説明

継目無鋼管の縮径圧延方法

【課題】高合金鋼の管材に対して倒れ込み疵の発生を有効に防止する方法を提供する。
【解決手段】3ロール圧延スタンドを複数スタンド直列配置したストレッチレデューサーを用いる継目無鋼管の縮径圧延方法であって、単スタンド当りの縮径率をYとされたスタンドに対し、エッジ逃がし量xが次式(1)を満たすロールを用いる。0.80Y−4.44≦x≦1.22Y−6.81‥‥(1)Y:単スタンド当りの縮径率(%)、x:エッジ逃がし量(mm)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、継目無鋼管の縮径圧延方法に関し、特に、高合金鋼の様な難加工材を縮径圧延する際の倒れ込み疵の発生を有効に防止するための継目無鋼管の縮径圧延方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近では、継目無鋼管の適用分野は、それが発揮する優れた性能を有効に適用するため、建設機械用や自動車用鋼管としてのシリンダー、油圧配管に加え、自動車車体の軽量化の要請から需要が増加しているドライブシャフト用鋼管等のように、耐疲労特性が要求される鋼管の用途への広がりを見せている。
このような用途に対応する継目無鋼管の製造方法には、通常、穿孔後の熱間製管としてマンドレルミル製管法およびプラグミル製管法に区分されるが、寸法精度や生産効率に優れることからマンネスマン製管法が採用されている。熱間製管により製造された素管は、要求される性能に応じて、適宜、外径、内径および肉厚の寸法精度の向上、表面性状の改善、並びに機械的強度の確保のため冷間引抜等の冷間加工が施されることが多い。
【0003】
継目無鋼管を熱間製管するマンネスマン−マンドレルミル製管法は、中実のビレットの中心部に孔をあける穿孔圧延と、この穿孔されたホローシェルの肉厚加工を主たる目的とする延伸圧延と、素管外径を減径して目標寸法に仕上げる定径圧延とで構成される。通常、穿孔圧延ではマンネスマンピアサー、交叉型穿孔圧延機等の穿孔圧延機が、延伸圧延ではマンドレルミル等の圧延機が、さらに定径圧延ではストレッチレデューサー等の孔型圧延機が用いられる。
【0004】
特許文献1には、マンネスマン−マンドレルミル製管法で圧延される鋼管の内表面に発生するしわ疵を効率よく抑制しうる手段として、マンネスマン穿孔圧延しマンドレル延伸圧延した後の再加熱条件を800〜1050℃とし、ストレッチレデューサーによる定径圧延の仕上寸法t/Dに応じて、孔型ロールの平均楕円率がt/Dとの特定の関係式を満足した条件で仕上圧延する旨記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−221250
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ストレッチレデューサーは3ロール圧延スタンドを複数スタンド直列に配置してなり、通常、相前後する何れの2スタンドにおいても相互の円周方向のロール位相角度差は60°として、テンション(張力)を付加しながら縮径(或いは更に減肉)を行っている。同一スタンド内のロールは3本とも同一の材質、形状、寸法とされる。
然し、高合金鋼のような難加工材の場合、例えば図3に示すように、縮径過程で、被加工材である管材4の局所部分がロール1のカリバー部2の両エッジ側に連なるフランジ部3と隣りのロール1のフランジ部3との隙間(この隙間の大きさであるロール隙δは通常1mm以下に設定される)から噛み出し、該噛み出し部5が次スタンドのロール1のカリバー部2の中央部分で圧下されて倒れ込んで疵となった所謂倒れ込み疵6の発生頻度が高い。これを防止すべく、従来は圧延スケジュールの変更、付加テンション量の変更等を行っていた。然し、高合金鋼に対してはその効果に乏しかった。
【0007】
以上の様に、従来は、高合金鋼の管材に対して倒れ込み疵の発生を有効に防止する事ができないという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者は前記課題を解決するために、以下の検討を行った。
即ち、製品断面偏肉悪化防止の観点から、ロールカリバーデザインの変更は従来行われていないが、偏肉防止と倒れ込み疵発生防止とを両立できるロールカリバーデザインの範囲が存在するに違いないと考え、鋭意実験を重ねた。その結果、各スタンドの縮径率とロールのエッジ逃がし量の関係を或る範囲内に規制する事により、偏肉を悪化させずに倒れ込み疵発生を有効に低減できるという知見を得た。
【0009】
ここで、上記エッジ逃がし量について図2を用いて説明する。
通常、ロール1において、カリバー部2はそのロールプロフィルが、ロール外側に曲率中心をもつ円弧状の曲線形状とされる。フランジ部3はそのロールプロフィルが、ロール中心軸方向端部側ほどロール中心軸に近づく様に傾斜した直線形状とされる。カリバー部2とフランジ部3との境界にはエッジ逃がし部7と呼ばれる連結領域が設けられ、該連結領域のロールプロフィルはロール中心軸に平行な直線形状とされる。図2中の点Pは、カリバー部2の最端部側のロールプロフィルをなす円弧を更にエッジ逃がし部7側に延長してなる円弧(該円弧の曲率中心位置は前記延長前の円弧分のそれと同一)とフランジ部3のロールプロフィルをなす傾斜線分を更にエッジ逃がし部7側に延長してなる直線(該直線の方向は延長前の傾斜線分のそれと同一)との交点Pである。この交点Pからエッジ逃がし部7までの最短距離xでもって、エッジ逃がし量xが定義される。
【0010】
本発明は、上記知見に基いて成されたものであり、その要旨は次の通りである。
