説明

結晶性プラチナ粒子を製造するための方法

【課題】大きなサイズの結晶性プラチナ粒子を製造するための簡易な方法を提供すること。
【解決手段】上記方法は、プラチナ錯化合物と、酸と、炭素数2〜12の1級アルコールと、脂肪族1級アミンとを、有機溶媒中で接触させることを特徴とする方法である。該方法によって製造された結晶性プラチナ粒子は大きなサイズを有し、好ましくは特定の面が実質的に排他的に露出した単結晶のプラチナキューブである。従って、該プラチナ粒子は電極材料、化学反応の触媒、燃料電池の電気触媒などの用途に好適に使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶性プラチナ粒子を製造するための方法に関する。
本発明はさらに、自己整列性を有する結晶性プラチナ粒子を製造するための方法および基板上に該粒子が整列してなる層を形成するための方法をも開示するものである。
【背景技術】
【0002】
プラチナ、特にプラチナナノ結晶は、高い導電性、ユニークな触媒作用、化学的安定性などの諸特性から、電極材料、化学反応の触媒、燃料電池の電気触媒などの用途に適用されている。プラチナナノ結晶の特性は、サイズ、形状および構造を含む一連の物理的パラメータによって決定されることから、プラチナナノ結晶を形状制御的に製造するための検討が広くなされている。プラチナナノ結晶のうち、とりわけ結晶性プラチナナノキューブは、(100)が優勢な表面の存在およびその形状のため、上記の如き用途においてさらに魅力的な特性を発揮することが期待されている。
かかるプラチナナノ結晶の製造方法としては、粒子成長の制御剤および還元剤として働く高沸点溶媒中における高温有機相合成が検討され、報告されている。
例えば非特許文献1には、プラチナ錯化合物を、形状誘導剤としての硝酸銀の存在下にエチレングリコール還元系によって還元して金属プラチナに変換するに際して、PtおよびAgの使用比を調整することによって、オクタへドラル形状またはキューブ形状の結晶性金属プラチナを製造しうることが記載されている。また、非特許文献2には、オクタデセン中、200℃において、Fe(CO)の存在下に結晶性ナノキューブを製造する方法が記載されている。しかし、これらの文献に記載された方法によって製造されたプラチナナノ結晶は、結晶中に他の金属を含有していることから、プラチナ固有の特性が大きく損なわれていることが指摘されている(非特許文献3)。従って上記用途においては、他の金属を含有しない均一なPtナノ結晶の形状制御的合成が強く望まれている。
【0003】
一方、上記以外のプラチナナノ結晶の用途として、結晶面上に強誘電性材料を結晶成長させてメモリ素子を構成することが考えられる。このとき、強誘電性材料の結晶成長のためにアニーリング工程を要するため、かかる用途においてはプラチナナノ結晶の熱安定性も重要となる。例えば強誘電材料として広く用いられているチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)の場合、その配向成長は一般に400℃以上の温度で行われるが、従来知られている方法によって製造されたプラチナナノ結晶は、典型的には300℃以上において有機キャップ層が分解して凝集し、そのサイズ、形状および組成ないし結晶性が変わってしまうことが知られている。この点、プラチナナノ結晶の熱安定性は結晶サイズに依存し、大きなサイズのプラチナナノ結晶を製造することができれば極めて高い熱安定性を示し、アニーリング下においても初期特性を維持することができるものと考えられる。かかる観点から、大きなサイズのプラチナナノ結晶が嘱望されている。
しかしながらプラチナは、他の面心立方格子(fcc)金属に比べて内部歪みエネルギーが大きいため、ナノ結晶を大きなサイズに成長することは困難である。そして現在に至るまで、大きなサイズのプラチナナノ結晶の製造に関する報告としては、より小さな微結晶の凝集体に関するものがいくつか存在するにすぎなかった(例えば非特許文献4)。
近年、非特許文献5は、大きな面指数を有する大サイズのテトラヘキサへドラル型プラチナナノ結晶を電気化学的に製造するブレークスルー技術を報告した。同文献によると、ガラス状炭素上に担持されたプラチナナノ粒子に矩形波電圧を印加することにより、大きなサイズのテトラヘキサへドラル型プラチナナノ結晶が成長するという。しかし、同文献に記載された方法によって得られるプラチナナノ結晶は、ガラス状炭素上にのみ成長することができ、しかもテトラヘキサへドラル型であるため電気的に酸化されやすく、その用途は極めて限定される。
幅広い用途に適用することのできる大サイズの結晶性プラチナ粒子を得る方法は、未だ知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J. Phys. Chem. B, 2005(109), 188
【非特許文献2】J. Am. Chem. Soc., 2007(129), 6974
【非特許文献3】Topic Cata., 2006(39), 167
【非特許文献4】Nano Lett., 2008(8), 4588
【非特許文献5】Science, 2007(316), 732
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、大きなサイズの結晶性プラチナ粒子を製造するための簡易な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、
プラチナ錯化合物と
酸と
炭素数3〜12の1級アルコールと
脂肪族1級アミンと
を、有機溶媒中で接触させる、結晶性プラチナ粒子を製造するための方法によって達成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、大きなサイズの結晶性プラチナ粒子を製造するための簡易な方法が提供される。本発明の方法によって製造された結晶性プラチナ粒子は大きなサイズを有し、好ましくは特定の面が実質的に排他的に露出した単結晶のプラチナキューブである。従って、該プラチナ粒子は電極材料、化学反応の触媒、燃料電池の電気触媒などの用途に好適に使用することができる。
