説明

結晶核剤およびそれを含有してなるポリオレフィン系樹脂組成物

【課題】透明性に優れたポリオレフィン系樹脂組成物を提供できる新規な構造の結晶核剤およびそれを含有してなるポリオレフィン系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)、


(式中、Rは分岐を有してもよい炭素原子数1〜5のアルキレン基であり、環AおよびBは、各々独立して、置換基を有していてもよい炭素原子数3〜12のシクロアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素原子数6〜20のアリール基を表し、X〜Xは、各々独立して、ハロゲン原子、置換されていてもよく分岐を有してもよい炭素原子数1〜4のアルキル基、および置換されていてもよく分岐を有してもよい炭素原子数1〜4のアルコキシ基よりなる群から選択されるものを表し、p、q、rおよびsは各々独立して、0〜3の整数(ただし、pおよびsは0ではない)を表す)で表される結晶核剤およびそれを含有してなるポリオレフィン系樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の結晶核剤およびそれを含有してなるポリオレフィン系樹脂組成物に関し、詳しくは、透明性に優れたポリオレフィン樹脂組成物を与える新規の結晶核剤およびそれを用いたポリオレフィン系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン系樹脂は、その成形加工性、耐熱性、力学的特性および低比重等に優れている利点があり、一般雑貨、医療器具、食品包装等広範囲に使用されている。しかし、そのような広範囲の使用を可能にするためには、ポリオレフィン系樹脂が要求されている物理的特性を満たす必要がある。
【0003】
ポリオレフィン系樹脂は、特定の化合物または組成物を添加することによって、ポリオレフィン系樹脂の成形加工時の結晶化を制御可能にすることは知られている。一般に、結晶化作用が促進されたポリオレフィン系樹脂は、成形加工サイクル時間が短縮されたり、ポリオレフィン系樹脂の成形品の透明性を改善したり、耐熱性や物理的特性が向上したりする等の利点を得ることができる。
【0004】
ポリオレフィン系樹脂の結晶化作用を促進させる結晶核剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、4−第三ブチル安息香酸アルミニウム塩、アジピン酸ナトリウム、2ナトリウムビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボキシレート等のカルボン酸金属塩、ナトリウムビス(4−第三ブチルフェニル)ホスフェート、ナトリウム−2,2’−メチレンビス(4,6−ジ第三ブチルフェニル)ホスフェート、リチウム−2,2’−メチレンビス(4,6−ジ第三ブチルフェニル)ホスフェート等のリン酸エステル金属塩、ジベンジリデンソルビトール、ビス(メチルベンジリデン)ソルビトール、ビス(ジメチルベンジリデン)ソルビトール等の多価アルコール誘導体、1,3,5−トリ(ジメチルイソプロピルアミノ)ベンゼン、N,N’,N”−トリス[2−メチルシクロヘキシル]−1,2,3−プロパントリカルボキサミド等のアミド化合物等が知られている。
【0005】
また、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1、および1,2−ポリブタジエン等のポリオレフィン系樹脂の特性を改善するために、アミド化合物を添加することは、例えば、下記特許文献1〜5にあるように広く知られている。
【0006】
特許文献1には、銅などの重金属と接触するポリプロピレンの劣化を抑制するためフェニレンジアミンの脂肪酸ジアミド化合物を配合することが提案され、重金属による劣化の抑制効果が示されている。また、特許文献2には、ポリブテン−1を5質量%以上含有するポリオレフィン重合体にビスアミド化合物を配合することでヒートシール性や透明性が向上することが開示されている。さらに、特許文献3には、ジアミンとモノカルボン酸から得られるアミド化合物をポリプロピレンに添加することでβ晶を多量に含有する結晶性ポリプロピレン系樹脂組成物が開示されている。さらにまた、特許文献4には、ナフタレンジカルボン酸またはビフェニルジカルボン酸とモノアミンとを反応させた化合物が提案されている。さらにまた、特許文献5には、モノ尿素誘導体若しくはジ尿素誘導体から選択される2種以上の尿素系化合物を添加することで、結晶化温度が向上したポリプロピレン樹脂組成物が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開昭50−105558号公報
【特許文献2】特開昭51−114482号公報
【特許文献3】特開平6−107875号公報
【特許文献4】特開平5−310665号公報
【特許文献5】特開平6−240058号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これまでに種々の結晶核剤の検討がなされているが、ポリオレフィン系樹脂、特にポリプロピレン系樹脂に求められる性能はより高度なものとなり、更なる透明性改善とその他の特性を付与することができる結晶核剤が求められている。そのため、これまでに提案された特許文献1〜5等に記載のものでは十分とは言えず、更なる結晶核剤の開発が望まれている。
【0009】
そこで、本発明の目的は、透明性に優れたポリオレフィン系樹脂組成物を提供できる新規な構造の結晶核剤およびそれを含有してなるポリオレフィン系樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定の化合物を結晶核剤とすることにより上記目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明の結晶核剤は、下記一般式(1)、

