説明

線材用銅素材の製造方法

【課題】銅又は銅合金からなる銅基線材の製造時における断線や、当該線材の表面欠陥を低減して、当該線材の生産性の向上に寄与することができる線材用銅素材を製造可能な線材用銅素材の製造方法及び線材用銅素材、銅基線材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】銅又は銅合金からなり、少なくとも鋳造が施された棒状素材10に皮剥ぎダイス100を用いて、(A)皮剥ぎによる除去量:断面積比で1%〜10%、(B)皮剥ぎ前に伸線加工度:15%〜75%の伸線加工、(C)切刃120のすくい角θ:2°〜50°の少なくとも一つの条件を満たす皮剥ぎを行う。得られた皮剥ぎ材に所望の最終線径になるまで伸線加工を施して銅基線材を製造する。棒状素材10に特定の条件で皮剥ぎを施すことで、表面性状に優れる線材用銅素材が得られ、この素材に伸線加工を施すことで、伸線時に断線し難く、表面性状に優れる銅基線材を生産性よく製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅又は銅合金からなり、伸線材(銅基線材)の素材に利用される線材用銅素材の製造方法及び線材用銅素材、銅基線材及び銅基線材の製造方法に関する。特に、伸線時の断線を低減でき、表面性状に優れる銅基線材を生産性よく得られる線材用銅素材を製造することができる線材用銅素材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の電力供給線などの導体用線材には、導電性に優れる銅や銅合金からなる銅基線材が利用されている。
【0003】
銅基線材は、代表的には、鋳造材に、所望の最終線径となるまで伸線加工を施すことで得られる(特許文献1など)。鋳造材の製造には、長尺材を連続して製造可能な連続鋳造法を利用することで、銅基線材の素材を生産性よく製造することができる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-046710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
銅基線材の生産性の向上が望まれる。
【0006】
銅基線材の生産性を向上するには、その素材(代表的には、棒状の鋳造材、例えば、連続鋳造材)の表面欠陥を低減することが効果的である。この素材の製造工程では、鋳塊中に生成するブローホール、鋳塊表面に形成される酸化膜の巻き込み、凝固過程に生じる表面クラックなど、素材自体に起因する欠陥が生じ得る。特に、連続鋳造材では、このような欠陥が生じ易い傾向にある。伸線加工に供される素材に表面欠陥が存在すると、欠陥箇所の引張強さが欠陥箇所以外の正常箇所よりも相対的に低くなることで、伸線時の引き抜き力に耐え切れず断線し、長尺材が得られ難くなる。断線に至らなくても変形したり表面欠陥が残存したりするなどして、寸法精度や形状精度、外観に劣る線材が得られる。また、伸線後にも表面欠陥が残存する場合、銅基線材がトロリ線などである場合にはこの欠陥が破壊の起点となって、強度や疲労特性の低下を招いたり、被覆電線用導体などである場合には、導体と絶縁被覆との密着性に劣ったりする可能性もある。このように製造工程の上流に供される素材が表面欠陥を有すると、寸法精度や形状精度、外観、絶縁被覆との密着性、機械的特性などに優れる長尺な銅基線材を得ることが難しく、銅基線材の生産性の低下を招く。
【0007】
