説明

結腸直腸腺腫及び/又は癌腫に対するバイオマーカーとしてのトランスサイレチンの使用;検出方法及び試験システム

本発明は、結腸直腸腺腫及び/又は結腸直腸癌腫を検出するための方法であって、a)個体から採取した単離供試材料を用意し、b)単離した当該供試材料中のトランスサイレチンのレベルを定量し、及びc)定量したトランスサイレチンのレベルを基準値と比較する、工程を含む方法に関する。本発明はさらに、結腸直腸腺腫と結腸直腸癌腫とを識別するための方法や、結腸直腸腺腫及び/若しくは結腸直腸癌腫の経過、並びに/又は結腸直腸腺腫及び/若しくは結腸直腸癌腫の処置をモニターするための方法に関する。さらに、本発明は、これらの方法において使用するための試験システム及びアレイに関する。さらには、本発明は、個体における結腸直腸腺腫及び/又は結腸直腸癌腫の検出のためのバイオマーカーとしての、トランスサイレチンの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結腸直腸腺腫及び/又は結腸直腸癌腫の検出の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
結腸直腸癌腫は、欧米で診断頻度が第三番目に高い癌腫であり、癌腫による死亡の第二の主要原因である。1996年には、米国で推定133500件の結腸直腸癌腫の症例が新しく診断され、およそ54900名がこの疾病で死亡している。結腸直腸癌腫の発症率は増加しているが、一方、結腸直腸癌腫の死亡率は減少している。結腸直腸癌腫の発症率は40歳頃から年齢と共に増加し、女性よりも男性の方がこの率は高い(年間100000名あたり、男性で60.4名に対し、女性では40.9名)。
【0003】
ほとんどの患者で、結腸直腸癌腫の発症は、前癌性腺腫から転移に対する性向を備えた侵襲的悪性へという、多段階の進行の後に起こる。結腸直腸癌腫の罹患率及び死亡率の低下は、初期の結腸直腸癌腫の検出及び処置、並びに結腸直腸癌腫の前兆である結腸直腸の腺腫性ポリープの同定及び除去によって成し遂げうることが証明されている。
【0004】
結腸直腸のスクリーニング試験により、その前兆、すなわち、腺腫性ポリープ及び/又は扁平腫瘍性域での初期結腸直腸癌腫の正確な検出が成し遂げられることが示されている。結腸直腸癌腫スクリーニングに対する選択肢としていくつかの試験を利用することが可能である。スクリーニング試験として、便潜血試験(FOBT)、フレキシブルS状結腸鏡検査、FOBTとフレキシブルS状結腸鏡検査の併用、及び結腸内視鏡検査が挙げられる。様々なスクリーニング試験は、性能、有効性、可能なスクリーニング頻度、試験の複雑性、価格、及び患者による受容度について、互いに相違している。
【0005】
現在のところ、便潜血試験によるスクリーニングが、費用対効果の点で最適なスクリーニングストラテジーであると考えられる。便の潜血はグアヤクなどの化学試薬により、ヘムポリフィリンを通じて、又は免疫学的方法で検出することができる。スミスクライン・ダイアグノスティックスより入手可能なグアヤクスライド試験Hemoccult(II)が、最も広く用いられている。
【0006】
様々な技術的因子が、その臨床的性能に影響を及ぼす。Hemoccultは、結腸直腸癌腫に対する感度が約50%で、特異性が約98%であるが、ポリープに対する感度はおよそ10%と低い(Simon JB.(1998)Gastroenterologist、6:66−78.Review)。潜血スクリーニングの重大なもう一つの欠点は、予測の精度が低いことであり、陽性反応のわずか10%しか結腸直腸癌腫に起因するものではないことがわかっている(Simon JB.(1998)Gastroenterologist、6:66−78.Review;Mandel JSら(1999)J.Natl.Cancer Inst.、91:434−437;Hardcastle JDら(1996)Lancet、348:1472−1477;Kronborg Oら(1996)Lancet、348:1467−71;Winawer SJら(1997)Gastroenterology、112:594−642;Fletcher RH(1998)N.Engl.J.Med.、338:1153−1154)。
【0007】
さらに、便潜血試験では、特定の段階に疾病が進行した後にしか結果が得られない。より早期の時点での結腸直腸腺腫及び/又は結腸直腸癌腫の検出を可能とする試験システムがあれば望ましいであろう。
【0008】
さらに最近になって開発された免疫学的試験は、一般に感度が高いが特性が低く、未だ重大な問題を残している。KRAS癌遺伝子及びp53蛋白質に対する便試料の遺伝的試験などの他の方法は未だ、価格対効果が悪い(Calistri Dら(2003)Clin.Gastroenterol.Hepatol.、1:377−383;Schoen RE(2002)Nat.Rev.Cancer、2:65−70)。
【0009】
フレキシブルS字結腸鏡又は結腸内視鏡(Lieberman DA(1997)Gastroenterol.Clin.N.Am.、26:71−83)の何れかを用いた内視鏡検査(Kavanagh AM(1998)Cancer Causes Control、9:455−462)が最も決定的な検出手段であるが、限度がある。扁平腫瘍性病変に対する偽陰性が認められており、その率は高いままである(Kudo S(1997)Gastrointest.Endosc.Clin.N.Am.、7:87−98)。結腸内視鏡検査では、直径が少なくとも10mmのポリープ状病変に対する偽陰性率が低い、結腸の検査が可能となる。この理由により、陰性と判定されてから再検査までの間隔が上限10年、又はポリープ切除後の場合は上限5年と、比較的長期になりうる。
【0010】
しかしながら、結腸内視鏡検査後のこのような再検査を薦めても、患者が受容する可能性は低い。さらに、結腸内視鏡検査は費用がかかるし厄介である。一般化されている検査の費用が高いことと、人々による結腸内視鏡検査の認知度が限られていることから、この検査方法の施用には限度がある。
