説明

絹生揚げ用油脂組成物

【課題】絹生揚げ用の離水防止剤を提供すること。
【解決手段】油脂に卵白粉末を分散させてなる絹生揚げ用油脂組成物を原料豆腐を製造する際、豆乳に用いることにより、離水の少ない絹生揚げを製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絹生揚げ用の離水防止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
生揚げは厚揚げとも呼ばれ、従来、常法によって製造した豆腐を適当な大きさに切った後にフライして作られる。生揚げは温めてそのまま食したり、煮物やおでんなどの素材として広く利用され、最近では絹ごし豆腐を揚げた絹生揚げと称される製品がソフトな食感から好まれる傾向にある。しかし、この絹生揚げは中味が豆腐であるために、時間の経過と共に内部より水分が染み出し包装容器の底に水が溜まる、いわゆる離水が問題となっている。
【0003】
生揚げの離水を防止する従来技術としては、卵白及び/又は乳清蛋白を含有することを特徴とする豆腐又は豆腐厚揚げ類の離水防止剤(特許文献1参照)、グァーガム、タマリンドガムおよびローカストビーンガムよりなる群から選択される1種または2種以上のガムを含有するものであることを特徴とする豆腐の厚揚げ用離水防止剤(特許文献2参照)、豆乳100 重量部に対して架橋澱粉0.3 〜5重量部を添加することを特徴とする厚揚げ(特許文献3参照)などが開示されている。
しかしこれらの技術では一長一短があり更に優れた解決策が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−225699号公報
【特許文献2】特開平4−166053号公報
【特許文献3】特開平10−075732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、絹生揚げ用の離水防止剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決する為に鋭意研究を重ねた結果、絹生揚げ用の原料豆腐を製造する際、油脂に卵白粉末を分散させてなる油脂組成物を豆乳に添加することにより、得られた絹生揚げの離水が著しく抑制されること見出した。本発明者らは、これらの知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)油脂に卵白粉末を分散させてなることを特徴とする絹生揚げ用油脂組成物、
(2)さらに増粘安定剤および/または乳化剤を分散させてなることを特徴とする(1)に記載の絹生揚げ用油脂組成物、
からなっている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の絹生揚げ用油脂組成物を原料豆腐を製造する際、豆乳に用いることにより、離水の少ない絹生揚げを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明で用いられる油脂としては、食用可能な油脂であれば特に制限はなく、例えばオリーブ油、キャノーラ油、ごま油、こめ油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、大豆油、とうもろこし油、なたね油、パーム油、パームオレイン、パーム核油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、綿実油、やし油、落花生油などの植物油脂、牛脂、ラード、魚油および乳脂などの動物油脂、さらにこれら動植物油脂を分別、水素添加またはエステル交換したもの並びに中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)などが挙げられる。本発明においては、これらの油脂を一種類で用いても良いし、二種類以上を任意に組み合わせて用いても良い。そのなかでも常温で液状の油脂が好ましく、例えばキャノーラ油、こめ油、サフラワー油、とうもろこし油、なたね油などが挙げられる。
【0009】