そこで、本発明の目的の一つは、銅基線材を生産性よく製造することが可能な線材用銅素材を製造することができる線材用銅素材の製造方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、銅基線材の生産性の向上に寄与することができる線材用銅素材を提供することにある。更に、本発明の他の目的は、表面性状に優れる銅基線材、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、銅基線材の素材に利用する線材用銅素材の表面欠陥を除去するための手法を種々検討した。その結果、最終線径とするまでの伸線加工(以下、本加工と呼ぶ)を施す前に、特定の条件で皮剥ぎを行い、この皮剥ぎ材に本加工を施すことで、表面性状に優れ、長尺な銅基線材を製造することができる、つまり、断線頻度を低減して連続して銅基線材を製造できる、との知見を得た。この知見に基づき、本発明では、線材用銅素材を製造するにあたり、特定の条件で皮剥ぎ加工を施すことを提案する。
【0009】
本発明の線材用銅素材の製造方法は、伸線加工が施されてなる銅基線材の素材に利用される線材用銅素材を製造する方法に係るものであり、銅又は銅合金からなり、少なくとも鋳造が施された棒状素材を製造する準備工程と、上記棒状素材に皮剥ぎ加工を施す皮剥ぎ工程とを具える。そして、上記皮剥ぎ工程は、以下の(A)〜(C)の少なくとも一つを満たす。
(A) 上記皮剥ぎ加工による除去量を断面積比で1%以上10%以下とする。
(B) 上記棒状素材に、伸線加工度で15%以上75%以下の伸線加工を施して得られたプレ加工材に上記皮剥ぎ加工を施す。
(C) 上記皮剥ぎ加工に用いる皮剥ぎダイスの切刃のすくい角を2°以上50°以下とする。
【0010】
上記棒状素材に皮剥ぎを施して表面欠陥を除去する場合、除去量を少なく(除去厚さを薄く)すれば、表面欠陥が残存する恐れがあることから、除去量を非常に多くする(除去厚さを非常に厚くする)ことが考えられる。しかし、一回の皮剥ぎによる除去量が多過ぎると、棒状素材の周方向における除去厚さを均一的に制御することが難しくなり、不均一な切り込みによって新たな欠陥が生じたり、皮剥ぎ時に断線したり、形状や線径の精度の低下を招いたりする恐れがある。また、過度な除去量は、歩留まりを低下させ、ひいては銅基線材の生産性の低下を招く。
【0011】
上記構成を具える本発明製造方法は、除去量、使用する切刃の仕様、及び前処理条件の少なくとも一つを特定の範囲とした特定の皮剥ぎを行うことで、歩留まりの低下を抑制しつつ、皮剥ぎ時の断線を抑制し、表面欠陥が低減された線材用銅素材を生産性よく製造することができる。また、本発明線材用銅素材の製造方法により得られた本発明線材用銅素材は、表面性状に優れることから、当該線材用銅素材に伸線加工(本加工)を施して銅基線材を製造する場合、断線し難く、連続的に伸線が可能であり、長尺な銅基線材を製造することができる。また、得られた銅基線材は、表面欠陥が少なく表面性状に優れる。そのため、この銅基線材は、(1)表面欠陥に起因する強度や疲労特性の低下などが抑制されて機械的特性に優れる、(2)寸法精度、形状精度、外観に優れる、(3)絶縁被覆との密着性に優れる。従って、本発明線材用銅素材の製造方法、及び本発明線材用銅素材は、表面性状に優れる銅基線材の生産性の向上に寄与することができる。
【0012】
本発明線材用銅素材の製造方法の一形態として、上記棒状素材が連続鋳造圧延材である形態が挙げられる。
【0013】
上記棒状素材を連続鋳造材とすることで、線材用銅素材の生産性を向上することができる。更に、連続鋳造材を巻き取ることなく連続して圧延を施し、連続鋳造圧延材を銅基線材の素材とすると、圧延が施されていない鋳造材と比較して、加工硬化や結晶の微細化による強度の向上、鋳造材表面の割れの低減を図ることができる。また、凝固しているもののある程度加熱状態にある鋳造材が圧延に供されることで加工性に優れることから、連続鋳造圧延材を生産性よく製造することができる。かつ、連続鋳造圧延材では、圧延ロールの表面の潤滑剤不足により、圧延ロールの表面に付着した酸化物や圧延ロールの損傷による剥離片などが素材に再付着するなど、製造条件のばらつきや製造装置の異常などに起因する欠陥が生じ得る。しかし、上記特定の皮剥ぎ工程を経ることで、棒状素材として連続鋳造圧延材を利用した場合にも、表面性状に優れる線材用銅素材を製造することができる。従って、上記形態は、表面性状に優れる線材用銅素材を更に生産性よく製造できる。