(式中、Rは分岐を有してもよい炭素原子数1〜5のアルキレン基であり、環Aおよび環Bは、各々独立して、置換基を有していてもよい炭素原子数3〜12のシクロアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素原子数6〜20のアリール基を表し、X〜Xは、各々独立して、ハロゲン原子、置換されていてもよく分岐を有してもよい炭素原子数1〜4のアルキル基、および置換されていてもよく分岐を有してもよい炭素原子数1〜4のアルコキシ基よりなる群から選択されるものを表し、p、q、rおよびsは各々独立して、0〜3の整数(ただし、pおよびsは0ではない)を表す)で表されることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の結晶核剤は、前記結晶核剤が、下記一般式(2)、

(式中、R、X〜X、p、q、rおよびsは上記一般式(1)と同じものを表す)で表された化合物であることが好ましい。
【0013】
さらに、本発明の結晶核剤は、前記一般式(2)中のXおよびXがベンゼン環のオルト位にあるものが好ましい。
【0014】
さらにまた、本発明の結晶核剤は、前記一般式(2)中のpおよびsが1を表し,qおよびrが2であるものが好ましい。
【0015】
本発明のポリオレフィン系樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、前記結晶核剤0.01〜1.0質量部を含有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ポリオレフィン系樹脂に結晶核剤として、前記一般式(1)で表される化合物を配合することにより、結晶化温度が高く、透明性に優れたポリオレフィン系樹脂組成物を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の結晶核剤について、以下に詳述する。
本発明の結晶核剤は、下記一般式(1)、