【0011】
収集した単離組織試料は、結腸直腸癌腫及びその前兆である結腸直腸腺腫につき様々な方法によって試験することができる。DE197 11 111A号には、上皮内結腸細菌、成分及びその反応産物のインビトロでの決定を用いる方法が開示されている。組織試料中のHERG遺伝子発現を用いる別の方法が、DE102 24 534号に開示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、結腸腺腫及び/又は結腸癌腫の初期の検出を可能とする手段を提供することにある。
【0013】
結腸直腸腺腫及び/又は癌腫の検出で使用することができるバイオマーカーを提供することが、さらなる目的である。
【0014】
本発明の別の目的は、価格対効果が高く広範に用いることができる、結腸直腸腺腫又は癌腫を検出するための試験システムを提供することである。
【0015】
さらに、その試験システムは、操作が簡単であって、結腸直腸腺腫及び/又は癌腫を検査する個体にとってより好都合なものであるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の基礎をなす目的は、個体における結腸直腸腺腫及び/又は結腸直腸癌腫の検出のためのバイオマーカーとしての、トランスサイレチンの使用によって解決される。検出は、インビボ及びインビトロのどちらでも行うことができる。好ましい実施形態によれば、この検出はインビトロで行われる。
【0017】
本発明の目的はさらに、結腸直腸腺腫及び/又は結腸直腸癌腫を検出するための方法であって、
a)個体から採取した単離供試材料を用意し、
b)単離した当該供試材料中のトランスサイレチンのレベルを定量し、
c)定量したトランスサイレチンのレベルを基準値と比較する、
工程を含む方法によって解決される。
【0018】
本発明の目的はさらに、結腸直腸腺腫と結腸直腸癌腫とを識別するための方法であって、
a)個体から採取した単離供試材料を用意し、
b)単離した当該供試材料中のトランスサイレチンのレベルを定量し、
c)定量したトランスサイレチンのレベルを基準値と比較する、
工程を含む方法によって解決される。
【0019】
本発明の目的は、結腸直腸腺腫及び/若しくは結腸直腸癌腫の経過、並びに/又は結腸直腸腺腫及び/若しくは結腸直腸癌腫の処置をモニターするための方法であって:
a)個体から採取した単離供試材料を用意し、
b)単離した当該供試材料中のトランスサイレチンのレベルを定量し、
c)定量したトランスサイレチンのレベルを基準値と比較する、
工程を含む方法によっても解決される。
【0020】
本発明の目的はまた、個体における結腸直腸腺腫及び/又は結腸直腸癌腫を検出するための試験システムであって、
a)トランスサイレチンのエピトープに結合する抗体又はレセプター、
b)当該抗体又はレセプターを支持する固体支持体、
c)当該抗体又はレセプターへの、当該トランスサイレチンのエピトープの結合を検出するための試薬、
を含む試験システムを提供することによっても解決される。
【0021】
本発明の目的はさらにまた、個体における結腸直腸腺腫及び/又は結腸直腸癌腫を検出するための検出分子を含むアレイであって、検出分子として、
a)トランスサイレチンをコードするmRNAに結合してこれを検出するため固体支持体に固定化された核酸プローブ、又は
b)トランスサイレチンのエピトープに結合してこれを検出するため固体支持体に固定化された抗体、又は
c)トランスサイレチンのエピトープに結合してこれを検出するため固体支持体に固定化されたレセプターを含み、
好ましくは各々異なる量の検出分子が固体支持体に固定化されて、数量化の精度が高められるアレイを提供することによって解決される。
【0022】
好ましい実施形態は、従属請求項で特定される。
【0023】
本発明によれば、「バイオマーカー」の用語は、結腸直腸腺腫及び/又は結腸直腸癌腫の発症に対する指標である蛋白質又は蛋白質断片を示す意味を有する。これは、「バイオマーカー」が検出剤又は検出分子として使用されることを意味する。
【0024】
「個体」又は「個体(複数)」の用語は、哺乳動物を示す意味を有する。好ましくは、哺乳動物は、患者などのヒトである。
【0025】
「健常個体」又は「健常個体(複数)」の用語は、結腸直腸腺腫及び/又は結腸直腸癌腫に罹患していない個体(単数又は複数)を示す意味を有する。すなわち、「健常個体(単数又は複数)」の用語は、結腸直腸腺腫及び/又は結腸直腸癌腫の病理学的状態に関してのみ用いられ、結腸直腸腺腫及び/又は結腸直腸癌腫以外の疾患に罹患している個体を除外するものではない。
【0026】
本発明で使用する場合、「トランスサイレチン」の用語は、切欠型トランスサイレチン、トランスサイレチンの断片、突然変異型トランスサイレチン、又は修飾型トランスサイレチンも含む。「トランスサイレチン」の修飾は、酵素的又は化学的修飾に起因しうる。さらに、「トランスサイレチン」の用語は、トランスサイレチンの単量体又は多量型を示すのにも使用される。例えば、「トランスサイレチン」の用語は特に、通常はホモ四量体蛋白質トランスサイレチンの一部である単量体蛋白質鎖を包含する。
【0027】
「エピトープ」の用語は、抗体、抗体断片、蛋白質若しくはペプチド構造又はレセプターの特異的結合を可能とする、トランスサイレチンの構造エレメントのいずれも示す意味を有する。
【0028】
供試材料を単離するプロセスは、本発明の一部をなすものではない。すなわち、本発明の方法は、既に単離されている体液などの供試材料で行われる。例えば、試験すべき供試材料をフリーザーに保存して、それぞれの供試材料を解凍した後、適切な時点で本発明の方法を実施することが可能である。
【0029】
驚くべきことに、本発明者らによって、蛋白質トランスサイレチンを結腸直腸腺腫及び/又は癌腫の検出のためのバイオマーカーとして使用できることが見出されている。
【0030】