【0014】
本発明線材用銅素材の製造方法の一形態として、上記皮剥ぎ工程は、上記(A)〜(C)の少なくとも二つを満たす形態が挙げられる。また、本発明線材用銅素材の製造方法の一形態として、上記皮剥ぎ工程は、上記(A)〜(C)の全てを満たす形態が挙げられる。
【0015】
上記形態は、線材用銅素材の表面欠陥を更に低減し易く、表面性状により優れる線材用銅素材が得られる。この線材用銅素材を利用することで、銅基線材の製造にあたり、断線を更に低減することができ、表面性状に更に優れる銅基線材の生産性の向上に寄与することができる。
【0016】
本発明線材用銅素材の製造方法及び本発明線材用銅素材の一形態として、上記銅基線材は、絶縁被覆を具える被覆電線の導体に利用される形態が挙げられる。
【0017】
本発明線材用銅素材の製造方法により得られた線材用銅素材に伸線加工(本加工)を施して得られた銅基線材は、上述のように表面性状に優れることから、当該銅基線材を被覆電線の導体に利用する場合、銅基線材と絶縁被覆との密着性に優れる。従って、上記形態は、被覆電線の導体用線材の生産性の向上に寄与することができる。
【0018】
本発明線材用銅素材は、上述のように伸線加工(本加工)が施されて、銅基線材になる。この銅基線材の製造方法として、例えば、上記線材用銅素材に、上記皮剥ぎ加工に引き続いて伸線加工を施して銅基線材を製造する伸線工程を具え、上記伸線加工は、途中で素材を巻き取ることなく連続して行う本発明銅基線材の製造方法を利用することができる。
【0019】
上記形態は、最終線径になっていない中間伸線材を巻き取ることがないため、巻き取りに起因して、当該伸線材に新たな表面疵が生成されたり、当該伸線材に歪みが導入されたりすることが無く、表面性状に優れる銅基線材が得られる。また、巻き取り工程の削除により工程数を低減できることから、上記形態は、銅基線材の生産性を向上することができる。更に、巻き取った中間伸線材を巻き戻して次パスの伸線を施す場合、伸線材の中心軸のずれなどが生じ得るが、上記形態は、皮剥ぎ以降最終線径まで、伸直性が維持されて素材の軸ずれが生じ難く、寸法精度や形状精度に優れる銅基線材を製造することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明線材用銅素材の製造方法、及び本発明線材用銅素材は、表面性状に優れる銅基線材の生産性の向上に寄与することができる。本発明銅基線材は、表面性状に優れる。本発明銅基線材の製造方法は、本発明銅基線材を生産性よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明線材用銅素材の製造方法において、皮剥ぎ工程を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明をより詳細に説明する。
<線材用銅素材の製造方法>
<準備工程>
準備工程では、出発材として、銅又は銅合金からなり、少なくとも鋳造が施された棒状素材を製造する。棒状素材は、鋳造材が挙げられ、特に連続鋳造材とすると、線材用銅素材の生産性の向上を図ることができる。棒状素材を連続鋳造圧延材とすると、線材用銅素材の生産性の更なる向上を図ることができる。
【0023】
銅とは、Cuを99.9質量%以上含有し、Cu以外の元素(不純物を含む)を合計で0.1質量%以下の範囲で含有するいわゆる純銅とする。具体的には、例えば、JIS H 3100(2006)に規定される無酸素銅(合金番号:C1020)、タフピッチ銅(合金番号:C1100)、りん脱酸銅(合金番号:C1201,C1220)などが挙げられる。Cu以外の元素が合計で0.1質量%以下であると、導電率や靭性が高い線材が得られ、導体用線材に好適に利用することができる。
【0024】
