説明

緊急ガス放出システム

【課題】緊急時の燃料ガスの放出を周囲に事前に警告すること。
【解決手段】緊急ガス放出システムEは、車両に搭載した高圧ガス貯蔵器内の高圧ガスを緊急時に放出して、高圧ガス貯蔵器内の圧力を低下させるようにした緊急ガス放出システムであって、緊急時に高圧ガスを放出させる緊急放出手段11と、緊急放出手段11の作動を予測する予測手段と、予測手段の予測に基づいて、緊急放出手段11の作動前に周囲に警告を行う警告手段15とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧ガス貯蔵器内の高圧ガスを緊急時に放出する際に行う周囲への警告に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池自動車に搭載される燃料電池システムなどに関して、研究や開発が盛んに行われている。たとえば、燃料電池システムでは、その主要部である燃料電池において、燃料ガス(水素など)と酸化剤ガス(酸素(を含んだ空気)など)の電気化学反応による発電が行われる。
【0003】
ところで、その燃料電池システムでは、燃料ガスを高圧で充填している高圧ガス貯蔵器にガス緊急放出装置を設けるなどして、温度上昇等などの緊急時に、高圧ガス貯蔵器から燃料ガスを外部に放出するのが好ましい。
そして、高圧ガス貯蔵器から燃料ガスを外部に放出する際、燃料ガスが水素等のように無色透明かつ無臭である場合は、燃料ガスの放出をその周囲に知らせる必要がある。
【0004】
たとえば、特許文献1では、緊急時に高圧ガス貯蔵器から燃料ガスを外部に放出する際、その放出される燃料ガスの圧力を利用して音等の警告を発生させることにより、余分なエネルギーを使用することなく燃料ガスの放出を周囲に知らせることができる技術が開示されている。
【特許文献1】特開2004−169714号公報(段落0007、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術では、実際に燃料ガスが放出されてからしか、その放出を周囲に知らせることができず、燃料ガスが放出される直前の状況であっても、周囲にそのことを知らせることができない、すなわち、燃料ガスの放出を事前に警告(予告)することができないという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、緊急時の燃料ガスの放出を周囲に対して事前に警告することができる緊急ガス放出システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、請求項1に係る緊急ガス放出システムは、車両に搭載した高圧ガス貯蔵器内の高圧ガスを緊急時に放出して、高圧ガス貯蔵器内の圧力を低下させるようにした緊急ガス放出システムであって、緊急時に高圧ガスを放出させる緊急放出手段と、緊急放出手段の作動を予測する予測手段と、予測手段の予測に基づいて、緊急放出手段の作動前に周囲に警告を行う警告手段とを備えている。
【0008】
かかる発明によれば、高圧ガスの放出前に、警告手段によって周囲に警告を行うことによって、高圧ガスが放出される可能性を周囲に知らせることができる。
【0009】
請求項2に係る本発明の緊急ガス放出システムは、車両に搭載した高圧ガス貯蔵器内の高圧ガスを緊急時に放出して、高圧ガス貯蔵器内の圧力を低下させるようにした緊急ガス放出システムであって、緊急時に高圧ガスを放出させる緊急放出手段と、高圧ガス貯蔵器の周辺に、高圧ガス貯蔵器からそれぞれ異なる距離に配置された複数の温度センサと、複数の温度センサから得られた温度を比較し、高圧ガス貯蔵器への熱源の移動を判断する制御手段と、制御手段が高圧ガス貯蔵器へ熱源が接近していると判断した場合、周囲に警告を行う警告手段とを備えている。
【0010】
かかる発明によれば、高圧ガスの主な放出原因となりうる熱源の接近時に、警告手段によって周囲に警告を行うことによって、高圧ガスが放出される可能性を効果的に周囲に知らせることができる。
【0011】
請求項3に係る本発明の緊急ガス放出システムは、車両に、さらに、加速度を検知する加速度センサが備えられ、制御手段が、加速度センサからの車両に対する衝撃情報、または、複数の温度センサのいずれかからの温度上昇情報を受信したときに、緊急ガス放出システムを起動する。
