説明

絞り装置

【課題】開口の口径が最小となる最小絞り時で羽根の停止位置の精度を維持しつつ羽根が小型化された絞り装置を提供することを課題とする。
【解決手段】絞り装置1において、駆動リング60は、従動ピン66を有し、伝達部材20は、従動ピン66と係合するカム溝26を有し、伝達部材20の回転量と駆動リング60との回転量との関係は、非線形であり、開口51の口径が最小となる最小絞り時での駆動リング60の最小絞り停止位置と前記最小絞り停止位置に隣接した停止可能位置との間隔は、最小絞り時以外での駆動リング60の隣接する停止可能位置の間隔よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絞り装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、基板に形成された開口の口径を複数の羽根により絞る絞り装置が開示されている。ステップモータから駆動リングを介して羽根に動力が伝達される。ステップモータから駆動リングへの動力の伝達は、駆動リングに形成された歯部や、または歯車などを介して行なわれる。駆動リングから羽根への動力の伝達は、駆動リングに形成された駆動ピンと羽根に形成されたカム溝とが係合することに行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−275177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
絞り装置に採用されるステップモータのロータは、所定のステップ角度毎に停止可能である。ロータの停止可能な位置は複数設定されている。ロータが停止すると、駆動リングが停止し羽根も停止する。開口の絞り口径は、羽根の停止位置に応じて画定される。
【0005】
ロータからの動力は、一般的に歯車などによって駆動リングへと伝達される。従って、ロータの回転角度と駆動リングの回転角度とは線形の関係にある。このため、ロータの隣接する停止可能な位置の間隔は一定であるので、駆動リングの隣接する停止可能な位置の間隔も一定である。
【0006】
一方、ロータの停止に連動して停止する羽根の停止位置の間隔は、開口の口径を小さく絞るほど小さくなるように設定されている。これは、開口の口径を小さく絞るほど、羽根の回転支点に対して駆動リングの駆動ピンが遠ざかるように駆動リングが動くことにより実現される。羽根の回転支点と駆動リングの駆動ピンとの間隔が大きいほど、駆動ピンの一定角度の回転に対して、回転支点周りの羽根の回転角度は小さくなるからである。
【0007】
駆動リングが本来の停止可能位置よりもずれて停止した場合には、羽根も本来の停止位置よりずれて停止するので、開口の口径に影響を与える。特に、開口の口径が最小となる最小絞り時にこのように停止位置がずれると、開口の口径の精度に大きな影響を与える。開口の口径精度への影響をできるだけ少なくするためには、駆動リングの停止可能位置の間隔をできる限り大きく設定し、最小絞り時における羽根の回転支点と駆動リングの駆動ピンとの間隔をできる限り大きく設定することが望ましい。このように設定することにより、最小絞り時には、駆動リングの隣接する停止可能位置の間隔に比して、羽根の隣接する停止可能位置の間隔は最小となる。これにより、最小絞り時で駆動リングの停止位置がずれた場合であっても、羽根の停止位置のずれには影響が少なくて済む。
【0008】
ここで、駆動リングの停止位置の間隔は、駆動リングの移動範囲の全体に亘って一定である。これは、上述したように、ステップモータの停止可能な位置の間隔も一定であり、駆動リングは一般的に歯車を介してステップモータから動力が伝達されるからである。従って、駆動リングの停止可能位置の間隔をできる限り大きく設定すると、駆動リングの移動範囲全体の大きさは大きくなり、駆動ピンの移動範囲全体の大きさも大きくなる。これに伴い、駆動ピンと係合する羽根のカム溝の大きさも大きくする必要がある。これにより、羽根が大型化する。
【0009】
以上のように、開口の口径が最小となる最小絞り時で羽根の停止位置の精度を維持すると、駆動リングの移動範囲が大型化し、これに伴い羽根も大型化する。
【0010】
