説明

絶縁被膜処理剤と該被膜処理剤を塗布した方向性電磁鋼板及びその絶縁被膜処理方法

【課題】本発明は、クロム酸を含有しない方向性電磁鋼板の電気絶縁被膜の被膜張力を従来より高張力化し、電磁鋼板の磁気特性を向上させることを目的とする。
【解決手段】表面にりん酸塩とコロイド状シリカを主成分とし、りん酸塩100重量部に対しコロイド状シリカ30〜70重量部とりん酸塩中の金属成分が、2価の金属元素を20〜80重量%、3価金属が10〜70重量%、4価以上の価数を持つ金属元素が3〜20重量%であることを特徴とする、電磁鋼板の絶縁被膜用処理剤と該処理液を塗布焼付けた組成の高張力絶縁被膜を有する方向性電磁鋼板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロムを含有せずに張力絶縁被膜を有する方向性電磁鋼板と、該鋼板に塗布する絶縁被膜処理剤及びその処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板では、スラブを熱延して熱延板とした後、場合によっては焼鈍して冷間圧延し、さらに脱炭焼鈍を経て高温仕上げ焼鈍した際に形成されるフォルステライト層と、仕上げ焼鈍の後にフラットニングと同時にりん酸塩などを主成分とする処理液を塗布し焼き付け形成されるりん酸塩被膜層の2層の絶縁被膜がある。
【0003】
フォルステライト層は1次被膜とも称され、鋼板とりん酸塩被膜の密着性向上に重要な役割を果たしている。りん酸塩被膜は2次被膜とも称され、電磁鋼板に絶縁性を付与して渦電流損を低減して鉄損を改善し電気機器の効率を向上させるが、絶縁性以外にも耐蝕性、耐熱性、すべり性、加工性といった種々の被膜特性が要求されている。
【0004】
つまり、電磁鋼板を加工してトランスなどの鉄芯を製造するためには種々の工程を経る必要があるが、この鉄芯製造の際に加工性、耐熱性、すべり性が劣っていると歪み取り焼鈍時に被膜が剥離したりして絶縁性が低下したり、鋼板を積層するのに時間がかかったりして作業性や組み立て効率が悪化する。
【0005】
更に方向性電磁鋼板の絶縁被膜には、電磁鋼板に表面張力を付与し方向性電磁鋼板の磁気特性を向上させるという特性がある。これは張力を付与された電磁鋼板は容易に磁壁移動が可能であり、その結果、鉄損が改善するもので、方向性電磁鋼板を鉄芯に用いて製造されたトランスでは、騒音の主原因のひとつである磁気ひずみの低減にも効果がある。
【0006】
特許文献1には、仕上げ焼鈍後に鋼板表面に形成されたフォルステライト被膜の上に特定組成のりん酸塩、クロム酸塩、コロイド状シリカを主成分とする絶縁被膜処理液を塗布焼き付けることにより、高い張力を有する絶縁被膜を鋼板表面に形成し、方向性電磁鋼板の鉄損と磁気ひずみを低減する方法が開示されている。
また特許文献2には、粒径が8mμm以下の超微粒子コロイド状シリカと第一りん酸塩、クロム酸塩を特定割合含有する処理液を塗布焼き付けることにより、絶縁被膜の高張力を保持し、さらに被膜の潤滑性を向上する方法が開示されている。
さらに特許文献3において、りん酸塩とクロム酸塩とガラス転移点が950〜1200℃のコロイド状シリカを主成分とする絶縁被膜を特定付着量とする高張力絶縁被膜を有する方向性電磁鋼板に関する技術が開示されている。
【0007】
上記公報に開示された技術により、各種被膜特性が格段に優れ、被膜張力も従来より向上したものの、いずれもクロム化合物であるクロム酸塩が配合されているが、近年では環境問題がクローズアップされており、鉛、クロム、カドミウムといった化合物の使用を禁止・制限することが求められている。
【0008】
上記クロム化合物を含有しない技術として、特許文献4にはコロイド状シリカをSiOで20重量部、りん酸アルミを10〜120重量部、ほう酸2〜10重量部とMg、Al、Fe、Co、Ni、Znのそれぞれの硫酸塩の内から選ばれる1種または2種の合計を4〜40重量部とを含有する処理液を300℃以上で焼付処理する絶縁被膜処理方法が開示されている。
さらに特許文献5には、Ca、Mn、Fe、Zn、Co、Ni、Cu、B及びAlから選ばれる有機酸塩として、蟻酸塩、酢酸塩、蓚酸塩、酒石酸塩、乳酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩およびサリチル酸塩から選ばれる有機酸塩の1種または2種以上を添加することを特徴とする方向性電磁鋼板用表面処理剤に関する技術が開示されている。
