説明

絶縁組成物及び成形品

【課題】製造時の成形性に優れ、且つ表面への油性成分の滲出が抑制された、良好な特性を有する絶縁ゴムの成形品、及び該成形品の製造に好適な絶縁組成物の提供。
【解決手段】(A)ムーニー粘度(ML1+4,100℃)が24未満であるエチレン−プロピレン−ジエンゴムを含有し、前記(A)エチレン−プロピレン−ジエンゴムの含有量100質量部に対する、(B)常温で固形状の油性成分の含有量が30質量部未満であり、常温で液状の油性成分を含有しないことを特徴とする絶縁組成物;かかる絶縁組成物を用いて形成した成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面への油性成分の滲出が抑制された絶縁ゴムの成形品、及び該成形品の製造に好適な絶縁組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁ゴムの成形品は、電力ケーブルの接続部や末端部のストレスコーン、絶縁テープ等で利用されるほか、このようなケーブル分野にとどまらず、広範な分野で利用されており、汎用性が極めて高く、なかでも耐熱性を有するものが有用である。
【0003】
絶縁ゴムの成形品は、ゴムを主成分とする絶縁組成物を原料として用い、これを加熱成形して製造されるが、通常は、その製造過程での成形性を向上させるために、常温で液状の油性成分(加工油)をさらに含有する前記絶縁組成物を用いる。この油性成分の含有量を調節することで、成形性の程度が調節可能となり、通常は、含有量が多いほど容易に成形できる。また、常温で固形状の油性成分が併用されることもある。このような絶縁組成物としては、例えば、ゴムとして耐オゾン性に優れるエチレン−プロピレン系ゴムを用いたものが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−152116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような絶縁ゴムの成形品において、絶縁組成物に含有されていた常温で液状の油性成分は、ゴム中に分散された状態で存在し、含有量が少なければ成形品表面への滲出(ブリード)は抑制されると考えられる。しかし、所望の形状の成形品を製造適性よく得るために従来は、液状の油性成分を少量とは言えない量だけ含有させることが必要であり、その場合には、油性成分の滲出を完全に抑制することは困難である。すると、滲出した油性成分は、成形品が接触している他の装置や部材等に移行してしまう。例えば、電力ケーブルで使用されている成形品の場合、滲出した油性成分は、電力ケーブルの被覆層に移行し易く、特に接触面では電気特性を良好に維持するために圧力が印加されているため、油性成分がより移行し易い。そして、移行した油性成分が原因となって、被覆層が変質して電気特性を低下させてしまうことがある。
このように従来は、耐熱性等の良好な特性を有し、製造時の成形性に優れ、且つ表面への油性成分の滲出が抑制された絶縁ゴムの成形品は、得られていないのが実情である。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、製造時の成形性に優れ、且つ表面への油性成分の滲出が抑制された、耐熱性を有する絶縁ゴムの成形品、及び該成形品の製造に好適な絶縁組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、
本発明は、(A)ムーニー粘度(ML1+4,100℃)が24未満であるエチレン−プロピレン−ジエンゴムを含有し、前記(A)エチレン−プロピレン−ジエンゴムの含有量100質量部に対する、(B)常温で固形状の油性成分の含有量が30質量部未満であり、常温で液状の油性成分を含有しないことを特徴とする絶縁組成物を提供する。
かかる組成物は、エチレン−プロピレン−ジエンゴムのムーニー粘度(ML1+4,100℃)と、エチレン−プロピレン−ジエンゴムの含有量100質量部に対する、常温で固形状の油性成分の含有量が上記範囲であることで、常温で液状の油性成分を含有しなくても流動性が良好であり、加熱成形時の成形性に優れる。また、常温で液状の油性成分を含有しないので、加熱成形して得られる成形品は、表面への油性成分の滲出が抑制される。また、常温で固形状の油性成分の含有量が上記範囲であることで、成形品の架橋度が向上する。
本発明の絶縁組成物においては、前記(A)エチレン−プロピレン−ジエンゴムの含有量100質量部に対する、(B)常温で固形状の油性成分の含有量が10質量部以下であることが好ましい。
かかる組成物は、得られる成形品が高純度となり、より優れた特性を有する。
また、本発明は、上記本発明の絶縁組成物を用いて形成したことを特徴とする成形品を提供する。
