説明

絶縁抵抗測定装置

【課題】電気機器への通電を行った状態で非接触にて絶縁抵抗値を測定でき、設備の稼働率向上および点検作業の作業性向上や安全性向上を図ることができる絶縁抵抗測定装置を提供することである。
【解決手段】通電されている状態の電気機器の絶縁物の放電音強度と絶縁物の表面絶縁抵抗値との関係式を予め記憶装置13に記憶しておき、電気機器の絶縁物の放電音を放電音検出器15で検出し、振動音成分抽出手段17は放電音検出器15で検出された放電音を高速フーリエ変換し放電音の周波数成分を抽出する。そして、抵抗演算手段18は、振動音成分抽出手段17で抽出された特性の周波数領域の放電音強度及び記憶装置13に記憶した関係式に基づいて絶縁物の表面絶縁抵抗値を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機器の絶縁物の絶縁抵抗を測定する絶縁抵抗測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電気機器の絶縁物の絶縁抵抗値は新品ほど高く、老朽化に伴い低下する傾向がある。従って、現状の絶縁抵抗を把握することは電気機器を構成する絶縁物の良し悪しを把握することと同じであり、電気機器の交換時期を把握することにも役立つため、例えば、受電電圧6600Vの自家用電気工作物の定期点検では必ず実施される測定となっている。また、極端に絶縁抵抗値が低下すると地絡事故を起こす危険性もあるため、電気事故防止の観点からも絶縁抵抗測定は極めて重要な測定項目となっている。
【0003】
例えば、高圧受電設備において遮断器や開閉器の絶縁材料として不飽和ポリエステルが用いられている。この不飽和ポリエステルを絶縁材料とする機器の不良指摘数は、全体の6割程度と他の絶縁材料(絶縁油、架橋ポリエチレンなど)の電気機器に比べ最も高いことから、不飽和ポリエステルの絶縁状態を管理することは設備全体の保全を維持する上でも重要な管理項目である。通常、電気機器の絶縁物の絶縁抵抗は、電気機器への通電を停止して電気機器の絶縁物に電圧測定用電圧を印加し、絶縁物に流れる電流に基づいて測定対象体の抵抗値を測定するようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−8401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、電気機器の絶縁物の絶縁抵抗は、電気機器への通電を停止して行っているので、停電による設備稼働率の低下を招くことになる。また、電気機器の絶縁物に電圧測定用電圧を印加して行っているので、電路に測定器具を接触させて実施することになり、誤操作による感電事故を引き起こす危険性もある。
【0006】
本発明の目的は、電気機器への通電を行った状態で非接触にて絶縁抵抗値を測定でき、設備の稼働率向上および点検作業の作業性向上や安全性向上を図ることができる絶縁抵抗測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明に係る絶縁抵抗測定装置は、通電されている状態の電気機器の絶縁物の放電音強度と前記絶縁物の表面絶縁抵抗値との関係式を予め記憶した記憶装置と、前記電気機器の絶縁物の放電音を検出する放電音検出器と、前記放電音検出器で検出された放電音を高速フーリエ変換し放電音の周波数成分を抽出する振動音成分抽出手段と、前記振動音成分抽出手段で抽出された特性の周波数領域の放電音強度及び前記記憶装置に記憶した関係式に基づいて前記絶縁物の表面絶縁抵抗値を求める抵抗演算手段とを備えたことを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明に係る絶縁抵抗測定装置は、通電されている状態の電気機器の絶縁物の放電音強度と前記絶縁物の表面絶縁抵抗値との関係式を予め記憶した記憶装置と、前記電気機器の絶縁物の放電音を検出する放電音検出器と、前記放電音検出器で検出された放電音を高速フーリエ変換し放電音の周波数成分を抽出する振動音成分抽出手段と、前記電気機器を撮影する撮影装置と、前記撮影装置で撮影した画像を解析し放電発光の有無を判定する放電判定手段と、前記振動音成分抽出手段で抽出された特性の周波数領域の放電音強度及び前記記憶装置に記憶した関係式に基づいて前記絶縁物の表面絶縁抵抗値を求める抵抗演算手段と、前記放電判定手段で放電発光が有りと判定されたときは前記抵抗演算手段で求められた表面絶縁抵抗値が予め定めた所定値以下であるかどうか判定する演算抵抗値確認手段とを備えたことを特徴とする。
