説明

絶縁電線及びそれに用いる絶縁塗料

【課題】耐熱性・高密着性を維持し、かつ高周波領域でのコロナ放電の発生抑制に優れた絶縁電線を提供する。
【解決手段】導体と、式(1)


で表される繰り返し単位を有し、かつ、式(1)中のY1に含まれるフェノール性水酸基の数Z1および式(1)中に含まれるイミド基の数Z2の比が0.15≦Z1/Z2≦0.85であるフェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂からなる絶縁塗料が、導体上に直接または他の絶縁物層を介して塗布、焼付されてなる絶縁皮膜とを備えるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータやトランスなどの電気機器に用いられる絶縁電線、特に、フェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂からなる絶縁塗料を導体上に塗布・焼き付けしてなる絶縁皮膜を有する絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁電線の一種であるエナメル線は、導線上にエナメル塗料を塗布、焼き付けしてなるものである。このエナメル線を巻線にして得られる電気機器用のコイルは大容量、大型重電機器に広く実用されている。また、近年は電気機器の小型化、高性能化に伴い、高電圧インバータ制御によってエナメル線が使用される傾向にある。
【0003】
一般的にエナメル線は、導体の周りに絶縁塗料からなる絶縁皮膜を設けてなる。このエナメル線を使用して電気機器、例えばモータやトランス(変圧器)などを作製する場合、一般的にはモータのコア(磁芯)のスロットに連続的にエナメル線をコイル状に巻回して形成したり、あるいはエナメル線をコイル状に巻いたものをコアのスロットに嵌合、挿入したりする方法が主流であった。
【0004】
一方、断面積の大きな、すなわち外径の大きいエナメル線や、平角導体を有するエナメル線の場合、エナメル線を連続的に巻いて巻き数の多い長尺のコイルを形成するのではなく、巻き数の少ない短尺の小径コイルを複数形成し、これら小径コイルのエナメル線端末を溶接(例えば、電気的に溶接)して繋ぎ合わせ、長尺のコイルを形成する方法が提案されている。このように形成したコイルは、小型で、かつ高密度の磁束が要求される電気機器のコイル、例えば自動車の発電機などのコイルに使用されている。
【0005】
自動車の発電機などに用いられるコイルには、導体の周りにポリエステルイミド樹脂からなる絶縁塗料を塗布、焼付して絶縁皮膜を形成し、そのポリエステルイミド絶縁皮膜の周りにポリアミドイミド樹脂からなる絶縁塗料を塗布、焼付してポリアミドイミドの絶縁皮膜を設けたダブルコート線や、導体の周りにポリアミドイミド樹脂からなる絶縁塗料を塗布、焼付して絶縁皮膜を設けたシングルコート線が主に使用されている。
【0006】
また、一部では、導体の周りにポリイミド樹脂からなる絶縁塗料を塗布、焼付してポリイミドの絶縁皮膜を形成し、そのポリイミド絶縁皮膜の周りにポリアミドイミド樹脂からなる絶縁塗料を塗布、焼付して絶縁皮膜を設け、耐熱性と機械強度を向上させたダブルコート線なども使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
また、熱変色性を向上させるため飽和ポリエステル樹脂と、レゾール型フェノール樹脂とを含有してなる絶縁塗料などが使用されている(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
ところで、ポリアミドイミドエナメル線およびポリイミドエナメル線は連続耐熱区分が180〜220℃クラスと高いことから耐熱エナメル線として多用されているが、ポリアミドイミド絶縁皮膜やポリイミド絶縁皮膜は高耐熱である反面、極性が高いことから誘電率が高い。また、吸水率が高いため、誘電率や誘電正接が高いといった課題があった。
【0009】
インバータ制御の場合、インバータから発生する高いサージ電圧がモータに侵入し、モータ絶縁システムに悪影響を及ぼす。コイル状に巻回したエナメル線間に十分な絶縁性がない場合、コロナ放電によって絶縁層の劣化が促進される。このような高周波課電時のインバータサージ電圧に対して、絶縁皮膜のコロナ放電開始電圧以上であれば、コロナ放電が発生せず寿命が長くなる。
【0010】
コロナ開始電圧を高くする方法としては、絶縁皮膜の厚膜化と低誘電率化が挙げられる。
【0011】
具体的には、フェノール化合物を芳香族ポリエステル樹脂に溶解してなる絶縁塗料を導体に塗布、焼付して絶縁皮膜を形成することで、吸水率が低く、優れた誘電特性を有するエナメル線が得られることが知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0012】
また、絶縁皮膜の誘電率を低くするために、フッ素系ポリイミド樹脂からなる絶縁塗料を導体表面に塗布・焼き付けを行うことなどが提案されている。
【0013】
【特許文献1】特開平5−130759号公報
【特許文献2】特開昭62−127361号公報