純銅においてCu以外の元素は、例えば、Sn,Pb,Fe,Ag,Ni,及びZnの少なくとも1種の金属元素が挙げられる。これらの元素の合計含有量が0ppm超100ppm以下(0.01質量%以下)であると、高強度な線材を得易い。
【0025】
上記金属元素以外の元素は、例えば、酸素が挙げられる。酸素を質量割合で0ppm超650ppm以下(0.065質量%以下)、好ましくは200ppm〜400ppm程度含有すると、不純物元素を酸化物として析出させることで導電率を高められる上に、酸化物の粗大化を抑制して、皮剥ぎ材や伸線材における酸化物の残存量を低減できる。粗大な酸化物は、皮剥ぎ時や伸線時に断線の起点になり得るため、銅基線材の生産性の低下を招く。酸素の含有量が少ない場合、例えば、無酸素銅レベル(質量割合で10ppm程度)では、耐水素脆性に優れる線材とすることができる。
【0026】
銅合金は、例えば、添加元素として、Sn,Ni,Si,Fe,P,Ag,及びCrの少なくとも1種の元素を含有し、残部がCu及び不純物からなるもの、より具体的には、Cu-Sn合金、Cu-Ni-Si合金、Cu-Fe-P合金、Cu-Ag合金、Cu-Cr合金などが挙げられる。Cu-Sn合金(好ましくはSnの含有量:0.2質量%以上6質量%以下)は、高強度な線材が得られる。Cu-Ag合金(好ましくはAgの含有量:0.1質量%以上20質量%以下)は、せん断強度や疲労強度が高く、屈曲や捻回に対する耐性が高い線材が得られる。公知の銅合金を利用できる。
【0027】
所望の組成となるように原料を用意し、この原料を適宜な雰囲気で溶解して作製した溶湯を鋳造して、棒状素材を製造する。棒状素材を連続鋳造材とする場合には、上記溶湯を連続鋳造し、連続鋳造圧延材とする場合には、上記溶湯を連続鋳造し、引き続いて圧延を施す。連続鋳造には、例えば、双ベルト方式、ベルトアンドホイール方式、横引鋳造方式、上引鋳造方式などが挙げられる。連続鋳造機と圧延機とを併設することで、連続鋳造に連続して圧延を行え、連続鋳造圧延材を製造できる。金型鋳造や連続鋳造、圧延には公知の条件を利用できる。
【0028】
<線材用銅素材>
連続鋳造圧延材などの棒状素材は、断面形状が円形状や矩形状のものが代表的であり、断面形状は特に限定されない。連続鋳造圧延材などの棒状素材の線径は、銅基線材の用途(最終線径)に応じて選択することができ、例えば、トロリ線などの最終線径が比較的大きな銅基線材の素材に利用する場合、15mm〜40mm程度が挙げられ、電線用導体などの銅基線材の素材に利用する場合には、8mm〜10mm程度が挙げられる。
【0029】
連続鋳造材は、金型鋳造材に比較して平均結晶粒径が小さく(連続鋳造材:数百μm程度)、連続鋳造圧延材は、連続鋳造材に比較して平均結晶粒径が更に小さく、数十μm以下、例えば、20μm以下である。このような微細組織から構成されることで、連続鋳造圧延材は、圧延が施されていない連続鋳造材に比較して、欠陥の起点となる粗大な結晶粒が少ないことから、皮剥ぎ加工を施した場合に表層領域の一部を引き千切った疵(もげ疵)が生じ難く、周方向に亘って均一に表面欠陥の除去を行い易い。従って、棒状素材を連続鋳造圧延材とすることで、表面性状に優れる線材用銅素材を製造し易い。
【0030】
<皮剥ぎ工程>
上記連続鋳造圧延材などの棒状素材に、所望の最終線径とするまでの伸線加工:本加工を施す前に皮剥ぎ加工を施す。皮剥ぎ加工は、図1に示すような棒状素材10が挿通されるダイス孔110を有する皮剥ぎダイス100を好適に利用することができる。
【0031】