そこで本発明は、開口の口径が最小となる最小絞り時で羽根の停止位置の精度を維持しつつ羽根が小型化された絞り装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は、開口を有した基板と、歯部を有し、所定のステップ角毎に回転、停止可能なステップモータと、前記歯部と噛合う従動歯部を有し、前記歯部の動力を受けて回転、停止可能な伝達部材と、前記伝達部材の動力を受けて回転、停止可能な駆動リングと、前記駆動リングの動力を受けて前記開口から退避した退避位置又は前記開口の少なくとも一部を覆う絞り位置に停止可能な羽根と、を備え、前記駆動リングは、従動ピンを有し、前記伝達部材は、前記従動ピンと係合するカム溝を有し、前記伝達部材の回転量と前記駆動リングとの回転量との関係は非線形である、絞り装置によって達成できる。
【0012】
伝達部材の回転量と駆動リングとの回転量とが非線形になるので、伝達部材の隣接する停止可能位置の間隔が一定であっても、駆動リングの隣接する停止可能位置の間隔は、カム溝と従動ピンとの位置関係によって変更される。これにより絞り口径に応じて、駆動リングの所望の隣接する停止可能位置の間隔を大きくすることにより羽根の停止位置の精度を確保するとともに、間隔を小さくすることにより停止可能位置を減らすことなく、駆動リングの駆動ピンの移動範囲を小さくすることができる。これにより駆動リングの駆動ピンと係合する羽根のカム溝の大きさを小さくでき、羽根の小型化された絞り装置を提供することができる。
【0013】
上記構成において、前記開口の口径が最小となる最小絞り時での前記駆動リングの最小絞り停止位置と前記最小絞り停止位置に隣接した停止可能位置との間隔は、前記最小絞り時以外での前記駆動リングの隣接する停止可能位置の間隔よりも大きい、構成を採用できる。
【0014】
開口の口径が最小となる最小絞り時での駆動リングの隣接する停止可能位置の間隔をできるだけ大きめに設定することにより、最小絞り時での羽根の停止位置の精度を確保できる。また、最小絞り時以外での駆動リングの隣接する停止可能位置の間隔をできるだけ小さめに設定することにより、駆動リングの駆動ピンの移動範囲全体の大きさを小さくすることができる。これにより、駆動リングの駆動ピンと係合する羽根のカム溝の大きさを小さくでき、羽根の小型化を達成できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、開口の口径が最小となる最小絞り時で羽根の停止位置の精度を維持しつつ羽根が小型化された絞り装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、実施例に係る絞り装置の分解斜視図である。
【図2】図2は、実施例に係る組立後の絞り装置の内部構成を示した正面図である。
【図3】図3は、実施例に係る組立後の絞り装置の内部構成を示した正面図である。
【図4】図4は、実施例に係る組立後の絞り装置の一部分を示した断面図である。
【図5】図5A、5Bは、カム溝内での従動ピンの往復動の説明図である。
【図6】図6A、6Bは、カム溝内での従動ピンの往復動の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本実施例に係る駆動装置である絞り装置1を図面を参照して説明する。図1は、実施例に係る絞り装置1の分解斜視図である。絞り装置1は、図面上側を被写体側、下面を結像側としたとき、被写体側から順に、シャッタ基板10、伝達部材20、薄板30、5枚の羽根40、薄板50、駆動リング60、ステップモータ70、シャッタ基板80を含む。本実施例に係る絞り装置1がカメラ(光学機器)に採用された場合には、結像側に被写体像を結像するための撮像素子(不図示)が配置されることになる。
【0018】
伝達部材20、薄板30、羽根40、薄板50、駆動リング60、ステップモータ70は、シャッタ基板10、80の両者間に収納される。シャッタ基板10、薄板30及び50、シャッタ基板80には、それぞれ光路を画定するための開口11、31、51、81が中央部に形成されている。尚、開口の大きさは、開口11、81よりも、開口31、51の方が小さい。ステップモータ70の動力は、伝達部材20、駆動リング60を介して、複数の羽根40に伝達される。詳しくは後述する。また、伝達部材20と被駆動部材である駆動リング60により減速機構90を構成しており、減速機構90はシャッタ基板10、80の両者間に設けられている。