【0012】
かかる発明によれば、車両に対する衝撃も温度上昇もないという、緊急ガス放出の可能性が少ないときには、緊急ガス放出システムを起動しないことにより、余分なエネルギーロスを低減することができる。
【0013】
請求項4に係る本発明の緊急ガス放出システムは、高圧ガス貯蔵器の内部の圧力を検知する圧力センサ、および、緊急放出手段の近傍の温度を検知する緊急放出手段温度センサを、さらに備え、制御手段が圧力センサまたは緊急放出手段温度センサから受信した情報に基づいて、警告の指示をした場合よりもさらに高圧ガスの放出の可能性が高くなっていると判断したとき、警告手段は、周囲に前記警告とは異なる直前警告を行う。
【0014】
かかる発明によれば、高圧ガスの放出の可能性の度合いにより、複数種類の警告を行うことができ、周囲に対してより効果的な警告が可能となる。
【0015】
請求項5に係る本発明の緊急ガス放出システムは、制御手段が、複数の温度センサから得られた温度を比較し、高圧ガス貯蔵器から熱源が遠ざかっていると判断したとき、または、熱源が温度低下したと判断したとき、警告手段による警告または直前警告を解除し、さらに、緊急ガス放出システムを停止する。
【0016】
かかる発明によれば、熱源が遠ざかったり温度低下したりして、緊急ガス放出の可能性が少なくなったときには、緊急ガス放出システムを停止することにより、余分なエネルギーロスを低減することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の緊急ガス放出システムによれば、緊急時の燃料ガスの放出を周囲に対して事前に警告することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら、詳細に説明する。図1は、本実施形態の燃料電池システムの全体構成図である。この燃料電池システムは、たとえば、燃料電池自動車などに搭載されるものである。
【0019】
図1に示すように、燃料電池システムSは、温度センサT(予測手段)、水素タンク10(高圧ガス貯蔵器)、緊急放出手段11、圧力センサP(予測手段)、遮断弁12、燃料電池FC、パージ弁13、加速度センサG、ECU(Electronic Control Unit)14(制御手段)および警告手段15を備えて構成される。
【0020】
なお、このうち、温度センサT、水素タンク10、緊急放出手段11、圧力センサP、加速度センサG、ECU14および警告手段15をまとめて、緊急ガス放出システムEという。
また、燃料電池システムSは、実際には、遮断弁12とパージ弁13以外にも、配管の適所に開閉弁や調整弁が設けられるが、それらは図示を省略している。
【0021】
温度センサTは、温度を測定し、その測定結果をECU14の制御部141に送信するものであり、1個または2個以上(本実施形態では11個)使用される。
水素タンク10は、高純度の水素ガス(高圧ガス。以下「水素」という。)を高圧(たとえば35MPa程度で充填しており、燃料電池FCのアノードAに対して、燃料ガスとしての水素を供給する。
【0022】
緊急放出手段11は、水素タンク10に直接取り付けられ、水素タンク10の内部の圧力や温度が所定の値を超えたときに、水素タンク10の内部の高圧水素を外部に放出する役割を果たすものであり、具体的には、PRD(Pressure Relief Device)が挙げられる。
【0023】
緊急放出手段11は、たとえば、水素タンク10の内部の圧力が所定の値(たとえば50MPa)を超えたときに高圧水素を外部に放出するために、その所定の圧力になったときに壊れる部材や縮むバネなどによって、内部の高圧水素が外部に放出されるための通路が形成される構成の安全弁を備える。
また、緊急放出手段11は、たとえば、水素タンク10の内部の温度が所定の値(たとえば120℃)を超えたときに高圧水素を外部に放出するために、融点がその所定の温度である金属が溶けることによって、内部の高圧水素が外部に放出されるための通路が形成される構成の高温時放出機構を備える。
【0024】
圧力センサPは、水素タンク10の内部における水素の圧力を測定し、その測定結果をECU14の制御部141に送信するものである。