該結晶性プラチナ粒子をさらに処理すると、自己整列性を示す結晶性プラチナ粒子とすることができ、これを用いて基板上に結晶性プラチナ粒子が整列してなる層を形成することができる。この層は、これをそのまま電極材料として使用することできるほか、特定の面が同一方向に整列して大面積の面を形成してなる層であるからこの上に強誘電性材料、圧電体材料などをエピタキシャルに成長させることができ、それぞれメモリ素子、μ−MEMS(Micro Electro Mechanical Systems=微小機械電気システム)などとして使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1で得られた結晶性プラチナキューブのTEM像である。
【図2】実施例1で得られた結晶性プラチナキューブのTGA曲線である。
【図3】実施例2で得られた結晶性プラチナキューブのTEM像である。
【図4】比較例1で得られた黒色粉末のTEM像である。
【図5】実施例4で得られた基板上に結晶性プラチナキューブが整列してなる層の各温度におけるアニール後のXRDチャートである。
【図6】本明細書における「キューブ」の概念を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の第一の観点は、上記したとおり、
プラチナ錯化合物と
酸と
炭素数2〜12の1級アルコールと
脂肪族1級アミンと
を、有機溶媒中で接触させる、結晶性プラチナ粒子を製造するための方法に関する。
本発明の第二の観点は、
上記の方法によって製造された結晶性プラチナ粒子を、さらにアルコール溶媒中で親水性ポリマーと接触させる、親水性ポリマー層を有する結晶性プラチナ粒子を製造するための方法に関する。
本発明の第三の観点は、
アミノ基を有するシランカップリング剤で処理された基板と
上記の方法によって製造された親水性ポリマー層を有する結晶性プラチナ粒子と
を、極性溶媒中で接触させる、基板上に結晶性プラチナ粒子が整列してなる層を形成するための方法に関する。
以下、本発明の各観点について詳細に説明する。
【0010】
<結晶性プラチナ粒子を製造するための方法>
本発明の第一の観点は、上記の如くである。
[プラチナ錯化合物]
本発明において使用されるプラチナ錯化合物としては、後述の有機溶媒に溶解し、後述の1級アルコールにより還元されることによって金属プラチナとなりうる錯化合物であれば制限なく使用することができる。ここで「錯化合物」とは、錯体および化合物の双方を包含する概念であり、特に下記に例示されるものを包含する概念である。
本発明において使用されるプラチナ錯化合物としては、プラチナ(II)またはプラチナ(IV)の錯化合物であることが好ましく、下記式(P1)〜(P5)
【0011】
【化1】

【0012】
(式(P1)中、Rは、それぞれ、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシル基、炭素数1〜6のフルオロアルキル基または炭素数1〜6のフルオロアルコキシル基であり、Rは、それぞれ、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基である。)
PtX・D (P2)
(式(P2)中、Xはハロゲン原子であり、Dはモノエン配位子、ジエン配位子、炭素数1〜6のアルキル基を有するチオエーテル配位子、トリアリールホスフィンまたは芳香族配位子であり、aは1または2である。)
Pt(CO) (P3)
(式(P3)中、Xはハロゲン原子であり、bは0または2であり、cは2または4である。)
Pt(NH (P4)
(式(P4)中、Yはハロゲン原子、水酸基または硝酸イオン(NO)であり、Zは水配位子であり、dは0または1である。)
【0013】
【化2】

【0014】
のそれぞれで表される錯化合物、ビス(ジベンジリデンアセトン)プラチナ、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジプラチナ、HPtCl、[Pt(NH][PtCl]、Pt(NHClおよびPt(NH(OCOCHよりなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
上記式(P1)におけるRの炭素数1〜6のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、i−プロピル基、t−ブチル基などを;
の炭素数1〜6のアルコキシル基としては、例えばメトキシル基、エトキシル基、i−プロポキシル基、t−ブトキシル基などを;
の炭素数1〜6のフルオロアルキル基としては、例えばトリフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、パーフルオロエチル基などを;
の炭素数1〜6のフルオロアルコキシル基としては、例えばトリフルオロメトキシル基、2,2,2−トリフルオロエトキシル基、パーフルオロエトキシル基などを、それぞれ挙げることができる。Rとしては、炭素数1〜6のアルキル基またはフルオロアルキル基であることが好ましく、メチル基またはトリフルオロメチル基であることがより好ましい。上記式(P1)におけるRの炭素数1〜6のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、2−プロピル基、t−ブチル基などを挙げることができる。Rとしては、水素原子であることが好ましい。
上記式(P1)で表される錯化合物の具体例としては、例えばプラチナビス(アセチルアセトナート)、プラチナビス(1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロアセチルアセトナート)などを挙げることができる。
【0015】
上記式(P2)におけるXのハロゲン原子としては、例えば塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などを挙げることができる。Dのモノエン配位子としては、例えばエチレン、プロピレンなどを;
ジエン配位子としては、例えば1,5−ヘキサジエン、ノルボルナ−2,5−ジエン、1,3−シクロペンタジエン、1,5−シクロオクタジエン、ビシクロペンタジエンなどを;
炭素数1〜6のアルキル基を有するチオエーテル配位子としては、例えばジメチルチオエーテル、ジエチルチオエーテル、ジイソプロピルチオエーテルなどを;
