説明

絶縁診断装置

【課題】固体絶縁機器で発生するnsオーダの部分放電の検出感度を向上させる。
【解決手段】固体絶縁機器を構成する絶縁層2表面に直接設けられた第1の検出電極4と、絶縁層2表面に高周波成分遅延部材6を介して設けられた第2の検出電極5と、第1の検出電極4と第2の検出電極5に接続された差動回路7と、差動回路7に接続された積分回路9と、積分回路9に接続された信号を伝送する同軸ケーブル10のような伝送ケーブルと、伝送ケーブルに接続された部分放電の信号を処理する処理回路11とを備え、高周波成分遅延部材6は、周波数がnsオーダの信号を減衰させるとともに、遅延させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、絶縁材料でモールドされた固体絶縁スイッチギヤのような固体絶縁機器の絶縁状態を診断する絶縁診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、真空バルブ、主回路導体などをエポキシ樹脂でモールドした固体絶縁スイッチギヤにおいては、絶縁層の表面に検出電極を設け、絶縁劣化に伴って発生する部分放電を検出するものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、検出電極には、主回路や接地などからのノイズが重畳され、検出感度に限界を生じていた。
【0003】
一方、検出電極を二組準備し、これらを差動回路に接続してノイズを除去し、部分放電の検出感度を向上させるものが知られている。これは、一方の検出電極と他方の検出電極で取付け場所が異なり、同様に重畳されるノイズを除去しようとするものである(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、必ずしも両者で同様のノイズが重畳されているとは限らず、また、両者で部分放電が発生していれば、どちらのものかを見分けることが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−168489号公報
【特許文献2】特開2000−55974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、被測定物の固体絶縁機器に部分放電を検出する検出電極を隣接させて二組設け、差動回路で処理することにより、同様に重畳される周波数がμsオーダのノイズ除去を行い、部分放電によって発生するnsオーダの信号の検出感度を向上し得る絶縁診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、実施形態の絶縁診断装置は、固体絶縁機器を構成する絶縁層表面に直接設けられた第1の検出電極と、前記絶縁層表面に高周波成分遅延部材を介して設けられた第2の検出電極と、前記第1の検出電極と前記第2の検出電極に接続された差動回路と、前記差動回路に接続された積分回路と、前記積分回路に接続された信号を伝送する伝送ケーブルと、前記伝送ケーブルに接続された部分放電の信号を処理する処理回路とを備え、前記高周波成分遅延部材は、周波数がnsオーダの信号を減衰させるとともに、遅延させることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の実施例1に係る絶縁診断装置の構成を示す回路図。
【図2】本発明の実施例1に係る絶縁診断装置での測定信号を説明する図。
【図3】本発明の実施例2に係る絶縁診断装置の構成を示す回路図。
【図4】本発明の実施例3に係る絶縁診断装置の構成を示す回路図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施形態は、絶縁層内を伝播する部分放電信号を感度よく検出するものである。以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0009】
先ず、本発明の実施例1に係る絶縁診断装置を図1、図2を参照して説明する。図1は、本発明の実施例1に係る絶縁診断装置の構成を示す回路図、図2は、本発明の実施例1に係る絶縁診断装置での測定信号を説明する図である。なお、固体絶縁機器を絶縁母線を用いて説明する。
【0010】
図1に示すように、絶縁母線は、主回路の中心導体1と、その周りにエポキシ樹脂をモールドして形成した絶縁層2と、絶縁層2の表面に導電性塗料を塗布して設けられた接地層3で構成されている。
【0011】
絶縁層2の表面には、板状の第1の検出電極4が、直接、設けられている。即ち、絶縁層2と同様材料で接着したり、モールド時に埋め込まれたりして設けられている。そして、第1の検出電極4に近接し、板状の第2の検出電極5が高周波成分遅延部材6を介して絶縁層2の表面に設けられている。高周波成分遅延部材6は、ゲル化状態のシリコン材や発泡させた絶縁材のような密度の低いものからなり、所定の絶縁厚さを有している。
【0012】
第1の検出電極4と第2の検出電極5は、2つの信号の差分を算出する差動回路7に接続され、増幅回路8を介し、積分回路9に入力されている。積分回路9の出力は、同軸ケーブル10(伝送ケーブル)を介し、測定信号を処理する処理回路11に入力されている。処理回路11では、部分放電の大きさや頻度などを算出して絶縁劣化の診断を行う。固体絶縁機器の正面扉やこれを制御する電気室に設置されていてもよく、商用周波電源で動作する。
【0013】
次に、絶縁層2で部分放電が発生したときを図2を参照して説明する。
【0014】
第1の検出電極4では、図2の上段に示すように、部分放電による第1のパルスp1に第1のノイズn1が重畳されたような信号が検出される。これに対し、第2の検出電極5では、下段に示すように、第1のパルスp1よりも波高値が小さく時間幅が伸びた部分放電による第2のパルスp2に第1のノイズn1と波高値と時間幅がほぼ同様な第2のノイズn2が重畳された信号が検出される。
【0015】
これは、第1の検出電極4では絶縁層2内を伝播する部分放電が、直接、検出されるので、立上り時間が数ns〜数100nsの高周波成分を持ち第1のパルスp1として検出される。また、ノイズ成分は、立上り時間が数μs以上のものが殆どであり、第1のノイズn1として検出される。なお、中心導体1や接地層3から伝播されるnsオーダの高周波ノイズは、減衰が大きく検出され難いものとなる。
