説明

絶縁処理を施した金属エッチング製品の製造方法および絶縁処理を施した金属エッチング製品

【課題】 絶縁信頼性の高い金属エッチング製品を、容易かつ安価に製造することが可能な絶縁処理を施した金属エッチング製品の製造方法および絶縁処理を施した金属エッチング製品を提供する。
【解決手段】 本発明の絶縁処理を施した金属エッチング製品の製造方法は、金属基板12の表面に、ウエットエッチング法を用いて隔壁11を形成し、次いで、この金属基板12の表面全体にスプレーコーティング法を用いて絶縁層13を形成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマディスプレイパネル(PDP)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)等のフラットパネルディスプレイ用部材に好適に用いられる絶縁信頼性の高い金属エッチング製品を、容易かつ安価に製造することが可能な絶縁処理を施した金属エッチング製品の製造方法および絶縁処理を施した金属エッチング製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、プラズマディスプレイパネル(PDP)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)等のフラットパネルディスプレイ用部材として、従来のガラス等の絶縁体に代わり、絶縁処理を施した金属材料が検討されている。
金属材料は、ウエットエッチングによって大面積を一括にて高アスペクト比に加工することができ、特に、板材を用いた場合、厚さ方向の寸法精度が±数μmと安定しているので、例えば、PDPの隔壁やFEDのスペーサー等として利用することができる。また、放熱性に優れているので、電磁波や電気的ノイズのシールドとしての役割をも果たすことが可能である。
【0003】
また、上記の絶縁処理に用いられる絶縁材料としては、パネル組み込み工程中に受ける熱履歴(350〜550℃程度)に対して耐性が必要であり、また十分な絶縁耐圧(500〜1000V程度)を確保する必要があるので、Si、Al等の金属酸化物または金属窒化物、あるいはSiO、Ba0、B、NaO、TiO、Nd等の酸化物を含む高融点ガラス等が用いられる。
この金属材料が適用された製品としては、PDPの隔壁が提案されている(特許文献1)。この隔壁は、従来、背面板となるガラス基板のセルを形成する側の面に、サンドブラスト法によりストライプ状に形成されていたが、金属材料を用いる場合には、金属基板にウエットエッチングで隔壁を微細加工し、この隔壁に絶縁処理を施す。これにより、絶縁性を有する金属性の隔壁を作製することができる。この絶縁処理としては、電着法によってガラスを含む誘電体を形成する絶縁処理方法が用いられる。
【0004】
この他の絶縁処理としては、例えば、スプレー法(特許文献2)、気相成長法(特許文献3)、液相成長法を利用して基板表面に酸化物を形成する方法(特許文献4)、大気開放型の化学気相成長法(CVD法)(特許文献5)、粉体静電塗装によるガラスの成膜方法(特許文献6)等が提案されている。
【特許文献1】特開平03-205738号公報
【特許文献2】特開2000-277021号公報
【特許文献3】特開2004-22403号公報
【特許文献4】特開2004-22404号公報
【特許文献5】特開2003-132802号公報
【特許文献6】特開2001-195978号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の電着法やスプレー法による絶縁処理では、膜形成時に絶縁層中に気泡が発生し残存するために、絶縁性が低下する虞があるという問題点があった。また、焼成時の絶縁層の熱フローによりエッチングで形成されたコーナー部の膜厚が薄くなるために、絶縁性を確保することが困難であるという問題点があった。特に、パターンが高精細な場合には、熱フローした絶縁物で孔が埋まってしまう虞もある。
また、気相成長法による絶縁処理では、絶縁物の成膜速度が遅いために、得られた絶縁層の膜厚が薄く、十分な絶縁耐圧を得ることが困難であるという問題点があった。
