説明

継目無鋼管の製造方法およびその製造ライン

【課題】最終製品として端部にネジが形成され表面に製品情報がマーキングされた製品管を製造する場合に、マーキングに支障が生じることなく、製品管の外観品質を向上できる継目無鋼管の製造方法を提供する。
【解決手段】熱間加工を経て得られた鋼管の端部にネジ切りを施すネジ切り工程、およびネジ切りが施された製品管の表面に製品情報のマーキングを施すマーキング工程を含む継目無鋼管の製造方法であって、マーキング工程の前段に、両端部に保護キャップが嵌め込まれた前記製品管の外面を洗浄する洗浄工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、継目無鋼管の製造方法およびその製造ラインに関し、特に、最終製品として端部にネジが形成され表面に製品情報がマーキングされた製品管を製造する場合、その外観品質の向上を図った継目無鋼管の製造方法およびその製造ラインに関する。
【背景技術】
【0002】
油井管として用いられる継目無鋼管は、熱間加工を経て造形されるが、出荷のための梱包が実施される時点でその表面に切削液やグリスなどの異物が付着していることが多い。これは以下の理由による。
【0003】
油井管用の継目無鋼管を製造する場合、最終製品としての製品管の端部にネジが形成されていることが必要であるため、熱間加工を経て得られた鋼管の端部にネジ切りが施される。このネジ切り加工には、切削性を確保するために切削液が欠かせない。通常、切削液は、鋼管の切削部分(端部)に限定してかけるが、加工の進行に伴って飛散することから、切削部分のみならずそれ以外の非切削部分にも多く付着する。
【0004】
ネジ切り加工の後には、ネジが形成された鋼管の端部に管継手が締め付けにより取り付けられる場合があり、この場合、予め鋼管の端部にグリスが塗布される。このため、塗布するグリスの量によっては、管継手から鋼管の外周部へとグリスがはみ出すことがある。
【0005】
端部にネジが形成された鋼管、さらに端部に管継手が締め付けられた鋼管には、それらの端部を保護するために、両端部それぞれにキャップが嵌め込みにより取り付けられる。この保護キャップの嵌め込み時にも、予めグリスが塗布されることから、管継手の締め付け時と同様に、鋼管の外周部にグリスがはみ出すことがある。
【0006】
これらの切削液やグリスは、鋼管の表面に付着する異物である。その他に、製造環境や設備に起因する異物もある。
【0007】
また、製造ライン内では、スキッドコンベアやローラーコンベアによって鋼管を搬送したり、ワイヤなどによって鋼管を吊り上げたりするため、鋼管の表面は外部と接触する機会が多々ある。このような状況下で製造を行うと、鋼管の表面に付着している異物の一部が製造ライン内のあらゆる場所に転写され、この転写された異物が後続する鋼管のあらゆる面に再付着する事態が生じる。
【0008】
以上の理由から、継目無鋼管の表面には、梱包時点で切削液やグリスなどが付着していることが多い。
【0009】
しかし、継目無鋼管を量産していく中で、都度、製造ラインの清掃を実施しても、異物の転写を完全に抑制し、その転写の抑制を継続していくというのは極めて難しい。
【0010】
また、継目無鋼管として、特に、耐食性を有する二相ステンレス鋼やNi基合金鋼などからなるハイアロイ鋼管を製造する場合、ネジ切り加工の前工程で酸洗が施され、その製品管は白銀色の美麗な酸洗肌を呈している。しかし、ハイアロイ鋼管の表面に異物が付着していると、折角の美麗な酸洗肌が損なわれる上、その表面に製品情報を表示する最終工程のマーキングに支障が生じかねないため、製品管としての優れた外観品質を維持することができず、その結果として顧客満足度の低下につながるおそれがある。
【0011】
継目無鋼管の製造において、鋼管表面の異物の除去に関する従来技術は、下記のものがある。特許文献1には、超音波探傷試験の前に、鋼管の表面に付着している異物を蒸気によって洗浄する洗浄装置が開示されている。しかし、同文献では、鋼管の矯正工程や切断工程で鋼管の表面に付着した油やグリスを洗浄対象としており、その後のネジ切り加工、管継手の締め付け、および保護キャップの嵌め込みに起因した切削液やグリスに対しては全く考慮されていない。その上、同文献では、ハイアロイ鋼管に要求される美麗な酸洗肌について一切配慮がなく、製品管の外観品質の向上が望めない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭60−137482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、最終製品として端部にネジが形成され表面に製品情報がマーキングされた製品管を製造する場合に、次の特性を有する継目無鋼管の製造方法およびその製造ラインを提供することである:
マーキングに支障が生じることなく、製品管の外観品質を向上させること。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の要旨は、次の通りである。
(I)熱間加工を経て得られた鋼管の端部にネジ切りを施すネジ切り工程、およびネジ切りが施された製品管の表面に製品情報のマーキングを施すマーキング工程を含む継目無鋼管の製造方法であって、
マーキング工程の前段に、両端部に保護キャップが嵌め込まれた前記製品管の外面を洗浄する洗浄工程を含むこと、
を特徴とする継目無鋼管の製造方法。
【0015】
(II)熱間加工を経て得られた鋼管の端部にネジ切りを施すネジ切り機、およびネジ切りが施された製品管の表面に製品情報のマーキングを施すマーキング機を備えた継目無鋼管の製造ラインであって、
マーキング機の前段に、両端部に保護キャップが嵌め込まれた前記製品管の外面を洗浄する洗浄機を備えること、
を特徴とする継目無鋼管の製造ライン。
【発明の効果】
【0016】
本発明の継目無鋼管の製造方法およびその製造ラインは、下記の顕著な効果を有する:
最終製品として端部にネジが形成され表面に製品情報がマーキングされた製品管を製造する場合に、マーキングに支障が生じることなく、製品管の外観品質を向上できること。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の継目無鋼管の製造方法およびその製造ラインの一例を説明するフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者は、上記目的を達成するため、最終製品として端部にネジが形成され表面に製品情報がマーキングされた製品管、すなわち油井管用の継目無鋼管を製造することを前提とし、鋭意検討を重ねた結果、下記の知見を得た。
【0019】
上述のように、継目無鋼管の製造においては、製造ライン内で様々な異物が鋼管の表面に付着するリスクがある。具体的には、端部にネジが形成された製品管を製造する場合、鋼管の表面には、ネジ切り加工で使用される切削液、さらにネジ切り加工後の管継手の締め付けや保護キャップの嵌め込みで使用されるグリスが異物として付着する。それらの異物の一部は、製造ライン内で鋼管を搬送するスキッドコンベアやローラーコンベアに転写され、この転写された異物は後続して搬送される鋼管に再付着する。これに加え、製造ライン内で製造中または保管中の鋼管の表面には、塵や埃が異物として付着する。その他に、製造環境や設備に起因する異物もある。
【0020】
このように製造ライン内で不用意に異物が付着した鋼管に対し、最終工程であるマーキング工程に至る前の全ての工程を終えた後に鋼管の表面を洗浄すれば、ネジ切り加工に起因して鋼管の表面に付着している切削液やグリスを含むあらゆる異物を完全に除去することができ、これにより、続くマーキングを支障なく円滑に行うことが可能となる。しかも、マーキング後の製品管の表面は、直前に施された洗浄によって、異物が完全に除去され、美麗な酸洗肌となることから、梱包時点での製品管の外観品質は優れたものとなる。
【0021】
本発明は、上記の知見に基づき完成させたものである。以下に、本発明の継目無鋼管の製造方法およびその製造ラインの好ましい態様について説明する。
【0022】
図1は、本発明の継目無鋼管の製造方法およびその製造ラインの一例を説明するフロー図である。同図に示すフロー図は、ハイアロイ鋼管を製造する場合の工程を示している。鋼管は、マンネスマン製管法や熱間押出製管法などによる熱間加工を経て造形され、場合によってはさらに冷間加工を経て造形される。このような熱間加工を経て得られた鋼管は、熱処理、ショットブラスト、酸洗、曲がり矯正、所定長さへの切断、切断面の面取りなどの各種の工程を経た後、端部ごとにネジ切りが施される。
【0023】
先ず、鋼管の両端部のうちの一方の端部(以下、「一端部」ともいう)のネジ切りに際し、図1のステップ#5にて、管端矯正が行われる。このステップ#5の管端矯正は、管端矯正機を用い、ネジ切りの下準備として、ネジ切りを施す一端部にプラグまたはダイスを押し込んで、その一端部の内径または外径を矯正する加工である。この管端矯正では、加工性を確保するために潤滑油が使用される。ただし、この管端矯正は、省略される場合もある。