本発明で用いられる卵白粉末とは、全卵から卵黄部分を分離した卵白液を乾燥させて得られる粉末である。乾燥方法については、特に限定はなく、例えば噴霧乾燥法、凍結乾燥法、低温乾燥法などで得られたものを使用することができる。卵白粉末の水分は2〜14%程度であるのが好ましい。
【0010】
本発明で用いられる増粘安定剤としては、例えばアラビアガム、カシアガム、ガティガム、カラギナン、カラヤガム、キサンタンガム、グアーガム、サイリウムシードガム、ジェランガム、タマリンドシードガム、タラガム、トラガントガム、プルラン、ペクチンおよびローカストビーンガム、並びにアルギン酸ナトリウムおよびカルボキシメチルセルロースナトリウムなどが挙げられ、好ましくはグアーガムである。
上記したグアーガムとは、マメ科グアーの種子の胚乳部分を粉砕するか、またはこれを温時〜熱時水で抽出して得られるもので、D-ガラクトースとD-マンノースを主成分とする多糖類である。本発明で用いられるグアーガムとしては、食品添加物として市販されているものであれば特に制限はなく、例えばメイプログアーCSA200/50(三晶社製)、MI−804(オレガノ社製)、Nutralgum(トーメン社製)などが好ましく用いられる。
【0011】
本発明で用いられる乳化剤としては、食品に用いられる乳化剤であれば特に制限はなく、例えばグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチンであり、これらの乳化剤は単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。ここで、グリセリン脂肪酸エステルには、グリセリンと脂肪酸のエステルの外、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、およびポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルなどが含まれる。グリセリン有機酸脂肪酸エステルには、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルおよびグリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステルなどが含まれる。またレシチンには、分別レシチン、酵素分解レシチンおよび酵素処理レシチンなどが含まれる。好ましくはグリセリン脂肪酸エステルが挙げられる。
【0012】
本発明の絹生揚げ用油脂組成物の製造方法は特に制限はなく、公知の方法で行うことができる。例えば、攪拌機、加熱用のジャケットおよび邪魔板などを備えた通常の攪拌・混合槽に油脂を入れ、所望により油脂または油脂と乳化剤を約60〜80℃に昇温する。次に、油脂を攪拌しながら、この中に卵白粉末または卵白粉末とグアーガムとを加えて分散させる。卵白粉末または卵白粉末とグアーガムとを均一油脂に分散した後に溶液を室温まで冷却し、本発明の絹生揚げ用油脂組成物を得ることができる。かくして得られる油脂組成物の性状は、常温(約15〜25℃)で液状またはスラリー状であるのが好ましい。
上記した攪拌機としては、プロペラ型の攪拌翼を装備した汎用の攪拌機であってよく、またTKホモミクサー(プライミクス社製)またはクレアミックス(エム・テクニック社製)などの高速回転式分散・乳化機を用いてもよい。
【0013】
本発明の絹生揚げ用油脂組成物100質量%中に含まれる油脂は、約40〜90質量%、好ましくは約50〜80質量%である。該油脂組成物100質量%中に含まれる卵白粉末は、約10〜60質量%、好ましくは約15〜45質量%である。該油脂組成物100質量%中に含まれる増粘安定剤は、0〜10質量%、好ましくは1〜5質量%である。該油脂組成物100質量%中に含まれる乳化剤は、0〜15質量%、好ましくは2〜10質量%である。
増粘安定剤が上記範囲内で加えることにより、卵白粉末の保水性を相乗的に向上させ離水防止効果がより良くなる。乳化剤が上記範囲内で加えることにより、油脂中に分散する卵白粉末や増粘安定剤の分散性が向上して離水防止効果がより良くなる。
【0014】