遮断弁12は、ECU14の制御部141によって制御されることにより開閉するバルブである。
なお、水素タンク10、緊急放出手段11および圧力センサPは、ここでは1組として図示しているが、2組以上が遮断弁12の上流(図1の右側)に存在していてもよい。
【0025】
燃料電池FCは、陽イオン交換型の固体高分子電解質膜(不図示)を、アノードAとカソードCで挟んだ構成となっている。なお、図1では、燃料電池FCは、単セルの構成として示しているが、実際にはこの単セルを直列に複数接続した構成となっている。
そして、燃料電池FCでは、カソードCに酸化剤ガスとしての空気(酸素)が供給され、アノードAに燃料ガスとしての水素が供給され、それらの水素と酸素との電気化学反応により発電が行われる。
【0026】
パージ弁13は、ECU14の制御部141によって制御されることにより、アノードA側の循環経路内の水素を外部にパージ(排出)するためのバルブである。
加速度センサGは、設置された車両などの加速度を検知し、その検知した加速度をECU14の制御部141に送信するものである。なお、この加速度センサGは、設置された車両の動きによる加速度だけでなく、設置された車両が停車中でも、他の車両などがその車両に衝突することなどにより発生した加速度(衝撃)も検知できる。
【0027】
ECU14は、制御部141と記憶部142を備えて構成され、具体的には、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリなどによってそれらの機能を実現することができる。
制御部141は、温度センサT、圧力センサPおよび加速度センサGからの情報を受信し、遮断弁12、パージ弁13および警告手段15に対して情報(指示)を送信する。
【0028】
記憶部142は、制御部141の制御プログラムや各種データのほか、監視プログラム1421を記憶している。
監視プログラム1421は、緊急放出手段11から高圧水素が放出される前に制御部141が警告手段15によって周囲に警告を行わせるためなどに必要なプログラム、つまり、緊急ガス放出システムEの動作プログラムである。
【0029】
警告手段15は、ECU14の制御部141によって制御されることにより、水素タンク10の周囲に対して、高圧水素の放出の事前警告や直前警告(詳細は後記)、および、高圧水素が放出されていることの報知を行うものであり、具体的には、音や光を使ったものが挙げられる。
【0030】
次に、図2を参照しながら、緊急ガス放出システムにおける各センサなどの構成の配置について説明する(適宜図1参照)。図2は、(a)が、各構成を配置した車両を側面から見た模式図、(b)が、(a)の車両を上面から見た場合の模式図である。なお、図1と同様の構成については同様の符号を付し、重複説明を適宜省略する。また、図1におけるいくつかの構成については、図示を省略している。
【0031】
図2(a)および図2(b)に示すように、燃料電池システムSを搭載する車両20は、車体22と4つのタイヤ21を備えて構成される。
車体22の前方には、加速度センサGが設置されている。また、車体22の後方には、2つの水素タンク10がそれぞれ緊急放出手段11を備えて設置されている。水素タンク10の周囲には、11個の温度センサT(T1〜T11)が図のように、水素タンク10からの距離がある程度異なるように配置されている。
【0032】
続いて、図3を参照しながら、緊急ガス放出システムの処理について説明する(適宜図1、図2参照)。図3は、緊急ガス放出システムの処理の流れを示したフローチャートである。
【0033】
まず、運転者が車両20の運転を開始した時点で、緊急ガス放出システムEは非作動状態となっている(ステップS1)。なお、緊急ガス放出システムEが非作動状態とは、ECU14において、制御部141が記憶部142の監視プログラム1421を作動させていない状態のことを指す。
【0034】
次に、ECU14の制御部141は、加速度センサGによって車両20への衝撃を検知したか否かを判断する(ステップS2)。車両20への衝撃としては、たとえば、走行中の車両20が他の車両や建物などに衝突したことや、停車中の車両20に他の車両が衝突したことなどが挙げられる。
【0035】
