説明

緊急開放扉を備える扉装置

【課題】 既存の扉本体であっても容易に実施することができるとともに、緊急時に広い開口を確保することができる緊急開放扉を備える扉装置を提供する。
【解決手段】 扉本体6の最下段の下框22に対して上段の中框23に、上下方向に変位自在に挿入される挿入部30を有する上部取付け体31と、上端部に上部取付け体31が装着される下部パネル32と、下部パネル32の下端部に装着され、中框23よりも下方の下框22によって支持される下部取付け体33とを設け、脱衣室3側から下部パネル32を持ち上げて手前に引き寄せることによって、緊急時に脱出するための開口Sを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非常時に脱出口を確保するための緊急開放扉を備える扉装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢者が浴室内で卒倒または転倒して倒れた場合、浴室扉は浴室内に向かって突出した状態で開くため、浴室側から身体の全体または一部が浴室扉にもたれ掛かっていたり、浴室扉の直前に身体があって、脱衣室側から強引に扉を開けようとすると、身体を傷つけ、事態をさらに悪化させてしまうおそれがあり、脱衣室側から容易に浴室扉を開くことができない。
【0003】
また、浴室内の一刻を争うような状況である場合には、浴室内の被救出者を搬出するために、やむを得ず浴室扉を破壊することがあるが、破壊した扉の修復または取り換えが必要になるとともに、破壊した扉の破片によって被救出者を傷つけるおそれがあり、扉を破壊することはできるだけ回避されなければならない。
【0004】
このような問題を解決する従来の技術は、特許文献1に記載されている。この従来の技術では、浴室内で倒れた人を脱衣室へ搬出するために、浴室ドアの扉本体に、脱衣室側からの操作によって脱衣室側へ開放する緊急脱出扉が組み込まれる。
【0005】
前記緊急脱出扉は、扉本体の框組の内側に脱衣室側へ開閉自在に軸支され、横額縁の一端または一方の縦額縁が横框に対して縦軸を中心に回転自在にかつ横框の長さ方向に移動自在に設けることによって、緊急脱出扉の一側部を脱衣室側へ回動させたとき、その緊急脱出扉の前記縦軸に関して浴室に臨む他側部を浴室内に突出させずに開放することができるように構成されている。
【0006】
【特許文献1】特開平6−307168号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記従来の技術では、緊急脱出扉が取付けられる扉本体の横框には、緊急脱出扉の前記縦軸を前記長さ方向に案内するための案内溝および横額縁と横框とを連結するアームなどの固有の構成を必要とし、これらを具備しない既存の扉本体に前記緊急脱出扉を容易に設けることができないという問題がある。
【0008】
また、前述の緊急脱出扉を閉じた状態から脱衣室側へ開くと、前記縦軸は案内溝内を一方の竪框から他方の竪框に向かって移動し、緊急脱出扉の回転中心は同一方向に移動する。そのため、緊急脱出扉を開放した状態では、前記他方の竪框寄りに移動した回転中心から他方の竪框までを間口幅とする開口が形成されるが、この開口の間口幅が減少するため、広い開口を確保することができないという問題がある。
【0009】
本発明の目的は、既存の扉本体であっても容易に実施することができるとともに、緊急時に広い開口を確保することができる緊急開放扉を備える扉装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、一対の竪框に複数の横框の両端部が連結されて枠組みされた框枠を有し、建物の壁に固定された扉枠に予め定める開閉方向に開閉自在に保持される扉本体と、
扉本体の前記複数の横框のうち最下段に配置される横框よりも上方に配置される上段の横框に、下方から上下方向に変位自在に挿入される挿入部を有する上部取付け体と、
上端部に、前記上部取付け体が装着されるパネルと、
前記パネルの下端部に装着され、前記上段の横框よりも下方に配置される下段の横框によって支持される下部取付け体とを含むことを特徴とする緊急開放扉を備える扉装置である。
【0011】
本発明に従えば、扉本体は框枠を有し、この框枠は、複数の竪框と、各竪框に複数の横框の両端部が連結されて枠組みされる。建物の壁に固定された扉枠に予め定める開閉自在に保持される。前記予め定める開閉方向は、開き扉である場合には、鉛直軸線まわりに回動する方向であり、引き戸である場合には、前記扉枠に沿って左右に直線移動する方向である。
【0012】
