説明

緑化ボード及び緑化システム

【課題】緑化ボードについて、廃棄する際の環境への負荷を低減しながらも、その保水性を高める。
【解決手段】緑化ボード5は、保水性を有する木質繊維板19からなる保水ボード13を備え、保水ボード13の一方の表面側において植物10を生育するように構成されている。そして、保水ボード13の他方の表面側である裏面側には溝部50が形成され、この溝部50の両端は保水ボード13の側端部においてそれぞれ開放されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物が生育される緑化ボード及びそれを備えた緑化システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、植物を育生するための緑化ボード及びそれを備えた緑化システムが、CO吸収や省エネルギー化等の環境向上を図る手段として注目されている。緑化システムは、例えば建物の屋上等に設置されるが、その設置場所に加わる荷重を低減するために、軽量化することが望まれている。
【0003】
そこで、不織布やフェルトのような樹脂繊維をマット状に成型した保水用ボードが提案されており、土壌の一部を軽量な保水用ボードに置き換える試みが行われている。そして、保水用ボードの上に載積された土壌層において、例えば芝生等の植物を生育するようにしている。
【0004】
しかし、上記保水用ボードは樹脂繊維からなるため、その保水用ボード自体を廃棄する際に多量のCOが排出されるという問題がある。さらに、上記保水用ボードには芝生等の根が入り込んでしまうため、例えば芝生の一部を他の植物に入れ替えるような場合には、保水用ボードごと芝生を取り外し、新たな保水用ボードと共に他の植物を設置する必要がある。この芝生の根が入り込んだ保水用ボードは、産業廃棄物として埋め立て処理しなければならず、環境配慮の観点で問題がある。
【0005】
また、上記保水用ボードは、樹脂繊維によって構成されているので、保水性に優れるものの、不必要に水分を保持してしまう問題も有している。例えば、降雨等により大量の水が保水用ボードに供給されたときには、長期にわたって水溜りのような状態が続いてしまうこととなる。
【0006】
一方、吸水ポリマーを含有する保水板によって、大量に供給された水を内部に保持することも提案されている。この保水板では、保水した水の蒸散を抑制できるが、吸水ポリマーに保持されている水分を植物が直接に利用できないため、合理的とはいえない。
【0007】
これに対し、特許文献1では、木質繊維板の全体に界面活性剤を添加し、保水性を向上させた植物栽培用の保水資材が提案されている。この保水資材によれば、植物が保水された水分を直接に利用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−183177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記特許文献1の保水資材では、保水資材の表面に供給された水をその裏面側へ浸透させて保水しようとしているが、速やかに水を裏面側へ浸透させて保水性を十分に高めることが難しいという問題がある。
【0010】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、植物が生育される緑化ボードについて、廃棄する際の環境への負荷を低減しながらも、その保水性を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、この発明では、両端が保水ボードの側端部で開放された溝部をその保水ボードの裏面側に形成するようにした。
【0012】
具体的に、第1の発明は、保水性を有する木質繊維板からなる保水ボードを備え、保水ボードの一方の表面側において植物を生育するように構成された緑化ボードを対象としている。そして、保水ボードの他方の表面側である裏面側には溝部が形成され、溝部の両端は、保水ボードの側端部においてそれぞれ開放されている。
【0013】
この第1の発明では、保水ボードが保水している水分により、保水ボードの一方の表面側において植物を生育することが可能になる。ここで、保水ボードは木質繊維板からなるため、保水ボードに植物の根が絡んでいたとしても、当該植物の根と共に保水ボードを燃焼して廃棄することが可能となり、廃棄する際の環境への負荷が容易に低減される。
【0014】
さらに、保水ボードの裏面側に溝部が形成されると共にその溝部の両端が保水ボードの側端部において開放されていることから、保水ボードの裏面側に供給された水を、その保水ボード側端部から溝部内に案内して、保水ボードの裏面側を速やかに保水することが可能になる。よって、保水ボードを上記一方の表面側及び裏面側の双方から水を十分に供給して、その保水性を大幅に高めることが可能となる。
【0015】
第2の発明は、上記第1の発明に係る緑化ボードにおいて、保水ボードは矩形板状に形成され、溝部の両端は、保水ボードの4辺のうち互いに異なる2辺に形成されている。
【0016】
この第2の発明では、保水ボードのある1辺と他の1辺とを通る溝部によって、この保水ボードを裏面側から好適に保水される。
【0017】
第3の発明は、上記第1又は第2の発明に係る緑化ボードにおいて、保水ボードの裏面側には、シート状物がこの保水ボードの裏面に接触して設けられている。
【0018】
この第3の発明では、保水ボードの裏面側にシート状物が接触して設けられているため、水がシート状物を伝って溝部内を容易に流れることとなる。したがって、より速やかに保水ボードを保水することが可能になる。
【0019】
第4の発明は、上記第1乃至第3の発明の何れか1つに係る緑化ボードにおいて、保水ボードにおける一方の表面には、複数の穴部又は複数の溝部が形成されている。
【0020】
この第4の発明では、保水ボードの表面に複数の穴部又は複数の溝部が形成されているので、植物の根をその穴部又は溝部に容易に活着させることが可能になる。
【0021】
第5の発明は、上記第1乃至第4の発明の何れか1つに係る緑化ボードにおいて、保水ボードには、この保水ボードの厚さ方向に延びる複数の貫通孔が形成されている。
【0022】
この第5の発明では、保水ボードに複数の貫通孔を形成するようにしたので、植物の根の活着性を高めることができ、しかも、保水ボード自体に透水性を持たせることが可能となる。
【0023】
第6の発明は、上記第1乃至第3の発明の何れか1つに係る緑化ボードにおいて、保水ボードにおける上記一方の表面には、複数の溝部が形成され、保水ボードは、一方の表面側の溝部と裏面側の溝部とが、交差して互いに連通することにより形成された貫通孔を有している。