【特許文献3】特開2003−16846号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、このような従来技術の方法では、誘電率は低いものの、高温焼き付け時に有害なフッ素系ガスが発生してしまったり、導体と絶縁皮膜との密着性に劣ったりするため、導体と絶縁皮膜との間で皮膜浮きが発生し、課電時に低い電圧で絶縁破壊が発生してしまうことがあった。
【0015】
また、絶縁皮膜の厚膜化は、占積率の点からモータが大型化するなどモータ設計に大きく影響するため好ましくない。
【0016】
従って、本発明の目的は、耐熱性・高密着性を維持し、かつ高周波領域でのコロナ放電の発生抑制に優れた絶縁電線及びそれに用いる絶縁塗料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために本発明は、導体と、下記化学式(1)
【0018】
【化1】

【0019】
で表される繰り返し単位を有し、かつ、化学式(1)中のY1に含まれるフェノール性水酸基の数Z1および化学式(1)中に含まれるイミド基の数Z2の比が0.15≦Z1/Z2≦0.85であるフェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂からなる絶縁塗料が、前記導体上に直接または他の絶縁物層を介して塗布、焼付されてなる絶縁皮膜とを備えた絶縁電線である。
【0020】
前記フェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂は、化学式(1)中のY1およびY2のモル比が0.1≦Y1/Y2≦5であるとよい。
【0021】
前記他の絶縁物層は、シランカップリング剤からなる中間皮膜であるとよい。
【0022】
また本発明は、下記化学式(1)
【0023】
【化2】

【0024】
で表される繰り返し単位を有し、かつ、化学式(1)中のY1に含まれるフェノール性水酸基の数Z1および化学式(1)中に含まれるイミド基の数Z2の比が0.15≦Z1/Z2≦0.85であるフェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂からなる絶縁塗料である。
【0025】
前記フェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂は、化学式(1)中のY1およびY2のモル比が0.1≦Y1/Y2≦5であるとよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、耐熱性・高密着性を維持し、かつ高周波領域でのコロナ放電の発生抑制に優れ、特にモータや変圧器などのコイル用として好適な絶縁電線を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面にしたがって説明する。
【0028】
図1は、本発明の好適な第1の実施形態を示す絶縁電線の横断面図である。
【0029】
図1に示すように、第1の実施形態に係る絶縁電線1は、導体2上に直接フェノール性水酸基(ヒドロキシル基)含有ポリイミド樹脂絶縁皮膜3を設けてなる1層皮膜構造である。
【0030】
第1の実施形態では、導体2として横断面が略矩形状に形成された平角形状の銅導体を用いた。フェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂絶縁皮膜3は、前記した化学式(1)で表されるフェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂からなる絶縁塗料を塗布、焼き付けしてなる。
【0031】
このフェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂からなる絶縁塗料は、溶剤に後述するテトラカルボン酸二無水物、フェノール性水酸基含有ジアミン、芳香族ジアミンおよび/または脂肪族ジアミンを混合することで、溶剤中で合成され、液状の絶縁塗料として得られる。
【0032】
したがって、フェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂を溶剤に合成する際には、フェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂との相溶性に優れる溶剤を用いることが好ましい。
【0033】
この合成反応に用いられる溶剤としては、反応生成物であるフェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂を溶解し得るものであれば特に制限はなく、例えばN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、Y−ブチロラクトンなどの非プロトン系極性溶媒等が挙げられ、これら単独あるいは2種以上を混合して使用してもよい。
【0034】
また、溶剤の使用量は、通常、テトラカルボン酸二無水物およびジアミン化合物の総量が、反応溶液の全量に対して0.1〜40重量%になるような量であることが好ましい。なお、この溶剤には、ポリアミック酸の貧溶媒であるアルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素類を、生成するポリアミック酸が析出しない程度の割合で併用することができる。
【0035】