前記パネルは、上端部に上部取付け体が装着され、下端部に下部取付け体が装着される。上部取付け体は、挿入部を有し、この挿入部は、扉本体の前記複数の横框のうち、最下段に配置される横框よりも上方に配置される上段の横框に、下方から上下方向に変位自在に挿入される。
【0013】
前記上部取付け体は、扉本体の複数の横框のうち、最下段に配置される横框よりも上方に配置される上段の横框、すなわち複数の横框が上框、中框および下框からなる場合には、下框が最下段の横框であるため、上框を上段の横框として用いた場合には、中框が下段の横框であり、また、中框を上段の横框として用いた場合には、下框が下段の横框である。さらに、前記複数の横框が上框および下框からなる場合には、上段の横框が上框であり、下段の横框が下段の横框である。このように上段の横框と下段の横框とは、複数の横框のうちで上下に隣接する2つの横框が用いられる。
【0014】
このように緊急開放扉が扉本体に設けられるので、緊急事態が発生したときには、上部取付け体および下部取付け体が装着されたパネルを上方へ持ち上げることによって、下部取付け体の下部が下段の横框から上方へ離反し、この状態で手前に引くことによって、あるいは被救出者側へ押し込むことによって、前記パネルを上部取付け体および下部取付け体とともに扉本体に対して手前側または前記被救出者側へ変位させて、緊急開放扉を開放させて、開口を形成することができる。
【0015】
このように、扉本体に対して上部取付け体および下部取付け体が装着されたパネルを持ち上げて手前に引くか、あるいは押し込むという簡単な操作によって、各竪框間および横框間がすべて開放した開口を短時間で容易に形成することができ、扉本体が閉じられた状態であっても、開口を介して被救出者を搬出し、あるいは救出者が被救出者側へ進入して、救出作業を行うことができる。
【0016】
しかも、前記パネルは、上部取付け体および下部取付け体とともに、下段の横框から上方に持ち上げた状態で、扉本体から救出者側および被救出者側のいずれにも変位させることができるので、たとえば浴室内で倒れた被救出者の意識がある場合、被救出者は救出者が到着するまでに、前記パネルを脱衣室側へ変位させて緊急開放扉を開放し、自力で脱衣室側へ脱出することが可能となる。また、浴室内で被救出者が扉から離れた位置に倒れていることを脱衣室側から確認できる場合には、救出者はパネルを浴室側へ押し込んで緊急開放扉を開放することができ、浴室内の被救出者に対して、より迅速な対応が可能となる。
【0017】
さらに、前記上段の横框として上框を、また下段の横框として中框を用いる場合には、前述の中框を上段の横框とし、下框を下段の横框として用いた場合と同様に、各竪框間において上框と中框との間に、上部縁材および下部縁材が装着されたパネルが建て込まれて緊急開放扉が設けられ、緊急事態が発生したときには、パネルを上部取付け体および下部取付け体とともに被救出者側および救出者側のいずれかに変位させて、扉本体の上部領域に設けられる緊急開放扉を開放して開口を形成し、この開口を介して救出者が被救出者側へ進入し、あるいは開口を通して被救出者に声をかけるなどして意識を喚起することができる。また救出者が開口を介して腕を挿入して、被救出者側に設けられたロック用操作部を操作して、扉のロック状態を解除するなどの救出作業を、扉本体の上部領域の開口から行うことができる。
【0018】
また本発明は、前記パネルの両側部には、扉本体の各竪框と前記パネルの両側部との間の隙間を塞ぐ止水部材が設けられることを特徴とする。
【0019】
本発明に従えば、前記パネルの両側部に設けられる止水部材によって扉本体の各竪框と前記パネルの両側部との間の隙間が塞がれるので、前記パネルが上部取付け体および下部取付け体とともに扉本体に装着された状態では、扉本体が設けられる壁に関して両側の各空間のいずれか一方から他方へ水などが浸入することが防がれ、水密性が達成される。特に、前記一方の空間が浴室、他方の空間が脱衣室である場合には、浴室内で飛散した水が脱衣室へ前記隙間を介して浸入することを防ぐことができるので、浴室扉に対して緊急開放扉を好適に実施することができる。
【0020】
さらに本発明は、前記上部取付け体は、前記挿入部を有し、第1ヒンジ部が形成される第1取付け部材と、前記パネルの上端部に装着され、第1ヒンジ部に回動自在に連結される第2ヒンジ部が形成される第2取付け部材とを含むことを特徴とする。
【0021】
