説明

結晶粒径予測方法、結晶粒径予測装置、及び結晶粒径予測プログラム

【課題】フェライト相以外の相を含む結晶組織を有する鋼帯のα粒径を高精度に予測すること。
【解決手段】温度履歴算出部112が、ランナウト冷却設備において冷却される際の各セグメントの温度履歴を算出し、変態履歴算出部113が、温度履歴算出部112によって算出された各セグメントの温度履歴に基づいて、ランナウト冷却設備において冷却される際の各セグメントの変態履歴を算出し、α粒径算出部114が、変態履歴算出部113によって算出された各セグメントの変態履歴に基づいて、各セグメントの変態完了後のα粒径を算出する。そして、α粒径算出部114は、変態が開始されてから変態率が所定値以上になるまでの時間を変数として含むα粒径予測モデル式を用いて変態完了後のα粒径を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼帯の搬送方向に配置された冷却設備において鋼帯に冷却水を噴射することによって鋼帯を冷却することにより製造される鋼帯のα粒径を予測する結晶粒径予測方法、結晶粒径予測装置、及び結晶粒径予測プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、衝突時における乗員の安全性の確保や車体の軽量化による燃費の改善を目的として、高強度、且つ、加工性に優れた鋼板が車両の構造部材として積極的に利用されるようになっている。しかしながら、鋼板の強度を上げることと鋼板の加工性を上げることとは両立しにくい。また、製造コスト面では、鋼板に添加する副原料の量をできるかぎり少なく抑えて、高強度、且つ、加工性に優れた鋼板を製造することが望まれる。このような背景から、鋼板の結晶粒径、特にα粒径を微細化することによって、高強度、且つ、加工性に優れた鋼板を製造する方法が提案されている。結晶粒径の微細化は、鋼板の冷却方法や圧延方法を調整するだけでもある程度達成できる。このため、この方法によれば、鋼板に添加する副原料の量を少なく抑えて製造コストを削減することができる。
【0003】
ところで、圧延鋼板は、加速しながら全長が1千メートル程度になるまで圧延される。このため、上記の方法を利用して圧延鋼板の全長にわたって均一な微細結晶粒径組織を得るためには、圧延鋼板の全長にわたって冷却条件や圧延条件を適切に制御,管理する必要がある。そこで、このような制御,管理を実現するために、以下に示すモデル式(1),(2)を利用して圧延鋼板のα粒径を予測する方法が提案されている。なお、モデル式(1),(2)中のパラメータγ,cr,T,Wはそれぞれ、初期γ粒径,前段冷却速度,5%変態温度,及びフェライト相分率を示す。
α粒径=0.38+0.18*γ+1.4*cr-1/2 …(1)
α粒径=(5.51*10101.75*exp(-21430/T5)*Wf)1/3 …(2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−4911号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記モデル式(1),(2)を利用したα粒径の予測方法によれば、フェライト相以外の相を含む結晶組織を有する圧延鋼板のα粒径を高精度に予測することはできない。このため、フェライト相以外の相を含む結晶組織を有する圧延鋼板のα粒径を高精度に予測可能な技術の提供が期待されていた。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、フェライト相以外の相を含む結晶組織を有する鋼板のα粒径を高精度に予測可能な結晶粒径予測方法、結晶粒径予測装置、及び結晶粒径予測プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る結晶粒径予測方法は、鋼帯の搬送方向に配置された冷却設備において鋼帯に冷却水を噴射することによって鋼帯を冷却することにより製造される鋼帯のα粒径を予測する結晶粒径予測方法であって、鋼帯の長さ方向を複数の領域に分割し、前記冷却設備において冷却される際の各領域の温度履歴を算出する温度履歴算出ステップと、前記温度履歴算出ステップによって算出された各領域の温度履歴に基づいて、前記冷却設備において冷却される際の各領域の変態履歴を算出する変態履歴算出ステップと、前記変態履歴算出ステップによって算出された各領域の変態履歴に基づいて、各領域の変態完了後のα粒径を算出するα粒径算出ステップと、を含み、前記α粒径算出ステップは、変態が開始されてから変態率が所定値以上になるまでの時間を変数として含むα粒径予測モデル式を用いて変態完了後のα粒径を算出するステップを含む。