トランスサイレチンはまた、プレアルブミンとも命名されている。トランスサイレチンは、主に肝臓で合成される、約54kDaの分子量を有する四量体の蛋白質である。トランスサイレチンは、約14kDaの同一でありうる4つの蛋白質鎖で構成されている。すなわち、トランスサイレチンは、ホモ四量体蛋白質と考えることができる。これは主に、サイロキシンに対する結合蛋白質として、また、レチナール結合蛋白質に対する担体蛋白質として、転じてビタミンAに対する輸送蛋白質として機能する(Schussler,GC、Thyroid.(2000)、10:372;Hamilton,JA及びBenson,MD、Cell of Life Sci.(2001)58:1491−1521)。
【0031】
トランスサイレチンはまた、アミロイドβ−蛋白質と複合体を形成することが報告されている。アミロイドβ−蛋白質の凝集は、脳におけるアミロイドの沈着に関連しており、これがアルツハイマー病の病理学的特徴である。
【0032】
トランスサイレチンはさらに、栄養状態の指標として報告されており、これは、トランスサイレチンの血清レベルが、不適切な蛋白質摂取や、急性又は慢性炎症で低下するためである。加えて、トランスサイレチンはそのわずか2〜3日という短い半減期のために、栄養状態をモニターするのに好適である(Pleban WE、Conn.Med.(1989)53:405−407;Bernstein LH及びIngenbleek Y、Clin.Chem.Lab.Med.(2002)40:1344−1348)。
【0033】
WO02/059621号は、トランスサイレチンを調節する試薬、及びトランスサイレチン遺伝子産物に結合し、これにより肥満及び関連機能障害を予防、改善又は矯正する役割を果たす試薬を開示している。
【0034】
SELDI(表面増強レーザ脱離イオン化)解析によって、単量体トランスサイレチン蛋白質鎖は、それぞれ13.736Da及び13.858Daの分子量を有する少なくとも2つのバリアントにて、ヒト血漿又は血清で生成していることが示されている。
【0035】
異なる分子量は、切欠、システイン化、及び/又はグルタチオン化などの様々な翻訳後修飾に起因して生じると考えられる。システイン化したトランスサイレチンは、約13.871±11Daの分子量を有しており、グルタチオン化したトランスサイレチンは、約14.069±5Daの分子量を有している。
【0036】
WO03/001182号は、生物学的流体からのホモシステイン化トランスサイレチンの検出及び単離、並びにホモシステイン血症、高ホモシステイン血症及びその関連疾患の診断用マーカーとしてのその使用を開示している。
【0037】
いくつかの研究で、トランスサイレチンは癌腫の診断マーカーとして論じられている。Sureshら(J.Clin.Pathol.(1991)44:573−575)は、カルチノイド腫瘍の75%がトランスサイレチンに対して陽性であったため、トランスサイレチンを気管支肺カルチノイド腫瘍における有用なマーカーとして報告している。別の研究では、トランスサイレチンは上皮性卵巣癌腫における予後マーカーとして論じてられている(Mahlckら、Gynecol.Obstet.Invest.(1994)37:135−140)。
【0038】
本発明者らは、驚くべきことに、体液中のトランスサイレチンのレベルは、個体における結腸直腸腺腫及び/又は癌腫の発症と相関していることを見出している。
【0039】
本発明によれば、トランスサイレチンを血液、血液血漿、血液血清、骨髄、糞便、滑液、リンパ液、脳脊髄液、痰、尿、母乳、精液、滲出液及びそれらの混合液などの体液中で測定することができる。
【0040】
好ましくは、体液は、本発明の方法を実施する前に単離されている。本発明の方法は、好ましくは検査室の技術者によってインビトロで行われる。
【0041】
本発明の好ましい実施形態によれば、血液血漿又は血液血清中のトランスサイレチンが測定される。血液血清は、医学的に検査すべき個体から血液を採取し、凝固した血液から上清を分離することによって容易に得ることができる。
【0042】
好ましくは血液血清である体液中のトランスサイレチンのレベルは、結腸直腸腺腫の漸進的形成に伴って減少する。結腸直腸腺腫は、悪性になりうる良性の腫瘍である。良性の結腸直腸腺腫から結腸直腸癌を発症した場合、好ましくは血液血清である体液中のトランスサイレチンのレベルは、さらに減少する。
【0043】
結腸直腸腺腫の結腸直腸癌への形質変換の後、罹病個体の病理学的状態は、転移形成によってさらに増悪されうる。
【0044】
本発明は、初期の未だ良性の段階で腫瘍性疾患を検出することを可能とする初期バイオマーカーを提供する。初期の検出によって、医師が結腸直腸腺腫を適時に除去して個体が生存する見込みを劇的に増大させることができるようになる。
【0045】
さらに、本発明によって、血液血清などの体液中のトランスサイレチンのレベルを、年単位など、長期間にわたってモニターすることが可能になる。
【0046】
長期間モニターすることで、結腸直腸腺腫と結腸直腸癌腫とを区別することが可能になる。トランスサイレチンのレベルは、例えば年に1度又は2度、定期的にチェックすることができる。トランスサイレチンのレベルの減少が検出されれば、これが結腸直腸腺腫の指標となりうる。その後のトランスサイレチンのレベルのさらなる減少は、悪性の結腸直腸癌腫への形質転換の指標となりうる。
【0047】
さらに、疾病の経過及び/又は処置をモニターすることができる。例えば結腸直腸腺腫の除去の後にトランスサイレチンのレベルがさらに減少する場合、これは病理学的状態の悪化の指標となりうる。
【0048】
すなわち、トランスサイレチンのレベルは、結腸直腸腺腫及び/又は結腸直腸癌腫の検出及び/又はモニターのための有益な臨床パラメータである。体液中のトランスサイレチンのレベルは、結腸直腸腺腫の発症後、極めて早期に減少する。従って、トランスサイレチン又はトランスサイレチンのレベルは、早期診断と、それにより疾患の早期処置を可能とする重要な臨床パラメータである。
【0049】
結腸直腸腺腫及び/又は結腸直腸癌腫の検出のための本発明の方法は、個体から採取した単離供試材料を用意し、次いでその単離供試材料中のトランスサイレチンのレベルを定量して、最後に、定量したトランスサイレチンのレベルを基準値と比較する、工程を含む。