本発明に従えば、前記上部取付け体は第1取付け部材と第2取付け部材とを有し、第1取付け部材には第1ヒンジ部が形成され、第2取付け部材には第2ヒンジ部が形成される。第2ヒンジ部は第1ヒンジ部に回動自在に連結され、これらの第1および第2ヒンジ部の回動軸線まわりに前記パネルを被救出者側および救出者側のいずれかの方向へ円滑に安定して回動させ、緊急開放扉を開放することができる。
【0022】
したがって前記緊急開放扉を開放するに際して、前記パネルを押し開いたときに、このパネルが上部取付け体および下部取付け体とともに不所望に飛散または落下してしまうことが防がれ、被救出者を救出した後に、容易に閉鎖位置に復帰させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、扉本体に容易にかつ迅速に開放することができる緊急開放扉を設けることができる。しかも、緊急開放扉は、パネルと、パネルの上部に装着される上部取付け体と、パネルの下部に装着される下部取付け体とによって実現されるので、既存の扉本体の構成を大きく変更せずに、容易に、緊急開放扉を扉本体に設けることができる。また緊急開放扉は、上部取付け体の挿入部を扉本体の上段の横框に挿入して上下に変位自在に構成されるので、パネルを上部取付け体および下部取付け体とともに上方へ変位させて、下部取付け体がその下に配置される下段の横框に対して持ち上げられて干渉しない状態とし、容易に緊急開放扉を開放して、被救出者を搬出し、あるいは救出者が被救出者側で進入するための開口を形成することができる。
【0024】
また本発明によれば、止水部材によってパネルの両側部と各竪框との間の隙間が塞がれ、水密性が向上される。
【0025】
さらに本発明によれば、パネルは上部取付け体の第1および第2ヒンジ部によって回動自在であるので、開閉時にパネルが扉本体から分離せず、円滑に安定して開放させ、または閉鎖させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
図1は、本発明の実施の一形態の緊急開放扉を備える扉装置1の一部を示す鉛直断面図であり、図2は図1の切断面線II−IIから見た扉装置1の水平断面図であり、図3は扉装置1を脱衣室3側から見た全体の正面図である。本実施の形態の扉装置1は、建物内の浴室2と脱衣室3とを仕切る壁4に設けられる開き扉であって、前記壁4に組み込まれた扉枠5と、扉枠5に脱衣室3側へ開放する扉本体6と、この扉本体6に設けられる緊急開放扉である緊急開放扉7とを含む。
【0027】
扉枠5は、壁4に形成された開口周縁部に固定される一対の竪枠8,9と、各竪枠8,9の上端部を連結する上枠10と、各竪枠8,9の下端部を連結する下枠11とを有する。下枠11は、その上面が浴室2および脱衣室3の各床面と共通な一水平面をなすように配置される。これらの各竪枠8,9、上枠10および下枠11は、アルミニウム合金から成る押出し形材によって実現される。
【0028】
前記一対の竪枠8,9は、開口周縁部において相互に水平方向(図1の紙面に垂直な方向)に対向しかつ鉛直方向(図1の上下方向)に延びる各内面に、図示しないボルトなどによって平行に固定される。また、前記上枠10は、開口周縁部において相互に鉛直方向に対向しかつ水平方向に延びる内面に、図示しないボルトなどによって平行に固定される。各竪枠8,9の上端部は、図示しないビスによって前記上枠10の長手方向両端部に連結され、各竪枠8,9の下端部は、図示しないビスによって前記下枠11の長手方向両端部に連結され、こうして各竪枠8,9と上枠10と下枠11とが開口周縁部に枠組みされた状態で建て込まれる。
【0029】
扉本体6は、框枠15と、この框枠15の上部に装着される上部パネル16と、框枠15の一側部に上下方向(図1の上下方向)に間隔をあけて連結される一対のヒンジ17,18とを有する。前記框枠15は、一対の竪框19,20、各竪框19,20の上端部を連結する上框21、各竪框19,20の下端部を連結する下框22および各竪框19,20の長手方向中央部を連結する中框23を含む。前記上框21、下框22および中框23は、平行に配置され、これらの長手方向両端部には各竪框19,20が図示しないビスによって固定される。前記一対の竪框19,20、下框22および中框22は、アルミニウム合金から成る押出し形材によって実現される。
【0030】
脱衣室3側から見て右側に配置される一方の竪框20は、開口周縁部に取り付けられた扉枠5の一方の竪枠9に各ヒンジ17,18によって鉛直軸線まわりに回動自在に連結され、扉本体6を脱衣室3側で、開放方向A1および閉鎖方向A2(図1参照)に開閉動作させることができる。
【0031】
