誘導体を含有する。
【0021】
プロタミンの量は、調合物中の結晶性インスリン、その類似体または誘導体の量を決定する。プロタミンの量は、溶解性インスリン、その類似体または誘導体の、結晶性インスリン、その類似体または誘導体に対する重量比を決定し、これに従って調整される。本発明の一つの態様において、使用されるプロタミンは、0.01〜5.0 mg/mlである。
【0022】
本発明の一つの側面において、亜鉛が添加される。亜鉛は、全体的または部分的に、亜鉛の塩、たとえば塩化亜鉛、硫酸亜鉛または酢酸亜鉛に由来し得る。本発明の一つの側面において、添加される亜鉛は、塩化亜鉛の形態である。添加されるZn2+の量は、2Zn2+:6インスリン〜5Zn:6インスリンである。
【0023】
本発明の一つの側面において、調合物は、等張剤を含む。本発明の一つの側面において、等張剤は、糖または糖アルコール、アミノ酸(たとえば、L-グリシン、L-ヒスチジン、アルギニン、リジン、イソロイシン、アスパラギン酸、トリプトファン、トレオニン)、アルジトール(たとえば、グリセロール(グリセリン)、1,2-プロパンジオール(プロピレングリコール)、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール)、ポリエチレングリコール(たとえば、PEG400)、またはこれらの混合物からなる群より選択される。任意の糖、たとえば、モノ−、ジ−、またはポリサッカリド、または水溶性グルカン、たとえばフルクトース、グルコース、マンノース、ソルボース、キシロース、マルトース、ラクトース、スクロース、トレハロース、デキストラン、プルラン、デキストリン、シクロデキストリン、可溶性デンプン、ヒドロキシエチルデンプン、およびカルボキシメチルセルロース−Naが、使用され得る。一つの態様において、糖の添加剤は、スクロースである。糖アルコールは、少なくとも一つの−OH基を有するC4-C8炭化水素と定義され、たとえば、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、ガラクチトール、ズルシトール、キシリトール、およびアラビトールが含まれる。一つの態様において、糖アルコールの添加剤は、マンニトールである。上述の糖または糖アルコールは、個々に使用されてもよいし、組み合わせて使用されてもよい。糖または糖アルコールが、液体製剤に可溶であり、本発明の方法を用いて達成される安定化効果に悪影響を及ぼさない限り、使用量に定められた限度はない。本発明の一つの側面において、製剤に含有される等張剤は、グリセロールである。
【0024】
上記態様の何れかの薬学的調合物において、等張剤は、最終製剤の130〜225 mMの量で存在する。本発明の一つの側面において、等張剤は、最終製剤の150〜200 mMの量で存在する。本発明の一つの側面において、等張剤は、最終製剤の160〜190 mMの量で存在する。本発明の一つの側面において、等張剤は、最終製剤の170〜180 mMの量で存在する。本発明の一つの側面において、等張剤は、最終製剤の約174 mMの量で存在する。上記の一つの側面において、等張剤はグリセロールである。
【0025】
本発明の一つの側面において、バッファーが製剤中に含有される。適切なバッファーは、原則として、ヒトへの投与に関して薬学的に許容可能な任意のバッファーである。本発明の更なる態様において、バッファーは、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、クエン酸塩、グリシルグリシン、ヒスチジン、グリシン、リジン、アルギニン、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸ナトリウム、およびトリス(ヒドロキシメチル)-アミノメタン、ビシン(bicine)、トリシン(tricine)、リンゴ酸、コハク酸塩、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、アスパラギン酸、またはこれらの混合物からなる群より選択される。これらの具体的なバッファーの各々は、本発明の択一的な態様を構成する。本発明の一つの側面において、バッファーは、リン酸ナトリウムバッファーである。本発明の一つの側面において、バッファーは、リン酸二ナトリウム二水和物である。
【0026】
本発明の一つの側面において、バッファーは、2〜20 mMの量である。本発明の一つの側面において、バッファーは、6〜10 mMの量である。本発明の一つの側面において、バッファーの量は、7 mMである。本発明の一つの側面において、バッファーは、リン酸ナトリウムバッファーである。本発明の一つの側面において、バッファーは、リン酸二ナトリウム二水和物である。