(式中、Rは分岐を有してもよい炭素原子数1〜5のアルキレン基であり、環Aおよび環Bは、各々独立して、置換基を有していてもよい炭素原子数3〜12のシクロアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素原子数6〜20のアリール基を表し、X〜Xは、各々独立して、ハロゲン原子、置換されていてもよく分岐を有してもよい炭素原子数1〜4のアルキル基、および置換されていてもよく分岐を有してもよい炭素原子数1〜4のアルコキシ基よりなる群から選択されるものを表し、p、q、rおよびsは各々独立して、0〜3の整数(ただし、pおよびsは0ではない)を表す)で表される構造からなるものである。
【0018】
上記一般式(1)におけるRの分岐を有してもよい炭素原子数1〜5のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、ペンチレン基等が挙げられ、これらのアルキレン基中の−CH−は、−O−、−CO−、−COO−またはOCO−で置換されていてもよく、また、アルキレン基中の水素原子が、ハロゲン原子、アルケニル基、アルケニルオキシ基、アルカノイルオキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトリル基、シアノ基、アリール基または飽和脂肪族環で置換されていてもよい。
【0019】
上記一般式(1)における環Aおよび環Bの置換基を有していてもよい炭素原子数3〜12のシクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基等の飽和炭素環から水素原子1個を除いた1価の置換基が挙げられ、該飽和炭素環中の水素原子が、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アルケニルオキシ基、アルコキシアルキル基、アルカノイルオキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトリル基、シアノ基、アリール基または飽和脂肪族環で置換されていてもよい。
【0020】
上記一般式(1)における環Aおよび環Bの置換基を有していてもよい炭素原子数6〜20のアリール基としては、フェニル基、2−メチルフェニル基、2−クロロフェニル基、3−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基、3,4,5−トリメトキシフェニル基、2,6−ジエチルフェニル基、4−第三ブチルフェニル基、2,4−ジ−t−ブチルフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基等の芳香族環から水素原子1個を除いた1価の置換基が挙げられ、芳香族環中の水素原子は、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アルケニルオキシ基、アルコキシアルキル基、アルカノイルオキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトリル基、シアノ基、アリール基または飽和脂肪族環で置換されていてもよい。
【0021】
上記一般式(1)におけるX〜Xの置換されていてもよく分岐を有してもよい炭素原子数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基等が挙げられ、アルキル基中の−CH−が−O−や−S−で中断されていてもよく、アルキル基中の水素原子が、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルケニル基、アルケニルオキシ基、アルコキシアルキル基、アルカノイルオキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトリル基、シアノ基、アリール基または飽和脂肪族環で置換されていてもよい。
【0022】
また、上記アルキル基は、ヒドロキシアルキル基、アルコキシアルキル基、アルキルアミノアルキル基、ジアルキルアミノアルキル基、アルコキシカルボニルアルキル基、カルボキシアルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルカノイルオキシアルキル基、アミノアルキル基等を包含し得る。
【0023】
上記ヒドロキシアルキル基とは、例えば、ヒドロキシメチル基、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、4−ヒドロキシブチル基、2−ヒドロキシブチル基等が挙げられ、アルキル基と同様に、ヒドロキシアルキル基中のアルキル基が中断されてもよく、ヒドロキシアルキル基中の水素原子が置換されていてもよく、中断および置換が組み合わされてもよい。
【0024】
上記アルコキシアルキル基とは、例えば、メトキシメチル基、メトキシエチル基、メトキシブチル基、エトキシメチル基、ブトキシエチル基、ヘキシルオキシメチル基等が挙げられ、上記アルキル基と同様に、アルコキシアルキル基中のアルキル基が中断されてもよく、アルコキシアルキル基中の水素原子が置換されてもよく、中断および置換が組み合わされてもよい。
【0025】
上記アルキルアミノアルキル基とは、例えば、メチルアミノメチル基、エチルアミノメチル基、ヘキシルアミノメチル基、エチルアミノエチル基、ヘキシルアミノエチル基、メチルアミノプロピル基、ブチルアミノプロピル基、メチルアミノブチル基、エチルアミノブチル基、ヘキシルアミノブチル基等が挙げられ、上記アルキル基と同様に、アルキルアミノアルキル基中のアルキル基が中断されてもよく、アルキルアミノアルキル基中の水素原子が置換されていてもよく、中断および置換が組み合わされてもよい。
【0026】
上記ジアルキルアミノアルキル基とは、例えば、ジメチルアミノメチル基、ジエチルアミノメチル基、ジヘキシルアミノメチル基、ジエチルアミノエチル基、ジヘキシルアミノエチル基、ジメチルアミノプロピル基、ジブチルアミノプロピル基、ジメチルアミノブチル基、ジエチルアミノブチル基、ジヘキシルアミノブチル基等が挙げられ、上記アルキル基と同様に、ジアルキルアミノアルキル基中のアルキル基が中断されてもよく、ジアルキルアミノアルキル基中の水素原子が置換されてもよく、中断および置換が組み合わされてもよい。
【0027】
上記アルコキシカルボニルアルキル基とは、例えば、メトキシカルボニルメチル基、メトキシカルボニルエチル基、エトキシカルボニルメチル基、エトキシカルボニルエチル基、プロポキシカルボニルメチル基、イソプロポキシカルボニルメチル基、ブトキシカルボニルメチル基、ペンチルオキシカルボニルメチル基、ヘキシルオキシカルボニルメチル基、ヘキシルオキシカルボニルブチル基等が挙げられ、上記アルキル基と同様に、アルコキシカルボニルアルキル基中のアルキル基は中断されてもよく、アルコキシカルボニルアルキル基中の水素原子が置換されてもよく、中断および置換が組み合わされてもよい。
【0028】
上記カルボキシアルキル基とは、例えば、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、カルボキシブチル基等が挙げられ、上記アルキル基と同様に、カルボキシアルキル基中のアルキル基は中断されてもよく、カルボキシアルキル基中の水素原子が置換されてもよく、中断および置換が組み合わされてもよい。
【0029】
上記ハロゲン化アルキル基とは、例えば、モノクロロメチル基、モノブロモメチル基、モノヨードメチル基、モノフルオロメチル基、ジクロロメチル基、ジブロモメチル基、ジヨードメチル基、ジフルオロメチル基、トリクロロメチル基、トリブロモメチル基、トリヨードメチル基、トリフルオロメチル基、ジブロモブチル基、ジヨードブチル基、ジフルオロブチル基等が挙げられ、上記アルキル基と同様に、ハロゲン化アルキル基中のアルキル基は中断されてもよく、ハロゲン化アルキル基中の水素原子が置換されてもよく、中断および置換が組み合わされてもよい。
【0030】
上記アルカノイルオキシアルキル基とは、例えば、アセトキシメチル基、2−アセトキシエチル基、プロピオニルオキシメチル基等が挙げられ、上記アルキル基と同様に、アルカノイルオキシアルキル基中のアルキル基は中断されてもよく、アルカノイルオキシアルキル基中の水素原子が置換されてもよく、中断および置換が組み合わされてもよい。
【0031】
上記アミノアルキル基とは、例えば、アミノメチル基、アミノエチル基、アミノプロピル基、アミノブチル基等が挙げられ、前記アルキル基と同様に、アミノアルキル基中のアルキル基は中断されてもよく、アミノアルキル基中の水素原子が置換されてもよく、中断および置換が組み合わされてもよい。
【0032】
上記一般式(1)におけるX〜Xの置換されていてもよく分岐を有してもよい炭素原子数1〜4のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。これらアルコキシ基中の−CH−は、−O−、−CO−、−COO−またはOCO−で置換されていてもよく、また、アルコキシ基中の水素原子が、ハロゲン原子、アルケニル基、アルケニルオキシ基、アルコキシアルキル基、アルカノイルオキシ基、アルコキシカルボニル基、ニトリル基、シアノ基、アリール基または飽和脂肪族環で置換されていてもよい。
【0033】
本発明における上記一般式(1)で表される結晶核剤の具体的な構造としては、下記化合物No.1〜No.9が挙げられる。ただし、本発明は以下の化合物により制限を受けるものではない。
【0034】