本発明の絹生揚げ用油脂組成物には、本発明の目的を阻害しない範囲内で、例えばトコフェロール、L−アスコルビン酸パルミチン酸エステル、L−アスコルビン酸ステアリン酸エステル、茶抽出物、ルチンなどの酸化防止剤などを加えることができる。
【0015】
本発明の絹生揚げ用油脂組成物は、原料豆腐を製造する際、豆乳に添加して用いられる。絹生揚げ用油脂組成物の使用量は特に制限はないが、豆乳100質量部に対して該油脂組成物を約0.5〜12.0質量部、好ましくは約0.7〜6.0質量部添加するのが好ましい。
【0016】
原料豆腐の製造方法の概略を以下に説明する。例えば、大豆を水に浸漬して膨潤させ、大豆に吸収されなかった水を除く。これに挽き水を加えながらグラインダーなどで物理的に破砕した呉(ご)を得て、加熱後、豆乳とおからに分離する。この煮絞り豆乳などに該油脂組成物と凝固剤を加えて凝固させることにより得ることができる。
凝固剤の加え方や凝固方法によって種類の異なる原料豆腐が得られ、木綿豆腐は、例えば、約60〜90℃の豆乳に該油脂組成物と凝固剤を加え、凝固した後に凝固物を崩して濾布を敷いた木綿用型枠に入れて圧搾することにより得られる。ソフト豆腐は、例えば、木綿豆腐の製造工程中の凝固物を余り崩さずに濾布を敷いた木綿用型枠に入れて、かつ、木綿豆腐より圧搾を少なくすることにより得られる。絹ごし豆腐は、例えば、約60〜90℃の豆乳に該油脂組成物と凝固剤を入れ、直ちに型箱へ流し込み凝固することにより得られる。充填豆腐は、例えば、約5〜30℃の豆乳に凝固剤を加え、容器に充填し密閉した後に加熱して凝固させることにより充填豆腐が得られる。
本発明の絹生揚げ用油脂組成物はいずれの製法によって作製される原料豆腐にも用いられるが、特に原料豆腐製造の際に圧搾工程を行わない絹ごし豆腐、充填豆腐など水分を多く含む豆腐に好ましく用いられる。
【0017】
原料豆腐の作製に用いられる豆腐用凝固剤は特に制限は無く、例えば塩化マグネシウム、粗製海水塩化マグネシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウムおよびグルコノデルタラクトンが挙げられる。これらの凝固剤を一種類または二種類以上を任意に組み合わせた製剤の形態で用いることができる。
【0018】
得られた原料豆腐は、通常の絹生揚げ製造の様に水きりしても良く、また水きりしなくてもよい。
得られた原料豆腐は、適当な大きさにカットした後に常法に準じて食用油でフライすることにより絹生揚げが得られる。この際使用される食用油としては、例えば、大豆油、綿実油、なたね油、サフラワー油、ひまわり油、こめ油、やし油、パーム油、落花生油などが挙げられ、好ましくは大豆油、綿実油、菜種油が挙げられる。
豆腐生地をフライする温度と時間は、カットした原料豆腐の大きさによっても異なるが、例えば約150〜220℃、好ましくは約180〜200℃の温度で約1〜10分間、好ましくは約2〜5分間である。
【0019】
以下に本発明を実施例で説明するが、これは本発明を単に説明するだけのものであって、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0020】
<絹生揚げ用油脂組成物の作製>
[原材料]
油脂:コメサラダ油(ボーソー油脂社製)
卵白粉末(商品名:リケンランパクR;理研ビタミン社製)
増粘安定剤(グアーガム 商品名:メイプログアーCSA200/50;三晶社製)
ポリグリセリン脂肪酸エステル(商品名:ポエムTR−FB;理研ビタミン社製)
グリセリン脂肪酸エステル製剤(商品名:エマックスBW−36;理研ビタミン社製)
【0021】
[実施例1]
油脂600gを1Lステンレス製ジョッキに加え、ウォーターバス(型式:HWA−50A;アズワン社製)を用いて85℃に昇温し、卵白粉末400gを加えてクレアミックス(型式:CLM−0.8S;エム・テクニック社製)を用いて5000rpmで5分間撹拌後、室温まで冷却して絹生揚げ用油脂組成物(実施例品1)1000gを得た。
【0022】
[実施例2]
油脂600gを1Lステンレス製ジョッキに加え、ウォーターバス(型式:HWA−50A;アズワン社製)を用いて85℃に昇温し、卵白粉末375gとグアーガム25gを加えてクレアミックス(型式:CLM−0.8S;エム・テクニック社製)を用いて5000rpmで5分間撹拌後、室温まで冷却して絹生揚げ用油脂組成物(実施例品2)1000gを得た。
