説明

絞り装置

【課題】 絞り羽根の開閉動作時にピンとカム溝とのガタをなくして、スムーズに絞り羽根を駆動できる絞り装置を提供する。
【解決手段】 絞り装置1は、スライドピン12が植設された絞り羽根10、スライドピン12を案内するカム溝45を有するカムプレート40、及び、スライドピン12を付勢する線バネ50を具備する。線バネ50は、絞り羽根10のスライドピン12の光路開口側の面に当接摺動し、同ピン12をカム溝45の縁に向けて付勢して同ピンとカム溝との間のガタをなくすので、絞り羽根10のスムーズな開閉動作が可能となる。また、絞り羽根10の開限位置においては、線バネ50が付勢力を有しない自由姿勢となって、バネ50とスライドピン12間にスキマが開いている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンパクトデジタルカメラや一眼レフカメラなどの光学機器の絞り装置に関する。特には、動画撮影時に、被写体の明るさの変化に追随してスムーズに開閉できる絞り装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の絞り装置には、複数の絞り羽根を、光軸を中心に回転する環状の風車で駆動して光路開口を開閉するタイプのものがある。各絞り羽根あるいは地板にピンを植設し、地板あるいは各絞り羽根に各ピンが係合するカム溝を形成し、各絞り羽根を風車で回動することにより各ピンが各カム溝の縁で押され、各絞り羽根が回動支点を中心として回動して光路開口を開閉する。
【0003】
このようにカム溝をスライドするピンを有するタイプの絞り装置においては、ピンとカム溝との間にクリアランスがあると、絞り羽根の動きにガタ(段ともいう)が生じ、スムーズな光量調整が困難となる。特に、動画撮影において、光路開口を閉じる場合にガタが生じると、光量の急激な変化が撮影される画像の明るさ変化に顕著に表れ、違和感を与える動画となる。ピンとカム溝との間のクリアランスを機械的になくすことは可能であるが、温度や湿度の変化などに対応させるためには、若干のクリアランスを持たせるように設計されている。
【0004】
このようにガタを含みつつ絞り羽根の駆動をスムーズに行うための対策として、板バネで絞り羽根の羽根本体を付勢して、スライドピンをカム溝の縁に付勢した絞り装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この装置の場合、板バネはある程度の幅をもつ必要がある。すると、バネ定数が高くなってしまい、付勢力の変動が大きくなるので好ましくない。また、羽根本体が樹脂製の場合は、羽根本体を付勢すると羽根本体がたわんで変形するなどの問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−265973号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであって、絞り羽根の開閉動作時にピンとカム溝とのガタをなくして、スムーズに絞り羽根を駆動できる絞り装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様の絞り装置は、 光路の開口を絞る羽根本体、及び、スライドピン、を有し、光路の開口を絞る絞り羽根と、 前記スライドピンを案内するカム溝を有するカムプレートと、を具備する絞り装置であって、 さらに、前記スライドピンを付勢する線バネを具備し、 前記絞り羽根の開限位置においては、前記線バネが付勢力を有しない自由姿勢となって、該バネと前記スライドピン間にスキマが開くことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、線バネで絞り羽根のスライドピンをカム溝の縁に向けて付勢して同ピンとカム溝との間のガタをなくすので、絞り羽根のスムーズな開閉動作が可能となる。すなわち、開限位置以外、特に絞りの敏感な開口閉近辺の位置で常に線バネから絞り羽根に与圧がかかった状態であるので、スライドピンの急激な移動が起こりにくく、スムーズに開口を開閉することができる。このように、開閉方向性のヒステリシスやカメラにかかる重力・慣性力変化による絞りの急激な変化がなくなり、特に一眼レフカメラの動画・連射撮影時の絞り性能が向上する。なお、絞り開限においては絞り羽根にかかる付勢力(与圧)はゼロであり絞り羽根がふらつくが、開限ではそれほど高度な絞り性能は要求されないので、特に問題は起こらない。あるいは開限の光路開口は絞り羽根によらず、地板やカバー等の固定開口で決めても良い。