【0035】
上記一般式(1)で表される結晶核剤のうち、下記一般式(2)、

(式中、R、X〜X、p、q、rおよびsは上記一般式(1)と同じものを表す)で表される構造の化合物が好ましく用いることができる。
【0036】
上記一般式(2)で表される結晶核剤のなかでも、上記一般式(2)中の、XおよびXがベンゼン環のオルト位にある化合物が特に好ましく用いられる。
【0037】
また、上記一般式(2)で表される結晶核剤のなかでも、上記一般式(2)中のpおよびsが1且つqおよびrが2である化合物が特に好ましく用いられる。
【0038】
上記一般式(1)で表される化合物は、具体的には後述の合成例に従って製造することができるが、一般的には、下記反応式(3)に従って製造することができる。即ち、ジアミン化合物とカルボン酸ハロゲン化物とを、必要に応じてピリジンを触媒とし、ジメチルアセトアミド等の溶媒中にて加熱還流下で反応させることによって、容易に製造することができる。
【0039】
反応式(3)、

Pyridine:ピリジン、DMAc:ジメチルアセトアミド
【0040】
次に、本発明のポリオレフィン系樹脂組成物について、以下に詳述する。
本発明に係るポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂およびポリブテン樹脂等が挙げられ、より具体的には、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、直鎖状ポリエチレン、シクロオレフィンポリマー、エチレンコポリマー、プロピレンホモポリマー、プロピレンコポリマー、ブテンホモポリマー、ブテンコポリマー、メチルペンテンホモポリマー、メチルペンテンコポリマー等が挙げられる。
【0041】
上記コポリマーはランダムコポリマーであってもよく、ブロックコポリマーであってもよい。これらの樹脂に立体規則性がある場合は、アイソタクチックでもシンジオタクチックであってもよい。このコポリマーの具体例としては、具体的には、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デセン、ウンデセン、ドデセンなどのα−オレフィン、1,4−エンドメチレンシクロヘキセン等の(メタ)アクリル酸エステル、酢酸ビニル等が挙げられる。
【0042】
また、本発明のポリオレフィン系樹脂組成物においては、上記ポリオレフィン系樹脂単独でも2種以上を混合してもよく、または本発明の効果を損なわない範囲で、ポリオレフィン系樹脂とポリオレフィン系樹脂以外の樹脂とを混合したポリマーアロイであってもよい。かかる樹脂としては、ポリフェニレンエーテル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン等が挙げられる。またガラス繊維で強化されたものであってもよい。
【0043】
上記のポリオレフィン系樹脂の中では、本発明に係る結晶核剤の使用効果が顕著であるポリプロピレン系樹脂が好適であり、ポリプロピレン、エチレン/プロピレンブロックまたはランダム共重合体、エチレン以外のα−オレフィン/プロピレンブロックまたはランダム共重合体およびこれらのプロピレン系重合体と他のα−オレフィン重合体との混合物等が、特に好適に用いられる。
【0044】
本発明のポリオレフィン系樹脂組成物において、上記一般式(1)で表される結晶核剤は、上記ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、0.01〜1.0質量部、好ましくは0.05〜0.5質量部、より好ましくは、0.1〜0.3質量部含有される。結晶核剤の含有量が0.01質量部より少ないと、添加効果が不充分であり、一方、結晶核剤の含有量が1.0質量部より多いと、結晶化温度は向上しても透明性が低下する。また、結晶核剤の含有量が1.0質量部より多いと、ポリオレフィン系樹脂組成物を成形加工して得られる成形品の表面にブリードするおそれがある。
【0045】
また、本発明のポリオレフィン系樹脂組成物には、必要に応じて、従来公知の可塑剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、顔料、着色剤、各種フィラー、帯電防止剤、離型剤、香料、滑剤、難燃剤、発泡剤、充填剤、抗菌剤、抗カビ剤、本発明の結晶核剤以外の結晶核剤等の各種添加剤を配合してもよい。
【0046】
本発明のポリオレフィン系樹脂組成物において、上記ポリオレフィン系樹脂に、本発明の結晶核剤を含有する方法は、特に制限されるものではなく、従来公知の方法によって行うことができる。例えば、ポリオレフィン系樹脂粉末あるいはペレットと添加剤とをドライブレンドで混合してもよく、添加剤の一部をプレブレンドした後、残りの成分とドライブレンドしてもよい。ドライブレンドの後に、例えば、ミルロール、バンバリーミキサー、スーパーミキサーなどを用いて混合し、単軸あるいは二軸押出機等を用いて混練してもよい。この混合混練は、通常120〜220℃程度の温度で行われる。合成樹脂の重合段階で添加剤を添加する方法、バインダー、ワックス、溶剤、シリカ等の造粒助剤等と共に予め所望の割合で混合した後、造粒してワンパック複合添加剤とし、該ワンパック複合添加剤をポリオレフィン系樹脂に添加する方法、添加剤を高濃度で含有するマスターバッチを作製し、該マスターバッチをポリオレフィン系樹脂に添加する方法等を用いることができる。