【0024】
この第6の発明では、一方の表面側の溝部によって植物の根の活着性を高めると共に、裏面側の溝部によって保水ボードの保水性を高めることが可能となる。しかも、保水ボードには、一方の表面側の溝部と裏面側の溝部とが交差して互いに連通することにより貫通孔が形成されているため、保水ボードに別途に貫通孔を形成しなくても、その保水ボードに透水性を持たせることができる。
【0025】
第7の発明は、上記第1乃至第6の発明の何れか1つに係る緑化ボードにおいて、上記保水ボードは、少なくとも裏面側に親水性を有する親水層が形成されている。
【0026】
この第7の発明では、保水ボードの裏面に親水層が形成されているので、その裏面に形成された溝部に水が好適に導入されると共に、この溝部に導入された水が保水ボード内部へ効率良く給水されることとなる。
【0027】
第8の発明は、緑化ボードを複数備えた緑化システムを対象としている。そして、緑化ボードは、保水性を有する木質繊維板からなる保水ボードを備え、この保水ボードの一方の表面側において植物を生育するように構成され、保水ボードの他方の表面側である裏面側には溝部が形成され、溝部の両端は、保水ボードの側端部においてそれぞれ開放されている。
【0028】
この第8の発明では、保水ボードの一方の表面側において植物を生育することが可能になる。そして、保水ボードは木質繊維板からなるため、廃棄する際の環境への負荷が容易に低減される。しかも、保水ボードの裏面側に供給された水を、その保水ボード側端部から溝部内に案内して、保水ボードの裏面側を速やかに保水することが可能になる。よって、保水ボードを一方の表面側及び裏面側の双方から水を十分に供給して、その保水性を大幅に高めることが可能となる。
【0029】
第9の発明は、上記第8の発明に係る緑化システムにおいて、保水ボードの裏面側には、シート状物がこの保水ボードの裏面に接触して設けられている。
【0030】
この第9の発明では、保水ボードの裏面側にシート状物が接触して設けられているため、水がシート状物を伝って溝部内を容易に流れることとなる。したがって、より速やかに保水ボードを保水することが可能になる。
【発明の効果】
【0031】
第1及び第8の発明によると、保水性を有する木質繊維板からなる保水ボードの側端部で両端が開放された溝部をその保水ボードの裏面側に形成することにより、保水ボードが木質繊維板からなるため、廃棄する際の環境への負荷を容易に低減することができ、しかも、保水ボードの裏面側に供給された水を、その保水ボード側端部から溝部内に案内して、保水ボードの裏面側を速やかに保水することができる。よって、保水ボードを一方の表面側及び裏面側の双方から水を十分に供給して、その保水性を大幅に高めることができる。
【0032】
第2の発明によると、保水ボードのある1辺と他の1辺とを通る溝部によって、この保水ボードを裏面側から好適に保水できる。
【0033】
第3及び第9の発明によると、保水ボードの裏面側にシート状物を接触して設けたので、水がシート状物を伝って溝部内を容易に流れるようにして、より速やかに保水ボードを保水することができる。
【0034】
第4の発明によると、保水ボードの表面に複数の穴部又は複数の溝部を形成することにより、植物の根をその穴部又は溝部に容易に活着させることができる。
【0035】
第5の発明によると、保水ボードに複数の貫通孔を形成することにより、植物の根の活着性を高めることができ、しかも、保水ボード自体に透水性を持たせることができる。
【0036】
第6の発明によると、一方の表面側の溝部によって植物の根の活着性を高めると共に、裏面側の溝部によって保水ボードの保水性を高めることができる。しかも、一方の表面側の溝部と裏面側の溝部とが交差して互いに連通することによって、保水ボードに貫通孔が形成されるようにしたので、保水ボードに別途に貫通孔を形成しなくても、その保水ボードに透水性を持たせることができる。
【0037】
第7の発明によると、保水ボードの裏面に親水層が形成されているので、その裏面に形成された溝部に水を好適に導入できると共に、この溝部に導入された水を保水ボード内部へ効率良く給水することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は、本実施形態1における緑化ボードの外観を概略的に示す斜視図である。
【図2】図2は、緑化ボードの裏面を示す平面図である。
【図3】図3は、本実施形態1における緑化システムの構造を概略的に示す断面図である。
【図4】図4は、緑化ボードの配置を示す平面図である。
【図5】図5は、保水ボードの構造を示す断面図である。
【図6】図6は、保水ボードの構造を示す断面図である。
【図7】図7は、本実施形態1の変形例に係る緑化ボードを示す斜視図である。
【図8】図8は、本実施形態1の変形例に係る緑化ボードの裏面を示す平面図である。
【図9】図9は、本実施形態1の変形例に係る緑化ボードを示す斜視図である。
【図10】図10は、本実施形態2における緑化システムの構造を概略的に示す断面図である。
【図11】図11は、本実施形態2の変形例に係る緑化ボードを示す斜視図である。
【図12】図12は、図11の一部を拡大すると共に破断して示す断面図である。
【図13】図13は、本実施形態3における緑化ボードの芝生が生育された状態を示す斜視図である。
【図14】図14は、本実施形態3における緑化ボードの芝生が生育される前の状態を示す斜視図である。
【図15】図15は、本実施形態3における緑化システムの構造を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。また、各図面は、正確な寸法に対応しておらず、本発明を容易に理解し得るように概略的に記載されている。
【0040】
《発明の実施形態1》
図1〜図6は、本発明の実施形態1を示している。
【0041】
図1は、本実施形態1における緑化ボードの外観を示す斜視図である。図2は、緑化ボードの裏面を示す平面図である。図3は、本実施形態1における緑化システムの構造を示す断面図である。図4は、緑化ボードの配置を示す平面図である。図5及び図6は、保水ボードの構造を示す断面図である。
【0042】
本実施形態1における緑化システム1は、緑化ボードを複数備えた植物を育生するための緑化システムである。図3に示すように、緑化システム1は、根層10aを有する植物10と、根層10aの下に設けられた複数の緑化ボード5と、緑化ボードの下に設けられたシート状物としての透水耐根シート層27と、透水耐根シート層27の下に設けられた排水層16と、排水層16の下に設けられた耐根シート層15とを備えている。
