説明

緑化パレットの土壌飛散防止剤

【課題】造膜性に優れ、膜強度に優れた被膜を緑化パレットの土壌表面に形成することができ、屋上等に施工した緑化パレットの土壌の飛散を防止することができ、しかも微生物分解され易いため、使用後の被膜を回収する必要のない緑化パレットの土壌飛散防止剤を提供する。
【解決手段】本発明の緑化パレットの土壌飛散防止剤は、クエン酸誘導体系可塑剤、エーテルエステル誘導体系可塑剤、グリセリン誘導体系可塑剤、ポリヒドロキシカルボン酸誘導体系可塑剤、アジピン酸誘導体系可塑剤、フタル酸誘導体系可塑剤より選ばれた可塑剤を含有する乳酸系樹脂を水に分散させた、造膜温度が90℃以下の水系分散体よりなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緑化パレットの土壌飛散防止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、都市部のヒートアイランド化への対策として、建物の屋上や壁面、擁壁や護岸等の緑化が推進されている。屋上等を緑化するにあたり、従来は屋上表面に防水シートを敷設し、この防水シートの上に土を入れて植物を植えていたが、施工が容易で効率良く緑化を図ることができる方法として、植物を植えた複数の緑化パレットを、屋上等の表面で連結して敷設する工法が種々提案されている(特許文献1〜5)。緑化パレットは、建物に加わる荷重を軽減するために軽量であることが必要であり、このため緑化パレットの培養土には軽量な土壌が用いられている。しかしながら軽量な土壌は植栽した植物が十分に成長するまでの間、風により周囲に飛散し易いという問題があった。特に屋上に施工する場合、風による土壌飛散は大きな問題であり、飛散した土壌による汚染問題とともに、土壌に飛散により植物の育成が妨げられる虞もあった。このような問題を解決するために、農地の保湿、保水、雑草生育防止等の目的で従来より使用されている塩化ビニルフィルム等の農業用フィルムにより、植物が成長するまでの間、緑化パレットの土壌表面を被覆しておく方法が挙げられるが、塩化ビニルフィルム等の農業用フィルムは使用後の回収作業が必要となるとともに、劣化したフィルムが飛び散る等の問題があった。このような農業用フィルムを敷設する代わりに、生分解性ポリマーを溶融状態や溶液として散布し、被膜を形成させる方法も提案されている(特許文献6)。
【0003】
【特許文献1】特開平7−213159号公報
【特許文献2】特開2003−74165号公報
【特許文献3】特開2003−250333号公報
【特許文献4】特開2004−65123号公報
【特許文献5】特開2004−147607号公報
【特許文献6】特開平11−92304号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら特許文献6に記載されている方法は、生分解性樹脂を溶融したり溶媒に溶解させて散布するため、樹脂を溶融する場合には、そのための熱エネルギーが必要であった。また樹脂を溶媒に溶解して散布する場合には、溶媒による環境汚染の問題が生じる。一方、生分解性樹脂を水系分散体として散布することにより、樹脂を溶融したり溶媒に溶解させて散布する方法の上記問題点は解決することができるが、乳酸系樹脂の水系分散体は造膜性が悪いため被膜が形成され難く、高温にすると被膜は形成されるものの、形成された被膜の強度が弱いという問題があった。本発明者等は上記従来の課題を解決すべく鋭意研究した結果、特定の可塑剤を含む乳酸系生分解性樹脂の水系分散体は、従来よりも低い温度でも優れた造膜性を有することを見出し本発明を完成するに到った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
即ち本発明は、
(1)クエン酸誘導体系可塑剤、エーテルエステル誘導体系可塑剤、グリセリン誘導体系可塑剤、ポリヒドロキシカルボン酸誘導体系可塑剤、アジピン酸誘導体系可塑剤、フタル酸誘導体系可塑剤より選ばれた可塑剤を含有する乳酸系樹脂を水に分散させた、造膜温度が90℃以下の水系分散体よりなることを特徴とする緑化パレットの土壌飛散防止剤、