車両20への衝撃を検知しなかった場合(ステップS2でNo)、ステップS3に進み、車両20への衝撃を検知した場合(ステップS2でYes)、ECU14の制御部141は、緊急ガス放出システムEを作動させる、つまり、記憶部142の監視プログラム1421を読み出して動作させる(ステップS4)。
【0036】
ステップS3において、ECU14の制御部141は、温度センサT1〜T11によって所定の温度上昇を検知したか否かを判断する(ステップS3)。所定の温度上昇の検知としては、たとえば、温度センサT1〜T11のうちいずれか1つが特定の温度(たとえば60℃)以上を検知したことが挙げられる。
【0037】
所定の温度上昇を検知しなかった場合(ステップS3でNo)、ステップS2に戻り、所定の温度上昇を検知した場合(ステップS3でYes)、ECU14の制御部141は、緊急ガス放出システムEを作動させる(ステップS4)。
【0038】
このようにして、車両20に対する衝撃も所定の温度上昇もないという、緊急ガス放出の可能性が少ないときには、監視プログラム1421、つまり、緊急ガス放出システムEの動作そのものを起動しないことにより、余分なエネルギーロスを低減することができる。
【0039】
ステップS4の後、ECU14の制御部141は、緊急放出手段11が作動したか否か、つまり、水素タンク10の内部の水素が緊急放出手段11によって外部に放出されたか否かを判断する(ステップS5)。この緊急放出手段11が作動したか否かは、圧力センサPによる水素タンク10の内圧の急激低下の検知により判断してもよいし、あるいは、緊急放出手段11の近傍の温度センサT6(緊急放出手段温度センサ)あるいはT11(緊急放出手段温度センサ)による緊急放出手段11の作動温度(たとえば120℃)の検知により判断してもよい。
【0040】
緊急放出手段11が作動したしたと判断した場合(ステップS5でYes)、ECU14の制御部141は、警告手段15によって、周囲に対し、実際の水素の放出を報知し(ステップS6)、その後、処理を終了する。警告手段15による報知としては、音(「ブーー」というブザー音、「水素が放出されています」という音声など)や光(回転灯や「水素放出中」という文字表示)などが挙げられる。
これにより、周囲は、水素の放出を認知し、適切に対応することができる。
【0041】
緊急放出手段11が作動していないと判断した場合(ステップS5でNo)、ECU14の制御部141は、直前警告条件を充足しているか否かを判断する(ステップS7)。直前警告条件としては、緊急放出手段11が作動する直前の状態であること、つまり、たとえば、水素タンク10の内圧が所定値(たとえば45MPa)まで上昇したことや、緊急放出手段11の近傍の温度センサT6あるいはT11が所定の温度(たとえば110℃)まで上昇したことなどが挙げられる。
【0042】
直前警告条件を充足している場合(ステップS7でYes)、ECU14の制御部141は、警告手段15によって、直前警告を発生させ(ステップS8)、ステップS5に戻る。直前警告としては、音(「ビッ、ビッ、・・・」というブザー音、「水素放出間近です」という音声など)や光(回転灯や「水素放出間近」という文字表示)などが挙げられる。
これにより、周囲は、水素の放出間近に、水素放出の可能性を知り、適切に対応することができる。
【0043】
直前警告条件を充足していないと判断した場合(ステップS7でNo)、ECU14の制御部141は、事前警告条件を充足しているか否かを判断する(ステップS9)。事前警告条件は、ステップS7で判断する直前警告条件よりも少し緩い条件であり、たとえば、水素タンク10の近傍での温度上昇や、熱源(火災による燃焼部分)の車両20への接近などが挙げられる。
【0044】
ここで、図4を参照しながら、水素タンク10の近傍での温度上昇や、熱源の車両20への接近の検知について説明する(適宜図1、図2参照)。図4は、(a)が、水素タンク10の近傍で燃焼が起きている場合の温度上昇を表わすグラフ、(b)が、水素タンク10の遠方の熱源が移動していない場合の温度上昇を表わすグラフ、(c)が、水素タンク10に対して熱源が接近している場合の温度上昇を表わすグラフである。なお、いずれのグラフも、縦軸が温度、横軸が時間の経過を表わしている。
【0045】