【0043】
本実施形態1の緑化システム1は、例えば建物の屋上等を構成するコンクリートスラブ17上に設けられている。そのことにより、建物の屋上は緑化システム1によって緑化されている。
【0044】
(耐根シート層)
耐根シート層15は、コンクリートスラブ17の表面に設置されている。耐根シート層15は、厚みが0.6mm程度であり、例えばポリプロピレン樹脂(PP樹脂)によって構成されている。耐根シート層15は、その他にも例えばポリエステル不織布や、塩化ビニル樹脂(PVC樹脂)等の樹脂シート等の植物の根を通さないような材料によって構成することができる。
【0045】
(排水層)
排水層16は、耐根シート層15の表面に設置されている。排水層16は、設置面である耐根シート層15の表面上で緑化システム1の排水用の空間を確保するためのものである。排水層16は、例えば、東洋紡株式会社の「コスモジオ」(登録商標)等の厚みが10mm程度であるプラスチック網状成型体によって構成されている。また、プラスチック3次元立体成型体によって排水層16を構成することも可能である。
【0046】
プラスチック網状成型体とは、例えばナイロン、ポリプロプレン又は塩化ビニル等の剛性を有する0.5mm〜2mm程度の樹脂線材を、カールさせた状態で立体網目状に嵩高に絡めたもの、好ましくは線材接点が熱融着されたものである。また、プラスチック3次元立体成型体とは、ナイロン、ポリプロプレン又は塩化ビニル等の剛性を有する樹脂を、例えばインジェクションプレス等の成型方法により、波状、3次元網目状又はウェブ状に立体成型されたものである。プラスチック網状成型体及びプラスチック3次元立体成型体は、何れも空隙部を有しており、その空隙部によって排水が可能な樹脂成型排水マットとなっている。
【0047】
プラスチックからなる網状成型体の他の例としては、例えば、新光ナイロン株式会社の「ヘチマロン」(登録商標)等を挙げることができる。また、プラスチックからなる3次元立体成型体の例としては、例えば、ELMICH社の「VersiCell」(登録商標)や、複数のスペーサが一方向に突出して形成された板状の格子部材からなるプラスチック成型体等を挙げることができる。
【0048】
排水層16は、上記プラスチック網状成型体及びプラスチック3次元立体成型体以外にも、排水用の空間を確保できるような耐圧性を有するマット状の他の部材によって構成することが可能である。
【0049】
(透水耐根シート層)
透水耐根シート層27は、排水層16の上に設置され、厚みが0.1mm程度である例えば東洋紡株式会社の「コスモアングラス」(登録商標)等のポリエステル不織布によって構成されている。
【0050】
透水耐根シート層27は、水を透過させる一方、植物10の根を通さないように構成されたシートである。透水耐根シート層27は、保水ボード13の裏面に接触して設けられている。この透水耐根シート層27を設けることにより、透水耐根シート層27と緑化ボード5との間を適度に保水し、緑化ボード5の裏面側に水を供給することが可能になる。
【0051】
一方、この透水耐根シート層27を設けないと、緑化ボード5を通過した根が排水層16に入り込んでしまう結果、分別廃棄が難しくなるだけでなく、排水層16における排水不良を招く原因となる。また、植物10が育成された植物育成層と排水層16との分別も困難になる。
【0052】
透水耐根シート層27には、耐根性及び透水性を有する種々のシートを適用できる。例えば厚さ0.1mm〜0.5mm程度の樹脂不織布、密に織られた樹脂織布、又は綿布等を適用することが可能である。このような材料の他の例としては、例えばビルマテル株式会社のスパンボンドポリエステル樹脂不織布である「エコロベース」(登録商標)等の透水シート等が挙げられる。
【0053】
(緑化ボード)
緑化ボード5は、図1及び図2に示すように、保水性を有する保水ボード13を有し、その保水ボード13の一方の表面側において植物10を生育するように構成されている。尚、緑化ボード5は、保水ボード13と、保水ボード13同士を互いに固定するための連結部材とを有していてもよい。
【0054】
保水ボード13は、比重が0.05〜0.35程度であり、厚みが10mm〜25mmである木質繊維板19によって構成されている。そのことにより、同じ厚みの土壌に比べて優れた保水性を確保しつつ、極めて軽量な構成とし、法令で定められた60kg/m未満の重量を余裕を持って実現できる。このため、緑化ボード5によって、屋上の緑化をはじめ、種々の場所にも設置可能な緑化システムを構成することができる。例えば、本実施形態では、比重が0.2であり、厚みが11mmであるインシュレーションボードによって保水ボード13を構成すれば、10kg/m〜12kg/m程度の吸水量が期待できる。
【0055】
ここで、通常のインシュレーションボードは、長繊維の木質繊維をバインダーやワックスとともに湿式抄造することによって、板状に成型されているが、インシュレーションボードの保水性を向上させるためには、その製造時における抄造スラリーにワックス等の撥水性を発現させるものを添加しないことが最も好ましい。また、製造時に界面活性剤を抄造スラリーに添加したり、製造されたインシュレーションボードの表面に界面活性剤をスプレー塗布することも可能である。そして、こうして製造した保水ボード13に水を接触させることにより、保水ボード13を保水状態とする。
【0056】
本実施形態における保水ボード13は、撥水性を有すると共に比重が0.05〜0.35程度である通常のインシュレーションボードを用いて製造することもできる。通常のインシュレーションボードは、上述のように多少の撥水性を有しているため、本実施形態では、界面活性剤等によって保水ボード13の濡れ性を向上させ、保水ボード13を容易に保水状態となるようにしている。このような界面活性剤としては、例えば、株式会社ハイポネックスジャパンの「ワターイン」(登録商標)や「ワターインキレート」(商品名)を適用することができる。
【0057】
保水ボード13は、例えば縦及び横の長さがそれぞれ90cmである矩形板状に形成され、その厚みが11mm程度である。保水ボード13は、図5に示すように、撥水性を有するインシュレーションボードにおける少なくとも透水耐根シート層27と反対側の表層部に、親水性を有する親水層20が形成されている。親水層20の厚みは、例えば5mm程度とすることが可能である。こうして、保水ボード13は、保水性を有する木質繊維板19によって構成されている。