【0047】
本発明のポリオレフィン系樹脂組成物を成形するに際しては、一般のプラスチックと同様に、押出成形、射出成形、ブロー成形、真空成形、圧縮成形等の成形を行うことができ、シート、棒、ビン、容器等の各種成形品を容易に得ることができる。
【0048】
上記の成形方法のうち、押出加工は、特に量産が容易である点で好ましく用いられる。押出加工の加工温度は180℃〜300℃の通常一般的に用いられる加工温度で実施できるが、本発明のポリオレフィン系樹脂組成物においては、230〜250℃の範囲内の加工温度が本発明の効果が顕著となるので好ましい。
【実施例】
【0049】
以下、合成例、製造例および実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例等によって何ら制限を受けるものではない。尚、合成例とは、上記一般式(1)で表される結晶核剤の合成方法であり、製造例とは、本発明のポリオレフィン系樹脂組成物の製造例である。また、実施例とは本発明のポリオレフィン系樹脂組成物の物性の評価を示す。
【0050】
化合物No.1〜3、7および9を下記の手順に従い、合成した。なお、化合物No.1〜3、7および9は、上記の結晶核剤を示す。
【0051】
〔合成例1〕
窒素雰囲気下、4,4’−メチレンビス(2,6−ジエチルアニリン)6.2g(0.02mol)、ジメチルアセトアミド50g、ピリジン3.2g(0.04mol)、o−トルイル酢酸6.0g(0.04mol)およびトリフェニルフォスフェイト12.4g(0.04mol)を80℃で4時間撹拌して反応させた。反応終了後、蒸留水を加えてさらに80℃で30分間撹拌し、室温下で放冷して冷却した。冷却後、生じた析出物を減圧濾過によって濾別し、残渣をイソプロパノールで再沈殿させた。再沈殿した析出物を濾別して、白色固体10.7g(収率:93%)を得た。該白色固体をFT−IRで分析した結果、目的物の化合物No.1と同定した。これらの分析結果について下記に示す。
【0052】
FT−IR[KBr錠剤法](cm−1
741、1520、1655、2963、3252
【0053】
〔合成例2〕
上記合成例1において、o−トルイル酢酸6.0g(0.04mol)をm−トルイル酢酸6.0g(0.04mol)に変更した以外は、上記合成例1と同様に実施して、化合物No.2を9.7g(収率85%)合成した。
【0054】
〔合成例3〕
上記合成例1において、o−トルイル酢酸6.0g(0.04mol)をp−トルイル酢酸6.0g(0.04mol)に変更した以外は、上記合成例1と同様に実施して、化合物No.3を10.3g(収率:90%)合成した。
【0055】
〔合成例4〕
上記合成例1において、o−トルイル酢酸6.0g(0.04mol)を1−クロロ−2−ベンゼンエタン酸5.4g(0.04mol)に変更した以外は、上記合成例1と同様に実施して、化合物No.7を9.9g(収率:80%)合成した。
【0056】
〔合成例5〕
上記合成例1において、4,4’−メチレンビス(2,6−ジエチルアニリン)6.21g(0.02mol)を、2,2−エチレンビスジアニリン4.2g(0.02mol)に変更した以外は、上記合成例1と同様に実施して、化合物No.9を8.1g(収率:90%)合成した。
【0057】
〔製造例〕
230℃、21.2Nでのメルトフローレートが10g/10分であるエチレン/プロピレンランダム共重合体(エチレン含有量;3質量%)100質量部に対し、フェノール系抗酸化剤;テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ第三ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン0.1質量部、リン系抗酸化剤:トリス(2,4−ジ第三ブチルフェニル)ホスファイト0.1質量部、ステアリン酸カルシウム0.05質量部、および表1記載の結晶核剤を、ヘンシェルミキサー(FM200;三井鉱山株式会社製)で1000rpm、1分間混合し、単軸押出機(OEX3024;株式会社ディ・ディ・エム製)で、240℃、30rpmのスクリュー速度の加工条件で押出加工してペレットを製造した。得られたペレットについて、90℃で3時間乾燥後、下記の評価を実施した。
【0058】
(透明性)
前記の得られたペレットを、射出成型機(EC100−2A;東芝機械株式会社製)にて、230℃の射出温度および50〜60MPaの射出圧力で金型に40秒間充填し、40℃の金型内で20秒間冷却後、金型からシートを取り出す条件で射出成形を行って、一辺が60mm四方の正方形で厚みが1mmのシートを得た。該シートは射出成形後ただちに槽内温度が23℃である恒温槽で48時間以上静置した後、ヘイズ・ガードII〔株式会社東洋精機製作所製〕にて、試験片の透明性(HAZE)を求めた。この結果を下記表1に示す。
【0059】
(結晶化温度)
得られたペレットを、示差走査熱量測定機(ダイアモンド;パーキンエルマー社製)にて、50℃/minの速度で300℃まで昇温し、10分間保持後−10℃/minの速度で100℃まで冷却して得られたチャートにおいて、吸熱のピークトップを結晶化温度とした。これらの結果について下記の表1に示す。
【0060】
【表1】