本発明者らが検討した結果、皮剥ぎにより連続鋳造圧延材などの棒状素材の表層領域を除去する除去量を特定の範囲とすると、得られた皮剥ぎ材に伸線加工(本加工)を施した場合に断線し難く、表面性状に優れる銅基線材が得られる、との知見を得た。従って、皮剥ぎの除去量を特定の範囲とすることを提案する。具体的には、皮剥ぎ前の棒状素材の断面積をSa、皮剥ぎ後の素材(皮剥ぎ材)の断面積をSb、断面積比を{(Sa-Sb)/Sa}×100とするとき、断面積比を1%以上10%以下とする。除去量が多過ぎると、特に10%超では、棒状素材の周方向に亘って均一的に表層領域を除去することが難しく、局所的に刃先が深く食い込み過ぎて、もげ疵が生じ得る。このもげ疵により、皮剥ぎ時、或いは皮剥ぎ後の本加工時に断線が生じる恐れがある。一方、除去量が少な過ぎる、特に1%未満では、皮剥ぎ材に表面欠陥が残存し、この残存する欠陥により、本加工時に断線を生じたり、本加工後の銅基線材の表面性状の低下、寸法や形状の劣化などを招く。除去量は、組成や皮剥ぎ前の棒状素材の線径、銅基線材の用途などに応じて、上記範囲内で選択することができる。
【0032】
本発明者らが検討した結果、皮剥ぎダイスの切刃のすくい角を特定の範囲とすると、得られた皮剥ぎ材に伸線加工(本加工)を施した場合に断線し難く、表面性状に優れる銅基線材が得られる、との知見を得た。従って、皮剥ぎダイスの切刃のすくい角を特定の範囲とすることを提案する。具体的には、すくい角を2°以上50°以下とする。すくい角は、図1に示すように、皮剥ぎダイス100のダイス孔110の中心軸Laに直交する垂線Loをとったとき、ダイス100の切刃120となる面(ダイス100の一端側に配置される面)と垂線Loとがつくる角とする。すくい角θが小さ過ぎると、特に2°未満であると、皮剥ぎ時、ダイス100が受ける抵抗力が大きくなり、切刃120の刃先121に負荷が掛かり過ぎて、ダイス100に亀裂や欠けが生じたり、棒状素材10(連続鋳造圧延材やプレ加工材など)が皮剥ぎ中に断線する恐れがある。すくい角θが大き過ぎると、特に50°超であると、棒状素材10に刃先121が食い込み過ぎて、棒状素材10が皮剥ぎ時に断線したり、もげ疵が生じて、当該もげ疵により本加工時に断線が生じたり、表面性状に劣る銅基線材が得られたりする恐れがある。すくい角θも、組成や棒状素材の線径、銅基線材の用途などに応じて、上記範囲内で選択することができる。特に、棒状素材を連続鋳造圧延材とする場合には、すくい角θが小さいほど、表面性状に優れる銅基線材が得られる傾向にあり、25°以下、更に20°未満とすることができる。また、組成にもよるが銅合金である場合にはすくい角θを15°未満とすると、表面性状に優れる銅基線材を得易い。
【0033】
本発明者らが検討した結果、連続鋳造圧延材などの棒状素材に皮剥ぎ加工を施す前に、特定の伸線加工度で伸線加工(以下、プレ加工と呼ぶ)を施した後、得られたプレ加工材に皮剥ぎを施す場合、プレ加工材の中心軸と皮剥ぎダイスの孔の中心軸とを合わせ易く(芯出しを高精度に行え)、素材(ここではプレ加工材)の表層領域をその周方向に均一的に除去することができ、得られた皮剥ぎ材に本加工を施した場合に断線し難く、表面性状に優れる銅基線材が得られる、との知見を得た。従って、皮剥ぎ工程においてプレ加工を行うことを提案する。具体的には、プレ加工は、伸線加工度を15%以上75%以下とする。プレ加工の伸線加工度が小さ過ぎると、特に15%未満では、上述の中心軸を高精度に合わせ難く、中心軸がずれることで皮剥ぎ時に素材(ここではプレ加工材)が皮剥ぎダイスの孔内で振動したり、皮剥ぎダイスの孔内に素材(ここではプレ加工材)が偏在したりすることで、当該素材(ここではプレ加工材)の表層領域の除去が不均一になり、表面欠陥が残存する恐れがある。プレ加工の伸線加工度を高めるほど、中心軸の合わせ精度を高め易い。しかし、プレ加工の伸線加工度が高過ぎると、特に75%超では、プレ加工材の加工硬化が大きくなって柔らかさが低下し、柔らかさに劣るプレ加工材に皮剥ぎを施すと、皮剥ぎ時、皮剥ぎダイスが受ける抵抗力が増大し、当該ダイスが割れたり、皮剥ぎ時に断線したり、皮剥ぎ材に新たな疵が生じてこの疵を起点として本加工時に断線する恐れがある。プレ加工の伸線加工度も、組成や棒状素材の線径、銅基線材の用途などに応じて、上記範囲内で選択することができる。