トリアリールホスフィンとしては、トリフェニルホスフィン、トリトリルホスフィンなどを;
芳香族配位子としては、例えばピリジン、ピリミジン、トリアジン、シアノベンゼンなどを、それぞれ挙げることができる。上記式(P2)において、cが4であるとき、bは0であることが好ましい。
上記式(P2)で表される錯化合物の具体例としては、例えばPtCl(C、PtCl(1,5−ヘキサジエン)、PtCl(ノルボルナジエン)、PtCl(1,3−シクロペンタジエン)、PtCl(1,5−シクロオクタジエン)、PtBr(1,5−シクロオクタジエン)、PtI(1,5−シクロオクタジエン)、PtCl(ビシクロペンタジエン)、PtCl(S(C、PtCl(ピリジン)、PtCl(シアノベンゼン)などを挙げることができ、これらのうちPtCl(ビシクロペンタジエン)が好ましい。
【0016】
上記式(P3)におけるXのハロゲン原子としては、例えば塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などを挙げることができる。
上記式(P3)で表される錯化合物の具体例としては、例えばPt(CO)Cl、Pt(CO)Br、Pt(CO)、PtCl、PtBr、PtI、PtClなどを挙げることができる。
上記式(P4)におけるXのハロゲン原子としては、例えば塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などを挙げることができる。
上記式(P4)で表される錯化合物の具体例としては、例えばPt(NHCl(HO)、Pt(NH(OH)(HO)、Pt(NH(NOなどを挙げることができる。
本発明において使用されるプラチナ錯化合物としては、プラチナ(II)の錯化合物であることが好ましく、特に上記式(P1)で表される錯化合物、上記式(P2)で表される化合物のうちのDがジエン配位子である錯化合物、ビス(ジベンジリデンアセトン)プラチナおよびトリス(ジベンジリデンアセトン)ジプラチナよりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0017】
[酸]
本発明において使用される酸は、上記プラチナ錯化合物から配位子を脱離させ、プラチナ原子を後述の1級アルコールによる還元反応に対して活性化する機能を有する成分であり、例えば無機酸および有機酸よりなる群から選択される少なくとも1種を使用することができる。上記無機酸の具体例としては、例えば塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などを;
上記有機酸の具体例としては、例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、2−メチル酪酸、カプロン酸、3,3−ジメチル酪酸、2−エチル酪酸、4−メチルペンタン酸、n−ヘプタン酸、2−メチルヘキサン酸、n−オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコ−ル酸、乳酸、グリオキシル酸、3−ヒドロキシ酢酸、2−ヒドロキシ酢酸、ヒドロアクリル酸、ピルビン酸、クロトン酸、グルコン酸、マンデル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸などを、それぞれ挙げることができる。
これらのうち、有機酸を使用することが好ましく、脂肪族モノカルボン酸を使用することがより好ましく、炭素数2〜6の脂肪族モノカルボン酸を使用することがさらに好ましく、特に酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸およびカプロン酸よりなる群から選択される少なくとも1種を使用することが好ましい。
【0018】
[炭素数2〜12の1級アルコール]
本発明において使用される1級アルコールは、上記の酸によって活性化された上記プラチナ錯化合物のプラチナ原子を還元する機能を有する成分である。この1級アルコールは、1級水酸基を有するアルコール化合物であればよく、2価アルコール、1級水酸基のほかに2級または3級水酸基を有する多価アルコールなどをも包含する概念である。
かかる1級アルコールの炭素数としては、2〜10であることが好ましい。このような1級アルコールの具体例としては、例えばエタノール、1−プロパノール、1−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどを挙げることができ、これらのうち、1−ブタノール、1−ヘキサノール、1−オクタノール、エチレングリコール、プロピレングリコールおよびグリセリンよりなる群から選択される少なくとも1種を使用することが好ましい。
【0019】
[脂肪族1級アミン]
本発明において使用される脂肪族1級アミン(以下、単に「1級アミン」ともいう。)は、上記プラチナ錯化合物中のプラチナ原子が上記酸および1級アルコールの作用によって還元されて成長した結晶性粒子の有機キャップ層(保護コロイド)として機能するとともに、該キャップ層を通してプラチナ前駆体である上記プラチナ錯化合物を運搬し、さらなる還元反応によって結晶性粒子を成長させる役割を具備する成分である。
かかる1級アミンとしては、炭素数8〜22の脂肪族1級アミンであることが好ましく、炭素数8〜20の脂肪族1級アミンであることがより好ましく、特に下記式(1)
NH (1)
(式(1)中、Rは炭素数8〜20の直鎖のアルキル基または炭素数8〜20の直鎖のアルケニル基である。)
で表される化合物であることがより好ましい。上記式(1)におけるアルケニル基中の二重結合の数は、1個であっても2個以上であってもよい。上記式(1)で表される化合物の具体例としては、Rが直鎖のアルキル基であるものとして例えばn−オクチルアミン、n−ノニルアミン、n−デシルアミン、n−ウンデシルアミン、n−ドデシルアミン、セチルアミンなどを;
が直鎖のアルケニル基であるものとして例えばオレイルアミン、パルミチルアミン、エライジルアミン、バクセニルアミン、エイコセニルアミンなどを、それぞれ挙げることができる。これらのうち、n−オクチルアミン、n−ドデシルアミン、セチルアミン、オレイルアミン、パルミチルアミンおよびエイコセニルアミンよりなる群から選択される少なくとも1種を使用することが好ましい。