【0050】
基準値は、複数の健常個体の単離試料中で定量されるトランスサイレチンの平均レベルとして算出することができる。この基準値は、その人が健常であることを意味する、正常と考えられる範囲として確立することができる。そこで、この範囲を下回る低下は、結腸直腸腺腫及び/又は結腸直腸癌腫の病理学的状態の指標となりうる。この基準値の範囲は、例えば血糖などといったその他の医学的パラメータ範囲のいずれでも行われるように、統計的に適切な数の、健常個体の血清試料などの体液試料を採取することによって確立することができる。
【0051】
本発明の別の実施形態において、基準値は、長期間にわたって個体から採取した複数の単離試料で定量した、トランスサイレチンの平均レベルとして算出される個体の基準値でありうる。
【0052】
1カ月を超えたり又は1年を超えたりするような長期間、トランスサイレチンレベルをモニターする場合、個体の平均レベルを確立することが可能である。トランスサイレチンレベルは、例えば血糖を測定する場合と同じ血液血清試料から測定することができ、そしてこれを用いてトランスサイレチンのレベルの個体の何らかの減少を特異的に検出することを可能とする個体の検量線を確立することができる。
【0053】
別の特徴において、本発明はさらに、個体における結腸直腸腺腫及び/又は結腸直腸癌腫を検出するための試験システムを提供する。試験システムは、トランスサイレチン又はトランスサイレチンの断片のエピトープ又は好適な構造エレメントに結合する抗体又はレセプターのいずれかの特異性に基づくものである。レセプターは、トランスサイレチンに特異的に結合することのできるいかなる構造もとりうる。レセプターは、例えば、Fab若しくはF(ab’)断片などの抗体断片、又はトランスサイレチンに特異的に結合することのできる何れか他の蛋白質若しくはペプチド構造でありうる。
【0054】
抗体、抗体断片又はレセプターは、例えば、プラスチック表面又はビーズなどの固体支持体に結合されて、トランスサイレチンの結合及び検出を可能とする。例えば、従来のマイクロタイタープレートを、プラスチック表面として使用することができる。トランスサイレチンの結合の検出は、例えば、検出可能な基で標識付けされた二次抗体を使用することによって成し遂げることができる。検出可能な基とは、例えば、放射性同位体、又は好適な基質を添加することによって、例えば発色若しくは蛍光信号を生じさせることにより検出可能となる、西洋ワサビペルオキシダーゼ又はアルカリホスファターゼのような酵素でありうる。
【0055】
試験システムは、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)又は放射性免疫測定法(RIA)などの免疫測定法でありうる。しかしながら、ウエスタンブロッティング又は免疫沈降などの、抗体又は抗体の断片の特異性を使用する何れの他の免疫学的試験システムも使用することができる。
【0056】
本発明はまた、個体における結腸直腸腺腫及び/又は結腸直腸癌腫を検出するための検出分子を含むアレイであって、検出分子が、トランスサイレチン、断片、突然変異体、バリアント若しくはそれらの誘導体をコードするmRNAに結合してこれを検出するため固体支持体上に固定化された核酸プローブ、又はトランスサイレチンのエピトープに結合してこれを検出するため固体支持体上に固定化された抗体、又はトランスサイレチンのエピトープに結合してこれを検出するため固体支持体上に固定化されたレセプターでありうるアレイも提供する。
【0057】
核酸プローブは、天然又は合成のオリゴヌクレオチドや、cDNA、cRNA等の何れでもありうる。
【0058】
前記アレイは、本発明の試験システムにおいて使用することができる。アレイは、マイクロアレイ又はマクロアレイのいずれかでありうる。支持体は、ナイロン若しくはプラスチックなどのポリマー材料、又は例えばシリコンウェハのようなシリコン、若しくはセラミックなどの無機材料でありうる。好ましい実施形態によれば、ガラス(SiO)が固体支持体材料として使用される。ガラスは、スライドガラス又はガラスチップでありうる。本発明の別の実施形態によれば、ガラス基材は原子的に平坦な表面を有する。
【0059】
例えば、アレイは、血清などの体液中に存在しているトランスサイレチンのmRNAに特異的に結合することができる、固定化された核酸プローブで構成されうる。別の好ましい実施形態は、トランスサイレチンmRNAの逆転写によってcDNAを産生して、前記アレイでそれぞれのcDNAの量を特異的に検出することにある。アレイ技術は、当業者に知られているものである。測定したmRNA又はcDNAの数量化はそれぞれ、測定値を、既知量のトランスサイレチンmRNA又はcDNAの標準又は検量線と比較することによって行うことができる。
【0060】
好ましくは、異なる量の検出分子を固体支持体上に各々固定化して、トランスサイレチンのレベルの正確な数量化を可能とする。
【0061】
本発明の別の実施形態によれば、トランスサイレチンのレベルは質量分析法によって定量される。
【0062】
質量分析法によって、トランスサイレチン又はその単量体蛋白質鎖を、その分子量に基づいて特異的に検出し、そしてトランスサイレチンの量を非常に簡単に数量化することが可能になる。
【0063】
トランスサイレチンは、通常、各々約14kDaの分子量を有する4つの蛋白質鎖を含むホモ四量体である。
【0064】
本発明者らは、質量分析法を用いて、とりわけ13.776Da、13.884Da又は14.103Daの分子量を有するトランスサイレチン蛋白質鎖のいくつかのバリアントを検出している。
【0065】
本発明者らは、13.776Da及び13.884Daの分子量を有するトランスサイレチンの分子バリアントのレベルが特に、結腸直腸腺腫及び/又は結腸直腸癌腫の発症の場合に血清などの体液中で減少することを見出している。
【0066】