かかる貧溶媒としては、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、シュウ酸ジエチル、マロン酸ジエチル、ジエチルエーテル、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、エチレングリコール−i−プロピルエーテル、エチレングリコール−n−ブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、1,4−ジクロロブタン、トリクロロエタン、クロルベンゼン、o−ジクロルベンゼン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどを使用することができる。
【0036】
上記化学式(1)におけるXは芳香族テトラカルボン酸二無水物残基を構成する4価の芳香族基である。芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)パーフルオロプロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1’−(3,4−ジカルボキシフェニル)テトラメチルジシロキサン二無水物などを例示できる。
【0037】
化学式(1)におけるY1はフェノール性ヒドロキシ基を1個以上含有する2価の芳香族基であり、特に限定はないが、例えば、フェノール性水酸基含有ジアミンがあり、テトラカルボン酸またはその誘導体と反応してポリイミド前駆体を形成しうるジアミン化合物の2つのアミノ基を除いた残基であることが好ましく、さらに樹脂前駆体に耐熱性を持たせるために芳香環であり、炭素数6〜40のものであることが好ましい。
【0038】
ここで、芳香環を含む基としては、ベンゼン環、ナフタレン環などの芳香環を1つ以上含むものが挙げられる。
【0039】
フェノール性水酸基含有ジアミンとしては、1,3−ジアミノ−4−ヒドロキシベンゼン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニル、ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,6−ジアミノレゾルシノール、4,5−ジアミノレゾルシノールなどを例示できる。
【0040】
化学式(1)におけるY2はフェノール性ヒドロキシル基を含有しない2価の芳香族基であり、例えば、芳香族ジアミンがある。
【0041】
この芳香族ジアミンとしては、1,4−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンなどを例示できる。
【0042】
化学式(1)で示されるY1に含まれるフェノール性ヒドロキシ基の数Z1と化学式(1)に含まれるイミド基の数Z2との比は0.15≦Z1/Z2≦0.85の範囲にあることが望ましい。Z1/Z2が0.15未満の場合、銅との密着力が低くなってしまい、Z1/Z2が0.85を超える場合、銅の密着力が高いものの、誘電率は高く、絶縁破壊電圧が低く、コロナ放電の発生抑制や絶縁破壊防止特性に劣る。
【0043】
また、フェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂は、化学式(1)で示されるY1とY2とのモル比Y1/Y2が、0.1≦Y1/Y2≦5の範囲であることが好ましい。
【0044】
1/Y2が0.1未満の場合、銅との密着力が低く、浮きが発生してしまうため、500kV/mm課電後の外観が不良となってしまう。また、Y1/Y2が5を超える場合、誘電率が高くなり、コロナ放電開始電圧が低くなってしまうため、絶縁破壊電圧が低く、500kV/mm課電後の外観が不良となる。
【0045】
第1の実施形態に係る絶縁電線1では、化学式(1)で示されるフェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂からなる絶縁塗料を導体2上に直接塗布、焼き付けすることで、フェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂絶縁皮膜3を形成している。
【0046】
本実施形態に係るフェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂は、従来の絶縁皮膜材料として広く用いられているポリアミドイミド樹脂やポリイミド樹脂に比べて、誘電率や誘電正接が低い。
【0047】
このため、絶縁電線1によれば、絶縁皮膜であるフェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂絶縁皮膜3の誘電率を、従来の一般的なエナメル線の絶縁皮膜よりも低くでき、インバータサージによる絶縁皮膜の侵食を抑制できる(耐インバータサージ性が高い)。
【0048】
しかも、フェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂絶縁皮膜3は、導体2との密着性も高く、高耐熱で、かつ高周波領域でのコロナ放電の発生抑制や絶縁破壊防止特性に優れる。
【0049】
したがって、絶縁電線1は、特にモータや変圧器などのコイル用として好適な絶縁電線である。
【0050】
また、必要に応じて導体2とフェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂絶縁皮膜3との密着性をさらに向上させるために、図1の絶縁電線1の構成に加え、シランカップリング剤を添加することができる。