【0019】
羽根40に動力が伝達されると、複数の羽根40は所定位置を支点として揺動する。これにより、開口11、31、51、81の口径が調整される。口径が調整されることにより、撮像素子へ入射する被写体光の光量が調整される。また、薄板30は、伝達部材20と羽根40との間に配置され、薄板50は、羽根40と駆動リング60との間に配置される。薄板30、50は、こられ部材の干渉を回避するために各駆動部品間に配置されている。薄板30、50は、シート状に形成されている。
【0020】
図2、図3は、組立後の絞り装置の内部構成を示した正面図である。尚、図2、図3においては、シャッタ基板10、薄板30、50について省略してある。但し、薄板50の開口51については破線で示している。尚、図2は、羽根40が開口51から退避した全開状態を示しており、図3は、羽根40が開口51に臨む小絞り状態を示している。図4は、組立後の絞り装置の一部分を示した断面図である。
【0021】
図1、図4に示すように、シャッタ基板80には、ステップモータ70を収納するためのモータ室ACが形成されている。またシャッタ基板10、80間には、複数の羽根40を収納するための羽根室SCが形成されている。モータ室ACは、羽根室SCよりも光軸方向の結像側に突出して凹部状に形成されている。ステップモータ70は、図2乃至図4に示すように、ロータ72、ステータ74、コイル76などから構成される。
【0022】
ロータ72は、円筒状に形成され周方向に極性の異なる磁極に着磁されて円筒部722と、円筒部722と一対に形成された回転軸部723とを含む。円筒部722と回転軸部723とはインサート成形によって一体的に形成されている。円筒部722はマグネット樹脂により形成されている。回転軸部723は摺動性のよい合成樹脂によって形成されている。例えば、回転軸部723はポリアセタール樹脂によって形成されている。また、シャッタ基板80のモータ室AC内の支軸87に立設している。回転軸部723は、支軸87により摺動回転自在に支持されている。これによりロータ72は、回転自在に支持されている。
【0023】
尚、固定軸82は、図2、図3に示すように、駆動リング60よりも内側に配置されている。これにより、シャッタ基板80の平面方向での小型化が図られている。また、図2に示すように、シャッタ基板80の外周には複数の切欠84が形成されている。切欠84は、全開状態での羽根40との干渉を回避している。これによりシャッタ基板80の小型化が図られている。
【0024】
図2乃至図4に示すように、ステータ74は、正面から見てコ字状に形成され、その両腕部にそれぞれ、コイル76が巻回されている。コイル76は、不図示のフレキシブルプリント基板に通電可能に接続されている。コイル76への通電状態により、ステータ74が励磁される。励磁されたステータ74とロータ72との間に発生する磁気吸着力及び反発力によって、ロータ72が所定量回転する。
【0025】
また、図2乃至図4に示すように、回転軸部723には、ロータカナ部を形成する歯部724が一体に形成されている。ロータ72の回転により歯部724がステップモータ70の動力により回転する。尚、薄板30には、図1に示すように回転軸部723の回転を許容する逃げ孔37が形成されている。歯部724は、伝達部材20に形成された従動歯部24と噛合い係合している。伝達部材20は、図1に示すように略中心に軸孔23が形成されており、図1乃至図3に示すように、シャッタ基板80に形成された支軸83と軸孔23とが係合して、伝達部材20は回転自在に支持されている。また、伝達部材20にはカム溝26が形成されている。ここで伝達部材20は、歯部724の光軸方向の厚みすなわち、歯部724の歯幅より薄いシート状に形成されている。具体的には、伝達部材20の厚さは、0.03〜0.15mm程度に設定されている。好ましくは、0.05〜0.10mmである。ここで、シート状の材料とは、可撓性の有無を問わない。例えば可撓性を有しない、ポリアセタール樹脂やポリエチレンテレフタラート樹脂や金属であってもよい。本実施例において伝達部材20は、可撓性を有するシート状の部材により形成されている。従動歯部24は、伝達部材20の外周の略半周にわたって形成されている。カム溝26は、軸孔23を中心として円弧状に形成されている。換言すれば、カム溝26は従動歯部24と伝達部材20の回転中心との間に形成されている。