【0020】
[有機溶媒]
本発明において使用される有機溶媒は、上記プラチナ錯化合物、酸、1級アルコールおよび1級アミンを溶解することができ、これらの反応により生成する、1級アミンからなる有機キャップ層に保護された結晶性プラチナ粒子を分散することができ、且つこれらと反応せず、後述の反応温度および反応圧力において液体状態であるものであれば好適に使用することができ、単一種の溶媒のみからなっていても複数種類の混合物であってもよい。
かかる有機溶媒としては、例えば脂肪族炭化水素溶媒、芳香族炭化水素溶媒、ハロゲン化炭化水素溶媒、ケトン溶媒、エーテル溶媒、エステル溶媒、非プロトン性極性溶媒などを挙げることができる。上記脂肪族炭化水素溶媒の具体例としては例えばn−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−デカンなどを;
上記芳香族炭化水素溶媒の具体例としては例えばベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、インダン、テトラリンなどを;
上記ハロゲン化炭化水素溶媒の具体例としては例えばジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,4−ジクロロブタン、トリクロロエタン、クロルベンゼン、o−ジクロルベンゼンなどを;
上記ケトン溶媒の具体例としては例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノンなどを;
上記エステル溶媒の具体例としては例えば乳酸エチル、乳酸ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネート、エチルエトキシプロピオネート、シュウ酸ジエチル、マロン酸ジエチルなどを、それぞれ挙げることができる。
【0021】
上記非プロトン性極性溶媒としては、例えばアミド溶媒、スルホキシド溶媒、エーテル溶媒、ニトリル溶媒などを挙げることができ、これらの具体例としては、アミド溶媒として例えばγ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジブチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、テトラメチル尿素などを;
スルホキシド溶媒として例えばジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどを;
上記エーテル溶媒としては例えばジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールジイソプロピルエーテル、エチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどを;
上記ニトリル溶媒として、例えばアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどを、それぞれ挙げることができる。
本発明における有機溶媒としては、上記に例示した有機溶媒の2種以上からなる混合物であって、これらが互いに反応せず、且つこれらのうちのいずれもが上記の酸、1級アルコールおよび1級アミンと反応しないものであれば好ましく使用することができ、芳香族炭化水素溶媒と非プロトン性極性溶媒との混合溶媒を使用することがより好ましく、特に芳香族炭化水素溶媒とアミド溶媒との混合溶媒を使用することが好ましい。この場合、非プロトン性極性溶媒(好ましくはアミド溶媒)の使用割合としては、混合溶媒の全量に対して、5〜95重量%とすることが好ましく、20〜80重量%とすることがより好ましい。かかる有機溶媒を使用することにより、溶媒の極性的な効果を十分に享受することができ、反応系が相分離することなく反応が進行することとなる点で好ましい。
【0022】
[接触条件]
本発明によれば、上記の如きプラチナ錯化合物と、酸と、1級アルコールと、1級アミンとを、有機溶媒中で接触させることにより、結晶性プラチナ粒子を製造することができる。このとき、各成分を混合する順序は問わない。
酸の使用割合としては、上記プラチナ錯化合物中のプラチナ原子1モルに対して、1.5〜3.0モルとすることが好ましく、1.8〜2.2モルとすることがより好ましい。酸の使用割合をこの範囲とすることにより、反応が均一な状態で進行することとなる点で好ましい。
上記の如き1級アルコールの使用割合としては、プラチナ錯化合物中のプラチナ原子1モルに対して、10〜100モルとすることが好ましく、15〜80モルとすることがより好ましい。1級アルコールの使用割合をこの範囲とすることにより、反応系が相分離することなく、プラチナ原子の還元が均一に進行することとなる点で好ましい。
上記の如き1級アミンの使用割合としては、プラチナ錯化合物中のプラチナ原子1モルに対して、0.1〜10モルとすることが好ましく、0.5〜5モルとすることがより好ましい。1級アミンの使用割合をこの範囲とすることにより、反応系が相分離することなく、得られる結晶性プラチナ粒子の分散安定性をより高くすることができる点で好ましい。
【0023】
本発明における有機溶媒の使用割合としては、反応系の初期固形分濃度(上記プラチナ錯化合物、酸、1級アルコールおよび1級アミンの仕込みベースの合計重量が反応溶液の全量に対して占める割合)として、5〜50重量%となる割合とすることが好ましく、10〜30%となる割合とすることがより好ましい。
上記の各成分を接触させる温度は、25〜250℃とすることが好ましく、100〜200℃とすることがより好ましい。接触時間は5〜50時間とすることが好ましく、10〜20時間とすることがより好ましい。
接触は、撹拌下に行ってもよく、あるいは撹拌せずに反応系を静置して行ってもよい。
接触時の圧力としては、接触温度において上記各成分、特に有機溶媒が液相となる圧力とすることが好ましく、例えば0.1〜10MPaとすることができる。
かくして結晶性プラチナ粒子を含有する反応混合物が得られる。
結晶性プラチナ粒子は、この反応混合物から例えばろ取、遠心分離などの適当な方法により有機溶媒から分離し、好ましくはエタノール、イソプロパノールなどの適当な溶媒で洗浄後、溶媒を除去することにより、例えば粉末として回収することができる。