1)コントロール:結晶核剤未配合
2)比較化合物1:

3)比較化合物2:

4)比較化合物3:

5)比較化合物4:

6)比較化合物5:

【0061】
表1より、本発明の結晶核剤ではない化合物を含有するポリオレフィン系樹脂組成物は、透明性と結晶化温度の双方を満足することができず、比較例1〜3および5より、逆に透明性を悪化させる場合があった。これに対して、実施例1〜12より、本発明の結晶核剤を使用したポリオレフィン系樹脂組成物は、透明性および結晶化温度に優れることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)、

(式中、Rは分岐を有してもよい炭素原子数1〜5のアルキレン基であり、環AおよびBは、各々独立して、置換基を有していてもよい炭素原子数3〜12のシクロアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素原子数6〜20のアリール基を表し、X〜Xは、各々独立して、ハロゲン原子、置換されていてもよく分岐を有してもよい炭素原子数1〜4のアルキル基、および置換されていてもよく分岐を有してもよい炭素原子数1〜4のアルコキシ基よりなる群から選択されるものを表し、p、q、rおよびsは各々独立して、0〜3の整数(ただし、pおよびsは0ではない)を表す)で表されることを特徴とする結晶核剤。
【請求項2】
前記結晶核剤が、下記一般式(2)、

(式中、R、X〜X、p、q、rおよびsは前記一般式(1)と同じものを表す)で表されたものである請求項1記載の結晶核剤。
【請求項3】
前記一般式(2)中のXおよびXがベンゼン環のオルト位にある請求項2記載の結晶核剤。
【請求項4】
前記一般式(2)中のpおよびsが1を表し,qおよびrが2である請求項2または3記載の結晶核剤。
【請求項5】
ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、請求項1〜4のうちいずれか一項に記載の結晶核剤0.01〜1.0質量部を含有することを特徴とするポリオレフィン系樹脂組成物。

【公開番号】特開2010−77169(P2010−77169A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−243583(P2008−243583)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】