【0026】
歯部724が回転すると、歯部724と従動歯部24との噛合いにより伝達部材20が回転する。伝達部材20が回転すると、カム溝26と係合する従動ピン(係合ピン)66が光軸周りに回転する。従動ピン66は、駆動リング60に立設されている。図2に示した全開状態から、伝達部材20が時計方向に回転すると、図3に示すように、従動ピン66が光軸を中心として反時計方向に公転する。即ち、駆動リング60が反時計方向に回転する。
【0027】
また、駆動リング60には、羽根40の枚数に対応した数だけ駆動ピン64が形成されている。駆動ピン64は、駆動リング60に略均等の間隔を有して形成されている。駆動ピン64には、それぞれ羽根40に形成されたカム溝44が係合している。また、羽根40は、図1に示すように軸孔42が形成されており、それぞれシャッタ基板80に形成された固定軸82と係合する。これにより羽根40は、固定軸82を支点として揺動可能に支持される。
【0028】
尚、図1に示すように、シャッタ基板10、薄板30、50のそれぞれには、駆動ピン64の移動を許容する逃げ孔14、34、54が形成されている。シャッタ基板10、薄板30のそれぞれには、従動ピン66の移動を許容する逃げ孔16、36が形成されている。逃げ孔36は、図1に示すようにL字状に形成されている。薄板30、50のそれぞれには、固定軸82が挿入される逃げ孔32、52が形成されている。また、シャッタ基板10の外周には係止爪19が形成され、シャッタ基板80の外周には係止爪19と係合する係止部89が形成されている。係止爪19と係止部89との係合により絞り装置1は組み立てられる。
【0029】
駆動リング60が全開状態から反時計方向に回転すると、駆動ピン64が光軸周りに反時計方向に移動する。これにともない、羽根40は、固定軸82を支点として開口51の中心に近づくように揺動する。このようにして、開口51の口径が調整される。尚、ステップモータ70の回転位置を制御することにより、開口51の口径を連続的に調整できる。
【0030】
尚、前述したように、開口11、81の大きさよりも、開口31、51の方が小さく形成されている。また、開口11、81は、略同径であり、開口31、51も略同径である。従って、全開状態での光量は、開口31、51によって画定されている。
【0031】
図2に示した全開状態においては、従動ピン66はカム溝26の一端に接触し、複数の駆動ピン64はそれぞれ逃げ孔14、34、54の一端に接触する。図3に示した小絞り状態においては、従動ピン66はカム溝26の他端に接触し、複数の駆動ピン64はそれぞれ逃げ孔14、34、54の他端に接触する。以上のようにして、羽根40の移動を、図2に示した全開状態と図3に示した小絞り状態との間に制限している。このように、複数の箇所で各部材が接触することにより、所定の部品に負荷が集中することを防止している。
【0032】
以上説明したように、ステップモータ70からの動力は単一の伝達部材20を介して駆動リング60に伝達される。このように、単一の伝達部材20によってステップモータ70からの動力が駆動リング60に伝達されるので、部品点数が削減されている。従来の絞り装置は、複数の歯車を介してアクチュエータからの動力を駆動リングに伝達していたが、本実施例に係る絞り装置のように単一の伝達部材20によって動力を伝達することにより、噛合箇所が歯部724と従動歯部24のみであるため作動音が低減している。また、部品点数が削減されているので製造コストも低く抑えられている。また、部品点数が削減されているので軽量化も達成されている。
【0033】
また、伝達部材20と駆動リング60とのそれぞれに形成されたカム溝26と従動ピン66とが係合することにより、ステップモータ70からの動力が駆動リング60に伝達される。従来の絞り装置は複数の減速歯車が採用されているため打撃音が大きく、作動音の低減が困難であった。しかしながら、本実施例の絞り装置は、歯車を介さずにカム溝26と従動ピン66との係合により動力が伝達されるので、従来のものと比較して作動音が低減している。
【0034】