たとえば、水素タンク10の近傍として水素タンク10の真下中央付近に熱源がある場合、図4(a)のグラフに示すように、温度センサT3のほうが温度センサT2よりも大きな温度上昇率を検知することになる。つまり、ECU14の制御部141は、複数の温度センサTの温度やその上昇率を比較することによって、熱源が水素タンク10の近傍にあるのか遠方にあるのかを判断することができる。
【0046】
また、たとえば、図2(b)の右上方向の遠方に熱源があり、その熱源が移動していない場合、図4(b)のグラフに示すように、温度センサT1のほうが温度センサT2よりも少しだけ高い温度を検知するが、温度上昇率はあまり変わらない。
さらに、たとえば、図2(b)の右上方向の遠方に熱源があり、その熱源が水素タンク10に向かって移動している場合、図4(c)のグラフに示すように、温度センサT1のほうが温度センサT2よりも高い温度を検知し、加えて、温度上昇率も温度センサT1のほうが温度センサT2よりも有意に高い。
このように、ECU14の制御部141は、複数の温度センサTの温度やその上昇率を比較し、また、予め実験によって得られている関係(データ)を参照したりすることによって、遠方の熱源が水素タンク10に向かって移動しているのか否かを判断することができる。
【0047】
図3に戻って、事前警告条件を充足している場合(ステップS9でYes)、ECU14の制御部141は、警告手段15によって、事前警告を発生させ(ステップS10)、ステップS5に戻る。事前警告としては、音(「ビー、ビー、・・・」というブザー音、「水素放出の可能性があります」という音声など)や光(回転灯や「水素放出の可能性あり」という文字表示)などが挙げられる。
【0048】
これにより、周囲は、水素の主な放出原因となりうる熱源の接近時などに、水素放出の可能性を知り、適切に対応することができる。
また、このように、直前警告と事前警告という複数種類の警告を行うことにより、周囲に対して、きめ細かくて、より効果的な警告をすることができる。
【0049】
事前警告条件を充足していない場合(ステップS9でNo)、ECU14の制御部141は、熱源の離遠、あるいは、所定の温度低下、という2つの条件の少なくともいずれかを満たしているか否かを判断する(ステップS11)。熱源の離遠は、制御部141が、熱源の接近の場合と同様に、複数の温度センサTの温度やその上昇率を比較することなどによって、判断することができる。また、所定の温度低下は、制御部141が、ステップS3における所定の温度上昇の場合と同様に、たとえば、温度センサT1〜T11のすべてが特定の温度(たとえば60℃)未満であることを検知することにより判断することができる。
【0050】
ステップS11において、2つの条件のいずれも満たさない場合(No)、ステップS5に戻り、2つの条件の少なくともいずれかを満たす場合(Yes)、ステップS12に進む。
【0051】
ステップS12において、ECU14の制御部141は、緊急ガス放出システムEを非作動状態にする、すなわち、記憶部142の監視プログラム1421を非作動状態(スリープ状態)とし、ステップS2に戻る。
このように、熱源の離遠、あるいは、所定の温度低下という、緊急ガス放出の可能性が少なくなったときには、次に緊急ガス放出システムEの起動の条件を満たすまで(ステップS2またはステップS3でYesとなるまで)、緊急ガス放出システムEの動作そのものを停止させることにより、余分なエネルギーロスを低減することができる。
【0052】
次に、図5を参照しながら、緊急ガス放出システムの処理による各警告のタイミングなどについて説明する(適宜図1〜図3参照)。図5(a)は、「水素を放出する場合」の各警告のタイミングなどの一例を示したタイムチャートである。
【0053】
ここでは、説明を簡単にするため、温度センサT6による検知温度によって、ECU14の制御部141が各判断を行うものとする。
また、温度として、低いほうから順番に、緊急ガス放出システム作動温度(図3のステップS3に対応。以下「図3の」は省略)、事前警告温度(ステップS9に対応)、直前警告温度(ステップS7に対応)および緊急放出手段作動温度(ステップS5に対応)が図示されている。
【0054】
