説明

結晶成長装置

【課題】より結晶成長に適した温度勾配を形成でき、品質の高い結晶を製造できる結晶成長装置を提供する。
【解決手段】上端に開口31を有し、下端に底部32を有するるつぼ3と、るつぼ3を包囲し、るつぼ3の上下方向に沿って第1の位置と第2の位置の間を移動できる加熱装置2とを有しており、加熱装置2が稼動すると、るつぼ3の底部32の側から開口31の側に向かう順に、第1の温度域201と、第1の温度域201よりも温度が高い第2の温度域202とがそれぞれ画成され、加熱装置2が前記第1の位置にあるときに、るつぼ3は第2の温度域202にあり、加熱装置2が前記第2の位置にあるときに、るつぼ3は第1の温度域201にあることを特徴とした結晶成長装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱装置に関し、特に結晶成長装置に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶の品質の良し悪しは、結晶の成長過程や原料の純度などに係っている。中でも、結晶成長装置において、結晶原料を溶融するために加熱装置によって加熱する範囲、つまり温度域をどのように構成して装置内に温度勾配を付与するかは、結晶化初期段階においては核形成を、また結晶成長段階においては結晶径の大小や、結晶と融液の間に形成される固液界面の形状を直接左右し、ひいては最終的に製造される結晶インゴットの品質に大きく関わっている。
【0003】
図1には、従来例の結晶成長装置1が示されており、結晶成長装置1は結晶原料100を収容するるつぼ11と、るつぼ11の周囲に配置されると共に、るつぼ11に対して上下に移動でき且つるつぼ11を加熱できるヒータユニット12と、るつぼ11を取り囲む熱伝導部材13と、るつぼ11と熱伝導部材13を載せる台座14とからなっている。
【0004】
結晶を成長させるにあたって、ヒータユニット12が加熱を始め、るつぼ11に収容されている結晶原料100に対して一つの温度域を提供する。結晶原料100が溶融した後、固定されているるつぼ11に対してヒータユニット12が上方に移動する。このようにヒータユニット12がるつぼ11から離れることで発生する温度域の変化(つまりは温度の低下)と、熱伝導部材13および台座14の熱伝導効果とにより、溶融した結晶原料100内において核形成が始まり、更には結晶成長が進み、最終的に結晶原料100の融液が全て凝固すると結晶インゴットが形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】台湾登録実用新案第M386302号公報
【特許文献2】特開第2011−88798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような従来の結晶成長装置1を用いて例えば多結晶シリコンインゴットを製造する場合、結晶成長過程において、温度勾配を調整することで固液界面101を平坦にしたり、僅かに凸面にしたりするように制御することができれば、結晶体の熱応力を緩和することができる。また、結晶化初期段階における核形成の効率と質量を制御して双晶境界の形成を促すことができれば、結晶成長における転位などの結晶欠陥を減らすことができる。
【0007】
しかしながら、従来の結晶成長装置1では、ヒータユニット12が提供できるのは全体が同じ温度である単一の温度域だけなので、るつぼ11内でのシリコン原料の結晶成長過程において、ヒータユニット12内で充分な温度差を有する温度勾配を形成することができず、結晶成長に重要な要素である核形成や固液界面101の形状を効率的に操作することが難しい。
【0008】
また、結晶インゴットを製造する方法としてはいわゆるブリッジマン法もあり、この方法では固定されているヒータユニットに対してるつぼが加熱後に下方に移動されてヒータユニットから離される。通常ヒータユニットは別々に設けられた上部ヒータと環状型の側部ヒータとからなっており、更に台座に設けられた冷却水流動装置と併せてるつぼ内での結晶成長速度を制御している。このような装置によれば、るつぼ内底部付近での初期結晶化速度を上げることができる。しかし上述した従来例の結晶成長装置1と同じく、加熱後の固相部分や固液界面における温度勾配の管理が難しく、しかもヒータユニットがるつぼから徐々に離れるので、るつぼ内に収納されている溶融した結晶原料の表面が固化してしまう。また、るつぼが動かされて振動するので、るつぼ自体が損傷を受けたり、結晶成長が阻害されたりする虞もある。