【0027】
本発明は、本発明の薬学的組成物を調製するための方法であって、以下の工程を含む方法を提供する:
a)インスリン、その類似体または誘導体、亜鉛源、適量のプロタミンを含み、必要に応じて更に、フェノール化合物、および/または等張剤、および/または塩を含む、酸性溶液を提供する工程;
b)生理的pHにおいてバッファーとして作用する物質を含み、必要に応じて更に、塩、および/またはフェノール化合物および/または等張剤を含む、アルカリ性溶液を提供する工程;
c)酸性溶液とアルカリ性溶液とを混合する工程;および
d)この混合物を放置して、溶解インスリン、その類似体または誘導体を含む可溶性相、および結晶性インスリン、その類似体または誘導体を含む相を具備する薬学的組成物を形成する工程、および
必要に応じてpHを調整し、必要に応じて残りの塩、および/または等張剤および/またはフェノール化合物を添加する工程。
【0028】
上記の側面において、等張剤は、グリセロールである。上記の側面において、インスリン類似体は、AspB28である。
【0029】
一つの側面において、バッファーを含み、必要に応じてフェノール化合物および/または塩、および/またはグリセロールを含む塩基性溶液(溶液I)を、インスリン、亜鉛源、適量のプロタミンを含み、必要に応じて更に、塩および/またはグリセロール、および/またはフェノール化合物を含む酸性溶液(溶液II)と混合することにより、調製は行われる。混合溶液は、その後、体積およびpH値を必要に応じて調整し、結晶化させる。必要に応じて、残りのフェノール化合物および/またはグリセロールおよび/または塩を、その後、添加する。最終製剤のpH値は、7.0〜7.8の範囲が好ましい。
【0030】
本発明の一つの側面において、結晶化のために放置される混合溶液は、10〜1000 U/mLのインスリン、その類似体または誘導体を含有する。本発明の一つの側面において、結晶化のために放置される混合溶液は、100 U/mLのインスリン、その類似体または誘導体を含有する。本発明の一つの側面において、結晶化のために放置される混合溶液は、200 U/mLのインスリン、その類似体または誘導体を含有する。本発明の一つの側面において、結晶化のために放置される混合溶液は、400 U/mLのインスリン、その類似体または誘導体を含有する。本方法の一つの側面において、インスリン類似体は、AspB28である。
【0031】
本発明の一つの側面において、塩、等張剤およびフェノール化合物は、溶液Iのみに存在する。本発明の一つの側面において、塩、等張剤およびフェノール化合物は、溶液IIのみに存在する。本発明の一つの側面において、等張剤およびフェノール化合物は、溶液IおよびIIの両方に分配される。
【0032】
本発明の一つの側面において、結晶化のために放置される混合溶液は、等張剤およびフェノール化合物、および塩の総量の一部分のみを含有する。結晶化の後、フェノール化合物、および/または塩および/または等張剤の残りの量を添加する。本発明の一つの側面において、結晶化のために放置される混合溶液は、塩の総量、等張剤の一部分のみ、およびフェノール化合物の総量の一部分のみを含有する。結晶化の後、フェノール化合物および等張剤の残りの量を添加する。本発明の一つの側面において、結晶化のために放置される混合溶液は、フェノール化合物、塩、および等張剤の総量を含有する。
【0033】
本発明の一つの側面において、フェノール化合物の総量は、溶液IとIIに分配される。本発明の一つの側面において、フェノール化合物の量は、溶液IとIIに等量ずつ分配される。
【0034】
本発明の一つの側面において、フェノール化合物の総量の0−100%が、結晶化のために放置される混合物に添加される。本発明の一つの側面において、フェノール化合物の総量の10−90%が、結晶化のために放置される混合物に添加される。本発明の一つの側面において、フェノール化合物の総量の20−85%が、結晶化のために放置される混合物に添加される。本発明の一つの側面において、フェノール化合物の総量の30−80%が、結晶化のために放置される混合物に添加される。本発明の一つの側面において、フェノール化合物の総量の40−75%が、結晶化のために放置される混合物に添加される。本発明の一つの側面において、フェノール化合物の総量の50−70%が、結晶化のために放置される混合物に添加される。本発明の一つの側面において、フェノール化合物の総量の55−65%が、結晶化のために放置される混合物に添加される。本発明の一つの側面において、フェノール化合物の総量の60%が、結晶化のために放置される混合物に添加される。本発明の一つの側面において、フェノール化合物の総量の80%が、結晶化のために放置される混合物に添加される。本発明の一つの側面において、フェノール化合物の総量の100%が、結晶化のために放置される混合物に添加される。本発明の一つの側面において、フェノール化合物の残りは、別個に添加される。
