説明

緑化用灌水システム

【課題】平常時は緑化用灌水システムとして機能し、建築物に火災が発生した時には人命を救助することができる緑化用灌水システムを提供すること。
【解決手段】システム始動スイッチと、建築物に設置されているとともに草木を育成する育成基体1と、灌水用水源3と、前記灌水用水源3からの水を強制的に送給する手段である送水用ポンプ14a、14b、14cと、前記送水用ポンプにより強制的に送給された水を前記育成基体1に育成されている草木に灌水する灌水手段4と、前記灌水用水源3から灌水手段4に送給される水量を制御する開閉弁7と、前記育成基体1における水分量を検出して水分量情報を出力する水分センサ8と、前記建築物に火災が発生すると火災信号を発する火災警報器10と、前記水分量情報に応じて前記開閉弁7の開閉を制御して適正量の水を前記灌水手段4から灌水させるとともに、火災信号を受けると前記開閉弁7を開放して水を灌水手段4から強制的に灌水させる制御手段9とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緑化用灌水システムに係り、特に建築物の屋上や屋内に草木を育成し、建築物の火災発生時において人命を救助するのに好適な緑化用灌水システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ヒートアイランドの防止やエコを図るために、建築物の屋上や屋根や屋内に草木を育成する緑化用灌水システムが設置されている。
【0003】
この種の緑化用灌水システムにおいては、灌水を自動制御によって行うことが種々提案されている(特許文献1〜4参照)。
【0004】
例えば、特許文献1においては、土壌の複数位置に設置した水分センサからの土壌中の水分の測定情報に基づいて、水道や水タンク等の水源と灌水パイプとの間に設けた開閉弁の開度を制御して必要量の灌水を実行するようにしている。また、特許文献2においては、明るさセンサからの明るさの測定情報にもとづいて、日の出から日没までの間に灌水を実行するようにしている。また、特許文献3においては、天気情報を取得する装置によって取得した天気情報すなわち将来に予測される雨量に基づいて、開閉弁の開度を制御して必要量の灌水を実行するようにしている。また、特許文献4においては、熱監視センサからの緑化用灌水システムの温度についての測定情報に基づいて、緑化用灌水システム自体に火災が発生したことを検出した際には開閉弁を開放して緑化用灌水システムへの灌水を強制的に実行して火を消化するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−345761号公報
【特許文献2】特開2005−117999号公報
【特許文献3】特開2009−009518号公報
【特許文献4】特開2010−029540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の緑化用灌水システムにおいては、必要量の水を灌水したり、緑化用灌水システム自体の火災を消化することができるが、緑化用灌水システムを設置している建築物に火災が発生した時に人命を救助することができないものであった。
【0007】
本発明は、これらの点に鑑みてなされたものであり、平常時は緑化用灌水システムとして機能し、建築物に火災が発生した時には人命を救助することができる緑化用灌水システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の第1の態様の緑化用灌水システムは、システム始動スイッチ、建築物に設置されているとともに草木を育成する育成基体と、灌水用水源と、前記灌水用水源からの水を強制的に送給する手段である送水用ポンプと、前記送水用ポンプにより強制的に送給された水を前記育成基体に育成されている草木に灌水する灌水手段と、前記灌水用水源から灌水手段に送給される水量を制御する開閉弁と、前記育成基体における水分量を検出して水分量情報を出力する水分センサと、前記建築物に火災が発生すると火災信号を発する火災警報器と、前記水分量情報に応じて前記開閉弁の開閉を制御して適正量の水を前記灌水手段から灌水させるとともに、火災信号を受けると前記開閉弁を開放して水を灌水手段から強制的に灌水させる制御手段とを有することを特徴とする(請求項1)。この場合、前記灌水用水源から前記灌水手段までの水の送給経路が複数あることが望ましい(請求項2)。さらに、前記送水用ポンプ及び前記開閉弁はそれぞれ、水の送給経路毎に少なくとも1台設置されていることが望ましい(請求項3)。