【0006】
また、大気開放型のCVDでは、通常の気相成長法とは異なり、減圧プロセスがないため、材料の搬入、搬出が容易で連続成膜が可能であり、また、大型サイズへの展開も比較的容易という優れた点があるものの、成膜時に熱化学反応を促すために金属基板を高温に加熱する必要がある。金属基板を高温に加熱した場合、この基板の表面に黒色の酸化物が生成され、その結果、絶縁膜との密着性が低下し、剥離を起こしたり、あるいはディスプレイ化したときに輝度が低下する等の問題点があった。
【0007】
また、粉体静電塗装では、焼成時にガラスが溶融するために、絶縁膜は緻密化するが、溶融したガラスが表面張力で凝集することにより、コーナー部の絶縁膜の膜厚が薄くなり、耐電圧特性が十分でなくなってしまうという問題点があった。
また、焼成時に粉体と接していない金属板の表面が酸化し、絶縁膜との密着性が確保できないという問題点が生じる。
この様に、従来の絶縁処理では、絶縁性を十分に確保することが難しく、特に、PDPの隔壁を金属材料で形成した場合には、各セルの絶縁性を十分に確保することが難しいために、製品化には至っていない。
【0008】
そこで、上記の各問題点を解決すべく、金属基板の表面にポリシラザンを成膜し、この膜を焼成することにより、絶縁層を形成する方法が提案された。
ここでいうポリシラザンとは、Si−N結合を有するシラザンを基本としかつ有機溶媒に可溶な無機ポリマーであり、このポリシラザンを有機溶媒に溶解した溶液を塗布液とし、この塗布液を大気中、または水蒸気含有雰囲気中にて焼成することにより、塗布液中のポリシラザンが水と反応し、非結晶である緻密な高純度シリカとなる。
【0009】
このポリシラザンは、高純度シリカであるから、1000℃以上の耐熱性と30kV/mm程度の絶縁耐圧を有するが、膜厚を一定の厚み以上とした場合、大気中、350℃から550℃の温度にて焼成する際にクラックが発生するという問題点があった。これは、焼成中に蓄積されるポリシラザン自体の内部応力や金属基材との熱膨張差により発生するものと考えられており、この焼成過程でクラックを発生させないためには、3μm程度の膜厚が限界となる。
例えば、3μmの膜厚となる様にポリシラザンを金属基材上に成膜し、その後大気中にて焼成すると、得られた絶縁膜の絶縁耐圧が実測値で200〜350V程度となり、十分な絶縁耐圧を得ることができない。
【0010】
このような塗布液をコーティングする方法としては、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、ロールコート法等が考えられるが、金属基板の表面が凹凸形状とされているために、ハーフエッチング形状の底面や貫通孔の側面には液だまりが生じ易く、したがって、膜厚が部分的に厚くなり、焼成する際にクラックが発生し易くなるという問題点があった。また、エッチング加工によってできたエッジコーナー部は、塗布液が流れてしまうため、膜が薄くなったり、あるいは下地の金属が露出してしまうという問題点があった。
【0011】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、絶縁信頼性の高い金属エッチング製品を、容易かつ安価に製造することが可能な絶縁処理を施した金属エッチング製品の製造方法および絶縁処理を施した金属エッチング製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、金属基板の凹凸形状に均一に成膜する方法としてスプレー法を用い、十分な絶縁特性を示す絶縁層を形成する材料としてシリコン系材料と粉体の混合物を用い、このシリコン系材料と粉体の混合物を、気体と共にスプレー噴射し、微粒子化して金属表面に塗布した後、大気中、350℃〜550℃の温度にて焼成すれば、絶縁信頼性の高い金属エッチング製品を、容易かつ安価に製造することができることが分かり、本発明に到った。
【0013】