【0008】
上記課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る結晶粒径予測装置は、鋼帯の搬送方向に配置された冷却設備において鋼帯に冷却水を噴射することによって鋼帯を冷却することにより製造される鋼帯のα粒径を予測する結晶粒径予測装置であって、鋼帯の長さ方向を複数の領域に分割し、前記冷却設備において冷却される際の各領域の温度履歴を算出する温度履歴算出部と、前記温度履歴算出部によって算出された各領域の温度履歴に基づいて、前記冷却設備において冷却される際の各領域の変態履歴を算出する変態履歴算出部と、前記変態履歴算出部によって算出された各領域の変態履歴に基づいて、各領域の変態完了後のα粒径を算出するα粒径算出部と、を備え、前記α粒径算出部は、変態が開始されてから変態率が所定値以上になるまでの時間を変数として含むα粒径予測モデル式を用いて変態完了後のα粒径を算出する。
【0009】
上記課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る結晶粒径予測プログラムは、鋼帯の搬送方向に配置された冷却設備において鋼帯に冷却水を噴射することによって鋼帯を冷却することにより製造される鋼帯のα粒径を予測する結晶粒径予測プログラムであって、鋼帯の長さ方向を複数の領域に分割し、前記冷却設備において冷却される際の各領域の温度履歴を算出する温度履歴算出処理と、前記温度履歴算出処理によって算出された各領域の温度履歴に基づいて、前記冷却設備において冷却される際の各領域の変態履歴を算出する変態履歴算出処理と、前記変態履歴算出処理によって算出された各領域の変態履歴に基づいて、各領域の変態完了後のα粒径を算出するα粒径算出処理と、をコンピュータに実行させ、前記α粒径算出処理は、変態が開始されてから変態率が所定値以上になるまでの時間を変数として含むα粒径予測モデル式を用いて変態完了後のα粒径を算出する処理を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る結晶粒径予測方法、結晶粒径予測装置、及び結晶粒径予測プログラムによれば、フェライト相以外の相を含む結晶組織を有する鋼板のα粒径を高精度に予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の一実施形態である熱間圧延ラインの構成を示す模式図である。
【図2】図2は、図1に示すランナウト冷却設備の構成を示す模式図である。
【図3】図3は、本発明の一実施形態である結晶粒径予測装置の構成を示すブロック図である。
【図4】図4は、本発明の一実施形態である結晶粒径予測処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】図5は、セグメントの温度及び相分率の時間変化を示す図である。
【図6】図6は、本発明の一実施形態である結晶粒径予測処理によって算出されたα粒径の予測値と実測値との関係を示す図である。
【図7】図7は、従来技術によって算出されたα粒径の予測値と実測値との関係を示す図である。
【図8】図8は、従来技術によって算出されたα粒径の予測値と実測値との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態である結晶粒径予測方法及び結晶粒径予測装置について説明する。
【0013】
〔熱間圧延ラインの構成〕