【0035】
本発明の一つの側面において、フェノール化合物は、フェノール化合物である。一つの側面において、フェノール化合物は、フェノールまたはm−クレゾール、またはフェノールおよびm−クレゾールである。
【0036】
本発明の一つの側面において、フェノール化合物は、最終製剤の20〜40 mMで存在する。本発明の一つの側面において、フェノール化合物は、最終製剤の32 mMで存在する。本発明の一つの側面において、フェノールは、最終製剤の10〜40 mMで存在する。本発明の一つの側面において、フェノールは、最終製剤の32 mMで存在する。本発明の一つの側面において、フェノール化合物は、最終製剤の10〜20 mMの量のフェノールを含む。本発明の一つの側面において、フェノール化合物は、14〜18 mMの量のフェノールを含む。本発明の一つの側面において、フェノール化合物は、最終製剤の16 mMの量のフェノールを含む。
【0037】
本発明の一つの側面において、m−クレゾールは、最終製剤の10〜40 mMで存在する。本発明の一つの側面において、m−クレゾールは、最終製剤の32 mMで存在する。本発明の一つの側面において、フェノール化合物は、10〜20 mMの量のm−クレゾールを含む。本発明の一つの側面において、フェノール化合物は、14〜18 mMの量のm−クレゾールを含む。本発明の一つの側面において、フェノール化合物は、最終製剤の16 mMの量のm−クレゾールを含む。本発明の一つの側面において、フェノール化合物は、最終製剤の16 mMの量のm−クレゾールを含む。
【0038】
本発明の一つの側面において、上記側面のフェノールおよびm−クレゾールの両方が、最終の薬学的調合物に存在する。
【0039】
上記インスリン製剤は、優れた再懸濁能力を有する。この製品は懸濁剤であるため、エンドユーザーは、製品を再懸濁して、均一な分布の注入用製品を所有していなければならない。製品が再懸濁できない場合、廃棄されなければならない。
【0040】
これは、以下の手法により制御することができる:製品を振り動かして、光源の下でヒトの眼により視覚的に検査する。製品は、白色で均質でなければならない。
【0041】
本発明の一つの側面において、製品の再懸濁は、製品を横転させて、その後、製品を上下ひっくり返して回転させることを含む。
【0042】
本発明は、ヒトインスリンの類似体を含む懸濁剤に関して、特に優れている。
【0043】
本発明は、以下の実施例により更に説明されるが、以下の実施例を、本発明を限定するものと解釈してはならない。
【実施例】
【0044】
例I
溶解AspB28ヒトインスリンおよび結晶性AspB28ヒトインスリンの両方を含有するインスリン製剤を、以下の手法で調製した:
溶液Iを、2.50 gのリン酸二ナトリウム二水和物および1.17 gの塩化ナトリウムを、注射用蒸留水に溶解することにより調製した。1.55 gのフェノール、1.77 gのメタクレゾール、16 gのグリセロール、および4.32 gの水酸化ナトリウム2Nを、混合しながら添加した。溶液のpHが約9であることを測定し、水を900 mlまで添加した。溶液IIを、1.17 gの塩化ナトリウム、1.77 gのメタクレゾール、1.55 gのフェノール、および16 gのグリセロールを、水に溶解することにより調製した。その後、この溶液に、0.45 gの硫酸プロタミンの溶液を混合しながら添加し、この溶液に、3.4 gの2N塩酸および1.04 gの塩化亜鉛溶液(4 mg/ml)を添加することにより水に溶解した7.5 gのAspB28ヒトインスリンを、混合しながら添加した。水を適宜800 mlまで添加した。これら溶液を混合し、懸濁液のpHを、必要な場合、水酸化ナトリウムまたは塩酸を添加することにより約7.2に再調整した。水を適宜2000 mlまで添加した。
【0045】
得られた懸濁液をここで結晶化させた。結晶の形状および非晶粒子の量を顕微鏡によりチェックした。
【0046】
得られた製剤において、沈殿したインスリンの溶解インスリンに対する重量比は、50:50であった。
【0047】
例II