【0058】
保水ボード13は、施工後の緑化システム1を構成した状態で、その全体が親水層20となっているが、施工前にはインシュレーションボードの少なくとも一部の表層部に親水層20が形成される一方、その他の部分が撥水性を有する撥水層21が形成されている。
【0059】
例えば、施工前の保水ボード13は、図5に示すように、透水耐根シート層27と反対側となる表層部のみに親水層20が形成されていてもよく、図6に示すように、表層部の全体が親水層20となり、その内側部分が撥水層21となるように形成してもよい。
【0060】
また、保水ボード13を構成する木質繊維板19の製造工程(例えば、抄造工程)や、製造後の工程において、界面活性剤を添加することにより、木質繊維板19の一部又は全部を親水層20として形成した保水ボード13を用いてもよい。
【0061】
ここで、保水ボード13を構成する木質繊維板19の比重は、0.05未満であると、その上を人が歩行するための積載荷重に対する耐性が不足するだけでなく、保水量が大幅に少なくなってしまう。一方、0.35を越えると、比重が高すぎて植物の根の活着性が低下する。したがって、木質繊維板19の比重は0.05〜0.35とされている。
【0062】
また、この木質繊維板19の厚みは、10mm未満であると、保水量が大幅に不足する一方、25mmを越えると、不必要にコストが上昇するため、10mm〜25mmとされている。
【0063】
複数の保水ボード13は、その一部を図4に示すように、マトリクス状に配置され、全体として平面状に配置されている。さらに、互いに隣り合う保水ボード13同士の間には、所定の間隔23が設けられている。各間隔23は、例えば5mm〜50mm程度であることが好ましい。本実施形態では、各保水ボード13同士の間隔23が50mm程度の幅とされている。
【0064】
また、図1に示すように、保水ボード13の一方の表面(つまり植物10側の表面)には、複数の穴部43が形成されている。穴部43の直径は約2mmであり、深さが約3mmである。穴部43を形成することにより、植物10の根の活着性を高めることができる。
【0065】
一方、図1及び図2に示すように、保水ボード13の他方の表面側である裏面側には、複数の溝部50が形成されている。複数の溝部50はそれぞれ例えば直線状に形成され、その溝部50の両端が保水ボード13の側端部においてそれぞれ開放されている。また、溝部50の両端は、保水ボード13の4辺のうち互いに異なる2辺に形成されている。そうして、溝部50の内部が透水耐根シート層27に対向するようになっている。
【0066】
溝部50の幅は1mm〜5mm程度であり、溝部50の深さは1mm以上であって保水ボード13の厚みの半分程度以下である。溝部50の寸法や本数は、緑化ボード5の使用態様に応じて、その強度が確保できるように規定されている。本実施形態における溝部50は、幅が約2mmであって深さが約3mmであり、例えば10cm間隔で互いに平行に配置されている。また、溝部50は、保水ボード13の対向する2辺と平行に延びている。
【0067】
溝部50は1本でもよいが、本数が多いほど均一に保水ボード13の裏面に水を供給できる点で好ましい。溝部の本数を増やす場合には、その深さが大きくなると強度が低下するため、1mm〜3mm程度の深さとして強度を確保することが好ましい。一方、溝深さを1mmよりも浅くすることは、保水ボード13が吸水して膨張した際に溝形状を維持できなくなる虞があるため、好ましくない。
【0068】
このように複数の溝部50を設けることにより、隣り合う緑化ボード5同士の隙間から流下した水を当該溝部50により導いて、保水ボード13の裏面全体に水を供給することが可能になる。
【0069】
さらに好ましくは、保水ボード13の少なくとも裏面側に親水層20が形成されている。このことにより、その裏面に形成された溝部50に水を好適に導入できると共に、この溝部50に導入された水を保水ボード13内部へ効率良く給水することができる。
【0070】
(粒状物)
図3に示すように、各保水ボード13同士の間には、複数の粒状物24が充填されている。複数の粒状物24は、保水ボード13の表面と略平坦になるように、例えば1mm〜5mm程度の粒径を有するようにしてもよい。粒状物24としては、例えば鹿沼土、日向土、パミス等の軽石、砕石、セラミック、ゼオライト、パーライト、又はバーミキュライト等を適用することができる。
【0071】
さらに、各保水ボード13同士の間には、粒状物24と共に肥料25を設けることが可能である。肥料25は、土壌層11に植栽される植物10に適したものを選択することが好ましい。さらに好ましくは、充填された肥料25以外の粒状物24の透水性を妨げない肥料であることが好ましい。そこで、本実施形態では、粒状の肥料25を、粒状の軽量土壌等の他の粒状物24と共に、各保水ボード13同士の間に充填している。すなわち、本実施形態における複数の粒状物24には、粒状の肥料25が含まれている。
【0072】
尚、各保水ボード13同士の隙間には、灌水用パイプを配置するようにしてもよい。そのことにより、互いに隣り合う保水ボード13同士の隙間を利用して灌水用パイプを配設することができる。また、灌水用パイプから供給される水によって保水ボード13を十分に保水することができる。
【0073】
(植物)
植物10は、その根層10aが緑化ボード5の表面に直接に設けられている。そして、その保水ボード13の表面に植物10が直接に植生されている。植物10は、その上で人間が歩いたり運動したりすることを考慮すると、芝生がもっとも好適である。芝生は、例えばロール状にした巻芝を緑化ボード5の上で展開して設置する。
【0074】
植物10の上を人間が歩いたりしない場合には、つる性植物や、その他草花などを植物10としてもよい。また、苔を植物10としてもよいが、苔は根がなく剥がれやすいため、特に緑化ボード5を壁面等に載架する場合や、緑化ボード5を屋外に設置する場合等には、例えば、その表面を網状シートで覆ったり、網状シートと保水ボード13とを固定して一体化しておくことが望ましい。
【0075】
−施工方法−
次に、緑化システム1の施工方法について説明する。本実施形態では、建物の屋上等におけるコンクリートスラブ17上に緑化システム1を形成する。
【0076】