【0024】
[結晶性プラチナ粒子]
以上のようにして結晶性プラチナ粒子を製造することができる。この結晶性プラチナ粒子は、本発明の実施態様として上述した好ましい態様を採用することにより、面心立方晶系をとり、キューブ形状を有する単結晶のプラチナ粒子(結晶性プラチナキューブ)とすることができる。この単結晶のキューブは、露出している表面のうちの90%以上を(100)面とすることができる。露出表面に占める(100)面の割合は、さらに95%以上とすることができる。
なお、本明細書において、「キューブ」という語は、キューボクタヘドロン(cuboctahedron=立方八面体)に結晶成長した結晶性固体、好ましくは上述したような結晶の特定面のみが実質的に排他的に表面として露出した結晶性固体を指す用語であり、例えば図6aに示した如き略立方体状の形状のほか、図6bに示した如き立方体の頂点近傍において結晶が過成長した略octapod状の結晶性固体およびこれらの形状の頂点および辺のうちの少なくとも1つが丸みを帯びた如き形状をも含む概念であり、その意味するところは当業者には明らかである。
【0025】
本発明の方法によって好ましく製造された結晶性プラチナキューブは、その一辺の長さを10nmを超える長さとすることができ、さらには上記各成分の使用割合およびそれらの接触条件を選択することにより15nm以上とすることができ、特に30〜50nmとすることができる。ここで、結晶性プラチナキューブが略octapod形状である場合における上記一辺の長さとは、隣接する頂点間の距離をいうものとする。なお、この一辺の長さは、得られた結晶性プラチナキューブの透過型電子顕微鏡像から算出された平均値であるものとして理解されるべきである。
本発明の方法によって製造された結晶性プラチナキューブは、各キューブが凝集しておらず、各キューブの一個一個がそれぞれ独立して存在するものであるから、上記のキューブの一辺の長さとは、凝集体に関する数値ではなく、各単位キューブに関する数値である点に留意すべきである。
本発明の方法によって製造された結晶性プラチナ粒子は、その周囲に、使用した1級アミンからなる有機キャップ層を有するものであるから、プラチナ錯化合物と酸と1級アルコールと1級アミンとの接触の際に使用されるものとして上述したような有機溶媒中で安定に分散することができる。
本発明の方法によって製造された結晶性プラチナ粒子、好ましくは結晶性プラチナキューブは、電極材料、化学反応の触媒、燃料電池の電気触媒などに好適に利用することができるほか、従来知られている方法によって製造されたプラチナナノ結晶に比べて有意に大きいサイズを有するから熱安定性にも優れ、従ってアニーリングを伴う素子製造工程にも耐えることができるので、メモリ素子、μ−MEMSなどへの適用も可能である。
【0026】
<親水性ポリマー層を有する結晶性プラチナ粒子を製造するための方法>
本発明の第二の観点は、
上記の如き本発明の第一の観点によって製造された結晶性プラチナ粒子を、さらにアルコール溶媒中で親水性ポリマーと接触させる、親水性ポリマー層を有する結晶性プラチナ粒子を製造するための方法に関する。この親水性ポリマー層を有する結晶性プラチナ粒子は、後述のように自己整列性を有するから、以下、「自己整列性結晶性プラチナ粒子」という。
本明細書における「自己整列性」という語は、基板上にプラチナ粒子(好ましくはプラチナキューブ)の層を形成したときに、隣接する粒子が面を接するように配列し、その結果、形成される層が結晶の特定面のみからなる上面を有することとなる性質をいう。
【0027】
[親水性ポリマー]
本発明において使用される親水性ポリマーとしては、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸、セルロース(例えばカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなど)、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリビニルアセタール、ポリビニルメチルエーテル、ポリアミン、ポリエチレンイミン、カゼイン、ゼラチン、でんぷんなどを挙げることができ、これらのうち、ポリビニルピロリドンまたはポリアクリルアミドが好ましい。
親水性ポリマーの分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定したポリスチレン換算の重量平均分子量として、1,000〜100,000であることが好ましく、5,000〜50,000であることが好ましい。この範囲の分子量の親水性ポリマーを使用することにより、反応が均一に進行することとなる点で好ましい。
[アルコール溶媒]
本発明において、結晶性プラチナ粒子と親水性ポリマーとの接触に際して好ましく使用されるアルコール溶媒としては、例えば1価アルコール、多価アルコールなどを挙げることができる。上記1価アルコールとしては、炭素数1〜3の脂肪族1価アルコールが好ましく、その具体例として例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールなどを挙げることができる。上記多価アルコールとしては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコールなどを挙げることができる。
【0028】
[接触条件]
本発明によれば、結晶性プラチナ粒子と親水性ポリマーとを、好ましくは親水性有機溶媒中で接触させることにより、自己整列性結晶性プラチナ粒子を製造することができる。このとき、各成分を混合する順序は問わない。
結晶性プラチナ粒子と親水性ポリマーとを接触する際の親水性ポリマーの使用割合は、結晶性プラチナ粒子100重量部に対して、10〜100重量部とすることが好ましく、30〜70重量部とすることがより好ましい。
親水性有機溶媒の使用割合としては、親水性ポリマー100重量部に対して、好ましくは10,000重量部以下であり、より好ましくは3,000〜7,000重量部である。
上記の各成分を接触させる温度は、10〜60℃とすることが好ましく、20〜50℃とすることがより好ましい。接触時間は0.1〜10時間とすることが好ましく、0.5〜5時間とすることがより好ましい。