【0009】
この他、結晶の品質向上を目的としては、例えば特許文献1および特許文献2に示したような、るつぼを載せる台座に特別な熱伝導構造を配する技術も発案されており、このような技術によれば確かに多結晶シリコンインゴットの製造に際してある程度の品質改善効果が見られるが、半導体産業並びに光電産業の発展に伴って、より品質が向上された多結晶シリコンが求められており、それゆえ、より的確な温度勾配を形成することができる結晶成長装置の開発が今もなお期待されている。
【0010】
そこで本発明は、上記問題点を解決するために、より結晶成長に適した温度勾配を形成でき、品質の高い結晶を製造できる結晶成長装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、上端に開口を有し、下端に底部を有するるつぼと、前記るつぼを包囲し、前記るつぼの上下方向に沿って第1の位置と第2の位置の間を移動できる加熱装置とを有しており、前記加熱装置が稼動すると、前記るつぼの前記底部の側から前記開口の側に向かう順に、第1の温度域と、該第1の温度域よりも温度が高い第2の温度域とがそれぞれ画成され、前記加熱装置が前記第1の位置にあるときに、前記るつぼは前記第2の温度域にあり、前記加熱装置が前記第2の位置にあるときに、前記るつぼは前記第1の温度域にあることを特徴とした結晶成長装置を提供する。
【0012】
また、前記加熱装置は、前記るつぼを包囲して前記るつぼを加熱することができる加熱部と、該加熱部の下端付近において前記加熱部の内周面を覆うように設けられ、前記加熱部と前記るつぼの間に介在できる断熱部とを有しており、前記加熱部の前記断熱部に覆われている部分によって前記第1の温度域が画成され、前記加熱部の前記断熱部に覆われていない部分によって前記第2の温度域が画成されることが好ましい。
【0013】
また、前記断熱部は、熱伝導率が0.5〜0.01W/mKの範囲内にある材料からなることが好ましい。
【0014】
また、前記加熱装置が前記第1の位置にあるときに、前記断熱部の上端面は、少なくとも前記るつぼの前記底部の底面と同じ水平面、または該水平面の下方にあることが好ましい。
【0015】
また、前記るつぼは、外周が熱伝導部材で包まれており、該熱伝導部材は、前記るつぼの前記底部に接触する熱伝導底壁と、該熱伝導底壁の周縁から上方に向かって延伸して前記るつぼの外周を包む熱伝導周壁とを有しており、前記熱伝導底壁と前記熱伝導周壁は、それぞれ異なった熱伝導率を有する材料からなることが好ましく、前記熱伝導底壁と前記熱伝導周壁とが、前記るつぼの外周に接触しているとなおよい。
【0016】
さらに、前記熱伝導底壁は、前記るつぼの前記底部の中央部分と接触する第1の熱交換部位と、該第1の熱交換部位の周囲に配置されており、該第1の熱交換部位よりも熱伝導率が低い第2の熱交換部位とを有していると好ましく、前記熱伝導周壁は、前記第1の熱交換部位よりも熱伝導率が低いとなおよい。
【発明の効果】
【0017】
以上の構成によれば、温度が異なる第1の温度域と第2の温度域が設けられていることで、加熱装置はるつぼに対してより結晶成長に適した温度勾配を付与することができる。これにより結晶成長過程において固液界面の形状が改良され、製造される結晶インゴットにおける不純物の含有率を下げることができる。
【0018】
また更に、熱伝導底壁にそれぞれ熱伝導率が異なる第1の熱交換部位と第2の熱交換部位を設けられていることで、るつぼの底部において部位により異なる散熱効率を与えることができる。これにより結晶の品質向上効果はより一層顕著となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】従来例の結晶成長装置を示す縦断面図である。
【図2】本発明に係る結晶成長装置の第1の実施形態を示す縦断面図である。
【図3】本発明に係る加熱装置が第1の位置から第2の位置へ移動している状態を示す縦断面図である。
【図4】本発明に係る加熱装置が第2の位置にある状態を示す縦断面図である。
【図5】対照群と実験群の各構成の一部を示す縦断面図である。
【図6】本発明に係る結晶成長装置の第2の実施形態を示す縦断面図である。