【0034】
その他、皮剥ぎ前の前処理として、素材(連続鋳造圧延材やプレ加工材など)の表面にスパイラル状に切り込みを付ける処理を行うと、皮剥ぎにより生成される切屑を除去し易く、切屑の付着などを防止できる。
【0035】
上記除去量の制御、すくい角の制御、及びプレ加工の少なくとも一つを行うことで、表面性状に優れる銅基線材が得られる。上記除去量の制御、すくい角の制御、及びプレ加工の少なくとも二つを行うと、伸線加工(本加工)時の断線をより低減して、表面性状に優れる銅基線材を生産性よく製造できる。特に、上記除去量の制御、すくい角の制御、及びプレ加工の全てを行うと、伸線加工(本加工)時の断線を効果的に低減でき、表面性状に優れる銅基線材をより生産性よく製造することができる。
【0036】
<銅基線材の製造方法>
本発明線材用銅素材に、所望の最終線径まで伸線加工(本加工)を施すことで、銅基線材が得られる。伸線加工条件(1パスあたりの伸線加工度、総加工度、中間熱処理、ダイス形状など)を適宜調整することで、種々の線径、機械的特性(引張強さ、伸びなど)、導電率、形状の銅基線材とすることができる。伸線加工(本加工)は代表的には冷間加工で行う。
【0037】
特に、伸線加工(本加工)は、上記皮剥ぎ加工に引き続いて行うと、伸直性が高く、寸法精度や形状精度に優れる伸線材を製造することができる。また、この形態では、一旦巻き取った素材を巻き戻して、当該素材の中心軸を伸線ダイスの中心軸に合わせる必要がなく、巻き取り・巻き戻し工程の省略、中心軸合わせ工程の省略により、銅基線材の生産性をより高められる。
【0038】
更に、伸線加工(本加工)を多パスに亘って行う場合、途中で素材を巻き取ることなく、最終線径になるまで伸線加工を連続的に施す形態とすると、巻き取り・巻き戻し工程、中心軸合わせ工程が不要であり、銅基線材の生産性を更に高められる。また、この形態は、巻き取り・巻き戻し時に新たな疵などが形成されることを防止できるため、表面性状に更に優れる銅基線材を製造することができる。更に、新たな疵の発生を防止することで、伸線時、当該疵を起点とする断線を防止でき、この点からも、この形態は生産性の向上に寄与することができる。
【0039】
多パスの伸線を行う場合、伸線途中(パス間)に適宜中間熱処理を施すと、当該熱処理前までの歪みを低減又は除去したり、粒径を微細化したりすることができ、次パスの加工性を向上できる。上述のように伸線途中で巻き取りを行わない形態では、中間熱処理は、加熱雰囲気としたパイプ軟化炉や、高周波加熱炉、通電加熱炉などの連続的に加熱可能な加熱手段を利用した連続処理とするとよい。伸線(本加工)後、歪みの除去や結晶の微細化などを目的として、熱処理を施すことができる。この熱処理は、素材を加熱用器に収納した状態で加熱を行うバッチ処理としてもよい。
【0040】
<銅基線材>
銅基線材は、伸線加工(本加工)が施されていることで、加工硬化により高強度であり、組成などによっては、導電率が90%IACS以上、更に95%IACS以上を有する高導電性線材とすることもできる。伸線途中(パス間)に適宜軟化処理(中間熱処理)を施すことで、伸びといった靭性の向上や析出物の析出による導電率の向上を図ることができる。
【0041】
銅基線材は、断面形状が円形の丸線が代表的である。伸線ダイスの形状などによって、種々の断面形状の線材とすることができる。また、伸線後に、平角加工や溝付け加工など、断面形状を変更する加工などを施すことでも、種々の断面形状の線材とすることができる。
【0042】
銅基線材の線径(異形線の場合には、包絡円の直径)は、伸線加工(本加工)の伸線加工度によって調整することができ、用途に応じて適宜選択するとよい。例えば、電線用導体に利用する場合には、線径が1mm以下の細線や、0.1mm以下、更には0.010mm以上0.05mm以下の極細線とすることができる。勿論、線径が1mm超の線材、例えば、線径が2mm〜5mm程度の線材、10mm以上の線材とすることもできる。