なお、絞り開限においては絞り羽根に係る付勢力がゼロであるが、絞り羽根を回動させればスライドピンが線バネに当接するので、開限から離れれば自動的に線バネが絞り羽根を付勢する。絞り羽根の付勢力がゼロである範囲は、開限近くの10%程度以下の範囲が好ましい。
【0009】
この態様の絞り装置においては、絞り開限時には、線バネも付勢力を有しない自由姿勢である。すなわち、開限位置において線バネの与圧がゼロであり、かつ、バネ−ピン間にクリアランスがある。したがって、組み立て時には、絞り羽根を一方の地板の開限の所定位置に置いた後に、線バネをもう一方の地板に置けばよい(逆の順序でもよい)。あるいは、バネをフリーな姿勢で組み込んだ部品(地板、カムプレート、カバーなど)と、絞り羽根を開限位置で組み込んだ部品とを組み立てれば、バネと絞り羽根とが開限の形態で自動的に組み立てられる。つまり、線バネを人為的に変形させることなく絞り羽根の組み込みができる。線バネが細いものである場合、組立時にできるだけ線バネに触れないで済ませることが、線バネの永久変形やバネ特性変化を避けることができるため好ましい。また、組立工程の工数減にもなる。
【0010】
これに対して、開限位置でも線バネがピンに当たっていると、組み立て時に線バネを変形させる作業が必要になり、神経を使う作業となるとともに、上述のようなバネの損傷の懸念がある。
【0011】
さらに、バネは絞り羽根のスライドピンを付勢しているので、絞り羽根の羽根本体を付勢する場合に生じる羽根本体(光路遮蔽のフィルム部)の変形などの問題がない。また、羽根本体を付勢する場合には、ある程度の幅のある、バネ定数の比較的高い板バネを使用する必要があったが(線バネだとフィルム状の絞り羽根本体の側辺にうまく当たらないため)、本発明では線バネを使用するので、バネ定数を低くでき、付勢力及びその変動を小さくすることができる。
【0012】
なお、絞り羽根の開閉駆動機構としては、複数の絞り羽根のピンを風車を介して回動させる方式の他に、風車を用いず、カムプレートを回動させるタイプもある。また、絞り羽根の開閉駆動機構を、モータ等のアクチュエータを用いない手動絞りのタイプとすることもできる。
【0013】
本発明の第2の態様の絞り装置は、 光路の開口を絞る羽根本体、及び、スライドピン、を有し、光路の開口を絞る絞り羽根と、 前記スライドピンを案内するカム溝を有するカムプレートと、を具備する絞り装置であって、 さらに、前記スライドピンを付勢する線バネを具備し、 該線バネが、前記スライドピンの前記光路中心寄りの面に当接摺動し、該スライドピンを前記光路の外方向に付勢することを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、線バネがスライドピンの光路開口側の面に当接摺動して、同ピンを外方向(光路開口中心方向と逆の方向)に付勢する。すなわち、線バネの作動領域は、絞り装置の外周付近ではなく、光路開口寄りの部分となる。つまり、絞り装置の外周付近は線バネの作動に干渉しない領域であるので、絞り装置の外周付近に、絞り装置とレンズ鏡筒などとの係合部や他の部品の取付け部を配置できる。
【0015】
これに対して、線バネを絞り羽根の外側に配置して、絞り羽根を内方向(光路開口中心方向)に付勢する場合、絞り装置の外周近辺に線バネが存在することになる。すると、線バネの動きとの干渉が問題となって、絞り装置とレンズ鏡筒などとの係合部や他の部品の取付け部の配置に制限が加わる。すなわち、本発明のように、線バネを光路開口側の面に当接摺動させて光路開口外方向に付勢することは、レンズ鏡筒と絞り装置のスペース設定(開口径の拡大、絞り装置の外径拡縮など)の自由度が増すことになる。
【0016】
この態様においては、 前記絞り羽根が開限近傍以外の位置にあるときは、前記線バネが、前記スライドピンの前記光路中心寄りの面に当接摺動し、該スライドピンを前記光路外方向に付勢することが好ましい。