【0051】
例えば、図2に示す第2の実施形態に係る絶縁電線21のように、導体2上に他の絶縁物層としての中間皮膜(内層絶縁皮膜)22を設け、その中間皮膜22の上にフェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂絶縁皮膜3を設けてもよい。中間皮膜22は、シランカップリング剤からなる薄膜である。
【0052】
シランカップリング剤としては、中空シリカ上に吸着する性質を有するものであれば、限定するものではない。例えば、3−グリシドキシプロピルメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどが好ましいが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0053】
以下に、より詳細な実施例により、本発明のフェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂からなる絶縁塗料を塗布、焼き付けしてなる絶縁皮膜を備えた絶縁電線を示す。
【0054】
(実施例1)
撹拌器を取りつけた1000mLのセパラブル三口フラスコにシリコンコック付きトラップを備えた玉付冷却管を取りつけた。ピロメット酸二無水物(PMDA;分子量(M.W.)218.12)21.81gおよび3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニル(HOAB;分子量216.24)10.81g、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(DDE;分子量200.24)10.02g、N−メチル−2−ピロリドン170.56gを加え180℃に昇温し、5時間反応させた。回転数は250rpmとし、反応が低下するにしたがい適宜低下させた。なお反応中に生成する水をシリコンコックより取り除いた。この後、真空乾燥を行いフェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂からなる絶縁塗料を得た。平角形状の銅導体を3−アミノプロピルトリメトキシシラン(KBE−903、信越化学社製)の1%水溶液を、平角形状の銅導体上に塗布し、遠赤外加熱炉により100℃×5分で加熱することで1μmの内層絶縁皮膜を設けた。この内層絶縁皮膜の周りに、上記のフェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂からなる絶縁塗料を塗布した後、焼き付けを行い、皮膜厚さが30μmのフェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂絶縁皮膜3を設けた。これによって、絶縁皮膜全体の厚さが31μmのエナメル線(絶縁電線21)を作製した。
【0055】
(実施例2)
撹拌器を取りつけた1000mLのセパラブル三口フラスコにシリコンコック付きトラップを備えた玉付冷却管を取りつけた。PMDA21.81gおよびHOAB17.30g、DDE4.00g、N−メチル−2−ピロリドン172.44gを加え180℃に昇温し、5時間反応させた。回転数は250rpmとし、反応が低下するにしたがい適宜低下させた。なお反応中に生成する水をシリコンコックより取り除いた。この後、真空乾燥を行いフェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂からなる絶縁塗料を得た。平角形状の銅導体を3−アミノプロピルトリメトキシシラン(KBE−903、信越化学社製)の1%水溶液を、平角形状の銅導体上に塗布し、遠赤外加熱炉により100℃×5分で加熱することで1μmの内層絶縁皮膜を設けた。この内層絶縁皮膜の周りに、上記のフェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂からなる絶縁塗料を塗布した後、焼き付けを行い、皮膜厚さが30μmのフェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂絶縁皮膜3を設けた。これによって、絶縁皮膜全体の厚さが31μmのエナメル線(絶縁電線21)を作製した。
【0056】
(実施例3)
撹拌器を取りつけた1000mLのセパラブル三口フラスコにシリコンコック付きトラップを備えた玉付冷却管を取りつけた。PMDA21.81gおよびHOAB3.60g、DDE16.87g、N−メチル−2−ピロリドン169.12gを加え180℃に昇温し、5時間反応させた。回転数は250rpmとし、反応が低下するにしたがい適宜低下させた。なお反応中に生成する水をシリコンコックより取り除いた。この後、真空乾燥を行いフェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂からなる絶縁塗料を得た。平角形状の銅導体を3−アミノプロピルトリメトキシシラン(KBE−903、信越化学社製)の1%水溶液を、平角形状の銅導体上に塗布し、遠赤外加熱炉により100℃×5分で加熱することで1μmの内層絶縁皮膜を設けた。この内層絶縁皮膜の周りに、上記のフェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂からなる絶縁塗料を塗布した後、焼き付けを行い、皮膜厚さが30μmのフェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂絶縁皮膜3を設けた。これによって、絶縁皮膜全体の厚さが31μmのエナメル線(絶縁電線21)を作製した。
