説明

結晶方位分布の偏りの解析方法

【課題】複合部材中の結晶性粒子の結晶方位分布の偏りを解析する、結晶方位分布の偏りの解析方法を提供する。
【解決手段】結晶方位分布の偏りの解析方法は、複合部材中の結晶性粒子の断面を画像化する画像化工程と、画像化工程によって作成された画像のうちの上記結晶粒子の個々の結晶方位を判定する判定工程と、判定工程によって判定された結晶方位の分布を特定する分析工程と、分析工程で得られた分布を解析して結晶方位分布の偏りを解析する解析工程と、を有している。判定工程と解析工程とは、電子後方散乱回折像法を用いて行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は結晶方位分布の偏りを解析する方法に関する。さらに、詳しくは、本発明は、複合部材中に配合された結晶性粒子の結晶方位分布の偏りを解析する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体分野など様々な産業分野において、結晶性粒子を樹脂等に配合した複合部材が広く用いられている。例えば、半導体装置を環境中の水分などから保護するために半導体チップを複合部材で封止する技術が広く知られている。このような半導体装置として、白色発光ダイオード(白色LEDとも呼ばれている。)が挙げられる。白色発光ダイオードは、青色発光ダイオードチップと蛍光体とから構成されている。具体的には、結晶性粒子である蛍光体が樹脂等に配合された複合部材が青色発光ダイオードチップ上に被覆されている。蛍光体の一例は、青色発光ダイオードから青色の光が照射されると黄色の蛍光を発生する材料である。このため、複合部材は、波長変換部材とも呼ばれている。青色発光ダイオードから発生する青色の光とこの青色発光によって励起されて発光する黄色の光とが混色することにより白色光が得られる。
【0003】
従来の発光ダイオードを例にとってさらに説明する。
図5は公知の発光ダイオードの構造を示す断面図である。この図に示すように、発光ダイオード(以下、LEDと称する)60は、発光ダイオードチップ66を搭載する第1のリードフレーム62と、第2のリードフレーム68と、発光ダイオードチップ66と第1のリードフレーム62と第2のリードフレーム68とを被覆する透光性樹脂材78とから構成されている。第1のリードフレーム62の上部62aには発光ダイオードチップ66搭載用の凹部が設けられている。この凹部は、その底面から上方に向かって孔径が徐々に拡大する略漏斗形状を有していると共に、凹部内面が反射面64となっている。この反射面64の底面に発光ダイオードチップ66の下面側の一方の電極がダイボンディングされている。発光ダイオードチップ66の上面に形成されている他方の電極は、ボンディングワイヤ70を介して第2のリードフレームの表面68aと接続されている。
【0004】
上記発光ダイオードチップ66の上面及び側面は、リフレクタ64内に充填された波長変換部材で被覆されている。波長変換部材は、透光性エポキシ等の樹脂72と蛍光体74とからなり、樹脂72中には、発光ダイオードチップ66の発光を黄色可視光に変換する蛍光体74が分散状態で多数混入されている。このような蛍光体74としては、母材がアルミン酸イットリウム(Yl512)からなり、発光中心がセリウム(Ce)であるYAG蛍光体等が挙げられる。第1のリードフレーム62と第2のリードフレーム68との間に電圧が印加されると、発光ダイオードチップ66が発光する。上述したように、発光ダイオードチップ66の青色発光と、この青色発光によってYAG蛍光体74から黄色可視光が放射される。これらの青色可視光とYAG蛍光体74から放射される黄色可視光とが混色することにより白色光が得られる。この白色光は、透光性樹脂材78の凸レンズ部76によって集光されて外部へ放射される。
【0005】