【0009】
請求項3の発明に係る絶縁抵抗測定装置は、請求項1または2の発明において、前記関係式は、既知の異なる表面絶縁抵抗値の複数の絶縁物を用意し、用意した各々の絶縁物に対して所定電圧を印加して放電音検出器で放電音を検出し、前記放電音検出器で測定した放電音を高速フーリエ変換して放電音強度が大きい特定の周波数領域の放電音強度を抽出し、抽出した放電音強度と表面絶縁抵抗値との相関グラフに基づいて予め求めることを特徴とする。
【0010】
請求項4の発明に係る絶縁抵抗測定装置は、請求項1乃至3のいずれか一の発明において、前記絶縁物は、不飽和ポリエステル、磁器、アクリルであることを特徴とする。
【0011】
請求項5の発明に係る絶縁抵抗測定装置は、請求項1乃至4のいずれか一の発明において、前記振動音成分抽出手段は、高速フーリエ変換に代えて、前記放電音検出器で検出された放電音の周波数成分をバンドパスフィルタを用いて抽出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、通電されている状態の電気機器の絶縁物の放電音強度と絶縁物の表面絶縁抵抗値との関係式を予め記憶しておき、電気機器の絶縁物の放電音を検出して特性の周波数領域の放電音強度を抽出し、放電音強度及び関係式に基づいて絶縁物の表面絶縁抵抗値を求めるので、非接触で絶縁抵抗の把握をすることができる。従って、電気機器の通電状態で絶縁抵抗を検出できるので、顧客設備の稼働率向上や点検作業の作業性向上を図れる。
【0013】
請求項2の発明によれば、電気機器の画像を解析して放電発光の有無を判定し、放電発光が有りと判定されたときに、放電音強度及び関係式に基づいて求めた絶縁物の表面絶縁抵抗値が所定値以下かどうかを判定し、演算された表面絶縁抵抗値を確認するので、求めた絶縁抵抗の精度が向上する。
【0014】
請求項3の発明によれば、既知の異なる表面絶縁抵抗値の複数の絶縁物を用意し、用意した各々の絶縁物に対して、放電音強度と表面絶縁抵抗値と関係式を求めるので、精度の良い放電音強度と表面絶縁抵抗値との関係が得られる。
【0015】
請求項4の発明によれば、不飽和ポリエステル、磁器、アクリルなどの絶縁物に対して絶縁抵抗を測定できる。
【0016】
請求項5の発明によれば、高速フーリエ変換に代えて、バンドパスフィルタを用いても放電音検出器で検出された放電音の周波数成分を抽出できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る絶縁抵抗測定装置の構成図。
【図2】不飽和ポリエステルの絶縁低下指摘件数及び平均湿度を月別に展開したグラフ。
【図3】累積等価塩分付着量と月数との予測結果を示すグラフ。
【図4】等価塩分付着量が0.044 mg/cm2における絶縁抵抗値を100MΩから0.1MΩまで徐々に低下させていった場合の各絶縁抵抗値における周波数成分の沿面放電音スペクトルの写真図。
【図5】周波数をパラメータとした絶縁抵抗値と放電音強度との相関グラフ。
【図6】高圧充電中の実機の絶縁物における周波数成分の沿面放電音スペクトルの写真図。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る絶縁抵抗測定装置の構成図。
【図8】等価塩分付着量が0.044 mg/cm2における絶縁抵抗値を100MΩから0.1MΩまで徐々に低下させていった場合の各絶縁抵抗値における絶縁体の放電発生画像の写真図。
【図9】放電発光が確認できた絶縁抵抗値と等価塩分付着量との関係を示すグラフ。