かかる成形品は、常温で液状の油性成分を含有しない絶縁組成物から得られるので、表面への油性成分の滲出が抑制される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、製造時の成形性に優れ、且つ表面への油性成分の滲出が抑制された、耐熱性を有する絶縁ゴムの成形品、及び該成形品の製造に好適な絶縁組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<絶縁組成物>
本発明に係る絶縁組成物は、(A)ムーニー粘度(ML1+4,100℃)が24未満であるエチレン−プロピレン−ジエンゴム(以下、「(A)EPDM」と略記することがある)を含有し、(A)EPDMの含有量100質量部に対する、(B)常温で固形状の油性成分(以下、「(B)固形油」と略記することがある)の含有量が30質量部未満であり、常温で液状の油性成分(以下、「液状油」と略記することがある)を含有しないことを特徴とする。かかる絶縁組成物は、液状油を含有していないにも関わらず、加熱成形時の成形性が良好であり、液状油を含有していないので、得られた成形体の表面には、油性成分の滲出が顕著に抑制される。
【0010】
(A)EPDMは、主たるモノマーとしてエチレン及びプロピレンを使用し、さらに、重合性不飽和結合(二重結合)を有する非共役ジエンモノマーを少量使用して、これらモノマーを共重合させて得られたものであり、主鎖中に二重結合を有する。
【0011】
前記ジエンモノマーとしては、公知のものが使用でき、好ましいものとして5−エチリデン−2−ノルボルネン(ENB)、ビニルノルボルネン(VNB)、ジシクロペンタジエン(DCPD)、1,4−ヘキサジエン(1,4−HD)が例示できる。
前記ジエンモノマーは、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すればよい。
【0012】
(A)EPDMは、ムーニー粘度(ML1+4,100℃)が24未満であり、15以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。ムーニー粘度(ML1+4,100℃)は、「JIS K6300−1」又は「国際規格ASTM D 1646」に準拠した方法で測定できる。
(A)EPDMとしては、市販品を使用してもよいし、公知の方法にしたがって合成したものを使用してもよい。
【0013】
前記絶縁組成物において、(A)EPDMの含有量は、35〜90質量%であることが好ましく、40〜70質量%であることが好ましい。このような範囲とすることで、特性がより良好な成形品が得られる。
【0014】
(B)固形油としては、例えば、30℃以下で固形状のものが挙げられ、好ましいものとしてパラフィンワックス、ポリエチレンワックスが例示できる。
前記パラフィンワックスとしては、炭素数が20以上のアルカンが例示できる。
【0015】
前記絶縁組成物において、(A)EPDMの含有量100質量部に対する、(B)固形油の含有量は、30質量部未満([(A)EPDMの含有量(質量)]/[(B)固形油の含有量(質量)]の値が3.3よりも大きい)であり、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、3質量部以下であることがさらに好ましく、0質量部であってもよい。すなわち、前記絶縁組成物は、(B)固形油を含有していなくてもよく、このように、前記液状油及び(B)固形油をいずれも含有しなくても、絶縁組成物は流動性が良好で、加熱成形時の成形性に優れる点で、従来の絶縁組成物とは全く相違する。また、(B)固形油の前記含有量がこのような上限値を有することで、得られる成形品は高純度であり、さらに架橋度が向上するので、耐熱性が向上するなど、良好な特性を有するものとなる。
なお、本発明において、「液状油」としては、例えば、10〜30℃で液状のものが例示できる。
【0016】
絶縁組成物は、(A)EPDM及び(B)固形油以外に、さらに(C)その他の成分を含有していてもよい。ただし、(C)その他の成分に、(A)EPDM以外のEPDM、及び液状油は含まれない。
(C)その他の成分としては、公知のものが適宜使用できる。
例えば、(A)EPDMは主鎖中に二重結合を有するので、加硫による架橋が可能であり、好ましい(C)その他の成分として硫黄、加硫促進剤が例示できる。
また、絶縁組成物を架橋させる架橋剤が、(C)その他の成分として例示できる。好ましい架橋剤としては、ジクミルパーオキサイド等の有機過酸化物が例示できる。
さらに、前記硫黄、加硫促進剤及び架橋剤以外の(C)その他の成分としては、充填材、顔料、老化防止剤、着色剤等が例示できる。