【0016】
一方、第2の検出電極5では、高周波成分遅延部材6を介して検出されるので、部分放電によるnsオーダの高周波成分は第2のパルスp2で示すように大きく減衰するとともに遅延する。しかしながら、周波数がμsオーダの第2のノイズn2は、nsオーダと比べて減衰し難く、第1のノイズn1とほぼ同様のものとなる。nsオーダの減衰は、高周波成分遅延部材6の材質と距離(厚さ)によって調整することができ、例えば、厚さ数mmのシリコンゲルを用いることにより、数nsの立上り時間を数μsに遅延させることができる。
【0017】
これらの信号を差動回路7で処理すれば、周波数がμsオーダのノイズは除去され、部分放電によるnsオーダの信号の検出感度を向上させることができる。第1の検出電極4、第2の検出電極5から積分回路9までの配線を短くすると、検出系に結合されるノイズを抑制することができる。また、第1の検出電極4と第2の検出電極5が近接しているので、同様のノイズが検出され、これを差動することで、大きなノイズ除去効果を得ることができる。更に、積分回路9を介して信号を伝送しているので、耐ノイズ性を向上させることができる。
【0018】
上記実施例1の絶縁診断装置によれば、絶縁層2の表面に、直接、第1の検出電極4と、高周波成分遅延部材6を介した第2の検出電極5を設け、これらの信号を差動回路7で処理することにより、部分放電によって発生するnsオーダの高周波成分の信号を感度よく検出することができる。なお、μsオーダのノイズ成分は、第1と第2の検出電極4、5で同様に検出され、ノイズ除去することができる。
【実施例2】
【0019】
次に、本発明の実施例2に係る絶縁診断装置を図3を参照して説明する。図3は、本発明の実施例2に係る絶縁診断装置の構成を示す回路図である。なお、この実施例2が実施例1と異なる点は、耐ノイズ性を向上させたことである。図3において、実施例1と同様の構成部分においては、同一符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0020】
図3に示すように、第1、第2の検出電極4、5から差動回路7、増幅回路8、積分回路9までの信号検出回路を金属製のシールド容器12に収納している。シールド容器12は、接地層3に接続する。また、処理回路11の動作をバッテリー13で行うようにしている。なお、バッテリー13は、増幅回路8など信号検出回路に設けてもよい。
【0021】
上記実施例2の絶縁診断装置によれば、実施例1による効果のほかに、第1、第2の検出電極4、5から積分回路9までの信号検出回路に侵入するノイズや、電源から侵入するノイズを低減することができる。
【実施例3】
【0022】
次に、本発明の実施例3に係る絶縁診断装置を図4を参照して説明する。図4は、本発明の実施例3に係る絶縁診断装置の構成を示す回路図である。なお、この実施例3が実施例2と異なる点は、伝送に光ファイバーを用いたことである。図4において、実施例2と同様の構成部分においては、同一符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0023】
図4に示すように、積分回路9には、電気/光の光変換器14を接続し、光ファイバー15(伝送ケーブル)で信号を伝送するようにしている。処理回路11側にも光/電気の光変換器16を接続している。
【0024】
上記実施例3の絶縁診断装置によれば、実施例2による効果のほかに、伝送系に侵入するノイズを低減することができる。
【0025】
以上述べたような実施形態によれば、周波数がnsオーダの信号を感度よく測定することができ、部分放電の検出感度を向上させることができる。
【0026】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0027】
1 中心導体
2 絶縁層
3 接地層
4 第1の検出電極
5 第2の検出電極
6 高周波成分遅延部材
7 差動回路
8 増幅回路
9 積分回路
10 同軸ケーブル
11 処理回路
12 シールド容器
13 バッテリー
14、16 光変換器
15 光ファイバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体絶縁機器を構成する絶縁層表面に直接設けられた第1の検出電極と、
前記絶縁層表面に高周波成分遅延部材を介して設けられた第2の検出電極と、
前記第1の検出電極と前記第2の検出電極に接続された差動回路と、
前記差動回路に接続された積分回路と、
前記積分回路に接続された信号を伝送する伝送ケーブルと、
前記伝送ケーブルに接続された部分放電の信号を処理する処理回路とを備え、
前記高周波成分遅延部材は、周波数がnsオーダの信号を減衰させるとともに、遅延させることを特徴とする絶縁診断装置。
【請求項2】
前記第1の検出電極、前記第2の検出電極、前記差動回路、前記積分回路を金属製のシールド容器に収納したことを特徴とする請求項1に記載の絶縁診断装置。
【請求項3】
前記処理回路をバッテリーで動作させたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の絶縁診断装置。
【請求項4】
前記伝送ケーブルを光ファイバーとしたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の絶縁診断装置。
【請求項5】
前記高周波成分遅延部材は、シリコンゲルであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の絶縁診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−76589(P2013−76589A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215723(P2011−215723)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】