説明

絞り加工装置及び絞り加工方法

【課題】製品の内表面に形成する凹凸状部が、金型に対して製品の抜き方向で引っ掛かる形状の場合でも、絞り加工によって内表面を凹凸状に成形した素材を、良好な離型性をもって金型から取り外すことができる絞り加工装置を提供すること。
【解決手段】主軸2の先端に配設した金型10と、この金型10の表面形状に沿った形状に素材Wを成形する絞りローラRとを備えた絞り加工装置において、金型10を、凹凸状の表面形状を有し、かつ、素材Wの成形後、縮径可能な分割構造とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絞り加工装置及び絞り加工方法に関し、特に、絞り加工によって内表面を凹凸状に成形した素材を、良好な離型性をもって金型から取り外すことができるようにした絞り加工装置及び絞り加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、物理気相蒸着(PVD:Physical Vapor Deposition)や化学気相蒸着(CVD:Chemical Vapor Deposition)を実施する装置の容器等のように、製品の内表面を凹凸状に成形する必要がある場合、電子ビームを用いる方法が採用されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記の電子ビームを用いる方法は、高価な設備が必要となる上、加工時間も長くかかり、加工コストが高くつくという問題があった。
【0004】
一方、この種の製品の一般的な成形方法として、プレス加工や絞り加工があるが、例えば、プレス加工によって、製品の内表面を凹凸状に成形しようとすると、金型の凹状部に素材の肉が十分に流れず、製品の内表面を所望の凹凸状に成形することができないという問題があった。
また、製品の内表面に形成する凹凸状部が、金型に対して製品の抜き方向で引っ掛かる形状の場合には、プレス加工や絞り加工では成形することができないという問題があった。
【0005】
本発明は、上記従来の内表面を凹凸状に成形する製品を製造する場合の問題点に鑑み、製品の内表面に形成する凹凸状部が、金型に対して製品の抜き方向で引っ掛かる形状の場合でも、絞り加工によって内表面を凹凸状に成形した素材を、良好な離型性をもって金型から取り外すことができる絞り加工装置及び絞り加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の絞り加工装置は、主軸の先端に配設した金型と、該金型の表面形状に沿った形状に素材を成形する絞りローラとを備えた絞り加工装置において、前記金型を、凹凸状の表面形状を有し、かつ、素材の成形後、縮径可能な分割構造としたことを特徴とする。
【0007】
この場合において、前記金型を、周方向に分割形成した分割型と、コア部とで構成するとともに、前記分割型同士が摺接する分割面を、絞り加工を施した素材の抜き方向に対して傾斜させることができる。
【0008】
また、本発明の絞り加工方法は、主軸の先端に金型を配設し、該金型に取り付けた素材を絞りローラによって金型の表面形状に沿った形状に成形する絞り加工方法において、前記金型に、凹凸状の表面形状を有し、かつ、素材の成形後、縮径可能な分割構造とした金型を用い、該金型を所定形状に組んだ状態で金型に取り付けた素材を絞りローラによって金型の表面形状に沿った形状に成形し、その後、金型を縮径させ、絞り加工を施した素材を金型から離型させることを特徴とする。
【0009】
この場合において、前記金型を、周方向に分割形成した分割型と、コア部とで構成するとともに、前記分割型同士が摺接する分割面を、絞り加工を施した素材の抜き方向に対して傾斜させてなるようにし、素材の成形後、コア部による分割型の放射方向の押圧支持を解除し、分割型を1つ置きに絞り加工を施した素材の抜き方向に相対変位させるとともに、分割型を縮径させることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の絞り加工装置及び絞り加工方法によれば、金型を所定形状に組んだ状態で金型に取り付けた素材を絞りローラによって金型の表面形状に沿った形状に成形した後、金型を縮径させ、絞り加工を施した素材を金型から離型させることにより、製品の内表面に形成する凹凸状部が、金型に対して製品の抜き方向で引っ掛かる形状の場合でも、絞り加工によって内表面を凹凸状に成形した素材を、良好な離型性をもって金型から取り外すことができる。