【0017】
本発明によれば、特に、線バネがスライドピンの光路開口側の面に当接摺動するので、ピンが外側位置に来る開限において線バネが自由姿勢となり、開限時のバネ−ピン間のスキマ開けを実現しやすい。
【0018】
以上の態様においては、 前記線バネが、スパライル巻き重ね部、該スパイラル巻き重ね部の一端に接続された引っ掛けアーム及び他端に接続されたスライドピン当接アームを有し、 前記カムプレートにバネ支点ボス及びバネ引っ掛けボスが立設されており、 前記線バネの前記スパイラル巻き重ね部が、前記カムプレートの前記バネ支点ボスに嵌合し、前記引っ掛けアームが前記バネ引っ掛けボスに係合することが好ましい。
【0019】
本発明によれば、カムプレートのバネ支点ボスに、線バネのスパライル巻き重ね部を嵌合させ、バネ引っ掛けボスに引っ掛けアームを係合させるだけで簡単に線バネをカムプレートにセットできる。
【0020】
本発明の第3の態様の絞り装置は、 光路の開口を絞る羽根本体、及び、スライドピン、を有し、光路の開口を絞る絞り羽根と、 前記スライドピンを案内するカム溝を有するカムプレートと、を具備する絞り装置であって、 さらに、前記スライドピンを付勢する線バネを具備し、 該線バネの径が0.2mm以下であることを特徴とする。
【0021】
線バネのバネ定数が低い方が、スライドピンの付勢力が小さいので、絞り羽根回動アクチュエータの出力が小さくかつ安定する。
【0022】
本発明の第1の態様及び第2の態様においては、 前記線バネの径が0.2mm以下であることが好ましい。線バネの径は、好ましくは0.15mm以下、さらに好ましくは0.1mm以下である。バネの材料は、好ましくはステンレス線、硬銅線、伸銅線などであるが、その他のバネ材料も適用可能である。
【0023】
また、 前記線バネのバネ定数が0.01〜2.20gf・mm/degであることが好ましい。線バネのバネ定数は、好ましくは0.02〜0.15gf・mm/deg、より好ましくは0.05〜0.10gf・mm/degである。
【0024】
さらに、 前記線バネの付勢力が0.10〜25gf・mmであることが好ましい。線バネの付勢力は、好ましくは0.25〜1.50gf・mm、より好ましくは0.40〜1.30gf・mmである。
【0025】
さらに、 前記線バネのスパライル巻き重ね部の巻き数が1〜6回であることが好ましい。巻き数は、好ましくは1〜5回、より好ましくは1〜3回である。線バネのスパイラル巻き重ね部の巻き数は、多いほどバネ定数が小さくなる一方、バネの厚さが厚くなる。細線のバネを用いることで厚さの増加を抑えつつ、巻き数を多くしてバネ定数を小さくすることが好ましい。
【0026】
線バネの線径・バネ定数・付勢力・スパイラル巻き重ね部の巻き数などの設定、並びに、駆動モータ・減速機の諸元の設定の基本的な考え方の例を以下に説明する。
線バネの各諸元は以下の条件を満足する必要がある。
(A)絞り羽根にかかる自重及び慣性のモーメントに、必要十分に対抗できる付勢力を有する線バネを選定する。
(B)モータ起動性を実用範囲を超えて劣化させない。
(C)要求スペース内に収める。
これらの条件から以下のように設定する。
(1)要求スペース内にモータ、絞り羽根などの各部品を配置した上で、残された制限空間内に線バネを配置するので、これから線バネの形状は、ほぼ決まってくる。また、絞り羽根の寸法・重量も、ほぼ決定されている。
(2)線バネを上記(1)に基づいて設計した基本形状として、モーメント計算・線バネの他の諸元決定を行う。なお、線バネの付勢力がゼロとなる位置は、閉限から開眼に至る絞り羽根の回動ストロークのうち、開限寄りの5%〜25%(ピンのストロークで)の位置が、例えば10%程度が好ましい。そして、閉限の位置において、絞り羽根の回動支点ピン回りの重力モーメント/付勢力モーメント:1/2〜1/650の範囲とすることが好ましい。同モーメント比は、より好ましく1/10〜1/100、最も好ましくは1/20〜1/50である。なお、「絞り羽根の回動支点ピン回りの重力モーメント」とは、「絞り羽根1枚の重量×回動支点ピンと羽根重心との距離」である。「付勢力モーメント」とは、「線バネ付勢力×回動支点ピンとスライドピンとの距離である。