(2)水系分散体中に分散している乳酸系樹脂粒子の平均粒径が0.1〜10μmである上記(1)の緑化パレットの土壌飛散防止剤、
を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の緑化パレットの土壌飛散防止剤は、造膜性に優れ、膜強度に優れた被膜を緑化パレットの土壌表面に形成することができ、緑化パレットの土壌の飛散を防止することができる。また本発明飛散防止剤は生分解性を有し、微生物によって分解されるため、使用後の被膜を回収する必要がないとともに、乳酸系樹脂は透湿性が高いため、水分が土中に蓄積され難く、植物が根腐れを起こす虞が少ない等の効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明において用いる乳酸系樹脂としては、ポリ乳酸や乳酸系共重合体、乳酸系樹脂と他の生分解性樹脂とを混合した乳酸系ポリマーアロイの1種又は2種以上の混合物が挙げられる。乳酸系共重合体としては、乳酸と他のヒドロキシカルボン酸との共重合体等が挙げられるが、特にポリ乳酸が好ましい。乳酸と共重合可能な他のヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、2−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシバレリン酸、2−ヒドロキシカプロン酸、2−ヒドロキシヘプタン酸、2−ヒドロキシオクタン酸、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸、2−ヒドロキシ−2−メチル酪酸、2−ヒドロキシ−2−エチル酪酸、2−ヒドロキシ−2−メチルバレリン酸、2−ヒドロキシ−2−エチルバレリン酸、2−ヒドロキシ−2−プロピルバレリン酸、2−ヒドロキシ−2−ブチルバレリン酸、2−ヒドロキシ−2−メチルカプロン酸、2−ヒドロキシ−2−エチルカプロン酸、2−ヒドロキシ−2−プロピルカプロン酸、2−ヒドロキシ−2−ブチルカプロン酸、2−ヒドロキシ−2−ペンチルカプロン酸、2−ヒドロキシ−2−メチルヘプタン酸、2−ヒドロキシ−2−エチルヘプタン酸、2−ヒドロキシ−2−プロピルヘプタン酸、2−ヒドロキシ−2−ブチルヘプタン酸、2−ヒドロキシ−2−メチルオクタン酸、3−ヒドロキシプロピオン酸、4−ヒドロキシ酪酸、5−ヒドロキシバレリン酸、6−ヒドロキシカプロン酸、7−ヒドロキシヘプタン酸等が挙げられる。上記乳酸及びヒドロキシカルボン酸は、D体、L体、D/L体のいずれでも良い。乳酸と他のモノマーとの共重合体の場合、乳酸モノマーの割合が50重量%以上のものが好ましい。
【0008】
本発明において、ポリ乳酸や、乳酸系共重合体と混合して用いられる他の生分解性樹脂としては、脂肪族ポリエステル系生分解性樹脂、脂肪族・芳香族ポリエステル系生分解性樹脂、アセチルセルロース系生分解性樹脂、化学変性澱粉系生分解性樹脂、ポリアミノ酸系生分解性樹脂、ポリエステルポリカーボネート系生分解性樹脂等が挙げられ、これらは1種又は2種以上を混合して用いることができる。乳酸系ポリマーアロイにおける他の生分解性樹脂の割合は50重量%未満が好ましい。脂肪族ポリエステル系生分解性樹脂としては、例えば、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート等の二塩基酸ポリエステル、ポリカプロラクトン、カプロラクトンと他のヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシブチレートと他のヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ酪酸と他のヒドロキシカルボン酸との共重合体等が挙げられ、これらは単独又は2種以上を混合して用いることができる。脂肪族・芳香族ポリエステル系生分解性樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート・アジペート、ポリエチレンテレフタレート・サクシネート等が挙げられ、これらは単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0009】