質量分析法の分野で従来公知の適切なイオン化方法であれば何れでも、トランスサイレチン分子、断片、突然変異体、バリアント又はその誘導体をイオン化するのに採用することができる。イオン化方法としては、電子衝撃法(EI)、化学的イオン化法(CI)、電界イオン化法(FDI)、エレクトロスプレーイオン化法(ESI)、レーザ脱離イオン化法(LDI)、マトリックス支援レーザ脱離イオン化法(MALDI)及び表面増強レーザ脱離イオン化法(SELDI)が挙げられる。
【0067】
質量分析法の分野で従来公知の適切な検出方法であれば何れでも、トランスサイレチン、断片、突然変異体、バリアント又はその誘導体の分子量を決定するのに採用することができる。検出方法としては、四重極型質量分析法(QMS)、フーリエ変換質量分析法(FT−MS)及び飛行時間型質量分析法(TOF−MS)が挙げられる。
【0068】
好ましくは、質量分析法は、表面増強レーザ脱離イオン化−飛行時間−質量分析法(SELDI−TOF−MS)である。SELDI−TOF−MSを行う前に、単離試料中のトランスサイレチンは、好ましくは、活性化表面を備えたチップ又は固体支持体に固定化される。活性化表面は、好ましくは、固定化された、例えばウサギポリクローナル抗トランスサイレチン抗体などの抗トランスサイレチン抗体を含む。抗体へのトランスサイレチンの結合の後にSELDI−TOF質量分析計で飛行時間解析が行なわれ、これがトランスサイレチンレベルの定量用の強度シグナルを送達する。
【0069】
さらに、質量分析法によって、結腸直腸腺腫及び/又は結腸直腸癌の検出について関連性を有しうる別の蛋白質を同時に検出することが可能になる。
【0070】
本発明の別の実施形態において、結腸直腸腺腫及び/又は結腸直腸癌腫の検出の感度及び/又は特異性は、トランスサイレチンと組み合わせて別の蛋白質を検出することによって増強される。
【0071】
結腸直腸腺腫及び/又は結腸直腸癌腫に対する別のバイオマーカーで、そのレベルがトランスサイレチンのレベルに加えて定量されうるものには、8.960Daの分子量を有する蛋白質又はポリペプチドが含まれる。当該8.960Daの蛋白質又はポリペプチドの供試材料中のレベルは、健常個体から単離された試料中のこの蛋白質又はポリペプチドのレベルと比較した場合に、結腸直腸腺腫及び/又は結腸直腸癌腫で増加していることが見出されている。
【0072】
従って、質量分析法によって、血清などの体液中のトランスサイレチンのレベルに加えて、8960±9Daの分子量を有する当該蛋白質のレベルを定量することが好ましい。質量分析法は、当該8960±9Daの蛋白質のレベルを検出及び数量化するのに最適な方法である。
【0073】
本発明の別の実施形態において、結腸直腸腺腫及び/又は結腸直腸癌腫の検出の感度及び/又は特異性は、トランスサイレチンと組み合わせてCEA(癌胎児性抗原)及び/又はCA 19−9を検出することによって増強される。CEA及びCA 19−9は双方とも、進行した結腸直腸癌腫における応答性指標及び予後因子として分析した。
【0074】
本発明のさらなる実施形態において、結腸直腸腺腫及び/又は結腸直腸癌腫の検出の感度及び/又は特異性は、トランスサイレチンと組み合わせてCA15−3、CA−125及び/又はHer−2/neuを検出することによって増強される。CA15−3は癌胎児性抗原であり、これは様々な癌腫によって発現され、他の腫瘍マーカーと共に測定されることが多いものである。CA15−3及びCA−125の双方とも、主に乳癌に対する予後指標であるが、さらにまた、内臓の転移の予後指標でもある。乳癌腫におけるHer−2/neuの増幅は予後不良、短い無病期間、及び短い生存時間と関連している。これまでに、Her−2/neuの増幅の開始点と進度についてはほとんど知られていない。
【0075】
本発明の方法は、結腸直腸腺腫及び/又は結腸直腸癌腫の検出のための他の診断方法と組み合わせて行って、全体としての感度及び/又は特異性を増加させることができる。
【0076】
好ましくは、本発明の方法は早期の検出及び/又はモニタリング方法として行われる。本発明の方法の結果が結腸直腸腺腫及び/又は結腸直腸腺腫の発症を示したならば、結腸内視鏡検査又は便潜血試験(FOBT)などのさらなる検査を行うべきである。
【0077】
本発明を実施する場合、以下のポリクローナル抗トランスサイレチン抗体:The Binding Site Ltd.、Birmingham、イギリスより入手可能なPC 066、及びDAKO、Hamburg、ドイツより入手可能なA 0002を使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0078】
以下の図面及び実施例は、例示のみを目的として記載している。本発明は、以下の実施例に限定されるように解釈されるべきでない。
【実施例】
【0079】
別段に明記しない限り、すべての方法は分析システムの製造業者のプロトコルに従って行った。
【0080】
血清収集及び血清分画
ヒト患者の3群から血清を採集して調べた。
【0081】
第1群は、鼠径ヘルニア、胆石又は憩室炎などの非癌性疾患の処置を受けた外科患者である30名の患者からなっていた。第1群のこれらの個体を健常個体、すなわち、結腸直腸腺腫及び/又は結腸直腸癌腫に罹患していない個体の群として採用した。
【0082】
第2群は、すべて不確定の腫瘍の処置を受け、良性の結腸直腸腺腫であることが判明した外科患者である29名の患者からなっていた。
【0083】
第3群は、結腸直腸癌腫を有する患者である28名の患者からなっていた。これらの28名の患者はすべて、TNMステージIII(腫瘍、結節、転移ステージIII)結腸直腸癌腫に罹患していた。
【0084】
倫理指針及び患者の秘密を厳守し、すべての患者から、本研究に参加することについての書面による同意を得た。すべての患者は、絶食時間及び前投薬などの同等の術前調製を受けた。
【0085】
各患者からの血清を、陰イオン交換クロマトグラフィー(Serum Fractionation Kit/Q HyperD樹脂、Ciphergen Biosystems,Inc.)により、96ウェル形式の自動化アプローチ(Biomek2000、Ciphergen)を用い、製造業者のプロトコルに従って分画して、最も豊富な蛋白質による干渉のいくつかを低減させた。図1に示すとおり、分画によって、蛋白質のpI値に基づき大まかに分離された蛋白質を含む6つの画分が得られた。