【図10】絶縁物としてその抵抗値が1MΩの不飽和ポリエステル、高圧ピンがいし、アクリルである場合の周波数成分の沿面放電音スペクトルの写真図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を説明する。図1は本発明の第1の実施形態に係る絶縁抵抗測定装置の構成図である。絶縁抵抗測定装置はコンピュータで構成され、例えば、パーソナルコンピュータで構成される。すなわち、入力装置11、演算制御装置12、記憶装置13、及び表示装置14から構成されるコンピュータに、プログラムがインストールされ、演算制御装置12がプログラムを実行処理することで、図1に示す機能ブロックが実現される。また、演算制御装置12には放電音検出器15が接続されている。
【0019】
入力装置11はキーボードやマウスなどであり、演算制御装置12に対する操作指令や表示装置14への出力指令などの各種の指令を入力するものである。放電音検出器15は、例えばマイクなど音を検出するものであり、本発明の実施形態では、電気機器の絶縁物の近傍に設置され、電気機器の絶縁物の放電音を検出する。通電されている電気機器の絶縁物には電圧が印加されており、絶縁物が劣化しているときは放電を発生するので、放電音検出器15は、その放電が発生したときの放電音を検出する。
【0020】
放電音検出器15で検出された放電音は、演算制御装置12の入力処理部16に入力され、時系列のデジタル信号として記憶装置13に記憶されるとともに、振動音成分抽出手段17に入力される。振動音成分抽出手段17は、放電音検出器15で検出された放電音を高速フーリエ変換し、放電音の周波数成分を抽出するものであり、放電音強度の大きい周波数成分を抽出する。振動音成分抽出手段17で抽出された特性の周波数領域の放電音は、抵抗演算手段18に入力されるとともに、必要に応じて記憶装置13に記憶される。
【0021】
抵抗演算手段18は、振動音成分抽出手段17で抽出された特性の周波数領域の放電音を入力すると、その放電音強度を記憶装置13に予め記憶された関係式に代入し、絶縁物の表面絶縁抵抗値を演算し、その演算結果を出力処理部19を介して表示装置14に表示出力する。これにより、絶縁物の絶縁抵抗値が表示装置14に表示される。
【0022】
ここで、記憶装置13には、通電されている状態の電気機器の絶縁物の放電音強度と絶縁物の表面絶縁抵抗値との関係式が予め記憶されている。この放電音強度と表面絶縁抵抗値との関係式は、以下のようにして予め求められたものである。
【0023】
まず、既知の異なる表面絶縁抵抗値の複数の絶縁物を用意する。そして、用意した各々の絶縁物に対して所定電圧を印加して放電音検出器で放電音を検出する。これにより、表面絶縁抵抗値が異なる絶縁物ごとの放電音データが得られる。そして、表面絶縁抵抗値が異なる絶縁物ごとの放電音データを高速フーリエ変換して放電音強度が大きい特定の周波数領域の放電音強度を抽出する。これにより、放電音強度が大きい特定の周波数をパラメータとした放電音強度と表面絶縁抵抗値とをプロットした相関グラフが得られる。この相関グラフから放電音強度と絶縁物の表面絶縁抵抗値との関係式を求める。
【0024】
(1)既知の異なる表面絶縁抵抗値の複数の絶縁物の用意について
まず、本発明で対象とする絶縁物は不飽和ポリエステルであり、この不飽和ポリエステルの劣化要因は、以下のようであると考えられる。不飽和ポリエステル表面は、高湿度条件下における加水分解によって析出した炭酸カルシウムが大気中のNOxやSOxと接触することによりイオン化する性質があると考えられる。
【0025】
2NO2+H2O→HNO3+HNO2
CaCO3+2HNO3→Ca(NO3)2+H2O+CO2
Ca(NO3)2は潮解性のイオン化化合物であり、高湿度条件下において絶縁低下を引き起こすものと考えられる。図2は、不飽和ポリエステルの絶縁低下指摘件数及び平均湿度を月別に展開したグラフである。棒グラフが絶縁低下指摘件数、折れ線グラフが平均湿度である。
【0026】
通常、高圧受電設備の遮断器や開閉器等の機器は、配電箱内に収納されており、直接の風雨に曝されることがないが、外気を取り入れやすい構造となっており、外部の湿度の影響を受けやすいと考えられる。図2から分かるように、絶縁低下指摘件数は平均湿度との相関があり、前述のイオン化化合物Ca(NO3)2の析出と湿度とによる劣化要因の結果が実際に起こっているものと考えられる。
【0027】