【0009】
このような構成の本発明によれば、平常時には水分センサによって検出された育成基体における水分量情報に応じて制御手段により開閉弁の開放量が制御されて適正量の水が灌水用水源から灌水手段に導かれて灌水され、草木が適正に育成される。
【0010】
万一、建築物に火災が発生すると火災警報器より発せられた火災信号を制御手段が受けて開閉弁を開放させ、送水用ポンプが強制的に水を送給し、灌水手段から灌水させる。これにより火災時には緑化用灌水システムの設置場所に避難して、灌水を身体に被ることにより火災から人命を救助することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、平常時は緑化用灌水システムとして機能し、建築物に火災が発生した時には人命を救助することができる緑化用灌水システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の緑化用灌水システムの1実施形態を示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面により説明する。
【0014】
図1は本発明の緑化用灌水システムを建築物の屋上に設置した場合の実施形態を示す。
【0015】
本実施形態においては、建築物の屋上に緑化用灌水システムの育成基体1を設置し、育成基体1内の土壌部2に植えている草木(図示せず)に灌水用水源3からの水をノズル等の灌水手段4より灌水して草木を育成させるようにしている。
【0016】
さらに説明すると、育成基体1は草木を育成する領域を区画できるものであればよく、例えば箱状に形成するとよい。その箱状の育成基体1の底部分には、水分が不必要に外部に抜けないようにするために、例えば、薄鋼板等の金属板を敷設するとよい。
【0017】
この育成基体1内には、草木を育成するための土壌部2が設けられている。この土壌部2としては、詳細には図示しないが、草木に適度の栄養分と水分とを付与しその成長を支承することができればよく、公知の構成から育成する草木に応じて選択するとよい。
【0018】
灌水用水源3としては、本実施形態においては、水道水を貯留する水道水タンク3aと雨水を貯留する雨水タンク3bとを備えている。火災発生時の非常用水として利用するために、両タンク3a、3bは高所に設置するとよい。また、水道水は平常時には水道水タンク3aを通さないで直に給水できるようにしてもよい。灌水用水源3からは通水路6を通して、送水用ポンプによって強制的に灌水手段4に給水される。
【0019】
本実施形態における灌水手段4は単数若しくは複数組、本実施形態においては3組のヘッダ4a、4b、4cに接続したノズル郡5a、5b、5cより草木に向けて下向きに灌水するように形成されている。灌水手段4としては、スプリンクラ方式、噴水方式等の他の公知の方式を適宜に採用するとよい。
【0020】
前記通水路6は途中を3つの分岐経路6a、6b、6cに分岐され、各分岐経路6a、6b、6cにそれぞれ通水量を制御する電磁弁形式の開閉弁7a、7b、7cが接続されている。各開閉弁7a、7b、7cは後述する制御手段としてのコントローラ9によって開閉を制御される。また、通水路6の途中には、水を強制的に送給する手段である送水用ポンプ14a、14b、14cを設置する。図1に示すように、灌水用水源3から前記灌水手段4までの水の分岐経路6a,6b,6cは、複数あることが望ましい。灌水手段4の数が多すぎると、1台の送水用ポンプでは、水の送給能力を大きくする必要があり、送水用ポンプが故障した場合、灌水能力が低下する。また、水の経路の形状あるいは大きさ、更には灌水場所等の条件により灌水量が異なり、灌水量の制御が困難となる。このため、複数の送水用ポンプ14a、14b、14cを設置するので、送水用ポンプ1台の供給能力を大きくする必要がない。また、水分センサ8a、水分センサ8b及び水分センサ8cの各位置においては、草木の種類及び土壌の状態により灌水する時期あるいは灌水する量等が異なるので、それぞれの水の分岐経路6a,6b,6cに送水用ポンプ14a、14b、14cを1台ずつ設置することによって、より精度の高い灌水を効率的に施すことができる。すなわち、開閉弁7a、開閉弁7b及び開閉弁7cの水の経路毎に1台の送水用ポンプ14a、14b、14cを設置すれば、各開閉弁7a、7b、7cの開閉程度とポンプ圧との群を同時に制御することができるので、より精度の高い灌水が可能となる。なお、図1では、水の分岐経路は3経路としているが、この数に限定する必要はなく、適宜分岐経路数は決めればよい。