溶解AspB28ヒトインスリンおよび結晶性AspB28ヒトインスリンの両方を含有するインスリン製剤を、以下の手法で調製した:
溶液Iを、2.50 gのリン酸二ナトリウム二水和物および0.88 gの塩化ナトリウムを、注射用蒸留水に溶解することにより調製した。1.24 gのフェノール、8 gのグリセロール、および4.6 gの水酸化ナトリウム2Nを、混合しながら添加した。溶液のpHが約10であることを測定し、水を450 mlまで添加した。溶液IIを、0.88 gの塩化ナトリウム、1.24 gのフェノール、および4 gのグリセロールを、水に溶解することにより調製した。その後、この溶液に、0.64 gの硫酸プロタミンの溶液を混合しながら添加し、この溶液に、3.4 gの2N塩酸および1.04 gの塩化亜鉛溶液(4 mg/ml)を添加することにより水に溶解した7.5 gのAspB28ヒトインスリンを、混合しながら添加した。水を適宜500 mlまで添加した。これら溶液を混合し、懸濁液のpHを、必要な場合、水酸化ナトリウムまたは塩酸を添加することにより約7.2に再調整した。水を適宜1000 mlまで添加した。
【0048】
得られた懸濁液をここで結晶化させた。結晶の形状および非晶粒子の量を顕微鏡によりチェックした。
【0049】
溶液IIIを、0.62 gのフェノール、3.54 gのメタクレゾール、および16 gのグリセロールを溶解することにより調製した。水を900 mlまで添加した。溶液IIIと結晶混合物を混合し、この懸濁液のpHを、必要な場合、水酸化ナトリウムまたは塩酸を添加することにより約7.2に再調整した。水を適宜2000 mlまで添加した。
【0050】
得られた製剤において、沈殿したインスリンの溶解インスリンに対する重量比は、70:30であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性インスリン、その類似体または誘導体、および溶解インスリン、その類似体または誘導体、およびプロタミン、Zn++、等張剤、フェノール化合物、および7〜40 mMの量の塩を含む薬学的調合物。
【請求項2】
塩の量が10〜30 mMである、請求項1に記載の薬学的調合物。
【請求項3】
塩の量が13〜26 mMである、請求項2に記載の薬学的調合物。
【請求項4】
塩の量が17〜23 mMである、請求項3に記載の薬学的調合物。
【請求項5】
塩がNaClである、請求項1〜4の何れか1項に記載の薬学的調合物。
【請求項6】
溶解インスリン、その類似体または誘導体の、結晶性インスリン、その類似体または誘導体に対する量が、1:99〜99:1の間の重量比である、上記請求項の何れか1項に記載の薬学的調合物。
【請求項7】
溶解インスリン、その類似体または誘導体の、結晶性インスリン、その類似体または誘導体に対する量が、20:80〜80:20の間の重量比である、上記請求項の何れか1項に記載の薬学的調合物。
【請求項8】
溶解インスリン、その類似体または誘導体の、結晶性インスリン、その類似体または誘導体に対する量が、30:70〜70:30の間の重量比である、上記請求項の何れか1項に記載の薬学的調合物。
【請求項9】
溶解インスリン、その類似体または誘導体の、結晶性インスリン、その類似体または誘導体に対する量が、40:60〜60:40の間の重量比である、上記請求項の何れか1項に記載の薬学的調合物。
【請求項10】
インスリン、その類似体または誘導体の濃度が、約600〜6000 nmol/mLの間である、上記請求項の何れか1項に記載の薬学的調合物。
【請求項11】
インスリン、その類似体または誘導体の濃度が、約600 nmol/mLである、上記請求項の何れか1項に記載の薬学的調合物。
【請求項12】
インスリン、その類似体または誘導体の濃度が、約1200 nmol/mLである、上記請求項の何れか1項に記載の薬学的調合物。
【請求項13】
前記インスリン類似体がAspB28である、上記請求項の何れか1項に記載の薬学的調合物。
【請求項14】
前記等張剤が130〜225 mMの量で存在する、上記請求項の何れか1項に記載の薬学的調合物。
【請求項15】
前記等張剤が150〜200 mMの量で存在する、上記請求項の何れか1項に記載の薬学的調合物。
【請求項16】
前記等張剤が160〜190 mMの量で存在する、上記請求項の何れか1項に記載の薬学的調合物。
【請求項17】
前記等張剤が170〜180 mMの量で存在する、上記請求項の何れか1項に記載の薬学的調合物。
【請求項18】
前記等張剤が174 mMの量で存在する、上記請求項の何れか1項に記載の薬学的調合物。
【請求項19】