【図7】従来の結晶成長装置と本発明に係る結晶成長装置それぞれで作製された結晶の欠陥率の比較を示す棒グラフである。
【図8】対照群1の固液界面と温度勾配を示すシミュレーション図である。
【図9】実験群1の固液界面と温度勾配を示すシミュレーション図である。
【図10】実験群2の固液界面と温度勾配を示すシミュレーション図である。
【図11】実験群3の固液界面と温度勾配を示すシミュレーション図である。
【図12】実験群4の固液界面と温度勾配を示すシミュレーション図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳しく説明する。
【0021】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る結晶成長装置を示す断面図であり、本実施形態における結晶成長装置は加熱装置2とるつぼ3を有している。るつぼ3は上端に開口31を、下端に底部32を有しており、開口31から結晶原料4をるつぼ3内に注入することができる。
【0022】
加熱装置2は、るつぼ3を包囲しており、るつぼ3に対してるつぼ3の上下方向に沿って第1の位置(図2)と第2の位置(図4)の間を移動できる。ここで第1の位置とは加熱装置2がるつぼ3に対して下がった位置であり、第2の位置とは加熱装置2がるつぼ3に対して上がった位置である。図2は加熱装置2が第1の位置にある状態を、図3は第1の位置から第2の位置へ移動している状態を、そして図4は第2の位置にある状態をそれぞれ示している。
【0023】
加熱装置2が稼動すると、るつぼ3の底部32の側から開口31の側に向かう順に、つまり下から上に向かう順に、第1の温度域201と、第1の温度域201よりも温度が高い第2の温度域202とがそれぞれ画成され、加熱装置2が下がって上記第1の位置にあるときには、るつぼ3は第2の温度域202にあり、加熱装置2が上がって上記第2の位置にあるときには、るつぼ3は第1の温度域201にある。
【0024】
また、加熱装置2は、るつぼ3を包囲してるつぼ3を加熱することができる加熱部21と、加熱部21の下端付近において加熱部21の内周面を覆うように設けられ、加熱装置2が上記第2の位置にある場合、加熱部21とるつぼ3の間に介在できる断熱部22とを有している。
【0025】
以上の構成により、加熱部21の下端付近における断熱部22に覆われている部分によって第1の温度域201が画成され、加熱部21の断熱部22に覆われていない部分によって第2の温度域202が第1の温度域201の直上に画成される。
【0026】
ここで断熱部22としては、良好な隔熱効果を得るために、熱伝導率が0.5〜0.01W/mKの範囲内にある材料からなっていることが好ましい。
【0027】
また、加熱装置2が上記第1の位置にあるときに、つまりるつぼ3が第2の温度域202にあるときに、断熱部22の上端面221は、るつぼ3の底部32の底面と同じ水平面、または該水平面よりも下方にあることが好ましく、図2に示したのは、るつぼ3の底部32の底面と同じ水平面にある。加熱装置2が上記第2の位置にあるときに、つまりるつぼ3が第1の温度域201にあるときに、るつぼ3の上端の位置は断熱部22の上端面221の位置よりも高くない(図4)。また、本実施形態では、るつぼ3が第1の温度域201にあるときには、るつぼ3が、上下方向において断熱部22の上端面221と下端面222の間に位置するように、言い換えれば、断熱部22がるつぼ3より上下方向において長くなるように構成している。
【0028】
加熱装置2は、熱伝導部材5を更に有しており、るつぼ3は外周が熱伝導部材5で包まれている。熱伝導部材5は、るつぼ3の底部32に接触する熱伝導底壁51と、熱伝導底壁51の周縁から上方に向かって延伸してるつぼ3の外周を包む熱伝導周壁52とを有している。熱伝導底壁51と熱伝導周壁52は、それぞれ異なった熱伝導率を有する材料からなっており、熱伝導底壁51はるつぼ3の熱を伝導するために、熱伝導周壁52はるつぼ3の熱を保持するためにそれぞれ用いられる。なお、熱交換の効率を高めるために、熱伝導底壁51と熱伝導周壁52とは、るつぼ3の外周に接触していることが好ましく、また熱伝導底壁51を構成する材料は熱伝導率が100W/mK以上であるとよく、更には100〜250W/mKの範囲内であると熱交換効率の向上効果が尚よくなる。
【0029】