(3)絞り羽根の重量+バネ付勢力の3倍以上のトルクを目標として、モータ及び減速機が出力出来うるかを計算する。
(4)上記(2)又は(3)の計算において目標に達しない場合は、(1)又は(2)に戻って再検討する。
【発明の効果】
【0027】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、線バネで絞り羽根のスライドピンをカム溝の縁に向けて付勢して同ピンとカム溝との間のガタをなくするので、絞り羽根のスムーズな開閉動作が可能となる。さらに、絞り開限においては絞り羽根にかかる付勢力(与圧)をゼロ、すなわち線バネも付勢力を有しない自由姿勢とすれば、線バネと絞り羽根とを独立して組み込むことができ、線バネの好ましくない永久変形やバネ特性変化を避けることができる。また、組立工程の工数を減らすこともできる。
【0028】
さらに、バネ定数の比較的低い細線線バネを使用すれば、付勢力の変動を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施の形態に係る絞り装置を説明する図であり、図1(A)は全開時の平面図、図1(B)は全閉時の平面図である(カバーは省略されている)。
【図2】図1(A)、図1(B)の一部を拡大した図である。
【図3】図1の絞り装置の分解斜視図である。
【図4】図1の絞り装置の地板Bの平面図である。
【図5】図1の絞り装置の線バネの図であり、図5(A)は線バネの平面図、図5(B)は線バネを地板Bに収容した状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
まず、図3を参照して、本発明の実施の形態に係る絞り装置の構成を説明する。図3は、本発明の絞り装置の分解斜視図である。
絞り装置1は、光路開口を絞る複数(この例では7枚、図1には1枚のみ図示)の絞り羽根10と、光軸OAを中心に回転して絞り羽根10を回動させる風車20と、光路開口が形成された地板A30及び地板B(カムプレート)40と、各絞り羽根10を付勢する線バネ50と、線バネ50を保持するカバー60と、を備える。
【0031】
まず、各部品について説明する。
絞り羽根10は全て同一形状であり、羽根本体11と、羽根本体11に植設されたスライドピン12を備える。羽根本体11は、例えば、遮光能力のあるコーティングを施した樹脂フィルム(一例でポリエステルフィルム)で作製される。羽根本体11は略半円状で、内周部には円弧状の絞り形成縁11aが形成されている。各羽根部材10の絞り形成縁11aによって光軸OAを中心とする光路が形成される。スライドピン12は、各羽根本体11の一面の端部に植設されている。各羽根本体11の反対側の面には、絞り羽根10の回動支点ピン15が植設されている。
【0032】
風車20はリング状の薄い部材である。風車20には、絞り羽根10の枚数と同じ数(この例では7個)の孔21が等間隔で開けられている。各孔21に絞り羽根10の回動支点ピン15が嵌合し、各絞り羽根10が孔21の周囲を回動可能となる。
また、風車20の外周の一部には外方向に張り出す突部23が形成されている。この突部23は風車20の位置決め用のものである。さらに、外周の一部にはラック25が形成されている。このラック25は、後述するように地板A30に取り付けられたモータ35の回転軸に固定されたピニオン36と噛み合う。モータ35の回転によって風車20は光軸OAを中心として回転する。
【0033】
地板A30及び地板B40はほぼ同じ中空円板状であり、中心には光路開口31及び41が形成されている。絞り羽根10及び風車20は、地板A30と地板Bの間に支持される。
地板A30の一面の光路開口31の周囲は、絞り羽根10及び風車20が載置される凹部33となっている。地板A30の反対側の面にはモータ35が取り付けられている。モータ35の回転軸は地板A30を貫通して凹部33に突き出ている。この突き出た回転軸に、風車20のラック25と噛み合うピニオン36が固定されている。
【0034】
地板B40(カムプレート)について図4も参照して説明する。