またアセチルセルロース系生分解性樹脂としては、アセチルセルロース、アセチルブチルセルロース、アセチルプロピオニルセルロース等が挙げられ、アロイ化が、樹脂の強度を向上させる目的である場合にはアセチルセルロースが好ましい。
【0010】
化学変性澱粉系生分解性樹脂としては、例えば高置換度エステル化澱粉、エステル化ビニルエステルグラフト重合澱粉、エステル化ポリエステルグラフト重合澱粉等の澱粉エステル、エーテル化ビニルエステルグラフト重合澱粉、エーテル化ポリエステルグラフト重合澱粉等の澱粉エーテル、ポリエステルグラフト重合澱粉等が挙げられるが、これらの中でもエステル化ビニルエステルグラフト澱粉、エステル化ポリエステルグラフト重合澱粉が好ましい。これらエステル化ビニルエステルグラフト澱粉、エステル化ポリエステルグラフト重合澱粉に用いられるエステル化試薬としては、アシル基の炭素数2〜18のビニルエステル、又は酸無水物、酸塩化物が好ましく、グラフト試薬としては、アシル基の炭素数2〜18のビニルエステル、環員数2〜12のラクトンが好ましい。これら化学変性澱粉系生分解性樹脂は2種以上を併用することができる。
【0011】
ポリアミノ酸系生分解性樹脂としては、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、ポリリジン等が挙げられる。またポリエステルポリカーボネート系生分解性樹脂としては、1,3−ブタンジオールとコハク酸の縮重合物等の脂肪族ポリエステルとトリメチレンカーボネート、テトラメチレンカーボネート等の炭酸エステルとの共重合体や環状のエチレンカーボネート、トリメチレンカーボネート、2,2−ジメチルトリメチレンカーボネートとε−カプロラクトン、ピバロラクトンとの開環共重合体等が挙げられる。ポリエステルポリカーボネート系生分解性樹脂は、樹脂物性の改善や分散特性の向上のために、他の生分解性樹脂構成モノマーをグラフト重合等の方法により共重合したものでも良い。ポリアミノ酸系生分解性樹脂やポリエステルポリカーボネート系生分解性樹脂は2種以上を併用することができる。
【0012】
本発明において乳酸系樹脂と混合して用いられる上記他の生分解性樹脂は、同一種類の生分解性樹脂から選択した1種又は2種以上を用いるのみならず、異なる種類の生分解性樹脂から選択した2種以上の樹脂を適宜混合して用いることもできる。
【0013】
本発明の乳酸系樹脂水系分散体に用いる乳酸系樹脂は、クエン酸誘導体系可塑剤、エーテルエステル誘導体系可塑剤、グリセリン誘導体系可塑剤、ポリヒドロキシカルボン酸誘導体系可塑剤、アジピン酸誘導体系可塑剤、フタル酸誘導体系可塑剤より選ばれた可塑剤を含有することにより、このような樹脂を水に分散させた水系分散体は90℃以下の造膜温度を有し、被膜形成性に優れているが、乳酸系樹脂水系分散体の造膜温度は60℃以下であると、より低温で被膜を形成することができるため好ましい。水系分散体の造膜温度は、井元製作所製の造膜温度測定器IMC−1538等により測定することができる。クエン酸誘導体系可塑剤としては、クエン酸トリエチル、クエン酸トリブチル、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチル等が挙げられ、エーテルエステル誘導体系可塑剤としては、ジエチレングリコールジアセテート、トリエチレングリコールジアセテート、トリエチレングリコールジプロピオネート等が挙げられ、グリセリン誘導体系可塑剤としては、グリセリントリアセテート、グリセリントリプロピオネート、グリセリントリブチレート、グリセリンジアセトモノラウレート等が挙げられる。