【0086】
8名の患者から、Ciphergen Biosystems,Inc.のクロマトグラフ表面ProteinChip(登録商標)アレイを使用して全画分を試験した。アレイは、比較的高い受容能をもたらし、広範囲の蛋白質プロファイリング及びペプチドマッピング適用のために多種多様な蛋白質及びペプチドと結合する。8名の患者からの6つの血清画分を、以下の異なる3種の蛋白質アレイ:第四級アミン官能基を備えた強陰イオンアレイ(SAX−2)、ニトリロ酢酸表面を備えた固定化金属捕獲アレイ(IMAC)、及びカルボキシレート官能基を備えた弱陽イオン交換アレイ(CM10)に付した。最高値の評価可能ピークを与えた2つの画分(画分1、画分4)を、最低のデータ変動性を示すチップ(CM10アレイ)でのプロファイリングアプローチのために選択した。これらの2つの画分を、Ciphergen ProteinChip(登録商標) Array CM10を使用して、3群すべてで測定した。
【0087】
Chiphergen ProteinChip(登録商標)アレイの調製及びSELDI−TOF−MS解析
CM10蛋白質アレイを、製造業者のプロトコルに従ってバイオプロセッサ(Ciphergen Biosystems,Inc.)にて処理した。チップをCM10結合バッファー(Ciphergen Biosystems,Inc.)で2×5分間平衡化して、その後CM10結合バッファーにて1:10に希釈しておいた血清画分とインキュベートした。45分後に、結合しなかった材料を除去して、チップをCM10結合バッファーで3回、水で2回洗浄した。室温で10分間乾燥させた後、0.05Mシナピン酸(1.0μl)を2施用回数添加して、チップをCiphergen Protein ChipReader(モデルPBSII)で分析した。
【0088】
Protein ChipReaderは、飛行時間型質量分析計である。検出蛋白質に対する質量値及びシグナル強度をソフトウェアに転送するが、このソフトウェアは、ProteinChip Data Analysis Program及びBiomarker Wizard Programによるさらに詳細な分析のために、Ciphergenにより供給されているものである。
【0089】
データの変動性を最小化するために、チップ上にランダムに分配した全患者群からの試料を用いて2日以内に測定を実施した。標準化用の基準コントロールとして、貯蔵しておいた正常血清を全ての測定に平行して用いた。
【0090】
蛋白質の質量スペクトルを、185のレーザ強度で195の平均レーザショットを使用することによって作成した。検出器は、7の感度で作動させた。データを得るために、検出サイズの範囲は、2.000から40.000Daの間に設定した。レーザは、10.000Daで収束させた。データを、ProteinChip Data Analysis Program(バージョン3.1、Ciphergen Biosystems)及びBiomarker Wizard Program(バージョン3.1、Ciphergen Biosystems)で分析した。ピーク強度は、総イオン電流に対して標準化した。
【0091】
結果
本実験において、非癌腫患者からの血清(第1群)と、結腸直腸腺腫(第2群)と結腸直腸癌腫(第3群)の患者からの血清間の、差次的に発現された蛋白質が同定された。表1に示すとおり、健常患者(非癌患者)、結腸直腸腺腫患者及び結腸直腸癌腫患者間で高い有意差(p≦0.0000001)の強度の平均値を示す、6つのピークを画分1に同定することができた。表2に示すとおり、画分4は、3群間で有意に異なる(p≦0.0000001)潜在的バイオマーカーのさらなるセットを提供するものであった。
【0092】
表1:
Ciphergenチップ上での各血清試料の画分1の処理後に選択されたバイオマーカー。p値は、Biomarker Wizzardの適用より、ノンパラメトリック試験で得た。Nが、「健常」患者、Aは結腸直腸腺腫患者、そしてCaは結腸直腸癌腫患者に対するトランスサイレチンレベルを表す。StDevは、測定値の標準偏差である。
【0093】
【表1】

【0094】
表2:
Ciphergenチップ上での各血清試料の画分4の処理後に選択されたバイオマーカー。p値は、Biomarker Wizzardの適用より、ノンパラメトリック試験で得た。Nが、「健常」患者、Aは結腸直腸腺腫患者、そしてCaは結腸直腸癌腫患者に対するトランスサイレチンレベルを表す。StDevは、測定値の標準偏差である。
【0095】
【表2】

【0096】
いくつかの蛋白質を、単一バイオマーカーとして、及び他のマーカーと組み合わせて、Biomarker Pattern Softwareを使用して試験した。13.770Daの分子量を有する1つの蛋白質(p13.770)が、腺腫/癌腫患者と健常コントロールとを判別することが認められ、感度は75%で、特異性は90%であった。
【0097】
図2は、バイオマーカーを例証するSELDIプロファイルを示す。図3は、散布図における、腺腫/癌腫患者からの健常患者の識別を示す。13770Daの分子量を有するバイオマーカー(p13.370)の強度は、健常患者よりも腺腫/癌患者の血清で有意に低い。
【0098】
図4は、健常、腺腫患者及び癌患者からの第4血清画分のSELDI−TOF蛋白質プロファイルを示す。認めることができるとおり、p13.370ピークの強度は、健常患者から結腸直腸腺腫患者にわたり、結腸直腸癌患者に至って有意に減少している。
【0099】
第2のマーカー蛋白質(分子量8.960Da、第1画分)と組み合わせると、腺腫/癌腫患者からの健常患者の分離が、有意に改善された。30名の非腺腫/癌腫(健常)患者、29名のうち20名の結腸直腸腺腫患者、さらには28名のうち20名の結腸直腸癌腫患者が正しく分離された。この組み合わせでは、70%の感度と100%の特異性が得られた。