そこで、既知の異なる表面絶縁抵抗値の複数の絶縁物を以下のようにして用意した。実験用サンプルとして顧客設備で使用されていた高圧交流負荷開閉器(LBS)を用意した。通常、高圧交流負荷開閉器は変圧器の過負荷保護や小容量の受電設備の主開閉器として使用されており、絶縁部分に不飽和ポリエステルが使われている。
【0028】
そして、社団法人日本電機工業会技術資料JEM-TR194「高圧遮断器の使用環境に対する検討指針」のキュービクル構造と汚損についての測定結果をもとに、25ヶ月から60ヶ月までの当月汚損量を過去3ヵ月の回帰直線を求めて予測した。図3は累積等価塩分付着量と月数との予測結果を示すグラフである。曲線S1は強制換気の場合の累積等価塩分付着量の曲線、曲線S2は自然換気の場合の累積等価塩分付着量の曲線である。
【0029】
図3をもとに、設備稼働時間が12ヶ月から60ヶ月まで12ヶ月おきの等価塩分付着量の変化に合わせ、サンプル絶縁物の表面積に応じた濃度の食塩水を均一に塗布したのち乾燥させ、絶縁抵抗値が十分回復していることを確認する。次に食塩を付着させた部分に精製水を噴霧し、所定の絶縁抵抗値にした。実験を行った等価塩分付着量は表1のとおりである。
【表1】

【0030】
(2)放電音の検出について
絶縁抵抗値が安定したことを確認したら、その両端に所定電圧AC3810Vを印加する。そして、印加直後の放電音の計測を行う。実験では換気方式別に12ヶ月ごとの累積等価塩分付着量について絶縁抵抗値を徐々に低下させていった場合の放電音を録音した。放電音の計測には、デジタル録音が可能な放電音検出器を用い、そのサンプリング周波数は96kHzとした。
【0031】
図4は等価塩分付着量が0.044 mg/cm2における絶縁抵抗値を100MΩから0.1MΩまで徐々に低下させていった場合の各絶縁抵抗値における周波数成分の沿面放電音スペクトルの写真図である。縦軸は周波数×104[Hz]、横軸は時間[sec]である。なお、0.1MΩの横軸(時間軸)の0.6秒付近に垂直に現れる周波数成分は遮断器の投入音である。
【0032】
(3)特定の周波数領域の放電音強度の抽出及び関係式について
次に、計測した放電音にはどのような周波数成分が含まれているのかを調べるため、高速フーリエ変換して放電音強度が大きい特定の周波数領域の放電音強度を抽出した。
【0033】
図5は周波数をパラメータとした絶縁抵抗値と放電音強度との相関グラフである。図5では、実験によって特に強く特徴が現れた10kHzから15kHz成分を抽出し、絶縁抵抗値を100MΩから0.1MΩ程度まで低下させていった場合の放電音強度の変化を周波数をパラメータとしてプロットしたものを示している。また、曲線は各周波数における測定値の累乗近似曲線である。
【0034】
高速フーリエ変換FFTによって沿面放電音の可視化を行った結果、等価塩分付着量を変化させた場合であっても、可聴周波数領域に常に特徴が現れることが分かった。
【0035】
図6は、高圧充電中の実機の絶縁物における周波数成分の沿面放電音スペクトルの写真図である。縦軸は周波数×104[Hz]、横軸は時間[sec]である。図6から分かるように、実機における自然劣化による沿面放電音を計測する場合には、沿面放電時の表面水分量が少なくなることから、実験(人工汚損)における10kHzから15kHz成分より低周波領域の5kHzから10kHz成分の抽出、特に自然劣化が顕著な場合は、8kHzから9kHzに成分の抽出を行い、劣化診断を行うことが有効であることが分かった。
【0036】
表面絶縁抵抗値の変化に対しても特徴が現れる周波数帯に大きな変化は見られなかったが、放電音強度が変化していることに着目し、累乗近似曲線に基づいて絶縁抵抗値と放電音強度との関係式を導き出した。絶縁抵抗値の対数的増加に伴い、放電音強度は直線的に低下する傾向があり、累乗関数によるフィッティングが最も適合している。すなわち、近似式は放電音強度をW[dB]、表面絶縁抵抗値をR[MΩ]とすると、(1)式のように表される。
【0037】
W=aR−b …(1)
等価塩分付着量ESDDごとに(1)式の定数aおよびb、R-2乗値を求めると表2のとおりとなる。
【表2】

【0038】
定数aは放電音検出器の検出ゲインの大きさで定まる定数である。この(1)式に、定数a、bを代入して、放電音強度と絶縁物の表面絶縁抵抗値との関係式とし、予め記憶装置13に記憶しておく。