また、伝達部材20は可撓性を有しシート状に薄く形成されている。このため、歯部724と従動歯部24との接触面積も小さく、またさらに伝達部材20が撓むことにより、歯部724と従動歯部24との噛合時、カム溝26と従動ピン66との係合時の衝撃が吸収され、従来の絞り装置よりも作動音が低減されている。また、減速装置90をシャッタ基板10、80間に設けることにより絞り装置1の光軸方向での薄型化が達成されている。
【0035】
このように作動音が低減されているので、例えば動画撮影機能を有したカメラに本実施例に係る絞り装置を採用した場合、動画撮影時に絞り装置の作動音が収録されてしまうような恐れを回避できる。また、部品点数も削減されているので、例えば携帯可能な電子機器に本実施例に係る絞り装置を採用した場合、軽量化を達成でき、またこれにより耐衝撃性能を改善することができる。
【0036】
また、伝達部材20はシート状に薄厚に形成されている。従って、従来とは異なる、光軸方向に減速歯車が重ならない構成によって、絞り装置の薄型化が図られている。ここで、従来の絞り装置に採用されている減速歯車を薄く形成することも考えられる。従来の絞り装置に採用される減速歯車は、軸方向に大径歯部と小径歯部とを有している。従ってこのような減速歯車を薄く形成した場合であっても、大径歯部と小径歯部との厚み分は必要となってしまう。
【0037】
また、図4に示すように、シート状の伝達部材20を採用することにより、ステップモータ70の光軸方向の厚み内に、伝達部材20、羽根40、駆動リング60を配置することができる。換言すれば、ステップモータ70の真横に伝達部材20、羽根40、駆動リング60を配置することができる。さらに言えば、伝達部材20は歯部724の歯幅よりも薄い。これによっても、絞り装置の光軸方向での薄型化が達成されている。
【0038】
また、図2、図3に示すように、伝達部材20の少なくとも一部分は、羽根40及び駆動リング60と光軸方向で重なっている。これにより、光軸方向に垂直な平面方向での小型化が達成されている。また前述したように伝達部材20はシート状に形成されているので、伝達部材20の一部が羽根40及び駆動リング60と光軸方向に重なった場合であっても、光軸方向の薄型化が維持される。また、伝達部材20と駆動リング60とを光軸方向に重ねて配置することができるのは、伝達部材20と駆動リング60とは、カム溝26と従動ピン66との係合によって動力が伝達されるからである。
【0039】
このように薄型化が維持されているので、本実施例に係る絞り装置は携帯電話などの小型な電子機器への採用が適している。
【0040】
また、羽根40及び駆動リング60と光軸方向に重なるように伝達部材20を配置できるので、伝達部材20の平面方向での大きさを大きくすることができる。これにより、従動歯部24のピッチ円半径を大きくすることができる。これにより、ロータ72と伝達部材20との間の減速比を大きくすることができる。減速比を大きくすることにより、ステップモータ70の動力をより減速して駆動リング60へと伝達することができ、これにより羽根40の位置精度も向上する。従って、口径の制御精度も向上する。
【0041】
また、図1乃至図4に示すように、本実施例に係る減速機構90は、被駆動部材である駆動リング60と、ステップモータ70からの動力を駆動リング60に伝達する伝達部材20とにより構成されている。駆動リング60は、係合ピンである従動ピン66を有している。また伝達部材20は、ステップモータ70からの動力であるロータカナ部を形成する歯部724と係合する従動歯部24を有している。さらに伝達部材20の厚みは、歯部724の歯幅より薄く、可撓性を有するシート状に形成されている。またさらに伝達部材20は、ステップモータ70からの動力が伝達される従動歯部24と、従動ピン66と係合するカム溝26とを有しており、シャッタ基板80に形成された支軸83と軸孔23とが係合して回転可能に支持されている。
【0042】
この構成により減速機構90は、単一の伝達部材20によりステップモータ70からの動力が駆動リング60に伝達されるので、部品点数が削減されると共に噛合箇所も減り、これに伴って作動音も低減する。また、伝達部材20は歯部724の歯幅より薄いシート状に構成されているので減速機構90が薄型化される。また伝達部材20は、可撓性を有しているので、歯部724と従動歯部24との噛合時、カム溝26と従動ピン66との係合時の衝撃が吸収され作動音がさらに低減される。また、部品点数が削減されているので低コストを維持でき、軽量化が達成できる。