すなわち、本発明の請求項1記載の絶縁処理を施した金属エッチング製品の製造方法は、板状の金属のいずれか一方の面あるいは両面に絶縁処理を施してなる金属エッチング製品の製造方法であって、金属板に、ウエットエッチング法を用いて凹凸形状、貫通孔のいずれか一方、または双方を形成し、次いで、この金属板のいずれか一方の面あるいは両面に、スプレーコーティング法を用いて絶縁処理を施すことを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項2記載の絶縁処理を施した金属エッチング製品の製造方法は、請求項1記載の絶縁処理を施した金属エッチング製品の製造方法において、前記絶縁処理は、絶縁材料を含む塗布液と気体とを同時に噴射して該塗布液を前記金属板のいずれか一方の面あるいは両面に塗布する処理であり、この噴射の際に前記塗布液を前記気体で破砕し微粒子化することを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項3記載の絶縁処理を施した金属エッチング製品の製造方法は、請求項2記載の絶縁処理を施した金属エッチング製品の製造方法において、前記噴射の際の前記塗布液の流量を0.05〜20mL/毎分とすることを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項4記載の絶縁処理を施した金属エッチング製品の製造方法は、請求項2または3記載の絶縁処理を施した金属エッチング製品の製造方法において、前記噴射の際の前記気体の流量を0.05〜25L(リットル)/毎分とすることを特徴とする。
【0017】
本発明の請求項5記載の絶縁処理を施した金属エッチング製品の製造方法は、請求項2、3または4記載の絶縁処理を施した金属エッチング製品の製造方法において、前記絶縁材料は、シリコン系材料と粉体とを含有してなることを特徴とする。
【0018】
本発明の請求項6記載の絶縁処理を施した金属エッチング製品の製造方法は、請求項5記載の絶縁処理を施した金属エッチング製品の製造方法において、前記粉体は、前記シリコン系材料及び該粉体の全容積に対して60体積%以上かつ80体積%以下含有してなることを特徴とする。
【0019】
本発明の請求項7記載の絶縁処理を施した金属エッチング製品の製造方法は、請求項5または6記載の絶縁処理を施した金属エッチング製品の製造方法において、前記シリコン系材料は、ポリシラザンであることを特徴とする。
【0020】
本発明の請求項8記載の絶縁処理を施した金属エッチング製品の製造方法は、請求項5、6または7記載の絶縁処理を施した金属エッチング製品の製造方法において、前記粉体は、無機微粉末であることを特徴とする。
【0021】
本発明の請求項9記載の絶縁処理を施した金属エッチング製品の製造方法は、請求項2ないし8のいずれか1項記載の絶縁処理を施した金属エッチング製品の製造方法において、前記金属板のいずれか一方の面あるいは両面に塗布された塗布液を、大気中、350℃以上かつ550℃以下の温度範囲にて焼成することを特徴とする。
【0022】
本発明の請求項10記載の絶縁処理を施した金属エッチング製品は、板状の金属のいずれか一方の面あるいは両面に絶縁処理を施してなる金属エッチング製品であって、金属板に、ウエットエッチング法により凹凸形状、貫通孔のいずれか一方、または双方が形成され、さらに、この金属板のいずれか一方の面あるいは両面に、スプレーコーティング法により絶縁処理が施されていることを特徴とする。
【0023】
本発明の請求項11記載の絶縁処理を施した金属エッチング製品は、請求項10記載の絶縁処理を施した金属エッチング製品において、前記金属板は、フラットパネルディスプレイ用の金属板であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明の絶縁処理を施した金属エッチング製品の製造方法によれば、金属板に、ウエットエッチング法を用いて凹凸形状、貫通孔のいずれか一方、または双方を形成し、次いで、この金属板のいずれか一方の面あるいは両面に、スプレーコーティング法を用いて絶縁処理を施すので、絶縁信頼性の高い金属エッチング製品を、容易かつ安価に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の絶縁処理を施した金属エッチング製品の製造方法および絶縁処理を施した金属エッチング製品の最良の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0026】