【0039】
以上の説明では、振動音成分抽出手段17は放電音検出器15で検出された放電音を高速フーリエ変換し、放電音の周波数成分を抽出するようにしたが、高速フーリエ変換に代えて、バンドパスフィルタを用いて放電音の周波数成分を抽出するようにしてもよい。
【0040】
第1の実施形態によれば、電気機器の絶縁物の放電音強度と絶縁物の表面絶縁抵抗値との関係式を予め記憶装置13に記憶しておき、電気機器の絶縁物の放電音を検出して特性の周波数領域の放電音強度を抽出し、放電音強度及び関係式に基づいて絶縁物の表面絶縁抵抗値を求めるので、非接触で絶縁抵抗の把握をすることができる。これにより、顧客設備の稼働率向上や点検作業の作業性向上、さらには安全性向上を図れる。
【0041】
次に、本発明の第2の実施形態を説明する。図7は本発明の第2の実施形態に係る絶縁抵抗測定装置の構成図である。この第2の実施の形態は、図1に示した第1の実施形態に対し、電気機器を撮影する撮影装置20と、撮影装置20で撮影した画像を解析し放電発光の有無を判定する放電判定手段21と、放電判定手段21で放電発光が有りと判定されたときは、抵抗演算手段18で求められた表面絶縁抵抗値が予め定めた所定値以下であるかどうか判定する演算抵抗値確認手段22とを追加して設けたものである。図1と同一要素には同一符号を付し重複する説明は省略する。
【0042】
撮影装置20は、例えばCCDカメラや高感度映像増幅管などであり、電気機器の外観映像を撮影するものである。電気機器の外観映像を撮影するのは、放電による発光を検出するためである。
【0043】
図8は等価塩分付着量が0.044 mg/cm2における絶縁抵抗値を100MΩから0.1MΩまで徐々に低下させていった場合の各絶縁抵抗値における絶縁体の放電発生画像の写真図である。絶縁抵抗値が小さくなるにつれて放電発光が鮮明になっていることが分かる。
【0044】
撮影装置20で撮影された画像は、入力処理部16を介して放電判定手段21に入力される。放電判定手段21は、撮影装置20で撮影した画像を解析し、放電発光の有無を判定する。絶縁物の放電発生画像中において、明度が大きい箇所は放電が発生しているので、絶縁物の表面で明度の大きい箇所があるかどうかを判定することで、放電発光の有無を判定する。
【0045】
次に、放電発光が確認できた絶縁抵抗値を等価塩分付着量ごとにプロットしてグラフを作成した。図9は、放電発光が確認できた絶縁抵抗値と等価塩分付着量との関係を示すグラフである。図9では、等価塩分付着量の増加に伴い放電の起こる絶縁抵抗値はほぼ一定となる傾向があることが分かった。すなわち、経年によって絶縁物表面の等価塩分付着量が増加したとしても、沿面放電が開始する絶縁抵抗値は変わらないと言える。
【0046】
また、同時に絶縁物表面の絶縁抵抗値が100MΩである場合には、すべての等価塩分付着量において沿面放電が生じないことが分かり、絶縁抵抗値の管理による開閉器設備のメンテナンスは30MΩ程度以下になった場合に実施の必要性が高まることが分かった。
【0047】
そこで、放電が発生するのは30MΩ程度であることから、放電が発生したことを放電判定手段21が検出したときは、演算抵抗値確認手段22は、抵抗演算手段18で求められた表面絶縁抵抗値が30MΩ程度であるかどうかを判定する。すなわち、所定値として予め30MΩを設定しておき、演算抵抗値確認手段22は、抵抗演算手段18で求められた表面絶縁抵抗値が30MΩ以下であるかどうか判定する。30MΩ以下であるときは、抵抗演算手段18で求められた表面絶縁抵抗値は妥当であると判定される。
【0048】
一方、30MΩ以上であるときは、抵抗演算手段18で求められた表面絶縁抵抗値は妥当ではないと判定される。そして、判定結果は出力処理部19を介して表示装置14に表示出力される。抵抗演算手段18で求められた表面絶縁抵抗値が妥当でないと判定されたときは、(1)式の定数a、bの設定が適切でない可能性があるので、(1)式の定数a、bを見直すことになる。
【0049】
第2の実施形態によれば、電気機器の画像を解析して放電発光の有無を判定し、放電発光が有りと判定されたときに、放電音強度及び関係式に基づいて求めた絶縁物の表面絶縁抵抗値が妥当であるか否かを判定するので、求めた絶縁抵抗の精度が向上する。