【0009】
しかしながら、上記特許文献4では、硫酸塩中の硫酸イオンによる耐蝕性低下の問題があり、特許文献5では、有機酸塩中の有機酸による変色および液安定性に問題が有り、更なる改善が必要であった。
【0010】
なお特許文献6には、段落〔0033〕に、「第一層中のりん酸水素塩から遊離したりん酸を補助するものとして、第一層中に遊離のりん酸を添加することも可能である。また、遊離のりん酸を過剰に添加すると第一層中のりん酸分が余剰となるので、酸化クロムを併用することで耐蝕性が向上するだけでなく、余剰りん酸による歪み取り焼鈍時の焼き付き、いわゆるスティッキングを防止することが可能である。」との技術が開示されているが、上記公報の技術にはホウ酸アルミニウムを主成分とする第二層が必須であって、遊離のりん酸と第二層との化学的親和性に着目した技術であり、従って第一層と第二層という複数層状構造が不可欠で工業的にコスト高になるという問題点があった。
【0011】
また、表面処理鋼板の分野でも同様にクロムを含有しないコーティングの開発が進められており、特許文献7には、水ガラスと少なくともチオカルボニル基含有化合物およびバナジウム酸化合物のうち少なくとも1種を含む皮膜層を持つ非クロム型耐熱処理鋼板に関する技術が開示されている。
さらに、特許文献8には、ジルコニウム化合物として、10〜30質量%、バナジル化合物をバナジウムとして5〜20質量%含有している皮膜を少なくとも片面に付着量として200〜1200mg/m形成する技術が開示されている。
【0012】
しかしながら、これら表面処理鋼板用のコーティングでは、鋼板に張力を付与する被膜張力も無くまた張力付与に関する技術的言及は無く、さらに電磁鋼板では必要とされる歪み取り焼鈍に耐える耐熱性も無く、電磁鋼板用としては使用に耐えるものではなかった。
【0013】
一方、特許文献9には、酸化アルミニウムあるいは酸化アルミニウム−酸化ホウ素を主成分とし、さらに添加剤としてバンジウム化合物、ビスマス化合物、鉛化合物の中より選ばれる1種または2種以上を含み、被膜形成反応を促進する技術が開示されている。
また特許文献10には、αアルミナ、ムライト、コーディエライト、ZrO、MgAl、MgSiO、窒化ケイ素、あるいは炭化ケイ素などのセラミック微結晶と、酸化アルミニウム、あるいは酸化アルミニウム−酸化ホウ素、さらに必要に応じバナジウム化合物、ビスマス化合物、鉛化合物の3種の中より選ばれる1種または2種以上の添加物を含む絶縁被膜に関する技術が開示されている。
【0014】
しかし、これらの技術では酸化アルミニウムあるいは酸化アルミニウム−酸化ホウ素を含有するため、焼付け温度が低くできず、被膜形成が困難で生産性が低いといった主に生産上の問題点が解決できず、一般化には至っていない。
【0015】
【特許文献1】特公昭53−28375号公報
【特許文献2】特開昭61−41778号公報
【特許文献3】特開平11−071683号公報
【特許文献4】特公昭57−9631号公報
【特許文献5】特開2000−178760号公報
【特許文献6】特開2001−152354号公報
【特許文献7】特開2000−219976号公報
【特許文献8】特開2003−055777号公報
【特許文献9】特開平08−239770号公報
【特許文献10】特開平08−239769号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、方向性電磁鋼板製造の最終工程で鋼板に塗布し焼き付けることにより表面に形成される絶縁被膜の性状を改善することにより、クロム化合物を含有しないにもかかわらず、密着性などの各種被膜特性が良好で生産性も良好であり、かつ従来よりも格段に優れた高張力被膜を有する方向性電磁鋼板を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するため、本発明は以下の構成を要旨とする。
(1)りん酸塩とコロイド状シリカを主成分とし、りん酸塩100重量部に対しコロイド状シリカ30〜70重量部と、りん酸塩中の金属成分が、2価の金属元素を20〜80重量%、3価金属が10〜70重量%、4価以上の価数を持つ金属元素が3〜20重量%であることを特徴とする方向性電磁鋼板の絶縁被膜用処理剤。