また、加熱装置2は、るつぼ3と熱伝導部材5を支持する熱伝導台座6を更に有しており、熱伝導台座6は、熱伝導底壁51と接触しているので、熱伝導底壁51とるつぼ3の間における熱伝導効率が高まり、ひいては装置全体での熱交換が安定する。
【0030】
以下、多結晶シリコンの結晶を成長させる場合を例として本発明の結晶成長装置の稼動過程を説明する。
【0031】
加熱装置2が上記第1の位置にある場合、るつぼ3は全体が第2の温度域202中にある。第2の温度域202は第1の温度域201よりも温度が高く、このとき、るつぼ3内に投入され収容されているシリコン結晶原料は加熱されて溶融状態にあり、核形成および結晶化はまだ始まっていない。
【0032】
次に、加熱装置2が上記第1の位置から上記第2の位置へ移動すると、同時にるつぼ3が第2の温度域202から第1の温度域201に向かって移動する。加熱装置2の加熱部21と断熱部22の構成により、第1の温度域201と第2の温度域202との間には大きな温度差があるので、比較的低温の第1の温度域201と比較的高温の第2の温度域202との境界をるつぼ3が通過する際に、るつぼ3が急激な温度変化を受け、これによりるつぼ3内に収容されている溶融したシリコン結晶原料中において第1の温度域201と第2の温度域202との境界と平行するように固液界面が形成される。つまり、加熱装置2が上記第1の位置から上記第2の位置へ移動すると、シリコン結晶原料は第1の温度域201と第2の温度域202との界面が移動する方向へ、言い換えるとるつぼ3の底部32から開口31に向かう方向へ一方向凝固する。
【0033】
このように、本実施形態の結晶成長装置によれば、るつぼ3の底部32から上方に向かって結晶を成長させることができ、また第1の温度域201と第2の温度域202間の温度勾配を適度に制御することにより、結晶成長における核形成段階でより多くの双晶境界を形成させることができる。そして加熱装置2がるつぼ3に対して移動することにより、上述のような結晶成長が繰り返され、最終的に加熱装置2が完全に上記第2の位置へと移動し、るつぼ3の全体が第1の温度域201に入ると、結晶成長が完了し、つまりシリコン結晶原料の融液は全て凝固し、品質が向上された多結晶シリコンのインゴットとなる。
【0034】
以下には、断熱部22の位置および断熱部22が加熱部21を覆う範囲を変化させることにより、つまり各温度域をどのように配置するかにより、結晶成長にどのような影響を与えるかを調べた実験結果を示す。
【0035】
図5は実験に用いられた各実験群と対照群の各構成を示しており、本実験では対照群を1つ、実験群を4つ準備した。ここで対照群となる結晶成長装置は、断熱部を持たず単一の温度域のみを有す図1に示したような従来例の構成を用いた。また、実験群1〜実験群3は、断熱部22を備えていることにより第1の温度域201と第2の温度域202を提供できる本実施形態に係る構成を用いた。なお、本実験は多結晶シリコン原料を用いて行った。
【0036】
実験群1〜実験群3は全て、加熱装置2が第1の位置にあるときに、断熱部22の上端面221と、るつぼ3の底部32と熱伝導底壁51が接触する面とが略面一に連なっており、加熱装置2が上記第2の位置に移動したときには、断熱部22の上端面221がるつぼ3の上端よりも高い位置にある。但し、断熱部22の下端面222の上下方向における位置は、実験群1〜実験群3それぞれで異なっており、つまり実験群1〜実験群3は断熱部22の上下方向の長さがそれぞれ異なっている。一方、実験群4は、断熱部22の長さが実験群2の場合と同じだが、断熱部22を設置する位置が異なっている。具体的に言うと以下の通りである。
【0037】
実験群1:断熱部22の上下方向の長さは実験群中最も短く、るつぼ3の上下方向の長さを超えない。
【0038】
実験群2:断熱部22の上下方向の長さは実験群1よりも長いが、やはりるつぼ3の上下方向の長さを超えない。
【0039】
実験群3:断熱部22の上下方向の長さは実験群中最も長く、るつぼ3の上下方向の長さを超える。
【0040】
実験群4:断熱部22の上下方向の長さは実験群2の場合と同じくるつぼ3の長さを越えず、且つ、加熱装置2が上記第1の位置にあるとき、断熱部22の上端面221はるつぼ3の底部32の底面の位置より低い。
【0041】
この内、実験群3における断熱部22は、上記第1の実施形態における図2〜図4での断熱部22と同じ長さである。