単色の発光ダイオード以外の白色光等の混色光を発光する白色発光ダイオードとして、発光ダイオードチップ66から発光される光の波長を変換するための波長変換部材を有する発光ダイオード60が広く用いられている。波長変換部材に使用される蛍光体74は、ケイ酸塩、リン酸塩、アルミン酸塩、硫化物等の母材とこれらの母材に含有されている発光中心とから構成されている。樹脂72としては、図5で説明したエポキシ樹脂(特許文献1参照)の他には、アクリル樹脂、シリコーン樹脂などが使用されている。
【0006】
特許文献2〜4には、発光ダイオードからの色むらを低減するために波長変換部材として、樹脂中に蛍光体を封止する際の種々の構成が開示されている。特許文献2には、蛍光体を波長変換部材中に均一に分散させた構造が開示されている。特許文献3には、蛍光体を波長変換部材中に沈降させた構造が開示されている。特許文献4には、蛍光体を発光色別に層分離させた構造が開示されている。
【0007】
樹脂中に結晶性粒子を封止する場合、結晶性粒子を均一に分散させる、又は沈降させる技術は一般的である。発光ダイオードから発光される近紫外から青色の光と蛍光体により波長変換された光との混色によって、高輝度かつ色むらを低減した白色光を得るためには、蛍光体と封止樹脂より構成される波長変換部材中の蛍光体を均一に分散させ又は沈降させることが必要である。さらに、二種類以上の蛍光体を用いる場合においても、それらの混合状態を均一、又は分離させるなどの分散状態の制御が行われている。
【0008】
しかしながら、蛍光体の粒子形状が柱状あるいは針状のように高いアスペクト比を有する場合、封止樹脂中の蛍光体粒子は柱状あるいは針状粒子が倒れたように、すなわち短軸が重力に対して平行になるように、方向が偏った結晶方位分布を示す。
【0009】
従って、結晶方位を考慮すると波長変換部材中の蛍光体は偏って封止されたことになる。この場合、蛍光体結晶内を通過する光の光路長にばらつきが生じる。このため、色むらがなく、かつ、高輝度の発光ダイオードを提供するには、波長変換部材中の蛍光体粒子の結晶方位分布の制御が不可欠である。すなわち、高性能な発光ダイオードを作製するには、波長変換部材中の蛍光体粒子の分散状態を制御する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−152993号公報
【特許文献2】特開2004−153109号公報
【特許文献3】特許第3617587号公報
【特許文献4】特開2008−288409号公報
【特許文献5】特許第3837588号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Electron Backscatter Diffraction in Materials Science,Edited by A.J. Schwartz,M. Kumar and B. L. Adams,Kluwer Academic/Plenum Publishers,New York(2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、波長変換部材等の複合部材中に分散する蛍光体粒子のような結晶性粒子の結晶方位を解析して、結晶方位分布の偏りを算出する測定手段及び解析手法、すなわち複合部材中の結晶性粒子の結晶方位分布の偏りを評価する測定及び解析手法は従来存在しなかった。
【0013】
本発明は、上記課題に鑑み、複合部材中の結晶性粒子の結晶方位分布の偏りを解析する、結晶方位分布の偏り解析方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、複合部材中の結晶性粒子の結晶方位分布の偏りを解析するために、電子後方散乱回折像法(非特許文献1)により結晶性粒子の結晶方位を特定し、さらにその結果を解析することで結晶方位分布の偏りの解析が可能であるという知見を得て、本発明に至った。
【0015】
上記目的を達成するため、本発明の結晶方位分布の偏りの解析方法は、複合部材中の結晶性粒子の断面を画像化する画像化工程と、画像化工程によって作成された画像のうちの上記結晶粒子の個々の結晶方位を判定する判定工程と、判定工程によって判定された結晶方位の分布を特定する分析工程と、分析工程で得られた分布を解析して結晶方位分布の偏りを解析する解析工程と、を有することを特徴とする。