【0011】
そして、より具体的には、素材の成形後、コア部による分割型の放射方向の押圧支持を解除し、分割型を1つ置きに絞り加工を施した素材の抜き方向に相対変位させるとともに、分割型を縮径させることにより、絞り加工によって内表面を凹凸状に成形した素材を変形させることなく、簡単かつ確実に金型から離型させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の絞り加工装置及び絞り加工方法の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0013】
図1〜図4に、本発明の絞り加工装置及び絞り加工方法の第1実施例を示す。
この絞り加工装置1は、絞り加工によって素材の内表面を凹凸状に成形するためのもので、主軸2の先端に配設した金型10と、この金型10の表面形状に沿った形状に素材Wを成形する絞りローラRとを備えた絞り加工装置において、金型10を、凹凸状の表面形状を有し、かつ、素材Wの成形後、縮径可能な分割構造とするようにしている。
【0014】
金型10は、周方向に分割形成した分割型11、12と、コア部13とで構成するとともに、分割型11、12同士が摺接する分割面11a、12aを、図2(b)に示すように、絞り加工を施した素材Wの金型10からの抜き方向に対して傾斜させて構成し、素材Wの成形後、コア部13による分割型11、12の放射方向の押圧支持を解除し、分割型11、12を1つ置きに絞り加工を施した素材Wの抜き方向に相対変位させるとともに、分割型11、12、すなわち、金型10全体を縮径させるようにしている。
【0015】
金型10が、分割型11、12とコア部13とで組まれた状態の形状は、特に限定されるものではなく、図1に示すように、断面視で角部を円弧状にするほか、直線の傾斜面とするようにしても構わない。
また、金型10の凹凸状の表面形状も、特に限定されるものではないが、本実施例においては、ディンプル状に窪んだ多数の凹部を、金型10の曲面部分に形成するようにしている。
【0016】
分割型11は、隣り合う分割型12と摺接する分割面11a、11aを、図2(b)に示すように、素材Wの抜き方向に向かって拡がるように傾斜した形状に形成するようにし、一方、分割型12は、隣り合う分割型11と摺接する分割面12a、12aを、分割面11aに対応するように分割面11aの傾斜方向とは逆向きに傾斜した形状に形成するようにしている。
また、分割型11、12の内表面は、円錐、円錐台、角錐又は角錐台形状のコア部13の側面と摺接するように、断面視で主軸2の軸心に対して傾斜した形状に形成するようにしている。
そして、同数(本実施例では4個)の分割型11と分割型12とを組み合わせ、所定の形状の金型10となるようにしている。
【0017】
分割型11、12は、主軸2の先端に配設した金型受け20に取り付けた輪状の押さえ板21に内蔵した押圧部材4によって、主軸2の軸心に対して直角方向(金型10が縮径する方向)に押圧されている。
また、分割型11は、金型受け20に取り付けた押圧部材5によって主軸2の軸心に対して平行方向(素材Wの抜き方向)に押圧されている。
押圧部材4、5は、特に限定されるものではないが、本実施例においては、バネを用いて分割型11、12を押圧するようにしている。
【0018】
本実施例では、押圧部材5による押圧方向を素材Wの抜き方向としているが、分割型12に素材Wの抜き方向と逆向きの引っ張り力を付与するようにしても金型10全体を縮径させることができる。
【0019】
コア部13は、分割型11、12を放射方向へ押圧支持するものであれば、その形状は特に限定されず、円錐、円錐台、角錐(分割型が8分割のときは8角錐)又は角錐台形状とすることができ、本実施例においては、円錐台形状を採用し、その軸心が主軸2及び分割型11、12を拡径した状態の金型10の軸心と一致するようにしている。