まず、コンクリートスラブ17の表面に、厚みが0.6mm程度であり、例えばポリプロピレン樹脂(PP樹脂)からなる耐根シート層15を設置する。次に、耐根シート層15の表面に樹脂成型排水マットである排水層16を設置する。次に、排水層16の上に、植物10の根を通さない透水耐根シート層27を設置する。
【0077】
また、予め複数の緑化ボード5を形成しておく。すなわち、撥水性を有する木質繊維板19に界面活性剤を含む水を接触させることにより、木質繊維板19に撥水性を有する撥水層21を残しつつ、この木質繊維板19の少なくとも一部の表層部に親水性を有する親水層20を形成する。具体的には、界面活性剤「ワターイン」(登録商標)を500倍に希釈した水溶液に木質繊維板19を浮かべたり、漬けたりする。木質繊維板19を浮かべると、その水に接した部分から木質繊維板19は徐々に保水されていく。そうして、表面から5mm程度を保水状態として親水層20を有する保水ボード13を形成する。
【0078】
上述のように、施工前の保水ボード13は、図5に示すように、植物10側となる表層部のみに親水層20を形成していてもよく、図6に示すように、表層部の全体を親水層20とする一方、その内側部分が撥水層21となるように形成してもよい。さらには、木質繊維板19の抄造工程において界面活性剤を添加することにより、乾燥後に全ての層が親水層となった保水ボードを用いてもよい。
【0079】
その後、透水耐根シート層27の上に、複数の緑化ボード5としての保水ボード13を配設する。この工程では、例えば、親水層20が形成された表層部を、この保水ボード13における透水耐根シート層27と反対側(つまり植物10側)に配置させる。さらに、図4に示すように、複数の保水ボード13を、透水耐根シート層27上で全体として平面状に配置すると共に、互いに隣り合う保水ボード13同士の間に例えば5mm〜50mm程度の間隔23を設ける。
【0080】
木質繊維板(インシュレーションボード)は、水を含むことによって長さ方向及び幅方向の寸法が大きくなる。このとき、各保水ボード13間に間隔23を設けていなければ、保水ボード13の一部が浮き上がってしまう虞がある。したがって、このように間隔23を設けることによって、保水ボード13の浮き上がりを防止できる。また、降雨等により多量の水が供給された場合、保水ボード13同士の隙間を通ってその水を下方へ排出することができる。
【0081】
複数の保水ボード13をマトリクス状に配置すれば、上方から見て格子状の溝が各保水ボード13間の隙間によって形性されることとなり、保水ボード13上の排水性を高めて過剰な水をその隙間から好適に排出できる。
【0082】
次に、図3に示すように、各保水ボード13同士の間に、粒状物24及び粒状の肥料25を充填する。尚、各保水ボード13同士の隙間は空隙としておいてもよい。また、各保水ボード13同士の隙間に灌水用パイプを配設してもよい。
【0083】
そして、透水耐根シート層27上に設置した複数の保水ボード13における親水層20に水を供給する。そのことにより、親水層20に含まれる界面活性剤を撥水層21へ浸透させて、保水ボード13の全体に親水層20を形成することができる。尚、水は、植物10を植生した後に供給してもよい。
【0084】
この場合、保水ボード13の施工前に木質繊維板19を完全な保水状態としてもよいが、木質繊維板19が完全に保水状態になると、例えば90cm×90cm等の大きな板を施工する場合に強度が弱くなってハンドリングが悪くなるだけでなく、完全に保水状態とするためにはかなりの長時間を要する。したがって、施工前には、保水ボード13における少なくとも植物10側の表層部又は裏面側の表層部を、界面活性剤を含む水によって保水状態としておき、施工後に保水部分に水を供給して、施工状態で完全な保水状態とすることが好ましい。
【0085】
また、透水耐根シート層27の上に保水ボード13を配設する方法としては、透水耐根シート層27上に複数の木質繊維板19を所定の間隔で設けた後に、木質繊維板19の表面に界面活性剤を含む水を散水し、木質繊維板19の少なくとも一部の表層部に親水性を有する親水層20を形性することも可能である。その後に、スプレーや如雨露などにより、保水ボード13における親水層20に水を供給し、親水層20に含まれる界面活性剤を撥水層21へ浸透させることにより、保水ボード13の全体に親水層20を形成する。
【0086】
このようにすれば、保水ボード13に親水層20を形成する前に、高い保形性有する木質繊維板19を透水耐根シート層27の上に設けて、その後に木質繊維板19に親水層20を形成することから、保水ボード13の配設作業を容易化することができる。
【0087】
次に、植物10が芝生である場合には、上述のように、ロール状の芝生を土壌層11の上で展開する。その後、芝生が生育してその根が保水ボード13に活着する。こうして、保水性が高められた緑化システム1を施工することができる。
【0088】
したがって、この実施形態1によると、保水ボード13が保水している水分により、保水ボード13の一方の表面側において植物10を生育することができる。ここで、保水ボード13は木質繊維板19からなるため、保水ボード13に植物10の根が絡んでいたとしても、当該植物10の根と共に保水ボード13を燃焼して廃棄することが可能となり、廃棄する際の環境への負荷を容易に低減することができる。
【0089】
さらに、保水ボード13の裏面側に溝部50を形成すると共にその溝部50の両端が保水ボード13の側端部において開放されるようにしたので、保水ボード13の裏面側に供給された水を、その保水ボード13の側端部から溝部50内に案内して、保水ボード13の裏面側を速やかに保水することができる。この場合、特に保水ボード13の少なくとも裏面側を親水層20としておくことによって、より速やかに水を溝部50内で案内することができる。よって、保水ボード13を一方の表面側(つまり植物10側)及び裏面側の双方から水を十分に供給して、その保水性を大幅に高めることができる。
【0090】
さらにまた、溝部50を保水ボード13のある1辺と他の1辺とを通る構成としたので、保水ボード13を裏面側から好適に保水することができる。しかも、保水ボード13の裏面側に透水耐根シート層27が接触して設けられているため、水が透水耐根シート層27を伝って溝部50内を容易に流れることとなる。したがって、より速やかに保水ボード13を保水することができる。加えて、保水ボード13の表面に複数の穴部43を形成するようにしたので、植物10の根をその穴部43に容易に活着させることができる。
【0091】
ここで、図7及び図9は、本実施形態1の変形例に係る緑化ボード5を示す斜視図である。図8は本実施形態1の変形例に係る緑化ボード5の裏面を示す平面図である。