前記等張剤がグリセロールである、上記請求項の何れか1項に記載の薬学的調合物。
【請求項20】
前記フェノール化合物がフェノールを含む、上記請求項の何れか1項に記載の薬学的調合物。
【請求項21】
フェノールが、最終製剤の10〜40 mMの量で存在する、請求項20に記載の薬学的調合物。
【請求項22】
フェノールが、最終製剤の14〜18 mMの量で存在する、請求項20に記載の薬学的調合物。
【請求項23】
フェノールが、最終製剤の約16 mMの量で存在する、請求項20に記載の薬学的調合物。
【請求項24】
前記フェノール化合物がm−クレゾールを含む、上記請求項の何れか1項に記載の薬学的調合物。
【請求項25】
前記薬学的調合物が、最終製剤の10〜40 mMの量でm−クレゾールを含む、請求項24に記載の薬学的調合物。
【請求項26】
前記薬学的調合物が、最終製剤の14〜18 mMの量でm−クレゾールを含む、請求項24に記載の薬学的調合物。
【請求項27】
前記薬学的調合物が、最終製剤の約16 mMの量でm−クレゾールを含む、請求項24に記載の薬学的調合物。
【請求項28】
前記フェノール化合物がフェノールおよびm−クレゾールである、上記請求項の何れか1項に記載の薬学的調合物。
【請求項29】
Zn2+がZnCl2の形態で添加される、上記請求項の何れか1項に記載の薬学的調合物。
【請求項30】
Zn2+の濃度が、2Zn2+:6インスリン〜5Zn2+:6インスリンの量で存在する、上記請求項の何れか1項に記載の薬学的調合物。
【請求項31】
バッファーを更に含む、上記請求項の何れか1項に記載の薬学的調合物。
【請求項32】
バッファーが、最終製剤の2〜20 mMの量で存在する、請求項31に記載の薬学的調合物。
【請求項33】
バッファーが、最終製剤の6〜10 mMの量で存在する、請求項31に記載の薬学的調合物。
【請求項34】
バッファーが、最終製剤の約7 mMの量で存在する、請求項31に記載の薬学的調合物。
【請求項35】
前記バッファーが、リン酸ナトリウムであり、好ましくはリン酸二ナトリウムとして存在する、請求項31−34の何れか1項に記載の薬学的調合物。
【請求項36】
前記調合物が懸濁剤である、上記請求項の何れか1項に記載の薬学的調合物。
【請求項37】
上記請求項の何れか1項に記載の薬学的製品を調製するための方法であって、
a)インスリン、その類似体または誘導体、亜鉛源、適量のプロタミンを含み、必要に応じて更に、フェノール化合物、および/または等張剤、および/または塩を含む、酸性溶液を提供する工程;
b)生理的pHにおいてバッファーとして作用する物質を含み、必要に応じて更に、塩、および/またはフェノール化合物および/または等張剤を含む、アルカリ性溶液を提供する工程;
c)前記酸性溶液とアルカリ性溶液とを混合する工程;および
d)前記混合物を放置して、溶解インスリン、その類似体または誘導体を含む可溶性相、および結晶性インスリン、その類似体または誘導体を含む相を具備する薬学的組成物を形成する工程、および
必要に応じてpHを調整し、必要に応じて残りの塩、および/または等張剤および/またはフェノール化合物を添加する工程
を含む方法。
【請求項38】
前記フェノール化合物が、m−クレゾールまたはフェノールまたはこれらの混合物である、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記インスリン類似体がAspB28である、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
前記等張剤がグリセロールである、請求項37に記載の方法。
【請求項41】
前記薬学的調合物のpH値を、約7.0〜7.8のpHに調整する工程を更に含む、請求項37に記載の方法。
【請求項42】
上記請求項の何れか1項に記載の薬学的調合物の、非経口投与のための使用。

【公表番号】特表2008−515853(P2008−515853A)
【公表日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−535163(P2007−535163)
【出願日】平成17年10月5日(2005.10.5)
【国際出願番号】PCT/EP2005/055017
【国際公開番号】WO2006/037789
【国際公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【出願人】(391032071)ノボ ノルディスク アクティーゼルスカブ (148)
【氏名又は名称原語表記】NOVO NORDISK AKTIE SELSXAB
【Fターム(参考)】