【0021】
土壌部2内には、土壌部2における水分量を検出して水分量情報をコントローラ9に発信する水分センサ8a、8b、8cが設置されている。水分センサ8a、8b、8cの設置位置は、土壌部2の水分を適正に検出可能な位置とするとよい。育成基体1を傾斜して配置した場合には、傾斜の下方部分に水分センサを設置すると、適正な水分を検出することができる。
【0022】
また、建築物(図示せず)内には火災が発生すると火災信号をコントローラ9に発信する火災警報器10が必要箇所に設置されている。
【0023】
制御手段としてのコントローラ9は、演算処理を行うCPU、灌水プログラムや各種の動作手法を記憶しているメモリ、開閉弁7a、7b、7c、送水用ポンプ14a、14b、14c、水分センサ8a、8b、8c、火災警報器10等との信号の授受を行うインターフェイス等が組み込まれた処理部11と、太陽光発電機12を備えたバッテリ13とを有している。コントローラ9の処理部11は、平常時には、各水分センサ8a、8b、8cから送られて来る水分量情報に応じて各開閉弁7a、7b、7cの開閉度を制御し、送水用ポンプ14a、14b、14cを運転して適正量の水を灌水手段4の各ノズル郡5a、5b、5cから灌水させる指令を発信し、火災時には、火災警報器10から火災信号を受けると各開閉弁7a、7b、7cを開放し、送水用ポンプ14a、14b、14cを運転して水を灌水手段の各ノズル郡5a、5b、5cから強制的に灌水させる指令を発信するように形成されている。
【0024】
処理部11によって実行される灌水プログラムとしては、例えば、灌水時、灌水量、灌水頻度、一回の灌水量の限度等を育成する草木の種類や大きさ等に応じて適宜に設定するとよい。また、灌水プログラムとしては、何らかの故障が発生した場合には、強制停止する指令を発信するように形成するとよい。また、自動的な灌水のほかに手動により灌水できるように例えば試運転スイッチを設置しておくとよい。
【0025】
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0026】
本実施形態の緑化用灌水システムにおいては、例えば、コントローラ9に設置したシステム始動スイッチ(例えば絶縁タグ、図示せず)を引き抜くことによりシステム全体への通電が開始してシステムが作動を開始する。
【0027】
本実施形態においては、平常時には、水分センサ8a、8b、8cによって検出された育成基体1における土壌部2の水分量情報に応じて制御手段となるコントローラ9の処理部11から発信された指令により、送水用ポンプ14a、14b、14cを運転して、開閉弁7a、7b、7cの開放量が制御されて適正量の水が灌水用水源3から灌水手段4に導かれてノズル郡5a、5b、5cより散水されて灌水され、草木が適正に育成される。この場合、開閉弁7a、7b、7cはそれぞれ独自に開閉し、送水用ポンプ14a、14b、14cもそれに対応した開閉弁7a、7b、7cの開閉に応じて運転したり、停止したりできる。例えば、図1に示すように、水分センサ8aから灌水が必要という情報が発信され、コントローラ9の処理部11で処理されて、処理部11が開閉弁7aを開くよう命令を発し、それに伴って送水用ポンプ14aが強制的に水を送給し、灌水手段4aに導かれた水はノズル部5aより散水されて草木に灌水される。灌水している間に、土壌中の水分量が適正になったことを水分センサ8aが感知すると、その指令をコントローラ9へ送り、処理部11が開閉弁7aを閉じるように指示するとともに、送水用ポンプ14aの運転を停止する。
【0028】