この接触は、撹拌下に行ってもよく、あるいは撹拌せずに反応系を静置して行ってもよいが、攪拌下で行うことが好ましく、特に機械的に激しく攪拌するか、あるいは超音波を印加しつつ行うことが好ましい。
接触時の圧力としては、例えば0.1〜10MPaとすることができる。
かくして自己整列性結晶性プラチナ粒子を含有する反応混合物が得られる。
自己整列性結晶性プラチナ粒子は、この反応混合物から例えばろ取、遠心分離、再沈殿法などの適当な方法により有機溶媒から分離することができる。これらのうち再沈殿法が、操作が簡単であり、得られる生成物に含まれる不純物が少なくなる点から好ましい。再沈殿法における貧溶媒としては、使用した親水性ポリマーの貧溶媒を使用することができ、例えばケトン(例えばアセトン、メチルエチルケトンなど)によることができる。この再沈殿操作は1回のみ行ってもよく、複数回行ってもよい。
【0029】
[自己整列性結晶性プラチナ粒子]
このようにして自己整列性結晶性プラチナ粒子を製造することができる。
本発明の方法によって製造された自己整列性結晶性プラチナ粒子は、原料として使用した結晶性プラチナ粒子の形状、サイズ、結晶性および面特性(表面として結晶の特定面のみが実質的に排他的に露出している特性)を維持し、且つその周囲に、使用した水溶性ポリマーからなる有機キャップ層を有するものである。従って、自己整列性結晶性プラチナ粒子は、親水性有機溶媒中で安定に分散することができる。
また自己整列性結晶性プラチナ粒子は、次に説明するように、これを用いて基板上に結晶性プラチナ粒子が整列してなる層を形成することができる。
【0030】
<基板上に結晶性プラチナ粒子が整列してなる層を形成するための方法>
本発明の第三の観点は、
アミノ基を有するシランカップリング剤で処理された基板と
上記の方法によって製造された自己整列性結晶性プラチナ粒子と
を、極性溶媒中で接触させる、基板上に結晶性プラチナ粒子が整列してなる層を形成するための方法に関する。
本操作により、基板上に結晶性プラチナ粒子が整列して堆積され、結晶性プラチナ粒子が整列してなる層を形成することができる。
【0031】
[基板]
本発明において使用される基板は、複数の結晶性プラチナ粒子が整列して配置しうる面積の平面を有するものである限り、その材質、形状およびサイズは特に制限されない。
本発明において使用される基板を構成する材質としては、例えば例えば石英;ホウ珪酸ガラス、ソーダガラスなどのガラス;プラスチック;シリコーン樹脂;カーボン;金、銀、銅、シリコン、ニッケル、チタン、アルミニウム、タングステンなどの金属;これらの金属またはその酸化物もしくは混合酸化物(例えばITOなどの透明電極)などを表面に有するガラスまたはプラスチックなどからなる基板を使用することができる。また、上記の如き基板上に微細素子など構造物が構築された凹凸のある基板であっても、複数の結晶性プラチナ粒子が整列して配置しうる面積の平面を有するものであれば、同様に好適に使用することができる。本発明の方法は、結晶性プラチナ粒子が整列してなる層を形成するために高温の加熱を必要としないので、耐熱性の低いプラスチック基板にも適用することができるという利点がある。
このような基板は、後述のアミノ基を有するシランカップリング剤による処理を、好ましくは適当な有機溶媒中で施した後に、極性溶媒中における自己整列性結晶性プラチナ粒子との接触に供される。
【0032】
[アミノ基を有するシランカップリング剤]
本発明において使用されるアミノ基を有するシランカップリング剤としては、例えば下記式(2)
NHIISi(ORIII (2)
(式(2)中、RIIはメチレン基または炭素数2〜6のアルキレン基であり、RIIIは炭素数1〜4のアルキル基である。)
で表される化合物を好適に使用することができる。上記式(2)で表される化合物の具体例としては、例えば3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、4−アミノブチルトリエトキシシランなどを挙げることができる。
【0033】
[基板の処理条件]
基板のアミノ基を有するシランカップリング剤による処理は、好ましくはアミノ基を有するシランカップリング剤を含有する溶液中に、上記基板を浸漬することにより行われる。アミノ基を有するシランカップリング剤の使用割合としては、溶液中の濃度として、0.001〜0.1モル/Lとなる割合とすることが好ましく、0.01〜0.05モル/Lとなる割合とすることがより好ましい。
ここで、上記溶液の溶媒としては、アミノ基を有するシランカップリング剤を溶解することができ、且つこれと反応しないものであればよく、例えば脂肪族炭化水素溶媒、芳香族炭化水素溶媒、ハロゲン化炭化水素溶媒などを挙げることができる。上記脂肪族炭化水素溶媒の具体例としては例えばn−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、シクロオクタン、n−デカン、デカリンなどを;
上記芳香族炭化水素溶媒の具体例としては例えばベンゼン、トルエン、キシレン、インダン、テトラリンなどを;
上記ハロゲン化炭化水素溶媒の具体例としては例えばジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,4−ジクロロブタン、トリクロロエタン、クロルベンゼン、o−ジクロルベンゼンなどを、それぞれ挙げることができる。
アミノ基を有するシランカップリング剤を含有する溶液の使用割合は、基板のうちの結晶性プラチナ粒子が整列してなる層を形成すべき部分が該溶液と接触する割合とすれば足りる。
処理は、例えば10〜50℃において、例えば0.1〜24時間行われる。処理圧力は任意の圧力とすることができる。
浸漬後の基板は、エタノール、イソプロパノールなどの適当な溶媒で洗浄した後に自己整列性結晶性プラチナ粒子との接触に供することが好ましい。
【0034】
[極性溶媒]
上記のようにしてアミノ基を有するシランカップリング剤で処理された基板は、次いで極性溶媒中における自己整列性結晶性プラチナ粒子との接触に供される。
ここで使用される極性溶媒としては、例えば炭素数1〜10のアルコールなどを挙げることができ、その具体例としては、アルコールとして例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールなどを挙げることができる。