始めに、図1,2を参照して、本発明の一実施形態である結晶粒径予測方法及び結晶粒径予測装置が結晶粒径を予測する対象とする熱延鋼板の製造ライン(熱間圧延ライン)の構成について説明する。但し、本発明の一実施形態である結晶粒径予測方法及び結晶粒径予測装置が結晶粒径を予測する対象とする鋼板は、熱延鋼板に限定されることはない。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態である熱間圧延ラインの構成を示す模式図である。図1に示すように、本発明の一実施形態である熱間圧延ライン1では、連続鋳造機2で鋳造された帯状の鋼帯3は、加熱炉4において加熱され、粗圧延機5と仕上圧延機6とによって数ミリの厚さまで圧延され、ランナウト冷却設備7において冷却された後、コイラー8によってコイル状に巻き取られる。
【0015】
図2は、図1に示すランナウト冷却設備7の構成を示す模式図である。図2に示すように、ランナウト冷却設備7では、仕上圧延機6によって圧延された鋼帯3は、鋼帯3の搬送方向(長さ方向)に配列された複数のバンク71によって水冷される。バンク71とは、ノズル72を有するヘッダ73と呼ばれる配水管を複数あわせた総称であり、鋼帯3はノズル72から噴出される冷却水74によって冷却される。また、ランナウト冷却設備7には、鋼帯3の搬送方向に複数の温度計75が配設されている。各温度計75は、所定周期毎に鋼帯3の温度を計測し、通信ケーブル等によって構成される伝送ケーブル76を介して計測された温度のデータを図示しないプロセスコンピュータに送信する。そして、図示しないプロセスコンピュータは、鋼帯3の温度に基づいて冷却水74の出し切りをバンク単位で制御する。なお、以下では、鋼帯3を仮想的に数百mmピッチに分割して取り扱い、分割された各鋼帯をセグメントSと称する。
【0016】
〔結晶粒径予測装置の構成〕
次に、図3を参照して、本発明の一実施形態である結晶粒径予測装置の構成について説明する。図3は、本発明の一実施形態である結晶粒径予測装置の構成を示すブロック図である。
【0017】
図3に示すように、本発明の一実施形態である結晶粒径予測装置100は、装置本体101と、製造実績データベース(DB)102と、を備えている。
【0018】
装置本体101は、パーソナルコンピュータやワークステーション等の情報処理装置によって構成され、演算処理部110と、RAM120と、ROM130と、これらを結ぶバス配線140とを有している。演算処理部110は、CPU等の演算処理装置によって構成され、ROM130内に記憶されている粒径予測プログラム131を実行することによって、データ読込部111,温度履歴算出部112,変態履歴算出部113,α粒径算出部114,及び出力部115として機能する。これら各部の機能については後述する。RAM120は、製造実績DB102から読み込まれた情報等の演算処理部110が実行する処理に関係するデータや制御プログラムを一時的に記憶する記憶装置であり、演算処理部110のワーキングエリアとして機能する。ROM130は、後述する結晶粒径予測処理を実現する粒径予測プログラム131等の制御プログラムや制御データを記憶する。
【0019】
製造実績DB102は、バス配線を介して装置本体101に接続され、伝送ケーブル76を介してランナウト冷却設備7におけるバンク71や温度計75及びオペレータガイダンスコンピュータ103に接続されている。製造実績DB102には、過去に製造された鋼帯3に関する製造実績情報が格納されている。製造実績情報には、鋼帯3の製品番号,材料組織情報(α粒径,フェライト分率,変態直前γ粒径),操業条件(計測温度,通板速度パターン,バンク噴出パターン),製品緒元(幅,厚さ,鋼種,成分)等の情報が含まれる。製造実績情報は、伝送ケーブル76を介して接続されている図示しない製造管理コンピュータによって随時更新される。
【0020】