地板B40の一面(地板A30と反対側の面)の光路開口41の周囲は、後述する線バネ50が収容される凹部43となっている。この凹部43には、絞り羽根10の枚数と同じ数(この例では7個)のカム溝45が形成されている。カム溝45は同じ形状であり、地板B40の外側から内側へ向かって斜めに形成されている。このカム溝45に、絞り羽根10のスライドピン12が係合する。凹部43の、各カム溝45の側方には、バネ支点ボス47が立設されている。さらに、各バネ支点ボス47の、カム溝45と反対方向の側方には、バネ引っ掛けボス48が立設されている。
【0035】
地板A30及び地板B40の、各凹部33、43の外側の部分には、レンズ鏡筒などとの係合部や他の部品(制御用電子部品PIなど)の取付け部である突起や凹部、孔、切り欠きなどが形成されている。
【0036】
線バネ50について図5も参照して説明する。図5(A)は、線バネの平面図、図5(B)は、線バネを地板Bにセットした状態を示す図である。
線バネ50はトーションバネであって、図5(A)に示すように、スパライル巻き重ね部51と、スパイラル巻き重ね部51の一端に接続された引っ掛けアーム52と、他端に接続されたスライドピン当接アーム53とを有する。引っ掛けアーム52の先端52aはU字型に折り返されている。この例では、自由姿勢での両アーム52、53間の角度は115.87°(設計値)である。
【0037】
線バネ50の材料は、好ましくはステンレス線、硬銅線、伸銅線などであり、バネ定数が低い方が好ましい。これは、バネ定数が低い方が絞り羽根10のピン12の付勢力の変動が小さいためである。バネ定数は、0.01〜2.20gf・mm/deg、好ましくは、0.02〜0.15gf・mm/deg、より好ましくは0.04〜0.10gf・mm/degであり、以下のいずれかの条件を満足するように選定される。
(1)線バネの径が0.2mm以下、好ましくは0.15mm以下、さらに好ましくは0.1mm以下である。線径が細いほどバネの厚さを薄くできるので好ましい。
(2)線バネの付勢力モーメントが0.10〜25gf・mm、好ましくは0.25〜1.50gf・mm、より好ましくは0.40〜1.30gf・mmである。
(3)線バネのスパライル巻き重ね部の巻き数が1〜6回、好ましくは1〜5回、より好ましくは1〜3回である。なお、巻き重ね部の高さはできるだけ低いことが、絞り装置を薄くできるため好ましい。
ただし、バネ定数は、絞り装置の光路開口の径や絞り羽根の形状・重量・枚数や絞り装置の外径などによって変わるが、できるだけ低いように選定する。なお、羽根の枚数によって、バネの腕長さが変わってくる。
後ほど、各諸元の設定例について説明する。
【0038】
図5(B)に示すように、線バネ50は、スパイラル巻き重ね部51が、地板B40の凹部43に立設されたバネ支点ボス47にはめ込まれ、引っ掛けアーム52の先端の折り返し部52aがバネ引っ掛けボス48に引っ掛けられて装着される。実際に組み付ける際は、例えば、線バネ50のスライドピン当接アーム53や引っ掛けアーム52の直線状の一部分をピンセット等でつまんで、巻き重ね部51をバネ支点ボス47に合わせ、かつ、折り返し部52aをバネ引っ掛けボス48に合わせて、線バネ50を落下させればよい。直線状のアーム52、53の一点をつまめば、線バネ50に曲げ力がかからないので、線バネ50の自然姿勢で地板B40に装着できる。この際、バネ支点ボス47と線バネ50のスパイラル巻き重ね部51とのクリアランスを0.1mm程度としておけば、線バネ50を落下させるだけで巻き重ね部51をバネ支点ボス47にはめ込むことができる。この姿勢で、スライドピン当接アーム53は、カム溝45を横切って(カム溝45の外端と内端の間を通って)カム溝45の内端を超えて延びる。
【0039】
カバー60は、薄いリング状の部材で、地板B40の凹部43を塞いで、線バネ50を凹部43に保持するものである。カバー60には、地板B40のカム溝45と同じ位置に同溝と同じ形状の溝が形成されている。さらに、地板B40に立設している各バネ支点ボス47とバネ引っ掛けボス48が貫通する孔が開けられている。
【0040】
図1、図2を参照して、この絞り装置1の光路開口開閉動作について説明する。各図(A)は、全開時、各図(B)は全閉時を示す。各図においてカバー60は省略されている。