【0042】
実験の結果を以下のグラフに示す。
【0043】
【表1】

【0044】
図8〜図12は、上記実験に用いた対照群および実験群1〜4それぞれの固液界面および温度勾配をコンピュータによりシミュレーションした温度勾配図である。
【0045】
上記実験の結果が示すように、加熱装置2が上記第1の位置にあり、且つ断熱部22の上端面221と、るつぼ3の底部32と熱伝導底壁51が接触する面とが略面一に連なっていると、実験群1〜3のように結晶成長に適した温度勾配を形成することができる。これにより結晶成長初期段階における固液界面の周辺傾斜を緩やかにしてより平坦に近付けることができ、熱応力の低い結晶を得ることができる。
【0046】
上記実験結果はまた、各実験群では対照群よりも高い温度勾配が形成されたことを示している。これにより結晶化までの時間が短縮され、結晶成長の速度も速くなり、各実験群では対照群に比べてより多くの双晶境界が形成された。よって、各実験群の構成を用いて得られた多結晶シリコンは、高い結晶品質を備えることができた。
【0047】
なお、各種製品に対する個別の需要に応えるため結晶成長過程や温度域の配置を変えられるように、断熱部22の位置および断熱部22が加熱部21を覆う範囲は調整してもよく、また、断熱部22の上端面221と、るつぼ3の底部32と熱伝導底壁51が接触する面とが必ずしも略面一に連なっていなくても構わない。
【0048】
以上、本発明の第1の実施形態を総括すると、本発明に係る結晶成長装置によれば、加熱装置2の加熱部21と断熱部22とが協働して顕著な温度差のある第1の温度域201と第2の温度域202を画成する。そしてこの第1の温度域201と第2の温度域202との間をるつぼ3が通過することにより、るつぼ3内に収容されている溶融した結晶原料に高い温度勾配を付与することができる。これにより、結晶成長過程において、結晶核の形成を一方向に沿って順次促し、結晶を成長させることができる。また、このような結晶成長過程においては、結晶成長初期段階で大量の双晶境界が形成されるので、結果的に熱応力が緩和された高品質な多結晶シリコンを得ることができる。
【0049】
(第2の実施形態)
図6は本発明の第2の実施形態に係る結晶成長装置を示す断面図である。第2の実施形態の構成は第1の実施形態に類似するが、異なる点として第2の実施形態における熱伝導底壁51は、るつぼ3の底部32の中央部分と接触する第1の熱交換部位511と、第1の熱交換部位511の周囲に配置され、第1の熱交換部位511よりも熱伝導率が低い第2の熱交換部位512とを有している。また、熱伝導周壁52は、熱伝導底壁51の第1の熱交換部位511よりも熱伝導率が低い。言い換えれば、るつぼ3の底部32の中央部分に接触する第1の熱交換部位511は、るつぼ3の底部32の外縁部分に接する第2の熱交換部位512およびるつぼ3の周囲に接触する熱伝導周壁よりも熱伝導率が高い。これによりるつぼ3の底部32の中央部分は、第2の熱交換部位512と接触するるつぼ3の底部32の外縁部分、およびるつぼ3の周囲部分よりも散熱速度が速くなる。このように、るつぼ3の底部32に対して、異なる部位により異なる散熱効率を与えることによって、より向上された熱交換効果を得ることができる。
【0050】
図7は、従来の結晶成長装置と本発明に係る各実施形態の結晶成長装置それぞれで作製された多結晶シリコンの欠陥率の比較を示す棒グラフである。従来の結晶成長装置(図1)で作成された多結晶シリコンでは、不純物含量が約1.66%であり、微結晶含量が約1.01%であった。一方、本発明の第1の実施形態の結晶成長装置で作成された多結晶シリコンでは、不純物含量が約1.31%であり、微結晶含量が約0.97%であった。更に、本発明の第2の実施形態の結晶成長装置で作成された多結晶シリコンでは、不純物含量が約0.99%であり、微結晶含量が約0.22%であった。
【0051】
以上の結果から明らかなように、本発明の第1の実施形態(図2〜図4)に係る結晶成長装置のように、大きな温度差を有する第1の温度域201と第2の温度域202を設けて急な温度勾配を形成し、るつぼ3内に収容されている溶融した結晶原料をこれら第1の温度域201と第2の温度域202との境界を通過させることで一方向で結晶成長させ、固液界面の形状をより平坦になるよう改良すれば、作製された結晶インゴットにおける不純物の含有率を下げることができる。また更に、本発明の第2の実施形態(図6)のように、熱伝導底壁51にそれぞれ熱伝導率が異なる第1の熱交換部位511と第2の熱交換部位512を設けて、るつぼ3の底部32において部位により異なる散熱効率を与えれば、結晶の品質向上効果はより一層顕著となる。