【0092】
上記実施形態では、保水ボード13の対向する2辺と平行に延びる溝部50を当該保水ボード13に形成したが、図7及び図8に示すように、溝部50が保水ボード13の1辺に対して斜めに延びるように形成してもよい。言い換えれば、溝部50の両端が、保水ボード13における互いに隣り合う2辺に形成されるようにしてもよい。このようにしても、水が溝部50を通って保水ボード13の裏面側へ容易に供給されるため、保水ボード13を裏面側から好適に保水することができる。
【0093】
また、上記実施形態では、保水ボード13における植物10側の表面に複数の穴部43を形成したが、図9に示すように、当該植物10側の表面に複数の溝部48を形成するようにしてもよい。このようにしても、植物10の根を溝部48に容易に活着させることができる、植物10をより好適に生育することが可能になる。
【0094】
《発明の実施形態2》
図10は、本発明の実施形態2を示している。図10は、本実施形態2における緑化システム1の構造を示す断面図である。尚、以降の各実施形態では、図1〜図9と同じ部分については同じ符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0095】
本実施形態2における緑化システム1は、図10に示すように、植物10が植えられた土壌層11と、土壌層11の下に設けられた複数の緑化ボード5と、緑化ボードの下に設けられたシート状物としての透水耐根シート層27と、透水耐根シート層27の下に設けられた排水層16と、排水層16の下に設けられた耐根シート層15とを備えている。
【0096】
本実施形態2の緑化システム1は、例えば建物の屋上等を構成するコンクリートスラブ17上に設けられている。そのことにより、建物の屋上は緑化システム1によって緑化されている。
【0097】
耐根シート層15、排水層16及び透水耐根シート層27は、上記実施形態1と同様の構成を有している。また、上記実施形態1における緑化ボード5は、植物10側の表面に複数の穴部43が形成されると共に裏面側に複数の溝部50が形成された構成であったのに対し、本実施形態における緑化ボード5は、複数の溝部50が形成されている点で共通する一方、複数の穴部43の代わりに複数の貫通孔51が形成されている点で相違している。
【0098】
すなわち、保水ボード13は、例えば縦及び横の長さがそれぞれ90cmである矩形板状に形成され、その厚みが11mm程度である。保水ボード13の裏面側に形成されている複数の溝部50は、例えばその幅が約5mmであって深さが約3mmであり、例えば10cm間隔で互いに平行に配置されている。また、溝部50は、保水ボード13の対向する2辺と平行に延びている。
【0099】
さらに、複数の貫通孔51は、保水ボード13の厚さ方向に延びており、その内径が例えば2mm程度である。貫通孔51は、溝部50内にも形成されている。そうして、複数の保水ボード13は、マトリクス状に配置され、全体として平面状に配置されている。さらに、互いに隣り合う保水ボード13同士の間には、例えば50mm程度の幅で間隔23が設けられている。
【0100】
(土壌層)
土壌層11は、例えば一般的な園芸用土、腐葉土、砕石、セラミック又は軽量土壌等によって構成されている。特に、株式会社イングスの「IGソイル」(商品名)等の軽量土壌によって土壌層11を構成することが好ましい。軽量土壌とは、鹿沼土、日向土、パミス等の軽石、ゼオライト、パーライト、バーミキュライト、ベントナイト、及び人工軽量土等の比重が比較的軽いものをいう。特に、植物10が芝生である場合、芝生が中性又は弱酸性を好むことから、アルカリ性の強い土壌には必要に応じて中和剤を添加するのが好ましい。
【0101】
緑化システム1を駐車場に設ける場合には、緑化システム1の上に車両が駐車されることから、土壌層11で育成されている植物10としての芝生を保護する必要がある。そのため、樹脂製の芝生保護材36が土壌層11に埋設されている。
【0102】
芝生保護材36とは、上からの加重を分散させることにより、芝生の根が枯死することを防ぐためのものであり、PP樹脂やPVC樹脂等の樹脂を3次元リブ成型したものが好適に用いられる。例えば、日本植生株式会社の「タフタフパーク」(商品名)、新和商事株式会社の「ターフパーキング」(商品名)、又はELMICH社の「TurfPave」(商品名)を芝生保護材36とすることが可能である。
【0103】
本実施形態における芝生保護材36は、上下方向に開口部を有する筒状の筒状部材37を複数有し、各筒状部材37が千鳥状に配置された状態で互いに一体に結合された構成となっている。尚、駐車場に限らず、人の通り道等、芝生が頻繁に上から踏みつけられることが想定される場合には、駐車場と同様に芝生保護材36を緑化システム1に設けることが好ましいのは言うまでもない。
【0104】
(植物)
植物10は、芝生やつる性植物が好適である。植物10を育生するために、緑化システム1の施工時に、当該植物10の種を土壌層11等に散布しておいてもよく、苗を土壌層11に植えるようにしてもよい。また、植物10が芝生であれば、マット状に成型された芝生をロール状にした巻芝や、300mm角程度の大きさに切った切芝を土壌層11上に載置してもよい。これらは、施工後1〜2ヶ月程度で、土壌層11及び保水ボード13に至るまで根を伸ばして活着する。
【0105】
したがって、この実施形態2によると、緑化ボード5の裏面側に複数の溝部50を形成するようにしたので、上記実施形態1と同様の効果が得られることに加え、保水ボード13に複数の貫通孔51を形成するようにしたので、植物10の根の活着性を高めることができ、しかも、保水ボード13自体に透水性を持たせることができる。
【0106】
ここで、図11は、本実施形態2の変形例に係る緑化ボード5を示す斜視図である。図12は、図11の一部を拡大すると共に破断して示す断面図である。
【0107】
上記実施形態では、保水ボード13に複数の貫通孔51を貫通形成したが、図11に示すように、保水ボード13の両面に溝部48,50を形成し、各溝部48,50を連通させることによって、同図に下向き矢印Aで示す位置に、貫通孔52を形成するようにしてもよい。
【0108】
すなわち、この変形例における保水ボード13の一方の表面(つまり植物10側の表面)には、複数の溝部48が形成されている。この複数の溝部48は互いに平行に配置されると共に裏面側の溝部50と交差する方向に延びている。そうして、この複数の溝部48と裏面側の溝部50とが交差して互いに連通することにより、図12に示すように、貫通孔52が形成されている。