【0050】
以上の説明では、絶縁物として不飽和ポリエステルである場合について説明したが、高圧ピンがいしやアクリルである場合も同様に適用できる。図10は、絶縁物としてその抵抗値が1MΩの不飽和ポリエステル、高圧ピンがいし、アクリルである場合の周波数成分の沿面放電音スペクトルの写真図である。高圧ピンがいし及びアクリルの横軸(時間軸)の0.3秒付近に垂直に現れる周波数成分は遮断器の投入音である。
【0051】
高圧ピンがいしでは可聴周波数領域である8kHzから15 kHz成分に強いスペクトルが現れていることが分かり、アクリルにおいても微少ながら可聴周波数帯に特徴が現れていることが分かった。これにより、不飽和ポリエステルのみならず、磁器などの絶縁物に対しても可聴領域による絶縁低下の検知が可能となる。
【符号の説明】
【0052】
11…入力装置、12…演算制御装置、13…記憶装置、14…表示装置、15…放電音検出器、16…入力処理部、17…振動音成分抽出手段、18…抵抗演算手段、19…出力処理部、20…撮影装置、21…放電判定手段、22…演算抵抗値確認手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電されている状態の電気機器の絶縁物の放電音強度と前記絶縁物の表面絶縁抵抗値との関係式を予め記憶した記憶装置と、前記電気機器の絶縁物の放電音を検出する放電音検出器と、前記放電音検出器で検出された放電音を高速フーリエ変換し放電音の周波数成分を抽出する振動音成分抽出手段と、前記振動音成分抽出手段で抽出された特性の周波数領域の放電音強度及び前記記憶装置に記憶した関係式に基づいて前記絶縁物の表面絶縁抵抗値を求める抵抗演算手段とを備えたことを特徴とする絶縁抵抗測定装置。
【請求項2】
通電されている状態の電気機器の絶縁物の放電音強度と前記絶縁物の表面絶縁抵抗値との関係式を予め記憶した記憶装置と、前記電気機器の絶縁物の放電音を検出する放電音検出器と、前記放電音検出器で検出された放電音を高速フーリエ変換し放電音の周波数成分を抽出する振動音成分抽出手段と、前記電気機器を撮影する撮影装置と、前記撮影装置で撮影した画像を解析し放電発光の有無を判定する放電判定手段と、前記振動音成分抽出手段で抽出された特性の周波数領域の放電音強度及び前記記憶装置に記憶した関係式に基づいて前記絶縁物の表面絶縁抵抗値を求める抵抗演算手段と、前記放電判定手段で放電発光が有りと判定されたときは前記抵抗演算手段で求められた表面絶縁抵抗値が予め定めた所定値以下であるかどうか判定する演算抵抗値確認手段とを備えたことを特徴とする絶縁抵抗測定装置。
【請求項3】
前記関係式は、既知の異なる表面絶縁抵抗値の複数の絶縁物を用意し、用意した各々の絶縁物に対して所定電圧を印加して放電音検出器で放電音を検出し、前記放電音検出器で測定した放電音を高速フーリエ変換またはバンドパスフィルタを用いてして放電音強度が大きい特定の周波数領域の放電音強度を抽出し、抽出した放電音強度と表面絶縁抵抗値との相関グラフに基づいて予め求めることを特徴とする請求項1または2記載の絶縁抵抗測定装置。
【請求項4】
前記絶縁物は、不飽和ポリエステル、磁器、アクリルであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一に記載の絶縁抵抗測定装置。
【請求項5】
前記振動音成分抽出手段は、高速フーリエ変換に代えて、前記放電音検出器で検出された放電音の周波数成分をバンドパスフィルタを用いて抽出することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一に記載の絶縁抵抗測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−168158(P2012−168158A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188307(P2011−188307)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(592208806)一般財団法人関東電気保安協会 (14)
【Fターム(参考)】