図4は、緊急開放扉7を分解した状態を示す分解斜視図であり、図5は緊急開放扉7を組み立てた状態を示す斜視図である。前記緊急開放扉7は、扉本体6の最下段に配置される横框である下框22に対して上方に配置される上段の横框である中框23に、下方から上下方向に変位自在に挿入される挿入部30を有する上部取付け体31と、上端部に前記上部取付け体31が装着されるパネルである下部パネル32と、下部パネル32の下端部に装着され、下框22によって支持される下部取付け体33とを含む。
【0032】
前記下部パネル32は、板状矩形のガラス38の周縁部に周方向全周にわたって装着されるシール部材41と、このシール部材41の上縁部に装着され、前記上部取付け体31がビス39によって固定される上部縁材40と、前記シール部材41の下縁部に装着され、前記下部取付け体33がビス43によって固定される下部縁材44と、前記シール部材41の各側縁部にそれぞれ装着され、上端部が上部縁材40にビス45によって固定され、下端部がビス46によって下部縁材44に固定される一対の側部縁材47,48とを含む。
【0033】
前記下部パネル32の両側部である各側部縁材47,48には、扉本体6の各竪框19,20と各側部縁材47,48との間の隙間を浴室2側および脱衣室3側で塞ぐ止水部材である各一対のシール部材50,51がそれぞれ設けられる。これらのシール部材50,51は、可撓性および弾発性を有する合成ゴムから成り、各側部縁材47,48の外側面に長手方向全長にわたって平行にそれぞれ嵌着される。
【0034】
前記上部取付け体31は、前記挿入部30を有し、第1ヒンジ部54が形成される第1取付け部材55と、前記下部パネル32の上端部である上部縁材41に装着され、第1ヒンジ部54に回動自在に連結される第2ヒンジ部56が形成される第2取付け部材57とを含む。これらの第1および第2取付け部材55,57は、アルミニウム合金からなる押出し形材によって実現される。
【0035】
再び図1をも参照して、第1ヒンジ部54は、直円筒状の内周面によって凹溝54aが形成される基部60と、基部60の浴室2に臨む一側面から突出して一体に形成される第1ストッパ片61と、基部60に第1ストッパ片61よりも開放方向A1下流側で一体に形成される第2ストッパ片62と、基部60に第2ストッパ片61よりも開放方向A1下流側で一体に形成される第3ストッパ片63と、基部60に第3ストッパ片63よりも開放方向A1下流側で一体に形成される第4ストッパ片64とを有する。これらの第1〜第4ストッパ片61〜64は、基部60と平行に長手方向全長にわたって形成される。
【0036】
また、前記挿入部30は、基部60の上部から突出する一対の突条65a,65bを有する。各突条65a,65bの両側面は、基部60から遊端部に向かって相互に近接する方向に傾斜して形成される。これらの突条65a,65bは、前記中框23の下部に下方に臨んで長手方向全長にわたって開放する開口66を介して凹溝67内に挿脱自在に挿入され、この挿入状態において、前述したように上下方向に変位自在である。
【0037】
このような凹溝67は、中框23の上部にも同様に形成され、前記上部パネル16の下縁部が嵌着される。上部パネル16は、前記下部パネル32と同様に構成され、矩形板状のガラス68の周縁部にシール部材69が周方向全周にわたって装着され、このシール部材69の下縁部が装着されて保持されている。
【0038】
前記第2取付け部材57は、前述した第2ヒンジ部56と、この第2ヒンジ部56が一体に形成され、長手方向に垂直な断面が逆U字状の嵌合凹部70とを有する。第2ヒンジ部56は、前記第1ヒンジ部54に回動自在に嵌まり込む直円柱状の嵌合部分71と嵌合部分71と前記嵌合凹部70とを連結し、長手方向に垂直な断面が矩形の連結部分72とを有する。
【0039】
前記下部取付け体33は、一対の側部73a,73bと、各側部73a,73bを連結する底部74とを有し、長手方向に垂直な断面が略U字状に形成される。前記底部74は、各側部73a,73bに相互に近接する方向に直角に突出して一体に連なる一対の当接部分75a,75bと、各当接部分75a,75bに一体に連なり、長手方向に垂直な断面が略U字状の嵌合突部76とを有する。この嵌合突部76は、前記下框22の上部に形成される凹溝77に開口78を介して上下方向に着脱自在に嵌合し、緊急開放扉7の開放方向A1および閉鎖方向A2の回動を阻止し、各当接部分75a,75bが下框22の上面に支持された状態で、扉本体6と同一面上に保持することができるように構成される。
【0040】
このような嵌合突部76は、緊急開放扉7を上昇させて挿入部30が中框23の凹溝67に第4ストッパ片64が中框23の下面に当接するまで挿入されたとき、下框22の凹溝77から上方に離脱し、緊急開放扉7の開放方向A1および閉鎖方向A2の回動を可能な状態とすることができる。