図1は本発明の絶縁処理を施した金属エッチング製品の製造方法に用いられるスプレーコーティング装置であり、図において、1はスプレーノズルであり、シリコン系材料と粉体の混合物を有機溶媒で希釈した塗布液を微粒子化し、基板の表面に噴霧する構成である。
【0027】
このスプレーノズル1は、金属基板2と一定の距離Aをおいて垂直に設置してあり、微粒子化した塗布液3を噴霧すると同時に,この距離Aを一定に保持した状態で、ノズルを水平方向に走査するか、あるいは金属基板を水平方向に移動することにより、金属基板2の表面に塗布液3を噴霧し塗布するようになっている。
ここでは、塗布液の流量、気体の流量、ノズル1と金属基板2との距離A、ノズル1の走査速度、ストローク幅を制御し、塗布をおこなう。
【0028】
このスプレーノズル1は、図2に示すように、気体送入口7より気体を導入して気体噴出口5より噴射させ、塗布液噴出口4に連通する塗布液送入口6より塗布液を吸引し、この塗布液を噴射する気体で破砕し微粒子化して噴霧するものである。このとき、塗布液送入口6の位置には、ベンチュリ管の原理により負圧Pが生じる。ここで、塗布液供給タンク(図示略)から塗布液送入口6に塗布液が供給されると、塗布液は塗布液送入口6より塗布液噴出口4へ向かって吸引される。
【0029】
この塗布液噴出口4から外方へ送り出された塗布液は、気体噴出口5から噴射される気体と混合し、この気体により破砕され、微粒子化した液滴となってノズル1の下方の金属基板2の表面に向かって噴出する。なお、塗布液の噴霧を連続して行うためには、正圧供給手段(図示略)により塗布液供給タンクに正圧を付与し、塗布液送入口6における負圧Pに対して上記塗布液供給タンクの液面上部の圧力が常に所定の圧だけ高くなるように調整すればよい。
【0030】
ノズル1の先端から噴出される塗布液の流量は、0.05〜20mL/分の間で制御する。この流量の好ましい範囲は、0.1〜10mL/分である。
塗布液の流量が0.05mL/分未満であると、噴霧された液滴が基板2に到達するまでに有機溶媒が揮発し過ぎてしまったり、あるいは塗布液の量が極端に少なくなってしまうため、製造工程上効率が良くない。また、20mL/分を超えると、基板2に到達する塗布液の量が多すぎてしまい、気体の流量、ノズル1と金属基板2との距離A、ノズル1の走査速度、ストローク幅などを調整しても、所望の塗布を行うのが困難になる。
【0031】
気体噴出口5より噴射される気体の流量は、0.05〜25L/分の間で制御する。この流量の好ましい範囲は、0.1〜12L/分である。
気体の流量が0.05L/分未満であると、塗布液が十分に破砕されず、その粒径が大きくなってしまい、微粒子化が困難になるからである。また、25L/分を超えると、塗布液に対して気体の量が多すぎてしまい、その結果、塗布液が舞い上がり、塗着効率が低下してしまうからである。
【0032】
上記のシリコン系材料としては、ポリシラザンが好ましい。
ポリシラザンは(SiH−NH)を基本とする無機ポリマーであり、分子量が600から1000の範囲にあることが好ましい。
ここで、ポリシラザンを好ましいとした理由は以下の通りである。
(1) 基板の表面に塗布し、300℃から500℃の温度で焼成することで、非結晶である緻密な高純度シリカが得られる。
(2) ポリシラザンのSiOは(SiH−NH)中に炭素を含有していないので、セラミックス、ガラス、金属材料等との密着性が良い。また、ゾルゲル法のように熱分解中に膜の収縮や残留炭素の問題が生じる虞がなく、クラックが比較的発生し難い。
【0033】
(3) 大気中での焼成が可能であるから、真空環境などの特殊な装置や成膜条件を用いることなく、連続加工ができる。
(4) 基板の表面全体がポリシラザンにより覆われた状態で焼成されるので、金属基板の表面が酸化される虞がない。