なお、通板速度パターンとは、ランナウト冷却設備7に装入されてからコイラー8で巻き取られるまでの鋼帯3の速度の時間変化を示すものである。また、バンク噴出パターンとは、各バンク71における冷却水74の噴出のオン/オフを示す数列を意味し、例えばバンク71の総数が16である場合には“1000 1000 1000 0000”のように表される。ここで、数列の値1,0はそれぞれ冷却水74の噴出のオン及びオフを示し、数列の左から右に向かって順に仕上圧延機6側のバンク71からコイラー8側のバンク71における冷却水74の噴出のオン/オフを示している。
【0021】
〔結晶粒径予測処理〕
このような構成を有する結晶粒径予測装置100は、以下に示す結晶粒径予測処理を実行することによって、フェライト相以外の相を含む結晶組織を有する鋼帯3のα粒径を高精度に予測する。以下、図4に示すフローチャートを参照して、この結晶粒径予測処理を実行する際の結晶粒径予測装置100の動作について説明する。
【0022】
図4は、本発明の一実施形態である結晶粒径予測処理の流れを示すフローチャートである。図4に示すフローチャートは、鋼帯3の製品番号,材料組織情報(変態直前γ粒径),操業条件(計測温度,通板速度パターン,バンク噴出パターン),及び製品緒元(幅,厚さ,鋼種,成分)に関する情報が製造実績DB102に入力されたタイミングで開始となる。すなわち、この結晶粒径予測処理は、鋼帯3がコイラー8に巻き取られ、鋼帯3の製造が完了した直後に開始される。この結晶粒径予測処理は、鋼帯3の各セグメントSについて実行される。
【0023】
ステップS1の処理では、データ読込部111が、製造実績DB102から鋼帯3の製品番号,操業条件(計測温度,通板速度パターン,バンク噴出パターン),及び製品緒元(幅,厚さ,鋼種,成分)に関する情報を読み込む。これにより、ステップS1の処理は完了し、結晶粒径予測処理はステップS2の処理に進む。
【0024】
ステップS2の処理では、温度履歴算出部112が、ステップS1の処理によって読み込まれた操業条件に関する情報と仕上温度計(ランナウト冷却設備7の最上流側の温度計)75を通過してからt秒後のセグメントSの温度を求めるための以下に示す数式(3)とを用いて、仕上温度計75を通過してからコイラー8で巻き取られるまでのセグメントSの温度履歴を算出する。具体的には、温度履歴算出部112は、図5に示すグラフ上の点P1,P2,P3,P4におけるセグメントSの温度と数式(3)とを用いて、セグメントSの温度履歴を示す曲線L1を算出する。なお、図5に示すグラフの横軸は仕上温度計75の直下を通過した時間を0秒として対数目盛で表記した時間あり、図5に示す上のグラフの縦軸はセグメントSの温度を示し、図5に示す下のグラフの縦軸はセグメントSの相分率(変態率)を示している。これにより、ステップS2の処理は完了し、結晶粒径予測処理はステップS3の処理に進む。
T(t+p)=T(t)+f(wp(t,t+p),v(t,t+p),T(t),p) …(3)
【0025】
ここで、数式(3)中、T(t)は時間t秒の時のセグメントSの温度を示し、wp(t,t+p)は時間t秒から時間t+p秒までの間にセグメントSに噴出される冷却水74の水量を示し、v(t)は時間t秒から時間t+p秒までの間のセグメントSの平均速度を示し、tは仕上温度計75の直下を通過した時を0秒とした時の経過時間を示し、pは仕上温度計75の直下を通過してからコイラー8で巻き取られるまでの間のセグメントSの温度変化をどれだけ細かな時間間隔で求めるかを決める刻み時間を示している。
【0026】
また、数式(3)において、f(wp,v,T,p)は、温度T(t)であるセグメントSが水量wpの水を噴射されながら速度vで時間pだけ搬送された時の降下温度を計算する関数を表す。関数fとしては、一般的に知られている、温度が異なる2つの物質が互いに接した時の温度変化を表す熱伝達関数を用いることができる。なお、本実施形態では、セグメントSの板厚方向における温度分布は均一であるとしているが、板厚方向にさらにセグメントSを分け、熱伝達関数と板厚方向のセグメントSに対する熱伝導方程式を連成させることによって、セグメントSの板厚方向の温度分布を計算してもよい。
【0027】