図1(A)、図2(A)に示す絞り全開時においては、全ての絞り羽根10の絞り形成縁11aは地板A30及び地板B40の光路開口31、41のやや外側に位置して、光路開口31、41は全開となっている。そして、図2(A)に拡大して示すように、各絞り羽根10のスライドピン12は、地板B40のカム溝45の外端に位置している。このとき、線バネ50のスライドピン当接アーム53は、スライドピン12の内側(光路開口側)に位置しており、同アーム53とスライドピン12とは接触せずスキマCが開いている。つまり、線バネ50は負荷がかかっていない自然姿勢であり、スライドピン12にも与圧がかかっていない状態となっている。
【0041】
また、風車20のラック25には、モータ35の出力軸に固定されたピニオン36が噛み合っている。モータ35が駆動されてピニオン36が回転すると、ラック25を介して風車20が光軸OAを中心として図1の時計方向に回転し始める。
【0042】
風車20の回転とともに、風車20に回動可能に支持されている絞り羽根10も、風車20と同方向に移動する。絞り羽根10のスライドピン12も、図2(A)の矢印に示すように風車20と同方向に移動するが、カム溝45の外側の縁に押されるので、スライドピン12はカム溝45の外端から同溝45に沿って進み出す。すると、絞り羽根10は支点ピン15を中心として図の反時計方向に旋回し始める。絞り羽根10がさらに回動すると、スライドピン12はカム溝45の外縁に押され続けて、絞り羽根10が図の反時計方向に旋回し続ける。これにより、図1(B)、図2(B)に示すように、各絞り羽根10が地板A30及び地板B40の光路開口31、41を塞ぐように侵入する。
【0043】
次に、光路開口開閉動作に伴う線バネ50の作用を図2を参照して説明する。
図2(A)に示すように、全開時においては、各絞り羽根10のスライドピン12は、地板B40のカム溝45の外端に位置している。そして、スライドピン12は、線バネ50のスライドピン当接アーム53の外側(光路開口と反対側)に位置して、同アーム53に接触していない。つまり、スライドピン12には線バネ50から与圧がかかっていない。スライドピン12とカム溝45とは両者間に多少のクリアランスを持つように設計されているので、自然状態においては絞り羽根10は多少ふらつくが、全開時では高度な絞り性能要求されないので、特に問題は起こらない
【0044】
光路開口閉時に風車20が回転して絞り羽根10が図の時計方向に回動すると、前述のように、スライドピン12はカム溝45に沿って進む。すると、スライドピン12の進行方向に線バネ50のスライドピン当接アーム53が存在するので、やがて、スライドピン12がスライドピン当接アーム53の外側に当接する。さらにスライドピン12がカム溝45内を進行すると、スライドピン12は自動的に線バネ50のスライドピン当接アーム53を内方向(光路開口側)に押す。言い換えると、スライドピン12には、スライドピン当接アーム53から外方向(光路開口と反対側)への圧力がかかって、カム溝45の外縁に押し付けられる。このように、スライドピン12は、スライドピン当接アーム53でカム溝45の外縁に押し付けられた状態、すなわち、カム溝45とのクリアランス(ガタ)のない状態でカム溝45内を進行する。スライドピン当接アーム53は、カム溝45の内端を超えて延びているので、スライドピン12がカム溝45の内端に達するまで(光路開口全閉まで)、スライドピン12は同アーム53の反力を受ける。
【0045】
なお、光路を開く際は、モータ35を逆回転させて、風車20を反対方向に回動させる。この場合も、絞り羽根10のスライドピン12は、線バネ50のスライドピン当接アーム53から外方向への反力を受け続けているので、スライドピン12はカム溝45とのガタのない状態でカム溝45内を外方向に進行する。
【0046】
このように、絞り開閉時に線バネ50でスライドピン12をカム溝45の縁に向けて付勢して同ピン12とカム溝45との間のガタをなくすので、絞り羽根10のスムーズな開閉動作が可能となる。特に、光路開口を絞る際にも常に線バネ50から絞り羽根10に与圧がかかった状態であるので、スライドピン12(絞り羽根10)の急激な移動が起こりにくい。特に、線バネ50のバネ定数が小さいので、付勢力の変動を小さくできる。これらのことにより、開閉方向性のヒステリシスやカメラにかかる重力・慣性力変化による絞りの変化がなくなり、一眼レフカメラの動画・連射撮影時の絞り性能が向上する。