同様に、水分センサ8bから灌水が必要という情報が発信され、コントローラ9の処理部11で処理されて、処理部11が開閉弁7bを開くよう命令を発し、それに伴って送水用ポンプ14bが強制的に水を送給し、灌水手段4bに導かれた水はノズル部5bより散水されて草木に灌水される。灌水している間に、土壌中の水分量が適正になったことを水分センサ8bが感知すると、その指令をコントローラ9へ送り、処理部11が開閉弁7bを閉じるように指示するとともに、送水用ポンプ14aの運転を停止する。
【0029】
さらに、水分センサ8cから灌水が必要という情報が発信され、コントローラ9の処理部11で処理されて、処理部11が開閉弁7cを開くよう命令を発し、それに伴って送水用ポンプ14cが強制的に水を送給し、灌水手段4cに導かれた水はノズル部5cより散水されて草木に灌水される。灌水している間に、土壌中の水分量が適正になったことを水分センサ8cが感知すると、その指令をコントローラ9へ送り、処理部11が開閉弁7cを閉じるように指示するとともに、送水用ポンプ14cの運転を停止する。
【0030】
このような一連の工程により、草木が自動的に適正に育成できる。
【0031】
万一、建築物に火災が発生すると火災警報器10より発せられた火災信号を制御手段となるコントローラ9の処理部11が受けて開閉弁7a、7b、7cを開放させる指令を発し、送水用ポンプ14a、14b、14cを運転して、水を灌水手段4のノズル郡5a、5b、5cから強制的に灌水させる。これにより火災時には緑化用灌水システムの設置場所に避難して、灌水を身体に被ることにより火災から人命を救助することができる。例えば、ビル火災が発生した時に、消防隊が火災の通報から火災現場に到着するまでの平均時間は、約10分以内といわれているので、消防隊による消火活動が開始されるまでの時間を本緑化用灌水システムによって身体に灌水を受けて待つことにより、人命が確実に救助されることとなる。
【0032】
本実施形態によれば、平常時は緑化用灌水システムとして機能し、建築物に火災が発生した時には人命を救助することができる緑化用灌水システムを提供することができる。
【0033】
なお、本発明は前記実施形態のみに限定されるものではなく、必要に応じて変更することができるものである。例えば、育成基体1を建築物の屋上以外の階に設置してもよい。
【符号の説明】
【0034】
1 育成基体
2 土壌部
3 灌水用水源
3a 水道水タンク
3b 雨水タンク
4 灌水手段
6a、6b、6c 分岐経路
7a、7b、7c 開閉弁
8a、8b、8c 水分センサ
9 制御手段としてのコントローラ
10 火災警報器
11 処理部
12 太陽光発電機
13 バッテリ
14a、14b、14c 送水用ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
システム始動スイッチと、
建築物に設置されているとともに草木を育成する育成基体と、
灌水用水源と、
前記灌水用水源からの水を強制的に送給する手段である送水用ポンプと、
前記送水用ポンプにより強制的に送給された水を前記育成基体に育成されている草木に灌水する灌水手段と、
前記灌水用水源から灌水手段に送給される水量を制御する開閉弁と、
前記育成基体における水分量を検出して水分量情報を出力する水分センサと、
前記建築物に火災が発生すると火災信号を発する火災警報器と、
前記水分量情報に応じて前記開閉弁の開閉を制御して適正量の水を前記灌水手段から灌水させるとともに、火災信号を受けると前記開閉弁を開放して水を灌水手段から強制的に灌水させる制御手段と
を有することを特徴とする緑化用灌水システム。
【請求項2】
前記灌水用水源から前記灌水手段までの水の送給経路が複数あることを特徴とする請求項1記載の緑化用灌水システム。
【請求項3】
前記送水用ポンプ及び前記開閉弁はそれぞれ、水の送給経路毎に少なくとも1台設置されていることを特徴とする請求項1または2記載の緑化用灌水システム。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−217619(P2011−217619A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−87124(P2010−87124)
【出願日】平成22年4月5日(2010.4.5)
【出願人】(396026570)株式会社栄住産業 (21)
【出願人】(510029542)鋼鈑商事株式会社 (6)
【Fターム(参考)】