まず、最初(時刻a以前)、温度センサT6の温度は緊急ガス放出システム作動温度よりも低いので、緊急ガス放出システムEは非作動状態(オフ)となっている(ステップS1〜ステップS3)。時刻aにおいて、温度センサT6の温度は緊急ガス放出システム作動温度に到達し(ステップS3でYes)、緊急ガス放出システムEが作動状態(オン)となる(ステップS4)。
【0055】
次に、時刻bにおいて、温度センサT6の温度が事前警告温度に達すると(ステップS9でYes)、制御部141は警告手段15によって事前警告を発生(オン)させる(ステップS10)。
続いて、時刻cにおいて、温度センサT6の温度が直前警告温度に達すると(ステップS7でYes)、制御部141は警告手段15による事前警告を停止(オフ)し、警告手段15によって直前警告を発生(オン)させる(ステップS8)。
【0056】
そして、時刻dにおいて、温度センサT6の温度が緊急放出手段作動温度に達すると(ステップS5でYes)、緊急放出手段11が作動し、制御部141は、警告手段15による直前警告を停止(オフ)し、警告手段15によって水素の放出を周囲に報知(オン)する(ステップS6)。
このようにして、緊急ガス放出システムEは、適切なタイミングで、起動し、事前警告と直前警告を発生させ、また、実際の水素放出を周囲に報知することができる。
【0057】
次に、図5(b)は、「水素を放出しない場合」の各警告のタイミングなどの一例を示したタイムチャートである。
ここでも、説明を簡単にするため、温度センサT6による検知温度によって、ECU14の制御部141が各判断を行うものとする。
また、緊急ガス放出システム作動温度、事前警告温度、直前警告温度および緊急放出手段作動温度については、図5(a)の場合と同様である。
【0058】
まず、最初(時刻e以前)、温度センサT6の温度は緊急ガス放出システム作動温度よりも低いので、緊急ガス放出システムEは非作動状態(オフ)となっている(ステップS1〜ステップS3)。時刻eにおいて、温度センサT6の温度は緊急ガス放出システム作動温度に到達し(ステップS3でYes)、緊急ガス放出システムEが作動状態(オン)となる(ステップS4)。
【0059】
次に、時刻fにおいて、温度センサT6の温度が事前警告温度に達すると(ステップS9でYes)、制御部141は警告手段15によって事前警告を発生(オン)させる(ステップS10)。
続いて、時刻gにおいて、温度センサT6の温度が直前警告温度に達すると(ステップS7でYes)、制御部141は警告手段15による事前警告を停止(オフ)し、警告手段15によって直前警告を発生(オン)させる(ステップS8)。
【0060】
そして、温度が途中から下がり、時刻hにおいて、温度センサT6の温度が直前警告温度よりも低くなると(ステップS7でNo)、制御部141は警告手段15による直前警告を停止(オフ)し、警告手段15によって事前警告を発生(オン)させる(ステップS9)。
【0061】
さらに、温度が下がって、時刻iにおいて、温度センサT6の温度が事前警告温度よりも低くなると(ステップS9でNo)、制御部141は警告手段15による事前警告を停止(オフ)させる。
続いて、温度が下がって、時刻jにおいて、温度センサT6の温度が緊急ガス放出システム作動温度よりも低くなると(ステップS11でYes)、緊急ガス放出システムEは非作動状態となる(ステップS12)。
【0062】
このようにして、緊急ガス放出システムEは、実際に水素放出を行わない場合でも、適切なタイミングで、起動し、事前警告と直前警告を発生させることができる。また、適切なタイミングで、停止し、余分なエネルギーロスを低減することができる。
【0063】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこれらに限定されるものではない。たとえば、事前警告と直前警告は、両方とも共通の警告手段15によって行うものとしたが、別々の警告手段を用いるようにしてもよい。また、水素タンク10は図2では2つであるものとしたが、1つあるいは3つ以上であってもよい。
【0064】
さらに、図3において、事前警告と直前警告は、それぞれの条件を満たさなくなったときに解除(停止)するものとしたが、図3のステップS12において解除するようにしてもよい。また、加速度センサは、1つでなくても2つ以上でもよく、たとえば、車両20の側面に設けておき、他の車両からの側面への衝突を検知しやすいようにしてもよい。その他、具体的な構成について、本発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本実施形態の燃料電池システムの全体構成図である。