【0047】
また、一眼レフカメラの絞り装置においては、今後、絞り装置の外径は小さく、かつ、光路開口径を大きくする傾向が一層増すと予想される。この場合、樹脂製の絞り羽根に樹脂製のスライドピン(羽根本体が金属製の場合はステンレス製のスライドピン)を植設する構成が主流となる。本発明では、絞り羽根が樹脂製の場合であっても、絞り羽根10のスライドピン12に与圧をかけるので、羽根本体11の変形などが生じない。
【0048】
さらに、本発明の絞り装置は以下の利点を有する。
(1)全開時には、絞り羽根10にかかる付勢力(与圧)はゼロであり、線バネ50が自由姿勢であるので、絞り羽根10と線バネ50とを独立して組み込むことができる。具体的には、絞り羽根10を、地板A30の凹部33に設置した風車20に対して全開状態となるように置き、その後、線バネ50を地板B40の所定位置に置けばよい。あるいは、その逆の順序でもよい。線バネ50は細く変形しやすいので、組立時にできるだけ触れないで済ませることが好ましいが、本発明では、線バネ50を人為的に変形させることなく絞り羽根10の組み込みができる。このため、線バネ50の好ましくない永久変形や、バネ特性変化を避けることができる。また、組立工程の工数減にもなる。
【0049】
(2)線バネ50のスライドピン当接アーム53がスライドピン12の光路開口側の面に当接摺動する。すなわち、線バネ50は、地板B40の比較的光路開口側に存在する。このため、線バネ50の作動領域は、地板B40の比較的中心寄り(光路開口側)の部分となり、地板A及びB30、40の外周部は線バネ50の作動領域と干渉しない。したがって、この外周部にレンズ鏡筒などとの係合部や他の部品の取付け部を配置できる。これにより、レンズ鏡筒と絞り装置のスペース設定(開口径の拡大、絞り装置の外径拡縮など)の自由度が増す。
【0050】
なお、本発明では、絞り羽根の開閉機構として、絞り羽根にスライドピンを植設し、地板Bにカム溝を形成し、絞り羽根を風車で回動させる機構としたが、絞り羽根にスライドピンを植設することを前提とすれば、様々な機構を使用可能である。例えば、風車にカム溝を設けて、絞り羽根を回動させることとしてもよい。なお、本発明の絞り羽根の開閉駆動機構は、モータ等のアクチュエータを用いない手動絞りのタイプとすることもできる。
【0051】
また、本発明では、絞り羽根の枚数を7枚としたが、他の枚数でも可能である。羽根の枚数が多いほど線バネのスライドピン当接アームの長さを短くできるので、線バネの加工精度が向上し、組み込み時や取り扱い時の変形も少ないので好ましい。
【実施例】
【0052】
本発明の絞り装置の各諸元の一例を説明する。
(1)絞り装置
開口径:φ16.0mm、
絞り装置外径f38.0mm。
(2)線バネ
線径:0.1mm、
材質:ステンレス、
バネ定数:0.041gf・mm/deg、
付勢力モーメント:0.46gf・mm(全閉時)、
スパイラル巻き重ね部の巻き数:5.18回。
(3)絞り羽根
重量:0.005g、
スライドピンと回動支点ピン間距離:4.18mm、
回動支点と光路開口中心間の距離:11.29mm。
【0053】
(4)その他
絞り羽根の回動支点ピン回りの重力モーメント/閉限の位置における線バネのスライドピンにかかる付勢力モーメント:0.02/0.46=1/23。なお、このモーメント比は1/2〜1/650の範囲とすることが好ましい。
開限における線バネと絞り羽根とのスキマ:0・1mm。このスキマは、0.05〜1mmが好ましい。
線バネの付勢力がゼロとなる位置:閉限から開眼に至る絞り羽根の回動ストロークのうち、開限寄りの10%程度の位置。この値は、5%〜25%が好ましい。
【符号の説明】
【0054】
1 絞り装置
10 絞り羽根 11 羽根本体
12 スライドピン 15 回動支点ピン
20 風車 21 孔
23 突部 25 ラック
30 地板A 31 開口
33 凹部 35 モータ
36 ピニオン
40 地板B(カムプレート) 41 開口
43 凹部 45 カム溝
47 バネ支点ボス 48 バネ引っ掛けボス