【0017】
前記絶縁組成物において、(C)その他の成分の合計含有量は、(A)EPDMの含有量100質量部に対して、120質量部以下であることが好ましく、95質量部以下であることがより好ましい。
【0018】
前記絶縁組成物において、(A)EPDM、(B)固形油及び(C)その他の成分は、それぞれ一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すればよい。
【0019】
前記絶縁組成物は、(A)EPDM及び(B)固形油、並びに必要に応じて(C)その他の成分を配合することで製造できる。
各成分の配合時には、これら成分を添加して、各種手段により十分に混合することが好ましい。そして、各成分は、これらを順次添加しながら混合してもよいし、全成分を添加してから混合してもよい。
前記各成分の混合方法は、特に限定されず、例えば、撹拌翼、ボールミル、超音波分散機、混錬機等を使用して、常温又は加熱条件下で所定時間混合する公知の方法を適用すればよい。
また、絶縁組成物の製造後に直ちに、後述するように絶縁組成物を混錬し、加熱成形して成形品を製造したい場合には、絶縁組成物の製造を兼ねて混錬を行ってもよい。
(C)その他の成分として、硫黄又は架橋剤を使用する場合には、これらは成形品製造直前に、絶縁組成物に配合することが好ましい。
【0020】
前記絶縁組成物は、前記液状油を含有していなくても、混合時、混錬時の流動性が良好であるため、所望の形状に容易に成形でき、成形性に優れる。これは、(B)固形油を含有していない絶縁組成物でも同様である。性状を問わず油性成分の含有量が極めて少ないか又はゼロである組成物で、このような優れた流動性を達成した点で、前記絶縁組成物は、従来にない優れたものである。
【0021】
<成形品>
本発明に係る成形品は、前記絶縁組成物を用いて形成したことを特徴とする。本発明に係る成形品は、前記絶縁組成物を使用すること以外は、公知の成形品の場合と同様の方法で製造でき、例えば、絶縁組成物を常温又は加熱条件下で所定時間混錬した後、加熱成形等により形成すればよい。かかる成形品としては、シートや、型を用いて成形した非シート状のモールドが例示でき、形状は目的に応じて任意に設定すればよい。
【0022】
前記成形品は、前記絶縁組成物から得られ、この組成物に由来する液状油を含有していないので、その表面への油性成分の滲出が顕著に抑制される。絶縁組成物が少量の(B)固形油を含有している場合でも、(B)固形油は液状油とは性状が異なり、さらに含有量が少ないので、成形品の表面への滲出が抑制される。そして、絶縁組成物は(B)固形油の含有量が少ないか又はゼロであるので、得られる成形品は高純度であり、架橋度が高くて耐熱性が高いなど、優れた特性を有する。
【実施例】
【0023】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に、何ら限定されるものではない。
【0024】
[実施例1〜2、比較例1〜7]
<絶縁組成物及び成形品の製造>
表1に示す組成となるように、まず、(C)その他の成分である硫黄及び架橋剤を除く各成分を添加し、2本ロールを使用して120℃で10〜15分間ロール混錬した後、さらに、硫黄及び架橋剤を添加して、50℃で5〜10分間混錬して、絶縁組成物を製造した。
【0025】
なお、表1中の各成分の略号はそれぞれ以下のものを意味する。
(A)EPDM
(A)−1:EPT X−4010M(三井化学社製、ムーニー粘度(ML1+4,100℃)8)
(A)−2:EPT 4021(三井化学社製、ムーニー粘度(ML1+4,100℃)24)
(B)固形油
(B)−1:ハイワックス(三井化学社製)
(C)その他の成分
(C)−1:硫黄(鶴見化学工業社製)
(C)−2:加硫促進剤(ステアリン酸亜鉛、堺化学社製)
(C)−3:架橋剤(ジクミルパーオキサイド、化薬アクゾ社製)
(C)−4:充填材(バーゲスKE、バーゲス社製)
(C)−5:老化防止剤(ノクラック300、大内新興社製)
(C)−6:顔料(亜鉛華、三井金属鉱業社製)
(C)−7:着色剤(カーボン、旭カーボン社製)
(D)(A)EPDM以外のEPDM
(D)−1:EPDM、EPT 3045(三井化学社製、ムーニー粘度(ML1+4,100℃)40)
(E)液状油
(E)−1:サンパー2280(日本サン石油社製)
【0026】
次いで、熱プレス機を使用して、得られた絶縁組成物を170℃で15分間加熱成形し、厚さ2mmのシート状の成形品を製造した。
【0027】
<絶縁組成物及び成形品の評価>
(絶縁組成物の流動性)
成形品製造時の前記絶縁組成物について、流動性を下記評価基準に従って評価した。結果を表1に示す。