ステップS3の処理では、変態履歴算出部113が、ステップS1の処理によって読み込まれた製品緒元に関する情報と、ステップS2の処理によって算出された仕上温度計75の直下を通過してからコイラー8で巻き取られるまでのセグメントSの温度履歴と、以下の数式(4)に示す相変態モデル式とを用いて、仕上温度計75の直下を通過してからコイラー8で巻き取られるまでのセグメントSの変態履歴を算出する。ここで、数式(4)中、tは仕上温度計75の直下を通過した時を0秒とした時の経過時間であり、pは仕上温度計75の直下を通過してからコイラー8で巻き取られるまでの間の相分率の変化をどれだけ細かな時間間隔で求めるかを決める刻み時間を示し、R(t)は時間t秒の時のフェライト相分率(%)を示し、g(T(t),t,p)は温度T(t)で時間t秒から時間p秒だけ経過した時のフェライト相分率の増加量(%)、つまり、温度T(t)で時間t秒から時間p秒だけ経過した時のフェライト変態量(%)を示す。また、時間0秒の時はフェライト変態が進行していないものとみなし、R(0)=0とする。
R(t+p)=R(t)+g(T(t),t,p) …(4)
【0028】
なお、数式(4)において、T(t)はステップS2の処理によって算出された温度履歴T(t)を示し、g(T(t),t,p)は、時間t秒の時に温度T(t)であるセグメントSを時間pの間だけ等温保持した時の等温変態を計算する関数である。関数gとしては、実験式により求められた回帰式や熱力学に基づく公知の理論物理式等を用いることができる。なお、本実施形態では、フェライト相分率を求める関数を例に挙げたが、パーライト相,ベイナイト相,マルテンサイト相等の他の相に対しても式(4)と同様の考えに基づいた数式によって相分率を求めてもよい。これにより、ステップS3の処理は完了し、結晶粒径予測処理はステップS4の処理に進む。
【0029】
ここで、図5を参照して、上記ステップS4の処理の具体例について説明する。このステップS4の処理では、変態履歴算出部113は、図5に示すように、ステップS2の処理によって算出された温度履歴曲線L1と数式(4)とを用いて、下のグラフに示される相分率を算出する。上のグラフにおけるフェライトノーズL2,パーライトノーズL3,ベイナイトノーズL4,及びマルテンサイトノーズL5は、各相の変態開始ポイントを表しており、温度履歴曲線L1がこれらノーズに達するまでは数式(4)中のg(T(t),t,p)の値は0となる。図5に示す例では、セグメントSの温度が750度、経過時間2秒あたり(交点A)からフェライト変態が開始している。相は、フェライト相、パーライト相、ベイナイト相、マルテンサイト相を想定しており、図5に示す例では、フェイラト相とパーライト相が析出され、変態完了時はフェライト相80%、パーライト相20%となったことを表している。
【0030】
ステップS4の処理では、α粒径算出部114が、ステップS1の処理によって読み込まれた変態直前γ粒径と、ステップS3の処理によって算出された仕上温度計75の直下を通過してからコイラー8で巻き取られるまでのセグメントSの変態履歴と、以下の数式(5)に示すα粒径予測モデル式とを用いて、変態完了後のα粒径Dαを算出する。なお、数式(5)中、Dαは変態完了後のα粒径を示し、DγはステップS1の処理によって読み込まれた変態直前γ粒径を示し、TはステップS3の処理によって算出された仕上温度計75の直下を通過してからコイラー8で巻き取られるまでの変態履歴を時間0秒から順に検索していき、変態率が初めてN%(N=1〜100)を超えたときのセグメントSの温度を示している。tは、ステップS3の処理によって算出された仕上温度計75の直下を通過してからコイラー8で巻き取られるまでの変態履歴を時間0から順に検索していき、変態率が初めてM%(M=1〜100)を超えた時の変態開始を0秒とした時の経過時間である。WはステップS3の処理によって算出された変態完了時のフェライト相の分率を示し、a,a,aは調整パラメータを示す。これにより、ステップS4の処理は完了し、結晶粒径予測処理はステップS5の処理に進む。
α={a1*Dγ*exp(-a2/T)*ta3*Wf1/3 …(5)
【0031】