【0016】
上記構成において、判定工程と解析工程とは、好ましくは、電子後方散乱回折像法を用いて行われる。
電子後方散乱回折像法は、封止樹脂の断面に現れる結晶性粒子の結晶方位を特定する方位特定工程と、偏りの指標となる結晶方位が認められた結晶性粒子の断面積を、全結晶性粒子の断面積で除して、さらに100を乗じた配向指数を算出することで、配向指数を結晶方位分布の偏りとしてもよい。
結晶性粒子が底面及び柱面からなる柱状の結晶面を有しており、偏りの指標となる結晶方位を、底面又は柱面に相当する結晶面の法線方向としてもよい。
結晶性粒子が六方晶形を有しており、偏りの指標となる結晶方位を、底面又は柱面に相当する結晶面の法線方向に対して所定の角度範囲内としてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、従来なし得なかった複合部材中の結晶性粒子の結晶方位分布の偏りを解析することが可能となり、このため、半導体分野など様々な産業分野における、結晶性粒子と樹脂とからなる複合部材に本発明を有効に適用可能となる。
【0018】
本発明を発光ダイオードにおける波長変換部材中の蛍光体の結晶方位分布解析に適用することで、波長変換部材中の蛍光体の結晶方位分布の偏りが測定できるようになる。これにより、発光ダイオードの発光光度と波長変換部材中の蛍光体の結晶方位分布の偏りとの関係を把握することが可能となり、波長変換部材中の蛍光体の結晶方位分布に偏りがない発光ダイオード、すなわちより高輝度で、色むらのない発光ダイオードの提供が可能になる。
【0019】
本発明により、色むらのない高強度の発光ダイオードを作製できることになる結果、液晶ディスプレイパネルのバックライト用白色発光ダイオード光源に代表される画像表示装置や照明装置など、多様な用途の発光ダイオードとして適用又は応用可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の複合部材中の結晶性粒子の結晶方位分布の偏りの解析方法の手順を示す工程図である。
【図2】本発明の結晶方位分布の偏りの解析方法が適用される発光ダイオードのような発光装置の構造を示す断面図である。
【図3】測定例1におけるβ型サイアロン蛍光体の結晶方位分布の偏りを示す図である。
【図4】測定例7におけるβ型サイアロン蛍光体の結晶方位分布の偏りを示す図である。
【図5】従来の発光ダイオードの構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の複合部材中の結晶性粒子の結晶方位分布の偏りの解析方法の手順を示す工程図である。
図1に示すように、本発明により複合部材中の結晶性粒子の結晶方位分布の偏りを解析する方法では、まず、ステップST1において、複合部材中の結晶性粒子の断面を画像化する画像化工程を行う。
ステップST2では、ステップST1の画像化工程によって作成された画像の結晶粒子の個々の方位を判定する判定工程を行う。
ステップST3においては、ステップST2の判定工程によって判定された方位の分布を特定する分析工程を行う。
最後に、ステップST4において、ステップST3の分析工程で得られた方位分布を解析して結晶方位分布の偏りを解析する解析工程を行う。
なお、本発明の測定対象である複合部材は、分散質である結晶性粒子を、媒質となる固体に分散させた分散相であれば何でもよい。複合部材の一例としては、白色発光ダイオードに使用される波長変換部材であってよく、波長変換部材は少なくとも1種類以上の蛍光体と樹脂とからなり、上記結晶性粒子が蛍光体で、上記媒質が樹脂やガラスである。以下の記載では、複合部材を波長変換部材として説明する。
【0022】
ステップST1の画像化工程において、封止樹脂と結晶性粒子の複合部材である波長変換部材を機械研磨及びイオン研磨によりその断面を調製し、次にこの断面を画像化する。この画像化には、上記断面に露出させた結晶性粒子を観察できる装置を用いて行うことができる。例えば、走査電子顕微鏡の試料室内に断面を導入し、断面の二次電子像を観察することで画像化することができる。