【0024】
一端部の矯正後、鋼管はネジ切り機に搬送され、ステップ#10にて、鋼管の一端部にネジ切りが施される。このステップ#10のネジ切りは、鋼管の一端部に切削液をかけながら、その内面または外面にネジを形成する切削加工である。このとき、鋼管の表面には、飛散した切削液が付着する。
【0025】
一端部のネジ切り後、ステップ#15にて、鋼管の一端部にグリスが塗布される。続いて、ステップ#20にて、グリスが塗布された一端部に、管継手が締め付けにより取り付けられる。このとき、鋼管の外周部にグリスがはみ出すことがある。
【0026】
次に、鋼管の両端部のうちの他方の端部(以下、「他端部」ともいう)にネジ切りが施される。その際、上記の一端部のネジ切りと同様に、ステップ#25にて、鋼管の他端部にネジ切りの下準備として管端矯正が行われ、ステップ#30にて、その他端部にネジ切りが施される。
【0027】
ここで、炭素鋼などからなる継目無鋼管を製造する場合は、ネジが形成された鋼管の他端部にリン酸皮膜処理が施され、その他端部の耐食性および潤滑性を向上させる。このリン酸皮膜処理は、ハイアロイ鋼管には必要ない。
【0028】
他端部のネジ切り後、ステップ#35にて、鋼管の両端部、すなわち一端部に取り付けられた管継手の端部と鋼管の他端部に、グリスが塗布される。続いて、ステップ#40にて、グリスが塗布された鋼管の両端部に、それぞれ保護キャップが嵌め込みにより取り付けられる。このときも、鋼管の外周部にグリスがはみ出すことがある。
【0029】
鋼管の両端部に保護キャップを嵌め込んだ後、ステップ#45にて、洗浄機を用いて鋼管の表面が洗浄される。このステップ#45の洗浄は、鋼管表面に洗浄液を塗布した後に高圧水を吹き付け、最後にエアブローにて水分を除去する。この洗浄により、先のネジ切り加工に起因して鋼管の表面に付着している切削液やグリスを含むあらゆる異物は、完全に除去される。この洗浄に用いられる洗浄機は、次に示す最終工程のマーキングで用いられるマーキング機の前段に配置される。
【0030】
そして、洗浄後直ちに、最終工程であるステップ#50のマーキング工程に移行し、マーキング機により鋼管の表面に製品情報が表示される。そして、マーキングを施された製品管は、ステップ#55にて、出荷のために梱包される。
【0031】
以上説明した本発明の継目無鋼管の製造方法および製造ラインによれば、製造ライン内で鋼管の表面に不用意に付着した切削液やグリスなどのあらゆる異物は、最終工程であるマーキング工程の直前に、すなわち異物が付着するリスクのある全ての工程を終えた後に、洗浄によって完全に除去することができるため、続くマーキングを支障なく円滑に行うことが可能となる。しかも、マーキング後の製品管の表面は、直前に施された洗浄によって、異物が完全に除去され、美麗な酸洗肌となることから、梱包時点での製品管の外観品質は優れたものとなる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、油井管用の継目無鋼管の製造に有効に利用でき、その中でも、美麗な酸洗肌を要求される二相ステンレス鋼やNi基合金鋼などからなるハイアロイ鋼管を製造する場合に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間加工を経て得られた鋼管の端部にネジ切りを施すネジ切り工程、およびネジ切りが施された製品管の表面に製品情報のマーキングを施すマーキング工程を含む継目無鋼管の製造方法であって、
マーキング工程の前段に、両端部に保護キャップが嵌め込まれた前記製品管の外面を洗浄する洗浄工程を含むこと、
を特徴とする継目無鋼管の製造方法。
【請求項2】
熱間加工を経て得られた鋼管の端部にネジ切りを施すネジ切り機、およびネジ切りが施された製品管の表面に製品情報のマーキングを施すマーキング機を備えた継目無鋼管の製造ラインであって、
マーキング機の前段に、両端部に保護キャップが嵌め込まれた前記製品管の外面を洗浄する洗浄機を備えること、
を特徴とする継目無鋼管の製造ライン。

【図1】
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【公開番号】特開2012−196709(P2012−196709A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64110(P2011−64110)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】