ステップS5の処理では、出力部115が、ステップS4の処理によって算出された変態完了後のα粒径Dαを製造実績DB102に格納する。これにより、ステップS5の処理は完了し、一連の結晶粒径予測処理は終了する。以後、製造実績DB102に格納された変態完了後のα粒径予測値は、オペレータガイダンスコンピュータ103等に伝送され、操業改善や操業条件の設定のための情報として、又は、バンク71の動作を制御するプロセスコンピュータにおける冷却制御装置の制御モデルとして活用される。また、α粒径予測値と引張強度、降伏強度、伸び、穴広げ性、深絞り性、及び靭性等の鋼帯3の材質特性値とを関連付けして記憶しておき、データベースモデリング技術を利用してα粒径予測値から鋼帯3の材質特性値を予測するようにしてもよい。
【0032】
〔実験例〕
図6は、本発明の一実施形態である結晶粒径予測処理によって算出されたα粒径予測値の予測精度を示す図であり、横軸及び縦軸はそれぞれα粒径の実績値及び予測値を表している。なお、調整パラメータa,a,aやN%,M%の値はC−Si−Mn鋼に合わせて調整した。図6に示すように、本発明の一実施形態である結晶粒径予測処理によって算出されたα粒径予測値の予測精度Rは0.65であった。これに対して、図7に示すように、従来技術であるモデル式(1)を用いて算出されたα粒径予測値の予測精度Rは0.30であり、図8に示すように、従来技術であるモデル式(2)を用いて算出されたα粒径予測値の予測精度Rは0.48であった。以上のことから、本発明の一実施形態である結晶粒径予測処理によれば、フェライト相以外の相を含む結晶組織を有する鋼帯3のα粒径を高精度に予測することができることが証明された。
【0033】
古典核生成理論によれば、α変態は、母相となる変態直前γ粒径とギブスの自由エネルギーからモデル化された核生成速度及び核成長速度とによって表現される。本発明の一実施形態である結晶粒径予測処理ではこれらの情報を取り入れたモデルを使用しているために、良好な予測精度が得られたと考えられる。特に、モデル式(2)を用いた従来技術では核成長速度を一定としてモデルを構築しているのに対して、本発明の一実施形態である結晶粒径予測処理では核成長速度をモデルパラメータとして設定している。すなわち、本発明の一実施形態である結晶粒径予測処理では核成長速度の影響を考慮しているため、良好な予測精度が得られたと考えられる。
【0034】
以上の説明から明らかなように、本発明の一実施形態である結晶粒径予測処理によれば、温度履歴算出部112が、ランナウト冷却設備7において冷却される際の各セグメントSの温度履歴を算出し、変態履歴算出部113が、温度履歴算出部112によって算出された各セグメントSの温度履歴に基づいて、ランナウト冷却設備7において冷却される際の各セグメントSの変態履歴を算出し、α粒径算出部114が、変態履歴算出部113によって算出された各セグメントSの変態履歴に基づいて、各セグメントSの変態完了後のα粒径を算出する。そして、α粒径算出部114は、変態が開始されてから変態率が所定値以上になるまでの時間を変数として含むα粒径予測モデル式を用いて変態完了後のα粒径を算出する。これにより、フェライト相以外の相を含む結晶組織を有する鋼帯3のα粒径を高精度に予測することができる。
【0035】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、本実施形態に基づいて当業者などによりなされる他の実施の形態、実施例及び運用技術などは全て本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0036】
1 熱間圧延ライン
2 連続鋳造機
3 鋼帯
4 加熱炉
5 粗圧延機
6 仕上圧延機
7 ランナウト冷却設備
8 コイラー
71 バンク
72 ノズル
73 ヘッダ
74 冷却水
75 温度計
76 伝送ケーブル
100 結晶粒径予測装置
101 装置本体
102 製造実績データベース(DB)
110 演算処理部
111 データ読込部
112 温度履歴算出部
113 変態履歴算出部
114 α粒径算出部