【0100】
トランスサイレチンの同定
免疫親和性捕獲及び免疫沈降試験を用いて、13.770Daの蛋白質をトランスサイレチンとして同定した。
【0101】
トランスサイレチンのProtein Chip免疫親和性捕獲
免疫親和性捕獲を、製造業者のプロトコルに従ってProtein G Array(Ciphergen Biosystems,Inc.)を使用して行った。ウサギポリクローナル抗トランスサイレチン抗体A0002(Dako、Hamburg、ドイツ)を、PBSで0.2μg/μlの濃度に希釈した。スポット当たり2μlをアレイ上にピペットで移して、引き続き湿潤チャンバー内で4℃にて24時間インキュベートした。結合しなかった抗体を洗浄バッファー(0.5%(容量/容量)トリトンX−100を含むPBS)で洗浄することにより除去した。乾燥後に、試料インキュベーション用バイオプロセッサ(Ciphergen Biosystems,Inc.)にアレイを挿入した。多量及び少量の13.770Da蛋白質を含有する2μlの血清画分(結腸直腸腺腫/癌腫患者 対 健常患者)をチップに加えて、水平振盪機上で室温にて1時間インキュベートした。PBS及びHEPESバッファーで洗浄した後、アレイを10分間風乾して、0.6μlの飽和シナピン酸マトリックスを各スポットに添加した。アレイは、以下のパラメータを使用して測定した。レーザ強度は185に、感度は7に設定した。検出サイズの範囲は、200から200.000Daの間に設定し、レーザは、10000Daで収束させた。
【0102】
抗体で被覆されたアレイへの結合の後、異なる分子量(およそ13.761Da、13.914Da、14.102Da及び14.292Da)の4つの蛋白質ピークが同定されており、トランスサイレチンは異なる分子バリアントで生じていることが示唆された。図5には、健常患者と癌腫患者のシグナル強度の比較を示す。
【0103】
最後に、免疫沈降を行った。異なる患者からの画分4の50μlの血清を、トランスサイレチンに対するポリクローナル抗体の15μl(6,75μg)と4℃で2時間インキュベートした。陰性コントロールは、抗体なしで同様に実施した。50μlのプロテインA/Gアガロース(Pierce、Rockford、IL)を添加して、4℃で終夜インキュベートした。3300xgで遠心分離した後、上清を取り出して別々に保存した。ペレットを20μlのバッファー(9M尿素、2%Chaps、50mMトリス−HCl、pH9)に再懸濁させてプロテインA/G−アガロースから蛋白質を外した。沈降物も上清も、CM10結合バッファーに1:10で希釈した。異なる分子量(13.776Da、13.884Da、14.103Da)の3つの蛋白質が、抗トランスサイレチン抗体で免疫沈降された。図6から、2つのバリアント(13.776Da及び13.884Da)の量が上清中で有意に低減しており、一方、最大の分子量(14.103Da)のバリアントの量は変化しないままであったことが見て取れる。
【0104】
これは、約13.776Da及び約13.884Daの分子量を有するトランスサイレチン蛋白質鎖が、結腸直腸腺腫及び/又は結腸直腸癌腫の検出のために重要なバイオマーカーであることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】血清試料の分画及びプロファイリングを示す模式図である。
【図2】SELDI−TOFプロファイルを示す図である。
【図3】腺腫/癌腫の個体からの健常個体の区別を示す図である。
【図4】3名の異なる個体からの血清画分のSELDI−TOF蛋白質プロファイルを示す図である。
【図5】トランスサイレチン及びその潜在的誘導体のSELDI免疫親和性捕獲を示す図である。
【図6】抗トランスサイレチン抗体を用いた免疫沈降を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結腸直腸腺腫及び/又は結腸直腸癌腫を検出するための方法であって、
a)個体から採取した単離供試材料を用意し、
b)単離した当該供試材料中のトランスサイレチンのレベルを定量し、
c)定量したトランスサイレチンのレベルを基準値と比較する、
工程を含む方法。
【請求項2】
結腸直腸腺腫と結腸直腸癌腫とを識別するための方法であって、
a)個体から採取した単離供試材料を用意し、
b)単離した当該供試材料中のトランスサイレチンのレベルを定量し、
c)定量したトランスサイレチンのレベルを基準値と比較する、
工程を含む方法。
【請求項3】
結腸直腸腺腫及び/若しくは結腸直腸癌腫の経過、並びに/又は結腸直腸腺腫及び/若しくは結腸直腸癌腫の処置をモニターするための方法であって:
a)個体から採取した単離供試材料を用意し、
b)単離した当該供試材料中のトランスサイレチンのレベルを定量し、
c)定量したトランスサイレチンのレベルを基準値と比較する、
工程を含む方法。
【請求項4】
前記供試材料のトランスサイレチンのレベルが、健常個体の供試材料と比較して減少している、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
第一供試材料中のトランスサイレチンのレベルの第一の減少が結腸直腸腺腫の指標となり、かつ第一供試材料よりも後の時点で前記個体から単離した第二供試材料中のトランスサイレチンのレベルの第二の減少が結腸直腸癌腫の指標となり、但し第二の減少は第一の減少よりも大幅である、請求項2〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
基準値が、複数の健常個体の単離試料中で定量されたトランスサイレチンの平均レベルとして算出される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
基準値が、長期間にわたって個体から採取した複数の単離試料で定量したトランスサイレチンの平均レベルとして算出される個体の基準値である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