(5) 鉛等の環境を害する物質を使用しない。
【0034】
ところで、ポリシラザンを単体で溶媒に希釈し、コーティングすると、限界膜厚は3μm程度で絶縁耐圧は200〜350V程度となり、十分な絶縁耐圧を得ることができない。また、3μm以上の膜厚とすると、ポリシラザンの部分自体の内部応力や金属基材との熱膨張差(SiOの熱膨張係数が0.6×10−6/℃であるのに対し、金属材料の熱膨張係数は5〜20×10−6/℃)により発生すると考えられるクラックが発生する。
【0035】
そこで、本発明においては、絶縁層の厚膜化による絶縁耐圧向上とそれに伴うクラックの発生を抑制する方法として、熱膨張係数がシリコン系材料より大きく金属材料よりも小さい粉体、例えば、Si、Al等の酸化物または窒化物、あるいはBaO、B、NaO等をシリコン系材料と混合し、絶縁層を形成することとした。この方法では、混合した粉体が基材の熱履歴時の緩衝材となり、クラックの発生を抑制する。
この粉体は、絶縁層中で熱緩衝効果を発揮するため、ポリシラザンの焼結時に粉体形状を維持する必要があり、その軟化温度はポリシラザンの焼成温度(350〜550℃)以上である必要がある。
【0036】
この粉体の含有量は、シリコン系材料に対して60体積%以上かつ80体積%以下とする。好ましくは65体積%以上かつ75体積%以下である。
粉体の含有量が60体積%未満であると、ポリシラザンの割合が多くなり、ポリシラザンの部分自体の内部応力や金属基材との熱膨張差によりクラックが発生し易くなり、厚い膜にコーティングすることは困難になるからである。また、含有量が80体積%を超えると、ポリシラザンが少ないため、粉体同士が互いに接合せず、したがって、膜形状にならないからである。
【0037】
また、金属基板2としては、特に制限されないが、例えば、この金属基板をPDPの金属隔壁として使用する場合、Fe、あるいはNi,Cr,Coのいずれか1種以上を含むFe系合金が好適に用いられる。
【0038】
次に、この金属エッチング製品の製造方法を説明する。
まず、金属基板の表面の片面または両面に感光性レジストを塗布し、エッチングによって孔形状を形成させたい所望の箇所を開口させるようパターニングする。 次いで、このレジストパターン上に塩化第二鉄溶液等の腐食性溶液をスプレーすることにより、レジストが開口している部分の金属をエッチングし、金属基板にハーフエッチング形状または貫通孔を有する形状を形成させる。その後、レジストパターンをアルカリなどの剥離剤を用いて剥離する。
これにより、表面に、凹凸形状、貫通孔のいずれか一方または双方が形成された金属基板が作製される。
【0039】
次いで、この金属基板に脱脂、水洗処理を順次行った後、上述したスプレーコーティング装置を用いて、その表面にポリシラザンと粉体の混合物からなる塗布液を塗布する。
この塗布液としては、キシレン、ターペン、ソルベッソ、ジブチルエーテルなどの溶剤に溶け、重量で0.5%〜45%の濃度のポリシラザン溶液に粉体を混合したものを使用する。
粉体の含有量は、ポリシラザンに対して体積で60%以上かつ80%以下とする。好ましくは65%以上かつ75%以下とする。
【0040】
このスプレーコーティング装置では、スプレーノズル1の先端から塗布液及び気体が噴射され、塗布液が気体により微粒子化されて金属基板2の表面に噴霧される。スプレーノズル1は金属基板2と一定の距離Aをおいて垂直に設置してあり、噴霧すると同時にノズル1あるいは金属基板2を、ノズル1と金属基板2の距離Aを一定にしたまま水平方向に走査していく。
塗布液の流量、気体の流量、ノズル1と金属基板2の距離A、ノズル1の走査速度、ストローク幅を制御し塗布をおこなう。
【0041】
この塗布液が塗布された後、乾燥、大気中または水蒸気を含有する雰囲気中で焼成し、金属基板2上にSiO膜を形成する。ポリシラザンからSiOへの反応は、350℃から550℃で進行するが、膜を緻密にするには400℃以上の高温が好ましい。なお、ポリシラザンを大気中で焼成してSiOを得る反応は次式で示される。
(SiH−NH)+O→SiO+NH
【実施例】
【0042】
以下、本発明の実施例について説明する。