【0023】
次に、ステップST2の判定工程においては、断面で観察される結晶性粒子の結晶方位を分析装置で取得する。このような結晶方位の分析装置としては、電子後方散乱回折像法(Electron backscatter diffraction、EBSDとも呼ばれている。)を用いた装置が挙げられる。このような装置の一例は、電子後方散乱回折像が取得可能な検出器を走査電子顕微鏡装置に付加したものである。電子後方散乱回折像法を走査電子顕微鏡で実施した場合、空間分解能は、0.1μm程度、観察試料の方位決定の分解能は1°程度である。
なお、電子後方散乱回折像法では、結晶粒子の結晶構造と結晶方位に対応した菊池パターンと呼ばれる二次元の幾何学模様が得られる。
【0024】
ステップST3の分析工程の一例は、ステップST2で取得した菊池パターンによって結晶方位を解析できる解析プログラムを用いて行うことができる。つまり、結晶粒子の菊池パターンを取得して解析プログラムを用いて結晶方位を特定し、これを複数の結晶粒子で繰り返し行うことによって結晶方位分布を得ることができる。
ここで、結晶方位を特定する結晶性粒子の数が多ければ多いほど統計的な解析精度が向上するが、結晶性粒子の数が50個以上であれば解析に十分なデータが得られる。
【0025】
次に、ステップST4の結晶方位分布の偏りを解析する解析工程について説明する。
ステップST3の分析工程で得られた結晶方位分布によって結晶方位分布の偏りを解析する場合、下記の配向指数を使用することができる。配向指数は下記(1)式で定義される。即ち、配向指数は、偏りの指標となる結晶方位が認められた結晶性粒子の断面積を、全結晶性粒子の断面積で除して、さらに100を乗じて得られる。
配向指数(%)=((偏りの指標となる結晶方位が認められた結晶性粒子の断面積)/(全結晶性粒子の断面積))×100(%) (1)
ここで、結晶性粒子の形態が柱状及び針状を示す場合、偏りの指標となる結晶方位として、柱状あるいは針状粒子の底面あるいは柱面に相当する結晶面の法線方向の方位を用いることができる。偏りの指標となる結晶方位は、上記の結晶面の法線方向に対して所定の角度範囲内としてもよい。柱状の形状を有する蛍光体としては、例えば、α型サイアロンやβ型サイアロンが挙げられる。
【0026】
α型サイアロンやβ型サイアロンの結晶構造は、六方晶形を有しているので、結晶の偏りの指標となる結晶方位としては、例えば底面[0001]面の法線方向に対して所定の角度範囲とすることができる。所定の角度範囲は、例えば±30°である。
【0027】
上記(1)式で定義した配向指数は、複合部材中の結晶性粒子の結晶方位分布の偏りを示しており、複合部材中の結晶性粒子の結晶方位分布の偏りを評価することができる。
【0028】
従って、複合部材が発光ダイオードにおける波長変換部材であって、波長変換部材中の結晶性粒子が蛍光体粒子である場合、上述の手法により、波長変換部材中の蛍光体の結晶方位分布の偏りを評価することが可能になる。
【0029】
図2は、本発明の結晶方位分布の偏りの解析方法が適用される発光ダイオードのような発光装置1の構造を示す断面図である。
図2に示すように、本発明の発光装置1は、発光光源2と、発光光源2を搭載する第1のリードフレーム3と、第2のリードフレーム4と、発光光源2と第1のリードフレーム3と第2のリードフレーム4とを被覆する波長変換部材5とを含んで構成されている。
【0030】
第1のリードフレーム3の上部3aには発光光源2として発光ダイオードチップを搭載するための凹部3bが設けられている。この凹部3bは、その底面から上方に向かって孔径が徐々に拡大する略漏斗形状を有していると共に、凹部3bの内面が反射面となっている。この反射面の底面に発光ダイオードチップ2の下面側の一方の電極がダイボンディングされている。発光ダイオードチップ2の上面に形成されている他方の電極は、ボンディングワイヤ6を介して第2のリードフレーム4の表面と接続されている。