【0057】
(比較例1)
撹拌器を取りつけた1000mLのセパラブル三口フラスコにシリコンコック付きトラップを備えた玉付冷却管を取りつけた。PMDA21.81gおよびHOAB1.03g、DDE19.07g、N−メチル−2−ピロリドン167.64gを加え180℃に昇温し、5時間反応させた。回転数は250rpmとし、反応が低下するにしたがい適宜低下させた。なお反応中に生成する水をシリコンコックより取り除いた。この後、真空乾燥を行いフェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂からなる絶縁塗料を得た。平角形状の銅導体を3−アミノプロピルトリメトキシシラン(KBE−903、信越化学社製)の1%水溶液を、平角形状の銅導体上に塗布し、遠赤外加熱炉により100℃×5分で加熱することで1μmの内層絶縁皮膜を設けた。この内層絶縁皮膜の周りに、上記のフェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂からなる絶縁塗料を塗布した後、焼き付けを行い、皮膜厚さが30μmのフェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂絶縁皮膜を設けた。これによって、絶縁皮膜全体の厚さが31μmのエナメル線を作製した。
【0058】
(比較例2)
撹拌器を取りつけた1000mLのセパラブル三口フラスコにシリコンコック付きトラップを備えた玉付冷却管を取りつけた。PMDA21.81gおよびHOAB19.22g、DDE2.22g、N−メチル−2−ピロリドン173gを加え180℃に昇温し、5時間反応させた。回転数は250rpmとし、反応が低下するにしたがい適宜低下させた。なお反応中に生成する水をシリコンコックより取り除いた。この後、真空乾燥を行いフェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂からなる絶縁塗料を得た。平角形状の銅導体を3−アミノプロピルトリメトキシシラン(KBE−903、信越化学社製)の1%水溶液を、平角形状の銅導体上に塗布し、遠赤外加熱炉により100℃×5分で加熱することで1μmの内層絶縁皮膜を設けた。この内層絶縁皮膜の周りに、上記のフェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂からなる絶縁塗料を塗布した後、焼き付けを行い、皮膜厚さが30μmのフェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂絶縁皮膜を設けた。これによって、絶縁皮膜全体の厚さが31μmのエナメル線を作製した。
【0059】
(比較例3)
撹拌器を取りつけた1000mLのセパラブル三口フラスコにシリコンコック付きトラップを備えた玉付冷却管を取りつけた。PMDA21.81gおよびDDE20.02g、N−メチル−2−ピロリドン167.32gを加え180℃に昇温し、5時間反応させた。回転数は250rpmとし、反応が低下するにしたがい適宜低下させた。なお反応中に生成する水をシリコンコックより取り除いた。この後、真空乾燥を行いフェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂からなる絶縁塗料を得た。平角形状の銅導体を3−アミノプロピルトリメトキシシラン(KBE−903、信越化学社製)の1%水溶液を、平角形状の銅導体上に塗布し、遠赤外加熱炉により100℃×5分で加熱することで1μmの内層絶縁皮膜を設けた。この内層絶縁皮膜の周りに、上記のフェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂からなる絶縁塗料を塗布した後、焼き付けを行い、皮膜厚さが30μmのフェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂絶縁皮膜を設けた。これによって、絶縁皮膜全体の厚さが31μmのエナメル線を作製した。
【0060】
実施例1〜3および比較例1〜3における絶縁塗料の評価結果および絶縁皮膜の評価結果を表1に示した。各評価は、次に基づいて行った。
【0061】
(1)銅密着力:密着力評価用の銅基板に、得られたフェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂からなる絶縁塗料を塗布・焼き付け、幅10mmの短冊状試験片をテンシロン(登録商標)測定機で引剥強さを測定し、密着力を評価した。
【0062】
(2)誘電率:得られたフェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂からなる絶縁塗料を用いてフィルム状に成型した、2mm×100mmの試験短冊片を空洞共振器摂動法(S−パラメータネットワークアナライザ)8720ES;アジレント社製)を用い、周波数10GHzの誘電率を測定した。
【0063】