50 線バネ 51 スパイラル巻き重ね部
52 引っ掛けアーム 53 スライドピン当接アーム
60 カバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光路の開口を絞る羽根本体、及び、スライドピン、を有し、光路の開口を絞る絞り羽根と、
前記スライドピンを案内するカム溝を有するカムプレートと、
を具備する絞り装置であって、
さらに、前記スライドピンを付勢する線バネを具備し、
前記絞り羽根の開限位置においては、前記線バネが付勢力を有しない自由姿勢となって、該バネと前記スライドピン間にスキマが開くことを特徴とする絞り装置。
【請求項2】
光路の開口を絞る羽根本体、及び、スライドピン、を有し、光路の開口を絞る絞り羽根と、
前記スライドピンを案内するカム溝を有するカムプレートと、
を具備する絞り装置であって、
さらに、前記スライドピンを付勢する線バネを具備し、
該線バネが、前記スライドピンの前記光路中心寄りの面に当接摺動し、該スライドピンを前記光路の外方向に付勢することを特徴とする絞り装置。
【請求項3】
前記絞り羽根が開限近傍以外の位置にあるときは、前記線バネが、前記スライドピンの前記光路中心寄りの面に当接摺動し、該スライドピンを前記光路外方向に付勢することを特徴とする請求項1記載の絞り装置。
【請求項4】
前記線バネが、スパライル巻き重ね部、該スパイラル巻き重ね部の一端に接続された引っ掛けアーム及び他端に接続されたスライドピン当接アームを有し、
前記カムプレートにバネ支点ボス及びバネ引っ掛けボスが立設されており、
前記線バネの前記スパイラル巻き重ね部が、前記カムプレートの前記バネ支点ボスに嵌合し、前記引っ掛けアームが前記バネ引っ掛けボスに係合することを特徴とする請求項1、2又は3に記載の絞り装置。
【請求項5】
光路の開口を絞る羽根本体、及び、スライドピン、を有し、光路の開口を絞る絞り羽根と、
前記スライドピンを案内するカム溝を有するカムプレートと、
を具備する絞り装置であって、
さらに、前記スライドピンを付勢する線バネを具備し、
該線バネの径が0.2mm以下であることを特徴とする絞り装置。
【請求項6】
前記線バネの径が0.2mm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の絞り装置。
【請求項7】
前記線バネのバネ定数が0.01〜2.20gf・mm/degであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に絞り装置。
【請求項8】
前記線バネの付勢力モーメントが0.10〜25gf・mmであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の絞り装置。
【請求項9】
前記線バネのスパライル巻き重ね部の巻き数が1〜6回であることを特徴とする請求項4、6〜8のいずれか1項に記載の絞り装置。
【請求項10】
前記絞り羽根の回動支点ピン回りの重力モーメント/閉限の位置における線バネのスライドピンにかかる付勢力モーメントの比が、1/2〜1/650であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の絞り装置。
【請求項11】
開限における前記線バネと前記絞り羽根とのスキマが、0.05〜1.0mmであることを特徴とする請求項1、3〜10のいずれか1項に記載の絞り装置。
【請求項12】
前記線バネの付勢力がゼロとなる位置が、閉限から開眼に至る絞り羽根の回動ストロークのうち、開限寄りの5%〜25%の位置であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の絞り装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−168237(P2012−168237A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26969(P2011−26969)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(593137554)株式会社東京マイクロ (23)
【Fターム(参考)】