「実施例1」
厚み300μmのFe−Ni合金箔をアルカリ脱脂し、膜厚20μmの市販のドライフイルムレジスト基板の表面に貼り合わせた。次いで、ピッチ270×810μmで、短形状に開孔しているパターンのフォトマスクで露光し、アルカリ水溶液をスプレーし、Fe−50%Ni合金に、フォトマスクと同一形状、同一寸法のフォトレジストパターンを形成した。
次いで、塩化第二鉄溶液をスプレーしてエッチングを行い、ドライフイルムレジストを残したハーフエッチング金属平板を作製した。次いで、苛性ソーダ水溶液をスプレーしてフォトレジストを剥膜し、PDP用金属隔壁のリブ形状が作製できた。
【0043】
この基板を再びアルカリ脱脂し、水洗後、ポリシラザンとアルミナ粉末(平均粒径0.7μm)を混合して得られた塗布液を塗布する。ポリシラザンはキシレンに溶解させ、25重量%の割合に調整した。また、アルミナ粉末はポリシラザンに対して体積で70%の割合になるよう混合した。
塗布は、気体と塗布液を同時に噴射するスプレー法を使用した。基板とノズルの間隔を40mmとし、塗布液の噴射量を2.0mL(リットル)/分、気体の噴射量を8.0L/分とし、エッチングされた基板と平行にノズルを300mm/秒の速さで走査していき、面内に均一に、かつ膜厚が25μmになるように塗布した。
【0044】
その後、大気中で溶剤が十分揮発するまで乾燥させ、大気中、480℃にて60分、焼成を行い、上記PDP用金属隔壁のリブ形状に絶縁層をクラック等発生することなく形成させることができた。
この絶縁処理を施したPDP用金属隔壁を短形状の長手方向と垂直に切断し、断面を観察すると、図3に示す断面形状となり、PDP用の金属基板12の表面に、ウエットエッチング法を用いて隔壁11が形成され、この金属基板12の表面全体にスプレーコーティング法を用いて絶縁層13が形成されていることが確認できた。
【0045】
「実施例2」
厚み500μmのFe−42Ni合金箔をアルカリ脱脂し、膜厚20μmの市販のドライフイルムレジスト基板の表面に貼り合わせた。次いで、ピッチ270×810μmで、短形状に開孔しているパターンのフォトマスクを用いて、同様の形状を表裏で位置合わせを行い、露光し、次いで、アルカリ水溶液をスプレーし、Fe−42Ni合金に、フォトマスクと同一形状、同一寸法のフォトレジストパターンを形成した。
【0046】
次いで、塩化第二鉄溶液をスプレーしてエッチングを行い、ドライフイルムレジストを残したハーフエッチング金属平板を作製した。次いで、ドライフィルムを苛性ソーダ水溶液にて剥離後、ポジ型電着フォトレジストのゾンネEDUV P−500(関西ペイント製)をハーフエッチング金属平板上に均一な膜厚でコーティングした。次いで,ポジ用フォトマスクの位置合わせを行い、さらに露光し、炭酸ソーダ水溶液をスプレーして現像し、ポジ型電着フォトレジストパターンを形成した。
【0047】
次いで、塩化第二鉄溶液をスプレーしてエッチングを行い、さらに、苛性ソーダ水溶液をスプレーしてフォトレジストを剥膜し、板厚500μm、ピッチ270×810μm、開口220×760μmのスロットパターンの貫通孔を有する金属エッチング製品が製造できた。
【0048】
この基板を再びアルカリ脱脂し、水洗後ポリシラザンとシリカ粉末(平均粒径0.5μm)を混合した塗布液を塗布した。ポリシラザンはキシレンに溶解させ、30重量%の割合に調整した。また、アルミナ粉末はポリシラザンに対して体積で65%の割合になるように混合した。
塗布は気体と塗布液を同時に噴射するスプレー法を使用した。ここでは、基板とノズルの間隔を50mmとし、塗布液の噴射量を1.0mL/分、気体の噴射量を10.0L/分とし、エッチングされた基板と平行にノズルを200mm/秒の速さで走査していき、面内均一に、膜厚が25μmになるように塗布した。
【0049】
その後、大気中で溶剤が十分揮発するまで乾燥させ、大気中、500℃にて60分焼成を行い、短形状パターンの貫通孔を有する金属エッチング製品に絶縁層を形成させることができた。