【0031】
さらに発光装置1は、発光光源2と、第1及び第2のリードフレーム3,4と、波長変換部材5と、ボンディングワイヤ6と、を覆う樹脂やガラスからなるキャップ9を有していてもよい。
【0032】
発光光源2としては、近紫外から青色光3の300nm〜500nmの波長の光を発生する発光ダイオードチップを使用することができる。
【0033】
波長変換部材5は、樹脂材7と少なくとも1種類以上の蛍光体8とからなり、樹脂材中に蛍光体8が分散されている。蛍光体8の種類は、発光光源2の光と、この発光光源2の光を吸収し励起される蛍光体8から発生する光との混色によって得られる色調によって選定すればよい。所望の混色光を得るためには、蛍光体8の種類を1つ又は複数で組み合わせて使用することができる。
【0034】
蛍光体8は、粒子状の形状を有している。このような蛍光体粒子8としては、β型サイアロン、α型サイアロン、Euが付活されたCaAlSiN等が挙げられる。これらの蛍光体8は六角形等の柱状の結晶形状を有している。
【0035】
一般式:Si6−zAl8-z:Eu2+で表されるβ型サイアロン蛍光体8は、柱状の形状を有し、発光特性としては520nm〜550nmをピーク波長とする緑色発光を呈する。
【0036】
一般式:Cam/2Si12−(m+n)Al(m+n)16−nOn:Eu2+で表されるα型サイアロン蛍光体8も同様に柱状の形状を有し、発光特性としては550nm〜610nmをピーク波長とする黄色から橙色の発光を呈する。
【0037】
CaAlSiN:Euは同じく柱状の形状を有し、発光特性としては630nm〜650nmをピーク波長とする赤色発光を呈する。
【0038】
本発明によれば、従来困難であった複合部材中の結晶性粒子の結晶方位分布の偏りの解析が可能となる。複合部材中結晶性粒子の結晶方位分布制御が必要な産業分野で、結晶方位分布の偏りを解析することができるようになる。よって、例えば半導体分野など様々な産業分野において利用可能である。
【0039】
特に、本発明を発光ダイオード1における波長変換部材5中の蛍光体8粒子の結晶方位の偏り解析に適用することで、波長変換部材5中の蛍光体8の結晶方位分布の制御が可能になる。これにより、波長変換部材中の蛍光体の結晶方位分布に偏りがない発光ダイオード1、即ちより高輝度で、色むらのない発光ダイオード1を提供することが可能である。このような高性能の発光ダイオード1は、液晶ディスプレイパネルのバックライト用白色発光ダイオード1に代表される画像表示装置や照明装置などに使用することができる。
【実施例】
【0040】
次に、実施例に基づいて、本発明を更に詳細に説明する。
実施例では、複合部材の結晶性粒子として、発光ダイオード1における蛍光体粒子8とそれを封止する樹脂層7とで構成される波長変換部材5における、蛍光体粒子8の結晶方位分布の偏りを評価した。
【0041】
市販の発光ダイオードパッケージ(I-CHIUN PRECISl0N INDUSTRY CO.,LTD製,型番SMD5050)と青色発光ダイオードチップ2(Genesis Photonics Inc.製、MODEL RIS45A19)と、波長変換部材5とを用意し、発光ダイオード1を製作した。波長変換部材5は、赤色蛍光体8としてCaAlSiN:Eu蛍光体と、緑色蛍光体として自社製のβ型サイアロン蛍光体8とをシリコーン樹脂層7(東レ・ダウコ一二ング社製、型番EG6301)に配合することで調製し、青色発光ダイオードチップに被覆した。CaAlSiN:Eu蛍光体8は、特許文献5に開示されている製造方法によって合成した。下記の表1に示すように、測定例1〜8では、それぞれ、波長変換部材5中の蛍光体8の結晶方位分布が異なるように、蛍光体8の粒子形態を調整した。
【0042】
作製した発光ダイオード1に順方向電圧を印加し、所定の電流を流すことによって白色光を発光させた。白色光は、青色発光ダイオード1からの青い光と、この青い光が上記の2つの蛍光体8に照射されて発光する赤及び緑の光との混色によって発生する。白色光の発光光度は、超高感度瞬間マルチ測光システム(大塚電子(株)社製、MCPD−7000)を用いて測定した。