【図2】(a)が、各構成を配置した車両を側面から見た模式図、(b)が、(a)の車両を上面から見た場合の模式図である。
【図3】緊急ガス放出システムの処理の流れを示したフローチャートである。
【図4】(a)が、水素タンクの近傍で燃焼が起きている場合の温度上昇を表わすグラフ、(b)が、水素タンクの遠方の熱源が移動していない場合の温度上昇を表わすグラフ、(c)が、水素タンクに対して熱源が接近している場合の温度上昇を表わすグラフである。
【図5】(a)が、水素を放出する場合の各警告のタイミングなどの一例を示したタイムチャート、(b)が、水素を放出しない場合の各警告のタイミングなどの一例を示したタイムチャートである。
【符号の説明】
【0066】
E 緊急ガス放出システム
G 加速度センサ
P 圧力センサ
T(T1〜T11) 温度センサ
10 水素タンク
11 緊急放出手段
14 ECU
15 警告手段
141 制御部
142 記憶部
1421 監視プログラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載した高圧ガス貯蔵器内の高圧ガスを緊急時に放出して、前記高圧ガス貯蔵器内の圧力を低下させるようにした緊急ガス放出システムであって、
前記緊急時に前記高圧ガスを放出させる緊急放出手段と、
前記緊急放出手段の作動を予測する予測手段と、
前記予測手段の予測に基づいて、前記緊急放出手段の作動前に周囲に警告を行う警告手段と、
を備えたことを特徴とする緊急ガス放出システム。
【請求項2】
車両に搭載した高圧ガス貯蔵器内の高圧ガスを緊急時に放出して、前記高圧ガス貯蔵器内の圧力を低下させるようにした緊急ガス放出システムであって、
前記緊急時に前記高圧ガスを放出させる緊急放出手段と、
前記高圧ガス貯蔵器の周辺に、前記高圧ガス貯蔵器からそれぞれ異なる距離に配置された複数の温度センサと、
前記複数の温度センサから得られた温度を比較し、前記高圧ガス貯蔵器への熱源の移動を判断する制御手段と、
前記制御手段が前記高圧ガス貯蔵器へ熱源が接近していると判断した場合、周囲に警告を行う警告手段と
を備えたことを特徴とする緊急ガス放出システム。
【請求項3】
前記車両に、さらに、加速度を検知する加速度センサが備えられ、
前記制御手段は、前記加速度センサからの前記車両に対する衝撃情報、または、前記複数の温度センサのいずれかからの温度上昇情報を受信したときに、前記緊急ガス放出システムを起動することを特徴とする請求項2に記載の緊急ガス放出システム。
【請求項4】
前記高圧ガス貯蔵器の内部の圧力を検知する圧力センサ、および、前記緊急放出手段の近傍の温度を検知する緊急放出手段温度センサを、さらに備え、
前記制御手段が前記圧力センサまたは前記緊急放出手段温度センサから受信した情報に基づいて、前記警告の指示をした場合よりもさらに前記高圧ガスの放出の可能性が高くなっていると判断したとき、前記警告手段は、周囲に前記警告とは異なる直前警告を行うことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の緊急ガス放出システム。
【請求項5】
前記制御手段は、前記複数の温度センサから得られた温度を比較し、前記高圧ガス貯蔵器から熱源が遠ざかっていると判断したとき、または、熱源が温度低下したと判断したとき、前記警告手段による前記警告または前記直前警告を解除し、さらに、前記緊急ガス放出システムを停止することを特徴とする請求項3または請求項4に記載の緊急ガス放出システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−218309(P2007−218309A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−37976(P2006−37976)
【出願日】平成18年2月15日(2006.2.15)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】