【0043】
次に、絞り装置1の構成について再度簡単に説明する。
ステップモータ70は、歯部724を有し、ロータ72は、所定のステップ角毎に回転、停止可能する。伝達部材20は、歯部724と噛合う従動歯部24を有し、ロータ72の動力を受けて回転、停止可能である。駆動リング60は、伝達部材20の動力を受けて回転、停止可能である。羽根40は、駆動リング60の動力を受けて開口51から退避した退避位置又は開口51の少なくとも一部を覆う絞り位置に停止可能である。
【0044】
羽根40は、ロータ72の停止に連動して停止する。従って、開口51の口径を複数の段階にわたって画定できる。図3は、開口51の口径が最も小さくなる最小絞り時の絞り装置1を示している。伝達部材20、駆動リング60、羽根40は、それぞれ、移動範囲全体の中で、停止可能な位置が複数設定されている。羽根40の停止可能位置の間隔は、開口51の中心に近づくほど小さくなる。
【0045】
ここで、カム溝26は、伝達部材20の回転量と駆動リング60との回転量との関係が非線形になるように形成されている。この理由は以下による。歯部を介して2つの部材の回転を連動させた場合には2つの部材の噛合い点は移動することはない。しかしながら、従動ピン66はカム溝26内で移動するので、従動ピン66とカム溝26との位置関係は伝達部材20の回転によって変化する。このため、従動ピン66とカム溝26との位置関係が変更されることにより、伝達部材20の回転量と駆動リング60との回転量との関係は非線形になる。また、カム溝26の形状も、伝達部材20の回転量と駆動リング60との回転量との関係が線形にならないように形成されている。
【0046】
上記の構成をより詳細に説明する。本実施例に係る絞り装置1において、カム溝26は、最小絞り時での駆動リング60の最小絞り停止位置と最小絞り停止位置に隣接した停止可能位置との間隔が、最小絞り時以外での駆動リング60の隣接する停止可能位置の間隔よりも大きくなるように駆動リング60を回転させ、また、駆動リング60の停止可能位置の間隔は、羽根40が退避位置から絞り位置へ移動するように駆動リング60が移動するにつれて大きくなるように駆動リング60を回転させる形状となっている。このように、伝達部材20の隣接する停止可能位置の間隔が一定であっても、駆動リング60の隣接する停止可能位置の間隔は変動するようにカム溝26を形成している。
【0047】
上述したように、伝達部材20の所定の回転角度に対する駆動リング60の回転角度は、カム溝26と従動ピン66との位置関係によって変わる。これにより、伝達部材20の隣接する停止可能位置の間隔が一定であっても、駆動リング60の隣接する停止可能位置の間隔は、カム溝26と従動ピン66との位置関係によって変わる。この構成により、駆動リング60の停止可能位置の間隔をカム溝26の形状を変えることにより変更することができるので、不必要に駆動リング60の移動範囲を大きくすることがなくなり、駆動リング60の駆動ピン64と係合する羽根40のカム溝44の大きさを小さくでき、羽根40の大型化を抑制できる。これにより絞り装置1の小型化を図ることができる。
【0048】
最小絞り時での駆動リング60の最小絞り停止位置と最小絞り停止位置に隣接した停止可能位置との間隔は、最小絞り時以外での駆動リング60の隣接する停止可能位置の間隔よりも大きく設定されている。
【0049】
開口51の口径が最小となる最小絞り時での駆動リング60の隣接する停止可能位置の間隔をできるだけ大きめに設定することにより、最小絞り時での羽根40の停止位置の精度を確保できる。この理由は、最小絞り時には、駆動リング60の隣接する停止可能位置の間隔に比して、羽根40の隣接する停止可能位置の間隔は最小となり、最小絞り時で駆動リング60の停止位置が本来の位置からずれた場合であっても、羽根40の停止位置のずれには影響が少なくて済むからである。
【0050】
また、最小絞り時以外での駆動リング60の隣接する停止可能位置の間隔をできるだけ小さめに設定することにより、駆動リング60の駆動ピン64の移動範囲全体の大きさを小さくすることができる。これにより、駆動リング60の駆動ピン64と係合する羽根40のカム溝44の大きさを小さくでき、羽根40の大型化を抑制できる。これにより絞り装置1の小型化を図ることができる。