この絶縁処理を施した金属エッチング製品の断面を観察すると、図4に示す断面形状となり、金属基板21の表面全体及び貫通孔22の内壁に絶縁層23が形成されていることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明に用いられるスプレーコーティング装置を示す模式図である。
【図2】本発明に用いられるスプレーコーティング装置のスプレーノズルを示す断面図である。
【図3】本発明の実施例1のPDP用金属隔壁を示す断面図である。
【図4】本発明の実施例2の貫通孔を有する金属エッチング製品を示す断面図である。
【符号の説明】
【0051】
1 スプレーノズル
2 金属基板
3 スプレー中の雰囲気
4 塗布液噴出口
5 気体噴出口
6 塗布液送入口
7 気体送入口
11 隔壁
12 金属基板
13 絶縁層
21 金属基板
22 貫通孔
23 絶縁層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板のいずれか一方の面あるいは両面に絶縁処理を施してなる金属エッチング製品の製造方法であって、
前記金属板に、ウエットエッチング法を用いて凹凸形状、貫通孔のいずれか一方、または双方を形成し、
次いで、この金属板のいずれか一方の面あるいは両面に、スプレーコーティング法を用いて絶縁処理を施すことを特徴とする絶縁処理を施した金属エッチング製品の製造方法。
【請求項2】
前記絶縁処理は、絶縁材料を含む塗布液と気体とを同時に噴射して該塗布液を前記金属板のいずれか一方の面あるいは両面に塗布する処理であり、
この噴射の際に前記塗布液を前記気体で破砕し微粒子化することを特徴とする請求項1記載の絶縁処理を施した金属エッチング製品の製造方法。
【請求項3】
前記噴射の際の前記塗布液の流量を0.05〜20mL/毎分とすることを特徴とする請求項2記載の絶縁処理を施した金属エッチング製品の製造方法。
【請求項4】
前記噴射の際の前記気体の流量を0.05〜25L/毎分とすることを特徴とする請求項2または3記載の絶縁処理を施した金属エッチング製品の製造方法。
【請求項5】
前記絶縁材料は、シリコン系材料と粉体とを含有してなることを特徴とする請求項2、3または4記載の絶縁処理を施した金属エッチング製品の製造方法。
【請求項6】
前記粉体は、前記シリコン系材料及び該粉体の全容積に対して60体積%以上かつ80体積%以下含有してなることを特徴とする請求項5記載の絶縁処理を施した金属エッチング製品の製造方法。
【請求項7】
前記シリコン系材料は、ポリシラザンであることを特徴とする請求項5または6記載の絶縁処理を施した金属エッチング製品の製造方法。
【請求項8】
前記粉体は、無機微粉末であることを特徴とする請求項5、6または7記載の絶縁処理を施した金属エッチング製品の製造方法。
【請求項9】
前記金属板のいずれか一方の面あるいは両面に塗布された塗布液を、大気中、350℃以上かつ550℃以下の温度範囲にて焼成することを特徴とする請求項2ないし8のいずれか1項記載の絶縁処理を施した金属エッチング製品の製造方法。
【請求項10】
板状の金属のいずれか一方の面あるいは両面に絶縁処理を施してなる金属エッチング製品であって、
金属板に、ウエットエッチング法により凹凸形状、貫通孔のいずれか一方、または双方が形成され、
さらに、この金属板のいずれか一方の面あるいは両面に、スプレーコーティング法により絶縁処理が施されていることを特徴とする絶縁処理を施した金属エッチング製品。
【請求項11】
前記金属板は、フラットパネルディスプレイ用の金属板であることを特徴とする請求項10記載の絶縁処理を施した金属エッチング製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−310188(P2006−310188A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−133299(P2005−133299)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【出願人】(391061510)株式会社藤森技術研究所 (20)
【Fターム(参考)】