トランスサイレチンが、同じか又は互いに異なりうる1又は4つの蛋白質鎖で構成される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
トランスサイレチンが、切欠、修飾及び/又は突然変異されている、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
単離された供試材料が体液である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
体液が、血液、血液血漿、血清、骨髄、糞便、滑液、リンパ液、脳脊髄液、痰、尿、母乳、精液、滲出液及びそれらの混合物からなる群より選択される、請求項10記載の方法。
【請求項12】
供試材料中のトランスサイレチンのレベルが、質量分析法によって定量される、以上の請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
供試材料中の癌胎児性抗原(CEA)のレベルがさらに定量され、この供試材料中の癌胎児性抗原(CEA)のレベルが結腸直腸腺腫及び/又は結腸直腸癌腫によって増加する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
供試材料中のCA 19−9のレベルがさらに定量され、この供試材料中のCA 19−9のレベルが結腸直腸腺腫及び/又は結腸直腸癌腫によって増加する、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
8960±9Daの分子量を有する蛋白質又はポリペプチドのレベルがさらに定量され、供試材料中の8960±9Daの蛋白質又はポリペプチドのレベルが結腸直腸腺腫及び/又は結腸直腸癌腫によって増加する、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
供試材料中のトランスサイレチンのレベルが、免疫測定法によって、好ましくはELISA又はRIAによって定量される、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
供試材料中のトランスサイレチンのレベルが、この供試材料中の、トランスサイレチンをコードするmRNAのレベルを定量することによって定量される、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記方法が、結腸直腸腺腫及び/又は結腸直腸癌腫の他の診断方法と組み合わせて行なわれ、感度及び/又は特異性が高められる、以上の請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
個体における結腸直腸腺腫及び/又は結腸直腸癌腫の検出のためのバイオマーカーとしての、トランスサイレチンの使用。
【請求項20】
結腸直腸腺腫及び/又は結腸直腸癌腫の初期の検出のための、請求項19に記載の使用。
【請求項21】
トランスサイレチンが、切欠、修飾及び/又は突然変異されている、請求項19又は20に記載の使用。
【請求項22】
結腸直腸腺腫及び/又は結腸直腸癌腫に対する1以上のさらなるバイオマーカーと組み合わせられて、感度及び/又は特異性が高められる、請求項19〜21のいずれか1項に記載の使用。
【請求項23】
少なくとも1つのさらなるバイオマーカーが、癌胎児性抗原(CEA)を含み、供試材料中のそのレベルが結腸直腸腺腫及び/又は結腸直腸癌腫によって増加する、請求項22に記載の使用。
【請求項24】
少なくとも1つのさらなるバイオマーカーが、CA 19−9を含み、供試材料中のそのレベルが結腸直腸腺腫及び/又は結腸直腸癌腫によって増加する、請求項22に記載の使用。
【請求項25】
少なくとも1つのさらなるバイオマーカーが、8960±9Daの分子量を有し、供試材料中のそのレベルが結腸直腸腺腫及び/又は結腸直腸癌腫によって増加する、請求項22に記載の使用。
【請求項26】
個体における結腸直腸腺腫及び/又は結腸直腸癌腫を検出するための試験システムであって、
a)トランスサイレチンのエピトープに結合する抗体又はレセプター、
b)当該抗体又はレセプターを支持する固体支持体、
c)当該抗体又はレセプターへの、当該トランスサイレチンのエピトープの結合を検出するための試薬、
を含む試験システム。
【請求項27】
試験システムが、結腸直腸腺腫及び/又は結腸直腸癌腫に対する、1以上のさらなるバイオマーカーを検出するための、1以上の抗体又はレセプターを含む、請求項26に記載の試験システム。
【請求項28】
個体における結腸直腸腺腫及び/又は結腸直腸癌腫を検出するための検出分子を含むアレイであって、検出分子として、
a)トランスサイレチンをコードするmRNAに結合してこれを検出するため固体支持体に固定化された核酸プローブ、又は
b)トランスサイレチンのエピトープに結合してこれを検出するため固体支持体に固定化された抗体、又は
c)トランスサイレチンのエピトープに結合してこれを検出するため固体支持体に固定化されたレセプターを含み、
好ましくは各々異なる量の検出分子が固体支持体に固定化されて、数量化の精度が高められるアレイ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2008−509407(P2008−509407A)
【公表日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−525176(P2007−525176)
【出願日】平成16年8月13日(2004.8.13)
【国際出願番号】PCT/EP2004/009124
【国際公開番号】WO2006/015616
【国際公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(505233479)インディヴュームド ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (4)
【氏名又は名称原語表記】Indivumed GmbH
【Fターム(参考)】