[接触条件]
本発明によれば、上記のようにしてアミノ基を有するシランカップリング剤で処理された基板と自己整列性結晶性プラチナ粒子とを上記の如き極性溶媒中で接触させることにより、基板上に結晶性プラチナ粒子が整列してなる層を形成することができる。この接触は、好ましくは自己整列性結晶性プラチナ粒子を分散した極性溶媒中にアミノ基を有するシランカップリング剤で処理された基板を浸漬することにより行われる。このとき、極性溶媒中に各成分を混合する順序は問わない。
自己整列性結晶性プラチナ粒子の使用割合としては、基板のうちのシランカップリング剤による処理を施した領域の表面積(m)に対して、好ましくは0.001〜0.1gであり、より好ましくは0.005〜0.01gである。
極性溶媒の使用割合としては、基板のうちの結晶性プラチナ粒子が整列してなる層を形成すべき部分が該溶液と接触し、且つ、極性溶媒中の自己整列性結晶性プラチナ粒子の濃度が0.01〜0.5g/Lとなる割合とすることが好ましい。
接触温度としては、10〜60℃とすることが好ましく、20〜40℃とすることがより好ましい。接触時間は1〜24時間とすることが好ましく、5〜12時間とすることがより好ましい。接触は、撹拌下に行ってもよく、あるいは撹拌せずに反応系を静置して行ってもよい。接触時の圧力は任意の圧力とすることができる。
このようにして基板上に結晶性プラチナ粒子が整列してなる層を形成することができる。かかる層を有する基板は、エタノール、イソプロパノールなどの適当な溶媒で洗浄した後に使用に供することが好ましい。
【0035】
[基板上に結晶性プラチナ粒子が整列してなる層]
以上のようにして基板上に結晶性プラチナ粒子が整列してなる層が形成される。
この層は、基板上に、各結晶性プラチナ粒子が面を接するように配列してなる層である。そして上述したように、結晶性プラチナ粒子のそれぞれは、好ましくはその形状がキューブ状であり、結晶の特定面((100)面)のみが実質的に排他的に表面として露出した略立方体状の結晶性固体であるから、上記の層は実質的に結晶の特定面のみからなる上面を有することとなる。このことは、形成された層のX線回折分析によって確認することができ、かかる確認がなされた層の形成に用いられた自己整列性結晶性プラチナ粒子およびその原料である結晶性プラチナ粒子は、それぞれ遡って結晶の特定面((100)面)のみが実質的に排他的に表面として露出した略立方体状の結晶性固体であったことが理解される。
なお、上記のようにして形成された層はその上面に水溶性ポリマーからなる有機キャップ層の残滓を有するが、この残滓は層を酸化雰囲気中で加熱することにより、容易に除去することができる。この加熱は、例えば空気中、25〜100℃において1〜30分行うことができる。
かくして基板上に形成された結晶性プラチナ粒子が整列してなる層は、これをそのまま電極材料として使用することできるほか、この上に強誘電性材料、圧電体材料などをエピタキシャルに成長させることができ、それぞれメモリ素子、μ−MEMSなどとして使用することができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例の方式により、本発明についてより具体的に説明する。
実施例1
<結晶性プラチナキューブの製造>
テフロン(登録商標)でライニングした10mLのステンレス製オートクレーブ中で、プラチナ(II)アセチルアセトナート(Pt(acac))を10mmol/L含有するトルエン溶液2mL、酢酸80mmol/L含有するトルエン溶液0.5mL、オレイルアミンを0.1mol/L含有するトルエン溶液1mL、1−ブタノール1mLおよびN,N−ジメチルホルムアミド2.5mLを混合した。このオートクレーブを炉中に設置し、撹拌せずに185℃にて16時間加熱した後、室温まで放冷した。得られた反応混合物を遠心分離して、沈殿を回収した。該沈殿をエタノールで2回洗浄することにより、オレイルアミンからなる有機キャップ層を有する結晶性プラチナキューブを黒色の粉末として2mg得た(収率約50%)。
<結晶性プラチナキューブの評価>
(1)透過型電子顕微鏡分析
上記で得られた結晶性プラチナキューブにつき、高解像度透過型電子顕微鏡(HRTEM、H9000NAR、300kV、(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて撮影したTEM像を図1に示した。該TEM像から、一片の長さが約30〜40nmのキューブが得られたことが分かった。
(2)熱重量分析
上記で得られた結晶性プラチナキューブにつき、TG/DTA6200およびEXSTAR 6000ユニット(セイコーインスツルメンツ(株)製、千葉)を用いて、室温〜600℃の範囲にて、5℃/分の加熱速度、50mL/分のエアー流量にて熱重量分析(TGA=Thermogravimetric Analysis)を行った。ここで得られたTGA曲線を図2に示した。図2によると、上記結晶性プラチナキューブの室温〜600℃の範囲における重量減少は2.46%であった。
【0037】
実施例2
上記実施例1において、オレイルアミンのトルエン溶液の代わりにドデシルアミンを0.1mol/L含有するトルエン溶液1mLを使用したほかは実施例1と同様にしてドデシルアミンからなる有機キャップ層を有する結晶性プラチナキューブを黒色の粉末として2mg得た(収率約50%)。
この結晶性プラチナキューブにつき、実施例1におけるのと同様にして得たTEM像を図3に示した。該TEM像から、該プラチナキューブの一片の長さは約30〜40nmであることが分かった。
【0038】
比較例1
上記実施例1において、オレイルアミンのトルエン溶液の代わりにトルエン1mLを使用したほかは実施例1と同様にして黒色の粉末を2.2mg得た(収率約56%)。
この黒色粉末につき、実施例1におけるのと同様にして得たTEM像を図4に示した。該TEM像を見ると、上記で得た黒色粉末は、その大部分が凝集体となっていることが分かった。
【0039】
実施例3
<自己整列性結晶性プラチナキューブの製造>