【0109】
貫通孔52を設ける場合の裏面側の溝部50の深さは、植物10側の表面の溝部48の深さよりも大きくすることが好ましい。例えば、厚みが11mmの保水ボード13に対し、溝部48は幅が約2mmであり深さが5mmである一方、裏面側の溝部50は幅が2mmであり深さが8mmとすることが可能である。
【0110】
このことにより、一方の表面側の溝部48によって植物10の根の活着性を高めると共に、裏面側の溝部50によって保水ボード13の保水性を高めることができる。しかも、一方の表面側の溝部48と裏面側の溝部50とが交差して互いに連通することによって、保水ボード13に貫通孔52が形成されるようにしたので、保水ボード13に別途に貫通孔を形成しなくても、その保水ボード13に透水性を持たせることができる。
【0111】
《発明の実施形態3》
図13〜図15は、本発明の実施形態3を示している。
【0112】
図13は、本実施形態3における緑化ボードの芝生が生育された状態を示す斜視図である。図14は、本実施形態3における緑化ボードの芝生が生育される前の状態を示す斜視図である。図15は、本実施形態3における緑化システムの構造を概略的に示す断面図である。
【0113】
本実施形態3における緑化システム1は、図15に示すように、植物10が生育される複数の緑化ボード5と、緑化ボード5の下に設けられたシート状物としての透水耐根シート層27と、透水耐根シート層27の下に設けられた排水層16と、排水層16の下に設けられた耐根シート層15とを備えている。
【0114】
本実施形態3の緑化システム1は、例えば地盤18の上に設けられている。そのことにより、当該地盤18が植物が生育しにくい地質であっても、緑化システム1によって緑化することが可能になる。
【0115】
地盤18の表面には、厚みが0.1mm程度である耐根シート層15が設けられている。耐根シート層15は、例えばポリプロピレン樹脂(PP樹脂)によって構成されている。耐根シート層15は、その他にも例えばポリエステル不織布や、塩化ビニル樹脂(PVC樹脂)等の樹脂シート等の植物の根を通さないような材料によって構成することができる。耐根シート層15の上には、上記実施形態1と同様に、排水層16及び透水耐根シート層27が設けられている。
【0116】
(緑化ボード)
緑化ボード5は、図13及び図14に示すように、保水性を有する保水ボード13と、保水ボード13の表面に設けられた有孔シート28とを有している。
【0117】
<保水ボード>
保水ボード13は、上記実施形態1と同様に、比重が0.05〜0.35程度であるインシュレーションボードによって構成されている。保水ボード13は、例えば縦及び横の長さがそれぞれ90cmである矩形板状に形成され、その厚みが11mm程度である。保水ボード13は、少なくとも透水耐根シート層27と反対側の表層部に、親水性を有する親水層20が形成されている。
【0118】
また、図1に示すように、保水ボード13における透水耐根シート層27と反対側の表面には、複数の穴部43が形成されている。穴部43の直径は約2mmであり、深さが約3mmである。穴部43を形成することにより、植物10の根の活着性を高めることができる。さらに、これら複数の穴部43には、肥料がそれぞれ設けられている。肥料は芝生用の粒状肥料である。穴部43に肥料が入れられた保水ボード13の表面には澱粉を塗布して乾燥させた。そのことにより、肥料は保水ボード13に固定されている。
【0119】
一方、図13〜図15に示すように、保水ボード13の裏面側には、複数の溝部50が形成されている。複数の溝部50はそれぞれ例えば直線状に形成され、その溝部50の両端部が保水ボード13の裏面における異なる2辺に開放端として形成されている。
【0120】
さらに好ましくは、保水ボード13の裏面側にも親水層20が形成されている。このことにより、その裏面に形成された溝部50に水を好適に導入し、溝部50に導入された水を保水ボード13内部へ効率良く給水することが可能になる。また、施工前の保水ボード13は、その全体に親水層20が形成されていてもよい。
【0121】
<有孔シート>
有孔シート28は、図14に示すように、保水ボード13の親水層20が形成されている表面を覆うように設けられており、複数の孔を有するシートによって構成されている。有孔シート28は、例えば樹脂不織布、又は麻もしくはジュート等の植物由来の繊維織物等によって好適に形成することができる。尚、これらの樹脂不織布や植物由来の繊維織物等を組み合わせて有孔シート28を構成してもよい。
【0122】
本実施形態における有孔シート28は、厚みが0.1mmであるポリ乳酸樹脂の不織布によって構成されている。ポリ乳酸樹脂は、いわゆる生分解性プラスチックであって、1ヶ月〜1年程度で土壌に分解される。
【0123】
有孔シート28の表面には、多数の芝生の種29が播種されており、澱粉のりによって固定されている。こうして、多数の種29が有孔シート28によって保水ボード13上に保持されている。
【0124】
(植物)
植物10は、図1に示すように、緑化ボード5の有孔シート28から発芽した芽が生育したものである。植物10の根は保水ボード13に活着している。すなわち、保水ボード13の表面には、植物10が直接に植生されている。植物10は、その上で人間が歩いたり運動したりすることを考慮すると、芝生がもっとも好適である。
【0125】
植物10の上を人間が歩いたりしない場合には、つる性植物や、その他草花などを植物10としてもよい。また、苔を植物10としてもよいが、苔は根がなく剥がれやすいため、特に緑化ボード5を壁面等に載架する場合や、緑化ボード5を屋外に設置する場合等には、例えば、その表面を網状シートで覆ったり、網状シートと保水ボード13とを固定して一体化しておくことが望ましい。
【0126】
本実施形態における緑化システム1を施工する場合には、地盤18の表面に対して上記実施形態1と同様に耐根シート層15、排水層16及び透水耐根シート層27を設置する。その後に、複数の緑化ボード5を図4に示すようにマトリクス状に配置させる。
【0127】
そこで、予め複数の緑化ボード5を形成しておく。まず、保水ボード13を形成するために、撥水性を有する木質繊維板19の裏面側(つまり、透水耐根シート層27側)に複数の溝部50を形成する。一方、木質繊維板19の表面側に複数の穴部43を形成する。
【0128】