コア部13は、主軸2の軸心と平行方向に移動することによって分割型11、12に対して放射方向の押圧とその解除を行い、押圧部材4と協働して、分割型11、12に対して拡径及び縮径の動作をさせるようにしている。
コア部13の移動手段は、特に限定されるものではないが、本実施例においては、素材Wを金型10に押し当てて固定するチャック31と一体の構造とし、チャック31を先端に配設した心押し軸30を進退させる心押し機構3によって移動させるようにしている。
また、コア部13は、主軸2を中空構造とし、コア部13を主軸2側(図1において左側)に引っ張ることによって、分割型11、12を放射方向へ押圧支持するようにすることもできる。
【0020】
次に、この絞り加工装置を用いて行う絞り加工方法について説明する。
まず、図1に示すように、主軸2の先端に配設した金型10の分割型11、12に対して、コア部13を心押し機構3によってチャック31と共に、図例左側に押圧することによって、分割型11、12を放射方向へ押圧支持する。このとき、素材Wもチャック31によって金型10に固定される。
【0021】
次に、図3に示すように、主軸2を駆動機構(図示省略)によって回転させながら、絞りローラRを、金型10に固定された素材Wに押し当て、金型10の表面形状に沿った形状に素材Wを成形する。
【0022】
そして、素材Wの成形後、コア部13による分割型11、12の放射方向の押圧支持を解除し、分割型11、12を絞り加工を施した素材Wの抜き方向に相対変位させるとともに、分割型11、12、すなわち、金型10全体を縮径させる。
より具体的には、本実施例においては、図4(a)に示すように、分割型11に対しては、押圧部材4による縮径方向の押圧力4Pa及び押圧部材5による素材Wの抜け方向の押圧力5Pが、また、図4(b)に示すように、分割型12に対しては、押圧部材4による縮径方向の押圧力4Pbが、それぞれ作用し、分割型12が素材Wに対して相対的に図例左下(内側)方向に移動する。これによって、素材Wの内表面に成形された凸部が、分割型12の表面に形成された凹部から離型する。
そして、分割型11は、上記分割型12の動作に合わせて、押圧部材5による素材Wの抜け方向の押圧力5Pによって図例右側に移動しつつ、分割型12と共に、押圧部材4による縮径方向の押圧力4Pa、4Pbによって縮径し、素材Wを分割型11から離型することができる。
【実施例2】
【0023】
図5に、本発明の絞り加工装置及び絞り加工方法の第2実施例を示す。
この絞り加工装置は、金型10の構成のうち分割型11、12の構成は、第1実施例と同様であり説明を省略する。
そして、本実施例の絞り加工装置は、コア部13を、素材Wを金型10に押し当てて固定するチャック31と緩衝機構6を介して連結し、素材Wの厚みが一定でない場合でも、素材Wを強固に固定するとともに、コア部13による、分割型11、12への放射方向へ押圧支持を確実に行うことができるようにしている。
【0024】
緩衝機構6は、特に限定されるものではないが、図5に示すように、心押し機構3の心押し軸30の先端に固定したチャック31に開口した孔部63と、この孔部63に摺動するコア部13から延設した軸部62と、軸部62に嵌挿し、コア部13とチャック31との間に配設するバネ等からなる弾性体61とから構成することができる。
【0025】
この絞り加工装置によれば、図5(a)に示すように、心押し機構3による図例左側への押圧力により、コア部13が分割型11、12への放射方向へ押圧支持を完了したとき、チャック31と素材Wとの間には隙間が生じている。
そして、この状態から、さらに心押し機構3による図例左側への押圧を継続することによって、図5(b)に示すように、弾性体61が撓み、チャック31によって素材Wを金型10に押圧固定することができる。
【0026】
ところで、緩衝機構6は、図6に示す変形実施例のように、心押し機構3の心押し軸30の先端に固定したコア部13の手前で心押し軸30から突出して形成したチャック押圧部66と、チャック押圧部66に開口した孔部66aと、孔部66aに摺動するチャック31から延設した軸部65と、軸部65に嵌挿し、チャック押圧部66とチャック31との間に配設するバネ等からなる弾性体64とから構成することもできる。
【0027】