上記実施例1で得た結晶性プラチナキューブ2mgと、ポリビニルピロリドン(GPCによって測定したポリスチレン換算の重量平均分子量=25,000)を2%(w/v)含有するエタノール溶液5mLとを、室温にて超音波印加下に30分間混合した。この操作により、結晶性プラチナキューブの有機キャップ層はオレイルアミンからポリビニルピロリドンに置換され、自己整列性結晶性プラチナキューブを含有する反応混合物が得られた。
次いで、該反応混合物にアセトン15mLを加え、析出物を遠心分離によって分離して回収し、アセトンで2回洗浄することにより、自己整列性結晶性プラチナキューブを得た(収率約100%)。
【0040】
実施例4
<基板上に結晶性プラチナキューブが整列してなる層の形成>
(1)アミノ基を有するシランカップリング剤で処理された基板の調製
石英基板を、純水、アセトンおよびイソプロパノール中で、順次に各10分間超音波処理して洗浄した後、酸素プラズモン(灰化)によって有機化合物を除去した。次いで上記洗浄直後の基板を、3−アミノプロピル−トリエトキシシランを10mmol/L含有するトルエン溶液に、室温下、3時間浸漬した。基板を溶液から取り出し、トルエンおよびエタノールで順次に洗浄し、処理基板を調製した。
(2)結晶性プラチナキューブの堆積
上記実施例3で製造した自己整列性結晶性プラチナキューブを0.1g/L含有するエタノール分散液を準備した。なお、この分散液は、外見上は溶液状であった。
上記調製直後の処理基板を、上記溶液に室温にて一晩(12時間)浸漬した。浸漬後の基板を溶液から取り出し、十分な量のエタノールでリンスして物理吸着した物質を除去することにより、結晶性プラチナキューブが整列してなる層を有する基板を得た。
【0041】
<基板上に結晶性プラチナキューブが整列してなる層の評価>
上記で得た基板上に形成された結晶性プラチナキューブが整列してなる層につき、M18XHFディフラクトメータ(MAC Science社製)により、CuKα放射(λ=0.15405nm)を用いて40kV、60mAの条件下でX線回折(XRD)分析を行った。
上記XRD測定後の層につき、RTA(Rapid Thermal Anneal)法によって500、600および700℃の温度において各5分間アニールした。各温度におけるアニール後の層について、上記と同様にしてそれぞれXRD分析を行った。これらのXRDチャートを図5に示した。
図5を見ると、いずれの温度においても層表面は(200)面((100)面と等価である。)が優越的であり、この層の表面の少なくとも90%以上は(100)面が露出していることが理解される。またこの層は、700℃におけるアニール後においても初期の結晶性はほとんどそのまま維持されており、この層が極めて高い熱安定性を有していることが理解される。
さらにこれらのことから遡って、上記層の形成に用いられた実施例3で製造された自己整列性結晶性プラチナキューブおよびその原料である実施例1で製造された結晶性プラチナキューブは、それぞれ(100)面のみが実質的に排他的に表面として露出した略立方体状の結晶性固体であったこと、ならびにそれぞれ極めて高い熱安定性を有するものであったことが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラチナ錯化合物と
酸と
炭素数2〜12の1級アルコールと
脂肪族1級アミンと
を、有機溶媒中で接触させることを特徴とする、結晶性プラチナ粒子を製造するための方法。
【請求項2】
上記プラチナ錯化合物が、下記式(P1)で表される錯化合物、(P2)で表される錯化合物、ビス(ジベンジリデンアセトン)プラチナおよびトリス(ジベンジリデンアセトン)ジプラチナよりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の方法。
【化1】

(式(P1)中、Rは、それぞれ、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシル基、炭素数1〜6のフルオロアルキル基または炭素数1〜6のフルオロアルコキシル基であり、Rは、それぞれ、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基である。)
PtX・D (P2)
(式(P2)中、Xはハロゲン原子であり、Dはジエン配位子である。)
【請求項3】
上記有機溶媒が、芳香族炭化水素溶媒と非プロトン性極性溶媒との混合溶媒である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法によって製造された結晶性プラチナ粒子を、さらにアルコール溶媒中で親水性ポリマーと接触させることを特徴とする、親水性ポリマー層を有する結晶性プラチナ粒子を製造するための方法。
【請求項5】
アミノ基を有するシランカップリング剤で処理された基板と
請求項4に記載の方法によって製造された親水性ポリマー層を有する結晶性プラチナ粒子と
を、極性溶媒中で接触させることを特徴とする、基板上に結晶性プラチナ粒子が整列してなる層を形成するための方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法によって製造されたことを特徴とする、結晶性プラチナ粒子。
【請求項7】
粒子形状がキューブ状であり、キューブの一辺の長さが15nm以上である、請求項6に記載の結晶性プラチナ粒子。
【請求項8】
上記結晶性プラチナ粒子が単結晶のプラチナ粒子である、請求項6または7に記載の結晶性プラチナ粒子。
【請求項9】
上記結晶性プラチナ粒子の表面のうちの90%以上が(100)面である、請求項8に記載の結晶性プラチナ粒子。
【請求項10】
請求項4に記載の方法によって製造されたことを特徴とする、親水性ポリマー層を有する結晶性プラチナ粒子。
【請求項11】
請求項5に記載の方法によって形成されたことを特徴とする、基板上に結晶性プラチナ粒子が整列してなる層。

【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−149077(P2011−149077A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−13142(P2010−13142)
【出願日】平成22年1月25日(2010.1.25)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】