115 出力部
120 RAM
130 ROM
131 粒径予測プログラム
140 バス配線
S セグメント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼帯の搬送方向に配置された冷却設備において鋼帯に冷却水を噴射することによって鋼帯を冷却することにより製造される鋼帯のα粒径を予測する結晶粒径予測方法であって、
鋼帯の長さ方向を複数の領域に分割し、前記冷却設備において冷却される際の各領域の温度履歴を算出する温度履歴算出ステップと、
前記温度履歴算出ステップによって算出された各領域の温度履歴に基づいて、前記冷却設備において冷却される際の各領域の変態履歴を算出する変態履歴算出ステップと、
前記変態履歴算出ステップによって算出された各領域の変態履歴に基づいて、各領域の変態完了後のα粒径を算出するα粒径算出ステップと、
を含み、
前記α粒径算出ステップは、変態が開始されてから変態率が所定値以上になるまでの時間を変数として含むα粒径予測モデル式を用いて変態完了後のα粒径を算出するステップを含むこと
を特徴とする結晶粒径予測方法。
【請求項2】
前記α粒径算出ステップは、前記変態履歴算出ステップによって算出された変態履歴に基づいて、変態が開始されてから変態率が所定値以上になるまでの時間を算出するステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の結晶粒径予測方法。
【請求項3】
前記温度履歴算出ステップは、冷却設備内の複数の異なる長さ方向位置における温度計測値と、鋼帯に噴射される冷却水の流量と鋼帯の降下温度との関係を示す温度モデル式とを用いて、各領域の温度履歴を算出するステップを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の結晶粒径予測方法。
【請求項4】
鋼帯の搬送方向に配置された冷却設備において鋼帯に冷却水を噴射することによって鋼帯を冷却することにより製造される鋼帯のα粒径を予測する結晶粒径予測装置であって、
鋼帯の長さ方向を複数の領域に分割し、前記冷却設備において冷却される際の各領域の温度履歴を算出する温度履歴算出部と、
前記温度履歴算出部によって算出された各領域の温度履歴に基づいて、前記冷却設備において冷却される際の各領域の変態履歴を算出する変態履歴算出部と、
前記変態履歴算出部によって算出された各領域の変態履歴に基づいて、各領域の変態完了後のα粒径を算出するα粒径算出部と、
を備え、
前記α粒径算出部は、変態が開始されてから変態率が所定値以上になるまでの時間を変数として含むα粒径予測モデル式を用いて変態完了後のα粒径を算出すること
を特徴とする結晶粒径予測装置。
【請求項5】
鋼帯の搬送方向に配置された冷却設備において鋼帯に冷却水を噴射することによって鋼帯を冷却することにより製造される鋼帯のα粒径を予測する結晶粒径予測プログラムであって、
鋼帯の長さ方向を複数の領域に分割し、前記冷却設備において冷却される際の各領域の温度履歴を算出する温度履歴算出処理と、
前記温度履歴算出処理によって算出された各領域の温度履歴に基づいて、前記冷却設備において冷却される際の各領域の変態履歴を算出する変態履歴算出処理と、
前記変態履歴算出処理によって算出された各領域の変態履歴に基づいて、各領域の変態完了後のα粒径を算出するα粒径算出処理と、
をコンピュータに実行させ、
前記α粒径算出処理は、変態が開始されてから変態率が所定値以上になるまでの時間を変数として含むα粒径予測モデル式を用いて変態完了後のα粒径を算出する処理を含むこと
を特徴とする結晶粒径予測プログラム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−171000(P2012−171000A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37624(P2011−37624)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】