【0023】
[実施例3]
油脂540g、ポリグリセリン脂肪酸エステル50g、グリセリン脂肪酸エステル製剤10gを1Lステンレス製ジョッキに加え、ウォーターバス(型式:HWA−50A;アズワン社製)を用いて85℃に昇温し、卵白粉末375gとグアーガム25gを加えてクレアミックス(型式:CLM−0.8S;エム・テクニック社製)を用いて5000rpmで5分間撹拌後、室温まで冷却して絹生揚げ用油脂組成物(実施例品3)1000gを得た。
【0024】
<絹生揚げの作製>
[試験例1]
大豆8kgを流水中に10時間浸漬し、水切りした。水切り後の浸漬大豆に全量が40kgとなるように水を加えながらグラインダーで浸漬大豆を磨砕した。磨砕後の呉を煮釜に入れ水蒸気吹き込みにて加熱し、102℃に達温後、30秒間煮沸した。煮沸後の「呉」を脱水機(型式:アトムMTS−SP1;丸井工業社製)を用いて濾過し、豆乳(固形分13%)を得た。尚、磨砕から煮沸までの一連の操作は小型豆乳プラント(ミニホープS;高井製作所製)を用いて実施した。
次いで80℃の豆乳1000gに対して実施例品1を20gと凝固剤(製品名:達人にがり;理研ビタミン社製)3.5gを加え、スリーワンモーター(型式:BL600;新東工業社製)で混合攪拌し、20分間熟成して絹ごし豆腐(原料豆腐)を得た。得られた絹ごし豆腐を高さ30mm、直径73mmの円柱形に切り抜き、絹生揚げ用生地を得た。得られた絹生揚げ用生地を185℃の油中で3分間フライを行って、絹生揚げ(試験例品1)を得た。
【0025】
[試験例2]
試験例1の絹生揚げの作製において、実施例品1を20g用いるのに替えて、実施例品2を20g用いた以外は実施例1と同様に実施して絹生揚げ(試験例品2)を得た。
【0026】
[試験例3]
試験例1の絹生揚げの作製において、実施例品1を20g用いるのに替えて、実施例品3を20g用いた以外は実施例1と同様に実施して絹生揚げ(試験例品3)を得た。
【0027】
[試験例3]
試験例1の絹生揚げの作製において、実施例品1を20g用いるのに替えて、実施例品1に配合された原材料である油脂12gと卵白粉末8gとを混合せず、それぞれを豆乳に加える以外は実施例1と同様に実施して絹生揚げ(試験例品4)を得た。
【0028】
[試験例4]
試験例1の絹生揚げの作製において、実施例品1を20g用いない以外は実施例1と同様に実施して絹生揚げ(試験例品5)を得た。
【0029】
<絹生揚げの評価>
[離水率の測定]
得られた絹生揚げ(試験例品1〜5)の、表面に付着する油をキッチンペーパーで軽く拭き取った後に保存前の絹生揚げ質量を測定した。その後に絹生揚げをプラスチック容器に入れて蓋をし、5℃の冷蔵庫にて3日間保存した。保存した絹生揚げ表面に付着する水をキッチンペーパーで軽く拭き取った後に保存後の絹生揚げの質量を測定し、下記式にて離水率を算出した。
離水率(%)={(保存前の絹生揚げ質量−保存後の絹生揚げ質量)/保存前の絹生揚げ質量}×100
結果を表1に示す。
【0030】
【表1】


結果より、実施例品を用いた試験例1〜3は、実施例品1の構成物を混合せずに用いた試験例4と無添加である試験例5とを比較すると、離水率が飛躍的に改善されていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂に卵白粉末を分散させてなることを特徴とする絹生揚げ用油脂組成物。
【請求項2】
さらに増粘安定剤および/または乳化剤を分散させてなることを特徴とする請求項1に記載の絹生揚げ用油脂組成物。

【公開番号】特開2010−193772(P2010−193772A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−41884(P2009−41884)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(390010674)理研ビタミン株式会社 (236)
【Fターム(参考)】