○:流動性が良好で、短時間で容易に混錬できた。
△:流動性が悪く、混錬に長時間を要した。
×:流動性が極めて悪く、充填材を全量添加して混錬できなかった。
【0028】
(成形品の網目鎖密度)
成形品の網目鎖密度を求め、架橋度を確認した。結果を表1に示す。網目鎖密度の測定方法は以下の通りである。
成形品から短冊状試料を作製し、そのサイズ(縦、横、厚さ)、及び質量を測定した後、この試料を110℃のキシレン中に24時間浸漬し、次いで、浸漬したままキシレンごと室温まで降温させた。室温に達しところで前記試料を取出し、その浸漬後のサイズ、質量を測定した。そして、浸漬前後の測定値から、平衡膨潤度(1/vr)を求めた(平衡膨潤度=膨潤後の樹脂体積/初期の樹脂体積)。これを用いて、下記式(1)より網目鎖密度(νe)を求めた(「新版 ゴム技術の基礎 改訂版、日本ゴム協会編、p51−52」参照)。
【0029】
【数1】

(式中、χ=0.3、Vs=膨潤ゴム中の溶媒のモル体積(質量増加よりキシレン量を決定)である。)
【0030】
網目鎖密度の値が200以上であれば、耐熱性に優れると判断でき、200未満であれば、耐熱性が不良であると判断できる。
【0031】
(成形品の油性成分の移行)
自動車規格「JASO M 305(88)5.11(汚損試験)」に準じて、成形品を白色板で挟持し、80℃で24時間、4.4N(0.45kgf)の荷重をかけた後、白色板表面を目視観察することで、成形品の油性成分の移行の有無を確認した。結果を表2に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
上記結果から明らかなように、実施例1及び2では、絶縁組成物の流動性が良好で混錬も容易であり、成形性に優れていた。また、成形品も油性成分の移行が認められず、表面への油性成分の滲出が抑制されていた。さらに、成形品の網目鎖密度が高かった。特に、(B)固形油も使用していない実施例1では、網目鎖密度の向上が顕著であった。
【0034】
これに対して、比較例1及び2では、成形品の網目鎖密度が実施例1及び2よりも低かった。これは、絶縁組成物の(B)固形油の含有量が高いことが原因であると推測された。これら実施例及び比較例においては、絶縁組成物の(B)固形油の含有量が高いほど、成形品の網目鎖密度が低くなった。
また、比較例3及び4では、成形品の網目鎖密度が低いことに加え、比較例1及び2よりも絶縁組成物の流動性が低かった。これは(A)EPDMのムーニー粘度(ML1+4,100℃)が大きいことが原因であると推測された。
そして、比較例5では、さらに流動性が低く、充填材を全量添加して混錬できず、成形品を製造できなかった。これは、比較例5で使用した(A)EPDMのムーニー粘度(ML1+4,100℃)がさらに大きいことが原因であると推測された。
また、比較例6及び7では、成形品の油性成分の移行が認められた。これは、液状油を使用したことが原因である。また、これら比較例においても、絶縁組成物の(B)固形油の含有量が高い方が、成形品の網目鎖密度が低くなった。
【0035】
このように、絶縁組成物において、(A)EPDMのムーニー粘度(ML1+4,100℃)と、(B)固形油の含有量とを所定の値よりも小さくすることで、製造時の成形性に優れ、且つ表面への油性成分の滲出が抑制された、耐熱性を有する成形品が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、電力ケーブル等で使用するものをはじめ、種々の絶縁ゴムの成形品に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ムーニー粘度(ML1+4,100℃)が24未満であるエチレン−プロピレン−ジエンゴムを含有し、
前記(A)エチレン−プロピレン−ジエンゴムの含有量100質量部に対する、(B)常温で固形状の油性成分の含有量が30質量部未満であり、
常温で液状の油性成分を含有しないことを特徴とする絶縁組成物。
【請求項2】
前記(A)エチレン−プロピレン−ジエンゴムの含有量100質量部に対する、(B)常温で固形状の油性成分の含有量が10質量部以下であることを特徴とする請求項1に記載の絶縁組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の絶縁組成物を用いて形成したことを特徴とする成形品。

【公開番号】特開2013−35965(P2013−35965A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174149(P2011−174149)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】