なお、発光ダイオード1の発光光度は測定例1における発光ダイオード1の発光光度を100%とした相対数値として算出した。
【0043】
次に、波長変換部材5中の蛍光体8の結晶方位分布の偏りを、図1に示した方法で解析した。
複合部材中の結晶性粒子の断面を画像化する画像化工程として、発光ダイオード1の断面を機械研麿とArイオン研磨とにより露出させた。
次に、発光ダイオード1の断面を、電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM、日本電子(株)製、JSM−700IF型)で観察し、加速電圧15kVの条件にて、封止樹脂層7に配合された結晶性粒子の断面の画像を得た。
【0044】
得られた画像のうちの結晶粒子の個々の方位を判定する判定工程では、上記電界放射型走査電子顕微鏡に、電子後方散乱回折像法測定装置(EDAX-TSL社製、形式OIM)を付加した装置を用いた。この結晶方位解析システムにより結晶方位の測定を行った。
【0045】
結晶方位の測定条件を以下に示す。
加速電圧:15kV
作動距離15mm
試料傾斜角度:70°
測定領域:80μm×200μm
ステップ幅:0.2μm
測定時間:50msec/ステップ
データポイント数:約400,000ポイント
なお、測定条件はこれに限定されるものではなく、試料形態、装置性能に応じて適宜に決定することができる。
【0046】
次に、判定工程によって判定された方位の分布を特定する分析工程として、電子後方散乱回折像法で得られた菊池パターンから結晶方位を解析することのできる解析ソフトウエア(EDAX−TSL社製、OIM Ver5.2)を使用して、結晶方位の分析を行った。
【0047】
分析工程で得られた結晶方位分布を解析して結晶方位分布の偏りを解析する解析工程として、上記(1)式で定義される配向指数の解析を実施した。ここでは、結晶性粒子としてβ型サイアロン蛍光体8に注目して解析を行った。
【0048】
β型サイアロン蛍光体8の結晶粒子は六角柱状の形状を示すことから、偏りの指標となる結晶方位は次のようにした。β型サイアロン粒子の底面([0001]面)の法線方向に対して−30°〜+30°までの傾きを持った結晶面に垂直な方向の方位を、偏りの指標として用いた。すなわち、求める配向指数は下記(2)式によって表すことができる。
配向指数(%)=((β型サイアロン[0001]結晶面とその法線方向に±30°の結晶方位を有する粒子の断面積)/(β型サイアロン粒子の断面積))×100%
(2)
【0049】
以上の手順にて、封止樹脂層7中の結晶性粒子の結晶方位の偏り、ここでは発光ダイオード1における波長変換部材5中の蛍光体8粒子の結晶方位の偏りを測定した。
【0050】
このように、結晶方位の偏りの指標となる結晶面の設定は、解析する複合部材の性質において適当な結晶面及び範囲を設定することができる。
【0051】
(測定例1)
測定例1の発光ダイオード1の発光光度を計測した。この値を100%として他の測定例2〜8の発光光度を計測した。
【0052】
図3は、測定例1におけるβ型サイアロン蛍光体8の結晶方位分布の偏りを示す。斜線で表示されている領域がβ型サイアロン[0001]結晶面とその法線方向に対して±30度の結晶面を呈する断面、斜線のない領域がその他の結晶面が露出しているβ型サイアロン蛍光体8である。上記(2)式から計算した配向指数は22.0%となった。
【0053】
(測定例2)
測定例2の発光ダイオード1の発光光度は98.2%であった。測定例1と同様の方法で解析したβ型サイアロン蛍光体8の結晶方位分布の偏りを示す配向指数は19.10%であった。
【0054】
(測定例3)
測定例3の発光ダイオード1の発光光度は102.8%であった。測定例1と同様の方法で解析したβ型サイアロン蛍光体8の結晶方位分布の偏りを示す配向指数は16.3%であった。
【0055】
(測定例4)