【0043】
本発明銅基線材は、単線でも利用できるし、複数本の線材を撚り合わせた撚り線、撚り線を圧縮加工した圧縮線材としても利用できる。単線、撚り線、圧縮線材はいずれもそのまま(裸線)でも利用できるし、その外周に例えば絶縁被覆を設けて被覆線材としても利用できる。
【0044】
<試験例>
以下、試験例を挙げて、本発明のより具体的な形態を説明する。
この試験では、複数種の原料を用意して、棒状素材として連続鋳造圧延材を作製し、当該連続鋳造圧延材に種々の条件で皮剥ぎ加工を施した後、伸線加工を施して銅基線材を作製し、得られた各銅基線材の表面状態を調べた。
【0045】
原料として、純銅(Cu:99.9質量%以上)、低濃度合金(Snの含有量:0.3質量%のCu-Sn合金)、高濃度合金(Agの含有量:5.0質量%のCu-Ag合金)を用意して、溶湯を作製した。作製した溶湯を、双ベルト方式、ベルトアンドホイール方式、横引鋳造方式、上引鋳造方式のいずれかの連続鋳造法を利用して連続鋳造し、この連続鋳造に引き続いて、製造された鋳塊に圧延を施して、純銅、低濃度合金、及び高濃度合金のいずれかからなる連続鋳造圧延材を製造した。
【0046】
作製した連続鋳造圧延材に表1に示す条件で皮剥ぎ加工を施した。具体的には、連続鋳造圧延材に表1に示す伸線加工度の伸線加工(プレ加工)を施した後、切刃のすくい角が表1に示す値である皮剥ぎダイスを用い、表1に示す除去量(断面積比(%):{(Sa-Sb)/Sa}×100)となるように皮剥ぎを行った。そして、皮剥ぎ時における断線の有無を調べた。その結果を表1に示す。試料No.100の試料は、プレ加工及び皮剥ぎを行っていない。
【0047】
皮剥ぎして得られた各皮剥ぎ材に、皮剥ぎに引き続いて伸線加工(本加工)を施した。この試験では、途中で素材を巻き取ることなく、線径がφ2.6mmとなるまで伸線加工を施した。得られた各伸線材の表面を市販の渦流探傷器により調べ、表面状態を評価した。この試験では、試料No.100の連続鋳造圧延材に線径φ2.6mmまで伸線加工を施し、得られた伸線材の表面を上記渦流探傷器により調べ、この伸線材1トン(1000kg)あたりの平均カウント数を基準値:1とし、皮剥ぎを行った各試料の表面状態を、この基準値に対する相対値により評価した。その結果を表1に示す。
【0048】
皮剥ぎを行った各試料について、線径φ2.6mmとなるまで伸線加工(本加工)を施して当該伸線時における断線の有無を調べた。その結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1に示すように、連続鋳造圧延材といった棒状素材に皮剥ぎを施した後、伸線加工(本加工)を施すことで、伸線後に得られる銅基線材の表面欠陥を低減できる傾向にあることが分かる。特に、除去量、すくい角、及びプレ加工の伸線加工度の少なくとも一つを特定の範囲として皮剥ぎを行うことで、本加工時に断線し難く(ここでは実質的に断線せず)、伸線後に得られる銅基線材の表面欠陥を十分に低減できることが分かる。具体的には、皮剥ぎを行わなかった試料No.100の基準値に対して、探傷の平均カウントが0.80以下となっている。また、除去量、すくい角、及びプレ加工の伸線加工度の少なくとも二つを特定の範囲として皮剥ぎを行うと、表面欠陥がより少ない銅基線材が得られ(基準値に対して0.50以下)、三つ全てを特定の範囲として皮剥ぎを行うと、表面欠陥を更に低減でき(基準値に対して0.40以下)、表面性状に非常に優れる銅基線材が得られることが分かる。
【0051】
また、表1に示すように、純銅及び銅合金の双方に対して、切れ刃のすくい角を20°未満(ここでは3°以上18°以下)とすると、銅基線材の表面欠陥を低減し易いことが分かる。
【0052】