【0041】
図6および図7は、緊急開放扉7を開放する手順を説明するための鉛直断面図であり、図6(1)は下部パネル32が閉じられた状態を示し、図6(2)は下部パネル32を上昇させた状態を示し、図7(1)は下部パネル32の下端部側を脱衣室3側へ引き出した状態を示し、図7(2)は下部パネル32の上端部を中框23から離脱させた状態を示す。
【0042】
浴室2内で高齢者が倒れるなどの緊急事態が発生し、それを脱衣室3側から発見した救出者は、図6(1)に示される装着状態の下部パネル32を、上部取付け体31に下から手指を掛けて矢符B1で示すように上方へ持ち上げることによって、上部取付け体31の挿入部30が中框23の凹溝67内に第4ストッパ片64が中框23の下面に当接するまで挿入し、下部取付け体33の嵌合突部76が下框22の凹溝77から離脱して、下部取付け体33が下框22から上方へ離反する。
【0043】
この状態で、救出者が下部パネル32を脱衣室3側から手前に引くことによって、図7(1)に示されるように、前記パネルを上部取付け体31および下部取付け体33とともに扉本体6に対して手前側へ変位させて、緊急開放扉7を開放方向A1へ開放させ、図7(2)に示されるように、下部パネル32を下方B2へ押し下げることによって、挿入部30を中框23の凹溝67から下方へ引き抜き、中框23と下框22との間でかつ各竪枠8,9間に、身体を充分に通過させることができる広い開口Sを形成することができる。
【0044】
このように、扉本体6に対して上部取付け体31および下部取付け体33が装着された下部パネル32を持ち上げて手前に引くという簡単な操作によって、各竪框19,20間ならびに中框23および下框22間がすべて開放した開口Sを短時間で容易に形成することができ、扉本体6が閉じられた状態であっても、開口Sを介して被救出者を搬出し、あるいは救出者が被救出者側へ進入して、救出作業を行うことができる。
【0045】
前記下部パネル32は、上部取付け体31および下部取付け体33とともに、下框22から上方に持ち上げた状態で、扉本体6から救出者側である脱衣室3に変位させることができるので、浴室2内で倒れた被救出者の意識がある場合、被救出者は救出者が到着するまでに、前記下部パネル32を脱衣室3側へ変位させて緊急開放扉7を開放し、自力で脱衣室3側へ脱出することが可能となる。
【0046】
また、前記下部パネル32の両側部に設けられるシール部材50,51によって扉本体6の各竪框19,20と前記下部パネル32の両側部との間の隙間が塞がれるので、前記下部パネル32が上部取付け体31および下部取付け体33とともに扉本体6に装着された状態では、扉本体6が設けられる壁4に関して両側の浴室2および脱衣室3のいずれか一方から他方へ水などが浸入することが防がれ、水密性が達成される。
【0047】
さらに、前記上部取付け体31は、第1取付け部材55と第2取付け部材57とを有し、第1取付け部材55には第1ヒンジ部54が形成され、第2取付け部材57には第2ヒンジ部56が形成される。第2ヒンジ部56は第1ヒンジ部54に回動自在に連結され、これらの第1および第2ヒンジ部54,56の回動軸線まわりに前記下部パネル32を被救出者側および救出者側のいずれかの方向へ円滑に安定して回動させ、緊急開放扉7を開放することができる。
【0048】
したがって前記緊急開放扉7を開放するに際して、前記下部パネル32を押し開いたときに、この下部パネル32が上部取付け体31および下部取付け体33とともに不所望に飛散または落下してしまうことが防がれ、被救出者を救出した後に、容易に閉鎖位置に復帰させることができる。
【0049】
前述の実施の形態では、第1取付け部材55に第1および第2ストッパ片61,62によって下部パネル32の浴室2側への変位を阻止して、脱衣室3側へ開閉するように構成されたが本発明の実施の他の形態では、第1および第2ストッパ片61,62を設けず、下部パネル32が浴室2側および脱衣室3側のいずれの側へも開閉するようにしてもよい。これによって、被救出者が浴室2内の下部パネル32の開閉に邪魔にならない場所に倒れていることを救出者が脱衣室3側から確認できたとき、下部パネル32を浴室2側に押圧して、より迅速に開口Sを形成し、被救出者の救出作業を行うようにしてもよい。
【0050】