(2)表面に、りん酸塩とコロイド状シリカ中のシリカ分を主成分とし、りん酸塩とシリカ分の比率がりん酸塩に対しシリカ分が23〜41重量%でかつ、りん酸塩の全金属元素中の2価の金属元素の比率が20〜80重量%、3価の金属元素の比率が10〜70重量%、4価以上の金属元素の比率が3〜20重量%であることを特徴とする絶縁被膜を有する方向性電磁鋼板。
(3) 前記(1)又は(2)に記載のりん酸塩中の金属成分が、2価の金属元素としてMg、Ca、Sr、Ni、Co、Mn、Znの群、3価の金属元素としてFe、Al、Mnの群、4価以上の金属元素としてMo、V、Zrの群からなり、これらそれぞれの群の中から少なくとも1種を選択してなることを特徴とするクロムを含有しない絶縁被膜を有する方向性電磁鋼板。
【0018】
(4) 方向性電磁鋼板にりん酸塩とコロイド状シリカを主成分とする処理剤を塗布して張力被膜を形成する際に、りん酸塩中の2価の金属元素としてMg、Ca、Sr、Ni、Co、Mn、Znの群、3価の金属元素としてFe、Al、Mnの群、4価以上の金属元素としてMo、V、Zrの群からなり、これらそれぞれの群の中から少なくとも1種の金属元素を選択してなるりん酸塩混合物100重量部に対し、コロイド状シリカ40〜67重量部とりん酸を2〜50重量部含有し、pHが1〜4で固形分濃度が15〜35%の処理剤を塗布乾燥して焼き付け処理することを特徴とするクロムを有しない方向性電磁鋼板の絶縁被膜処理方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、鋼板の表面に付与される被膜張力が大きく、密着性、耐蝕性が良好で、磁気特性も良好な方向性電磁鋼板を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に本発明の内容を詳細に説明する。
まず、本発明を適用する電磁鋼板について、その製造方法としては特に限定するものではなく、従来開示されている方法により製造された仕上げ焼鈍後の方向性電磁鋼板で、通常のフォルステライト被膜を有する鋼板を用いるのが好適である。仕上げ焼鈍後は、余剰の焼鈍分離剤を水洗除去し、硫酸浴などによる酸洗処理、水洗処理を行い表面洗浄と表面の活性化を行った後、本発明の処理液を塗布・乾燥し焼き付けるものである。
【0021】
具体的にはSiを2.0〜4.0wt%含有し、AlN、MnS、CuSなどの化合物をインヒビターとして含有するスラブを熱延してから、場合によっては焼鈍後に冷延して、最終的に0.2〜0.5mm程度の板厚としたものを脱炭焼鈍し、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布してから、1100℃前後までゆっくり加熱してバッチ炉で高温焼鈍を行い、いわゆる2次再結晶させると共に表面にフォルステライト被膜を形成した後、余剰のMgOを水洗したものを用いる。
【0022】
次に、本発明で使用する絶縁被膜処理剤は、添加するりん酸塩に特徴がある。
すなわち、りん酸塩には様々な種類があるが、本発明では2価のりん酸金属塩と3価のりん酸金属塩と4価以上のりん酸金属塩を混合し、さらに好適には特定割合で混合することである。
【0023】
具体的には、2価のりん酸金属塩としてりん酸マグネシウム、りん酸カルシウム、りん酸ストロンチウム、りん酸ニッケル、りん酸マンガン、りん酸コバルト、りん酸亜鉛などが適当で、3価のりん酸金属塩としてはりん酸アルミニウム、りん酸鉄、りん酸マンガンが、4価以上のりん酸金属塩として、りん酸モリブデン、りん酸バナジウム、りん酸ジルコニウムが適当である。
【0024】
さらには、2価ではりん酸マグネシウム、りん酸マンガン、りん酸ニッケル、りん酸亜鉛を、3価ではりん酸アルミニウムを、4価以上ではりん酸バナジウムを、それぞれ少なくとも1種以上含有させることが好ましい。
【0025】
りん酸マンガンは特異な性質を持ち、2価としても3価としても安定なりん酸塩を形成可能であるが、比較的2価のりん酸金属塩として安定であるため、2価として好適である。同様に複数の価数が存在する場合でも、処理液のpHや配合する配位子によって、特定価数のりん酸金属塩として安定する場合には使用することが可能である。