(3)絶縁破壊電圧:得られたエナメル線を黄銅製平行平板電極30mmΦで挟み、初期1kV課電から0.5kV/minで昇圧し、課電し破壊時の電圧を測定した。
【0064】
(4)5%重量減少温度:得られたフェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂からなる絶縁塗料を用いて重量が10mgのフィルムを作製し、このフィルムをプラチナ製サンプルパンに入れ、セイコーインスツル(株)製の示差熱熱重量同時測定装置TG/DTA320を使用して、空気中、100ml/分流量、昇温速度10℃/分の条件で室温から800℃まで熱分析し、フィルムの重量が5%減少した時点の温度を、5%重量減少温度として求めた。
【0065】
(5)500kV/mm課電後の外観:得られたエナメル線(絶縁皮膜の厚さ;31μm)を黄銅製平行平板電極30mmΦで挟み、初期電圧1kVから0.5kV/minの割合で15.5kVの電圧まで昇圧させた後、絶縁皮膜の外観を走査型電子顕微鏡で観察し、亀裂の有無を観察した。
【0066】
【表1】

【0067】
本発明のフェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂からなる絶縁皮膜を有する実施例1〜3の絶縁電線21は、従来のフェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂からなる絶縁皮膜を有する比較例3と比較して、従来と同等の耐熱性と誘電率を有すると共に、銅と絶縁皮膜との密着性が向上していることがわかる。また、実施例1〜3の絶縁電線21は、絶縁破壊電圧や500kV/mm課電後の外観から、従来よりもコロナ放電の発生抑制や絶縁破壊防止特性に優れることがわかる。
【0068】
比較例1では、実施例1〜3と同様の組成物質からなるフェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂を用いているが、Y1に含まれるフェノール性ヒドロキシル基の数Z1とイミド基の数Z2との比Z1/Z2が0.15未満であることにより、銅と絶縁皮膜との密着性が劣る結果となった。
【0069】
一方、比較例2では、銅と絶縁皮膜との密着性や耐熱性は実施例1〜3と同等であるが、Y1に含まれるフェノール性ヒドロキシル基の数Z1とイミド基中の窒素原子数Z2との比Z1/Z2が0.85を超えることにより、誘電率が高く、500kV/mm課電後の外観に荒れが発生することから、コロナ放電の発生抑制が不十分である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の好適な第1の実施形態を示す絶縁電線の横断面図である。
【図2】本発明の第2の実施形態を示す絶縁電線の横断面図である。
【符号の説明】
【0071】
1 絶縁電線
2 導体
3 フェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂絶縁皮膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、
下記化学式(1)
【化1】

で表される繰り返し単位を有し、かつ、化学式(1)中のY1に含まれるフェノール性水酸基の数Z1および化学式(1)中に含まれるイミド基の数Z2の比が0.15≦Z1/Z2≦0.85であるフェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂からなる絶縁塗料が、前記導体上に直接または他の絶縁物層を介して塗布、焼付されてなる絶縁皮膜とを備えることを特徴とする絶縁電線。
【請求項2】
前記フェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂は、化学式(1)中のY1およびY2のモル比が0.1≦Y1/Y2≦5である請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項3】
前記他の絶縁物層は、シランカップリング剤からなる中間皮膜である請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項4】
下記化学式(1)
【化2】

で表される繰り返し単位を有し、かつ、化学式(1)中のY1に含まれるフェノール性水酸基の数Z1および化学式(1)中に含まれるイミド基の数Z2の比が0.15≦Z1/Z2≦0.85であるフェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂からなることを特徴とする絶縁塗料。
【請求項5】
前記フェノール性水酸基含有ポリイミド樹脂は、化学式(1)中のY1およびY2のモル比が0.1≦Y1/Y2≦5である請求項4に記載の絶縁塗料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−218201(P2009−218201A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−232111(P2008−232111)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【出願人】(591039997)日立マグネットワイヤ株式会社 (63)
【Fターム(参考)】