また、前述の実施の形態では、扉本体6の中框23と下框22との間に緊急開放扉7を設ける構成について述べたが、本発明の実施の他の形態では、前記上段の横框として上框21を、また下段の横框として中框23を用いる場合には、前述の中框23を上段の横框とし、下框22を下段の横框として用いた場合と同様に、各竪框19,20間において上框21と中框23との間に、上部取付け体31および下部取付け体33が装着された下部パネル32が建て込まれて緊急開放扉が構成され、緊急事態が発生したときには、下部パネル32を上部取付け体31および下部取付け体33とともに被救出者側および救出者側のいずれかに変位させて、扉本体6の上部領域に設けられる緊急開放扉7を開放して開口を形成し、この開口を介して救出者が被救出者側へ進入し、あるいは開口を介して被救出者に声をかけるなどして意識を喚起し、あるいは救出者が開口を介して腕を挿入して、被救出者側に設けられたロック用操作部を操作して、扉のロック状態を解除するなどの救出作業を、扉本体6の上框21と中框23との間の上部の開口から行うことができる。
【0051】
本発明の緊急開放扉を備える扉装置は、一般家屋の浴室と脱衣室とを仕切る浴室扉として実施されるだけでなく、学校、保育所、病院および養護施設などの建物内の扉、たとえば便所、洗面所および更衣室に設けられる扉などのように、使用者側からのみロック/解除が可能な扉に好適に実施することができ、これによって、使用者が内側から扉を開放することができない緊急時に、外側から救出者が緊急開放扉を開放させて、迅速に脱出用開口を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施の一形態の緊急開放扉を備える扉装置1の一部を示す鉛直断面図である。
【図2】図1の切断面線II−IIから見た扉装置1の水平断面図である。
【図3】扉装置1を脱衣室3側から見た全体の正面図である。
【図4】緊急開放扉7を分解した状態を示す分解斜視図である。
【図5】緊急開放扉7を組み立てた状態を示す斜視図である。
【図6】緊急開放扉7を開放する手順を説明するための鉛直断面図であり、図6(1)は下部パネル32が閉じられた状態を示し、図6(2)は下部パネル32を上昇させた状態を示す。
【図7】緊急開放扉7を開放する手順を説明するための鉛直断面図であり、図7(1)は下部パネル32の下端部側を脱衣室3側へ引き出した状態を示し、図7(2)は下部パネル32の上端部を中框23から離脱させた状態を示す。
【符号の説明】
【0053】
1 扉装置
2 浴室
3 脱衣室
4 壁
5 扉枠
6 扉本体
7 緊急開放扉
8,9 竪枠
10 上枠
11 下枠
15 框枠
16 上部パネル
17,18 ヒンジ
19,20竪框
21 上框
22 下框
23 中框
30 挿入部
31 上部取付け体
32 下部パネル
33 下部取付け体
47,48 側部縁材
50,51 シール部材
54 第1ヒンジ部
55 第1取付け部材
56 第2ヒンジ部
57 第2取付け部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の竪框に複数の横框の両端部が連結されて枠組みされた框枠を有し、建物の壁に固定された扉枠に予め定める開閉方向に開閉自在に保持される扉本体と、
扉本体の前記複数の横框のうち最下段に配置される横框よりも上方に配置される上段の横框に、下方から上下方向に変位自在に挿入される挿入部を有する上部取付け体と、
上端部に、前記上部取付け体が装着されるパネルと、
前記パネルの下端部に装着され、前記上段の横框よりも下方に配置される下段の横框によって支持される下部取付け体とを含むことを特徴とする緊急開放扉を備える扉装置。
【請求項2】
前記パネルの両側部には、扉本体の各竪框と前記パネルの両側部との間の隙間を塞ぐ止水部材が設けられることを特徴とする請求項1記載の緊急開放扉を備える扉装置。
【請求項3】
前記上部取付け体は、前記挿入部を有し、第1ヒンジ部が形成される第1取付け部材と、前記パネルの上端部に装着され、第1ヒンジ部に回動自在に連結される第2ヒンジ部が形成される第2取付け部材とを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の緊急開放扉を備える扉装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−161324(P2006−161324A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−351417(P2004−351417)
【出願日】平成16年12月3日(2004.12.3)
【出願人】(000004732)株式会社日本アルミ (64)
【Fターム(参考)】