【0052】
解釈の範囲に含まれる種々の変更を網羅していることが意図されていると理解されるべきである。
【符号の説明】
【0053】
加熱装置 2
加熱部 21
断熱部 22
第1の温度域 201
第2の温度域 202
上端面 221
下端面 222
るつぼ 3
開口 31
底部 32
結晶原料 4
熱伝導部材 5
熱伝導底壁 51
第1の熱交換部位 511
第2の熱交換部位 512
熱伝導周壁 52
熱伝導台座 6

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上端に開口を有し、下端に底部を有するるつぼと、
前記るつぼを包囲し、上下方向に沿って第1の位置と第2の位置の間を移動できる加熱装置とを有しており、
前記加熱装置が稼動すると、前記るつぼの前記底部の側から前記開口の側に向かう順に、第1の温度域と、該第1の温度域よりも温度が高い第2の温度域とがそれぞれ画成され、
前記加熱装置が前記第1の位置にあるときに、前記るつぼは前記第2の温度域にあり、
前記加熱装置が前記第2の位置にあるときに、前記るつぼは前記第1の温度域にあること
を特徴とした結晶成長装置。
【請求項2】
前記加熱装置は、前記るつぼを包囲して前記るつぼを加熱することができる加熱部と、該加熱部の下端付近において前記加熱部の内周面を覆うように設けられ、前記加熱部と前記るつぼの間に介在できる断熱部とを有しており、
前記加熱部の前記断熱部に覆われている部分によって前記第1の温度域が画成され、
前記加熱部の前記断熱部に覆われていない部分によって前記第2の温度域が画成されること
を特徴とした請求項1に記載の結晶成長装置。
【請求項3】
前記断熱部は、熱伝導率が0.5〜0.01W/mKの範囲内にある材料からなること
を特徴とした請求項2に記載の結晶成長装置。
【請求項4】
前記加熱装置が前記第1の位置にあるとき、前記断熱部の上端面は、前記るつぼの前記底部の底面と同じ水平面に、または該水平面より下方にあること
を特徴とした請求項2または3に記載の結晶成長装置。
【請求項5】
前記るつぼは、外周が熱伝導部材で包まれており、
該熱伝導部材は、前記るつぼの前記底部に接触する熱伝導底壁と、該熱伝導底壁の周縁から上方に向かって延伸して前記るつぼの外周を包む熱伝導周壁とを有しており、
前記熱伝導底壁と前記熱伝導周壁は、それぞれ異なった熱伝導率を有する材料からなること
を特徴とした請求項1〜4のいずれか一項に記載の結晶成長装置。
【請求項6】
前記熱伝導底壁と前記熱伝導周壁とが、前記るつぼの外周に接触していること
を特徴とした請求項5に記載の結晶成長装置。
【請求項7】
前記断熱部の上下方向の長さが、前記るつぼの上下方向の長さを超えること
を特徴とした請求項2〜6のいずれか一項に記載の結晶成長装置。
【請求項8】
前記るつぼが前記第1の温度域にあるときに、前記るつぼは、上下方向において前記断熱部の前記上端面と下端面の間に位置すること
を特徴とした請求項2〜6のいずれか一項に記載の結晶成長装置。
【請求項9】
前記熱伝導底壁は、前記るつぼの前記底部の中央部分と接触する第1の熱交換部位と、該第1の熱交換部位の周囲に配置されており、該第1の熱交換部位よりも熱伝導率が低い第2の熱交換部位とを有していること
を特徴とした請求項5または6に記載の結晶成長装置。
【請求項10】
前記熱伝導周壁は、前記第1の熱交換部位よりも熱伝導率が低いこと
を特徴とした請求項9に記載の結晶成長装置。
【請求項11】
前記るつぼと前記熱伝導部材を支持する熱伝導台座を更に有すること
を特徴とした請求項5、6、9または10のいずれか一項に記載の結晶成長装置。
【請求項12】
前記熱伝導台座は、前記熱伝導底壁と接触していること
を特徴とした請求項11に記載の結晶成長装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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