この絞り加工装置によれば、図6(a)に示すように、心押し機構3による図例左側への押圧力により、先にチャック31が素材Wを金型10に押圧固定し、その状態からさらに心押し機構3による図例左側への押圧によって、図6(b)に示すように、コア部13による分割型11、12への放射方向へ押圧支持を完了することができる。
【0028】
なお、本実施例のその他の構成及び絞り加工方法の手順及び作用は、上記第1実施例と同様である。
【0029】
以上、本発明の絞り加工装置及び絞り加工方法について、複数の実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、例えば、主軸を固定し、絞りローラを回転軸に配設して行う絞り加工装置にも適用できる等、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の絞り加工装置及び絞り加工方法は、製品の内表面に形成する凹凸状部が、金型に対して製品の抜き方向で引っ掛かる形状の場合でも、絞り加工によって内表面を凹凸状に成形した素材を、良好な離型性をもって金型から取り外すことができるという特性を有していることから、絞り加工によって素材の内表面を凹凸状に成形する場合に広く用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の絞り加工装置の第1実施例を示す一部切り欠きの正面図である。
【図2】同絞り加工装置の金型を示し、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【図3】同絞り加工装置で素材に絞り加工を施した状態を示す一部切り欠きの正面図である。
【図4】分割型の作動説明図で、(a)は一方の分割型に働く押圧力を、(b)は他方の分割型に働く押圧力を、(c)は素材が最終的に離型した状態を示す。
【図5】本発明の絞り加工装置の第2実施例を示す一部切り欠きの正面図で、(a)はコア部が各分割型を放射方向へ押圧支持した状態を、(b)はチャックが素材を押圧固定した状態を示す。
【図6】同第2実施例の別形態を示す一部切り欠きの正面図で、(a)はチャックが素材を押圧固定した状態を、(b)はコア部が各分割型を放射方向へ押圧支持した状態を示す。
【符号の説明】
【0032】
1 絞り加工装置
2 主軸
3 心押し機構
10 金型
11 分割型
12 分割型
13 コア部
R 絞りローラ
W 素材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸の先端に配設した金型と、該金型の表面形状に沿った形状に素材を成形する絞りローラとを備えた絞り加工装置において、前記金型を、凹凸状の表面形状を有し、かつ、素材の成形後、縮径可能な分割構造としたことを特徴とする絞り加工装置。
【請求項2】
前記金型を、周方向に分割形成した分割型と、コア部とで構成するとともに、前記分割型同士が摺接する分割面を、絞り加工を施した素材の抜き方向に対して傾斜させてなることを特徴とする請求項1記載の絞り加工装置。
【請求項3】
主軸の先端に金型を配設し、該金型に取り付けた素材を絞りローラによって金型の表面形状に沿った形状に成形する絞り加工方法において、前記金型に、凹凸状の表面形状を有し、かつ、素材の成形後、縮径可能な分割構造とした金型を用い、該金型を所定形状に組んだ状態で金型に取り付けた素材を絞りローラによって金型の表面形状に沿った形状に成形し、その後、金型を縮径させ、絞り加工を施した素材を金型から離型させることを特徴とする絞り加工方法。
【請求項4】
前記金型を、周方向に分割形成した分割型と、コア部とで構成するとともに、前記分割型同士が摺接する分割面を、絞り加工を施した素材の抜き方向に対して傾斜させてなるようにし、素材の成形後、コア部による分割型の放射方向の押圧支持を解除し、分割型を1つ置きに絞り加工を施した素材の抜き方向に相対変位させるとともに、分割型を縮径させることを特徴とする請求項3記載の絞り加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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