測定例4の発光ダイオード1の発光光度は100.9%であった。測定例1と同様の方法で解析したβ型サイアロン蛍光体8の結晶方位分布の偏りを示す配向指数は3.3%であった。
【0056】
(測定例5)
測定例5の発光ダイオード1の発光光度は106.5%であった。測定例1と同様の方法で解析したβ型サイアロン蛍光体8の結晶方位分布の偏りを示す配向指数は13.3%であった。
【0057】
(測定例6)
測定例6の発光ダイオード1の発光光度は103.8%であった。測定例1と同様の方法で解析したβ型サイアロン蛍光体8の結晶方位分布の偏りを示す配向指数は14.1%であった。
【0058】
(測定例7)
測定例7の発光ダイオード1の発光光度は108.9%であった。
図4は、測定例7におけるβ型サイアロン蛍光体8の結晶方位分布の偏りを示し、結晶方位等の表示方法は図3と同様である。測定例1と同様の方法で解析したβ型サイアロン蛍光体8の結晶方位分布の偏りを示す配向指数は11.3%であった。
【0059】
(測定例8)
測定例8の発光ダイオード1の発光光度は104.1%であった。測定例1と同様の方法で解析したβ型サイアロン蛍光体8の結晶方位分布の偏りを示す配向指数は7.3%であった。
【0060】
測定例1〜8で測定した発光ダイオード1の発光光度と配向指数の結果を表1に纏めて示す。
【表1】

【0061】
本発明により、波長変換部材5中のβ型サイアロン蛍光体8の結晶方位分布の偏りを求めることが可能であった。
【0062】
さらに、本発明は波長変換層中のβ型サイアロン蛍光体8の結晶方位分布の偏りだけでなく、一般的な樹脂層7材料中の結晶性粒子の結晶方位の偏り解析に適用可能である。
【0063】
本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0064】
1:発光装置
2:発光光源
3:第1のリードフレーム
4:第2のリードフレーム
5:波長変換部材
6:ボンディングワイヤ
7:樹脂
8:蛍光体
9:キャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合部材中の結晶性粒子の断面を画像化する画像化工程と、
上記画像化工程によって作成された画像のうちの上記結晶粒子の個々の結晶方位を判定する判定工程と、
上記判定工程によって判定された結晶方位の分布を特定する分析工程と、
上記分析工程で得られた分布を解析して結晶方位分布の偏りを解析する解析工程と、
を有することを特徴とする、結晶方位分布の偏りの解析方法。
【請求項2】
前記判定工程と解析工程とが、電子後方散乱回折像法を用いて行われることを特徴とする、請求項1に記載の結晶方位分布の偏りの解析方法。
【請求項3】
前記電子後方散乱回折像法が、前記封止樹脂の断面に現れる前記結晶性粒子の結晶方位を特定する方位特定工程と、偏りの指標となる結晶方位が認められた前記結晶性粒子の断面積を、全結晶性粒子の断面積で除して、さらに100を乗じた配向指数を算出し、該配向指数を結晶方位分布の偏りとすることを特徴とする、請求項2に記載の結晶方位分布の偏りの解析方法。
【請求項4】
前記結晶性粒子が底面及び柱面からなる柱状の結晶面を有しており、前記偏りの指標となる結晶方位を、上記底面又は上記柱面に相当する結晶面の法線方向とすることを特徴とする、請求項3に記載の結晶方位分布の偏りの解析方法。
【請求項5】
前記結晶性粒子が六方晶形を有しており、前記偏りの指標となる結晶方位を、前記底面又は前記柱面に相当する結晶面の法線方向に対して所定の角度範囲内とすることを特徴とする、請求項4に記載の結晶方位分布の偏りの解析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−122947(P2011−122947A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−281016(P2009−281016)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】