また、フタル酸誘導体系可塑剤としては、エチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート等が、アジピン酸誘導体系可塑剤としては、ビス[2−(メトキシ−エトキシ)エチル]アジペート、メチルジグリコールベンジルアジペート等が挙げられ、ポリヒドロキシカルボン酸誘導体系可塑剤としては、ポリカプロラクトン、ポリプロピオラクトン等のポリヒドロキシカルボン酸等が挙げられる。これら可塑剤のうち、アジピン酸誘導体が、造膜性向上効果が高い点で好ましい。乳酸系樹脂に対する造膜温度は可塑剤の添加量は、可塑剤の種類、造膜温度の違い等によっても異なるが、通常、可塑剤の使用量は生分解性樹脂100重量部あたり、5重量部から40重量部が好ましい。5重量部未満となると可塑化効果が発揮できなくなる虞れがあり、40重量部を超えると可塑剤のブリードアウトが発生する虞れがある。造膜温度は、乳酸系樹脂の種類、可塑剤の添加量、水系分散体中に分散している乳酸系樹脂粒子の粒径によっても異なるが、乳酸系樹脂がポリ乳酸で、分散している乳酸系樹脂粒子の平均粒径が3μmの場合、可塑剤未添加の場合には造膜温度は160℃程度であるが、可塑剤として、例えばメチルジグリコールベンジルアジペートを用いた場合、10重量部の添加で造膜温度は約90℃、15重量部の添加で造膜温度は約20℃となる。乳酸系樹脂水系分散体は、分散している乳酸系樹脂粒子の平均粒径が0.1〜10μmであることが好ましい。
【実施例】
【0014】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
実施例1〜7、比較例1〜2
表1に示す樹脂100重量部あたり、同表に示す割合で可塑剤を配合し(比較例1は可塑剤を含まず)、水に分散させて得た水系分散体を培養土の表面1mあたり、分散体中の固形分量が40gとなるように、培養土表面にまんべんなくスプレーし、25℃で乾燥させた。乾燥後、風速10m/sの風を培養土表面にあてて、培養土の飛散状態を確認した。また、水系分散体を培養土表面にスプレーした後の乾燥を100℃で行った後に培養土の飛散状態の試験を行った。これらの結果を表1にあわせて示した。
【0015】
【表1】

【0016】
※1 培養土の飛散試験の評価は、培養土表面を観察し、
◎ まったく培養土の飛散が認められない
○ ほとんど培養土の飛散が認められない
△ 培養土の飛散が認められる
× 培養土が大量に飛散する。
として評価した。
※2 水系分散体の造膜温度は、井元製作所製の造膜温度測定器IMC−1538により測定した。
【0017】
※3 生分解性は、バーコーターにより上記水系分散体の50μmの被膜をテトラフルオロエチレン樹脂シート上に形成し、160℃で乾燥させた後、被膜をテトラフルオロエチレン樹脂シートより剥離し、JIS K6950、JIS K6951、JIS K6953の各々の方法により生分解性の試験を行った。JIS K6950、JIS K6951の試験では分解度60%以上を合格、60%未満を不合格とし、JIS K6953の試験では分解度70%以上を合格、70%未満を不合格とした。結果を表1にあわせて示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クエン酸誘導体系可塑剤、エーテルエステル誘導体系可塑剤、グリセリン誘導体系可塑剤、ポリヒドロキシカルボン酸誘導体系可塑剤、アジピン酸誘導体系可塑剤、フタル酸誘導体系可塑剤より選ばれた可塑剤を含有する乳酸系樹脂を水に分散させた、造膜温度が90℃以下の水系分散体よりなることを特徴とする緑化パレットの土壌飛散防止剤。
【請求項2】
水系分散体中に分散している乳酸系樹脂粒子の平均粒径が0.1〜10μmである請求項1記載の緑化パレットの土壌飛散防止剤。

【公開番号】特開2009−22179(P2009−22179A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−186701(P2007−186701)
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【出願人】(000114318)ミヨシ油脂株式会社 (120)
【Fターム(参考)】