これらりん酸塩は、水溶性である場合には水溶液として使用するが、難溶性の場合にはゾル状やコロイド状の分散液を用いても良い。
【0026】
次に、本発明で使用するりん酸塩の形態は特に限定するものでは無く、従って処理液に使用するりん酸としては、オルトりん酸やメタりん酸、ポリりん酸が使用できる。また、ホスホン酸を用いても良い。
【0027】
処理液中の価数と、絶縁被膜中の価数が異なっていても問題無い。すなわち、焼付けにより価数が変化することは十分考えられ、本発明の場合には大気中で800℃から1000℃で加熱することからオルトりん酸塩が安定であり、処理液中の状態とは異なり化学的に安定なオルトりん酸塩状態を取り易いと考えられる。
【0028】
絶縁被膜中のりん酸金属塩の金属原子の価数が不明な場合にはX線構造解析を行い、りん酸金属塩の構造を決定して価数を決めることも可能である。この場合、りん酸鉄は非晶質になり易く、X線構造解析が困難な場合もあるが、オルトりん酸鉄が安定であることから、鉄元素は3価になっていると考えて問題ない。
【0029】
それぞれの価数の金属元素の配合割合は、2価の金属元素が20〜80wt%、3価の金属元素が10〜70wt%、4価以上の金属元素が3〜20wt%に限定される。その理由は、2価金属元素が20wt%未満、3価金属元素が10wt%未満、4価以上の金属元素が3wt%未満では、本発明の効果が不完全で、被膜の密着性や耐蝕性、あるいは被膜張力が劣化する恐れがあり、2価の金属元素が80wt%超では被膜が白色化して密着性が低下する恐れがあり、3価金属元素が70wt%超では被膜張力が劣化する傾向があり、4価以上の金属元素が20wt%超では処理液の安定性が劣るためである。
さらに好適な範囲は2価金属元素が40〜60wt%、3価の金属元素が30〜50wt%、4価以上の金属元素が5〜15wt%である。
【0030】
また、本発明で使用する絶縁被膜処理剤はpH1〜4の範囲とするのがよい。pHが1未満では鋼板を腐食し易く、耐蝕性が劣化する恐れがあり、4超では処理液が不安定になり、沈殿等が発生してコーティングが困難になるためである。さらに好適にはpH2〜3の範囲である。
pHの調整には、各種pH調整剤やジオキサン、エタノール、クエン酸、アジピン酸、りんご酸などの有機物を用いても良い。
【0031】
本発明で使用するコロイド状シリカは、特に粒径を限定するものではないが、5〜50nmのものがよく、さらには粒径6〜15nmのものが好適である。また、処理剤がpH2〜6の酸性領域であることから、添加するコロイド状シリカは酸性タイプのものが好適で、表面にAl処理を施したものは特に良好である。
【0032】
絶縁被膜の形成量は2〜7g/mが好適である。2g/m未満では高張力を得るのが困難であり、また絶縁性、耐蝕性等も低下し、7g/mを超えると占積率が低下するためである。
【0033】
次に、本発明で使用する処理剤のコロイド状シリカとりん酸塩との配合割合は固形分換算で、りん酸塩100重量部に対し、コロイド状シリカが30〜70重量部に限定される。30重量部未満ではコロイド状シリカの割合が少な過ぎて張力効果が劣り、70重量部超ではコーティングに割れや剥離などの欠陥が発生しやすくなるためである。
【0034】
本発明の効果が発現するメカニズムは詳細には明らかではないが、一般にりん酸金属塩は重合し易く、緻密な被膜を形成するものであるが、本発明のような電磁鋼板用途では比較的大量のコロイド状シリカが混合されており、結合強度の高い被膜を得ることは困難であった。
そこで本発明者らはりん酸金属塩の重合を助長する組成を鋭意検討した結果、りん酸金属塩の金属元素の価数を複数導入し、かつ2価と3価と4価以上の金属元素の構成割合を特定することにより、りん酸金属塩がより重合し、緻密な被膜を形成することを知見した。特に4価以上の金属元素を特定量導入することで飛躍的に緻密な被膜が形成されることを見出したものである。
【実施例】
【0035】
次に本発明の実施例について述べる。
Siを3.3wt%、Alを0.027wt%、Nを0.008wt%、Cを0.08wt%含有する溶鋼を鋳造し、スラブ加熱後熱間圧延を行い、1100℃で5分間熱延板を焼鈍してから冷却し、冷間圧延を行い0.23mm厚にした。その後850℃で3分間脱炭焼鈍を行い、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布した後、1200℃で20時間最終仕上げ焼鈍を行った。このコイルから幅7cm×長さ30cmの試料を切り出し、表面に残存している焼鈍分離剤を水洗と軽酸洗で除去し、グラス被膜を残した後に歪取り焼鈍を行った。