[1] 3ロール圧延スタンドを複数スタンド直列配置したストレッチレデューサーを用いる継目無鋼管の縮径圧延方法であって、単スタンド当りの縮径率をYとされたスタンドに対し、エッジ逃がし量xが次式(1)を満たすロールを用いることを特徴とする継目無鋼管の縮径圧延方法。
【0011】
0.80Y−4.44≦x≦1.22Y−6.81 ‥‥(1)
Y:単スタンド当りの縮径率(%)、x:エッジ逃がし量(mm)。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、継目無鋼管が高合金鋼等の難加工材であっても、偏肉を悪化させず且つ倒れ込み疵の発生を有効に抑えつつ縮径圧延を行う事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る縮径率とエッジ逃がし量の関係を示すグラフである。
【図2】エッジ逃がし量の定義説明図である。
【図3】倒れ込み疵の発生の様子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明に係る縮径率とエッジ逃がし量の関係を示すグラフである。図1中の直線L1,L2、及びプロット点は以下の様にして求めた。
(直線L1)
SCr鋼のうちCr含有量が8〜16mass%である鋼組成のうち表1に示す鋼組成を有し、外径が110mmφの継目無鋼管である素管を、全3スタンドの試験研究用ストレッチレデューサーにて圧延し、その際、第2スタンド以外は縮径率=2%、エッジ逃がし量=0.1mmとし、第2スタンドは縮径率Yとエッジ逃がし量xを種々変え、得られた鋼管について倒れ込み疵の有無を目視判定した結果、倒れ込み疵有りの領域と無しの領域との境界が、x=0.80Y−4.44なる直線L1で表される事が分った。ここで直線L1上のxをx1と置くと、x<x1では倒れ込み疵有り、x≧x1では倒れ込み疵無し(良好)である。
【0015】
(直線L2)
前記素管を、全11スタンドの試験研究用ストレッチレデューサーにて圧延し、その際、第5スタンド以外は縮径率=2%、エッジ逃がし量=0.1mmとし、第5スタンドは縮径率Yとエッジ逃がし量x(但し、x≧x1)を種々変え、得られた鋼管について偏肉率(=円周方向での、[(最大肉厚−最小肉厚)/平均肉厚]×100(%)))の測定値を基に偏肉の大小を評価した結果、偏肉小の領域と偏肉大の領域との境界が、x=1.22Y−6.81なる直線L2で表される事が分った。ここで直線L2上のxをx2と置くと、x>x2では偏肉大、x≦x2では偏肉小(良好)である。
【0016】
かくして、偏肉を悪化させずに倒れ込み疵の発生を防止できる範囲を、縮径率Yとエッジ逃がし量xの関係で規定でき、その範囲は図1中の直線L1と直線L2で挟まれた領域、即ち前記式(1)で表される領域である事が分ったので、これを本発明要件とした。
尚、x>0mmである事から、式(1)の適用範囲は自ずと、Y≧5.6%の範囲に限られる。但し、Y<5.6%の場合、実機での倒れ込み疵の発生は殆ど無い為、式(1)はY≧5.6%のスタンドのみに適用すればよい。又、Y>7%と大きくすると、製品形状を損う場合があるから、Y≦7%が好ましい。これらの事から、本発明は、Y=5.6〜7%のスタンドに対して適用するのが好ましい。
【0017】
(プロット点)
式(1)の有効性を検証する為に、前記素管を、全15スタンドの試験研究用ストレッチレデューサーにて3つの方法(○▲■)で各方法ごとに複数個、個別の条件で圧延した。何れの圧延も第1〜3スタンドと第13〜15スタンドは縮径率≦3%、エッジ逃がし量≦0.2mmとした。残りの第4〜12スタンドについては、次の通りとした。
【0018】
○の場合:各スタンドについて縮径率、エッジ逃がし量を夫々図1中の同一○点のY座標値、x座標値として式(1)を満足させた。
▲の場合:少なくとも1つのスタンドについて縮径率、エッジ逃がし量を夫々図1中の同一▲点のY座標値、x座標値としてエッジ逃がし量xが式(1)の範囲を下に外れるようにした。
【0019】
■の場合:少なくとも1つのスタンドについて縮径率、エッジ逃がし量を夫々図1中の同一■点のY座標値、x座標値としてエッジ逃がし量xが式(1)の範囲を上に外れるようにした。
その結果、○の場合は倒れ込み疵の発生は無く偏肉も小さくて良好であった。一方、▲の場合は偏肉は小さかったが倒れ込み疵が発生し、又、■の場合は倒れ込み疵の発生は無かったが偏肉が大きくなった。かくして、式(1)が有効である事が検証できた。
【0020】
【表1】

【実施例】
【0021】
前記素管(外径110mm)を、全28スタンドの実機ストレッチレデューサーにて外径25〜56mmに仕上げる縮径圧延工程に対して本発明を実施した。実施前は、偏肉は小さかったが、倒れ込み疵の発生率は4.5%であったのに対し、実施後は、偏肉の悪化はなく、倒れ込み疵の発生率は0.49%と格段に低減し、本発明の効果が顕現した。
【符号の説明】
【0022】
1 ロール
2 カリバー部
3 フランジ部
4 管材
5 噛み出し部
6 倒れ込み疵
7 エッジ逃がし部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3ロール圧延スタンドを複数スタンド直列配置したストレッチレデューサーを用いる継目無鋼管の縮径圧延方法であって、単スタンド当りの縮径率をYとされたスタンドに対し、エッジ逃がし量xが次式(1)を満たすロールを用いることを特徴とする継目無鋼管の縮径圧延方法。
0.80Y−4.44≦x≦1.22Y−6.81 ‥‥(1)
Y:単スタンド当りの縮径率(%)、x:エッジ逃がし量(mm)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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