次に、木質繊維板19に界面活性剤を含む水を接触させて、木質繊維板19に撥水性を有する撥水層21を残しつつ、この木質繊維板19の少なくとも一部の表層部に親水性を有する親水層20を形成する。具体的には、界面活性剤「ワターイン」(登録商標)を500倍に希釈した水溶液に木質繊維板19を浮かべたり、漬けたりする。木質繊維板19を浮かべると、その水に接した部分から木質繊維板19は徐々に保水されていく。そうして、表面から5mm程度を保水状態として親水層20を形成する。こうして、保水ボード13を形成する。
【0129】
次に、穴部43に肥料を詰めた後に、有孔シート28を保水ボード13の表面側に配置してネジ等の固定部材44により固定する。続いて、有孔シート28に澱粉のりを塗布し、その澱粉のりの表面に多数の芝生の種29を播種して乾燥させる。こうして、種29を保水ボード13上で有孔シート28によって保持させる。
【0130】
こうして形成した複数の緑化ボード5を、透水耐根シート層27の表面に設置していく。緑化ボード5はペグ等を地面に打ち込んで固定する。このようにして、緑化システム1を施工する。施工した緑化ボード5の表面に散水すると、約2週間で芝生の種29が発芽し、2ヶ月後には緑化システム1の全面が芝生で覆われた。そうして、土壌を使用しないで、飛躍的に軽量な緑化システム1を実現できる。
【0131】
一方、上記緑化ボード5において裏面側の溝部50を形成しないようにした木質繊維板を比較例として実施した。この比較例の木質繊維板に散水した後、ペグを抜いて観察したところ、この木質繊維板の裏面は、4辺に沿った領域において水が浸透していたものの、その内側の領域において水が十分に浸透していなかった。
【0132】
したがって、この実施形態3によると、緑化ボード5の裏面側に複数の溝部50を形成するようにしたので、上記実施形態1と同様の効果が得られることに加え、有孔シート28によって保水ボード13上に種29を保持するようにしたので、現場への施工前に予め保水ボード13の表面に芝生の根を活着させたり、現場に保水ボード13を設置した後にその保水ボード13の表面にロール状の芝生を展開させて載置させる作業が不要となる。したがって、緑化ボード5を軽量な構成としながらも芝生を設置する別途の作業が不要となるため、その施工性を大幅に高めることができる。
【0133】
さらにまた、保水ボード13の表面に複数の穴部43を形成したので、種29から発芽した植物10の根をその穴部43に容易に活着させることができる。その上、植物の根が活着する穴部43に肥料を設けるようにしたので、好適に植物10に栄養を与えてその育生を促進させることができる。
【0134】
尚、本発明は上記実施形態1〜3に限定されるものでなく、本発明には、これらの実施形態1〜3を適宜組み合わせた構成が含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0135】
以上説明したように、本発明は、植物が生育される緑化ボード及びそれを備えた緑化システムについて有用である。
【符号の説明】
【0136】
1 緑化システム
5 緑化ボード
10 植物
13 保水ボード
19 木質繊維板
27 透水耐根シート層(シート状物)
43 穴部
48,50 溝部
51,52 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保水性を有する木質繊維板からなる保水ボードを備え、
上記保水ボードの一方の表面側において植物を生育するように構成された緑化ボードであって、
上記保水ボードの他方の表面側である裏面側には溝部が形成され、
上記溝部の両端は、上記保水ボードの側端部においてそれぞれ開放されている
ことを特徴とする緑化ボード。
【請求項2】
請求項1に記載された緑化ボードにおいて、
上記保水ボードは矩形板状に形成され、
上記溝部の両端は、上記保水ボードの4辺のうち互いに異なる2辺に形成されている
ことを特徴とする緑化ボード。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された緑化ボードにおいて、
上記保水ボードの裏面側には、シート状物が該保水ボードの裏面に接触して設けられている
ことを特徴とする緑化ボード。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1つに記載された緑化ボードにおいて、
上記保水ボードにおける上記一方の表面には、複数の穴部又は複数の溝部が形成されている
ことを特徴とする緑化ボード。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1つに記載された緑化ボードにおいて、
上記保水ボードには、該保水ボードの厚さ方向に延びる複数の貫通孔が形成されている
ことを特徴とする緑化ボード。
【請求項6】
請求項1乃至3の何れか1つに記載された緑化ボードにおいて、
上記保水ボードにおける上記一方の表面には、複数の溝部が形成され、
上記保水ボードは、上記一方の表面側の溝部と上記裏面側の溝部とが、交差して互いに連通することにより形成された貫通孔を有している
ことを特徴とする緑化ボード。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか1つに記載された緑化ボードにおいて、
上記保水ボードは、少なくとも裏面側に親水性を有する親水層が形成されている
ことを特徴とする緑化ボード。
【請求項8】
緑化ボードを複数備えた緑化システムであって、
上記緑化ボードは、保水性を有する木質繊維板からなる保水ボードを備え、該保水ボードの一方の表面側において植物を生育するように構成され、
上記保水ボードの他方の表面側である裏面側には溝部が形成され、
上記溝部の両端は、上記保水ボードの側端部においてそれぞれ開放されている
ことを特徴とする緑化システム。
【請求項9】
請求項8に記載された緑化システムにおいて、
上記保水ボードの裏面側には、シート状物が該保水ボードの裏面に接触して設けられている
ことを特徴とする緑化システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2012−223160(P2012−223160A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95343(P2011−95343)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(000204985)大建工業株式会社 (419)
【Fターム(参考)】