【0036】
次に、表1に示す配合割合でりん酸塩溶液を調製した後、塗布量が4g/mになるよう鋼板にロールコーターで塗布し、870℃の加熱炉中で板温が850℃になるように60秒間焼き付けた後、被膜特性と磁気特性を評価した。
【0037】
結果を表2に示す。
比較例1では、4価以上の金属元素を配合しないため被膜張力が劣り、比較例2では3価金属元素を配合しないため密着性が劣化し、比較例3では2価金属元素を配合しないため本発明の効果が得られず耐蝕性が劣り、比較例4では2価金属元素の配合量が少なすぎるためまだら模様が発生して耐蝕性が非常に悪くなった。
比較例5では2価金属元素が多過ぎるため本発明の効果が得られず密着性に劣り、比較例6では3価の金属元素が少な過ぎるためやはり本発明の効果が得られず密着性が低い。
比較例7では3価の金属元素が逆に多過ぎて被膜張力が劣化し、比較例8では4価以上の金属元素が少な過ぎて本発明の効果が得られずに被膜張力が低下し、比較例9では4価以上の金属元素が多過ぎて処理液が不安定になり、かろうじて塗布はできたが被膜張力が劣化した。比較例10では、りん酸塩に対するシリカの割合が多過ぎるため密着性が低い。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
この試験の結果、りん酸塩100重量部にコロイド状シリカ30〜70重量部、りん酸金属塩中の2価の金属元素が20〜80重量%、3価の金属元素が10〜70重量%、4価以上の金属元素が3〜20重量%の処理液を塗布焼付けた絶縁被膜を有する本発明の電磁鋼板は、比較例と比べて高張力で密着性、耐蝕性に優れ、磁気特性の改善効果が顕著であった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
りん酸塩とコロイド状シリカを主成分とし、りん酸塩100重量部に対しコロイド状シリカ30〜70重量部と、りん酸塩中の金属成分が、2価の金属元素を20〜80重量%、3価金属が10〜70重量%、4価以上の価数を持つ金属元素が3〜20重量%であることを特徴とする方向性電磁鋼板の絶縁被膜用処理剤。
【請求項2】
表面に、りん酸塩とコロイド状シリカ中のシリカ分を主成分とし、りん酸塩とシリカ分の比率がりん酸塩に対しシリカ分が23〜41重量%でかつ、りん酸塩の全金属元素中の2価の金属元素の比率が20〜80重量%、3価の金属元素の比率が10〜70重量%、4価以上の金属元素の比率が3〜20重量%であることを特徴とする絶縁被膜を有する方向性電磁鋼板。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のりん酸塩中の金属成分が、2価の金属元素としてMg、Ca、Sr、Ni、Co、Mn、Znの群、3価の金属元素としてFe、Al、Mnの群、4価以上の金属元素としてMo、V、Zrの群からなり、これらそれぞれの群の中から少なくとも1種を選択してなることを特徴とするクロムを含有しない絶縁被膜を有する方向性電磁鋼板。
【請求項4】
方向性電磁鋼板にりん酸塩とコロイド状シリカを主成分とする処理剤を塗布して張力被膜を形成する際に、りん酸塩中の2価の金属元素としてMg、Ca、Sr、Ni、Co、Mn、Znの群、3価の金属元素としてFe、Al、Mnの群、4価以上の金属元素としてMo、V、Zrの群からなり、これらそれぞれの群の中から少なくとも1種の金属元素を選択してなるりん酸塩混合物100重量部に対し、コロイド状シリカ40〜67重量部とりん酸を2〜50重量部含有し、pHが1〜4で固形分濃度が15〜35%の処理剤を塗布乾燥して焼き付け処理することを特徴とするクロムを有しない方向性電磁鋼板の絶縁被膜処理方法。


【公開番号】特開2010−13692(P2010−13692A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−174103(P2008−174103)
【出願日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】