【0051】
また、駆動リング60の停止可能位置の間隔は、羽根40が退避位置から絞り位置へ移動するように駆動リング60が移動するにつれて大きくなる。駆動リング60が本来の停止位置からずれて停止した場合、駆動リング60の停止可能位置の間隔が大きいほど、停止可能位置の間隔に対する相対的なずれ量は小さくなる。駆動リング60の停止可能な位置の間隔を、絞り位置へ移動するにつれて大きくなるように設定することにより、絞り位置に移動するにつれて駆動リング60の相対的なずれ量は小さくなる。これにより、絞り位置での駆動リング60の停止位置のずれによる羽根40への影響を小さくすることができる。
【0052】
また、図2、図3に示すように、駆動ピン64と羽根40の回転支点である固定軸82との距離D1は、羽根40が退避位置にある場合よりも絞り位置にある場合の方が長い。羽根40が退避位置にある場合よりも絞り位置にある場合の方が駆動ピン64と固定軸82との距離D1が長いため駆動リング60の停止位置が本来の位置からずれた場合であっても、羽根40の停止位置のずれには影響が少なくなるので、絞り位置での駆動リング60の停止位置のずれによる羽根40への影響を小さくすることができる。これにより、開口51の口径を精度よく絞ることができる。
【0053】
また、上述したように図2に示すように羽根40が退避位置にある場合の距離D1は短く、羽根40が絞り位置にある場合の距離D1は長い。これにより、ステップモータ70の所定のステップ角の回転に対応して退避位置に移動する際の羽根40の移動量は、ステップモータ70の所定のステップ角の回転に対応して絞り位置に移動する際の羽根40の移動量よりも大きい。絞り装置1においては駆動リング60の停止位置が本来の位置からずれた場合、絞り位置より退避位置の方が羽根40の移動量が大きくなるように構成されている。ここで、図2に示すように、退避位置において羽根40は開口51から十分に余裕をもった距離を有して退避している。したがって、駆動リング60の停止位置ずれによる絞り精度の影響を最小限に抑えることができる。
【0054】
図2、図3に示すように、従動ピン66と伝達部材20の回転支点である支軸83との距離D2は、羽根40が絞り位置にある場合よりも退避位置にある場合の方が短い。上述したように、退避位置へ移動する際の羽根の移動量は大きいので、駆動リング60及び伝達部材20は、羽根40を退避位置へ移動させる際に負荷がかかる。しかしながら、従動ピン66と伝達部材20の回転支点である支軸83との距離は、羽根40が退避位置にある場合は短くなる。従動ピン66と伝達部材20の回転支点との距離が短いほど、伝達部材20は少ないトルクで駆動リング60を駆動させることができる。これにより、複数の羽根40をスムーズに退避位置へと移動させることができる。
【0055】
次に、カム溝26内での従動ピン66の往復動について説明する。図5A、5B、6A、6Bは、カム溝26内での従動ピン66の往復動の説明図である。図5A、5Bは、従動ピン66がカム溝26の一端に当接した状態を示しており、図6A、6Bは、従動ピン66が23の一端から離れた状態を示している。図5B、6Bは、それぞれ図5A,図6Aの従動ピン66周辺の拡大図である。
【0056】
図6A、6Bは、羽根40が開口51の中心Cから最も離れた状態を示している。図5A、5Bは、羽根40が開口51の中心Cから最も離れる直前の状態を示している。図5A、5Bに示した状態から伝達部材20が更に反時計方向に移動することにより、駆動リング60が時計方向に移動して、図6A、6Bに示した状態に移行する。即ち、図5A、5B、6A、6Bは、羽根40が絞り位置から退避位置へと移行する途中の状態を示している。
【0057】
図5A、5Bに示すように、羽根40が開口51から完全に退避する直前で、従動ピン66はカム溝26の一端26aに当接する。ここで、開口51の中心Cと支軸83とを結ぶ仮想線をLとする。図5Bに示すように、この状態では仮想線Lは従動ピン66の中心を略通過している。図5A,5Bに示した状態から、さらにロータ72が回転し伝達部材20が反時計方向に回転することにより駆動リング60は図6Bに示すように時計方向CDへと回転する。図6Bに示すように、従動ピン66は時計方向CDへと回転して、羽根40は開口51の中心Cから最も離れた状態となる。この際に、従動ピン66は、一端26aから距離CRだけ離れてカム溝26の他端側へと移動する。