皮剥ぎを施したものの、その条件が特定の範囲外である試料No.110は、皮剥ぎ工程や伸線工程で断線したため、探傷を行えず、試料No.120は、皮剥ぎ工程で断線しなかったものの、表面欠陥の低減効果が少ないことが分かる。
【0053】
以上から、連続鋳造圧延材などの棒状素材に、所望の最終線径となるまで伸線加工(本加工)を施す前に、特定の条件で皮剥ぎ加工を施すことで、本加工時の断線を低減し、表面性状に優れる銅基線材を生産性よく製造できることが分かる。得られた銅基線材は、表面性状に優れることで、導体用線材に利用される場合、強度や疲労特性、屈曲特性や捻回特性に優れ、使用時に断線し難く、被覆電線の導体に利用される場合、絶縁被覆の密着性に優れると期待される。
【0054】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能である。例えば、銅合金の組成、最終線径などを適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明銅基線材は、各種の電線の導体(例えば、エナメル線などの巻線の導体、同軸ケーブルの中心導体やシールド導体、撚り線導体など)、放電加工などに用いられる電極線、溶接材料に用いられる溶接ワイヤ、トロリ線といった各種の導体の構成要素に好適に利用することができる。本発明線材用銅素材は、上記銅基線材の素材に好適に利用することができる。本発明線材用銅素材の製造方法、本発明銅基線材の製造方法は、上記本発明線材用銅素材の製造や上記本発明銅基線材の製造に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0056】
10 棒状素材 100 皮剥ぎダイス 110 ダイス孔 120 切刃 121 刃先

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸線加工が施されてなる銅基線材の素材に利用される線材用銅素材を製造する線材用銅素材の製造方法であって、
銅又は銅合金からなり、少なくとも鋳造が施された棒状素材を製造する準備工程と、
前記棒状素材に皮剥ぎ加工を施す皮剥ぎ工程とを具え、
前記皮剥ぎ工程は、以下の(A)〜(C)の少なくとも一つを満たすことを特徴とする線材用銅素材の製造方法。
(A) 前記皮剥ぎ加工による除去量を断面積比で1%以上10%以下とする。
(B) 前記棒状素材に、伸線加工度で15%以上75%以下の伸線加工を施して得られたプレ加工材に前記皮剥ぎ加工を施す。
(C) 前記皮剥ぎ加工に用いる皮剥ぎダイスの切刃のすくい角を2°以上50°以下とする。
【請求項2】
前記棒状素材が連続鋳造圧延材であることを特徴とする請求項1に記載の線材用銅素材の製造方法。
【請求項3】
前記皮剥ぎ工程は、前記(A)〜(C)の少なくとも二つを満たすことを特徴とする請求項1又は2に記載の線材用銅素材の製造方法。
【請求項4】
前記皮剥ぎ工程は、前記(A)〜(C)の全てを満たすことを特徴とする請求項1又は2に記載の線材用銅素材の製造方法。
【請求項5】
前記銅基線材は、絶縁被覆を具える被覆電線の導体に利用されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の線材用銅素材の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法により得られたことを特徴とする線材用銅素材。
【請求項7】
請求項6に記載の線材用銅素材に、前記皮剥ぎ加工に引き続いて伸線加工を施して銅基線材を製造する伸線工程を具え、
前記伸線加工は、途中で素材を巻き取ることなく連続して行うことを特徴とする銅基線材の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の製造方法により得られたことを特徴とする銅基線材。

【図1】
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