【0058】
このように、従動ピン66は、駆動リング60が時計方向CDへ回転している間に、カム溝26の他端から一端26aへ移動して一端26aに当接して、再びカム溝26の他端側へと移動する。従動ピン66がカム溝26の一部分を往復することにより、カム溝26の全体の長さが長くなることを防止している。従って、伝達部材20の小型化が達成されている。これにより、絞り装置1全体も小型化が達成されている。
【0059】
以上本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0060】
10、80 シャッタ基板
11、31、51、81 開口
20 伝達部材
24 従動歯部
26 カム溝
40 羽根
44 カム溝
60 駆動リング
64 駆動ピン
66 従動ピン
70 ステップモータ
72 ロータ
90 減速機構
AC モータ室
SC 羽根室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口を有した基板と、
歯部を有し、所定のステップ角毎に回転、停止可能なステップモータと、
前記歯部と噛合う従動歯部を有し、前記歯部の動力を受けて回転、停止可能な伝達部材と、
前記伝達部材の動力を受けて回転、停止可能な駆動リングと、
前記駆動リングの動力を受けて前記開口から退避した退避位置又は前記開口の少なくとも一部を覆う絞り位置に停止可能な羽根と、を備え、
前記駆動リングは、従動ピンを有し、
前記伝達部材は、前記従動ピンと係合するカム溝を有し、
前記伝達部材の回転量と前記駆動リングとの回転量との関係は非線形である、ことを特徴とする絞り装置。
【請求項2】
前記開口の口径が最小となる最小絞り時での前記駆動リングの最小絞り停止位置と前記最小絞り停止位置に隣接した停止可能位置との間隔は、前記最小絞り時以外での前記駆動リングの隣接する停止可能位置の間隔よりも大きい、ことを特徴とする請求項1に記載の絞り装置。
【請求項3】
前記駆動リングの停止可能位置の間隔は、前記羽根が退避位置から前記絞り位置へ移動するように前記駆動リングが移動するにつれて大きくなる、ことを特徴とする請求項2に記載の絞り装置。
【請求項4】
前記駆動ピンと前記羽根の回転支点との距離は、前記羽根が前記退避位置にある場合よりも前記絞り位置にある場合の方が長い、ことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の絞り装置。
【請求項5】
前記従動ピンと前記伝達部材の回転支点との距離は、前記羽根が前記絞り位置にある場合よりも前記退避位置にある場合の方が短い、ことを特徴とする請求項4に記載の絞り装置。
【請求項6】
前記従動ピンは、前記駆動リングが所定方向に回転している間に前記カム溝の一部分を往復する、ことを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の絞り装置。
【請求項7】
前記従動ピンは、前記羽根が前記絞り位置から前記退避位置へ移動するように前記駆動リングが回転している間に前記カム溝の一部分を往復する、ことを特徴とする請求項6に記載の絞り装置。
【請求項8】
前記従動ピンは、前記駆動リングが所定方向に回転している間に前記カム溝の一端に当接してその後に前記一端から離れる、ことを特徴とする請求項6に記載の絞り装置。
【請求項9】
前記伝達部材は、可撓性を有している、ことを特徴とする請求項1乃至8の何れかの絞り装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−107584(P2011−107584A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−264949(P2009−264949)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(396004981)セイコープレシジョン株式会社 (481)
【Fターム(参考)】